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ザ・サークル【「いいね!」を欲しがりすぎると?(承認中毒)】Part 1

今回のキーワード承認欲求自信(自己効力感)自尊心(自己有用感)仲間意識(同調)自尊心(自己肯定感)「SNS疲れ」自己受容自己実現皆さんは、SNSで「いいね!」をたくさんもらいたいですか? フォロワーをもっと増やしたいですか? もちろんより多くの人の支持があれば、それはそれでうれしいでしょう。ただし、「いいね!」を欲しがりすぎたら、どうなるでしょうか? 逆に、「いいね!」がもらえないことで気に病んでしまったら? そして、「いいね!」の数が唯一の目的になってしまったら?「いいね!」をもらうのは、自分の価値が認められるという承認です。そして、承認を欲しがるのは、承認欲求です。なぜ承認を欲求するのでしょうか? そもそもなぜ承認欲求は「ある」のでしょうか? そして、承認欲求にどうすれば良いのでしょうか?これらの答えを探るために、今回は、映画「ザ・サークル」を取り上げます。この映画を通して、承認の心理を進化心理学的に、そして文化心理学的に掘り下げます。そして、より良い承認欲求のあり方を一緒に考えてみましょう。なんで「いいね!」を欲しがるの?舞台は、ザ・サークルという名の巨大SNS企業。この会社の新入社員のメイは、もともとプライベートを大事にする地味で真面目な田舎育ちの優等生。そんな彼女が、とある事件をきっかけに、新サービス「シーチェンジ」の実験モデルに大抜擢されます。「シーチェンジ」とは、あらゆる場所に設置された超小型監視カメラによって、人々の私生活を生配信するものです。彼女は、トイレ・入浴と睡眠を除くすべてのプライベートを24時間公開することによって、フォロワー1,000万人を超えるアイドルになっていくのです。まず、メイの言動から、承認欲求の心理を3つに分けてみましょう。(1)自信が高まるメイは、「シーチェンジ」によって、日々多くの励ましのコメントが寄せられることで、社内ミーティングで積極的に発言し、ステージでスピーチをするようになります。1つ目は、自信(自己効力感)が高まることです。自己効力感とは、自分はものごとをやり遂げることができると感じることです。これは、ポジティブなことを言われると、美味しいものを食べた時と同じように、ドパミンが活性化して快感が得られるからです(社会的報酬)。そして、そのポジティブさを生かすことに目が向き、積極的になっていくからです(ピグマリオン効果)。なお、この詳細については、関連記事1をご参照ください。 (2)自尊心が高まるメイは、「シーチェンジ」によって、日々多くの共感のコメントが寄せられることで、多くの人から気にされている、愛されていると思うようになります。2つ目は、自尊心(自己有用感)が高まることです。自己有用感とは、他人の評価によって自分は大切にされていて大丈夫と感じることです。これは、自分の味方がいることで、子どもが母親に抱かれた時と同じように、オキシトシンが活性化して安心感が得られるからです(愛着形成)。なお、この詳細については、関連記事2をご参照ください。 (3)仲間意識が高まるメイは、「シーチェンジ」によって、発言するたびに多くのコメントが返ってくることで、全世界のフォロワーとつながっていると思うようになります。3つ目は、仲間意識(同調)が高まることです。同調とは、周りに調子を合わせることです。これは、同じものを見続けることで、同じ場所で同じ格好で同じ動きをするのと同じように、ドパミンとオキシトシンが活性化して連帯感が得られるからです。なお、この詳細については、関連記事3をご参照ください。 「いいね!」を欲しがりすぎると?承認欲求の心理は、自信、自尊心、仲間意識がそれぞれ高まることが分かりました。それでは、承認欲求が行きすぎると、どうなるでしょうか? ここから、承認欲求の危うさを大きく3つ挙げてみましょう。(1)とらわれるメイは、幹部ミーティングで「世界中のすべての人がサークルに加入して、すべてのサービスや支払いを一元化する」「選挙も義務化してオンライン化する」「このインフラは、政府にはないけどサークル社にはある」「国民の意思が一瞬にして分かる。これが真の民主主義です」と言い切ります。彼女は、サークル社とサークル会員のために良かれと思い、過激な発言をするようになります。1つ目は、承認を求めるあまりにとらわれることです(過剰適応)。承認による自信(自己効力感)は、裏を返せば、期待に応えられない自分は認められないと思い込む危うさがあります。ちなみに、この心理が巧みに利用されてしまうのが、官僚の「忖度」です。(2)とりつくろうメイの同僚のアニーは、もともと親友でしたが、メイがアイドルになっていくにつれて嫉妬し、関係がぎくしゃくしていきます。2人は、その状況を見られたくないと思い、「シーチェンジ」が行き届かないトイレの中でこそこそと話をします。メイは、自分のすべてを見せると言っておきながら、見せたい自分だけしか見せていないのでした。2つ目は、承認を求めるあまりにとりつくろうことです(演技性)。承認による自尊心(自己有用感)は、裏を返せば、イケていない自分は愛されないと思い込む危うさがあります。ちなみに、この心理が巧みに利用されてしまうのが、盛れるカメラアプリや「いいね!」の数の売買です。(3)流されるメイの幼なじみのマーサーは、メイと対照的に、SNSとは距離を置き、地元で素朴な生き方をしていました。しかし、彼は、自分がつくった鹿の角のシャンデリアの写真をメイに無断でSNSに投稿されたことにより、「鹿殺し」の汚名を着せられ、殺人の脅迫メールまで送りつけられるようになります。マーサーは、メイに「構わないでくれ」と言い、その後は音信不通になっていました。しかし、メイは、「シーチェンジ」を駆使して行方不明者の居場所を特定する新しいサービスをプレゼンする中、マーサーの居場所を特定するよう観衆からいっせいにコールがかけられます。彼女は断りきれず、結果的にマーサーをさらに追い詰めてしまうのです。3つ目は、承認を求めるあまりに流されることです(依存性)。承認による仲間意識(同調)は、裏を返せば、違う意見を言う自分は仲間になれないと思い込む危うさがあります。ちなみに、この心理が巧みに利用されてしまうのが、「ほめ殺し」です。「承認中毒」とは?承認欲求の危うさは、とらわれる、とりつくろう、流されることであることが分かりました。「認められたい」という欲求が「認められなければならない」という不安にすり替わっています。つまり、根っこの心理は、承認が得られなくなることへの不安です。また、仲間同士で「いいね!」をし合う中、「いいね!」をしたいという喜びが「いいね!」をしてあげなければならないという苦痛にすり替わってしまう危うさもあります。いわゆる「SNS疲れ」です。さらに、「いいね!」数やフォロー数を増やすだけのために、本当はフォローや「いいね!」をするつもりがない相手でも、とりあえず仲間になり、お互いに「いいね!」やフォローをし合うというテクニックも広がっています。こんなことをしていたら、ますます時間をとられて苦痛を感じるでしょう。そうなると、もはや本心でもなく、本来の自分でもなくなってしまいます。そもそも「いいね!」をもらうのは、何かを伝えるという目的のためのフィードバック、つまり手段であるはずです。その手段がすべてになってしまい、目的を見失っています。これは、よくある「手段の目的化」という心理です。このように、承認にすがり無理をしていると分かっていても、承認欲求をやめられない、やめようとしない状態は、「承認中毒」と言えるでしょう。なぜなら、アルコールやギャンブルと同じ「中毒」(アディクション)の要素が根っこにあるからです(嗜癖性障害)。さらに、「承認中毒」で「自家中毒」を引き起こす場合があります。それは、「自分を見てもらえるなら何だってよい」「とにかくみんなに自分のことを分かってほしい」という心理です。たとえば、「私は発達障害なんです」「私は非モテなんです」「私は虐待されてきました」と自分の病気や不遇ばかりをSNSで過剰に自己開示することです。いわゆる「不幸自慢」です。確かに、自分語りは自助グループなどで集団療法としての効果はあります。ただし、自分語りは、自分を客観視することで幸せになるための手段であって、目的そのものではないです。ちなみに、この心理が巧みに利用されているのが、「居場所ビジネス」や「毒親ビジネス」などのカウンセリングビジネスです。なお、この詳細については、関連記事4をご参照ください。 次のページへ >>

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ザ・サークル【「いいね!」を欲しがりすぎると?(承認中毒)】Part 2

なんで承認欲求は「ある」の?これまで、なぜ承認を欲求するのかという疑問にお答えしました。それでは、そもそも、なぜ承認欲求は「ある」のでしょうか? ここから、承認欲求の心理の起源を、3つに分けて、進化心理学的に探ってみましょう。(1)自尊心約2億年前に哺乳類が誕生してから、子どもはその母親からの乳によって育てられるように進化しました。母親の授乳によって、子どもは特定の相手とつながりたいという感覚が生まれます。これが、愛着の起源です。この愛着が高まるのは、愛情を注ぐ母親(人類では父親も)と愛情を浴びる子どもの脳内のオキシトシンが連動して活性化する時であることが分かっています。子どもは、親から無条件に守られていることによって、無条件に自分は大切にされていると感じるようになります。これが、自己肯定感の起源です。約700万年前に人類が誕生し、夫婦が性別役割分業によって助け合うようになりました。約300万年前にアフリカの森からサバンナに出てから、家族を中心とする親族同士で助け合い、部族(集団)をつくるようになりました。すると、オキシトシンは、親子や夫婦の愛着だけでなく部族の絆を強める役割も果たすようになりました。こうして、人類は助け合うという条件付きで自分は大切にされていると感じるようにもなります。これが、自己有用感の起源です。1つ目は、自尊心(自己有用感)です。なお、この自己有用感と自己肯定感を合わせて自尊心(自尊感情)と言います。2つとも自分は大丈夫と感じる安心感という点では同じですが、自己有用感が他人の評価による条件付きの安心感であるのに対して、自己肯定感はあくまで自分自身の評価による無条件の安心感であるという点で違います。全体的な関係性については、以下の表1をご参照ください。(2)自信約300万年前に人類が部族で助け合う仲間であると認識したときに、ドパミンが活性化して心地良く感じるようにも進化しました。これが、社会的報酬の起源です。「好きだから助け合える」とよく言われます。しかし、社会的報酬の心理メカニズムを踏まえると、逆です。むしろ「助け合うと思うから好きになる」のです(魅力の返報性)。こうして、人類は仲間から役に立つと認められていると感じるようになります。これが、自己効力感の起源です。2つ目は、自信(自己効力感)です。(3)仲間意識約300万年前に人類が部族(集団)で一致団結したとき、オキシトシンとドパミンが活性化するように進化しました。そして、部族内で立場的に弱い人が強い人に、そして少数派が多数派に合わせるようになります。これが、同調の起源です。3つ目は、仲間意識(同調)です。このように、承認による自尊心、自信、仲間意識の働きによって、部族として生き残り、子孫を残しました。つまり、承認欲求が「ある」のは、生存や生殖に適応的だったからである言えるでしょう。なんで承認欲求は高まっているの?これまで、なぜ承認欲求は「ある」のかという疑問にお答えしました。それにしても、なぜ承認欲求は高まっているのでしょうか? 今度は文化心理学的に考えてみましょう。約20万年前に現生人類(ホモ・サピエンス)が誕生し、喉(のど)の進化によって、複雑な発声ができるようになり、言葉を話すようになりました。そして、約10万年前には、言葉によって抽象的思考ができるようになってから、信頼の証(承認)として貝の首飾りをプレゼントするようになりました。約5千年前に貨幣が発明されてから、感謝の証(承認)としてお金を支払うようになりました。実際に、お金関係の多くの漢字、たとえば、「財」「贈」「買」「貧」などの部首に「貝」があるのは、貝の首飾りに由来していると考えられます。こうして、単純にお金が増えることが、承認欲求を満たすことになっていました。そんな中、ついに2000年代になり、SNSという新たな「承認装置」が発明されてしまいました。ここから、その特徴を3つ挙げてみましょう。(1)承認が数値化される1つ目は、承認が数値化されることです。それまで、承認は、言葉、手紙、報酬金などの形に限られていました。ところが、SNSによって、承認が「いいね!」数、フォロワー数、再生回数、コメント数などがリアルタイムで細かくカウントされるようになりました。このような刺激によって、承認欲求がますます高まっていくのです。(2)承認が簡便化される2つ目は、承認が簡便化されることです。それまで、承認は、わざわざ面と向かって言葉にしたり、文章にしたり、金品を渡すなどの形に限られていました。ところが、SNSによって、承認がクリック1つでできるようになりました。このようなお手軽さによって、承認欲求がますます高まっていくのです。(3)承認が公表化される3つ目は、承認が公表化されることです。それまで、承認は、口コミなどの評判や公の場で表彰されるなどの形に限られていました。ところが、SNSによって、承認が誰でも見えてしまうようになりました。そして、その承認の数を見比べられるようになり、社会に根付くようになりました。たとえば、それがカスタマーレビューの星の数です。この数が多いだけでますます選ばれ、少ないだけでますます選ばれなくなってしまいます。このような比較によって、承認欲求がますます高まっていくのです。なお、承認の逆は、バッシングです。SNSの時代、「承認中毒」と並んで注目されているのが、バッシングによる「正義中毒」です。この詳細については、関連記事5をご参照ください。 承認欲求にどうすればいいの?承認欲求が高まっている原因は、SNSという画期的な「承認増幅装置」が発明されてしまったからであることが分かりました。そもそも私たちの承認欲求は、約300万年間の進化の歴史によって最適化された心(脳)によるものです。そんな私たちの心(脳)は、SNSという「劇薬」によって簡単に「中毒症状」が出てしまうと言えるでしょう。それでは、そんなSNSによる劇的な社会構造の変化の中、私たちは承認欲求にどうすればいいでしょうか? メイの幼なじみのマーサーの生き方を参考に、対策を3つ挙げてみましょう。(1)自分の生き方を受け入れる-自己受容マーサーは、メイから「(SNSで)社交的じゃないなら救いようがないわ」と言われて、「おれは十分社交的だよ。こうやって話してるじゃないか」と言い返します。マーサーは、SNSとは距離をとり、素朴に生きることを納得してブレていないです。1つ目は、自分の生き方を受け入れることです。これは、メイのような他人の承認による自己有用感ではなく、自分の承認、つまり自己受容による自己肯定感によって、自尊心を安定させることです。すると、他人の承認に惑わされなくなるでしょう。その具体的な取り組みとして、マインドフルネスが挙げられます。この詳細については、関連記事6をご参照ください。 (2)自分の生き方を目指す-自己実現マーサーは、メイから「秘密のハイキングコースを(SNSの)みんなに教えてあげて」と言われて、「そんなことをしたら、自然破壊だよ」と言い返します。マーサーは、自然を愛し、のこぎりと木で物を作ることを生業にしています。彼がいる山小屋には作品の材料がたくさんありました。2つ目は、自分の生き方を目指すことです。これは、メイのようにただ承認されることではなく、本当は自分がどうなりたいか、つまり自己実現を一番に考えることです。すると、他人の承認に惑わされないなくなるでしょう。その具体的な取り組みとして、アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)が挙げられます。この詳細については、関連記事7をご参照ください。 (3)自分に必要な人間関係を選ぶ-質的な承認マーサーは、メイに「昔は自然の中で一緒に大冒険をしたのに。今はフィルター越しでしかきみと会えない」「きみの(SNSの)世界の一部になりたくない」と言い切り、別れを告げます。マーサーは、メイと価値観が合わなくなったと悟ったのでした。3つ目は、自分に必要な人間関係を選ぶことです。これは、メイのように誰とでもつながる表面的で薄い人間関係ではなく、特別で深い人間関係を見極めることです。つまり、量的な承認ではなく、質的な承認です。すると、承認の数に惑わされなくなるでしょう。その具体的な取り組みとして、対人関係療法が挙げられます。ザ・サークルとは?「サークル」とは、映画の中の企業名でしたが、もともと「仲間の輪」という意味合いがあります。ストーリーの後半でメイは、「全人類がサークル社に加入し、1つにつながる」という壮大なプロジェクトのリーダーになります。そんな「仲間の輪」が広がった世界はどんなものでしょうか? それは、人々が、周りの目ばかりを気にして自分がなくなり、見せかけばかりを気にして中身がなくなり、調子を合わせてばかりで自由がなくなる窮屈なムラ社会でしょう。この「仲間の輪」の危うさに気づいた時、私たちは、より良い承認欲求のあり方を理解することができるのではないでしょうか?1)「承認欲求」という呪縛:太田肇、新潮新書、20192)「Z世代」若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?:光文社新書、20203)承認をめぐる病:斎藤環、ちくま文庫、2016<< 前のページへ■関連記事恥ずかしいけど口に出したら幸せになるカード【これで「コロナ離婚」しなくなる!(レクリエーションセラピー)】Part 1Mother(中編)【母性と愛着】告白【いじめ(同調)】Part 1M-1グランプリ(続編・その2)【ツッコミから学ぶこれからのセラピーとは?】Part 1苦情殺到!桃太郎(前編)【なんでバッシングするの?どうすれば?(正義中毒)】Part 1「ZOOM」「RE-ZOOM」【どうキレキレに冴え渡る?(マインドフルネス)】Part 1テネット【なんで時間を考えるのが癒しになるの?(アクセプタンス&コミットメント・セラピー[ACT])】Part 1

