サイト内検索|page:9

検索結果 合計:871件 表示位置:161 - 180

161.

Hybrid closed loop(HCL)療法は1型糖尿病合併妊娠においても有効である(解説:住谷哲氏)

 CGMが一般的になってTIR time in rangeも日頃の臨床でしばしば口にするようになってきた。TIRは普通70 -180mg/dLが目標血糖値とされているが、より厳格な血糖管理が要求される妊婦の場合は、これが63-140mg/dLに設定されている1)。1型糖尿病患者におけるHCL療法の有用性はほぼ確立されているが、1型糖尿病合併妊娠患者におけるエビデンスは、これまで存在しなかった。本試験によって、ようやくエビデンスがもたらされたことになる。 HCLシステムはCGM、インスリンポンプおよびそれを統合管理するアルゴリズムから構成される。本試験で用いられたのは、CGMがDexcomの Dexcom G6 (リアルタイムCGM)、インスリンポンプがSooilのDana Diabecare RS、そしてアルゴリズムがCamDiabのCamAPS(Cambridge Artificial Pancreas System) FX (version 0.3.71)、スマートフォンがSamsungのGalaxy S8-12(または本人希望の機種)が用いられた。従来治療群のほぼ全例がCGMを併用しており、さらに約半数がインスリンポンプ使用患者であった。目標血糖値は従来治療群で食前血糖値63-130mg/dL、食後1時間値140mg/dLとされた。一方、HCL群では目標血糖値は妊娠初期では100mg/dL、妊娠16週から20週では81-90mg/dL、それ以降分娩までは81mg/dLに設定された。 主要評価項目である目標血糖値63-130mg/dLの達成時間の割合の差である10.5%(約2.5時間に相当する)が臨床的にどれほどのインパクトを持つのだろうか? 先行する観察研究の結果からは、5%の差が母児の有害事象の減少と相関することが示されており2)、本研究で得られた10%の差が臨床的に意義のある可能性は高い。厳密には臨床的アウトカムをエンドポイントにしたRCTが必要であるが、膨大な時間と費用がかかることから実施される可能性は低いと思われる。 現在では、すべての1型糖尿病患者に対してHCLを推奨する流れになっている。より厳格な血糖管理が必要とされる1型糖尿病合併妊婦にとっても同様である。エビデンスとテクノロジーは十分にそろったといえる。

162.

新規発症1型糖尿病へのバリシチニブ、β細胞機能を維持/NEJM

 発症100日以内の10~30歳の1型糖尿病患者に対し、バリシチニブの48週間経口投与は、プラセボ投与と比較して、混合食負荷後のC-ペプチド濃度で測定したβ細胞機能を維持すると思われることが、オーストラリア・St. Vincent's Institute of Medical ResearchのMichaela Waibel氏らによる第II相の二重盲検プラセボ対照無作為化試験で示された。バリシチニブなどJAK阻害薬は、サイトカインシグナル伝達を阻害することで、いくつかの自己免疫疾患に対して有効な疾患修飾薬である。バリシチニブが1型糖尿病のβ細胞機能を維持可能かどうかは明らかになっていなかった。NEJM誌2023年12月7日号掲載の報告。対プラセボで、2時間混合食負荷試験中のC-ペプチド濃度平均値を比較 研究グループは2020年11月~2022年2月に、オーストラリアの医療機関4ヵ所を通じて、1型糖尿病の診断後100日以内の10~30歳を対象に試験を開始した。 被験者を無作為に2群に分け、一方にはバリシチニブ(1日1回4mg)を48週間経口投与、もう一方にはプラセボを投与した。 主要アウトカムは、48週時点の2時間混合食負荷試験中の平均C-ペプチド濃度で、濃度-時間曲線下面積で算出した。副次アウトカムは、糖化ヘモグロビン値のベースラインからの変化、1日インスリン投与量、持続血糖モニタリングで評価した血糖コントロールの指標などだった。1日インスリン投与量、糖化ヘモグロビン値は両群同等 被験者総数は91例(バリシチニブ群は60例、プラセボ群は31例)だった。 48週時点の混合食負荷後平均C-ペプチド濃度の中央値は、バリシチニブ群は0.65 nmol/L/分(四分位範囲[IQR]:0.31~0.82)、プラセボ群0.43 nmol/L/分(0.13~0.63)だった(p=0.001)。 48週時点の1日インスリン投与量平均値は、バリシチニブ群0.41 U/kg/日(95%信頼区間[CI]:0.35~0.48)、プラセボ群で0.52 U/kg/日(0.44~0.60)だった。糖化ヘモグロビン値平均値も両群で同等だった。 一方で、48週時点の持続血糖モニタリングによる血糖値の変動係数平均値は、バリシチニブ群29.6%(95%CI:27.8~31.3)、プラセボ群33.8%(31.5~36.2)だった。 有害事象の発現頻度および重症度は両群で同程度で、重篤な治療関連有害事象は報告されなかった。

163.

糖質制限or脂質制限、向いている食事療法を予測/京都医療センター

 米国糖尿病予防プログラム(DPP)やフィンランド糖尿病予防研究では低脂肪食が糖尿病に有効との報告がある一方で、糖質制限が減量に有効であるとの報告もある。それでは、目の前の患者さんにどのような食事療法を指導していけばいいのだろうか。 この問題を解決するために、坂根 直樹氏(京都医療センター臨床研究センター予防医学研究室)らの研究グループは、PwCグループが開発した膵臓・肝臓・脂肪など臓器間のネットワークを含めたシミュレーションモデル(機序計算モデル)を用いて、糖尿病の食事療法の個別化分析を行った。PLOS ONE誌2023年11月30日号の報告。112例の糖質と脂質の割合を変えたシミュレーションを実施 糖尿病予防のための戦略研究J-DOIT1(研究リーダー:葛谷 英嗣氏)の2,607例(中央値4.2年のフォローアップ期間)のデータを用いた。生活習慣介入を受けた介入群(1,240例)から最も結果が良かった者と悪かった者を抽出し、それに合わせたデータセットを対照群(1,367例)から抽出した(合計112例)。体重とHbA1cの時間的変化について機序計算モデルを用いてシミュレーションを行った。生理学的なパラメーター(インスリン感受性など)とライフスタイルのパラメーター(食事摂取など)との関連性を評価した。最後に、体重減少と血糖改善のための個別に最適化されたダイエットを予測するためにシミュレーションを行った。 主な結果は以下のとおり。・本モデルを用いることで、生活習慣介入による体重とHbA1cの時間的変化(4年間)を、それぞれ1.0±1.2kgと0.14%±0.18%の平均予測誤差で予測することができた。・最も改善された生体標識と最も改善されなかった生体標識を持つ個人間では、モデル推定のエネルギーバランスに有意な差はみられず、エネルギーバランスだけでは体重の予測をする良い因子とはなり得なかった。・糖質と脂質の割合を変えたシミュレーションを行うことで、個別に糖質制限が向いているか、低脂肪食が向いているかを予測することができた。たとえば、被験者41が減量に成功(5~7%減)するには、炭水化物の割合を10~20%程度減らすとよいと予測されたのに対し、被験者44では炭水化物の割合ではなく、脂質を10~20%制限する必要があると予測された。・さらに、被験者41が減量だけでなく、血糖も改善(HbA1c0.1~0.2%減)するには脂質の割合を±20%程度に留めておく必要があると予測された。 この結果から坂根氏は「従来、平均化されたエビデンスから平均的な医療が提供されることが多かった。本モデルを用いることで、この人には緩やかな糖質制限、この人には脂質制限と糖尿病食事療法というように個別化できるようになる。さらに、極端に糖質制限をしなくとも、減量と血糖改善は可能であり、脂質はいくらでも増やしてもいいわけではないことも説明できる。今後は、このモデルを用いた生活習慣介入試験を実施する必要がある」と展望を語っている。

164.

ヴィーガン食の健康への影響を双子で比較すると…?

