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重症度や地域、剤形によって患者の治療選好性が異なる?中等症~重症乾癬

 2023年6月5日、ブリストル マイヤーズ スクイブは、日本における「乾癬」の治療選好に関する、離散選択実験(Discrete choice experiment:以下、DCE)手法を用いた観察研究の結果を発表した。本研究の結果から、乾癬患者が治療を選択するうえで、有効性と同じく治療費や投与方法も重要な要素であることが、自治医科大学医学部 皮膚科学講座 小宮根 真弓氏らによって示された。結果は、2月20日付でJournal of Dermatology誌に掲載された。広がる乾癬の治療選択 皮膚の炎症性疾患である乾癬の治療は、ここ十数年で大きな進展を遂げてきた。その転機は、2010年に生物学的製剤の使用が初めて承認されたことにあり、最も患者数の多い尋常性乾癬では現在11製剤が臨床で使用されている。加えて最近は、経口剤の選択肢も増えている。乾癬治療の基本となる外用剤だけでなく、経口剤や生物学的製剤などのさまざまな選択肢の中から、患者に最適な治療法を選ぶことが重要だ。 しかし、治療効果、費用、投与方法が異なるこれらの治療選択肢に対する中等症~重症乾癬患者の嗜好性は十分に理解されていない。中等症~重症乾癬患者の選好性は? DCE手法は、複数の選択肢の中から最も好ましい選択を繰り返すアンケート調査によって、その選択における回答者の選好度を統計学的に算出する方法である。商品やサービスに対して人々が持つ多様な価値を相対的に評価でき、さまざまな業界で応用される。本研究では、20歳以上の生物学的製剤または経口剤による乾癬の全身療法を受けている中等症から重症の日本人乾癬患者222例(滴状乾癬、逆乾癬、膿胞性乾癬、乾癬性紅皮症、薬剤性乾癬を除く)を対象に、治療薬の有効性、安全性、投与方法、投与頻度、利便性、治療費などの治療因子に対する治療選択時の選好度についてオンラインによる定量調査が行われた。結果は以下のとおり。・乾癬治療を受ける際の重要な要素として、「長期有効性」に対する相対的重要度(RI)が最も高く(42%)、2番目が「費用」(24%)、3番目が「投与方法」(13%)だった。・患者選好度の感度分析において、「投与方法」では皮下注射剤よりも経口剤を好む傾向がみられた。・サブグループ解析により、乾癬患者の重症度や居住地域によって異なる傾向がみられた。すなわち、中等症の乾癬患者(191例)と重症の乾癬患者(31例)では、重症度に関係なくいずれも「長期有効性」のRIが最も高値だった(中等症:48%、重症:42%)が、2番目は、中等症患者では「費用」(21%)、重症患者では「短期有効性」(21%)だった。また、政令指定都市の乾癬患者(106例)と非政令指定都市の乾癬患者(116例)を比較したところ、居住地域に関係なく「長期有効性」のRIが最も高値だった(政令指定都市:56%、非政令指定都市:42%)。一方、2番目に高い値を示した特性は、政令指定都市の患者では「副作用(消化器系関連)」(14%)、非政令指定都市の患者では「費用」(28%)だった。 小宮根氏は結果を振り返り、「乾癬治療の好みは患者特性や臨床的特性によって異なり、実臨床で治療を決定する際には、患者さんの声を考慮した共有意思決定が必要であることが示唆されたことは、乾癬治療を行う医療従事者や患者さんにとって意義があるもの」と述べている。 今回得られた知見が、乾癬の全身療法における治療決定の一助になることが期待される。

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運動でパーキンソン病リスクが抑制される可能性

 習慣的な運動によってパーキンソン病のリスクが低下する可能性を示唆する、フランス国立衛生医学研究所のAlexis Elbaz氏らの研究の結果が、「Neurology」に5月17日掲載された。 パーキンソン病は、運動を円滑に行うために必要なドーパミンという物質を作っている、脳の中の黒質という部分の細胞が減っていく病気。ドーパミンが減ることの影響は多岐にわたり、主な症状は手の震えや硬直といった運動障害だが、抑うつや記憶力・思考力の低下などが現れることもある。 パーキンソン病の原因は明らかでなく、遺伝的な背景と環境要因の複雑な相互作用によって発症すると考えられている。修正可能な環境要因は、頭部外傷などを除いてほとんど知られていない。もし運動でパーキンソン病リスクが下がる可能性があるのなら、数少ない予防法の一つとしての期待が高まる。Elbaz氏は、「われわれの研究結果は、進行抑制以外の治療法がなく、生活の質に深刻な影響を与えるパーキンソン病という病気を、運動によって予防できるかもしれないという重要な知見である」と語っている。 同氏らの研究は、フランスの国民健康保険に加入している女性を対象に、1990~2018年に実施されたコホート研究のデータを用いて行われた。研究参加者は数年おきに、食事や運動の習慣、健康状態に関するアンケートに回答。運動習慣については、スポーツやランニングなどの高強度運動だけでなく、ウォーキング、階段昇降、あるいは家事などの日常的な生活に伴う身体活動も含めて評価されていた。 2000年時点でパーキンソン病でなかった9万5,354人の女性のうち、平均17.2年の追跡で1,074人がパーキンソン病を発症。年齢、BMI、食習慣などの影響を調整後、運動量の最も多い上位4分の1の群は下位4分の1の群に比べて、パーキンソン病の発症リスクが25%有意に低かった〔調整ハザード比0.75(95%信頼区間0.63~0.89)〕。 研究者らは、「この結果は運動がパーキンソン病発症リスクを下げたという因果関係の証明にはならない」としている。ただし、「パーキンソン病の初期段階にあった女性が、疾患の影響のために運動量が少なかったという、因果の逆転の結果を見ている可能性は低い」とも述べている。その根拠として、パーキンソン病と診断された女性の運動量を、診断から最長20年以上さかのぼって解析したデータを挙げている。その解析では、パーキンソン病を発症しなかった群との運動量の差は診断の約10年前から広がり始めていたが、それ以前のパーキンソン病の初期症状が現れているとは考えにくい時期の運動量もやはり、後年になってパーキンソン病と診断された女性の方が少なかったという。 この報告について、非営利団体であるパーキンソン病財団のMichael Okun氏は、「重大かつ重要な知見」と評価。同氏によると、運動によってパーキンソン病リスクが低下する可能性を示した研究はこれまでにもあったが、それらは女性よりもパーキンソン病罹患率の高い男性でのみ有意な関連が認められていたという。Okun氏は、「新たに報告された大規模な研究から、性別にかかわらずパーキンソン病リスクを抑制する方法として、人生の早い段階から運動の実施を検討すべきであることが示唆される」と述べている。

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真性多血症に新技術の治療薬が登場/ファーマエッセンシアジャパン

 真性多血症(PV)の治療薬ロペグインターフェロンアルファ-2b(商品名:ベスレミ)の発売に合わせ、ファーマエッセンシアジャパンは「真性多血症の治療における新たな選択肢」と題して、都内でメディアセミナーを開催した。 ロペグインターフェロンアルファ-2bは、PVの治療薬(既存治療が効果不十分または不適当な場合に限る)としては初のインターフェロン製剤であり、2023年年3月27日に製造販売承認を取得、5月24日に薬価収載、6月1日より販売を開始している。 セミナーでは、同社の概要や今後の展開のほか、同社のコアテクノロジーである“部位選択的モノペグ化技術”の概要の説明のほか、専門医によるPVのレクチャーが行われた。血液疾患への展開が期待される部位選択的モノペグ化技術 PVは、骨髄増殖性腫瘍の1種で、骨髄の造血幹細胞の異常により、赤血球が過剰に産生される希少な血液疾患。PVの治療では、血栓症を予防することが一番の目標とされている。血栓症の予防は、瀉血や抗血小板療法、細胞減少療法、分子標的治療薬などによりヘマトクリット値をコントロールすることで、長足の進歩を遂げてきた。しかしその一方で、PVの症状のコントロールや疾患進行の阻止などで、依然としてアンメット・メディカル・ニーズは存在し、今回の治療薬がその隙間を埋めるものと期待されている。 今回のロペグインターフェロンアルファ-2bに使われている、“部位選択的モノペグ化技術”は、タンパク質分子内の特定のアミノ酸を、ポリエチレングリコール(PEG)という高分子化合物によって、選択的に修飾できるようにした革新的な技術で、このペグ化を行ったタンパク質医薬品は体内における分解が抑制され、半減期の延長と長時間にわたる効果の持続につながりうる、薬物動態/薬力学的特性を示すことができるようになる。 同社代表取締役社長の米津 克也氏は、今後、白血病などの血液疾患治療薬への展開を目指すと期待を寄せている。頭痛、めまい、倦怠感がPV患者のQOLを下げる 基調講演として「真性多血症治療の新たな地平」をテーマに桐戸 敬太氏(山梨大学医学部血液・腫瘍内科 教授)が、PVの診療やロペグインターフェロンアルファ-2bへの期待を説明した。 PVとは、造血幹細胞に生じた異常で骨髄系細胞が過剰増殖する骨髄増殖性腫瘍(MPN)の1種とされている。その症状として、頭痛、めまい、サイトカインに起因する倦怠感、かゆみや微熱が挙げられる。 患者数は、年間約800人程度(血液学会疾患登録データ)が発症する疾患であることがわかっているが、推定患者数はこの倍の約1,500人と予想されている。発症年齢としては60代が一番多いが、若年でも多くの患者がいる。 PVの合併症としては、大きく以下の3つがある。1)短期的には血栓・出血の発生により心筋梗塞や深部静脈血栓などが発生する。その合併率は4~8.5%とされている。2)長期的には骨髄線維症や白血病への移行がある。5~10年で10%が骨髄線維症に進展し、さらに10年で10~20%が急性白血病に移行する。参考までに生存率は、5年生存率で92.4%、10年生存率で83.8%との報告があり、死亡原因では白血病への移行が一番多い。3)全身のかゆみ、倦怠感、食欲低下、脇腹の痛み、寝汗などの全身症候とそれに伴う生活の質(QOL)の低下により日常生活に支障を及ぼす。 そして、現行のPV治療のゴールは血栓・出血の合併を防ぐこととされている。具体的な治療としては、瀉血、アスピリン投与、細胞減少療法などが各病態のステージによって行われ、患者には全身症候を軽減し、QOLを回復し、白血病や骨髄線維症への進行を止める治療が行われている。 また、同氏は、PV患者が望む治療についてアンケート結果を示し、「疾患の進行を遅らせること」「血栓の予防」「病状の改善」の希望が多いことを挙げた。従来は進行抑制の治療薬は存在せず、患者の治療への思いと現実の治療にギャップがあることをうかがわせた。 最後に今回発売されたロペグインターフェロンアルファ-2bの可能性について触れ、本治療薬のIII相試験である“PROUD-PV study”の結果を示し、薬剤の使用により悪性の変異細胞が減少していること、国内試験の29例でも同様の結果がみられたことを報告した。また、安全性についても重篤な副作用はなかったことを報告し、レクチャーを終えた。

