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わが国初のエムポックス治療薬「テポックスカプセル200mg」【最新!DI情報】第36回

わが国初のエムポックス治療薬「テポックスカプセル200mg」今回は、テコビリマト水和物「テコビリマト水和物(商品名:テポックスカプセル200mg、製造販売元:日本バイオテクノファーマ)」を紹介します。本剤は、エムポックスも適応とするわが国初の抗ウイルス薬で、公衆衛生上の危機に瀕した際の治療薬として期待されています。<効能・効果>痘そう、エムポックス、牛痘、痘そうワクチン接種後のワクチニアウイルスの増殖による合併症の適応で、2024年12月27日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>通常、成人および小児には、以下の用法および用量で14日間、食後に経口投与します。体重13kg以上25kg未満:テコビリマトとして200mgを1日2回12時間ごと体重25kg以上40kg未満:テコビリマトとして400mgを1日2回12時間ごと体重40kg以上120kg未満:テコビリマトとして600mgを1日2回12時間ごと体重120kg以上:テコビリマトとして600mgを1日3回8時間ごと <安全性>副作用として、頭痛(10%以上)、浮動性めまい、上腹部痛、腹部不快感、下痢、悪心、嘔吐(1%以上)、ヘマトクリット減少、ヘモグロビン減少、白血球減少症、血小板減少症、食欲減退、肝機能検査値上昇、不安、うつ病、不快気分、易刺激性、パニック発作、注意力障害、味覚不全、脳波異常、不眠症、片頭痛、傾眠、錯感覚、心拍数増加、動悸、口腔咽頭痛、腹部膨満、アフタ性潰瘍、口唇のひび割れ、便秘、口内乾燥、消化不良、おくび、鼓腸、胃食道逆流性疾患、排便回数減少、口の錯感覚、触知可能紫斑病、全身性そう痒症、発疹、そう痒性皮疹、関節痛、変形性関節症、悪寒、疲労、びくびく感、倦怠感、疼痛、発熱、口渇(いずれも1%未満)があります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、天然痘、エムポックス、牛痘に対して使用されます。2.この薬は、痘そうワクチン接種後のワクチニアウイルスの増殖による合併症に使用されます。3.この薬は、症状が発現した後、速やかに使用します。<ここがポイント!>エムポックスは、1970年にザイール(現:コンゴ民主共和国)で初めてヒトへの感染が確認されたオルソポックスウイルス属のエムポックスウイルスによる感染症です。以前は「サル痘」と呼ばれていましたが、2023年に感染症法上の名称がエムポックスに変更されました。エムポックスウイルスには、コンゴ盆地型(クレードI)と西アフリカ型(クレードII)の2系統があります。クレードIはクレードIIに比べて死亡率が高く、それぞれ10%程度および1%程度の致死率が報告されています。最近では、アフリカを中心にクレードIの蔓延があり、WHOは2024年8月に国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態を宣言しました。日本国内では、2022年に国内1例目の患者が報告されて以降、2025年3月までに合計252例が報告されています。天然痘(痘そう)は、1980年5月にWHOによって世界根絶が宣言され、日本でも定期種痘が中止されています。そのため、多くの人々が天然痘に対して免疫を持っておらず、今後、生物テロなどによる天然痘ウイルスの再出現によるアウトブレイクが発生した場合には、その対策が重要な課題となる可能性があります。テコビリマトはオルソポックスウイルス属のエンベロープの形成および細胞外への放出に関与するVP37タンパク質と宿主細胞の輸送タンパク質(Rab9 GTPaseおよびTIP47)との相互作用を阻害することにより、感染細胞からのウイルス放出を阻害します。本剤は、痘そう、エムポックス、牛痘、痘そうワクチン接種後のワクチニアウイルスの増殖による合併症に対するヒトでの有効性を評価する試験は行われていませんが、非臨床試験において抗ウイルス作用が示されたことから、主に公衆衛生上の危機に瀕した際、または危機に瀕する見込みがある際に使用される薬剤として承認されました。なお、本剤は、欧州などでの承認申請において提出した資料に基づき、審査および調査を迅速に進めるよう厚生労働省より依頼があったものです。また、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の「新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業」の支援を受けて開発されました。

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高齢者のために開発された抗原量4倍のインフルワクチン「エフルエルダ筋注」【最新!DI情報】第35回

高齢者のために開発された抗原量4倍のインフルワクチン「エフルエルダ筋注」今回は、「高用量4価インフルエンザHAワクチン(商品名:エフルエルダ筋注、製造販売元:サノフィ)」を紹介します。本剤は、国内初の高用量4価インフルエンザHAワクチンであり、60歳以上の成人におけるインフルエンザの新たな予防選択肢として期待されています。<効能・効果>インフルエンザの予防の適応で、2024年12月27日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>60歳以上の人に1回、0.7mLを筋肉内接種します。なお、医師が必要と認めた場合には、他のワクチンと同時に接種することができます。<安全性>重大な副反応として、ショック、アナフィラキシー、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)、脳炎・脳症、脊髄炎、視神経炎、ギラン・バレー症候群、けいれん(熱性けいれんを含む)、肝機能障害、黄疸、喘息発作、血小板減少性紫斑病、血小板減少、血管炎(IgA血管炎、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、白血球破砕性血管炎など)、間質性肺炎、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)、急性汎発性発疹性膿疱症、ネフローゼ症候群(いずれも頻度不明)があります。その他の副反応は、疼痛(43.8%)、頭痛、筋肉痛、倦怠感(いずれも10%以上)、紅斑、腫脹、硬結、内出血、そう痒感(注射部位そう痒感、ワクチン接種部位そう痒感)、下痢、嘔吐、咳嗽、口腔咽頭痛、鼻炎、上咽頭炎、悪寒、発熱、疲労(いずれも0.1~10%未満)などがあります。<患者さんへの指導例>1.このワクチンは、60歳以上の人に対してインフルエンザの予防目的で接種されます。2.このワクチンの接種により、インフルエンザウイルスに対する抗体ができてかかりにくくなります。3.接種後一定時間は体調に変化がないか様子をみるため、背もたれや肘かけのある椅子など、体重を預けられるような場所で座るなどして待っていてください。4.待っている間は、なるべく立ち上がることを避け、座っていてください。5.接種当日は激しい運動を避け、接種部位を清潔に保ってください。<ここがポイント!>インフルエンザは、インフルエンザウイルスにより引き起こされる感染力の強い急性ウイルス性疾患です。流行するインフルエンザウイルスには、A型(H1N1亜型およびH3N2亜型)とB型(山形系統およびビクトリア系統)の4種類があります。インフルエンザは、すべての年齢層で感染して発症しますが、とくに65歳以上の高齢者が罹患すると、重症化するリスクが高くなり、死亡に至ることがあります。インフルエンザの発症や重症化の予防にはワクチン接種が効果的です。通常、4価インフルエンザHAワクチン(各インフルエンザウイルス株につき15μg)が接種されますが、高齢者では若年成人と比較して免疫応答が不十分なことがあります。エフルエルダ筋注は、60歳以上の高齢者に対する予防効果を高めるために、1株当たりの抗原量を60μgに増量した国内初の高用量4価インフルエンザHAワクチンです。65歳以上の成人を対象とした海外第III/IV相試験(FIM12試験)におけるインフルエンザ発症率について、高用量ワクチン群の標準用量ワクチン群に対する相対的有効性は24.24%であり、高用量ワクチンの優越性が検証されました。また、60歳以上の日本人健康成人を対象とした国内第III相試験において、赤血球凝集抑制(HAI)幾何平均抗体価(GMT)比およびHAI抗体陽転率から、標準用量4価インフルエンザHAワクチンに対する優越性が検証されました。

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添付文書改訂:SGLT2阻害薬にケトアシドーシス注意喚起/レキサルティにアルツハイマー型認知症に伴う焦燥感など追加【最新!DI情報】第30回

