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統合失調症のEPS発現にカルバマゼピン処方が関連

 第2世代抗精神病薬(SGA)使用患者における錐体外路症状(EPS)の発生に関連する因子について、ブラジル・Universidade Federal do Rio Grande do NorteのSusana Barbosa Ribeiro氏らが検討を行った。European journal of clinical pharmacology誌オンライン版2016年11月26日号の報告。 本研究は、3つの外来診療所の患者を対象とした、ランダムサンプルに基づく観察的横断研究。対象基準は、男女共に18~65歳のSGA単剤治療中統合失調症患者。過去に長時間作用型抗精神病薬注射剤を使用した患者は除外した。対象患者の家族に電話で連絡をとり、調査参加時の家庭訪問が計画された。すべての対象者およびその親族より、インフォームドコンセントを得た。患者背景、臨床的特徴、使用薬剤と関連するEPSリスクは、ロジスティック回帰を用いて分析した。 主な結果は以下のとおり。・対象患者は213例であった。・対象者の38.0%にEPSが認められた。・使用頻度の高いSGAは、オランザピン(76例、35.7%)、リスペリドン(74例、34.3%)、クエチアピン(26例、12.2%)、ziprasidone(23例、10.8%)であった。・統合失調症の補助療法として使用された薬剤は、ベンゾジアゼピンが最も多く(31.5%)、次いでカルバマゼピン(24.4%)、抗うつ薬(20.2%)であった。・多変量解析では、EPSリスクはカルバマゼピン使用と関連していることが示唆された(オッズ比:3.677、95%CI:1.627~8.310)。・SGAの種類によるEPSリスク変化は確認されなかった。関連医療ニュース 抗精神病薬の血漿中濃度とEPS発現 統合失調症患者の副作用認識状況は:さわ病院 統合失調症治療、ベンゾジアゼピン系薬の位置づけは

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下町ロケット【コミュニケーションタイプ】

今回のキーワードピラミッド型ファミリー型フラット型家族モデル進化心理学パターナリズムシェアード・ディシジョン・メイキング(SDM)みなさんは、人間関係を築こうとする時、「この人と合わないかも」と思うことはありませんか? 例えば、みなさんが職場で部下として、同僚として、そして上司としては? または、医療従事者としては? さらには、プライベートで友達として、恋人としては? 何が原因なのでしょうか? どうしたらうまく合わせることができるのでしょうか?今回は、このコミュニケーションのタイプとその相性をテーマに、ドラマ「下町ロケット」を取り上げます。このドラマは、主人公の佃が、社長として下町の町工場・佃製作所を経営する奮闘を描いています。ドラマの中で、佃は、ロケットの部品供給を巡って、帝国重工の宇宙航空部部長の財前と粘り強い交渉をします。さらに、コミュニケーションのタイプの違いの起源、コミュニケーションのタイプのギアチェンジの仕方、これからの時代に求められる医療のコミュニケーションモデルについて探っていきます。3つのコミュニケーションのタイプ-表1ここから、佃と財前をそれぞれモデルとして、大きく3つのコミュニケーションのタイプに分けて、みなさんといっしょに考えていきたいと思います。(1)力関係でつながる―ピラミッド型まずは、分かりやすいので、帝国重工の部長の財前と彼の上司・部下とのコミュニケーションを見てみましょう。財前が三千人の部下の前でロケット開発の勇ましい演説をして、部下たちを奮起させるシーン。その部下たちの目の前で、財前は社長から「頼むぞ」と励まされます。しかし、その直後、直属の上司である本部長から「(社長の思い通りにロケットを飛ばすことが)できなかったら君も私も・・・(降格させられるぞ)」と脅されます。財前は静かに「分かっております」と返事をするのです。大企業の帝国重工は、社長をトップとして、その下に本部長、部長、主任、そして一般社員を従える完全な階級構造です。これは、ピラミッド型と言えます。その特徴は、組織のさらなる発展という目的のために、成果主義など制度がしっかりしていること、そして序列主義など上下関係がはっきりしていて、命令に背けば命がないくらいの強さや恐怖(ノルアドレナリン)があります。つまり、力関係でつながっています。このタイプになりやすいのは、比較的に大人数で、男性が多く、マニュアル行動を行う集団であると言えます。例えば、大企業のほかに、自衛隊、消防隊、官僚などの公的組織やスポーツチームなどです。プラス面としては、大人数で協力してより大きなことを成し遂げる、つまり成果を確実に上げることができます。また、大きくて強い組織に所属しているというブランド力や経済的な安定感があります。ドラマの中で、帝国重工の社員が「それが帝国重工マンとしてのプライドだ」と誇らしげに言うシーンがありました。一方、マイナス面としては、組織の歯車として管理されることで決められたことしかできずに裁量の自由がなくなってしまうことです。また、「ぴりぴり」の関係なので、順応さや従順さを求められることで、部下が上司にイエスマンとなり、組織の現状の批判や新しいアイデアで組織をより良くしていこうという創造性が抑えられます。そして、組織の不正(チームエラー)を指摘することを憚ってしまい、隠ぺい体質を生み出すリスクもあります。例えば、2016年に某自動車会社の燃費不正が長年に渡って行われていたという不祥事が挙げられます。 財前が佃に肩入れする行動を、本部長(財前の直属の上司)が見かねて、主任(財前の直属の部下)を取り込みます。するとやがて、その主任は財前を出し抜こうとするようになるのです。このように、ピラミッド型は、組織(制度)への忠誠心はありますが、力関係でつながっている仲なので、実は上司と部下の信頼関係は希薄であることが分かります。実際に、かつての部下が今の上司という状況になった時、より葛藤が起きやすくなります。 また、夫が妻の上に立つピラミッド型の夫婦関係においても、夫がリストラや定年退職になり経済的な成果を上げられなくなった時や、子どもが巣立って経済的な負担が減った時に関係が破綻しやすくなります。それが、熟年離婚です。(2)信頼関係でつながる-ファミリー型次に、佃製作所の社長の佃と彼の部下とのコミュニケーションのスタイルを見てみましょう。財前が佃製作所を訪ねてきた時に、佃が職員を紹介するシーン。ある職員が「社長、昨日はごちそうさまでした」「(娘がお土産を)おいしいおいしいとむしゃぶり食ってました」とお礼を言い、職員の皆が佃と親しく接しています。中小企業の佃製作所は、社長と一般社員との心理的距離が近く、まるで家族のような人間関係を築いていて、優しさや安心感(セロトニン)があります。これは、ファミリー型と言えます。その特徴は、ピラミッド型とは対照的に、社員の一人一人が大事にされ、信頼関係でつながっています。このタイプになりやすいのは、比較的に少人数で、女性が多く、長期間の集団であると言えます。例えば、中小企業のほかに、集団登山、護送船団、サークル活動などです。プラス面としては、とにかく居心地が良いことです。一方、マイナス面としては、プラス面の裏返しで、序列が緩やかで「なあなあ」の関係なので、ピラミッド型のように成果がそれほど求められないことです。また、現状を批判しにくく、気を遣ってミスや怠けをかばい合い、うやむやにしてしまいます。それほど必死になって仕事に貢献しなくなることで、会社としての競争力を落とすリスクが高まります。さらには、疑似家族ならではの心理的距離の近さや人間関係の固定化により、長期的には古株のメンバーが既得権を振りかざしたり、不仲な社員同士が足を引っ張り合うなど、逆に人間関係が煮詰まるリスクもあります。(3)協力関係でつながる-フラット型最後に、佃と技術開発部門の山崎、佃と経理部長の殿村、そして佃と財前のコミュニケーションのスタイルをそれぞれ見てみましょう。かつて佃が山崎を他社から引き抜こうとした時に、彼は「君には夢があるか?おれにはある」「いつか自分の作ったエンジンでさ」「ロケットを大空に飛ばしたいんだ」と語ります。その思いに山崎は突き動かされたのでした。また、経理部長の殿村は、佃に渋い進言をし続け、「おれがみんなに嫌われていることは分かってる」「おれはこの会社が好きだ」「能力や技術力があるのに日の目を見ない企業を助けたかった」「(もともと)銀行員として物作り日本の手助けをしたかった」「それがおれの夢でした」と語っています。さらに、財前は、佃製作所の技術力の高さと佃のひたむきさに打たれ、同じ技術者として佃との友情が芽生え、ロケット打ち上げの成功という同じ目標を共有して、部品供給を受け入れます。佃とこの3人との人間関係は、力関係でもなく、信頼関係だけでもない平ら(平等)な関係によって、同じ夢に向かう楽しさや好奇心(ドパミン)があります。これは、フラット型と言えます。その特徴は、お互いが同じ目標に向かうために協力関係でつながっています。このタイプになりやすいのは、10人くらいまでの少人数で、集団の目的とそれぞれのメンバーの役割がはっきりしており、目的が達成されれば解散するという比較的短期間の集団であると言えます。例えば、職場のプロジェクトチーム、航空機のコクピットクルー、手術チーム、当直メンバー、チームスポーツ、裁判員(陪審員)などです。プラス面としては、お互いに率直な意見を言い合えて、オープンであることです。「ぴりぴり」のピラミッド型や「なあなあ」のファミリー型とは違って、「はきはき」の関係なので、相手のミスへの指摘に遠慮はしません。そして、創造的でより強いチームワークを発揮します。なぜなら、お互いの目標を達成するために関係を築いているからです。一方、マイナス面としては、お互いの目標にずれが起きた場合、その折り合いを付ける粘り強さが必要です。そして、折り合いがつかない場合は、関係の解消という選択肢もありえるということです。このドラマでは、特許を早々と高く売るか、使用契約にして将来への投資とするか大もめになっていました。私たちの職場の人間関係においても、例えば、病院(組織)の利益優先か患者(顧客)の満足度優先か、効率か後輩教育か、家族優先か仕事優先かなど様々にあります。家庭の人間関係においては、貯金優先か余暇優先か、のびのびとした子育てかしつけの行き届いた子育てかなど様々です。3つのコミュニケーションのタイプの違いはなぜ「ある」の?これまで、3つのコミュニケーションのタイプを見てきました。そして、なぜこのようなタイプの違いになるのかも分かってきました。それでは、そもそもなぜこのようなタイプの違いが「ある」のでしょうか?その答えは、これらの3つのコミュニケーションのタイプは、私たちの子ども時代のコミュニケーションのパターンを繰り返しているからです。例えば、ピラミッド型は父親をはじめとする男性年長者とのコミュニケーション、ファミリー型は母親をはじめとする女性年長者とのコミュニケーション、フラット型は年齢の近い兄弟姉妹や友達とのコミュニケーションであると言えます。つまり、コミュニケーションのパターンは、家族モデルが基盤になっているということです。この家族モデルの心理は、進化心理学的に言えば、私たちがヒトとなり体と心(脳)を適応させていった原始の時代の700万年前から進化したと考えられます。当時から、男性(父親)は食糧を確保し、女性(母親)は子育てをして、性別で分業をして家族をつくりました。そして、この基本となる家族が血縁によっていくつも集まって100人から150人の大家族の生活共同体(村)をつくりました。この当、遠出して食料を確保したい父親(男性)たちは、ピラミッド型のコミュニケーションによって成果を確実に上げました。一方、村にとどまっていっしょに子育てをしたい母親(女性)たちは、ファミリー型のコミュニケーションによって居心地を良くしました。そして、早く一人前になりたい子どもたちは、遊びを初めとするフラット型のコミュニケーションによっていっしょに何かを成し遂げ成長しました。そして、よりそうした種が生き残ったのです。その子孫が、現在の私たちであるというわけです。コミュニケーションのタイプはリーダーシップ理論にも重なる-グラフ1なお、このコミュニケーションのタイプは、社会心理学のリーダーシップにおけるPM理論にも重なります。この理論は、まずグラフ1のように、縦軸を目標達成度(Performance)、横軸を集団維持度(Maintenance)とします。すると、3つのコミュニケーションのタイプはグラフのような位置取りになります。ピラミッド型は、成果主義により目標達成度は高いです。しかし、人間関係の信頼感がない分、集団維持度は低いです。一方、ファミリー型は、居心地が良い分、集団維持度は高いです。しかし、成果があまり求められなくなるため、目標達成度は低くなります。そして、フラット型は、同じ目標を目指すという原動力がある限りにおいては目標達成度も集団維持度も高くなります。つまり、コミュニケーションは、二者関係におけるリーダーシップとも言えます。コミュニケーションのタイプがずれていたら?それでは、これらのコミュニケーションのタイプがずれていたらどうなるでしょうか? タイプの違う組み合わせによる3つのずれのパターンを、それぞれの登場人物たちのコミュニケーションから考えてみましょう。(1)ピラミッド型VSファミリー型佃と先代から長年ひいきの白水銀行とのやりとりのシーン。佃は窮地の状況で「お互い信頼関係あっての取引だったはずです」と言い、融資を申し出ます。しかし、「融資ってのは」「ビジネスです」とあっさり突っぱねられてしまいます。そのわけは、佃が銀行の意向に背いて研究費への投資の大幅な削減を渋ったからでした。ファミリー型で接していた佃は、本来ピラミッド型である銀行マンの心理を読み違えていたのでした。その心理は、力関係を見せ付け、成果がなければ切り捨てるというコミュニケーションです。今度は逆に、佃が窮地を脱して多額の利益を得たシーン。その銀行マンが平謝りで、すり寄ってきます。しかし、佃は「おれはあんたたちにされた仕打ちは絶対に忘れない」「同じ人間としておれはあんたらを全く信頼できない」と一喝します。ピラミッド型の銀行マンは、下手(したて)に出れば、関係が修復できると踏んでおり、佃の心理を読み違えていたのでした。その心理は、どんなに成果が得られても、信頼できない相手とは関係を持たないというコミュニケーションです。ピラミッド型かファミリー型かというコミュニケーションのタイプの違いは、私たちの職場においても起こります。例えば、会社と直属上司の板挟みになる部下です。まさに、このドラマの主任(財前の直属部下)の心理です。この主任のように迷うことなくピラミッド型のコミュニケーションをとることもできます。しかし、直属上司のとの信頼関係が厚い場合は、直属上司に着いていくというファミリー型のコミュニケーションをとることもできます。この場合、大事なことは、自分はどうしたいのかということです。これは、ちょうど2016年の国民的人気アイドルグループの解散騒動に重なります。長年いっしょにいたマネージャー(直属上司)の独立に伴い、多くのメンバーたちがそのマネージャーの独立に着いていくとファミリー型のコミュニケーションをとりました。ところが、1人のメンバーだけがもともとの会社に残るというピラミッド型のコミュニケーションをとったのでした。この騒動に正解はありません。会社と直属上司の板挟みになる局面において、メンバーのコミュニケーションのタイプの違いが浮き彫りになってしまったということです。また、恋人関係や夫婦関係などのパートナーシップにおいて、ピラミッド型のコミュニケーションをファミリー型の相手にしていたらどうなるでしょうか? よく言えばオラオラ系、亭主関白、かかあ天下になります。しかし、それは、悪く言えばDVやモラルハラスメントでもあります。なぜなら、ファミリー型の相手は被害を受けても関係性を重視して、別れようとはしないからです。さらには、親子関係において、親がファミリー型のコミュニケーションをピラミッド型のコミュニケーションをする成人した子どもにし続けたらどうなるでしょうか? うまく行けば一見とても仲の良い家族になります。それは、面倒見の良い親が、わがままな子どもの言いなりになるからです。しかし、うまく行かなければ、子どもが実家の居心地の良さに安住して自立しなくなったり、ひきこもりになってしまいます。(2)フラット型VSピラミッド型財前は、ロケットの部品全てを自社製品で揃えるという社長のこだわりに背きます。佃製作所から部品供給を受ける方向で動き、最終的には、幹部会議の中で、帝国重工社長に進言するのです。そして、会議は緊迫します。財前がピラミッド型の社長にあえてフラット型の進言をしています。財前もその行動のリスクは重々承知しています。結果的に、社長は財前の粘り強い説得に納得し、「賭けてみるか、どん底から這い上がった男に」と言います。そのわけは、社長がもともと技術者出身で、佃のロケットを飛ばすという熱意と技術に共感すると財前は踏んでいたからでした。財前は、社長の心の中になるフラットな心理を引き出したのでした。また、佃が高校生の娘にかかわるシーンを見てみましょう。佃は、娘が部活をサボったことに腹を立て、ノックもせずに部屋に押し入ります。そして、「お前、何やってんだ!」「親に向かって何だ!その口の聞き方は!?」と一方的に叱り付けています。そして、娘の反抗心をますます煽っていました。もともと娘に対する佃のピラミッド型のコミュニケーションが抜け入れていないことが分かります。娘は反抗期であり、ピラミッド型のコミュニケーションによる子ども扱いのままでは逆効果です。その後に、佃は娘に「好きだったら納得のいくまで」「だめなら他にまだいくらでも夢中になれるものは見つかるよ」「焦らずにゆっくり探せばいい」と娘の思いを認めることで、娘は「私も自分の夢を絶対に見つけるから」と言い、分かり合えます。このように、同じ大人の仲間としてフラットに大人扱いすることが本思春期の子どもの心を動かすのです。私たちの職場においても、部下は、上司が自分から考えて動くことを望むフラット型なのか、それとも命令通りに動くことを望むピラミッド型なのかを察知することが重要であるということです。逆に、上司は、部下がとにかく良い仕事をしたいという純粋な自己実現を望むフラット型なのか、それとも職場内の評価やより高い役職を望むピラミッド型なのかを見極めることが重要です。それは、実務職(プレーヤー)を望むフラット型か、管理職(マネージャー)を望むピラミッド型なのかという違いでもあります。また、上司からの押し付けと部下からの突き上げの板挟みになる中間管理職が当てはまります。これは、上司がピラミッド型のコミュニケーションであるにもかかわらず、部下たちが言いたいことを言うフラット型のコミュニケーションをしているということになります。この場合、大事なことは、自分はどうしたいのかということです。自分も上司と同じくピラミッド型になるのか、逆に部下たちの言い分を飲むファミリー型になるのか、それともさらに自分のビジョンを打ち出すフラット型になるのかはっきりさせることが重要です。(3)ファミリー型VSフラット型佃製作所の社員たちが特許を早々と高く売るか、使用契約にして将来への投資とするかについて大もめになるシーン。ある社員が「うちにとって目の前の問題は資金繰りじゃないですか」「今この会社は生きるか死ぬかの瀬戸際なんですよ」と必死に訴えます。一方、幹部の山崎たちは「あの技術は絶対に手放したくありません」「汎用性の高い斬新なものなんです」「売ればその可能性を捨てることになる」と頑として言い返します。これは、佃(会社)に対して、一般の社員たちが会社(関係性)を残すことを優先するファミリー型のコミュニケーションを取っているのに対して、山崎などの幹部は目標(企業理念)を残すことを優先するフラット型のコミュニケーションを取っているからであると言えます。このタイプの違いから、実際に専業ママのママ友グループにワーキングママは溶け込みにくいことが分かります。そのわけは、専業ママたちは、多少の情報交換はしていますが、お互いをねぎらったり励ましたりするなどを通して関係性を重視しており、集まることに意義があるファミリー型だからです。一方、ワーキングママは、職業的な視点が働きつい目的志向になってしまい、言いたいことをずばずば言ってしまうフラット型だからです。すると、専業ママにとっては、ワーキングママはきつい存在となります。一方、ワーキングママにとっては、専業ママたちは退屈な存在になってしまうというわけです。また、私たちが相談事を受ける時も注意が必要になることが分かります。それは、相談相手が、どのコミュニケーションのタイプの答えを求めているかということです。とりあえず「つらかったね」「大変だね」と受け止めることだけを求めるファミリー型なのか、解決のための手厳しい答えを求めるフラット型なのかという見極めが必要になります。それぞれのコミュニケーションのタイプをどうやって変える?それでは、それぞれのコミュニケーションのタイプをどうやって変えることができるでしょうか? コミュニケーションのタイプが相手、状況(集団)、時代によって変化することを踏まえて、いっしょに考えていきましょう。(1)ピラミッド型まず、ピラミッド型に変えるにはどうしたら良いでしょうか? 自分が上司の場合と部下の場合に分けて整理しましょう。自分が上司の場合、より上手(うわて)に出ることがポイントです。これは、相手との力関係を意識させるかかわり、つまり見張ることです。わがままになるのとはまた別です。その1つが、「報・連・相」の強化です。報告、連絡、相談をより多くするよう指示して、そうしなかったら、ダメ出しをすることです。また、褒め叱りの徹底も同様に効果的です。逆に、自分が部下の場合、基本的に下手(したて)に出ることがポイントです。これは、相手との力関係を受け入れる態度を表向きに見せる、つまり見張られることを受け入れることです。完全に言いなりになるのとはまた別です。こちらから、「報・連・相」を徹底することです。そのほかに使えるワザとして、「褒め殺し」が有名です。「すごいでねえ」「さすがですね」とのワードを連発して相手を気持ち良くさせることです。そして、それ以上の要求を逆に言わせないやり方です。さらにその発展形が「詫び殺し」です。例えば、トラブルが起きた時、こちらが悪くなくても「すみません」「申し訳ない」とのワードをひたすら繰り返し、「何とかしてしたい気持ちでいっぱいなんです」「これが私の精一杯なんです」と添えます。特に、医療機関で待ち時間が長いなどのクレームにおいて、こちらが上から目線で突っぱねるピラミッド型は不適切です。かと言って、フラット型のコミュニケーションで正論を言っても、特にプライドの高い高齢者は理解力の限界も相まってなかなか納得をしてもらえない可能性があります。そんな時、相手にそれ以上の文句を言わせないかかわりとして効果的であると言えます。(2)ファミリー型次に、ファミリー型に変えるにはどうしたら良いでしょうか? それは、グッドリスナーになることがポイントです。これは、相手との信頼関係を高めるために、話をよく聞くことを通して、あなたの味方であるというメッセージを伝えること、つまり見守ることです。合いの手としては、「大変だね」(共感)、「その気持ち分かるよ」(受容)、「大丈夫だよ」(保証)などのワードが使えます。そして、観察力を鋭くして、褒めることを増やし、目をかけることです。また、いっしょに食事をすることです。注意したいのは、逆に助言、激励、結論などの自分の意見は不要です。これは、相手を丸ごと受け止めていないと思われてしまったり、相手をつい良いか悪いか審判してしまうリスクがあるからです。また、相手との共通点を見つけるのも良いでしょう。これは、相手との共通点が多ければ多い方が、より親近感を抱くという理論に基づいています(社会的交換理論)。(3)フラット型最後に、フラット型に変えるにはどうしたら良いでしょうか? それは、自分の目標(ビジョン)をはっきりさせること、そして相手の目標(ビジョン)とすり合わせることです。これは、相手との協力関係を高めるために、お互いの目標を見合うことでもあります。例えば、自分が目標に向かって生き生きとがんばっている背中(モデル)を見せることです。さらには、どこにどう向かっているのか分かりやすく見せるプレゼン力も重要でしょう。子育てにおいて言えば、母親が「勉強しろ」とガミガミと言い続けるピラミッド型のコミュニケーションには限界があります。その母親が専業主婦として優雅な生活をしていたらなおさらです。子どもに一生懸命さを求めるのであれば、まず親が何かに打ち込んで一生懸命になっている背中を見せるフラット型のコミュニケーションが効果的です。また、相手に役割意識を見いだすことも重要です。例えば、「あなただからこそやってもらいたい」「あなたならできる」という働きかけによって、相手の自信や責任感を引き出すことができます。これからの医療のコミュニケーションモデルとは?―パターナリズムからSDMへ昨今の医療においては、患者だけでなく、医療関係者の価値観や治療選択も多様化してきています。そして、時代はより医療に説明を求めてきています。そんな時代に求められる医療のコミュニケーションモデルとは何でしょうか?かつて医療のコミュニケーションモデルは「お任せ」でした。医師が「この薬を飲んでください」や「手術が必要です」と説明抜きで一方的に言っていました。いわゆるパターナリズム(父権主義)です。これはピラミッド型が当てはまります。確かに、知的障害や認知症、自傷他害のおそれのある精神障害、そして伝染性の強い感染症については、このような強制的な対応が必要な場合があります。しかし、それはごく一部になってしまいました。また、特に心療内科や精神科の分野のコミュニケーションモデルは、「受け止める」です。これは、医療関係者が「つらいですね」と共感的に接することが主となっています。いわゆる傾聴を基本とする支持的精神療法です。これはファミリー型が当てはまります。しかし、このやり方は、問題への根本的な介入とはならないため、患者の問題は解決しないという課題が残ります。そして、最新の医療のコミュニケーションモデルは、「いっしょに決める」です。これは、治療をしないことも含めた治療の選択肢を医師が提案し、それを患者が医師といっしょに考えることです。インフォームドコンセント(IC)からさらに進んだやり方で、シェアード・ディシジョン・メイキング(SDM)と呼ばれています。これは、フラット型が当てはまります。ただし、この取り組みには、医師に膨大な労力がかかります。今後の課題としては、医師が患者への説明に追われて疲弊しない枠組みが求められます。これからの時代に求められるコミュニケーションとは?これからの時代に求められるコミュニケーションとは何でしょうか? 昨今の世の中のコミュニケーション環境は、医療に限らず多様化してきています。コミュニケーションのタイプの違いを知った今、そしてずれによる危うさを知った今、その答えとは、相手や状況によって、コミュニケーションのタイプのバランスをとったりギアチェンジをすることではないでしょうか?1)糸井戸潤:下町ロケット、小学館文庫、20132)小野善生:リーダーシップ理論、日本実業出版社、20133)山岸俊男監修:社会心理学、新星出版社、2011