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第166回 「有給休暇を取得、理由は必要か?」健康問題を抱える人に立ちはだかる壁

国が少子化対策の一環として打ち出した不妊治療の保険適用が2022年4月にスタートして1年以上が経過した。これまで全額自己負担だった人工授精、体外受精、顕微授精は一部条件付きで保険適用となり、従来は1回あたり人工授精で平均約3万円、体外受精では平均約50万円だった医療費が原則3割負担となった。少なくとも、これまで経済的負担の重さゆえに不妊治療をためらっていた人にとってはかなりの福音のはずだろう。実際、不妊治療を行う医療機関ではかなり通院者が増えたとの話も聞く。不妊・不育で悩む人をサポートするセルフサポートグループ「NPO法人 Fine」が2022年7~10月に不妊治療・不育治療を受けている人、あるいはこれから受ける人を対象に実施した「保険適用後の不妊治療に関するアンケート2022」(回答者1,988人)を読むと、その傾向の一端が見えてくる。アンケートでは保険適用になって『良くなった』と感じた回答者は65%、逆に『悪くなった』と感じた回答者が73%で、前者では経済的な負担軽減、後者では医療機関の混雑を回答の主な理由として挙げている。実際、回答者全体に尋ねた診療の待ち時間に関しては、「少し増えた」が36%、「すごく増えた」が27%、「変化はない」が35%とやはり全体としては受診者が増えていることをうかがわせる。また、同アンケートの結果では今受けたい治療を受けられているかとの設問に対しては、半数以上の56%が「はい」と回答しているのに対し、「わからない」が23%、「いいえ」が21%。ちなみに「はい」との回答は年齢が上昇するにつれて低下する。この理由は今回の保険適用で、体外受精と顕微授精での43歳という年齢制限がおそらく起因すると考えられる。賛否という二項対立では語り切れない結果だが、まだ揺らん期ともいえる時期なのでやむを得ない現状とも理解できる。しかし、少なくとも保険適用により経済的負担が軽減され、一部の人にとってはかなりハードルが下がったことや、これに関する報道で不妊治療に関する認知が広まったことなども考え併せれば、社会全体としては一歩前進したのではないかと個人的には考えている。私はこの問題に接すると常に思い出すエピソードがある。それは過去に一般誌で不妊治療特集の一部を担当した際に取材した男性の話だ。この男性は夫婦で不妊治療に取り組んで無事に子供を授かった人だったが、その際の通院の件について次のようなことを言っていた。今も残るメモにある彼の発言を一部不適切な表現を含むかもしれないが、そのまま以下に記す。「何が大変って、通院の理由を職場に説明する時ですよ。上司に『病院に行くので休みます』と言うと、『お前どうした? 何か具合でも悪いのか』と聞かれるんですよ。上司には悪気がなく、むしろ心配して聞いてくれているのはわかりますよ。でも『不妊治療のためです』とはなかなか言いにくいじゃないですか。ざっくり言えば下(シモ)の話ですしね。でもうちの妻のほうがもっと大変だったろうとは思います。妻にも『会社にどう説明した?』と聞きましたが、『うまい事何とかごまかした』と言ってましたよ」不妊治療の場合、排卵日というやや不確定な要素があるため、慢性疾患のような規則的な通院とはいかない。体外受精や顕微授精となると、女性の場合は数日間連続の通院となることもある。職場への説明に対する心理的ハードルは決して低くないはずであり、上司への説明はことさら厄介だろうと想像する。私自身、7年間という短い期間ながら会社員経験で仕えた直接の上司は3人いるが、それぞれの個性は異なり、今考えても話してもよいと思える話題の範囲はこの3人ではかなり異なる。前述のFineのアンケート結果を見ても、保険適用になって「良くなった」と感じている人のうち「仕事と両立しやすくなった」との回答はわずか4%にとどまることを考えれば、やはり対職場では気苦労はあるのだろう。そんな最中、ウィメンズヘルスを中核とする製薬企業オルガノン(本社:米国・ニュージャージー州)の日本法人が主催したワークショップを見学する機会を得た。これは6月が世界不妊啓発月間であることを受けて、2回に分けて行われたもので、1回目は20~30代の社会人が健康課題と向き合える会社制度・環境などについて、2回目は企業人事、組織運営の担当者が健康課題を持つ社員が働きやすい職場環境を実現するための企業対応を話し合ったものだ。私はこのうち2回目を聴講した。会場で話していたのはオルガノン、日本オラクル、東日本電信電話、ライフネット生命保険のいずれも人事・キャリア担当者だ。この4人の議論の中でも私が注目したのはライフネット生命保険の担当者から紹介された同社の特別休暇制度だった。同社には2016年に創設された特別休暇制度として、家族やパートナーの看病などに使える「ナイチンゲール休暇」(3日間)、不妊治療などの通院を目的とした「エフ休暇」(8日間)、さらに2019年度に創設された特定の疾患に罹患した際のナイチンゲールファンド休暇」(10日間)、がんなどの療養と業務の両立支援を目的とした「ダブルエール休暇」(12日間)など、労働基準法に定められた年次有給休暇以外にも多様な休暇制度があるとのこと。私も今回初めてこのことを知って驚いたが、それ以上に頷いたのがこれらの制度を使う際にはまず上司に相談するのではなく、人事担当者に相談するという点だった。このことはごく当たり前のことと思う人もいるだろう。しかし、働く者の多くはどうしても「休暇申請はまず上司に」との固定観念がある。そして過去の私に限らず多くの企業勤務者にとっては、「上司との相性」という壁も常に存在する。この点から考えれば、ライフネット生命保険のようにこれら特別休暇制度の利用時にまず人事が窓口になるならば、ワンクッションが置けてありがたいと思う人は少なくないはずだ。とりわけ法的に定められた年次有給休暇とは異なるこうした休暇制度はあっても取りにくいことはしばしばある。今回私が参加する前に開かれた第1回のワークショップのまとめを事前に目にしたが、その中には「上司が男性の場合、生理休暇が取りにくく、普通の有休として申請」との発言があり、さもありなんと思ったほどである。ただ、そうした状況もちょっとした人事制度の運用の仕方で様変わりすることもある。ただ、前近代的な慣習はまだまだ健在なのも事実だ。実際、このワークショップで日本オラクルの担当者が「私より上の世代にはまだまだ『理由がなければ有休を取得しちゃいけない』という考えがあって…」と発言した際には会場が爆笑の渦に包まれた。私もこれには内心で「休みたいと思ったから有休を取るんであって、『休みたい』こそが理由だろう」と突っ込んでしまった。余談だが、私は会社員1年目に年次有給休暇の10日間を一気に取得した。この時、上司は許可したものの、人事担当の責任者が上司のところに飛んできて「新人社員が有給休暇をすべて消化して、しかも一気に取るなんて前例がない」と言っていたのを耳にし、「は?」と思ったことがある。さて話を戻すが、この不妊治療に関連して厚生労働省が「仕事と不妊治療の両立支援のために」というパンフレットを発刊している。この中に「『仕事と不妊治療の両立支援について』企業アンケート調査結果」として、「貴社では、不妊治療を行っている従業員がいますか」で「はい」が13%、「貴社では、不妊治療を行っている従業員が受けられる支援制度や取組を行っていますか」で「はい」が9%との数字が紹介されている。後者については現状がそうなのだろうと思うが、前者に関して、理由を告げずに治療に取り組んでいる人がいることは容易に想像でき、私は氷山の一角と解釈している。そしてこのことは今回の不妊治療に限らず、すべての健康問題にも言えることだろう。私自身の周囲ですら勤務先に告げずに慢性疾患、それもいわゆる難病の治療に取り組んでいる人を複数知っている。ワークショップでは一瞬、「休む理由が言いやすい会社が良いのか? それとも理由を言わずに休める会社が良いのか?」という言葉も出てきたが、これは健康問題を抱える人にとっては実は深刻な話だ。しかし、これは2項対立ではなく本来は2項両立のはずである。この点は純利益の追求が最大の目的である企業の経営者からすると悩ましい問題かもしれない。それでもなお私はやや厳しい言い方にはなるが、健康問題を抱える人が休暇を取得することに難色を示す経営者には「危機感に欠けている」と言わざるを得ない。よく言われる「少子高齢化」は、ともすると高齢化のほうばかりに目が行きがちだが、実は少子化もかなり深刻である。国立社会保障・人口問題研究所が公表した最新の日本の将来人口推計では、15~64歳のいわゆる現役人口は、2020年時点からの比較で、2025年には約200万人、2040年には約1,300万人も減少する。これまでなんとなく確保できていた社員を頭数上ですら確保できなくなる日がもう目の前に迫っているのだ。そもそも一見健康そうに見える若年世代にも健康上の問題を抱える人は少なくない。やや古いデータになるが、厚生労働省の2007年労働者健康状況調査によれば、男女とも20~30代では2割前後が何らかの持病を抱えている。その意味では企業が従業員の健康問題への支援策を整備することは、もはや喫緊の課題と言ってよいだろう。今回の不妊治療のワークショップでは、かなり先進的な企業事例を耳にしたが、その分だけ私個人は逆に日本全体に漂うライフワークバランスの欠如ぶりのほうに今改めて意識がいってしまっている。この構造のまま日本社会が突き進めば、その先に待っているのはどのような姿だろうか? どの道を行ってもあまり良い姿は想像できない。強いて浮かぶとするならば、水圧に負けて爆縮した潜水艇タイタン、あるいはタイタンが目指した先にあった深海に錆びついて鎮座する豪華客船タイタニック号のいずれかぐらいだ。