SGLT2阻害薬<対象薬剤>選択的SGLT2阻害薬(商品名:スーグラ錠、ジャディアンス錠、カナグル錠/OD錠、フォシーガ錠、デベルザ錠、ルセフィ錠/ODフィルム)<改訂年月>2024年12月<改訂項目>[追加]重要な基本的注意本剤を含むSGLT2阻害薬の投与中止後、血漿中半減期から予想されるより長く尿中グルコース排泄およびケトアシドーシスが持続した症例が報告されているため、必要に応じて尿糖を測定するなど観察を十分に行うこと。<ここがポイント!>SGLT2阻害薬全般において、重要な基本的注意に「投与中止後の尿中グルコース排泄およびケトアシドーシスの遷延に関する注意喚起」が追記されました。国内において、投与中止後の尿中グルコース排泄およびケトアシドーシスの遷延に関連する症例が集積されています※。改訂前にも、SGLT2阻害薬の使用上の注意としてケトアシドーシスに関連する注意喚起がなされていましたが、遷延に関する事象は予測できないことから、今回追記が行われました。※投与中止後3日以上遷延するケトアシドーシスとして承認取得者ごとの基準により抽出された症例レキサルティ錠<対象薬剤>ブレクスピプラゾール(商品名:レキサルティ錠1mg/2mg、OD錠0.5mg/1mg/2mg、製造販売元:大塚製薬)<改訂年月>2024年9月<改訂項目>[追加]効能・効果アルツハイマー型認知症に伴う焦燥感、易刺激性、興奮に起因する、過活動又は攻撃的言動[追加]用法・用量通常、成人にはブレクスピプラゾールとして1日1回0.5mgから投与を開始した後、1週間以上の間隔をあけて増量し、1日1回1mgを経口投与する。なお、忍容性に問題がなく、十分な効果が認められない場合に限り、1日1回2mgに増量することができるが、増量は1週間以上の間隔をあけて行うこと。[追加]効能・効果に関連する注意高齢認知症患者への抗精神病薬投与により死亡リスクが増加するとの海外報告がある。また、本剤の国内プラセボ対照試験において、治験薬投与との関連性は明らかではないが死亡例が本剤群のみで報告されている。本剤の投与にあたっては上記リスクを十分に考慮し、臨床試験における有効性及び安全性の結果等を熟知した上で、慎重に患者を選択すること。また、本剤投与中は患者の状態を注意深く観察すること。<ここがポイント!>本剤は2018年1月に「総合失調症」の効能で製造販売承認を取得し、2023年12月には「うつ病・うつ状態(既存治療で十分な効果が認められない場合に限る)」の効能が追加されました。さらに、2024年9月には「アルツハイマー型認知症に伴う焦燥感、易刺激性、興奮に起因する、過活動または攻撃的言動」の効能も国内において初めて追加されました。アルツハイマー型認知症の約半数の患者に過活動や攻撃的言動が認められ、これにより家族・介護者の負担が増大し、生活の質が低下します。本適応の追加により、アルツハイマー型認知症の患者と介護者の双方にとって、重要な転換点となることが期待されます。ヌーカラ皮下注<対象薬剤>メポリズマブ(遺伝子組換え)製剤(商品名:ヌーカラ皮下注100mgペン/シリンジ、製造販売元:グラクソ・スミスクライン)<改訂年月>2024年8月<改訂項目>[追加]効能・効果鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎(既存治療で効果不十分な患者に限る)[追加]用法・用量通常、成人にはメポリズマブ(遺伝子組換え)として1回100mgを4週間ごとに皮下に注射する。[追加]効能・効果に関連する注意本剤は全身性ステロイド薬、手術等ではコントロールが不十分な患者に用いること。<ここがポイント!>100mgペンおよび100mgシリンジの適応症は、これまで「気管支喘息(既存治療によっても喘息症状をコントロールできない難治の患者に限る)」および「既存治療で効果不十分な好酸球性多発血管炎性肉芽腫症」でしたが、2024年8月に「鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎(既存治療で効果不十分な患者に限る)」※が追加されました。鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎の患者では、鼻閉や嗅覚消失、顔面圧迫、睡眠障害、鼻汁などの症状がみられ、身体的・精神的負担が大きい疾患です。治療はステロイド薬や内視鏡下副鼻腔手術などが行われていますが、再発が多く、長期間のコントロールも困難です。本剤の適応追加によって、手術や全身ステロイドに代わる新たな治療選択肢が増えました。※最適使用推進ガイドライン対象レボレード錠<対象薬剤>エルトロンボパグ オラミン(商品名:レボレード錠12.5mg/25mg、製造販売元:ノバルティスファーマ)<改訂年月>2024年11月<改訂項目>[追加]用法・用量(小児患者に対する追加)<慢性特発性血小板減少性紫斑病>通常、成人及び1歳以上の小児には、エルトロンボパグとして初回投与量12.5mgを1日1回、食事の前後2時間を避けて空腹時に経口投与する。なお、血小板数、症状に応じて適宜増減する。また、1日最大投与量は50mgとする。[追加]効能・効果に関連する注意診療ガイドライン等の最新の情報を参考に、本剤の投与が適切と判断される患者に使用すること。<ここがポイント!>慢性特発性血小板減少性紫斑病(ITP)の小児患者は多くが自然寛解しますが、重症化すると脳出血などの重篤かつ致死的な出血症状を引き起こすことがあります。本剤は海外では1歳以上の患者に使用が承認されていましたが、国内では成人のみに使用できる状況でした。しかし、国内の診療ガイドラインでは、副腎皮質ステロイド治療などに効果が不十分な小児患者の2次治療として本剤が推奨されています。このため、日本小児血液・がん学会から要望書が提出され、小児患者(1歳以上)に対する用法・用量の追加の公知申請※が行われました。この効能追加によって、ガイドラインで推奨される治療を添付文書上の適応症に沿って実施できるようになりました。※公知申請:医薬品(効能追加など)の承認申請において、その有効性や安全性が医学的に公知であるとして、臨床試験の全部または一部を新たに実施することなく承認申請を行うことができる制度

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となりのデキる奴を徹底的にパクれ! 成功の近道は『TTP』にあり【医師のためのお金の話】第82回

TTPをご存じでしょうか? 医師であれば、TTPと来れば血栓性血小板減少性紫斑病を思い浮かべることでしょう。ただ、今回取り上げたかったのは血液疾患のTTPではなく、実社会で使用されているTTPです。一般的にTTPとは「徹底的にパクる」という意味のビジネススラングです。具体的には、優秀な企業が成功している点を徹底的に模倣して、自分たちに取り込んでしまう手法です。TTPは結果を出しやすいため、中小企業だけではなく大企業でも普通に実践されています。そして、偉大な先人の知恵から学ぶTTPは、ビジネスの専売特許ではありません。TTPの考え方や手法は、資産形成でも非常に有効だと思います。実を言うと、私の資産形成手法の多くは、知人の方法を徹底的に模倣したものです。まさにTTPの申し子…。そんなことを言っても、実際どのようにして他人のノウハウをパクったらいいのかわからない人が多いと思います。今回は、私が経験したことをベースにして、資産形成でTTPを利用する手法を考えてみたいと思います。TTPが有用な理由TTP(徹底的にパクる)という手法は、成功している会社のビジネスモデルや戦略を徹底的に分析することから始まります。そして、成功している理由を抽出して、自社に応用することで成功率を高めます。ここでポイントになるのは、中途半端に模倣するだけではダメな点です。とりあえず全部マネして取り組んだうえで、結果が出た段階で少しずつ自分たちにアレンジするステップを踏みます。「徹底的にパクる」ことが大事なのです。他人がすでに成功している手法なので、徹底的にパクることで成功率が上がります。TTPしているにもかかわらず成果が出ないときには、徹底的にパクれていない可能性を考えましょう。何が本当の成功要因なのかは、成功してみなければわからないからです。いまでもウハウハの人はいるの!? 不動産投資のTTP最近では不動産価格が高騰したため、2010年代半ばぐらいまでのように誰もが不動産投資で成功できる状況ではありません。一方、私の身近には、いまでも不動産投資でウハウハの人が一定数存在しています。たとえば、市街化調整区域と市街化区域の価格差を利用したアービトラージ戦略を実践している人です。市街化調整区域とは、市街化を抑制する地域で、原則的に住宅や商業施設の建築を認められていません。極端に利用が制限されているので、土地価格はとても安いです。一方、市街化調整区域の中には、住宅や商業施設を自由に建築できる市街化区域に変更されるケースがあります。別にインサイダーでなくても、市役所や区役所に行けば誰でもその情報にアクセスできます。しかし、ほとんどの人はそんなメンドーなことはしません。ところが多少の苦労を厭わない人は、足繁く役所に通って市街化区域に変更される予定の市街化調整区域を割り出します。そして格安価格で土地を購入して、市街化区域になった暁には高値で売却するのです。私の知人は、この手法を初めて実践した人ではありませんでした。しかし、同じエリアで儲けている不動産投資家をじっくり観察して、徹底的にパクったそうです。身近にいるデキる奴を徹底的にパクることの有用性が分かる一例ですね。著書になったらもう遅い!?徹底的にパクる『TTP』が有用であることはわかりましたが、それなら著書に書いていることをパクる方が簡単だと思う人がいるかもしれません。しかし残念ながら、著書に書いていることを徹底的にパクっても効果は限定的と言わざるを得ません。その理由は、著書にノウハウが書かれて世の中に公開された時点で、すでに効果が賞味期限になっていることが多いからです。このため、徹底的にパクッて成果を出したいのであれば、あまり知られていない身近な成功者を模倣するのがベストなのです。そもそも著書にしてノウハウを公開する目的は慈善事業ではありません。多くの場合、ノウハウを隠しておくよりも、名前を売ってマネタイズする方が得だという判断がはたらいています。つまり、著書になった段階で、そのノウハウは賞味期限になっているのです。卑近な例で恐縮ですが、私は2024年5月に日経BP社から実名で著書を出版しました。わざわざ著書でノウハウを開示した理由は、もちろん慈善事業ではありません。同業他社が絶対に追いつけないレベルまで、自社のブランディングを強力に推し進めるためです。このようにTTPが効力を発揮するのは、著書が出版されていない段階です。私がTTPした事例には、2003年の不動産投資、2014年の太陽光発電、2015年のインバウンド(民泊や簡易宿所)があります。いずれも身近にいるデキる奴を徹底的にパクって収益化しました。そんなことを言っても、身近にデキる奴なんかいないよという声が聞こえてきそうですね。でも本当にそうでしょうか? 各大学に数名は「変な奴」がいるはずです。その中で成功している人をTTPのターゲットにしてみてはいかがでしょうか。

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先天性TTP、ADAMTS13の予防的投与で症状発現を抑制/NEJM

 先天性血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)患者では、遺伝子組み換えADAMTS13の予防的投与後のADAMTS13活性が正常値である101%を達成し、有害事象の大部分は軽度~中等度で、TTPイベントや症状の発現はまれであることが、英国・ロンドン大学病院のMarie Scully氏らの検討で示された。研究の成果は、NEJM誌2024年5月2日号に掲載された。第III相無作為化2期クロスオーバー試験の中間解析 本研究は、欧州連合(EU)、米国、英国、日本の34施設で実施した第III相非盲検無作為化2期クロスオーバー試験であり、今回の中間解析では、2017年10月~2022年8月に登録した患者の結果が報告された(Takeda Development Center AmericasとBaxalta Innovationsの助成を受けた)。 年齢0~70歳で、分子遺伝学的検査で先天性TTPと確定し、ADAMTS13活性が10%未満の患者を対象とした。スクリーニング時に急性TTPイベントを認めなかった患者を予防コホート、急性TTPイベントを認めた患者をオンデマンドコホートとした。 被験者を、1期目として6ヵ月間、遺伝子組み換えADAMTS13(40 IU/kg体重、静脈内投与)の予防的投与を行う群、または標準治療(血漿由来製剤)の予防的投与を行う群に、1対1の割合で無作為に割り付け、引き続き2期目の6ヵ月間はこれらの治療を入れ替えた。その後、6ヵ月間、全例にADAMTS13を投与した。 主要アウトカムは急性TTPイベントであった。急性TTPイベントが発生した患者はオンデマンド治療を受けられることとした。最も頻度の高いTTP症状は血小板減少症 48例(年齢中央値33歳[範囲:3~68]、女性28例[58%])を無作為化の対象とした。ADAMTS13投与期間後に標準治療を受けた患者が21例、標準治療期間後にADAMTS13投与を受けた患者が27例だった。中間解析時に、32例が試験を完了しており、14例が継続中で、2例は中止した。 急性TTPイベントは、ADAMTS13の予防的投与期間中には発生しなかったのに対し、標準治療の予防的投与期間中には1例で発生した(年間イベント発生率の平均値0.05、95%信頼区間[CI]:0.00~0.14)。 最も頻度の高いTTPの症状は血小板減少症で、1期と2期を通じた年間イベント発生率はADAMTS13群が0.74、標準治療群は1.73であった(推定比:0.4、95%CI:0.3~0.7)。また、乳酸脱水素酵素(LDH)値の上昇(平均年間イベント発生率:ADAMTS13群0.26 vs.標準治療群0.74、推定比:0.4[95%CI:0.1~1.1])、神経症状(0.18 vs.0.29、0.6[0.3~1.2])、腹痛(0.11 vs.0.17、0.6[0.2~2.3])も、標準治療群に比べADAMTS13群で低い傾向を認めた。有害事象は重度7%、試験薬関連9%、中和抗体の発現はない 有害事象は、ADAMTS13投与中に71%、標準治療中に84%で発現した。大部分の有害事象の重症度は軽度~中等度で、重度の有害事象はADAMTS13投与中に7%、標準治療中に14%で発現した。ADAMTS13投与中に頻度が高かった有害事象は、頭痛、片頭痛、上咽頭炎、下痢であった。 担当医が試験薬関連と判定した有害事象は、ADAMTS13投与中に9%、標準治療中に48%で認めた。有害事象による試験薬の中断または中止は、ADAMTS13投与中にはみられなかったが、標準治療中には8例で発生した。ADAMTS13投与中に中和抗体の発現はなかった。 治療後のADAMTS13の最大活性の平均値は、標準療法後が19%であったのに対し、ADAMTS13投与後は101%だった。 著者は、「これらの知見により、遺伝子組み換えADAMTS13は先天性TTP患者に対する有効な予防的治療法であることが示された」としている。

