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POEMS(クロウ-深瀬)症候群

1 疾患概要■ 概念・定義POEMS症候群の名称は、polyneuropathy、organomegaly、endocrinopathy、M-protein、skin changeの頭文字に由来する。「クロウ-深瀬症候群」、「高月病」とも呼ばれる。名称のとおり、多発ニューロパチーを中核症状とし、肝脾腫などの臓器腫大、内分泌異常、皮膚変化(色素沈着、剛毛、血管腫など)という多彩な症状を呈し、M蛋白を伴う全身性の疾患である。症状は多彩であるが、その病態基盤は形質細胞異常(plasma cell dyscrasia)とサイトカインである血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)の上昇であると考えられている。多発ニューロパチーが中核症状となることが多い一方で、plasma cell dyscrasia由来の疾患でもあり、神経内科または血液内科で診療することが多い。2015年1月に、新規に指定難病の1つとなった。■ 疫学わが国で行われた2003年の全国調査に基づく推定有病率は、10万人当たり0.3人であり、いわゆる希少疾病である。しかし、その多彩な症状ゆえに、診断が困難な例も少なくなく、実際の有病率はもう少し高い可能性がある。平均発症年齢は50代であるが、30代の発症もまれではない。男性に多い。■ 病因上述のごとく、POEMS症候群の病態の中心はplasma cell dyscrasiaとVEGFの上昇であると推定されている。VEGFは血管新生作用以外に強い血管透過性亢進作用を持ち、本症候群で特徴的に認められる浮腫、胸腹水などの所見とよく合致する。しかし、plasma cell dyscrasiaとVEGF上昇がどのように関連するかについては、現時点では不明である。また、多発ニューロパチー、内分泌異常、皮膚異常などの症状が生じるメカニズムについても明確になっていない。VEGF上昇とともに、TNFα、IL6、IL-12を含む複数の炎症性サイトカインの上昇も確認されており、複雑な病態に関与している可能性が高い。■ 症状POEMS症候群で認められる臨床症状として頻度が高いのは、多発ニューロパチー、浮腫、皮膚変化、リンパ節腫脹、女性化乳房である。典型的な多発ニューロパチーは、下肢優位の四肢遠位のしびれと筋力低下を呈する。重症度は症例により異なり、アキレス腱反射の低下のみの症例から重度の四肢麻痺の症例まで存在する。また、数ヵ月の経過で、歩行に介助が必要になるまで進行する例が多い。通常、浮腫は下腿以遠に目立つ。進行例では、明確な圧痕を残すほど顕著となり、腹部、上肢、顔面にも浮腫が出現する。皮膚変化は、色素沈着、剛毛の頻度が高い。色素沈着は独特のやや赤味を帯びた褐色を呈する(図)。剛毛は前腕や下腿に目立つ。画像を拡大する■ 予後POEMS症候群の機能・生命予後は、適切な治療が行われない場合、不良である。機能予後は、多発ニューロパチーの重症度に依存する。無治療では過半数の症例が、発症1年以内に杖歩行となる。また、1980年代は適切な治療が行われなかったため、平均生存期間は33ヵ月と報告されている。近年、疾患の認知度向上による診断技術の向上、ならびに骨髄腫治療の本症候群への応用による治療の進歩で、予後は大幅に改善しつつある。しかし、急速な悪化を認めうる疾患であり、また多臓器障害が生じることも少なくないので、治療方針検討や経過観察には、慎重を期す必要がある。低アルブミン血症、初回治療への反応性不良、高齢(50歳以上)、肺高血圧、胸水、腎機能障害などが、予後不良因子として挙げられている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)POEMS症候群の診断は診断基準に基づいて行われる。しかし、類似の診断基準が複数あり、いずれも感度・特異度について検討されていないのが、現在の問題点である。国際的に最も代表的な基準は、2012年のCochrane database systematic reviewで採用されているものである。しかし、わが国では、下表の診断基準が指定難病の認定に使用されている。本診断基準の特徴は、単クローン性形質細胞増殖が検出できない例であっても、積極的に診断できる点において優れている。そのため、日常診療で運用する上では、下表の診断基準を用いる方が、診断感度も高く、利便性にも優れる。表 POEMS症候群の診断基準●大基準多発ニューロパチー血清VEGF上昇(1,000 pg/mL以上)M蛋白(血清または尿中M蛋白陽性 [免疫固定法により確認] )●小基準骨硬化性病変、キャッスルマン病、臓器腫大、浮腫、胸水、腹水、心嚢水、内分泌異常*(副腎、甲状腺、下垂体、性腺、副甲状腺、膵臓機能)、皮膚異常(色素沈着、剛毛、血管腫、チアノーゼ、爪床蒼白)、乳頭浮腫、血小板増多(1)Definite:大基準3つ+小基準 少なくとも1つ(2)Probable:大基準2つ+小基準 少なくとも1つ*糖尿病と甲状腺機能異常は有病率が高いため、これのみでは本基準を満たさない。引用: Misawa S, et al. Clin Exp Neuroimmunol. 2013;4:318-325.以下に、検査、診断に際しての注意点を列記する。1)多発ニューロパチー明確な自覚症状を認めない場合もあり、神経伝導検査によるニューロパチーの有無の検索と性状の確認は必須である。原則は、本症候群のニューロパチーの性状は脱髄と二次的軸索変性である。非常に軽症例では、ごくわずかの異常しか認められない場合もある。2)単クローン性の形質細胞増殖血液・尿のM蛋白のスクリーニングにより、大部分の症例では検出可能である。しかし、POEMS症候群ではM蛋白の量は非常に微量のため、免疫固定法による確認が必須である。M蛋白のサブクラスの多くはIgGまたはIgAのλ型である。3)VEGF外注検査会社で測定可能である。VEGF値の測定は、診断確定、治療効果判定に非常に有用であるが、現時点では保険適用にないことが大きな問題点である。血清・血漿のいずれで測定すべきかの結論は出ていない。しかし、指定難病の認定は血清で行われている。外注検査会社に「血清で測定」の指示にて依頼する。4)骨病変硬化性変化が一般的である。しかし、溶骨性変化や混合性変化を認めることもある。胸腹水の検索目的で施行した胸腹骨盤部のCT検査の骨条件で胸骨、椎体、骨盤などの硬化性病変をスクリーニングすることが可能である。さらに精査を進める際には、PET検査が有用である。5)内分泌障害性腺機能異常、甲状腺機能異常、耐糖能異常、副腎機能異常などの頻度が高い。スクリーニング検査として、LH・FSH・E2(エストラジオール)・テストステロン・TSH・FT3・FT4・血糖・インスリン・ACTH・コルチゾールなどの検査を行う。鑑別診断として問題となりやすいのは、慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(chronic inflammatory demyelinating polyradiculoneuropathy:CIDP)、ALアミロイドーシスである。POEMS症候群の進行例では、浮腫・皮膚障害をはじめ、多彩な典型的症状を伴うため、鑑別が問題となることは少ない。しかし、発症初期で臨床症状や検査所見が揃わない場合には、ニューロパチーの臨床および神経伝導検査所見を詳細に比較することにより、鑑別が可能となる。CIDPの典型例の臨床症状は、左右対称性のしびれと近位筋を含む筋力低下であり、四肢遠位優位のしびれと筋力低下を呈するPOEMS症候群とは臨床症状が異なる。しかし、CIDP、POEMS症候群とも、神経伝導検査は脱髄所見を示すこと、CIDPのほうが有病率・認知度ともに高いことが影響し、POEMS症候群がCIDPと初期診断される確率は高い。典型的CIDPの多くの症例では、ステロイド、免疫グロブリン、血漿交換などの治療に反応する。したがって、治療抵抗例では診断の再考が必要な場合がある。ALアミロイドーシスは、POEMS症候群と同様、四肢遠位優位のしびれと筋力低下を呈する。しかし、神経伝導検査では軸索変性所見を呈するため、POEMS症候群とは異なる。その他、大量の胸水や腹水単独で発症する例もあり、原因が特定できない場合には、本症候群を鑑別疾患の1つとして挙げることも考慮する。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)POEMS症候群の症状は多彩であるが、治療のターゲットはplasma cell dyscrasiaである。そのため、近年は骨髄腫の治療法が本症候群に応用されている。治療方針の原則は、若年者では自家移植、高齢者では免疫調整薬が第1選択とされてきた。移植適応年齢の上限は、65歳から70歳へと、近年引き上げられつつある。自家移植に伴う関連死や再発のリスクが明確になりつつあることを考慮すると、若年軽症例、とくに30代の患者では、リスクとベネフィットおよび長期にわたる疾患コントロールの観点から、移植が第1選択とは必ずしもいい切れなくなってきている。そのような症例では、免疫調整薬が第1選択となる可能性がある。以下に、現在有効であると考えられている治療法について概説する。しかし、いずれも保険適用がないのが、問題点となっている。■ 自己末梢血幹細胞を伴う高用量化学療法通常、骨髄腫とほぼ同様の方法で行われている。自己末梢血幹細胞採取は、顆粒球コロニー刺激因子単独またはシクロホスファミド(商品名:エンドキサン)併用で行われる。続いて、高用量のメルファラン(同:アルケラン)による前処置後に幹細胞移植が行われる。最近では、移植前にサリドマイド(同:サレド)、レナリドミド(同:レブラミド)やボルテゾミブ(同:ベルケイド)などの前治療を行い、病勢をコントロールしてから、自家移植へ進むこともある。移植後、VEGF値は約1~3ヵ月で速やかに低下し、引き続き臨床症状全般の改善が生じる。移植後の再発に関する報告も増えつつあり、無増悪生存率は1年で98%、5年で75%とされる。再発後の治療の選択肢としては再移植、サリドマイドなどの免疫調整薬などが選択されることが多い。■ 免疫調整薬現時点における免疫調整薬の選択肢は、サリドマイド、レナリドミドである。サリドマイド、レナリドミドとも、やはり骨髄腫と同様の用法・用量で使用されており、デキサメタゾン(同:レナデックス、デカドロンなど)が通常併用される。ポマリドミド(同:ポマリスト)は、レナリドミドの次に開発された免疫調整薬であるが、本症候群への使用の報告はまだない。サリドマイドは、本症候群における有効性が、プラセボ対照二重盲検ランダム化群間比較試験で、唯一示されている薬剤である。前記試験は、わが国において医師主導治験として実施されており、適用取得に向けて準備中である。レナリドミドについても、単群オープン試験が報告されており、やはり有効性が示されている。副作用として、サリドマイドでは徐脈、末梢神経障害などに、レナリドミドでは骨髄抑制に、とくに注意が必要である。若年軽症例では、現時点では自家移植ではなく免疫調整薬を選択しても、将来的には自家移植の適応となる可能性がある。その際には、レナリドミドの長期使用により、幹細胞採取が困難となる可能性があるため、長期的な展望の下に、薬剤の選択と治療期間の検討を行う必要がある。■ プロテアソーム阻害薬骨髄腫治療薬として主要な位置付けとなっているプロテアソーム阻害薬も、POEMS症候群に有効な可能性がある。本症候群においては、ボルテゾミブの有効性についての症例報告が集積されつつある。臨床試験の報告はない。カルフィルゾミブ(同:カイプロリス)については、1例の報告のみで、神経症状の安定化が認められたとされる。イキサゾミブ(同:ニンラーロ)については、現在、米国で臨床試験が進行中である。用法・用量は、骨髄腫と同様に使用されることが多い。しかし、プロテアソーム阻害薬の注意すべき副作用として、末梢神経障害がある。そのため、投与中は末梢神経障害の発現に注意しつつ、投与間隔の延長や治療の中断を考慮する。ボルテゾミブに関しての報告が最も多く、効果の発現が免疫調整薬と比較し、速やかな可能性がある。亜急性進行を示す例において、選択肢の1つとなる可能性がある。4 今後の展望現在、骨髄腫治療薬は、早いスピードで開発が進んでいる。これまでの免疫調整薬・プロテアソーム阻害薬の本症候群における有効性を鑑みると、新規薬もおそらく有効である可能性が高い。そのため、本症候群に応用できる選択肢が、今後も引き続き増加することが予測される。現時点では、本症候群における新規治療の試みは、希少かつ重篤な疾患であるがゆえに、1~数例の報告が主体である。しかし、サリドマイドの本症候群への適応拡大のために行われたランダム化群間比較試験のように、今後は適切な臨床試験を可能な限り行い、エビデンスを積み重ね、治療戦略を構築する試みを継続すべきである。治療の進歩に伴い、本症候群の認知度は確実に向上しており、早期診断・治療の加速により、予後は明らかに改善しつつある。また、稀少疾病の新規治療開発を加速させる手段の1つとして、本症候群の症例登録システムも構築されている。全国に散在している症例の情報を集積し、新規治療の有効性や予後について明らかにすることが目的である。さらに、未来の新規治療薬の臨床試験においては、適応となりうる患者に迅速に情報を届けることも、もう1つの主要な目的である。一方で、診断・病勢のマーカーとなるVEGF測定や有効とされる新規治療が、いまだ1つも保険適用とされていないことが、すべての患者さんが、いずれの医療機関でも標準的な診療を受けることへの大きな障壁となっている。このような問題点に関しても、今後の解決が期待される。5 主たる診療科神経内科または血液内科 ※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター クロウ・深瀬症候群(一般利用者と医療者向けのまとまった情報)千葉大学大学院医学研究院 神経内科学 J-POST trial(医療者向けのまとまった情報)千葉大学大学院医学研究院 神経内科学 患者登録システム(一般利用者と医療者向けの症例登録の窓口)患者会情報POEMS症候群 サポートグループ(本症の患者および家族の会)1)Kuwabara S, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2012;6:CD006828.2)Misawa S, et al. Clin Exp Neuroimmunol. 2013;4:318-325.3)Dispenzieri A. Am J Hematol. 2014;89:214-223.4)Misawa S, et al. Lancet Neurol. 2016;15:1129-1137.5)Jaccard A. Hematol Oncol Clin North Am. 2018;32:141-151.6)Nozza A, et al. Br J Haematol. 2017;179:748-755.7)Mitsutake A, et al. J Stroke Cerebrovasc Dis. 2018.[Epub ahead of print]公開履歴初回2015年07月28日更新2018年04月24日

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全身性エリテマトーデス〔SLE:Systemic Lupus Erythematosus〕

1 疾患概要■ 概念・定義全身性エリテマトーデス(Systemic Lupus Erythematosus:SLE)は、自己免疫異常を基盤として発症し、多彩な自己抗体の産生により多臓器に障害を来す全身性炎症性疾患で、再燃と寛解を繰り返しながら病像が完成される。全身に多彩な病変を呈しうるが、個々人によって障害臓器やその程度が異なるため、それぞれに応じた管理と治療が必要となる。■ 疫学本疾患は指定難病に指定されており、令和元年(2019年)度末の特定医療費(指定難病)受給者証所持者数は6万1,835件であり、計算上の有病率は10万人中50人である。男女比は1対9で女性に多く、発症年齢は10~30代で大半を占める。■ 病因発症要因として、遺伝的背景要因に加えて、感染症や紫外線などの環境要因が引き金となり、発症することが考えられているが、不明点が多い。その病態は、抗dsDNA抗体を主体とする多彩な自己抗体の出現に加え、多岐にわたる免疫異常によって形成される。自然免疫と獲得免疫それぞれの段階で異常が指摘されており、樹状細胞・マクロファージを含めた貪食能を持つ抗原提示細胞、各種T細胞、B細胞、サイトカインなどの異常が病態に関与している。体内の細胞は常に破壊と産生を繰り返しているが、前述の引き金などを契機に体内の核酸物質が蓄積することで、異常な免疫反応が惹起され、自己抗体が産生され免疫複合体が形成される。そして、それらが各臓器に蓄積し、さらなる炎症・自己免疫を引き起こし、病態が形成されていく。■ 症状障害臓器に応じた症状が、同時もしくは経過中に異なる時期に出現しうる。初発症状として最も頻度が高いものは、発熱、関節症状、皮膚粘膜症状である。全身倦怠感やリンパ節腫脹を伴う。関節痛(関節炎)は通常骨破壊を伴わない。皮膚粘膜症状として、日光過敏症や露光部に一致した頬部紅斑のほかに、手指や四肢体幹部に多彩な皮疹を呈し、脱毛、口腔内潰瘍などを呈する。その他、レイノー現象、腎炎に関連した浮腫、肺病変や血管病変と関連した労作時呼吸困難、肺胞出血に伴う血痰、漿膜炎と関連した胸痛・腹痛、神経精神症状など、さまざまな症状を呈しうる。■ 分類SLEは障害臓器と重症度により治療内容が異なる。とくに重要臓器として、腎臓、中枢神経、肺を侵すものが挙げられ、生命および機能予後が著しく障害される可能性が高い障害である。ループス腎炎は組織学的に分類されており、International Society of Nephrology/Renal Pathology Society(ISN/RPS)分類が用いられている。神経精神ループス(Neuropsychiatric SLE:NPSLE)では大きく中枢神経病変と末梢神経病変に分類され、それぞれの中でさらに詳細な臨床分類がなされる。■ 予後生命予後は、1950年代は5年生存率がおよそ50%であったが、2007年のわが国の報告では10年生存率がおよそ90%、20年生存率はおよそ75%である1)。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)検査所見として、抗核抗体、抗(ds)DNA抗体、抗Sm抗体、抗リン脂質抗体(ループスアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体、β2GPⅠ依存性抗カルジオリピン抗体など)が陽性となる。また、血清補体低値、免疫複合体高値、白血球減少(リンパ球減少)、血小板減少、溶血性貧血、直接クームス陽性を呈する。ループス腎炎合併の場合はeGFR低下、蛋白尿、赤血球尿、白血球尿、細胞性円柱が出現しうる。SLEの診断では1997年の米国リウマチ学会分類基準2)および2012年のSystemic Lupus International Collaborating Clinics(SLICC)分類基準3)を参考に、他疾患との鑑別を行い、総合的に判断する(表1、2)。2019年に欧州リウマチ学会と米国リウマチ学会が合同で作成した新しい分類基準4)が提唱された。今後はわが国においても本基準の検証を元に診療に用いられることが考えられる。画像を拡大する表2 Systemic Lupus International Collaborating Clinics 2012分類基準画像を拡大するループス腎炎が疑われる場合は、積極的に腎生検を行い、ISN/RPS分類による病型分類を行う。50~60%のNPSLEはSLE診断時か1年以内に発症する。感染症、代謝性疾患、薬剤性を除外する必要がある。髄液細胞数、蛋白の増加、糖の低下、髄液IL-6濃度高値であることがある。MRI、脳血流シンチ、脳波で鑑別を進める。貧血の進行を伴う呼吸困難、両側肺びまん性浸潤影あるいは斑状陰影を認めた場合は肺胞出血を考慮する。全身症状、リンパ節腫脹、関節炎を呈する鑑別疾患は、パルボウイルス、EBV、HIVを含むウイルス感染症、結核、悪性リンパ腫、血管炎症候群、他の膠原病および類縁疾患が挙がるが、感染症を契機に発症や再燃をすることや、他の膠原病を合併することもしばしばある。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)SLEの基本的な治療薬はステロイド、免疫抑制薬、抗マラリア薬であるが、近年は生物学的製剤が承認され、複数の分子標的治療が世界的に試みられている。ステロイドおよび免疫抑制薬の選択と使用量については、障害臓器の種類と重症度(疾患活動性)、病型分類、合併症の有無によって異なる。治療の際には、(1)SLEのどの障害臓器を標的として治療をするのか、(2)何を治療指標として経過をみるのか、(3)出現しうる合併症は何かを明確にしながら進めていくことが重要である。SLEの治療選択については、『全身性エリテマトーデス診療ガイドライン2019』の記載にある通り、重要臓器障害があり、生命や機能的予後を脅かす場合は、ステロイド大量投与に加えて免疫抑制薬の併用が基本となる5)(図)。ステロイドは強力かつ有効な免疫抑制薬でありSLE治療の中心となっているが、免疫抑制薬と併用することで予後が改善される。ステロイドの使用量は治療標的臓器と重症度による。ステロイドパルス療法とは、メチルプレドニゾロン(商品名:ソル・メドロール)250~1,000mg/日を3日間点滴投与、大量ステロイドとはプレドニゾロン換算で30~100mg/日を点滴もしくは経口投与、中等量とは同じく7.5~30mg/日、少量とは7.5mg/日以下が目安となるが、体重により異なる6)(表3)。ステロイドの副作用はさまざまなものがあり、投与量と投与期間に依存して必発である。したがって、副作用予防と管理を適切に行う必要がある。また、大量のステロイドを長期に投与することは副作用の観点から行わず、再燃に注意しながら漸減する必要がある。画像を拡大する画像を拡大する寛解導入療法として用いられる免疫抑制薬は、シクロホスファミド(同:エンドキサン)とミコフェノール酸モフェチル(同:セルセプト)が主体となる(ループス腎炎の治療については別項参照)。治療抵抗性の場合、免疫抑制薬を変更するなど治療標的を変更しながら進めていく。病態や障害臓器の程度により、カルシニューリン阻害薬のシクロスポリン(同:サンディミュン、ネオーラル)、タクロリムス(同:プログラフ)やアザチオプリン(同:イムラン、アザニン)も用いられる。症例に応じてそれぞれの有効性と副作用の特徴を考慮しながら選択する(表4)。画像を拡大するリツキシマブは、米国リウマチ学会(American College of Rheumatology:ACR)および欧州リウマチ学会(European League Against Rheumatism:EULAR)/欧州腎臓学会-欧州透析移植学会(European Renal Association – European Dialysis and Transplant Association:ERA-EDTA)の推奨7,8)においては、既存の治療に抵抗性の場合に選択肢となりうるが、重症感染症や進行性多巣性白質脳症の注意は必要と考えられる。わが国ではネフローゼ症候群に対しては保険承認されているが、SLEそのものに対する保険適用はない。可溶型Bリンパ球刺激因子(B Lymphocyte Stimulator:BLyS)を中和する完全ヒト型モノクローナル抗体であるベリムマブ(同:ベンリスタ)は、既存治療で効果不十分のSLEに対する治療薬として、2017年にわが国で保険承認され、治療選択肢の1つとなっている9)。本稿執筆時点では、筋骨格系や皮膚病変にとくに有効であり、ステロイド減量効果、再燃抑制、障害蓄積の抑制に有効と考えられている。ループス腎炎に対しては一定の有効性を示す報告10)が出てきており、適切な症例選択が望まれる。NPSLEでの有効性はわかっていない。ヒドロキシクロロキン(同:プラケニル)は海外では古くから使用されていたが、わが国では2015年7月に適用承認された。全身症状、皮疹、関節炎などにとくに有効であり、SLEの予後改善、腎炎の再燃予防を示唆する報告がある。短期的には薬疹、長期的には網膜症などの副作用に注意を要し、治療開始前と開始後の定期的な眼科受診が必要である。アニフロルマブ(同:サフネロー)はSLE病態に関与しているI型インターフェロンα受容体のサブユニット1に対する抗体製剤であり、2021年9月にわが国でSLEの適応が承認された。臨床症状の改善、ステロイド減量効果が示された。一方で、アニフロルマブはウイルス感染制御に関与するインターフェロンシグナル伝達を阻害するため、感染症の発現リスクが増加する可能性が考えられている。執筆時点では全例市販後調査が行われており、日本リウマチ学会より適正使用の手引きが公開されている。実臨床での有効性と安全性が今後検証される。SLEの病態は複雑であり、臨床所見も多岐にわたるため、複数の診療科との連携を図りながら各々の臓器障害に対する治療および合併症に対して、妊娠や出産、授乳に対する配慮を含めて、個々に応じた管理が必要である。4 今後の展望本稿執筆時点では、世界でおよそ30種類もの新規治療薬の第II/III相臨床試験が進行中である。とくにB細胞、T細胞、共刺激経路、サイトカイン、細胞内シグナル伝達経路を標的とした分子標的治療薬が評価中である。また、異なる作用機序の薬剤を組み合わせる試みもなされている。SLEは集団としてヘテロであることから、適切な評価のためのアウトカムの設定方法や薬剤ごとのバイオマーカーの探索が同時に行われている。5 主たる診療科リウマチ・膠原病内科、皮膚科、腎臓内科、その他、障害臓器や治療合併症に応じて多くの診療科との連携が必要となる。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 全身性エリテマトーデス(公費対象)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報全国膠原病友の会(膠原病患者とその家族の会)1)Funauchi M, et al. Rheumatol Int. 2007;27:243-249.2)Hochberg MC, et al. Arthritis Rheum. 1997;40:1725.3)Petri M, et al. Arthritis Rheum. 2012;64:2677-2686.4)Aringer M, et al. Ann Rheum Dis. 2019;78:1151-1159.5)厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業 自己免疫疾患に関する調査研究(自己免疫班),日本リウマチ学会(編):全身性エリテマトーデス診療ガイドライン2019.南山堂,2019.6)Buttgereit F, et al. Ann Rheum Dis. 2002;61:718-722.7)Hahn BH, et al. Arthritis Care Res (Hoboken). 2012;64:797-808.8)Bertsias GK, et al. Ann Rheum Dis. 2012;71:1771-1782.9)Furie R, et al. Arthritis Rheum. 2011;63:3918-3930.10)Furie R, et al. N Engl J Med. 2020;383:1117-1128.公開履歴初回2018年04月10日更新2022年02月25日

