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ASCO2021 レポート 消化器がん(上部・下部消化管)

レポーター紹介食道がん本邦における進行・転移性食道扁平上皮がん1次治療の第1選択は、これまでフルオロウラシル+シスプラチン(FP療法)であった(『食道癌診療ガイドライン 2017年版』)。20年以上も標準治療が変わらなかったわけであるが、ESMO virtual congress 2020で進行・転移性食道がん(扁平上皮がんが7割強、腺がんが3割弱)のFP療法に対する抗PD-1抗体薬ペムブロリズマブ(PEM)の有効性を見たランダム化盲検第III相試験KEYNOTE-590がすでに報告されており、全体集団で全生存期間(OS)中央値が12.4ヵ月vs.9.8ヵ月(HR:0.73、p<0.0001)と有効性を検証した。2021年3月には米国で承認となっている(本邦でも2020年11月に一変申請済み)が、今回ニボルマブ(NIVO)についても第III相試験の結果が報告された。CheckMate 648CheckMate 648は、進行・転移性食道扁平上皮がんの1次治療において、通常の化学療法(FP療法)に対する、化学療法+NIVOの併用とイピリムマブ(IPI)+NIVOの有効性を見たランダム化第III相試験である。主要評価項目は腫瘍細胞のPD-L1≧1%の症例におけるOSと無増悪生存期間(PFS)であり、副次評価項目としてその他の有効性が評価された。結果を化学療法+NIVO群vs.化学療法群から見ていくと、OSにおいて主要評価項目のPD-L1≧1%の症例でOS中央値15.4ヵ月vs.9.1ヵ月(HR:0.54、p<0.0001)、全ランダム化症例でOS中央値13.2ヵ月vs.10.7ヵ月(HR:0.74、p=0.0021)と、いずれも統計学的有意差をもって化学療法+NIVO群が優れていた。PFSにおいても主要評価項目のPD-L1≧1%の症例でPFS中央値6.9ヵ月vs.4.4ヵ月(HR:0.65、p=0.0023)、全ランダム化症例でPFS中央値5.8ヵ月vs.5.6ヵ月(HR:0.81、p=0.0355)と、PD-L1≧1%の症例で統計学的有意差を認めたものの、全ランダム化症例では事前に設定した統計学的有意差を示すことができなかった。全奏効率(ORR)はPD-L1≧1%の症例で53% vs.20%、全ランダム化症例で47% vs.27%と、NIVOの併用によるメリットが認められた。次にIPI+NIVO群vs.化学療法群を見ていくと、OSにおいて主要評価項目のPD-L1≧1%の症例でOS中央値13.7ヵ月vs.9.1ヵ月(HR:0.64、p=0.0010)、全ランダム化症例でOS中央値12.8ヵ月vs.10.7ヵ月(HR:0.78、p=0.0110)と、いずれも生存曲線で最初は化学療法群が上を行っている傾向があったが、統計学的有意差をもってIPI+NIVO群が優れていた。PFSにおいては、主要評価項目のPD-L1≧1%の症例でPFS中央値4.0ヵ月vs.4.4ヵ月(HR:1.02、p=0.8958)、全ランダム化症例でPFS中央値2.9ヵ月vs.5.6ヵ月(HR:1.26)と、統計学的有意差を認めなかった。ORRはPD-L1≧1%の症例で35% vs.20%、全ランダム化症例で28% vs.27%と、IPI+NIVO群が化学療法群より優れていたが、化学療法+NIVO群よりも劣る結果であった。毒性に関しては、これまで他がん種で行われた化学療法+NIVOやIPI+NIVOと大きな違いはなかった。本試験では化学療法+NIVO群、IPI+NIVO群いずれもOSで有意差を示しており、いずれも今後承認が期待される。一方、IPI+NIVO群は、もうひとつの主要評価項目であるPD-L1≧1%の症例におけるPFSで有効性を検証することができず、また生存曲線で最初は化学療法群の下を行くことを考えると、化学療法+NIVOのほうがより好んで使われることが予測される。KEYNOTE-590の結果と併せて、PEMとNIVO両者が承認された後は、化学療法+PEMまたは化学療法+NIVOが最も使われるレジメンになるであろう。CheckMate 577の追加解析切除可能進行食道・食道胃接合部がんに対して、術前化学放射線療法(CRT)後の手術は、海外では重要な標準治療の1つであり、ランダム化第III相試験であるCheckMate 577は、術後のNIVOの1年間投与が無病生存期間(DFS)を有意に改善(NIVO群vs.プラセボ群で中央値22.4ヵ月vs.11.0ヵ月、HR:0.69、p=0.0003)することをすでに報告している。今回、有効性、安全性、QOLの追加解析が報告された。DFSのサブグループ解析では、年齢、性別、人種、PS、術前ステージ、原発の部位、組織型、リンパ節転移、組織のPD-L1発現、いずれのグループにおいてもNIVOの上乗せ効果が認められ、NIVOによるQOLの低下も認めなかった。食道がんにおける本邦の標準治療は、術前化学療法の後の手術である。本試験は日本人症例の登録が行われているが、この結果を本邦の実臨床に適用していけるかは解釈が分かれるところである。本邦でNIVOが術後補助療法というかたちで承認されれば、本邦の実臨床に適用する臨床試験をぜひ行ってほしい。胃がんHER2陰性の切除不能進行胃がんにおいては、PEMがKEYNOTE-062で1次治療の有効性が検証できなかった一方で、NIVOは全世界で行われたCheckMate 649や東アジアで行われたATTRACTION-4で、有効性(ATTRACTION-4のOSはnegative)が検証できたことがESMO virtual congress 2020ですでに報告されている。CheckMate 649の追加解析CheckMate 649は、HER2陰性の切除不能胃がんの1次治療において化学療法+NIVOと化学療法を比較した(IPI+NIVO群は途中で登録中止)ランダム化第III相試験であり、主要評価項目であるPD-L1 CPS≧5症例のOSとPFS、副次評価項目であるCPS≧1、全ランダム化症例のOSとPFSにおいて、化学療法+NIVO群が化学療法群より優れていることが報告されている。今回、さらなる有効性の解析が報告された。1,581例のランダム化された症例で最低でも12.1ヵ月以上フォローアップされた段階で、NIVO+化学療法群は全ランダム化症例でOS中央値13.8ヵ月vs.11.6ヵ月(HR:0.80、p=0.0002)、PFS中央値7.7ヵ月vs.6.9ヵ月(HR:0.77)と改善を認めた。ORRは58% vs.46%と化学療法+NIVO群で良好な結果であり、PD-L1 CPSはOS、PFSが良好な症例の選別に有効であることも示された。さらに、化学療法+NIVO群は臨床症状の悪化までの期間についても有意な改善を認めた(HR:0.77)。米国では化学療法+NIVOが2021年4月16日に、CPSにかかわらずすべての切除不能胃がんの1次治療として承認となっており、本邦でも2020年12月に一変申請がすでに提出されている。