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米FDA、先天性血栓性血小板減少性紫斑病の治療薬Adzynmaを承認

 米食品医薬品局(FDA)は11月9日、先天性血栓性血小板減少性紫斑病(congenital thrombotic thrombocytopenic purpura;cTTP)の成人および小児患者における予防的酵素補充療法(enzyme replacement therapy;ERT)またはオンデマンドのERTを適応とした初の遺伝子組換えADAMTS13タンパク質としてAdzynma(遺伝子組換えADAMTS13-krhn)を承認した。 cTTPは非常にまれな遺伝性の血液凝固障害で、米国での罹患者数は1,000人に満たないと推定されている。cTTPでは、ADAMTS13遺伝子の変異により血液凝固を制御する酵素(ADAMTS13)の活性が著しく低下もしくは失活し、これにより全身の微小血管に血栓が生じる。cTTPの症状は重度の出血、脳卒中、主要な臓器へのダメージなどで、未治療のまま放置すると致死的となり得る。cTTPの治療では通常、ADAMTS13の不足を補うために新鮮凍結血漿を輸注して発症を予防する予防的血漿療法が行われる。 Adzynmaは、症状を予防するためのERTの場合には2週間に1回、急性イベントが生じている患者に対するオンデマンドERTの場合には1日1回投与される。 Adzynmaの安全性と有効性は、cTTP患者46人を対象にしたランダム化非盲検クロスオーバー第3相試験において示された。対象者は、6カ月にわたってAdzynmaまたは血漿療法による治療を受ける群にランダムに割り付けられ(期間1)、その後の6カ月(7〜12カ月目、期間2)は期間1とは逆の治療を受け、その後、35人が6カ月にわたってAdzynmaによる治療を受けた(期間3)。その結果、TTPイベントとTTP症状の発生率、および追加投与の頻度に基づいてAdzynmaの予防的ERTにおける有効性が確認された。一方、オンデマンドERTにおけるAdzynmaの有効性は、研究期間中に予防的ERTおよびオンデマンドERTを受けたコホート全体に生じた急性および亜急性のTTPイベント発生率に基づいて評価された。その結果、全ての急性および亜急性TTPイベントは、Adzynmaまたは血漿ベースの治療によって治癒したことが確認された。 Adzynma投与により生じた主な副作用は、頭痛、下痢、片頭痛、腹痛、吐き気、上気道感染、めまい、嘔吐などである。試験期間中に、Adzynma投与に伴うアレルギー反応などの有害事象は認められなかった。 FDA生物製品評価研究センター(CBER)長のPeter Marks氏は、「FDAは、希少疾患患者に対する安全で効果的な治療法の開発と承認を促進するために尽力し続けている。cTTPは治療せずにおくと死に至る病だ。今回の承認は、この命を脅かす疾患に罹患している患者が待ち望んでいた治療選択肢を提供したという点で、大いなる前進となるものだ」と述べている。 Adzynmaの承認は、武田薬品工業株式会社に対して付与された。

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エフガルチギモド、一次性免疫性血小板減少症に有効/Lancet

 一次性免疫性血小板減少症(特発性血小板減少性紫斑病)は後天性の自己免疫疾患で、血小板抗原を標的とする自己抗体がその一部を媒介しており、ほかの疾患との明確な関連のない孤立性血小板減少症(血小板数<100×109/L)を特徴とする。患者は、出血イベント(まれに生命を脅かす)や疲労を呈し、QOLの低下を招く場合もある。米国・ジョージタウン大学のCatherine M. Broome氏らは「ADVANCE IV試験」において、ファーストインクラスの抗胎児性Fc受容体(FcRn)抗体フラグメント製剤エフガルチギモドが、プラセボと比較して、本症の慢性期の患者における血小板数の持続的臨床効果について有意に優れ、忍容性も良好で有害事象の多くは軽度~中等度であることを示した。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2023年9月28日号に掲載された。アジア、欧米の71施設の無作為化プラセボ対照第III相試験 ADVANCE IV試験は、日本を含むアジア、欧州、北米の71施設が参加した24週間の二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2019年12月~2022年2月の期間に患者のスクリーニングを行った(argenxの助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、平均血小板数が30×109/L未満で、過去に少なくとも1回の免疫性血小板減少症の治療が奏効し、ベースラインで同時併用療法を受けているか、過去に少なくとも2回の免疫性血小板減少症の治療を受けている、慢性(罹患期間>12ヵ月)または持続性(同3~12ヵ月)の一次性免疫性血小板減少症の患者であった。 これらの患者を、エフガルチギモド(10mg/kg)またはプラセボを静脈内投与する群に2対1の割合で無作為に割り付けた。最初の4週間は週1回の投与を行い、その後は担当医の裁量で、週1回投与を継続するか、血小板数≧100×109/Lの場合は2週に1回の投与に変更することが可能であった。 主要エンドポイントは、慢性の免疫性血小板減少症の集団における血小板数の持続的臨床効果(直近6週間のうち少なくとも4週で血小板数が≧50×109/L)とした。 131例(年齢中央値47.0歳[四分位範囲[IQR]:18~85]、女性54%)を登録し、86例をエフガルチギモド群に、45例をプラセボ群に割り付けた。これらの患者は、平均罹患期間が10.6年で、67%(88/131例)が少なくとも3回の免疫性血小板減少症の治療歴のある長期罹患者であった。131例のうち慢性の患者は118例(エフガルチギモド群78例、プラセボ群40例)だった。慢性だけでなく、全体でも有効 主要エンドポイントを達成した慢性期の患者の割合は、プラセボ群が5%(2/40例)であったのに対し、エフガルチギモド群は22%(17/78例)と有意に高かった(補正後群間差:16%、95%信頼区間[CI]:2.6~26.4、p=0.032)。 24週の治療期間のうち病勢コントロール(血小板数≧50×109/L)を達成した週数の中央値は、プラセボ群が0.0週(IQR:0.0~1.0)であったのに比べ、エフガルチギモド群は2.0週(0.0~11.0)であり有意に優れた(p=0.0009)。 全131例における主要エンドポイントを達成した患者の割合も、エフガルチギモド群で優れた(26% vs.7%、補正後群間差:19%、95%CI:5.7~29.6、p=0.011)。 安全性解析は全131例で行った。エフガルチギモド群は忍容性も良好で、試験薬投与中に発現した有害事象(TEAE)の重症度は多くが軽度~中等度であった。重篤なTEAEは、エフガルチギモド群が8%、プラセボ群は16%で、治療関連TEAEはそれぞれ17%、22%で発現した。注目すべきTEAEのうち、両群で最も頻度が高かったのは、頭痛(エフガルチギモド群16%、プラセボ群13%)、血尿(16%、16%)、点状出血(15%、27%)であった。 著者は、「本研究の結果は、一次性免疫性血小板減少症の慢性期の患者であっても、本症の病態生理においてはIgGが重要であることを示しており、とくに治療困難な患者の治療選択肢としてのIgG低下療法の適用可能性についての理解を深めるものである」とし、「このデータは、胎児性FcRnのIgG recyclingの阻害による病原性IgG抗体の減少が、複数の治療によっても病勢がコントロールされていない一次性免疫性血小板減少症の患者の治療において有効なアプローチとなることを示唆する」と指摘している。

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ファイザーとモデルナ、高齢者により安全なワクチンはどっち?

