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ヘム鉄摂取が2型糖尿病のリスクを高める

 ヘム鉄の摂取が2型糖尿病のリスク増大と関連しているとする研究結果が、「Nature Metabolism」に8月13日掲載された。米ハーバード大学T. H.チャン公衆衛生大学院のFenglei Wang氏らの研究によるもの。未加工の赤肉を好む食事パターンが2型糖尿病のリスクを高めるとされているが、その関連性の多くは、ヘム鉄の過剰摂取で説明可能と考えられるという。 これまでにも、食事からのヘム鉄の摂取が2型糖尿病のリスク増大と関連していることが示唆されてきているが、血液バイオマーカーなどを絡めた検討は十分に行われていない。Wang氏らはこの点について、米国内で実施されている観察期間が最長36年間におよぶ3件の大規模コホート研究のデータを用いた検討を行った。 解析対象者数は計20万4,615人で女性が79%であり、この対象全員のデータから、鉄(ヘム鉄と非ヘム鉄)の摂取量と2型糖尿病リスクとの関連が調査された。また、この対象のうち3万7,544人(女性82%)のサブセットでは血漿代謝バイオマーカー、9,024人(同84%)のサブセットではメタボロームプロファイルの評価も施行した。 解析の結果、ヘム鉄の摂取量が多いことと2型糖尿病リスクとの間に有意な正の関連が認められた(摂取量の最高五分位群と最低五分位群を比較した多変量調整ハザード比が1.26〔95%信頼区間1.20~1.33〕、傾向性P<0.001)。その一方、非ヘム鉄の摂取量については、2型糖尿病リスクとの有意な関連が見られなかった。 この研究では、未加工の赤肉を多く摂取するといった特定の食事パターンに関連する2型糖尿病リスク増大のかなりの部分を、ヘム鉄の摂取量の多さで説明できる可能性も示された。また血漿代謝バイオマーカーなどとの関連の解析から、ヘム鉄摂取量が多いことと、高インスリン血症や炎症、脂質代謝異常などの2型糖尿病リスクに関連する好ましくない血漿プロファイルとの相関が認められた。ヘム鉄と2型糖尿病との関連を媒介する可能性がある代謝物としては、L-バリンや尿酸などが特定され、これらが2型糖尿病の病因に大きな影響を及ぼしている可能性が考えられた。 著者らは、「われわれの研究結果は、2型糖尿病予防のためのガイドライン策定に際して、ヘム鉄を多く含む食品、特に赤肉を毎日摂取するような食事パターンの制限を推奨すべきであることを意味しており、公衆衛生上の重要な意味を持っている」と述べている。また、「植物性食品由来の代替肉に、風味の調整などのためにヘム鉄を添加することに関しても懸念がある」と付け加えている。 なお、1人の著者が、Vinasoy社との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

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がん患者診療のための栄養治療ガイドライン 2024年版 総論編

がん栄養治療に関する、エビデンスに基づいた初の指針を刊行がん患者の多くは、侵襲的な治療による栄養障害や、がんそのものの炎症や異化亢進などによる栄養障害を経験する。栄養障害は合併症の増加やQOL低下などさまざまな影響を及ぼすが、がん種やステージなどによって必要となる栄養治療は多様であり標準化に課題がある。本診療ガイドラインではMindsの方式に準拠し、4件の臨床疑問(CQ)についてエビデンスに基づく推奨を提示した。また、「背景知識」の章ではがん患者に対する栄養治療の基礎知識から最新の知見までを解説し、患者・家族向けのQ&Aもコラムとして収載している。本診療ガイドラインは、それぞれのがん種ではなく、さまざまながん種を広く対象とし、栄養治療に関する推奨、知識、情報を提供する。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大するがん患者診療のための栄養治療ガイドライン 2024年版 総論編定価2,970円(税込)判型B5判頁数184頁発行2024年9月編集日本栄養治療学会ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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抗凝固薬の服用理由の仮説を立てて中止提案、そのまま続いていたら…【うまくいく!処方提案プラクティス】第62回

 今回は、直接経口抗凝固薬(DOAC)の服薬理由を検討し、医師との連携によって中止した事例を紹介します。心房細動や脳梗塞の2次予防で服薬しているケースでは、出血リスクなどで一時的に中止できることはあるかと思います。皆さんは新患対応時に、服用薬の理由をどのように確認していますか? 現病歴や既往歴など情報収集を丁寧に行うことで、エンドポイントや目標ラインに合わせて治療を最適化することが可能です。患者情報90歳、女性(施設入居)基礎疾患認知症(病型は不明)、右大腿骨近位部骨折介護度要介護2服薬管理施設職員が管理処方内容1.エドキサバン錠30mg 1錠 分1 朝食後2.アセトアミノフェン錠200mg 6錠 分3 毎食後本症例のポイントこの患者さんは右大腿骨頸部骨折の手術後にリハビリ調整なども完了して施設入居となりました。持参薬確認と契約のタイミングが合ったため、訪問時に施設スタッフに情報連携をとりました。施設スタッフからは、施設内は歩行器補助を利用しながら移動していて、さらに夜間にベッドから滑り落ちることが続いていると聴取しました。転倒・転落のリスクがあることから抗凝固薬の出血リスクが懸念されます。入居時の情報連携文書としては、診療情報提供書と看護サマリがありましたが、エドキサバンの服用理由がなく、基礎疾患にある右大腿骨遠位部の骨折後の疼痛コントロールのためにアセトアミノフェンの服用を続けていることだけが記録されていました。服用理由の不明な抗凝固薬が“もやもやポイント”であったことから、仮説として近位部骨折手術時に深部静脈血栓症を予防するためにDOACを服用開始したのではないかと想定しました。大腿骨近位部骨折は、深部静脈血栓症の高リスク群に位置付けられている1)ことから、DOACによる抗凝固療法の予防内服が推奨されています。投与期間は、手術後12時間を経過し、出血がないことを確認して11〜14日間の経口投与が推奨1)されており、15日間以上投与した場合の有効性および安全性は検討されていません。この患者さんは施設入居1ヵ月前に手術をしており、15日を超えて服用している状況であることから、仮説どおりの深部静脈血栓症の予防投与であれば有効性・安全性の観点からも中止してよいのではないかと考えました。医師への相談と経過訪問診療時に医師に同席し、エドキサバン服用理由について前医からの情報提供などがあったかどうか確認しました。前医からのDOAC服用理由についての詳細な情報提供がなく、心房細動の既往もないので疑問に思っていたと医師から返答がありました。そこで医師と協力し、入院していた医療機関に問い合わせを行ったところ、薬剤部担当者から深部静脈血栓症予防が終了せずにそのまま服用を続けていたことが発覚しました。前医からは、術後の血管エコーなどの結果からもDOAC終了で問題ないとの返答があり、エドキサバンは終了することとなりました。患者さんは疼痛も安定していたこともあり(可動時の膝関節周りの疼痛なし:NRS0/10)、医師と相談してアセトアミノフェン200mg 4錠 分2 朝夕食後のみに減量することとなりました。1週間後のモニタリングで疼痛悪化はなく、体動時の疼痛もなかったことから、1週間後の診察で再度医師に相談してアセトアミノフェンは頓用に変更しました。その後、疼痛増悪や頓用の使用もなく経過安定しています。1)日本循環器学会編. 肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2017年改訂版)

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医師の飲酒状況、ALT30超は何割?年齢が上がるほど量も頻度も増える?/医師1,000人アンケート

 厚生労働省は2024年2月に「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」1)を発表し、国民に向けて、飲酒に伴うリスクに関する知識の普及を推進している。こうした状況を踏まえ、日頃から患者さんへ適切な飲酒について指導を行うことも多い医師が、自身は飲酒とどのように向き合っているかについて、CareNet.com会員医師1,025人を対象に『医師の飲酒状況に関するアンケート』で聞いた。年代別の傾向をみるため、20~60代以上の各年代を約200人ずつ調査した。本ガイドラインの認知度や、自身の飲酒量や頻度、飲酒に関する医師ならではのエピソードが寄せられた。「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」の認知度 Q1では、「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」の認知度について4段階で聞いた。全体では、認知度が高い順に「内容を詳細に知っている」が7%、「概要は知っている」が27%、「発表されたことは知っているが内容は知らない」が23%、「発表されたことを知らない」が43%であり、約60%が本ガイドラインについて認知していた。各年代別でもおおむね同様の傾向だった。診療科別でみると、認知度が高かったのは、外科、糖尿病・代謝・内分泌内科、消化器科、精神科、循環器内科/心臓血管外科、内科、腎臓内科の順だった。ALT値が30U/L超の医師は16% Q2では、医師自身の直近の健康診断で、肝機能を示すALT値について、基準値の30U/L以下か、30U/L超かを聞いた。日本肝臓学会の「奈良宣言」により、ALT値が30U/Lを超えていたら、かかりつけ医を受診する指標とされている2)。「ALT値30U/L超」は167人で、全体の16%を占めていた。年代別の結果として、30U/L超の人の割合が多い順に、50代で22%、60代以上で21%、40代で17%、30代で14%、20代で7%となり、年齢が上がるにつれて30U/L超の人の割合が多くなる傾向にあった。年齢が上がるにつれて、1回の飲酒量が増加 Q3では、1回の飲酒量について、単位数(1単位:純アルコール20g相当)を聞いた。お酒の1単位の目安は、ビール(5度)500mL、日本酒(15度)180mL、焼酎(25度)110mL、ウイスキー(43度)60mL、ワイン(14度)180mL、缶チューハイ(5度)500mL3)。 年代別では、「飲まない」と答えたのが、多い順に50代で32%、40代で30%、30代で26%、60代で22%、20代で15%だった。各年代で最も多く占めたのは、20代、30代、60代では「1単位未満」で、それぞれ36%、36%、32%であった。40代と50代では「1~2単位」が多くを占め、それぞれ32%と26%だった。 ALT値が30U/L超の人の場合では、「飲まない」と答えたのが、多い順に30代で33%、50代で23%、40代で22%、60代で9%、20代で0%だった。また、1回に「5単位以上」飲む人の割合は、30 U/L以下と30 U/L超を合わせた全体では5%だったが、30U/L超の人のみの場合では2倍以上の12%となり、顕著な差がみられた。30U/L超の人では、年齢が上がるにつれて、1回の飲酒量が増加する傾向がみられた。年齢が上がるにつれて、飲酒頻度が増加 Q4では、現在の飲酒頻度を7段階(毎日、週に5・6回、週に3・4回、週に1・2回、月に1~3回、年に数回、飲まない)で聞いた。全体で最も割合が多かったのは「飲まない」で22%であり、次いで「月に1~3回」で16%であった。ALT値が30U/L超の人の場合では、最も割合が多かったのは「週に3・4回」で19%、次いで「飲まない」と「毎日」が同率で16%だった。 全体の年代別では、20代で最も割合が多かったのは「月に1~3回」で37%、次いで「週に1・2回」が20%、30代では「飲まない」が21%、「年に数回」が19%、40代では「飲まない」が25%、「週に5・6回」と「週に3・4回」が同率で15%、50代では「飲まない」が29%、「週に1・2回」が15%、60代以上では「毎日」が24%、「飲まない」が21%であった。とくに60代以上の頻度の高さが顕著だった。 ALT値30U/L超の人の年代別では、20代で最も割合が多かったのは「週に1・2回」と「月に1~3回」で同率の36%、30代では「週に3・4回」と「飲まない」が同率の23%、40代では「週に3・4回」が25%、50代では「毎日」と「飲まない」が同率で23%、60代では「毎日」が28%、次いで「週に1・2回」が21%であった。20代と60代以上では「飲まなない」の割合の低さがみられ、30代と50代では「飲まない」が23%となり節制する人の割合が比較的多く、50代と60代以上で「毎日」の人の割合が20~30%となり、飲酒頻度が上がっている状況がみられた。 ALT値30U/L超の人においてQ3とQ4の結果を総合的にみると、20代は飲まない人の割合が低いものの、飲酒量と飲酒頻度は比較的高くない。また、30代は量と頻度を共に節制している人の割合が高い。60代以上と50代で、量と頻度が共に高い傾向がみられた。30~40代は飲酒の制限に積極的 Q5では、現状の飲酒を制限しようと思うかを聞いた。全体では、「制限したい」は21%に対し、「制限しない」は49%で2倍以上の差が付いた。ALT値30U/L超の人では、「制限したい」は28%に対し、「制限しない」は53%であった。ALT値30U/L超の人で「制限したい」が高かったのは、40代で42%、次いで20代で36%だった。また、30代はすでに飲酒していない人が37%で、年代別で最も多かった。 Q6では、Q5で「飲酒を制限したい」と答えた217人のうち、どのような方法で飲酒を制限するかを4つの選択肢から当てはまるものすべてを選んでもらった。人気が高い順に、「飲酒の量を減らす」が56%、「飲酒の頻度を減らす」が55%、「ノンアルコール飲料に代える」が36%、「低アルコール飲料に代える」が27%となり、量と頻度を減らすことを重視する人が多かった。自身が経験した飲酒のトラブルなど Q7では、自由回答として、飲酒に関するご意見や、自身が経験した飲酒のトラブルなどを聞いた。多くみられるトラブルとして、「記憶をなくした」が最多で15件寄せられ、「二日酔いで翌日に支障が出た」「屋外で寝た」「転倒してけがした」「嘔吐した」「暴れた」「救急搬送された」「アルコール依存症の治療をした」などが年齢にかかわらず複数みられた。自身の飲酒習慣について、「なかなかやめられない」「飲み過ぎてしまう」といった意見も複数あった。そのほか、医師ならではの飲酒に関するエピソードや社会的な側面からの意見も寄せられた。【医師ならではのエピソード】・研修医の時に指導医と潰れた(30代、その他)・医師でアルコール依存になる人が多いため、飲まなくなりました(30代、皮膚科)・アルコール依存症の患者さんをみているととても飲む気にはなれない(30代、麻酔科)・正月の救急外来は地獄(30代、糖尿病・代謝・内分泌内科)・科の飲み会の際に病院で緊急事態が発生すると、下戸の人間がいると非常に重宝されます(40代、循環器内科)・飲酒をすると呼び出しに対応できない(60代、内科)・雨の中、帰宅途中、転倒し意識がなくなり、自分の病院に搬送され大騒ぎでした(60代、脳神経外科)・勤務医時代は飲まないと仲間が働いてくれなかったが、開業して、健康に悪いものはもちろんやめた(70代以上、内科)【社会的な側面や他人への影響】・喫煙があれだけ批判されるなら飲酒も同じぐらい批判されるべきと考える(20代、臨床研修医)・日本では以前は飲酒を強要されることがあったが、米国留学中は飲酒を強要されることはなく、とても快適な時間だった(40代、病理診断科)・日本人は酔っぱらうことが多く、見苦しいし、隙もできる。グローバルスタンダードではありえない(50代、泌尿器科)・テレビCMでアルコール飲料が放映されていることに違和感がある(60代、神経内科)アンケート結果の詳細は以下のページで公開中。医師の飲酒状況/医師1,000人アンケート