承認後は本邦でも切除不能胃がんの第1選択になっていくものと考える。KEYNOTE-811の奏効割合の報告KEYNOTE-811はHER2陽性の切除不能胃腺がんの1次治療において、化学療法+トラスツズマブ(Tmab)+PEMと化学療法+Tmab+プラセボを比較したランダム化第III相試験である。合計692例が登録予定で主要評価項目はOSとPFSであるが、最初の260例が8.5ヵ月以上フォローアップされたところで1回目の中間解析が行われた。有効性の評価対象は264例、安全性の評価対象は433例であった。ORRにおいて化学療法+Tmab+PEM群で74.4%、化学療法+Tmab+プラセボ群で51.9%とPEM併用によって22.7%(p=0.00006)も奏効例の増加が認められ、完全奏効例が11%も認められるなど深い奏効が得られていた。安全性において新たに懸念される事項は認められなかった。この結果をもって米国では化学療法+Tmab+PEMが2021年5月に迅速承認を得たが、本邦で同様の承認が得られるか不明である(本邦には同様の迅速承認制度はなく、また本邦において胃がんは希少疾患ではないため難しいと思われる)。今後OS、PFSなどの主要評価項目の有効性を確認し、正式な承認が得られていくものと考える。大腸がん高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-H)転移性大腸がんの1次治療において、PEM単剤と通常の化学療法を比較するランダム化第III相試験であるKEYNOTE-177試験では、すでに主要評価項目の1つであるPFSの有意な改善が報告されていて、米国、欧州で1次治療として承認を得ている(本邦では2020年9月に一変申請済み)。今回、最終解析としてもうひとつの主要評価項目であるOSの報告が行われた。KEYNOTE-177試験の生存データの最終解析PEM群200mg/3週間ごととmFOLFOX6/FOLFIRI±ベバシズマブ/セツキシマブ2週間ごと(化学療法群)を1対1に割り付け、化学療法群は病勢進行(PD)後、PEMのcrossoverがプロトコール治療として認められていた。OSはp値が0.0246を下回ったとき有意と判定されることとなっていた。最終解析ではPEM群と化学療法群でPFS中央値16.5ヵ月vs.8.2ヵ月(HR:0.59)であり、化学療法群のうち56例(36.4%)がPEMにcrossoverされ、さらに37例にプロトコール治療外でPD-1/PD-L1抗体が投与されたため、合計60.4%の症例がcrossoverとなった。OS中央値はPEM群と化学療法群で、到達せずvs.36.7ヵ月(HR:0.74、p=0.0359)とPEM群で良好な結果であったが、事前に設定された統計学的な有意差は検証できなかった。以上より、MSI-H転移性大腸がんの1次治療においてPEMはPFSで統計学的に有意に優れており毒性は軽かった。化学療法群でcrossoverした症例が多く、また、想定していたOSイベント数に到達しない段階での解析であることもあり、統計学的有意差は検証できなかったが、OSにおいても明らかに優れた結果であった。本邦でも、承認後はMSI-H転移性大腸がんの1次治療における標準治療になるであろう。TRUSTY試験転移性大腸がんの3次治療以降の選択肢としてトリフルリジン・チピラシル(FTD/TPI)+ベバシズマブ(BEV)の有効性がすでに複数の試験で報告されており、『NCCNガイドライン』にも記載されている。今回、本邦において、2次治療でFTD/TPI+BEVとFOLFIRIまたはS-1+イリノテカン(IRI)+BEVを比較する第II/III相臨床試験が実施された。1次治療においてオキサリプラチン/フルオロピリミジン+BEVまたは抗EGFR抗体薬(RAS野生型の場合)を行った症例を対象とし、FTD/TPI+BEV(試験群)とFOLFIRIまたはS-1+IRI+BEV(対照群)に1対1に割り付けを行った。主要評価項目はOSで、非劣性マージンのハザード比を1.33に設定した。副次評価項目はPFS、ORR、病勢制御割合(DCR)などであった。目標症例数は524例であったが、397例を登録した時点の中間解析で中止が勧告され、登録終了となった。試験群と対照群で、OS中央値は14.8ヵ月vs.18.1ヵ月(HR:1.38、p=0.5920)であり非劣性を示すことはできず、むしろ試験群が劣っている傾向であった。PFS中央値は4.5ヵ月vs.6.0ヵ月(HR:1.45)、ORRは3.8% vs.7.1%、DCRは61.2% vs.71.7%であった。次治療の実施率は59.9% vs.52.3%であった。サブグループで見ると、OSにおいてS-1+IRI+BEV例で試験群vs.対照群が13.2ヵ月vs.未到達(HR:2.14)とS-1+IRI+BEVが良好である一方で、FOLFIRI例では16.4ヵ月vs.17.5ヵ月(HR:1.07)であり、レジメンによる大きな差を認めた。転移性大腸がん2次治療としてのFTD/TPI+BEVはフルオロピリミジン+IRI+BEVに対して非劣性を検証できず、今後も2次治療の標準治療はフルオロピリミジン+IRI+BEVである。S-1+IRI+BEV例で対照群が良好であった理由は結論が出ないが、RAS変異症例の割合、前治療の抗EGFR抗体薬の使用割合などに偏りがあり、それらが影響している可能性が考えられる。DESTINY-CRC01試験の最終解析HER2遺伝子増幅を認める大腸がんは、転移性大腸がんの2~3%に存在し、抗HER2療法が有効であることが報告されている。トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)は、すでにHER2陽性の乳がん・胃がんで標準治療となっているが、大腸がんにおいてもその有効性を見るDESTINY-CRC01が2020 ASCO virtualで報告されており、今回、最終解析の結果が報告された。HER2 IHC3+ or IHC2+/ISH+の症例においては、確定されたORRが45.3%、PFS中央値6.9ヵ月、OS中央値15.5ヵ月と優れた結果であり、前治療の抗HER2治療にかかわらず有効性を認めた。一方、HER2 IHC2+/ISH-、HER2 IHC1+の症例は奏効例が1例もおらず、有効性は認めなかった。毒性ではやはり間質性肺障害の頻度が9.3%と懸念される結果であった。現在、T-DXdの用量を5.4mg/kg Q3Wで6.4mg/kg Q3Wをランダム化比較する第II相試験であるDESTINY-CRC02が進行中である。終わりにこの1~2年の報告で、食道がん、胃がん、MSI-H大腸がんの1次治療で抗PD-1抗体の有効性が検証されたことにより、間もなくこれらの消化管がんの1次治療で抗PD-1抗体を第1選択で使う時代が来るだろう。NIVO、PEM、IPIの有効性の検証が一巡した現在、新たな治療標的に対する分子標的薬やADC製剤の開発や、ウイルス療法、光免疫療法など、まったく新しい発想の治療が消化管がんにおいて積極的に開発されることを期待したい。