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双極性障害のラピッドサイクラーと寛解状態の患者における臨床的特徴~MUSUBI研究

 双極性障害は、ラピッドサイクラーの場合より重篤な疾患リスクとなり、寛解状態で進行することで予後が良好となる。関西医科大学の高野 謹嗣氏らは、日本の精神科クリニックにおける双極性障害の多施設治療調査「MUSUBI研究」の大規模サンプルを用いて、双極性障害患者におけるラピッドサイクラーと寛解状態の進行に対する患者背景および処方パターンの影響を検討した。その結果、ラピッドサイクラーと寛解状態の双極性障害患者は、相反する特徴を有し、予後に影響を及ぼす社会的背景および因子には、それぞれ特徴が認められた。著者らは、これらの臨床的な特徴を理解することは、実臨床での双極性障害患者のマネジメントに役立つであろうとしている。Frontiers in Psychiatry誌2023年5月17日号の報告。 MUSUBI研究では、日本の臨床医に対し、レトロスペクティブな医療記録調査に基づくアンケートを実施し、連続した双極性障害患者2,650例のデータを収集した。初回調査は2016年、2回目の調査は2017年に実施した。調査項目は、患者背景、現在の気分エピソード、臨床および処方の特徴に関する情報とした。 主な結果は以下のとおり。・初回調査において、対象患者の10.6%がラピッドサイクラーであり、2年連続でラピッドサイクラーであった患者は3.6%であった。・ラピッドサイクラーと関連していた因子は、双極I型障害、自殺念慮、罹病期間、炭酸リチウムおよび抗精神病薬の使用であった。・ラピッドサイクラーへの進展のリスク因子として、発達障害の併発、抗不安薬および睡眠薬の使用が挙げられた。・初回調査において、寛解状態であった患者は16.4%であり、2年連続で寛解状態であった患者は11.0%であった。・寛解状態を達成するための因子として、高齢、雇用状態、精神症状やパーソナリティ障害併発の少なさ、抗うつ薬・抗精神病薬・抗不安薬の少なさ、さらなるリチウム使用が挙げられた。

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小児への新型コロナワクチン、接種率を上げるために/ファイザー

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について、5月8日に感染症法上の位置付けが5類に移行した。ワクチンや治療薬によってパンデミックの収束に貢献してきたファイザーは6月2日、「5類に移行した新型コロナウイルス感染症への対策や心構えとは~一般市民への最新意識調査の結果を交え~」と題してメディアに向けたラウンドテーブルを開催した。講師として石和田 稔彦氏(千葉大学 真菌医学研究センター感染症制御分野 教授)と舘田 一博氏(東邦大学 医学部 微生物・感染症学講座 教授)が登壇した。小児に対する新型コロナワクチン接種の意義 石和田氏は講演「小児に対する新型コロナワクチン接種の意義」にて、第6派以降の小児の新型コロナの感染経路や症状の傾向、ワクチン接種率の低い背景などについて解説した。 小児の新型コロナ感染は、第5波(デルタ株)までは主に成人が中心で小児患者は少なく、成人家族からの感染が主体だったが、第6波(オミクロン株)以降は小児患者も急増し、小児の集団感染例もみられるようになった。また、小児の入院受け入れ先が不足しており、流行時に小児患者の収容が困難な状態が続いている。 小児のコロナ入院患者の症状としては、発熱、呼吸苦、咳嗽、下痢、川崎病様症状などがあるが、とくにオミクロン株流行以降は、けいれん、クループ、嘔吐といった症状が増加しているという。また、コロナ罹患後症状(コロナ後遺症、long COVID)は、小児においても懸念されている。 一方で、国内の小児の新型コロナワクチン接種率は、成人の接種率と比べて極めて低いままとどまっている。2023年6月20日時点での接種率は、全年齢では2回接種80.0%、3回接種68.7%に対して、小児(5~11歳)では2回接種(初回シリーズ)23.4%、3回接種(追加接種1回)9.7%、乳幼児(生後6ヵ月~4歳)では3回接種(初回シリーズ)2.8%である1)。 米国の2023年5月11日時点での接種率は、全年齢の初回シリーズ接種69.5%、追加接種17.0%に対して、5~11歳の初回シリーズ32.9%、追加接種4.8%、乳幼児の初回シリーズでは2~4歳6.1%、2歳未満は4.7%であり2)、11歳以下の初回シリーズの接種率はいずれも日本を上回っている。 石和田氏は本邦における小児のワクチン接種が低い背景として、成人へのワクチンよりも導入が遅れたこと、流行の初期では小児の感染例が少なかったこと、ウイルス変異による軽症化、先に接種した保護者がワクチン副反応について懸念を抱いていたことを挙げた。小児科医の間でも、当初は国内での臨床試験結果がなかったことで副反応への懸念があったという。 より高い感染予防効果を得るためには、接種率を上げて集団免疫を得ることが必要とされる。コロナ感染によって基礎疾患のない小児でも重症化・死亡する例も認められており、なおかつ現状では小児に使用できる治療薬も極めて少ないことも危惧されている。 同氏は最後に、3月28日にWHOが発表したワクチン接種ガイダンス3)において、「健康な小児・青少年が低優先度」と記載されたことについて誤解のないように解釈することの重要性を指摘した。諸外国では感染またはワクチンによる高い集団免疫が得られつつあり、その他の疾病負担や費用対効果、医療体制の維持を考慮することが前提にある。 一方で、日本では新型コロナに対する免疫を持たない小児がいまだに多く、集団免疫が不十分である。また、医療資源が限定される国ではないため、接種に優先順位を付ける必要性は低く、小児へのコロナワクチン接種の意義は高い。本件については6月9日に、日本小児科学会からも「小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方(2023.6追補)」のなかで、すべての小児への初回シリーズおよび適切な時期の追加接種を推奨するという提言が発表された4)。どの患者に抗ウイルス薬を推奨するか 続いての舘田氏の講演「新型コロナウイルス感染症の総括と今後心掛けるべきこと」では、新型コロナが5類移行となったことを受けてファイザーが実施した意識調査の結果が紹介された。 本調査では、2023年4月に全国の20~79歳の1,200人を対象に、新型コロナウイルス感染症について人々が抱くイメージなどを聞いたところ、流行当初は8割近くが「怖い病気である」と認識されていたものの、現在は逆に、全体の65.4%が「流行当初よりも怖い病気でないと感じている」と認識していた。一方、重症化に対する意見では全体の8割以上が不安に思っており、「非常に怖いと思う」と答えた人は、60代で38%、20代では27%であった。舘田氏は、若い世代でも恐怖感を抱いている人の割合が高いことは注目に値すると言及した。 本アンケートによると、新型コロナの経口抗ウイルス薬の認知度は、「詳しく知っている」9.3%、「あることは知っているが、詳しく知らない」65.1%、「あることを知らなかった」25.7%であり十分な認知度ではなかったが、新型コロナに感染した場合は「抗ウイルス薬を使ってほしい」割合は70.9%に上った。その理由として多い順に「重症化したくない」「早く治したい」「後遺症が怖い」が挙げられた。 舘田氏は、抗ウイルス薬は医療経済的な視点からも、リスクの高い患者から優先順位を付けて投与することが望ましく、推奨する患者の特徴を次のように挙げた。・高齢者で基礎疾患から重症化しやすいと思われる人・抗がん剤、免疫抑制剤などを服用している人・呼吸苦、低酸素血症、肺炎像など、主治医の判断で重症化が否定できない人・インターフェロン(INF)-λ3検査で高値を示す人・I型INFなどに対する自己抗体を有している人・ワクチン接種を受けていない人/受けられない人・不安が強く早期の治療を希望する人 上記を踏まえて、感染した場合は早期受診と早期治療という感染症の基本原則が重要だと訴え、また今後発表されるエビデンスを注視しながら、使用方法を考慮していかなければならないとした。

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感染対策義務のない学会参加、コロナ感染はどれくらい?