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高齢患者の痛みに抗うつ薬は有効か

 医師は、高齢者の身体の痛みを和らげるために抗うつ薬を処方することがあるが、新たなシステマティックレビューとメタアナリシスにより、この治療法を支持する十分なエビデンスはほとんどないことが明らかになった。シドニー大学(オーストラリア)公衆衛生学部および筋骨格健康研究所のChristina Abdel Shaheed氏らによるこの研究結果は、「British Journal of Clinical Pharmacology」に9月12日掲載された。 多くの国において、高齢者に対する抗うつ薬の最も一般的な適応は痛みである。今回の研究でAbdel Shaheed氏らは、65歳以上の高齢者を対象に、痛みの治療薬としての抗うつ薬の有効性と安全性について他の代替治療と比較したランダム化比較試験のエビデンスの評価を行った。 13種類の論文データベースを用いて、2024年2月1日までに発表された関連文献を検索したところ、適格条件を満たしたRCTはわずか15件(対象者の総計1,369人)であることが判明した。最もよく用いられていた抗うつ薬はデュロキセチンとアミトリプチリンで、それぞれ6件のRCTで検討されていた。治療効果は、変形性膝関節症による痛みに対して検討したRCT(6件)が最も多く、これらのRCTからは、短期間(0~2週間)の抗うつ薬による治療では統計学的に有意な痛みの軽減効果を得られないことが示されていた。ただし、デュロキセチンを中期的(6週間以上12カ月未満)に服用することで、非常にわずかながらも有意な痛みの軽減効果が認められた。一方、約半数(15件中7件)の研究で、転倒やめまい、傷害などの有害事象による試験参加者の離脱率は、抗うつ薬治療群の方が対照群よりも高いことが報告されていた。 こうした結果を受けてAbdel Shaheed氏は、「これらの抗うつ薬は、効果に関する十分なエビデンスがないにもかかわらず、患者の痛みを和らげるために処方され続けている」と強調する。 研究グループによると、標準的な国際ガイドラインは、概して慢性疼痛に対する抗うつ薬の使用を支持しているものの、そのガイドラインが根拠としているデータは高齢患者を対象としたものではないという。論文の筆頭著者であるシドニー大学公衆衛生学部のSujita Narayan氏は、「このようなガイドラインがあるために、医師が誤った判断をしている可能性がある」と指摘する。同氏は、「もし、私が時間に追われている臨床医だとするなら、ガイドラインを参照する場合には、慢性疼痛の管理に関する重要なポイントだけを拾い読みするだろう。そのポイントの中に、抗うつ薬の使用を勧める内容も含まれているということだ」と説明する。 Narayan氏はまた、抗うつ薬の服用を中止する傾向についても、「抗うつ薬の離脱症状は、オピオイドの離脱症状と同じくらいひどいことがある」と指摘する。同氏は、「抗うつ薬の服用をやめようと考えている人は、やめる前に主治医に相談し、必要に応じて減薬計画を立てることを勧める」と述べている。 Narayan氏は、「変形性膝関節症の痛みを軽減するためにデュロキセチンを使用している、または使用を検討している臨床医や高齢患者に対するメッセージは明確だ。薬を一定期間服用すれば効果が現れる可能性はあるが、その効果は小さい可能性があり、リスクとの比較検討が必要だということだ」と話している。

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母乳育児は乳児の喘息リスクを低下させる

 生後1年間を母乳で育てると、乳児の体内に健康に有益なさまざまな微生物が定着し、喘息リスクが低下する可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。この研究によると、生後3カ月を超えて母乳育児を続けることにより、乳児の腸内微生物叢の段階的な成熟が促されることが示唆されたという。米ニューヨーク大学(NYU)グロスマン医学部のLiat Shenhav氏らによるこの研究結果は、「Cell」に9月19日掲載された。 母乳には、健康に寄与する腸内微生物の増殖を促進するさまざまな栄養素が含まれている。乳児期における母乳育児と微生物の定着は、乳児の発達にとって重要な時期に行われ、どちらも呼吸器疾患のリスクに影響を与えると考えられている。しかし、母乳育児の保護効果や微生物の定着を調節するメカニズムについては、まだ十分に理解されていない。 今回の研究では、CHILDコホート研究に参加した2,227人の乳児を対象に、生後3カ月時と1歳時の鼻腔および腸内の微生物叢、母乳育児の特徴(完全母乳/混合育児/粉ミルク)、および母乳成分の調査を行い、母乳育児が腸内微生物の定着に与える影響、さらにその定着の仕方が呼吸器疾患リスクに与える影響を検討した。 その結果、生後3カ月を超えて母乳育児を行うと、乳児の腸内および鼻腔の微生物叢が徐々に成熟することが示された。逆に、生後3カ月未満で母乳育児をやめると、微生物叢の発達ペースが乱れ、就学前の喘息リスクが上昇することが明らかになった。例えば、生後3カ月未満で母乳育児をやめた乳児の腸内には、ルミノコッカス・グナバス(Ruminococcus gnavus)と呼ばれる細菌種が非常に早期の段階から認められたという。R. gnavusは、喘息などの免疫系の問題に関連するアミノ酸であるトリプトファンの生成と分解に関与していることが知られている。 研究グループはさらに、微生物の動態と母乳の成分に関するデータを用いて、喘息リスクを予測する機械学習モデルを構築し、さらに因果関係を特定するための統計モデルを用いて、母乳育児が乳児の微生物叢の形成を通じて喘息リスクを低下させることを確認した。 研究グループによると、母乳には、ヒトミルクオリゴ糖(母乳に含まれるオリゴ糖の総称)と呼ばれる独自の成分が含まれている。ヒトミルクオリゴ糖は、特定の微生物の助けを借りなければ乳児の体では消化できないため、これらの糖を分解できる微生物は、腸内での生存競争において優位性を得ることになる。一方、生後3カ月未満で断乳して粉ミルクで育てた場合には、粉ミルクの成分を消化するのに役立つ別の微生物群が増加する。これらの微生物の多くは、最終的には全ての乳児の腸内や鼻腔に定着するようになるものの、早期に定着した場合には喘息リスクが増加するのだという。 Shenhav氏は、「ペースメーカーが心臓のリズムを調整するのと同じように、母乳育児は乳児の腸内と鼻腔に微生物が定着するペースと順序を、秩序正しく適切なタイミングで起こるように調節している」と説明する。同氏はさらに、「健康な微生物叢の発達には、適切な微生物が存在するだけでは不十分だ。適切なタイミングと順序で微生物が定着することも必要なのだ」と付け加えている。 Shenhav氏は、「本研究結果は、母乳育児が乳児の微生物叢に及ぼす重大な影響と、呼吸器の健康をサポートする上での母乳育児の重要な役割を浮き彫りにしている。われわれは、この研究で実証されたように、母乳の保護効果の背後にあるメカニズムを解明し、データに基づき母乳育児と断乳に関する国のガイドラインを策定することを目指している」と述べている。同氏はまた、「さらに研究を重ねることで、本研究結果は、母乳育児の期間が3カ月未満だった乳児の喘息を予防する戦略の開発にも貢献する可能性がある」との見方も示している。