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必ず読めるようになる医学英語論文 究極の検索術×読解術

英語論文検索・読解のノウハウを徹底解説。読まなければ、何も始まらない医学英語論文を読む目的は何か? その一つは、EBMの考え方に基づいてクリニカル・クエスチョンに答え、日常診療に役立てるためであり、もう一つは自ら研究を実践し、学会発表や論文執筆に備えるためである。本書ではPubMedを使った論文の検索方法とともに、斜め読みではなく論文全体を「精読」するために必要となる“予測読み”などの実践的な読解方法を詳細に解説。これから論文を読むすべての臨床家必読の書。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    必ず読めるようになる医学英語論文定価3,520円(税込)判型A5判頁数160頁発行2021年4月著者康永 秀生電子版でご購入の場合はこちら

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週1回投与のヒト成長ホルモン製剤「ソグルーヤ皮下注5mg/10mg」【下平博士のDIノート】第77回

週1回投与のヒト成長ホルモン製剤「ソグルーヤ皮下注5mg/10mg」今回は、長時間作用型ヒト成長ホルモンアナログ製剤「ソマプシタン(遺伝子組換え)(商品名:ソグルーヤ皮下注5mg/10mg、製造販売元:ノボ ノルディスク ファーマ)」を紹介します。本剤は、重症の成人成長ホルモン分泌不全症患者に週1回投与することで、体脂肪量の減少と筋肉・骨組織の成長を促し、体組成のバランスを改善します。<効能・効果>本剤は、成人成長ホルモン分泌不全症(重症に限る)の適応で、2021年1月22日に承認されました。診断および重症の基準は、最新の「成人成長ホルモン分泌不全症の診断と治療の手引き」の病型分類を参照することとされています。<用法・用量>通常、ソマプシタン(遺伝子組換え)として1.5mgを開始用量とし、週1回、同一曜日に皮下注射します。開始用量は年齢、性別、合併症などに応じて適宜増減します。60歳超の患者では1.0mg、経口エストロゲン服用中の女性患者では2.0mgが目安となっています。その後の投与量は、患者の臨床症状および血清インスリン様成長因子-I(IGF-I)濃度などの検査所見に応じて、最高用量8.0mgを超えない範囲で調整します。なお、投与量の調整は投与開始後2~4週間に1回を目安に行い、増量する場合は1回当たり0.5~1.5mgを目安とします。副作用の発現や血清IGF-I濃度が基準範囲上限を超えた場合は、投与量の減量や一時的な投与中止など適切な処置を行います。<安全性>第III相試験の併合結果333例中85例(25.5%)で副作用が確認され、主な副作用として、頭痛11例(3.3%)、関節痛、疲労各9例(2.7%)、末梢性浮腫7例(2.1%)、浮動性めまい、感覚鈍麻、体重増加、血中クレアチンホスホキナーゼ増加各4例(1.2%)などが報告されています。重大な副作用として、甲状腺機能亢進症および糖尿病(いずれも頻度不明)が設定されています。<患者さんへの指導例>1.週1回投与する持続性の成長ホルモン製剤です。肝臓に働き掛け、体脂肪量を減少させ、筋肉や骨組織の成長を促し、体組成のバランスを改善します。2.大腿部、腹部などに皮下注射してください。注射箇所は毎回変更し、同一部位に短期間に繰り返し注射しないでください。3.浮腫、関節痛、視覚異常、頭痛、悪心または嘔吐、頻尿などの症状が見られたらご連絡ください。4.投与を忘れた場合は、あらかじめ定められた投与日から3日以内であれば、気付いた時点でただちに投与し、その後は元の曜日に投与してください。投与日から3日を超えていた場合は1回分スキップして、次の投与日に投与します。なお、曜日を変更する必要がある場合は、前回の投与から少なくとも4日間以上の間隔を空けてください。5.使用開始前後にかかわらず冷蔵庫で保管し、開封したものは6週間以内に使用してください。冷蔵庫がない環境での保管は、遮光・室温(30℃以下)で通算3日間(72時間)までとしてください。<Shimo's eyes>成人成長ホルモン分泌不全症(AGHD)とは、成人において成長ホルモン(GH)の分泌が損なわれることで、易疲労感やスタミナ低下、体脂肪の増加、筋肉・骨塩量の低下、血中脂質高値などさまざまな自覚症状や代謝異常を来す慢性疾患です。通常、GH補充療法が行われますが、GH分泌不全は生涯続くことが多いため、長期または生涯にわたる治療が必要です。従来のソマトロピン製剤(商品名:ノルディトロピン注、ジェノトロピン注、ヒューマトロープ注、グロウジェクト注、ソマトロピンBS注)は、主に1日1回の皮下投与製剤であることから、毎日の治療に負担を感じる患者も少なくないことが課題となっています。本剤は週1回投与の長時間作用型ヒト成長ホルモン誘導体であり、内分泌専門医の管理指導の下、自己注射が可能な製剤です。1.5mLカートリッジに入った溶解操作が不要なリキッドタイプで、複数回投与可能な使い捨てプレフィルドペン型注入器に装填されています。1回の投与量は、5mg剤が0.025~2mgまで0.025mg刻み、10mg剤が0.05~4mgまで0.05mg刻みで設定可能です。ソマプシタンの構造としては、101位のロイシン残基をシステイン残基に置換したアミノ酸骨格に、アルブミン側鎖が接合しており、内因性アルブミンとの可逆的な非共有結合により、本剤の消失が遅延することで作用持続時間が延長されます。注意すべきポイントとして、GHはインスリン感受性と耐糖能を低下させるため、血糖値とHbA1cなどのモニタリングが必要な点が挙げられます。また、甲状腺機能の低下や良性頭蓋内圧の亢進、血清コルチゾール値の低下、中枢性副腎皮質機能低下症が顕在化する可能性があるので注意が必要です。GHの体液貯留作用により、本剤による治療開始時に手足の浮腫、手根管症候群、関節痛、筋肉痛などが見られる場合がありますが、治療継続中に消失することも多いため、軽度であれば経過観察となることもあります。自己注射は、基本的にはインスリン注射と同様の手順で行います。使用済みの注射器・針の廃棄方法は、かかりつけ医や主治医、薬剤師に相談するよう伝えましょう。参考1)PMDA 添付文書 ソグルーヤ皮下注5mg/ソグルーヤ皮下注10mg

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デジタル手術イラストの描き方(着色~仕上げ編)【誰も教えてくれない手術記録 】第4回

第4回 デジタル手術イラストの描き方(着色~仕上げ編)こんにちは! 手術を描く外科医おぺなかです。今回は前回の続きで、手術イラストの着色~仕上げまでをお伝えします。前回は、下書き~線画を軸に、デジタルイラストの特徴である「レイヤー機能」について、少し掘り下げて紹介しました。今回もレイヤー機能の活用を中心に、イラスト完成までの流れを説明しますので、「レイヤーって何のこと?」と思われた方は、前回のコラムを先にご一読いただけると理解が深まるかと思います!(3)着色:色や構造ごとにレイヤーを分けるのがポイント!線画だけで着色をしなくても、手術イラストとしては成り立ちますが、やはり色が付いていたほうがより見やすくて伝わるイラストになります。私は、色塗りに「ソフトエアーブラシ」を愛用していますが、着色にもさまざまな質感のブラシが使えるので、いろいろと試してみてください。まず、線画レイヤーの下に、新規レイヤーを作成します。カラーパレットから塗りたい色を選択し、多少のはみ出しは気にせず大まかに塗っていきます。そして大体塗り終えたら、消しゴムツールを用いて線画からはみ出した部分を消していきましょう。広い面から塗って、不要な部分を後から消すほうが、早く簡単できれいに塗れると思います。大まかな着色⇒消しゴムで丁寧に消した図また、色が変わる隣り合った部分や構造でレイヤーを分けると、後から細かな修正がしやすくなるのでおすすめです。慣れるまでは、レイヤーに名前を付けて整理するといいですよ。各レイヤーに名前を付けた図色を塗った後は、影(黒、灰色)やハイライト(白)を重ねると、よりそれらしいイラストになると思います。これもレイヤーを分けて描くようにしましょう。レイヤーごとに透明度を調節できるので、影やハイライトが濃くなり過ぎてしまった場合は、透明度を下げると自然に仕上がりますよ。ポイントとしては、着色が終わったタイミングで線画と色のレイヤーをすべてグループ化しておきましょう(ソフトによってはフォルダに入れることでグループ化できるものもあります)。詳しいことは後で説明しますが、イラストの配置を調整するときなどに役立ちます。見本:着色後の完成図(4)仕上げ:手術の流れやポイントがわかるような矢印やテキストを書き込むさて、ついに最後のステップです。余白に矢印やテキストを書き込むことで、手術イラストから手術記録に仕上げていきます。付記する内容としては、病名、施行した術式解剖構造の名称術中所見(病変の様子、腫瘍であれば転移の有無、血管走行、癒着の程度など)手術操作の内容(郭清、剥離、血管/腸管切離など)手術に使用した道具(糸の種類・太さ、エネルギーデバイス、血管用クリップ、メッシュなど)などが一般的ですね。自分は手書き文字が好みですが、お絵描きソフトのテキストツールや、パワーポイントなどを使って仕上げる方法もよく用いられているようです。手書きの際は、グリッドなどの描画ガイドを用いると、字の大きさや傾きが整うのでおすすめです。また、文字を書く余白が足りない、何となく配置バランスが悪いなどと感じたら、各イラストの位置や大きさの調整をしましょう。ここで、先に説明したレイヤーのグループ化機能を活用します。グループ化した全レイヤーを選択した状態で、なげなわ(選択)ツールを用いて動かしたい範囲を指定すると、選択範囲の位置調整や拡大・縮小が可能です。なげなわツールで範囲指定⇒拡大・縮小した図最後に各工程の細かな調整を行って完成です! お疲れさまでした!見本:完成図(お絵かきソフトのテキストツールで文字入れ後)まとめここまで2回に分けて、手術イラストの下書きから完成までの過程を説明しましたが、いかがでしたか? 皆さんがデジタル手術イラストに挑戦するきっかけになればうれしいです。次回以降も、手術記録に関するいろいろな情報をお届けできたらと思っています。ではまた!

