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無意識に使う「けいれん」【脳がととのう 神経内科学講座】第3回

<今回のモヤっとPoint>けいれんの守備範囲はとても広いけいれん≠てんかんはじめに臨床現場では「けいれんでした、てんかんでしょうか?」というフレーズをしばしば見聞きします。もちろん、けいれんを引き起こす代表疾患にてんかん(epilepsy)がありますが、けいれんしたからといって、てんかんとは限りません。けいれんは症候名であり、てんかんはその原因疾患の一つに過ぎないのです。また、そもそも「けいれん」とはどのような状況をさしているのでしょうか? 実は、けいれんは非常に幅のある用語なので、もしかすると各々のイメージするそれとはちょっとずつズレがあるかもしれません。まさにコミュニケーションエラーになりやすい曖昧な用語といえます。ちなみに筆者のようなてんかん専門医が「けいれん」と表現するときは、主に典型的な強直間代発作をイメージする時が多いのですが、これはみなさんと共通しているでしょうか? もし、ズレを感じているようであればここで整理しておきましょう。けいれんとはけいれんとは、自分の意思とは関係なく、筋肉が勝手に激しく収縮する症状のことです。つまり症候名です。ガクガクと激しい筋収縮を繰り返す症候を「けいれん」と表現します。そして、このけいれんが大脳皮質の過剰興奮によって発生しているものがいわゆる「けいれん発作」であり、英語表記ではconvulsionやconvulsive seizureと呼びます。ERに搬送されてくる「痙攣重積」の正式な用語としては、痙攣性てんかん重積状態(convulsive status epilepticus:CSE)です。ちなみに、明らかなけいれんを伴わないてんかん重積状態を非痙攣性てんかん重積状態(NCSE)と呼びます。一方で、同じ「けいれん」という症状でも、そのoriginが大脳皮質ではなく、末梢の神経や筋肉に由来して発生することもあり、その場合にはcramp(クランプ)やspasm(スパズム)などと表現します。Crampは有痛性筋痙攣などをさします。これらは中枢神経由来ではないので、不随意運動の範疇として捉えます。Spasmも日本語では「けいれん」なのですが、眼瞼攣縮(blepharospasm)や顔面痙攣(facial spasm)など、より限局的に発生しているときに用いることが多いです。ややこしいのですが、眼瞼攣縮は眼輪筋の不随意収縮により過剰な瞬目や閉瞼をきたす局所性ジストニアで、中枢由来の症候として理解されています。一方、同じ「目の周囲のピクつき」として訴えられることがあるものに「眼瞼ミオキミア(eyelid myokymia)」がありますが、それは下眼瞼にみられる細かく波打つような筋収縮が特徴で、末梢由来の現象です。「けいれん」と「痙攣」、どっちを使うべき?ところで、「けいれん」と「痙攣」、どちらの表記が正しいのでしょうか?答えとしては、どちらも間違いではありません。日本神経学会の用語集には漢字表記で示されています。一方で、日本てんかん学会の用語集はひらがな表記を採用しています。これは、ひらがなのほうがてんかんのある患者に対して伝わりやすく、また歴史的な偏見や漢字の硬さから伝わるイメージを避けるという文脈があります。よって、文脈や状況に応じて使い分けるとよいと思います。けいれん=てんかんではないまず前提として、けいれん≠てんかんです。そもそも、前述のように痙攣とは激しく収縮を繰り返す状態をさす症候名であって、対する「てんかん」は病名になります。具体的には、大脳皮質の過剰興奮により引き起こされる発作を慢性に再発性に繰り返す病態がてんかんです。よって、(発作そのものは急性に出現しますが)あくまでも、てんかんは発作を繰り返す『脳の慢性疾患』なのです。ただし、この大脳皮質の過剰興奮はてんかん以外でも引き起こされます。たとえば、脳出血など脳卒中による脳血管障害、あるいは髄膜炎などの中枢神経系感染症などでの急性病態に随伴して生じる急性症候性発作があります。急性期での一過性の発作なので、慢性に発作を繰り返すてんかんとは根本的に異なります。例えるなら、喘息発作(喘鳴)は咳喘息や薬剤性などの病態で一時的に出現しえますが、喘鳴があれば気管支喘息と診断しないのと同じです。真のけいれんとは国際抗てんかん連盟(ILAE)の発作型分類には「けいれん」という用語はありません。一般臨床で用いること自体は仕方ないとしても、けいれんの意味が曖昧であるため正式な発作用語としては採用されていないのです。では、けいれんに該当するような発作型分類には何があるかというと、強直発作(tonic seizure)間代発作(clonic seizure)ミオクロニー発作(myoclonic seizure)強直間代発作(tonic-clonic seizure)などです。そして、いわゆる大発作はこのうちの強直間代発作をさします。筋が急性に持続的に収縮して体が硬く突っ張るような状態になるものが強直発作です。ガクガクと激しく動くのではなく、一定時間、力が入りっぱなしになるのが特徴です。これに対して、間代発作は、筋の収縮と弛緩が繰り返されるもので、そこには一定のリズムがあり、ガクガクと反復する発作です。(図)けいれんミミック:心因性非てんかん発作とはけいれん発作のミミックに心因性非てんかん発作(Psychogenic nonepileptic seizure:PNES)という心因性の発作があります。PNESとは「てんかん発作に似た突発性の発作症状を示すものの、てんかん性機序では説明できない病態」です。けいれん様の激しい運動症状を呈するため、真のてんかん発作と誤認して対応してしまうこともまれではありません。両者の特徴の違いを表に記載していますが、専門医でも判断に迷うことはしばしばあります。(表)てんかん発作とPNESの違い画像を拡大する一番の鑑別ポイントは持続時間だと考えましょう。ダラダラと長続きするような発作はPNESの可能性が高いです。また、前述のように真の強直間代発作の間代発作ではリズムがありますが、PNESではリズムがなく、非同期性である点がポイントです。発作を目の当たりにした際には、手足の動きのリズムや同期性に着目してみてください。なお、PNESはてんかんの有無とは独立して存在しうるので、てんかんが除外されたからといってPNESとはなりませんし、真のてんかん発作にPNESが合併することもある点には留意しましょう。ところで、PNESという名称については再検討されつつあるんです。PNESという用語は広く用いられてきましたが、「psychogenic」や「non」という表現によって「器質的異常がなければ心因性である」という二元論的な理解につながるおそれや、患者へのネガティブな印象を与えるなど、用語に対する限界が指摘されてきました。そこで近年ではFDS(functional/dissociative seizures)として捉えるようになっており、日本語では「機能性発作」あるいは「解離性発作」などと表現できそうです。とくに、脳神経内科領域ではfunctional neurological disorder(FND、機能性神経障害)の概念が近年では市民権を得ており、FDSもその枠組みとして今後は理解されていくのではないかと思います。今回のスッキリ「けいれん」は診断名ではなく症候名、てんかんとも限らない「けいれん」は脳由来か末梢由来か表現を使い分ける1)日本てんかん学会編. てんかん学用語辞典 改定第2版. 診断と治療社. 2017.2)Hingray C, et al. Epilepsia. 2025;66:4162-4182.

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第300回 従来の保険証の暫定措置7月末で終了へ 窓口・救急対応で混乱防止を/厚労省