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ESMO2024レポート 乳がん

レポーター紹介2024年9月13日から17日まで5日間にわたり、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2024)がハイブリッド形式で開催された。COVID-19の流行以降、多くの国際学会がハイブリッド形式を維持しており、日本にいながら最新情報を得られるようになったのは非常に喜ばしい。その一方で、参加費は年々上がる一方で、今回はバーチャル参加のみの会員価格で1,160ユーロ(なんと日本円では18万円超え)。日本から参加された多くの先生方がいらっしゃったが、渡航費含めると相当の金額がかかったと思われる…。それはさておき、今年のESMOは「ガイドラインが書き換わる発表です」と前置きされる発表など、臨床に大きなインパクトを与えるものが多かった。日本からもオーラル、そしてAnnals of Oncology(ESMO/JSMOの機関誌)に同時掲載の演題があるなど、非常に充実していた。本稿では、日本からの演題も含めて5題を概説する。KEYNOTE-522試験本試験は、トリプルネガティブ乳がん(TNBC)を対象とした術前化学療法にペムブロリズマブを上乗せすることの効果を見た二重盲検化プラセボ対照第III相試験である。カルボプラチン+パクリタキセル4コースのち、ACまたはEC 4コースが行われ、ペムブロリズマブもしくはプラセボが併用された。病理学的完全奏効(pCR)と無イベント生存(EFS)でペムブロリズマブ群が有意に優れ、すでに標準治療となっている。今回は全生存(OS)の結果が発表された。アップデートされたEFSは、両群ともに中央値には到達せず、ハザード比(HR):0.75、95%信頼区間(CI):0.51~0.83、5年目のEFSがペムブロリズマブ群で81.2%、プラセボ群で72.2%であり、これまでの結果と変わりなかった。OSも中央値には到達せず、HR:0.66(95%CI:0.50~0.87、p=0.00150)、5年OSが86.6% vs.81.7%と、ペムブロリズマブ群で有意に良好であった(有意水準α=0.00503)。また、pCRの有無によるOSもこれまでに発表されたEFSと同様であり、non-pCRであってもペムブロリズマブ群で良好な結果であった。この結果から、StageII以上のTNBCに対してはペムブロリズマブを併用した術前化学療法を行うことが強固たるものとなった。 DESTINY-Breast12試験本試験は脳転移を有する/有さないHER2陽性転移乳がん患者に対するトラスツズマブ・デルクステカン(T-DXd)の有効性を確認した第IIIb/IV相試験である。脳転移を有するアームと脳転移を有さないアームが独立して収集され、主に脳転移を有する症例におけるT-DXdの有効性の結果が発表された。脳転移アームには263例の患者が登録され、うち157例が安定した脳転移、106例が活動性の脳転移を有した。活動性の脳転移のうち治療歴のない患者が39例、治療歴があり増悪した患者が67例であった。主要評価項目は無増悪生存期間(PFS)、その他の評価項目として脳転移のPFS(CNS PFS)などが含まれた。脳転移を有する症例のPFS中央値は17.3ヵ月(95%CI:13.7~22.1)、12ヵ月PFSは61.6%と非常に良好な成績であり、これまでの臨床試験と遜色なかった。活動性の脳転移を有するサブグループでも同等の成績であったが、治療歴のないグループでは12ヵ月PFSが47.0%とやや劣る可能性が示唆された。12ヵ月時点のCNS PFSは58.9%(95%CI:51.9~65.3)とこちらも良好な結果であった。安定した脳転移/活動性の脳転移の間で差は見られなかった。測定可能病変を有する症例における奏効率は64.1%(95%CI:57.5~70.8)、測定可能な脳転移を有する症例における奏効率は71.7%(95%CI:64.2~79.3)であった。OSは脳転移のある症例とない症例で差を認めなかった。この結果からT-DXdの脳転移に対する有効性は確立したものと言ってよいであろう。これまで(とくに活動性の)脳転移に対する治療は手術/放射線の局所治療が基本であったが、今後はT-DXdによる全身薬物療法が積極的な選択肢になりうる。 CAPItello-290試験カピバセルチブは、すでにPI3K-AKT経路の遺伝子変化を有するホルモン受容体陽性(HR+)/HER2陰性(HER2-)転移乳がんに対して、フルベストラントとの併用において有効性が示され、実臨床下で使用されている。本試験は転移TNBCを対象として、1次治療としてパクリタキセルにカピバセルチブを併用することの有効性を検証した二重盲検化プラセボ対照第III相試験である。818例の患者が登録され、主要評価項目は全体集団におけるOSならびにPIK3CA/AKT1/PTEN変異のある集団におけるOSであった。結果はそれぞれ17.7ヵ月(カピバセルチブ群)vs. 18.0ヵ月(プラセボ群)(HR:0.92、95%CI:0.78~1.08、p=0.3239)、20.4ヵ月vs. 20.4ヵ月(HR:1.05、95%CI:0.77~1.43、p=0.7602)であった。PFSはそれぞれ5.6ヵ月vs. 5.1ヵ月(HR:0.72、95%CI:0.61~0.84)、7.5ヵ月vs. 5.6ヵ月(HR:0.70、95%CI:0.52~0.95)と、カピバセルチブ群で良好な傾向を認めた。奏効率もカピバセルチブ群で10%程度良好であった。しかしながら、主要評価項目を達成できなかったことで、IPATunity130試験(ipatasertibのTNBC1次治療における上乗せ効果を見た試験で、PFSを達成できなかった)と同様の結果となり、TNBCにおけるAKT阻害薬の開発は困難であることが再確認された。ICARUS-BREAST01試験本試験は抗HER3抗体であるpatritumabにderuxtecanを結合した抗体医薬複合体(ADC)であるpatritumab deruxtecan(HER3-ADC)の有効性をHR+/HER2-転移乳がんを対象に検討した第II相試験である。本試験はCDK4/6阻害薬、1ラインの化学療法歴があり、T-DXdによる治療歴のないHR+/HER2-転移乳がんを対象として行われた単アームの試験であり、主治医判定の奏効率が主要評価項目とされた。99例の患者が登録され、HER2ステータスは約40%で0であった。HER3の発現が測定され、約50%の症例で75%以上の染色が認められた。主要評価項目の奏効率は53.5%(95%CI:43.2~63.6)であり、内訳はCR:2%(0.2~7.1)、PR:51.5%(41.3~61.7)、SD:37.4%(27.8~47.7)、PD:7.1%(2.9~14.0)であった。SDを含めた臨床的有用率は62.6%(52.3~72.1)と、高い有効性を認めた。有害事象は倦怠感、悪心、下痢、好中球減少が10%以上でG3となり、それなりの毒性を認めた。探索的な項目でHER3の発現との相関が検討されたが、HER3の発現とHER3-DXdの有効性の間に相関は認められなかった。肺がん、乳がんでの開発が進められており、目の離せない薬剤の1つである。ERICA試験(WJOG14320B)最後に昭和大学先端がん治療研究所の酒井 瞳先生が発表した、T-DXdの悪心に対するオランザピンの有効性を証明した二重盲検化プラセボ対象第II相試験であるERICA試験を紹介する。T-DXdは悪心、嘔吐のコントロールに難渋することのある薬剤である(個人差が非常に大きいとは思うが…)。本試験では、5-HT3拮抗薬、デキサメタゾンをday1に投与し、オランザピン5mgまたはプラセボをday1から6まで投与するデザインとして、166例の患者が登録された。主要評価項目は遅発期(投与後24時間から120時間まで)におけるCR率(悪心・嘔吐ならびに制吐薬のレスキュー使用がない)とされた。両群で80%の症例が5-HT3拮抗薬としてパロノセトロンが使用され、残りはグラニセトロンが使用された。遅発期CR率はオランザピン70.0%、プラセボ56.1%で、その差は13.9%(95%CI:6.9~20.7、p=0.047)と、統計学的有意にオランザピン群で良好であった。有害事象として眠気、高血糖がオランザピン群で多かったが、G3以上は認めずコントロール可能と考えられる。制吐薬としてのオランザピンの使用はT-DXdの制吐療法における標準治療になったと言えるだろう。

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医師は普段どのくらいお酒を飲んでいる?/医師1,000人アンケート

2024年2月、厚生労働省は「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」を発表し、飲酒が健康に与える影響についての関心が高まっています。日頃から患者さんへ適切な飲酒について指導を行うことも多い医師が、自身は飲酒とどのように向き合っているかについてお聞きしました。

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8年ぶりの新薬登場、非専門医も押さえておきたいてんかん診療の今/ユーシービー

 部分発作を適応とする抗てんかん薬として、国内8年ぶりの新薬ブリーバラセタム(商品名:ブリィビアクト錠25mg、同50mg)が2024年8月30日に発売された。ユーシービージャパンは10月2日、「てんかん治療の新たな一歩~8年ぶりの新薬登場~」と題したメディアセミナーを開催。川合 謙介氏(自治医科大学附属病院脳神経外科)、岩崎 真樹氏(国立精神・神経医療研究センター病院脳神経外科)らが登壇し、てんかん診療の現状と課題、ブリーバラセタムの臨床試験結果などを解説した。新規薬も含めた適切な薬剤の選択で、いかに継続的な服薬につなげるか てんかんはすべての人があらゆる年齢で発症しうる疾患で、日本での患者数は約71万〜93万例、毎年8万6千例が新たにてんかんを発症していると推定される1)。認知症をはじめとして間違われやすい症状が多くあること、社会的な偏見があることなどにより、治療法があるのに辿りつけない患者がいまだ多い現状がある。 年齢別の有病率をみるとU字型の分布を示し、先天性の多い小児期のほか、65歳以上で脳卒中、脳腫瘍、アルツハイマー病などに伴い多くなる。高齢のてんかん患者ではてんかん重積状態の発生率が高く、死亡率も高い傾向がある一方2)、65歳以上で発症したてんかんは治療反応性が良好で、80%以上の患者で発作が消失したことが報告されている3)。川合氏は、「多剤併用の問題もある高齢者ではとくに、適切な診断と、副作用を考慮した治療薬の選択が非常に重要」と述べた。 日本における抗てんかん薬処方状況をみたデータによると、2018年時点でカルバマゼピンやバルプロ酸などの従来のてんかん薬の処方割合が84.5%を占め、2000年以降発売の新規てんかん薬(ラモトリギン、レベチラセタム、トピラマートなど)の処方は増加傾向にあるものの、従来薬が依然多く処方されている状況がみられた4)。川合氏は、従来薬群と比較して新規抗てんかん薬群で服薬継続率が有意に高かった(36.5% vs.72.0%)という日本の脳卒中後てんかん患者におけるデータ5)も紹介。「どの領域でも非専門医であるほうが従来薬を使う傾向があると思うが、てんかん発作薬に関しても同様の傾向がある。しかし、新規薬剤は効果はもちろんのこと、副作用が少なく、対象とするてんかんのタイプが増え、薬物間の相互作用が少ないため、むしろ非専門医にとって使いやすいものなのではないか」と話した。てんかん患者の運転免許取得、妊娠・出産への対応は 薬の飲み忘れなどによるてんかん発作の影響による重大交通事故はたびたび報道されてきた。しかし、「ひとくちにてんかんと言っても毎日のように発作が起こる患者さんもいるし、ほとんど発作のない患者さんもいる」と川合氏は指摘し、日本におけるてんかん患者の運転免許取得の考え方について、以下のようにまとめた6):・てんかんのある人が運転免許を取得するためには、「運転に支障を来す恐れのある発作が2年間ないこと」が条件。薬の服用の有無は関係ない。・上記の条件のもとで、運転に支障を来す恐れのない発作(単純部分発作など)がある場合には1年間以上、睡眠中に限定された発作がある場合には2年間以上経過観察し、今後症状悪化の恐れがない場合には取得可能。・ただし、大型免許と第2種免許は取得できない。また、運転を職業とする仕事は勧められない。 また、女性のてんかん患者における妊娠・出産に対しても、医療者には注意が求められる。抗てんかん薬には催奇形性リスクのある薬剤が多く、「てんかん診療ガイドライン2018」7)では、女性のライフサイクルを考慮した包括的な妊娠・出産についてのカウンセリングを行うこと、抗てんかん薬中止が困難な場合は非妊娠時から催奇形性リスクの少ない薬剤を選択し、発作抑制のための適切な用量調整を行っておくことなどが推奨されている。レベチラセタムと同じSV2A作用薬、ブリーバラセタムの第III相試験結果 ブリーバラセタムは、レベチラセタム結合部位として同定されたシナプス小胞タンパク質2A(SV2A)に選択的かつ高い親和性をもって結合することにより作用する薬剤。岩崎氏は、ブリーバラセタム国際共同第III相試験(EP0083試験)の結果について解説した。<EP0083試験の概要>8)対象:1~2種類の併用抗てんかん薬(AED)を用いた治療を受けているにもかかわらず、部分発作(二次性全般化を含む)のコントロールが十分に得られていない成人てんかん患者(16~80歳) 448例試験群:ブリーバラセタム50mg/日群ブリーバラセタム200mg/日群対照群:プラセボ※8週間の前向き観察期間を終了後、12週間の治療期間を設定主要評価項目:治療期間の28日当たりの部分発作回数のプラセボ群に対する減少率安全性評価項目:治験薬投与後に発現した有害事象(TEAE)、副作用主な結果:・患者背景は、平均年齢34.5(16~80)歳、日本人は97例(21.7%)含まれ、全例試験開始時に抗てんかん薬を併用しており、最も多く使用されていたのがバルプロ酸塩(39.7%)、次いでカルバマゼピン(30.5%)であった。てんかん発作型分類は、単純部分発作(IA)が50.9%、複雑部分発作(IB)が83.6%、二次性全般化発作(IC)が58.3%であった。・主要評価項目である治療期間の28日当たりの部分発作回数のプラセボ群に対する減少率について、50mg/日群では33.4%(日本人集団では30.0%)、200mg/日群では24.5%(同14.5%)となり、いずれのブリーバラセタム群でも優越性が確認された(p=0.0005およびp<0.0001)。・レベチラセタム使用歴の有無別にみると、50mg/日群では使用歴ありで20.5%、使用歴なしで26.8%、200mg/日群では29.5%、35.0%であった。・発作型分類別にみると、50mg/日群ではIAが6.5%、IBが21.4%、ICが18.2%、200mg/日群では11.1%、27.6%、31.6%であった。・過去に使用し試験参加前に中止している抗てんかん薬の剤数別にみると、50mg/日群では2剤以下で29.0%、3剤以上で13.4%、200mg/日群では39.3%、17.1%であった。・副作用の発現割合は、50mg/日群で26.5%、200mg/日群で39.9%、プラセボ群で20.1%。主な副作用(3%以上に発現)は、傾眠(9.3%、18.2%、7.4%)、浮動性めまい(8.6%、10.8%、3.4%)であり、日本人集団においても同様の傾向であった。単剤で新規発症例にも使用可能、レベチラセタムの代替薬にも ブリーバラセタムの効能・効果は「てんかん患者の部分発作(二次性全般化発作を含む)」で、用法・用量は1日50mgを1日2回に分けて経口投与となっている(症状により1日200mgを超えない範囲で適宜増減できる)。また、併用注意は、CYP2C19誘導薬(リファンピシンなど)、カルバマゼピン、フェニトイン、アルコール(飲酒)となっている。 岩崎氏は同剤について、高い発作抑制効果があり、焦点てんかんの単剤もしくは併用療法としての重要な選択肢となるとし、発作の多い患者における速やかな発作抑制に有用としたほか、副作用が少なく「続けられる薬剤」であることから、レベチラセタムが継続できなかった患者に対する代替薬としても有用なのではないかと話した。■参考1)日本てんかん学会編. てんかん専門医ガイドブック 改訂第2版. 診断と治療社;2020.2)DeLorenzo RJ, et al. Neurology. 1996;46:1029-1035.3)Mohanraj R, et al. Eur J Neurol. 2006;13:277-282.4)Jin K, et al. Epilepsy Behav. 2022;134:108841.5)Tanaka T, et al. Brain Behav. 2021;11:e2330.6)独立行政法人国立病院機構静岡てんかん・神経医療センター「てんかん情報センターQ&A」7)日本神経学会監修.てんかん診療ガイドライン2018.8)EP0083試験(ClinicalTrials.gov)