 対面式の学術集会参加後の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染率を調べた報告はあるが1,2)、オミクロン株流行期に開催された感染対策義務のない学術集会参加後のSARS-CoV-2感染率は報告されていない。そこで、Saarland University Medical CenterのAlaa Din Abdin氏らは、オミクロン株流行期に感染対策義務なしで開催された、ドイツ眼科学会年次総会2022の参加者4,463人を対象として、学術集会参加後のSARS-CoV-2感染率と感染に関連する因子を検討した。その結果、調査対象者の8%が学術集会後にSARS-CoV-2検査陽性となり、ほかの研究1,2)で報告されている割合(0~1.7%)よりも高かった。また、過去にSARS-CoV-2感染歴があると学術集会での感染は少なく、民泊利用者は感染が多かった。本研究結果は、JAMA Network Open誌2023年6月13日号のリサーチレターで報告された。 ドイツ眼科学会年次総会2022は、2022年9月28日~10月2日にドイツ・ベルリンで開催された。参加にあたり、SARS-CoV-2感染の自己検査やワクチン接種、マスク着用などは求められなかった。学術集会後の2022年10月22日に、参加者にオンラインでアンケートを送付し、SARS-CoV-2検査陽性率、SARS-CoV-2感染に関連する因子を検討した。 主な結果は以下のとおり。・学術集会参加者4,463人のうち、38.2%(1,709人)がアンケートに回答し、有効回答率は30.4%(1,355人)であった。・学術集会後にSARS-CoV-2陽性になったと回答したのは8.0%(109人)であった。・SARS-CoV-2検査を実施した786人の検査実施時期は、学術集会後1週間以内が88%(690人)であった。・SARS-CoV-2感染歴ありは、学術集会後にSARS-CoV-2陽性になった参加者の17.4%(19人)であったのに対し、陰性の参加者では62.5%(423人)であり、学術集会後のSARS-CoV-2陰性と関連していた(p<0.001)。・民泊の利用は、学術集会後のSARS-CoV-2検査陽性と関連していた(p=0.01)。・ワクチン接種者(2回以上の接種)の割合は97.8%(1,342人)であり、ワクチン接種歴は、学術集会後のSARS-CoV-2検査結果と関連がなかった。・移動手段、移動中・学術集会中のマスク着用、学術集会への参加期間は、いずれも学術集会後のSARS-CoV-2検査結果と関連がなかった。

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夜型人間は本当に寿命が短い人の特徴なのか

 近年、「朝活」と称し、朝からスポーツや趣味、習い事などを行う朝型人間が増えてきている。その一方で、夜にならないと勉強も仕事も調子が出ないという夜型人間も多い。こうしたクロノタイプ(時間的特性)が健康に影響をもたらすかどうかは長く議論されてきた。過去には、夜型人間について全死因死亡率および心血管死亡率のわずかな増加が示唆されたという研究報告もある。 では、長期におよぶ追跡調査でも夜型人間は寿命が短い人の特徴であるという結果は変わらないものであろうか。フィンランド・国立労働衛生研究所のChrister Hublin氏は、フィンランドの成人ツインコホートを利用して、37年に及ぶ追跡調査を行い、アンケートを実施し(回答率84%)、その結果を解析、報告した。Chronobiology International誌オンライン版2023年6月15日掲載。夜型人間の寿命を短くする2つの要素 本研究は、「自分がどの程度、朝型人間、夜型人間かを評価してみてください」という質問に対して、4つの選択肢(「明らかに朝型人間」から「明らかに夜型人間」など)で回答した2万3,854人が対象。 回答者の内訳は、朝型が29.5%、やや朝型が27.7%、やや夜型が33.0%、夜型が9.9%。朝型と比較すると、夜型は若く、教育期間が長いカテゴリーの割合がやや高く、飲酒量と喫煙量が多かった。 バイタルステータスおよび死因のデータは、2018年末までの全国のレジスターから提供されたものを使用。死亡率のハザード比は、8,728人の死亡例に基づいて計算され、教育の程度、アルコール、喫煙、BMI、睡眠時間について調整した。 夜型人間は寿命が短い人の特徴であるか調査した結果は以下のとおり。・共変量調整モデルで、夜型人間グループの全死亡率が9%増加していた(ハザード比:1.09、95%信頼区間:1.01~1.18)。また、主に喫煙とアルコールが減衰原因としてみられた。・軽い飲酒をする程度の非喫煙者では、夜型人間グループの死亡率の増加がみられないことから、喫煙とアルコールの重要性が強く示唆された。・原因別死亡率も増加しなかったことから、死亡率に対する夜型人間や朝型人間というクロノタイプの独立した寄与は、ほぼ/またはまったくないことが示唆された。

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歯の痛み、どのくらいの頻度で“虫歯リスク”なのか

 日本歯内療法学会が、直近3ヵ月で歯の痛みを感じたことがある20~60代の800名を対象に『歯の痛みの放置』に関するアンケート調査を実施。その結果、痛みの強さや頻度に関わらず断続的に痛みを感じている人には一定の「虫歯リスク」があることが推察された。 主な結果は以下のとおり。・痛みの頻度ごとの内訳は、いつも痛む人(痛みが1~3日に1回程度)25.9%、ときどき痛む人(痛みが毎週~2、3週ごとに1回程度)32.1%、まれに痛む人(1~3ヵ月に1回程度)42.0%だった。・まれに痛む人の半数以上は違和感程度で、痛みを感じる箇所は特定のところだった。・痛みを感じた後に歯科受診したのは、全体の4割程度だった。・歯科検診で「虫歯」と診断された割合は、いつも痛む人33.0%、ときどき痛む人31.0%、まれに痛む人43.1%だった。・歯科検診していない人のうち、痛みを半年以上放置した割合は、まれに痛む人で56.8%にのぼった。一方、いつも痛む人でも半年以上も痛みを放置した割合は43.4%と長期間放置する人が多くみられた。 歯に痛みが生じるケースとして虫歯以外には、1)知覚過敏、2)歯肉炎・歯周病、3)ストレス、4)親知らず、5)かみ合わせやかむ力の異常、6)歯のヒビや割れなどがある。虫歯の場合には冷たい物・甘い物だけではなく、熱いものを食べたり、飲んだりした際に数秒の痛みを感じた場合は歯髄近くまで進んでいる場合が多いそうなので、熱い物がしみた場合には虫歯の可能性を考慮して歯科受診を検討したほうがよいかもしれない。―――【調査概要】調査主体:一般社団法人 日本歯内療法学会調査対象:直近 3ヵ月で歯の痛みを感じたことがある20~60代の800名(20代、30代、40代、50代、60代を男女に分け、それぞれ80名を調査。「医薬品、健康食品、薬品、化学、石油化学」「市場調査」「医療、福祉」「出版、印刷」「メディア・マスコミ・広告業」にお勤めの方は除く)調査方法:WEBアンケート調査時期:2023年5月19日~23日―――

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不眠症の第一選択薬~日本の専門家コンセンサス

 睡眠障害の治療に関する臨床的疑問(クリニカル・クエスチョン)に対し、明確なエビデンスは不足している。琉球大学の高江洲 義和氏らは、1)臨床状況に応じた薬物療法と非薬物療法の使い分け、2)ベンゾジアゼピン系睡眠薬の減量または中止に対する代替の薬物療法および非薬物療法、これら2つの臨床的疑問に対する専門家の意見を評価した。その結果、専門家コンセンサスとして、不眠症治療の多くの臨床状況において、オレキシン受容体拮抗薬と睡眠衛生教育を第一選択とする治療が推奨された。Frontiers in Psychiatry誌2023年5月9日号の報告。不眠症の第一選択薬、入眠障害に対するレンボレキサントなどを推奨 睡眠障害の専門家196人を対象に、不眠症に関する10項目の臨床的疑問に基づいた、治療法を選択するアンケート調査を実施した(9段階リッカート尺度:1[反対]~9[同意])。回答は、推奨事項に応じて第一選択、第二選択、第三選択に分類した。 主な結果は以下のとおり。・主な不眠症薬物療法の第一選択薬では、入眠障害に対するレンボレキサント(7.3±2.0)、中途覚醒に対するレンボレキサント(7.3±1.8)およびスボレキサント(6.8±1.8)が推奨された。・主な非薬物療法では、睡眠衛生教育が入眠障害(8.4±1.1)および中途覚醒(8.1±1.5)の第一選択、多要素認知行動療法が入眠障害(5.6±2.3)および中途覚醒(5.7±2.4)の第二選択として推奨された。・他剤切り替えによるベンゾジアゼピン系睡眠薬の減量または中止では、レンボレキサント(7.5±1.8)およびスボレキサント(6.9±1.9)が第一選択薬として推奨された。