 ヴィーガン(完全菜食主義)食は環境負荷が低いだけでなく、健康にも良い影響を及ぼすことが報告されている。しかし、その多くは疫学研究に基づくものである。そこで、米国・スタンフォード大学のMatthew J. Landry氏らは、交絡を抑制するために一卵性双生児を対象とした臨床研究を実施し、ヴィーガン食の心代謝系への影響を検討した。その結果、ヴィーガン食は通常食と比べてLDLコレステロール(LDL-C)値、空腹時インスリン値、体重を有意に低下させた。本研究結果は、JAMA Network Open誌2023年11月30日号で報告された。 一卵性双生児22組44人(男性10人、女性34人)を対象とした単施設無作為化比較試験を実施した。双生児のうち片方をヴィーガン食を摂取する群(ヴィーガン食群)、もう一方を通常食を摂取する群(通常食群)に無作為に割り付け、8週間追跡した。1~4週時は提供した食品を摂取させ、5~8週時はそれぞれの群に適した食品を被験者に自ら用意させて摂取させた。主要評価項目は8週時におけるLDL-C値であった。副次評価項目は8週時における空腹時インスリン値、体重などであった。 主な結果は以下のとおり。・被験者の平均年齢(標準偏差[SD])は39.6(12.7)歳、平均BMI(SD)は25.9(4.7)であった。・主要評価項目の8週時におけるLDL-C値は、通常食群116.1mg/dLであったのに対し、ヴィーガン食群95.5mg/dLであり、ヴィーガン食群で有意に低下した(群間差:-13.9mg/dL、95%信頼区間[CI]:-25.3~-2.4、p=0.02)。・空腹時インスリン値と体重についても、ヴィーガン食群で有意な低下が認められた。詳細は以下のとおり。 -空腹時インスリン値:通常食群13.7μIU/mL、ヴィーガン食群10.5μIU/mL(群間差:-2.9μIU/mL、95%CI:-5.3~-0.4、p=0.03) -体重:それぞれ71.7kg、69.5kg(同:-1.9kg、-3.3~-0.6、p=0.01)

165.

肥満2型糖尿病患者に強化インスリン療法は必要か?(解説:住谷哲氏)

 本試験では基礎インスリンを投与しても、血糖コントロール目標が達成できない肥満2型糖尿病患者に対するチルゼパチド週1回投与と毎食前リスプロ投与による強化インスリン療法との有効性が比較された。結果は予想通り、HbA1c低下、体重減少、目標血糖値達成率、低血糖の回避のすべてでチルゼパチドが優れていた。 経口血糖降下薬のみでは血糖コントロール目標が達成できない場合の治療選択肢として、以前は基礎インスリンを併用するBOT basal-supported oral therapyが金科玉条であったが、現在では基礎インスリンを投与する前にGLP-1受容体作動薬(GIP/GLP-1受容体作動薬を含む)を追加投与することが推奨されている1)。しかし現在でもfirst injectionにGLP-1受容体作動薬ではなく基礎インスリンが選択されることが少なくない。その場合、まずは基礎インスリンを0.5U/kgまで増量する。それでも血糖コントロール目標が達成できない場合には、GLP-1受容体作動薬を併用しないのであれば、強化インスリン療法へ移行することになる。しかし肥満2型糖尿病患者における強化インスリン療法はもろ刃の剣であり、肥満の助長は避けては通れない。 本試験では、FBGはチルゼパチド群およびリスプロ群の両群で100-125mg/dLを目指してグラルギンを増量し、さらにリスプロ群では毎食前BG100-125mg/dLを目指してリスプロを増量するようにデザインされた。試験開始時のグラルギン投与量は両群で46U/日(0.5U/kg)であったが、チルゼパチド群ではグラルギン投与量は試験終了時52週後に13U/日(0.15U/kg)まで減少した。さらに15mg投与群では、19%の患者においてグラルギン投与が不要となった。一方、リスプロ群の52週でのグラルギン投与量は42U/日(0.45U/kg)、リスプロ投与量は62U/日(0.67U/kg)、1日総インスリン投与量は112U/日(1.2U/kg)となった。 筆者も強化インスリン療法で治療中の肥満2型糖尿病患者に、セマグルチドを併用することでインスリン投与から離脱した症例を経験したことがある。病態生理から考えても、高インスリン血症を伴っている可能性の高い肥満2型糖尿患者における強化インスリン療法には疑問がある。コストや有害事象などを考慮することが当然必要であるが、肥満2型糖尿病患者における強化インスリン療法は、基礎インスリンにGLP-1受容体作動薬を併用しても血糖コントロール目標が達成できない患者に対する最後の選択肢としての位置付けが適切だろう。

166.

アミロイド陽性アルツハイマー病患者の皮質萎縮に対する炭水化物制限の影響

 インスリンレベルを低下させる炭水化物制限は、アルツハイマー病(AD)発症を遅らせる可能性がある。炭水化物の摂取を制限するとインスリン抵抗性が低下し、グルコースの取り込みや神経学的健康が改善すると考えられる。ADの特徴は、広範な皮質の萎縮だが、アミロイドーシスが確認されたAD患者において、正味炭水化物摂取量の低下が皮質萎縮の軽減と関連しているかは、明らかとなっていない。米国・Pacific Neuroscience Institute and FoundationのJennifer E. Bramen氏らは、炭水化物制限を行っているアミロイド陽性アルツハイマー病患者を対象に、中程度~高度の炭水化物摂取の場合と比較し、皮質厚が厚いとの仮説を検証した。Journal of Alzheimer's Disease誌2023年10月号の報告。 アミロイド陽性アルツハイマー病患者31例を、正味炭水化物のカットオフ値130g/日に基づき2群に分類した。皮質厚は、FreeSurferを用いて、MRIのT1強調画像より推定した。皮質表面分析は、クラスタワイズ回帰分析を用いて、多重比較のために補正した。群間差異の評価には、両側独立サンプルt検定を用いた。交絡因子を考慮した連続変数として正味炭水化物を用い、線形回帰分析も行った。 主な結果は以下のとおり。・正味炭水化物摂取量が低い群は、体性運動ネットワークおよび視覚ネットワークの皮質厚が有意に厚かった。・線形回帰では、正味炭水化物摂取レベルの低下は、前頭頭頂葉、帯状鞠膜、視覚ネットワークの皮質厚の厚さとの有意な関連が認められた。 著者らは「炭水化物制限は、AD患者の皮質萎縮を軽減する可能性がある。正味炭水化物摂取を130g/日未満に抑えることは、検証済みのMIND食を順守することにつながり、インスリンレベル低下による恩恵も受けることになるであろう」としている。

167.

統合失調症患者における抗精神病薬誘発性糖尿病性ケトアシドーシスのリスク評価~医薬品副作用データベース解析

 糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)は、生命を脅かす重篤な状態であり、抗精神病薬により引き起こされる可能性がある。アジア人糖尿病患者は、白人と比較し、インスリン抵抗性が低いといわれている。これまでに報告されている抗精神病薬に関連したDKAの研究は、すべて欧米人を対象としているため、これらのデータが日本人でも同様なのかは、不明である。獨協医科大学の菅原 典夫氏らは、自発報告システムデータベースである日本の医薬品副作用データベースを用いて、抗精神病薬とDKAとの関連を分析した。その結果から、統合失調症患者のDKA発現にはオランザピン治療が関連していることが明らかとなった。とくに、男性患者において、DKAリスクが高いことも確認された。Journal of Psychosomatic Research誌オンライン版2023年10月19日号の報告。 2004年4月~2021年3月に独立行政法人医薬品医療機器総合機構に提出された有害事象報告書を用いて、レトロスペクティブにファーマコビジランスの不均衡分析を行った。対象集団は統合失調症患者7,435例であり、抗精神病薬に関連したDKAの報告は合計55件であった。 主な結果は以下のとおり。・統合失調症患者のDKA症例55例のうち、DKA後の死亡した患者は3例(6%)であった。・DKAの兆候は、オランザピン治療後に報告されており、調整後報告オッズ比は有意であった(aROR:3.26、95%信頼区間[CI]:1.87~5.66)。・準選択法を用いた多変量ロジスティック回帰分析では、オランザピン治療症例1,399例において、DKA発現と関連していた因子は、男性であることだった(aROR:2.72、95%CI:1.07~6.90)。 結果を踏まえ、著者らは「本データは、統合失調症患者の抗精神病薬に関連するDKA発現を減少させるために、リスク管理やモニタリングに役立つであろう」としている。

168.

マクロ地中海食、乳がんの再発予防効果なし?