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)mRNAワクチンの安全性と有効性は、モデルナ社製ワクチンでもファイザー社製ワクチンでも高いとされている。しかし、高齢者におけるワクチン接種後の有害事象の発生という点では、軍配はモデルナ社製ワクチンに上がるとする研究結果が報告された。米ブラウン大学公衆衛生大学院、老年学・ヘルスケア研究センターのDaniel Harris氏らが米国立老化研究所の資金提供を受けて実施した研究で、詳細は、「JAMA Network Open」に8月2日掲載された。 Harris氏は、「COVID-19にまつわる有害事象の発生リスクは、新型コロナウイルスに自然感染した場合の方が、mRNAワクチンを接種した場合よりもはるかに高い。しかし、世界人口の70%以上が何らかのCOVID-19ワクチンを接種した今となっては、ワクチンの供給についてさほど心配する必要はない」と説明する。そして、現時点で必要とされているのは、どのワクチンを接種するかを決める際の判断材料となる、ワクチンの安全性と有効性に関する詳細な情報だと強調する。 今回の研究でHarris氏らは、mRNAワクチンの1回目接種を終えた、66歳以上の出来高払い方式のメディケア受益者638万8,196人(平均年齢76.3歳、女性59.4%)を対象に、モデルナ社製ワクチンとファイザー社製ワクチン接種後の有害事象の発生について比較を行った。対象者の38.1%はプレフレイル(フレイル前段階)、6.0%はフレイルと判定されていた。また、339万704人がファイザー社製ワクチンを、299万7,492人がモデルナ社製ワクチンを接種していた。有害事象としては、深部静脈血栓症、肺塞栓症、血小板減少性紫斑病、ギラン・バレー症候群、急性心筋梗塞など12種類について検討した。 検討した12種類の有害事象の発生率は全て1%以下であり、最も高かったのは深部静脈血栓症の0.27%と肺塞栓症の0.23%であった。あらゆる因子を調整したモデルを用いた解析からは、モデルナ社製ワクチンの方が肺塞栓症リスクが4%低く、また、血栓塞栓症の複合(急性心筋梗塞、深部静脈血栓症、出血性脳卒中、非出血性脳卒中、肺塞栓症)のリスクも2%低いことが示された。モデルナ社製ワクチンはさらに、COVID-19と診断されるリスクがファイザー社製ワクチンよりも14%低かった。ただし、このようなリスク低下は、フレイルと判定された人では6%にとどまっていた。 Harris氏は、「この研究結果は、公衆衛生の専門家が、フレイルのある人も含めた高齢者にとって、どのmRNAワクチンが望ましいかを検討する上で役に立つ」と話す。同氏はまた、健康に慢性的な問題を抱えていることの多い高齢者は、臨床試験から除外されることが多いことを指摘し、「介護施設に入居している高齢者ではCOVID-19の重症化リスクが高いことを考えると、高齢者でのワクチンの安全性と有効性を調べることは極めて重要である」としている。 では、なぜモデルナ社製ワクチンの方が、わずかではあるが有害事象の発生リスクが低かったのか。Harris氏は、「安全性と有効性は相互に関連している。モデルナ社製ワクチンを接種した患者の方が、ファイザー社製ワクチンを接種した人よりも肺塞栓症やその他の有害事象のリスクがわずかに低かったのは、モデルナ社製ワクチンの方がCOVID-19罹患リスクを低減させる効果が高いことに起因する可能性がある」と話している。 ただし、この研究では、有害事象の発生リスクの違いが、安全性または有効性のどちらに起因するのかについて、結論付けることはできなかった。また、本研究で検討されたのはmRNAワクチンの初回投与後についてだけであり、研究グループは、さらなる研究が必要だとしている。

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TTP診療ガイド2023改訂のポイント~Minds方式の診療ガイドラインを視野に

「血液凝固異常症等に関する研究班」TTPグループの専門家によるコンセンサスとして2017年に作成され、2020年に部分改訂された、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)の診療ガイドライン、『血栓性血小板減少性紫斑病診療ガイド2023』が7月に公開された。2023年版では、Minds方式の診療ガイドラインを視野に、リツキシマブに対してclinical question(CQ)が設定され、エビデンスや推奨が掲載された。主な改訂ポイント・リツキシマブの推奨内容の追加・変更とCQの掲載・カプラシズマブが後天性TTP治療の第一選択に・抗血小板薬、FFP輸注に関する記述を追加・FrenchスコアとPLASMICスコアに関する記述を追加・増悪因子に関する記述を追加リツキシマブを後天性TTPの急性期、寛解期にも推奨 難治例を中心に広く使用されているリツキシマブであるが、2023年版では、後天性TTPの急性期に投与を考慮しても良い(保険適用外、推奨度2B)としている。ただし、とくに初回投与時のインフュージョンリアクションに注意が必要としている。また、難治例、早期再発例(推奨度1B)や寛解期(保険適用外)でのリツキシマブ使用についての記載も追加された。再発・難治例では、治療の効果と安全性が確認されており、国内で保険適用もあることから推奨するとし、後天性TTPの寛解期では、ADAMTS13活性が10%未満に著減した場合、再発予防にリツキシマブの投与を検討しても良いとした。リツキシマブの使用に関するCQを掲載 上述のとおり、2023年版ではリツキシマブの使用に関する記載が大幅に追加されたが、さらに巻末には、リツキシマブの急性期、難治例・早期再発例、寛解期における使用に関するCQも掲載されている。これらのCQに対するAnswerおよび解説を作成するに当たり、エビデンス収集のため、2022年1月7日時点で過去10年間にPubMedに登録されたTTPに関するリツキシマブの英語論文の精査が行われた。各CQに対する解説では、国際血栓止血学会TTPガイドライン2020などのガイドラインや臨床試験、システマティックレビュー、症例報告の有効性に関する報告を詳細に紹介したうえで、各CQに対し以下のAnswerを記載している。・後天性TTPの急性期に、リツキシマブ投与を考慮しても良い(推奨度2B)(保険適用外)・後天性TTPの再発・難治例にリツキシマブ投与を推奨する(推奨度1B)・後天性TTPの寛解期にADAMTS13活性が10%未満に著減した場合、再発予防にリツキシマブの投与を検討しても良い(推奨度2B)(保険適用外)カプラシズマブが後天性TTP治療の第一選択として記載 2023年版では、カプラシズマブが2022年9月に日本でも販売承認されたことが報告された。本ガイドでは、カプラシズマブを推奨度1Aの後天性TTP急性期の治療としている。投与30日以降もADAMTS13活性が10%を超えない場合は、追加で28日間継続可能であること、ADAMTS13活性著減を確認する前に開始可能であるが、活性が10%以上でTTPが否定された場合は速やかに中止すべきであることが述べられている。その他の治療に関する改訂ポイント(抗血小板薬、FFP輸注) 急性期の治療として用いられる抗血小板薬(推奨度2B)については、血小板とvon Willebrand因子(VWF)を中心とした血小板血栓によってTTPが発症することからTTP治療に有効である可能性があるとしたが、急性期での使用により出血症状が認められたとの報告、チクロピジンやクロピドグレルの使用はTTP患者では避けられていること、アスピリンとカプラシズマブの併用は出血症状を助長する可能性があり避けるべきである等の内容が加えられた。先天性TTPの治療へのFFP輸注の使用(推奨度1B)の記載についても追加がなされた。国際血栓止血学会のTTPガイドラィンで推奨する用量(10~15mL/kg、1~3週ごと)は日本人には量が多く困難な場合があることや、長期的な臓器障害の予防に必要なFFPの量は現状では明らかではない等の内容が加えられた。TTPの診断に関する改訂ポイント ADAMTS13検査やインヒビター検査は結果が得られるまで時間がかかり、TTP治療の早期開始の妨げになっている。そこで、2023年版では、ADAMTS13活性著減の予想に用いられる、FrenchスコアとPLASMICスコアに関する記述が追加された。これら2つのスコアリングシステムについて、ADAMTS13活性著減を予測するが、血栓性微小血管症(TMA)が疑われる症例においてのみ用いられるべきことを明示した。増悪因子に関する記述を追加 2023年版では、TTP発作を誘発する因子についての項目が加えられた。増悪因子として、出生直後の動脈管の開存、ウイルス/細菌感染症、妊娠およびアルコール多飲などが知られており、妊娠期にはFFP定期輸注を行うことが、妊娠管理に不可欠と考えられるとした。

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心房細動の脳梗塞後、抗凝固療法開始は早いほうがよい?(解説:後藤信哉氏)

 心房細動症例の脳卒中リスクは洞調律例よりも高いとされる。しかし、脳梗塞急性期の抗凝固療法では梗塞巣からの出血が心配である。DOAC時代になって、ワルファリンの時代よりも抗凝固療法に対する心理的ハードルは低下した。心房細動があり、脳梗塞を経験した症例での早期(48時間以内)と晩期(6~7日後)のDOAC療法による30日以内の脳梗塞・全身性塞栓症・大出血・症候性頭蓋内出血の発現リスクをランダムに比較した。 本研究は、実臨床を反映したシンプルな仮説検証試験である。実臨床の中で、シンプルな仮説検証を繰り返しながら医療の質をシステム的に改善するアプローチとして価値のある研究である。 本研究はSwiss National Science Foundationなどによる助成研究である。日本でも公的資金により、CROなどを使用せずに、シンプルに仮説検証研究を安価に施行できるようになるとよいと思う。

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患者情報から治療期間を評価して、漫然投与薬の中止を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第54回

 今回は、長期服用薬の治療期間を疑問に思い、患者情報を収集し直して漫然投与となりがちな薬剤の必要性を再考した症例を紹介します。副作用などの問題がなくても、治療の適応があるのかどうかを定期的に考える機会は必要です。急性疾患で処方された薬剤がいつまで必要なのか、慢性疾患であれば処方時点と現在で治療内容が妥当であるのか否かを、薬剤師の視点で評価しましょう。患者情報85歳、女性(施設入居)基礎疾患アルツハイマー型認知症介護度要介護2服薬管理施設職員が管理処方内容1.カルバゾクロムスルホン酸ナトリウム錠30mg 3錠 分3 毎食後2.トラネキサム酸錠250mg 3錠 分3 毎食後3.五苓散エキス顆粒 3包 分3 毎食後4.クエン酸第一鉄ナトリウム錠50mg 3錠 分3 毎食後本症例のポイントこの患者さんは半年前の施設入居時から上記の処方薬を服用していました。処方監査を実施していた薬剤師が、採血結果もなく、病歴も認知症のみなのになぜ止血剤および鉄剤を飲んでいるのか不明であったため、基礎疾患や治療経過を収集する治療計画(Care plan)を立案しました。当然、出血既往があると予測はつきますし、そのための貧血治療と考えるのが妥当ですが、いつ・どこの・どの程度の出血なのか明確でないことに違和感がありました。担当薬剤師へ情報を引き継ぎ、担当薬剤師が施設訪問時に看護師と入居前に入院していた病院の看護サマリーと診療情報提供書を確認しました。すると、繰り返す転倒から慢性硬膜下血腫が生じ、1年前に穿頭血腫ドレナージ術を施行していたことがわかりました。術後の再出血予防および血腫サイズの縮小などを目的に現行の治療薬が処方され、クエン酸第一鉄もそのときの採血結果をもとに追加されていました。そこで現在の主治医が外科医であることから現行薬の必要性を相談することにしました。医師への相談と経過主治医に電話で、長期的に現行薬を服用していて服薬アドヒアランスは維持されていることを伝えたうえで、病歴の聴取、今後の脳外科受診などの予定について確認しました。また、今後の治療方針も確認しました。主治医は病歴を把握していたものの、現行薬を今後どうするかについては保留中だったそうで、前回の術後頭部CT画像の確認から現行薬の必要性はないだろうという返答がありました。また、貧血治療も採血予定(Hb、フェリチン、TIBC、MCVなど)を組んだので、そこで鉄剤の中止を検討するとのことでした。最後に医師より、長期服用薬の評価は緊急性がなければ後回しになってしまうことが多いので、こういうアシストはとても助かるとお礼がありました。患者さんは現在も施設で転倒もなく、出血イベントも起きずに生活しています。鉄剤もその後の採血結果で異常所見はなく、治療は終了となりました。薬が終了したことで本人の服薬負担も看護師の与薬負担も減らすことができました。このように、病歴確認と見直しを行い、漫然投与となりがちな薬剤について今一度治療の適応があるのかどうか考える機会は必要です。治療継続の必要可否について確認する薬剤師のアプローチも多剤併用を予防するポジティブアクションに繋がると実感しました。