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大手術前のRAS阻害薬は中止すべき?/JAMA

 非心臓大手術を受ける患者では、レニン-アンジオテンシン系阻害薬(RASI:ACE阻害薬またはARB)の投与を手術の48時間前に中止する方法と比較して、手術当日まで投与を継続する方法は、全死因死亡と術後合併症の複合アウトカムの発生率が同程度で、術中の低血圧の発現を増加させ、低血圧持続時間も長いことが、米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のMatthieu Legrand氏らStop-or-Not Trial Groupが実施した「Stop-or-Not試験」で示された。研究の詳細は、JAMA誌2024年9月24日号に掲載された。フランスの医師主導型無作為化試験 Stop-or-Not試験は、非心臓大手術前のRASIの継続投与が48時間前の投与中止と比較し、術後のアウトカムを改善するかの検証を目的とする医師主導の非盲検無作為化試験であり、2018年1月~2023年4月にフランスの40施設で参加者を登録した(フランス保健省の助成を受けた)。 年齢18歳以上、待機的非心臓大手術が予定され、術前の少なくとも3ヵ月間、RASIの長期投与を受けている患者を対象とした。大手術は、切開から皮膚閉鎖まで2時間以上を要し、術後の入院期間が3日以上と見込まれる手術と定義した。 被験者を、手術当日までRASIの使用を継続する群、または手術の48時間前にRASIの使用を中止する(手術の3日前が最終投与日)群に無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、術後28日以内の全死因死亡と主要術後合併症の複合とした。主要術後合併症には、術後主要心血管イベント(急性心筋梗塞、血栓症、脳卒中、急性腎障害など)、敗血症または敗血症性ショック、呼吸器合併症、予期せぬ集中治療室(ICU)入室または再入室、急性腎障害、高カリウム血症、術後28日以内の外科的再介入を要する病態が含まれた。主要アウトカムは、RASI中止群22% vs.RASI継続群22% 2,222例を登録し、RASI継続群に1,107例、RASI中止群に1,115例を割り付けた。ベースラインの全体の平均年齢は67(SD 10)歳、65%が男性で、98%が高血圧の治療を受けており、9%が慢性腎臓病、8%が糖尿病、6%が心不全であった。46%がACE阻害薬、54%がARBを使用していた。 術後28日の時点で、全死因死亡と主要術後合併症の複合の発生率は、RASI中止群が22%(245/1,115例)、RASI継続群も22%(247/1,107例)であった(リスク比:1.02、95%信頼区間[CI]:0.87~1.19、p=0.85)。 主な副次アウトカムである術中の低血圧エピソード(昇圧薬投与を要する病態)の発生率は、RASI中止群が41%(417例)、RASI継続群は54%(544例)と、継続群で高かった(リスク比:1.31、95%CI:1.19~1.44)。 また、術中低血圧(平均動脈圧<60mmHg)の持続時間中央値は、RASI中止群が6分(四分位範囲:4~12)、RASI継続群は9分(5~16)であり、継続群で長かった(平均群間差:3.7分、95%CI:1.4~6.0)。他のアウトカムにも差がない 主要アウトカムを構成する個々の項目や、術中低血圧以外の副次アウトカム(術後臓器不全、術後28日間の入院期間およびICU入室期間など)にも両群間に差を認めなかった。 著者は、「RASI継続群で術中低血圧の発生率が高かったことが、全死因死亡や主要術後合併症のリスクの増加に結び付かなかった理由は、術中に高血圧が迅速に改善したことと、低血圧の持続時間が全体として短かったためと考えられる」とし、「これらの結果は、今後のガイドラインに影響を与える可能性がある。術後のアウトカムに差がないことから、RASI継続と中止のどちらも容認でき、安全である」と述べている。

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日本人の“尿ナトカリ比”目標値が決定~ステートメント公表/日本高血圧学会

 日本高血圧学会は10月8日、日本人のための尿ナトカリ比の目標値と適切な評価方法を提唱するため、尿ナトリウム/カリウム(尿ナトカリ比)ワーキンググループによる『コンセンサスステートメント』をHypertension Research誌で公表した。尿ナトカリ比の目標値として、まずは実現可能な“4”を目指し、将来的に至適な“2”へ段階的に設定していくという。ポイントは以下のとおり。―――――――――――――――――――・尿ナトカリ比と血圧値との間に連続した正の関連・尿ナトカリ比は、ナトリウム、カリウム単独よりも、より強く血圧高値と関連・健常日本人における目標値として、「日本人の食事摂取基準」の食塩とカリウムの摂取目標量に相当する2未満を至適目標に、日本人の平均値未満に相当する4未満を実現可能目標に設定・随時尿を用いて尿ナトカリ比を測定する場合、週に4日以上、異なる時間帯に採取した尿の測定値から平均を算出することを強く推奨・尿ナトカリ比は、日本全国の健診・医療機関で安価かつ簡便に測定可能であり、減塩とカリウム摂取増加の指標として、高血圧の予防と管理、脳卒中、心臓病、腎臓病の予防に活用されることを期待――――――――――――――――――― 同日に開催された日本高血圧学会のプレスセミナーで本ステートメントについて解説した三浦 克之氏(滋賀医科大学社会医学講座公衆衛生学部門 教授/日本高血圧学会 理事)は、「摂取目標量に加え、国内の4つの研究結果(INTERMAP研究、ながはまスタディ、東北メディカル・メガバンク機構コホート、NIPPON DATA2010)などを参考に健康な人における平均ナトリウム/カリウム比の目標値を決定した。来年に改訂される高血圧診療ガイドラインにも本ステートメント内容が反映される予定」とコメントした。尿ナトカリ比とは、測定する意義とは 食事から摂取したナトリウム・カリウムの直接的な評価は難しいが、ナトリウムは摂取した量の90%以上が、カリウムは摂取した70~80%が尿中に排泄される。尿ナトカリ比はこれを活かし、尿中に排泄されたナトリウムとカリウムそれぞれの濃度(mmol/L)を比で示したもので、日本人でも高血圧や循環器病リスクとの関連が明らかにされている。たとえば、宮城県登米市において高血圧有病リスクとの関連を調査1)した結果、尿ナトカリ比値が3.0未満の群と比べ、尿ナトカリ比が高いほど高血圧になる危険度が高かった。10日間の尿ナトカリ比平均値と家庭血圧値の関連をみた研究2)でも尿ナトカリ比が高いグループほど家庭血圧(収縮期血圧)の平均値が高かった。また、三浦氏らが行ったNIPPON DATE803)によると、食事のナトカリ比が高くなるにつれて脳卒中死亡リスクも高まることが示唆されている。これらの研究を踏まえ、「血圧はもちろんのこと、将来の循環器病予防のためにも測定しておくことが重要」と同氏は説明した。尿ナトカリ比の測定、患者個人でも可能だが… 測定方法には随時尿を用い、(1)医療機関や健診で採尿し検査機関で測定、(2)医療機関や自治体の特定健診、職域健康管理などで活用されるナトカリ計で測定、(3)郵送により個人が自宅で測定などの方法がある。しかし、「食後や朝晩は高く、日中は低い傾向にあるため、さまざまな状況の尿を採取することが必要。医療機関で週に4日以上、無作為に異なる時間帯に採取した随時尿での測定値から平均値を算出する方法を推奨する」と同氏はコメントした。 最後に同氏は「尿ナトカリ比は、日本全国の健診機関やかかりつけ医を含む医療機関において、安価かつ簡便に測定が可能である。高血圧の予防と管理、脳卒中、心疾患や腎機能障害の予防のためにも減塩とカリウム摂取増加の指標として、尿ナトカリ比がさらに活用されることを期待する。ただし、現時点で健診事業でも医療施設でも測定件数は少ないため、これらが普及するには少し時間がかかるだろうと」と締めくくった。

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第233回 40年前の“駆け込み増床”を彷彿とさせる“駆け込み開業”が起こる?診療所が多い地域で新規開業を許可制にする案を厚労省が提起