 いくつかの前向き研究で、食事の質の向上が乳がん患者の生存率改善と関連することが示唆されているが、乳がん特異的死亡率への影響については定まっていない。今回、イタリア・Fondazione Istituto Nazionale TumoriのFranco Berrino氏らがマクロ地中海食(地中海食に味噌や豆腐などの日本由来のマクロビオティックを取り入れた食事)による乳がん再発抑制効果を無作為化比較試験(DIANA-5試験)で検討したところ、再発抑制効果は示されなかった。しかしながら、推奨される食事の順守度による解析では、推奨された食事への変化率が上位3分位の女性では有意に予後が良好だったという。Clinical Cancer Research誌オンライン版2023年10月17日号に掲載。 本試験の対象は、再発リスクの高い(エストロゲン受容体陰性もしくはメタボリックシンドロームもしくは血中インスリン/テストステロン高値)乳がん患者1,542例で、食事介入群と対照群に無作為に割り付けた。食事介入群には、料理教室、コミュニティでの食事、食事推奨などで積極的に介入した。推奨される食品は全粒穀物、豆類、大豆製品、野菜、果物、ナッツ類、オリーブ油、魚などで、回避すべき食品は精製品、ジャガイモ、砂糖、デザート、赤肉、加工肉、乳製品、アルコール飲料である。食事順守の指標として、推奨される食品と回避すべき食品の差をDietary Indexとした。 主な結果は以下のとおり。・5年の追跡期間中に、食事介入群95例、対照群98例で乳がんが再発し(ハザード比[HR]:0.99、95%信頼区間[CI]:0.69~1.40)、差はみられなかった。・両群を合わせてDietary Indexの変化率が上位3分位の女性は、下位3分位の女性に対して、再発のHRが0.59(95%CI:0.36~0.92)であった。 著者らは「本結果は、今後の食事療法の研究において、推奨される食事をより順守し、無作為化した群間に十分な差別化を図ることの重要性を指摘している」としている。

169.

妊娠糖尿病に対する早期のメトホルミン投与の効果(解説:小川大輔氏)

 日本においてメトホルミンは「妊婦または妊娠している可能性のある女性」への投与は禁忌となっている。一方、海外ではメトホルミンは妊娠糖尿病に使用可能である。今回、妊娠糖尿病患者を対象に、妊娠早期からメトホルミン治療を開始する試験の結果がJAMA誌に発表された1)。 この試験はアイルランドの2ヵ所の医療機関で、妊娠28週以前に妊娠糖尿病と診断された被験者を登録して実施された二重盲検無作為化試験である。被験者510人(妊娠535件)を対象として、メトホルミンを投与する群(メトホルミン群)と、プラセボを投与する群(プラセボ群)に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。主要アウトカムは妊娠32週または38週時点での空腹時血糖高値(5.1mmol/L以上)、またはインスリン療法の開始であった。 主要複合アウトカムはメトホルミン群で56.8%、プラセボ群で63.7%と有意差を認めなかった(相対リスク:0.89、95%信頼区間[CI]:0.78~1.02、p=0.13)。母体に関する副次アウトカムのうち、インスリン開始までの時間、自己報告の毛細血管血糖コントロール、妊娠中の体重増加はメトホルミン群で有意に良好であった。新生児に関する副次アウトカムでは、出生時体重がメトホルミン群で有意に低値であった。 妊娠早期からのメトホルミン投与により、主要複合アウトカムは有意差がなかったが、インスリン療法の開始についてはメトホルミン群で38.4%、プラセボ群で51.1%と有意差を認めた(相対リスク:0.75、95%CI:0.62~0.91、p=0.004)。また、副次アウトカムでも妊娠中の血糖コントロールや母体の体重管理は、メトホルミン早期導入により改善することが示された。そのため今回の試験結果だけで、妊娠糖尿病に早期からメトホルミンを導入するべきではないと結論付けることは難しい。著者らが考察しているように、より規模の大きな臨床試験を行う必要があるだろう。 また、すべての妊娠糖尿病患者に早期からメトホルミンを投与する必要はないのかもしれない。インスリン分泌が低下しているのであれば早期からインスリン導入を検討するべきであるし、肥満を伴っていれば早期からメトホルミン投与を考慮してもよいだろう。今後試験デザインを再考し、対象となる症例を増やして妊娠糖尿病に対するメトホルミン早期導入の意義を検討する臨床試験が行われることを期待したい。 メトホルミンは妊娠中の血糖管理だけでなく、妊婦の体重増加や妊娠高血圧腎症などに有効かつ安全であることが報告されている2)。実臨床で血糖コントロールのために大量のインスリンを必要とし、体重管理に苦慮する妊娠糖尿病の症例をしばしば経験するので、日本でも妊娠糖尿病でメトホルミンが投与できるようになることを願う。

170.

11月14日 世界糖尿病デー【今日は何の日?】

【11月14日 世界糖尿病デー】〔由来〕糖尿病の治療に欠かせない「インスリン」を発見したカナダの医師フレデリック・バンティングの誕生日にちなみ、2006年に国際連合は11月14日を「世界糖尿病デー」に認定。世界各地で糖尿病の予防、治療、療養について啓発活動を行っている。わが国でも全国で糖尿病啓発などに関するイベントが開催されるほか、東京タワーや大阪城などの有名建築物が糖尿病のシンボルカラーのブルーでライトアップされている。関連コンテンツ高齢者糖尿病診療のコツDr.坂根の糖尿病外来NGワードDr.坂根のすぐ使える患者指導画集 Part2日本人2型糖尿病でのチルゼパチドの効果、GLP-1RAと比較/横浜市立大チルゼパチド追加の「2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム」改訂版/日本糖尿病学会

171.

チルゼパチド追加の「2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム」改訂版/日本糖尿病学会

 日本糖尿病学会(理事長:植木 浩二郎氏)は、11月2日に同学会のホームページで「2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム 改訂版」を公開した。このアルゴリズムは、2022年9月に2型糖尿病治療の適正化を目的に初版が公開された。今回の改訂版では、チルゼパチドが追加された。主な改訂点は次のとおり。・Fig.2のStep1:病態に応じた薬剤選択における肥満[インスリン抵抗性を想定]の最後にチルゼパチドを追記。・「インスリン分泌不全、抵抗性は、糖尿病治療ガイドにある各指標を参考に評価し得る」の文言は改訂前より記載していたが、より病態を正確にとらえるための情報として「インスリン抵抗性はBMI、腹囲での肥満・内臓脂肪蓄積から類推するが、HOMA-IRなどの指標の評価が望ましい」を追記。・Step2:安全性への配慮、における「例2)腎機能障害合併者には、グリニド薬を避ける」と記載されていた箇所に「腎排泄型の」と追記。・Step2:安全性への配慮、における「例3)心不全合併者にはビグアナイド薬、チアゾリジン薬を避ける(禁忌)」と記載されていた順番を、「チアゾリジン薬、ビグアナイド薬」に入れ替え。・Fig.2の最下段に「目標HbA1cを達成できなかった場合は、Step1に立ち返り」と記載されていたのを「冒頭に立ち返り、インスリン適応の再評価も含めて」に改訂。・別表においては、チルゼパチドを追記したのに加え、考慮すべき項目に「特徴的な副作用」と「効果の持続性」の2つを追記。・本文でもチルゼパチドや特徴的な副作用など、図、別表の改訂に関する追記に加えて、アルゴリズムの図には記載されていないが、考慮すべき併存疾患として本改訂から非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)を取り上げた。・インスリンの絶対的適応と相対的適応、血糖コントロール目標における熊本宣言2013や高齢者糖尿病の血糖コントロール目標などについても詳細を追記。

172.