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濾胞性リンパ腫治療、新規抗体薬vsリツキシマブ/NEJM

 濾胞性リンパ腫の1次治療において、obinutuzumabをベースとする免疫化学療法と維持療法は、リツキシマブをベースとする同様の治療に比べ、無増悪生存(PFS)期間を有意に延長することが、英国・キングス・カレッジ病院のRobert Marcus氏らが行ったGALLIUM試験で示された。研究の成果は、NEJM誌2017年10月5日号に掲載された。抗CD20モノクローナル抗体リツキシマブと化学療法の併用は、新規に診断された濾胞性リンパ腫の転帰を改善し、導入療法後のリツキシマブによる維持療法は良好なPFSおよび全生存(OS)をもたらすが、最終的に多くの患者が再発する。obinutuzumabは糖鎖改変型タイプII抗CD20モノクローナル抗体であり、補体依存性細胞傷害活性はリツキシマブよりも低いが、抗体依存性の細胞傷害活性や食作用活性が高く、直接的なB細胞の除去作用が強いことが示されている。濾胞性リンパ腫の治療法を無作為化試験で比較 GALLIUM試験は、未治療の進行期低悪性度非ホジキンリンパ腫(濾胞性リンパ腫、辺縁帯リンパ腫)の治療において、obinutuzumab+化学療法またはリツキシマブ+化学療法による導入療法を施行後に、それぞれ同じ抗体医薬による維持療法(最長2年)を行うアプローチの有効性と安全性を比較する、非盲検無作為化第III相試験である(F. Hoffmann-La Roche社の助成による)。今回は、濾胞性リンパ腫の解析結果が報告された。 対象は、年齢18歳以上、前治療歴がなく、組織学的に診断が確定され、進行病変(Stage III/IVまたはbulk病変[最大径≧7cmの腫瘍]を伴うStage II)を有するCD20陽性の濾胞性リンパ腫(Grade 1~3a)で、全身状態(ECOG PS)が0~2の患者であった。 被験者は、導入療法として、obinutuzumab(1,000mg)を1サイクル目の第1、8、15日、2サイクル目以降は第1日に点滴静注する群、またはリツキシマブ(375mg/m2)を各サイクルの第1日に点滴静注する群に、1対1の割合でランダムに割り付けられ、6または8サイクルの治療が行われた。化学療法レジメンは、各施設がCHOP(シクロホスファミド+ドキソルビシン+ビンクリスチン+プレドニゾン)、CVP(シクロホスファミド+ビンクリスチン+プレドニゾン)、ベンダムスチンの中から1つを選び、個々の施設の患者はすべて同じレジメンの投与を受けた。 導入療法終了時に完全寛解(CR)または部分寛解(PR)を達成した患者は、導入療法と同じ抗体医薬による維持療法を2ヵ月ごとに2年間、または病勢進行か患者が同意を撤回するまで行われた。治療のクロスオーバーは許容されなかった。 主要評価項目は、担当医判定によるPFSであった。濾胞性リンパ腫の病勢進行/再発/死亡のリスクが34%低減 2011年7月6日~2014年2月4日に日本人患者を含む1,202例が登録され、obinutuzumab群に601例、リツキシマブ群にも601例が割り付けられた(ITT集団)。それぞれ557例、551例が導入療法を、361例、341例が維持療法を完遂し、カットオフ日に60例、54例が維持療法を継続していた。ベースラインのITT集団の年齢中央値は59歳、女性が53.2%を占めた。化学療法レジメンは、ベンダムスチンが57.1%、CHOPが33.1%、CVPは9.8%だった。 フォローアップ期間中央値34.5ヵ月(範囲:0~54.5)における計画された中間解析では、担当医判定による推定3年PFS率はobinutuzumab群が80.0%と、リツキシマブ群の73.3%に比べ有意に良好であった(ハザード比[HR]:0.66、95%信頼区間[CI]:0.51~0.85、層別log-rank検定p=0.001)。独立評価委員会判定による推定3年PFS率は、それぞれ81.9%、77.9%であり、obinutuzumab群が有意に優れた(HR:0.71、95%CI:0.54~0.93、p=0.01) 推定3年OS率は、obinutuzumab群が94.0%、リツキシマブ群は92.1%であり、両群間に差を認めなかった(HR:0.75、95%CI:0.49~1.17、p=0.21)。また、導入療法終了時の寛解率(CR+PR)はそれぞれ88.5%、86.9%(p=0.33)、CR率は19.5%、23.8%(p=0.07)であり、いずれも有意差はなかった。事後解析では、女性でobinutuzumabのPFSが有意に良好であった(HR:0.49、95%CI:0.33~0.74)のに対し、男性では有意差を認めなかった(HR:0.82、95%CI:0.59~1.15)(性別と治療の交互作用:p=0.06)。 Grade 3~5の有害事象(74.6 vs.67.8%)および重篤な有害事象(46.1 vs.39.9%)の頻度はobinutuzumab群のほうが高かったが、死亡の原因となった有害事象の発現率は両群で同等であった(4.0 vs. 3.4%)。担当医判定による最も頻度の高い有害事象は注入関連イベントであり、obinutuzumab群の59.3%、リツキシマブ群の48.9%に発現した(p<0.001)。次いで、悪心(46.9 vs.46.6%)および好中球減少(48.6 vs.43.6%)の頻度が高かった。obinutuzumab群の35例(5.8%)、リツキシマブ群の46例(7.7%)が死亡した。 著者は、「最近のデータでは、比較的強度が高くない化学療法と併用しても、obinutuzumabはリツキシマブに比べ高い効果を有することが示唆されており、フレイルが高度なためベンダムスチンやCHOPの適応が困難な患者で有用となる可能性もある」と指摘している。

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ニボルマブ、導入療法後の転移性トリプルネガティブ乳がんで有望な効果(TONIC試験)/ESMO2017

 転移性トリプルネガティブ乳がん(TNBC)に対する、放射線照射または化学療法後のニボルマブによる治療の奏功率が、これまでのPD-1 / PD-L1阻害薬の単剤療法による奏効率と比較して有望なことが、スペイン・マドリードで開催された欧州臨床腫瘍学会(ESMO 2017)で報告された。 2017年9月9日、オランダがん研究所(アムステルダム)のMarleen Kok氏は、TONIC試験から得られた知見について発表し、「転移性TNBC患者の任意抽出のコホートに対する以前の研究で、PD-1 / PD-L1阻害薬の単剤療法が持続性のある応答をもたらしうることは明らかになっていたが、奏功率は約5~10%と比較的低いものだった。本試験は、TNBCに対し放射線照射または化学療法にて腫瘍微小環境を調整後のニボルマブ治療が実行可能であることを示す最初の試験であり、抗PD-(L)1抗体に対してより感受性の高い状態に腫瘍微小環境を調整する戦略を明らかにすることは、臨床的に必要性の高い課題である」と述べた。 TONIC試験は、アダプティブデザインの第Ⅱ相無作為化非比較試験(Eudract number:2015-001969-49)。3ライン以下の緩和化学療法を受けた転移性TNBCの患者が、2週間、以下の5つの導入療法群に割り付けられた;(1)1つの転移巣に対し放射線量8Gyを3サイクル照射する群、(2)ドキソルビシン15mg/週を2サイクル投与する群、(3)シクロホスファミド50mg/日を経口投与する群、(4)シスプラチン40mg/m2を2サイクル投与する群、(5)導入療法を行わない群。2週間の導入療法後、iRECISTおよびRECIST v1.1評価に基づく進行が認められるまで、すべての患者が3mg / kgのニボルマブ治療を受けた。 治療群への組み入れは、生検検体(導入療法前および導入療法後)を有する評価可能な50例が登録するまで続けられ(段階1)、“pick the winner”のコンセプト(Simonの2段階デザイン)により、段階2で終了した。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間の中央値10.8ヵ月(範囲1~15.7ヵ月)で、50例について評価可能となった。・患者の20%が前治療歴なし、52%が1ライン、28%が2 ライン以上の前治療を受けていた。・RECIST v1.1に基づくコホート全体に対するニボルマブの客観的奏功率(ORR)は22%、iRECISTでは24%であり、完全奏功(CR)1例(2%)、部分奏功(PR)11例(22%)であった。・さらに、1例(2%)で24週間以上持続した安定(SD)が達成され、その結果、26%の臨床的有用率(CBR = CR + PR + SD> 24週間)が得られた。・奏功した患者では、奏功期間の中央値は9ヵ月(95%信頼区間:5.5~NA)であった。・予備解析の結果、ドキソルビシンまたはシスプラチンによる導入療法後の奏功率が高い可能性が示唆された。・腫瘍生検で高値の白血球浸潤およびCD8 陽性T細胞を有する患者でより奏効率が高い可能性があることが、研究者らにより観察された。 ESMO 2017の発表でディスカッサントを務めたミラノ大学のGiuseppe Curigliano氏は、「本試験は併用療法について探る非常に革新的な試験で、放射線療法や化学療法による免疫系のプライミング(準備刺激)効果に関するデータや、Tumor infiltrating lymphocytes(TILs)の定量的・定性的評価に関するデータを提供している」と述べ、「本試験の限界は、導入療法への曝露前後での遺伝子変異量(mutational burden)やTILsについてのデータ、ER陽性やHER2陽性といった他の有用な患者群が含まれていないことである」と指摘した。■参考ESMO 2017プレスリリース

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多くのがん種で開発中、ペムブロリズマブの最新トピックス

 2017年7月4日、MSD株式会社はメディアラウンドテーブルを開催し、同社グローバル研究開発本部オンコロジーサイエンスユニット統括部長の嶋本 隆司氏が、ASCO2017の発表データを中心にキイトルーダ(一般名:ペムブロリズマブ)の最新トピックスを解説するとともに、併用療法を含めた今後の開発戦略について語った。 本邦において、ペムブロリズマブは2016年に「根治切除不能な悪性黒色腫」および「PD-L1陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん」に対する適応を取得。2015年に「治癒切除不能な進行・再発の胃がん」に対して「先駆け審査指定品目」の指定を受けているほか、現在は「再発または難治性の古典的ホジキンリンパ腫」および「局所進行性または転移性の尿路上皮がん(優先審査対象)」が承認申請中、13がん種以上で後期臨床開発プログラムが進んでいる。米国でNSCLCは適応拡大、尿路上皮がんとMSI-H/dMMR固形がんで承認取得 ASCO2017では、ペムブロリズマブについて16のがん種に対する50以上のデータが発表された。肺がん領域は、欧州臨床腫瘍学会(ESMO 2016)の続報が中心となった。初回治療でEGFRまたはALK変異がなく、かつPD-L1発現不問の進行非扁平上皮非小細胞肺がん(NSCLC)患者を対象に、化学療法との併用を評価したKEYNOTE-021試験(コホートG)では、統計学的な有意差は得られなかったものの、長期フォローアップで全生存期間(OS)の延長傾向が示された。米国ではすでにPD-L1発現を問わず、化学療法との併用でNSCLCの1次治療に適応が拡大され、現在、日本も参加して第III相試験(KEYNOTE-189試験)を実施中という。 米国で2017年5月に相次いで承認された、尿路上皮がん(1次治療、2次治療)、高度マイクロサテライト不安定(MSI-H)またはミスマッチ修復欠損(dMMR)を示す進行固形がんに対する試験結果も発表された。がん種によらない、バイオマーカーに対する初の薬剤承認として注目されたMSI-H/dMMR固形がん患者に対する単剤療法を評価した試験としては、1レジメン以上の治療歴のある大腸がん以外の進行固形がん患者対象のKEYNOTE-158試験、2レジメン以上の治療歴のある進行大腸がん患者対象のKEYNOTE-164試験の結果が発表され、それぞれ全奏効率(ORR)が38%(29/77例)、28%(17/61例)、病勢コントロール率が58%(45/77例)、51%(31/61例)という結果が得られている。進行胃がん、トリプルネガティブ乳がんでも有望な結果 2ライン以上の治療歴のある進行胃がん患者(259例)を対象に単剤療法を評価したKEYNOTE-059試験(コホート1)では、42.4%の患者で何らかの腫瘍縮小効果がみられ、ORRは11.6%であった。この結果を基に、米国では優先審査の対象に指定され承認審査が進んでいる。嶋本氏は「ORRだけをみると目を見張るような結果ではないが、治療の選択肢がすでに非常に限られた対象であること、多くの患者で腫瘍縮小効果がみられたことが評価され、優先審査につながったと考えている」と話した。 また、トリプルネガティブ乳がん患者を対象に、術前化学療法との併用を評価したKEYNOTE-173試験では、病理学的完全奏効率(pCR)がコホートA(ペムブロリズマブ+パクリタキセル→ペムブロリズマブ+ドキソルビシン/シクロホスファミド[AC])で50~60%、コホートB(ペムブロリズマブ+パクリタキセル+カルボプラチン→ペムブロリズマブ+AC)で80%という結果が得られた。「従来の術前化学療法のpCRは20~30%であることから、ペムブロリズマブの乳がんに対する効果を示す有望な予備データといえる」と嶋本氏。同じく術前化学療法との併用を評価したI-SPY2試験では、トリプルネガティブ乳がん患者において、ペムブロリズマブ群(ペムブロリズマブ+パクリタキセル→AC)の推定pCRがコントロール群(パクリタキセル→AC)の3倍となるという結果が得られている。この結果を受け、現在、日本も参加して第III相試験が進行中という。IDO阻害薬との併用、単剤よりも高い奏効率 IDO(indoleamine 2,3-dioxygenase)阻害薬epacadostatとの併用を評価したECHO-202試験の結果も発表されている。本試験は複数のがん種に対して行われているが、そのうちNSCLC、転移性または再発性の扁平上皮頭頸部がん(SCCHN)、進行性尿路上皮膀胱がん(UC)、進行性腎細胞がん(RCC)の結果が紹介された。NSCLCでORRが35%(14/40例)、SCCHNで34%(13/38例)、UCで35%(14/40例)、RCCで33%(10/30例)と、いずれもペムブロリズマブ単剤よりも高い奏効率が得られている。日本人を含む第III相試験が進行中または準備を進めている段階で、早期の承認取得を目指すという。安全性については、本試験の安全性解析対象集団である進行がん患者294例を対象としたプール解析の結果、Grade 3以上の有害事象は患者の18%に認められ、最も高頻度のものはリパーゼ上昇(無症候性)4%、次いで発疹3%であった。この結果について嶋本氏は、「単剤と比較して大きく毒性が増すものではないとみられる」と話した。 IDO阻害薬のほか、化学療法や分子標的治療薬、新規ワクチンなどとの併用療法について、現在300以上の臨床試験が進行中だという。嶋本氏は、「がん種ごと、さらには肺がんのように多様性のあるがん種では患者背景ごとにアプローチしていくことも視野に入れて、ペムブロリズマブを核に、それぞれ適切な併用薬を検証していく」と結んだ。■関連記事ペムブロリズマブ、尿路上皮がんの優先審査対象に指定:MSDNSCLC1次治療におけるペムブロリズマブ+化学療法の追跡結果/ASCO2017尿路上皮がんにペムブロリズマブを承認:FDAペムブロリズマブ、臓器横断的ながんの適応取得:FDA進行胃がん、ペムブロリズマブの治療効果は?KEYNOTE-059/ASCO2017早期乳がんにおける免疫療法の役割の可能性