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重症血小板減少症のCVC関連出血、輸血で予防可能か/NEJM

 重症血小板減少症の患者においては、中心静脈カテーテル(CVC)留置に関連する出血を防ぐための予防的な血小板輸血の必要性に疑問が提起されている。オランダ・アムステルダム大学医療センターのFloor L.F. van Baarle氏らは「PACER試験」においてこの問題を検証し、超音波ガイド下CVCの留置前に予防的な血小板輸血を行わない非輸血戦略は、行った場合と比較して、Grade2~4のカテーテル関連出血の発生は非劣性マージンを満たさず、出血イベントが多いことを示した。研究の詳細は、NEJM誌2023年5月25日号に掲載された。オランダ10病院の無作為化非劣性試験 PACER試験は、オランダの10ヵ所の病院が参加した無作為化対照比較非劣性試験であり、2016年2月~2022年3月の期間に患者の登録が行われた(オランダ保健研究開発機構[ZonMw]の助成を受けた)。 血液内科病棟または集中治療室で治療を受けている重症血小板減少症(血小板数:1万~5万/mm3)の患者を、超音波ガイド下CVC留置前に、予防的に1単位の血小板輸血を行う群、または血小板輸血を行わない群に無作為に割り付けた。 主要アウトカムはGrade2~4のカテーテル関連出血で、主な副次アウトカムはGrade3または4のカテーテル関連出血であった。非劣性マージンは、相対リスクの90%信頼区間(CI)の上限値3.5とされた。総費用は、1件当たりは安価だが、24時間では高額に 338例に施行された373件のCVC留置がper-protocol解析に含まれた。血小板輸血群はCVC留置188件(患者の年齢中央値58歳[四分位範囲[IQR]:47~65]、女性33.5%)、血小板非輸血群は185件(59歳[50~65]、37.8%)であった。 Grade2~4のカテーテル関連出血は、輸血群では188件中9件(4.8%)、非輸血群では185件中22件(11.9%)で発生した。両群間の絶対リスク差は7.1ポイント(90%CI:1.3~17.8)で、相対リスクは2.45(90%CI:1.27~4.70)であり、非輸血戦略の非劣性は示されなかった。 Grade3/4のカテーテル関連出血は、輸血群では188件中4件(2.1%)、非輸血群では185件中9件(4.9%)で発生した(相対リスク:2.43、95%CI:0.75~7.93)。 有害事象は全体で15件観察された。このうち13件が重度と判定され、いずれもGrade3のカテーテル関連出血であった(輸血群4件、非輸血群9件)。 血小板輸血と出血イベントに関連する総費用は非輸血群より輸血群で高く、カテーテル留置1件当たりの総費用は非輸血群で410ドル安価であった。一方、CVC留置後24時間の輸血費用は、非輸血群のほうが血小板輸血と出血関連の輸血の頻度が高かったため、高額であった。 著者は、「輸血後に血小板数が少ない患者にみられた高い出血リスクは、CVC関連出血の予防には十分な量の血小板(血小板輸血を含む)が重要との考え方を、さらに裏付けるものである」としている。

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麻疹・風疹の違いは?

麻疹・風疹の違いは?麻疹(はしか)風疹(3日はしか)原因ウイルス 麻疹ウイルス(Paramyxovirus科Morbillivirus属)風疹ウイルス(Togavirus科Rubivirus属)感染経路空気感染、飛沫感染、接触感染感染力が非常に強い飛沫感染感染力が強い(1人の感染者が12~17人感染させる)(1人の感染者が5~7人感染させる)潜伏期間10~12日間14~21日間症状発熱(38℃前後、発疹期は39.5℃以上)、上気道炎症状(せき、鼻みず、のどの痛み)、結膜炎症状(結膜充血、目やに、まぶしさ)、消化器症状(下痢、腹痛)、発疹、コプリック斑(口腔内の白色の小斑点)など発熱(約半数)、発疹、リンパ節の腫れが3つの特徴的な症状とされる関節炎が出る場合もある(成人の5~30%)麻疹より症状は軽く、無症状が15~30%注意が必要な合併症肺炎、脳炎、亜急性硬化性全脳炎(麻疹の二大死因は肺炎と脳炎)中耳炎、クループ症候群(喉頭炎、喉頭気管支炎など)、心筋炎など先天性風疹症候群(妊娠20週までの妊婦さんが感染すると、生まれた子が発症して、先天異常など、さまざまな症状があらわれる)血小板減少性紫斑病、急性脳炎分類5類感染症国立感染症研究所. 風疹とは(https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/430-rubella-intro.html)国立感染症研究所. 麻疹とは(https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/518-measles.html)より作成Copyright © 2023 CareNet,Inc. All rights reserved.麻疹・風疹の発生状況(2023年5月24日現在)麻疹風疹(例)(例)3,0003,0002,5002,5002,0002,0001,5001,5001,000165 18602,2981,0007445002,9415002791066126129102016 2017 2018 2019 2020 2021 2022 2023年101121552016 2017 2018 2019 2020 2021 2022 2023年国立感染症研究所. 感染症発生動向調査(IDWR):2023年5月24日現在(https://www.niid.go.jp/niid/ja/hassei/575-measles-doko.html)(https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ha/rubella.html)より作成Copyright © 2023 CareNet,Inc. All rights reserved.

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血小板無力症〔GT:Glanzmann thrombasthenia〕