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あなたには帰る家がある(後編)【なんで倦怠期は「ある」の?どうすればいいの?】Part 1

今回のキーワード絆の強さ(愛着スタイル)生殖戦略世代間連鎖男女平等(男女共同参画)アサーション夫婦間のSST共働きと共子育て「屋上付きの2階建て」そもそもなんで倦怠期は「ある」の?倦怠期になる原因は、不安定なコミュニケーションスタイル(愛着スタイル)、男女の脳機能の違い(システム化と共感性)、男女の社会的な役割の違い(ジェンダーギャップ)であることが分かりました。それでは、そもそもなぜこの3つの原因は「ある」のでしょうか? ここから、3つの原因の起源を進化心理学的に、そして文化心理学的にそれぞれ探ってみましょう。(1)男女の脳機能の違いの起源-生存と生殖に適応的だったから約700万年前にチンパンジーと共通の祖先が、二足歩行をするようになり、人類が誕生しました。この時に、手が自由になり、獲った食料を持ち歩けるようになりました。そして、男性は、日々食料を確保し、女性と分け合い、そのお返しとして、女性がその男性とセックスして、生まれた子どもを育てるようになりました。これが、性別役割分業の起源です。この時、食料を毎回取ってこれる男性が、女性に選ばれるでしょう。よって、生き残り子孫を残す男性の心理は、どうやって得るか、そして何を得るか、つまり理屈(論理)と結果です。これが、システム化の起源です。一方で、子どもを生んで無事に育てる女性が、男性に選ばれるでしょう。よって、生き残り子孫を残す女性の心理は、見た目や肌の美しさ(感染症の兆候がないこと)という身体的な特徴に加えて、子ども(相手)の気持ちにどう応えるか、そしてどうやって一緒にいるか、つまり情緒(感情)や関係性(プロセス)です。これが、共感性の起源です。つまり、男女の脳機能の違いが「ある」は、生存と生殖に適応的だったからであると言えるでしょう。(2)不安定な愛着スタイルの起源-生殖に適応的だったから約700万年前に人類が性別役割分業をするのと同時に、特定の男性と特定の女性がセックスをするようになりました。これが、一夫一妻型(制)の起源です。約300万年前に人類が家族を中心とした血縁集団の部族をつくるようになりました。そして、助け合うと、オキシトシンとあいまってドパミンが活性化して心地良く感じるようにもなりました。これが、絆(愛着スタイル)の起源です。これは、前編でご紹介した同調性にもつながります。夫婦は「好きでい続けるから助け合える」と思われがちですが、実は逆です。夫婦は「助け合うから好きでい続ける」のです。ただし、これは安定型の愛着スタイルの話です。一方、夫婦のどちらか、とくに両方の愛着スタイルが不安定な場合、子どもが身体的に自立する4歳以降、つまり子育てが一段落する結婚4年目以降に、倦怠期になり、離婚と再婚が繰り返されることが促進されます。すると、異なる夫婦関から生まれる子孫は、遺伝子をより多様に残せます。この子孫は、多様な免疫力を持っている点で、倦怠期にならない夫婦から生まれる子孫よりも、生存の適応度を高めます。もちろん、夫婦として幸せかどうかは別問題です。つまり、不安定な愛着スタイルが「ある」のは、生殖に適応的だったからです。これは、不倫の心理にもつながる生殖戦略です。なお、不倫の心理の詳細については、関連記事7をご参照ください。もちろん、愛着スタイルは、遺伝的に受け継がれるだけでなく、文化的にも受け継がれます(世代間連鎖)。ガミガミ型(不安型)やヘコヘコ型(回避型)の不安定な愛着スタイルの両親から生まれる子どもたちは、前編のストレンジ・シチュエーション法でご説明したとおり、気まぐれで一貫していない愛情(不安型)や、一貫して乏しい愛情(回避型)を親から受け取ることになるというわけです。なお、そんな子どもたちは、不安定なもともとの家族から逃れるため、早期に結婚して新しい家族をつくる生殖戦略をとります。この戦略は、その後に離婚と再婚を繰り返すことも含めて、やはり生殖の適応度は高いと言えるでしょう。 (3)ジェンダーギャップの起源-近代社会に適応的だったから約1万数千年前に現生人類が農耕牧畜をするようになりました。一家総出で田畑や牧場で働く生活スタイルになり、性別役割分業は、いったん目立たなくなりました。しかし、200年前の産業革命から、夫が働いた給料で女性が働かなくてもすむようになり、子育てと家事に専念する専業主婦が生まれ、性別役割分業が逆に際立っていきました。これが、ジェンダーギャップの起源です。つまり、ジェンダーギャップが「ある」のは、近代社会に適応的だったからです。しかし、20世紀後半の情報革命から、男女平等(男女共同参画)が高まり、世界的にはジェンダーギャップは小さくなってきました。しかし、日本をはじめとする東アジアでは、もともと上下関係に馴染みやすい集団主義の文化(権威主義的パーソナリティ)が根付いていました。男尊女卑はその代表です。そのため、日本はジェンダーギャップへの対策は、大きく出遅れています。なお、権威主義的パーソナリティの詳細については、関連記事8をご参照ください。 次のページへ >>

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イエスマン(後編)【日本人ならではの幸福感とは?(幸福感の心理)】Part 1

今回のキーワード幸福感(主観的ウェルビーイング)ポジティブ率セットポイント代償(トレードオフ)ミニマリスト幸福感学習性楽観学習性無力感マインドフルネス【前編】では、ポジティブさもネガティブさも、それぞれメリットとデメリットがあることが分かりました。幸せかどうかという視点に立つと、ネガティブ過ぎれば、明らかに幸福感は低くなります。実際に、幸福度における日本の世界順位は概ね50位圏外で、中・下位です。一方、ポジティブ過ぎれば、一見、幸福感は高まりそうです。しかし、そうではないようです。実際に、幸福度におけるアメリカの世界順位は20位程度で、最上位とは言えないです。つまり、ポジティブ過ぎても幸福感は高まらないと言えます。そもそも、幸せを感じるとはどういうことでしょうか? そして、日本人が幸せを感じるにはどうすれば良いでしょうか? これらの答えを探るために、今回も、映画「イエスマン」を取り上げます。この映画を通して、幸福感を行動遺伝学的にも解き明かします。そして、日本人ならではの幸福感について一緒に考えてみましょう。 幸せを感じるとは?-幸福感を左右する心理それでは、幸せを感じること、つまり幸福感(主観的ウェルビーイング)幸福感(主観的ウェルビーイング)を左右する心理を3つ挙げてみましょう。(1)良いことより悪いことは強い-ネガティビティ優勢性1つ目は、良いことより悪いことは強く感じることです。これは、ポジティブな体験よりも、ネガティブな体験はインパクトが強く影響を受けやすい心理です(ネガティビティ優勢性)。この訳は、脳科学的に言えば、ポジティブな体験がドパミンによる報酬である一方、ネガティブな体験はノルアドレナリンによる恐怖だからです。たとえば、ドパミンによる学習効果(ほめ)は即効性がなく繰り返す必要がありますが、ノルアドレナリンによる学習効果(叱り)は即効性があることが分かっています。この詳細については、末尾の関連記事2をご参照ください。進化心理学的に言えば、報酬は1回なくてもすぐに飢え死にすることはないですが、恐怖は1回だけでも死につながります。この点で、哺乳類の記憶学習のメカニズムである夢やフラッシュバックが基本的にネガティブなものであることも納得が行くでしょう。また、人が、良い噂よりも悪い噂に敏感であることや、良い印象よりも悪い印象を覆しにくいこと(印象形成のバイアス)にも納得するでしょう。つまり、ネガティブな体験のインパクト(質)が強いからこそ、人はポジティブな感情や行動の数(量)で対抗してバランスをとる心理を生存戦略として身に付けたと言えます。言い換えれば、人は、不幸がいきなりやって来るから、それを乗り越えるために、幸せをこつこつ追い続けていると言えるでしょう。実際に、ポジティブ心理学の研究(フレドリクソン)によると、ポジティブな感情とネガティブな感情の比の黄金比は3対1(ポジティブ率75%)であるという結果が出ています。また、カップルなどの親密な関係における研究(ゴッドマン)によると、ポジティブな行動とネガティブな行動の「魔法の比率」は5対1(ポジティブ率83%)であるという結果が出ています。なお、この記事のポジティブ率とは、ポジティブな感情の頻度(P)を、ポジティブな感情の頻度(P)とネガティブな感情の頻度(N)で割った値(P/P+N)とします。(2)良いことも悪いこともなければマシ-ポジティビティ補正2つ目は、良いことも悪いこともなければ、自分はマシ(まだ良い)と感じることです。これは、ポジティブ体験もネガティブ体験もない時は、人はポジティブな感情を軽く抱く心理です(ポジティビティ補正)。この訳は、脳科学的に言えば、ポジティブな感情は、ドパミンによる報酬(社会的報酬を含む)だけでなく、オキシトシンによる愛着・絆によるものでもあることが考えられます。オキシトシンは、それ自体に学習効果は(行動変容)ないですが、見守られている自尊心からポジティブな感情を維持できます。この詳細についても、末尾の関連記事2をご参照ください。進化心理学的に言えば、人は、原始の時代から、愛着・絆によって、ネガティブな感情よりもポジティブな感情を少しだけでも保つ心理を生存戦略として身に付けたのでしょう。つまり、人はもともと軽く幸せであると言えます(ポジティブ率50%+α)。ちなみに、このマシと思う心理は、自分は人と比べてもマシという心理(平均以上効果)や、何となくうまくいく気がするという心理(ポジティブバイアス)につながります。 (3)良いことも悪いことも長続きしない-感情減衰バイアス3つ目は、良いことも悪いことも長く感じ続けることはないことです。これは、ポジティブ体験もネガティブ体験も、時間とともにそのインパクトが目減りする心理です(感情減衰バイアス)。この訳は、脳科学的に言えば、一般的な記憶のメカニズムで説明できます。たとえば、受験に合格した時や失恋した時の感情の経過を想像すれば分かりやすいでしょう。進化心理学的に言えば、快感が持続してしまったら、食べる快感やセックスする快感を得るための行動づけや動機づけが行われなくなり、生存や生殖をしなくなるからです。つまり、人は、幸せがだんだん薄れるから、幸せをこつこつ追い続けていると言えるでしょう。どんなに恵まれた環境であっても、 慣れて飽きてくるというわけです。これは、下りのエレベータを上り続けている状況に例えられます(ヘドニックトレッドミル現象)。また、これは「楽あれば苦あり」「禍福はあざなえる縄のごとし」という日本のことわざに通じます。残念ながら、人は幸せになるように遺伝的にプログラムされていないということです。遺伝的にプログラムされているのは、人が幸せを追い続けることです。なお、つらいことも時間が経てば笑い話になるとよく言われます。これは、深刻さのインパクトが時間の経過によって失われるからであると説明できるでしょう。また、「昔は良かった」「古き良き時代」「最近の若者は」という言い回しは、ネガティブ体験のインパクトが失われた過去とまだインパクトが失われていない現在を比べた時の心理状態と考えると納得がいくでしょう(記憶の楽観性)。実は幸福感は遺伝的に決まっている!?幸福感(主観的ウェルビーイング)を左右する3つの心理から、人は、もともと軽く幸せですが、不幸がいきなりやって来るから、そして幸せがだんだん薄れるから、幸せをこつこつ追い続けていることが分かりました。では、「もともと幸せ」ということは、幸福感は、実は最初から決まっているのでしょうか? ここから、この答えを3つのポイントに分けて、行動遺伝学的に考えてみましょう。なお、幸福感の起源については、末尾の関連記事3をご覧ください。 (1)個人差双子研究から、幸福感の遺伝率は約50%であることが分かっています。言い換えれば、幸福感の半分の要素は、やはりもともと遺伝的に決まっています。これは、セットポイントと呼ばれます。ここで、幸福感を「体温」に例えてみましょう。すると、このセットポイントは「基礎体温」です。ネガティブな体験は「吹雪」、ポジティブな体験は「マッサージ」です。もし「吹雪」に1回襲われたら、「体温」が下がります。よって、「体温」を保つために、「マッサージ」を繰り返しやるのです。愛着・絆は、「基礎体温」を安定させる「防寒具」です。もちろん「防寒具」があれば、その分「吹雪」に耐えられます。逆に、家族との死別や離婚などによって「防寒具」が薄くなったら、その分「吹雪」に耐えられなくなります。ただし、「防寒具」に頼り過ぎると、「マッサージ」をするのを怠り、その「防寒具」が分厚くなる共依存やひきこもりのリスクがあります。なお、「マッサージ」と「防寒具」は体温を下げない点では同じですが、「マッサージ」が断続的であるのに対して「防寒具」は持続的であるとイメージすると分かりやすいでしょう。1つ目は、個人差です。人によって「基礎体温」がそれぞれ違うように、幸福感のセットポイントはそれぞれ違うと言えます。たとえば、基礎体温が35℃台の「寒がり」の人や37℃近い「暑がり」の人がいるように、幸福感を左右するポジティブ率が50%台のネガティブな人や70%近いポジティブな人がもともといると言えます。(2)年齢差幸福感の遺伝率は、対象期間が長くなればなるほど高まり、最終的には80%になることが分かっています。つまり、幸福感は、高齢になるとセットポイントに回帰して行くということです。よくよく考えると、若い頃は、活力に満ち溢れ、チャレンジ精神で革新的になります。その分、ポジティブ率は高いです。確かに、そのままうまく行けば、幸福感も高まるでしょう。ただし、チャレンジに失敗したら、ネガティブな体験を味わうので、結果的に幸福感は下がってしまいます。このように、若年期は、幸福感の振れ幅が大きくなります。これは、ポジティブ率が高過ぎることによる代償(トレードオフ)です。一方、歳を重ねると、活力が枯れしぼみ、これまで自分が得た家族や財産(リソース)を守ろうと保守的になります。すると、その分のポジティブ率が上がりません。もちろん、リスクを踏まないので、ネガティブな体験もありません。こうして、その人のもともとの幸福感が露わになっていくというわけです。例えるなら、先ほどの「体温」に影響する「吹雪」も「マッサージ」もなくなり、「体温」が「基礎体温」と同じになるということです。2つ目は、年齢差です。年齢によって「体温」がそれぞれ違うように、同じ人でも年齢によって幸福感はそれぞれ違うと言えます。高齢者の心理として見れば、猜疑的になる人と多幸的になる人がそれぞれいるのは、このセットポイントへの回帰が示唆されます(パーソナリティの先鋭化)。(3)人種差(文化差)ものごとを自分で判断できるという状況は、アメリカ人にとってはポジティブな体験です。しかし、日本人にとっては必ずしもそうではありません。なぜなら、日本人は、もともとの不安な気質から指示待ちすること好み、逆に自分で判断することがストレスになりうるからです。しかも、自分で判断したら、周りから「出しゃばり」「調子に乗っている」と思われ、ネガティブな体験をするリスクもあります。逆に、何もしなかったり変わらないことで、周りとの調和を生み出して、ポジティブな体験をすることもあります(ミニマリスト幸福感、協調的幸福感)。また、日本人の平均寿命の世界順位が最上位であることは、身体的な健康として誇るべきことです。つまり、幸福感の物差しは1つではないということです。この点で先ほど紹介した幸福感をランキングすることには、その評価基準に限界があるでしょう。一方で、アメリカ人はポジティブ率がとても高いのに、実際にはアメリカはストレス大国と言われています。このストレスは、先ほどの年齢差の説明でも登場したポジティブになることの代償(トレードオフ)です。例えるなら、日本人はもともと「基礎体温」が低い「寒がり」です。そして「心の風邪」であるうつ病になりやすいです。かと言って、「マッサージ」を無理にすることは、もっと「吹雪」を招くおそれがあるため、そう簡単に「暑がり」にはなれないと言えます。一方、アメリカ人はもともと「基礎体温」が高い「暑がり」です。その代償として、「心の肥大」である肥満や浪費の問題が起きやすくなると言えます。3つ目は、人種差(文化差)です。人種や文化によって「寒がり」だったり「暑がり」だったりするように、相互作用を起こす人種(遺伝)と文化(環境)によって幸福感はそれぞれ違うと言えます。たとえば、もともと「基礎体温」が35℃後半(ポジティブ率50%後半)の文化圏の人が、先ほどの理想とされるポジティブ率75%や83%にまで達する必要は必ずしもないと言えるでしょう。次のページへ >>