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第61回 医療従事者は新型コロナワクチン接種を義務とすべきか/忽那賢志

<先週の動き>1.医療従事者は新型コロナワクチン接種を義務とすべきか/忽那賢志2.64歳未満の接種目前もワクチン供給にブレーキ、今後の見通しは?3.オンライン初診の恒久化、今秋にも指針改定/厚労省4.全医療機関で勤務医の労働時間の実態調査へ/働き方改革5.費用対効果見合わず、後発品体制加算廃止を求める/財務省6.重点医療機関でクラスター、非接種の看護師12人が感染/沖縄1.医療従事者は新型コロナワクチン接種を義務とすべきか/忽那賢志感染症専門医・忽那 賢志氏がYahoo!ニュースに寄稿した内容が話題となっている。わが国においての新型コロナワクチン接種は、あくまでも希望制として進められているが、「医療従事者であってもワクチンを接種しない権利は守られるべきか、医療従事者は原則としてワクチンを接種すべきか」は、簡単に答えが出せない問題である。忽那氏は、国内におけるワクチン接種をしなかった医療従事者を含む医療機関でのクラスター発生事例を紹介し、「個人の『接種しない権利』は守られるべき」としながらも、「しかし医療従事者の場合は、ワクチン接種をしないことが直接患者さんへの被害につながることがあり、一般の方とは少し分けて考えるべきなのではないかと思います」と意見を綴った。同氏は、自身のTwitterアカウントで「こういう意見もあるよという程度のものですので議論のきっかけになれば幸いです」とコメントしている。(参考)医療従事者は新型コロナワクチン接種を義務とすべきか(Yahoo!ニュース)忽那賢志氏 Twitter(@kutsunasatoshi)2.64歳未満の接種目前もワクチン供給にブレーキ、今後の見通しは?河野規制改革担当相は、各自治体への新型コロナウイルスワクチン供給が、7月下旬以降、希望している量の3分の1程度になるとの見通しを明らかにした。これは、6月末までに1億回分が供給されたファイザー製ワクチンの供給量が今後減少するため。ワクチンの供給不足を理由に、新規予約を停止する自治体もあり、その影響で予約患者のキャンセル手続きに入った医療機関も出ている。当初伸び悩んでいたワクチン接種件数だが、「オリンピック開催の7月までに65歳以上の接種を完了させる」という目標達成のため、1日100万件接種の実施を推進してきた。各自治体は、国からの供給量が減少する中、接種計画の見直しを迫られる。(参考)ブレーキかかるワクチン接種 募る不満「政府も手探り」(朝日新聞)ワクチン供給に不安が94% 都道府県庁市区、共同通信調査(共同通信)ワクチン供給 “減少の見通し” 自治体の接種に影響も(NHK)3.オンライン初診の恒久化、今秋にも指針改定/厚労省25日、「経済財政運営と改革の基本方針2021(骨太の方針)」と「規制改革実施計画」が閣議決定された。規制改革実施計画には、「デジタル時代に向けた規制の見直し」としてオンライン診療・服薬指導の特例措置の恒久化が含まれており、今秋までに対象となる症状などを定める見込み。なお、オンライン診療での初診はかかりつけ医を原則としているが、カルテで患者状態が把握できる場合や、事前に基礎疾患などを確認して、オンライン診療が可能と医師と患者が判断した場合は、初診からのオンライン診療を認める方針。(参考)初診からオンライン診療 恒久化へ秋にも指針改定 厚労省(NHK)オンライン初診、秋にも対象症状を線引き 厚労省(日経新聞)資料 令和3年「規制改革実施計画」(内閣府)4.全医療機関で勤務医の労働時間の実態調査へ/働き方改革厚労省は、1日に開催された「医師の働き方改革の推進に関する検討会」で、医療機関における医師労働時間短縮計画の作成ガイドライン案を修正し、2023年度末までは努力目標とすることを発表した。今年2月に成立した改正医療法により、2024年4月から診療に従事する勤務医に対して時間外労働の上限規制が適用される。このため、2021年からすべての医療機関に対して、医師の労働時間の調査を行い、各都道府県に設けられた医療機関勤務環境評価センターへの報告が求められる。また、現状で時間外労働が960時間を超える医師がいる病院で、2024年以降も特例のB・C水準の取得を希望する場合は、医師労働時間短縮の作成と医療機関勤務環境評価センターによる評価の受審が必須となる。(参考)23年度末までの医師時短計画は努力義務に 厚労省、作成ガイドライン案修正(CBnewsマネジメント)医師の労働時間把握へ、全病院に調査 21年度、厚労省(同)医師時短計画作成は努力義務だが「B水準等指定の前提」な点に変化なし、急ぎの作成・提出を―医師働き方改革推進検討会(1)(GemMed)第12回医師の働き方改革の推進に関する検討会 資料(厚労省)5.費用対効果見合わず、後発品体制加算廃止を求める/財務省財務省は29日に、国の事業に無駄がないか調べる予算執行調査について公表した。これまで、後発医薬品については、保険薬局を対象に「後発医薬品調剤体制加算」を設けて使用促進を図っており、2023年度末までに後発品の使用割合を、すべての都道府県で80%以上とする目標を設定している。現状では、保険薬局の7割超が加算を取得し、減算制度の適用はわずか0.3%。残りの薬局が目標を達成すると200億円の抑制効果がある一方、加算は年1,200億円に上るため、費用対効果が極めて薄いと財務省は主張している。来年の予算編成に向け、厚労省に見直しを求める。(参考)後発薬の診療報酬加算、廃止求める 財務省が調査(日経新聞)後発医薬品調剤体制加算、廃止を含めた見直し要請 財務省・調査「費用対効果も見合っていない」(CBnewsマネジメント)資料 令和3年度 予算執行調査の調査結果の概要(6月公表分)(財務省)6.重点医療機関でクラスター、非接種の看護師12人が感染/沖縄沖縄県は30日に、重点医療機関である沖縄県立中部病院において新型コロナウイルスのクラスターが発生したことを発表した。クラスターは5月24日~6月17日にかけて発生。7月1日時点で患者36人(うち死亡は17人)と職員15人の計51人の感染が報告された。このうち、ワクチン接種を希望しなかった看護師12人が感染したことが明らかになった。同院では6月17日を最後に新たな感染者は確認されていない。(参考)ワクチン非接種の看護師12人が感染 沖縄の県立病院(産経新聞)沖縄県立中部病院でクラスター 患者ら50人感染(毎日新聞)

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患者さん向け耳鳴診療Q&A

専門家が心を込めて解説。あなたの耳鳴りの悩みを解消します!耳鳴り診療のエキスパートたちによる患者さん向けの解説書が誕生しました。耳鳴り患者さんの抱く疑問などを、80のQ&Aにまとめました。耳鳴りのしくみ、検査・診断・治療、生活上の注意など、患者さんが持つあらゆる悩みに向き合います。効果の期待できる治療方法など、エビデンス(効果を示す証拠)をもとに丁寧に解説します。あなたの耳鳴りの悩みを解消するために、多くの専門家が力と知恵を寄せ合った渾身の1冊です。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    患者さん向け耳鳴診療Q&A定価2,200円(税込)判型B5判頁数180頁発行2021年5月編集日本聴覚医学会電子版でご購入の場合はこちら

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世界の喫煙率減少も、人口増で喫煙者数は増加:GBD 2019/Lancet