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医師への苦情の第1位は説明不足!? 患者が求めるコミュニケーションとは

 患者の意思決定支援はどうあるべきかを患者視点から検討する「第2回SDM(シェアード・ディシジョン・メイキング)フォーラム2016『患者視点から考えるヘルスコミュニケーション』」1)が8月25日都内で開催され、3人の患者団体の代表2)3)4)が講演した。 同フォーラムを主催した厚生労働行政推進調査事業費補助金「診療ガイドラインの担う新たな役割とその展望に関する研究」班の代表である中山 健夫氏(京都大学大学院 医学研究科社会健康医学系専攻健康情報学分野 教授)は、診療ガイドラインは、最善の患者アウトカムを目指した推奨を提示することで、「患者と医療者の意思決定を支援する文書」であるという定義を紹介し、とくに不確実性の高い治療選択においてSDMが重要であることを強調した。他の職種より医師への不満が断トツに多い理由とその改善策とは 全国の患者からの電話相談事業を実施している認定NPO法人 ささえあい医療人権センターCOML2)理事長の山口 育子氏によると、医師への不満は、例年相談内容の上位に入っており、全体の約25%を占めることが紹介された。これは看護師や薬剤師など他の医療職種に対する不満と比べて突出して多いという。 山口氏は「ヘルスコミュニケーション改善のカギは“チーム医療”である」と考えている。患者は希望や意向を医師には正直に言いにくい、ということがしばしば見受けられるため、多様な職種が関わる中での患者の意思決定支援が望ましいことを説明した。 また、相談内容を分析した結果、医師への不満の背景として、患者や家族が、薬の情報、リハビリテーション、日常生活の疑問、転院に関する問題など医療に関するあらゆる情報や支援などすべてを医師に期待する傾向があるため、このように不満が医師に集中する結果になっていると考えている。医療機関において、チーム医療体制は定着しつつあるが、患者に看護師や薬剤師の役割・専門性について質問しても答えに窮する現状があるという。医師以外の医療職種が何のために存在しているのか、患者に説明される機会はほとんどないため、ぜひそれぞれの医療職種の役割・専門性について患者に伝えてほしいと訴えた。医師への苦情第1位は説明不足!? 原因は“日本版”インフォームドコンセント 医師に対する不満や苦情の内容で最も多いのが、非常に基本的な情報に関して「説明を受けていない」というもの。そのような相談受けた際に、山口氏は、本当に説明がなかったのかどうか必ず丁寧に患者に確認するようにしている。すると、実際には手術や化学療法など大きな決断が必要となる場面では、「1時間ほど説明があった」などと判明することがよくあるそうだ。 この食い違いの原因として考えられるのは、インフォームドコンセントが日本では単に「説明すること」に重きが置かれている点である。治療に関する意思決定が必要な際に多くの場合、患者は専門的な説明を、長い時間にわたり口頭で聞き続けるが、その内容すべてを記憶しておくことは困難である。実際にそのとき話を聞いていたとしても、理解ができていないと、後から「聞いていない」という訴えになってしまうのだ。高齢の患者が増加し、患者自身が説明を理解することが困難なケースも珍しくない中で、どのように必要な情報を共有するかは大きな課題であり、支援ツールの活用などが求められる。医師から患者に「メモを取ってもよい」と伝えて 患者は医師に対する遠慮や自身のプライドなどから、理解していなくてもうなずくことがしばしばあるという。よって、「うなずいたから理解している」と思うのは危険であり、患者自身に言語化してもらい、理解を確認することが大切である。また、口頭による説明には限界があるため、理解の補助として、メモや治療に関する資料などの活用も期待される。とくに、患者はメモを取ることが「医療者に対して失礼では」「やっかいな患者と思われるのでは」などと心配し、控えることがあるため、ぜひ医療者から「メモを取ってもよい」ことを患者に伝えてほしいと山口氏は述べた。インフォームドコンセント、なぜこのタイミング? 潰瘍性大腸炎患者の参加者からは、手術の具体的な説明が手術前日であったことに対する不満が紹介された。手術の前日は非常に緊張していたため、説明内容をほぼ理解できなかったという。「医療提供者側にもさまざまな事情はあると思うが、もっと前に説明してくれれば落ち着いて聞くことができ、理解できたと思う」と同参加者は述べた。 これを受けて登壇者の認定NPO法人 健康と病の語り ディペックス・ジャパン3)理事・事務局長の佐藤 りか氏は、同団体が運営する患者体験談データベースではこのような患者自身の医療・健康にまつわる体験動画が閲覧できるため、ぜひ多くの医療者にも活用してほしいと述べた。(ケアネット 後町 陽子)参考資料1)第2回SDM(シェアード・ディシジョン・メイキング)フォーラム2016(PDF)2)認定NPO法人 ささえあい医療人権センターCOML(コムル)3)認定NPO法人 健康と病いの語り ディペックス・ジャパン4)日本患者会情報センター

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結節性多発動脈炎〔PAN: polyarteritis nodosa〕

1 疾患概要■ 概念・定義主として中型の筋性動脈が侵される壊死性動脈炎である。国際的な血管炎の分類であるChapel Hill Consensus Conference 2012分類(CHCC2012)1)では、血管炎を障害される血管のサイズにより分類しており、本疾患はmedium vessel vasculitis(中型血管炎)に分類されている。剖検時に動脈に沿って粟粒大から豌豆大の小結節が多発して認められる場合があり、KussmaulとMaierにより結節性動脈周囲炎として1866年に提唱された。現在では、結節性多発動脈炎(polyarteritis nodosa:PAN)の呼称が一般的に用いられている。本症の壊死性動脈炎は、肝臓、胆嚢、脾臓、消化管、腸間膜、腎泌尿生殖器、皮膚、骨格筋、中枢神経系、心臓、肺など全身に認め、とくに血管の分岐部が侵されやすい。肺では気管支動脈に病変を認め、肺動脈が侵されることはまれである。原則として腎糸球体は侵されない。■ 疫学50~60歳に好発し、男女比では男性にやや多い。厚生労働省より結節性動脈周囲炎として、特定疾患医療受給者証を交付された患者数は2011年の時点でおよそ9,000人であるが、この中には顕微鏡的多発血管炎の患者も含まれているので、PANの患者が実際にどのくらい存在するかは不明である。しかしながら、PANの患者数は顕微鏡的多発血管炎に比べて圧倒的に少なく、500人未満と推定される。2006年以降、PANと顕微鏡的多発血管炎は別個に登録されるようになったため、今後その実数が明らかになるものと思われる。■ 病因不明である。アデノシンデアミナーゼ2(adenosine deaminase 2: ADA2)の一塩基多型による先天的機能欠損が、小児期のPAN類似血管症の原因となることが報告されている2、3)が、成人例でADA2の量的または質的異常があるとの報告はない。本疾患に特徴的な自己抗体は知られていない。■ 症状発熱や全身倦怠感、体重減少のほか、急速進行性腎障害、高血圧、中枢神経症状、消化器症状、紫斑、皮膚潰瘍、末梢神経障害などの多彩な症状を呈する。■ 分類本症の組織学的病期はArkinにより、I期:変性期、II期:炎症期、III期:肉芽期、IV期:瘢痕期に分類されている(Arkin分類)。変性期には内膜から中膜にかけて、浮腫とフィブリノイド変性が認められる。炎症期には中膜から外膜にかけて、好中球、時に好酸球、リンパ球、形質細胞が浸潤し、フィブリノイド壊死は血管全層に及ぶ。その結果、内弾性板は破壊され、断裂、消失する。炎症期が過ぎると、組織球や線維芽細胞が外膜より侵入し、肉芽期に入る。肉芽期には内膜増殖が起こり、血管内腔が閉塞するほど高度になることがある。瘢痕期では、炎症細胞浸潤はほとんどみられず、血管壁は線維性組織に置換される。このような場合でも、弾性線維染色を行うと内弾性板の断裂が認められ、診断に有用である。また、これら各期の病変が、同一症例内に同時期に混在して認められることも特徴である。■ 予後本症の予後は急性期の治療によるところが大きい。副腎皮質ステロイドによる治療を基本としたフランスの臨床研究では、57例中48例(84.2%)が初期治療により寛解し、残りの9例中8例も免疫抑制薬の併用などにより寛解導入されている4)。しかしながら、寛解導入された56例中、26例(46.4%)で再燃しており、再燃率は比較的高いといえる。5年生存率は90%強である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)厚生労働省指定難病診断基準(難治性血管炎に関する調査研究班2006年改訂)に基づいて行われる(表1)。重症度に応じて、1度~5度に分類される(表2)。表1 結節性多発動脈炎の診断基準(厚生労働省難治性血管炎に関する調査研究班2006年改訂)【主要項目】1) 主要症候(1)発熱(38℃以上、2週以上)と体重減少(6ヵ月以内に6kg以上)(2)高血圧(3)急速に進行する腎不全、腎梗塞(4)脳出血、脳梗塞(5)心筋梗塞、虚血性心疾患、心膜炎、心不全(6)胸膜炎(7)消化管出血、腸閉塞(8)多発性単神経炎(9)皮下結節、皮膚潰瘍、壊疽、紫斑(10)多関節痛(炎)、筋痛(炎)、筋力低下2) 組織所見中・小動脈のフィブリノイド壊死性血管炎の存在3) 血管造影所見腹部大動脈分枝(とくに腎内小動脈)の多発小動脈瘤と狭窄・閉塞4) 判定(1)確実(definite)主要症候2項目以上と組織所見のある例(2)疑い(probable)(a)主要症候2項目以上と血管造影所見の存在する例(b)主要症候のうち(1)を含む6項目以上存在する例5) 参考となる検査所見(1)白血球増加(10,000/μL以上)(2)血小板増加(400,000/μL以上)(3)赤沈亢進(4)CRP強陽性6) 鑑別診断(1)顕微鏡的多発血管炎(2)多発血管炎性肉芽腫症(旧称:ウェゲナー肉芽腫症)(3)好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(旧称:アレルギー性肉芽腫性血管炎)(4)川崎病動脈炎(5)膠原病(SLE、RAなど)(6)IgA血管炎(旧称:紫斑病性血管炎)【参考事項】(1)組織学的にI期:変性期、II期:急性炎症期、III期:肉芽期、IV期:瘢痕期の4つの病期に分類される。(2)臨床的にI、II期病変は全身の血管の高度の炎症を反映する症候、III、IV期病変は侵された臓器の虚血を反映する症候を呈する。(3)除外項目の諸疾患は壊死性血管炎を呈するが、特徴的な症候と検査所見から鑑別できる。表2 結節性多発動脈炎の重症度分類●1度ステロイドを含む免疫抑制薬の維持量ないしは投薬なしで1年以上病状が安定し、臓器病変および合併症を認めず、日常生活に支障なく寛解状態にある患者(血管拡張剤、降圧剤、抗凝固剤などによる治療は行ってもよい)。●2度ステロイドを含む免疫抑制療法の治療と定期的外来通院を必要とするも、臓器病変と合併症は併存しても軽微であり、介助なしで日常生活に支障のない患者。●3度機能不全に至る臓器病変(腎、肺、心、精神・神経、消化管など)ないし合併症(感染症、圧迫骨折、消化管潰瘍、糖尿病など)を有し、しばしば再燃により入院または入院に準じた免疫抑制療法ないし合併症に対する治療を必要とし、日常生活に支障を来している患者。臓器病変の程度は注1のa~hのいずれかを認める。●4度臓器の機能と生命予後に深く関わる臓器病変(腎不全、呼吸不全、消化管出血、中枢神経障害、運動障害を伴う末梢神経障害、四肢壊死など)ないしは合併症(重症感染症など)が認められ、免疫抑制療法を含む厳重な治療管理ないし合併症に対する治療を必要とし、少なからず入院治療、時に一部介助を要し、日常生活に支障のある患者。臓器病変の程度は注2のa~hのいずれかを認める。●5度重篤な不可逆性臓器機能不全(腎不全、心不全、呼吸不全、意識障害・認知障害、消化管手術、消化・吸収障害、肝不全など)と重篤な合併症(重症感染症、DICなど)を伴い、入院を含む厳重な治療管理と少なからず介助を必要とし、日常生活が著しく支障を来している患者。これには、人工透析、在宅酸素療法、経管栄養などの治療を要する患者も含まれる。臓器病変の程度は注3のa~hのいずれかを認める。注1:以下のいずれかを認めることa.肺線維症により軽度の呼吸不全を認め、PaO2が60~70Torr。b.NYHA2度の心不全徴候を認め、心電図上陳旧性心筋梗塞、心房細動(粗動)、期外収縮あるいはST低下(0.2mV以上)の1つ以上を認める。c.血清クレアチニン値が2.5~4.9mg/dLの腎不全。d.両眼の視力の和が0.09~0.2の視力障害。e.拇指を含む2関節以上の指・趾切断。f.末梢神経障害による1肢の機能障害(筋力3)。g.脳血管障害による軽度の片麻痺(筋力6)。h.血管炎による便潜血反応中等度以上陽性、コーヒー残渣物の嘔吐。注2:以下のいずれかを認めることa.肺線維症により中等度の呼吸不全を認め、PaO2が50~59Torr。b.NYHA3度の心不全徴候を認め、胸部X線上CTR60%以上、心電図上陳旧性心筋梗塞、脚ブロック、2度以上の房室ブロック、心房細動(粗動)、人口ペースメーカーの装着のいずれかを認める。c.血清クレアチニン値が5.0~7.9mg/dLの腎不全。d.両眼の視力の和が0.02~0.08の視力障害。e.1肢以上の手・足関節より中枢側における切断。f.末梢神経障害による2肢の機能障害(筋力3)。g.脳血管障害による著しい片麻痺(筋力3)。h.血管炎による肉眼的下血、嘔吐を認める。注3:以下のいずれかを認めることa.肺線維症により高度の呼吸不全を認め、PaO2が50Torr 未満。b.NYHA4度の心不全徴候を認め、胸部X線上CTR60%以上、心電図上陳旧性心筋梗塞、脚ブロック、2度以上の房室ブロック、心房細動(粗動)、人口ペースメーカーの装着、のいずれか2つ以上を認める。c.血清クレアチニン値が8.0mg/dLの腎不全。d.両眼の視力の和が0.01以下の視力障害。e.2肢以上の手・足関節より中枢側の切断。f.末梢神経障害による3肢以上の機能障害(筋力3)、もしくは1肢以上の筋力全廃(筋力2以下)。g.脳血管障害による完全片麻痺(筋力2以下)。h.血管炎による消化管切除術を施行。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)2006~2007年度合同研究班による『血管炎症候群の診療ガイドライン』の中で、「寛解導入療法と寛解維持療法の指針」が示されているので、以下に示す。■ 寛解導入療法1)副腎皮質ステロイドプレドニゾロン0.5~1mg/kg/日(40~60mg/日)を重症度に応じて経口投与する。腎、脳、消化管など生命予後に関わる臓器障害を認めるような重症例では、パルス療法すなわちメチルプレドニゾロン大量点滴静注療法(メチルプレドニゾロン500~1,000mg + 5%ブドウ糖溶液500mLを2~3時間かけ点滴静注、3日間連続)を行う。後療法としてプレドニゾロン0.5~0.8mg/日の投与を行う5)。2)ステロイド治療に反応しない場合シクロホスファミド点滴静注療法(intravenous cyclophosphamide:IVCY)または経口シクロホスファミド(CY)の経口投与(0.5~2mg/kg/日)を行う。IVCYは、シクロホスファミド500~600mg/生理食塩水または5%ブドウ糖溶液500mLを2~3時間かけて点滴静注し、4週間間隔、計6回を目安に行う6、7)。IVCY治療中は白血球減少に注意し3,000/㎜3以下にならないように次回のIVCY量を減量する。なお、CYは腎排泄性のため腎機能低下に応じて減量投与を行う(クラスIIb、レベルC)8)。表3に年齢、腎機能に応じたIVCY量を示す。なお、IVCYは経口CYに比べて有効性は同等だが副作用が少ないと報告されている9)。画像を拡大するその他の免疫抑制薬としてアザチオプリン、メトトレキセートも用いられる(クラスIIb、レベルC)9)。いずれも腎排泄性である。アザチオプリンは腎機能低下時には減量が必要であり、メトトレキセートは腎不全には禁忌である。3)重要臓器傷害の重症例肺・腎・消化管・膵などの重要臓器を2ヵ所以上傷害された重症例では、ステロイドパルスと共に血漿交換療法を行い、生命予後を改善させるようにする(クラスIIb、レベルC)10、11)。4)HBウイルス肝炎併発例活動性のHBウイルス肝炎を伴っている場合には、抗ウイルス薬および免疫複合体除去目的で血漿交換療法を併用する(クラスIIb、レベルC)5、6)。■ 寛解維持療法初期治療による寛解導入後は、再燃のないことを確認しつつ副腎皮質ステロイド薬(プレドニゾロン)を漸減し維持量(5~10mg/日)とする。副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制薬の治療期間は原則として2年を超えない(クラスIIb、レベルC)12)。CYは3ヵ月間用い、その後寛解維持薬として、より副作用の少ないアザチオプリンに変更し、半年~1年間用いる(クラスIIb、レベルC)13)。なお、免疫抑制薬、血漿交換療法は、本疾患に対する保険適用薬でないため、投薬時には十分なインフォームドコンセントが必要である。4 今後の展望血管炎症候群の中でも、顕微鏡的多発血管炎などのANCA関連血管炎の病因・病態解明が進み、新規治療法が考案されてきているのに対し、PANに対する基礎研究ならびに臨床研究は、ここ数年あまり大きな進展が得られていないのが実情である。とはいえ、厚生労働省難治性血管炎に関する調査研究班をはじめとする地道な基礎的・臨床的研究が継続されており、その中からブレイクスルーが生まれることが期待される。5 主たる診療科膠原病・リウマチ科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 結節性多発動脈炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本血管病理研究会(医療従事者向けのまとまった情報)1)Jennette JC, et al. Arthritis Rheum. 2013;65:1-11.2)Zhou Q, et al. New Engl J Med.2014;370:911-920.3)Navon Elkan P, et al. New Engl J Med.2014;370:921-931.4)Samson M, et al. Autoimmun Rev. 2014;13:197-205.5)中林公正ほか. ANCA関連血管炎の治療指針. 厚生労働省厚生科学特定疾患対策研究事業難治性血管炎に対する研究班(橋本博史編). 2002;19-23.6)Gayraud M, et al. Br J Rheumatol. 1997;36:1290-1297.7)Guillevin L, et al. Arthritis Rheum. 2003;49:93-100.8)難病医学研究財団/難病情報センター 免疫疾患調査研究班(難治性血管炎に関する調査研究班). IVCY治療における年齢、腎機能に応じたシクロホスファミドの投与量設定表. 難病情報センター. (参照 2015.1月26日)9)Jayne D. Curr Opin Rheumatol. 2001;13:48-55.10)Guillevin L, et al. Arthritis Rheum. 1995;38:1638-1645.11)寺田典生ほか. 日内会誌. 1988;77:494-498.12)Guillevin L, et al. Arthritis Rheum. 1998;41:2100-2105.13)Jayne D, et al. N Engl J Med. 2003;349:36-44.公開履歴初回2015年05月15日更新2016年06月07日