<先週の動き> 1.従来の保険証の暫定措置7月末で終了へ 窓口・救急対応で混乱防止を/厚労省 2.電子処方箋の導入促進へ 7月14日に医療機関・薬局向け説明会/厚労省 3.診療情報共有、チャットでは不可 DX関連加算の要件を明確化/厚労省 4.診療所にもサイバー対策調査へ 7月からG-MISで実態把握/厚労省 5.介護保険法改正が成立 人口減少地域と身寄りなし高齢者支援を強化/厚労省 6.成年後見制度が「終われる制度」へ 退院支援にも対応求められる/国会 1.従来の保険証の暫定措置7月末で終了へ 窓口・救急対応で混乱防止を/厚労省厚生労働省は6月18日に開催された社会保障審議会医療保険部会で、マイナ保険証の利用状況と、従来の健康保険証に関する暫定措置を7月末で終了する方針を示した。2025年12月に従来の保険証は廃止され、マイナ保険証または資格確認書による資格確認が原則となっていたが、期限切れの保険証を持参した患者についても、医療機関側で被保険者番号などを確認できる場合は3割などの通常負担で受診を認める暫定運用が続いていた。これが8月以降は終了し、受診時にはマイナ保険証か資格確認書の持参が必須となる。4月のマイナ保険証利用率は68.15%だった。施設別では病院68.50%、医科診療所71.16%、歯科診療所71.52%、薬局63.29%で、昨年12月以降は6割台で推移している。 その一方で、加入者に占める利用登録割合は全保険制度で7割を超え、共済組合84.6%、健康保険組合83.7%、後期高齢者医療75.8%などとなった。マイナンバーカード保有率も8割を超えており、制度は移行期から本格運用の段階に入ったといえる。医療機関にとって重要なのは、8月以降の窓口混乱への備えである。厚労省は保険者、医療機関、薬局向けにリーフレットを配布し、SNSや福祉関係団体を通じて周知する。とくに高齢者、障害者、施設入所者、在宅患者では、本人がマイナ保険証を持参できない、資格確認書の所在がわからない、家族や施設職員が制度変更を十分に把握していないといった事態が想定される。外来受付だけでなく、救急外来、入退院支援、訪問診療部門でも、患者・家族への早期案内が必要である。関連して、スマートフォン搭載のマイナ保険証利用も広がっている。対応施設は約12.5万、スマホ搭載件数は約800万件に達し、訪問診療・訪問看護で用いるマイナ資格アプリでも読み取りが可能となった。さらに令和8年度からは、スマホ読み取りや音声案内、顔認証エラー低減に対応した第2世代顔認証付きカードリーダーの導入も進む。救急領域では、救急隊がマイナ保険証から受診歴や薬剤情報を確認する「マイナ救急」の本格運用が始まっている。吐血患者で食道静脈瘤手術歴を推定できた事例、意識障害患者で抗てんかん薬の処方歴を把握できた事例など、病歴聴取が困難な場面で搬送先選定や初期対応に役立つ可能性が示された。制度変更は事務手続きにとどまらず、医療安全、救急医療、地域医療DXの基盤整備として捉える必要がある。 参考 1) マイナ保険証の円滑な利用について(厚労省) 2) マイナ保険証の最新利用率68% 7月末に暫定措置の終了「早期切り替えを」厚労省(テレビ朝日) 3) 8月から「マイナ保険証」か「資格確認書」必須に 期限切れた保険証でも保険診療認める「暫定措置」終了へ(東京新聞) 4) マイナ保険証、4月の利用率は68% 従来の保険証は7月末で完全終了(日経新聞) 5) マイナ保険証、病院の利用率68.50% 4月 医科診療所は71.16%(CB news) 2.電子処方箋の導入促進へ 7月14日に医療機関・薬局向け説明会/厚労省厚生労働省は、電子処方箋の導入・利用促進に向けたオンライン説明会を7月14日午後7~8時で開催する。名称は「令和8年度電子処方箋オンライン説明会~診療報酬改定でどう変わる? 業務・経営面のポイントを解説~」(視聴先URL)。医療機関や薬局を対象に、YouTubeでライブ配信し、参加登録は不要となっている。説明会後には、アーカイブ動画と説明資料を厚労省ウェブサイトに掲載する予定。説明会では、電子処方箋導入による医療安全や業務効率化のメリットに加え、導入補助金、2026年度診療報酬改定での位置付けを解説する。未導入施設だけでなく、すでに電子処方箋システムを導入した施設も対象としており、運用開始後の業務や経営上のポイントを確認できる内容となる。2026年度の診療報酬改定では、従来の医療DX推進体制整備加算などが整理され、新たに電子的診療情報連携体制整備加算が設けられた。同加算では、オンライン資格確認、マイナ保険証利用率、電子処方箋、電子カルテ情報共有サービスなどが施設基準に関わる。疑義解釈では、当面の間、2名以上、常勤医師が1名のみの場合は1名以上の常勤医師が電子処方箋を発行できればよいことや、院外処方では電子処方箋の発行に加え、引換番号付き紙処方箋を発行し、処方情報を登録する運用でもよいことが示されている。その一方で、電子処方箋の導入には、システムの改修、HPKIカード、電子署名環境、院内運用ルールの整備が必要となる。導入補助金を活用した準備も求められる。医師にとっては、処方入力後の確認手順、重複投薬・併用禁忌チェック、薬局との情報連携、紙処方箋との併用時の運用整理が実務上の焦点となる。電子処方箋は、単なる処方箋の電子化ではなく、医療DX関連加算や地域医療連携、薬剤情報の共有と一体で進む仕組みである。各医療機関では、説明会を機に、自院の導入状況、常勤医師の利用体制、薬局との連携、補助金活用の可否を確認しておきたい。 参考 1) 電子処方箋の運用開始や導入準備に関するオンライン説明会(厚労省) 2) 令和8年度電子処方箋オンライン説明会の実施について(同) 3) 電子処方箋オンライン説明会「改定でどう変わる?業務・経営面のポイント」(ドラビズオンライン) 3.診療情報共有、チャットでは不可 DX関連加算の要件を明確化/厚労省厚生労働省は6月17日、2026年度診療報酬改定に関する疑義解釈資料(その8)を示し、新設項目を中心に算定上の取り扱いを明確化した。医療機関、とくに医師の実務に影響が大きいのは、医療DX関連加算、心不全管理、在宅医療、リハビリ・摂食嚥下、精神科、訪問看護などである。まず、電子的診療情報連携体制整備加算では、施設基準にある「地域の複数医療機関で検査結果や画像情報等を含む診療情報を共有・閲覧できるネットワーク」の考え方が整理された。厚労省は、診療情報提供料Iの検査・画像情報提供加算または電子的診療情報評価料の施設基準を満たし、電子カルテ情報を参加医療機関が随時閲覧できるネットワークであることが必要と明示した。単にチャットやメーリングリストで日々の報告や一部情報を共有するサービスでは要件を満たさないとした。さらに地域連携ツールを使っている医療機関は、実際に検査、画像、投薬、注射、退院時要約などを共有・閲覧できる体制か、アクセスログを含め確認が必要となる。電子処方箋については、当面、2名以上、常勤医師が1名のみの場合は1名以上の常勤医師が電子処方箋を発行できればよいとの扱いが再確認された。常に電子処方箋を発行する必要まではなく、引換番号付き紙処方箋を発行し処方情報を登録する運用でもよい。また、電子処方箋システムを導入済みで利用申請も行ったが、HPKIカード取得待ちの場合は、当面、接続インターフェース要件を満たすとされた。心不全再入院予防継続管理料では、心不全再入院予防チームに薬剤師や理学療法士が所属してよく、研修修了が望ましいとされた。管理料1・2を届け出る病院は、地域に管理料3を算定する医療機関がない場合でも研修会を開催する必要があり、二次医療圏の医療機関に広く参加や連携を呼びかけることが求められる。在宅CPAPでは、海外赴任などやむを得ない事情で3ヵ月以上中断し、再開時期が事前にわかる場合、再開時は開始後3ヵ月以内と同様に扱える。ただし中断理由を診療録に記載する必要がある。在医総管・施設総管の新規届出では、初回届出時はいったん基準該当として差し支えないが、その後は定期的な確認と届出が必要である。このほか、身体的拘束最小化推進体制加算は2026年度中の届出に限り、講習・委員会の開催予定を添付すれば1年間要件を満たす扱いとなるが、講習会の開催などの要件を満たさない場合には、直ちに届出を取り下げることが必要になる。さらに摂食嚥下支援計画の説明者、心理支援加算の再算定、認知行動療法の医師要件、脳血管内治療やてんかん手術の適正使用指針も明確化された。訪問看護では紹介料などによる利用者誘導の禁止が明記されたため、医療機関側も連携先の選定や患者紹介の透明性に注意が必要となる。 参考 1) 疑義解釈資料の送付について(その8)(厚労省) 2) 電子的診療情報連携体制整備加算、心不全再入院予防継続管理料、物価対応料等の詳細明確化-疑義解釈8(Gem Med) 3) 診療情報の共有、「チャット」では要件満たせず 新設のDX関連加算(MEDIFAX) 4) 26年度改定・疑義解釈資料(その8)医療DXの新加算、診療情報共有でチャットは対象外(CB news) 4.診療所にもサイバー対策調査へ 7月からG-MISで実態把握/厚労省厚生労働省は、医療情報システムのサイバーセキュリティ対策に関する実態調査を、従来の病院中心から診療所へ拡大する。医政局医療情報担当参事官室が6月15日付で事務連絡を発出し、医療機関等情報支援システム(G-MIS)を利用している診療所を対象に、7月6日~8月21日まで調査を実施する。回答は6月末時点の状況について求められ、医療情報システム安全管理責任者の設置、サイバー攻撃等を想定したBCP策定と訓練、サーバ・端末・ネットワーク機器の台帳管理、職員研修、電子カルテ利用の有無などを確認する。背景には、医療機関を狙うランサムウェア被害の増加がある。過去には徳島県の半田病院、大阪急性期・総合医療センター、岡山県精神科医療センターなどで、保守用VPNや外部委託業者の接続点を経由した攻撃により電子カルテが停止し、診療継続に大きな影響が出た。厚労省でも、中・大規模病院では外部ネットワーク接続点を網羅的に把握できていないことが課題とされ、病院調査では情報システム部門の人員不足、CSIRT未整備、二要素認証の遅れなどが明らかになっている。政府でも、AIを悪用したサイバー攻撃への警戒が強めている。高性能AIにより脆弱性の発見が高速化すれば、医療機関の未更新機器や外部接続点が狙われるリスクはさらに高まる。日本医師会も、医療機関は知識・人材・財源が不足しており、対策は自己責任ではなく地域医療を守る社会インフラ投資として支援すべきだと訴えている。医療法施行規則では、病院、診療所、助産所の管理者にサイバーセキュリティ確保のため必要な措置を講じる義務が位置付けられている。今回の診療所調査は、地域医療の足元にあるリスクを可視化し、チェックリストや安全管理ガイドラインに基づく具体的支援につなげる狙いがある。医療DXの前提として、院長・管理者主導のサイバーセキュリティ体制の確認が急務となる。 参考 1) 令和8年度診療所における医療情報システムのサイバーセキュリティ対策に係る調査について(厚労省) 2) 診療所のサイバー対策、実態調査へ 厚労省(MEDIFAX) 3) サイバー攻撃は激化、医療機関等は「チェックリスト」用いて自院のセキュリティ対策の再確認を-医療等情報利活用ワーキング(2)(Gem Med) 4) 医療機関等におけるサイバーセキュリティ対策の課題等を共有(日医オンライン) 5.介護保険法改正が成立 人口減少地域と身寄りなし高齢者支援を強化/厚労省人口減少と高齢単身世帯の増加を背景に、介護保険法、社会福祉法、老人福祉法などの改正法が6月19日、参院本会議で可決・成立した。今回の改正は、医療機関にも退院支援、在宅療養調整、施設入所支援に直結する内容である。柱の1つは、中山間地域など人口減少地域で介護サービスを維持するための「特定地域サービス」の創設である。介護人材の確保が難しく、訪問に時間を要する地域では、全国一律の人員配置基準や出来高払いでは事業継続が困難になっていた。改正後は、対象地域に限って職員配置基準を弾力化し、訪問系サービスでは月単位の定額報酬も選択可能とする。これでも提供体制の維持が難しい場合には、介護保険財源を用いて市町村が居宅サービスなどを実施できる仕組みも設けられる。厚労省は今後、対象地域や基準を議論し、2027年度の導入を目指す。もう1つの重要な点は、頼れる身寄りのない高齢者への支援拡充である。これまで主に判断能力が不十分な人を対象としてきた金銭管理などの支援を広げ、入院・入所手続き、日常生活支援、葬儀・納骨・家財処分などの死後事務まで、地域の支援機関が担えるようにする。国の推計では2040年に単身高齢者世帯は1,000万世帯を超える。医療現場では、保証人の不在、退院先調整、死亡後の対応が大きな課題であり、地域包括支援センターや社会福祉協議会などとの連携がより重要になる。有料老人ホームについては、住宅型有料老人ホームなどで指摘されてきた「囲い込み」対策として登録制を導入する。入居者に同一・関連法人の介護サービス利用を求めること、ケアマネジャーやかかりつけ医の変更を強いることなどを防ぎ、ケアマネジメントの独立性を確保する狙いがある。医師が施設入所後の療養方針や訪問診療先を確認する際にも、患者本人の選択権が守られているかを意識する必要がある。このほか、ケアマネジャー資格の更新制は廃止される。ただし、研修受講は義務として残り、オンデマンド化や時間短縮で負担軽減を図る。夜間対応型訪問介護は、機能が重なる定期巡回・随時対応型訪問介護看護へ統合される方向である。今回の改正は、介護サービスを「全国一律」から「地域の実情に応じて維持する」方向へ転換するものといえる。病院側には、退院支援の早期介入、身寄りなし高齢者の意思決定支援、施設紹介時の透明性確認など、医療と介護の接点での実務対応が求められる。 参考 1) 改正社会福祉法など成立 身寄りない高齢者支援拡充 参院本会議(NHK) 2) 介護保険法が成立 人口減少地域のサービス維持へ基準を緩和(朝日新聞) 3) ケアマネ資格の更新制の廃止が正式決定 改正介護保険法が成立 研修受講は義務に オンデマンド化で負担減へ(Joint) 4) 介護保険法改正で有料老人ホームの“囲い込み”や人口減少地域の介護はどう変わる?専門家に聞いた3つのポイント(ジョブメドレー) 5) 国会審議中の2027年度介護保険法改正法案のポイント(メディカルサポネット) 6.成年後見制度が「終われる制度」へ 退院支援にも対応求められる/国会認知症や知的障害などで判断能力が不十分な人を支える成年後見制度を抜本的に見直す改正民法が6月17日、成立した。現行制度では、1度利用を始めると本人の判断能力が回復しない限り原則として死亡まで継続し、後見人には包括的な代理権や取消権が与えられる。このため、本人の意思決定を過度に制限する、報酬負担が長期化する、必要な場面だけ使いにくいといった批判があった。改正後は、制度を「必要なときに、必要な範囲で」使える仕組みに改める。現在の後見、保佐、補助の3類型は、後見人と保佐人を廃止して補助人に一本化する。補助人の権限は、遺産分割、不動産売却、施設入所契約、預貯金管理など、本人に必要な個別行為ごとに家庭裁判所が判断する。必要がなくなれば途中終了でき、本人の利益のためとくに必要な場合は、不正がなくても補助人の交代が可能になる。補助人には年1回の家裁への状況報告も義務付けられる。医療現場では、認知症の高齢者や身寄りのない患者の入退院手続き、医療費の支払い、施設入所、相続・財産管理をめぐり成年後見制度が関わる場面が多い。今後は、単に「後見人を立てる」発想ではなく、患者本人の意思を確認し、どの法律行為にどの程度の支援が必要かを整理することが重要になる。退院支援では、地域包括支援センター、社会福祉協議会、法律専門職、行政との連携がより求められる。報酬面でも見直しが入る。これまでは本人の資産額が報酬判断で大きな比重を持っていたが、改正後は支援する事務の内容や難易度をより重視する方向となる。短期間・限定的な利用が可能になれば、利用者負担の軽減につながる可能性がある。その一方で、制度終了後の生活支援、金銭管理、意思決定支援を誰が担うのかは残された課題である。単身高齢者の増加を踏まえ、成年後見制度の改正は、医療と福祉が地域で本人を支える体制作りを迫るものといえる。 参考 1) 成年後見制度の見直し 改正民法などが成立 参院本会議(NHK) 2) 成年後見大改正「終われる制度」に 利用者が払う報酬どう変わる?(朝日新聞) 3) 「死ぬまで継続」廃止へ 成年後見制度見直し 背景に単身世帯増(毎日新聞) 4) 成年後見、終身利用を見直し 改正民法が成立、デジタル遺言導入(時事通信) 5) 財産管理の成年後見、途中終了・交代しやすく 改正民法が成立(日経新聞)

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【GET!ザ・トレンド】脳血管内治療の新分野「脳血管内電極」の最前線

脳血管内治療の技術を応用して、脳活動を血管内から記録または刺激する「endovascular neural interface(血管内神経インターフェース)」の現状と臨床応用の可能性を整理した総説論文がJournal of NeuroInterventional Surgery(JNIS)に掲載された1)。本記事ではこの論文を紹介する。血管内神経インターフェースの概要と意義脳活動の記録には、従来から頭皮脳波が広く用いられている。頭皮脳波は安全で非侵襲的であり、日常診療でも実施しやすい。一方で、頭蓋骨や頭皮を介して信号を記録するため、信号は減弱し、空間分解能にも限界がある。特に、深部や脳溝内、限局した皮質領域に由来する活動は捉えにくい。これに対して、硬膜下電極や定位的頭蓋内脳波(SEEG)は、より高品質な信号を得ることができるが、開頭や穿頭、脳実質内への電極挿入を伴うため、出血や感染などの侵襲性が課題となる。脳血管内神経インターフェースは、この「低侵襲だが信号に限界がある頭皮脳波」と、「高品質だが侵襲的な頭蓋内電極」の中間に位置する新しいアプローチである。この技術の基本的な発想は、静脈洞や皮質静脈など、脳表に近接する血管内に電極を留置し、血管の内側から脳活動を記録する点にある。脳血管内治療で日常的に用いられているカテーテル操作を応用できるため、開頭を避けながら脳に近い位置から信号を取得できる可能性がある。とくに静脈系は、脳表に近い走行を取るうえ、比較的拍動の影響が少ないことから、電極留置の標的として有望である。ただし、血管内にデバイスを置く以上、血栓形成、血管閉塞、デバイス移動、血管解剖の個人差、抗血栓療法の必要性など、脳血管内治療に共通する管理上の課題を避けて通ることはできない。したがって、この分野では「信号が取れるか」だけでなく、「血管内デバイスとして安全に留置・管理できるか」が臨床応用の鍵となる。臨床応用のフロントランナー:StentrodeとEP-01現在、臨床応用に近い代表的なプラットフォームとして、StentrodeとEP-01が挙げられる。・Stentrode(本邦未承認品)Stentrodeは、Synchronが開発するステント状電極で、主に筋萎縮性側索硬化症の患者に対するbrain–computer interface(BCI)を目的とした慢性留置型デバイスである。上矢状静脈洞に留置し、運動野近傍から長期的に脳活動を記録する。初期のヒト臨床研究では、重度麻痺患者がBCIとしてのStentrodeを用いて、考えるだけでデジタル機器操作が可能となり、12ヵ月時点で重篤なデバイス関連有害事象、静脈閉塞、明らかなデバイス移動は報告されていない。一方で、慢性留置型であるため、抗血小板療法の期間、長期開存性、内皮化、リードやコネクタの耐久性、将来的な再治療や抜去の可否などが、今後の重要な検討課題である。・EP-01(本邦未承認品)EP-01は日本で開発された、難治性てんかんの術前評価を念頭に置いた一時留置型の脳血管内脳波デバイスである。両側内頸静脈からアプローチし、横静脈洞、海綿静脈洞、上矢状静脈洞など複数の静脈内に電極を配置できる点が特徴である。従来の頭皮脳波では検出できないてんかん性放電を、脳表に近い静脈内から検出できる可能性が前臨床・初期臨床研究で示されている。とくに、左右どちらの半球にてんかん焦点があるかを判断する「側方診断」への応用が期待されている。現在進行中のEPSILON IE試験では、従来の頭蓋内脳波との診断一致を主要評価項目として、難治性焦点てんかん患者における有効性と安全性を検証中である。デバイスの使用方法とチーム医療の必要性EP-01はStentrodeとは異なり、長期留置を目的とした完全植込み型ではなく、最大約2週間の一時留置と抜去を前提としている。そのため、既存のてんかんモニタリング環境に接続しやすい一方で、体外に出るリードの固定、感染予防、留置中の血栓リスク管理が重要となる。血管内デバイスでありながら、脳波モニタリング機器でもあるという二面性を持つため、脳血管内治療医、てんかん専門医、臨床神経生理・看護・検査部門を含めたチーム医療が不可欠である。今後の展望:既存技術を補完する新しい選択肢へ本論文の重要なメッセージは、血管内神経インターフェースが既存の頭皮脳波、硬膜下電極、SEEGを直ちに置き換える技術ではなく、症例に応じて補完的に用いられる可能性のある新しい選択肢だという点である。今後の臨床導入には、信号検出の実証だけでなく、診断や治療方針を実際に変える臨床的有用性、安全な手技の標準化、血管開存性の長期評価、デバイス不具合や感染への対応を明確にする必要がある。将来的には、てんかん診断、BCI、ニューロモデュレーション、さらには集中治療領域での脳モニタリングなどへ応用が広がる可能性があり、脳血管内治療と神経科学を結びつける新しいトランスレーショナル分野として注目される。 1) Hosoo H, et al. J NeuroIntervent Surg 2026;0:1-7