「医師偏在是正に向けた総合的な対策パッケージ」に関する議論進むこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。MLBのポストシーズンが盛り上がっています。10月6日(日本時間)のナショナルリーグ地区シリーズ、ドジャースvs.パドレス戦は、NHKはなんと地上波でライブで放送していました。第2戦は大谷 翔平選手と、ダルビッシュ 有投手の対戦が見応えがありました。大谷選手は3打数無安打で、ダルビッシュ投手の多彩な変化球に完全に抑えられていました。ダルビッシュ投手は2017年のポストシーズン、ロサンゼルス・ドジャースの投手としてワールドシリーズ進出に貢献、しかしその本番のワールドシリーズで、ヒューストン・アストロズとの戦いで2敗を喫し、ファンからは“戦犯”とまで非難され、同年にFA(フリーエージェント)で退団しています。ドジャースに対しては複雑な思いもあるであろうダルビッシュ投手のこの日の勝利は、いちファンとして感慨深いものがありました。サンディエゴ・パドレス、このまま上まで行くかもしれませんね。さて、今回は本格化してきた「医師偏在是正に向けた総合的な対策パッケージ」に関する議論について書きます。この問題については、本連載でも幾度か取り上げてきました。「第229回 武見厚労相最後の大仕事か?『医師偏在是正に向けた総合的な対策』の議論本格化」では現在議論されている骨子案の内容を紹介しました。この「対策パッケージ」、厚生労働省(以下、厚労省)のいろんな検討会等で議論が行われていますが、一体どこが主導してまとめていくのか見えづらいです。最終的には厚労省内の官僚チームがエイヤッとまとめ上げ、大して誰も傷まない中途半端なパッケージが出来上がるのではないかと心配です。9月30日にこのテーマが議論されたのは、第9回「新たな地域医療構想等に関する検討会」(座長:遠藤 久夫・学習院大学長)でした。ここでは、診療所が多い「外来医師多数区域」におけるさまざまな規制的手法が厚労省から提起され議論されました。新規開業時に足りない医療機能を要請できる仕組みを法制化規制的手法の案でとくに注目されたのは、診療所が多い「外来医師多数区域」において、開業希望者に地域で足りない医療機能を要請したり、新規開業を許可制にしたりするという案です。現状、診療所は免許を持つ医師が地方自治体に届け出れば、原則自由に開業できます。その点は、医療計画で2次医療圏ごとに病床数が規制されている病院よりもハードルは極めて低いと言えるでしょう。また、開業できる診療科も自由です。都道府県が開業を希望する医師に救急対応など足りない医療機能を設けることを要請できる仕組みが指針(外来医療に係る医療提供体制の確保に関するガイドライン1))ベースでありますが、法律に規定されているわけではありません。つまり、在宅医療など地域に不足している医療機能の提供を開業希望者に強制することはできないのです。そこで今回、厚労省が「外来医師多数区域における新規開業希望者への地域で必要な医療機能の要請等の仕組みの実効性の確保」を目的に提起したのは、『指針』の仕組みの医療法での位置付け(法制化)です。それによって、外来医師多数区域の新規開業希望者に対して、事前に診療所で提供する予定の医療機能を記載した届け出を求め、都道府県はその届け出の内容を踏まえて、不足している医療機能の提供を要請できるようにするわけです。要請に従わない場合は勧告・公表などのペナルティも設けるとしています。また、外来医師多数区域での開業を許可制とし、開業の上限を定める案も提起しました。なお、検討に当たっては、憲法上の職業選択の自由・営業の自由との関係、規制の合理性、既存診療所との公平性および新規参入抑制による医療の質等について留意して検討を進めるとしています。「『営業の自由』に抵触する可能性も高く、規制的手法はまったく馴染まない」と日医常任理事こうした提起に対して、同検討会では賛成論、反対論の両方が出ました。10月1日付けのGemMed(旧メディ・ウォッチ)などの報道によれば、「医師偏在を強力に是正するためには規制を強める必要がある。優先すべき外来医師多数区域での新規開業対策である」(土居 丈朗・慶應義塾大学経済学部教授)、「医師多数区域に医師が集まる背景を分析して過剰集中を規制的に解決しなければ偏在は解消しない」(河本 滋史・健康保険組合連合会専務理事)といった積極的な賛成論が構成員から出ました。しかし一方で、「“日本国憲法第22条第1項から導かれる『営業の自由』”に抵触する可能性も高く、規制的手法はまったく馴染まない」(江澤 和彦・日本医師会常任理事)、「規制的手法を実行したとしても、医師は医師少数区域には行かず、医師多数区域の近隣に動くだけである」(伊藤 伸一・日本医療法人協会会長代行)といった反対論も、日本医師会をはじめとする医療提供側から出ました。ある構成員から、「都道府県が要請する機能を提供しない場合は保険医療機関の指定を取り消すなどの強い対応をすべき」との意見が出ましたが、日本医師会の江澤氏は、開業を希望する勤務医と地域の医師会などによる『協議の場』を作ることを提案、保険医療機関の指定取り消しなどの対応には反対したとのことです。地域の病院で働く医師を増やすために本当に効果があるかどうかは疑問私自身も、何らかの規制的手法の導入はもはや避けられないことだと思います。人口減少が急速に進む地方では、どんどん診療所や中小病院が閉鎖しています。そんなところに新規開業する医師はいませんから、早めに医療機関を集約して、基幹病院を中心とした医療・介護のネットワークを作っておかなければなりません(地方での診療所開業を促す策は、医療機関の集約化が喫緊の課題である現状では無意味でしょう)。しかし、その病院で働く医師がいないことにはネットワークも作れません。地方の病院で働く医師を半ば強制的に生み出す仕組みがまず必要です。現在検討されている医師偏在是正に向けたさまざまな対策には、そうした地域で働く医師を増やすための方策が多数盛り込まれており、それらがどこまで実効性のある仕組みにできるかがポイントと言えます。そのポイントの一つが、ベースとなる医師数の確保策であり、「外来医師多数区域」において足りない医療機能を要請して開業を牽制したり、新規開業を許可制にしたりする案もその一環ということになりますが、果たしてこれらの案が地域の病院で働く医師を増やすために本当に効果があるかどうか疑問です。「駆け込み増床」のように「駆け込み開業」が起きるかもとくに開業を許可制とし、開業の上限を定める案などは、医療計画の法制化で1980年代後半に起こった「駆け込み増床」のように「駆け込み開業」が起きるかもしれず、現実的ではないでしょう。現実的ではない、ということではこんな案はどうでしょう。そもそも医学部教育、医師の養成には、他学部の学生に比べて比較にならないほどの多額の税金が投入されています。ここはもう、“徴兵制”に匹敵するほどの厳しい勤務年限(自治医大や医学部地方枠のような)をすべて(か相当割合)の医学生に課すという案です。併せて医学部の授業料の無償化も進めていいかもしれません。いずれにせよ、「現実的ではない」と批判されるくらいの方策でないと、医師偏在対策の特効薬にはならないでしょう。今後の議論の行方に注目したいと思います。参考1)厚生労働省:外来医療について

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高齢者の便秘症放置は予後不良のリスクに/ヴィアトリス

 ヴィアトリス製薬は、「『便通異常症診療ガイドライン』改訂1年を踏まえた慢性便秘症治療の新しい当たり前」をテーマに都内でメディアセミナーを開催した。セミナーでは、とくに高齢者に多い慢性便秘症についてガイドラインの作成に携わった専門医が便秘症の概要と高齢者に多い便秘症とその介護についてレクチャーを行った。便秘は循環器疾患や脳血管疾患のリスク 「慢性便秘症」をテーマに伊原 栄吉氏(九州大学大学院医学研究院病態制御内科学 准教授)が、便秘症の疾患概要、排便の仕組み、診療ガイドラインの内容、最新の慢性便秘症の治療について説明した。 最新の研究では、便秘は循環器や脳血管疾患などの重篤な疾患とも関連があり、排便回数が4日に1回以下の場合、そのリスクが上昇することが報告されている1)。便秘の有訴率は、60歳以下の女性に多いが、高齢者ではその性差はなくなり、高齢者の25%は便秘に悩んでいる。 排便は、消化管の蠕動運動と腸の水分調節が大きな因子となり、この両方に胆汁酸が関連することが知られている。そして、結腸からの通過時間と直腸の排便機能のどちらかに問題があると便秘となる。便の形状も重要であり、ブリストル便形状スケールの4(表面なめらか、やわらかいソーセージ様)が理想的な形状であり、これ以外の形状では排便で弊害をもたらす。こうした仕組みで、高齢者では先述の水の調整機能の低下や結腸蠕動の低下、直腸・肛門排便機能の低下により便秘になりやすいことが知られている2)。新しい診療ガイドラインのポイント 次に診療ガイドラインの改訂ポイントについて触れ、「便秘症と慢性便秘症の定義の改訂」、「新しい慢性便秘症治療薬を含めた診療フローチャートの作成」、「オピオイド誘発性便秘症の治療方針の提示」の3項目が大きく改訂、追加されたことを述べた。 とくに慢性便秘症では「長期生命予後に関連する」ことが追加記載されたほか、慢性便秘症診療のフローチャートが作成され、機能性便秘症とオピオイド誘発性便秘などの診療が区別された。 慢性便秘症の治療目的は、排便回数や症状改善、QOLの向上から「残便感のないスッキリ便」と「便形状の正常化」へシフトしている。また、診療では、まず大腸がんが隠れていないか鑑別診断を行い、「便が出ないか、出せないのか」の診断へと進んでいく。 通常の原因は結腸の運動が弱くなることで排便に問題があるケースが多く、治療では食事療法(3食摂取/適度な水分/食物繊維を多く、脂肪分を少なくなど)と生活習慣改善(生活のリズム/十分な睡眠/便意を我慢しない/適度な運動と休息など)がまず指導される。 これらで改善しない場合に内服薬治療として、酸化マグネシウム薬(腎臓機能低下者には使用しない)などの腸に水を引く治療薬が第1選択薬として使用される。  さらに改善しない場合には、新しい便秘薬として、上皮機能変容薬と胆汁酸トランスポーター阻害薬の使用が考慮され、ケースによっては短期間頓用として刺激性下剤の追加も考慮される。とくに刺激性下剤は、「頻用することで大腸などの蠕動運動を低下させ、さらなる便秘を誘発するリスクがあるため短期間で止めるべき」と伊原氏は注意を促す。 最後に伊原氏は「生活習慣改善・食事療法に非刺激性下剤で改善せず、刺激性下剤を使用しないと排便できないケースでは、医療機関を受診することを勧める。消化管を中心に体のバランスは維持されるので、便秘治療は重要」と述べ、講演を終えた。高齢者の便秘は、時に死亡のリスクへつながる 「たかが便秘? 高齢者便秘とその介護者の“便秘介護”」をテーマに、中島 淳氏(横浜市立大学大学院医学研究科 肝胆膵消化器病学教室 主任教授)が高齢者の便秘診療について講演を行った。 高齢者は加齢による排便機能の低下などにより70歳以上で男女ともに便秘症の患者が増加する。とくに高齢者では、基礎疾患の治療に伴う「薬剤性の便秘」が問題となっており、糖尿病や消化器疾患の治療薬での便秘症状が多いという。また、高齢者では便の形状も重要で、ブリストル便形状スケール(4の正常便が理想)の1~3の硬い便だと排便時のいきみなどで血圧上昇が起こり心血管系疾患を誘発するリスクとなる。一方、便スケール5~6の軟便だと本人も不快であるばかりでなく、介護状態では介護者にも負担をかけると指摘する3)。そのほか、高齢者はトイレで心停止などを起こすリスクがあり、その際家人などに発見される確率も低いという4)。また、排便頻度と循環器系疾患の死亡リスクも相関するとされ、排便のいきみが血圧の変動に影響することも指摘されているほか、近年の研究から便秘がパーキンソン病の発症前駆期にみられる症状であることや、慢性腎臓病の累積発症では便秘がリスクの1つになっている可能性が示唆されていることから、高齢者の便秘(慢性便秘症)はきちんと治療する必要があると指摘する。在宅患者の便秘ケアでは介護者のQOLも視野に 2017年時点で在宅医療を受けている患者は約18万人に上り、年々増加しており、在宅医療を受診している56.9%に便秘がみられるというレポートがある5)。在宅患者が慢性便秘症になる要因としては、先述の加齢に伴う身体変化に加え、四肢機能障害や自室からトイレまでの距離、自力での排便の困難さなど複合的な要因で起こることが知られている。 そして、緩和ケア領域でのマネジメント目標として「快適かつ満足のいく排便習慣の確保」、「排便習慣の自立維持」、「腹痛などの便秘関連症状の予防」の3項目が掲げられている。また、便秘の予防として「プライバシーが保たれ排便が行えるように配慮すること」、「水分や食物繊維を無理のない範囲で摂取すること」、「運動を無理のない範囲で行うこと」、「(禁忌などでない場合)腹部マッサージを行うこと」の4つが提案されている6)。 そのほか、排便管理は、患者家族などの介護する側にも身体的、心理的、社会・経済的負担をかけることにもつながるので、介護者のQOLも視野に入れた排便管理が望まれるという。 慢性便秘症の治療薬としては、浸透圧性下剤が推奨されているが、マグネシウムを含む塩類下剤の使用では定期的なマグネシウム測定が推奨されている。2020年に厚生労働省からもマグネシウム血症へのリスクを考慮した適正使用の文書も発出され、注意喚起がされている。また、中島氏は「刺激性下剤については、有効ではあるものの、日常的に使うと依存性になり、効果減弱となるため、できるだけ必要最小限の使用に止め、頓用か短期間の使用が望ましい」と提唱した。 最後に中島氏は「高齢者の便秘対策は生活指導・食事療法が基本であり、薬物療法では、用量調節が可能な薬剤の考慮が必要。患者の特性に応じた薬剤選択を行い、患者だけでなく、介護者のQOLも視野に便秘治療を行うことが重要」と語り、レクチャーを終えた。■参考文献1)Chang JY, et al. Am J Gastroenterol. 2010;105:822-832.2)伊原栄吉. 日本臨床. 2023;81:242-249.3)Ohkubo H, et al. Digestion. 2021;102:147-154. 4)Inamasu J, et al. Environ Health Prev Med. 2013;18:130-135. 5)Komiya H, et al. Geriatr Gerontol Int. 2019;19:277-281. 6)馬見塚勝郎. 診断と治療. 2018;106:833-838.