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第31回 特別編「医療事故調査制度」の概要と展望

2015年10月より医療事故調査制度が正式に始まった。医療事故調査・支援センターとして指定された「日本医療安全調査機構」には、2016年3月現在、累計で188件の医療事故報告(相談は累計1,012件)が行われている。今後、さらに報告を収集・分析していくことで、同じような医療事故を防ぐ防波堤となり、患者さんの医療安全へつながることが期待されている。本コンテンツでは、厚生労働省の「医療事故調査制度の施行に係る検討会」の構成員として、わが国の医療安全を担う新制度の構築に参画してきた医師・弁護士であり、「MediLegal」の執筆者である大磯 義一郎 氏(浜松医科大学医学部医学科医療法学 教授)に新制度の概要を聞いた。2015年10月に発足した医療事故調査制度の概要について教えてください。この医療事故調査制度の目的は、医療法の「第3章 医療の安全の確保」に位置付けられているとおり、「医療の安全を確保するために、医療事故の再発防止を行うこと」です。また、医療法上、この制度の対象となる医療事故は、「当該病院等に勤務する医療従事者が提供した医療に起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産であって、当該管理者が当該死亡又は死産を予期しなかったもの」とされています。そして、新医療事故調査制度では、この「医療事故」については、医療事故調査支援センターへの報告義務と調査義務が各医療機関の管理者(院長や施設長)に課せられています。どのような場合が「報告対象」に当たるかについては、1)「予期しなかった死亡」、かつ、2)「医療に起因する死亡」の2つの要件を満たす必要があります。1)の「予期しなかった死亡」とは、「当該死亡又は死産が予期されていなかったものとして、以下の事項のいずれにも該当しないと管理者が認めたもの」(医療法施行規則1条の十の二 第1項)と定義されており、国語辞典的な「そのようなことが起こるとは想定していなかった」という意味ではありません。省令では、(1)あらかじめ患者さんに説明していた場合、(2)診療録その他の文書等に記録していた場合、(3)管理者が医療従事者や医療安全管理委員会からの意見を聞き、当該死亡が予期できたと認めた場合のいずれにも該当しないと管理者が認めた場合には、本制度における「予期しなかった死亡」となるとしています。医療機関に対し、積極的に患者に情報提供をしたり、記録化を進めることで、報告義務を免除するというインセンティブを与えているのです。2)「医療に起因する死亡」とは、原則的には、侵襲的な医療行為(手術、処置、投薬、検査、輸血など)をいい、単なる療養、転倒や転落、誤嚥などの行為は本制度での「医療」には当たらず、報告の対象外とされています。発生した事故が、1)と2)の要件を満たすかどうかを最終的に管理者が判断することになります。その際、現場の医療従事者個人に過重な責任を負わせてきた過去の苦い反省を踏まえ、「当該医療事故に関わった医療従事者などから十分事情を聴取したうえで、組織として判断する」とされています。新制度では、院内調査が中心となり、その主体、調査手法については、管理者の幅広い裁量に委ねられています。したがって、外部委員を入れることは必須ではありません。最後に、医療機関が「医療事故」として医療事故調査・支援センターに報告した事案について、遺族または医療機関が医療事故調査・支援センターに調査を依頼した時は、医療事故調査・支援センターが調査を行うことができます。調査終了後、医療事故調査・支援センターは、調査結果を医療機関と遺族に報告することになります。画像を拡大する医療安全の議論から新制度発足まで、10年近くを要した経緯を教えてください。医療安全への取り組みは、一般に医療萎縮が始まったとされる大野病院事件が起こる、少し前からあった議論です。ただ、当時は医療安全が主たる目的ではなく、過熱した医療紛争の処理が中心的な課題でした。したがって、「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」では、個別事案の医学的評価、すなわち、誰の責任かを明らかにすることが中心的な活動となりました。その後、大野病院事件が発生し、医療領域への司法の過剰介入により医療萎縮が起こり、日本の医療が崩壊しかけました。このままでは日本の医療は本当に崩壊してしまうというところまで来て、ようやくトカゲのしっぽ切り的な責任追及ではなく、真面目に医療安全を行おうという機運が生まれてきました。そこで、ちょうどモデル事業が終了するということで、厚生労働省の支援により「医療安全」を主目的に、さらに発展拡大する本制度、組織の発足へとつながりました。この新しい制度では、医療事故事例を収集・集積し、内容を分析することで、次の事故の発生を防止し、患者さんの安全に役立てようということが理念として掲げられました。事故を起こした個人の責任追及の場には、決してしないということです。ただ、患者訴訟団体やその他の団体のそれぞれの思いもあり、本制度の設計の際には議論が難航しました。しかし、最終的に当初の理念通り、2015年10月に正式にスタートすることとなりました。制度構築の途中でとくに議論された事項は何ですか?新制度構築の中でとくに議論された内容は、その理念と運用です。この制度の理念は「医療安全」です。これについては、審議会でも、ほぼ異論なく受け入れられました。しかし、運用については、議論の途中で「医療事故を起こした個人への責任追及」や「裁判で使える文書作成」などさまざまな意見も出されました。そこで、わが国の医療安全のエキスパートに意見を聞いたり、諸外国の同じような制度との比較・検討により、医療安全のためには『WHOドラフトガイドライン2005』でも示しているように、「非懲罰性」と「秘匿性」を報告システムに盛り込むことが重要となりました。「医療安全」とは、将来の同種事故の発生リスクを低下させることで、患者さんの生命を守ることを目的としています。それに加え、患者さんに直接医療行為を行う頻度が高いことから、「加害者」の立場に立たされやすい未来ある若い医師、看護師など医療従事者を守ることも重要です。そうでないと、再び医療萎縮が再燃し、かえって患者さんの利益を害することになりかねないからです。医療事故は、確率的に何万回かに1回は、必ず起きます。これは人的、物的さまざまな要因により、完全に防ぐことは不可能です。ですから、たまたまそのときに行為者となった医療者だけに責任を負わせるような従来の事故対応では、今後も事故の発生を減少させることはできません。そこで、今回の制度では、個人責任追及ではなく、医療をシステムとして捉え、科学的に検証を行い、医療安全という結果を出していこうということが話し合われました。何よりも大事なことは、これまでの「収集事業」のように、医療事故のデータを収集するだけではだめで、分析、検証し、次のアクションへつなげることが重要です。一例を紹介しますと、米国でも日本と同じように脊髄撮影造影剤での事故が起きています。当初、日本と同じように造影剤の添付文書に警告を入れましたが、また同じような事故が起こった。なぜ同じ事故が起こるのか、分析し、検証することで医療者のダブルチェック体制の構築や薬剤保管場所の分離、臨床現場での啓発など具体的な行動が推奨され、事故を防止する対策が取られています。そして、この間、日本で行われたような個人への責任追及は行われていません。新しい医療事故調査制度では、医療事故データを集め、きちんとPDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルを回すこと。すなわちデータ収集・分析後、対応策を考え、その効果検証を行い、さらにブラッシュアップし、新しいサイクルを回すことが運用として求められます。日本では、約十数年の間、医療安全対策について何ら結果が出せていない状態でした。そのため、医療事故を科学的に検証し、ブラシュアップしていくことで、アウトカムを出そうということになりました。医療事故発生時の対応やグレーゾーン事案での対応はどうなりますか?医療事故発生時のフローは最初に述べたようになりますが、新制度で重要なことは、事故が起こった場合に、最初に本制度における「医療事故」に該当するか判断しなければなりません。新制度では、予期要件(患者さんへの説明と同意、カルテに記載など)があれば、医療機関へのインセンティブとして報告を免除する仕組みもあり、同じ態様の死亡事故でも、個々のケースで報告するか・しないかが変わってきます。医療起因性があるかどうかも含め、報告事案になるかどうかを、管理者は初めに見極める必要があります。原則として、病院などが患者さんへインフォームドコンセントやカルテへの記載で死亡のリスクを明示していれば、報告の必要はありません。しかし、そうでない場合、当該事故が予期できなかったのかおよびその事故がはたして医療に起因する死亡事故なのかどうか、判断する必要があります。ここで注意しておきたいのが、誤診のようなそもそも事故ではない場合や介助などの医療起因性のない場合は含まないということです。本制度は管理者に幅広い裁量権を認めておりますので、グレーゾーン事案では、管理者の判断に負うところが大きいと言えます。新制度はそのように規定していますので、管理者が判断し、事故の報告をする・しないを決定することになります。ただ、将来的にはグレーゾーン事案も、医療事故調査・支援センターへの報告が望ましいと全国の管理者が考えるようになればと考えています。そのためにも、医療事故調査・支援センターは、これまでのように、個別事案の評価を行い、個人責任の追及を支援していくのではなく、医療安全をサイエンスとして分析・検証し、医療安全という結果を示すことができる組織へと変身していく必要があると考えています。今後の新制度の展望について教えてください。また、個々の医療機関でできることには何があるでしょうか。まず、新制度に望むものとして、医療事故として報告された事例を収集するだけでおしまいではなく、医療安全のために、集めたデータを解析して、対策を立て、それを現場に落とし込んで、その効果を検証するというサイクルを回してほしいということです。検証していくことが、日本の医療をより良くしていきます。その中で医療事故調査・支援センターの役割は、大きくなる可能性があります。センターは、個別具体的な事案に捉われるのではなく、将来の同種事故を防ぐため、サイエンスとして医療安全を行い、結果を出していくことが重要になってくるでしょう。また、個々の医療機関でできることとして、院内でも事故防止のため独自に決めたPDCAサイクルを回しながら、日々の診療に当たることです。その際、患者さんへのインフォームドコンセントやカルテへの記載など、きちんと行うべきことは必ず実施してほしい事項です。関連リンク厚生労働省医療安全対策日本医療安全調査機構

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電子カルテ時代に抗菌薬不適切使用を減らす手法はあるか?(解説:倉原 優 氏)-484

 当然ながら、上気道感染症のほとんどに抗菌薬の処方は不要とされている。しかしながら、多くの病院やクリニックでは、安易に抗菌薬が処方されている。これは、患者からの希望、クリニックの評判、何か処方しないと満足度が得られない、抗菌薬が不要であることのインフォームドコンセントの時間が十分取れない、など医学的な側面以外の問題が影響しているかもしれない。当院でも、上気道症状を有する患者の多くは、すでに近医でフルオロキノロンを処方された状態で来院してくる。 この研究は、抗菌薬の不適切使用を減らすにはどうしたらよいかという疑問に基づいて、アメリカの47のプライマリケア施設で実施された臨床試験である。試験デザインは、クラスターランダム化比較試験で、同施設に勤務する248人の臨床医が登録され、合計18ヵ月間で介入を受けた。 具体的な介入方法としては、代替治療の提案(電子カルテで上気道炎に対して抗菌薬を処方しようとすると不適切使用のアラートが表示)、抗菌薬使用の理由をフリーコメント欄に記載(コメントは電子カルテ上に表示される)、同僚との比較(全参加者の中で自分の抗菌薬不適切使用の頻度を表示し、順位も定期的に配信)の3経路である。これら介入を単独あるいは組み合わせて実施された。また、全群で抗菌薬処方の教育が介入前に実施された。プライマリアウトカムは、介入前後の抗菌薬不適切処方の変化率である。どうだろう、どの手法が1番効果的と思われるだろうか。 その結果、抗菌薬の不適切使用の割合は、とくに処方理由を電子カルテにコメントさせること、同僚との順位付け比較を行うことで有意に減少した。そりゃそうだろう、という結果だ。抗菌薬が不適切だと電子カルテでも非難されて、それでもなお処方できる医師などそう多くはないはずである。 これら介入による弊害はどうだろうか。抗菌薬を処方しなかった患者のうち、細菌感染のため再受診した割合は、代替治療提案+理由記載の群でのみ1.41%と有意な増加があったが、それ以外では有意差はなかった。 ふむふむ、不適切使用は確かに減るだろう。とくに理由を記載するというアイデアは良いと思う。しかし、順位付けというのが、どうしても過剰な介入に思えてならないのは私だけだろうか。おそらく、そうしたレベルを分けた介入を行うことも本研究の意図だったのだろう。 日本の場合、上気道炎や感冒という病名をつけて抗菌薬を処方する医師はいない。おそらく、細菌性肺炎、細菌性気管支炎など抗菌薬の処方が明らかに妥当と認識されるよう病名をつけることが多いだろう。保険診療の根幹に根付く こうした“しきたり”に介入できる試験は、いつの日か日本で実施可能だろうか。

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アリスミアのツボ Q23

Q23心房細動に対するアブレーションの適応は?発作性心房細動、とくに若年者では積極的に……もちろんインフォームドコンセントが重要ですが。発作性心房細動に対するカテーテルアブレーションは、もうすでに円熟期に入っていると感じています。2回行うという前提で考えれば、80~90%が心房細動フリーになるといってよい時代です。症状のある発作性心房細動が紹介されると、一度は抗不整脈薬を試すのですが、それでもカテーテルアブレーションという方法があることを伝え、とくに若年者ではむしろ積極的に勧めています。日本における多施設での経験も、J-CARAF研究として報告されています(3,373例)1)。合併症は、穿刺部の出血などもすべて含めて4.5%で、ドレナージを要する心嚢液貯留が1.3%、TIA、症候性・無症候性脳梗塞を合算して0.3%、死亡例は0%という数字です。しかし、慢性心房細動になれば、この成功率は確保できず、まだ発展途上の治療方法という位置付けです。だから、心房細動に対するカテーテルアブレーションは、心房細動が発作性のうちに行う……若年者では、(1)抗不整脈薬ではやがていつの日か慢性化してしまう2)、(2)合併症発現率も許容範囲であること、を考えれば、積極的に勧めていいと思っています。ちなみに日本循環器学会のガイドラインでは次のような推奨がなされています。クラス I高度の左房拡大や高度の左室機能低下を認めず、かつ重症肺疾患のない薬物治療抵抗性で有症候性の発作性心房細動に、年間 50 例以上の心房細動アブレーションを実施している施設で行われる場合。クラス IIa 薬物治療抵抗性で有症候性の発作性および持続性心房細動。パイロットや公共交通機関の運転手など、職業上制限となる場合。薬物治療が有効であるが、心房細動アブレーション治療を希望する場合。1)Inoue K, et al. Circ J. 2014; 78: 1112-1120. Epub 2014 Mar 17.2)Kato T, et al. Circ J. 2004; 68: 568–572.