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無意識に使う「ピクつき」【脳がととのう 神経内科学講座】第2回

<今回のモヤっとPoint>ピクっとする動きはなんと表現する?けいれんと振えの違いは?はじめに「ピクつき」は臨床ではよく見聞きする表現ですが、実は、標準的な医学用語ではありません。少なくとも日本神経学会の用語集には収載されていません。では、臨床で使ってはいけないのかと言われると、見たままの様子を表現しているという前提であればかまいません。もちろんその場合には、どのような病態を想定して「ピクつき」と表現しているのかも意識しておく必要があります。たとえば、てんかん発作としてのけいれんなのか、あるいは振戦やシバリングなど何を想定しているのかが重要です。そこで、このような少しややこしい「ピクつき」という表現について、本日はととのえていきましょう。ピクつきはどんなときに使う表現?脳神経内科医の立場として、「ピクついていました」という報告を臨床ではよく受けます。「ぴくつく」は国語辞典に載っている一般語であり、意味としては「小刻みに動く」や「ぴくぴくする」だそうです。では、このような用語を神経学領域にどのように当てはめられるのか、整理していきましょう。日常的に、一瞬の動きを「ピクッとなる動き」と表現することがあります。この場合に該当しやすい用語の代表として「ミオクローヌス」があります。ミオクローヌスとは“不随意運動の一つで、自分の意思と無関係に瞬発的な筋収縮が生じる症候”をさします*。たとえば、授業中にうとうとしていて、全身をビクッとさせることがあると思いますが、あれは(生理的な)入眠時のミオクローヌスです。ミオクローヌスは非常に持続時間が短い症候であり、しばしば「電気的な筋収縮」に例えられます。*厳密には、ミオクローヌスには、急な筋収縮による陽性ミオクローヌスと、持続的な筋活動が一瞬途切れる陰性ミオクローヌスがあります。けいれん発作や不随意運動の振戦とどのように違うのかというと、ポイントは持続時間と律動性です。けいれん発作はガクガクと力強い収縮を繰り返す点で持続性があり、強直相に続いて律動性の間代運動がしばしば出現します。また、振戦は比較的一定のリズムで持続するふるえで、律動的かつ持続的です。これに対して、ミオクローヌスは「ビクッ」と1回1回は瞬発的な短時間の症候です。もちろん、ミオクローヌスが断続的に群発することもありますので、その場合は「持続的」に見えることもあります。なお、けいれん発作や振戦には一定のリズムがあるのに対して、ミオクローヌスではイレギュラーであることから、出現様式も異なります。<脳がととのう具体例>「蘇生後脳症の方ですが、昨日からピクつきのけいれんが出ています」「蘇生後脳症の方ですが、昨日からビクッとした一瞬の、ミオクローヌスのような動きが断続的に出ています」ミオクローヌスはあくまでも「症候名」ここまで説明したように、ミオクローヌスとはあくまでも症候を表現する用語です。そのため、その病態(原因)までは説明ができません。なお、ややこしいのですが、ミオクローヌスという症候が、てんかん発作として出現することがあり、この場合は「ミオクロニー発作(myoclonic seizure)」と呼びます。一方で、てんかん発作ではなく、不随意運動として認めるものはそのままミオクローヌスと表現します。ミオクローヌスの判定が難しいときはこのように説明すると、そもそもけいれんなのかミオクローヌスなのか非専門医にはわからないという当然の指摘があると思います。それはごもっともで、専門医ですら診察しても判定に悩むことがあります。よって、そのようなときは変に断定せずに、「ミオクロニー様の動きがありました」や「myoclonicな動きが右上肢に断続的に出現していました」などと表現すれば、解像度を維持できるでしょう。ミオクローヌスの代表的疾患は?ミオクローヌスがどのようなものか、なんとなくイメージはできたかと思います。これより、ミオクローヌスを呈する代表的な3つの疾患を提示します。1)代謝性脳症代謝性脳症では不随意運動として陰性ミオクローヌスを認めます。これは手関節背屈などの姿勢を保たせたときに、筋収縮が一瞬途切れて、手がはばたくようにカクッと落ちる所見です。肝性脳症の所見として有名ですが、尿毒症や高二酸化炭素血症などでもみられます。したがって、代謝性脳症では「ミオクローヌスそのもの」だけでなく、意識変容や陰性ミオクローヌスを捉える必要があります。なお陰性ミオクローヌスは薬剤性として出現することもあるので、とくに神経系の薬剤を新規追加した際には注意します。2)Lance-Adams症候群(LAS)心肺停止などによる低酸素脳症のイベントを経て、意識が回復してくる過程で顕在化してくるミオクローヌスがLASのミオクローヌスです。その診察ポイントとしては、安静時/静止時よりも動作時や姿勢保持時に悪化する点です。刺激でも誘発されるため、「体位変換や吸引処置によってピクつきが出るんです」と看護師から報告を受けたときは、文脈を確認した上でミオクローヌスを想起しましょう。3)若年ミオクロニーてんかん(JME)10代(後半)の発症のてんかんの代表格に若年ミオクロニーてんかん(Juvenile Myoclonic Epilepsy:JME)があります。JMEは主に思春期から若年成人期に発症し、原則として知能が正常で、発作型としてミオクロニー発作と強直間代発作(GTCS)があるという年齢依存性のてんかん症候群です。臨床では、初回のGTCSでERに搬送され、初期対応を終えたのちに専門外来へ紹介されてJMEの診断に至るというパターンが多いのですが、ぜひERの段階で(GTCSの初期対応を終えたのちに)、JMEの可能性も問診で探ってみてください。ポイントは普段から朝のミオクロニー発作があるかどうかです。JMEのミオクロニー発作は、寝不足が誘発因子となるため、とくに朝の起床後が好発時間帯です。具体的には「朝の寝起きの時間帯に、持っているお箸とかスマホを投げ飛ばしたことがあるか?」とクローズドに聞くとよいでしょう。今回のスッキリ「ピクつき」は診断名ではなく、見た目を表す観察用語「ピクつき」では、ミオクローヌスの特徴があるかを意識するとよい次回は、“取扱注意の「けいれん」”について、ととのえていきましょう。お楽しみに!1)Vellieux G, et al. Brain Commun. 2025;7:fcaf329.2)Agarwal R, et al. J Postgrad Med. 2016;62:115-117.

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HSV脳炎後の自己免疫性脳炎に注意、2026年GLでフロー新設/日本神経学会

 2026年3月、『細菌性髄膜炎診療ガイドライン2014』と『単純ヘルペス脳炎診療ガイドライン2017』を統合した『細菌性髄膜炎・単純ヘルペス脳炎診療ガイドライン2026』(日本神経学会・日本神経感染症学会監修、南江堂)が発刊された1)。 5月20~23日に開催された第67回日本神経学会学術大会の生涯教育セミナーにおいて、本ガイドライン作成委員会委員長を務めた中嶋 秀人氏(日本大学医学部内科学系神経内科学分野 主任教授)が「細菌性髄膜炎・単純ヘルペス脳炎診療ガイドライン2026の改訂のポイント」と題して講演を行った。講演レポートとして、「細菌性髄膜炎」を取り上げた前編に続き、後編では「単純ヘルペス脳炎」、そしてガイドライン外の重要なトピックである「水痘・帯状疱疹ウイルス中枢神経感染症」について紹介する。【単純ヘルペス脳炎】初期治療の迅速性と診断のゴールドスタンダード 単純ヘルペス脳炎(HSE)も細菌性髄膜炎と同様に「Time is Brain」の疾患である。発熱・意識障害・けいれんでHSEを疑ったら検査結果を待たず、受診から6時間以内にアシクロビル(ACV)投与を開始するのが望ましい。診断のゴールドスタンダードは髄液HSV PCRであり、高感度PCR(リアルタイムPCR)とFilmArray髄膜炎・脳炎パネルは、いずれも実臨床で有用である。FilmArrayは迅速診断に有用だが、検出感度はリアルタイムPCRより劣る可能性がある。なお発症72時間以内はウイルス量が少なく、4〜24%で偽陰性となりうるため、臨床的に強く疑われる場合は治療を中断せず、3〜7日後に再検する。治療はACV 10 mg/kg/回を8時間ごとに点滴静注し、髄液中HSV-DNAが高感度PCRで2回連続して陰性化するまで継続する(免疫正常例14〜21日間、免疫不全例21日間以上が目安)。HSEと自己免疫性辺縁系脳炎の鑑別 HSEは自己免疫性辺縁系脳炎(ALE)と類似の画像を示すため、初期の鑑別が課題となる。鑑別には実臨床で即座に使えるMRIの3基準が有用で、(1)拡散強調画像(DWI)での拡散制限、(2)側頭葉外(島回・前頭葉眼窩面)への病変進展、(3)ガドリニウム造影効果、のいずれも認めない(3基準すべて陰性)場合、感度95%・特異度100%でHSEを否定し、ALEを支持できる。HSE後自己免疫性脳炎(AE post-HSE) HSE後自己免疫性脳炎(AE post-HSE)は、HSE発症後2週〜3ヵ月に患者の7〜27%で発症し、HSEの治療後に症状の動揺・再燃として顕在化するため注意を要する。ウイルスの再活性化ではなく、ウイルス感染を引き金とした免疫介在性の病態であり、検出される自己抗体は抗NMDA受容体抗体が64〜70%と最多で、約3割は既知抗体陰性(未知の神経表面抗体)である。ガイドラインにはAE post-HSEのフローチャートが新設された。HSE治療後に症状の動揺・新規出現・再発がみられた場合は、まず速やかにACVを再開し、髄液HSV-DNAの高感度PCRを再検する。陰性でAEが疑われれば神経表面抗体スクリーニングを実施し、初期免疫療法(ステロイドパルス[IVMP]・IVIg・血液浄化療法)へ移行する。臨床像は年齢で異なり、乳幼児(4歳以下)では舞踏アテトーゼやジスキネジア、4歳以上の小児・成人では急性発症の異常言動・精神症状・認知機能低下が前景に立つ。HSEの後遺症とサポート HSEは適切なACV治療を行っても予後は楽観できず、生存者の18〜45%に高度な後遺症が残る。その内訳は記憶障害が34〜69%と最多で、次いで人格障害・失語・てんかん・見当識障害・嗅覚障害などがみられる。これらはQOLに甚大な影響を与えるため、認知療法・行動療法・理学療法・作業療法・言語療法を含む多角的なリハビリテーションの継続が望まれる。臨床で急増する水痘・帯状疱疹ウイルス中枢神経感染症(ガイドライン外) 本講演では、神経領域で重要性が増している新たなトピックとして、ガイドライン外である水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)中枢神経感染症についても中嶋氏が補足した。VZV感染は高齢化と免疫抑制薬の普及を背景に実臨床で急増しており、中嶋氏らの自施設における10年間(2013~22年)の解析では、成人の無菌性髄膜炎のうちVZVが約30%を占め、原因が判明した症例の中で最多であった。 診断上のピットフォールとして、VZV中枢神経感染症の約13%は特徴的な皮疹を伴わない(無疹性帯状疱疹、zoster sine herpete)。皮疹がなくとも、激しい頭痛・発熱や神経痛様疼痛があれば躊躇なく髄液PCR(VZV-DNA)を行う必要がある。また70歳以上ではVZV脳炎が増加する一方、50歳以上では頭痛・項部硬直が乏しく診断が遅れやすい。さらにVZVは血管壁に感染して炎症・血管リモデリングを起こすと考えられ、感染後数ヵ月は脳卒中リスクが上昇する。とくに眼部帯状疱疹ではそのリスクが高く(メタ解析でRR 1.91)、発症後6ヵ月間は脳血管イベントを監視する必要がある。すべての臨床医へ:「疑ったらまず治療」―予後を握る初期対応 細菌性髄膜炎、単純ヘルペス脳炎、そしてVZV中枢神経感染症は、いずれも早期診断・早期治療が転帰を決定するTime is Brainの疾患である。中嶋氏は本ガイドラインについて、「これらの疾患を専門とする医師だけでなく、プライマリケアや救急などを担当する多くの医師も鍵を握っています。『疑ったら、検査結果を待たずにまず治療を始める』―細菌性髄膜炎は1時間以内、単純ヘルペス脳炎は6時間以内、という大原則を心に留めていただければと思います。新しい診断ツールや知見を柔軟に活用しつつ、迷ったときに頼れる身近な一冊として、日常診療のそばに置いていただけたら幸いです」と展望を述べた。