 世界的な15歳以上の喫煙率は、1990年以降、男女とも大幅に減少したが、国によって減少の程度やタバコ対策への取り組みにかなりの違いがあり、喫煙者の総数は人口の増加に伴って1990年以降大きく上昇したことが、米国・ワシントン大学のEmmanuela Gakidou氏らGBD 2019 Tobacco Collaboratorsの調査で明らかとなった。研究の詳細は、Lancet誌2021年6月19日号で報告された。1990~2019年の204の国・地域における喫煙率と疾病負担を評価 研究グループは、世界の疾病負担研究(Global Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study[GBD])の一環として、1990~2019年の期間に204の国と地域で、年齢別、性別の喫煙率と喫煙に起因する疾病負担について検討を行った(Bloomberg PhilanthropiesとBill & Melinda Gates財団の助成を受けた)。 本研究では、3,625件の全国的な調査から得られた喫煙関連指標がモデル化された。また、因果関係のある36の健康アウトカムについて系統的レビューとベイズ流メタ解析が行われ、現喫煙者と元喫煙者の非線形用量反応リスク曲線の推定が実施された。 さらに、この研究では、直接的な推定法を用いて寄与負担を評価することで、喫煙の健康への影響について、以前のGBDよりも包括的な推定値が得られた。2019年の男性の死因の約2割が喫煙 2019年の世界の喫煙者数は11億4,000万人(95%不確実性区間[UI]:11億3,000万~11億6,000万)で、15歳以上の年齢標準化喫煙率は男性が32.7%(32.3~33.0)、女性は6.62%(6.43~6.83)であった。また、同年の紙巻きタバコ換算のタバコ類の消費量は7兆4,100億本だった。 15歳以上の喫煙率は、1990年以降、男性で27.5%(95%UI:26.5~28.5)、女性で37.7%(35.4~39.9)減少したが、喫煙者数は人口の増加によって1990年の9億9,000万人から顕著に増加した。 2019年の世界における喫煙による死亡数は769万人(95%UI:716万~820万)で、障害調整生命年(DALY)は2億年であり、男性の死亡の最も重大なリスク因子(20.2%、19.3~21.1)であった。769万人の喫煙に起因する死亡者のうち、668万人(86.9%)が現喫煙者だった。 なお、2019年の日本における15歳以上の喫煙率は、男性が33.4%(95%UI:31.4~35.5)、女性は10.2%(8.71~11.9)と、いずれも世界平均を上回っていた。また、1990~2019年の喫煙率の減少幅は、男性では41.7%(38.0~45.3)と世界平均よりも大きかったが、女性では23.6%(9.65~35.2)と世界平均に比べ小さかった。 著者は、「介入がなければ、喫煙に起因する死亡数769万人とDALY 2億年は、今後、数十年にわたって増加するだろう。すべての地域、すべての発展段階の国で、喫煙率の低減において実質的な進展が認められたものの、タバコ規制の推進には大きな隔たりがみられた」とまとめ、「喫煙率の減少を加速させ、国民の健康に多大な恩恵をもたらすために、各国は、エビデンスに基づく強力な施策を承認する明確で緊急性の高い機会を手にしている」と指摘している。

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関節リウマチ診療ガイドライン改訂、新導入の治療アルゴリズムとは

 2014年に初版が発刊された関節リウマチ診療ガイドライン。その後、新たな生物学的製剤やJAK阻害薬などが発売され、治療方法も大きく変遷を遂げている。今回、6年ぶりに改訂された本ガイドライン(GL)のポイントや活用法について、編集を担った針谷 正祥氏(東京女子医科大学医学部内科学講座膠原病リウマチ内科学分野)にインタビューした。日本独自の薬物治療、非薬物治療・外科的治療アルゴリズムを掲載 本GLは4つの章で構成されている。主軸となる第3章には治療方針と題し治療目標や治療アルゴリズム、55のクリニカルクエスチョン(CQ)と推奨が掲載。第4章では高額医療費による長期治療を余儀なくされる疾患ならではの医療経済的な側面について触れられている。 関節リウマチ(RA)の薬物治療はこの20年で大きく様変わりし、80年代のピラミッド方式、90年代の逆ピラミッド方式を経て、本編にて新たな治療アルゴリズム「T2T(Treat to Target)の治療概念である“6ヵ月以内に治療目標にある『臨床的寛解もしくは低疾患活動性』が達成できない場合には、次のフェーズに進む”を原則にし、フェーズIからフェーズIIIまで順に治療を進める」が確立された。 薬物治療アルゴリズムの概略は以下のとおり。<薬物治療アルゴリズム>(対象者:RAと診断された患者)◯フェーズI(CQ:1~4、26~28、34を参照)メトトレキサート(MTX)の使用を検討、年齢や合併症などを考慮し使用量を決定。MTXの使用が不可の場合はMTX以外の従来型抗リウマチ薬(csDMARD)を使用。また、MTX単剤で効果不十分の場合は他のcsDMARDを追加・併用を検討する。◯フェーズII(CQ:8~13、18、19、35を参照)フェーズIで治療目標非達成の場合。MTX併用・非併用いずれでの場合も生物学的製剤(bDMARD)またはヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬の使用を検討する。ただし、長期安全性や医療経済の観点からbDMARDを優先する。また、MTX非併用の場合はbDMARD(非TNF阻害薬>TNF阻害薬)またはJAK阻害薬の単剤療法も考慮できる。◯フェーズIII(CQ:14を参照)フェーズIIでbDMARDまたはJAK阻害薬の使用で効果不十分だった場合、ほかのbDMARDまたはJAK阻害薬への変更を検討する。TNF阻害薬が効果不十分の場合は非TNF阻害薬への切り替えを優先するが、その他の薬剤については、変更薬のエビデンスが不足しているため、future questionとしている。 このほか、各フェーズにて治療目標達成、関節破壊進行抑制、身体機能維持が得られれば薬物の減量を考慮する仕組みになっている。過去にピラミッドの下部層だったNSAIDや副腎皮質ステロイド、そして新しい治療薬である抗RANKL抗体は補助的治療の位置付けになっているが、「このアルゴリズムは単にエビデンスだけではなく、リウマチ専門医の意見、患者代表の価値観・意向、医療経済面などを考慮して作成した推奨を基に出来上がったものである」と同氏は特徴を示した。新参者のJAK阻害薬、高齢者でとくに注意したいのは感染症 今回の改訂で治療のスタンダードとして新たに仲間入りしたJAK阻害薬。ただし、高齢者では一般的に有害事象の頻度が高いことも問題視されており、導入の際には個々の背景の考慮が必要である。同氏は、「RA患者の60%は65歳以上が占める。もはやこの疾患では高齢者がマジョリティ」と話し、「その上で注意すべきは、肝・腎機能の低下による薬物血中濃度の上昇だ。処方可能な5つのJAK阻害薬はそれぞれ肝代謝、腎排泄が異なるので、しっかり理解した上で処方しなければならない」と強調した。また、高齢者の場合は感染症リスクにも注意が必要で、なかでも帯状疱疹は頻度が高く、日本人RA患者の発症率は4~6倍とも報告されている。「JAK阻害薬へ切り替える際にはリコンビナントワクチンである帯状疱疹ワクチンの接種も同時に検討する必要がある。これ以外にも肺炎、尿路感染症、足裏の皮下膿瘍、蜂窩織炎などが報告されている」と具体的な感染症を列挙し、注意を促した。非薬物療法や外科的治療―患者は積極的?手術前後の休薬は? RAはQOLにも支障を与える疾患であることから、薬物治療だけで解決しない場合には外科的治療などの検討が必要になる。そこで、同氏らは“世界初”の試みとして、非薬物治療・外科的治療のアルゴリズムも作成した。これについては「RAは治療の4本柱(薬物療法、手術療法、リハビリテーション、患者教育・ケア)を集学的に使うことが推奨されてきた。今もその状況は変わっていない」と述べた。 非薬物治療・外科的治療アルゴリズムの概略は以下のとおり。< 非薬物治療・外科的治療アルゴリズム>◯フェーズI慎重な身体機能評価(画像診断による関節破壊の評価など)を行ったうえで、包括的な保存的治療(装具療法、生活指導を含むリハビリテーション治療、短期的ステロイド関節内注射)を決定・実行する。◯フェーズII保存的治療を十分に行っても無効ないし不十分な場合に実施。とくに機能障害や変形が重度の場合、または薬物治療抵抗性の少数の関節炎が残存する場合は、関節機能再建手術(人工関節置換術、関節[温存]形成術、関節固定術など)を検討する。場合によっては手術不適応とし、可能な限りの保存的治療を検討。 患者の手術に対する意識については「罹病期間が短い患者さんのほうが手術をためらう傾向はあるが、患者同士の情報交換や『日本リウマチ友の会』などの患者コミュニティを活用して情報入手することで、われわれ医療者の意見にも納得されている。また、手術によって関節機能やQOLが改善するメリットを想像できるので、手術を躊躇する人は少ない」とも話した。 このほか、CQ37では「整形外科手術の周術期にMTXの休薬は必要か?」と記載があるが、他科の大手術に関する記述はない。これについては、「エビデンス不足により盛り込むことができなかった。個人的見解としては、大腸がんや肺がんなどの大手術の場合は1週間の休薬を行っている。一方、腹腔鏡のような侵襲が少ない手術では休薬しない場合もある。全身麻酔か否か、手術時間、合併症の有無などを踏まえ、ケース・バイ・ケースで対応してもらうのが望ましい」とコメントした。患者も手に取りやすいガイドライン 近年、ガイドラインは患者意見も取り入れた作成を求められるが、本GLは非常に患者に寄り添ったものになっている。たとえば、巻頭のクイックリファレンスには“患者さんとそのご家族の方も利用できます”と説明書きがあったり、第4章『多様な患者背景に対応するために』では、患者会が主導で行った患者アンケート調査結果(本診療ガイドライン作成のための患者の価値観の評価~患者アンケート調査~)が掲載されていたりする。患者アンケートの結果は医師による一方的な治療方針決定を食い止め、患者やその家族と医師が共に治療方針を決定していく上でも参考になるばかりか、患者会に参加できない全国の患者へのアドバイスとしての効力も大きいのではないだろうか。このようなガイドラインがこれからも増えることを願うばかりである。今後の課題、RA患者のコロナワクチン副反応データは? 最後に食事療法や医学的に問題になっているフレイル・サルコペニアの影響について、同氏は「RA患者には身体負荷や生命予後への影響を考慮し、肥満、骨粗鬆症、心血管疾患の3つの予防を掲げて日常生活指導を行っているが、この点に関する具体的な食事療法についてはデータが乏しい。また、フレイル・サルコペニアに関しては高齢RA患者の研究データが3年後に揃う予定なので、今後のガイドラインへ反映させたい」と次回へバトンをつないだ。 なお、日本リウマチ学会ではリウマチ患者に対する新型コロナワクチン接種の影響を調査しており、副反応で一般的に報告されている症状(発熱、全身倦怠感、局所反応[腫れ・痛み・痒み]など)に加えて、関節リウマチ症状の悪化有無などのデータを収集している。現段階で公表時期は未定だが、データ収集・解析が完了次第、速やかに公表される予定だ。