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新規3剤配合降圧薬の効果、標準治療を大きく上回る

 血圧がコントロールされていない高血圧患者を対象に、新たな3剤配合降圧薬であるGMRx2による治療と標準治療とを比較したところ、前者の降圧効果の方が優れていることが新たな臨床試験で明らかにされた。George Medicines社が開発したGMRx2は、降圧薬のテルミサルタン、アムロジピン、インダパミドの3剤配合薬で、1日1回服用する。アブジャ大学(ナイジェリア)心臓血管研究ユニット長のDike Ojji氏らによるこの研究結果は、欧州心臓病学会年次総会(ESC Congress 2024、8月30日~9月2日、英ロンドン)で発表されるとともに、「Journal of the American Medical Association(JAMA)」に8月31日掲載された。 成人の高血圧患者は世界で10億人以上に上り、患者の3分の2は低・中所得国に集中していると推定されている。高血圧は死亡の最大のリスク因子であり、年間1080万人が高血圧が原因で死亡している。 今回の臨床試験は、未治療または単剤の降圧薬を使用中で血圧がコントロールされていない黒人患者300人(女性54%、平均年齢52歳)を対象に、ナイジェリアで実施された。対象者は、6カ月にわたってGMRx2による治療を受ける群と、標準治療を受ける群にランダムに割り付けられた。GMRx2には、テルミサルタン、アムロジピン、インダパミドの4分の1用量(同順で、10/1.25/0.625mg)、2分の1用量(同20/2.5/1.25mg)、標準用量(同40/5/2.5mg)の3種類があり、治療は低用量から開始された。標準治療は、ナイジェリアの高血圧治療プロトコルに従い、アムロジピン5mgから開始された。有効性の主要評価項目は、ランダム化から6カ月後に自宅で測定した平均収縮期血圧の低下、安全性の主要評価項目は、副作用による治療の中止だった。 対象者の試験開始時の自宅で測定した平均血圧は151/97mmHg、病院で測定した平均血圧は156/97mmHgだった。300人中273人(91%)が試験を完了した。ランダム化から6カ月後の追跡調査時における自宅で測定した平均収縮期血圧の低下の幅は、GMRx2群で31mmHgであったのに対し標準治療群では26mmHgであり、両群間に統計学的に有意な差のあることが明らかになった(調整群間差は−5.8mmHg、95%信頼区間〔CI〕−8.0〜−3.6、P<0.001)。研究グループは、ジョージ研究所のニュースリリースの中で、収縮期血圧が5mmHg低下するごとに、脳卒中、心筋梗塞、心不全などの主要心血管イベントの発生リスクは10%低下することが報告されていると説明している。 また、ランダム化から1カ月後の時点でGMRx2群の81%、標準治療群の55%が医療機関での血圧コントロール目標(<140/90mmHg)を達成していた。この改善効果は6カ月後も持続しており、達成率は、GMRx2群で82%、標準治療群で72%だった。安全性については、副作用により治療を中止した対象者はいなかった。 こうした結果についてOjji氏は、「標準治療は現行のガイドラインに厳密に従い、より多くの通院を必要としたにもかかわらず、3剤配合降圧薬による治療は標準治療よりも臨床的に有意な血圧低下をもたらした」と話す。同氏は、「高血圧の治療により血圧コントロールを達成するのは、低所得国では治療を受けた人の4人に1人未満であり、高所得国でも50〜70%にとどまっている。そのことを考えると、わずか1カ月で80%以上の患者が目標を達成できたことは印象的だ」と付言する。 なお、George Medicines社は、米食品医薬品局(FDA)にGMRx2の承認申請を行ったとしている。

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北海道大学 血液内科学教室【大学医局紹介~がん診療編】

豊嶋 崇徳 氏(教授)白鳥 聡一 氏(助教)杉村 駿介 氏(後期研修医)講座の基本情報医局独自の取り組み、医師の育成方針私たちの使命は、1人ひとりの患者さんの診療を大切にし、地域の医療を守りながら、同時に世界的な医療の発展に貢献するような高いレベルの臨床研究、基礎研究を推進していくことです。そのために、患者さんの味方として、心・人生を支える確固たる姿勢を持ち、同時に疾患を科学的に徹底して分析する姿勢を持ち、尊敬され感動を与える医師を育てたいと考えています。臨床研究にあたっては、北大の40床では世界に太刀打ちできません。そこでスケールメリットを生み出すために北日本血液研究会を設立し、500床以上の大規模な臨床研究を実施し、世界に対しエビデンスを創出しています。血液疾患ではほかの多くの疾患と異なり、診断・治療の大部分が血液内科医1人の双肩にかかってきます。責任重大ですが、患者さんとの強い信頼感、連帯感が生まれ、医師としての達成感、生きがいを強く感じることができます。 さらに最も高いレベルでの全身管理、トータルケア能力が要求され、臓器別診療の垣根を越えた総合内科医としての実力も身に付きます。 また分子標的療法、移植療法など、基礎研究の成果の臨床応用を目の当たりできるのも血液内科ならではです。明るく、自由度が高く、外に開かれ、1人ひとりのスタッフの夢を実現できるような“新生”血液内科を目指しています。若き情熱にあふれた皆様の教室への参加を心よりお待ちしています。力を入れている治療/研究テーマ当科では、基礎、臨床共に精力的に研究を行っています。臨床研究の分野では、「同種造血幹細胞移植」を主なテーマとして取り組んでおり、代表的な研究として、移植後の重篤な合併症である「移植片対宿主病(GVHD)」の新たな予防法を開発してきました。「移植後シクロホスファミド法」は、GVHDのリスクが高いHLA半合致移植(親子間移植等)における有効性が、当科を中心とした全国試験で証明され、国内のガイドラインで推奨されるに至り、現在では保険診療下で使用可能となりました。また「低用量抗ヒト胸腺細胞グロブリン法」も、当科を中心とした全国試験で高いGVHD予防効果が証明され、こちらもガイドラインへの掲載に至りました。さらに、同じく重篤な移植後合併症である「肝類洞閉塞症候群」に対し、当院の超音波センターとの共同研究で、超音波検査を用いて早期に診断する「HokUS-10スコアリングシステム」を開発しました。こちらのシステムも、国内のガイドライン、さらには最新の国際診断基準に掲載される等、国内外から高い評価を得ています。医局の魅力、医学生/初期研修医へのメッセージ当科では、同種造血幹細胞移植やキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法や治験等、最先端の血液内科診療に触れる環境が整っており、研究への高いモチベーションにつながっています。当科はフロンティア精神に溢れた教室で、これからも活気ある教室を目指して臨床、教育、研究を精力的に進めていきますので、興味のある方はいつでもご連絡をお待ちしています。カンファレンス風景入局した理由私が北海道大学病院血液内科に入局した理由は、学生時代に受講した臨床講義で血液内科に強い興味を持ち、全身管理を必要とする内科的診療に魅力を感じたからです。さらに、道内各都市に関連施設があるため、地域との強いネットワークが構築されており、地域医療に貢献する意義を実感できることも大きな動機となりました。現在学んでいること大学病院における最先端の医療技術や、地域医療でのリアルワールドな診療を通じて、血液内科疾患について幅広く学んでいます。これらの経験は、理論と実践を結びつける貴重な機会となり、医療の多様な側面を理解する助けとなっています。また、上級医からの指導を受けることで、最新の治療法や研究動向について常に学び、日々成長を実感しています。今後のキャリアプラン来年度からは院生として研究活動にも取り組む予定です。臨床と研究の両面から血液内科を学ぶことで深みのある医師を目指しています。将来的には、専門医としての知識を深め、教育や地域医療への貢献も視野に入れたキャリアを築いていきたいと考えています。北海道大学大学院医学研究院 内科系部門内科学分野血液内科学教室住所〒060-8638 北海道札幌市北区北15条西7丁目問い合わせ先s.shiratori@med.hokudai.ac.jp医局ホームページ北海道大学大学院医学研究院 内科系部門内科学分野血液内科学教室専門医取得実績のある学会日本内科学会日本血液学会日本造血・免疫細胞療法学会日本輸血・細胞治療学会日本検査血液学会日本血栓止血学会日本臨床検査医学会日本エイズ学会研修プログラムの特徴(1)同種造血幹細胞移植、CAR-T療法等、最先端の血液内科医療に携わることができます。(2)チームによる診療体制を組んでおり、常に上級医からの指導・サポートを受けることができます。(3)北海道全域に関連病院を有しており、幅広い血液内科診療を経験できます。

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EGFR陽性NSCLC、CRT後のオシメルチニブの安全性プロファイル(LAURA)/WCLC2024

 切除不能なEGFR変異陽性StageIII非小細胞肺がん(NSCLC)における化学放射線療法(CRT)後オシメルチニブを評価する第III相LAURA試験の安全性解析が、世界肺がん学会(WCLC2024)で神奈川県立がんセンターの加藤 晃史氏から報告された。・対象:切除不能なStageIIIのEGFR遺伝子変異(exon19delまたはL858R)陽性NSCLC患者(CRT後に病勢進行なし)216例・試験群(オシメルチニブ群):オシメルチニブ(80mg、1日1回)を病勢進行または許容できない毒性、中止基準への合致のいずれかが認められるまで 143例・対照群(プラセボ群):プラセボ 73例・評価項目:[主要評価項目]盲検下独立中央判定(BICR)による無増悪生存期間(PFS)[副次評価項目]全生存期間(OS)、安全性など 主な結果は以下のとおり。・曝露期間中央値はオシメルチニブ群24.0ヵ月、プラセボ群8.3ヵ月と両群で差があった。・全Gradeの有害事象(AE)発現はオシメルチニブ群98%、プラセボ群88%であった。・頻度の高いAEは放射線肺臓炎(CRT治療患者)、下痢および皮疹(オシメルチニブ治療患者)であった。・Grade≧3のAE発現はオシメルチニブ群は35%、プラセボ群は12%だったが、曝露期間で調整するとオシメルチニブ群17.7/100人・年、プラセボ群12.6/100人・年であった。・放射線肺臓炎の発現はオシメルチニブ群48%、プラセボ群38%であった。Grade≧3の発現はそれぞれ2%と0%で、ほとんどがGrade≦2であった。また、オシメルチニブ群、プラセボ群とも96%がアジア人であった。・同試験の毒性管理ガイドラインに準じた放射線肺臓炎による投与中止はオシメルチニブ群10%、プラセボ群7%であった。・間質性肺疾患(ILD)の発現はオシメルチニブ群8%、プラセボ群1%であった。 これらの結果から、加藤氏は根治的CRT後のオシメルチニブ療法を切除不能なStageIIIのEGFR変異NSCLCに対する新たなスタンダードとして支持するものだとしている。