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第322回 拒食症患者の7割ほどに脂質中心のケトン食が有効

脂質中心で炭水化物を極力控えるケトン食が神経性やせ症(拒食症)に有益らしいことが、少人数の試験で示されました1-3)。拒食症は摂食を極端に制限してやせ細ることを特徴とする重度精神疾患です。たとえ体重が回復しても容姿への不満、食べることをひどく恐れる、体型や体重に執着するなどの根本症状がしばしば続くことが拒食症の再発の多さに寄与しています。ケトン食は1920年代に始まり、てんかん発作を減らすか止めることが知られる絶食に代わる治療手段として使われるようになりました3)。エネルギー源のほとんどを摂取した脂肪で賄うことを原理とするケトン食は、脳でのエネルギー代謝を大きく変えます4)。脳はそもそもケトン体をあまり使いませんが、ケトン食を実践すると脳はエネルギー源の糖の一部をケトン体に置き換えて利用するようになります。それに、ケトン食は拒食症と関係するらしい神経伝達物質の働きを調節するらしく、てんかん小児の試験でケトン食が脳脊髄液のGABAを増やすことが示唆されています5)。GABAは拒食症に付きもののうつや不安症状を減らすことが知られる抑制性神経伝達物質であり、全身のケトン体を増やすことはうつや不安と関連する振る舞いを減じることが動物実験で示されています6,7)。加えて、全身のケトン体増加は拒食症の回復に寄与するらしい炎症抑制にも一役買うようです8)。カリフォルニア大学サンディエゴ校のGuido Frank氏らによる先立つ小規模試験で、ケトン食を4~8週間続けた後に強迫症状改善効果が示唆されているケタミンを投与する拒食症治療の効果が示唆されています9)。試験には拒食症から回復して体重が戻ったとはいえ摂食障害の思考や振る舞いが続く成人5例が参加しました。ケトン食開始後の病状は日増しに上向き、食べることに関する悩みや体重の心配、体の不自由さを含む拒食症関連症状一揃いがだいぶ改善しました。ケトン食で体重が減る恐れがあることから試験では体重が回復した被験者を選びましたが、幸い被験者の体重は一定で安定していました。Frank氏はその結果に励まされ、より多くを募ってケタミン投与なしのケトン食の効果を調べる新たな試験に着手しました。新たな試験も、先立つ試験と同様に体重が回復したかわずかに低体重の拒食症女性22例が参加し、栄養士、精神科医、それに拒食症の経験があるいわば被験者と気心通じた相談員(peer counselor)の監督の下でケトン食に臨みました。14週間のケトン食を完遂した18例もやはり拒食症症状や不安、うつ症状の改善を示しました。それら18例中13例(72%)は拒食症やうつ病の診断基準を外れるほどに回復していました。その回復のほどは他の拒食症治療のはるか上をいくものだとFrank氏は述べています3)。試験期間中の被験者の体重に有意な変化はなく、程よいかいくらか低い体重を維持しました。再発もみられませんでした。また、試験を完遂した18例のその後の追跡で、ケトン食の継続が症状を抑える効果が示唆されました。3ヵ月後に摂食障害評価質問表(EDE-Q)のスコアが上昇していた患者の割合は、ケトン食を続けていた7例では3割弱の28%(2例)で済んでいましたが、ケトン食を止めた11例では6割超の64%(7例)がEDE-Q上昇を示しました。Frank氏らのチームはケトン食による拒食症治療はさらなる検討の価値があると言っています。現在、拒食症のみならず過食症の患者も募っている今回の試験の延長(extension)が進行中です2,10)。 1) Frank GKW, et al. Commun Med(Lond). 2026;6:315. 2) New evidence offers hope for ketogenic therapy in treatment of anorexia nervosa / Eurekalert 3) Keto diet shows real promise for anorexia recovery / NewScientist 4) Hartman AL, et al. Pediatr Neurol. 2007;36:281-292. 5) Dahlin M, et al. Epilepsy Res. 2005;64:115-125. 6) Yamanashi T, et al. Sci Rep. 2020;10:21629. 7) Gumus H, et al. Neurosci Lett. 2022;770:136443. 8) Yamanashi T, et al. Sci Rep. 2017;7:7677. 9) Calabrese L, et al. Eat Weight Disord. 2022;27:3751-3757. 10) Therapeutic Ketogenic Diet in Anorexia Nervosa(ClinicalTrials.gov)

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無意識に使う「意識◯◯」【脳がととのう 神経内科学講座】第1回

<今回のモヤっとPoint>「意識障害」と「意識消失」の違いは?「意識」と「覚醒」と「反応性」の違いは?はじめに意識という用語は臨床で日常的に使われますが、その守備範囲は広く、実は正確に扱おうとすると意外に難しいものです。たとえば、「意識消失」と「意識障害」は微妙にニュアンスが違いますし、「失神」はさらに意味が異なりますが、これらの正しい使い分けはできているでしょうか? もし間違って使っていると、専門医へのコンサルテーションの際に文脈が間違って伝わってしまい、コミュニケーションエラーの一端となってしまうこともあるでしょう。そこで今回は『意識』に関連した用語を整理していきたいと思います。意味の取り違え注意!―意識消失・意識障害・失神臨床でよく用いられる関連用語として、意識消失、意識障害、失神があります。いずれも「意識が悪い」という状態に関係する用語です。ですが、実際に表現している症候や病態は少しずつ異なります。とくに、文脈を意識して使い分ける必要があります。ここを整理しておくと、病歴聴取やコンサルテーションの精度が高まりますのでぜひ押さえておいてください。まずはそれぞれの違いを整えていきましょう。1)意識消失(loss of consciousness)ここでいう意識消失は、主に「一過性意識消失」、すなわち一時的に意識が失われ、その後回復した病歴上のイベントを指します。つまり、診察上の所見名というよりは、「そのとき何が起きたか」を記述する病歴的な用語といえます。たとえば、失神や一部のてんかん発作などで発生したイベントに対して用いられ、「急に倒れて反応がなくなった」「しばらく意識を失っていた」といった経過を含めて表現するときに適した用語になります。<脳がととのう具体例>「会話中に突然、意識消失して後方に倒れ込み、そのまま痙攣発作を呈しました」「重症の頭部外傷で現在入院3日目ですが、鎮静薬を中止しても意識消失が持続しています」上記のように、意識が悪い状態が遷延している状況については「意識障害が遷延しています」のほうが自然です。2)意識障害(disturbance of consciousness)意識障害は、診察時点で認められる覚醒や認識の障害を含む広い概念です。そのため、これは病歴上の出来事というより、現在の神経学的状態を表す所見名として使うのが自然です。つまり「現在、意識が悪い」という状態をさす時に用いると良いでしょう。もちろん意識障害には、軽い意識混濁から昏睡まで幅があるため、「意識障害」という表現だけでは解像度の低い情報になりがちです。だからこそ、Japan Coma Scale(JCS)や Glasgow Coma Scale(GCS)などの評価尺度を併記すると、具体性が増します。なお、後述しますが、意識障害の評価は行動反応の観察に依存するため、所見を記載する際には反応を妨げうる要因の有無も意識しておく必要があります。<脳がととのう具体例>「路上で倒れているところを発見され搬送された方で、救急隊到着時から現在もJCS 100の意識障害が遷延しています」意識障害には時間軸の情報がないので、このように文脈全体で意識障害がどこから持続しているのか、変化しているのかどうかを加えるとわかりやすいでしょう。3)失神失神は、一過性全脳低灌流によって生じる一過性の意識消失です。具体的には、急速に発症し、持続は短く、自然に、かつ完全に回復するイベントが失神の特徴です。したがって、失神は「意識が悪くなった状態」一般を指す言葉ではなく、推定される原因機序まで含んだ用語となります。つまり、一過性の『全脳低灌流』を前提としているので、まずは循環器疾患や反射性失神などが想起されます。そのため、「失神の精査として、一過性脳虚血発作(TIA)を疑います」という表現にはモヤモヤを感じてください。失神と表現している以上、「急速に発症し、持続は短く、自然にかつ完全に回復するような典型的な病歴」を想定しているはずなので、このような病歴では、TIAやてんかん発作だけを念頭に置くのではなく、まず失神として、起立性低血圧、反射性失神、不整脈などを含めた評価を行う必要があります。典型的には「排尿後に立ち上がった直後に倒れ、短時間で自然に回復した」という経過が、失神を想定するような病歴であり、「失神の精査が必要」と表現してよいでしょう。<脳がととのう具体例>「“意識障害”として紹介されましたが、話を聞くと、排泄後に立ち上がった直後に気分不快を自覚し、そのまま倒れたとのことでした。意識消失は短時間ですぐに覚醒し会話も可能だったようなので、まずは失神として精査したいと思います」「失神の精査として、一過性脳虚血発作(TIA)を疑います」なお、典型的な失神の病歴であれば、ルーチンとして脳画像検査や頸動脈評価を実施する意義は必ずしも高くありません。ただし、頭部外傷の有無に加え、局在神経徴候、複視、構音障害、嚥下障害、失調など、脳幹・小脳病変を示唆する所見がないかは確認しておきましょう。誤用しやすい、意識に関わる用語ところで、『意識』とは単一の機能ではなく、「覚醒していること」「自己や外界を認識していること」、あるいは「疎通が取れること」など複数の側面があります。それこそ臨床では、「呼びかけに反応しない」「会話が成り立たない」「見当識が保たれていない」などのシチュエーションで、しばしば、『意識が悪い』と表現されることがあります。もちろん、そこにはかなりの幅がありますし、反応が乏しいことと意識そのものが障害されていることは必ずしも同義ではありません。仮に、意識が保たれていても、重度の失語症や難聴、あるいは運動出力の障害があれば、十分な疎通は取れないでしょう。また、見かけ上は昏睡のようにみえても、心因性(機能性あるいは解離性の無反応状態など)の病態は、器質的な真の意識障害とはもちろん根本的に異なります。そのため、臨床で『意識が悪い』と表現するときは、どの視点からの意識を捉えているのかに留意する必要があります。そこで、『意識が悪い』という状況をどの視点で捉えるか医学的な表現を次に整えていきましょう。1)意識(consciousness)意識とは、覚醒しており、かつ自己や外界を認識できている状態をさします。すなわち、単に目が開いていることだけで規定されるものではなく、覚醒と認識の両方がある程度保たれていることを含む概念です。臨床的には、刺激に対する反応、注意の向け方、周囲の状況の理解、目的のある行動がみられるかどうかを総合して評価します。2)覚醒(arousal / wakefulness)覚醒とは、意識のうち「起きている」側面をさします。たとえば、自然に開眼しているか、呼びかけや刺激で開眼するか、刺激がなくても覚醒を保てるか、といった点が評価の中心になりますのでJCSで評価しやすいです。昏睡では覚醒そのものが失われており、この点で、“開眼はしているが認識が障害されている状態”とは区別されます。3)反応性(responsiveness)反応性とは、呼びかけや痛み刺激などに対して、行動や生理学的な変化を示す性質をさします。反応性の低下は覚醒や認識の状態を推定する重要な手がかりになりますが、『反応性』と『意識』は同義ではありません。なぜなら、失語や難聴、視覚障害、運動出力障害、鎮静薬の影響などによっても、見かけ上は反応性が低下してみえることがあるからです。そのため、意識障害の判定では、この反応性を妨げる要因がないかを除外する必要があります。4)認識(awareness)認識とは、自己や環境を理解している側面を指します。したがって、目が開いていても、周囲の状況を理解できない、あるいは目的のある反応に乏しい場合には、awareness の障害を考えます。ただし、awarenessは行動所見だけから完全に評価できるとは限りません。臨床では反応の有無や内容から推定せざるを得ないため、失語、運動出力障害、重度の全身状態、機能性の無反応状態などとの鑑別が必要です。すなわち、「反応が乏しい」ことはawareness障害を示唆する所見ではありますが、それ自体で直ちに同義とはいえません。いかがでしたでしょうか?脳神経領域のモヤモヤ、少しは“ととのう”ことができたのであれば嬉しいです。次回は何気なく使う「ピクつき」について解説しますので、少しずつ脳内をスッキリさせていきましょう。1)Laureys S, et al. Lancet Neurology. 2004;3:537-5462)Giacino JT, et al. Neurology. 2018;91:450-460.