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2020年の米国平均余命、2018年から約2年短縮/BMJ

 米国では、2018~20年の平均余命(life expectancy)が他の高所得国よりもはるかに大きく短縮し、とくにヒスパニック系および非ヒスパニック系黒人集団で顕著であった。米国・バージニア・コモンウェルス大学のSteven H. Woolf氏らが、分析結果を報告した。2020年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックにより世界中の人々が命を落としたが、米国では他の高所得国に比べ死亡者数が多かったことから、2020年の死亡者数が米国の平均余命や他国との差にどのような影響を与えたかを分析したもの。著者は、「長期にわたり拡大している米国の健康上の不利益、2020年の高い死亡率、持続的な人種・民族的マイノリティに対する不公平な影響は、長年の政策選択と組織的な人種差別の産物であると考えられる」と述べている。BMJ誌2021年6月23日号掲載の報告。米国と他の高所得国16ヵ国について分析 研究グループは、米国および他の高所得国16ヵ国(オーストリア、ベルギー、デンマーク、フィンランド、フランス、イスラエル、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、韓国、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、スイス、台湾、英国)の2010~18年および2020年の平均余命を、米国は国立健康統計センター(NCHS)、その他の高所得国は死亡データベース(Human Mortality Database)のデータを用いて分析した。オーストラリア、カナダ、ドイツ、イタリア、日本は、死亡データが不完全であったため分析には含まなかったという。 評価項目は、男女別の出生時の平均余命ならびに25歳時と65歳時の平均余命で、米国のみ人種・民族別の平均余命も分析した。なお、対象国の多くで生命表データが入手できなかったため、2019年は分析から除外した。また、2020年の平均余命は、2020年の年齢別死亡率の推定値からシミュレーションし、確率的誤差を10%として算出した。米国は他高所得国の8.5倍となる1.87年短縮、人種・民族的な差も 米国と他高所得国の平均余命の差は、2010年の1.88年(米国の平均余命:78.66歳vs.他高所得国の同平均値:80.54歳)から、2018年には3.05年(78.74歳vs.81.78歳)に拡大していた。2020年では、米国の平均余命は76.87歳で、2018年から1.87年短縮していた。同値は、他高所得国の平均短縮幅(0.22年)の8.5倍で、両者の差は4.69年とさらに拡大した。 2018~20年の米国の平均余命の低下は、人種・民族的マイノリティにより差がみられ、ヒスパニック系では3.88年、非ヒスパニック系黒人では3.25年であったのに対して、非ヒスパニック系白人では1.36年であった。ヒスパニック系と非ヒスパニック系黒人の平均余命の短縮は、他高所得国のそれぞれ18倍および15倍に上った。 米国では2010年以降、黒人と白人の平均余命の差が縮まってきていたが、2018年から2020年にかけてその縮小は消失し、黒人男性の平均余命は1998年以来の最低水準となる67.73歳で、長年続いていたヒスパニック系の優位性もほぼなくなった。

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妊娠中のインフルワクチン接種と出生児の健康アウトカム/JAMA

 妊娠中の母親のインフルエンザワクチン接種は、生まれた子供の健康アウトカムに悪影響を及ぼすことはない。カナダ・ダルハウジー大学のAzar Mehrabadi氏らが、追跡期間平均3.6年間の後ろ向きコホート研究の結果を報告した。妊娠中に季節性インフルエンザワクチンを接種することで妊婦や新生児のインフルエンザ疾患を減らすことができるが、妊娠中のワクチン接種と小児期の有害な健康アウトカムとの関連については、報告が限られていた。JAMA誌2021年6月8日号掲載の報告。最長5.5歳、平均3.6歳までの健康アウトカムと母親のワクチン接種との関連を解析 研究グループは、出生登録および出生登録とリンクしている健康管理データを用い、2010年10月1日~2014年3月31日の間にカナダのノバスコシア州で生まれたすべての出生児を対象に、母親の妊娠中の季節性インフルエンザワクチン接種、ならびに出生児の免疫関連疾患(喘息、感染症など)、非免疫関連疾患(腫瘍、感覚障害など)、および非特異的事象(緊急または入院医療の利用など)について、2016年3月31日まで追跡調査を行った(最短2年、最長5.5年、平均[±SD]3.6±1.1年)。 母親のワクチン接種の有無と出生児の健康アウトカムについて、母親の病歴およびその他の交絡因子を調整し、逆確率重み付け(IPTW)法を用いてハザード比(HR)と発生率比(IRR)、ならびにその95%信頼区間(CI)を算出した。喘息、感染症、腫瘍、感覚障害などいずれも有意な関連なし 解析対象の出生児は、2万8,255例(女児49%、妊娠37週以上の出生児92%)であった。このうち、1万227例(36.2%)が、季節性インフルエンザワクチンの接種を妊娠中に受けた母親から生まれた。 追跡期間平均3.6年間において、母親のインフルエンザワクチン接種は小児喘息、腫瘍および感覚障害と有意な関連はないことが認められた。母親の接種ありと接種なしにおける出生児1,000人年当たりの発生率は、小児喘息が3.0 vs.2.5(群間差:0.53[95%CI:-0.15~1.21]、補正後HR:1.22[95%CI:0.94~1.59])、腫瘍が0.32 vs.0.26(0.06[-0.16~0.28]、1.26[0.57~2.78])、感覚障害が0.80 vs.0.97(-0.17[-0.54~0.21]、0.82[0.49~1.37])であった。 また、母親のインフルエンザワクチン接種は、小児期早期の感染症(発生率184.6 vs.179.1、群間差:5.44[95%CI:0.01~10.9]、補正後IRR:1.07[95%CI:0.99~1.15])や、緊急または入院医療の利用(511.7 vs.477.8、33.9[24.9~42.9]、1.05[0.99~1.16])とも有意な関連は認められなかった。

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心筋梗塞非責任病変治療においてFFRは有用なガイドか?(解説:上田恭敬氏)