1 疾患概要■ 定義血小板無力症(Glanzmann thrombasthenia:GT)は、1918年にGlanzmannにより初めて報告された1)一般的な遺伝性血小板障害(Inherited platelet disorders:IPD)であり、その中でも最もよく知られた先天性血小板機能異常症である。血小板インテグリンαIIbβ3(alphaIIbbeta3:いわゆる糖蛋白質[glycoprotein:GP]IIb/IIIaとして知られている)の量的欠損あるいは質的異常のため、血小板凝集機能の障害により主に中等度から重度の粘膜皮膚出血を伴う出血性疾患である。インテグリンαIIbβ3機能の喪失により、血小板はフィブリノーゲンや他の接着蛋白質と結合できなくなり、血小板による血栓形成不全、および多くの場合に血餅退縮が認められなくなる。 ■ 疫学血液凝固異常症全国調査では血液凝固VIII因子の欠乏症である血友病Aが男性出生児5,000人に約1人,また最も頻度が高いと推定される血漿蛋白であるvon Willebrand factor(VWF)の欠損症であるvon Willebrand病(VWD)については出生児1,000人に1人2、3)と報告される(出血症状を呈するのはその中の約1%と考えられている)。IPDは、これらの遺伝性出血性疾患の発症頻度に比べてさらに低くまれな疾患である。UK Haemophilia Centres Doctors Organisation(UKHCDO)に登録された報告2)では、VWDや血友病A・Bを含む凝固障害(87%)に比較して血小板数・血小板機能障害(8%)である。その8%のIPDの中ではGTは比較的頻度が高いが、明らかな出血症状を伴うことから診断が容易であるためと想定される(GT:5.4%、ベルナール・スーリエ症候群:3.7%、その他の血小板障害:90.1%)。凝固異常に比較して、IPDが疑われる症例ではその分子的な原因を臨床検査により正確に特定できないことも多く、その他の血小板障害(90.1%)としてひとくくりにされている。GTは、常染色体潜性(劣性)遺伝形式のために一般的にホモ接合体変異で発症し、ある血縁集団(民族)ではGTの発症頻度が高いことが知られている。遺伝子型が同一のGT症例でも臨床像が大きく異なり、遺伝子型と表現型の相関はない1、4)。血縁以外では複合ヘテロ接合によるものが主である。■ 病因(図1)図1 遺伝性血小板障害に関与する主要な血小板構造画像を拡大するインテグリンαIIbサブユニットをコードするITGA2B遺伝子やβ3サブユニットをコードするITGB3遺伝子の変異は、インテグリンαIIbβ3複合体の生合成や構造に影響を与え、GTを引き起こす。片方のサブユニットの欠落または不完全な構造のサブユニット生成により、成熟巨核球で変異サブユニットと残存する未使用の正常サブユニットの両方の破壊が誘導されるが、例外もありβ3がαvと結合して血小板に少量存在するαvβ3を形成する5)。わが国における血小板無力症では、欧米例とは異なりβ3の欠損例が少なく、αIIb遺伝子に異常が存在することが多くαIIbの著減例が多い。また、異なる家系であるが同一の遺伝子異常が比較的高率に存在することは単民族性に起因すると考えられている6)。このほかに、血小板活性化によりインテグリン活性化に関連した構造変化を促す「インサイドアウト」シグナル伝達や、主要なリガンドと結合したαIIbβ3がさらなる構造変化を起こして血小板形態変化や血餅退縮に不可欠な「アウトサイドイン」シグナル伝達経路を阻害する細胞内ドメインの変異体も存在する。細胞質および膜近位ドメインのまれな機能獲得型単一アレル変異体では、自発的に受容体の構造変化が促進される結果、巨大血小板性血小板減少症を引き起こす。「インサイドアウト」シグナルに重要な役割を果たすCalDAG-GEFI(Ca2+ and diacylglycerol-regulated guanine nucleotide exchange factor)[RASGRP2遺伝子]およびKindlin-3(FERMT3遺伝子)の遺伝子変異により、GT同様の臨床症状および血小板機能障害を発症する。この機能性蛋白質が関与する他の症候としては、CalDAG-GEFIは他の血球系、血管系、脳線条体に存在し、ハンチントン病との関連も指摘されており、Kindlin-3の遺伝子変異では、白血球接着不全III(leukocyte adhesion deficiency III:LAD-III)を引き起こす。LAD-III症候群は常染色体潜性(劣性)遺伝で、白血球減少、血小板機能不全、感染症の再発を特徴とする疾患である5)。■ 症状GTでは鼻出血や消化管出血など軽度から重度の粘膜皮膚出血が主症状であるが、外傷・出産・手術に関連した過剰出血なども認める。男女ともに罹患するが、とくに女性では月経や出産などにより明らかな出血症状を伴うことがある。実際、過多月経を訴える女性の50%がIPDと診断されており、さらにIPDの女性は排卵に関連した出血を起こすことがあり、子宮内膜症のリスクも高いとされている7)。■ 分類GTの分類では、インテグリンαIIbβ3の発現量により分類される。多くの症例が相当するI型では、ほとんどαIIbβ3が発現していないため、血小板凝集が欠如し血餅退縮もみられない。発現量は少ないがαIIbβ3が残存するII型では、血小板凝集は欠如するが血餅退縮は認める。また、非機能的なαIIbβ3を発現するまれなvariant GTなどがある1、5)。■ 予後GTは、消化管出血や血尿など重篤な出血症状を時折引き起こすことがあるが、慎重な経過観察と適切な支持療法により予後は良好である。GTの出血傾向は小児期より認められその症状は顕著であるが、一般的に年齢とともに軽減することが知られており、多くの成人症例で本疾患が日常生活に及ぼす影響は限られている。診断された患者さんが出血で死亡することは、外傷や他の疾患(がんなど)など重篤な合併症の併発に関連しない限りまれである1)。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)血小板機能障害は1次止血の異常であり、主に皮膚や粘膜に発現することが多い。出血症状の状況(部位や頻度、期間、再発傾向、出血量)および重症度(出血評価ツール)を評価することは、出血症状を呈する患者の評価における最初の重要なステップである。出血の誘因が年齢や性別(月経)に影響するかどうかを念頭に、患者自身および家族の出血歴(術後または抜歯後の出血を含む)、服薬状況(非ステロイド性抗炎症薬)について正確な問診を行う。また、IPDを疑う場合は、出血とは無関係の症状、たとえば眼病変や難聴、湿疹や再発性感染、各臓器の形成不全、精神遅滞、肝腎機能など他器官の異常の可能性に注意を払い、血小板異常機能に関連した症候群型の可能性を評価できるようにする7)。【遺伝性血小板障害の診断】症候学的特徴(出血症状、その他症状、家族歴)血小板数/形態血小板機能検査(透過光血小板凝集検査法)フローサイトメトリー免疫蛍光法、電子顕微鏡法分子遺伝学的解析(Boeckelmann D, et al. Hamostaseologie. 2021;41:460-468.より作成)出血症状に対するスクリーニング検査は、比較的簡単な基礎的な臨床検査で可能であり非専門施設でも実施できる。血液算定、末梢血塗抹標本での形態観察、血液凝固スクリーニング、VWDを除外するためのVWFスクリーニング(VWF抗原、VWF活性[リストセチン補因子活性]、必要に応じて血液凝固第VIII因子活性)などを行う(図2)。上記のスクリーニング検査でIPDの可能性を検討するが、IPDの中には血小板減少を伴うものもあるので、短絡的に特発性血小板減少性紫斑病と診断しないように注意する。末梢血塗抹標本の評価では、血小板の大きさ(巨大血小板)や構造、他の血球の異常の可能性(白血球の封入体)について情報を得ることができ、これらが存在すれば特定のIPDが示唆される。図2 遺伝性血小板障害(フォン・ヴィレブランド病を含む)での血小板凝集のパターン、遺伝子変異と関連する表現型画像を拡大する血小板機能検査として最も広く用いられている方法は透過光血小板凝集検査法(LTA)であり、標準化の問題はあるもののLTAはいまだ血小板機能検査のゴールドスタンダードである。近年では、全自動血液凝固測定装置でLTAが検査できるものもあるため、LTA専用の検査機器を用意しなくても実施できる。図3に示すように、GTではリストセチンを除くすべてのアゴニスト(血小板活性化物質)に対して凝集を示さない。GTやベルナール・スーリエ症候群などの血小板受容体欠損症の診断に細胞表面抗原を測定するフローサイトメトリー(図4)は極めて重要であり、インテグリンαIIbβ3の血小板表面発現の欠損や減少が認められる。インテグリンαIIbβ3活性化エピトープ(PAC-1)を認識する抗体では、活性化不全が認められる8)。図3 血小板無力症と健常者の透過光血小板凝集検査法での所見(PA-200を用いて測定)画像を拡大する図4 血小板表面マーカー画像を拡大するGTでは臨床所見や上記の検査の組み合わせで確定診断が可能であるが、その他IPDを診断するための検査としては、顆粒含有量および放出量の測定(血小板溶解液およびLTA記録終了時の多血小板血漿サンプルの上清中での血小板因子-4やβトロンボグロブリン、セロトニンなど)のほか、血清トロンボキサンB2(TXB2)測定(アラキドン酸由来で生理活性物質であるトロンボキサンA2の血中における安定代謝産物)、電子顕微鏡による形態、血小板の流動条件下での接着および血栓形成などの観察、細胞内蛋白質のウェスタンブロッティングなどが参考となる。遺伝子検査はIPDの診断において、とくに病態の原因と考えられる候補遺伝子の解析を行い、主に確定診断的な役割を果たす重要な検査である。今後は、次世代シーケンサーの普及によるジェノタイピングにより、遺伝子型判定を行うことが容易となりつつあり、いずれIPDでの第一線の診断法となると想定される。ただしこれらの上記に記載した検査については、現段階では保険適用外であるもの、研究機関でしか行えないものも数多い。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)予防や治療の選択肢は限られているため、日常生活での出血リスクを最小限に抑えること、出血など緊急時の対応に備えることが必要である(図5)。図5 出血性疾患に対する出血の予防と治療画像を拡大する罹患している病名や抗血栓薬など避けるべき薬剤などの医療情報(カード)を配布することも有効である。この対応方法は、出血性疾患でおおむね同様と考えられるが、たとえばGTに対しては血小板輸血による同種抗体生成リスクを可能な限り避けるなど、個々の疾患において特別な注意が必要なものもある。この抗血小板抗体は、輸血された血小板除去やその機能の阻害を引き起こし、輸血効果を減弱させる血小板不応の原因となる。観血的手技においては、出血のリスクと処置のベネフィットなど治療効率の評価、多職種(外科医、血栓止血専門医、看護師、臨床検査技師など)による出血に対するケアや止血評価、止血対策のためのプロトコルの確立と遵守(血小板輸血や遺伝子組み換え活性化FVII製剤、抗線溶薬の使用、観血術前や出産前の予防投与の考慮)が不可欠である。IPD患者にとって妊娠は、分娩関連出血リスクが高いことや新生児にも出血の危険があるなどの問題がある。最小限の対策ですむ軽症出血症例から最大限の予防が必要な重篤な出血歴のある女性まで状況が異なるために、個々の症例において産科医や血液内科医の間で管理を計画しなければならない。重症出血症例に対する経膣分娩や帝王切開の選択なども依然として難しい。4 今後の展望出血時の対応などの臨床的な役割を担う医療機関や遺伝子診断などの専門的な解析施設へのアクセスを容易にできるようにすることが望まれる。たとえば、血友病のみならずIPDを含めたすべての出血性疾患について相談や診療可能な施設の連携体制の構築すること、そしてIPD診断については特殊検査や遺伝子検査(次世代シーケンサー)を扱う専門施設を確立することなどである。遺伝性出血性疾患の中には、標準的な治療では対応しきれない再発性の重篤な出血を伴う若い症例なども散見され、治療について難渋することがある。こうした症例に対しては、遺伝性疾患であるからこそ幹細胞移植や遺伝子治療が必要と考えられるが、まだ選択肢にはない。近い将来には、治療法についても革新的技術の導入が期待される。5 主たる診療科血液内科(血栓止血専門医)※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報小児慢性特定疾病情報センター 血小板無力症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)国立成育医療研究センター 先天性血小板減少症の診断とレジストリ(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)大阪大学‐血液・腫瘍内科学 血小板疾患研究グループ山梨大学大学院 総合研究部医学域 臨床検査医学講座(医療従事者向けのまとまった情報)1)Nurden AT. Orphanet J Rare Dis. 2006;1:10.2)Sivapalaratnam S, et al. Br J Haematol. 2017;179:363-376.3)日笠聡ほか. 日本血栓止血学会誌. 2021;32:413-481.4)Sandrock-Lang K, et al. Hamostaseologie. 2016;36:178-186.5)Nurden P, et al. Haematologica. 2021;106:337-350.6)冨山佳昭. 日本血栓止血学会誌. 2005;16:171-178.7)Gresele P, et al. Thromb Res. 2019;181:S54-S59.8)Gresele P, et al. Semin Thromb Hemost. 2016;42:292-305.公開履歴初回2023年3月30日

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ADAMTS13欠損の先天性TTPにADAMTS13投与が著効した1例/NEJM

 妊娠合併症と動脈血栓症歴のある妊娠30週の27歳女性が、重度のADAMTS13欠損による急性遺伝性血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)の診断を受けた。医療チームは当初、治療的血漿交換(TPE)を実施したが、効果が乏しく中止し、遺伝子組み換えADAMTS13投与に切り替えた。その後、血小板数は正常化、胎児の成長も安定化し、妊娠37週と1日で、在胎不当過小児であったが健康な男子を帝王切開で出産した。その後も患者と生まれた男児の健康状態は良好で、遺伝子組み換えADAMTS13の投与を隔週で継続しているという。スイス・ベルン大学のLars M. Asmis氏らによる症例報告で、NEJM誌2022年12月22日号で発表された。血小板数5~7万/μL、sFlt-1/PlGF比は持続的に上昇、TPEから切り替え 研究グループが初回診察を行ったのは妊娠30週6日の時点。同患者に対し、当初はTPEとメチルプレドニゾロン(1mg/kg)による免疫抑制から成る免疫原性TTP向けの治療を開始した。その後、機能的ADAMTS13インヒビターとIgG・抗ADAMTS13抗体の検査で陰性が認められ、メチルプレドニゾロンの投与は中止した。 連日のTPEにより、ADAMTS13活性ピーク値は約50%だったが、血小板数は5~7万/μL、sFlt-1/PlGF比は持続的に上昇、妊娠週数32週で胎児成長は3パーセンタイルに落ち込んだ。こうした状況を総合的に判断し、血漿難治TTPの発症、胎盤機能不全、切迫子宮内胎児死亡の危険性が高いと判断した。 医療チームは患者とその夫の同意を得て、TPEを中止し、遺伝子組み換えADAMTS13(40U/kg)の週1回注射投与を開始した。初回遺伝子組み換えADAMTS13(2,480U)は、TPE中止後36時間、妊娠32週5日で行った。遺伝子組み換えADAMTS13投与はすべて外来診療で行い、有害薬物反応は認められなかった。患者の血小板数は14~19万/μLに急激に増加し、妊娠期間中その値を維持した。正常Apgarスコア、出生体重1,865gの健康な男児を出産 予定帝王切開時までに、患者のsFlt-1/PlGF比は最大化した後、減少傾向となったが、胎児体重推定値は依然として在胎期間相当3パーセンタイルで推移していた。 帝王切開は妊娠37週1日で行われ、患者は、正常Apgarスコアで出生体重1,865g(在胎期間相当で1パーセンタイル未満)の健康な男児を出産した。出産7日後の退院時、母体血小板数は21万6,000/μLだった。 本報告書作成時点で、患者にはアスピリン投与と、遺伝子組み換えADAMTS13(40U/kg)の隔週投与が継続されている。