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モース顕微鏡手術の訴訟、6割以上が非専門医の施術

 米国・コネチカット大学のLogan S. D’Souza氏らは、モース顕微鏡手術(モース術)に関する訴訟について、オンラインデータベースを用い調査した。その結果、訴訟の多く(42件中26件)はモース術の非専門医に対する医療賠償請求であったことを明らかにした。結果を踏まえて著者は、「モース術の専門医と非専門医が密接に連携することが、双方のリスクを最小化し、より良好な患者ケアにつながる」とまとめている。JAMA Dermatology誌オンライン版2015年2月4日号の掲載報告。 研究グループは、モース術に関する医療賠償請求の特徴を明らかにする目的で、法的文書の全国データベースから検索語として「Mohs」および 「cancer」を含む訴訟文書を検索し、訴訟が起きた場所(州)、年、医師の専門、原告の訴え、判決などについて調査した。 主な結果は以下のとおり。・1989~2011年にモース術に関する医療賠償請求訴訟は、42件あった。・うち26件は、モース術の非専門医に対するもので、原告の主な訴えは診断の遅延または不履行(16件)、美容上の問題(8件)、インフォームドコンセントの欠如(7件)、モース術専門医への紹介の遅延または不履行(6件)であった。・16件はモース術専門医に対するもので、訴訟の主な原因は適切なインフォームドコンセントの欠如(5件)および美容上の問題(4件)であった。・モース術専門医に対する訴訟では、原告の訴えが認められたのは1件のみであった。

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【GET!ザ・トレンド】食物アレルギー

定義・病態1)2)食物アレルギーは「原因食物を摂取した後に、免疫学的機序を介して生体に不利益な症状(皮膚、粘膜、消化器、呼吸器、アナフィラキシーなど)が惹起される現象」を指し、食中毒や自然毒、免疫機序を介さない食物不耐症(仮性アレルゲンに伴う不耐症や乳糖不耐症など)は食物アレルギーと分けて区別する。疫学乳幼児期で5~10%、学童期で2~5%と考えられている。発症はそのほとんどが0~1歳であり、病型は即時型がほとんどである。主要原因食物は鶏卵、牛乳、小麦であり、全体の2/3を占める。また、これらの原因食物はほとんどが乳幼児期発症であり、そのうち3歳までにおよそ50%、6歳までに80~90%が耐性を獲得(食べられるようになること)する。原因食物は年齢ごとに異なり、学童期以降になると、甲殻類、果物類、小麦、ソバ、落花生、木の実などの発症が多い。表1を拡大する臨床病型1)新生児乳児消化管アレルギー7)早期新生児期に消化器症状(嘔吐、下痢、血便)を主に発症してくる。ほとんどは牛乳が抗原であるが、まれであるが大豆や米が原因のこともある。表2を拡大する2)食物アレルギーの関与する乳児アトピー性皮膚炎乳児期に顔面から前胸部にはじまり2ヵ月以上の慢性の経過を辿る。乳児の慢性湿疹のすべてが本疾患ではない。環境抗原が原因の古典的アトピー性皮膚炎であったり、乳児湿疹のコントロール不良例であったりするので慎重な鑑別が必要である。3)即時型8)誘発症状は蕁麻疹に代表される皮膚症状が90%程度の症例に認められる。以下、呼吸器、粘膜、消化器、全身症状の順に多い。アナフィラキシー症状も少なくなく、ショックの頻度は、7~10%と考えられている(図1)。図1を拡大する4)口腔アレルギー症候群果物や野菜に頻度が多く、症状は口腔喉頭症状のみであり、具体的には口腔内違和感(舌が腫れた感じ、口蓋のひりひり感など)、口唇周囲の症状が中心である。食品抗原と一部花粉やラテックス抗原との間に交叉性があり、合併しやすい傾向がある。5)食物依存性運動誘発アナフィラキシー9)原因食物(小麦、甲殻類、木の実類など)を摂取して、およそ4時間以内に運動を行ったときに誘発される。再現性は必ずしも高くない。診断されても、運動する前に原因食物を食べなければ良く、また食べたらおよそ4時間は運動をしなければ、除去の必要はない。診断1)2)診断のためのフローチャートを、乳児期に発症の多い、「食物アレルギーの関与する乳児アトピー性皮膚炎」と全年齢層に幅広く分布する「即時型」の2通り示す(図2-1、2-2)。いずれにしても十分な問診の情報を元に、他覚的検査を補助診断材料として用い、最終的には食物経口負荷試験の結果を基本に診断を進める。図2-1を拡大する図2-2を拡大する1)特異的IgE抗体検査(ImmunoCAP®、Skin Prick Test)特異的IgE抗体価の結果のみで、食物アレルギーの診断を行うことはできない。しかし、経口食物負荷試験実施は敷居が高く、検査結果で除去指導が行われている臨床の実態があるのも事実であり、食物アレルギー診療の1つの問題点である。主に行われる検査手法はImmunoCAP®法(Thermo Scientific社)であり、同結果を用いて負荷試験を実施したときの95%以上の陽性的中率となる抗体価の報告がある。とくにわが国からはprobability curveの報告があり(図3)、因子(年齢、原因食物)を考慮しながら本指標を利用することで、食物負荷試験の陽性リスクの確率的な高低を知ることができる10)。Skin Prick Test(皮膚プリックテスト)も同様に感度、特異度とも高いが、陽性的中率が低く、臨床的有用性は特異的IgE抗体検査に劣る11)。一般的には食べられる(耐性獲得)状況になっても、陽性になる傾向があり、耐性獲得の判断には向かない。図3を拡大する2)食物経口負荷試験食物アレルギーの診断は食物負荷試験がgold standardである。経口食物負荷試験は9歳未満の患児に対して、2006年に入院負荷試験、2008年に外来負荷試験に対して診療報酬が認められるようになった。実施には、小児科を標榜している保険医療機関、小児食物アレルギーの診断および治療の経験を10年以上有する小児科を担当する常勤医師が1名以上、急変時などの緊急事態に対応するための体制その他当該検査を行うための体制が整備されている必要がある。食物負荷試験を行うにあたって施行方法、適応、症状出現時の対応、検査結果の見方、その後の経過の追い方を詳しく理解する必要がある。その詳細は、「食物アレルギー経口負荷試験ガイドライン2009(日本小児アレルギー学会刊行)」に詳しい12)。食物アレルギーの治療1)必要最小限の除去と栄養指導食物アレルギーの診療の基本は“正しい診断に基づく必要最小限の除去”と“栄養指導”であり、積極的に治癒を誘導する治療方法や薬物は現状ではない。医師は定期的に特異的IgE値をチェックしながら、時期がきたら経口食物負荷試験を実施し耐性獲得の有無を確認するだけである。食物アレルギー児は、必要最小限ではあるが除去食をしながら耐性の獲得を待つことになる。除去食は、成長発達著しい乳幼児期に栄養学的リスクを取らせることになるため、医師は常に栄養評価を念頭に置き、管理栄養士とともに栄養指導を行いながら経過を追う必要がある。食物アレルギーの栄養指導には、厚生労働科学研究(研究分担者 今井孝成)で作成された「食物アレルギーの栄養指導の手引き2011」が参考になる13)。食物アレルギー研究会のホームページ(www.foodallergy.jp)などで無償ダウンロードできる。2)薬物療法クロモグリク酸ナトリウムは、食物アレルギーに伴う皮膚症状に保険適応があるのであって、耐性を誘導したり、内服することで原因食物が食べられるようになったりするような効果は持たない。第2世代以降のヒスタミン薬やロイコトリエン受容体拮抗薬なども、継続投与することで耐性を誘導するものではない。3)経口免疫療法(減感作療法)14)その効果は一目置くに値するが、治療中のアナフィラキシー症状(時にはショック症状)の誘発リスクがあるため、保護者および患児に対して十分なインフォームドコンセントを得て、かつ食物アレルギーおよびアナフィラキシー症状に十分な経験がある医師の監督下で慎重に行われる必要がある。安易に食物アレルギー患者に本法を導入することは、厳に慎むべきである。減感作のメカニズムは不明な点が多く、今後の研究の進展が期待される。アナフィラキシー15)アナフィラキシー症状は、アレルギー反応が原因で複数の臓器症状が急速に全身性にあらわれる状況を指す。小児における原因は食物が多いが、薬物や昆虫なども原因となる。アナフィラキシーショックは、アナフィラキシー症状のうち血圧低下、それに起因する意識障害などを伴う最重症の状態を指し、生命の危機的状況にある。症状の進行が速く、秒~分単位で進展していく。このため発症早期の発見と対処が重要である。アナフィラキシーの治療は、ショックおよびプレショック状態の場合には、できるだけ迅速にアドレナリン0.01mg/kg(最大0.3mg)を筋肉注射するべきである。アナフィラキシーショックに陥った場合には、発症30分以内のアドレナリン投与が予後を左右する。アドレナリンには自己注射薬(エピペン®)があり、0.3mgと0.15mgの2剤形がある。2009年には救急救命士は、自己注射薬の処方を受けている患者がアナフィラキシーに陥り、アドレナリンを注射すべき状況にあるとき、メディカルコントロールが無くても患者に自己注射薬を注射することが認められている。参考文献1)日本小児アレルギー学会食物アレルギー委員会.食物アレルギー診療ガイドライン2012.協和企画;2011.2)「食物アレルギーの診療の手引き2011」検討委員会編.厚生労働科学研究班による食物アレルギーの診療の手引き2011.3)今井孝成. アレルギー.2004;53:689-695.4)海老澤元宏ほか. アレルギー.2004;53:844.5)長谷川実穂ほか. 日小児アレルギー会誌.2007;21:560.6)今井孝成、板橋家頭夫. 日小児会誌.2005;109:1117-1122.7)Miyazawa T, et al. Pediatr Int. 2009; 51: 544-547.8)今井 孝成.アレルギー.2004;53:689-695.9)相原雄幸. 日小児アレルギー会誌.2004;18:59-67.10)Komata T, et al. J Allergy Clin Immunol. 2007; 119: 1272-1274.11)緒方 美佳ほか.アレルギー.2010;59: 839-846.12)宇理須厚雄ほか監修.日本小児アレルギー学会食物アレルギー委員会 経口負荷試験標準化WG.食物アレルギー経口負荷試験ガイドライン2009.協和企画;2009.13)厚生労働科学研究班(研究分担者:今井孝成).食物アレルギーの栄養指導の手引き2011.14)海老澤 元宏ほか.日小児アレルギー会誌.2012;26:158-166.15)今井 孝成ほか.アレルギー.2008;57:722-727.

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【第21回】iPadを使ったインフォームドコンセントは有用

【第21回】iPadを使ったインフォームドコンセントは有用医師が行うインフォームドコンセントは治療内容であったり臨床試験であったり、まちまちです。研究や医療に参加する患者さんや被験者は、その仔細を完全に理解しているわけではなく同意書にサインをしてしまいます。というのも、医療従事者でなければその根幹を理解することは不可能だからです。そのため、医療従事者はできるだけわかりやすく説明をする必要があります。コンピューターを使ったインフォームドコンセントが有用であるとする報告はいくつかありますが(Arch Intern Med. 2009;169:1907-1914. )、iPadのような新しいデバイスを用いた研究はほとんどありません。私の恩師である先生はiPadを自由自在に用いて患者さんに説明しておられますが、私はプライベート以外でiPadを使ったことは一度もありません。プライベートといっても、息子の写真を保存しているだけで、まったく使いこなせていないのが正直なところです。最近ようやくWi-Fi(ワイファイ)という言葉を覚えたくらいで、「クラウド」とかまた新しい言葉が出てきて困っているところです。さて、今回紹介する論文は、臨床研究についての同意を得る際にiPadを用いたほうがよいのではないかと結論づけたものです。Rowbotham MC, et al.Interactive informed consent: randomized comparison with paper consents.PLoS One. 2013;8:e58603.このプロスペクティブランダム化比較試験は、 実際の臨床試験(抗がん剤の神経障害について)の内容を伝える方法として、iPadと紙ベースを比較したものです。この比較試験の被験者として、研究者と患者の双方に参加してもらいました。90人の参加者のうち、69人がオンラインテストを完遂しました。オンラインテストは、当該研究の目的、研究内容に質問があった場合に誰に尋ねるか、試験期間の長さなどを答える一問一答形式です。研究者14人では、iPadで説明を受けた人のほうがオンラインテストの点数がいい傾向にあったそうです (平均正答率77% vs 57%、p =0.07)。一方、患者55人では、iPadによる説明を受けた場合のオンラインテストの点数は、紙ベースの説明を受けた場合よりも有意に高いという結果が得られました(平均正答率75% vs 58%、 p<0.001)。また、紙ベースの場合、iPadと違って閲覧時間が非常に短いという結果も得られました。最近は、学校でもタブレットを使って授業を行うところもあるそうですね。目にやさしいディスプレイだから大丈夫、などとも言われていますが、なんとなく抵抗感を覚えるのは私だけでしょうか? 何でもかんでも次世代機器というのはケシカラン!と言うと、自分が時代遅れのオジサンになってしまった気がして、ちょっぴりさびしい気もします。

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末期がんの患者に告知を行わず過誤と判断されたケース

癌・腫瘍最終判決判例時報 1679号40-45頁概要約4年前から総合病院循環器外来に通院していた77歳男性が、前胸部痛を主訴に撮影した胸部X線写真で多発性の肺腫瘍を指摘された。諸検査の結果、担当医師(非常勤の呼吸器科医師)の診断は末期がん(原発は不明)で手術や化学療法の適応はないと判断した。患者本人には末期がんであることを告知しない方針をとり、家族を連れてくるように依頼したが実現しなかった。その後前胸部痛が悪化し、納得のいく説明をしない主治医に不信感を抱いた患者は約5ヵ月後に大学病院を受診、そこではじめて末期がんと告知された。詳細な経過患者情報4年前から虚血性心疾患、期外収縮、脳動脈硬化症などの診断で、総合病院循環器外来に通院していた77歳男性。病弱の妻と二人暮らしであり、いつも一人で通院していた経過1989年4月19日胸部X線写真では異常なし。1990年2月16日体重減少に対し腫瘍マーカーなどを検査したが異常なし。6月8日約1ヵ月前から続く左乳頭部の痛みを申告したが、他覚的異常所見なし。10月26日胸部X線写真で右肺野にcoin lesion、左下肺野にも小さな結節が数個と胸水を示唆する所見が認められたため院内の呼吸器内科に紹介。11月17日呼吸器専門の非常勤医師(毎週土曜日担当)が診察し、胸部CTスキャン、腫瘍マーカーなどの検査結果から扁平上皮がんあるいは重複がんではないかと考えた。気管支鏡検査は確定診断という点では有用だが、転移性、多発性の肺腫瘍で手術や化学療法の適応はないと判断し、治療には直接結びつかない気管支鏡は不要と判断した。(この時患者本人にはがんの告知せず)12月8日胸部X線写真では変化なし。12月29日前胸部痛あり。カルテには末期がんであろうと記載し、鎮痛薬(チアプロフェン〔商品名:スルガム〕)を処方。(患者本人にはがんの告知せず)1991年1月19日鎮痛薬による治療続行。患者本人から、「肺の病気はどうですか」と質問されたが、末期がんであることの告知は不適切と考え、「胸部の病気は進行している」と答えた。この時点で非常勤医師は家族への告知を考え電話連絡をしたが、家族は不在であった。そして、カルテには「転移病変につき患者の家族に何らかの説明が必要」と記載し、通院時に家族を連れてくるように勧めたが、家族関係の詳細を把握することはなかった。その後非常勤の主治医は病院を退職。2月9日別の医師を受診し鎮痛薬スルガム®の処方を受ける。前胸部痛は治まっていると申告。3月2日胸の痛みを訴えたため、スルガム®と湿布を処方。以後この病院の受診なし。結局本人および家族へはがんであることの告知は行われなかった。3月5日胸の痛みが増強したため大学病院整形外科を受診。3月11日内科を紹介され、ここではじめて末期がんであることが告知された。当事者の主張患者側(原告)の主張治療上の選択の余地がない末期がんであっても、真実の病名を知ることによって充実した余命を送ることができたのに、告知が約5ヵ月も遅れたことによって適切な治療および生活を決定できる状況を奪われた。家族にとっても肉親として接する貴重な日々を送れたはずなのに、精一杯の看護と治療を受ける機会を失い、大きな悔悟と精神的衝撃を被った。病院側(被告)の主張延命および治癒が望めない末期がんの患者およびその家族に対して、がん告知をするべきか否かは医師の広範な裁量に委ねられていて、がん告知をしなかったからといってただちに不法行為になるわけではない。裁判所の判断医師としてはがん告知の適否、告知時期、告知方法などを選択するために、できる限り患者に関する諸事情についての情報を得るよう努力する義務がある。本件では患者本人が通院治療中にがん告知を強く希望したわけではないので、本人にがん告知しなかったことは裁量の範囲内であった。しかし、家族に関する情報収集や家族との接触の努力を怠り、漫然と家族にがん告知をしなかった。その結果、患者本人が家族から手厚いケアを受けたり、より充実した日々をより多く送る可能性を奪われたことになるので、期待権侵害によって被った精神的損害を賠償するべきである。原告側合計1,600万円の請求に対し、120万円の賠償判決考察悪性腫瘍を疑う患者の場合には、外来診察である程度の絞り込みを行い、さらに検査目的の入院を指示してがんの病期分類、治療方針などを検討したのち、患者およびその家族からインフォームドコンセントを得るといった手順を踏むことになると思います。このように当初の診断過程に入院をはさむことによって、担当医師と患者、および家族とのコミュニケーションがはかれ、十分な信頼関係を構築できることが多いと思います。ところが本件では、通常であれば入院精査を行うべき状況であったと思われますが、末期がんのため治療に直接結びつかない侵襲的な検査(気管支鏡検査)は不要と判断したこと病弱な妻との二人暮らしのため入院は難しいという申告があったこと(ムンテラ対象となる長男や長女はいたものの、外来でそこまでは聞き出さなかった)担当したのが週1回外来担当の非常勤医師であったことなどの複数の要因が重なった結果、肝心な病状説明(がんの告知)が患者本人のみならず、その家族へも一切行われないまま他院へ転院することになりました。このような事態は通常の診療では考えられないことではないか、という感想を持たれる先生も多いと思いますが、昨今の総合病院のように専門分化が進んだ結果、病院内の横断的なコミュニケーションが絶対的に不足しているような状況では、けっして他人事とはいえないと思います。とくに、毎週1回の専門外来を担当する非常勤医師を雇用している施設では、遠慮(尊重?)しあう面もあって常勤医師との連携が十分にはかられず、ミスコミュニケーションにつながる危険性が常にあるように思います。今回の担当医師(非常勤呼吸器内科医)は、「家族に電話してみたけれども不在だったので、病状説明ができなかった」「転移病変につき患者の家族に何らかの説明が必要、とカルテに記載しておいたので、あとは常勤医師がやってくれるものと思っていた」と主張していますので、当時の状況からすればやむを得ないことであった、担当医師はまじめに診察していたようなので気の毒である、という見方もできると思います。ところが、家族へ連絡したことについてはカルテに一切記載しなかったため、いくら裁判で「私はきちんと連絡を取ろうとしました」と証言しても説得力不足は否めません。病院を辞める際のカルテ記載にしても、「次回来院時必ず家族へ末期がんであることを説明してください」というような申し送り内容ではなく、常勤医師に会って直接伝えたものでもありませんでした。そのためあとを引き継いだ常勤医師にしても、誰が主治医であるのか不明確な状況でしかも今までの経緯が不明であれば、あえてがん告知をすることはないと思います。そして、このような診療内容が、「がんという重大な病気にかかった患者さんを誠意を持って担当していないのではないか」、という裁判官の心証形成に大きく影響したということです。結局のところ、今回の担当医師は非常勤という身分もあってか、責任を持って患者さんを担当するという姿勢に欠けていたように思います。この場合の責任とはどのようなことか、家族が電話にでるまで延々と電話をかけ続けなければならないのか、家族を連れてくるように明言したのに連れてこないのは患者の勝手ではないか、というご意見も十分にあろうかと思います。しかし、ひとたび末期がんという重大な病気に直面した患者自身やその家族の立場に立ってみると、いくらやむを得なかったといっても真の病名がまったく告げられることなく5ヵ月も外来に通い続けたのは、到底納得できないことではないかと思います。本件のようなミスコミュニケーション予防の手段として考えられるのは、外来通院患者であっても入院患者と同じように主治医を明確にすることだと思います。もし本件でも、4年来通院していた循環器担当医師が主治医としてきちんとコミットしていれば、非常勤の呼吸器科医師がなかなか果たすことのできなかった家族とのコミュニケーションを円滑に進めることができたかもしれません。ちなみに、今回の呼吸器内科非常勤医師はその後末期がんを告知された大学病院の常勤スタッフでした。もしがん告知を行った大学病院の担当医師が問診を十分に行って、前医の総合病院(それも関連施設)で行われた診断・治療に少しでも気を遣っていれば、このような結果にならずにすんだ可能性があると思います。すなわちここでも横断的なコミュニケーションが不十分であったことを強く示唆していると思います。癌・腫瘍