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コロナ5類移行後の院内感染対策の現状は?/医師1,000人アンケート

 5月8日に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染症法上の位置付けが「5類感染症」に移行となったが、医療機関ではその前後の過渡期に、これまで継続してきたさまざまな院内感染対策の緩和について議論されていた。5類に移行して約1ヵ月経過し、新規コロナ感染者は全国的に増加傾向にあり、院内感染対策をどこまで緩和するか、今なお難しい判断が迫られている。 病床の有無やコロナ診療状況など条件の異なる医療機関において、院内感染対策の現状や、抱えている課題を把握するため、病院を20床以上、診療所を20床未満と定義し、病院522人、診療所502人の会員医師1,024人を対象に『病院・診療所別 新型コロナ5類移行後の院内感染対策アンケート』を5月30日に実施した。5類移行後、病院93%、診療所72%がコロナ診療している 「Q1. 勤務先の医療機関における、5類移行前後での新型コロナの診療状況」という設問では、「5類移行の前後で、いずれもコロナ診療を受け付けている」「5類移行前は受け付けていなかったが、移行後は受け付けている」「5類移行前は受け付けていたが、移行後は受け付けていない」「5類移行の前後で、いずれも受け付けていない」の4つの選択肢から最も当てはまるものを聞いた。 病院では、84%がいずれの時期もコロナ診療を受け付けており、9%が5類移行後に新たに受け付けるようになった。診療所では、56%がいずれの時期もコロナ診療を受け付けており、16%が移行後に新たに受け付けるようになった。なお本調査では、コロナ診療の割合の低い眼科、皮膚科、泌尿器科といった診療科も含まれている。コロナ5類移行後、PPE着用は感染症疑い患者の診察時のみが多数 「Q2. 個人防護具(PPE)の着用について」という設問では、「勤務中は常にPPEを着用している」「感染症疑いの患者の診察時のみPPEを着用している」「PPEを着用していない」の3つの選択肢から最も当てはまるものを聞いた。 コロナ診療している病院では、常にPPE着用している割合は12%で、79%が感染症疑いの患者の診察時のみ着用していた。コロナ診療している診療所でも、常にPPE着用している割合は12%で、64%が感染症疑いの患者の診察時のみ着用していた。コロナ診療をしていない医療機関でも、病院の49%、診療所の33%が感染症疑いの患者の診察時のみPPE着用し、診療所の5%が常に着用していると回答した。 「Q3. 診療中の手指消毒のタイミングについて」という設問では、「診療室や病室に入るとき」「1人の診察ごと」「処置や検査を行ったとき」のそれぞれの場合に対して、病院では約60%の医師がいずれの場合も手指消毒を行っているとした。診療所では、45%が「診療室や病室に入るとき」、約55%が「1人の診察ごと」「処置や検査を行ったとき」に手指消毒を行っていると回答した。コロナに罹患した職員の療養期間、病院と診療所で傾向の差 「Q4. 勤務先の医療機関での、コロナに罹患した医療従事者の療養期間は何日か」という設問では、医療機関の規模とコロナ診療の有無で、結果に若干の傾向の差が出た。最も慎重な結果だったのはコロナ診療している病院であり、4日以下が8%、5日が56%、7日が24%、8日以上が10%であった。コロナ診療していない病院では、4日以下が8%、5日が64%、7日が21%、8日以上が5%であった。 診療所はコロナ診療の有無にかかわらずほぼ同等で、コロナ診療している場合は、4日以下が13%、5日が63%、7日が17%、8日以上が2%。コロナ診療していない場合は、4日以下が17%、5日が62%、7日が16%、8日以上が3%であった。病院と比べて診療所のほうが、4日以下の割合が約2倍多くなっている一方で、7日、8日以上の割合は病院のほうが多かった。 「Q5. 入院予定患者に対する事前のコロナスクリーニング検査の実施状況について」という設問では、病院では、PCR検査を実施しているのが31%、抗原検査を実施しているのが27%、検査は行わず、事前に診察でコロナの診断を行っているのが9%、事前スクリーニング検査は実施していないとしたのが29%となり、結果が拮抗していた。コロナ院内感染が広がった際の責任の所在に課題感 「Q6. 院内の感染対策を緩和していくうえで、判断に迷っていること、難しいと感じること」という設問では、以下のような意見が挙げられ、新型コロナに対する人々の危機感の薄れとは裏腹に、医療機関がさまざまな課題を抱えていることが浮き彫りになった。患者がコロナ感染対策せずに来院する・ウイルス感染は依然として続いているのに、あたかも、なくなったかのごとく振る舞う患者が結構みられるようになった。(診療所・内科・60代)・マスクをしない患者さんがよく来るようになった。(診療所・皮膚科・40代)コロナ院内感染・クラスター・感染が広がった際の責任の所在。(病院・呼吸器外科・30代)検査・入院時に陰性でも、後に感染が判明することがある。(病院・糖尿病・代謝・内分泌内科・30代)・明らかにコロナ感染症だと思われる方の中には、検査を希望されない方が一定の割合で存在する。(診療所・内科・60代)・以前は患者負担なく検査できたのでやりやすかったが、今はそうではないので困る。(診療所・消化器内科・40代)動線・ゾーニング・現状は時間分離で診療を行っているが、一般患者さんとの分離が十分できている保証はない。(診療所・内科・70代以上)面会・新型コロナ感染者が1人でも院内に発生した場合に、面会制限をしたほうがいいのか、判断に困っています。(病院・内科・50代)PPE・どこまでPPEを緩めるか。(診療所・内科・50代)職員への対応・職員の同居人に発熱者が出ても新型コロナかどうか不明の場合の出勤調整の判断に迷う。(診療所・内科・60代)・咳嗽が残った従事者の勤務。(診療所・内科・60代)コロナ感染対策の基準がわかりづらい・適正な指針が見当たらない。(病院・消化器内科・50代)・高齢者が多いため緩和しにくい。(診療所・内科・50代)・最近また新型コロナウイルス感染患者が増えてきた。(病院・外科・40代)・コロナ以外にもインフルエンザや麻疹、結核などのルールアウトもしておらず、アウトブレイクに対して一抹の不安はある。(病院・麻酔科・50代)・地域・全国のコロナ患者の状況、ベッドがどれくらい埋まっているかの情報・統計が得られなくなり、院内の感染対策を緩めていい時期が不明瞭。(診療所・内科・50代)アンケート結果の詳細は以下のページに掲載中。5類移行後の院内感染対策はどうしている?/医師1,000人アンケート なお、ケアネットライブでは『アフターコロナの院内感染対策・新ルール』を6月21日(水)20時からライブ配信する。聖路加国際病院 感染管理担当の坂本 史衣氏が、最新の知見を踏まえ、今後のコロナ院内感染対策で徹底すべきこと、緩和してもよいことなど、実践例を交えながら解説する。本講義はCareNet.com会員であれば無料で視聴できる。

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自殺念慮の検出に有用な兆候は

 自殺の兆候を有するうつ病患者は、プライマリケアの臨床現場で見逃されることが少なくない。久留米大学の藤枝 恵氏らは、初診から6ヵ月間の中年期プライマリケア患者における自殺念慮を伴ううつ病の予測因子を調査した。その結果、起床時の疲労感、睡眠状態不良、職場の人間関係の問題は、プライマリケアにおける自殺念慮を伴ううつ病の予測因子である可能性が示唆された。International Journal of Environmental Research and Public Health誌2023年4月17日号の報告。 対象は、日本の内科クリニックを受診した35~64歳の新規患者。自己記入式アンケートと医師のアンケートを用いて、ベースライン特性を収集した。自殺念慮を伴ううつ病は、登録時および6ヵ月後にZungうつ病自己評価尺度(SDS)、気分プロフィール検査(POMS)を用いて評価した。自殺念慮を伴ううつ病の調整オッズ比(aOR)を算出するため、多重ロジスティック回帰分析を用いた。関連因子の感度、特異性、尤度比も算出した。 主な結果は以下のとおり。・対象患者387例中13例(3.4%)が6ヵ月時点で自殺念慮を伴ううつ病であると評価された。・性別、年齢、関連因子で調整した後、統計学的に有意な自殺念慮を伴ううつ病のaORが認められた因子は以下のとおりであった。 ●1回/月以上の起床時の疲労感(aOR:7.90、95%CI:1.06~58.7) ●1回/週以上の起床時の疲労感(aOR:6.79、95%CI:1.02~45.1) ●睡眠状態の悪さ(aOR:8.19、95%CI:1.05~63.8) ●職場における人間関係の問題(aOR:4.24、95%CI:1.00~17.9)・本調査は、サンプルサイズが小さかったため、本結果を確認するためには、より多くのサンプルサイズを用いた研究が必要とされる。

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第165回 NP制度化、かかりつけ医機能認定制……、開業医常任理事を4人増員し、とにかく反対し続ける日医に未来はあるのか?