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サルコイドーシス〔sarcoidosis〕

1 疾患概要■ 概念・定義サルコイドーシスは、1877年にイギリスの内科医Jonathan Hutchinsonが皮膚病変として初めて報告した疾患である。全身の臓器に非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を形成する原因不明の多臓器疾患であり、両側肺門リンパ節、肺、 眼、皮膚の罹患頻度が高く、神経、筋、心臓、腎、骨、消化器などの臓器も罹患する。免疫学的には、CD4陽性T細胞/CD8陽性T細胞比の増加(Th-1型反応)がみられ、皮膚の遅延型過敏反応が抑制されている。無症状の肺門リンパ節腫脹例などは自然治癒することが多いが、肺外多臓器病変を伴うときは、肺や他臓器に進行性の線維化を認めることがある。■ 疫学サルコイドーシスは世界中でみられ、両性、全人種、全年齢層で起こりうるが、地域差があり、これは遺伝的な要因や環境因子の違いによるものと考えられている。海外と比較すると、わが国においては、サルコイドーシスの有病率、罹患率ともに低く、西欧諸国と比較し重症になりにくい。わが国でのピークは男性で20~34歳であり、女性では25~39歳と50~60代と2峰性を示す。20歳以下または80歳以上のサルコイドーシス患者はまれであり、それぞれ割合は0.9%、0.4%と報告されている。全国調査では、北部、とくに北海道に多く、南部の四国、九州には少ない傾向がある。■ 病因サルコイドーシスの原因は不明だが、遺伝的に感受性のある宿主が特定の環境因子に曝露されて起こると考えられている。環境因子としては、これまでも抗酸菌をはじめとする、いくつかの感染性微生物がサルコイドーシスを起こす可能性のある原因として考えられてきた。とくに最近では、Propionibacterium acnes(P. acnes)が、サルコイドーシス患者の肉芽腫形成を惹起する可能性の1つとして考えられている。■ 症状・分類霧視・羞明・飛蚊・視力低下などの眼症状で発見される場合がもっとも多く、次いで皮疹、咳、全身倦怠感が多い。発熱、疲労感、倦怠感、体重減少などの非特異的な身体症状はサルコイドーシス患者の3分の1でみられ、各種臓器病変に関連しさまざまな症状を呈する。サルコイドーシスの肉芽腫は、すべての臓器に形成される可能性があるが、90%以上の患者で呼吸器病変、眼病変、皮膚病変のいずれかを認める。とくに呼吸器病変は、日本人では胸郭内病変が86%の患者で認められ、もっとも頻度が高く、胸部単純X線における両側肺門リンパ節腫脹は、もっとも診断的価値が高い。また、日本人では眼病変(54.8%)、心病変(23%)が海外の報告よりも多いのに対し、結節性紅斑の合併は6.2%と低い。■ 予後サルコイドーシスの臨床所見、自然経過、および予後はきわめて多様であり、自然経過・治療に対する反応のいずれにおいても、増悪したり改善したりする傾向がある。自然寛解は3分の2に近い症例でみられるが、10~30%の症例で慢性ないし進行性の経過をとる。胸部X線所見は臨床経過と関連しており、StageI、II(両側肺門リンパ節腫脹±肺野陰影)では80~90%で自然寛解するのに対し、StageIII、IV(肺野陰影のみ、または肺線維化)は予後不良と報告されている。西欧諸国では進行性の肺病変が死因としてもっとも多いが、日本人のサルコイドーシス患者の死因としてもっとも多いのは、心病変であり、主に心不全や不整脈である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)サルコイドーシスは、臨床・画像所見がサルコイドーシスに合致し、組織学的に非乾酪性類上皮細胞肉芽腫が証明され、他の類似疾患が除外されることで診断される。2015年に日本サルコイドーシス/肉芽腫性疾患学会と厚生労働省のびまん性肺疾患に関する調査研究班とが合同でこれまでの診断基準を刷新した。「サルコイドーシスの診断基準と診断の手引き-2015」として、広く臨床で使用されている。【組織診断群】全身のいずれかの臓器で壊死を伴わない類上皮細胞肉芽腫が陽性であり、かつ、既知の原因の肉芽腫および局所サルコイド反応を除外できているもの。ただし、特徴的な検査所見および全身の臓器病変を十分検討することが必要である。【臨床診断群】類上皮細胞肉芽腫病変は証明されていないが、 呼吸器、眼、心臓の3臓器中の2臓器以上において本症を強く示唆する臨床所見を認め、かつ、特徴的検査所見の5項目中2項目以上が陽性のもの。●特徴的な検査所見1)両側肺門リンパ節腫脹2)血清アンジオテンシン変換酵素(ACE)活性高値または血清リゾチーム値高値3)血清可溶性インターロイキン-2容体(sIL-2R)高値4)Gallium-67 citrateシンチグラムまたはfluorine-18 fluorodeoxygluose PETにおける著明な集積所見5)気管支肺胞洗浄検査でリンパ球比率上昇、CD4/CD8比が3.5を超える上昇※特徴的な検査所見5項目中2項目以上陽性の場合に陽性とする。サルコイドーシスに関連した臓器病変の特徴と除外疾患についても診断の手引きとして示されているが、呼吸器病変では両側肺門リンパ節腫脹、眼病変では前部ぶどう膜炎(豚脂様角膜後面沈着物、虹彩結節)、硝子体病変、心病変では高度房室ブロック、心室中隔基部の菲薄化、左室収縮不全などが各臓器病変を強く示唆する所見である。皮膚病変や表在リンパ節腫脹のない例においては、経気管支肺生検での組織診断が推奨されているが、最近は縦隔リンパ節に対する超音波気管支鏡ガイド下針生検により診断率が上昇することが報告されている。FDG-PET/CTでは、サルコイドーシス病変の広がりを評価することが可能であり、空腹時PET/CTは心病変の診断に有用であると報告されている。また、病理組織診断において、前述したP. acnesに対する特異的なモノクローナル抗体を用いた免疫組織染色が診断に有用であるとも報告されている。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)胸部単純X線分類によるStageI~IIの軽症例では、自然治癒する可能性が高いため全身ステロイドによる治療の必要はない。一般的に、全身ステロイドの治療適応は、胸部単純X線所見分類によるStageIII~IVの重症例や、心病変、局所治療抵抗性の眼病変、神経病変、高Ca血症などであるが、投与後の長期予後の検討はあまり行われていない。ステロイド抵抗性の症例には、メトトレキサート、アザチオプリン、シクロホスファミドなども使用される。また、サルコイドーシスはP. acnesをはじめとするさまざまな感染性微生物との関連が示唆されており、テトラサイクリン、ミノサイクリン、ドキシサイクリン、クラリスロマイシンなどが有効であった例も報告されている。4 今後の展望サルコイドーシスの発症機序は、いまだ解明されておらず根治治療は開発されていない。原因解明、予後不良因子のリスク評価、進行予防や重症例への有効な治療法の開発、国際的な診断基準の統一などが、今後のサルコイドーシス診療の課題である。5 主たる診療科呼吸器内科、循環器内科、眼科、皮膚科、神経内科 など※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター サルコイドーシス(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本サルコイドーシス/肉芽腫性疾患学会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報サルコイドーシス友の会(患者とその家族向けのまとまった情報)公開履歴初回2015年06月09日更新2017年05月02日

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自己免疫性溶血性貧血〔AIHA: autoimmune hemolytic anemia〕

1 疾患概要■ 概念・定義自己免疫性溶血性貧血(autoimmune hemolytic anemia:AIHA)は、赤血球膜上の抗原と反応する自己抗体が産生され、抗原抗体反応の結果、赤血球が傷害を受け、赤血球の寿命が著しく短縮(溶血)し、貧血を来す。AIHAは、自己抗体の性状によって温式抗体によるものと、冷式抗体によるものに2大別される。温式抗体(warm-type autoantibody)による病型を単に自己免疫性溶血性貧血(AIHA)と呼ぶことが多い。冷式抗体(cold-type autoantibody)による病型には、寒冷凝集素症(cold agglutinin disease:CAD)と発作性寒冷ヘモグロビン尿症(paroxysmal cold hemoglobinuria:PCH)とがある。温式抗体は体温付近で最大活性を示し、原則としてIgG抗体である。一方、冷式抗体は体温以下の低温で反応し、通常4℃で最大活性を示す。IgM寒冷凝集素とIgG二相性溶血素(Donath-Landsteiner抗体)が代表的である。時に温式抗体と冷式抗体の両者が検出されることがあり、混合型(mixed type)と呼ばれる。■ 疫学AIHAの推定患者数は100万人対3~10人、年間発症率は100万人対1~5人で、病型別比率は、温式AIHA90.4%、CAD7.7% 、PCH1.9%とされている。温式AIHAの特発性/続発性は、ほぼ同数に近いと考えられる。特発性温式AIHAは、小児期のピークを除いて二峰性に分布し、若年層(10~30歳で女性が優位)と老年層(50歳以後に増加し70代がピークで性差はない)に多くみられる。全体での男女比は1~2:3で女性にやや多い。CADのうち慢性特発性は40歳以後にほぼ限られ男性に目立つが、続発性は小児ないし若年成人に多い。PCHは、現在そのほとんどは小児期に限ってみられる。■ 病因自己抗体の出現機序として次のように整理されている。1)免疫応答機構は正常だが患者赤血球の抗原が変化して、異物ないし非自己と認識される。2)赤血球抗原に変化はないが、侵入微生物に対して産生された抗体が正常赤血球抗原と交差反応する。3)赤血球抗原に変化はないが、免疫系に内在する異常のために免疫的寛容が破綻する。4)すでに自己抗体産生を決定付けられている細胞が、単または多クローン性に増殖または活性化され、自己抗体が産生される。■ 症状1)温式AIHA臨床像は多様性に富み、発症の仕方も急激から潜行性まで幅広い。とくに急激発症では発熱、全身衰弱、心不全、呼吸困難、意識障害を伴うことがあり、ヘモグロビン尿や乏尿も受診理由となる。急激発症は小児や若年者に多く、高齢者では潜行性が多くなるが例外も多い。受診時の貧血は高度が多く、症状の強さには貧血の進行速度、心肺機能、基礎疾患などが関連する。黄疸もほぼ必発だが、肉眼的には比較的目立たない。特発性でのリンパ節腫大はまれである。脾腫の触知率は32~48%で、サイズも1~2横指程度が多い。温式AIHAの5~10%程度に直接クームス試験が陰性のものがあり、クームス陰性AIHAと呼ばれる。クームス試験が陽性にならない程度のIgG自己抗体が赤血球に結合しており、診断には赤血球結合IgG定量が有用である。クームス陽性AIHAと同様にステロイド反応性は良好である。特発性血小板減少性紫斑病(ITP)を合併する場合をエヴァンス症候群と呼び、特発性AIHAの10~20%程度を占める。2)寒冷凝集素症(CAD)臨床症状は溶血と末梢循環障害によるものからなる。感染に続発するCAD は、比較的急激に発症し、ヘモグロビン尿を伴い貧血も高度となることが多い。マイコプラズマ感染では、発症から2~3週後の肺炎の回復期に溶血症状を来す。血中には抗マイコプラズマ抗体が出現し、寒冷凝集素価が上昇する時期に一致する。溶血は2~3週で自己限定的に消退する。EBウイルス感染に伴う場合は症状の出現から1~3週後にみられ、溶血の持続は1ヵ月以内である。特発性慢性CADの発症は潜行性が多く慢性溶血が持続するが、寒冷曝露による溶血発作を認めることもある。循環障害の症状として、四肢末端・鼻尖・耳介のチアノーゼ、感覚異常、レイノー現象などがみられる。これは皮膚微小血管内でのスラッジングによる。クリオグロブリンによることもある。皮膚の網状皮斑を認めるが、下腿潰瘍はまれである。脾腫はあっても軽度である。3)発作性寒冷ヘモグロビン尿症(PCH)現在ではわずかに小児の感染後性と成人の特発性病型が残っている。以前よくみられた梅毒性の定型例では、寒冷曝露が溶血発作の誘因となり、発作性反復性の血管内溶血とヘモグロビン尿を来す。寒冷曝露から数分~数時間後に、背部痛、四肢痛、腹痛、頭痛、嘔吐、下痢、倦怠感に次いで、悪寒と発熱をみる。はじめの尿は赤色ないしポートワイン色調を示し、数時間続く。遅れて黄疸が出現する。肝脾腫はあっても軽度である。このような定型的臨床像は非梅毒性では少ない。急性ウイルス感染後の小児PCHは5歳以下に多く、男児に優位で、季節性、集簇性を認めることがある。発症が急激で溶血は激しく、腹痛、四肢痛、悪寒戦慄、ショック状態や心不全を来したり、ヘモグロビン尿に伴って急性腎不全を来すこともある。発作性・反復性がなく、寒冷曝露との関連も希薄で、ヘモグロビン尿も必発とはいえない。成人の慢性特発性病型はきわめてまれである。気温の変動とともに消長する血管内溶血が長期間にわたってみられる。■ 分類AIHAは臨床的な観点から、有意な基礎疾患ないし随伴疾患があるか否かによって、続発性(2次性)と特発性(1次性、原発性)に、また臨床経過によって急性と慢性とに区分される。基礎疾患としては全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ(RA)などの自己免疫疾患とリンパ免疫系疾患が代表的である。マイコプラズマや特定のウイルス感染の場合、卵巣腫瘍や一部の潰瘍性大腸炎に続発する場合などでは、基礎疾患の治癒や病変の切除とともにAIHAも消退し、臨床的な因果関係が認められる。 ■ 予後温式AIHAで基礎疾患のない特発例では、治療により1.5年までに40%の症例でクームス試験の陰性化がみられる。特発性AIHAの生命予後は5年で約80%、10年で約70%の生存率であるが、高齢者では予後不良である。続発性の予後は基礎疾患によって異なり、リンパ系疾患に比べてSLEなどの自己免疫性疾患に続発する場合のほうが良好である。CADは感染後2~3週の経過で消退し、再燃しない。リンパ増殖性疾患に続発するものは基礎疾患によって予後は異なるが、この場合でも溶血が管理の中心となることは少ない。小児の感染後性のPCH は発症から数日ないし数週で消退する。強い溶血による障害や腎不全を克服すれば一般に予後は良好であり、慢性化や再燃をみることはない。梅毒に伴う場合の多くは、駆梅療法によって溶血の軽減や消退をみる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)(図1 AIHAの診断フローチャート)最初に溶血性貧血としての一般的基準を満たすことを確認し、次いで疾患特異的な検査によって病型を確定する。溶血性貧血の診断基準と自己免疫性溶血性貧血の診断基準を表1と表2に示す。画像を拡大する血液検査や臨床症状から溶血性貧血を疑った場合は、直接クームス試験を行い、陽性の場合は特異的クームス試験で赤血球上のIgG と補体成分を確認する。補体のみ陽性の場合は、寒冷凝集素症(CAD)や発作性寒冷ヘモグロビン尿症(PCH)の鑑別のため、寒冷凝集素価測定とDonath-Landsteiner(DL)試験を行う。寒冷凝集素は、凝集価が1,000 倍以上、または1,000 倍未満でも30℃以上で凝集活性がある場合には病的意義があるとされる。スクリーニング検査として、患者血清(37~40℃下で分離)と生食に懸濁したO型赤血球を混和し、室温(20℃)に30~60分程度放置後、凝集を観察する。凝集が認められない場合は病的意義のない寒冷凝集素と考えられる。凝集がみられた場合には、さらに温度作動域の検討を行う。凝集素価が低値でもアルブミン法などで30℃以上での凝集が認められる場合は低力価寒冷凝集素症とする。DL 抗体の検出は、現在外注で依頼できる検査機関がないことから、自前の検査室で行う必要がある。直接クームス試験が陰性であったり、特異的クームス試験で補体のみ陽性の場合でも、症状などから温式AIHA が疑われる場合やほかの溶血性貧血が否定された場合は、赤血球結合IgG 定量を行うとクームス陰性AIHA と診断できることがある。温式AIHAと寒冷凝集素症が合併している場合は、混合型AIHA の診断となる。表1 溶血性貧血の診断基準(厚生労働省 特発性造血障害に関する調査研究班[平成16年度改訂])1)1)臨床所見として、通常、貧血と黄疸を認め、しばしば脾腫を触知する。ヘモグロビン尿や胆石を伴うことがある。2)以下の検査所見がみられる。(1)へモグロビン濃度低下(2)網赤血球増加(3)血清間接ビリルビン値上昇(4)尿中・便中ウロビリン体増加(5)血清ハプトグロビン値低下(6)骨髄赤芽球増加3)貧血と黄疸を伴うが、溶血を主因としない他の疾患(巨赤芽球性貧血、骨髄異形成症候群、赤白血病、congenital dyserythropoietic anemia、肝胆道疾患、体質性黄疸など)を除外する。4)1)、2)によって溶血性貧血を疑い、3)によって他疾患を除外し、診断の確実性を増す。しかし、溶血性貧血の診断だけでは不十分であり、特異性の高い検査によって病型を確定する。表2 自己免疫性溶血性貧血(AIHA)の診断基準(厚生労働省 特発性造血障害に関する調査研究班[平成16年度改訂])1)1)溶血性貧血の診断基準を満たす。2)広スペクトル抗血清による直接クームス試験が陽性である。3)同種免疫性溶血性貧血(不適合輸血、新生児溶血性疾患)および薬剤起因性免疫性溶血性貧血を除外する。4)1)~3)によって診断するが、さらに抗赤血球自己抗体の反応至適温度によって、温式(37℃)の(1)と、冷式(4℃)の(2)および(3)に区分する。(1)温式自己免疫性溶血性貧血臨床像は症例差が大きい。特異抗血清による直接クームス試験でIgGのみ、またはIgGと補体成分が検出されるのが原則であるが、抗補体または広スペクトル抗血清でのみ陽性のこともある。診断は(2)、(3)の除外によってもよい。(2)寒冷凝集素症(CAD)血清中に寒冷凝集素価の上昇があり、寒冷曝露による溶血の悪化や慢性溶血がみられる。直接クームス試験では補体成分が検出される。(3)発作性寒冷ヘモグロビン尿症(PCH)ヘモグロビン尿を特徴とし、血清中に二相性溶血素(Donath-Landsteiner抗体)が検出される。5)以下によって経過分類と病因分類を行う。急性推定発病または診断から6ヵ月までに治癒する。慢性推定発病または診断から6ヵ月以上遷延する。特発性基礎疾患を認めない。続発性先行または随伴する基礎疾患を認める。6)参考(1)診断には赤血球の形態所見(球状赤血球、赤血球凝集など)も参考になる。(2)温式AIHAでは、常用法による直接クームス試験が陰性のことがある(クームス陰性AIHA)。この場合、患者赤血球結合IgGの定量が有用である。(3)特発性温式AIHAに特発性血小板減少性紫斑病(ITP)が合併することがある(エヴァンス症候群)。また、寒冷凝集素価の上昇を伴う混合型もみられる。(4)寒冷凝集素症での溶血は寒冷凝集素価と平行するとは限らず、低力価でも溶血症状を示すことがある(低力価寒冷凝集素症)。(5)自己抗体の性状の判定には抗体遊出法などを行う。(6)基礎疾患には自己免疫疾患、リウマチ性疾患、リンパ増殖性疾患、免疫不全症、腫瘍、感染症(マイコプラズマ、ウイルス)などが含まれる。特発性で経過中にこれらの疾患が顕性化することがある。(7)薬剤起因性免疫性溶血性貧血でも広スペクトル抗血清による直接クームス試験が陽性となるので留意する。診断には臨床経過、薬剤中止の影響、薬剤特異性抗体の検出などが参考になる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 温式AIHAの治療(図2 特発性温式AIHAの治療フローチャート)画像を拡大する特発性の温式AIHAの治療では、副腎皮質ステロイド薬、摘脾術、免疫抑制薬が三本柱であり、そのうち副腎皮質ステロイド薬が第1選択である。特発性の80~90%はステロイド薬単独で管理が可能と考えられる。1)急性期:初期治療(寛解導入療法)ステロイド薬使用に対する重大な禁忌条件がなければ、プレドニゾロン換算で1.0mg/kgの大量(標準量)を連日経口投与する。高齢者や随伴疾患があるときは、減量投与が勧められる。約40%は4週までに血液学的寛解状態に達する。AIHAでは輸血はけっして安易に行わず、できる限り避けるべきとするのが一般的であるが、薬物治療が効果を発揮するまでの救命的な輸血は、機を失することなく行う必要がある。その場合、生命維持に必要なヘモグロビン濃度の維持を目標に行う。安全な輸血のため、輸血用血液の選択についてあらかじめ輸血部門と緊密な連携を取ることが勧められる。2)慢性期:ステロイド減量期ステロイド薬の減量は、状況が許すならば急がず、慎重なほうがよく、はじめの1ヵ月で初期量の約半量(中等量0.5mg/kg/日)とし、その後は溶血の安定度を確認しながら2週に5mgくらいのペースで減量し、10~15mg/日の初期維持量に入る。減量期に約5%で悪化をみるが、その際はいったん中等量(0.5mg/kg/日)まで増量する。3)寛解期:維持療法・治療中止時期ステロイド薬を初期維持量まで減量したら、網赤血球とクームス試験の推移をみて、ゆっくりとさらに減量を試み、平均5mg/日など最少維持量とする。直接クームス試験が陰性化し、数ヵ月以上経過しても再陽性化や溶血の再燃がみられず安定しているなら、維持療法をいったん中止して追跡することも可能となる。4)増悪期:再燃時、ステロイド不応例維持療法中に増悪傾向が明らかならば、早めに中等量まで増量し、寛解を得た後、再度減量する。ステロイド薬の維持量が15mg/日以上の場合、また副作用・合併症の出現があったり、悪化を繰り返すときは、2次・3次選択である摘脾や免疫抑制薬、抗体製剤の採用を積極的に考える。ステロイドによる初期治療に不応な場合は、まず悪性腫瘍などからの続発性AIHAの可能性を検索する。基礎疾患が認められない場合は、特発性温式AIHAとして複数の治療法が考慮されるが、優先順位や適応条件についての明確な基準はなく、患者の個別の状況により選択され、いずれの治療法もAIHAへの保険適用はない。唯一、摘脾とリツキシマブについては短期の有効性が実証されており、摘脾が標準的な2次治療として推奨されている。(1)摘脾脾臓は感作赤血球を処理する主要な臓器であり、自己抗体産生臓器でもある。わが国では特発性AIHAの約15%(欧米では25~57%)で摘脾が行われており、短期の有効性は約60%と高い。ステロイド投与が不要となる症例や20%程度に治癒症例もみられることから、ステロイド不応性AIHAの2次治療として推奨されている。(2)リツキシマブステロイド不応性温式AIHAに対する新たな治療法として注目されている。短期の有効性について多くの報告はあるが、まだ保険適用ではない。標準的治療としては375mg/m2を1週間おきに4回投与する。80%の有効率が報告されている。安全性に関しても大きな問題はない。短期間のステロイド投与を併用した低用量のリツキシマブ(100mg、4週ごと投与)も試みられている。(3)免疫抑制薬ステロイドに次ぐ薬物療法の2次選択として、シクロホスファミドやアザチオプリンなどが用いられる。主な作用は抗体産生抑制で、有効率は35~40%で、ステロイド薬の減量効果が主である。免疫抑制、催奇形性、発がん性、不妊症など副作用に注意が必要であり、有効であったとしても数ヵ月以上の長期投与は避ける。■ 冷式AIHAの治療保温が最も基本的である。室温、着衣、寝具などに十分な注意を払い、身体部分の露出や冷却を避ける。輸血や輸液の際の温度管理も問題となる。CADに対する副腎皮質ステロイド薬の有効性は温式AIHAに比しはるかに劣るが、激しい溶血の時期には短期間用いて有効とされることが多い。貧血が高度であれば、赤血球輸血も止むを得ないが、補体(C3d)を結合した患者赤血球が溶血に抵抗性となっているのに対し、輸注する赤血球はむしろ溶血しやすい点に留意する。摘脾は通常適応とはならない。リンパ腫に伴うときは、原疾患の化学療法が有効である。マイコプラズマ肺炎に伴うCADでは適切な抗菌薬を投与するが、溶血そのものに対する効果とは別であり、経過が自己限定的なので、保存療法によって自然経過を待つのが原則である。特発性慢性CADの治療として、リツキシマブ単独療法やリツキシマブ+フルダラビン併用療法が報告されている。■ PCHの治療小児で急性発症するPCHは、寒冷曝露との関連が明らかではないが、保温の必要性は同様である。急性溶血期を十分な支持療法で切り抜ける。溶血の抑制に副腎皮質ステロイド薬が用いられ、有効性は高い。小児PCHでは、摘脾を積極的に考慮する状況は少ない。貧血の進行が急速なら赤血球輸血も必要となるが、DL抗体はP特異性を示すことが多く、供血者赤血球は大多数がP陽性なので、溶血の悪化を招く恐れもある。急性腎不全では血液透析も必要となる。4 今後の展望AIHAの治療では、リツキシマブが登場したことで、ステロイド不応例などでの治療選択の幅が広がった。今後、自己抗原反応性T細胞などを対象にした疾患特異的な治療法の開発が期待される。5 主たる診療科血液内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報特発性造血障害に関する調査研究班(医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 自己免疫性溶血性貧血(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)改訂版作成のためのワーキンググループ(厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業特発性造血障害に関する調査研究). 自己免疫性溶血性貧血 診療の参照ガイド(平成26年度改訂版). 特発性造血障害に関する調査研究班.(参照2015.4.17)2)改訂版作成のためのワーキンググループ(厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業特発性造血障害に関する調査研究). 自己免疫性溶血性貧血 診療の参照ガイド(平成28年度改訂版). 特発性造血障害に関する調査研究班. (参照2017)公開履歴初回2015年05月26日更新2017年04月04日