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ガバペンチノイドと併用薬で薬物中毒リスクが上昇か

 ガバペンチノイド系鎮痛薬(以下、ガバペンチノイド)を他の薬剤と併用すると、薬物中毒のリスクが上昇する可能性が、新たな研究で示された。ガバペンチノイドとオピオイド系鎮痛薬(以下、オピオイド)やベンゾジアゼピン系薬剤(以下、ベンゾジアゼピン)の併用はこのリスクを高め、特に治療初期には顕著なリスク上昇が認められたという。英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)の薬剤疫学者であるKenneth Man氏らによるこの研究は、「PLOS Medicine」に4月16日掲載された。 Man氏らは、「今回の結果は、ガバペンチノイドが安全ではない、あるいは処方すべきではないことを示すものではない。ただ、特に他の薬剤を使用中の患者に処方する際には注意が必要であり、臨床医は患者を慎重にモニタリングする必要がある」とニュースリリースで述べている。 ガバペンチノイドは、主にガバペンチンやプレガバリン、ミロガバリンを含む薬剤群の総称であり、てんかん、神経痛、不安などの治療に広く用いられている。近年、ガバペンチノイドは、オピオイドの代替として鎮痛目的での使用が増加しており、現在では米国では7番目に多く処方される薬となっている。世界的に見ても、その使用量は2008年から2018年の間に4倍以上に増加している。 今回の研究では、2010年1月1日から2020年12月31日の間にガバペンチノイドを処方され、薬物中毒で入院した経験がある英国の18歳以上の患者1万6,827人(女性53.5%)を対象に、ガバペンチノイドによる治療と薬物中毒との関連が検討された。解析は自己対照ケースシリーズ(SCCS)デザインを用い、同一患者内で治療開始の90日前、治療開始後0~28日、29~56日、57~84日、およびそれ以降の治療期間に分けて、期間ごとの薬物中毒リスクを比較した。薬物中毒の症状は、意識消失、呼吸困難、けいれんなどである。観察期間中のいずれかの時点で、対象者の約9割がガバペンチノイドとオピオイドを、半数以上がベンゾジアゼピンを併用していた。 その結果、薬物中毒のリスクは、ガバペンチノイド非使用期間(対照期間)と比較して、治療開始の90日前にすでに約2倍に上昇していることが示された(調整発生率比2.09、P<0.001)。治療開始後0~28日間でもリスクは約1.8倍(同1.81、P<0.001)と高く、その後は徐々に低下したものの、それ以降の治療期間でも軽度の上昇が持続した(同1.11、P<0.001)。このことは、薬物中毒のリスクを軽減するためにガバペンチノイドを使用しても、その効果は限定的である可能性を示唆している。さらに、オピオイドやベンゾジアゼピンの併用によりリスクはさらに上昇し、治療開始後0~28日間では、オピオイド併用で約2倍、ベンゾジアゼピン併用で約4倍に達した。 薬物中毒リスクが最も高かったのがガバペンチノイドによる治療開始前90日間であったことは、オピオイドやベンゾジアゼピンなどの使用に対する懸念を背景に、医師がガバペンチノイドを処方した可能性を示唆している。論文の筆頭著者であるUCLのAndrew Yuen氏は、「臨床医がガバペンチノイドを処方する判断は、オピオイドなど他の薬剤に関連した薬物中毒リスクを減らす試みである場合がある」と述べている。同氏はまた、「ガバペンチノイドによる治療開始後に薬物中毒リスクはやや低下したものの、それでもなおリスクは高い状態が続いていた。この結果は、臨床医が治療期間を通じて継続的に薬物中毒リスクへ注意を払う必要があることを示唆している」と指摘している。 なお、ガバペンチノイドが直接的に薬物中毒を引き起こすかどうかは依然として不明である。ただし、これらの薬剤がオピオイドやベンゾジアゼピンなど他の薬の鎮静作用を増強する可能性があることを示すエビデンスは存在しているという。

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薬剤性過敏症症候群〔DIHS:drug-induced hypersensitivity syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義薬剤性過敏症症候群(drug-induced hypersensitivity syndrome:DIHS)は、発熱と多臓器障害を伴う重症型薬疹の1つである。抗けいれん薬など特定の薬剤を内服開始後、遅発性に発症し、原因薬剤を中止しても症状の再燃や遷延化がみられることが特徴である。多くの場合、発症後3週間前後でヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)に代表されるヘルペスウイルスの再活性化を伴うことから、薬剤アレルギーとヘルペスウイルス感染症が複合して生じる新たな病態として認識されている(図1)。DIHSのもう1つの特徴として、回復期に1型糖尿病や慢性甲状腺炎などの自己免疫疾患を発症することが知られている。なお、欧米を中心にDRESS(drug reaction with eosinophilia and systemic symptoms)という疾患概念が用いられるが、DRESSの診断基準にはヘルペスウイルスの再活性化については言及されておらず、DIHSよりも広い範囲の薬疹が含まれる。図1 DIHSの病態の仮説■ 疫学2021年の全国調査によれば、年間受療患者数は人口100万人当たり2.82人と推計されている。男女比は1:1で、発症年齢は40~60代(中央値58歳)が最多である。原因薬剤は比較的限定的であり、カルバマゼピン、ラモトリギン、フェニトイン、フェノバルビタール、ゾニサミドなどの抗てんかん薬のほか、アロプリノール、ジアフェニルスルホン、サラゾスルファピリジン、メキシレチンなどが代表的である。DIHSの致死率は約10%程度と高く、死因の多くはサイトメガロウイルス(CMV)肺炎やニューモシスチス肺炎などの感染症である。■ 病因本症は、原因薬剤を通常2~6週間(平均1ヵ月)内服した後に発症する。病態は、T細胞を主体とする薬物アレルギー反応とヘルペスウイルスの再活性化が中心である。急性期にはTARC/CCL17の著明な上昇や好酸球増多に象徴されるTh2反応の亢進がみられる。また、急性期には制御性T細胞(Treg)の増加がみられるが、経過中にその機能やバランスが崩れることが、ウイルス再活性化や後遺症としての自己免疫疾患発症に関与すると考えられている。さらに、急性期には末梢血のCD4陽性T細胞表面にHHV-6の受容体であるCD134/OX40の発現が亢進しており、これがウイルスの効率的な感染拡大を許容する一因である可能性が示唆されている。■ 症状初期症状として発熱、頸部リンパ節腫脹、顔面や躯幹の紅斑が生じる。皮疹は播種状紅斑丘疹型や多形紅斑型で始まり、急速に拡大してしばしば紅皮症状態に移行する(図2)。特徴的な顔貌として、顔面の浮腫を伴う紅斑、眼周囲の蒼白、鼻孔・口周囲に鱗屑・痂皮を伴う丘疹や小膿疱がみられる(図3)。肝機能障害や腎機能障害などの内臓病変や、異型リンパ球の出現、好酸球増多、白血球増多などの血液学的異常を伴う。図2 DIHSにおける紅皮症状態画像を拡大する図3 DIHSに特徴的な顔貌■ 予後原因薬剤を中止しても皮疹や臓器障害が遷延し、経過中に再燃を繰り返す。発症3~5週間前後にCMVの再活性化が生じ、肺炎、腸炎、消化管出血、肝障害などの致死的な合併症を引き起こすことがある。また、DIHSの症状が軽快した数ヵ月から数年後に、橋本病、劇症1型糖尿病、円形脱毛症、白斑などの自己免疫疾患を発症することがあり、長期的な経過観察が必要である。2 診断診断は、厚生労働省研究班による診断基準(2005年)(表)に基づいて行う。表 薬剤性過敏症症候群(DIHS)診断基準(2005)■ 概念高熱と臓器障害を伴う薬疹で、薬剤中止後も遷延化する。多くの場合、発症2~3週間後にHHV-6の再活性化を生じる。■ 主要所見1. 限られた薬剤投与後に遅発性に生じ、急速に拡大する紅斑、多くの場合紅皮症に移行する。2. 原因薬剤中止後も2週間以上遷延する。3. 38℃以上の発熱4. 肝機能障害5. 血液学的異常:a、b、cのうち1つ以上a. 白血球増多(11,000/mm3以上)b. 異型リンパ球の出現(5%以上)c. 好酸球増多(1,500/mm3以上)6. リンパ節腫脹7. HHV-6の再活性化典型DIHS1~7すべて非典型DIHS1~5すべて、ただし4に関しては、その他の重篤な臓器障害をもって代えることができる。■ 参考所見1. 原因医薬品は、抗けいれん薬、ジアフェニルスルホン、サラゾスルファピリジン、アロプリノール、ミノサイクリン、メキシレチンであることが多く、発症までの内服期間は2~6週間が多い。2. 皮疹は、初期には紅斑丘疹型、多形紅斑型で、後に紅皮症に移行することがある。顔面の浮腫、口囲の紅色丘疹、膿疱、小水疱、鱗屑は特徴的である。粘膜には発赤、点状紫斑、軽度のびらんがみられることがある。3. 臨床症状の再燃がしばしばみられる。4. HHV-6の再活性化は、(1)ペア血清でHHV-6 IgG抗体価が4倍(2管)以上の上昇、(2)血清(血漿)中のHHV-6 DNAの検出、(3)末梢血単核球あるいは全血中の明らかなHHV-6 DNAの増加のいずれかにより判断する。ペア血清は発症後14日以内と28日以降(21日以降で可能な場合も多い)の2点で確認するのが確実である。5. HHV-6以外に、サイトメガロウイルス、HHV-7、EBウイルスの再活性化も認められる。6. 多臓器障害として、腎障害、糖尿病、脳炎、肺炎、甲状腺炎、心筋炎も生じうる。■ 早期診断の補助検査診断基準項目に「中止後2週間以上の症状の遷延」や「発症2~3週間後のHHV-6再活性化」が含まれるため、発症早期の確定診断は困難である。早期にDIHSを疑う指標として、急性期の血清TARC値の測定が有用であり(4,000pg/mL以上で疑う)、2023年に「DIHS/DRESSの診断の補助」としての保険適用が追加された。■ 鑑別診断と原因薬剤の特定通常の薬疹や、麻しん・風しんなどのウイルス性発疹症との鑑別を要する。DIHSを疑う臨床的ポイントとして、原因薬剤が比較的限られていることから、詳細な薬剤内服歴(2~6週間の服用歴)の聴取が不可欠である。また、原因薬剤中止後も皮疹や臓器障害が遷延・悪化することも、他の薬疹との重要な鑑別点となる。特有の顔貌(図3)や、皮疹が急速に紅皮症化する経過(図2)も診断の有力な手掛かりとなる。HHV-6の再活性化は、一般に末梢血液中のHHV-6 DNAの定量(リアルタイムPCR法)によって判断するが、現時点では保険適用外の検査である。被疑薬の特定には、薬剤添加リンパ球刺激試験(DLST)やパッチテストが有用である。ただし、DLSTは発症早期には偽陰性となりやすく、発症後5週目以降の回復期に実施する必要がある。なお、重症化リスクを考慮し、薬剤の再投与試験(誘発試験)は行わない。3 治療■ 治療の実際DIHSを疑った場合は、第一に被疑薬を中止し、原則として入院加療とする。病初期に起こる全身症状と臓器障害の寛解を目指し、副腎皮質ステロイドの全身投与が治療の基本となる。中等~高用量(プレドニゾロン換算0.5~1mg/kg/日)で開始し、症状が十分に改善するまで(通常7~14日間)維持する。その後は、症状をみながら1~2週間ごとに5~10mg/日ずつ緩徐に漸減する。急激なステロイドの減量は、免疫再構築症候群を招きCMV感染症を顕在化させるリスクがあるため避けるべきである。臓器病変を伴わない軽症例に対しては、ステロイド全身投与を行わず、局所ステロイド外用や補液などの支持療法(supportive therapy)で経過観察することもある。ステロイドパルス療法は、CMVの再活性化や自己免疫疾患の発症に関与するとの否定的見解が主流であり、重篤な臓器障害への進展など特殊な状況に限り検討される。■ CMV感染症への対応発症3~5週前後にCMVが再活性化し、ステロイドの減量を契機として突然、肺炎や消化管出血などの致死的合併症を発症することがある。経過中は常にCMVのモニタリングを行い、顕性感染症を認めた場合には、抗ウイルス薬(ガンシクロビル)の投与による積極的な介入を行う。■ 多剤感作への配慮DIHSの経過中は多剤感作を引き起こしやすいため、解熱や感染予防目的での非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)や抗菌薬の新たな投与は可能な限り避けるべきである。4 今後の展望DIHSの病態については、HHV-6やCMV再活性化の病態への関与について多くの知見が得られてきたものの、依然として未解明な点が残されている。とくに、最適なステロイド減量プロトコールの確立は急務であり、大規模な症例レジストリに基づくエビデンスの蓄積と治療指針の更新が期待される。また、回復期に発症する自己免疫疾患などの遅発性合併症は、患者の長期予後を左右する重要な課題である。今後は、これらの合併症を予測するバイオマーカーの同定や、その発症を制御する新たな介入法の開発が望まれる。5 主たる診療科皮膚科(重篤な臓器障害を伴うため、十分な検査と全身管理を行える施設への早期のコンサルテーションが重要である)。6 参考になるサイト診療、研究に関する情報薬剤性過敏症症候群診療ガイドライン 2023(日本皮膚科学会/重症多形滲出性紅斑に関する厚労省調査研究班)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)重篤副作用疾患別対応マニュアル(厚生労働省)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)医薬品副作用被害救済制度(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)  (一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)公開履歴初回2026年5月12日

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10年間で精神疾患に対する向精神薬使用はどう変化しているのか