規制改革推進会議答申書、ナース・プラクティショナーは結局調査止まりこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は、久しぶりに茨城県桜川市で有機農業を営む大学の先輩宅へ農作業の支援に行ってきました。雨も止み暑さが和らいだ土曜、畑の草取りや玉ねぎの収穫などを手伝って来ました。先輩の話では、今年はグリーンピースや空豆、ニンニク、玉ねぎなどが例年になく豊作だったそうです。有機農法にこだわるあまり、貧相で虫食いの野菜が特徴の農園だったのですが、今年は直売所に置いても恥ずかしくない野菜ばかりで安心しました。「春が短く、早く夏が来たにもかかわらず、虫の出始めは例年並だったせいで、虫の被害が少なかったからではないか」と先輩は分析していました。温暖化の影響はこんなところにも出ているのでしょうか……。お土産に採れたての野菜をたくさんもらい、地球の未来について考えながら帰京しました。さて今回は、6月1日に政府の規制改革推進会議が公表した答申書、「転換期におけるイノベーション・成長の起点」1)の中の、とくに医療提供に関するパートについて考えてみたいと思います。「第162回 止められない人口減少に相変わらずのんきな病院経営者、医療関係団体(後編) 『看護師に処方権』『NP国家資格化』の行方は?」で多少の期待を込めて書いたナース・プラクティショナー(NP)ですが、結局は調査止まり、訪問看護ステーションでの配置可能薬拡大についても、実態調査を行ったうえで「必要な対応の検討を求める」方針となり、全体として尻すぼみの結果に終わりました。半ば予想されていたことですが、今回も日本医師会や日本薬剤師会などが強硬に反対したことが大きな理由です。現場の医師や薬剤師の仕事そのものにも大きなプラスになる改革だと思うのですが、未来のことを考えず、今ある既得権を守ろうとするその頑なさには、いつも”感心”してしまいます。「NP制度を導入する要望に対して様々な指摘があったことを適切に踏まえる」の一文答申の「医療・介護・感染症対策」の「医療関係職種間のタスク・シフト/シェア等」における医師、看護師間のタスクシェアについては、「医師、看護師が実際に果たしている役割や課題を令和6年度及び7年度に調査し、更なる医師、看護師間でのタスクシェアを推進するための措置について検討する」とされました。そして、「その際、限定された範囲で 診療行為の一部を実施可能な国家資格であるナース・プラクティショナー制度を導入する要望に対して様々な指摘があったことを適切に踏まえるものとする」との一文が入りました。「看護師が医師の包括的指示を受けて行い得る業務を明確化するため、現場のニーズを踏まえて、包括的指示の例を示す」ことや、「特定行為研修修了者の養成促進」「特定行為の運用状況と地域医療におけるニーズを現場の医師及び看護師等から把握し、特定行為の拡充について検討する」ことなども提言されました。訪問看護ステーションでの配置可能薬拡大も見送り日本薬剤師会が強く反対していた訪問看護ステーションでの配置可能薬拡大についても、「具体的にどのような地域にどの程度の頻度でどのような課題があるかについて現場の医師、薬剤師、看護師及び患者等に対して調査を行い、必要な対応を検討」とされ、具体案の提示にまで至りませんでした。ただ、24時間対応を謳いながら対応していない薬局に是正を求めるほか、それでも状況が改善しない場合は「訪問看護ステーションに必要な薬剤を配置することも含め必要な対応を検討する」としました。読みようによっては、「薬局も真面目にやらないと、制度化してしまうよ」と脅されたともとれます。医療・介護・感染症対策ワーキンググループで医師の佐々木 淳専門委員(医療法人社団悠翔会 理事長)の提案が、具体的で実効性がありそうだっただけに、この部分は今後動いて行く可能性も高そうです。答申前、日看協は厚労大臣に要望、日医など医療団体は反対の意見書ところで、規制改革推進会議の答申書が公表される10日前の5月22日、日本看護協会は「ナース・プラクティショナー(NP)制度の創設に関する検討」など、来年度の予算・政策に関する要望書を、加藤 勝信厚生労働大臣に提出しています2)。日看協は「特定行為研修制度では対応できない医療ニーズがあり、医師の指示が得られずに症状が悪化する利用者が少なくない」ことなどを踏まえ、NP制度化を改めて加藤厚労相に要望したわけですが、Medifax等の報道によれば、加藤厚労相は、NP制度の創設について、「離島やへき地など必要な場所はどこなのか、そしてそれらの地域の医療をどう支えるのか」との観点から、検討が必要との認識を示したとのことです。一方、NPの導入を阻止したい日本医師会は、5月24日、日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会、日本精神科病院協会などとの連名で、「連携体制を強化することが第一に行われるべきことです。(中略)その点を改善しないまま、新たな資格により看護師が診断・処方をすれば解決するということはあり得ません」とする意見書3)を公表しています。意見書では、訪問看護師と医療機関との連絡体制を改めて確認するなど連携の強化をまず行うべきだと提言、在宅医療の分野で特定行為研修を推進する必要性も指摘しています。CBnewsマネジメントなどの報道によれば、日医の釜萢 敏常任理事は5月24日の定例記者会見で、「国によって医療の供給や提供体制は大きく異なる。NPの制度化が日本で本当に必要なのか慎重に検討する必要がある」と述べたとのことです。NPの必要性は「在宅医療」だけに留まるものではない日本ではNPは必要ない、医療現場で問題は何も起こっていない、やるなら特定行為研修の充実で十分だ、とする日医など医師、病院団体と、「医師の指示が得られず症状が悪化する利用者が少なくない」と主張し、NP制度化を要望する日看協。話はまったく噛み合わず、規制改革推進会議の答申も、一見日医寄りの内容となりました。しかし、「ナース・プラクティショナー制度を導入する要望に対して様々な指摘があったことを適切に踏まえるものとする」の一文が入ったことは、小さいながらも確実な前進と捉えることができそうです。日医側の意見書を読んでみると、なかなか苦しい言い訳だと感じます。「連携体制を強化することが第一」でそれが改善しないまま新たな資格をつくっても仕方がない、と主張していますが、そこを改善してこなかった、あるいはそこまで手が回らないのは一体誰なのか、という話です。現状、NPは「在宅医療」についての議論に留まっていますが、早晩、「医療」全体にも当てはまる話となっていくでしょう。日看協も厚労省に陳情するだけでなく、国民も巻き込んだPR作戦でも展開すれば局面も変わると思うのですが……。日本医師会常任理事4人増員の背景自分たちの既得権を壊しかねない規制改革案にとにかく反対し続ける日本医師会ですが、6月4日、新たに4人の常任理事を決定したと公表しました。立候補者が4人と定員と同数のため、6月25日に開催される第154回日本医師会定例代議員会では選挙は行われません。日本医師会の常任理事は現在10人。日本医師会の常任理事の14人への増員は3月26日の第153回臨時代議員会で承認され決定しました。「膨大かつ多様化する会務に対応できる有能な人材を、全国から発掘・登用し適材適所に配置する」ことが目的としています。この常任理事増員について、週刊ダイヤモンドの2023年6月3日号(医学部&医者特集号)に、「会長の座を巡って繰り返されるクーデター 医師会『役員大増員』の内情」というタイトルの、興味深い記事が掲載されています。その記事は、4人増員の最大の目的は、「4人を全国4地区に振り分けて、1人当り12都道府県を担当し、しっかりと会員増員や『医政活動』をやっていただく」(松本 吉郎会長の代議員会での言葉)ためと書いています。つまり、医師会員を増やし、自民党員を増やし、自民党議員とのつながりを強め、選挙における日医の力(集票力)を復活させるための常任理事増員というわけです。同記事はさらに、政権(自民党)と関係がうまく築けていない松本会長が「医政活動を強化しなければならないような状況に追い込まれているということだ。政権との太いパイプが築けていないからこそ、会員増強を図り国政選挙などで集票力を誇示しなければとの焦りのぞく」とも書いています。男性中心かつ診療所開業医のための利権団体同記事はまた、本連載の「第150回 かかりつけ医機能の確認めぐりひと悶着、制度化の芽も摘んだ日本医師会の執念」でも書いた、かかりつけ医機能の確認が「事実行為」か「行政行為」かをめぐってのひと悶着と、その結果、かかりつけ医機能の制度が骨抜きになってしまったことや、日医が発行する医学生向け情報誌のアンケートで、日医のイメージの5位が「開業医の利益のために活動している」であったことなどを挙げて、「日医がいま以上に『政治力』を発揮することを、医療全体、とりわけ現役の医師や、これから医師になろうとする医学生たちは望んでいるだろうか」とも書いています。先週、ある取材で地方の病院経営者に会ったのですが、「日医の新しい常任理事、4人とも診療所開業医だよ。これで診療所開業医のための利権団体という性格がこれまで以上に強まるね」と嘆いていました。人口減少、高齢社会という未来を見据えることなく、既得権とプライドに固執して制度の大胆な改革案に反対し続ける日本医師会に果たして未来はあるのでしょうか。ちなみに、増員された4人の常任理事は全員男性。現在の会長、副会長3人、常任理事14人中、女性は1人です。このあたりも時代に乗り遅れている気がします。「ズレてますから」と直言してくれる人間は、日医幹部の周りにいないのでしょうか。参考1)規制改革推進に関する答申~転換期におけるイノベーション・成長の起点~/内閣府2)令和6年度予算・政策に関する要望書/日本看護協会3)制改革推進会議医療・介護・感染症対策ワーキンググループにおけるナースプラクティショナー(NP)の議論について/日本医師会など