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小児がんサバイバー、放射線治療減少で新生物リスク低下/JAMA

 1990年代に診断を受けた小児がんサバイバーの初回診断後15年時の悪性腫瘍のリスクは、上昇してはいるものの、1970年代に診断されたサバイバーに比べると低くなっており、その主な要因は放射線治療の照射線量の減少であることが、米国・ミネソタ大学のLucie M Turcotte氏らの調査で明らかとなった。同氏らは、「現在も続けられている長期の治療毒性の軽減に向けた取り組みが、サバイバーの新生物罹患リスクの低減をもたらしている」と指摘する。JAMA誌2017年2月28日号掲載の報告。2万3,603例を治療年代別に後ろ向きに検討 研究グループは、小児がんサバイバーにおいて、時代による治療量の変化と新生物のリスクの関連を定量的に評価するレトロスペクティブな多施設共同コホート研究を行った(米国国立先進トランスレーショナル科学センターなどの助成による)。 対象は、1970~99年に米国およびカナダの小児病院で診断を受けた21歳未満の小児がん患者で、5年以上生存し、2015年12月にフォローアップが可能であった者とした。治療年代別の新生物の15年累積罹患率、累積疾病負担、悪性腫瘍の標準化罹患比(SIR:実測罹患数/期待罹患数)、5年ごとの相対罹患率(RR)の評価を行った。 2万3,603例が解析の対象となった。治療時期は1970年代(1970~79年)が6,223例、1980年代(1980~89年)が9,430例、1990年代(1990~99年)は7,950例であった。悪性腫瘍累積罹患率:2.1%→1.7%→1.3% 初回診断時の平均年齢は7.7(SD 6.0)歳、女児が46.3%であった。初回診断名は、急性リンパ芽球性白血病(35.1%)が最も多く、次いでホジキンリンパ腫(11.1%)、星状細胞腫(9.6%)、ウィルムス腫瘍(8.0%)、非ホジキンリンパ腫(7.2%)、神経芽細胞腫(6.8%)の順であった。 治療年代別の平均フォローアップ期間は、70年代が27.6年、80年代が21.1年、90年代は15.7年であった。全体の平均フォローアップ期間20.5年(37万4,638人年)の間に、1,639例が3,115個の新生物を発症し、そのうち1,026個が悪性腫瘍、233個が良性髄膜腫、1,856個が非黒色腫皮膚がんであった。最も頻度の高い悪性腫瘍は、乳がんおよび甲状腺がんであった。 放射線治療の施行率は、70年代の77%から90年代には33%まで低下し、照射線量中央値は70年代の30Gy(IQR:24~44)から90年代には26Gy(IQR:18~52)まで減少した。また、アルキル化薬やアンスラサイクリン系薬の使用率は経時的に上昇したが、用量中央値は減少した。プラチナ製剤の使用率は増加したが、エピポドフィロキシンは80年代には累積用量中央値が増加したが、90年代には減少した。 新生物の累積罹患率は、70年代が2.9%、80年代が2.4%、90年代は1.5%と、経時的に有意に低下した(70 vs.80年代:p=0.02、70 vs.90年代:p<0.001、80 vs.90年代:p<0.001)。サバイバー100例当たりの累積疾病負担は、70年代が3.6、80年代が2.8、90年代は1.7であり、やはり経時的に有意に軽減した(同p=0.02、p<0.001、p=0.001)。 悪性腫瘍の累積罹患率は、90年代が1.3%と、80年代の1.7%(p<0.001)、70年代の2.1%(p<0.001)に比し有意に低かった。同様の傾向が、非黒色腫皮膚がんにもみられたが、髄膜腫には認めなかった。 基準となる背景因子(化学療法非施行、脾臓摘出術、放射線治療、男性、28歳)のサバイバーにおける1,000人年当たりの絶対罹患率は、悪性腫瘍が1.12、髄膜腫が0.16、非黒色腫皮膚がんは1.71であった。 悪性腫瘍のSIRは、到達年齢が上がるにしたがって3つの治療年代とも低下した。性、診断時年齢、到達年齢で補正した新生物のRRは、5年経過するごとに有意に低下し(RR:0.81、95%CI:0.76~0.86、p<0.001)、悪性腫瘍(0.87、0.82~0.93、p<0.001)、髄膜腫(0.85、0.75~0.97、p=0.03)、非黒色腫皮膚がん(0.75、0.67~0.84、p<0.001)のRRも有意に低くなった。 媒介分析では、放射線治療の照射線量の変化は、治療年代関連の新生物罹患率の低下の主要な寄与因子であり、経時的な新生物罹患率低下と有意な関連を示す治療変量の唯一の構成要素であった。

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2種の頭皮冷却法、乳がん化学療法の脱毛を半減/JAMA

 化学療法は、乳がんの微小転移を抑制し、再発リスクを低減して生存期間を延長するが、有害事象として、女性にとって最も大きな苦痛の1つとされる化学療法誘発性の脱毛が高頻度に発現する。対策として、頭皮冷却法の検討が進められており、2017年2月14日発行のJAMA誌に、2種のデバイスに関する米国の2つの研究論文が掲載された。2つの試験は、試験デザイン、患者選択基準、デバイスのタイプが異なるが、ほぼ同様の結果が得られており、頭皮冷却は半数以上の女性で脱毛を予防することが示された。無作為化試験の脱毛予防達成率:50.5% vs.0% 毛嚢細胞は、がん細胞と同様に増殖が活発で、化学療法への感受性が高いため、脱毛が発症するとされる。これに対し、頭皮を冷却すると頭皮下の血管が収縮し、毛嚢への血流が低下するため、化学療法薬の取り込みが減少する。また、冷却により毛嚢細胞の生化学活性も抑制されることから、化学療法薬への感受性が低下し、脱毛が抑制されると考えられる。 米国・ベイラー医科大学のJulie Nangia氏らは、術前または術後の化学療法が予定されている乳がん女性(StageI/II)を対象に、化学療法誘発性脱毛の予防における頭皮冷却デバイス(Paxman scalp cooling system)の有用性を評価する多施設共同無作為化試験を実施した(英国、Paxman Coolers社の助成による)。 2013年12月9日~2016年9月30日に、米国の7施設に182例が登録され、頭皮冷却群(119例)または頭皮冷却を行わない対照群(63例)に無作為に割り付けられた。事前に規定された中間解析時に、142例(頭皮冷却群:95例、対照群:47例)が評価可能であった。 142例の平均年齢は52.6(SD 10.1)歳で、36%(51例)がアントラサイクリン系薬ベースの化学療法、64%(91例)はタキサン系薬ベースの化学療法を受けた。StageIが40%(57例)、StageIIは60%(85例)だった。 主要評価項目である化学療法4サイクル施行後の脱毛予防(CTC-AE ver. 4の脱毛:Grade0[脱毛なし]またはGrade1[かつらを必要としない50%未満の脱毛])の達成率は、頭皮冷却群が50.5%(48/95例、95%信頼区間[CI]:40.7~60.4)と、対照群の0%(0/47例、95%CI:0~7.6)に比べ有意に良好であった(成功率の差:50.5%、95%CI:40.5~60.6)。 Fisher正確確率の片側検定はp<0.001であり、優越性の限界値(p=0.0061)を超えていたため、2016年9月26日、データ・安全性監視委員会によって試験の終了が勧告された。 ベースラインから4サイクル終了までのQOLの変化には、両群間に有意な差を認めなかった。また、頭皮冷却群で54件のデバイス関連の有害事象(頭痛、悪心、めまいなど)が報告されたが、Grade1が46件、2が8件(頭痛が7件、頭皮痛が1件)で、重篤な有害事象はみられなかった。前向き観察研究の脱毛治療成功率:66.3% vs.0% 一方、米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のHope S Rugo氏らは、頭皮冷却システム(DigniCap scalp cooling system)の脱毛予防効果を検証するプロスペクティブなコホート試験を行った(スウェーデン、Dignitana社の助成による)。 頭皮冷却は、化学療法の各サイクルの30分前に開始し、投与中および投与終了後90~120分間は頭皮を摂氏3℃(華氏37°F)に維持した。各サイクルの投与前および最終投与から数週後に、5枚の頭髪の写真(前面、後面、両側面、上面)が撮影された。脱毛は、化学療法の最終投与から4週後に、Deanスケール(0[脱毛なし]~4[75%以上の脱毛])に基づいて患者自身が評価した。 Deanスケールのスコアが0~2(50%以下の脱毛)の場合に治療成功と定義した。頭皮冷却群の50%以上が治療成功を達成し、成功率の95%信頼区間(CI)の下限値が40%以上の場合に、頭皮冷却と脱毛リスクの改善にはpositiveな関連があると判定した。Fisher正確確率検定でp<0.05の場合に、頭皮冷却群は対照群に対し統計学的に優越性があると確定することとした。 2013年8月~2014年10月に、米国の5施設に早期乳がん(StageI/II)女性122例(頭皮冷却群:106例、対照群:16例)が登録された。対照群のうち14例は、後ろ向きに年齢と化学療法レジメンをマッチさせた。 全体の平均年齢は53歳(範囲:28~77歳)、白人が77.0%で、化学療法の平均投与期間は2.3ヵ月であった。化学療法レジメンは、ドセタキセル+シクロホスファミドの3週ごと4~6サイクルが最も多く(頭皮冷却群:75.2%、対照群:62.5%)、次いでweeklyパクリタキセル12サイクル(11.9%、12.5%)であった。頭皮冷却群には、アントラサイクリン系薬の投与を受けた患者はいなかった。 脱毛50%以下(Deanスコア:0~2)の達成率は、頭皮冷却群の評価可能例が66.3%(67/101例、95%CI:56.2~75.4)と、対照群の0%(0/16例)に比べ有意に優れた(Fisher正確確率検定:p<0.001)。治療成功の67例の内訳は、Deanスコア0(脱毛なし)が5例、1(脱毛:>0~≦25%)と2(同:>25~≦50%)が31例ずつだった。 また、頭皮冷却群では、化学療法終了後1ヵ月時のEORTC乳がん特異的QOL質問票の5項目のうち3つが、対照群に比べ有意に良好であった。たとえば、「疾患や治療の結果として、身体的な魅力が低下したと感じた」と答えた患者の割合は、頭皮冷却群が27.3%と、対照群の56.3%に比べ有意に低かった(p=0.02)。 頭皮冷却群の106例のうち7例に冷却治療関連の有害事象が認められた(頭痛4例[3.8%]、そう痒1例、皮膚の痛み1例、頭部不快感1例)。症状が重度な患者はなく、中等度が1例(頭痛)であった。また、3例(2.8%)が寒気により冷却治療を中止した。有効な支持療法が治療の開始を促進する可能性 これら2つの論文のエディトリアルにおいて、米国・コロンビア大学医療センターのDawn L. Hershman氏は、「乳がん女性が化学療法を躊躇する最大の原因は脱毛であるが、この問題への厳密な取り組みは、これまでほとんど行われていない」とし、「今回の2つの研究はがん患者のQOL改善における重要な一歩であるが、Nangia氏らの検討では治療期間中のQOLに差がなく、Rugo氏らの検討では治療終了後1ヵ月のQOLが改善されたものの、サンプルサイズが小さく、観察研究である点に限界がある」と指摘している。 また、同氏は、支持療法の意義として、「患者を安心させることで、有害事象への懸念を持つ患者に、治療を開始するよう説得するのに役立つ可能性がある」とし、「将来、分子標的治療の導入で、化学療法の重篤な有害事象を回避できるようになる可能性があるが、それまでは頭皮冷却などの介入によって乳がん患者の治療関連毒性を軽減し、結果として転帰の改善が可能と考えられる」と記している。

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高安動脈炎〔TAK : Takayasu Arteritis〕

1 疾患概要■ 概念・定義高安動脈炎(Takayasu Arteritis:TAK)は、血管炎に属し、若年女性に好発し、大動脈および大動脈1次分枝に炎症性、狭窄性、または拡張性の病変を来し、全身性および局所性の炎症病態または虚血病態により諸症状を来す希少疾病である。1908年に金沢医学専門学校(現・金沢大学医学部)眼科教授の高安 右人氏(図1)により初めて報告された。画像を拡大する呼称には、大動脈炎症候群、高安病、脈なし病などがあるが、各学会において「高安動脈炎」に統一されている。2012年に改訂された血管炎のChapel Hill分類(図2)1)により、英文病名は“Takayasu arteritis”に、略語は“TAK”に改訂された。画像を拡大する■ 疫学希少疾病であり厚生労働省により特定疾患に指定されている。2012年の特定疾患医療受給者証所持者数は、5,881人(人口比0.0046%)だった。男女比は約1:9である。発症年齢は10~40代が多く、20代にピークがある。アジア・中南米に多い。TAK発症と関連するHLA-B*52も、日本、インドなどのアジアに多い。TAK患者の98%は家族歴を持たない。■ 病因TAKは、(1)病理学的に大型動脈の肉芽腫性血管炎が特徴であること、(2)特定のHLAアレル保有が発症と関連すること、(3)種々の炎症性サイトカインの発現亢進が報告されていること、(4)ステロイドを中心とする免疫抑制治療が有効であることから、自己免疫疾患と考えられている。1)病理組織像TAKの標的である大型動脈は中膜が発達しており、中膜を栄養する栄養血管(vasa vasorum)を有する。病変の主座は中膜の外膜寄りにあると考えられ、(1)外膜から中膜にかけて分布する栄養血管周囲への炎症細胞浸潤、(2)中膜の破壊(梗塞性病変、中膜外側を主とした弾性線維の虫食い像、弾性線維を貪食した多核巨細胞の出現)、これに続発する(3)内膜の細胞線維性肥厚および(4)外膜の著明な線維性肥厚を特徴とする。進行期には、(5)内膜の線維性肥厚による内腔の狭窄・閉塞、または(6)中膜破壊による動脈径の拡大(=瘤化)を来す。2)HLA沼野 藤夫氏らの功績により、HLA-B*52保有とTAK発症の関連が確立されている。B*52は日本人の約2割が保有する、ありふれたHLA型である。しかし、TAK患者の約5割がB*52を保有するため、発症オッズ比は2~3倍となる。B*52保有患者は非保有患者に比べ、赤沈とCRPが高値で、大動脈弁閉鎖不全の合併が多い。HLA-B分子はHLAクラスI分子に属するため、TAKの病態に細胞傷害性T細胞を介した免疫異常が関わると考えられる。3)サイトカイン異常TAKで血漿IL-12や血清IL-6、TNF-αが高値との報告がある。2013年、京都大学、東京医科歯科大学などの施設と患者会の協力によるゲノムワイド関連研究により、TAK発症感受性因子としてIL12BおよびMLX遺伝子領域の遺伝子多型(SNP)が同定された2)。トルコと米国の共同研究グループも同一手法によりIL12B遺伝子領域のSNPを報告している。IL12B遺伝子はIL-12/IL-23の共通サブユニットであるp40蛋白をコードし、IL-12はNK細胞の成熟とTh1細胞の分化に、IL-23はTh17細胞の維持に、それぞれ必要であるため、これらのサイトカインおよびNK細胞、ヘルパーT細胞のTAK病態への関与が示唆される。4)自然免疫系の関与TAKでは感冒症状が、前駆症状となることがある。病原体成分の感作後に大動脈炎を発症する例として、B型肝炎ウイルスワクチン接種後に大型血管炎を発症した2例の報告がある。また、TAK患者の大動脈組織では、自然免疫を担当するMICA(MHC class I chain-related gene A)分子の発現が亢進している。前述のゲノムワイド関連研究で同定されたMLX遺伝子は転写因子をコードし、報告されたSNPはインフラマソーム活性化への関与が示唆されている。以上をまとめると、HLAなどの発症感受性を有する個体が存在し、感染症が引き金となり、自然免疫関連分子やサイトカインの発現亢進が病態を進展させ、最終的に大型動脈のおそらく中膜成分を標的とする獲得免疫が成立し、慢性炎症性疾患として確立すると考えられる。■ 症状1)臨床症状TAKの症状は、(1)全身性の炎症病態により起こる症状と(2)各血管の炎症あるいは虚血病態により起こる症状の2つに分け、後者はさらに血管別に系統的に分類すると理解しやすい(表1)。画像を拡大する2)合併疾患TAKの約6%に潰瘍性大腸炎(UC)を合併する。HLA-B*52およびIL12B遺伝子領域SNPはUCの発症感受性因子としても報告されており、TAKとUCは複数の発症因子を共有する。■ 分類1)上位分類血管炎の分類には前述のChapel Hill分類(図2)が用いられる。「大型血管炎」にTAKと巨細胞性動脈炎(GCA)の2つが属する。2)下位分類畑・沼野氏らによる病型分類(1996年)がある(図3)3)。画像を拡大する■ 予後1年間の死亡率3.2%、再発率8.1%、10年生存率84%という報告がある。予後因子として、(1)失明、脳梗塞、心筋梗塞などの各血管の虚血による後遺症、(2)大動脈弁閉鎖不全、(3)大動脈瘤、(4)ステロイド治療による合併症(感染症、病的骨折、骨壊死など)が挙げられる。診断および治療の進歩により、予後は改善してきている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 検査1)各画像検査による血管撮影TAKは、生検が困難であるため、画像所見が診断の決め手となる。(1)画像検査の種類胸部X線、CT、MRI、超音波、血管造影、18F-FDG PET/PET-CTなどがある。若年発症で長期観察を要するため、放射線被曝を可能な限り抑える。(2)早期および活動期の画像所見大型動脈における全周性の壁肥厚は発症早期の主病態であり、超音波検査でみられる総頸動脈のマカロニサイン(全周性のIMT肥厚)や、造影後期相のCT/MRIでみられるdouble ring-like pattern(肥厚した動脈壁の外側が優位に造影されるため、外側の造影される輪と内側の造影されない輪が出現すること)が特徴的である。下行大動脈の波状化(胸部X線で下行大動脈の輪郭が直線的でなく波を描くこと)も早期の病変に分類され、若年者で本所見を認めたらTAKを疑う。動脈壁への18F-FDG集積は、病変の活動性を反映する(PET/PET-CT)。ただし動脈硬化性病変でもhotになることがある。PET-CTはTAKの早期診断(感度91~92%、特異度89~100%)と活動性評価の両方に有用である(2016年11月時点で保険適用なし)。(3)進行期の画像所見大型動脈の狭窄・閉塞・拡張は、臨床症状や予後と関連するため、CTアンギオグラフィ(造影早期相の3次元再構成)またはMRアンギオグラフィ(造影法と非造影法がある)で全身の大型動脈の開存度をスクリーニングかつフォローする。上行大動脈は拡張し、大動脈弁閉鎖不全を伴いやすい。従来のgold standardであった血管造影は、血管内治療や左室造影などを目的として行い、診断のみの目的では行われなくなった。(4)慢性期の画像所見全周性の壁石灰化、大型動脈の念珠状拡張(拡張の中に狭窄を伴う)、側副血行路の発達などが特徴である。2)心臓超音波検査大動脈弁閉鎖不全の診断と重症度評価に必須である。3)血液検査(1)炎症データ:白血球増加、症候性貧血、赤沈亢進、血中CRP上昇など(2)腎動脈狭窄例:血中レニン活性・アルドステロンの上昇■ 診断基準下記のいずれかを用いて診断する。1)米国リウマチ学会分類基準(1990年、表2)4)6項目中3項目を満たす場合にTAKと分類する(感度90.5%、特異度97.8%)。この分類基準にはCT、MRI、超音波検査、PET/PET-CTなどが含まれていないので、アレンジして適用する。2)2006-2007年度合同研究班(班長:尾崎 承一)診断基準後述するリンクまたは参考文献5を参照いただきたい。なお、2016年11月時点で改訂作業中である。画像を拡大する■ 鑑別診断GCA、動脈硬化症、血管型ベーチェット病、感染性大動脈瘤(サルモネラ、ブドウ球菌、結核など)、心血管梅毒、炎症性腹部大動脈瘤、IgG4関連動脈周囲炎、先天性血管異常(線維筋性異形成など)との鑑別を要する。中高年発症例ではTAKとGCAの鑑別が問題となる(表3)。GCAは外頸動脈分枝の虚血症状(側頭部の局所的頭痛、顎跛行など)とリウマチ性多発筋痛症の合併が多いが、TAKではそれらはまれである。画像を拡大する3 治療■ 免疫抑制治療の適応と管理1)初期治療疾患活動性を認める場合に、免疫抑制治療を開始する。初期治療の目的は、可及的に疾患活動性が低い状態にすること(寛解導入)である。Kerrの基準(1994年)では、(1)全身炎症症状、(2)赤沈亢進、(3)血管虚血症状、(4)血管画像所見のうち、2つ以上が新出または増悪した場合に活動性と判定する。2)慢性期治療慢性期治療の目的は、可及的に疾患活動性が低い状態を維持し、血管病変進展を阻止することである。TAKは緩徐進行性の経過を示すため、定期通院のたびに診察や画像検査でわかるような変化を捉えられるわけではない。実臨床では、鋭敏に動く血中CRP値をみながら服薬量を調整することが多い。ただし、血中CRPの制御が血管病変の進展阻止に真に有用であるかどうかのエビデンスはない。血管病変のフォローアップは、通院ごとの診察と、1~2年ごとの画像検査による大型動脈開存度のフォローが妥当と考えられる。■ ステロイドステロイドはTAKに対し、最も確実な治療効果を示す標準治療薬である。一方、TAKは再燃しやすいので慎重な漸減を要する。1)初期量過去の報告ではプレドニゾロン(PSL)0.5~1mg/kg/日が使われている。病変の広がりと疾患活動性を考慮して初期量を設定する。2006-2007年度合同研究班のガイドラインでは、中等量(PSL 20~30mg/日)×2週とされているが、症例に応じて大量(PSL 60 mg/日)まで引き上げると付記されている。2)減量速度クリーブランド・クリニックのプロトコル(2007年)では、毎週5mgずつPSL 20mgまで、以降は毎週2.5mgずつPSL 10mgまで、さらに毎週1mgずつ中止まで減量とされているが、やや速いため再燃が多かったともいえる。わが国の106例のコホートでは、再燃時PSL量は13.3±7.5mg/日であり、重回帰分析によると、再燃に寄与する最重要因子はPSL減量速度であり、減量速度が1ヵ月当たり1.2mgより速いか遅いかで再燃率が有意に異なった。この結果に従えば、PSL 20mg/日以下では、月当たり1.2mgを超えない速度で減量するのが望ましい。以下に慎重な減量速度の目安を示す。(1)初期量:PSL 0.5~1mg/kg/日×2~4週(2)毎週5mg減量(30mg/日まで)(3)毎週2.5mg減量(20mg/日まで)(4)月当たり1.2mgを超えない減量(5)維持量:5~10mg/日3)維持量維持量とは、疾患の再燃を抑制する必要最小限の用量である。約3分の2の例でステロイド維持量を要し、PSL 5~10mg/日とするプロトコルが多い。約3分の1の例では、慎重な漸減の後にステロイドを中止できる。4)副作用対策治療開始前にステロイドの必要性と易感染性・骨粗鬆症・骨壊死などの副作用について十分に説明し、副作用対策と慎重な観察を行う。■ 免疫抑制薬TAKは、初期治療のステロイドに反応しても、経過中に半数以上が再燃する。免疫抑制薬は、ステロイドとの相乗効果、またはステロイドの減量効果を期待して、ステロイドと併用する。1)メトトレキサート(MTX/商品名:リウマトレックス)(2016年11月時点で保険適用なし)文献上、TAKに対する免疫抑制薬の中で最も使われている。18例のシングルアーム試験では、ステロイド大量とMTX(0.3mg/kg/週→最大25mg/週まで漸増)の併用によるもので、寛解率は81%、寛解後の再燃率は54%、7~18ヵ月後の寛解維持率は50%だった。2)アザチオプリン(AZP/同:イムラン、アザニン)AZPの位置付けは各国のプロトコルにおいて高い。15例のシングルアーム試験では、ステロイド大量とAZP(2mg/kg/日)の併用は良好な経過を示したが、12ヵ月後に一部の症例で再燃や血管病変の進展が認められた。3)シクロホスファミド(CPA/同:エンドキサン)CPA(2mg/kg/日、WBC>3,000/μLとなるように用量を調節)は、重症例への適応と位置付けられることが多い。副作用を懸念し、3ヵ月でMTXまたはAZPに切り替えるプロトコルが多い。4)カルシニューリン阻害薬(2016年11月時点で保険適用なし)タクロリムス(同:プログラフ/報告ではトラフ値5ng/mLなど)、シクロスポリン(同:ネオーラル/トラフ値70~100ng/mLなど)のエビデンスは症例報告レベルである。■ 生物学的製剤関節リウマチに使われる生物学的製剤を、TAKに応用する試みがなされている。1)TNF-α阻害薬(2016年11月時点で保険適用なし)TNF-α阻害薬による長期のステロイドフリー寛解率は60%、寛解例の再燃率33%と報告されている。2)抗IL-6受容体抗体トシリズマブ(同:アクテムラ/2016年11月時点で保険適用なし)3つのシングルアーム試験で症状改善とステロイド減量効果を示し、再燃はみられなかった。■ 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)免疫抑制治療により疾患活動性が落ち着いた後も、虚血病態による疼痛が残りうるため、病初期から慢性期に至るまでNSAIDsが必要となることが多い。腎障害・胃粘膜障害などに十分な注意と対策を要する。■ 抗血小板薬、抗凝固薬血小板薬は、(1)TAKでは進行性の血管狭窄を来すため脳血管障害や虚血性心疾患などの予防目的で、あるいは、(2)血管ステント術などの血管内治療後の血栓予防目的で用いられる。抗凝固薬は、心臓血管外科手術後の血栓予防目的で用いられる。■ 降圧薬血圧は、鎖骨下動脈狭窄を伴わない上肢で評価する。両側に狭窄がある場合は、下肢血圧(正常では上肢より10~30mmHg高い)で評価する。高血圧や心病変に対し、各降圧薬が用いられる。腎血管性高血圧症にはACE阻害薬が用いられる。■ 観血的治療1)術前の免疫抑制治療の重要性疾患活動性のコントロール不十分例では、再狭窄、血管縫合不全、吻合部動脈瘤などの術後合併症のリスクが高くなる。観血的治療は、緊急時を除き、原則として疾患活動性をコントロールしたうえで行う。外科・内科・インターベンショナリストを含む学際的チームによる対応が望ましい。術前のステロイド投与量は、可能であれば少ないほうがよいが、TAKの場合、ステロイドを用いて血管の炎症を鎮静化することが優先される。2)血管狭窄・閉塞に対する治療重度の虚血症状を来す場合に血管バイパス術または血管内治療(EVT)である血管ステント術の適応となる。EVTは低侵襲性というメリットがある一方、血管バイパス術と比較して再狭窄率が高いため、慎重に判断する。3)大動脈瘤/その他の動脈瘤に対する治療破裂の可能性が大きいときに、人工血管置換術の適応となる。4)大動脈弁閉鎖不全(AR)に対する治療TAKに合併するARは、他の原因によるARよりも進行が早い傾向にあり、積極的な対策が必要である。原病に対する免疫抑制治療を十分に行い、内科的に心不全コントロールを行っても、有症状または心機能が低い例で、心臓外科手術の適応となる。TAKに合併するARは、上行大動脈の拡大を伴うことが多いので、大動脈基部置換術(Bentall手術)が行われることが多い。TAKでは耐久性に優れた機械弁が望ましいが、若年女性が多いため、患者背景を熟慮し、自己弁温存を含む大動脈弁の処理法を選択する。4 今後の展望最新の分子生物学的、遺伝学的研究の成果により、TAKの発症に自然免疫系や種々のサイトカインが関わることがわかってきた。TAKはステロイドが有効だが、易再燃性が課題である。近年、研究成果を応用し、各サイトカインを阻害する生物学的製剤による治療が試みられている。治療法の進歩による予後の改善が期待される。1)特殊状況での生物学的製剤の利用周術期管理ではステロイド投与量を可能であれば少なく、かつ、疾患活動性を十分に抑えたいので、生物学的製剤の有用性が期待される。今後の検証を要する。2)抗IL-6受容体抗体(トシリズマブ)2016年11月時点で国内治験の解析中である。3)CTLA-4-Ig(アバタセプト)米国でGCAおよびTAKに対するランダム化比較試験(AGATA試験)が行われている。4)抗IL-12/23 p40抗体(ウステキヌマブ)TAK3例に投与するパイロット研究が行われ、症状と血液炎症反応の改善を認めた。5 主たる診療科患者の多くは、免疫内科(リウマチ内科、膠原病科など標榜はさまざま)と循環器内科のいずれか、または両方を定期的に受診している。各科の連携が重要である。1)免疫内科:主に免疫抑制治療による疾患活動性のコントロールと副作用対策を行う2)循環器内科:主に血管病変・心病変のフォローアップと薬物コントロールを行う3)心臓血管外科:心臓血管外科手術を行う4)脳外科:頭頸部の血管外科手術を行う6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療・研究に関する情報1)2006-2007年度合同研究班による血管炎症候群の診療ガイドライン(ダイジェスト版)(日本循環器学会が公開しているガイドライン。TAKについては1260-1275ページ参照)2)米国AGATA試験(TAKとGCAに対するアバタセプトのランダム化比較試験)公的助成情報難病情報センター 高安動脈炎(大動脈炎症候群)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報大動脈炎症候群友の会 ~あけぼの会~同講演会の講演録(患者とその家族へのまとまった情報)1)Jennette JC, et al. Arthritis Rheum. 2013;65:1-11.2)Terao C, et al. Am J Hum Genet. 2013;93:289-297.3)Hata A, et al. Int J Cardiol. 1996;54:s155-163.4)Arend WP, et al. Arthritis Rheum. 1990;33:1129-1134.5)JCS Joint Working Group. Circ J. 2011;75:474-503.主要な研究グループ〔国内〕東京医科歯科大学大学院 循環制御内科学(研究者: 磯部光章)京都大学大学院医学研究科 内科学講座臨床免疫学(研究者: 吉藤 元)国立循環器病研究センター研究所 血管生理学部(研究者: 中岡良和)鹿児島大学医学部・歯学部附属病院 小児診療センター 小児科(研究者: 武井修治)東北大学大学院医学系研究科 血液・免疫病学分野(研究者: 石井智徳)〔海外〕Division of Rheumatology, University of Pennsylvania, Philadelphia, PA 19104, USA. (研究者: Peter A. Merkel)Department of Rheumatology, Faculty of Medicine, Marmara University, Istanbul 34890, Turkey.(研究者: Haner Direskeneli)Department of Rheumatologic and Immunologic Disease, Cleveland Clinic, Cleveland, OH 44195, USA.(研究者: Carol A. Langford)公開履歴初回2014年12月25日更新2016年12月20日