1型DM、週1回insulin icodec vs.1日1回インスリン デグルデク/Lancet

 1型糖尿病の成人患者において、週1回投与のinsulin icodec(icodec)は26週時の糖化ヘモグロビン値(HbA1c)低下に関して、1日1回投与のインスリン デグルデクに対し非劣性であることが認められたが、臨床的に重大な低血糖または重症低血糖の合併が有意に高率であった。英国・Royal Surrey Foundation TrustのDavid Russell-Jones氏らが、12ヵ国の99施設で実施された52週間の無作為化非盲検第IIIa相試験「ONWARDS 6試験」の結果を報告した。著者は、「1型糖尿病の特性を考慮すると、基礎インスリン注射を毎日から週1回に変更することは困難な可能性があるが、持続血糖モニタリングのデータとリアルワールド研究のさらなる解析により、icodec週1回投与の低血糖リスク軽減のための投与量調節に関する洞察が得られる可能性はある」とまとめている。Lancet誌2023年10月17日号掲載の報告。1型糖尿病患者約600例を無作為化 研究グループは、インスリン治療歴が1年以上でHbA1c値が10.0%未満の1型糖尿病成人患者を、icodec週1回皮下投与群(icodec群)またはインスリン デグルデク1日1回皮下投与群(デグルデク群)に、1対1の割合に無作為に割り付けた。両群とも、インスリン アスパルト(1日2回以上、食直前皮下投与)との併用下で、52週間(icodecの最終投与は51週目)投与した。なお、本試験は、スクリーニング期間2週間、治療期間52週間(主要評価期間26週間、安全性延長期間26週間)、追跡期間5週間で構成された。 主要エンドポイントは、26週時におけるベースラインからのHbA1cの変化量で、無作為化されたすべての患者を解析対象とし、非劣性マージンを両群の差の95%信頼区間(CI)の上限が0.3%未満とした。 2021年4月30日~10月15日に655例がスクリーニングされ、このうち582例がicodec群(290例)またはデグルデク群(292例)に割り付けられた。全例が1回以上試験薬の投与を受け、有効性および安全性の解析対象集団となった。26週時点で血糖コントロール改善は同等だが、臨床的に重大な低血糖はicodecで多い icodec群およびデグルデク群のHbA1c値は、ベースラインでそれぞれ7.59%、7.63%から、26週時には推定平均変化量として0.47%、0.51%低下した。推定平均変化量の群間差は0.05%(95%CI:-0.13~0.23)であり、icodec群のデグルデク群に対する非劣性が確認された(p=0.0065)。 ベースラインから26週時までの臨床的に重大な低血糖(54mg/dL未満)または重症低血糖の発生頻度は、icodec群19.9件/人年、デグルデク群10.4件/人年で、icodec群が統計学的に有意に高かった(推定率比:1.9、95%CI:1.5~2.3、p<0.0001)。57週時の評価においても、icodec群ではデグルデク群と比較し臨床的に重大な低血糖または重症低血糖の発生頻度が統計学的に有意に高かった(17.0件/人年vs. 9.2件/人年、推定率比:1.8、95%CI:1.5~2.2、p<0.0001)。 重篤な有害事象は、icodec群で24例(8%)に39件、デグルデク群で20例(7%)に25件報告された。icodec群で頭蓋内出血による死亡が1例認められたが、icodecとの関連性は低いと判断された。

173.

1型DMへのteplizumab、β細胞機能を有意に維持/NEJM

 新規診断の1型糖尿病の小児・青少年患者において、抗CD3モノクローナル抗体のteplizumab(12日間投与の2コース)は、β細胞機能の維持(主要エンドポイント)に関してベネフィットがあることが示された。ただし、インスリン用量、糖化ヘモグロビン値などの副次エンドポイントに関しては、ベネフィットが観察されなかった。英国・カーディフ大学のEleanor L. Ramos氏らが、第III相の無作為化プラセボ対照試験の結果を報告した。teplizumabは、8歳以上のステージ2の1型糖尿病患者に対し、ステージ3への進行を遅らせるための投与が米国FDAに承認されている。新規診断の1型糖尿病患者におけるteplizumabの静脈内投与が疾患進行を抑制するかについては不明であった。NEJM誌オンライン版2023年10月18日号掲載の報告。78週後の負荷C-ペプチド値でβ細胞機能を評価 研究グループは、2019年3月~2023年5月にかけて、米国、カナダ、欧州の医療機関61ヵ所で、6週間以内に診断を受けた8~17歳のステージ3の1型糖尿病患者を対象に試験を行い、teplizumabまたはプラセボの12日間投与・2コースを比較した。 主要エンドポイントは、78週時点の負荷C-ペプチドの測定値でみたβ細胞機能のベースラインからの変化だった。重要な副次エンドポイントは、血糖値目標達成に要したインスリン用量、糖化ヘモグロビン値、血糖値目標範囲内の時間、臨床的に重要な低血糖イベントだった。C-ペプチドのピーク値維持はteplizumab群95%、プラセボ群80% 78週時点で、teplizumab群(217例)は、プラセボ群(111例)に比べ、負荷C-ペプチド値が有意に高かった(最小二乗平均群間差:0.13pmol/mL、95%信頼区間[CI]:0.09~0.17、p<0.001)。0.2pmol/mL以上の臨床的に有意なC-ペプチドのピーク値を維持した患者の割合は、teplizumab群が94.9%(95%CI:89.5~97.6)であったのに対し、プラセボ群では79.2%(67.7~87.4)だった。 重要な副次エンドポイントについて、両群で有意差はなかった。 有害事象は、主にteplizumabまたはプラセボの投与に関するもので、頭痛、消化器症状、発疹、リンパ球減少、軽度のサイトカイン放出症候群などだった。

174.

2型DM基礎インスリンへの追加、チルゼパチドvs.インスリン リスプロ/JAMA

 基礎インスリン療法で血糖コントロールが不十分な2型糖尿病患者において、インスリン グラルギンへの追加治療として週1回のチルゼパチドは、食前追加インスリンと比べてHbA1c値の低下および体重減をもたらし、低血糖症の発現もより少なかったことが、米国・Velocity Clinical ResearchのJulio Rosenstock氏らによる第IIIb相国際多施設共同非盲検無作為化試験「SURPASS-6試験」で示された。チルゼパチドは、グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチドおよびグルカゴン様ペプチド-1(GIP/GLP-1)受容体作動薬であり、2型糖尿病の治療に用いられているが、これまで上記患者の追加インスリン療法として食前追加のインスリンと比較した有効性と安全性については明らかにされていなかった。JAMA誌オンライン版2023年10月3日号掲載の報告。52週時のHbA1c値のベースラインからの変化量を評価 SURPASS-6試験では、インスリン グラルギンへの追加インスリン療法として、チルゼパチドvs.インスリン リスプロの有効性と安全性を評価した。15ヵ国(アルゼンチン、ベルギー、ブラジル、チェコ共和国、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、イタリア、メキシコ、ルーマニア、ロシア、スロバキア、スペイン、トルコ、米国)の135施設で、2020年10月19日~2022年11月1日に基礎インスリン治療を受ける2型糖尿病患者1,428例を登録して行われた。 研究グループは被験者を、1対1対1対3の割合で次の4群に無作為化した。(1)週1回チルゼパチド5mgを皮下注射(243例)、(2)同10mgを皮下注射(238例)、(3)同15mgを皮下注射(236例)、(4)1日3回食前にインスリン リスプロを皮下注射(708例)。 主要アウトカムは、52週時点のHbA1c値のベースラインからの変化量でみた、インスリン グラルギンに加えたチルゼパチド(統合コホート)の同インスリン リスプロに対する非劣性(非劣性マージン0.3%)であった。重要な副次エンドポイントとして、体重の変化量、HbA1c値7.0%未満達成患者の割合を評価した。HbA1c値の変化量、チルゼパチド-2.1%、インスリン リスプロ群-1.1% 無作為化された1,428例(女性824例[57.7%]、平均年齢58.8歳[SD 9.7]、平均HbA1c値8.8%[SD 1.0%])のうち、1,304例(91.3%)が試験を完了した。 52週時点で、チルゼパチド(統合コホート)群vs.インスリン リスプロ群のHbA1c値のベースラインからの推定平均変化量は、-2.1% vs.-1.1%であり、HbA1c値は6.7% vs.7.7%となった(推定治療差:-0.98%[95%信頼区間[CI]:-1.17~-0.79]、p<0.001)。結果は非劣性基準を満たすもので、統計学的優越性も示された。 体重のベースラインからの推定平均変化量は、チルゼパチド群-9.0kg、インスリン リスプロ群3.2kgであった(推定治療差:-12.2kg[95%CI:-13.4~-10.9])。 HbA1c値7.0%未満達成患者の割合は、チルゼパチド群68%(483/716例)、インスリン リスプロ群36%(256/708例)であった(オッズ比[OR]:4.2[95%CI:3.2~5.5])。 チルゼパチド群で最もよくみられた有害事象は、軽症~中等症の消化器症状(悪心:14~26%、下痢:11~15%、嘔吐:5~13%)であり、低血糖症(血糖値<54mg/dLまたは重症低血糖症)の発現頻度は、チルゼパチド群0.4件/患者年、インスリン リスプロ群4.4件/患者年であった。

175.