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恥ずかしいけど口に出したら幸せになるカード【これで「コロナ離婚」しなくなる!(レクリエーションセラピー)】Part 2

なんで幸せになりたいの?-幸福感はなんで「ある」の?そもそもなぜ幸せになりたいのでしょうか? あまりにも当たり前すぎて、考えたことがないかもしれません。幸せになりたいとは、幸福感を追い求めることです。つまり、言い換えれば、幸福感(主観的ウェルビーイング)はなぜ「ある」のでしょうか? その答えは、進化心理学的に言えば、生存、生殖、社会性(包括適応度)を促進し、集団的により多くの遺伝子を残せるからであると言えるでしょう。ここから、幸福感の心理の起源を進化心理学的に5つの段階に分けて探ってみましょう。さらに、それぞれの段階にマズローの欲求5段階説とポジティブ心理学(セリグマンによる)の「幸せのための5つの条件(PERMA)」を重ね合わせてみましょう。(1)快感約10数億年前に太古の原始生物が海で誕生してから、臭いや見た目でエサを見つけたら、ドパミンが活性化することで、より覚醒して近付くように進化しました。これが、報酬の起源です。この報酬によって食欲や性欲などが満たされることで、快感が得られます。また、獲物を追って無我夢中になっている瞬間にも、先行的に快感が得られます(報酬予測)。これは、擬似的な「狩り」「戦い」「冒険」であるスポーツや旅行にも通じます。やっているそれ自体が楽しいのです。1つ目の段階は、快感です。これは、マズローの1段目の「生理的欲求」に重なります。ポジティブ心理学では、「没頭(Engagement)」に重なります。さらには、「フロー」(チクセントミハイ)という概念にも重なります。なお、快楽の心理の詳細については、末尾の関連記事2をご参照ください。(2)安全感約5億年前に魚類が誕生し、海の中を動き回るようになってから、天敵からいち早く逃げるために、警戒センサー(扁桃体)が進化しました。これが、不安の起源です。この不安の感度が下がる、つまり不安を感じにくくなるのは、脳内のセロトニンの活性が高まっている時です。そして、この不安(危険)が少ないことで、安心・安全が得られます。2つ目の段階は、安全感です。これは、マズローのピラミッドの2段目の「安全欲求」に重なります。ポジティブ心理学では、はっきり当てはまるものはないです。(3)自尊心約2億年前に哺乳類が誕生してから、子どもはその母親からの乳によって育てられるように進化しました。子どもは、母親から無条件に守られます。この愛情によって、特定の相手とつながりたいという感覚が生まれます。これが、愛着の起源です。この愛着が高まるのは、愛情を注ぐ母親(人類では父親も)と愛情を浴びる子どもの脳内のオキシトシンが連動して活性化する時であることが分かっています。約700万年前に人類が誕生し、約300万年前にアフリカの森からサバンナに出てから、家族を中心とする親族の集団(部族)をつくるようになりました。すると、オキシトシンは、親子の愛着だけでなく部族の絆を強める役割も果たすようになりました。こうして、この愛着や絆によって、大切にされているという自尊心が得られるようになりました。3つ目の段階は、自尊心(自尊感情)です。これは、マズローの3段目の「愛情欲求、所属欲求」に重なります。ポジティブ心理学では、「関係性(Relation)」に重なります。(4)自信約300万年前に人類が部族で助け合う仲間であると認識したときに、ドパミンが活性化して心地良く感じるようにも進化しました。これが、社会的報酬の起源です。「好きだから助け合える」とよく言われます。しかし、社会的報酬の心理メカニズムを踏まえると、逆です。むしろ「助け合うと思うから好きになる」のです。これが、先ほどの魅力の返報性(互恵性)の起源です。この社会的報酬によって、仲間から役に立つと認められているという自信が得られます。4つ目の段階は、自信(自己効力感)です。これは、マズローの4段目の「承認欲求」に重なります。ポジティブ心理学では、「達成(Achievement)」に重なります。(5)自己実現約20万年前に現生人類(ホモ・サピエンス)が誕生し、複雑な発声ができるように喉(のど)の構造が進化しました。約10万年前から、言葉を使って、ものごとや出来事を関連付けたり、意味付けるようになりました。これが、概念化の起源です。この概念化によって、世界中の人たちや未来の子孫たちの幸せにも思いをめぐらすようになりました。すると、自尊心や自信を育む愛情や承認は、もはや受け取るものではなく、与えるものになります。そして、そこに幸福感を見いだすことができます。たとえば、それは、子育てや後進の育成、社会貢献をすることへの喜びです。これは、先ほど紹介した社会的な健康につながります。こうして、自分は最終的にどうなりたいのかという自分が生きる意味や生きた証を考えるようになりました。5つ目の段階は、自己実現です。これは、マズローの5段目の「自己実現欲求」に重なります。ポジティブ心理学では、「人生の意味(Meaning)」に重なります。さらには、「実存」という哲学用語にも重なるでしょう。 このカードゲームの使い道は?今回、カードゲームを通して、幸福感の起源まで迫りました。このカードゲームは、幸福感の大きな要素となる自尊心、自信、自己実現の心理を高めるセリフが盛り込まれています。このゲームは、ファミリーやカップルで楽しむだけでなく、夫婦カウンセリングやスクールカウンセリングでの「家族のルールづくり」(行動療法)のアイテムの1つとしても使うことができます。また、メンタルヘルス分野のデイケアのレクリエーションセラピーの1つとして使うこともできます。さらには、学校教育の分野や子育ての分野でも教材としても広く役立てることもできるでしょう。 ■関連記事ショーシャンクの空に【心の抵抗力(レジリエンス)】[改訂版]「カイジ」と「アカギ」(後編)【ギャンブル依存症とギャンブル脳】1)実践 ポジティブ心理学:前野隆司、PHP新書、20172)ポジティブなこころの科学:堀毛一也、サイエンス社、2019 << 前のページへ

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苦情殺到!桃太郎(前編)【なんでバッシングするの?どうすれば?(正義中毒)】Part 1

今回のキーワード炎上向社会性制裁(サンクション)「相対的獲得感」名誉毀損罪「過剰制裁」(オーバーサンクション)嗜癖性障害(アディクション)フリーライダー皆さんは、SNSのバッシングが目に余ると感じたことはありませんか? とくに、有名人による不正、不倫、不謹慎は、格好のターゲットになっています。バッシングとは、叩く、つまり過激に非難すること。そして、バッシングが大人数で殺到すれば、袋叩き、炎上と呼ばれます。なぜバッシングをするのでしょうか? なぜバッシングは「ある」のでしょうか? そして、なぜ日本的なバッシングはユニークなのでしょうか? どうすれば良いでしょうか? これらの答えを探るために、今回は、ACジャパンのCM「苦情殺到!桃太郎」を取り上げます。昔話の桃太郎をパロディ化して、ネットモラルの大切さをユーモラスに描いています。このCMを通して、バッシングの心理を脳科学的に、そして進化心理学的に掘り下げます。そして、より良いコミュニケーションのあり方を一緒に探っていきましょう。なぜバッシングをするの?このCMは、次のように始まります。「むかしむかし、あるところにおじいさんとおばあさんが幸せに暮らしていました」「ある日、おばあさんが川で洗濯をしていると、どんぶらこ、どんぶらこと大きな桃が(流れてきました)」。そして、「その桃を拾い上げると」というナレーションの後に、ツイッターのリプライが次々と画面上に流れていき、「批判の声が殺到しました」と続きます。ここから、その「批判の声」を3つの特徴に分けて、バッシングをする心理を脳科学的に解き明かしてみましょう。(1)正したい―正義感「窃盗だろw」「警察に届けないの?」「子供が真似したらどうするんだ」「ていうか、川で洗濯するなよ」「衛生上どうなの?」「雑菌だらけでしょ」「でも確かに美味しそうな桃ではある」「桃のステマじゃない?」1つ目の特徴は、正したいという心理です。確かに、コメント自体は正論です。それにしても、なぜそこまで正論を言いたがるのでしょうか? それは、世の中を良くしたい、世直ししたいという正義感が根っこにあるからです。この場合の正しさとは、社会秩序を維持するための正しさです。決して個人の自由を認める正しさではありません。確かに、このような監視の目によって、社会が一定の秩序を保ち、人と人がつながっている面はあるでしょう。脳科学的に考えると、この正義感(向社会性)は、オキシトシンという脳内物質との関係が指摘されています。オキシトシンは、もともと授乳を促す女性ホルモンですが、男性にもあることが分かっており、母子だけでなく、家族、共同体の絆を強めることが分かっています。(2)許せない―不安感「通報!通報!」「懲役何年?」「桃の気持ちを考えたことがあるのか!」「桃がカワイソス(´・ω・)」「桃農家さんのためにも抗議だ!」「電話で抗議しよう」「ほかにも何か悪いことしてるんじゃない?」「常識なさそうだもんね。」2つ目の特徴は、許せないという心理です。確かに、架空のおばあさんにそこまで許せないと憤るのは、滑稽です。これが、このCMのユーモラスな点です。しかし、たとえばこれが有名人の違法ドラッグや不倫などの現実の出来事だったら、どうでしょうか? きっとこれらのコメントで生々しく炎上するでしょう。それでは、なぜそこまで許せないのでしょうか? そのことで、自分に直接被害がないにもかかわらずです。そして、コメントして自分に得にならないにもかかわらずです。むしろ、自分が労力(コスト)をかけている点で損をしているにもかかわらずです。それは、世の中が乱れる、つながりが失われることへ不安感が根っこにあるからです。脳科学的に考えると、この不安感は、セロトニンという脳内物質との関係が指摘されています。セロトニンが不足すると、不安だけでなく、間違いへとらわれ(強迫)、マイナス思考(うつ)を強めます。さらには、不安定な状況やリスクへの敏感さをも強めることが分かっています。(3)裁きたい―快感「謝罪会見マダー」「早く謝ってください」「謝っても許さないけどね」3つ目の特徴は、裁きたいという心理です。本来裁くのは、個人ではなく、社会システムである司法のはずです。または、当事者同士の話し合いで解決するはずです。そもそも裁くこと自体も労力(コスト)がかかります。それなのに、なぜ裁きたいのでしょうか? それは、「世の中を乱す人」を捕まえて懲らしめることへの快感が根っこにあるからです。これは、制裁(サンクション)と呼ばれています。制裁は、集団の中で協力しない人や裏切る人に対して、ほかの誰かが自己犠牲を払ってでも罰を与える行動です(利他的懲罰)。これは、自分の得にはならないですが、自分以外のすべての人(社会)にとっては、得になります。脳科学的に言えば、この快感は、ドパミンという脳内物質との関係が指摘されています。ドパミンが増加して快感(報酬)を得るのは、美味しいものを食べた時だけでなく、周り(社会)に褒められた時、さらには社会の役に立ったと自覚した時でもあることが分かっています。次のページへ >>