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高リスク早期乳がんへのテーラードdose-denseの効果/JAMA

 高リスク早期乳がん患者において、テーラードdose-dense化学療法は標準化学療法と比較して、乳がん無再発生存率を有意に改善するという結果には至らず、むしろ非血液学的毒性の頻度が高まることが示された。スウェーデン・カロリンスカ大学病院のTheodoros Foukakis氏らが、Pan-European Tailored Chemotherapy(PANTHER)試験の結果を報告した。体表面積を基に投与量を決定する標準化学療法は、患者の薬物動態・毒性・有効性の個人差が大きい。患者の状態に合わせて投与量を調整するテーラード化学療法と、投与間隔を短縮するdose-dense化学療法の組み合わせが、予後を改善できるかどうかについてはこれまで明らかになっていなかった。JAMA誌2016年11月8日号掲載の報告。約2,000例でテーラードdose-dense化学療法と標準化学療法を比較 PANTHER試験は、2007年2月20日~2011年9月14日に、スウェーデン・ドイツ・オーストリアの86施設で実施された多施設共同無作為化非盲検第III相臨床試験である。対象は、65歳以下のリンパ節非転移陽性あるいは高リスクリンパ節転移陰性乳がん術後患者2,017例で、テーラードdose-dense(dose-dense)群と標準化学療法(対照)群に1対1の割合で無作為割り付けした。 dose-dense群では、白血球最下点を基にエピルピジン(90mg/m2から開始、38~120mg/m2)+シクロホスファミド(600mg/m2から開始、450~1,200mg/m2)を2週ごと4サイクル、その後ドセタキセル(75mg/m2から開始、60~100mg/m2)を2週ごと4サイクル投与した。対照群では、フルオロウラシル(500mg/m2)+エピルビシン(100mg/m2)+シクロホスファミド(500mg/m2)を3週ごと3サイクル、その後ドセタキセル(100mg/m2)を3週ごと3サイクル投与した。 主要評価項目は、乳がん無再発生存率(BCRFS)、副次評価項目は5年無イベント生存率(EFS)、遠隔無病生存率(DDFS)、全生存率(OS)、Grade3/4の有害事象発現率であった。乳がん無再発生存率はそれぞれ88.7%と85.0%で有意差なし 2,017例(dose-dense群1,006例、対照群1,011例、年齢中央値51歳、四分位範囲:45~58歳、ホルモン受容体陽性80%、リンパ節転移陽性97%)中、2,000例が1サイクル以上の治療を受けた(dose-dense群1,001例、対照群999例)。 追跡期間中央値5.3年(四分位範囲4.5~6.1年)において、乳がん再発が269件(dose-dense群118件、対照群151件)発生し、5年BCFRSはdose-dense群88.7%、対照群85.0%であった(ハザード比[HR]:0.79、95%信頼区間[CI]:0.61~1.01、log-rank検定のp=0.06)。dose-dense群では対照群と比較しEFSが有意に改善した(5年EFS:86.7% vs.82.1%、HR:0.79、95%CI:0.63~0.99、p=0.04)。OS(5年OS:92.1% vs.90.2%、HR:0.77、95%CI:0.57~1.05、p=0.09)、およびDDFS(5年DDFS:89.4% vs.86.7%、HR:0.83、95%CI:0.64~1.08、p=0.17)は、両群で差はなかった。 Grade3/4の非血液学的有害事象の発現率は、dose-dense群52.6%、対照群36.6%であった。 著者は結果について、「追跡期間が短く、テーラード療法とdose-dense化学療法を組み合わせているため、どちらの方法による影響かを結論付けることはできない」と述べている。

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多発性骨髄腫〔MM : multiple myeloma〕

1 疾患概要■ 概念・定義多発性骨髄腫(MM)は、Bリンパ球系列の最終分化段階にある形質細胞が、腫瘍性、単クローン性に増殖する疾患である。骨髄腫細胞から産生される単クローン性免疫グロブリン(M蛋白)を特徴とし、貧血を主とする造血障害、易感染性、腎障害、溶骨性変化など多彩な臨床症状を呈する疾患である。■ 疫学わが国では人口10万人あたり男性5.5人、女性5.2人の推定罹患率であり、全悪性腫瘍の約1%、全造血器腫瘍の約10%を占める。発症年齢のピークは60代であり、年々増加傾向にある。40歳未満の発症はきわめてまれである。■ 病因慢性炎症や自己免疫疾患の存在、放射線被曝やベンゼン、ダイオキシンへの曝露により発症頻度が増加するが成因は明らかではない。MMに先行するMGUS(monoclonal gammopathy of undetermined significance)や無症候性(くすぶり型)骨髄腫においても免疫グロブリン重鎖(IgH)遺伝子や13染色体の異常が認められることから、多くの遺伝子異常が関与し、多段階発がん過程を経て発症すると考えられる。■ 症状症候性骨髄腫ではCRABと呼ばれる臓器病変、すなわち高カルシウム血症(Ca level increased)、腎障害(Renal insufficiency)、貧血(Anemia)、骨病変(Bone lesion)がみられる(図1)。骨病変では溶骨性変化による腰痛、背部痛、脊椎圧迫骨折などを認める。貧血の症状として全身倦怠感・労作時動悸・息切れなどがみられる。腎障害はBence Jones蛋白(BJP)型に多く、腎不全やネフローゼ症候群を呈する(骨髄腫腎)。骨吸収の亢進による高カルシウム血症では、多飲、多尿、口渇、便秘、嘔吐、意識障害を認める。正常免疫グロブリンの低下や好中球減少により易感染性となり、肺炎などの感染症を起こしやすい。また、脊椎圧迫骨折や髄外腫瘤による脊髄圧迫症状、アミロイドーシス、過粘稠度症候群による出血や神経症状(頭痛、めまい、意識障害)、眼症状(視力障害、眼底出血)がみられる。画像を拡大する■ 分類骨髄にクローナルな形質細胞が10%以上、または生検で骨もしくは髄外の形質細胞腫が確認され、かつ骨髄腫診断事象(Myeloma defining events)を1つ以上認めるものを多発性骨髄腫と診断する。骨髄腫診断事象には従来のCRAB症状に加え、3つの進行するリスクの高いバイオマーカーが加わった。これらはSLiM基準と呼ばれ、骨髄のクローナルな形質細胞60%以上、血清遊離軽鎖(Free light chain: FLC)比(M蛋白成分FLCとM蛋白成分以外のFLCの比)100以上、MRIで局所性の骨病変(径5mm以上)2個以上というのがある。したがって、CRAB症状がなくてもSLiM基準の1つを満たしていれば多発性骨髄腫と診断されるため、症候性骨髄腫という呼称は削除された1)。くすぶり型骨髄腫は、骨髄診断事象およびアミロイドーシスを認めず、血清M蛋白量3g/dL以上もしくは尿中M蛋白500mg/24時間以上、または骨髄のクローナルな形質細胞10~60%と定義された。MGUSは3つの病型に区別され、その他、孤立性形質細胞腫の定義が改訂された1)(表1)。表1 多発性骨髄腫の改訂診断基準(国際骨髄腫ワーキンググループ: IMWG)■多発性骨髄腫の定義以下の2項目を満たす(1)骨髄のクローナルな形質細胞割合≧10%、または生検で確認された骨もしくは髄外形質細胞腫を認める。(2)以下に示す骨髄腫診断事象(Myeloma defining events)の1項目以上を満たす。骨髄腫診断事象●形質細胞腫瘍に関連した臓器障害高カルシウム血症: 血清カルシウム>11mg/dLもしくは基準値より>1mg/dL高い腎障害: クレアチニンクリアランス<40mL/分もしくは血清クレアチニン>2mg/dL貧血: ヘモグロビン<10g/dLもしくは正常下限より>2g/dL低い骨病変: 全身骨単純X線写真、CTもしくはPET-CTで溶骨性骨病変を1ヵ所以上認める●進行するリスクが高いバイオマーカー骨髄のクローナルな形質細胞割合≧60%血清遊離軽鎖(FLC)比(M蛋白成分のFLCとM蛋白成分以外のFLCの比)≧100MRIで局所性の骨病変(径5mm以上)>1個■くすぶり型骨髄腫の定義以下の2項目を満たす(1)血清M蛋白(IgGもしくはIgA)量≧3g/dLもしくは尿中M蛋白量≧500mg/24時間、または骨髄のクローナルな形質細胞割合が10~60%(2)骨髄診断事象およびアミロイドーシスの合併がない(Rajkumar SV, et al. Lancet Oncol.2014;15:e538-548.)■ 予後治癒困難な疾患であるが、近年、新規薬剤の導入により予後の改善がみられる。生存期間は移植適応例では6~7年、移植非適応例では4~5年である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 検査血清および尿の蛋白電気泳動でβ-γ域にM蛋白を認める場合は、免疫電気泳動あるいは免疫固定法でクラス(IgG、IgA、IgM、IgD、IgE)とタイプ(κ、λ)を決定する。BJP型では血清蛋白電気泳動でMピークを認めないので注意する。血清FLCはBJP型骨髄腫や非分泌型骨髄腫の診断に有用である。血液検査では、正球性貧血、白血球・血小板減少と塗抹標本で赤血球連銭形成がみられる。骨髄ではクローナルな形質細胞が増加する。生化学検査では、血清総蛋白増加、アルブミン(Alb)低下、CRP上昇、ZTT高値、クレアチニン、β2-ミクログロブリン(β2-MG)の上昇、赤沈の亢進がみられる。染色体異常としてt(4;14)、t(14;16)、t(11;14)や13染色体欠失などがみられる。全身骨X線所見では、打ち抜き像(punched out lesion)や骨粗鬆症、椎体圧迫骨折を認める。CTは骨病変の検出に、全脊椎MRIは骨髄病変の検出に有用である。PET-CTは骨病変や形質細胞腫の検出に有用である。■ 診断診断には、前述の国際骨髄腫ワーキンググループ(IMWG)による基準が用いられる1)(表1、2)。また、血清Alb値とβ2-MG値の2つの予後因子に基づく国際病期分類(International Staging System:ISS)は予後の推定に有用である。最近、ISSに遺伝子異常とLDHを加味した改訂国際病期分類(R-ISS)が提唱されている2)(表3)。ISS病期1、2、3の生存期間はそれぞれ62ヵ月、44ヵ月、29ヵ月である。ただし、これは新規薬剤の登場以前のデータに基づいている。表2 意義不明の単クローン性γグロブリン血症(MGUS)と類縁疾患の改訂診断基準■非IgG型MGUSの定義血清M蛋白量<3g/dL骨髄のクローナルな形質細胞割合<10%形質細胞腫瘍に関連する臓器障害(CRAB)およびアミロイドーシスがない■IgM型MGUSの定義血清M蛋白量<3g/dL骨髄のクローナルな形質細胞割合<10%リンパ増殖性疾患に伴う貧血、全身症状、過粘稠症状、リンパ節腫脹、肝脾腫や臓器障害がない■軽鎖型MGUSの定義血清遊離軽鎖(FLC)比<0.26(λ型の場合)もしくは>1.65(κ型の場合)免疫固定法でモノクローナルな重鎖を認めない形質細胞腫瘍に関連する臓器障害(CRAB)およびアミロイドーシスがない骨髄のクローナルな形質細胞割合<10%尿中のM蛋白量<500mg/24時間■孤立性形質細胞腫の定義骨もしくは軟部組織に生検で確認されたクローナルな形質細胞からなる孤立性病変を認める骨髄にクローナルな形質細胞を認めない孤立性形質細胞腫以外に全身骨単純X線写真やMRI、CTで骨病変を認めないリンパ形質細胞性腫瘍に関連する臓器障害(CRAB)がない■微小な骨髄浸潤を伴う孤立性形質細胞腫の定義骨もしくは軟部組織に生検で確認されたクローナルな形質細胞からなる孤立性病変を認める骨髄のクローナルな形質細胞割合<10%孤立性形質細胞腫以外に全身骨単純X線写真やMRI、CTで骨病変を認めないリンパ形質細胞性腫瘍に関連する臓器障害(CRAB)がない(Rajkumar SV, et al. Lancet Oncol.2014;15:e538-548.)画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 治療方針IMWGではCRAB症状を有するMMのほか、CRAB症状がなくてもSLiM基準を1つでも有する症例も治療の対象としている。この点について、わが国の診療指針では慎重に経過観察を行い、進行が認められる場合に治療を開始することでもよいとしている3)。MGUSやくすぶり型MMは治療対象としない。初期治療は、自家造血幹細胞移植併用大量化学療法(HDT/AHSCT)が実施可能かどうかで異なる治療が行われる3、4)。効果判定はIMWGの診断基準が用いられ、CR(完全奏効:免疫固定法でM蛋白陰性)達成例は予後良好であることから、深い奏効を得ることが、長期生存のサロゲートマーカーとなる5)。■ 大量化学療法併用移植適応患者年齢65歳以下で、重篤な感染症や肝・腎障害がなく、心肺機能に問題がなければHDT/AHSCTが行われる。初期治療としてボルテゾミブ(BOR、商品名:ベルケイド)やレナリドミド(LEN、同: レブラミド)などの新規薬剤を含む2剤あるいは3剤併用が推奨される3、4)(図2)。わが国では初期治療に保険適用を有する新規薬剤は現在BORとLENであり、BD(BOR、デキサメタゾン[DEX])、BCD(BORシクロホスファミド[CPA]、DEX)、BAD(BOR、ドキソルビシン[DXR]、DEX)、BLd(BOR、LEN、 DEX)、Ld(LEN、DEX)が行われる。画像を拡大する寛解導入後はCPA大量にG-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)を併用して末梢血幹細胞が採取され、メルファラン(MEL)大量(200mg/m2)後にAHSCTが行われる。BORを含む3剤併用による寛解導入後にAHSCTを行うことにより、60%以上の症例でVGPR(very good partial response)が得られる。自家移植後にも残存する腫瘍細胞を減少させる目的で、地固め・維持療法が検討されている。新規薬剤による維持療法は無増悪生存を延長させるが、サリドマイド(THAL)による末梢神経障害や薬剤耐性、レナリドミドによる二次発がんの問題が指摘されており、リスクとベネフィットを考慮して判断することが求められる3、4)。■ 大量化学療法併用移植非適応患者65歳以上の患者や65歳以下でもHDT/AHSCTの適応条件を満たさない患者が対象となる。これまでMELとプレドニゾロン(PSL)の併用(MP)が標準治療であったが、現在は新規薬剤を加えたMPT(MP、THAL)、MPB(MP、BOR)、LDが推奨されている3、4)(図3)。わが国でもLd、MPBが実施可能であり、BORの皮下投与は静脈投与と比較し、神経障害が減少するので推奨されている。画像を拡大する■ サルベージ療法初回治療終了6ヵ月以後の再発では、初回導入療法を再度試みてもよい。移植後2年以上の再発では、AHSCTも治療選択肢に上がる。6ヵ月以内の早期再発や治療中の進行や増悪、高リスク染色体異常を有する症例では、新規薬剤を含む2剤、3剤併用が推奨される3、4)。新規薬剤として、2015年にポマリドミド(同: ポマリスト)、パノビノスタット(同: ファリーダック)、2016年にカルフィルゾミブ(同: カイプロリス)が導入され、再発・難治性骨髄腫の治療戦略の幅が広まった。■ 放射線治療孤立性形質細胞腫や、溶骨性病変による骨痛に対しては、放射線照射が有効である。■ 支持療法骨痛の強い症例や骨病変の抑制にゾレドロン酸(同: ゾメタ)やデノスマブ(同: ランマーク)が推奨される。長期の使用にあたっては、顎骨壊死の発症に注意する。腎機能障害の予防には、十分量の水分を摂取させる。高カルシウム血症には生理食塩水とステロイドに加え、カルシトニン、ビスホスホネートを使用する。過粘稠度症候群に対しては、速やかに血漿交換を行う。4 今後の展望有望な新規薬剤として、第2世代のプロテアソーム阻害剤(イキサゾミブなど)のほか、抗体薬(elotuzumab、daratumumab、pembrolizumabなど)が開発中である。これらの薬剤の導入により、多くの症例で微少残存腫瘍(MRD)の陰性化が可能となり、生存期間の延長、ひいては治癒が得られることが期待される。5 主たる診療科血液内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本骨髄腫学会(医療従事者向けの診療、研究情報)患者会情報日本骨髄腫患者の会(患者と患者家族の会の情報)1)Rajkumar SV, et al. Lancet Oncol.2014;15:e538-548.2)Palumbo A, et al. J Clin Oncol.2015;33:2863-2869.3)日本骨髄腫学会編. 多発性骨髄腫の診療指針 第4版.文光堂;2016.4)日本血液学会編. 造血器腫瘍診療ガイドライン.金原出版;2013.p.268-307.5)Durie BGM, et al. Leukemia.2006.20:1467-1473.公開履歴初回2013年12月17日更新2016年10月04日