 統合失調症スペクトラム症および双極症の治療には、多剤併用療法、高用量の向精神薬、高い抗コリン作用負荷、認知機能低下と関連する抗コリン薬およびベンゾジアゼピン系薬剤の使用が含まれることがある。フランス・Centre Hospitalier de VersaillesのNathan Vidal氏らは、認知機能改善のための今後の治療ガイドラインおよび介入の策定に役立てるため、2013~22年の統合失調症スペクトラム症または双極症の成人外来患者における、薬物治療の動向を評価した。Journal of Pharmaceutical Policy and Practice誌2026年3月31日号の報告。 フランスの全国医療保険請求データベースを用いて、レトロスペクティブ縦断分析を実施した。2013~22年に使用された向精神薬(抗精神病薬、抗うつ薬、抗不安薬、睡眠薬、抗てんかん薬)を特定した。診断別および年齢層別に、使用された向精神薬の数、向精神薬の1日総投与量(DDD)、累積抗コリン作用負荷、ベンゾジアゼピン系薬剤および抗コリン系薬剤の使用頻度について、混合効果線形回帰モデルを用いて推定した。主な結果は以下のとおり。・2013~22年に、ほとんどのグループにおいて、向精神薬の数(β:-0.006~-0.031)、投与量(β:-0.003~-0.029)、ベンゾジアゼピン系薬剤の使用頻度(β:-0.26~-0.88)に、わずかではあるものの有意な減少が認められた。・抗コリン薬の使用は、統合失調症スペクトラム症では減少していたが、双極症では減少が認められず、抗コリン作用負荷は全体的に横ばいであった。・2022年に向精神薬による抗コリン作用負荷が少なくとも1回は高かった患者は、双極症の42.1%、統合失調症スペクトラム症の49.4%にみられた。・処方中止の傾向は、2020年以降ほぼ変化がなかった。 著者らは「2013~22年に、向精神薬の種類と総投与量、ベンゾジアゼピン系薬剤の処方量がわずかに減少したことは、統合失調症スペクトラム症および双極症の成人患者における副作用への配慮が向上したことを示唆している。しかし、抗コリン薬の使用と抗コリン作用負荷は軽減できていないことが明らかとなった。COVID-19パンデミック後も、向精神薬の減薬(deprescribing)を支援するための、さらなる取り組みが求められる」としている。

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診断エラーを防ぐ-小児科の落とし穴

迷いのない診断、日常診療に潜む誤診の回避体験を読んで積み上げる臨床は知識と経験に基づく連続したタスクであり、状況によって変化する。そのため正確な診断には常に誤診のリスクが付きまとう。本書は国立成育医療研究センターの医師60人が総力を挙げて執筆。診断エラーを回避するため、コミュニケーション技術に基づく問診、身体診察、検査、家族説明、鑑別疾患、診断のステップを通して、落とし穴の回避術をシステマティックに展開。収載された、教科書では得られないニアミス症例、ピットフォール症例が心に刻み込まれる。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する診断エラーを防ぐ-小児科の落とし穴定価4,400円(税込)判型A5判(並製)頁数296頁発行2026年3月編集窪田 満(国立成育医療研究センター)/永井 章(国立成育医療研究センター)ご購入はこちらご購入はこちら

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神経疾患外来で患者と医師に“認識ギャップ”、機械学習モデルが予測可能性示す

 神経疾患の外来診療では、患者と医師の評価や満足度に小さなズレが生じることがある。この認識ギャップは、治療理解の不十分さや信頼関係の低下を通じて、生活の質や長期的な治療アウトカムに影響し得る。今回、パーキンソン病、多発性硬化症、てんかんの患者と医師のペアを対象にアンケートを実施し、認識ギャップを定量化するとともに、機械学習モデルでギャップを予測できることを明らかにした。研究は、順天堂大学医学部附属順天堂医院脳神経内科の大山彦光氏(現:埼玉医科大学医学部脳神経内科)、富沢雄二氏、服部信孝氏らによるもので、詳細は2月9日付で「Scientific Reports」に掲載された。 パーキンソン病、多発性硬化症、てんかんなどの神経疾患は慢性かつ症状が多様で、進行に伴い日常生活動作(ADL)や生活の質(QOL)に大きな影響を及ぼす。近年は共同意思決定(SDM)の重要性が強調されているが、診察時の限られた情報に基づく判断では、患者と医師の間で疾患認識や治療目標に認識ギャップが生じる可能性がある。実際、神経疾患領域でも症状の重要度や治療目標、再発評価などを巡るズレが報告されているが、患者と主治医のペアで直接比較した研究は限られている。さらに、こうした認識ギャップを予測する試みも十分ではない。そこで本研究(GAP-AI研究)は、神経疾患患者と主治医の間の認識ギャップを定量化し、その関連因子を検討するとともに、機械学習モデルによる予測可能性を評価することを目的とした。 本研究は単施設の観察研究であり、患者197人とその主治医12人を対象に、2回の外来受診時に質問票への回答を求めた。質問票には、患者満足度を評価する18項目のPatient Satisfaction Questionnaire Short Formや、患者と医師双方が回答する9項目のShared Decision Making Questionnaire、Barthel Index、SF-36の各下位尺度を用いた。主要評価項目は、患者と医師の回答を項目ごとに対応させて算出した差(すなわち認識ギャップ)とした。差は絶対値でも評価し、ギャップの大きさを中央値で「一致群」と「不一致群」に分類した。患者背景および医師の年齢・経験年数などの属性との関連を単変量解析で検討し、さらに重回帰分析により認識ギャップに影響する独立因子を同定した。 本研究は2023年1~8月に実施された。患者の平均年齢は58.1歳で、女性が60.4%を占めた。疾患はパーキンソン病が最多(69.5%)で、多発性硬化症、てんかんが続き、平均罹病期間は7.4年であった。多くは同居者がおり、介護を要しない軽~中等症例が中心であった。一方、医師の半数は35~44歳で、83.3%が男性であった。4割超が20年以上の経験を有し、多くがパーキンソン病を専門とする神経内科専門医であった。 患者と医師の回答には各質問票で一定の認識ギャップが認められ、総得点は有意に異なり、一致度(κ係数)は全体に低値であった。SF-36下位尺度の一致は19.3%にとどまった。ギャップには患者年齢、診断名、介護者の有無、通院頻度、障害度などの患者側因子に加え、医師の年齢、経験年数、専門医資格、担当患者数などの医師側因子が関連していた。重回帰分析では患者年齢や介護者の有無、医師の経験年数などが独立因子として抽出され、一部疾患では年収も関連していた。 また、研究データに基づき複数の機械学習アルゴリズムを用いて予測モデルを構築したところ、k近傍法(k-nearest neighbors)アルゴリズムが、主要評価項目で定義した患者と医師の認識ギャップの有無を予測する上で最も良好な性能を示した。 著者らは、GAP-AI研究により神経疾患患者と医師の間に認識ギャップが存在することが明らかになったと述べている。ギャップは患者背景や医師の経験など複数の因子に影響され、機械学習により予測可能であるとしている。さらに、その把握と是正が患者中心医療の向上につながる可能性があると指摘している。 なお、本研究の限界として、単施設研究であり特にてんかん症例数が少ないことから一般化に制限がある点、主観的な患者報告アウトカムを用いたことや医師用に十分検証されていない質問票の使用が結果の解釈に影響し得る点などを挙げている。

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添付文書改訂:抗てんかん薬の運転の一律禁止が変更/セリチニブとCYP3A基質薬剤が併用禁忌に ほか【最新!DI情報】第61回

てんかん薬<対象薬剤>抗てんかん薬であるカルバマゼピン、バルプロ酸ナトリウム、ラモトリギン、ラコサミド、レベチラセタムを有効成分とする医薬品<改訂年月>2026年3月<改訂項目>[追加]重要な基本的注意自動車の運転等危険を伴う機械操作の適否は、関連学会の留意事項を十分理解の上、医師が慎重に判断し、危険を伴う機械操作を行う場合には十分な注意が必要であることを適切に患者に指導すること。また、眠気等があらわれた場合には、自動車の運転等危険を伴う機械の操作に従事しないよう、患者に指導すること。<ここがポイント!>対象の抗てんかん薬は、眠気、注意力・集中力・反射運動能力等の低下といった中枢神経系に影響を与える副作用を起こすことがあるため、従来の添付文書では「重要な基本的注意」の項において、薬剤投与中の患者には自動車の運転等危険を伴う機械の操作に従事させないよう注意する旨が記載されていました。しかし、道路交通法では、てんかんのある患者の自動車運転を一律に禁止しているわけではありません。運転免許の取得・更新は、一定の条件を満たせば医師の診断書をもとに公安委員会が判断する仕組みとなっており、実際に多くの患者が医師の管理下で安全に運転を継続しています。今回の改訂により、薬剤投与中であっても一律に自動車運転等を禁止するのではなく、医師が関連学会の留意事項※に基づき、個別の患者の病状、服薬順守状況、副作用の有無等を総合的に評価し、自動車運転等の適否を判断できることが添付文書上で明確化されました。これは、患者の社会生活の質(QOL)向上と安全性の確保を両立させるための重要な改訂といえます。なお、対象の抗てんかん薬5剤には欧州および米国の添付文書においても、薬剤服用中の自動車運転等を一律に禁止する記載はなく、今回の改訂は国際的な動向とも合致しています。※抗てんかん発作薬を服用しているてんかんのある人において、自動車運転や危険を伴う機械操作を行う際の留意事項(2026年3月17日)CYP3A基質薬剤<対象薬剤>アゼルニジピン、オルメサルタン メドキソミル・アゼルニジピン、アナモレリン塩酸塩、イバブラジン塩酸塩、イブルチニブ、エプレレノン、エルゴタミン酒石酸塩・無水カフェイン・イソプロピルアンチピリン、キニジン硫酸塩水和物、シンバスタチン、スボレキサント、タダラフィル(アドシルカ)、チカグレロル、トリアゾラム、バルデナフィル塩酸塩水和物、フィネレノン、ブロナンセリン、マシテンタン・タダラフィル、メチルエルゴメトリンマレイン酸塩、ルラシドン塩酸塩、ロミタピドメシル酸塩<改訂年月>2026年3月<改訂項目>[追加]禁忌(次の患者には投与しないこと)および併用禁忌(併用しないこと)「セリチニブ」を追記<ここがポイント!>セリチニブは強力なCYP3A阻害作用を有するため、CYP3A基質薬剤との併用により、これらの薬剤の血中濃度が上昇し、副作用の発現リスクが増大する可能性があります。今回の改訂は、この相互作用による安全性上の懸念から、セリチニブとCYP3A基質薬剤の併用を禁忌とするものです。対象となる20成分には、降圧薬、抗不整脈薬、睡眠薬、抗精神病薬、脂質異常症治療薬など、日常診療で頻用される薬剤が多く含まれており、処方監査時には十分な注意が必要となります。本改訂による医療現場への影響については、診療上の大きな支障が生じないことを関連学会等の意見聴取で確認されています。なお、セリチニブの「2. 禁忌(次の患者には投与しないこと)および10.1 併用禁忌(併用しないこと)」の項にも同様に上記薬剤が追記されました。これにより、双方向での併用禁忌が明確化され、より安全な薬物治療の実施が期待されます。アゼルニジピン、オルメサルタン メドキソミル・アゼルニジピン<対象薬剤>アゼルニジピン、オルメサルタン メドキソミル・アゼルニジピン<改訂年月>2026年3月<改訂項目>[追加]禁忌(次の患者には投与しないこと)および併用禁忌(併用しないこと)「クラリスロマイシン」を追記<ここがポイント!>生理学的薬物速度論モデルの解析により、アゼルニジピンとクラリスロマイシン400mgまたは800mgを併用した場合、アゼルニジピンのAUCが約3.4倍または5.4倍に増加することが予測され、副作用の発現が懸念されます。今回の改訂は、この相互作用による安全性上の懸念から、クラリスロマイシンとアゼルニジピンの併用を禁忌とするものです。アゼルニジピンはCYP3A4で代謝される薬剤であり、CYP3A4阻害薬であるクラリスロマイシンとの併用により、血中濃度の上昇が生じ、過度の血圧低下、めまい、ふらつきなどの副作用リスクが高まることが想定されます。本改訂による医療現場への影響については、診療上の大きな支障が生じないことを関連学会等の意見聴取で確認されています。なお、クラリスロマイシン、ボノプラザンフマル酸塩・アモキシシリン水和物・クラリスロマイシン、ラベプラゾールナトリウム・アモキシシリン水和物・クラリスロマイシンの「2. 禁忌(次の患者には投与しないこと)および10.1併用禁忌(併用しないこと)」の項にも同様にアゼルニジピン、オルメサルタン メドキソミル・アゼルニジピンが追記されました。とくにヘリコバクター・ピロリ除菌療法においてクラリスロマイシンを含む3剤併用療法を行う際には、患者の降圧薬の確認が重要となります。タクロリムス<対象薬剤>タクロリムス水和物(商品名:プログラフカプセル0.5mg/1mg/5mg、同顆粒0.2mg/1mg、同注射液2mg/5mg、グラセプターカプセル0.5mg/1mg/5mg(アステラス製薬株式会社)等)<改訂年月>2026年3月<改訂項目> [追加]妊婦 海外で実施された、Transplant Pregnancy Registry Internationalのデータベースから利用可能な2,905件の肝移植および腎移植患者の妊娠事例に関するコホート研究において、前向きに調査された症例について以下の結果が報告されている。 大奇形が認められた症例は、本剤曝露群では6/297例(2.0%)、本剤非曝露群注1)では1/53例(1.9%)であった注2)。 小奇形が認められた症例は、本剤曝露群では12/297例(4.0%)、本剤非曝露群では認められなかった注2)。 自然流産が認められた症例は、本剤曝露群では33/335例(9.9%)、本剤非曝露群では3/56例(5.4%)であった注2)。 腎移植患者において、子癇前症が認められた症例は、本剤曝露群では84/226例(37.2%)、本剤非曝露群では7/37例(18.9%)であった。 早産児が認められた症例は、本剤曝露群では156/352例(44.3%)、本剤非曝露群では25/59例(42.4%)であった。 妊娠週数に対して児が正常な出生体重であった症例は、本剤曝露群では289/352例(82.1%)、本剤非曝露群では40/59例(67.8%)であった。 注1 アザチオプリン、シクロスポリン、エベロリムス、ミコフェノール酸モフェチル、プレドニゾロン、シロリムスのいずれか1つ以上を含むレジメンによる治療を受けた患者 注2 妊娠の6週間前から出産までの間にミコフェノール酸モフェチルに曝露している患者を除外した解析結果 <ここがポイント!>臓器移植後の妊娠レジストリであるTransplant Pregnancy Registry International(TPRI)データを用いた本剤の児および母体への影響に関する海外疫学研究の結果は、臓器移植患者の妊娠という限定された集団に関する大規模な研究データであるため、本研究結果を添付文書に記載することは臨床上有用であると考えられます。このコホート研究では、2,905件という大規模な症例数を解析しており、タクロリムス曝露群と非曝露群での大奇形発生率に有意な差は認められませんでした(2.0%vs.1.9%)。一方で、小奇形、自然流産、子癇前症については本剤曝露群でやや高い傾向が示されています。とくに腎移植患者における子癇前症の発生率は本剤曝露群で37.2%と高く、慎重な周産期管理が必要となることが示唆されます。このことから、今回の改訂で「9.特定の背景を有する患者に関する注意」の「9.5 妊婦」の項に海外疫学研究の結果を追記することになりました。本データは、移植後妊娠を希望する患者への説明や、妊娠中の管理方針決定において重要な情報となります。