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Long COVIDは5タイプに分類できる

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の急性期を過ぎた後に何らかの症状が遷延する、いわゆる「long COVID」は、5タイプに分類可能であるとする論文が「Clinical and Experimental Medicine」に4月7日掲載された。聖マリアンナ医科大学総合診療内科の土田知也氏らによる研究によるもので、就労に影響が生じやすいタイプも特定された。 Long COVIDは長期間にわたり生活の質(QOL)を低下させ、就労にも影響が及ぶことがある。現在、治療法の確立が急がれているものの、long COVIDの病態の複雑さや多彩な症状を評価することの困難さなどのために、新規治療法の有効性を検討する臨床試験の実施にも高いハードルがある。そのため、まずlong COVIDをいくつかのタイプに分類して、それぞれのタイプを特徴付けるという試みが始まっており、海外発のそのような研究報告も存在する。ただし、QOL低下につながりやすい就労への影響という点を勘案した分類は、まだ提案されていない。土田氏らの研究は、以上を背景として行われた。 2021年1月18日~2022年5月30日に同院のCOVID-19後外来を受診した患者のうち、PCR検査陽性の記録があり、感染後に症状が2カ月以上続いている15歳以上の患者497人(平均年齢41.6歳、男性43.1%)を解析対象とした。対象者の中には甲状腺機能低下症やうつ病が疑われる患者も含まれていたが、症状にlong COVIDの影響はないと明確には判断できないことから、除外せずに解析した。 対象者には、23項目から成る自覚症状のアンケート(該当するものを○、強く該当するものを◎で回答する)と、慢性疲労症候群の評価に使われている9項目から成るパフォーマンスステータス(PS)質問票に答えてもらった。就労状況については、罹患前と同様に勤務継続、職務内容の変更、休職、退職という四つに分類した。 結果について、まず自覚症状に着目すると、○または◎のいずれかが最も多かった症状は倦怠感(59.8%)で、次いで不安(42.3%)、嗅覚障害(41.9%)、抑うつ(40.2%)、頭痛(38.6%)などだった。◎が最も多かったのは同じく倦怠感(40.2%)で、次いで嗅覚障害(26.6%)、味覚障害(18.1%)、脱毛(14.9%)、呼吸困難(13.7%)、頭痛(11.1%)などだった。 次に、特徴の似ているデータをグループ化するクラスター分析という手法により、long COVIDのタイプ分類を行った結果、以下の5タイプに分けられることが分かった。 タイプ1は倦怠感が強いことが特徴で全体の21.8%が該当。タイプ2は倦怠感のほかにも呼吸困難、胸痛、動悸、物忘れを訴える群で14.9%が該当。タイプ3は倦怠感、物忘れ、頭痛、不安、抑うつ、不眠症、モチベーション低下を訴える群で20.8%が該当。タイプ4は倦怠感が少なく脱毛を主症状とする群で19.8%が該当。タイプ5も倦怠感が少なく味覚障害や嗅覚障害が主体の群で22.8%が該当。 これらの群を比較すると、タイプ4は他群より高齢で、タイプ2や4は女性が多く、タイプ2はCOVID-19急性期に肺炎合併症を来していた割合が高いといった有意差が認められた。外来初診時のPSスコア(点数が高いほど生活の支障が強い)は、タイプ2が最も高く中央値4点(四分位範囲2~6)、続いてタイプ3が3点(同2~5)、タイプ1が2点(1~5)であり、タイプ4と5は0点(0~1)だった。症状発現から受診までの期間はタイプ5が最も長く、BMIについてはタイプによる有意差がなかった。 就労状況に関しては、発症以前と変更なしの割合がタイプ1から順番に50.0%、41.9%、43.7%、77.6%、84.1%、職務内容の変更を要した割合は、24.1%、13.5%、9.7%、2.0%、7.1%、休職中は20.4%、36.5%、39.8%、16.3%、7.1%、退職に至った割合は5.6%、8.1%、6.8%、4.1%、1.8%であり、タイプ2や3で休職中の割合が高く、タイプ4や5はその割合が低いという差が認められた。 このほか、自律神経機能検査によって体位性起立性頻拍症候群〔POTS(立ち上がると脈拍が大きく変化する)〕と診断された割合が、自覚症状に倦怠感が含まれているタイプ1~3で高く、特にタイプ2では33.8%と3人に1人が該当することが分かった。 以上を基に著者らは、「long COVIDはその臨床症状から5タイプに分類可能」と結論付け、また倦怠感を訴えるタイプにはPOTSが多く、POTSは治療により改善も認められるケースがあることから、「タイプ1~3に該当する患者では自律神経機能の評価が重要ではないか」と付け加えている。なお、研究の限界点としては、単施設の外来患者を対象としたものであり、外来通院も困難な重症long COVID患者が含まれていないこと、解析対象期間が異なれば異なる変異株の感染患者が含まれるため、クラスター分析の結果も変わってくる可能性のあることなどを挙げている。

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医学生は感染症専門医に興味がない【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第235回

医学生は感染症専門医に興味がないUnsplashより使用私は一応感染症専門医ですが、どちらかといえば抗酸菌感染症をたくさん診療しているので、性感染症や小児感染症については疎いです。オールラウンダーであるべき資格だとは思いますが…。コロナ禍で非常に重宝されましたが、全国には2023年4月10日時点で1,770人しかいないレアな資格でございまして。Hagiya H, et al.Interest in Infectious Diseases specialty among Japanese medical students amidst theCOVID-19 pandemic: A web-based, cross-sectional study.PLoS One. 2022 Apr 21;17(4):e0267587.もともと感染症専門医の数は、適正数と比べて非常に少ないことが指摘されていますが、COVID-19のパンデミックによってこの意向がどうなったか、ウェブアンケートを用いて調査されました。2021年3月に岡山大学医学部医学科に在学している医学生717名を対象に実施されました。回収率は45.7%と高く、解析対象者は328名でした。感染症専門医を認識している学生227名(69.2%)のうち、「パンデミック後に知った」が99名(43.6%)でした。低学年と高学年を比較すると、クリニカルクラークシップの経験がある医学生では、感染症専門医の認知度が高かったようです(19.5% vs. 57.4%、p <0.001)。やはり、現場をみてもらえれば、感染症専門医ってきっとカッコイイと思ってもらえるはず!さて、COVID-19パンデミックによって感染症専門医への興味が生じた人が多いとありがたいわけですが、「感染症専門医への興味が生じた」が12名(3.7%)、「むしろ感染症専門医にはなりたくない」が36名(11.0%)という残念な結果でした。(´・ω・`) ショボン以上のことから、現時点では日本の感染症専門医への関心度が非常に低いことが示されてしまいました。

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コロナ禍の日本人の自殺念慮に最も影響した要因は?/筑波大

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行時に孤独感を感じていた日本人では、収入減少や社会的孤立などの他の要因に比べ、自殺念慮のリスクが最も高かったことが、筑波大学 医学医療系災害・地域精神医学の太刀川 弘和氏らの研究により明らかになった。BMJ Open誌2023年5月15日号掲載の報告。 日本における自殺者数は、2020年は2万1,081人、2021年は2万1,007人、2022年は2万1,881人で、COVID-19流行前の2019年の2万169人よりも多いままである。自殺の多くは多様かつ複合的な原因および背景を有しているが、新型コロナウイルスへの感染の恐怖や失業などの経済問題に加え、ソーシャルディスタンスなどによる社会的孤立や孤独感の悪化があるとされている。しかし、自殺念慮にはこれらのどれが、どのように影響するかは不明である。そこで、研究グループは、COVID-19流行時の孤独感が自殺念慮に直接的・間接的にどのような影響を与えるかを明らかにするため調査を行った。 調査には、「日本におけるCOVID-19問題による社会・健康格差評価研究(JACSIS study)」の2回目のアンケートデータ(2021年2月8~26日実施)が用いられた。自殺念慮への社会的孤立、孤独感、抑うつ状態の影響度が、男女別に年代や経済状態などで調整して分析された。 主な結果は以下のとおり。・分析には、20~59歳の男性6,436人、女性5,380人のデータが用いられた。・COVID-19流行時に自殺念慮があったのは、男性で15.1%、女性で16.3%であった。そのうち、初めて自殺念慮を抱いた人は、男性で22.8%、女性で19.8%であった。・孤独を感じている群では、感じていない群よりも自殺念慮の保有率が男性で4.83倍、女性で6.19倍高く、コロナ感染(男性1.61倍、女性1.36倍)、収入減少(1.28倍、1.26倍)、生活苦(2.09倍、1.68倍)、社会的孤立(1.61倍、1.03倍)よりも強い影響がみられた。・抑うつ状態の有無で調整すると、孤独感を感じている群の自殺念慮の保有率は男性3.60倍、女性4.33倍に低下したが、抑うつ状態のみの群(男性2.30倍、女性2.75倍)よりも高かった。・COVID-19流行時に初めて孤独感や自殺念慮が生じた群では、抑うつ状態の影響がより強かった。・女性では、COVID-19流行時に悪化した孤独感と新たに生じた自殺念慮が最も強く影響していた。 これらの結果より、研究グループは「孤独感が直接的に、また抑うつ状態を介して間接的に自殺念慮に強い影響を与えることが明らかとなった。孤独感を抱いている人への心理的なサポートが、孤立・孤独対策のみならず自殺対策としても重要である」とまとめた。