 責任病変のPCIに成功したSTEMI症例で、狭窄度50%以上の非責任病変を有する症例を対象として、非責任病変に対するPCIをアンジオガイドで行うかFFRガイドで行うかの2群に無作為に割り付け、1年間の全死亡、心筋梗塞、入院を伴う緊急血行再建術施行の複合エンドポイントを主要評価項目として、フランスの41病院で実施された多施設研究であるFLOWER-MI試験の結果が報告された。 アンジオガイド群に581症例、FFRガイド群に590症例が割り付けられた。主要評価項目の発生は、アンジオガイド群で4.2%、FFRガイド群で5.5%に認められ、群間に差を認めなかった。全死亡は、アンジオガイド群で1.7%、FFRガイド群で1.5%に認めた。心筋梗塞は、アンジオガイド群で1.7%、FFRガイド群で3.1%に認めた。入院を伴う緊急血行再建術施行は、アンジオガイド群で1.9%、FFRガイド群で2.6%に認めた。 FFRガイド群では、FFR≦0.8の場合にPCIの施行が推奨された。いずれの群においても、完全血行再建が推奨された。対象となる非責任病変の中で、実際にPCIが行われた病変の割合は、アンジオガイド群で90.5%、FFRガイド群で55.7%であった。 統計的に有意な差を認めない本試験の結果からは、アンジオガイドとFFRガイドのいずれが優れているかを結論することはできない。 憶測の域を出ない話にはなるが、本試験のKM曲線において、6ヵ月頃からFFRガイド群でのイベントが増加しているように見え、FFRガイドでPCIされずにdeferされた病変からのイベントが後に増えてきている可能性があると、著者らも指摘している。統計的に有意な差ではないが、心筋梗塞の頻度が3.1%対1.7%とFFRガイド群で多くなっている点も同様に気になるところである。イベントがPCIされた病変からのものか、deferされた病変からのものか、その他の病変からのものかといった情報が欠けている点においても、より深い考察をするための資料として不十分である。 PRAMI試験においては、preventive PCIという概念が提唱され、中等度狭窄病変に対してPCIを施行することで、心筋梗塞の発症が有意に減少している。FFRでdeferした場合のイベント発生頻度が、病変不安定性が高いと考えられるACS症例で、安定狭心症症例よりも高率であることも報告されている。心筋梗塞の発症をFFRで予測することは論理的にも不可能であり、LRP試験でNIRSがイベント予測に有用であったように、「虚血の評価」に加えて「病変不安定性の評価」が重要と思われる。

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第64回 「辞任」ではなく「解任」の可能性も…、老害、旭川医大学長のお粗末な退陣劇

旭川医大の学長選考会議が「解任」を決定こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。緊急事態宣言の解除であちこちの人流が急増し、東京のコロナの感染者数も下げ止まってしまったようです。再びの緊急事態宣言も近いと踏んで、久しぶりに昔の山仲間とともにテントを担いで奥多摩に行ってきました。奥多摩湖湖畔の倉戸口から倉戸尾根を登り、鷹ノ巣避難小屋までという広葉樹の自然林が美しいコース。昨年と同様、全員1人用テント持参、テントの外で炊事も行いました。「台風で大雨」という天気予報も大外れで、人流少ない(少し奥深い山域では高齢者のパーティが激減しています)初夏の奥多摩を堪能しました。さて、今回は旭川医科大学(北海道旭川市)の吉田 晃敏学長の解任について書いてみたいと思います。朝日新聞やNHK等の報道によると、旭川医大の学長選考会議(議長=西川 祐司・旭川医大副学長)は6月22日、不祥事が相次いだ吉田学長の解任を萩生田 光一文部科学大臣に申し出ることを決め、24日に実行したとのことです。22日に行われた記者会見で西川副学長は「吉田学長の解任の申し出を、出席者の全会の合意で決議した」と話し、「いびつなガバナンスが放置され、本学の価値を低めた」と吉田学長を強く批判しました。「職務上の義務違反」「不適切な行為」続々この事件、そもそもの発端は「週刊文春」2020年12月24日号で報道された市内の慶友会吉田病院からの患者受け入れを拒否する発言、「コロナを完全になくすためには、あの病院がなくなるしかない。ここの旭川市の吉田病院があるということ自体が、ぐじゅぐじゅ、ぐじゅぐじゅとコロナをまき散らして」というものでした。年が明けると、コロナ患者の旭川医大病院受け入れを巡り、吉田学長は当時の病院長を突然解任しました。この解任騒動を機に、14年ものあいだ学長の座に就き続けてワンマン経営を行ってきたことや、公立病院とアドバイザー契約を結んで月40万円(14年間で計6,920万円)の報酬を受け取っていたことなど、さまざまな問題行動が表沙汰になりました。本連載でも今年2月に、「第43回 ドタバタ続きの旭川医大、ワンマン学長の言動を文科省が静観する理由」で取り上げましたが、その後の旭川医大では、吉田学長解任に向けての動きが着々と進んでいました。病院長解任に反発した教授らは学長解任を求める職員1,000人超の署名を集め、学長選考会議に提出。弁護士らによる第三者委員会が設置され、病院長解任の経緯や吉田学長の過去の言動を調べることになりました。第三者委員会は調査内容を学長選考会議に報告、同会議はその報告から吉田学長の職務上の義務違反と学長として不適切な行為を確認、同大の学長解任規定にある「職務上の義務違反」などに当たるとして、文科大臣への解任申し出に至ったわけです。選考会議が吉田学長の職務上の義務違反と不適切な行為と判断した理由は以下のようなものでした。新型コロナウイルス患者の受け入れを巡る不適切な対応付属病院の古川博之前病院長の解任を巡る不適切な対応大学職員へのパワーハラスメント執務時間中の飲酒大学の信用を毀損(きそん)する行動契約切れの学長特別補佐に対する不適切な支出なお、6月28日に改めて記者会見を開いた学長選考会議の西川副学長は、職務上の義務違反と不適切な行為の内訳も明らかにしています。それによれば、大学病院の病院長に対するものをはじめとしたパワハラ9件、不正支出9件、大学の信用を害する行為6件、その他の問題行為10件とのことです。NHKの報道によれば、パワハラについて西川副学長は「大学の人事権を背景に、叱責の域を明らかに超えて辞職や辞任を迫った。パワハラの中でも非常に悪質」と語ったとのことです。公金の私的流用も?最後の「契約切れの学長特別補佐に対する不適切な支出」は、6月22日の学長選考会議の決定に先立つ6月13日に明らかになったものです。同日付の読売新聞は「吉田学長が契約切れとなっていた『学長特別補佐』に報酬300万円を大学から支払わせていた」と報じました。吉田学長は今年3月、学長特別補佐を昨年6月まで務めていた男性が病気で入院し、治療費に困っているなどとして、男性に報酬を支払うよう大学事務局に指示しました。事務局は「現在は勤務実態がない」と拒否したものの、再三指示があったため、複数回に分けて計約300万円を支出した、とのことです。男性の治療費を立て替えたという吉田学長の主張に基づいて、このうち一部が学長の関連口座に振り込まれていたとの報道もありました。この学長特別補佐に対する不敵切な支出ですが、28日の記者会見では9件、計693万円に増えていました。勤務実態のない学長特別補佐は吉田学長の単なる“財布”だったのかもしれません。さすがにこのお金の流れ(公金の私的流用の疑い)が明るみに出たのはヤバい、と感じたのか、吉田学長は15日付けで萩生田文科相に辞任届を郵送したとのことです。辞任届については17日の記者会見で吉田氏の代理人弁護士が明らかにしたもので、代理人は「吉田氏は学内に混乱をもたらしたことを反省しており、これ以上の混乱は本意ではないと考えて身を引く決意をした」と説明したとのことです。なお、この翌日、18日には学長選考会議は一連の問題を巡り、吉田氏から事情を聴くことになっていました。しかし、吉田氏は姿を見せず、代理人が書面で「解任の結論ありきで、強引に進行されている」といった吉田氏の主張を述べるに留まりました。つまり、学長選考会議のヒアリングから「逃げた」わけです。強面でワンマンだった割に意外と心はチキンな人のようです。ずっと静観だった文科省さて、旭川医大のこの件、文科省は当初、「学内人事は各大学の判断で、よしあしを判断する立場にない」として静観していました。任命するのは国なのですから、交代させることも可能だと考えがちですが、そうは簡単にはいかない理由もありました。国立大学法人法は「学長の任命は、国立大学法人の申出に基づいて、文部科学大臣が行う」(同法12条)となっています。ただ、その申し出を文科相が拒否することはほとんどありません。国立大学法人が、同法人の規則に則って学長を選出、それを文科相に申し出ます。この申し出に明白に形式的な違法性がある場合や、明らかに不適切と客観的に認められる場合などを除き、法人の申し出を国が拒否することはできない(申し出には法的拘束力がある)とされているためです。今回、学長選考会議の結論が出たことで、文科省もやっと旭川医大の学長に関して”介入”できるようになったと言えるでしょう。萩生田文科相は18日の閣議後会見で、吉田学長が提出した辞任届が17日に届いたことを明らかにしています。学長選考会議に見解を聴いたうえで、辞職の可否を判断する考えを示したとのことですが、場合によっては辞任届を受理せず、解任となる可能性もあるでしょう。公金の私的流用などが明らかになれば、刑事事件に発展するかもしれません。6月29日現在、吉田学長は辞任となるのか、解任なのか、文科省は判断を下していません。ということで、今も旭川医大のホームページの「学長室から」には、吉田学長の顔写真とお言葉が掲載されたままになっています。国立大学法人法改正で学長の権限にメスところで、今回の旭川医大の学長の”暴走”が表沙汰になる前から、東京大学、筑波大学、北海道大学など、複数の国立大学において学長権限の肥大化が問題となっていました。一部の国立大学法人では学長が学長選考会議の委員に名を連ねたり、教授ら学内出身の委員が過半数を占めたりしていました。そうした、学長選考会議に対する学長の強い影響力を排除するため、先の国会では国立大学法人法の改正案が成立しています。成立した改正国立大学法人法では、「学長選考会議」の名称が「学長選考・監察会議」に変更され、学長は同会議の委員になれないようにするとともに、学内と学外の委員が同数となるよう徹底されます。学長決定後も、法令違反が疑われるような事案が発生した場合、職務の執行状況の報告を求めることができるようになります(法施行は2022年4月1日)。文科省が旭川医大のドタバタをここまで静観してきた背景には、ちょうど進めていたこの国立大学法人法の改正もあったのかもしれません。今回の改正で、国立大学法人を私物化する学長たちの独善、独裁が収まっていけばいいのですが。