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新規候補薬剤neratinibがHER2陽性/HR陰性乳がんに有効な可能性(解説:矢形 寛 氏)-576

 I-SPY2試験は、新規薬剤の有効性をみるために、再発率の高い乳がんに対して、乳がん術前化学療法でpCR率を標準治療との間で比較する無作為化第II相試験である。 少ない症例数、低コスト、短い期間で効率的に候補を選び出す試験として注目を浴びている。 バイオマーカーを使って乳がんのサブタイプ分類を行い、どのサブタイプが新規薬剤に有効でありそうかを調べるのであるが、適応的ランダム化という方法を使って適宜割り付けを調整し、有効である確率が高いサブタイプを抽出して、第III相試験に移行させていこうというものである。 新規薬剤であるneratinibはチロシンキナーゼ阻害薬であるが、有効な乳がんサブタイプを本試験で検討したところ、HER2陽性/HR陰性において有効である可能性が高そうだという結果となった。このような方法論は、今後も普及していく可能性がある。

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高度催吐性化療の制吐薬としてオランザピンが有効/NEJM

 高度催吐性化学療法(highly emetogenic chemotherapy:HEC)を受けるがん患者において、オランザピンは悪心・嘔吐の予防に有効であることが、米国・インディアナ大学のRudolph M Navari氏らの検討で示された。研究の成果はNEJM誌2016年7月14日号にて発表された。オランザピンは非定型抗精神病薬であり、中枢神経系のドパミン受容体(D1、D2、D3、D4)、セロトニン受容体(5-HT2a、5-HT2c、5-HT3、5-HT6)、アドレナリンα1受容体、ヒスタミンH1受容体など多くの神経伝達物質を遮断する。体重増加や糖尿病リスクの増加などの副作用がみられるが、とくにD2、5-HT2c、5-HT3受容体は悪心・嘔吐に関与している可能性があり、制吐薬としての効果が示唆されている。悪心・嘔吐の予防効果を無作為化試験で検証 研究グループは、HECによる悪心・嘔吐に対するオランザピンの予防効果を検証する二重盲検無作為化第III相試験を行った(米国国立がん研究所[NCI]の助成による)。 対象は、年齢18歳以上、全身状態(ECOG PS)0~2で、前化学療法歴がなく、シスプラチンを含むレジメンまたはシクロホスファミド+ドキソルビシンによる治療が予定されているがん患者であった。 これらの患者が、化学療法の第1~4日にオランザピン(10mg、1日1回)またはプラセボを経口投与する群に無作為に割り付けられた。全例に、5-HT3受容体拮抗薬、デキサメタゾン、NK1受容体拮抗薬が投与された。 主要評価項目は悪心の予防とし、副次評価項目は嘔吐完全制御(CR)率などであった。「悪心なし」は、視覚アナログスケール(VAS、0~10点、点数が高いほど重度)が0点の場合とし、全期間(0~120時間)、急性期(0~24時間)、遅発期(25~120時間)に分けて評価を行った。CRは、嘔吐のエピソードがなく、かつレスキュー治療が行われなかった場合とした。 2014年8月~2015年3月までに、米国の46施設に380例が登録され、オランザピン群に192例、プラセボ群には188例が割り付けられた。第2日の鎮静が増加、食欲増進に差はない 全体の年齢中央値は57.0歳(範囲:28.0~89.0歳)、女性が72.4%を占めた。原発巣は乳がんが63.7%、肺がんが12.9%、その他が23.4%であった。化学療法は、シスプラチンを含むレジメンが35.8%、シクロホスファミド+ドキソルビシン療法は64.2%だった。 悪心なしの割合は、急性期ではオランザピン群が73.8%、プラセボ群は45.3%(p=0.002)、遅発期ではそれぞれ42.4%、25.4%(p=0.002)、全期間は37.3%、21.9%(p=0.002)であり、いずれもオランザピン群で有意に良好であった。 臨床的に問題となる悪心がない患者(VAS:0~2点)の割合も、急性期(87 vs.70%、p=0.001)、遅発期(72 vs.55%、p=0.001)、全期間(67 vs.49%、p=0.001)のすべてでオランザピン群が有意に優れた。 また、CRの割合も、急性期(86 vs.65%、p<0.001)、遅発期(67 vs.52%、p=0.007)、全期間(64 vs.41%、p<0.001)のすべてでオランザピン群が有意に良好だった。 Grade3の有害事象はオランザピン群で2件(疲労、高血糖)、プラセボ群でも2件(腹痛、下痢)にみられ、Grade4の有害事象はそれぞれ3件(そのうち2件が血液毒性)、0件だった。Grade5は認めなかった。 オランザピン群は、ベースラインと比較した第2日の鎮静の発現(5%が重度)が、プラセボ群に比べ有意に多かったが、第3、4日に継続投与しても第3~5日の鎮静の発現に有意な差はなく、鎮静による治療中止もなかった。また、第2~5日の望ましくない食欲増進の発現にも差は認めなかった。 著者は、「今後の試験では、より高用量および低用量での効果や毒性の評価、多サイクルの化学療法での効果の検討を考慮すべきである」としている。

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乳がんのI-SPY試験、neratinibは第II相を卒業し第III相へ/NEJM

 HER2陽性ホルモン受容体陰性乳がんに対する術前化学療法は、標準療法+neratinibの併用が、トラスツズマブを用いた標準療法と比較し病理学的完全奏効率が高くなる可能性が高いことが示された。米国・カリフォルニア大学のJohn W. Park氏らが、I-SPY2試験の結果、報告した。I-SPY2試験は、複数の新薬候補を同時に評価できる適応的無作為化デザインを用い、StageII/IIIの高リスク乳がんに対する標準的な術前化学療法と併用する新薬候補の有効性をバイオマーカーで評価する多施設共同第II相臨床試験。新薬候補としてチロシンキナーゼ阻害薬であるneratinibを含む7種が検討されている。本試験で、neratinibは有効性の閾値に達したことから「卒業」となり、第III相臨床試験(I-SPY3試験)へ進んでいる。NEJM誌オンライン版2016年7月7日号掲載の報告。neratinib併用の病理学的完全奏効率を適応的無作為化デザインにて比較 研究グループは、適応的無作為化デザインにより、パクリタキセル→ドキソルビシン+シクロホスファミド(AC)(対照群)と、neratinib+パクリタキセル→AC(neratinib併用群)を比較した。対照群でHER2陽性例にはトラスツズマブも投与した。 適格基準は、18歳以上、StageII/III、未治療、腫瘍径が臨床検査で2.5cm以上および画像で2cm以上、ECOG PSが0~1、MRIが実施可能、MammaPrint検査で高リスク、MammaPrint検査の結果に関係なくHER2陽性またはHR陰性、である。適格患者をHER2の状態、HRの状態および70遺伝子の発現プロファイル(MammaPrint検査)に基づき8つのサブタイプに分類し、10種類のバイオマーカー特性(あらゆるバイオマーカー、HR陽性、HR陰性、HER2陽性、HER2陰性、MammaPrint検査で高リスクカテゴリー2、HER2陽性/HR陽性、HER2陽性/HR陰性、HER2陰性/HR陽性、HER2陰性/HR陰性)に関して有効性を評価した。 主要評価項目は病理学的完全奏効(pCR)で、対照群に対するneratinib併用群の優越性のベイズ確率に基づき患者を割り付けた。1種類以上のバイオマーカー特性においてあらかじめ規定した有効性の閾値(300人規模の第III相試験で成功のベイズ予測確率が85%以上)を満たした場合に「卒業」(第III相試験へ進む)、すべてのバイオマーカー特性について成功のベイズ予測確率が10%未満の場合は登録中止とした。neratinib併用療法はHER2陽性HR陰性乳がんに対して有効である確率が高い 2010年3月~2013年1月に、計127例がneratinib併用群に、84例が対照群に割り付けられ、このうちpCRの評価可能症例はそれぞれ115例および78例であった。 neratinibは、HER2陽性/HR陰性に関してのみ事前に規定した有効性の閾値に達した。HER2陽性/HR陰性乳がん患者の推定pCR率は、neratinib群56%(95%ベイズ確率区間[PI]:37~73%)、対照群33%(95%PI:11~54%)で、第III相試験における成功予測確率は79%であった。

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ホジキンリンパ腫、中間PET-CT結果による治療変更は有効か?/NEJM

 進行期古典的ホジキンリンパ腫の患者に対し、ABVD(ドキソルビシン、ブレオマイシン、ビンブラスチン、ダカルバジン)療法2サイクル後に中間PET-CTを行い、その結果を基に治療をガイドしていくことは有効なのか。英国・サウサンプトン大学のPeter Johnson氏らが、1,214例の患者を対象に無作為化比較試験にて検討した。中間PET-CTの結果が陰性例について、ブレオマイシンを除いたAVD療法に変更した場合、ABVD療法の継続例と比較して、肺毒性発生率は低下し、有効性に有意な低下は認められなかったという。NEJM誌2016年6月23日号掲載の報告。 ABVD療法2サイクル後に中間PET-CTを実施 検討は、進行期ホジキンリンパ腫患者の治療における化学療法の効果を、中間PET-CTで早期判定することの有用性を調べることが目的だった。新たに進行期古典的ホジキンリンパ腫の診断を受けた患者1,214例を対象に、ベースラインでPET-CTを行い、ABVD療法を2サイクル施行後に再度PET-CTを行い、その画像を5ポイント制で中央評価した。 その結果、陰性と判定した患者を無作為に2群に分け、3~6サイクルの治療施行について、一方の群はABVD療法を継続し、もう一方の群はブレオマイシンを除いたAVD療法とした。また、これら陰性患者には、放射線療法は推奨しなかった。 中間PET-CTの結果が陽性だった患者については、BEACOPP(ブレオマイシン、エトポシド、ドキソルビシン、シクロホスファミド、ビンクリスチン、プロカルバジン、プレドニゾン)療法を行った。 主要評価項目は、無作為化群の3年無増悪生存率の群間差とし、5ポイント以上の差を除外する非劣性試験を行った。3年無増悪生存率、ABVD群85.7%、AVD群84.4% 被験者のうち中間PET-CTを行ったのは1,119例で、そのうち937例(83.7%)が陰性だった。935例が無作為化を受けた。 追跡期間中央値41ヵ月時点で、ABVD群(470例)の3年無増悪生存率は85.7%(95%信頼区間[CI]:82.1~88.6)、全生存率は97.2%(同:95.1~98.4)だった。一方AVD群(465例)は、それぞれ84.4%(同:80.7~87.5)、97.6%(同:95.6~98.7)だった。3年無増悪生存率の絶対群間差は、1.6ポイント(同:-3.2~5.3)で、わずかだが非劣性マージンを超えていた。 また中間PET-CTの結果が陽性でBEACOPPを受けた群(172例)の74.4%が、3回目のPET-CTで陰性だった。同群の3年無増悪生存率は67.5%、全生存率は87.8%だった。 全体では、試験期間中の死亡例は62例(うちホジキンリンパ腫による死亡は24例)で、3年無増悪生存率は82.6%、全生存率は95.8%だった。 これらの結果を踏まえて著者は、非劣性マージンに達しなかったものの、AVD群はABVD群に比べ、肺毒性発生率は低下し、有効性は有意に低下しなかったと結論している。

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慢性リンパ性白血病〔CLL : chronic lymphocytic leukemia〕

1 疾患概要■ 定義慢性の小型成熟Bリンパ球の単クローン性の腫瘍であり、末梢血、骨髄、リンパ節で増殖する。リンパ節外の病変はなく、末梢血では5,000/mm3以上の腫瘍細胞が観察される。通常腫瘍細胞はCD5とCD23との両者を発現する。■ 疫学欧米の成人の白血病のなかでは最も多く、10万人当たり3.9人の発症率であるが、東アジアでは少なく、日本では、およそ0.48人とする報告がある1)。欧米のアジア系移民でも少ないので、遺伝的素因が考えられている。■ 病因他の白血病、リンパ性腫瘍と同様、ゲノム異常によると考えられている。第13番染色体のmiR 15、16の欠失によるBCL2の活性化を始めとして、NOTCH1、MYD88、TP53、ATM、SF3B1などの遺伝子異常が複数関与している2)。■ 症状多くはまったく無症状であり、血液検査による異常値で発見される。一部、リンパ節腫脹、肝脾腫、体重減少、発熱、全身倦怠感、貧血症状を呈する例や繰り返す感染症から発見される例がある。また頻度は低いが、自己免疫性溶血性貧血、赤芽球癆、自己免疫性血小板減少症、無顆粒球症、低γグロブリン血症を合併することが知られている。■ 分類近縁疾患に、単クローン性B細胞リンパ球増加症(monoclonal B-cell lymphocytosis: MBL)と小リンパ球性リンパ腫(small lymphocytic lymphoma : SLL)がある。MBLは、健常人に認められるモノクローナルなBリンパ球の増殖である。臨床症状はなく、Bリンパ球は、CLLと同様の細胞表面抗原を呈していることが多いが、5,000/μL以下であるのでCLLの定義は満たさない。CLLへ進行することが知られている。SLLは、末梢血や骨髄への浸潤がないCLLと同一の腫瘍と考えられ病期や治療は低悪性度B細胞リンパ腫として扱われる。■ 予後一般に緩徐な経過をたどることが知られているが、初回診断時からの生存期間は症例により2~20年と大きなばらつきがあり、生存期間中央値は約10年といわれている。そのため治療開始時期の決断が困難であり、病勢を評価し、予後を予測するための臨床病期分類がいくつか報告されている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 診断基準末梢血中のリンパ球絶対数が3ヵ月以上にわたって、継続的に5,000/mm3を超えている。末梢血塗抹標本では、細胞質をほとんど持たない成熟小型リンパ球が一様に増加しており、フローサイトメトリーで、Bリンパ球がモノクローナルに増殖している。細胞表面抗原は、Tリンパ球抗原であるCD5およびBリンパ球抗原であるCD19、CD20、CD23が発現している。細胞表面免疫グロブリンやCD20の発現レベルは、正常Bリンパ球に比べて低いことが多い。免疫グロブリン軽鎖はκ型またはλ型のいずれかのみを発現している。■ 鑑別診断リンパ球数が増加する他の疾患との鑑別が問題となる。結核、梅毒、伝染性単核球症、百日咳、トキソプラズマ症などの感染症では、リンパ球増多を呈するが、いずれも反応性であり数週間で正常化する。CLL以外のリンパ増殖性疾患との鑑別も重要であり、hairy cell leukemia、prolymphocytic leukemia、large granular cell lymphocyte leukemia、mantle cell lymphomaを代表とする、リンパ腫の白血化などがある。■ 病期分類現在広く使われている病期分類には2種類ある。Rai分類(表1)は米国で、Binet分類(表2)は欧州で用いられており、リンパ節病変数および貧血、血小板減少の有無により分類する。画像を拡大する画像を拡大する■ その他の予後予測因子RaiおよびBinet分類により予後分類を行うが、low risk群に分類された症例のなかでも急速に進行する例がある。そのため、分子生物学的研究により、新たな予後因子も近年では提唱されている。(1)短いLymphocyte doubling time(LDT)(2)高い血清マーカー(LDH、β2 microglobulin、β2M)(3)免疫グロブリン重鎖変異(IgVH mutation)がない(4)CD38陽性(5)ZAP70(Zeta chain associated protein 70)が発現している(6)細胞遺伝学的検査での11q欠失・17p欠失が予後不良とされる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 治療開始時期Rai分類low risk群およびBinet分類A群の症例では、診断早期の治療が推奨されない。Rai分類intermediate・high risk群およびBinet分類B・C群の症例で治療開始が勧められる。ただし、intermediate risk群・B群においては、症状の出現まで経過観察が一般的である。一方で、リヒター症候群と呼ばれるトランスフォームを起こし、急速にリンパ節腫大を生じ、予後不良となることがある。無治療経過観察中に一転して、治療が無効となるので、患者説明の際に留意する。■ 治療薬剤現状ではCLLに対する標準治療は確立されていない。治療の選択肢が広がり、アルキル化剤に加えプリンアナログ、モノクローナル抗体が登場している。1)アルキル化剤クロラムブチルは、わが国では本疾患には未承認である。単剤治療について奏効率は40~60%で、完全寛解(complete response:CR)は4~10%であった3)。わが国では、シクロホスファミド(商品名: エンドキサン)が使用される。差違はほとんどないとされており、伝統的に併用療法中で用いられることが多いが、アントラサイクリンを加えるメリットはない4)。2)プリンアナログフルダラビンは(同: フルダラ)、わが国では静注薬に加え経口薬も承認されており、同等の効果が知られている。北米のintergroup studyでの、未治療CLLに対するフルダラビン単剤治療の第III相比較試験の結果5)では、奏効率60~70%であり、CR率も20~40%と良好なものであった。奏効率は有意差をもってクロラムブチルに優っており、無増悪生存期間(PFS)も有意に延長していた。しかし、クロスオーバーデザインであったためか、生存率の有意差は得られていない。3)モノクローナル抗体CD20に対する抗体のリツキシマブ(同: リツキサン)は、CLLに対しては単剤では奏効率10~15%と結果は乏しい6)。毒性として輸注関連反応が強く出現する可能性がある。オファツムマブ(同: アーゼラ)は、再発・難治性の場合に使用される。リツキシマブに比べてCD20エピトープに高い親和性で結合することと、結合後の解離速度が遅いことが特徴である7)。CD52に対するモノクローナル抗体であるアレムツズマブ(同:マブキャンパス)も再発・難治性の場合に用いられる。クロラムブチルとの第III相比較試験が行われ、奏効率83%、CR率24%でより高かったが、T細胞も抑制するためサイトメガロウイルスを始めとするウイルス感染の管理が重要である8)。4)併用療法フルダラビンとシクロホスファミドとの併用(FC療法)は、奏効率80~90%、CR率30~40%とフルダラビン単剤と比較して有効性が高い。PFSも有意に延長していたが、全生存期間(OS)については、観察期間が短い影響か、有意差は認められていない9)。フルダラビンとリツキシマブの併用(FR療法)も同様にフルダラビン単剤と比較して優れていることが示されている。リツキシマブとフルダラビンの同時投与法と連続的投与法の比較では、前者で奏効率90%(CR率47%)、後者で77%(CR率28%)であり、同時投与法が有意に優れていた10)。さらにフルダラビン、シクロホスファミド、リツキシマブの3剤併用(FCR療法)は、FC療法と比較され、CR率、OSで有意に優れていた11)。5)新規抗がん剤ベンダムスチン(同:トレアキシン)は、アルキル化剤とプリンアナログの両者の作用特徴を有する静注薬である。悪性リンパ腫に対する有効性が報告されているが、CLLに対しても第III相比較試験にてクロラムブチルよりも優れた有効性を示している12)。わが国でも、再発例に対して承認申請され認可待ちである(平成28年5月末現在)。BTKシグナルの抑制薬であるイブルチニブ(同:インブルビカ)が欧米だけではなく、わが国でも再発・難治例に対して承認され、米国ではPI3Kδを抑える idelalisibが認可されている。いずれも経口薬である。イブルチニブ13)は、オファツムマブに対して第III相比較試験で有効性のため中途終了、 idelalisibはリツキシマブ単独に比べて14)リツキシマブとの併用療法でPFSで優っていた。さらに高齢化などのために全身状態の悪い症例でchlorambucilとの併用で、あらたなCD20抗体であるobinutuzumab(GA101)は、リツキシマブよりPFSで有意に優っており15)、米国で承認されている。6)造血幹細胞移植若年者を主体に治癒を目指して同種造血幹細胞移植が行われ、40~50%の長期生存が報告されている。リツキシマブ、フルダラビン、ベンダムスチンを用いた骨髄非破壊的前処置を用いた移植成績は、第II相比較試験の結果ではきわめて良好であった16)。■ 合併症治療CLL患者では、正常リンパ球が低下しており、免疫不全状態にあることが多く、感染症の合併には常に注意を払う必要がある。P. jiroveciによるニューモシスチス肺炎、CMV感染、帯状疱疹を発症する危険性が高く、ST合剤や抗ウイルス薬の予防内服を検討する。4 今後の展望わが国でも米国発の経口薬である新薬が、使用できるように期待したい。5 主たる診療科血液内科、血液腫瘍科、血液・腫瘍科、造血器科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)アメリカ国立がん研究所のCLLの総合情報のページ(医療従事者向けの情報)1)Tamura K, et al. Eur J Haematol.2001;67:152-157.2)Puente XS, et al. Nature.2011;475:101-105.3)Dighiero G, et al. N Engl J Med.1998;338:1506-1514.4)CLL Trialists' Collaborative Group. J Natl Cancer Inst.1999;91:861-868.5)Rai KR, et al. N Engl J Med.2000;343:1750-1757.6)O'Brien SM, et al. J Clin Oncol.2001;19:2165-2170.7)Cheson BD. J Clin Oncol.2010;28:3525-3530.8)Lemery SJ, et al. Clin Cancer Res.2010;16:4331-4338.9)Flinn IW, et al. J Clin Oncol.2007;25:793-798.10)Byrd JC, et al. Blood.2005;105:49-53.11)Tam CS, et al. Blood.2008;112:975-980.12)Hillmen P, et al. J Clin Oncol.2007;25:5616-5623.13)Byrd JC, et al. N Engl J Med.2013;369:32-42.14)Furman RR, et al. N Engl J Med.2014;370:997-1007.15)Goede V, et al. N Engl J Med.2014;370:1101-1110.16)Kahr WH, et al. Blood.2013;122:3349-3358.公開履歴初回2014年07月01日更新2016年06月21日