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第146回 マウスの老化を巻き戻し / 武田薬品の紫斑病薬が承認申請される

山中因子でマウスの老化を巻き戻し10年ほど前に京都大学の山中伸弥教授をノーベル賞へと導いたiPS細胞(人工多能性幹細胞)の素が個体の老化を巻き戻して若返らせうることを2つの研究チームが報告しました。今では山中教授の名を冠して山中因子と呼ばれるそのiPS細胞の素は4つのタンパク質(転写因子)で構成され、分化した成体細胞を多能性の幹細胞(iPS細胞)へと変えることで知られます。今回米国・カリフォルニア州サンディエゴのバイオテック企業Rejuvenate Bio社のチームはそれら山中因子のうちの3つOct4、Sox2、Klf4を届ける遺伝子治療で老化マウスがより長生きになったことを報告しました1,2)。ハーバード大学の抗老化治療研究者David Sinclair氏が率いる別のチームはRejuvenate社と同様の手段により、マウスの老化状態を若い状態へと回復させうることを示しました3,4)。頭文字をとってOSKと呼ばれるOct4、Sox2、Klf4はそれらどちらの研究でもメチル化などのDNA取り巻き・エピゲノムをより若い状態へと回復させたようです5)。Rejuvenate社はヒトの治療に即した手段を検討するべく、ヒトの遺伝子治療で使われているアデノ随伴ウイルス(AAV)を運搬役としてOSK遺伝子を老齢(生後124週間)のマウスに投与しました。するとその後の余命はより長くなり、対照群マウスが9週間ほどしか生きられなかったのに対してOSK遺伝子投与マウスはその約2倍の約18週間生存しました。加えて、健康指標が向上してより丈夫になったことがうかがわれました。分子レベルでもどうやら若返りしており、より若い頃に特有なメチル化特徴の幾らかをどうやら取り戻していました。山中因子はがんを生じやすくしうることが先立つ研究で示唆されていますが、幸いにも取るに足る害は今のところ認められていないとRejuvenate社の最高科学責任者(CSO)Noah Davidsohn氏は言っています5)。ハーバード大学のSinclair氏のチームが目指したのはDNA切断などのDNA配列の乱れではなくDNA取り巻きのエピゲノム情報の損失こそ老化の原因であるという仮説(information theory of aging)が正しいことの証明です。同チームはICE(inducible changes to the epigenome)という一工夫を加えたマウス(ICEマウス)のゲノムの20箇所のDNAをいったん切断してその後完全に修復させました5)。するとDNA切断の完全な修復とは裏腹にDNAメチル化や遺伝子発現は広範囲に渡って変化し、マウスのエピゲノムはメリハリの乏しい老化マウスにより似たものとなりました6)。また体調も損なわれ、体毛や色素を失い、弱々しくなって組織の老化を呈しました。エピゲノム情報の損失が老化の原因であるなら若返りをもたらす治療でエピゲノム情報も回復するはずです。そこでSinclair氏のチームもRejuvenate社と同様にOSK遺伝子を老けて見えるICEマウスに投与したところ、果たせるかなエピゲノム情報の回復が認められ、組織も若返りの兆候を呈しました。戻すことも可能なエピゲノム情報損失こそ老化の原因であることを今回の結果は示しているとSinclair氏のチームは結論していますが、若返りを研究するAltos Labs社が去年開設したAltos Cambridge Institute of Scienceの長Wolf Reik氏はそう断言するのは時期尚早と見ています。エピゲノム変化を引き出した大掛かりなDNA切断(とその修復)は他にも影響があったかもしれず、そうして生じたDNAエピゲノム変化を老化の原因とするのは困難であるとReik氏は言っています。それに、DNA切断(とその修復)を強いたマウスが自然に老化したマウスとどれだけ似ているかも分かっていません。米国・Albert Einstein College of Medicineの遺伝学者Jan Vijg氏によると、老化は種々の要因が絡んで進行していくものであることを忘れてはいけません。今回の2つの報告でのOSK遺伝子投与の効果はそれほどでもなく、1つでは寿命がいくらか伸びた程度で、もう1つでは強いて発生させた症状が部分的に解消したに過ぎません。老化は戻すことが可能な情報処理(program)であるとそれらの研究をもって結論することはできないとVijg氏は言っています。そのような批評はさておきRejuvenate社もSinclair氏のチームも臨床試験へと駒を進めることを目指します。Rejuvenate社はOSK治療効果の仕組みを研究し、治療の体内への運搬手段や成分の手直しをしています。同社の上述のCSO・Davidsohn氏によると治療成分はOSKに決定しているわけではありません。Sinclair氏はエピゲノム情報を回復させる治療に取り組むバイオテック企業Life Biosciencesを設立し、まずは霊長類の視力を改善させる研究を進めています6)。サルの眼へのOSK遺伝子投与の試験が進行中であり、その試験が成功してヒトにも十分安全らしいことがわかれば失明疾患の臨床試験の開始をすぐに米国FDAに申請するとSinclair氏は言っています5)。前々回紹介の武田薬品の紫斑病薬が承認申請される本連載の前々回(第144回)で取り上げた武田薬品の紫斑病薬TAK-755が良好なピボタル(主要な)第III相試験中間解析結果を受けて承認申請されます7,8)。今月5日に発表されたその中間解析の結果、同剤が投与された先天性血栓性血小板減少性紫斑病(cTTP)患者の血小板減少症事象は標準治療である血漿製剤使用群に比べて60%少なくて済み、その95%信頼区間の上限は100%未満に収まっていました(95%信頼区間:30~70%)。cTTPは血液凝固の制御に携わる血中タンパク質ADAMTS13の欠乏によって生じます。TAK-755はその不足を補う人工のADAMTS13です。【前々回の記事の誤解の訂正】前々回の記事で人工ADAMTS13(TAK-755)は現在第III相試験(NCT04683003)9)が進行中と記しましたが、その試験とそれに先立つもう1つの第III相試験(281102 試験/NCT03393975)10)が実施されています。前々回の記事で抜けていた281102 試験こそ今月5日に武田薬品が中間結果を発表したピボタル第III相試験です。Clinicaltrials.govによるとどちらの試験も本記事執筆時点で被験者組み入れが進行中です。お詫びして修正いたします。参考1)Gene Therapy Mediated Partial Reprogramming Extends Lifespan and Reverses Age-Related Changes in Aged Mice. bioRxiv. January 05, 2023. 2)Rejuvenate Bio Announces New Preclinical Research Evaluating Cellular Reprogramming for Age Reversal / BUSINESS WIRE3)Yang JH, et al. Cell Jan 9:S0092-8674.01570-7[Epub ahead of print].4)Loss of Epigenetic Information Can Drive Aging, Restoration Can Reverse It / Harvard Medical School5)Two research teams reverse signs of aging in mice / Science 6)Epigenetic Manipulations Can Accelerate or Reverse Aging in Mice / TheScientist7)Takeda Announces Favorable Phase 3 Safety and Efficacy Results of TAK-755 as Compared to Standard of Care in Congenital Thrombotic Thrombocytopenic Purpura (cTTP) / BUSINESS WIRE8)先天性血栓性血小板減少性紫斑病(cTTP)に対する標準治療と比較したTAK-755の良好な安全性および有効性を示す臨床第3相試験の結果について / 武田薬品9)A Study of TAK-755 in Participants With Congenital Thrombotic Thrombocytopenic Purpura(Clinical Trials.gov)10)A Study of BAX 930 in Children, Teenagers, and Adults Born With Thrombotic Thrombocytopenic Purpura (TTP) (Clinical Trials.gov)

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第144回 コロナ合併症MIS-C関連変異同定/クリスマス前の人情報告~開発段階の薬が人助け