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日本における双極性障害外来患者の入院の予測因子~MUSUBI研究

 双極性障害は、躁症状とうつ症状が繰り返し発現し、社会的機能低下や自殺リスクにつながる可能性のある疾患である。症状の増悪により入院せざるを得なかった双極性障害患者では、その後の心理社会的機能の低下が報告されていることから、できる限り入院リスクを減らす治療が求められる。しかし、双極性障害患者の実臨床における入院の予測因子に関するエビデンスは、これまで十分ではなかった。獨協医科大学の徳満 敬大氏らは、日本における双極性障害外来患者の入院の予測因子を明らかにするため、観察研究を実施した。その結果、対象となった双極性障害外来患者の3.06%が、ベースラインから1年間に精神科への入院を経験していることが明らかとなった。また、双極I型障害、ベースライン時の機能の全体的評定尺度(GAF)スコアの低さ、失業状態、薬物乱用、躁状態が入院の予測因子である可能性が示唆された。Frontiers in Psychiatry誌2023年3月16日号の報告。 日本の精神科クリニックにおける双極性障害の多施設治療調査「MUSUBI研究」にて、実臨床における観察研究を実施。レトロスペクティブな医療記録調査の一環として、日本精神神経科診療所協会に加盟しているクリニック176施設を受診した双極性障害患者について、臨床医へのアンケート調査を行った。2016年9月~10月に収集したデータより、ベースライン時の患者の特徴(併存疾患、精神状態、治療期間、GAFスコア、薬理学的治療の詳細情報など)を抽出した。ベースラインから2017年9・10月までの期間(1年間)、双極性障害患者の入院発生率および予測因子を調査した。 主な結果は以下のとおり。・対象患者数は2,389例。・ベースラインから1年間での精神科入院発生率は3.06%であった。・二項ロジスティック回帰分析では、精神科入院と関連が認められた因子は、双極I型障害、ベースライン時のGAFスコアの低さ、失業状態、薬物乱用、躁状態であった。・本結果は、臨床医が双極性障害患者の精神科への入院を予防するうえで、役立つ可能性がある。

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今後もマスクをする人は約4割/アイスタット

 2023年5月8日より新型コロナウイルス感染症の感染法上の位置付けが、2類から5類へ移行することで施策が大きく変わる。今後、一般市民は新型コロナウイルス感染症にどのように対応していくのか。マスクの着用は個人の自由になるが、はたしてどのように考えているのか。株式会社アイスタットは4月13日に「今後のマスク着用&コロナワクチン接種」に関するアンケートを行った。 アンケート調査は、セルフ型アンケートツール“Freeasy”を運営するアイブリッジ株式会社の全国の会員20~59歳の有職者300人が対象。調査概要形式 Webアンケート形式調査日 2023年4月13日回答者 セルフ型アンケートツールFreeasyに登録している20歳~59歳・有職者の会員300人調査機関 株式会社アイスタットアンケート概要・現在、「脱マスク」の人は1割未満、「マスク依存」の人は4割近く。・気温・湿度が高い季節が到来しても「脱マスク」の人は1割未満。現在と変わらず。 その一方、「マスク依存」の人は約4割から約2割に減少。・他人がマスクをしていなことにイラっとする人は2割近く。・コロナワクチン接種を「受けたことがない人」は、マスクを「常につけている」が最多。・ワクチン接種が有料化になった場合、接種意向率は約2割。・コロナ予防対策率は約7割近く。ただし、同社前回調査(2020年11月)より12%減少。・現在のコロナ予防対策の第1位は「手洗い」、第2位は「マスク着用」、密対策は減少。・コロナ禍で定着した予防対策、今後も継続して欲しいものは「ワクチン無料化」が最多。・コロナに感染することが怖い人は4割、同社前回調査(2020年5月)の8割から半減。約4割の回答者が「マスクをはずせるシーンでもはずさない」と回答 質問1で「政府が示したマスクの着用が必要のない場面で、現在マスクをはずしているか」(単回答)を聞いたところ、「常につけている」「状況に応じて着脱しているが、はずす比率は以前と変わらない」が共に38.0%で最も多く、「状況に応じて着脱しているが、はずす比率の方が高い」が18.7%、「常にはずしている」が5.3%の順で多かった。回答者の属性別で「常につけている」と回答した人は、「20・30代」「女性」「四国・中国・九州地方・沖縄」に多かった。一方、「常にはずしている」と回答した人は、「20・30代」「男性」「関東地方」に多かった。 質問2で「政府が示したマスクの着用が必要のない場面で、今後マスクをはずすか」(単回答)を聞いたところ、「状況に応じて着脱するが、はずす比率は現在と変わらない」が36.3%、「状況に応じて着脱するが、はずす比率は現在より高い」が32.0%、「常につけている」が23.7%、「常にはずす」が8.0%の順で多かった。また、「現在」と「今後」の全体のマスク着用動向では、気温、湿度が高い季節が到来しても脱マスクの人は1割未満で、「現在」と変わらず低く、今後の熱中症のリスクが懸念される結果だった。 質問3で「他人がマスクをしていないことにイラっとするか」(単回答)を聞いたところ、「そう思わない」が49.7%、「どちらでもない」が31.3%、「そう思う」が19.0%の順で多かった。参考までに「そう思う」と回答した人の特徴を調べてみると、「現在、マスクを常につけている」「コロナワクチン4回目・5回目接種完了」「コロナに感染したことがある」を回答した人ほど多かった。 質問4で「コロナワクチン予防接種回数」(単回答)を聞いたところ、「4回目・5回目接種完了」と回答した人は4割、一方、何らかの理由でワクチン接種を途中で見送った「1回目・2回目・3回目接種完了」と回答した人は4割、「受けたことがない」と回答した人は2割だった。参考に「マスク着用状況」との関連で調べてみると、「4回目・5回目接種完了」と回答した人は「状況に応じて着脱」が最も多く、「受けたことがない」を回答した人は「常につけている」が最も多かった。 質問5で「今後のコロナワクチン予防接種意向」(単回答)を聞いたところ、「無料化なら状況をみて接種」が32.0%、「有料化、無料化に関わらず接種しない」が30.3%、「無料化なら必ず接種」が20.3%、「有料化でも状況をみて接種」が14.7%、「有料化でも必ず接種」が2.7%の順で多かった。今後も続けて欲しい施策の最多は「ワクチン接種の無料化」で43% 質問6で「新型コロナウイルス予防対策の実施」(単回答)を聞いたところ、「やや対策を実施している」が44.0%、「きちんと対策を実施している」が23.7%、「どちらでもない」が18.0%の順で多かった。「きちんと対策」「やや対策」を足し合わせた「実施している」の割合をみると67.7%となり、約7割近くの人が何らかの予防対策を実施していることが明らかとなった。 質問7で「現在、日常生活で注意して行っていること」(複数回答)を聞いたところ、「手洗い」が80.0%、「マスク着用」が71.3%、「アルコール・エタノール消毒の利用」「うがい」が共に52.3%と多かった。参考に過去の同社調査(2020年5月)と比較すると、今回はすべての内容で予防対策の実施割合が減少した。減少した対策の第1位は48%減の「不要な外出を控える」、第2位は31%減の「集会・イベントに参加しない」、第3位は29.3%減の「人混みを避ける・時差通勤」だった。 質問8で「コロナ禍予防対策で定着したもので、今後も継続して欲しいと思うもの」(複数回答)を聞いたところ、「ワクチン予防接種の希望者は無料化」が43%、「入店時のアルコール除菌」が32%、「マスク着用の推奨」が23.7%の順で多かった。参考に年代別では、20代で「テレワーク」「黙食」「リモート会議」が多く、40代で「正面・側面にアクリル板」「マスク着用の推奨」「ビュッフェの手袋」が多く、50代で「入店時のアルコール除菌」「コロナワクチン予防接種の希望者は無料化」「注文用のタブレット」「時差出勤」が多かった。 質問9で「(コロナ禍と日常生活で)自身があてはまるもの」(複数回答)を聞いたところ、「コロナに感染することが怖い・不安」が40.3%で最も多かった。過去の同社調査(2020年5月)と比較すると、「怖い」の割合が81%から40.3%と半減していた。

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