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マザーゲーム(後編)【女性同士の人間関係、どうすればいいの?(「女心」へのコミュニケーションスキル)】Part 1

今回のキーワードオキシトシン選ばれる性多様性人間関係の流動化バウンダリー「共感の押し付け」人間関係の目的化集団のルールの緩和化「女心」はなぜ「ある」の?-女性性の進化心理「女心」(女性性)とは、つながりやすさ(共感性)、気付きやすさ(感受性)、受け身になりやすさ(安全性)という3つの心理があることが分かりました。それでは、そもそも「女心」はなぜ「ある」のでしょうか? 「女心」の3つの心理に重ねながら、その起源を進化の歴史から探ってみましょう。私たちの体が原始の時代から進化してきたのと同じように、実は私たちの脳、つまり心も進化してきました。ここから、「女心」の進化を、3つの段階に分けてみましょう。(1)子育てする性-共感性約2億年前に誕生した哺乳類は、母親が子どもを哺乳する、つまりお乳を与えて育てるというメカニズムを進化させました。もともとお乳を出しやすくするオキシトシンというホルモンは、その後に、母親がお乳を欲する子どもの気持ちになる働きもするようになりました。これが、共感性の起源です。「女心」の進化の1つ目の段階は、子育てする性になったことです。(2)選ばれる性-感受性約700万年前に誕生した人類は、男性が獲った食料を女性にプレゼントして、そのお返しとして、女性がその男性とセックスして、生まれた子どもを育てるように進化したことです(性別役割分業)。オキシトシンは、お乳を欲する子どもの顔色だけはでなく、プレゼントをくれる男性たちの顔色や自分の格付けにも敏感になる働きもするようになりました。こうして、ある女性が選ばれるということは、それ以外の女性、つまり自分は選ばれなかったことになり、傷付くわけです。これが、感受性の起源です。「女心」の進化の2つ目の段階は、選ばれる性になったことです。(3)家を守る性-安全性約300万年前の人類は、男性(父親)と女性(母親)とその子どもたちの家族が血縁によっていくつも集まって、共同生活をするように進化しました(生活共同体)。オキシトシンは、男性(父親)たちが狩りに出かけて家を空けている数日間に、子どもたちを守るために、女性(母親)たちの近所付き合いがスムーズになる働きもするようになりました。そのために、危険になりうる異質なものをできるだけ排除しようとするわけです。これが、安全性の起源です。「女心」の進化の3つ目の段階は、家を守る性になったことです。 「女心」にどうすればいいの?-「女心」へのコミュニケーションスキル「女心」(女性性)の起源は、子育てする性、選ばれる性、家を守る性という3つの進化の段階があることが分かりました。つまり、「女心」は、そもそも「ある」ものです。ただし、ここで誤解がないようにしたいのは、だからと言って、そのままでいいと言うわけではないです。たとえば、私たちが甘いものをつい口にしてしまうのは原始の時代に生存のために進化した嗜好です。だからと言って、飽食の現代に甘いものを食べ過ぎて糖尿病になることを私たちは決して良しとはしないです。むしろ逆に私たちは食生活を意識しています。これと同じです。原始の時代と違って、豊かで安全で個人の自由が認められた現代の社会構造では、必ずしも、女性が男性に選ばれて、子育てをして、家を守る必要はなくなりました。男性も女性に選ばれて、子育てをして、家を守る選択肢があります。そんな多様性の時代に、「女心」にどうすれば良いでしょうか? どんなコミュニケーションを意識すれば良いでしょうか? 希子がまさにお手本になります。彼女のコミュニケーションスキルを参考にしながら、3つのポイントに分けて、一緒に考えてみましょう。 次のページへ >>

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持続する疲労感は成長ホルモン不全症(AGHD)のせい?

 ノボ ノルディスク ファーマ株式会社は、都内で成人の成長ホルモン分泌不全症(AGHD)に関するプレスセミナーを開催した。 セミナーでは「成人成長ホルモン分泌不全症(AGHD)とは」をテーマに、亀田 亘氏(山形大学医学部付属病院 第三内科 糖尿病・代謝・内分泌内科)を講師に迎え、なかなか診療まで結びつかない本症に関し、症状、診断と治療、患者へのフォローなどが紹介された。成長ホルモンが不足するとAGHDを来す 成長ホルモン(以下「GH」と略す)は下垂体で作られ、20歳くらいまで多く分泌され、それ以降は低下する。そして、下垂体で作られたGHは、静脈血に乗って、さまざまな標的器官に運ばれ、次のように作用する。・脳:思考力、意欲、記憶力を高める作用・軟骨・骨:正常な軟骨・骨の成長と強固な骨構造、骨量を維持する作用・心・骨格筋:心筋の強度・機能を高め、心臓の駆出機能を維持する作用・免疫系:免疫機能を亢進する作用・脂肪組織:脂肪代謝を促す作用・肝臓:糖新生作用の促進、IGF-1産生を促す作用・腎臓:水、電解質の調節作用・生殖器系:精巣・卵巣の正常な成長・発達を促進し、生殖機能を維持する作用 GHが不足するとAGHDを来し、亢進すると先端巨人症などの疾患を来すためにGHはバランスよく分泌される必要がある。AGHDは疲労感、集中力の低下などの日常の症状から疑う AGHDの主な症状として(詳細は『成人成長ホルモン分泌不全症の診断と治療の手引き(平成24年度改訂)』を参考)、疲労感、集中力の低下、うつ状態、皮膚の乾燥、体型の変化、骨量の低下、サルコペニア、脳腫瘍の合併などがある(小児発症では成長障害を来す)。 そして、AGHDの原因としては、脳の腫瘍や頭部外傷、中枢神経の感染症が考えられ、腫瘍によるものが多いという。 AGHD診断では、先述の臨床所見のほか、インスリン、アルギニン、L-DOPAなどの負荷によるGH分泌刺激試験の結果と合わせて診断されるほか、同時に重症度も判定される。 AGHD治療では、ソマトロピン(商品名:ノルディトロピンほか)などGH補充療法が行われている。わが国では、1975年から成長ホルモン分泌不全性低身長症の治療にGH補充療法が開始され、1998年にコンセンサスガイドラインができたことで世界的な治療へと拡大した。AGHDには 2006年から適応となり、現在もさまざまなGH関連疾患への適応が続いている。 患者フォローについては、AGHDは指定難病に指定され、医療費のサポートなどが受けられるほか、成長科学協会などの研究団体、下垂体患者の会などの患者会があり、疾患・治療に関する情報の提供・啓発などが行われている。

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老いないカギは「あいだ」にある

第19回日本抗加齢医学会総会の大会長である伊藤 裕氏(慶應義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科 教授)が、今提唱しているのが「幸福寿命」。本大会でも、その考え方に沿って数々の新機軸を打ち出す。その内容とは?抗加齢医学を捉え直す時期に来ています。これまでアンチエイジングというと、どうしても見た目を若く見せるために、シワをなくすとか、シミをとる、といった小手先の医療をイメージしがちだったと思います。もちろんそれも抗加齢医学の一部です。しかし、人生100年時代と言われるようになり、もっと本質的な抗加齢というものを学会として提唱していかなくはならないタイミングだと感じています。6月に横浜で開催される日本抗加齢医学会総会で大会長を務めさせていただきますが、テーマを「異次元のアンチエイジング」としたのは、そういう意図です。これまでのアンチエイジングの活動を拡充、拡大するのではなく、まったく違う次元に行く。ある意味、医学の一分野という枠を越えて、心身だけでなく、環境や社会全体をアンチエイジングという観点から捉え直したい。そう考えています。“幸せ感”を持ち続けることが究極のアンチエイジング昨年「幸福寿命」という本を出版させていただきました。「幸福寿命」とは何なのか? たとえば、100歳まで生きた人に「幸せですか」と尋ねると、皆さん「幸せです」とおっしゃいます。でも、それは100歳まで生きられたから幸せ、という結果ではなく、ずっと幸せだったから、100歳まで生きられた、という過程の話なのだと思います。つまり、健康で長生きするには、常に“幸せ感”を持ち続けていることが重要であって、それこそが究極のアンチエイジングだと私は考えています。では、どうしたら、幸せ感を持ち続けられるのか?ということなりますが、そのカギは「あいだ」にあります。自分一人で幸せを感じることはなかなかできません。ほかの人との間。夫婦、家族、職場、地域、いろいろな場面での人と人の「あいだ」こそが、幸せ感を醸成するのです。もう少し医学的な話をしますと、最近、腸内細菌叢が抗加齢に関係しているということが科学的にわかっていますが、これも「あいだ」なんですね。細菌はわれわれの腸の中にすんでいるわけで、彼らとわれわれは共生関係にある。いわばペットを飼っているようなものです。ペットを飼っている人が、ペットをかわいがっているとき、飼い主は幸せを感じているのではないでしょうか。ストレスが和らいで、柔らかな、いい気分になっていると思いませんか?そういうときは、実際、“幸せホルモン”と呼ばれるオキシトシンが脳から分泌されているわけです。腸内細菌をペットのようにかわいがる腸内細菌も同じです。腸内細菌をかわいがってあげればいいんです。ペットにするのと同じように、腸内細菌が喜ぶようなことをする。具体的に言えば、彼らが好きな食物繊維をたくさん取る、いつも同じものでは飽きるでしょうから、バラエティーに富んだ食材を食べる、バランスよく規則正しく食事を取る、といったことです。すると、彼らはホルモンやサイトカインを介してわれわれが幸せを感じるように働きかけてくれるのです。幸せを感じるメカニズムも、そういうふうに物質レベルで科学的に説明できるようになってきています。今年の学会では、特別講演として、マーティン・J・ブレイザー先生を招き、腸内細菌とアンチエイジングについて話していただきます。微生物学の世界的権威であり、彼の話が日本で生で聞けるというのは本当にすごいことです。私自身、とても楽しみにしています。ほかの目玉としては、Presidential Symposium で「スマートシティ」「ロボット」「AIとビッグデータ」「美しさ」という4つのテーマを設定しました。ロボットやAIで高齢者をどう介護するか、といった話ではなく、これからロボットやAIがわれわれの生活にどんどん入ってきたとき、人間の健康、幸福感、エイジングがどう変化していくのか?そういうもっと大きな枠組みでディスカッションしていただくようにシンポジストの先生方にはお願いしています。それではもう「医学会」ではないじゃないか、と言われそうですが、最初にお話ししたように、アンチエイジングは今そのくらい大きな動きがある、エキサイティングな分野なのです。加齢というのはそもそも誰にとっても身近な問題でもありますから、医療に関わるすべての人に興味を持ってもらえればと思っています。メッセージ(動画)

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トラネキサム酸の分娩後出血予防は?/NEJM

 経膣分娩時にオキシトシンの予防的投与を受けた女性において、トラネキサム酸の併用投与はプラセボ群と比較し、500mL以上の分娩後出血の発生を有意に低下しなかった。フランス・ボルドー大学病院のLoic Sentilhes氏らが、トラネキサム酸の予防的投与追加による分娩後出血の発生率低下を検証した多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験「TRAAP試験」の結果を報告した。分娩直後のトラネキサム酸の使用により、分娩後出血に起因する死亡率低下が示唆されているが、トラネキサム酸の予防的投与の有効性を支持するエビデンスは十分ではなかった。NEJM誌2018年8月23日号掲載の報告。オキシトシン+トラネキサム酸vs.オキシトシン+プラセボ 研究グループは2015年1月~2016年12月の期間に、妊娠35週以上で経腟分娩予定の単胎妊娠女性を、分娩後オキシトシンの予防投与に加え、トラネキサム酸1g(トラネキサム酸群)あるいはプラセボを静脈内投与する群に無作為に割り付けた。 主要評価項目は、分娩後出血とし、目盛付き採集バッグによる測定で500mL以上の出血と定義した。 4,079例が無作為化され、このうち3,891例が経腟分娩であった。トラネキサム酸追加で、医療者評価の臨床的に重大な分娩後出血発生率は低下 主要評価項目である分娩後出血の発生率は、トラネキサム酸群8.1%(156/1,921例)、プラセボ群9.8%(188/1,918例)で有意な差はなかった(相対リスク:0.83、95%信頼区間[CI]:0.68~1.01、p=0.07)。 トラネキサム酸群ではプラセボ群と比較し、医療提供者評価による臨床的に重大な分娩後出血の発生率は有意に低下し(7.8% vs.10.4%、相対リスク:0.74、95%CI:0.61~0.91、p=0.004、多重比較事後補正後p=0.04)、子宮収縮薬の追加投与も有意に少なかった(7.2% vs.9.7%、相対リスク:0.75、95%CI:0.61~0.92、p=0.006、補正後p=0.04)。他の副次評価項目については、両群間に有意差は確認されなかった。 分娩後3ヵ月間の血栓塞栓性イベントの発現率は、トラネキサム酸群とプラセボ群とで有意差はなかった(それぞれ0.1%および0.2%、相対リスク:0.25、95%CI:0.03~2.24)。 なお、著者は研究の限界として、分娩前のヘモグロビン値測定などは多くが外来で実施されるため、評価時期が標準化されていないこと、重度の分娩後出血に対するトラネキサム酸の有効性や、治療法としてのトラネキサム酸の使用に関しては検出力不足であったことなどを挙げている。

