2005.
左室機能低下を伴う中等度ASの予後は!?今回は、今後の心構造疾患(SHD)interventionの適応を考えるうえでとても重要な中等度大動脈弁狭窄症(AS)の予後に関係する論文を紹介します。1)これまで重症大動脈弁狭窄症(AS)については自然経過が不良であることから2)、症候性の症例に対しては積極的に弁置換術が推奨されてきました3,4)。しかしながら中等度ASについては、その自然経過が明らかでなく、治療指針も明確には確立されていません。2014年に発表されたAHA/ACCガイドラインでも中等度ASについては他の心臓手術を行う際に同時手術を施行することがClass IIaの推奨となっている4)のみで、中等度AS単独への積極的な治療は推奨されていません。Gilsらによって行われた本研究1)では、米国、カナダ、オランダの4施設から得た、左室機能低下(LVEF<50%)を合併した中等度AS(AVA:1.0~1.5cm2)の305症例の予後を、レトロスペクティブに調査しています。登録された305例の平均年齢は73歳、75%が男性で、7割以上の症例が症候性(NYHA心機能分類II以上)の心不全を有し、平均のLVEFは38%でした。4年の観察期間中に主要複合エンドポイント[全死亡・AVR(SAVRおよびTAVI)・心不全による入院の複合]は61%(全死亡は36%)に発生し、その約4割は観察開始から1年以内に発生していました(図1)。主要複合エンドポイントの主な予測因子としては男性、NYHA心機能分類III/IV、最大大動脈弁血流速度などが示されました。(登録時のLVEFは予後とは関連していませんでした。)画像を拡大する図1. 主要複合エンドポイント[全死亡・AVR(SAVRおよびTAVI)・心不全による入院の複合]の発生率本研究によって左室機能低下を合併した中等度ASの予後が明らかになり、予測された結果ではありますが、心不全症状の程度が予後と大きく関連すること(図2)が示されました。画像を拡大する図2. NYHA心機能分類ごとの主要複合エンドポイント発生率今回の対象ではAVR(SAVRおよびTAVI)は24%の症例に施行されていました。本研究から、中等度ASに対するAVRの有効性について結論を出すことはできません。ただ、従来は外科的治療(SAVR)しか存在しなかったASの治療においてTAVIがより安全で低侵襲に、そして十分な有効性をもって行えるようになり、急速に浸透していることを考えれば、中等度のASで左室機能が低下し、心不全症状も合併しているような症例にはより積極的な早期の治療介入(TAVIあるいはSAVR)が患者さんの予後改善につながるのではと期待されます。現在、左室機能低下および心不全を合併した中等度ASに対して至適薬物治療に加えてTAVIを行う群と至適薬物治療群の予後を比較した無作為化比較試験であるTAVR UNLOAD試験(NCT02661451)5)が進行中であり、この結果次第ではさらなるTAVIの適応拡大につながる可能性があります。TAVIに代表される、弁膜症などのSHDに対する低侵襲なカテーテル治療は、これまで有効な治療法が確立されていなかった多くの患者さんの福音になる可能性をまだまだ残しています。今回取り上げた研究のように、対象を明確にして自然予後や予測因子を示すことによって、これまで有効な治療が行われてこなかった可能性のある患者層を明確にすることができます。このような研究を通して、個々の患者さんごとにSHD interventionなどの新規治療を含めた最適な治療方針を見いだしていくことが、これからの循環器学に求められる点だと考えます。1)van Gils L, et al. J Am Coll Cardiol. 2017;69:2383-2392.2)Ross J Jr, et al. Circulation. 1968;38:61-67.3)Vahanian A, et al. Eur Heart J. 2012;33:2451-2496.4)Nishimura RA, et al. J Am Coll Cardiol. 2014;63:2438-2488.5)Spitzer E, et al. Am Heart J. 2016;182:80-88.