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結節性多発動脈炎〔PAN: polyarteritis nodosa〕

1 疾患概要■ 概念・定義主として中型の筋性動脈が侵される壊死性動脈炎である。国際的な血管炎の分類であるChapel Hill Consensus Conference 2012分類(CHCC2012)1)では、血管炎を障害される血管のサイズにより分類しており、本疾患はmedium vessel vasculitis(中型血管炎)に分類されている。剖検時に動脈に沿って粟粒大から豌豆大の小結節が多発して認められる場合があり、KussmaulとMaierにより結節性動脈周囲炎として1866年に提唱された。現在では、結節性多発動脈炎(polyarteritis nodosa:PAN)の呼称が一般的に用いられている。本症の壊死性動脈炎は、肝臓、胆嚢、脾臓、消化管、腸間膜、腎泌尿生殖器、皮膚、骨格筋、中枢神経系、心臓、肺など全身に認め、とくに血管の分岐部が侵されやすい。肺では気管支動脈に病変を認め、肺動脈が侵されることはまれである。原則として腎糸球体は侵されない。■ 疫学50~60歳に好発し、男女比では男性にやや多い。厚生労働省より結節性動脈周囲炎として、特定疾患医療受給者証を交付された患者数は2011年の時点でおよそ9,000人であるが、この中には顕微鏡的多発血管炎の患者も含まれているので、PANの患者が実際にどのくらい存在するかは不明である。しかしながら、PANの患者数は顕微鏡的多発血管炎に比べて圧倒的に少なく、500人未満と推定される。2006年以降、PANと顕微鏡的多発血管炎は別個に登録されるようになったため、今後その実数が明らかになるものと思われる。■ 病因不明である。アデノシンデアミナーゼ2(adenosine deaminase 2: ADA2)の一塩基多型による先天的機能欠損が、小児期のPAN類似血管症の原因となることが報告されている2、3)が、成人例でADA2の量的または質的異常があるとの報告はない。本疾患に特徴的な自己抗体は知られていない。■ 症状発熱や全身倦怠感、体重減少のほか、急速進行性腎障害、高血圧、中枢神経症状、消化器症状、紫斑、皮膚潰瘍、末梢神経障害などの多彩な症状を呈する。■ 分類本症の組織学的病期はArkinにより、I期:変性期、II期:炎症期、III期:肉芽期、IV期:瘢痕期に分類されている(Arkin分類)。変性期には内膜から中膜にかけて、浮腫とフィブリノイド変性が認められる。炎症期には中膜から外膜にかけて、好中球、時に好酸球、リンパ球、形質細胞が浸潤し、フィブリノイド壊死は血管全層に及ぶ。その結果、内弾性板は破壊され、断裂、消失する。炎症期が過ぎると、組織球や線維芽細胞が外膜より侵入し、肉芽期に入る。肉芽期には内膜増殖が起こり、血管内腔が閉塞するほど高度になることがある。瘢痕期では、炎症細胞浸潤はほとんどみられず、血管壁は線維性組織に置換される。このような場合でも、弾性線維染色を行うと内弾性板の断裂が認められ、診断に有用である。また、これら各期の病変が、同一症例内に同時期に混在して認められることも特徴である。■ 予後本症の予後は急性期の治療によるところが大きい。副腎皮質ステロイドによる治療を基本としたフランスの臨床研究では、57例中48例(84.2%)が初期治療により寛解し、残りの9例中8例も免疫抑制薬の併用などにより寛解導入されている4)。しかしながら、寛解導入された56例中、26例(46.4%)で再燃しており、再燃率は比較的高いといえる。5年生存率は90%強である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)厚生労働省指定難病診断基準(難治性血管炎に関する調査研究班2006年改訂)に基づいて行われる(表1)。重症度に応じて、1度~5度に分類される(表2)。表1 結節性多発動脈炎の診断基準(厚生労働省難治性血管炎に関する調査研究班2006年改訂)【主要項目】1) 主要症候(1)発熱(38℃以上、2週以上)と体重減少(6ヵ月以内に6kg以上)(2)高血圧(3)急速に進行する腎不全、腎梗塞(4)脳出血、脳梗塞(5)心筋梗塞、虚血性心疾患、心膜炎、心不全(6)胸膜炎(7)消化管出血、腸閉塞(8)多発性単神経炎(9)皮下結節、皮膚潰瘍、壊疽、紫斑(10)多関節痛(炎)、筋痛(炎)、筋力低下2) 組織所見中・小動脈のフィブリノイド壊死性血管炎の存在3) 血管造影所見腹部大動脈分枝(とくに腎内小動脈)の多発小動脈瘤と狭窄・閉塞4) 判定(1)確実(definite)主要症候2項目以上と組織所見のある例(2)疑い(probable)(a)主要症候2項目以上と血管造影所見の存在する例(b)主要症候のうち(1)を含む6項目以上存在する例5) 参考となる検査所見(1)白血球増加(10,000/μL以上)(2)血小板増加(400,000/μL以上)(3)赤沈亢進(4)CRP強陽性6) 鑑別診断(1)顕微鏡的多発血管炎(2)多発血管炎性肉芽腫症(旧称:ウェゲナー肉芽腫症)(3)好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(旧称:アレルギー性肉芽腫性血管炎)(4)川崎病動脈炎(5)膠原病(SLE、RAなど)(6)IgA血管炎(旧称:紫斑病性血管炎)【参考事項】(1)組織学的にI期:変性期、II期:急性炎症期、III期:肉芽期、IV期:瘢痕期の4つの病期に分類される。(2)臨床的にI、II期病変は全身の血管の高度の炎症を反映する症候、III、IV期病変は侵された臓器の虚血を反映する症候を呈する。(3)除外項目の諸疾患は壊死性血管炎を呈するが、特徴的な症候と検査所見から鑑別できる。表2 結節性多発動脈炎の重症度分類●1度ステロイドを含む免疫抑制薬の維持量ないしは投薬なしで1年以上病状が安定し、臓器病変および合併症を認めず、日常生活に支障なく寛解状態にある患者(血管拡張剤、降圧剤、抗凝固剤などによる治療は行ってもよい)。●2度ステロイドを含む免疫抑制療法の治療と定期的外来通院を必要とするも、臓器病変と合併症は併存しても軽微であり、介助なしで日常生活に支障のない患者。●3度機能不全に至る臓器病変(腎、肺、心、精神・神経、消化管など)ないし合併症(感染症、圧迫骨折、消化管潰瘍、糖尿病など)を有し、しばしば再燃により入院または入院に準じた免疫抑制療法ないし合併症に対する治療を必要とし、日常生活に支障を来している患者。臓器病変の程度は注1のa~hのいずれかを認める。●4度臓器の機能と生命予後に深く関わる臓器病変(腎不全、呼吸不全、消化管出血、中枢神経障害、運動障害を伴う末梢神経障害、四肢壊死など)ないしは合併症(重症感染症など)が認められ、免疫抑制療法を含む厳重な治療管理ないし合併症に対する治療を必要とし、少なからず入院治療、時に一部介助を要し、日常生活に支障のある患者。臓器病変の程度は注2のa~hのいずれかを認める。●5度重篤な不可逆性臓器機能不全(腎不全、心不全、呼吸不全、意識障害・認知障害、消化管手術、消化・吸収障害、肝不全など)と重篤な合併症(重症感染症、DICなど)を伴い、入院を含む厳重な治療管理と少なからず介助を必要とし、日常生活が著しく支障を来している患者。これには、人工透析、在宅酸素療法、経管栄養などの治療を要する患者も含まれる。臓器病変の程度は注3のa~hのいずれかを認める。注1:以下のいずれかを認めることa.肺線維症により軽度の呼吸不全を認め、PaO2が60~70Torr。b.NYHA2度の心不全徴候を認め、心電図上陳旧性心筋梗塞、心房細動(粗動)、期外収縮あるいはST低下(0.2mV以上)の1つ以上を認める。c.血清クレアチニン値が2.5~4.9mg/dLの腎不全。d.両眼の視力の和が0.09~0.2の視力障害。e.拇指を含む2関節以上の指・趾切断。f.末梢神経障害による1肢の機能障害(筋力3)。g.脳血管障害による軽度の片麻痺(筋力6)。h.血管炎による便潜血反応中等度以上陽性、コーヒー残渣物の嘔吐。注2:以下のいずれかを認めることa.肺線維症により中等度の呼吸不全を認め、PaO2が50~59Torr。b.NYHA3度の心不全徴候を認め、胸部X線上CTR60%以上、心電図上陳旧性心筋梗塞、脚ブロック、2度以上の房室ブロック、心房細動(粗動)、人口ペースメーカーの装着のいずれかを認める。c.血清クレアチニン値が5.0~7.9mg/dLの腎不全。d.両眼の視力の和が0.02~0.08の視力障害。e.1肢以上の手・足関節より中枢側における切断。f.末梢神経障害による2肢の機能障害(筋力3)。g.脳血管障害による著しい片麻痺(筋力3)。h.血管炎による肉眼的下血、嘔吐を認める。注3:以下のいずれかを認めることa.肺線維症により高度の呼吸不全を認め、PaO2が50Torr 未満。b.NYHA4度の心不全徴候を認め、胸部X線上CTR60%以上、心電図上陳旧性心筋梗塞、脚ブロック、2度以上の房室ブロック、心房細動(粗動)、人口ペースメーカーの装着、のいずれか2つ以上を認める。c.血清クレアチニン値が8.0mg/dLの腎不全。d.両眼の視力の和が0.01以下の視力障害。e.2肢以上の手・足関節より中枢側の切断。f.末梢神経障害による3肢以上の機能障害(筋力3)、もしくは1肢以上の筋力全廃(筋力2以下)。g.脳血管障害による完全片麻痺(筋力2以下)。h.血管炎による消化管切除術を施行。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)2006~2007年度合同研究班による『血管炎症候群の診療ガイドライン』の中で、「寛解導入療法と寛解維持療法の指針」が示されているので、以下に示す。■ 寛解導入療法1)副腎皮質ステロイドプレドニゾロン0.5~1mg/kg/日(40~60mg/日)を重症度に応じて経口投与する。腎、脳、消化管など生命予後に関わる臓器障害を認めるような重症例では、パルス療法すなわちメチルプレドニゾロン大量点滴静注療法(メチルプレドニゾロン500~1,000mg + 5%ブドウ糖溶液500mLを2~3時間かけ点滴静注、3日間連続)を行う。後療法としてプレドニゾロン0.5~0.8mg/日の投与を行う5)。2)ステロイド治療に反応しない場合シクロホスファミド点滴静注療法(intravenous cyclophosphamide:IVCY)または経口シクロホスファミド(CY)の経口投与(0.5~2mg/kg/日)を行う。IVCYは、シクロホスファミド500~600mg/生理食塩水または5%ブドウ糖溶液500mLを2~3時間かけて点滴静注し、4週間間隔、計6回を目安に行う6、7)。IVCY治療中は白血球減少に注意し3,000/㎜3以下にならないように次回のIVCY量を減量する。なお、CYは腎排泄性のため腎機能低下に応じて減量投与を行う(クラスIIb、レベルC)8)。表3に年齢、腎機能に応じたIVCY量を示す。なお、IVCYは経口CYに比べて有効性は同等だが副作用が少ないと報告されている9)。画像を拡大するその他の免疫抑制薬としてアザチオプリン、メトトレキセートも用いられる(クラスIIb、レベルC)9)。いずれも腎排泄性である。アザチオプリンは腎機能低下時には減量が必要であり、メトトレキセートは腎不全には禁忌である。3)重要臓器傷害の重症例肺・腎・消化管・膵などの重要臓器を2ヵ所以上傷害された重症例では、ステロイドパルスと共に血漿交換療法を行い、生命予後を改善させるようにする(クラスIIb、レベルC)10、11)。4)HBウイルス肝炎併発例活動性のHBウイルス肝炎を伴っている場合には、抗ウイルス薬および免疫複合体除去目的で血漿交換療法を併用する(クラスIIb、レベルC)5、6)。■ 寛解維持療法初期治療による寛解導入後は、再燃のないことを確認しつつ副腎皮質ステロイド薬(プレドニゾロン)を漸減し維持量(5~10mg/日)とする。副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制薬の治療期間は原則として2年を超えない(クラスIIb、レベルC)12)。CYは3ヵ月間用い、その後寛解維持薬として、より副作用の少ないアザチオプリンに変更し、半年~1年間用いる(クラスIIb、レベルC)13)。なお、免疫抑制薬、血漿交換療法は、本疾患に対する保険適用薬でないため、投薬時には十分なインフォームドコンセントが必要である。4 今後の展望血管炎症候群の中でも、顕微鏡的多発血管炎などのANCA関連血管炎の病因・病態解明が進み、新規治療法が考案されてきているのに対し、PANに対する基礎研究ならびに臨床研究は、ここ数年あまり大きな進展が得られていないのが実情である。とはいえ、厚生労働省難治性血管炎に関する調査研究班をはじめとする地道な基礎的・臨床的研究が継続されており、その中からブレイクスルーが生まれることが期待される。5 主たる診療科膠原病・リウマチ科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 結節性多発動脈炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本血管病理研究会(医療従事者向けのまとまった情報)1)Jennette JC, et al. Arthritis Rheum. 2013;65:1-11.2)Zhou Q, et al. New Engl J Med.2014;370:911-920.3)Navon Elkan P, et al. New Engl J Med.2014;370:921-931.4)Samson M, et al. Autoimmun Rev. 2014;13:197-205.5)中林公正ほか. ANCA関連血管炎の治療指針. 厚生労働省厚生科学特定疾患対策研究事業難治性血管炎に対する研究班(橋本博史編). 2002;19-23.6)Gayraud M, et al. Br J Rheumatol. 1997;36:1290-1297.7)Guillevin L, et al. Arthritis Rheum. 2003;49:93-100.8)難病医学研究財団/難病情報センター 免疫疾患調査研究班(難治性血管炎に関する調査研究班). IVCY治療における年齢、腎機能に応じたシクロホスファミドの投与量設定表. 難病情報センター. (参照 2015.1月26日)9)Jayne D. Curr Opin Rheumatol. 2001;13:48-55.10)Guillevin L, et al. Arthritis Rheum. 1995;38:1638-1645.11)寺田典生ほか. 日内会誌. 1988;77:494-498.12)Guillevin L, et al. Arthritis Rheum. 1998;41:2100-2105.13)Jayne D, et al. N Engl J Med. 2003;349:36-44.公開履歴初回2015年05月15日更新2016年06月07日

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赤芽球癆〔PRCA : pure red cell aplasia〕