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国内初の造血器腫瘍遺伝子パネル検査ヘムサイトの承認取得/大塚

 大塚製薬は2024年9月20日、同社と国立がん研究センターが共同設計し、国立がん研究センター、九州大学、京都大学、名古屋医療センター、東京大学医科学研究所附属先端医療研究センター、慶應義塾大学医学部との共同研究コンソーシアムにて開発した造血器腫瘍遺伝子パネル検査ヘムサイトについて、国内における製造販売承認を取得したと発表。今後、保険適用の手続きを行い、発売に向けた準備を進める。 がん遺伝子パネル検査は、固形腫瘍を対象としたものがすでに保険適用されているが、造血器腫瘍では製造販売承認されたものはなく、保険診療下でのがんゲノム医療が実施できていない。同製品は、厚生労働省から先駆け審査指定制度の対象品目に指定され、国内で初めて製造販売承認された造血器腫瘍および類縁疾患を対象とした遺伝子パネル検査で、体外診断用医薬品「ヘムサイト診断薬」と医療機器プログラム「ヘムサイト解析プログラム」により構成されている。 近年、世界保健機関(WHO)などが提唱する造血器腫瘍の診断・治療指針では、ゲノム情報に基づいた診療が推奨され、ゲノム情報を用いずに適切な診断・治療を行うことが困難になりつつある。国内においても、日本血液学会から造血器腫瘍ゲノム検査ガイドラインが発行され、白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫など疾患・ステージごとに遺伝子パネル検査推奨度が提示されている。同製品は、ガイドラインにある造血器腫瘍の遺伝子異常が網羅的に検査できるように設計されており、遺伝子異常による診断、治療法選択、予後予測が可能になることが期待される。

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HFpEFに2番目のエビデンスが登場―非ステロイド系MRAの時代が来るのか?(解説:絹川弘一郎氏)

 ESC2024はHFpEFの新たなエビデンスの幕開けとなった。HFpEFに対する臨床試験はCHARM-preserved、PEP-CHF、TOPCAT、PARAGONと有意差を検出できず、エビデンスのある薬剤はないという時代が続いた。 CHARM-preservedはプラセボ群の一部にACE阻害薬が入っていてなお、プライマリーエンドポイントの有意差0.051と大健闘したものの2003年時点ではmortality benefitがない薬剤なんて顧みられず、PEP-CHFはペリンドプリルは1年後まで順調に予後改善していたのにプラセボ群にACE阻害薬を投与される例が相次ぎ、2年後には予後改善効果消失、TOPCATはロシア、ジョージアの患者のほとんどがおそらくCOPDでイベントが異常に少なく、かつ実薬群に割り付けられてもカンレノ酸を血中で検出できない例がロシア人で多発したなど試験のqualityが低かった、PARAGONではなぜか対照にプラセボでなくARBの高用量を選んでしまうなど、数々の不運または不思議が重なってきた。 その後ここ数年でSGLT2阻害薬がHFmrEF/HFpEFにもmortality benefitこそ示せなかったが心不全入院の抑制は明らかにあることがわかり、初のHFpEFに対するエビデンスとなったことは記憶に新しい。今回のFinearts-HF試験は、スピロノラクトンやエプレレノンと異なる非ステロイド骨格を有するMRA、フィネレノンがHFmrEF/HFpEFを対象に検討された。ここで、ステロイド骨格のMRAとフィネレノンとの相違の可能性について、まず説明する。 アルドステロンが結合したミネラルコルチコイド受容体は、cofactorをリクルートしながら核内に入って転写因子として炎症や線維化を誘導する遺伝子の5’-regionに結合して、心臓や腎臓の臓器障害を招くとされてきた。ステロイド骨格のMRAではアルドステロンを拮抗的に阻害するものの、ミネラルコルチコイド受容体がcofactorをリクルートすることは抑制できず、わずかながらではあっても炎症や線維化を促進してしまうことが知られている。このことがステロイド系MRAに腎保護作用が明確には認めづらい原因かといわれてきた。 一方、フィネレノンはもともとCa拮抗薬の骨格から開発された非ステロイド系MRAであり、cofactorのリクルートはなく、アルドステロン依存性の遺伝子発現はほぼ完全にブロックされるといわれている。FIDELIO-DKD試験ですでに示されているように糖尿病の合併があるCKDに限定されているとはいえ、フィネレノンには腎保護作用が明確にある。さらに、フィネレノンの体内分布はステロイド系MRAに比較して腎臓より心臓に多く分布しているようであり、腎臓の副作用である高カリウム血症が少なくなるのではないかという期待があった。このような背景においてHFmrEF/HFpEF患者を対象に、心不全入院の総数と心血管死亡の複合エンドポイントの抑制をプライマリーとして達成したことはSGLT2阻害薬に続く快挙である。カプランマイヤー曲線はSGLT2阻害薬並みに早期分離があり、フィネレノン20mgをDKDに使用している現状では血圧や尿量にさほどの変化を感じないが、早期に効果があるということは、やはり血行動態的に作用しているとしか考えられず、40mgでの降圧や利尿に対する効果を今一度検証する必要があると感じた。またかというか、HFpEFでは心血管死亡の発症率が低いため、mortalityに差がついていないが、これはもともと6,000人2年の規模の試験では当初から狙えないことが明らかなので、もうあまりこの点をいうのはやめたほうがいいかと思われる。 ちなみに死亡のエンドポイントで事前に有意差を出すための症例数を計算すると、1万5,000人必要だそうである。しかし、高カリウム血症の頻度は依然として多く、非ステロイド系MRAとしての期待は裏切られた格好になっている。もっとも、プロトコル上、eGFR>60の症例にはターゲット40mg、eGFR<60ではターゲット20mgとなっており、腎機能の低い症例に高カリウムが多いのか、むしろ高用量にした場合に一定程度高カリウムになっているのか、など細かい解析は今後出てくる予定である。腎保護の観点でもAKIはむしろフィネレノンで多いという結果であり、DKDで認められたeGFR slopeの差などがHFpEFでどうなのかも今後明らかになるであろう。このように、現状では非ステロイド系という差別化にはいまだ明確なデータはないようであり、それもあってTOPCAT Americasとのメタ解析が出てしまうことで、MRA一般にHFpEFに対するクラスエフェクトでI/Aというような主張も米国のcardiologistから出ている。 しかし、前述のようにいかにロシア、ジョージアの症例エントリーやその後のマネジメントに問題があったとはいえ、いいとこ取りで試験結果を解釈するようになればもう前向きプラセボ対照RCTの強みは消失しているとしかいえず、あくまでもTOPCAT全体の結果で解釈すべきで、ここまで長年そういう立場で各国ガイドラインにも記述されてきたものを、FINEARTS-HF試験の助けでスピロノラクトンの評価が一変するというのは、さすがに多大なコストと時間と手間をかけた製薬企業に残酷過ぎると思う。 少なくともFINEARTS-HF試験の結果をIIa/B-Rと評価したうえで、今後フィネレノン自体がHFrEFにも有効であるのか、または第III相試験中の他の非ステロイド系MRAの結果がどうであるかなどを合わせて、本当に非ステロイド系MRAが既存のステロイド系MRAに取って代わるかの結論には、まだ数年の猶予は必要であろうか。