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乳がん手術のインフォームドコンセント

癌・腫瘍最終判決平成15年3月14日 東京地方裁判所 判決概要乳がんの疑いでがんセンターを受診した48歳女性。生検目的で約2cmの腫瘤を摘出したところ、異型を伴う乳頭部腺腫と診断された。病理医からは、「明らかに悪性とは言い切れないが異型を伴う病変であり、断端陽性のため完全に取り切ることが望ましい」というアドバイスがあったので、単純乳房切除術を施行した。ところが、切らなくてもよい乳房を切除されたということで、医事紛争に発展した。詳細な経過患者情報48歳の既婚女性、ご主人が内科医経過昭和61年6月12日左鼻出血が続き、近医で上顎洞がんの疑いと診断された。6月20日夫(内科医)の紹介でがんセンターを受診し、がんではなく上顎洞炎であると診断され手術を免れた(その後がんセンター専門医の診断能力を強く信頼するようになる)。平成4年4月20日右乳頭から黄色分泌物、乳頭部の変形、しこりに気付く。4月23日近医を受診して、乳がんの疑いがあるといわれた。5月6日がんセンター受診。右乳頭部上方に1.8×1.2cmの腫瘤、右乳頭部より黄色分泌物を認め、乳管内がん(乳頭腫)の疑いで細胞診検査を施行したが、がんは陰性であった。5月13日マンモグラフィー:乳がんまたは乳頭腫乳腺超音波検査:乳管内乳頭腫5月25日右乳頭の真上を水平に約28mm切開して腫瘤を摘出。病理診断:「組織学的には著しい乳頭状増殖を示す異型的な乳管上皮の増加からなる。それらの中には筋上皮細胞を伴い二層性構造を示す部もあるが、そのような所見が不明瞭な部もある。そのような部では個々の乳管上皮細胞の異型性は一段と強くなっており、やや大型の核を有す。ただし核質は微細であり、核小体も小型のものが多い。病変自体の硬い変化もある。かなり異型性の強い病変であるが、その発生部位も考慮に入れると乳頭部腺腫がもっとも考えられる。断端に病変が露出し、明らかに悪性とは言い切れないが異型を伴う病変であり、完全に取り切ることが望ましい」との所見から、「右乳房の異型を伴った乳頭部腺腫」と診断。6月5日患者への説明:悪性とは言い切れないが異型を伴う病変であり、切除断端が陽性であること、病名は異型を伴う乳頭部腺腫であること、経過観察をした場合相当数の浸潤性がんが認められること、小範囲の部分切除を行ったとしても乳頭・乳輪を大きく損傷し、病変の再遺残の可能性があることから、単純乳房切除術が望ましいと説明した(しかし診療録には説明の記載なし)。患者:「がんではないのだから悪いところだけを部分的に取ればよいのではないですか」医師:「部分的に取ると跡が噴火口のようになり、そのような中途半端な手術はできない」として単純乳房切除術を勧めた。6月11日手術目的で入院。6月12日夫である内科医が、病理診断が悪性であるかどうかの確認を求めたところ、「悪性と考えてよい」、「完全に取り切れば治癒するが残しておけば命にかかわる」と答えた。手術の立会を申し入れたが担当医師は拒否。6月22日病状については境界領域という説明を受けただけで、その具体的内容は理解できなかったこと、同室の患者が術後苦しそうにしているのをみたことから不安になり、手術の延期を申し出た。医師:「構いませんよ。こちらは何も損はしませんからね。そちらが損をするだけですからね」看護師:「手術の予定が決まっていたのだから医師が立腹するのもやむを得ないですよ」といわれ、そのまま帰宅した。6月26日外来を受診して病状の確認とその後の指示を求めたが、同医師は答えず、内科医である夫を連れてくるよう指示した。6月29日内科医の夫がナースセンターの前で面談したが、「2~3ヵ月先に予約を入れておいてください」とだけ述べてそのまま立ち去ったので、担当医師の応対および病状などについて詳しい説明をしない態度に不信を抱き、患者に転院を勧めた。7月3日なおも不安になった患者は再度診察を希望。患者:「境界領域の意味を教えてください。2~3ヵ月後の予約で手遅れになりませんか」医師:「あんたのはたちが悪い。再発するとがんになって危険ですよ。飛ぶかもしれませんよ」などと述べ、病状や予後について詳しい説明はしなかった。患者は自身の病気がいつ転移するかもわからないものであり、早急に手術を受けなければ手遅れになると考えて、がんセンターで手術を受けることを決意し、入院を予約した。7月17日再入院。7月23日担当医師は病室を訪れ、「一応形式ですから」と告げて、「手術名:右乳房切除術」「このたび上記の手術を受けるにあたり、その内容、予後などについて担当の医師から詳細な説明を受け、了解しましたので、その実施に同意いたします」と記載された手術同意書をベッドの上に置いて立ち去る。患者は手術の詳細な説明は受けていなかったものの、手術前に詳細な説明があるはずで命にかかわることは医師に任せるしかないと考えて、承諾書に署名捺印した。7月27日手術当日、切除部分および切除後の傷の大きさがよくわからなかったので病室を訪れた担当医師に質問したが、無言のまま両手で20~30cm位の幅を示しただけで退室した。当日、単純乳房切除術を施行。病理所見:「乳頭部腺腫の遺残を認めず、乳腺組織にはアクポリン腺、盲端腺増生症および導管内乳頭腫症といった病変が散見される」との所見から「線維性のう胞性疾患」と診断。7月29日ドレーンを抜去。8月3日退院。8月12日全抜糸施行。患者と夫の内科医に、病理検査の結果遺残はないこと、今回の治療は終了したこと、残存した左乳房について年に1回か半年に1回検査すればよいことを説明した。患者は手術後、精神的に落ち込む日が続き、手術創の突っ張り感、乳房を喪失したことにより左右の均衡が取れない不快感、物を背負ったりシートベルトを着用した際の痛みを感じるようになった。また、温泉などの公衆浴場に入ったり、病院で上半身の診察や検査を受けることがためらわれるようになり、薄い服を着る際には容姿を整えるための下着およびパッドを入れなければならなくなった。10月27日乳がんの患者団体「あけぼの会」から乳がんに関する知識を得て、乳房再建手術を考えるようになり別病院を受診。がんセンターからの入院証明書(診断書)や病変の標本を取り寄せることによって、ますますがんセンターに不信感をいだき、提訴を決意した。当事者の主張単純乳房切除術は過大な措置であったか患者側(原告)の主張乳頭部腺腫は前がん状態ではない良性腫瘍であり、がん化の報告はきわめて少なく、がんとの関連性はないとされ、切除後の再発、転移の報告もみられない。そのため身体に対する侵襲は必要最小限度にとどめるべき基本的な注意義務があったのに、必要もない侵襲の大きな単純乳房切除術を採用したのは明らかな過失である。病院側(被告)の主張一般に乳頭部腺腫とは、乳頭内または乳輪直下乳管内に生ずる乳頭状ないし充実性の腺腫であり、良性の場合と、がんと断定できないが異型(悪性と良性との境界領域)に属する場合がある。本件では生検の結果、異型性が強く悪性に近い病変で切除断端に露出し取り残しの可能性があったため、病変部などの切除が必要不可欠であった。そして、摘出生検後は、病変の遺残の程度は推定できず、適切な切除範囲を設定することは不可能であるから、乳頭・乳輪を含む広範囲切除である単純乳房切除術によらざるを得なかった。説明義務違反があったかどうか患者側(原告)の主張担当医師は手術の前後にはっきりとした診断名、「境界領域」の意味、病気の内容、治療方法についての内容、危険性、治療を回避した場合の予後などについて一切説明しなかったのみならず、「再発したらがんになる、飛ぶ」などの誤った説明をし、患者の自己決定権が侵害されたことは明らかである。病院側(被告)の主張担当医師は患者と内科医の夫に対し、手術前に検査結果や正確な病名、手術方法などについて十分に説明し、患者の選択、同意を得たうえで単純乳房切除術を施行した。このような十分な説明がありながらも、1回目の入院で手術を取りやめ、ほかの病院あての紹介状の発行を依頼、受領し、積極的にセカンドオピニオンを求めて行動していることや、2回目の入院から手術までの10日間、複数の看護師に対し自分の意思によって手術を受ける決断をしたという意向を複数回表明していることからみても、担当医師の説明に過失はない。裁判所の判断単純乳房切除術は過大な措置であったか乳頭部腺腫は、一般に前がん状態ではない良性腫瘍とされているので、病変部ががん化する可能性は高かったとはいえないが、乳頭部腺腫とがんとの因果関係についてはいまだ不明な点が多く、病変部ががん化する可能性をまったく否定することはできない。そして、患者の腫瘤は乳頭、乳輪の近くに存在し、しかも生検後病変部が断端に露出していたため、乳管内に造影剤を注入することは困難で遺残腫瘍がどの範囲で広がっているかを特定することは不可能であった。そのため、残存腫瘍ががん化する可能性を必ずしも否定できないこと、遺残腫瘍の広がりの範囲を特定できないことから、がん化の危険を避けるために残存腫瘍を完全に除去する方法として、単純乳房切除術を実施したことに過失はない。説明義務違反があったかどうか単純乳房切除術は、女性を象徴する乳房を切除することにより身体的障害を来すばかりか、外観上の変ぼうによる精神面・心理面への著しい影響ももたらし、患者自身の生き方や人生の根幹に関係する生活の質にもかかわるものであるから、手術の緊急性がない限り、手術を受けるか否かについて熟慮し判断する機会を与える義務がある。患者にとっては、「がんではないのに単純乳房切除術が必要である」という医師の診断は理解困難なものであった。さらに、生検において摘出した部位を中心に部分切除にとどめることも不相当な処置とはいえず、腫瘍の一部を残す危険と一部でも乳房を残す利益とを比較衡量し、単純乳房切除術を受けるか部分切除にとどめるか、患者に選択させる余地があった。しかし担当医師は、「悪性と良性の境界領域」という程度の説明に終始し、部分切除の可能性を断定的に否定したうえで、「そちらが損をするだけですからね」「再発するとがんになりますよ」「飛ぶかもしれませんよ」などと危険性をことさらに強調し、不安をあおるような発言をした。そのためただちに単純乳房切除術を受けなければ生命にかかわると思い込み、病状や治療方針について理解し熟慮したいという希望を断念し、納得しないまま単純乳房切除術を受けた。このような対応は、単純乳房切除術を受けるか否かを熟慮し選択する機会を一切与えず、結果的に医師の診断を受け入れるよう心理的な強制を与えたもので、診療契約上の説明義務違反が認められる。原告側2,413万円の請求に対し、120万円の判決考察先生方は「ドクターハラスメント(通称ドクハラ)」という言葉を聞いたことがありますでしょうか。最近では、新聞でも取り上げられていますし、ドクハラの書籍(ドクターハラスメント 許せない!患者を傷つける医師のひと言)までもが、書店に並ぶようになりました。普段の患者さんとの対話で、こちらはそれほどきつい言葉とは思っていなくても、受け取る患者の方は筆舌に尽くしがたいダメージととらえるケースがあるようです。今回の症例をふりかえると、乳がん疑いで生検を行った48歳の女性の病理診断で、異型を伴う乳頭部腺腫が疑われ、切除断端に病巣が露出していたので完全切除を目指し、単純乳房切除術を施行しました。裁判では、このような治療方針自体は過失でないと認定しましたが、問題は術前術後のインフォームドコンセントにありました。つまり、患者との信頼関係が破綻した状態で手術となってしまい、間違ったことはしなかったけれども、説明義務違反という物差しを当てられて敗訴した、というケースではないかと思います。多くの先生方にも経験があると思いますが、真摯な態度で患者を診察し、自らがこれまでに培ってきた最大限の知識を提供したうえで、その時点で考えられる最良の治療を提案したにもかかわらず、患者の同意が得られないということもあり得ると思います。そのような場合、どのような対応をとりますでしょうか。まあしょうがないか、そのような考え方もあるので仕方がないなあ、と割り切ることができればよいのですが、つい、自らが提案した治療方針が受け入れられないと、不用意な発言をしたくなる気持ちも十分に理解できると思います。今回の症例では、手術予定まで組んだ乳がん疑いの患者が、手術を土壇場でキャンセルし、以下のような発言をしてしまいました。「そちらが損をするだけですからね」「再発するとがんになりますよ」「飛ぶかもしれませんよ」あとから振り返ると、このような言葉はなるべくするべきではなかったと判断できると思います。しかし、きわめて多忙な診療場面で、入院予約、検査のアレンジ、手術室の手配など、患者のためを思って効率的にこなしてきたのに、最後の最後で患者から手術を拒否されてしまうと、このような発言をしたくなる気持ちも十分に理解できます。そのことは看護師にもよく伝わっていて、「手術の予定が決まっていたのだから医師が立腹するのもやむを得ないですよ」という援護射撃とも思える発言がありました。しかし、こうして不毛な医事紛争へ発展してしまうと、ちょっとした一言を巡って膨大な時間が忙殺される結果となってしまいます。ましてや、間違った医療行為はしていないのに、インフォームドコンセントも自分としては十分と考えていたにもかかわらず、「説明義務違反」などといわれるのは到底納得できないのではないでしょうか。本件でも結局のところは、「言った言わない」という次元の争いごとになってしまい、そのような細かいことまで診療録に記載しなかった医師側が、何らかの形で賠償責任を負うという結末を迎えました。このような医事紛争を避けるためには、不用意な発言はなるべく避けるとともに、患者に説明した内容はできるだけ診療録に残すようにするといった配慮が望まれると思います。癌・腫瘍

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病院側の指示に従わず狭心症発作で死亡した症例をめぐって、医師の責任が問われたケース