小児のコロナ合併症MIS-Cに寄与する遺伝子欠陥を同定新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)小児の稀だけれども下手したら命を奪いかねない多臓器炎症症候群(MIS-C)に寄与しうる遺伝子変異が見つかりました1,2)。MIS-CはCOVID-19発症からたいてい4週間後ぐらいに生じ、発熱、嘔吐、心筋の炎症などを引き起こして入院治療を強います。MIS-Cの発生率はSARS-CoV-2感染小児1万例当たりおよそ1例と稀ですが、米国での今夏8月末までのMIS-C小児数は約9千例(8,826例)に上り3)、悲しくも命を落とすこともあって71例は死亡しています。MIS-Cで上昇する生理指標によると複数の臓器での炎症が示唆され、単球の活性化持続がMIS-Cの主な免疫特徴として一貫して報告されています。さらには、単球活性化作用だけにとどまらない2型インターフェロン(IFN-γ)伝達絡みの指標がMIS-Cの初期にしばしば上昇します。そのような背景を受け、米国のロックフェラー大学が率いるチームはSARS-CoV-2への免疫反応を不得手にする生まれながらの遺伝子欠陥がMIS-Cの下地になっているかもしれないと考え、世界のMIS-C患者558例のエクソームやゲノム配列を調べ上げました。実に総勢およそ百人の研究者が携わったその途方もない取り組みは類縁関係のないMIS-C患者5例へとやがて収束します。インターフェロンによって発生してウイルスなどの二本鎖RNA(dsRNA)を感知するタンパク質OASやOASによって活性化される酵素RNase Lの欠陥をもたらす変異をそれらMIS-C患者5例から発見したのです。RNase Lはいわばハサミのようなもので、タンパク質へと翻訳されるmRNAを切断します。見つかったOAS変異はRNase Lを働けなくし、RNase L変異はまともなRNase Lを作れなくします。OASやRNase Lいずれかを欠損した免疫細胞(単核球細胞や骨髄細胞)のdsRNAやSARS-CoV-2への反応を調べたところ果たしてMIS-Cで生じるのに似た炎症性サイトカイン過剰生成が認められました。研究チームはRNase L欠乏細胞でのサイトカイン生成に寄与する経路も突き止めており、OASやRNase Lの欠乏はSARS-CoV-2感染に伴う無節操な炎症性サイトカイン生成をもたらしてMIS-Cを醸成したと結論しています。今回の研究で判明したMIS-C関連変異やそれら変異の免疫への影響の仕組みは川崎病などのMIS-Cに似た他の慢性炎症疾患の研究にも役立つでしょう2)。クリスマス前に心温まった報告~開発段階の薬が妊婦とその胎児を救った血液凝固の制御に携わる血中タンパク質ADAMTS13の重度欠乏による親譲りの血栓性血小板減少性紫斑病(先天性TTP)が妊娠中に判明した女性が武田薬品の開発段階の人工ADAMTS13(recombinant ADAMTS13、TAK-755)投与のおかげで無事に赤ちゃん(男児)を出産することができました4)。先天性TTP患者へのADAMTS13の目下の供給源は血漿ですがその女性のTTPに血漿交換(therapeutic plasma exchange)は歯が立たず、胎児はすぐにでも命を落としかねない状況となりました。女性の担当医師等は早い段階から先を見越して人工ADAMTS13のメーカー(武田薬品)に急遽の斟酌使用(emergency compassionate use)の要望を伝え、必要な手続きを経た上で人工ADAMTS13を入手しました。同剤使用に当たって担当医師は要所要所すべてで女性本人とその夫を交えて方針を決定しました。そのような一刻を争ったであろう状況の中、武田薬品から提供された人工ADAMTS13の投与の甲斐あって女性の血小板数は幸いにも正常化し、胎児の発育も安定化します。そして妊娠は37週過ぎまで持ちこたえてついには帝王切開による赤ちゃん(男児)の出産に漕ぎ着けることができました。クリスマス前の22日にNEJMに掲載されたその報告で著者はスイスと米国の武田薬品の従業員を含む関係者一同に謝意を示しています。論文執筆の時点で女性も男児も健やかに過ごせており、女性は2週間に1回の人工ADAMTS13投与を続けています。人工ADAMTS13は現在第III相試験(NCT04683003)が進行中です。結果がわかるのはしばらく先のようで、試験完了予定は2026年8月末です5)。参考1)Lee D, et al. Science. 2022 Dec 20;eabo3627. [Epub ahead of print]2)Research identifies potential genetic cause for MIS-C complication following COVID-19 infection / Eurekalert3)Melgar M, et al. MMWR Recomm Rep. 2022;71:1-14.4)Asmis LM, et al. N Engl J Med. 2022;387:2356-23615)A Study of TAK-755 in Participants With Congenital Thrombotic Thrombocytopenic Purpura(Clinical Trials.gov)

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論文検索で困惑…医療略語が複数存在する疾患【知って得する!?医療略語】第22回

第22回 論文検索で困惑…医療略語が複数存在する疾患ITPの和訳がよく分かりません。教えてください。ITPには現在「特発性血小板減少性紫斑病」「免疫性血小板減少性紫斑病」「免疫性血小板減少症」の3つの和訳が存在するようです。≪医療略語アプリ「ポケットブレイン」より≫【略語】    ITP【日本語/英字】特発性血小板減少性紫斑病/idiopathic thrombocytopenic purpura免疫性血小板減少性紫斑病/immune thrombocytopenic purpura免疫性血小板減少症/immune thrombocytopenia【分野】    血液【診療科】   血液内科・小児科【関連】    ―実際のアプリの検索画面はこちら※「ポケットブレイン」は医療略語を読み解くためのもので、略語の使用を促すものではありません。筆者が学生の頃、血小板減少疾患であるITPは、特発性血小板減少性紫斑病(idiopathic thrombocytopenic purpura)と覚えました。しかし、近年ITPが「免疫性血小板減少性紫斑病:immune thrombocytopenic purpura」と訳されているのを見かけるようになりました。医師国家試験関連の参考書を参照しても、ITPは「免疫性血小板減少性紫斑病」で記載されています。ITPの和訳は変更されたのでしょうか。調べてみると、成人特発性血小板減少性紫斑病治療の参照ガイド2019改訂版1)が存在します。また難病情報センターの登録難病の病名2)も特発性血小板減少性紫斑病となっています。一方、小児免疫性血小板減少症診療ガイドライン2022年版というものも存在し、小児慢性特定疾病情報センターのサイトを見ると、免疫性血小板減少性紫斑病が告示病名3)となっています。また同サイトによれば、ITPは血小板減少があっても必ずしも紫斑を伴わないため「紫斑病」は除き、免疫性血小板減少症(immune thrombocytopenia: ITP)と表記するとの記載があります。しかし、それぞれの資料で疾患概要を調べてみると、特発性血小板減少性紫斑病、免疫性血小板減少性紫斑病、免疫性血小板減少症は、同一の疾患です。ちなみに厚生労働省保険局が運営する傷病名マスター4)には、「特発性血小板減少性紫斑病」は存在しますが、「免疫性血小板減少性紫斑病」は登録されていません。ITPと同じように、同一疾患(病態)に複数の病名が存在して困惑するのが血球貪食症候群(hemophagocytic lymphohistiocytosis:HPS)、血球貪食性リンパ組織球症 (hemophagocytic lymphohistiocytosis:HLH)です5)。医学的知見の集積で、より適切な病名に変更されていくことに異義はありません。しかし、同一の疾患や病態に複数の病名が併存することは、少なからず混乱を生じます。まず、それぞれの病名で一見すると別疾患のように誤解を生じます。また、学会発表や論文作成をする時にどちらの用語を用いれば良いか迷いますし、症例集積などの臨床研究や文献検索においても支障を来すと考えられます。昨今注目される医療データ活用の観点でも、同一疾患に複数の病名が存在することは、医療データの活用を阻害しかねません。この問題は日本に医療用語の整備、統一病名変更を告知する組織がないことが原因だと思います。学会の垣根を越えて、用語の統一が図られることを切に願います。1)成人特発性血小板減少性紫斑病治療の参照ガイド 2019改訂版2)難病情報センター:特発性血小板減少性紫斑病(指定難病63)3)小児慢性特定疾病情報センター:免疫性血小板減少性紫斑病4)厚生労働省保険局:診療報酬情報提供サービス5)熊倉 俊一. 血栓止血誌. 2008;19:210-215.

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新規作用機序、後天性血栓性血小板減少性紫斑病治療薬「カブリビ」承認/サノフィ

 サノフィは、2022年9月26日付のプレスリリースで、「後天性血栓性血小板減少性紫斑病」の効能または効果として、カブリビ注射用10mg(一般名:カプラシズマブ(遺伝子組換え)、以下「カブリビ」)の製造販売承認を取得したと発表した。 後天性血栓性血小板減少性紫斑病(以下、後天性TTP)は、重篤でまれな自己免疫性血液疾患で、予後不良な急性疾患とされている。そのため、急性期における死亡を防ぐためにも、緊急の治療を要する。後天性TTPは、止血に関わるタンパク質であるフォン・ヴィレブランド因子(VWF)の特異的切断酵素であるADAMTS13(a disintegrin and metalloproteinase with a thrombospondin type 1 motif, member 13)の活性低下により、血液中にVWFが過剰に重合して蓄積し、血小板凝集を引き起こすことが原因で発症する。多くの場合、後天性TTPの診断直後の数日間は集中治療室で現行の治療(血漿交換療法と免疫抑制療法)を受けるが、死亡する患者は最大20%に及び、その大部分は診断後30日以内といわれているため、早期診断・早期治療が重要とされている。 今回承認されたカブリビは、止血に関わるVWFを標的とし、VWFと血小板の相互作用を阻害することで、微小血栓形成を阻害する薬剤である。これまで、後天性TTPの治療薬として微小血栓形成を直接阻害する治療薬はなく、カブリビは後天性TTPに対し新規の作用機序を持つ薬剤として発売されることが期待される。なお、欧州では2018年8月に、米国では2019年2月に薬事承認され、国内では2020年6月に希少疾病用医薬品に指定されている。

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BTK阻害薬、治療歴ある免疫性血小板減少症に効果/NEJM

 治療歴のある免疫性血小板減少症に対し、経口ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)阻害薬rilzabrutinibの有効性と安全性が、第I-II相の国際非盲検用量設定試験で確認された。評価した全用量で血小板反応性が認められ、毒性効果は報告されたがいずれも低グレードだった。米国・マサチューセッツ総合病院のDavid J. Kuter氏らによる検討で、NEJM誌2022年4月14日号で発表された。rilzabrutinibは、マクロファージ(Fcγ受容体)を介した血小板破壊の抑制と病原性自己抗体産生の抑制という2つの作用機序によって、免疫性血小板減少症の患者の血小板数を増加させる可能性が示唆されていた。用量漸増法を用いて4用量について安全性と血小板反応性を評価 治療歴のある免疫性血小板減少症患者に対するrilzabrutinib治療の評価は適応的デザイン法にて行われ、個人内用量漸増法を用いてrilzabrutinibを24週間経口投与した。 開始用量は4段階で、200mgを1日1回、400mgを1日1回、300mgを1日2回、400mgを1日2回とした。 主要エンドポイントは、安全性と血小板反応性。血小板反応性は、血小板数が少なくとも2回連続で50×103/mm3以上、かつレスキュー薬なしでベースラインから20×103/mm3以上増加と定義した。血小板反応性は全体で40%、血小板数50×103/mm3以上到達まで11.5日 試験には60例が登録され、ベースラインの血小板数中央値は15×103/mm3、罹病期間中央値は6.3年、これまでに受けた免疫性血小板減少症治療の中央値は4種類だった。 治療関連の有害イベントは、いずれもGrade1または2で一過性だった。Grade2以上の治療関連出血または血栓イベントは報告されなかった。 治療期間中央値167.5日(範囲:4~293)時点で、主要エンドポイントの血小板反応性が認められたのは、全体では24/60例(40%)であり、rilzabrutinibの最高用量開始群では18/45例(40%)だった。 また、最初に血小板数50×103/mm3以上に到達するまでの期間中央値は、11.5日だった。主要血小板反応性が認められた患者において、血小板数50×103/mm3以上の週が占めた割合は平均65%だった。

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