1型DM妊婦の血糖コントロール、クローズドループ療法vs.標準療法/NEJM

 1型糖尿病の妊婦において、ハイブリッドクローズドループ(HCL)療法は標準インスリン療法と比較し妊娠中の血糖コントロールを有意に改善することが示された。英国・Norfolk and Norwich University Hospitals NHS Foundation TrustのTara T. M. Lee氏らが、同国9施設で実施した無作為化非盲検比較試験「Automated insulin Delivery Amongst Pregnant women with Type 1 diabetes trial:AiDAPT試験」の結果を報告した。HCL療法は、非妊娠成人および小児において血糖コントロールを改善することが報告されているが、妊娠中の1型糖尿病の管理における有効性は明らかになっていなかった。NEJM誌オンライン版2023年10月5日号掲載の報告。1型糖尿病妊婦124例を、妊娠16週までに無作為化 研究グループは、1型糖尿病の罹病期間が12ヵ月以上の18~45歳の妊婦で、妊娠初期の糖化ヘモグロビン(HbA1c)値が6.5%以上の妊婦を、妊娠16週までにHCL群または標準インスリン療法(1日複数回の注射またはインスリンポンプによる強化インスリン療法)群に無作為に割り付け、両群とも持続血糖モニタリング(CGM)を行い追跡評価した。 主要アウトカムは、妊娠16週から出産までのCGMによる妊娠期特有目標血糖値範囲(63~140mg/dL)内の時間の割合とし、ITTの原則に従って解析した。 重要な副次アウトカムは、高血糖状態(血糖値>140mg/dL)の時間の割合、夜間における目標血糖値範囲内の時間、HbA1c値および安全性であった。 2019年9月~2022年5月の期間に、334例がスクリーニングされ、このうち124例が無作為化された(HCL群61例、標準療法群63例)。平均(±SD)年齢は31.1±5.3歳で、ベースライン時の平均HbA1c値は7.7±1.2%であった。目標血糖値範囲内の時間の割合は68% vs.56%で、HCL療法群が有意に高率 主要アウトカムである目標血糖値範囲内の時間の平均割合は、HCL群68.2±10.5%、標準インスリン療法55.6±12.5%、平均補正後群間差は10.5%(95%信頼区間[CI]:7.0~14.0、p<0.001)であった。 副次アウトカムの結果は主要アウトカムの結果と一致しており、HCL群が標準療法群より高血糖状態の時間の割合が少なく(群間差:-10.2%、95%CI:-13.8~-6.6)、夜間における目標範囲内の時間の割合が多く(12.3%、8.3~16.2)、HbA1c値が低かった(-0.31%、-0.50~-0.12)。 重度低血糖症イベントはHCL群で6件(被験者4例)、標準療法群で5件(5例)に、糖尿病性ケトアシドーシスは各群1例に認められた。HCL群におけるデバイス関連有害事象の発現頻度は24.3件/100人年で、HCLの使用に関連した事象が7件、CGMに関連した事象が7件であった。

176.

妊娠糖尿病への早期メトホルミンvs.プラセボ/JAMA

 妊娠糖尿病に対する早期のメトホルミン投与は、プラセボ投与との比較において、インスリン投与開始または32/38週時空腹時血糖値5.1mmol/L以上の複合アウトカム発生について、優位性を示さなかった。アイルランド・ゴールウェイ大学のFidelma Dunne氏らが、プラセボ対照無作為化二重盲検試験の結果を報告した。ただし、副次アウトカムのデータ(母親のインスリン開始までの時間、自己報告の毛細血管血糖コントロール、妊娠中の体重増加の3点)は、大規模試験でさらなるメトホルミンの研究を支持するものであったという。妊娠糖尿病は、妊娠期に多い合併症の1つだが、至適な治療は明らかになっていない。JAMA誌オンライン版2023年10月3日号掲載の報告。妊娠28週までの妊娠糖尿病の妊婦を対象に試験 研究グループは、アイルランドの2ヵ所の医療機関で試験を行った。2017年6月~2022年9月に、世界保健機関(WHO)基準2013で妊娠糖尿病の診断を受けた妊娠28週以前の被験者510人(妊娠535件)を登録し、産後12週間まで追跡した。 被験者は2群に割り付けられ、通常ケアに加え、一方にはメトホルミン(最大用量2,500mg)を、もう一方にはプラセボを投与した。 主要アウトカムは、出産前のインスリン投与開始もしくは妊娠32週または38週時の空腹時血糖値が5.1mmol/L以上だった。メトホルミン群の新生児は小さい傾向 被験者510人(平均年齢34.3歳)における妊娠535件を無作為化した。 主要複合アウトカムの発生率は、メトホルミン群が56.8%(妊娠150件)、プラセボ群が63.7%(妊娠167件)だった(群間差:-6.9%、95%信頼区間[CI]:-15.1~1.4、相対リスク:0.89、95%CI:0.78~1.02、p=0.13)。 事前に規定した母親に関する6つの副次アウトカムのうち、メトホルミン群で優位だったのは、インスリン開始までの時間、自己報告の毛細血管血糖コントロール、妊娠中の体重増加の3つだった。 新生児に関する副次アウトカムは、メトホルミン群で新生児が小さい傾向(平均出生体重が低い、出生体重4kg以上の割合が低い、在胎週数による大きさ分布で90パーセンタイル超の割合が低い、頂踵長が小さい)がみられた。一方で、新生児集中治療を要する割合、呼吸補助を要する呼吸困難、光線療法を要する黄疸、重大な先天奇形、新生児低血糖、5分間Apgarスコア7未満の割合については、両群で有意差はなかった。

177.

早期静脈栄養なしのICU患者、厳格な血糖コントロールは有用か?/NEJM

 集中治療室(ICU)に入室した早期静脈栄養を受けていない重症患者では、非制限的で寛容な血糖コントロールと比較して厳格な血糖コントロールは、ICUでの治療を要した期間や死亡率に影響を及ぼさないことが、ベルギー・ルーベン・カトリック大学病院のJan Gunst氏らが実施した「TGC-Fast試験」で示された。研究の詳細は、NEJM誌2023年9月28日号に掲載された。ベルギーの医師主導型の無作為化対照比較試験 TGC-Fast試験は、ベルギーの2つの大学病院と1つの地区病院の11のICUで実施された医師主導型の無作為化対照比較試験であり、2018年9月~2022年8月に参加者のスクリーニングを行った(Research Foundation-Flandersなどの助成を受けた)。 早期静脈栄養を受けていないICU入室患者を、非制限的血糖コントロール群または厳格血糖コントロール群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。非制限的血糖コントロール群では、血糖値が215mg/dL(11.9mmol/L)を超えた場合にのみインスリンの投与を行い、厳格血糖コントロール群では、LOGICインスリンアルゴリズムを用い、目標血糖値を80~110mg/dL(4.4~6.1 mmol/L)に設定した。静脈栄養は両群とも、1週間実施しなかった。 主要アウトカムは、ICUでの治療を要した期間とし、ICUから生存退室するまでの期間に基づいて算出した。安全性アウトカムは90日死亡率であった。 9,230例を登録し、4,622例を非制限的血糖コントロール群(年齢中央値67歳[四分位範囲[IQR]:56~75]、男性62.8%)、4,608例を厳格血糖コントロール群(67歳[57~75]、63.6%)に割り付けた。ベースラインの血糖値中央値は、非制限的血糖コントロール群が143 mg/dL(IQR:120~170)、厳格血糖コントロール群は142mg/dL(121~168)であった。朝の血糖値が低く、1日インスリン用量が多い 非制限的血糖コントロール群に比べ厳格血糖コントロール群は、ICU入室中の朝の血糖値中央値が低く(140mg/dL[IQR:122~161]vs.107mg/dL[98~117]、群間差:-32mg/dL[95%信頼区間[CI]:-33~-32])、インスリンの用量中央値が高かった(0.0単位/日[IQR:0.0~5.6]vs.24.8単位/日[14.8~39.9]、群間差:21.0単位/日[95%CI:20.5~21.5])。 重症低血糖(<40mg/dL[<2.2mmol/L])の発生は、非制限的コントロール群のほうが少なかった(31例[0.7%]vs.47例[1.0%]、相対リスク:1.52[95%CI:0.97~2.39])。 ICUでの治療を要した期間(主要アウトカム)は、両群間に差を認めなかった(厳格血糖コントロールで生存退室が早くなるハザード比[HR]:1.00、95%CI:0.96~1.04、p=0.94)。また、90日死亡率にも差はなかった(非制限的血糖コントロール群468例[10.1%]vs.厳格血糖コントロール群486例[10.5%]、HR:1.04、95%CI:0.92~1.17、p=0.51)。 事前に規定された8項目の副次アウトカムの解析では、新規感染症の発生率、呼吸補助の時間、血行動態補助の時間、生存退院までの期間、ICU内死亡、院内死亡は、いずれも両群間に差はなかったのに対し、重症急性腎障害および胆汁うっ滞性肝機能障害は、厳格血糖コントロール群で少ないことが示唆された。 著者は、「本研究でICUに入室した早期静脈栄養を受けていない重症患者では、先行研究で静脈栄養を受けた重症患者に比べ、低血糖の重症度が軽度であった。また、コンピュータアルゴリズムによって空腹時血糖値を正常範囲に低下させることで、ICUでの治療を要した期間や死亡率に影響を及ぼさずに、医原性低血糖を回避できた」としている。

178.