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妊娠後期の抗てんかん薬曝露、児の神経発達障害との関連は?/BMJ

 米国・ブリガム&ウィメンズ病院のLoreen Straub氏らは、米国の2つの医療利用データベースを用いて、妊娠後半期の抗てんかん薬への曝露が出生児の神経発達障害(NDD)のリスクに及ぼす影響を解析し、妊娠中のバルプロ酸曝露による児のNDDリスク増加についてさらに強固なエビデンスが得られたことを報告した。「ゾニサミドも複数のアウトカムとの関連性が示唆されたが、さらなる評価が必要である。他の抗てんかん薬についても、複数の比較やまれなアウトカムにおいて潜在的なシグナルが観察されているが、データの蓄積と確認が必要である」と述べている。BMJ誌2026年3月11日号掲載の報告。NDD(ADHD、ASD、学習障害など)のリスクを曝露群vs.非曝露群で検証 本検討には、米国における公的および民間の医療保険加入者の医療利用データ(Medicaid Analytic eXtract/Transformed Medicaid Statistical Information System Analytic Files[MAX/TAF]の2000~18年、およびMerative MarketScan Commercial Claims and Encounters Database[MarketScan]の2003~21年)が用いられた。 解析対象は、妊娠の3ヵ月以上前から出産後1ヵ月まで継続して保険に加入していた12~55歳のてんかんを有する女性とその児で、児の出生から保険加入期間終了、対象となるNDDの診断、研究期間終了または死亡のいずれか早い時点まで追跡した。 妊娠後半期に少なくとも1回の抗てんかん薬の処方(単剤療法または併用療法)を受けた妊婦とその児を曝露群、てんかんと診断されているが妊娠の3ヵ月以上前から出産後1ヵ月まで抗てんかん薬の投与を受けていない妊婦とその児を非曝露群とした。 抗てんかん薬は、カルバマゼピン、ラコサミド、ラモトリギン、レベチラセタム、オクスカルバゼピン、フェノバルビタール、フェニトイン、トピラマート、バルプロ酸、ゾニサミドを対象とした。バルプロ酸はNDDとの関連が確立されていることから陽性対照として、ラモトリギンは一般的にNDDリスクと関連していないため陰性対照として用いた。 主要アウトカムは、検証済みのアルゴリズムを用いて特定されたNDD(ADHD、ASD、行動障害、発達性協調運動障害、知的障害、学習障害、発話または言語障害のいずれかを有すると定義)で、曝露群と非曝露群のNDDリスクを比較した。バルプロ酸とゾニサミドは複数のアウトカムと関連 解析対象は、MAX/TAFの1万7,590例(非曝露群7,245例、曝露群1万345例)、MarketScanの6,290例(それぞれ1,642例、4,648例)で、曝露群の個々の曝露件数はラコサミドの219例からレベチラセタムの5,261例の範囲にわたった。 ほとんどのNDDが診断されると予想される8歳時点でのNDDの累積発生率は、非曝露群で34.3%(95%信頼区間[CI]:32.0~36.7)に対し、曝露群ではラコサミド曝露の22.7%(95%CI:12.2~39.8)からゾニサミド曝露の42.6%(95%CI:31.9~55.3)にわたった。 バルプロ酸とゾニサミドは複数のアウトカムとの関連を示したが(補正後ハザード比[HR]の範囲:1.26~4.50)、レベチラセタムとフェニトインはいずれのアウトカムとも関連していなかった。 いくつかの薬剤は知的障害のリスクが増加したが、当該障害児が少なく正確な推定値を得られなかった。トピラマートとラモトリギンは、ほとんどのアウトカムにおいて有意な関連は認められなかったが、知的障害(両薬剤)および学習障害(トピラマートのみ、少数例に基づくHR:1.23)については潜在的なシグナルが認められた。 カルバマゼピンとオクスカルバゼピンは、ADHDおよび行動障害のリスクが中等度に増加した(HRの範囲:1.23~1.40)。 これらの結果は、ラモトリギンを対照薬として用いた場合を含む複数の感度解析においても一貫していた。

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小児のドラベ症候群、zorevunersenが有望/NEJM

 ドラベ(Dravet)症候群は、主にSCN1A遺伝子のハプロ不全によって引き起こされる重篤な発育性てんかん性脳症であり、てんかんを有する一般集団と比較して、てんかんによる予期せぬ突然死および認知機能障害のリスクが高いとされる。米国・Northwestern University Feinberg School of MedicineのLinda Laux氏らは、2つの臨床試験(MONARCH試験およびADMIRAL試験)と、その延長試験(SWALLOWTAIL試験およびLONGWING試験)において、zorevunersenの投与により、痙攣発作の頻度が大幅に低下し、有害事象の多くは軽度または中等度であったことを示した。zorevunersenは、ドラベ症候群の基盤となるチャネル病(channelopathy)を標的とし、NaV 1.1ナトリウムチャネルの発現を亢進するようデザインされたアンチセンスオリゴヌクレオチドである。研究の成果は、NEJM誌2026年3月5日号に掲載された。米国と英国の非盲検第I/IIa相試験+延長試験 MONARCH試験およびADMIRAL試験は、それぞれ米国および英国で実施した多施設共同非盲検第I/IIa相試験(Stoke Therapeuticsの助成を受けた)。MONARCH試験は2~18歳、ADMIRAL試験は2~<18歳のドラベ症候群で、標準的な抗痙攣薬による治療を受けている患者を対象とした。 MONARCH試験は、単回投与の用量漸増コホート(5つの用量[10、20、30、45、70 mg]のzorevunersenを1日目に髄腔内投与)および複数回投与の用量漸増コホート(3つの用量[20、30、45mg]のzorevunersenを1、29、57日目に髄腔内投与)から成る。ADMIRAL試験は、複数回投与の用量漸増コホート(3つの用量[30、45、70mg]のzorevunersenを1、57、85日目に髄腔内投与)を擁する。 これらの試験を完了し、適格基準を満たした患者を、それぞれの非盲検延長試験であるSWALLOWTAIL試験およびLONGWING試験に登録し、4ヵ月ごとにzorevunersen(≦45mg)の投与を継続した。 主解析では、zorevunersenの安全性と薬物動態を評価し、臨床効果の評価も行った。腰椎穿刺後症候群が25%に発現 2つの第I/IIa相試験に合計81例(平均年齢9.9[±5.1]歳、女児40例[49%])を登録し、2025年5月30日現在、延長試験に合計75例(10.4[±5.0]歳、37例[49%])を登録した。第I/IIa相試験のベースラインにおいて、患者の81%が3種以上の抗痙攣薬の投与を受けていた。 第I/IIa相試験の78例(96%)および延長試験の75例(100%)に有害事象が発現したが、ほとんどが軽度または中等度であった。第I/IIa相試験で最も頻度の高かった有害事象は腰椎穿刺後症候群(25%)であり、延長試験では脳脊髄液(CSF)中タンパク質濃度上昇(45%)の頻度が最も高かった。 予期せぬ重篤な有害反応が疑われる患者が1例、試験中止に至った有害事象が1例、てんかんによる予期せぬ突然死が2例、栄養失調による死亡が1例に認められた。 複数回投与の用量漸増コホートでは、最終投与後3ヵ月時のCSF中zorevunersen濃度が、初回または2回目投与後1ヵ月時よりも高値を示した。この所見は、月1回または2ヵ月ごとの投与で、CSF中へのzorevunersenの蓄積が生じることを示唆する。延長試験で、臨床状態、生活の質、適応行動も改善 第I/IIa相試験でzorevunersen 70mgを投与され、その後延長試験で最大45mgの投与を受けた患者では、延長試験開始後20ヵ月間における、1ヵ月ごとの痙攣発作の頻度のベースラインからの変化量中央値は、-58.82%から-90.91%の範囲にあり、どの時点でも大幅に低下していた。 延長試験における最長36ヵ月間の継続治療では、全般的な臨床状態、生活の質、適応行動の改善が、データによって裏付けられた。 著者は、「患児の介護者は、新しい治療法では発作以外の症状の緩和が重要と指摘しており、zorevunersenによる全般的な臨床状態や適応行動の変化について、さらなる検討を進める必要がある」「本研究の良好な安全性プロファイルと初期の臨床的改善は、ドラベ症候群に対する疾患修飾治療薬として、zorevunersenの開発を続けることを支持するものである」としている。 現在、zorevunersenの初回投与量70mg、継続投与量45mgによる第III相試験が進行中だという。

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膀胱でアルコールを醸造していた男性【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第300回

膀胱でアルコールを醸造していた男性飲酒していないにもかかわらず、体内でエタノールが産生され酩酊状態に陥る「自家醸造症候群(Auto-brewery syndrome)」をご存じでしょうか。一般的には、本連載でも取り上げた腸内細菌叢の異常による消化管内発酵が知られていますが、実は尿路においても同様の現象が起こり得ます。A Alduraywish A. Case Report: Diabetic urinary auto-brewery and review of literature. F1000Res. 2021 May 20;10:407.今回紹介する症例は、85歳の男性で、20年来の2型糖尿病があり、過去5年間はインスリン療法を受けていました。重要な点として、この患者は生涯にわたり飲酒歴がありませんでした。てんかんの既往があり、抗てんかん薬(ガバペンチン)を服用中で、慢性便秘も認めていました。発症の契機は、介護者である妻の体調不良により、約1週間にわたって食事管理と服薬が乱れたことでした。患者はめまいと意識変容から始まり、次第に尿便失禁、興奮、暴言、介助拒否といった症状が出現しました。血液検査では、HbA1cが7.25%と中等度のコントロール不良を示していましたが、肝機能・腎機能は正常範囲内でした。衝撃的だったのは、禁酒者であるにもかかわらず、血中エタノール濃度が110mg/dL、尿中エタノール濃度が580mg/dLという高値を記録したことでした。これらの数値は、多くの国で飲酒運転の基準値を大きく上回るレベルでした。アムホテリシンBの静注を5日間行い、治療開始5日後には血中・尿中エタノールは検出されなくなり、尿からカンジダも消失しました。患者の意識状態は改善し、見当識も回復して、日常生活に復帰することができました。これまでの研究の多くは腸管発酵に焦点を当てており、尿路における発酵という視点が見過ごされてきました。糖尿病患者では高血糖に伴う尿糖排泄が増加し、カンジダ属の増殖に有利な環境が形成されます。実際、2型糖尿病患者におけるカンジダ尿症の有病率は2.7〜30%と報告されており、HbA1cが7%を超える患者、尿pHが酸性(5〜6)の患者、尿糖が強陽性の患者でその頻度が高くなります。膀胱でアルコールが醸造されるという病態があること、知っておくと何かの役に立つかもしれません。

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迷走神経刺激療法が治療抵抗性うつ病の症状を長期にわたり改善

 治療抵抗性うつ病は、埋め込み型デバイスによって脳と内臓を結ぶ迷走神経に電気刺激を送る迷走神経刺激療法(VNS)により改善する可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。このデバイスによる治療で症状の改善が認められた患者の約80%が2年後もその状態を維持し、さらに20%以上は、2年後には抑うつ症状がほぼ消失していたという。米ワシントン大学セントルイス校治療抵抗性気分障害センター所長のCharles Conway氏らによるこの研究結果は、「International Journal of Neuropsychopharmacology」に1月13日掲載された。研究グループによると、VNSは以前からうつ病治療に有望とされており、米食品医薬品局(FDA)は、てんかんおよびうつ病の治療としてVNSを承認済みである。 Conway氏は、「2年後に5人に1人の患者が実質的に寛解状態であったことには、われわれも驚いた。うつ病のような複雑な疾患でこうした結果が得られたことから、この治療法の将来には大きな希望を感じている」とニュースリリースで語っている。さらに同氏は、「重度の治療抵抗性うつ病を対象とした研究では、効果が長期的に持続することは非常にまれであり、まして2年後まで続く例などなかったことを考えると、今回の結果は極めて異例だ。症状が改善した患者が、その状態を維持しているのだ」と付け加えている。 今回の研究では、4種類以上の抗うつ薬による治療に反応しなかった中等度から重度のうつ病を有する成人患者214人(平均年齢55.2歳)を対象に、補助療法としてのVNSの効果が検討された。患者は、英国のLivaNova USA社が製造した「VNS Therapy System」と呼ばれる埋め込み型デバイスを装着し、盲検下で12カ月間、さらにオープンラベル条件下で12カ月間、VNSを受けた。研究グループは、治療から12カ月時点で、抑うつ症状(3種類の指標で評価)、日常生活機能、生活の質(QOL)、これら3領域を統合した三領域複合指標、および全般的改善度(CGI-I)の改善が、18カ月時点および24カ月時点でも維持されているのかを評価した。 その結果、12カ月時点で意味のある改善(少なくとも30%改善)以上を達成した対象者の割合は、指標ごとに差があり、最も低かったのは抑うつ状態の評価尺度の1つであるモンゴメリー・アスベルグうつ病評価尺度(MADRS)での43.6%、最も高かったのは三領域複合指標での80.0%であった。12カ月時点で意味のある改善を達成した対象者のうち、18カ月時点および24カ月時点でもその改善を維持していた割合は、18カ月時点で78.0〜89.2%、24カ月時点で79.2〜89.6%であった。7種類の指標を統合して見ると、12カ月時点で意味のある改善を達成した対象者のうち、その改善を維持していた割合の中央値は、18カ月時点で83.1%、24カ月時点で81.3%であった。 なお、研究グループによると、本研究の目的の一つは、米国メディケア・メディケイド・サービスセンター(CMS)が、将来的なVNSの保険適用を判断するためのエビデンスを提供することだという。VNSは、現状では治療費が非常に高額であり、多くの患者にとって利用が難しい。CMSがこの治療をカバーすれば、多くの民間保険会社も追随すると研究グループは見ている。 Conway氏は、「この試験で対象とされた治療抵抗性うつ病患者の重症度は、過去の臨床試験の対象患者と比べてはるかに重症だと思われる。こうした患者には、現状では他に治療選択肢がないため、有効な治療法が切実に求められている。慢性的で重度の障害を伴うこのような疾患では、たとえ部分的な改善であってもそれが人生を大きく変える。今回、VNSによりその改善効果が持続することが示された」と述べている。