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下垂体性PRL分泌亢進症

1 疾患概要■ 定義希少疾病である「下垂体性プロラクチン(PRL)分泌亢進症」(指定難病74)は表1の診断基準にある「1の1)の(1)~(3)」のうち1項目以上を満たし、1の2)を満たし、2の鑑別疾患を除外したもの」と定義される。すなわち、表2-1-1)のPRL産生腫瘍(プロラクチノーマ)が本疾患に該当する(表2)。表1 下垂体性PRL分泌亢進症の診断基準<診断基準>1.主要項目1)主症候(1)女性:月経不順・無月経、不妊、乳汁分泌のうち1項目以上(2)男性:性欲低下、インポテンス、女性化乳房、乳汁分泌のうち1項目以上(3)男女共通:頭痛、視力視野障害(器質的視床下部・下垂体病変による症状)のうち1項目以上2)検査所見血中PRLの上昇*2.鑑別診断薬剤服用によるPRL分泌過剰、原発性甲状腺機能低下症、視床下部・下垂体茎病変、先端巨大症(PRL同時産生)、マクロプロラクチン血症、慢性腎不全、胸壁疾患、異所性PRL産生腫瘍3.診断のカテゴリーDefinite:1の1)の(1)~(3)のうち1項目以上を満たし、1の2)を満たし、2の鑑別疾患を除外したもの*血中PRLは睡眠、ストレス、性交や運動などに影響されるため、複数回測定して、いずれも施設基準値以上であることを確認する。マクロプロラクチノーマにおけるPRLの免疫測定においてフック効果(過剰量のPRLが、添加した抗体の結合能を妨げ、見かけ上PRL値が低くなること)に注意すること。難病情報センター 下垂体性PRL分泌亢進症より引用表2 高PRL血症を来す病態1.下垂体病変1)PRL 産生腫瘍(プロラクチノーマ)2)先端巨大症(GH-PRL同時産生腫瘍)2.視床下部・下垂体茎病変1)機能性2)器質性(1)腫瘍(頭蓋咽頭腫・ラトケ嚢胞・胚細胞腫・非機能性腫瘍・ランゲルハンス細胞組織球症など)(2)炎症・肉芽腫(下垂体炎・サルコイドーシスなど)(3)血管障害(出血・梗塞)(4)外傷3.薬物服用(腫瘍以外で最も多い原因は薬剤である。詳細は表3を参照)4.原発性甲状腺機能低下症5.マクロプロラクチン血症*6.他の原因1)慢性腎不全2)胸壁疾患(外傷、火傷、湿疹など)3)異所性PRL産生腫瘍*PRLに対する自己抗体とPRLの複合体形成による。高PRL血症の15~25%に存在し、高PRL血症による症候を認めない。診断には、ゲルろ過クロマトグラフィー法、ポリエチレングリコール(PEG)法、抗IgG抗体法を用いて高分子化したPRLを証明する。(間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン作成委員会、「間脳下垂体機能障害に関する調査研究」班、日本内分泌学会 編. 間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン2023年版. 日内分泌会誌. 2023;99:1-171.より引用・作成)■ 疫学平成11(1999)年度の厚生労働省研究班による全国調査では、1998年1年間の推定受療患者数が、PRL産生腫瘍を含むPRL分泌過剰症で1万2,400人と報告されている1)。2005~2008年の脳腫瘍統計によると、原発性脳腫瘍のうち、下垂体腫瘍は19%であり、非機能性が57%、機能性が43%(PRL産生は12%)であった2)。PRL産生腫瘍は、男女比は1:3.6と女性に多く、男性では大きい腫瘍サイズで診断されることが多い1)。発症年齢は、女性では21~40歳に多く、男性では20~60歳にかけて認められる1)。■ 病因下垂体腫瘍によるPRL産生亢進が本症の病因である。■ 症状先述の表1-1の主症候(1)、(2)に記した高プロラクチン血症による症状と、(3)に記した下垂体腫瘍による症状が認められる。高プロラクチン血症の状態では視床下部でのキスペプチン分泌が減少し、性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)ニューロン(ゴナドトロピンニューロン)からのGnRHの脈動的分泌が抑制される。その結果、性腺刺激ホルモンおよび性ホルモンの分泌異常が生じて種々の症状が出現する。■ 予後脳腫瘍統計の追跡調査によると、2005~2008年のPRL産生腫瘍の5年生存率(および5年無増悪生存率)は98.7%(94.8%)だった2)。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)間脳下垂体機能障害に関する調査研究班が策定した本症の診断基準は先述の表1を参照していただきたい。本症は高PRL血症を呈するが、高PRL血症は先述の表2に記された種々の病態によっても生じるため鑑別を要する。高PRL血症の病態把握のためにはPRLの分泌調節を知っておくことが重要である。PRLは下垂体前葉に存在するPRL産生細胞より分泌される。視床下部から分泌されるドパミンは、下垂体門脈を介して下垂体に直接流入し、PRL分泌を抑制的に調節している。また、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)はPRL放出因子の1つである。高PRL血症の原因として、下垂体病変、視床下部・下垂体病変、薬剤、原発性甲状腺機能低下症、マクロプロラクチン血症、その他(慢性腎不全、胸壁疾患、異所性PRL産生腫瘍)が挙げられる(表2)。下垂体病変では、PRL 産生腫瘍(プロラクチノーマ)と先端巨大症(GH-PRL同時産生腫瘍)によるPRL分泌亢進が認められる。視床下部・下垂体病変では、視床下部のドパミン産生低下あるいは下垂体門脈から下垂体へのドパミンの輸送障害を介したPRL分泌抑制の減弱によってPRL分泌が亢進する。薬剤性では、ドパミンD2受容体受容体拮抗薬、ドパミン産生抑制作用のある降圧薬、ドパミン活性の抑制作用があるエストロゲンなどによりPRL分泌が亢進する(表3)。原発性甲状腺機能低下症では、甲状腺ホルモンの低下により視床下部のTRH産生が亢進し、TRHによるPRL分泌亢進が生じる。表3 高PRL血症を来す薬剤画像を拡大する3 治療下垂体性PRL分泌亢進症の治療は、ドパミン作動薬による薬物療法が第1選択であり、PRL値の低下効果および腫瘍縮小効果が期待される3)。具体的には、カベルゴリン、ブロモクリプチン、テルグリドを使用する。カベルゴリンまたはブロモクリプチンを用いる。カベルゴリンの場合、週1回就寝前、0.25mg/回より開始し、PRL値により漸増する(上限は1mg/回)。ブロモクリプチンの場合、2.5mg/回、夕食後より開始しPRL値により5~7.5mg/日、分2~3に漸増する4)。注意すべき点としてドパミン作動薬には、嘔気、嘔吐、起立性低血圧に加え、病的賭博、病的性欲亢進、強迫性購買、暴食などを呈する衝動制御障害が報告されており、本障害を認めた場合、ドパミン作動薬の減量または投与中止を考慮する必要がある4)。また、患者および家族などに上記衝動制御障害の可能性について説明しておく。カベルゴリンを高用量で長期間投与する場合(週2.5mgを超える場合)には、心臓弁膜症の発生に注意する必要があり、心エコーで評価を行う。ドパミン作動薬は胎盤を通過するため、妊娠判明時に薬物療法を中止することが勧められる。薬物療法中止により腫瘍が増大する可能性があるため、妊娠前に腫瘍縮小、規則的月経発来まで薬物治療を行う。薬物療法に抵抗性の場合や副作用で服薬できない場合は、外科的治療を選択する。外科治療後には髄液鼻漏(髄膜炎)を来す可能性があることに注意する。4 今後の展望薬物治療が第1選択である本症において、薬物治療を終了する基準を明らかにすることが重要である。2011年に発表された米国内分泌学会のガイドラインでは、「最低2年間ドパミン作動薬にて治療され、血中PRLの上昇がなく、頭部MRI所見で上腫瘍残存を認めない場合、注意深い臨床的、生化学的な経過観察の下で、ドパミン作動薬の減量、中止ができる可能性がある」と記されている5)。しかしながら、ドパミン作動薬を中止すると血中PRL の再上昇を認める場合も多い。わが国の診療ガイドラインでは、「薬物療法の最少量で血中PRL値が正常に維持され、画像上腫瘍が認められなくなったミクロプロラクチノーマ(微小PRL産生腫瘍)の場合、薬物療法の中止を提案する。【推奨の強さ:弱(合意率100%)、エビデンスレベル:C】」4となっており、今後のエビンデンスの構築が期待される。5 主たる診療科内分泌内科、脳神経外科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 下垂体性PRL分泌亢進症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)間脳下垂体機能障害に関する調査研究(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)難病情報センター 下垂体性PRL分泌亢進症2)横山徹爾. 下垂体疾患診療マニュアル 改訂第3版. 診断と治療社;2021.p.96-100.3)日本内分泌学会・日本糖尿病学会 編集. 内分泌代謝・糖尿病内科領域専門医研修ガイドブック. 診断と治療社;2023.p.5-30.4)間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン作成委員会、「間脳下垂体機能障害に関する調査研究」班、日本内分泌学会 編. 間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン2023年版. 日内分泌会誌. 2023;99:1-171.5)Melmed S, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2011;96:273-288.公開履歴初回2024年9月26日

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第231回 入院料通則に入ったACP、「人生会議」のネーミングもそろそろ変えどきか?地域包括ケアシステム・セミナーを覗いて考えた(前編)

病院再編の時代から、在宅医療・かかりつけ医・介護との連携の時代へこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。秋になって、政治の世界も野球の世界も、決戦の時を迎えようとしています。野球では、日本のプロ野球もMLBもシーズン終盤に差し掛かり、順位争いが熾烈になってきました。9月24日(日本時間)現在本塁打53、盗塁55を達成した大谷 翔平選手が属するロサンゼルス・ドジャースは、25日からナショナルリーグ西地区の首位を争う、サンディエゴ・パドレスとの3連戦です。先発、中継ぎ、抑えの投手陣全体がズタボロのドジャースが、今年のポストシーズンでどこまで駒を進めることができるのか、それを占う上でもパドレス戦の勝敗(とくに投手の出来)はとても重要です。できることなら2勝1敗でいきたいところですが……。さて、今回は9月2日に東京で開かれた「第10回 地域包括ケアシステム特別オープンセミナー」(医療経済研究機構主催)を覗いてきましたので、その内容を簡単に報告したいと思います。「地域包括ケアシステム」と言えば、かつては介護の世界で使われる言葉でしたが、最近では医療の世界でも普通に使われる言葉となりました。オープニングで、地域包括ケアシステムの育ての親とも言える田中 滋氏(埼玉県立大学理事長)が、医療の世界は「病院再編に重点が置かれた時代から、在宅医療・かかりつけ医・介護との連携重視」へと時代が移りつつあると指摘されたのは、まさに至言だと感じました。「地域包括ケアを支える上でACPは非常に大事」と仲井 培雄氏第10回となった同セミナーのテーマは「尊厳ある”在宅での看取り”とは」でした。基調講演の田中氏に続いて、武田 俊彦氏(日本在宅ケアアライアンス 副理事長)、花戸 貴司氏(東近江市 永源寺診療所 所長)、仲井 培雄氏(医療法人社団和楽仁 芳珠記念病院理事長/地域包括ケア推進病棟協会 会長)、高砂 裕子氏(全国訪問看護事業協会 副会長)、柴田 久美子氏(日本看取り士会 会長)がそれぞれレクチャーし、その後パネルディスカションとなったのですが、私が印象的だったのは仲井氏のACPに関する発言です。地域包括ケア推進病棟協会(2024年6月までは地域包括ケア病棟協会)の会長を務め、2014年の診療報酬改定で新設された地域包括ケア病棟の発展に努めてきた仲井氏は、レクチャー、そしてその後のディスカッションにおいて、「地域包括ケアを支える上でACPは非常に大事」と話し、テーマである「尊厳ある”在宅での看取り”」だけでなく、地域包括ケア定着のためにも今後ACPが地域で広がっていくことが重要である、と幾度も強調していました。「人生会議」という珍妙なネーミング、国民には浸透せずACP(Advance Care Planning)は、将来意思決定能力を失った場合に備えた、患者さん本人によるあらゆる計画のことです。話し合う内容は、将来受けたい、あるいは受けたくない医療・ケア、希望する生活や看取りの場所など、さまざまです。医療機関のスタッフだけでなく、地域の訪問看護や介護サービスのスタッフと連携を取りながらACPを進めることが求められています。日本では、2018年3月に厚生労働省が「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」の改訂版を公表、この中にACPの概念が盛り込まれました。ACPのゴールは一般的に「その人が重篤な慢性疾患に罹患したときに、その人の価値観、目標や治療選好に一致した医療が受けられることが確実になるようにサポートすること」とされています。2018年11月には、厚生労働省の公募によって、 ACPの愛称が「人生会議」と決まり、一般に向けた普及・啓発活動もスタートしました。この「人生会議」という珍妙なネーミングは、巨額の広報予算を使ったにもかかわらずほとんど国民には浸透していませんが、ACPの取り組み自体は医療現場で徐々に広がっています。「入院料の通則」見直しでACPに関する指針の作成が必要な医療機関の対象拡大前回、2020年の診療報酬改定では、ACPの取り組み(適切な意思決定支援に係る指針を定めていること)がすべての地域包括ケア病棟の施設基準盛り込まれました(それまでは一部の同病棟)。そして、今年の診療報酬改定では、「入院料の通則」が見直され、「人生の最終段階における適切な意思決定支援の推進」のため、ACPに関する指針の作成が必要な医療機関の対象が拡大、小児や思春期精神科病棟など特定の病棟以外のすべて入院に求められることになりました。「入院料の通則」は入院基本料を算定するための基本的なルールです。実施しなければ、入院料の算定そのものが認められません。なお、この指針作成については、在宅療養支援診療所・病院をはじめとする「看取り」に関わる「かかりつけ医機能」を有する医療機関にも求められることになりました。厚生労働省が作った「人生会議」という言葉はダサすぎてわかりづらい地域包括ケア病棟での地道な実践などが認められるかたちで、ACPは小児以外のほぼ全病棟においてもその取り組みが必須となったわけです。しかし、実際には「指針」を作成するだけで、本当に患者に寄り添ったかたちでACPが医療・介護の現場で行われているかどうかは甚だ疑問です。とはいうものの、地域包括ケアの合言葉とも言える「ときどき入院、ほぼ在宅」を実践し、患者が望まない過剰な医療を提供せず、尊厳ある死を迎えてもらうためにも、ACPの普及・定着は必要でしょう。そのためには、医療機関側からの働きかけのみならず、患者や家族側からのアクション、ACPの要望を伝えることも必要だと思います。そう考えると、厚生労働省が作った「人生会議」という言葉はダサすぎてわかりづらく、普及・定着を逆に妨げているのではないでしょうか。なんならそのまま「ACP」でもいいので、今一度そのネーミングを考え直すべきだと思いますが、皆さんいかがでしょう。ところで、この地域包括ケアシステム特別オープンセミナーでは、もう一人、とても興味深い発言をした人がいました。武田 俊彦氏です。この日は、日本在宅ケアアライアンス副理事長という肩書での出席でしたが、これからの病院と診療所の役割について言及した発言は、元厚生労働省医政局長ということを踏まえると、なかなかに重いものでした。(この稿続く)

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