1 疾患概要■ 概念・定義正球性正色素性貧血と網赤血球の著減および骨髄赤芽球の著減を特徴とする造血器疾患である。再生不良性貧血が多系統の血球減少(ヘモグロビン濃度低下、好中球減少、血小板減少)を呈するのに対して、赤芽球癆では選択的に赤血球系のみが減少し、貧血を呈する。病因は多様であるが、赤血球系前駆細胞の分化・増殖障害によって発症する。病型・病因によって治療が異なるので、赤芽球癆の診断のみならず、病因診断がきわめて重要である。■ 疫学急性型赤芽球癆の発生頻度はわかっていない。慢性型赤芽球癆はまれな疾患で、発症頻度は再生不良性貧血の約10分の1である。厚生労働省特発性造血障害に関する調査研究班の患者登録集計から、年間発生率は人口100万人に対し0.3人と推定されている。日本血液学会2011年次血液疾患症例登録によれば、全国における1年間の新規発生例は100例に満たない。特発性造血障害調査研究班が2004年度と2006年度に行った全国調査により集積された特発性72例、胸腺腫関連41例、大顆粒リンパ球性白血病関連14例の計127例における解析によれば、年齢中央値は62歳(18~89歳)、男女比は51:76で女性にやや多かった。■ 病因造血障害の発生部位は、赤血球へと分化が運命づけられた赤血球系前駆細胞のレベルであると考えられている。赤血球系前駆細胞に障害が発生するメカニズムとして、ウイルスや薬剤、遺伝子変異、造血前駆細胞に対する自己傷害性リンパ球や抗体などによるものがある。さらに、内因性エリスロポエチンに対する自己抗体による赤血球系造血不全も報告されている。腎性貧血に対するヒトエリスロポエチン製剤投与の後に抗エリスロポエチン抗体が産生されて、赤芽球癆が発生することがある。赤芽球癆の発生メカニズムは多様であるが、赤芽球の減少に基づく網赤血球の減少と貧血が共通にみられる。■ 症状自覚症状は貧血による全身倦怠感、動悸、めまいなどである。通常白血球数や血小板数は正常であるが、続発性の場合には基礎疾患によって異常を呈することがある。続発性では、その基礎疾患に応じた症状と身体所見が認められる。■ 分類赤芽球癆は大きく先天性と後天性に分類される。先天性赤芽球癆としてDiamond-Blackfan貧血が有名である。後天性赤芽球癆には基礎疾患を特定できない特発性と、胸腺腫、リンパ系腫瘍、骨髄性疾患、感染症、自己免疫疾患、薬剤投与などに伴う続発性がある。発症様式により急性と慢性に分類される。前述の特発性造血障害に関する調査研究班の調査によれば、わが国の後天性慢性赤芽球癆の原因として最も多いのは特発性であり、次いで胸腺腫関連、大顆粒リンパ球性白血病を始めとするリンパ系腫瘍である。■ 予後急性赤芽球癆は急性感染症の治癒に伴い、あるいは薬剤性の場合には被疑薬の中止により貧血は自然に軽快する。ただし、外因性エリスロポエチンの投与に伴う抗エリスロポエチン抗体による赤芽球癆は自然治癒しないことが多い。特発性慢性赤芽球癆は、免疫抑制薬により貧血の改善が得られるが、治療の中止は貧血の再燃と強く関連することが知られている。また、胸腺腫関連および大顆粒リンパ球性白血病関連赤芽球癆においても、免疫抑制薬が有効であるが、治療の中止が可能であるとするエビデンスはない。免疫抑制薬によって寛解が得られた慢性赤芽球癆においては、免疫抑制薬による維持療法が必要な場合が多い。予測される10年生存率は、特発性赤芽球癆で95%、大顆粒リンパ球性白血病関連赤芽球癆で86%であり、胸腺腫関連赤芽球癆の予測生存期間中央値は約12年である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)厚生労働省特発性造血障害に関する調査研究班により、赤芽球癆の診断基準が作成されている(図)。画像を拡大する診断基準の構成は、末梢血液学的検査および骨髄の形態学的検査所見に基づく赤芽球癆の診断基準と、病因・病型診断のための検査手順から成る。赤芽球癆は網赤血球数の著減が特徴的であり、通常1%未満である。2%を超える場合には、ほかの疾患を考慮すべきである。次いで、貧血の発症に先行する感染症の有無と薬剤服用歴の情報を収集する。後天性慢性赤芽球癆の多くは中高年に発症するが、妊娠可能年齢の女性が赤芽球癆と診断された場合、妊娠の有無を確認する。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)初期治療の方針は、被疑薬の中止と、約1ヵ月間の経過観察である。薬剤や急性感染症による赤芽球癆は、通常3週間以内に改善する。ヒトパルボウイルスB19感染による赤芽球癆は、通常self-limitedであるが、HIV感染症のある患者では持続感染となりうるので、慢性型赤芽球癆であってもヒトパルボウイルスB19感染の有無はチェックするべきである。貧血が高度で日常生活に支障がある場合には赤血球輸血を行う。この経過観察期間中に病因診断のための検査を行い、基礎疾患があれば治療を行う。基礎疾患の治療を行っても貧血が軽快しない場合には、免疫抑制療法を考慮する。特発性赤芽球癆、胸腺腫関連赤芽球癆、大顆粒リンパ球性白血病関連赤芽球癆に対してシクロスポリン(商品名:サンディミュンほか)、副腎皮質ステロイド、シクロホスファミド(同:エンドキサン)などの薬剤が選択される。いずれの薬剤が最も優れているかについて検証した前向き試験は、海外を含めてこれまで行われていない。特発性造血障害調査研究班による調査研究によれば、特発性赤芽球癆に対する初回寛解導入療法の奏効率は、シクロスポリン74%、副腎皮質ステロイド60%、シクロスポリンと副腎皮質ステロイドの併用100%であり、胸腺腫関連赤芽球癆に対するシクロスポリンの奏効率は95%であった。大顆粒リンパ球性白血病関連赤芽球癆に対する初回寛解導入療法奏効率は、シクロホスファミド75%、シクロスポリン25%、副腎皮質ステロイド0%であった。したがって、後方視的疫学研究の結果ではあるが、特発性赤芽球癆および胸腺腫関連赤芽球癆に対する第1選択薬は、現時点においてはとくに禁忌がない限り、シクロスポリンであると考えられる。4 今後の展望後天性慢性赤芽球癆の主な死因は、感染症と臓器不全である。免疫抑制療法中の感染症の予防と治療、そして赤血球輸血依存性症例における輸血後鉄過剰症に対する鉄キレート療法は、予後を改善することが期待される。なお、平成27年7月1日から後天性慢性赤芽球癆は指定難病に認定され、所定の診断基準および重症度を満たすものについては医療費助成の対象となった。5 主たる診療科(紹介すべき診療科)血液内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)特発性造血障害に関する調査研究班(医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター(後天性赤芽球癆)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報特定非営利活動法人血液情報広場つばさ(患者とその家族向けの情報)1)澤田賢一、廣川 誠ほか. 赤芽球癆.In:小澤敬也編.特発性造血障害疾患の診療の参照ガイド 平成22年度改訂版.2011;38-52.2)廣川 誠、澤田賢一. 日本内科学会雑誌.2012;101:1937-1944.3)廣川 誠. 内科.2013;112:285-289.4)廣川 誠. 臨床血液(教育講演特集号).2013;54:1585-1595.4)廣川 誠. 臨床血液.2015;56:1922-1931.公開履歴初回2014年02月13日更新2016年05月10日

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ネフローゼ症候群〔Nephrotic Syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義ネフローゼ症候群は高度の蛋白尿(3.5g/日以上)と低アルブミン血症(3.0g/dL以下)を示す疾患群であり、腎臓に病変が限局するものを一次性ネフローゼ症候群、糖尿病や全身性エリテマトーデスなど全身疾患の一部として腎糸球体が障害されるものを二次性ネフローゼ症候群と区別する(表1)。ネフローゼ症候群には浮腫が合併し、高コレステロール血症を来すことが多い。ネフローゼ症候群の診断基準を表2に示す。また、治療効果判定基準を表3に示す。画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大する■ 疫学新規発症ネフローゼ症候群は、平成20年度の厚生労働省難治性疾患対策進行性腎障害調査研究班の調査では年間3,756~4,578例の新規発症があると推定数が報告されている。日本腎生検レジストリーの中でネフローゼ症候群を示した患者の内訳は図1に示すように、IgA腎症を含めると一次性ネフローゼ症候群が2/3を占める。二次性ネフローゼ症候群では糖尿病が多く、ループス腎炎、アミロイドーシスが続く。ネフローゼ症候群を示す各疾患の発症は、図2に示すように年齢によって異なる。15~65歳ではループス腎炎、40歳以上で糖尿病、アミロイドーシスが増加する。図2に示すように一次性ネフローゼ症候群は、40歳未満では微小変化型(MCNS)が最も多く、60歳以上では膜性腎症(MN)が多くなる。巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)、膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)は全年齢を通じて発症する。画像を拡大する画像を拡大する■ 病因ネフローゼ症候群において大量の蛋白尿が出るときには、糸球体上皮細胞(ポドサイト)が障害を受けている。MCNSの場合には、この障害に液性因子が関連している可能性が示唆されているが、その因子はいまだ同定されていない。FSGSは、ポドサイトを構成するいくつかの遺伝子の異常が同定されており、多くは小児期に発症する。特発性のFSGSは成人においても発症するが、原因は不明である。MNの原因の1つに、ホスホリパーゼA2受容体(PLA2R)に対する自己抗体の存在が証明されており、ポドサイトに発現するPLA2Rに結合して抗原抗体複合物を産生することが示されている。MPGNは糸球体基底膜の免疫複合体の沈着位置によってI、II、III型に分類される。I型の原因は、補体の古典的経路による活性化が原因と考えられている。III型も同じ原因との説があるが、まだ明確にはわかっていない。II型は補体成分に対する、後天的な自己抗体が産生されることによるとされている。最近、MPGNはC3腎症として定義され、C3が主として糸球体に沈着する腎症群とする考え方に変わってきた。■ 症状1)浮腫ネフローゼ症候群には浮腫を合併する。浮腫の発症機序を図3に示す。画像を拡大する浮腫の発生には2つの仮説がある。循環血漿量不足説(underfill)と循環血漿量過剰説(overfill)である。underfill仮説は、低アルブミン血症のために、血漿膠質浸透圧が低下するとStarlingの法則に従い水分が血管内から間質へ移動することにより循環血漿量が低下する。その結果、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)や交感神経系が活性化され、二次的にNa再吸収を促進し、さらに浮腫を増悪するとされる。2つ目はoverfill仮説であり、遠位尿細管や集合管におけるNa排泄低下・再吸収の亢進が一次的に生じて、Na貯留により血管内容量が増加した結果、静水圧が高まり浮腫を生じるというものである。この原因に、糸球体から大量に漏れてくるplasminなどの蛋白分解酵素が、遠位尿細管や集合管に存在する上皮Naチャネルの活性化に関連し、Na再吸収が亢進するとの報告もある。低アルブミン血症が徐々に進行する場合には膠質浸透圧勾配はほとんど変化しないこと、ネフローゼ症候群患者では必ずしもRAS活性化がみられないことなど、underfill仮説に反する報告もあり、とくに微小変化型ネフローゼ症候群の患者が寛解する際、血清アルブミン値が上昇する前に浮腫が改善し始めるという臨床的事実は、overfill仮説を支持するものである。浮腫成立の機序は必ずしも単一ではなく、症例ごと、また同じ症例でも病期により2つの機序が異なる比率で存在するものと思われる。2)腎機能低下ネフローゼ症候群では腎機能低下を来すことがある。MCNSでは低アルブミン血症による腎血漿流量の低下から、一過性の腎機能低下はあっても、通常腎機能低下を来すことはない。それ以外の糸球体腎炎では、糸球体障害が進めば腎機能の低下を来す。3)脂質異常症肝臓での合成亢進と分解の低下から、高LDLコレステロール血症を来す。■ 予後MCNS、FSGS、MNの治療後の寛解率を図4に示す。画像を拡大するMCNSは2ヵ月以内に85%が完全寛解する。FSGSは6ヵ月で約45%、1年で約60%が完全寛解する。MNは6ヵ月では30%しか完全寛解しないが、1年で60%が完全寛解する。平成14年度厚生労働省難治性疾患対策進行性腎障害調査研究班の報告で、膜性腎症と巣状糸球体硬化症に関する予後調査の結果が報告されている。膜性腎症1,008例の腎生存率(透析非導入率)は10年で89%、15年で80%、20年で59%であった。巣状糸球体硬化症278例の腎生存率は10年で85%、15年で60%、20年で34%と長期予後は不良であった。2 診断 (病理所見)ネフローゼ症候群の診断自体は尿蛋白の定量と血清アルブミン値、血清総蛋白量を測定することにより行うことができる。しかし、実際の治療に関しては、二次性ネフローゼ症候群を除外した後、腎生検によって診断をする必要がある。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 浮腫に対する治療浮腫に対しては、利尿薬を使用する。第1選択薬としてループ利尿薬を使用する。効果がみられない場合には、サイアザイド系利尿薬を追加する。それでも効果のない場合や、低カリウム血症を合併する場合には、スピロノラクトンを使用する。アルブミン製剤は使用しないことが原則であるが、血清アルブミン値2.5g/dL以下で、低血圧、急性腎不全などの発症の恐れがある場合に使用する。しかし、その効果は一過性であり、かつ利尿効果はわずかである。利尿薬に反応しない場合には、体外限外濾過による除水を行う。■ 腎保護を目的とした治療1)低蛋白食ネフローゼ症候群への食事療法の有効性に十分なエビデンスはないが、摂取蛋白量を減少させることにより尿蛋白が減少することが期待できるため、通常以下のように行う。(1)微小変化型ネフローゼ症候群蛋白 1.0~1.1g/kg体重/日、カロリー 35kcal/kg体重/日、塩分 6g/日以下(2)微小変化型ネフローゼ症候群以外蛋白 0.8g/kg体重/日、カロリー 35kcal/kg体重/日、塩分 6g/日以下2)身体活動度ネフローゼの治療において運動制限の有効性を示すエビデンスはない。しかし、身体活動を制限することにより、深部静脈血栓のリスクが増大する。このため、入院中の寛解導入期であっても、ベッド上での絶対安静は避ける。維持治療期においては、適度な運動を勧める。3)レニン・アンジオテンシン系(RAS)阻害薬微小変化型ネフローゼ症候群を除き、尿蛋白の減少と腎保護を目的として、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、あるいはアンジオテンシン受容体拮抗薬を使用する。このとき高カリウム血症に注意する。RAS阻害薬を使用することにより、血圧が低下して、臓器障害を起こす可能性がある場合には、中止する。利尿薬との併用は、RAS阻害薬の降圧作用を増強するので注意する。アルドステロン拮抗薬を追加することにより、尿蛋白が減少する。■ 合併症の予防1)感染症の予防ネフローゼ症候群では、IgGや補体成分の低下がみられ、潜在的に液性免疫低下が存在することに加え、T細胞系の免疫抑制もみられるなど、感染症の発症リスクが高い。日和見感染症のモニタリングを行いながら、臨床症候に留意して早期診断に基づく迅速な治療が必要である。肺炎球菌ワクチンの接種を副腎皮質ステロイド治療前に行う。ツベルクリン反応陽性、胸部X線上結核の既往がある者、クオンティフェロン陽性者は、イソニアジド300mgを6ヵ月投与する。副腎皮質ステロイド・免疫抑制薬の治療と並行して投与を行う。1日20mg以上のプレドニゾロンや免疫抑制薬を長期間にわたり使用する場合には、顕著な細胞性免疫低下が生じるため、ニューモシスチス肺炎に対するST合剤の予防的投薬を考慮する。β-Dグルカン値を定期的に測定する。2)血栓症の予防ネフローゼ症候群では、発症から6ヵ月以内に静脈血栓形成のリスクが高く、血清アルブミン値が2.0g/dL未満になればさらに血栓形成のリスクが高まる。過去に静脈血栓症の既往があれば、ワルファリンによる予防的抗凝固療法を考慮する。D-dimer、FDPにて、血栓形成の可能性をモニターする。静脈血栓症由来の肺塞栓症が発症すれば、ただちにヘパリンを投与し、APTTを2.0~2.5倍に延長させて、血栓の状況を確認しながらワルファリン内服に移行し、PT-INRを2.0(1.5~2.5)とするように抗凝固療法を行う。肺塞栓症が発症すれば、ただちにヘパリンを経静脈的に投与し、APTTを2.0~2.5倍に延長させる。また、経口FXa阻害薬を投与する。■ 各組織型別の特徴と治療1)微小変化型(MCNS)小児に好発するが、成人にも多く、わが国の一次性ネフローゼ症候群の40%を占める。発症は急激であり、突然の浮腫を来す。多くは一次性であるが、ウイルス感染、NSAIDs、ホジキンリンパ腫、アレルギーに合併することもある。副腎皮質ステロイドに対する反応は良好である。90%以上が寛解に至る。再発が30~70%で認められる。ステロイド依存型、長期治療依存型になる症例もあり、頻回再発型を示す場合もある。わが国で行われた無作為化比較試験にて、メチルプレドニゾロンを使用したパルス療法は、尿蛋白減少効果において、経口副腎皮質ステロイドと変わらないことが示されている。寛解導入後の治療は、少なくとも1年以上継続して行ったほうが再発が少ない。(1)再発時の治療プレドニゾロン20~30 mg/日もしくは初期投与量を投与する。患者に、検尿試験紙を持たせて、自己診断できるように教育し、再発した場合にすぐに来院できるようにする。(2)頻回再発型、ステロイド依存性、ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群免疫抑制薬(シクロスポリン〔商品名:サンディミュン、ネオーラル〕1.5~3.0 mg/kg/日、またはミゾリビン〔同:ブレディニン〕150 mg/日、または、シクロホスファミド〔同:エンドキサン〕50~100 mg/日など)を追加投与する。シクロスポリンは、中止により再発が起こるリスクが高く、寛解が得られる最小量にて1~2年は治療を継続する。頻回再発を繰り返す症例や難治症例ではリツキサンを500mg/日 1回点滴静注投与することも検討する。2)巣状分節性糸球体硬化症巣状分節性糸球体硬化症(focal segmental glomerulosclerosis:FSGS)は、微小変化型ネフローゼ症候群(minimal change nephrotic syndrome:MCNS)と同じような発症様式・臨床像をとりながら、MCNSと違ってしばしばステロイド抵抗性の経過をとり、最終的に末期腎不全にも至りうる難治性ネフローゼ症候群の代表的疾患である。糸球体上皮細胞の構造膜蛋白であるポドシン(NPHS2)やα-アクチニン4(ACTN4)などの遺伝子変異により発症する、家族性・遺伝性FSGSの存在が報告されている。(1)初期治療プレドニゾロン(PSL)換算1mg/kg標準体重/日(最大60mg/日)相当を、初期投与量としてステロイド治療を行う。重症例ではステロイドパルス療法も考慮する。(2)ステロイド抵抗性4週以上の治療にもかかわらず、完全寛解あるいは不完全寛解I型(尿蛋白1g/日未満)に至らない場合は、ステロイド抵抗性として以下の治療を考慮する。必要に応じてステロイドパルス療法3日間1クールを3クールまで行う。a)ステロイドに併用薬として、シクロスポリン2.0~3.0 mg/kg/日を投与する。朝食前に服用したシクロスポリンの2時間後の血中濃度(C2)が、600~900ng/mLになるように投与量を調整する。副作用がない限り、6ヵ月間同じ量を継続し、その後漸減する。尿蛋白が1g/日未満に減少すれば、1年間は慎重に減量しながら、継続して使用する。b)ミゾリビン 150 mg/日を1回または3回に分割して投与する。c)シクロホスファミド 50~100 mg/日を3ヵ月以内に限って投与する。シクロホスファミドは、骨髄抑制、出血性膀胱炎、間質性肺炎、発がんなどの重篤な副作用を起こす可能性があるため、総投与量は10g以下にする。(3)補助療法高血圧を呈する症例では積極的に降圧薬を使用する。とくに第1選択薬としてACE阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬の使用を考慮する。脂質異常症に対してHMG-CoA還元酵素阻害薬やエゼチミブ(同:ゼチーア)の投与を考慮する。高LDLコレステロール血症を伴う難治性ネフローゼ症候群に対してはLDLアフェレシス療法(3ヵ月間に12回以内)を考慮する。必要に応じ、蛋白尿減少効果と血栓症予防を期待して抗凝固薬や抗血小板薬を併用する。3)膜性腎症膜性腎症は、中高年者においてネフローゼ症候群を呈する疾患の中で、約40%と最も頻度が高く、その多くがステロイド抵抗性を示す。ネフローゼ症候群を呈しても、尿蛋白の増加は、必ずしも急激ではない。特発性膜性腎症の主たる原因抗原は、ポドサイトに発現するPLA2Rであり、その自己抗体がネフローゼ症候群患者の血清に検出される。PLA2R抗体は、寛解の前に消失し、尿蛋白の出現の前に検出される。特発性膜性腎症の抗体はIgG4である。一方、がんを抗原とする場合の抗体はIgG1、IgG2である。約1/3が自然寛解するといわれている。したがって、欧米においては、尿蛋白が8g/日以下であれば、6ヵ月間は腎保護的な治療のみで、経過をみることが一般的である。また、尿蛋白が4g/日以下であれば、副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬は使用しない。わが国における本症の予後は、欧米のそれに比較して良好である。この原因は、尿蛋白量が比較的少ないことによる。このため、ステロイド単独投与により寛解に至る例も少なくない。通常、免疫抑制薬の併用により尿蛋白が減少し、予後の改善が期待できる。(1)初期治療プレドニゾロン(PSL)0.6~0.8mg/kg/日相当を投与する。最初から、シクロスポリンを併用する場合もある。(2)ステロイド抵抗性ステロイドで4週以上治療しても、完全寛解あるいは不完全寛解Ⅰ型(尿蛋白1g/日未満)に至らない場合はステロイド抵抗性として免疫抑制薬、シクロスポリン2.0~3.0 mg/kg/日を1日1回投与する。朝食前に服用したシクロスポリンの2時間後の血中濃度(C2)が、600~900ng/mLになるように投与量を調整する。副作用がない限り、6ヵ月間同じ量を継続し、その後漸減する。尿蛋白1g/日未満に尿蛋白が減少すれば、1年間は慎重に減量しながら、継続して使用する。シクロスポリンが無効の場合には、ミゾリビン 150 mg/日、またはシクロホスファミド 50~100 mg/日の併用を考慮する。リツキサン500mg/日 1回を、点滴静注することにより寛解することが報告されており、難治例では検討する。(3)補助療法a)高血圧(収縮期血圧130mmHg 以上)を呈する症例では、ACE阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬を使用する。b)脂質異常症に対して、HMG-CoA還元酵素阻害薬やエゼチミブの投与を考慮する。c)動静脈血栓の可能性に対してはワルファリンを考慮する。4)膜性増殖性糸球体腎炎膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)はまれな疾患であるが、腎生検の6%を占める。光学顕微鏡所見上、糸球体係蹄壁の肥厚と分葉状(lobular appearance)の細胞増殖病変を呈する。係蹄の肥厚(基底膜二重化)は、mesangial interpositionといわれる糸球体基底膜(GBM)と内皮細胞間へのメサンギウム細胞(あるいは浸潤細胞)の間入の結果である。また、増殖病変は、メサンギウム細胞の増殖とともに局所に浸潤した単球マクロファージによる管内増殖の両者により形成される。確立された治療法はなく、メチルプレドニゾロンパルス療法に加えて、免疫抑制薬(シクロホスファミド)の併用の有効性が、観察研究で報告されている。4 今後の展望ネフローゼ症候群の原因はいまだに不明な点が多い。これらの原因因子を究明することが重要である。膜性腎症の1つの原因因子であるPLA2R自己抗体は、膜性腎症の発見から50年の歳月をかけて発見された。5 主たる診療科腎臓内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本腎臓学会ホームページ エビデンスに基づくネフローゼ症候群診療ガイドライン2014(PDF)(医療従事者向けの情報)日本腎臓学会ホームページ ネフローゼ症候群診療指針(完全版)(医療従事者向けの情報)進行性腎障害に関する調査研究班ホームページ(医療従事者向けの情報)難病情報センターホームページ 一次性ネフローゼ症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)厚生労働省「進行性腎障害に関する調査研究」エビデンスに基づくネフローゼ症候群診療ガイドライン作成分科会. エビデンスに基づくネフローゼ症候群診療ガイドライン2014.日腎誌.2014;56:909-1028.2)厚生労働省難治性疾患克服研究事業進行性腎障害に関する調査研究班難治性ネフローゼ症候群分科会編.松尾清一監修. ネフローゼ症候群診療指針 完全版.東京医学社;2012.3)今井圓裕. 腎臓内科レジデントマニュアル.改訂第7版.診断と治療社;2014.4)Shiiki H, et al. Kidney Int. 2004; 65: 1400-1407.5)Ronco P, et al. Nat Rev Nephrol. 2012; 8: 203-213.6)Beck LH Jr, et al. N Engl J Med. 2009; 361: 11-21.公開履歴初回2013年09月19日更新2016年02月09日

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