第31回 施設入所中の高齢者の失神、原因は?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)失神では食事との関連を意識しよう!2)高齢者の失神では食後低血圧も疑い、再発を防止しよう!【症例】82歳男性。施設入所中。午前9時半頃に椅子に座った状態で反応が乏しく救急要請。救急隊到着時にはほぼ普段通りの状態へと改善していた。●来院時のバイタルサイン意識清明血圧118/68mmHg脈拍72回/分(整)呼吸18回/分SpO297%(RA)体温36.3℃瞳孔3/3 +/+失神の原因失神の原因は大きく心血管性失神(心原性失神)、起立性低血圧、反射性失神の3つに大別されます。そのうち、心血管性失神、出血に伴う起立性低血圧は常に意識し、対応する必要があります。心血管性失神の代表的なものは“HEARTS”と覚えるのでしたね。この辺りは「第13回 頭部外傷 その原因は?」で取り上げているのでそちらを参考にしてください。今回は頻度の高い反射性失神を取り上げます。緊急度、重症度の高い心血管性失神を常に意識して失神患者を対応することは大切ですが、やはり頻度が高い原因をきちんと意識して、対応することも合わせて行わなければ的確な診療はできません。意外に多い食後低血圧反射性失神のうち最も頻度が高いのは排尿失神ですが、食事関連の失神をご存じでしょうか?正確な機序は明らかでない部分もありますが、食事を摂取することによって内臓血流の増加、インスリンや胃腸管ペプチドによる血管拡張に加え、交感神経の適切な代償が行われないことなどが影響していると考えられています1)。食後2時間以内に収縮期血圧が20mmHg以上低下するか、普段から100mmHg以上ある血圧が90mmHg未満となる場合に食後低血圧と定義されます。高齢者における食後低血圧の頻度は高く、たとえば、施設入所者の高齢者の3~4人に1人は食後低血圧を認めることが報告されています2,3)。しかし、食後低血圧は軽視されていることが多く、失神の原因として意識するようにしましょう4)。食後低血圧の診断食後低血圧は前述の通り食後の血圧の程度を診て判断するわけですが、実際にはどのように評価するのでしょうか?食前に1回、食後2時間内は15分毎に1回の計9回の測定をして評価することとなっていますが、これは大変ですよね5)。そのため、食前に1回、食後75分後に測定を行い、収縮期血圧が10mmHg以上低下するかをまずは確認するのがオススメです(感度82%、特異度91%)6)。まずは疑い、そして簡便な方法でチェックし、疑わしければ詳細な評価を行うとよいでしょう。高齢者、とくに糖尿病、パーキンソン病などの基礎疾患のある方、利尿薬など多数の薬剤を内服している方では頻度が高いため、そのような患者さんでは積極的に疑い評価しましょう。食後低血圧と外傷60歳以上(平均80歳)の高齢者において、食後の収縮期血圧が20mmHg以上低下する方では失神や転倒の頻度が有意に高くなります7)。食後にフッと気を失うだけであればよいですが、それによって外傷を伴い、大腿骨近位部骨折や頭部や頸部の外傷を伴ってしまっては大変です。そのようなことが起こらないために、食後の意識消失を軽視しないようにしましょう。さいごに失神の鑑別として食後低血圧も意識しておきましょう。起立性低血圧との合併も珍しくなく、原因を1つみつけて安心してはいけません。高齢者では常に食事との関連も気にかけてくださいね。1)Son JT, et al. J Clin Nurs. 2015;24:2277-2285.2)Aronow WS, et al. J Am Geriatr Soc. 1994;42:930-932.3)Vaitkevicius PV, et al. Ann Intern Med. 1991;115:865-870.4)Luciano GL, et al. Am J Med. 2010;123:281.5)Jansen RW, et al. Ann Intern Med. 1995;122:286-295.6)Abbas R, et al. J Frailty Aging. 2018;7:28-33.7)Puisieux F, et al. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2000;55:M535-540.

179.

Do not harm. 誰に処方すべきかよく考えてから。血友病におけるリバランス薬として初のローンチを控えるconcizumab(解説:長尾梓氏)

 血友病の治療の基本は長らく「不足した凝固因子を補充する」という原則にのっとって行われてきた。補充する薬剤は献血から遺伝子組み換え製剤に、半減期延長型から長半減期延長型へ都度進化はしてきたが、補充療法という原則は変わらなかった。5年前に初めて原則から外れる薬剤であるエミシズマブが発売されたが、それでもエミシズマブは第VIII因子を代替する薬剤であり、コンセプトは斬新なものの、専門医としては簡単に受け入れることができた。 今回データが発表されたconcizumabは、その原則とはまったく異なるコンセプトの薬剤である。俗に「リバランス薬」といわれるこの薬は、TFPIという体内で凝固を抑制する因子を抑制する抗体製剤である。凝固抑制因子を抑制することで、体内で出血傾向に傾いていたバランスを「リバランス」するというのが基本的な考え方である。リバランス薬は他にもantithrombinやProtein Cなどの凝固抑制因子を対象としてさまざまな製薬会社が開発に取り組んでいる。その中でもconcizumabは最も早期に発売が予定されている薬剤である。ちなみに、カナダではすでに発売されているが、血友病Bインヒビターのみが適応である。なぜ、血友病Bインヒビターだけが適応なのか?(日本とは承認条件が異なる可能性があるため、注意が必要です) 前述したエミシズマブはこれまで唯一の皮下注射剤であり、これまで頻回の静脈注射による治療で多くの苦労してきた血友病患者にとっては、ほぼ悲願であった。しかし、エミシズマブは血友病Aにしか使えない。血友病Bに使える皮下注射剤はこれまでなかった。加えて、エミシズマブはインヒビターの有無に関わらず使用できた。このため、これまで出血で非常に苦労してきた血友病Aインヒビター患者は完全に救われた。しかし、血友病Bインヒビター患者にはそのような夢の薬はなかった。 しかし、血友病Bでインヒビターのない患者には、超半減期延長型製剤といってもいい薬剤がすでに存在していた。最長3週間に1回の定期補充療法で出血抑制を抑制することが可能な状況で、出血回数も非常に良好にコントロールされることが臨床試験からも臨床上の経験からもわかっていた。つまり、血友病Bインヒビターの患者が取り残されていたのだ。 concizumabは血友病A/B、インヒビターの有無を問わず使用できる薬剤である。皮下注射薬であり、毎日の注射が必要なものの、発売元のNovo Nordiskは糖尿病のインスリン製剤での実績があり、非常に簡便なインジェクターを保有している。concizumabにもそれが使えるというわけである。 ただし、本論文に記載のあるとおりで、「進行中の臨床試験でconcizumabの投与を受けていた3例(本試験の1例を含む)に非致死的血栓塞栓イベントが発生したため、投与を中断し、用法を変更して再開した」経緯を持つ薬剤である。用法を変更して再開してからの事故は報告されていないものの、本来血栓を起こすリスクの低い血友病患者に、血栓を起こすことのないように。Do not harm.の原則を忘れずに、本当に必要な患者が誰なのか正確に特定し、適切に処方することが必要である。この記事がその検討に一助となれば幸いである。 血友病の治療はこれまで多くの進化を遂げてきたが、新たな薬剤が登場するたびに、治療法の選択やその使用方法についての認識を更新する必要がある。concizumabは、その新たな選択肢の1つとして、今後の治療の現場で大きな期待を持たれている。しかしながら、あらゆる治療には利点とリスクが存在する。患者の安全を最優先に、十分な情報と知識を持ったうえでの適切な判断が求められる。 医療従事者や関係者は、新たな治療法の導入や適用に関して、患者のニーズやリスクを総合的に評価し、最良の治療を提供するための研修や教育を受けることが重要である。また、患者自身やその家族にも、新しい治療法の利点やリスク、治療の手順や注意点などを十分に理解してもらうための教育や情報提供が必要である。

180.