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尿崩症の診断におけるコペプチンの測定(解説:吉岡成人氏)-906

中枢性尿崩症とバゾプレッシン 中枢性尿崩症は、バゾプレッシン(arginine vasopressin:AVP)の分泌障害によって腎臓の集合管における水の再吸収が障害され、多尿をきたす疾患である。検査所見では、尿浸透圧/血漿浸透圧比は1未満であり、血漿AVP濃度は血漿浸透圧に比較して低値となる。水制限試験、高張食塩水負荷試験、ピトレッシン(DDAVP)負荷試験などの負荷試験を行い、最終的な診断を下すこととなる。 臨床の現場において血漿AVPを測定する際にはいくつかの問題がある。まず、AVPはアミノ酸9個からなる分子量約1,000の小さなペプチドホルモンであり抗体の作成が難しく、構造の類似したオキシトシンと交差反応を引き起こす。また、プロテアーゼによる分解を受けやすく、EDTA入りの採血管で採血を行い、採血後の検体は氷冷のうえ、速やかに血漿分離を行い冷凍保存する必要がある。さらに、血中AVPは半減期が短く、その約90%は血小板と結合しているため、採血後、検体を長時間放置すると血小板と結合したAVPが血漿中に遊離して見かけ上の高値を呈する。コペプチンとは AVPの前駆体であるプロバゾプレッシンはバゾプレッシン、ニューロフィジンII、コペプチンの3つのタンパク物質からなるホルモンであり、下垂体後葉の分泌顆粒の成熟に伴いプロセッシング、末端修飾を受けて、分泌刺激に応じて放出される。AVPが放出される際には同時に等モル(1:1の割合)でコペプチンが放出される。コペプチンは安定性が高く、2006年にドイツのBRAHMS社でEIAによる測定系が確立されており、血漿AVP濃度と良好な相関があること、血漿浸透圧の変動に対しても生理的な応答を示すことが確認されている。しかし、水代謝異状における血漿コペプチン測定の意義は確立されていない。中枢性尿崩症におけるコペプチン測定の意義 NEJM誌に発表された論文では、尿崩症が疑われる患者141名に対して水制限試験、高張食塩水負荷試験を実施し、中枢性尿崩症、心因性多飲、腎性尿崩症の鑑別を行っている。水制限試験で鑑別ができた症例は108例(診断精度76.6%)、高張食塩水負荷試験を行い、コペプチン濃度のカットオフ値を>4.9pmol/Lとした際に正確に鑑別診断ができたのは136例(診断精度96.5%)であった。また、コペプチンのカットオフ値を6.5pmol/Lとすると感度は94.9%、特異度100%で診断精度は97.9%となっている。時間のかかる水制限試験よりも、高張食塩水負荷試験を行い血漿コペプチン濃度を測定することで、尿崩症が疑われる患者に対してより正確な診断を行うことができるという報告である。 コペプチン濃度を心不全患者や肺塞栓患者の予後予測のマーカーとして測定するなどの臨床的な研究報告が散見されるが、診断の場でコペプチンが応用されるかどうか今後のさらなる検討が待たれる。

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尿崩症診断、コペプチン測定が従来法を上回る精度/NEJM

 尿崩症の診断について、間接水制限試験と比べて高張食塩水負荷試験による血漿コペプチン値測定のほうが診断精度は高いことが、ドイツ・ライプチヒ大学のWiebke Fenske氏らによる検討の結果、示された。間接水制限試験は、現行参照すべき基準とされているが、技術的に扱いが難しく、結果が不正確である頻度が高い。研究グループは、尿崩症にアルギニンバソプレシンが関与していることから、アルギニンバソプレシン前駆体由来の代替マーカーである血漿コペプチンを測定する方法の有用性を検討するため、間接水制限試験と比較した。NEJM誌2018年8月2日号掲載の報告。水制限試験vs.高張食塩水負荷試験の診断精度を検証 試験は2013~17年に、スイス、ドイツ、ブラジルの11施設で、低張多尿であった16歳以上の患者156例を集めて行われた。被験者には水制限試験と高張食塩水負荷試験の両方を受けてもらい3ヵ月間のフォローアップ受診を行った。高張食塩水負荷試験では、高張食塩水を静注後、血漿ナトリウム値が150mmol/L以上となった時点で血漿コペプチン値を測定した。 主要アウトカムは、最終参照診断と比較した各試験の全体的な診断精度であった。参照診断は、コペプチン値をマスキングし、病歴、試験結果、治療効果に基づき確定した。コペプチンカットオフ値>4.9pmol/Lの診断精度96.5% 両試験が行われたのは144例で、最終診断は、原発性多飲症82例(57%)、中枢性尿崩症59例(41%)、腎性尿崩症3例(2%)であった。 解析には141例(女性66%)が包含された。そのうち、間接水制限試験で正しく診断が下されたのは108例(診断精度76.6%、95%信頼区間[CI]:68.9~83.2)であったのに対し、高張食塩水負荷試験(コペプチンカットオフ値>4.9pmol/L)では136例(96.5%、92.1~98.6)で正しい診断が下された(p<0.001)。 また、間接水制限試験で、原発性多飲症と部分型中枢性尿崩症を正しく鑑別できたのは77/105例(73.3%、63.9~81.2)であったが、高張食塩水負荷試験では99/104例(95.2%、89.4~98.1)であった(補正後p<0.001)。 重篤な有害事象は、間接水制限試験で入院に至ったデスモプレシン誘発性低ナトリウム血症1例が報告された。

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成長ホルモン治療を継続させる切り札

 2018年5月18日ノボ ノルディスク ファーマ株式会社は、ノルディトロピン(一般名:ソマトロピン)承認30周年を記念し、プレスセミナーを開催した。 セミナーでは、成長ホルモン治療の現状、問題点とともに医療者と患者・患者家族が協働して治療の意思決定を行う最新のコミュニケーションの説明が行われた。成長ホルモン治療でアドヒアランスを維持することは難しい セミナーは、「成長ホルモン治療の Shared Decision Making ~注射デバイスの Patient Choiceと Adherence」をテーマに、高澤 啓氏(東京医科歯科大学 小児科 助教)を講師に迎え行われた。 現在、成長ホルモン(以下「GH」と略す)治療は、保険適用の対象疾患としてGH分泌不全性低身長、ターナー症候群、ヌーナン症候群、プラダー・ウィリー症候群、慢性腎不全、軟骨異栄養症(ここまでが小児慢性特定疾患)、SGA性低身長がある。これらは未診断群も含め、全国で約3万人の患児・患者が存在するという。診断では、通常の血液、尿検査のスクリーニングを経て、負荷試験、MRI、染色体検査などの精密検査により確定診断が行われる。そして、治療ではソマトロピンなどのGH治療薬を1日1回(週6~7回)、睡眠前に本人または家族が皮下注射している。 GH治療の課題として、治療が数年以上の長期間にわたることで患者のアドヒアランスが低下し、維持することが難しいとされるほか、治療用の注射デバイスが現状では医師主導で選択されていることが多く、患者に身体的・精神的負担をかけることが懸念されているという。患者の怠薬を防ぐ切り札 これらの課題を解決する手段として提案されるのが「Shared Decision Making(協働意思決定)」(以下「SDM」と略す)だという。 SDMとは、「意思決定の課題に直面した際に医師と患者が、evidenceに基づいた情報を共有し、選択肢の検討を支援するシステムにのっとり、情報告知に基づいた選択を達成する過程」と定義され、従来のインフォームドコンセントと異なり、患者の視点が医療者に伝わることで医療の限界や不確実性、費用対効果の共有が図られ、治療という共通問題に向き合う関係が構築できるという。 実際この手法は、欧米ですでに多数導入され、専任のスタッフを設置している医療機関もあり、SDMがアドヒアランスに与える影響として、患者の治療意欲の向上、怠薬スコアの改善といった効果も報告されているという1)。日本型SDMの構築の必要性 実際に同氏が、川口市立医療センターで行ったSDM導入研究(n=46)を紹介。その結果として、「患者が自己決定することで(1)患者家族の理解および治療参加が促進された、(2)アドヒアランスの維持に寄与した、(3)治療効果を促進する可能性が示唆された」と報告した。また、「SDMによる患者の自己決定は、意思疎通の過程で有用であり、治療への家族参加や自己効力感を高めうるだけでなく、簡便な手法ゆえ施設毎での応用ができる」と意義を強調した。 最後に同氏は、今後のわが国での取り組みについて「SDMの有効性から必要性への啓発、サポートする体制作り、日本式のSDMの在り方の構築が求められる」と展望を語り、セミナーを終了した。