循環器最終判決平成16年10月25日 千葉地方裁判所 判決概要動悸と失神発作で発症した64歳女性。冠動脈造影検査で異型狭心症と診断され、入院中はニトログリセリン(商品名:ミリスロール)の持続点滴でコントロールし、退院後はアムロジピン(同:ノルバスク)、ニコランジル(同:シグマート)、ジルチアゼム(同:ヘルベッサー)、ニトログリセリン(同:ミリステープ、ミオコールスプレー)などを処方されていた。発症から5ヵ月後、再び動悸と気絶感が出現して、安静加療目的で入院となった。担当医師はミリスロール®の点滴を勧めたが、前回投与時に頭痛がみられたこと、点滴に伴う行動の制限や入院長期化につながることを嫌がる患者は、「またあの点滴ですか」と拒否的な態度を示した。仕方なくミリスロール®の点滴を見合わせていたが、患者が看護師の制止を聞かずトイレ歩行をしたところ、再び強い狭心症発作が出現し、さまざまな救命措置にもかかわらず約2時間後に死亡確認となった。詳細な経過患者情報64歳女性経過平成11(1999)年2月10日起床時に動悸が出現し、排尿後に意識を消失したため、当該総合病院を受診。胸部X線、心電図上は異常なし。3月17日~3月24日失神発作の精査目的で入院、異型狭心症と診断。3月24日~3月27日別病院に紹介入院となって冠動脈造影検査を受け、冠攣縮性狭心症と診断された。6月2日早朝、動悸とともに失神発作を起こし、当該病院に入院。ミリスロール®の持続点滴と、内服薬ノルバスク®1錠、シグマート®3錠にて症状は改善。6月9日失神や胸痛などの胸部症状は消失したため、ミリスロール®の点滴からミリステープ®2枚に変更。入院当初は頭痛を訴えていたが、ミリステープ®に変更してから頭痛は消失。6月22日状態は安定し退院。退院処方:ノルバスク®1錠、ミリステープ®2枚、チクロピジン(同:パナルジン)1錠、シグマート®3錠、ロキサチジン(同:アルタット)1カプセル。7月2日起床時に動悸が出現、ミオコールスプレー®により症状は改善。7月5日起床時に動悸が出現、ミオコールスプレー®により症状は改善。7月7日起床時立ち上がった途端に動悸、気絶感が出現したとの申告を受け、ノルバスク®を中止しヘルベッサー®を処方。7月12日05:30起床してトイレに行った際に動悸、気絶感が出現。トイレに腰掛けてミオコールスプレー®を使用した直後に数分間の意識消失がみられた。06:50救急車で搬送入院。安静度「ベッド上安静」、排泄「尿・便器」使用、酸素吸入(1分間当たり1L)、ミリステープ®2枚(朝、夕)、心電図モニター使用、胸痛時ミオコールスプレー®を2回まで使用と指示。09:30入室直後に尿意を訴えた。担当看護師は医師の指示通り尿器の使用を勧めたが、患者は尿器では出ないのでトイレに行くことに固執したため、看護師長を呼び、ベッドを個室トイレの側まで動かし、トイレで排尿させた。排尿後に呼吸苦がみられたので、酸素吸入を開始し、ミリステープ®を貼用したところ2~3分で落ちついてきた。担当看護師は定時のシグマート®、ヘルベッサー®を内服させ、今後は尿器を使用することを促した。担当医師も訪室して安静にすべきことを説明し、ミリスロール®の点滴を勧めたが、患者は「またあの点滴ですか」と拒否的な態度を示したため、やむを得ずミリスロール®の点滴をしないことにした。その後、胸部症状は消失。15:00見舞いにきた家族が「点滴していなかったんだね」といったところ、患者は「軽かったのかな」と答えたとのこと(病院側はその事実を確認していない)。18:30尿意がありトイレでの排尿を希望。担当看護師は尿器の使用を勧めたが、トイレへ行きたいと強く希望したため、看護師は医師に確認するといって病室を離れた(このとき担当医師とは連絡取れず)。18:43トイレで倒れている患者を看護師が発見。ただちにミオコールスプレー®を1回噴霧したが、「胸苦しい、苦しい」と状態は改善せず。18:50ミオコールスプレー®を再度噴霧したが状態は変わらず、四肢冷感、冷汗が認められ、駆けつけた医師の指示でニトログリセリン(同:ニトロペン)1錠を舌下するが、心拍数は60台に低下、血圧測定不能、意識低下、自発呼吸も消失した。19:00乳酸リンゲル液(同:ラクテック)にて血管確保、心拍数30~40台。19:10イソプレナリン(同:プロタノール)1A、アドレナリン(同:ボスミン)1Aを静注するとともに、心臓マッサージを開始し、心拍数はいったん60台へと回復。19:33気管内挿管に続き、心肺蘇生を続行するが効果なし。20:22死亡確認。死因は致死性の狭心症発作と診断した。死亡後、担当医師は「点滴(ミリスロール®)をすべきでした。しなかったのは当方のミスです」と述べたと患者側は主張するが、その真偽は不明。当事者の主張1. 担当医師が硝酸薬の点滴をしなかった点に過失があるか患者側(原告)の主張平成11年から発作が頻発し、入院に至るまでの経緯や入院時の症状から判断して、ミリスロール®など硝酸薬の点滴をすべきであった。これに対し担当医師は、患者に対してミリスロール®の点滴の必要性を伝えたが拒絶されたと主張するが、診療録などにはそのような記載はない。過去の入院では数日間にわたってミリスロール®の点滴治療を受け、その結果一応の回復を得て退院したため、担当医師からミリスロール®の必要性、投与しない場合の危険性などを十分聞いていれば、ミリスロール®点滴に同意したはずである。病院側(被告)の主張動悸、失神は狭心症発作の再発であり、入院安静が必要であること、2回目入院時に行ったミリスロール®の点滴が再度必要であることを説明したが、患者は「またあの点滴ですか」といい、行動が不自由になること、頭痛がすることなどを理由に点滴を拒絶したため、安静指示と内服薬などの投与によって様子をみることにした。つまり、ミリスロール®の点滴が必要であるにもかかわらず、患者の拒絶により点滴をすることができなかったのであり、診療録上も「希望によりミリスロール®点滴をしなかった」ことが明記されている。医師は、患者に対する治療につき最適と判断する内容を患者に示す義務はあるが、この義務は患者の自己決定権に優越するものではないし、患者の意向を無視して専断的な治療をすることは許されない。2. 硝酸薬点滴を行った場合の発作の回避可能性患者側(原告)の主張入院時にミリスロール®の点滴をしていれば発作を防げた可能性は大きく、死亡との間には濃厚な因果関係がある。さらに死亡後担当医師は、「点滴をすべきでした。しなかったのは当方のミスです」と述べ、ミリスロール®の点滴をしなかったことが死亡原因であることを認めていた。病院側(被告)の主張7月12日9:30、ミリステープ®を貼用し、シグマート®、ヘルベッサー®を内服し、午後には症状が消失して容態が安定していたため、ミリスロール®の点滴をしなかったことだけが発作の原因とはいえない。3. 患者が安静指示に違反したのか患者側(原告)の主張看護師や患者に対する担当医師の安静指示があいまいかつ不徹底であり、結果としてトイレでの排尿を許す状況とした。担当医師が「ベッド上安静」を指示したと主張するが、入院経過用紙によれば「ベッド上安静」が明確に指示されていない。当日午後2:00の段階では、「トイレは夕方までの様子で決めるとのこと」と看護師が記載しているが、夕方までに決められて伝えられた形跡はない。18:30にも「Drに安静度カクニンのためTELつながらず」との記載があり、看護師は夕方になってもトイレについて明確な指示を受けていない。病院側(被告)の主張入院時指示には、安静度は「ベッド上安静」、排泄は「尿・便器」と明記している。これはベッド上で仰臥(あおむけ)または側臥(横向き)でいなければならず、排泄もベッド上で尿・便器をあててしなければならないという意味であり、トイレでの排尿を許したことはない。「トイレは夕方までの様子で決めるとのこと」という記載の意味は、トイレについての指示がいまだ無かったのではなく、明日の夕方までの様子をみて、それ以降トイレに立って良いかどうかを決めるという意味である。当日9:30尿意を訴えたため、医師から指示を受けていた看護師は尿器の使用を勧めたが、看護師の説得にもかかわらず尿器では出ないと言い張り、トイレに行くと譲らなかったので、やむを得ず看護師長を呼び、二人がかりでベッドを個室内のトイレ脇まで運び、トイレで排尿させたという経緯がある。そして、今回倒れる直前、看護師は患者から「トイレに行きたい」といわれたが、尿器で排泄するように説得した。それでも患者はあくまでトイレに行きたいと言い張ったため、担当医師に確認してくるから待つようにと伝えナースステーションへ行ったものの、担当医師に電話がつながらず、すぐに病室に戻ると同室内のトイレで倒れていたのである。4. 発作に対する医師の処置は不適切であったか患者側(原告)の主張狭心症の発作時には、速効性硝酸薬の舌下を行うべきものとされてはいるが、硝酸薬を用いると血圧が低下するので、昇圧剤を投与して血圧を確保してから速効性硝酸薬などにより症状の改善を図るべきであった。被告医師は、ミオコールスプレー®を2回使用して、その副作用で血圧低下に伴う血流量の減少を招いたにもかかわらず、さらに昇圧剤を投与したり、血圧を確保することなくニトロペン®を舌下させた点に過失がある。その結果、狭心症の悪化・心停止を招来し、患者を死に至らしめた。病院側(被告)の主張異型狭心症においては、冠攣縮発作が長引くと心室細動や高度房室ブロックなどの致死性不整脈が出現しやすくなるので、発作時は速やかにニトログリセリンを服用させるべきである。ニトログリセリンの副作用として血圧の低下を招くことがあるが、狭心症発作が寛解すれば血圧が回復することになるから、まず第一にニトログリセリンを投与(合計0.9mg)したことに問題はなく、発作を寛解させるべくニトロペン®1錠を舌下させた判断にも誤りはない。本件においては、致死的な狭心症発作が起きていたのであり、脈拍低下、血圧測定不能、自発呼吸なしなどの重篤な状態に陥ったのは狭心症発作によるものであって、ニトロペン®1錠を舌下したことが心停止の原因となったのではない。裁判所の判断1. 担当医師が硝酸薬の点滴をしなかった点に過失があるか鑑定A患者は狭心症発作が頻発および増悪したために入院したものであり、不安定狭心症の治療を目的としている。狭心症予防薬としてカルシウム拮抗薬の内服と硝酸薬貼付がすでに施行されており、この状態で不安定化した狭心症の治療としては、硝酸薬あるいはこれと同様の効果が期待される薬剤の持続静注が必要と考える。また、過去の入院で硝酸薬の点滴静注が有効であったことから、硝酸薬は、本件患者に対し比較的安心して使用できる薬剤と思われる。さらに、心電図モニターならびに患者の状態を常時監視できる医療状況が望ましく、狭心症発作が安定するまでの期間は、冠動脈疾患管理病棟(CCU)あるいは集中治療室(ICU)での管理が適当と考えられ、本件患者の入院初期の治療としてミリスロール®などの硝酸薬点滴を行わなかったのは不適切であった。不安定狭心症患者は急性心筋梗塞に移行する可能性が高いため、この病態を患者に十分説明し、硝酸薬点滴を使用すべきであったと考える。以前も同薬剤の使用により、本件患者の狭心症発作をコントロールしており、軽度の副作用は認められたものの、比較的安全に使用した経緯がある。患者が硝酸薬点滴を好まないケースもあるが、病状の説明、とりわけ急性心筋梗塞に進展した場合のデメリットを説明した後に施行すべきものであると考えられ、仮に本件患者がミリスロール®などの点滴に拒否的であった場合でも、その必要性を十分説明して、本件患者の初期治療として、ミリスロール®などの硝酸薬あるいは同等の効果が期待できる薬剤の点滴を行うべきであった。鑑定B狭心症の場合、硝酸薬は重要な治療薬である。また、冠動脈攣縮性狭心症においては、カルシウム拮抗薬も重要な治療薬である。本症例ではミリステープ®とカルシウム拮抗薬が投与されており、ミリスロール®などの硝酸薬点滴を行わなかったことだけをもって不適切な治療と判断することは難しい。仮に本件患者がミリスロール®などの点滴に拒否的であった場合についても、ミリスロール®などの点滴を行わなければならない状態であったかどうかについては判断が難しい。また、基本的に患者の了承のもとに治療を行うわけであるから、了承を得られない限りはその治療を行うことはできないのであって、拒否する場合において点滴を強制的に行うことが妥当であるかどうかは疑問である。鑑定C本症例は、失神発作をくり返していることからハイリスク群に該当する。発作の回数が頻回である活動期の場合は、硝酸薬、カルシウム拮抗薬、ニコランジルなどの持続点滴を行うことが望ましいとされており、実際に前回の入院の際には発作が安定化するまで硝酸薬の持続点滴が行われている。本件では、十分な量の抗狭心症薬が投与されており、慢性期の発作予防の治療としては適切であったといえるが、ハイリスク群に対する活動期の治療としては、硝酸薬点滴を行わなかった点は不適切であったといえる。発作の活動期における治療の基本は、冠拡張薬の持続点滴であり、純粋医学的には本件の場合、必要性を十分に説明して行うべきであり、仮に本件患者がミリスロール®などの点滴に拒否的であった場合であっても、その必要性を十分説明して、ミリスロール®などの硝酸薬点滴を行うべき状態であったといえる。ただし、必要性を十分に説明したにもかかわらず、患者側が点滴を拒否したのであれば、医師側には非は認められないこととなるが、どの程度の必要性をもって説明したかが問題となろう。裁判所の見解不安定狭心症は急性心筋梗塞や突然死に移行しやすく、早期に確実な治療が必要である。本件では前回の入院時にミリスロール®の点滴を行って症状が軽快しているという治療実績があり、入院時の病状は前回よりけっして軽くないから、硝酸薬点滴を必要とする状態であったといえる。もっとも担当医師の立場では、治療方法に関する患者の自己決定権を最大限尊重すべきであるから、医師が治療行為に関する説明義務を尽くしたにもかかわらず、患者が当該治療を受けることを拒絶した場合には、当該治療行為をとらなかったことにつき、医師に過失があると認めることはできない。そうすると、本件入院時にミリスロール®など硝酸薬点滴をしなかったことについて、被告医師に過失がないといえるのは、硝酸薬点滴の必要性などについて十分な説明義務を果たしたにもかかわらず、患者が拒否した場合に限られる。担当医師が入院時にミリスロール®点滴を行わなかったのは、必要性を十分に説明したにもかかわらず、「またあの点滴ですか」と点滴を嫌がる態度を示し、ミリスロール®の副作用により頭痛がすること、点滴をすることによって行動の自由が制限されること、点滴をすることによって入院が長くなることの3点を嫌がって、点滴を拒絶したと供述する。そして、入院診療録の「退院時総括」には「本人の希望もあり、ミリスロール®DIV(点滴)せずに安静で様子をみていた」との記載があるので、担当医師はミリスロール®の点滴静注を提案したものの、患者はミリスロール®の点滴を希望しなかったことがわかる。ところが、医師や看護師が患者の状態などをその都度記録する「入院経過用紙」には、入院時におけるミリスロール®の点滴に関するやりとりの記載はなく、担当医師から行われたミリスロール®点滴の説明やそれに対する患者の態度について具体的な内容はわからない。それよりも、午後3:00頃見舞にきた家族が、「点滴していなかったんだね」といったことに対し、「軽かったのかな」と答えたという家族の証言から、患者は自分の病状についてやや楽観的な見方をしていたことがわかり、担当医師からミリスロール®点滴の必要性について十分な説明をされたものとは思われない。担当医師は患者の印象について、「医療に対する協力、その他治療に難渋した」、「潔癖な方です。頑固な方です」と述べているように、十分な意思の疎通が図れていなかった。そのため、入院時にミリスロール®の点滴に患者が拒否的な態度を示した場合に、担当医師があえて患者を説得して、ミリスロール®の点滴を勧めようとしなかったことは十分考えられる状況であった。そして、当時の患者が不安定狭心症のハイリスク群に該当し、硝酸薬点滴をしないと危険な状況にあることを医師から説明されていれば、点滴を拒絶する理由になるとは通常考え難いので、十分に説明したという担当医師の供述は信用できない。つまり、自己の病状についてきわめて関心を抱いていた患者であるので、医師から十分な説明を受けていれば、医師の提案する治療を受け入れていたであろうと推測される。したがって、担当医師は当時の病状ならびにミリスロール®点滴の必要性について十分に説明したとは認められず、説明義務が果たされていたとはいえない。2. 硝酸薬点滴を行った場合の発作の回避可能性鑑定A不安定狭心症の治療としてミリスロール®の効果は約80%と報告されている。不安定狭心症の病態によりその効果に差はあるが、硝酸薬などの薬剤が不安定狭心症を完全に安定化させるわけではない。また、急激な冠動脈血栓形成に対しては硝酸薬の効果は低いと考える。そうするとミリスロール®点滴を実施することで発作を回避できたとは限らないが、回避できる可能性は約70%と考える。鑑定B冠動脈攣縮性狭心症の場合、ミリスロール®などの硝酸薬の点滴が冠動脈の攣縮を軽減させる可能性がある。本件発作が冠動脈攣縮性狭心症発作であった可能性は十分考えられることではあるが、最終的な本件発作の原因がほかにあるとすれば、ミリスロール®点滴を行っても回避は難しい。したがって、回避可能性について判断することはできない。鑑定C一般論からすると、持続点滴の方が経口や経皮的投与よりも有効であることは論をまたないが、持続点滴そのものの有効性自体は100%ではないため、持続点滴をしていればどの程度発作が抑えられたかについては、判断しようがない。また、本件では十分な量の冠拡張薬が投与されていたにもかかわらず、結果的に重篤な狭心症発作が起こっており、発作の活動性がかなり高く発作自体が薬剤抵抗性であったと捉えることもでき、持続点滴をしていたとしても発作が起こった可能性も否定できない。以上のように、持続点滴によって発作が抑えられた可能性と持続点滴によっても発作が抑えられなかった可能性のどちらの可能性が高いかについては、仮定の多い話で答えようがない。裁判所の見解冠動脈攣縮性狭心症の発作に対してはミリスロール®の点滴が有効である点において、各鑑定は一致していることに加え、回避可能性をむしろ肯定していると評価できること、そもそも不作為の過失における回避可能性の判断にあたっては、100%回避が可能であったことの立証を要求するものではないのであって、前回入院時にミリスロール®の点滴治療が奏効していることも併せ考慮すると、今回もミリスロール®の点滴を行っていれば発作を回避できたと考えられる。3. 患者に対する安静指示について担当医師の指示した安静度は「ベッド上安静」、排泄は「尿・便器」使用であることは明らかであり、この点において被告医師に過失は認められない。4. 発作に対する処置について鑑定Aニトログリセリン舌下投与を低血圧時に行うと、さらに血圧が低下することが予想される。しかし、狭心症発作寛解のためのニトログリセリン舌下投与に際し、禁忌となるのは重篤な低血圧と心原性ショックであり、本件発作時はこれに該当しない。さらに本件発作時は、静脈ラインが確保されていないと思われ、点滴のための留置針を穿刺する必要がある。この処置により心筋虚血の時間が延長することになるため、即座にニトログリセリンを舌下させることは適切と考える。鑑定Bニトロペン®そのものの投与は血圧が低いことだけをもって禁忌とすることはできない。本件発作時の状況下でニトロペン®舌下に先立ち、昇圧剤の点滴投与を行うかどうかの判断は難しい。しかし、まず輸液ルートを確保し、酸素吸入の開始が望ましい処置といえ、必ずしも適切とはいえない部分がある。鑑定C冠攣縮性狭心症の発作時の処置としては、血圧の程度いかんにかかわらず、まずは攣縮により閉塞した冠動脈を拡張させることが重要であるため、ニトロペン®をまず投与したこと自体は問題がない。しかしながら、昇圧剤の投与時期、呼吸循環状態の維持、ボスミン®投与の方法に問題があり、急変後の処置全般について注意義務違反が認められる。裁判所の見解ニトログリセリンの舌下については、各鑑定の結果からみて問題はない。なお、鑑定の結果によれば、発作の誘因は発作の直前のトイレ歩行ないし排尿である。担当医師からベッド上安静、尿便器使用の指示がなされ、担当看護師からも尿器の使用を勧められたにもかかわらずトイレでの排尿を希望し、さらに看護師から医師に確認するので待っているように指示されたにもかかわらず、その指示に反して無断でベッドから降りて、トイレでの排尿を敢行したものであり、さらに拒否的な態度が被告医師の治療方法の選択を誤らせた面がないとはいえないことを考慮すると、患者自身の責任割合は5割と考えられる。原告(患者)側合計5,532万円の請求に対し、2,204万円の判決考察拒否的な態度の患者についていくら説明しても医師のアドバイスに従わない患者さん、病院内の規則を無視して身勝手に振る舞う患者さん、さらに、まるで自分が主治医になったかのごとく「あの薬はだめだ、この薬がよい」などと要求する患者さんなどは、普段の臨床でも少なからず遭遇することがあります。本件もまさにそのような症例だと思います。冠動脈造影などから異型狭心症と診断され、投薬治療を行っていましたが、再び動悸や失神発作に襲われて入院治療が開始されました。前回入院時には、内服薬や貼布剤、噴霧剤などに加えてミリスロール®の持続点滴により症状改善がみられていたので、今回もミリスロール®の点滴を開始しようと提案しました。ところが患者からは、「またあの点滴ですか」「あの薬を使うと頭痛がする」「点滴につながれると行動が制限される」「点滴が始まると入院が長くなる」というクレームがきて、点滴は嫌だと言い出しました。このような場合、どのような治療方針とするのが適切でしょうか。多くの医師は、「そこまでいうのなら、点滴はしないで様子を見ましょう」と判断すると思います。たとえミリスロール®の点滴を行わなくても、それ以外のカルシウム拮抗薬や硝酸薬によってもある程度の効果は期待できると思われるからです。それでもなおミリスロール®の点滴を強行して、ひどい頭痛に悩まされたような場合には、首尾よく狭心症の発作が沈静化しても別な意味でのクレームに発展しかねません。そして、ミリスロール®の点滴なしでいったんは症状が改善したのですから、病院側の主張通り適切な治療方針であったと思います。そして、再度の発作を予防するために、患者にはベッド上の安静(トイレもベッド上)を命じましたが、「どうしてもトイレに行きたい」と患者は譲らず、勝手に離床して、致命的な発作へとつながってしまいました。このような症例を「医療ミス」と判断し、病院側へ2,200万円にも上る賠償金の支払いを命じる裁判官の考え方には、臨床医として到底納得することができません。もし、大事なミリスロール®の点滴を医師の方が失念していたとか、看護師へ安静の指示を出すのを忘れて患者が歩行してしまったということであれば、医師の過失は免れないと思います。ところが、患者の異型狭心症をコントロールしようとさまざまな治療方針を考えて、適切な指示を出したにもかかわらず、患者は拒否しました。「もっと詳しく説明していればミリスロール®の点滴を拒否するはずはなかったであろう」というような判断は、結果を知ったあとのあまりにも一方的な考え方ではないでしょうか。患者の言い分、医師の言い分極論するならば、このような拒否的態度を示す患者の同意を求めるためには、「あなたはミリスロール®の点滴を嫌がりますが、もしミリスロール®の点滴をしないと命に関わるかもしれませんよ、それでもいいのですか」とまで説明しなければなりません。そして、理屈からいうと「命に関わることになってもいいから、ミリスロール®の点滴はしないでくれ」と患者が考えない限り、医師の責任は免れないことになります。しかし、このような説明はとても非現実的であり、患者を脅しながら治療に誘導することになりかねません。本件でもミリスロール®の点滴を強行していれば、確かに狭心症の発作が出現せず無事退院できたかもしれませんが、患者側に残る感情は、「医師に脅かされてひどい頭痛のする点滴を打たれたうえに、病室で身動きができない状態を長く強要された」という思いでしょう。そして、鑑定書でも示されたように、本件はたとえミリスロール®を点滴しても本当に助かったかどうかは不明としかいえず、死亡という最悪の結果の原因は「異型狭心症」という病気にあることは間違いありません。ところが裁判官の立場は、明らかに患者性善説、医師性悪説に傾いていると思われます。なぜなら、「退院時総括」の記述「本人の希望もあり、ミリスロール®DIV(点滴)せずに安静で様子をみていた」というきわめて重大な記述を無視していることその理由として、「入院経過用紙」には入院時におけるミリスロール®の点滴に関するやりとりの記載がないことを挙げている裁判になってから提出された家族からの申告:当日午後3:00頃見舞にきた家族が、「点滴していなかったんだね」といったことに対し、「軽かったのかな」と患者が答えたという陳述書を全面的に採用し、患者側には病態の重大性、ミリスロール®の必要性が伝わっていなかったと断定つまり、診療録にはっきりと記載された「患者の希望でミリスロール®を点滴しなかった」という事実をことさら軽視し、紛争になってから提出された患者側のいい分(本当にこのような会話があったのかは確かめられない)を全面的に信頼して、医師の説明がまずかったから患者が点滴を拒否したと言わんばかりに、医師の説明義務違反と結論づけました。さらにもう一つの問題は、本件で百歩譲って医師の説明義務違反を認めるとしても、十分な説明によって死亡が避けられたかどうかは「判断できない」という鑑定書がありながら、それをも裁判官は無視しているという点です。従来までは、説明が足りず不幸な結果になった症例には、300万円程度の賠償金を認めることが多いのですが、本件では(患者側の責任は5割としながらも)説明義務違反=死亡に直結、と判断し、総額2,200万円にも及ぶ高額な判決金額となりました。本症例からの教訓これまで述べてきたように、今回の裁判例はとうてい医療ミスとはいえない症例であるにもかかわらず、患者側の立場に偏り過ぎた裁判官が無理なこじつけを行って、死亡した責任を病院に押し付けたようなものだと思います。ぜひとも上級審では常識的な司法の判断を期待したいところですが、その一方で、医師側にも教訓となることがいくつか含まれていると思います。まず第一に、医師や看護師のアドバイスを聞き入れない患者の場合には、さまざまな意味でトラブルに発展する可能性があるので、できるだけ詳しく患者の言動を診療録に記載することが重要です(本件のような最低限の記載では裁判官が取り上げないこともあります)。具体的には、患者の理解力にもよりますが、医師側が提案した治療計画を拒否する患者には、代替可能な選択肢とそのデメリットを提示したうえで、はっきりと診療録に記載することです。本件でも、患者がミリスロール®の点滴を拒否したところで、(退院時総括ではなく)その日の診療録にそのことを記載しておけば、(今回のような不可解な裁判官にあたったとしても)医療ミスと判断する余地がなくなります。第二に、その真偽はともかく、死亡後に担当医師から、「(ミリスロール®)点滴をすべきでした。しなかったのは当方のミスです」という発言があったと患者側が主張した点です。前述したように、診療録に残されていない会話内容として、裁判官は患者側の言い分をそのまま採用することはあっても、記録に残っていない医師側の言い分はよほどのことがない限り取り上げないため、とくに本件のように急死に至った症例では、「○○○をしておけばよかった」という趣旨の発言はするべきではないと思います。おそらく非常にまじめな担当医師で、自らが関わった患者の死亡に際し、前向きな考え方から「こうしておけばよかったのに」という思いが自然に出てしまったのでしょう。ところが、これを聞いた患者側は、「そうとわかっているのなら、なぜミリスロール®を点滴しなかったのか」となり、いくら「実は患者さんに聞いてもらえなかったのです」と弁解しても、「そんなはずはない」となってしまいます。そして、第三に、担当医師の供述に対する裁判官への心証は、かなり重要な意味を持ちます。判決文には、「担当医師は当公判廷において、患者が『またあの点滴ですか』といったことは強烈に覚えている旨供述するものの、患者に対しミリスロール®点滴の必要性についてどのように説明を行ったかについては、必ずしも判然としない供述をしている」と記載されました。つまり、患者に行った説明内容についてあやふやな印象を与える証言をしてしまったために、そもそもきちんとした説明をしなかったのだろう、と裁判官が思い込んでしまったということです。医事紛争へ発展するような症例は、医療事故発生から数年が経過していますので、事故当時患者に口頭で説明した内容まで細かく覚えていることは少ないと思います。そして、がんの告知や手術術式の説明のように、ある一定の緊張感のもとに行われ承諾書という書面に残るようなインフォームドコンセントに対し、本件のように(おそらく)ベッドサイドで簡単にすませる治療説明の場合には、曖昧な記憶になることもあるでしょう。しかし、ある程度の経験を積めば自ずと説明内容も均一化してくるものと思いますので、紛争へと発展した場合には十分な注意を払いながら、明確な意思に基づく主張を心がけるべきではないかと思います。循環器