乾癬の治療法を徹底解説!:日野皮フ科医院 院長 日野 亮介氏

このコンテンツでは、乾癬の治療法について解説していきます。日常診療のアップデートに、ぜひご活用ください。講師紹介多くの乾癬患者さんたちからは、「ずっと同じ薬ばっかりで良くならない」というお声を多く頂きます。乾癬の治療は塗り薬しかない、と思っておられる方も多いかもしれません。しかし、そうではありません。乾癬は治療に苦労する皮膚疾患でありますが、ここ10年ほどで大変多くの治療薬が出てきました。皮膚の症状は大半の方でコントロール可能になりました。今、患者さんの乾癬はどんな状態でしょうか?患者さんのライフスタイルに応じて、適切な治療方針を選ぶための参考にしていただけると幸いです。治療がうまくいかないとき、マンネリ化したときに、次の一手を考えるヒントになってくれると思っております。このページでは、乾癬について保険適用のある治療について解説しています。乾癬には尋常性乾癬、乾癬性関節炎(関節症性乾癬)、乾癬性紅皮症、汎発性膿疱性乾癬、滴状乾癬の5種類があります。薬によって適用が異なりますので、ご注意ください。1.外用薬2.経口薬3.光線療法4.顆粒球吸着除去療法5.生物学的製剤まとめ参考文献1.外用薬2.経口薬3.光線療法4.顆粒球吸着除去療法5.生物学的製剤まとめ参考文献1.外用薬1-1.ステロイド外用薬ステロイド外用薬は皮膚疾患に幅広く使われていますが、もちろん乾癬にも有効です。今のところ、乾癬に一番多く使われているお薬です。多くの乾癬患者さんは、一度は塗ったことがあると思います。ステロイドは昔からある薬ですが、ここにも進歩があります。ステロイド外用薬の弱点は長期に使うと副作用が出てくる点なのですが、それを和らげるための手だてとしてシャンプーになっている薬が出ました。コムクロシャンプー(一般名:クロベタゾールプロピオン酸エステル)というもので、15分だけつける、という方法を用いて副作用を減らす工夫がなされています。また、シャンプーは薬を塗りにくい頭という場所の特性を生かした大変興味深い方法です。なお、ステロイドの飲み薬は乾癬には通常使用しません。長期的なステロイド外用薬の副作用を避けるためにも、ステロイド外用薬単体での長期的な治療は避ける必要があります。治療が長引いてきた場合は方法を見直しましょう。1-2.ビタミンD3外用薬乾癬患者さんの塗り薬で、一番大切なのはビタミンD3です。効果が出てくるまで時間がかかりますが、一度改善すると再発しにくいこと、長期間塗っても副作用が出にくいことが大切なポイントです。ただし、大量に塗ると血液中のカルシウムが増え過ぎて二日酔いのような症状(高カルシウム血症)が出る可能性がありますので、注意が必要です。皮膚の増殖を抑えるのが主な効き目ですが、IL-17という乾癬の皮膚症状に重要な役割を果たすタンパクを作りにくくすることにも役立ちます。1日2回塗ることが推奨されています。カルシポトリオール(商品名:ドボネックス):軟膏マキサカルシトール(商品名:オキサロール):軟膏、ローションタカルシトール(商品名:ボンアルファハイ):軟膏、ローションタカルシトール(商品名:ボンアルファ):軟膏、ローション、クリーム1-3.配合外用薬配合外用薬も、ここ10年の進歩の1つです。ステロイドとビタミンD3の2つを配合させた薬がデビューし、乾癬の治療に幅広く使われるようになりました。昔は、ステロイド外用薬とビタミンD3外用薬を薬局で混ぜてもらって処方されることが多かったと思います。お薬の性質上、単純に混ぜるだけでは効果が落ちてしまいます。そのため、ステロイドとビタミンD3の両方を使いたい場合は、重ねて塗るか、両方とも特殊な製法で配合した塗り薬を使う必要があります。乾癬の塗り薬が効かない人は、まず混ぜた薬を使っていないか確認する必要があります。国内では、現在2種類の配合外用薬が使用可能です。カルシポトリオール水和物/ベタメタゾンジプロピオン酸エステル(商品名:ドボベット):軟膏、ゲル、フォームゲル剤があるので頭皮の中に塗るのにも向いています。頭皮の中に塗る際は、意外にベタつくことに注意が必要です。また、フォーム剤もデビューしました。フォーム剤は塗りやすさから海外で多く使われているようです。上手に使わないと飛び散るので注意が必要です。マキサカルシトール/ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル(商品名:マーデュオックス):軟膏ページTOPへ2.経口薬2-1.アプレミラスト(商品名:オテズラ)PDE4(ホスホジエステラーゼ4)という酵素をブロックする薬です。頭痛、吐き気、下痢などの副作用が最初に出ることが多いので、お薬に体を慣らしていくためのスターターパックがあります。副作用は使っていくうちに慣れてくることが多いです。長期的に内服すると体重減少の副作用もあります。効果はゆっくり出てくるので、焦らず使用することが大切です。痒みや関節の痛みにも効果があります。注射薬のような劇的な効果ではないですが、症状が軽くなるので塗り薬を塗るのが面倒な方や小さなぶつぶつがたくさん出ている方には向いています。当院では小さなぶつぶつがたくさん出て塗りにくい方、頭のぶつぶつやかさぶたが治りにくい方、少し関節が痛い方、手足に分厚いかさぶたができて治りにくい方などに使っています。また、生物学的製剤の治療が終了した、もしくは何らかの理由で中断せざるを得なかった方にも使用できます。腎機能が低下している方は、半分の量で内服する必要があります。2-2.シクロスポリン(商品名:ネオーラル)乾癬が出てくるのに重要な働きをするT細胞の働きを抑える薬です。効果は比較的速やかで、量を多くすると生物学的製剤に近いくらいの効果を得ることもできます。ただし、血圧上昇などの副作用があることは注意が必要です。長期間内服すると、腎臓にダメージが起こります。海外のガイドラインでは1年程度の服用にとどめるように勧められています。これらの理由もあり、定期的な血液検査を必要としています。2-3.メトトレキサート(商品名:リウマトレックス)リウマチではよく使われている薬ではありますが、乾癬でも最近保険適用になりました。リウマトレックスだけがジェネリックも含め乾癬に保険適用となっています。日本皮膚科学会の生物学的製剤使用承認施設でのみ乾癬に使用できます。妊娠計画の少なくとも3ヵ月前から男性、女性とも内服を中断しなければなりません。腎機能障害のある方には使用できません。副作用対策として葉酸製剤を内服することがあります。2-4.エトレチナート(商品名:チガソン)エトレチナートはビタミンA誘導体であり、免疫を落とさないことにより光線療法との併用が可能です。表皮細胞の異常増殖を抑えてくれることで効果を発揮します。唇が荒れる、手足の皮がむける、皮膚が薄くなるなどの副作用があります。催奇形性といって、お腹の赤ちゃんに奇形を起こす副作用が報告されています。そのため女性は服用中止後2年間、男性は半年間避妊することが必要になります。2-5.ウパダシチニブ(商品名:リンヴォック)乾癬性関節炎(関節症性乾癬)に適応があります。JAK(ヤヌスキナーゼ)阻害薬という新しいメカニズムの治療薬です。もともと関節リウマチの治療薬として使用されていました。皮膚にも効果があります。15mg錠を1日1回内服します。帯状疱疹のリスクが高まることが知られていますので、この治療薬を検討されている方には事前に帯状疱疹ワクチンの接種を強くお勧めしています。深部静脈血栓症、肺塞栓症といった血栓のリスクが高まります。そのための注意が必要になります。また、生物学的製剤と同様に事前に結核の検査をする必要があります。2-6.デュークラバシチニブ(商品名:ソーティクツ)2022年11月デビューの内服薬です。既存治療で効果不十分な尋常性乾癬、乾癬性紅皮症、膿疱性乾癬に適応があります。比較的副作用の少ない薬ですが、TYK2という分子をブロックするJAK阻害薬というジャンルに入っているため、日本皮膚科学会の分子標的薬使用承認施設のみで投与可能となっています。成人にはデュークラバシチニブとして1回6mgを1日1回経口投与します。ページTOPへ3.光線療法治療の位置付けとしては、寛解導入、すなわち週2~3回程度の細かい間隔で照射し、ぶつぶつをできるだけ消失させるのを最初の目的としています。効果が出て皮膚症状が寛解したら間隔をのばしていく、ないしは中止します。ナローバンドUVBは発がん性が上昇するリスクは今のところ報告されていません。