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てんかん重積状態に対するジアゼパム点鼻液の利点

 てんかん重積状態(status epilepticus:SE)においては迅速な対応が予後を左右する。新たに登場したジアゼパム点鼻液(商品名:スピジア)が病院前治療にいかなる変革をもたらすのか、3人の専門家が紹介。迅速な発作終息がもたらす神経学的予後の改善と、患者・家族のQOL向上に向けた新たな可能性が示された。薬剤抵抗性てんかんの危険性 日本のてんかん患者は42万例と推定されるが、文献などによれば100万例にのぼる可能性がある。その中で、抗てんかん薬でも発作をコントロールできない薬剤抵抗性患者は20~30%いるとされる。てんかん発作の中でもSEは、「発作がある程度の長さ以上に続くか、または、短い発作でも反復し、その間の意識の回復がないもの」と定義される。SEの中でも5分以上持続するケースは治療対象となり、30分以上持続するSEでは高次脳機能障害、運動障害など深刻な後遺障害のリスクがきわめて高くなる。小児における重積化阻止と早期終息の重要性 国立精神神経医療センターの中川 栄二氏は、SEへの移行を未然に防ぎ、発作を早期に終息させることが、神経学的予後を改善するための最重要戦略であると述べた。 消防庁の報告では入電から医師への引継ぎまでに30分以上要した例は8割。 SEによる後遺症を回避するうえでも、医療機関に着く前の介入(病院前治療)は必要だ。小児てんかん重積状態・けいれん重積状態治療ガイドライン2023においても病院前治療の必要性が明記されている。 病院前治療としてのレスキュー薬の現状は満足できるものではない。現在のレスキュー薬はジアゼパム坐剤、ミダゾラム口腔用剤、抱水クロラールの坐剤/注腸である。しかし、発作時すぐに使えないなどの問題があり、使用後に救急搬送が必要になる場合も少なくない。簡便に投与でき、効果発現が早く、副作用が少なく、長時間作用を有するレスキュー薬が求められていた。 そのような背景の中、ジアゼパム点鼻液が承認された。点鼻液という特性から発作時にも投与しやすい。同剤は点鼻投与でありながら97%という生体利用効率を示し、非侵襲的で確実な血中濃度の立ち上がりを実現している。 小児患者における臨床試験では良好な成績も示されている。抗てんかん薬使用中も発作を発症した、あるいはジアゼパムによる発作抑制が必要な患者において、初回投与時の奏効率(発作抑制割合)は62.5%、1週以降24週後までの奏効率は80.2%にのぼった。けいれん発作消失までの時間中央値は1.5分で、5〜10分という坐剤の効果発現を考えると臨床的意義は大きい。ジアゼパム点鼻液の治療患者におけるSEの再発抑制は9割を超えていた。有害事象についても口腔用液で懸念される呼吸抑制のような重篤なものは認められておらず、医療機関外での使用における安全性も示されている。 近年、SE移行リスクのある発作に対する迅速介入の治療概念として「FAST(First Aid Seizure Termination)」が提唱されている。「迅速な効果発現と長時間持続を併せ持つジアゼパム点鼻液は新たなFAST治療薬」と中川氏は期待を寄せる。成人のSEにおけるジアゼパム点鼻液の可能性 獨協医科大学の藤本 礼尚氏は、成人てんかん患者のSE治療においてジアゼパム点鼻液の早期介入の可能性を訴えた。 てんかんは小児だけでなく成人にも多い。SEによる死亡率は成人でも高く、日本では8.5%、米国では20%を超えるという報告もある。前述のように現状の救急搬送は30分を超えており、てんかん治療ガイドラインによる5分以内のSE治療開始は困難だ。この「空白の時間に脳損傷が進行してしまうリスクがある」と藤本氏は警鐘を鳴らす。 成人のSEについても日本のレスキュー薬は十分とは言えない。海外ではSEに対する病院前治療の選択肢は豊富だが、日本の成人に対する保険適用は坐剤のみであった。成人の衣服を脱がせて坐剤を投与することはきわめて困難であり、成人SEに対するレスキュー治療の新たな選択肢が求められていた。 ジアゼパム点鼻液は成人にも使用可能であり、臨床試験でも有望な成績を示す。海外の成人を含む臨床試験の結果、作用発現までの時間は2分、発作停止までの時間は4分(いずれも中央値)であった。患者調査では約8割が2時間以内に普段の状態に戻ったと回答している。 「成人てんかんも救急搬送に頼らないで発作対応を目指すべき。将来は海外と同様に救急救命士がレスキュー薬を使用できることが望まれる」と藤本氏は述べる。患者・家族の視点から見たジアゼパム点鼻液の可能性 ドラベ症候群患者家族会の黒岩 ルビー氏は、ジアゼパム点鼻液による早期の発作終息は、不必要な救急搬送を回避し、患者とその家族のQOLを改善すると期待を示した。 ドラベ症候群は乳幼児期からてんかん重積発作を繰り返す希少・難治性のてんかんである。同家族会のアンケートでは、SEによる救急要請の回数は、11~20回が3割弱、31回以上は2割という結果であった。SE後の急性脳症発症を経験した割合は17%、その72%は後遺症を有している。 「元気だった子が、突然一生残る重度の障害を負うリスクがある」と黒岩氏は懸念する。また、頻繁な救急搬送や夜間発作が家族の慢性的な不安やうつ状態を招いてしまう。 ジアゼパム点鼻液により、てんかん発作の遷延を防ぐことができる。 さらに救急搬送が回避できることで、病院から離れられない生活から解放される可能性がある。とはいえ、発作はいつどこで起きるか予測ができない。家族と離れている保育園、学校、施設などにおいても点鼻薬のような簡便な手段があれば、職員の手で迅速な救護が可能となる。「そういった環境を整備していくことが重要だ」と黒岩氏は訴えた。

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てんかん患者向けAIチャットボット「えぴろぼ」との会話解析でわかったこと

 人工知能(AI)搭載チャットボットは、患者教育やメンタルヘルス支援での活用が広がっている。今回、てんかん患者や家族を支援する目的で開発されたAIチャットボット「えぴろぼ」との会話を解析した結果、相談内容によって利用者の気持ちの動きが異なることが分かった。医療相談ではポジティブな感情の強度が高まる傾向が示された一方、内省的な会話ではポジティブな感情の変化が小さい傾向がみられたという。研究は、埼玉大学大学院理工学研究科/先端産業国際ラボラトリーの綿貫啓一氏、国立精神・神経医療研究センターの倉持泉氏によるもので、詳細は12月11日付で「Epilepsia Open」に掲載された。 てんかん患者は、発作だけでなく、誤解や偏見に伴う心理社会的な困難にも直面している。こうした背景から、正確な医療情報と心理的支援を、気兼ねなく受けられる新たな支援手段が求められている。近年、AIチャットボットは匿名性や常時利用可能といった特長から、患者教育やメンタルヘルス支援への活用が進んでいる。てんかん向けに開発されたAIチャットボット「えぴろぼ」は、こうしたニーズに応えるツールであり、会話には医学的質問から感情を伴う内容まで多様な要素が含まれる。本研究では、高度な自然言語処理技術を用いて、AIチャットボット「えぴろぼ」の利用パターンを識別することと、会話を通じて利用者の気持ちがどのように変化するかを明らかにすることを目的とした。 チャットボットのプレテスト段階におけるテキスト上のやり取りを分析対象とした。参加者は埼玉医科大学総合医療センターからリクルートされた計23名で、内訳はてんかん患者10名、介護者10名、医療従事者3名であった。会話内容の分類には、日本語の医療文献で事前学習された自然言語処理モデルであるJMedRoBERTaを用い、ユーザーのメッセージを内容クラスターに分類した。感情の変化の解析にはDeBERTaを用いた。感情分析は、「えぴろぼ」とのやり取りが80回以上あったてんかん患者5名を対象とした。内容分析ではUMAP(Uniform Manifold Approximation and Projection)およびk-means法クラスタリングを用い、客観的な医療相談と主観的で緊急性の低い相談を区別した。さらに、感情分析により、チャットボットとの会話が感情的関与に与える影響を検討した。 解析には、「えぴろぼ」利用者23名によるメッセージのうち、意味のある600件のメッセージを用いた。さらにメッセージの長さによる影響を避けるため、50文字以下の492件を最終的な解析対象とした。 会話内容の解析から、解析内容となったメッセージは主に2つの内容クラスターに分類された。JMedRoBERTaで抽出した特徴量をUMAPとk-means法で解析した結果、てんかん治療薬の調整や管理方法など、客観的な医療情報を求める質問が中心の「医療相談クラスター」と、意味の解釈や気持ちの整理など、主観的・内省的な問いが多い「探索的利用クラスター」が同定された。医療相談クラスターは332件、探索的利用クラスターは160件と、医療相談に関するやり取りが多くを占めていた。 さらに、DeBERTaを用いた感情分析では、メッセージごとにポジティブ・中立・ネガティブの3つの感情強度が算出された。その結果、前向きな学習や気分の安定を目的としたやり取りでは、ポジティブな感情の強度が高まる傾向が確認された。一方で、他者からの見え方や自己評価に関する内省的な問いでは、ポジティブな感情の変化は小さい傾向がみられた。 著者らは、「本解析よりAIチャットボットが単なる情報提供にとどまらず、利用者の感情面においても一定の利益をもたらす可能性が示唆された。一方で、今後はより共感的なAI応答や、利用者の状況に応じた個別化支援の強化が課題になるだろう」と述べている。

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不思議の国のアリス症候群、特定の薬剤が関連か

 不思議の国のアリス症候群(Alice in Wonderland syndrome:AIWS)は、物体や人の大きさが変わって見える、体が宙に浮くような感覚、時間の歪みなどの視覚的・知覚的歪みを伴う神経疾患である。従来から片頭痛やてんかん発作との関連が指摘され、その後、腫瘍や感染症、さらには薬物との関連も報告されている。フランス・ニース大学病院のDiane A. Merino氏らによる研究グループは、世界保健機関(WHO)の医薬品安全性データベースを解析した結果、モンテルカストやアリピプラゾールなどの特定の薬剤がAIWSの発現に関与している可能性を明らかにした。Psychiatry Research誌2026年2月号に掲載。 本研究では、1967年~2024年12月15日までにWHO医薬品安全性データベースVigiBaseに登録されたAIWS症例を抽出し、小児(0〜17歳)と成人(18歳以上)に分けて不均衡分析を実施した。AIWSと薬剤の関連性は、シグナル指標としてInformation Component(IC)と95%信頼区間(CI)を算出し、95%CIの下限値(IC025)が正の値を示す場合をシグナルが検出されたとみなした。 主な結果は以下のとおり。・抽出されたAIWS 87例のうち、小児は26例(29.9%)で平均年齢7.1歳(標準偏差[SD] 4.0)、成人は45例(51.7%)で40.6歳(SD 13.0)であった。・56例(64.4%)が重篤と判断された。転帰が判明している症例のうち43例(79.6%)が回復または回復中であることが確認された。・小児群では、喘息・アレルギー治療薬のモンテルカスト(IC:3.2、95%CI:1.7~4.2)および注意欠如・多動症(ADHD)治療薬のメチルフェニデート(IC:2.3、95%CI:0.3~3.5)において有意なシグナルが検出された。・成人群では、抗うつ薬のセルトラリン(IC:3.4、95%CI:2.1~4.4)、抗てんかん薬のトピラマート(IC:3.1、95%CI:1.3~4.2)、抗精神病薬のアリピプラゾール(IC:3.6、95%CI:2.5~4.4)、およびモンテルカスト(IC:2.7、95%CI:0.7~3.9)に有意な関連が認められた。・新型コロナウイルスワクチンも頻繁に報告されていたが(17例、19.5%)、統計的に有意なシグナルは検出されなかった(IC:0.63、95%CI:-0.26~1.31)。一方で、髄膜炎菌ワクチンについては有意なシグナルが認められた(IC:2.7、95%CI:1.2~3.7)。 本研究により、メチルフェニデートやモンテルカストといった特定の薬剤が年齢層に応じてAIWSを引き起こすトリガーとなる可能性が示唆された。著者らは、AIWSは通常、薬剤の投与中止により回復するが、視覚的・知覚的歪みの症状が患者に混乱をもたらす可能性があるため、慎重なリスク・ベネフィット評価が必要であり、本研究は自発報告データベースに基づくため、今後さらに大規模な集団ベースの調査が必要だとまとめている。

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