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基準通り抗がん剤を投与したにもかかわらず副作用で急死した肺がんのケース

癌・腫瘍最終判決判例時報 1734号71-82頁概要息切れを主訴としてがん専門病院を受診し、肺がんと診断された66歳男性。精査の結果、右上葉原発の腺がんで、右胸水貯留、肺内多発転移があり、胸腔ドレナージ、胸膜癒着術を行ったのち、シスプラチンと塩酸イリノテカンの併用化学療法が予定された。もともと軽度腎機能障害がみられていたが、初回シスプラチン、塩酸イリノテカン2剤投与後徐々に腎機能障害が悪化した。予定通り初回投与から1週間後に塩酸イリノテカンの単独投与が行われたが、その直後から腎機能の悪化が加速し、重度の骨髄抑制作用、敗血症へといたり、化学療法開始後2週間で死亡した。詳細な経過患者情報12年前から肥大型心筋症、痛風と診断され通院治療を行っていた66歳男性経過1994年3月中旬息切れが出現。3月28日胸部X線写真で胸水を確認。細胞診でclass V。4月11日精査治療目的で県立ガンセンターへ紹介。外来で諸検査を施行し、右上葉原発の肺がんで、右下肺野に肺内多発転移があり、がん性胸膜炎を合併していると診断。5月11日入院し胸腔ドレナージ施行、胸水1,500mL排出。胸膜癒着の目的で、溶連菌抽出物(商品名:ピシバニール)およびシスプラチン(同:アイエーコール)50mgを胸腔内に注入。5月17日胸腔ドレナージ抜去。胸部CTで胸膜の癒着を確認したうえで、化学療法を施行することについて説明。シスプラチンと塩酸イリノテカンの併用療法を予定した(シスプラチン80mg/m2、塩酸イリノテカン60mg/m2を第1日、その後塩酸イリノテカン60mg/m2を第8日、第15日単独投与を1クールとして、2クール以上くり返す「パイロット併用臨床試験」に準じたレジメン)。医師:抗がん剤は2種類で行い、その内の一つは新薬として承認されたばかりでようやく使えるようになったものです。副作用として、吐き気、嘔吐、食欲低下、便秘、下痢などが生じる可能性があります。そのため制吐薬を投与して嘔吐を予防し、腎機能障害を予防するため点滴量を多くして尿量を多くする必要があります。白血球減少などの骨髄障害を生じる可能性があり、その場合には白血球増殖因子を投与します患者:新薬を使うといわれたが、具体的な薬品名、吐き気以外の副作用の内容、副作用により死亡する可能性などは一切聞いていない5月23日BUN 26.9、Cre 1.31、Ccr 40.63mL/min。5月25日シスプラチン80mg/m2、塩酸イリノテカン60mg/m2投与。5月27日BUN 42.2、Cre 1.98、WBC 9,100、シスプラチンによる腎機能障害と判断し、輸液と利尿薬を継続。6月1日BUN 74.1、Cre 2.68、WBC 7,900。主治医は不在であったが予定通り塩酸イリノテカン60mg/m2投与。医師:パイロット併用臨床試験に準じたレジメンでは、スキップ基準(塩酸イリノテカンを投与しない基準)として、「WBC 3,000未満、血小板10万未満、下痢」とあり、腎機能障害は含まれていなかったので、予定通り塩酸イリノテカンを投与した。/li>患者:上腹部不快感、嘔吐、吃逆、朝食も昼食もとれず、笑顔はみせるも活気のない状態なのに抗がん剤をうたれた。しかもこの日、主治医は学会に出席するため出張中であり、部下の医師に申し送りもなかった。6月3日BUN 67.5、Cre 2.55、WBC 7,500、吐き気、泥状便、食欲不振、血尿、胃痛が持続。6月6日BUN 96.3、Cre 4.04、WBC 6,000、意識レベルの低下および血圧低下がみられ、昇圧剤、白血球増殖因子、抗菌薬などを投与したが、敗血症となり病態は進行性に悪化。6月8日懸命の蘇生措置にもかかわらず死亡。当事者の主張患者側(原告)の主張1.シスプラチンと塩酸イリノテカンの併用投与当時は副作用について十分な知識がなく、しかも抗がん剤使用前から腎機能障害がみられていたので、腎毒性をもつシスプラチンとの併用療法はするべきではなかった2.塩酸イリノテカンの再投与塩酸イリノテカン再投与前は、食欲がなく吐き気が続き、しかも腎機能が著しく低下していたので、漫然と再投与を行ったのは過失である。しかも、学会に出席していて患者の顔もみずに再投与したのは、危険な薬剤の無診察投与である2.インフォームドコンセント塩酸イリノテカン投与に際し、単に「新しい薬がでたから」と述べただけで、具体的な薬の名前、併用する薬剤、副作用、死亡する可能性などについては一切説明なく不十分であった。仮にカルテに記載されたような説明がなされたとしても、カルテには承諾を得た旨の記載はない病院側(被告)の主張1.シスプラチンと塩酸イリノテカンの併用投与シスプラチン、塩酸イリノテカンはともに厚生大臣(当時)から認可された薬剤であり、両者の併用療法は各臨床試験を経て有用性が確認されたものである。抗がん剤開始時点において、腎機能は1/3程度に低下していたが、これは予備能力の低下に過ぎず、併用投与の禁忌患者とされる「重篤な腎障害」とはいえない2.塩酸イリノテカンの再投与塩酸イリノテカン研究会の臨床試験実施計画書によれば、2回目投与予定日に「投与しない基準」として白血球数の低下、血小板数の低下、下痢などが記載されているが、本件はいずれにも該当しないので、腎機能との関係で再投与を中止すべき根拠はない。なお当日は学会に出席していたが、同僚の呼吸器内科医師に十分な引き継ぎをしている2.インフォームドコンセント医師は患者や家族に対して、詳しい説明を行っても、特段の事情がない限りその要旨だけをカルテに記載し、また、患者から承諾を得てもその旨を記載しないのが普通である裁判所の判断1. 腎機能悪化の予見可能性抗がん剤投与前から腎機能障害が、シスプラチンの腎毒性によって悪化し、その状態で塩酸イリノテカンの腎毒性によりさらに腎機能が悪化し、骨髄抑制作用が強く出現して死亡した。もし塩酸イリノテカンを再投与していなければ、3ヵ月程度の余命が期待できた。2. 塩酸イリノテカンの再投与塩酸イリノテカン再投与時、腎機能は併用療法によって確実に悪化していたため、慎重に投与するかあるいは腎機能が回復するまで投与を控えるべきであったのに、引き継ぎの医師に対して細かな指示を出すことなく、主治医は学会に出席した。これに対し被告はスキップ基準に該当しないことを理由に再投与は過失ではないと主張するが、そもそもスキップ基準は腎機能が正常な患者に対して行われる併用療法に適用されるため、投与直前の患者の各種検査結果、全身状態、さらには患者の希望などにより、柔軟にあるいは厳格に解釈する必要があり、スキップ基準を絶対視するのは誤りである。3. インフォームドコンセント被告は抗がん剤の副作用について説明したというが、診療録には副作用について説明した旨の記載はないこと、副作用の説明は聞いていないという遺族の供述は一致していることから、診療録には説明した内容のすべてを記載する訳ではないことを考慮しても、被告の供述は信用できない。原告側合計2,845万円の請求に対し、536万円の判決考察本件のような医事紛争をみるにつけ、医師と患者側の認識には往々にしてきわめて大きなギャップがあるという問題点を、あらためて考えざるを得ません。まず医師の立場から。今回の担当医師は、とてもまじめな印象を受ける呼吸器内科専門医です。本件のような手術適応のない肺がん、それも余命数ヵ月の患者に対し、少しでも生存期間を延ばすことを目的として、平成6年当時認可が下りてまもない塩酸イリノテカンとシスプラチンの併用療法を考えました。この塩酸イリノテカンは、非小細胞肺がんに効果があり、本件のような腺がん非切除例に対する単独投与(第II相臨床試験;初回治療例)の奏効率は29.8%、パイロット併用試験における奏効率は52.9%と報告されています。そこで医師としての良心から、腫瘍縮小効果をねらって標準的なプロトコールに準拠した化学療法を開始しました。そして、化学療法施行前から、BUN 26.9、Cre 1.31、クレアチニンクリアランスが40.63mL/minと低下していたため、シスプラチンの腎毒性を考えた慎重な対応を行っています。1回目シスプラチンおよび塩酸イリノテカン静注後、徐々に腎機能が悪化したため、投与後しばらくは多めの輸液と利尿薬を継続しました。その後腎機能はBUN 74.1、Cre 2.68となりましたが、初回投与から1週間後の2回目投与ではシスプラチンは予定に入らず塩酸イリノテカンの単独投与でしたので、その当時シスプラチン程には腎毒性が問題視されていなかった塩酸イリノテカンを投与することに踏み切りました。もちろん、それまでに行われていたパイロット併用試験におけるスキップ基準には、白血球減少や血小板減少がみられた時は化学療法を中止しても、腎障害があることによって化学療法を中止するような取り決めはありませんでした。したがって、BUN 74.1、Cre 2.68という腎機能障害をどの程度深刻に受け止めるかは意見が分かれると思いますが、臨床医学的にみた場合には明らかな不注意、怠慢などの問題を指摘することはできないと思います。一方患者側の立場では、「余命幾ばくもない肺がんと診断されてしまった。担当医師からは新しい抗がん剤を注射するとはいわれたが、まさか2週間で死亡するなんて夢にも思わなかったし、副作用の話なんてこれっぽっちも聞いていない」ということでしょう。なぜこれほどまでに医師と患者側の考え方にギャップができてしまったのでしょうか。さらに、死亡後の対応に不信感を抱いた遺族は裁判にまで踏み切ったのですから、とても残念でなりません。ただ今回の背景には、紛争原因の一つとして、医師から患者側への「一方通行のインフォームドコンセント」が潜在していたように思います。担当医師はことあるごとに患者側に説明を行って、予後の大変厳しい肺がんではあるけれども、できる限りのことはしましょう、という良心に基づいた医療を行ったのは間違いないと思います。そのうえで、きちんと患者に説明したことの「要旨」をカルテに記載しましたので、「どうして間違いを起こしていないのに訴えられるのか」とお考えのことと思います。ところが、説明したはずの肝心な部分が患者側には適切に伝わらなかった、ということが大きな問題であると思います(なお通常の薬剤を基準通り使用したにもかかわらず死亡もしくは後遺障害が残存した時は、医薬品副作用被害救済制度を利用できますが、今回のような抗がん剤には適用されない取り決めになっています)。もう一つ重要なのは、判決文に「患者の希望を取り入れたか」ということが記載されている点です。本件では抗がん剤の選択にあたって、「新しい薬がでたから」ということで化学療法が始まりました。おそらく、主治医はシスプラチンと塩酸イリノテカンの併用療法がこの時点で考え得る最良の選択と信じたために、あえて別の方法を提示したり、個々の医療行為について患者側の希望を聞くといった姿勢をみせなかったと思います。このような考え方は、パターナリズム(父権主義:お任せ医療)にも通じると思いますが、近年の医事紛争の場ではなかなか受け入れがたい考え方になりつつあります。がんの告知、あるいは治療についてのインフォームドコンセントでは、限られた時間内に多くのことを説明しなければならないため、どうしても患者にとって難解な用語、統計的な数字などを用いがちだと思います。そして、患者の方からは、多忙そうな医師に質問すると迷惑になるのではないか、威圧的な雰囲気では言葉を差し挟むことすらできない、などといった理由で、ミスコミュニケーションに発展するという声をよく聞きます。中には、「あの先生はとても真剣な眼をして一生懸命話してくれた。そこまでしてくれたのだからあの先生にすべてを託そう」ですとか、「いろいろ難しい話があったけれども、最後に「私に任せてください」と自信を持っていってくれたので安心した」というやりとりもありますが、これほど医療事故が問題視されている状況では、一歩間違えると不毛な医事紛争へと発展します。こうした行き違いは、われわれすべての医師にとって遭遇する可能性のあるリスクといえます。結局は「言った言わないの争い」になってしまいますが、やはり患者側が理解できる説明を行うとともに、実際に患者側が理解しているのか確かめるのが重要ではないでしょうか。そして、カルテを記載する時には、いつも最悪のことを想定した症状説明を行っていること(本件では抗がん剤の副作用によって死亡する可能性もあること)がわかるようにしておかないと、本件のような医事紛争を回避するのはとても難しくなると思います。癌・腫瘍

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〔CLEAR! ジャーナル四天王(47)〕 FREEDOM試験がもたらした「開放」とは?

複雑な冠動脈疾患患者にバイパス(CABG)か?PCIか?という問題は90年代のBARI試験から最近のSYNTAX試験まで、いろいろな側面から検討がなされ、さながら不整脈のreentry回路のように外科医と内科医の頭を悩ませてきた。だが、このFREEDOM試験はその回路(circuit)に楔を打ち込んだ研究といえるのではないか。【これまでに行われてきた研究との比較】糖尿病患者の再灌流療法に関しては、10年ほど前にBARI試験で単純なバルーン拡張術(Plain Old Balloon Angioplasty; POBA)が初めてCABGと比較された。さらに、5年ほど前にBARI-2D試験で非薬剤性のステント(Bare Metal Stent; BMS)がCABGと比較されている。周知のとおり、いずれの試験でも長期的にはCABGが予後改善効果に優れたという結果が得られている。FREEDOMは、PCIが薬剤溶出性ステント(Drug Eluting Stent; DES)の時代を迎え、三度その長期的な予後の比較が糖尿病患者で行われたものであるが、端的に言うとこれまでの結果を覆すものではない。これは、POBAからBMS、そしてDESに至るまで、いずれも再狭窄の抑制のためのデバイスの進歩であり、明確なイベントの抑制(急性心筋梗塞や心臓突然死)がもたらされていないことを踏まえると、驚くにはあたらない。【SYNTAXによるスコア化について】また、糖尿病患者限定ではなかったが、最近行われたSYNTAX試験サブ解析の結果、リスク層別の有力なツールとしてSYNTAX スコアが提唱されている。三枝病変もしくは左主幹部病変患者で、その病変複雑性がSYNTAXスコアにして0~22の間であればおそらくはPCIとCABGは同程度に有効であり、22以上であれば、その点数の上昇にしたがって、CABGのほうがPCIよりも予後改善に有用となる。FREEDOMの平均のSYNTAX スコアは26であり、病変の複雑性というところからもCABGが有利な患者群を扱っている。しかも、標準偏差は8と枠は狭い。したがってFREEDOMでは、このSYNTAXスコア26±8というCABGに有利な枠内で、やはり予想通りの結果が得られたということになる。しかし、このように予想通りの結果であったからといってFREEDOMの価値が減じられるわけではない。BARIやSYNTAXとはまったく別のグループが組んだ臨床試験でその結果が検証された意義は大きい。しかも、個々の患者にとって大きな価値を持つ「長期的予後」という観点から、である。このことだけでも、やはりFREEDOMの結果は特筆に値する。言うまでもなく、糖尿病患者、あるいはそれに類する複雑な患者へのアプローチで推奨されているのは、外科医と内科医を含めたHeart Teamによる総合的な検討である。わが国でこの試験の結果を適用するためには注意点がいくつか存在するが(文末の三点)、FREEDOMは間違いなく患者サイドへのインフォームドコンセントに有用であり、医療者側からより強く自信をもった提言を行うことを可能とした。現場でこの試験の結果を公平な判断へとつなげて初めて、「無知から開放(FREEEDOM from ignorance)」は達成される。FREEDOM試験の注意点1.わが国の糖尿病患者の予後は、おそらくは欧米のそれよりも良好である可能性があり(Kohsaka S,et al.Diabetes Care. 2012 ;35:654-659.)、CABGによる予後改善効果が「薄まる」可能性も捨てきれない。2.さらにこの試験は二度にわたりプロトコールの変更を行い、かなり患者の登録に難渋した形跡がみられる。その影響か、最後まで(7年間)追跡することができた症例は200例強にすぎない。今後、他のデータで長期的な検証が必要である。3.さらに、MIとStrokeのイベントの「重さ」がこの試験では同等に扱われているが、これは現実のケースでは必ずしもイーブンではない。心筋梗塞エンドポイント定義(30日以内)myocardial infarction was defined as the presence of new Q waves in 2 or more contiguous leads on electrocardiography, as compared with baseline.脳梗塞エンドポイント定義Stroke was defined as the presence of at least one of the following factors: a focal neurologic deficit of central origin lasting more than 72 hours or lasting more than 24 hours with imaging evidence of cerebral infarction or intracerebral hemorrhage.(執筆協力:循環器内科CRC 植田育子)