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アンパンマン【その顔はおっぱい?】

今回のキーワード乳幼児発達心理学「乳児脳」進化心理学子育て心理無条件の愛情協力関係想像力脱中心化みなさんは、「アンパンマン」をご存じでしょうか?顔があんパンでできた、子どもたちの人気ヒーローですね。特に、3歳児までに絶大な人気があります。それにしても、なぜ人気があるのでしょうか?そして、4歳児からなぜ人気がなくなるのでしょうか?そもそもなぜ自分の顔を食べさせるヒーローが子どもに受け入れられるのでしょうか?今回は、「アンパンマン」の人気の謎に迫ります。そして、そこから乳幼児の心の成長を発達心理学的に読み解き、心の起源を進化心理学的に掘り下げ、より良い子育てのやり方とあり方についての子育て心理に応用してみましょう。なぜ3歳児までに人気があるの?―「乳児脳」まず、アンパンマンはなぜ人気があるのでしょうか?それは、3歳までにすさまじいスピードで発達する「乳児脳」とも呼ばれる独特の心理と深い関係があります。その答えを3つ挙げ、乳幼児発達心理学、進化心理学、そして子育て心理に重ねてみましょう。(1)捨て身で守ってくれる―無条件の愛情のシンボルアンパンマンは、お腹のすいた人(子ども)のもとに降り立ち、自分の顔をちぎって、喜んで食べさせます。そして、顔の一部がなくなると、力がなくなり飛べなくなります。すると、ジャムおじさんができたての新しい顔に取り替えてくれます。ちなみに、アンパンマン自身はものを食べることはありません。1つ目は、捨て身で守ってくれることです。困っている人には、必ず、無条件に、自己犠牲的に助けてくれる存在であることです。それを、視覚的に分かりやすく描いています。そして、アンパンマン自身は食べないという設定から、困っている人には気兼ねさせずに一貫して食べさせる存在になれます。また、アンパンマンの顔は、ジャムおじさんによって新しく作られるため、なくならないという安心感もあります。発達心理学的に見ると、乳児は、泣けば必ず母親から授乳してもらえると認識しています。まさに、象徴的には、アンパンマンの顔はおっぱいと言えるでしょう。乳児がおっぱいを吸うと、オキシトシンというホルモンが母親の脳内で分泌され、お乳が出やすくなります。この時、同時に母親は自分の子どもを大切にしたいという気持ちが連動して高まります(愛情)。一方、乳児は、抱っこ、愛撫などによる肌の触れ合いがあると、乳児の脳内でも同じようにオキシトシンが分泌されることが分かっています。この時、同時に乳児はその母親にくっついていたいと思う気持ちが連動して高まります(愛着形成)。そのため、泣くだけでなく、機嫌が良い時は鼻にかかったような柔らかな音を出したり(クーイング)、笑顔を見せるようになります(社会的微笑)。つまり、親の愛情と子どもの愛着は相互作用をして高まります(共発達)。そして、これらの高まりは、オキシトシンの分泌や受容体の増加と密接な関係があります。よって、オキシトシンは、「愛情ホルモン」「愛着ホルモン」「絆ホルモン」とも呼ばれています。さらに、乳児にとって、母親をはじめとして父親や祖父母なども含めた家族は、自分を無条件に大切にしてくれる安心で安全な心のよりどころであると認識していきます(愛着対象)。これが土台となり、成長するにつれて家族だけではなく他人とのかかわりも求めるようになっていきます。進化心理学的に見ると、哺乳類が約2億年前に誕生してから、その母親は子どもを哺乳する、つまり乳を与えて育てるというメカニズムを進化させました。これは、自分の栄養を与えるという自己犠牲の上に成り立っています。飽食の現代では想像しにくいですが、常に飢餓と隣り合わせの原始の時代、それでも母親は命がけで自分の栄養を子どもに分け与えて、子孫を残してきました。人類が700万年前に誕生してから、もちろん父親も、猛獣から体を張って子どもを守り、子孫を残してきました。当時から、そうしたいと思う母親や父親の心理と、そうされたいと思う乳児の心理(愛着)が共に進化していったのでしょう(共進化)。ちなみに、比較動物学的には、サルなどの類人猿も、もちろん哺乳類で愛着形成があります。ただし、サルと人間の違いは、サルの乳児はあまり泣かないことです。その理由は、サルの乳児は生まれてすぐに母親の胸に自力でしがみつくことができるため、いつでも哺乳ができて、しかも天敵が来てもそのままいっしょに逃げることができるため、親の関心を引く必要がそれほどないからです。そもそも泣けば、それだけ天敵に気付かれるリスクを上げるため、泣くことはデメリットでもあります。一方、人間の乳児は、頭部を大きく進化させた代償として、母親の産道を通過するために、サルと比べて未熟児で生まれるように進化しました(生理的早産)。よって、生まれてしばらくは寝たままの状態になるため、親の関心をできるだけ引いて、天敵に見つかるリスクを上回って、生存の確率を高めたのでした。子育て心理に応用すると、いつもあなたは大切であると言語的にも非言語的にも伝え続けることです。例えば、イヤイヤ期(第一次反抗期)になって、腹が立って叱ったとしても、その後すぐに切り替えて、「それでも○○ちゃんは大好きよ」と優しく明るく抱きしめることです。アンパンマンもどんな時も守ってくれる味方であるという無条件の愛情のシンボルです。だからこそ子どもに受け入れやすいと言えるでしょう。(2)みんなと仲良くする―協力関係のモデルアンパンマンは、敵役のばいきんまんと永遠に戦っています。しかし、アンパンマンは、ばいきんまんを憎んでいません。みんなに迷惑をかけていることに厳しいだけで、むしろ仲良くしたいと思っています。よって、ばいきんまんを完全にやっつけるわけではなくただ追い払っているだけで、最後はいつも、ばいきんまんが「バイバイキーン」と捨て台詞を言って、家(バイキン城)に逃げ帰っています。ばいきんまん自身のキャラクターも、欲張りで食い意地が張っていたずら好きですが、単純で間抜けな愛すべきキャラクターです。2つ目は、みんなと仲良くすることです。アンパンマンワールドは1つの大きなファミリーです。たとえ困ったキャラクターがいても、仲間の一員とみなし、平和的に共存しています。発達心理学的に見ると、親が、あやしている時に、乳児の気持ちを共感的に汲み取って声かけや表情で鏡のように映し出します(ミラーリング)。すると、その乳児は親の動きのインプットと自分の動きのアウトプットを同じ脳のネットワークで処理するメカニズムを働かせるようになります(ミラーニューロン)。つまり、親が乳児の鏡(ミラー)になるのと相互作用して、乳児が親の意図と動作を同じくする「鏡の神経」(ミラーニューロン)を発達させていきます。こうして、乳児は、親のまねをするようになります(模倣)。その後、幼児になって保育園や公園などで、他の幼児といっしょになり、場所やおもちゃを取り合うなどのぶつかり合いやいざこざが起きます。この時、親などの周りの働きかけによって、最初は単純に抵抗するだけだったのが、やがて順番で共有すること、分け合うこと、じゃんけんをすることなどによって、仲良くすることができるようになります(社会性)。そして、自己主張と自己抑制のバランスをとるセルフコントロールを発達させていきます。これが土台となり、成長するにつれて、より高度で複雑化したコミュニケーションをするようになっていきます。進化心理学的に見ると、人類が約700万年前にアフリカの森に誕生し、約300~400万年前に草原(サバンナ)に出てから、母親と父親と子どもたちがいっしょに暮らす家族をつくりました。しかし、草原だからこそさらに猛獣に狙われたり、食料が獲れないという自然の脅威がありました。それでも、生き残るために、より大きな血縁集団をつくって、競い合いながらも助け合う中、相手の心を読む、つまり相手の視点に立つ心理を進化させてきました(心の理論)。ちなみに、比較動物学的には、サルなどの類人猿も、ミラーニューロンがあり、まねをします。ただし、サルと人間の違いは、サルは意図までは「まね」できない、つまり意図は理解できないことです。その理由は、サルのミラーニューロンの働きは、他のサルの次の動きを予測して素早く対応できれば良いだけで、意図まで理解する必要がないからです。子育て心理に応用すると、同じ幼児同士がいっしょになった時、たとえ相手がばいきんまんに見えたとしても、最初は「いいよ」「どうぞ」というアクションや「ありがとう」「うれしい」というリアクションをするように働きかけることです。このような、譲り合いや、あげる・もらう(ギブ&テイク)というやりとりの積み重ねを通して、時には距離を取りつつ、粘り強く仲良くなろうとすることです。アンパンマンは誰とでも仲良くするという協力関係のモデルです。だからこそ子どもに受け入れやすいと言えるでしょう。(3)様々な心を教えてくれる―想像力のツールアンパンマンワールドには、アンパンマン、ジャムおじさん、ばいきんまん、ドキンちゃんなどのメインキャラクターだけでなく、2000を超えるユニークなサブキャラクターたちがいます。その数は、「最も多いキャラクターが登場した単独のアニメーション・シリーズ」としてギネスブックに認定されるほどです。また、ばいきんまんだけでなく、かびるんるん、骸骨親子のホラーマンとホラ・ホラコなど、目に見えないものまでキャラクターにしています。さらに、ジャムおじさんとバタコさんは唯一の人間かと思いきや、人間の姿をした妖精という設定で、なるべく人間のリアリティを排除したファンタジーに仕上がっています。さらに、ばいきんまんが好きなドキンちゃんはしょくぱんまんが好きであるという三角関係や、みんなの前で威張っているばいきんまんがみみ先生(教師)の前ではかしこまるなどの上下関係が描かれるなど、いろいろなキャラクター同士の関係性も描かれています。3つ目は、様々なキャラクター(心)を教えてくれることです。それぞれのキャラクターの際立ったビジュアルから、性格や役割の違いを理解して、そのキャラクターらしさ(その人らしさ)を受け止めやすくなります。発達心理学的に見ると、乳児は、親の共感的なミラーリングによって、共感するミラーニューロンも発達させていきます。そして、自分の気持ちの変化を認識できるようになります。その後、幼児になって、徐々に家族や他の様々なお友達の気持ちの変化も察して、心を通わせようとするようになります(共感性)。この時、身の周りには、人だけでなく、自然物から人工物まで様々な物があることにも気付くようになります。その過程で、自分をはじめとする人に心があるように、万物にも心があると認識します(自己中心性)。これが土台となり、成長するにつれて、相手の気持ちを推し量ったり(心の理論)、思いやりを持つようになっていきます(愛他行動)。進化心理学的に見ると、現生人類が約10~20万年前に喉の構造を進化させてから、複雑な発声ができるようになり、言葉を話すようになりました。そして、言葉によって抽象的に考えることができるようになり、相手の視点に立つ心理は、人間だけでなく、自然や動物などあらゆるものに向けられ、それらとも協力関係を築こうとしました(アニミズム文化)。ちなみに、比較動物学的には、サルなどの類人猿も、共感します。ただし、サルと人間の違いは、サルの共感は痛み、恐れ、怒りなどの不快な感情に限定されていることです。その理由は、サルの共感は、他のサルの不快さを素早く感じ取って自分の身に降りかかるかもしれない危険を事前に避けることができれば良いだけで、喜びや安らぎなどの快の感情まで共感する必要がないからです。子育て心理に応用すると、相手の心、さらには人だけでなく身の回りの物の心も考えさせることです。例えば、子どもがいっしょにいる同じ幼児を押しのけた時、「押すのはだめ」とただ厳しく叱るよりも、「お友達は痛いって言ってるよ」と情緒的に伝えることです。また、食事の時にスプーンでお皿を叩いている時、「叩くと壊れるからだめ」と理屈で叱るよりも、「スプーンでお皿を叩くの、ママは嫌だよ」「スプーンとお皿が痛いって言ってない?」とやはり情緒的に伝える方が受け入れやすいでしょう。アンパンマンワールドのキャラクターたちは、様々な人や物の心に思いを馳せるという想像力のツールです。だからこそ子どもに受け入れやすいと言えるでしょう。なぜ4歳児から人気がなくなるの?―脱中心化それでは、アンパンマンはなぜ4歳児から人気がなくなるのでしょうか? その答えは、発達心理学的に考えれば、特に3~4歳時以降に発達する「なぜ?」という理屈を考える心理です。この時、表面的で主観的な物の見方から(自己中心性)、体系的で客観的なものの見方に変わっていきます(脱中心化)。進化心理学的に考えれば、現生人類が約10~20万年前に言葉を話すようになってから、抽象的に考える概念化の心理(脳)が進化しました。そして、概念化によって、原因と結果をつなぐ論理的思考が可能になり、ものごとの理屈が合うかを判断する心理が強まりました(合理性)。さらに、脳の重さで考えると、小学校1年生(6~7歳)で成人の脳の90%に達することが分かっています。まさに、乳幼児の脳の発達は、人類の心(脳)の進化の歴史を辿っているとも言えます。すると、先ほどの3つのアンパンマンの特徴は、4歳以降の子どもにどう映るでしょうか?(1)自分の顔をちぎってなぜ痛くないの?1つ目は、このような身体のメカニズムを考えることです。顔をちぎったり取り替えたりすることについて、3歳までは無邪気に面白がるのですが、4歳以降はその重大さや残酷さが少しずつ分かるようになります。これが、自分の顔を食べさせるヒーローが、3歳までの子どもにしか受け入れられない理由です。実際に、初代アンパンマンの絵本は、出版社から次作を止められるほど大人には不評でした。ところが、幼稚園や保育園から注文が殺到します。その子どもたちから一番ウケたのは「アンパンマンが頭をかじらせるところ」だったのでした。その後のアニメ化で、「かじらせる」から「ちぎって渡す」というふうにマイルドになり、今に至っています。また、ヒーローのビジュアルとしては、単純な顔立ちに3等身で全体的に丸みを帯びてぼんやりした素朴な姿です。親しみやすさがある一方、不格好です。よって、4歳以降の子どもは、美形・モデル体型で尖っていてキラキラした身なりの、戦隊ヒーロー、ロボットヒーロー、少女戦士に興味が移っていきます。(2)悪いことをしてなぜ罰を受けないの?2つ目は、このような善悪のルールを考えることです。ばいきんまんが周りに迷惑かけ続けることについて、3歳までは「嫌だなあ」と感情的に思うだけなのですが、4歳以降は親からのしつけの理解が進んでいくにつれて、「何とかしたい」「懲らしめなければ」と思うようになります。ばいきんまんは懲りていないけどアンパンマンも懲りていないということに気付くのです。アンパンマンは優しすぎるのです。それは、ばいきんまんに対してだけでありません。アンパンマンは、アンパンマンワールドの弱いキャラクターたちをかばった結果、それが甘やかしにつながってしまったことをジャムおじさんに指摘されています。また、ヒーローのポテンシャルとしては、アンパンチやアンキックには殺傷能力がなく、助けに行ったはずなのにしょっちゅう返り討ちにあい、逆に助けを求めてしまうことが多いです。ほのぼのと安心して見ることができる一方、物足りないです。アンパンマンは、史上最弱の情けないヒーローと言えるでしょう。よって、4歳以降の子どもは、特殊能力や武器の使用、柔軟な発想や知恵によって、敵にとどめを刺したり爆破したりする、戦隊ヒーロー、ロボットヒーロー、少女戦士に興味が移っていきます。(3)物に心があるってなぜ分かるの?3つ目は、このような根拠のレベルを考えることです。身の周りの様々な物に心があることについて、3歳までは疑うことはないのですが、4歳以降は自力で動くか動かないかで、5歳以降は成長するかしないかで、生物と無生物の違いが分かるようになります(素朴理論)。つまり、物に心があることに根拠がないと気付くようになります。また、アンパンマンワールドの世界観として、人間がいないファンタジーになっています。空想として気楽に見ることができる一方、リアリティがないため、ツッコミどころ満載で、耐えられなくなります。よって、4歳以降の子どもは、人間臭いリアリティ仕立てのストーリーが展開する、戦隊ヒーロー、ロボットヒーロー、少女戦士に興味が移っていきます。アンパンマンとは? ―「子育て脳」アンパンマンは、困っていれば捨て身で守ってくれるシンボルであり、誰にでも優しくみんなと仲良くなるモデルであり、アンパンマンワールドの仲間たちは様々な心を教えてくれるツールです。その点では、最弱のヒーローでありながらも、最初のヒーローとして欠かすことができないでしょう。子どもが4歳になって、そんなアンパンマンから心が離れる時、アンパンマンは寂しく思いつつも、そんな子どもたちにきっと温かいエールを送っているでしょう。そして、その子どもが親になって、子どものことをまず考えるアンパンマンの側に立った時、再びアンパンマンに感謝と敬意を払うようになるでしょう。子育て心理とは、まさに「乳児脳」といっしょに発達する「子育て脳」とも言えるでしょう。つまり、アンパンマンとは、子どもであった私たちの憧れであると同時、親になった私たちの分身であるとも言えるのではないでしょうか?1)ユリイカ2013年8月臨時増刊号「やなせたかし アンパンマンの心」2)乳幼児のこころ:遠藤俊彦ほか、有斐閣アルマ、20113)生涯発達心理学:鈴木忠ほか、有斐閣アルマ、20164)まねが育むヒトの心:明和政子、岩波ジュニア新書、2012

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多発性嚢胞腎後期にもトルバプタンは有用か?/NEJM

 常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)の後期患者に対し、バソプレシンV2受容体拮抗薬トルバプタン(商品名:サムスカ)はプラセボと比べて、1年超にわたり推定糸球体濾過量(eGFR)の低下を抑制したことが、米国・メイヨークリニックのVicente E. Torres氏らによる第III相の無作為化治療中止プラセボ対照二重盲検試験「REPRISE試験」の結果、示された。これまでに、早期(推定クレアチニンクリアランス:60mL/分以上)ADPKD患者を被験者とする試験において、トルバプタンは腎容積の増大およびeGFRの低下を抑制したことが示されていた。ただし、アミノトランスフェラーゼ値とビリルビン値の上昇を引き起こすことも示されている。一方、後期患者に対する有効性、安全性は検討されていなかった。NEJM誌2017年11月16日号(オンライン版2017年11月4日号)掲載の報告。世界213施設で患者1,370例を対象に検討 REPRISE試験は、2014年5月~2016年3月に世界213施設で被験者を登録して行われた。適格対象は、「18~55歳、eGFR:25~65mL/分/1.73m2」または「56~65歳、eGFR:25~44mL/分/1.73m2」のADPKD患者。無作為化前8週間をrun-in periodとし、トルバプタンの最大用量投与またはプラセボ等価用量の投与を行った後、1,370例をトルバプタン群(683例)またはプラセボ群(687例)に1対1の割合で無作為に割り付け12ヵ月間投与した。 主要エンドポイントは、eGFRのベースライン(あらゆるプラセボまたはトルバプタンを受ける前)からフォローアップ(1年の試験期間完了後)までの変化で、各患者の参加期間を正確に補正(1年に内挿)して評価を行った。安全性の評価は、毎月行った。eGFR低下、トルバプタン群で有意に抑制 eGFRのベースラインからの変化は、トルバプタン群-2.34mL/分/1.73m2(95%信頼区間[CI]:-2.81~-1.87)、プラセボ群-3.61mL/分/1.73m2(95%CI:-4.08~-3.14)であった(差:1.27mL/分/1.73m2、95%CI:0.86~1.68、p<0.001)。 アラニンアミノトランスフェラーゼ値の上昇は、トルバプタンを中断すると回復することが認められた。ビリルビン値の上昇は、正常閾値上限値の2倍を超える上昇は認められなかった。

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2017年度 総合内科専門医試験、直前対策ダイジェスト(後編)