しかし、紫外線であるため、ダラダラと継続して無駄な照射をしないように気を付けることも大切です。ページTOPへ4.顆粒球吸着除去療法アダカラムという特殊な体外循環装置を使い、白血球の一部である、活性化した顆粒球を取り除く方法です。膿疱性乾癬に保険適用があります。薬剤の投与をしないため、妊娠中でも実施できます。ページTOPへ5.生物学的製剤乾癬の治療は、2010年に生物学的製剤が使えるようになってから劇的に変化しました。今までの治療で効果がなかった患者さんも、この薬の投与を開始してから皮膚や関節の症状と無縁の生活を送れるようになってきました。このように非常によく効く薬なのですが、大変高額です。そのため、高額療養費制度の理解や活用も大切になってきます。どんどん薬剤の開発が進み、10年で10種類以上のお薬が乾癬に対して使えるようになってきました。生物学的製剤が使えない方、注意が必要な方活動性の結核を含む重い感染症がある方は使用できませんので、事前にしっかりと検査を行い、必要な対処を行ってから投与する必要があります。また、悪性腫瘍のある方は投与禁忌ではありませんが、投与に当たっては(がん治療の)主治医としっかり相談・確認して慎重に進めなければなりません。現在、乾癬に使える生物学的製剤だけで、こんなにたくさんの種類があります(2023年9月現在)。画像を拡大する(各薬剤の電子添付文書を基にケアネット作成)5-1.TNF-α阻害薬TNF-αというタンパクをブロックする薬です。TNF-αは体のあちこちで作られ、乾癬を悪化させていきます。内臓脂肪からも作られます。メタボ気味の人は内臓脂肪からのTNF-αが増えてきます。すると、インスリン抵抗性といって血糖が上がりやすい状態になってしまうこともあります。これをブロックすることで、全身のさまざまな炎症を抑えてくれることも期待されています。また、関節炎にも効果が高いです。乾癬性関節炎(関節症性乾癬)の症状が進行すると骨びらんという骨へのダメージが来るのですが、TNF-α阻害薬は骨破壊を抑え、回復させてくれる効果が期待できます。インフリキシマブ(商品名:レミケード)唯一、これだけが点滴で投与する薬です。効果不十分時に増量ないし投与期間を短縮することが可能です。アダリムマブ(商品名:ヒュミラ)2週間に1回皮下注射する薬です。効果不十分時に増量することが可能です。シリンジだけでなく、ペン型の注射器具があるため自己注射が簡単に行えます。セルトリズマブ ペゴル(商品名:シムジア)この薬剤は製法が特殊であり、胎盤をお薬が通過しにくいことがわかっています。そのため唯一、妊娠中でも使える生物学的製剤です。TNF-α阻害薬が使えない人うっ血性心不全のある方多発性硬化症などの脱髄性疾患をお持ちの方TNF-α阻害薬はどんな人に向いている?乾癬性関節炎(関節症性乾癬)で、とくに関節の症状が強い人メタボ気味の人炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病)の既往がある人体重が重い人インフリキシマブは体重1kg当たり5mgの量を投与します。体重がかなり重い方は十分な薬剤量を行きわたらせるためにインフリキシマブを選択することがあります。5-2.IL-23阻害薬IL-12/23 p40阻害薬のウステキヌマブ(商品名:ステラーラ)が最初に出ました。IL-23はp40とp19というタンパクが合体しているものです。p40はIL-12という別のタンパクにも含まれている構造のため、IL-12/23 p40阻害薬は乾癬に関係のない細胞の働きも弱めてしまいます。そこで、ウステキヌマブ以降に出た次世代型のIL-23阻害薬は、p19をブロックすることでよりピンポイントな効き目を実現させています。すべての薬剤にある特長は、効果が持続しやすい、投与間隔が長いという点、副作用が少ないことです。ウステキヌマブ(商品名:ステラーラ)2011年から使用されている薬剤です。効果不十分な場合に増量できるのが特徴です。グセルクマブ(商品名:トレムフィア)掌蹠膿疱症にも適応があります。維持投与期は8週間に1回の投与を行います。リサンキズマブ(商品名:スキリージ)維持投与期は12週間に1回という長さが魅力です。チルドラキズマブ(商品名:イルミア)尋常性乾癬のみに適応があります。この薬剤も維持投与期は12週間に1回です。IL-23阻害薬はどんな人に向いている?治りにくい尋常性乾癬の方仕事が忙しくて通院が大変な方自分で注射を打つのが怖い方5-3.IL-17阻害薬IL-17とは乾癬を発症させるのに大変重要な役割を果たすタンパクです。IL-17にはIL-17AからFまでの6つのサブファミリーがあります。とくにIL-17ファミリーの中で乾癬の成り立ちに重要な役割を果たすタンパクが、IL-17AとIL-17Fです。治療効果が早く出ること、そして4種類の薬剤それぞれ非常に高い効果が得られることが特長です。セクキヌマブ、イキセキズマブ、ブロダルマブは維持投与期に自己注射をすることが可能です。セクキヌマブ(商品名:コセンティクス)最初の1ヵ月に毎週注射をすることで効果を早く出せることが特長です。完全ヒト型抗体であり、中和抗体が出にくいのが特徴です。成人には300mgを投与しますが、状況により減量が可能です。生物学的製剤の中で唯一小児にも適応があります。通常、6歳以上の小児にはセクキヌマブ(遺伝子組換え)として、体重50kg未満の患者には1回75mgを、体重50kg以上の患者には1回150mgを皮下投与します。なお、体重50kg以上の患者では、状態に応じて1回300mgを投与することができます。イキセキズマブ(商品名:トルツ)IL-17Aを阻害します。薬剤の特長として高い治療効果が早期から出てくることが多いです。効果がいまひとつだったり、安定しなかったりするとき、つまり使用開始後12週時点で効果不十分な場合には、投与期間を短縮することが可能です。乾癬の皮膚や関節症状が強い方、安定しない方に向いています。ブロダルマブ(商品名:ルミセフ)この薬剤は、乾癬の治療薬ではIL-17の受容体であるIL-17RAをブロックする薬です。そのため、IL-17A、IL-17A/F、IL-17C、IL-17E、IL-17Fが受容体に結合するのをブロックすることができます。皮膚症状に対しては、かなり有効性が期待できる薬剤です。ビメキズマブ(商品名:ビンゼレックス)IL-17A、IL-17Fをブロックできる薬剤です。尋常性乾癬、乾癬性紅皮症、膿疱性乾癬に適応があります。乾癬性関節炎(関節症性乾癬)には適応がありません。今までの治療でうまくいかなかった人でも鋭い効果を出すことが期待されています。IL-17阻害薬が使えない方炎症性腸疾患のある方IL-17は腸管のバリア機能を保つために重要な役割を果たします。炎症性腸疾患のある方は、IL-17をブロックすることで悪化する可能性があります。真菌感染症のある方IL-17は真菌(カビ)の防御に大切な働きをします。そのため、これらの感染症がある方は、IL-17をブロックすることで悪化させてしまう可能性があります。IL-17阻害薬はどんな人に向いている?皮膚の症状がかなり重度な方自分で注射を打てる方素早い効果を期待している方5-4.IL-36受容体阻害薬スペソリマブ(商品名:スペビゴ)抗IL-36受容体抗体であるスペソリマブが主成分です。膿疱性乾癬における急性症状の改善、という適応で保険収載されました。投与開始1週後に有意な膿疱の減少、12週後には84.4%の患者で膿疱が消失という劇的な効果を呈することが知られています。ページTOPへまとめ乾癬の治療薬、治療法はたくさんあることがおわかりいただけたと思います。乾癬の治療に絶対の正解はありませんが、いろいろな治し方を知り、治療方針を決めていく参考になればと思っております。乾癬の治療薬は、まだたくさん開発されています。内服薬(RORγtインバースアゴニスト)、外用薬(アリル炭化水素受容体モジュレーター)などが治験中です。今後も多くの治療選択肢ができることで、乾癬患者さんたちの未来は明るくなっていくのではと期待しています。1)森田明理ほか. 乾癬の光線療法ガイドライン. 日皮会誌. 2016;126:1239-1262.2)佐伯秀久ほか. 乾癬における生物学的製剤の使用ガイダンス(2022年版). 日皮会誌. 2022;132:2271-2296.3)各薬剤の電子添付文書

検索結果 合計:871件 表示位置:161 - 180