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The role of sentinel lymph node surgery in patients presenting with node positive breast cancer (T0-T4, N1-2) who receive neoadjuvant chemotherapy - results from the ACOSOG Z1071 trial

リンパ節転移陽性(T0-T4)で術前化学療法を受けた乳癌患者でのセンチネルリンパ節生検の役割―ACOSOG Z1071試験本研究の適格基準は、18歳以上、経過観察可能、cT0-4/N1-2/M0、細胞診またはコア針生検で腋窩リンパ節転移陽性、浸潤性乳癌、術前化学療法(NAC)終了後12ヵ月以内の手術、インフォームドコンセントであり、除外基準は妊娠期/授乳期、鎖骨上/鎖骨下/胸骨傍リンパ節転移疑い、同側腋窩手術の既往、センチネルリンパ節生検/化学療法前の腋窩リンパ節生検の既往、炎症性乳癌である。センチネルリンパ節生検として推奨される方法は少なくとも2個のリンパ節摘出、RIと青い色素の2つの標識の使用である。病理学的評価はHE染色を用い、0.2mmより大きいものをリンパ節転移陽性とした。主目的は、センチネルリンパ節を2個以上摘出したcN1の乳癌女性で、偽陰性率が10%未満であるか決定することである。10%の偽陰性率を選択した理由は、NACを行っていない早期乳癌でのセンチネルリンパ節生検の偽陰性率がNSABP B-31で9.8%であったこと、NACではNSABP-B-27で10.7%、21試験のメタアナリシスで12%であったことからである。136施設から756例が登録され、除外基準となった53例を除く701例を対象とした。腋窩郭清が完全に行われなかった1例、腋窩郭清でリンパ節が1つもなかった1例、センチネルリンパ節生検が行われなかった12例を除くと687例となり、さらにセンチネルリンパ節が同定できなかった50例を除くと、637例(cN1:603例、cN2:34例)となった。701例の患者背景は、年齢49(23~93)歳、人種は白人が80.6%、腋窩診断はコア針生検61.2%、細胞診38.8%、cT2が54.9%、おおよそのサブタイプはHER2+が30.1%、トリプルネガティブが24.1%、HR+/HER2-が45.4%であった。センチネルリンパ節同定率は92.7%(639/689例)であった。637例中リンパ節転移陰性となったものが255例(40%)、センチネルリンパ節転移陽性が326例、センチネルリンパ節転移陰性で腋窩郭清時陽性が59名であり、センチネルリンパ節は転移状況を91.2%で正確に同定できた。cT1かつセンチネルリンパ節2個以上の患者では偽陰性率は12.6%であった。色素のみ22.2%、RIのみ20.0%、RIと色素の両方を使用10.8%(p=0.046)、センチネルリンパ節2個21.1%、3個9.0%、4個6.7%、5個以上11.0%(p=0.004)であった。cT1でセンチネルリンパ節1個のみでは偽陰性率31.5%であった。cT1かつセンチネルリンパ節2個以上で、リンパ節内にクリップを挿入した患者では、センチネルリンパ節内にクリップがあった96例のうち54例で転移が残存しており、偽陰性率は7.4%であった。サマリーとしてリンパ節の状態を正確に判定できたのは91.2%、pCRは40.0%、cT1かつセンチネルリンパ節2個以上での偽陰性率12.6%(RIと色素の併用で10.8%、センチネルリンパ節3個以上で9.1%)であった。これらのデータから、リンパ節転移陽性乳癌におけるNAC後のセンチネルリンパ節生検はリンパ節転移の状況を検出するのに有用な方法であり、手技としてRIと色素の併用、2個以上の摘出が重要であると結論づけている。また、リンパ節の診断時にクリップを挿入することや、治療効果をみるためのセンチネルリンパ節の病理学的検索をするなどのさらなる工夫で、より精度が上がるかもしれないとも述べている。患者数も多く非常に重要な試験ではあるが、後付けでさまざまなサブ解析をしたデータで結論づけるのは無理がある。T1かつセンチネルリンパ節2個以上かつRIと色素の併用と患者選択しても偽陰性率10.8%であり、本研究から、リンパ節転移陽性乳癌における化学療法後のセンチネルリンパ節生検は有用であるとはとても言い難い。これに引き続いて、ドイツからもセンチネルリンパ節と術前化学療法の関係について報告があった。 レポート一覧

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Dr.岩田のスーパー大回診

第4回「PQRSTで終わらせない!」第5回「研修医は三日寝ないで一人前?」第6回「ムンテラを教えよう」 第4回「PQRSTで終わらせない!」指導医が研修医に、「問診で患者さんに痛みについて尋ねるときの手段について」質問すると、「“PQRST”をきちんと聞く」などと答える人がいます。最近は病歴聴取についての教材や教育方法が発達してきたため、研修医もこのようなことを良く知っています。そして指導医もまた、それさえできていれば十分だと思ってしまいがちです。しかし、それでは病歴聴取としては不十分なのです。PQRSTは単なるチェックリストに過ぎません。チェックリストを埋めているだけの問診では、疾患や患者さんの全体像を掴むことはできません。では、病歴聴取において指導医は研修医をどう指導したら、またどのように訓練していけばよいのでしょうか。岩田先生ならではの“指導医の心得”を伝授します !第5回「研修医は三日寝ないで一人前?」医療現場では当たり前ともされる「時間がない!」「忙しすぎる!」「人が足りない!」「今日も寝られない!」という過酷な状況の中、研修医に対しても「三日寝ないで一人前」のような感覚でいる指導医の先生が多いのではないでしょうか。しかし、乗客の命を預かるパイロットが適切な休養を義務として取るように、患者さんの命を預かる医師も「権利」としてでなく、「義務」として休養を取らなければいけません。つまり、プロである以上、患者さんのためにベストパフォーマンスを発揮するためには適切なタイムマネジメントが必要であり、研修医のタイムマネジメントを管理するのも指導医の役目なのです。「そうは言っても、手いっぱいでそんなことやってられない!」という方、ぜひ岩田先生からの明解なアドバイスをお聞きください。超多忙な中、多くの講演や執筆を手がける岩田先生ならではの妙技をご紹介します。第6回「ムンテラを教えよう」ムンテラは、ドイツ語のMund Therapie(ムントセラピア)の略語で、「口で治療する」という意味です。いわば医療行為の一環であり、エコーや心電図などの医療行為と同じく特別な技術を要するもの。この「ムンテラ」と呼ばれる、がん告知やインフォームドコンセントを、経験の浅い研修医一人に任せたりしていませんか? 「ムンテラ」は、医学知識があるからといって訓練なしで研修医が行っていいことではありません。でも、「ムンテラなんて教えたことも教わったこともない」という声が聞こえてきそうです。そんな悩める指導医のための基本知識を伝授します。岩田先生の明解解説でムンテラを教えるツボがわかります !

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スマホ、タブレット…医師の半数以上が、一台以上スマートデバイスを所有している!

先生はスマートフォン、タブレット型端末をお持ちでしょうか。どこでもニュースをチェックできる、いつでもメールに返信できる、重い書籍を持ち歩かずに済む…今やこれがないと仕事にならないという先生も多いかと思います。ケアネットでは2010年以来毎年、先生方のスマートデバイス所有率調査を実施してきましたが、2012年現在、とうとうその所有率が半数を超えました!年代で所有率は違うのか?スマホとタブレット、それぞれの使い方は?活用している先生、利用していない先生それぞれのコメントも必見です。結果概要はこちらコメントはこちら設問詳細スマートフォン・タブレット型端末についてお尋ねします。iPhone5の発売に注目が集まり、20代のスマートフォン所有率は既に半数を超えているといわれています。 また、昨年ケアネットで実施した調査では、医師のスマートフォン所有率は28%という結果でした。そこで先生にお尋ねします。Q1. 先生は現在スマートフォン/タブレット型端末を所有していますか。(両者それぞれに対して回答)※スマートフォンとは、「iPhone」のような、携帯情報端末(PDA)と携帯電話が融合した携帯端末を指します。※タブレット型端末とは、「iPad」のような、スクリーンをタッチして操作する携帯型コンピュータを指します。スマートフォンより大型。所有している(長期貸与も含む)所有していないが、いずれ購入したい購入するつもりはないQ2/3 (Q1で「スマートフォン/タブレット型端末を所有している」を選択した人のみ)先生はスマートフォン/タブレット型端末を、医療の用途においてどのようなことに利用していますか。医学・医療に関する書籍・論文閲覧医薬品・治療法に関する情報収集(書籍・論文以外)医学・医療関連のニュース閲覧臨床に役立つアプリの利用患者とのコミュニケーション医師・医療従事者とのコミュニケーション医療をテーマにしたゲームその他(       )特に利用しているものはないQ4. コメントをお願いいたします(ライフスタイルで変化した点、院内・移動中・プライベートでどのように利用されているか、所有していない方はその理由など、どういったことでも結構です)。アンケート結果Q1. 先生は現在スマートフォン/タブレット型端末を所有していますか。(両者それぞれに対して回答)年代別Q2/3 (Q1で「スマートフォン/タブレット型端末を所有している」を選択した人のみ)先生はスマートフォン/タブレット型端末を、医療の用途においてどのようなことに利用していますか。2012年9月21日(金)実施有効回答数:1,000件調査対象:CareNet.com医師会員結果概要医師の半数以上がスマートデバイスを所有している全体では、スマホ・タブレット両方の所有者が15.7%、いずれかを所有している医師が36.4%、いずれも所有していない医師が47.9%となり、医師の半数以上が一台あるいは複数のスマートデバイスを所有しているという結果となった。医師の約4割がスマートフォンを所有、30代以下では半数以上が利用中スマホ所有者に関しては、2010年の調査開始当初22.4%、2011年では28.0%と年々上がってきたが、2012年の今回は10ポイント以上伸びて38.6%。一般市民の28.2%※と比較すると、10ポイント以上上回る所有率であった。年代別では若い世代の医師ほど利用率が高く、40代で42.5%、30代以下では54.2%と実に半数を超える結果となった。※日経BPコンサルティング「携帯電話・スマートフォン"個人利用"実態調査2012」より。一台あるいは複数所有する回答者タブレット型端末の所有者は2年前に比較して倍増。年代に比例せず60代でも約3割が利用一方タブレット型端末に関しては、初代iPadが発売された2010年時で所有率13.1%と、医師のスマートデバイスに対する関心度の高さが既に見られていた。その後2011年で20.3%と伸び、2012年の今回は29.2%と約3割の医師が所有していることが明らかとなった。またスマホと異なり、年代による偏りがあまり見られず、30代以下で31.3%、60代以上で29.2%となった。60代以上の医師では タブレット型端末の所有者が スマートフォン所有者を上回る30代以下ではスマートフォン所有者は54.2%、タブレットで31.1%と、ほぼ全ての年代においてスマホ所有率がタブレットのそれを上回っているが、60代以上になるとスマホで25.8%、タブレットで29.2%と逆転。『移動中、学会など調べ物にタブレットを使う。スマホの画面では小さく見にくいので』といった声も寄せられた。タブレット型端末のほうが医療面での活用度が高く、所有者の4人に3人が利用中所有者に対し医療での用途を尋ねたところ、スマホで最も高かったのは「医薬品・治療法に関する情報収集(書籍・論文以外)」(37.0%)、同じくタブレットでは「書籍・論文閲覧」(47.6%)。特に違いが見られたのが「患者とのコミュニケーション」で、スマホでは4.1%、タブレットでは14.7%となり『インフォームドコンセントの際、立体的で具体的な説明ができ、患者の理解が深まっている』といった活用法が寄せられた。「特に利用しているものはない」との回答はスマホで35.5%、タブレットで26.7%となった。CareNet.comの会員医師に尋ねてみたいテーマを募集中です。採用させて頂いた方へは300ポイント進呈!応募はこちらコメント抜粋 (一部割愛、簡略化しておりますことをご了承下さい)「業務連絡の一斉連絡に使っていて便利に感じています。」(40代男性,その他)「ipadでカルテを書いたり、レントゲンを見たりする時代がすぐそこまで来ている。」(40代男性,小児科)「Facebookで他の医師からの情報が逐次入るようになり、役に立ったり、煩わしかったりしています。スケジュール管理にはパソコンと連動させると非常に便利。iCloudでプレゼンや文書ファイルのやりとりをしている。」(50代男性,小児科)「日本はアメリカに比べて5年以上遅れています。日本語で提供できる、安いコンテンツの提供が必要」(60代以上男性,内科)「スマートフォンは思うところあって手放した。 手放してみると結構不要だったことに気づいた。」(30代以下男性,腎臓内科)「常時携帯する簡易コンピュータとして利用。日本医薬品集(の内容を収録したアプリ)などが常に手元にあり、いつでも参照できるので、仕事の効率が上がったと思う。」(40代男性,精神・神経科)「携帯が必要な書籍はほぼ全てスマートフォン・タブレットに入っているため、ポケットに本を詰め込むことがなくなった。大変スマート。」(30代以下男性,内科)「院内でも使えるアプリ開発を期待します。 患者IC用のスライドのようなもの」(40代男性,循環器科)「患者へのインフォームドコンセントの際に、より立体的で具体的な説明ができ、患者の理解が深まっている。」(40代男性,循環器科)「所属医師会では、役員全員にiPadを支給しています。 役員就任中は医師会で通信費を負担していただけます。 用途は、主に (1)iPad上の連絡網として使用 (2)ペーパーレス会議とし、役員会資料をすべて電子化してiPadで閲覧・検索とする」(50代男性,内科)「PCやiPadを持っていれば、スマートフォンは必要ない。 iPadは現在、訪問診療患者の基本情報を自宅でも見られるように使っており、画像を訪問時に見せて説明している。医療現場においても使用価値はますます高くなっていくと思う。」(50代男性,内科)「移動中や外出先でも仕事ができるようになった」(30代以下女性,内科)「スマートフォンは病棟に持ち込めないので病棟ではiPodを使用し、医療に役立つアプリを臨床に役立てています。」(40代男性,消化器科)「院内でも情報を以前より早く得られるようになった気がする。」(40代男性,消化器科)「地方都市では車で通勤なので使用しない。自宅や勤務先にはパソコンがネットでつながっており、さらに、スマートフォンに料金を支払う必要はない」(50代男性,内科)「情報収集時にPCを使う頻度が減った。Wi-Fi環境が整っている場合に、ペンを使ってメモを取ったりノートを書くことが減った。」(50代男性,総合診療科)「写真を撮ってiCloudでコンピューターに転送。自動車内で行先の情報を得る。 見知らぬ地でのナビとして。」(50代男性,整形外科)「iPadでプレゼン資料のチェック」(60代以上男性,内科)「院内では電波環境がよくないので使用しづらい」(30代以下男性,その他)「紹介病院など直ぐに患者に情報を提供できる」(40代男性,小児科)「電話は電話機能だけでいいと考えている。 また、出先で様々な機能を使う必要を感じていない。 時代に付き合う気持ちもない。」(60代以上男性,内科)「医学書を持ち歩くのが大変なので、主に電子書籍として利用しています。検索が早いのが利点です。」(40代男性,内科)「ハンドブックをPDF化しての閲覧、電子辞書の検索にとても便利です。」(50代男性,内科)「スマホはもう無ければやっていけないほど。ガラケーとは得られる情報量も違うし。タブレット端末もノートパソコンより小回りがきくので便利。ちょっとしたプレゼンもタブレット端末で済ませています。」(50代男性,内科)「スケジュール管理」(30代以下男性,精神・神経科)「医学雑誌を読むために購入予定。」(50代男性,麻酔科)「タブレット型端末はいつでも身近にある辞書として活用したい スマートフォンは便利すぎて危険に思えるので、普通の携帯で良い 」(60代以上男性,内科)「evernoteにPDFいれてガイドラインなど見ています。」(30代以下男性,アレルギー科)「漢方の本を読んだり、エヴァーノートに医療テキストなどを載せて、読みたいときに自由に読んでいる。」(50代男性,消化器科)「書籍や文献を持ち歩かなくて済む」(50代男性,神経内科)「医薬品情報・学会情報を手軽に入手できるようになった。」(50代男性,循環器科)「通勤時間を利用してニュースの閲覧」(30代以下男性,その他)「医療用サイト、メールマガジンを手軽に閲覧できるので最近の専門以外の情報が得られる」(60代以上男性,循環器科)「移動中の暇つぶしには最適。メールチェックや返信などが楽になった。出張などでも基本PCは不要である。」(40代男性,外科)「パソコンと違って持ち運べるし、常に電源が入っているので、咄嗟の調べ物に強いと思います。」(40代男性,消化器科)「医療現場での医療情報収集が容易になった。」(50代男性,小児科)「カンファレンス等、ガイドラインや文献のない場所でも調べることができる。」(50代男性,その他)「持つまでは不要と考えていたが、実際使用してみると 便利。しかしこれでゲームをしようとは思えない。」(30代以下男性,形成外科)「単にきっかけがないから、購入していないです。災害時など情報入手手段として用意しておきたいと思います。」(50代女性,小児科)「持っているが飛行機の予約や宿の手配、ゴルフのエントリーやショッピングばかり」(50代男性,内科)「旅行先でNaviを使う。レストランを探す。Googleで医薬品や疾患の診断基準を調べる。」(50代男性,内科)「携帯電話で,電話機能以外(メール,imodeなど)を使用することはほとんどありません.したがって,スマートフォンに関しても必要性を感じません.」(40代男性,呼吸器科)「職場では医局のPCでチェックして、移動中に情報をチェックする必要性が低いため。移動中やあちこちに移動する必要がある職場に異動すれば所有を検討するかもしれません。」(40代男性,内科)「電車の中で皆が見ている姿を見ていると寂しくなってきます。会話が減りますね」(30代以下女性,耳鼻咽喉科)

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SUN(^_^)D「抗うつ薬の最適使用戦略を確立するための多施設共同無作為化試験」パイロットトライアルが発表

わが国のうつ病診療はここ十数年の間に大きく変化した。さまざまな新規抗うつ薬が登場し、急増するうつ病患者に対しどのような治療指針で診療に取り組むべきか議論がなされている。このような中、京都大学 古川氏を主任研究者とする「抗うつ薬の最適使用戦略を確立するための多施設共同無作為化試験-SUN(^_^)D 」プロジェクトが実施されている。本研究の実現の可能性およびアドヒアランスを調査するためのパイロット調査の結果を共同主任研究者の一人である高知大学の下寺氏らがTrials誌オンライン版2012年6月8日付で発表した。2010年より実施されたSUN(^_^)Dプロジェクトは、単極性大うつ病 の急性期治療について、ファーストラインおよびセカンドラインでの抗うつ薬の最適治療戦略を確立することを目的とした25週間の多施設共同無作為化試験である。SUN(^_^)Dプロジェクトの目標症例は2,000例、主要評価項目はこころとからだの質問票(PHQ9)を用い評価する。今回の報告では、本研究を円滑に進めるため、実現性やアドヒアランスに関してパイロット調査にて検証を行った。2010年12月から2011年7月の間に受診した初診患者2,743例中、本研究への参加が適切であると判断された382例のうち、書面によるインフォームドコンセントに同意した軽症から非常に重症なうつ病患者100例を対象とした。主な結果は以下のとおり。 ・2011年7月末までに本研究開始後3週目に達した93例中、主要項目の評価が可能であった患者は90例(96.8%)であった。・本研究開始後9週目まで達した72例のうち、70例(97.2%)は十分な面談が可能であった。・最終25週目に到達した32例中、29例(90.5%)はフォローアップ可能であった。・主要評価項目の信頼性はほぼ問題なく、無作為化も確認された。・プロトコールの若干の変更と明確化が必要であると考えられる。(ケアネット 鷹野 敦夫) 関連医療ニュース ・うつ病治療におけるNaSSA+SNRIの薬理学的メリット ・うつ病治療“次の一手”は?SSRI増量 or SNRI切替 ・職場におけるうつ病患者に対し電話認知行動療法は有効か?

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