【第1回】~【第6回】は こちら【第7回 消化器(消化管)】 全5問消化管領域で最も出題される可能性が高いのは、(1)相次ぐ新薬の上市、(2)胃がんガイドライン改訂に向けた動き、(3)消化器がんの化学療法、である。治療の進歩が著しい炎症性腸疾患、2016年にRome IV基準が発表された過敏性腸症候群と機能性胃腸症については、必ず押さえておきたい。例題(解答は本ページの最後に掲載しています)上部消化管疾患に関する記述のうち正しいものはどれか?1つ選べ(a)食道粘膜傷害の内視鏡的重症度と自覚症状の間には相関を認める(b)食道アカラシアは高い非同期性収縮を認めることが多い(c)食道静脈瘤出血時にバソプレシン、テルリプレシン、オクトレオチドは有効であるが、ソマトスタチンは無効である(d)好酸球性胃腸炎の診断基準の1つに、「腹水が存在し腹水中に多数の好酸球が存在している」がある(e)ボノプラザンは、ヘリコバクター・ピロリ菌除菌治療には保険適用となっていない例題の解説とその他の予想問題はこちらへ【第8回 消化器(肝胆膵)】 全5問肝臓の領域では、B型肝炎をはじめ、体質性黄疸、肝膿瘍、自己免疫性肝炎などのマイナー疾患からの出題も予想される。膵臓では嚢胞腫瘍、自己免疫性膵炎、膵がんの化学療法などがポイントとなる。例題(解答は本ページの最後に掲載しています)HBV感染に関する記述のうち正しいものはどれか?1つ選べ(a)B型慢性肝炎の治療対象は、HBe抗原の陽性・陰性にかかわらずALT 31U/L以上かつHBV DNA 2,000IU/mL以上である(b)本邦におけるB型肝硬変は、代償性/非代償性肝硬変にかかわらずIFN治療が第1選択となる(c)HBV持続感染者に対する抗ウイルス療法の長期目標は、ALT持続正常化・HBe抗原陰性かつHBe抗体陽性・HBV DNA増加抑制の3項目である(d)テノホビルの長期投与では、腎機能障害・高リン血症・骨密度低下に注意する必要があり、定期的に腎機能と血清リンの測定を行うことが推奨される(e)テノホビルアラフェミナド(TAF)はテノホビル(TFV)の新規プロドラッグであり、テノホビルジソプロキシル(TDF)に比べ少ない用量で同等の高い抗ウイルス効果を示すが、TDFと比較して腎機能障害および骨密度低下を来しやすいと報告されている例題の解説とその他の予想問題はこちらへ【第9回 血液】 全7問血液領域は、認定内科医試験では出題比率が低いものの、総合内科専門医試験では高い傾向がある。本試験の対策としては、個々の薬剤名とその適応をしっかり覚えることがポイントとなる。頻出テーマは、鉄過剰症、悪性リンパ腫の治療前感染症スクリーニング、特発性血小板減少性紫斑病など。例題(解答は本ページの最後に掲載しています)貧血に関する記述のうち正しいものはどれか?1つ選べ(a)鉄欠乏性貧血では、生体内鉄制御を担う血中ヘプシジン増加を認めることが報告されている(b)鉄欠乏性貧血の原因として、ヘリコバクター・ピロリ菌感染が関与している可能性が指摘されている(c)鉄欠乏性貧血の診断基準は(1)ヘモグロビン12g/dL未満(2)血清鉄30µg/dL未満(3)血清フェリチン12ng/mL未満である(d)温式自己免疫性溶血性貧血(温式AIHA)は、全例直接クームス試験陽性である(e)特発性温式AIHAの治療は、副腎皮質ステロイドを第1選択とするが、ステロイド無効の場合にはリツキシマブ(ヒト化抗CD20モノクローナル抗体)が保険適用となっている例題の解説とその他の予想問題はこちらへ【第10回 神経】 全5問神経領域では、総合内科専門医試験特有のテーマとして、抗NMDA受容体抗体脳炎、多発性硬化症と神経脊髄炎との違い、筋強直性ジストロフィーがある。この3つのテーマは、毎年複数題出題されているので、確実に押さえておきたい。例題(解答は本ページの最後に掲載しています)末梢神経障害に関する記述のうち正しいものはどれか?1つ選べ(a)膝蓋腱反射とアキレス腱反射の反射中枢は同じである(b)起床時に手首に力が入らず、垂れてしまう。これは睡眠中の尺骨神経麻痺が原因である(c)フローマンサイン陽性は、橈骨神経麻痺の診断に有用である(d)手根管症候群の診断に有用な所見として、ファレンテスト陽性・ティネル様サイン陽性がある(e)足を組んで寝ていたら、翌朝足首(足関節)と足の指(趾)が背屈できなくなり受診。診察所見で下垂足(drop foot)を認める。脛骨神経麻痺が原因である例題の解説とその他の予想問題はこちらへ【第11回 循環器】 全7問循環器領域では、心筋梗塞、心不全治療に加えて、心アミロイドーシス、心サルコイドーシス、大動脈炎症候群が、本試験における特徴的なテーマといえる。また、新しいデバイスが登場すると出題される傾向がある。今年要注意なのは、リードレスペースメーカー、最近適応拡大されたループレコーダーなど。例題(解答は本ページの最後に掲載しています)心不全について正しいものはどれか?1つ選べ(a)NYHA分類I度は「軽度の身体活動の制限があるが、安静時には無症状」の状態である(b)NYHA分類II度はAHA/ACC心不全ステージBに相当する(c)クリニカルシナリオ(CS)は急性心不全患者の入院早期管理に用いられる指標で、CS4は右心不全、CS5は急性冠症候群に分類されている(d)NT-proBNP(N末端プロ脳性ナトリウム利尿ペプチド)は心筋細胞内のproBNPがBNPに分解される際に産生され、心不全診断の基準値はBNPと同じ値である(e)日本循環器学会/日本心不全学会のステートメント(心不全症例におけるASV適正使用に関するステートメント第2報)に、中枢型有意の睡眠時無呼吸を伴い、安定状態にある左室収縮機能低下に基づく心不全患者に対しては、ASVの導入・継続は禁忌ではないが、慎重を期する必要があると記載されている例題の解説とその他の予想問題はこちらへ【第12回 総合内科/救急】 全3問総合内科/救急の領域で確実に出題されるのは「意識レベル」。JCSとGCSについては、どちらも確実に解答できるようにしておきたい。また、JMECCに関する問題と脳死判定基準も出題のヤマとなると思われる。例題(解答は本ページの最後に掲載しています)救急・脳死に関する記述のうち正しいものはどれか?1つ選べ(a)覚醒しているが、見当識障害を認めればJapan Coma Scale(JCS)は3とする(b)「痛み刺激で開眼・不適当な発語・指示には従えないが痛み刺激から逃避する」でGlasgow Coma Scale(GCS)は8点となる(c)病歴聴取で使用されるSAMPLE historyの「M」は「Meal(最終食事時間)」である(d)脳死判定基準の除外基準では、深昏睡および自発呼吸の消失が「低体温によるもの」「代謝/内分泌障害によるもの」とともに「急性薬物中毒によるもの」が含まれている(e)脳死判定基準の1つに「前庭反射の消失」があり、聴性脳幹誘発反応にて確認することとなっている例題の解説とその他の予想問題はこちらへ【第7回~第12回の解答】第7回:(d)、第8回:(a)、第9回:(b)、第10回:(d)、第11回:(e)、第12回:(d)【第1回】~【第6回】は こちら

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出産前搾乳は低リスク糖尿病妊婦において安全に実施できる(解説:住谷哲氏)-720

 肥満人口の増大に伴い糖尿病妊婦も増加している。糖尿病妊婦からの出生児は子宮内で高血糖の環境にあるため高インスリン状態にあり、分娩後は一過性低血糖を来すことがある。そのため分娩後NICUでの管理が必要になることが少なくない。初乳(colostrum)は通常の乳汁に比べてグルコース濃度が高く、出生児の低血糖を予防するために適切である。そこで、わが国ではあまりないと思われるが、欧米の一部では糖尿病妊婦に対する出産前搾乳が推奨されている。一方で、妊娠後期の搾乳はオキシトシン分泌を介して子宮収縮を促進することから、出生児の合併症を増加させる可能性も懸念されている。そこで糖尿病妊婦における出産前搾乳の有益性に関するコクランのシステマティックレビューが実施されたが、エビデンスが存在しないため有益性は不明とされていた1)。 本試験はこの「糖尿病妊婦の出産前搾乳は出生児に対して有益かつ安全か?」との臨床的疑問に回答を試みたものである。対象は9割以上が妊娠糖尿病(GDM)であり、残りが妊娠前糖尿病(pre-existing diabetes、1型糖尿病および2型糖尿病の両者を含む)である。多くの除外基準が設定されており(詳細は論文を参照されたい)、低リスク妊婦のみが対象となっている。対象患者は妊娠36週から搾乳する群と対照群に無作為に分けられたが、試験デザインから盲検化は不可能であり、データ回収、解析などを盲検化したPROBE(Prospective Randomized Open Blinded-Endpoint)法に近い方法が用いられた。 その結果、出生児のNICUへの入院率は両群に有意差はなく、出産前搾乳は低リスク糖尿病妊婦において安全に実施できると考えられた。ただし著者らが強調しているように、この試験の結果は多くの除外基準をクリアした低リスク妊婦のみに適用可能であり、すべての糖尿病妊婦に適用できるかは現時点では不明である。 本試験は、これまで慣習として広く実施されてきた医療行為(糖尿病妊婦における出産前搾乳)を臨床的疑問として定式化し、因果関係を証明するのに最も適切であるRCTを用いてその有益性を明らかにした。臨床的疑問の定式化はEBMの第一歩であるが、これは既存のエビデンスに基づいて眼前の臨床的疑問を解決する第一歩であるのみならず、自ら新たなエビデンスを創造するための第一歩でもある。本論文を読んで筆者はそれを再認識させられた。

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血管拡張性ショックにアンジオテンシンIIは有用か/NEJM

 高用量の従来の昇圧薬に反応しない血管拡張性ショック患者に対し、合成ヒトアンジオテンシンII薬(LJPC-501)が血圧を効果的に上昇したことが、米国・クリーブランドクリニックのAshish Khanna氏らによる無作為化二重盲検プラセボ対照試験「ATHOS-3」の結果で示された。高用量の昇圧薬に反応しない血管拡張性ショックは、高い死亡率と関連しており、本検討の背景について著者は次のことを挙げている。現在利用可能な昇圧薬はカテコールアミン(交感神経刺激薬)とバソプレシンの2種のみで、いずれも高用量では毒性作用が強く治療領域が限られている。また、アンジオテンシンII薬は、低血圧発症時のホルモンのはたらきをヒントに開発が進められ、カテコールアミンとバソプレシンへの追加投与で有用性を検討したパイロット試験で、カテコールアミンの用量減少が可能なことが示唆されていた。NEJM誌2017年8月3日号(オンライン版2017年5月21日号)掲載の報告。従来の昇圧薬に反応しない患者にアンジオテンシンIIまたはプラセボを投与 試験は2015年5月~2017年1月に、9ヵ国(北米、オーストララシア、欧州)75ヵ所のICUで実施された。ノルエピネフリン0.2μg/kg/分超または他の昇圧薬を同等の用量で投与されている血管拡張性ショック患者を、アンジオテンシンII静注群もしくはプラセボ静注群に無作為に割り付け検討した。なお無作為化では、スクリーニング時の平均動脈圧による層別化(65mmHg未満または65mmHg以上)、APACHE IIスコアによる層別化(30以下、31~40、41以上[スコア範囲:0~70、高スコアほど疾患重症度が高いことを示す])も行われた。 主要エンドポイントは、静注開始後3時間時点の平均動脈圧への効果で、治療中の昇圧薬の増量なしで、ベースラインから10mmHg以上の上昇または75mmHg以上に上昇と定義した。また、副次有効性エンドポイントとして、ベースライン評価から48時間までの心血管関連の臓器機能不全評価(SOFA)スコア(スコア範囲:0~4、高スコアほど重度)の変化を、さらに総SOFAスコア(スコア範囲:0~20、高スコアほど重度)を評価した。安全性については、重篤有害事象、有害事象関連の投薬中断、全有害事象、全死因死亡を、7日および28日時点で評価した。静注開始後3時間時点の昇圧、アンジオテンシンII群で有意に多く達成 合計344例の患者が無作為化を受け、割り付け治療を受けなかった23例を除外した321例(アンジオテンシンII群163例、プラセボ群158例)が解析に包含された。 主要エンドポイントを達成したのは、アンジオテンシンII群114/163例(69.9%)、プラセボ群37/158例(23.4%)で、アンジオテンシンII群の患者が有意に多かった(オッズ比:7.95、95%信頼区間[CI]:4.76~13.3、p<0.001)。 48時間時点のSOFAスコア改善の平均値は、アンジオテンシンII群がプラセボ群よりも有意に大きかった(-1.75 vs.-1.28、p=0.01)。 重篤有害事象は、アンジオテンシンII群で60.7%、プラセボ群で67.1%報告された。28日間の死亡発生は、アンジオテンシンII群75/163例(46%)、プラセボ群85/158例(54%)であった(ハザード比:0.78、95%CI:0.57~1.07、p=0.12)。 なお試験結果は限定的であるとして著者は、割り付け方法に問題があった可能性、サンプルサイズが小さいこと、死亡への影響を評価するには検出力が不足していること、追跡期間が28日と短いことなどを挙げている。結論として、アンジオテンシンIIの静注で血圧を上昇し、高用量の昇圧薬投与を受ける血管拡張性ショック患者において、カテコールアミン投与を減らすことができたと述べている。

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昼顔【不倫はなぜ「ある」の?どうすれば?】Part 1

今回のキーワードモラルハザード愛着形成承認欲求信頼関係モラル脳生殖戦略精子競争社会構造みなさんは、誰かの不倫が気になりますか?最近、芸能人や政治家たちへの報道によって、不倫はますます注目されています。なぜ不倫をするのでしょうか?逆に、なぜ不倫をしないのでしょうか?そもそもなぜ不倫は「ある」のでしょうか? だとしたら不倫はして良いのでしょうか?けっきょく、どうすれば良いでしょうか?これらの疑問に答えるため、今回は2014年のドラマ「昼顔」を取り上げます。このドラマの続編は2017年夏に映画として公開されています。不倫とは?主人公の紗和は、夫と平凡に暮らす結婚5年目の主婦。夫とはセックスレスで子どもはいません。一方、最近、紗和の近所に引っ越してきた利佳子は、裕福な夫と2人の娘と何不自由なく暮らしながら、遊び感覚で不倫を楽しむ人妻です。紗和は、利佳子に仕向けられたこともあって、たまたま知り合った近所の高校教師の裕一朗と惹かれ合いながら、やがて本気の恋愛に発展していきます。裕一朗も結婚2年目で子どもはおらず、いわゆる「ダブル不倫」の関係です。紗和、利佳子、裕一朗のように、不倫とは、婚姻関係にあるパートナー以外の人とセックスをすることです。ちなみに、浮気とは、婚姻関係だけでなく恋人関係にあるパートナー以外の人とセックスをすることであり、より広い意味合いになります。また、紗和と裕一朗のように恋愛の要素が強い場合は「婚外恋愛」と呼ばれ、利佳子のようにセックスの要素が強い場合は「婚外セックス」と呼ばれることはありますが、セックスをしているという点では、同じく不倫です。なぜ不倫をするの?なぜ不倫をするのでしょうか? 彼らを通して、その危険因子を環境因子と個体因子に分けて、整理してみましょう。(1)不倫の環境因子不倫の環境因子として、夫婦の片方または両方が離れていることが考えられます。その距離を3つに分けてみましょう。1)物理的に離れている紗和の夫は、残業や出張を理由に、平日の夜や休日に紗和といっしょにいる時間をあまりつくろうとはしていません。裕一朗の妻は、大学の准教授になるほど仕事熱心で、家事は裕一朗に任せて、裕一朗との時間は二の次になっています。また、紗和がパートの仕事をしているのに対して、利佳子は完全な専業主婦で、平日午後3時から5時の間の時間を持て余しており、自由に使えるお金がある程度あります。不倫の環境因子の1つ目は、夫婦の物理的な距離です。言い換えれば、夫婦でいっしょにいる時間をつくるのが難しくなっていたり、怠っている状況です。夫の単身赴任、妻の妊娠中の里帰りなどもそうです。2)心理的に離れている紗和の夫は、紗和よりもペットのハムスターのことばかり気に掛けています。裕一朗の妻は、子作りのタイミングなど自分の考えや気持ちを一方的に伝えるだけで、裕一朗の考えや気持ちを聞こうとはしていません。また、利佳子が紗和に言ったのが「3年も経てば、夫は妻を冷蔵庫同然にしかみなくなる。ドアを開けたらいつでも食べ物が入っていると思っている。壊れたら不便だけど、メンテナンスもしたことがない」というあきらめのセリフです。利佳子と彼女の夫の間にあるのは、信頼関係ではなく、力関係であることが分かります。不倫の環境因子の2つ目は、夫婦の心理的な距離です。言い換えれば、夫婦がお互いを大事にするのを怠っている状況です。結婚という制度は、簡単には離れられないという安心感が得られる一方、それに甘んじて、結婚生活での相手の不満への歩み寄りを怠ってしまうという倫理的な危うさがあります(モラルハザード)。一方的な経済支援をする利佳子の夫はとても傲慢になり、家事を独占する利佳子はとても堕落しています。3)性的に離れている紗和の夫は、子どもがいないにもかかわらず、紗和が望んでいないにもかかわらず、紗和を「ママ」と呼び、自分を「パパ」と呼ばせています。また、紗和は姑から急かされたこともあり、子作りをしようと夫を誘いますが、夫は避けています。夫は、「家族になったんだよ」「愛情がないわけではない」ということを強調して、セックスをしない理由付けをしています。毎晩、夫が紗和と手をつないで寝る儀式からほのめかされるのは、紗和は夫の母親代わりの「ママ」として見られていても、もはや女性としては見られていないようです。不倫の環境因子の3つ目は、夫婦の性的な距離です。言い換えれば、体の温もりや喜びを通して夫婦がお互いを大事にする行為を怠っている状況です。セックスは、単にお互いの性欲を満たすだけでなく、愛情や信頼関係を確かめるための重要なコミュニケーションです。(2)不倫の個体因子不倫の個体因子として、夫婦の片方または両方に満たされないものがあることが考えられます。その不足を3つに分けてみましょう。1)性欲が満たされない利佳子は、出会い系サイトを利用して、不特定多数の男性とセックスを繰り返しています。夫は利佳子に「おれの言うとおりにしてたら間違いない」「おまえはおれの稼ぎで生きている」と言うなど傲慢であり、たとえセックスをしたとしても、利佳子が満たされるセックスにはならなさそうです。不倫の個体因子の1つ目は、性処理の不足です。言い換えれば、夫婦の性欲に極端な差があることです。例えば、夫婦の力関係などによって、夫のセックスが一方的で妻の性欲が満たされない状況です。または、妻がセックスに淡泊で、夫の性欲が満たされない状況です。特に男性は性欲が満たされない場合、風俗店を利用する風俗不倫が多いです。なお、性欲が強すぎる極端な状態で、社会生活に差し障りがある場合は、セックス依存症と呼ばれます。2)愛情欲求が満たされない紗和の夫が紗和と夫婦の距離を縮めようとしないのは、そもそも彼の生い立ちに原因があることがほのめかされています。彼の父親もまたかつて不倫をしていて、彼は、母親が嫉妬で嘆き悲しみ、あきらめているのを見てきたのでした。彼には、夫婦としてお互いを大事にするというモデルがそもそもないのです。どうして良いかわからず、結果的に、夫婦関係を深めることを避けてきたのです(愛着回避)。また、彼は、積極的な女性部下に押されて、紗和と同じく不倫に近い関係に至っています。その女性部下は、「既婚者専門」と言い、言い寄っていくのです。なぜ彼女は「既婚者専門」なのでしょうか? ストーリーの中では明かされていませんが、最初から不倫を望む人の根っこの心理には、他人への不信感と自尊心の低さがあります。つまり、本当は選ばれたいけれど、選ばれないという結果が怖くて(見捨てられ不安)、それを避けるため、最初から選ばれないことを前提にした関係を望んでしまうのです。けれども、やはり選ばれたいという欲求が強くなってしまえば、結果的に相手にのめり込んでしまい、不安定になります(愛着不安定)。不倫の個体因子の2つ目は、安定した愛着形成の不足です。言い換えれば、特別に相手を選び、特別に自分が選ばれることによって、相手を大事にすると同時に自分が大事にされるという信頼関係を深めることがうまくできず、愛情欲求が満たされない状況です。さらに、最近の研究では、愛着形成のしやすさは、生育環境だけでなく、遺伝的傾向もあることが分かってきています(バソプレシン受容体)。性欲と同じように、愛着形成にも個人差があると言えるでしょう。なお、愛着回避型と愛着不安定型が極端な状態で、社会生活に差し障りがある場合は、それぞれ回避型パーソナリティ障害、境界性パーソナリティ障害(情緒不安定性パーソナリティ障害)と呼ばれます。3)承認欲求が満たされない利佳子は、「夫が自分を愛していないことを知ってるの」「私のことを見てくれる人がいなきゃ生きてる意味ない」と言っています。彼女は、好き勝手で奔放に見えますが、自分が夫から生身の女性として扱われていないことに寂しさや空しさを感じています。不倫の個体因子の3つ目は、承認の不足です。言い換えれば、夫が女性としての妻に無関心となり、妻は自分の女性としての価値が認められていない、承認欲求が満たされていない状況です。不倫をすることで、その欲求を満たそうとしたり、紛らわそうとしています。なお、この承認欲求が強すぎる極端な状態で、社会生活に差し障りがある場合は、自己愛性パーソナリティ障害と呼ばれます。なぜ不倫をしないの?紗和も裕一朗も、不倫の関係になっていることに葛藤し、強い罪悪感にさいなまれています。利佳子も、夫に対しては必死に不倫を隠し通そうとしています。彼らのように、なぜ不倫をしないようにしようとするのでしょうか? そして、不倫をしてしまったら、なぜ隠すのでしょうか?これまでは、なぜ不倫をするのかという問いへの答えが分かってきました。それでは、逆に、なぜ不倫をしないのでしょうか? そして、なぜ不倫をする人をよく思わないのでしょうか? まとめると、なぜ私たちは一夫一妻制を好むのでしょうか? その答えを、進化生物学的に考えてみましょう。私たちヒトは、近縁の種であるチンパンジーやゴリラとの共通の祖先から数百万年以上前に分かれて、進化しました。チンパンジーは不特定のオスと不特定のメスが生殖を行う乱婚型(多夫多妻型)に、ゴリラは特定の1頭のオスと特定の複数のメスが生殖を行うハーレム型(一夫多妻型)になりました。その違いの起源は生活環境です。チンパンジーはエサが豊富で密集していたのでオスとメスが出会いやすいのに対して、ゴリラはエサが少なく散在していたので出会いにくいことが考えられています。そして、ヒトは、特定のオス(男性)と特定のメス(女性)が生殖(セックス)を行う一夫一妻型になりました。その起源は性別分業です。ヒトは、二足歩行をするようになったことで、手が自由になり、食料を余分に運ぶことができるようになりました。そして、男性が食料を調達し、女性がその見返りにセックスを受け入れ、その男性との子どもを育てるという性別で役割を分業するようになりました。これが家族の始まりです。やがて、家族が血縁によっていくつも集まって100人から150人の大家族の村(生活共同体)をつくるようになりました。これが、社会の始まりです。ここから、家族や社会をつくったヒトの心(脳)の進化の歴史を踏まえて、なぜ不倫をしないのかの問いへの答えを、3つに整理してみましょう。1)夫婦の信頼関係を壊す紗和の不倫騒動で、夫は、けっきょく「何で一番そばにいる人の気持ちが分からないんだろうな」とつぶやき、離婚を決意します。夫は紗和を信頼できなくなっていたのでした。不倫をしない理由の1つ目は、夫婦の信頼関係を壊すからです。言い換えれば、夫婦関係を維持するためには、夫婦がお互いとだけセックスするとお互いに信じている必要があるからです。そうしなければ、例えば夫が不倫して別の女性に食料を渡した分、妻の食料の取り分が減り、妻の生存が危うくなります。一方、妻が不倫して別の男性からのセックスを受け入れた分、夫の子どもができる可能性が減り、夫の生殖が危うくなります。2)子どもとの信頼関係を壊す利佳子が家を出て行ったあと、代わりに家政婦さんが子どもたちのお世話をしています。訪ねてきた紗和に長女は「不倫した人がつくったご飯よりも家政婦さんのご飯の方が100倍おいしい」と叫んでいます。裕一朗の教え子は、ある事件を起こしたきっかけとして「おれ、(不倫の末にいなくなった)母親のことがあるから、大人が薄汚く見えるんだよね」「(捨てられると)生まれちゃった方はいい迷惑なんだよ」と言っています。彼の自尊心は傷付いていました。不倫をしない2つ目の理由は、子どもとの信頼関係を壊すからです。言い換えれば、子育てに責任を持つためには、父親と母親がはっきりしている必要があるからです。そうしなければ、父親が不倫して別の女性に食料を渡した分、子どもの取り分が減り、子どもの生存が危うくなります。また、母親が不倫して別の男性からのセックスを受け入れた分、父親がはっきりしなくなり、食料が確保できる可能性が減り、子どもの生存が危うくなります。結果的に、紗和の夫や夫の同僚女性のように、その子どもが成長して大人になった時に親と同じように他人と安定した信頼関係を築きにくくなる危うさもあります。3)社会との信頼関係を壊す裕一朗の上司である校長は「(不倫は)相手の家族に迷惑がかかる」と心配しています。不倫を知った裕一朗の妻が紗和のパート先に不倫の事実をバラしたことで、紗和は職場に居づらくなり、退職を迫られます。不倫をしない3つ目の理由は、社会との信頼関係を壊すからです。言い換えれば、村の秩序を維持するためには、男性と女性がお互いにセックスする相手を特定している必要があるからです。また、そうするように私たちの心(脳)は進化してきました(モラル脳)。例えば、結婚式という儀式によって、村人たちの前で、夫婦は「永遠の愛」を誓います。自分ではなくても、村の誰かが不倫をしているということを知ったら、とても気になり、好ましくは思いません。そうしなければ、不倫をされた妻の生存が危うくなったり、不倫をされた夫の生殖が危うくなることで、安定した社会の維持が危うくなります。ただし、例外があります。それは、身内やとても親しい友人が不倫をしている場合です。この時、私たちは、逆に、味方になり応援をすることもあります。そのわけは、身内であれば、自分たちの血縁(遺伝子)がより生き残るように動機付けられるからです。また、親しい友人であれば、不倫への懲罰欲(モラル脳)よりも、友情の心理(これもモラル脳の1つ)が上回るからであると言えるでしょう。次のページへ >>

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CKD患者に対するトルバプタン、反応予測因子は:横浜市大センター病院

 バソプレシンV2受容体拮抗薬であるトルバプタンは、心不全患者の利尿作用を有する。しかし、慢性腎臓病(CKD)患者におけるトルバプタンの効果に関するデータは少ない。横浜市立大学附属市民総合医療センターの勝又 真理氏らは、慢性心不全およびCKD患者に対するトルバプタンの効果をレトロスペクティブに解析した。Clinical and experimental nephrology誌オンライン版2017年2月11日号の報告。 対象は、慢性心不全およびCKDを有する患者21例。トルバプタンは、ほかの利尿薬と同時に投与した。トルバプタン治療前後の臨床パラメータを比較した。さらに、ベースラインデータと体重変化との相関を調査した。 主な結果は以下のとおり。・トルバプタンは、体重を減少させ、尿量を増加させた(p=0.001)。・尿浸透圧は、試験期間を通じて有意に減少した。・尿中ナトリウム/クレアチニン比およびFENa(ナトリウム排泄分画)は、4時間後に有意に変化し、8時間後にはより顕著であった(各々:p=0.003)。・血清クレアチニンは、治療1週間後、わずかに増加した(p=0.012)。・試験期間中の体重変化は、ベースラインの尿浸透圧(r=-0.479、p=0.038)、尿量(r=-0.48、p=0.028)、下大静脈径(IVCD:r=-0.622、p=0.017)と負の関連が認められた。・低ナトリウム血症は正常値に改善し、ナトリウム濃度の増加は基礎ナトリウムレベルと負の関連が認められた(p=0.01、r=-0.546)。 著者らは「トルバプタンは、CKD患者においても利尿作用を高め、低ナトリウム血症改善に有効である。尿浸透圧、尿量、IVCDのベースライン値は、トルバプタンの利尿作用の有益な予測因子となりうる」としている。

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