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産後のうつ病やQOLに対するアクアエクササイズの効果

 産後うつ病の有病率は、約20%といわれており、女性、乳児、そしてその家族に深刻な影響を及ぼす疾患である。スペイン・Hospital Comarcal de IncaのAraceli Navas氏らは、出産後1ヵ月間の産後うつ病、睡眠障害、QOLに対する中~強度のアクアエクササイズプログラムの有効性および安全性を評価するため、ランダム化臨床試験を実施した。Journal of Clinical Medicine誌2021年5月30日号の報告。 プライマリケア環境下における評価者盲検多施設共同並行群間ランダム化対照試験を実施した。スペイン・マヨルカ島のSon Llatzer Hospital産科部門が管轄する5つのプライマリケアセンターより、合併症リスクの低い妊娠14~20週の妊婦を募集した。妊婦320人は、中~強度のアクアエクササイズケアを行う群(介入群)と通常ケアを行う群(対照群)にランダムに割り付けられた。出産後1ヵ月における睡眠の質(MOS睡眠尺度)、QOL(QOL評価尺度:EQ-5D)、不安または抑うつ症状(エジンバラ産後うつ病自己評価尺度:EPDS)を評価した。 主な結果は以下のとおり。・介入群では、EQ-5Dにおいて不安または抑うつ症状の報告が少なく(11.5% vs.22.7%、p<0.05)、平均EPDSスコアが低かった(6.1±1.9 vs.6.8±2.4、p<0.010)。・両群共に、その他のアウトカム、母体の有害事象、新生児の状態に有意な違いは認められなかった。 著者らは「妊娠中の中~強度のアクアエクササイズは、産後女性の不安や抑うつ症状を軽減し、母子双方にとって安全である」としている。

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夏バテ対策のトップはこまめな飲水/アイスタット

 例年にない暑さが予想されている今年の夏。夏の暑さによる「夏バテ」は、老若男女を問わず起きりうる、身近な体調の悪化であり、生活の質や仕事や勉強の質を落とすリスクとなる。 この「夏バテ」について、働く世代の実際の状況はどのようなものか、株式会社アイスタットは6月18日にアンケートを行った。アンケートは、セルフ型アンケートツール“Freeasy”を運営するアイブリッジ株式会社の全国の会員30~69歳の300人が対象。調査概要形式:WEBアンケート方式期日:2021年6月18日対象:セルフ型アンケートツール“Freeasy”の登録者300人(30~69歳/全国)を対象アンケート結果の概要・今までの夏バテ経験率は74.3%。また、毎年夏バテする人は24.3%・「夏バテ経験あり」と「夏バテ知らず」の夏の生活習慣の主な違いは、睡眠・食欲・運動・夏バテ予防対策で、「適度に運動する」「エアコンよりも除湿機能や扇風機を活用する」を回答した人ほど「夏バテ知らず」・コーヒーを毎日1回以上飲む人ほど「夏バテ経験あり」が多い傾向・夏バテの有無に影響している体質の第1位は「手足が冷たく、肩こり」・平熱が「36.4℃以下」の人は「夏バテ経験あり」が多く、「36.5℃以上」の人は「夏バテ知らず」が多い・体型が「やせ型」「ぽっちゃり型」「肥満型」の人ほど「夏バテ経験あり」が多く、「普通体型」の人ほど「夏バテ知らず」が多い夏バテに体温や体型は関連するのかどうか 最初に「今までに夏バテ・夏の暑さによる体調不良を感じたことがあるか」聞いたところ、「毎年ではないが夏バテの経験がある」が50.0%と最も多く、次に「夏バテの経験は1度もない」が25.7%、「ほぼ毎年」が24.3%と続いた。夏バテの経験の有無では、「夏バテ経験あり」は74.3%で、「夏バテ経験なし」は25.7%だった。 「夏の暑い時期に感じる主な症状」(複数回答)について聞いたところ、「体が重い、だるい、疲れ」が60.0%と最も多く、「食欲がない」が39.7%、「やる気が出ない」が33.3%と続いた。また、夏バテ経験別でみると、「体が重い、だるい、疲れ」「やる気が出ない」「不眠・睡眠不足」「身体が熱っぽい」「めまいや立ちくらみ」「頭痛」「むくみ」の症状は、「毎年」夏バテを感じている人が最も多かった。 「夏の生活習慣であてはまること」(複数回答)について聞いたところ、「冷たい物や飲み物をとる機会が増える」が49.7%と最も多く、「入浴はシャワーですませることが多い」が38.3%、「冷房を効かせた部屋で長時間過ごすことが多い」が34.0%と続いた。夏バテ経験の有無でみると、夏バテに影響しやすいと思われる夏の生活習慣を回答している人ほど、夏バテ経験がある傾向がみられた。 「これまでに、夏バテや夏の暑さによる体調不良を予防するために行なっていること」(複数回答)について聞いたところ、「水分をこまめに摂る」が69.0%と最も多く、「1日3食しっかり食べる」が41.3%、「ミネラル・塩分を摂る」が26.7%と続いた。主に体内に摂取する食べ物、飲み物に関する内容が上位を占めた。とくに「夏バテ経験あり」と回答した人ほど「水分をこまめに摂る」(72.2%)と回答し、夏の脱水対策をしていることがうかがえた。 「夏の時期に毎日1回以上飲むもの」(複数回答)について聞いたところ、「水・ミネラルウォーター」が41.3%と最も多く、「麦茶」が38.0%、「アイスコーヒー」が35.7%と続いた。とくに「夏バテ経験あり・なし」の人で大きく違いが出ているのが「アイスコーヒー」で「夏バテ経験あり」の人が41.7%に対し、「経験なし」の人が18.2%とカフェインの過剰摂取などが影響を及ぼすことが推察された。 「1年を通して、あなたの体質であてはまること」(複数回答)について聞いたところ、「いつも不安があり、ストレスを感じる」が27.0%と最も多く、「手足が冷たく、肩こり」が23.3%、「顔から汗をよくかく」が20.0%と続いた。とくに「夏バテ経験あり・なし」の人で大きく差ができたのが「手足が冷たく、肩こり」で「夏バテ経験あり」の人が28.3%に対し、「経験なし」の人が9.1%と普段の体質や身体のコンディションが影響する可能性をうかがわせた。 普段の「平熱」(単一回答)について聞いたところ、「36.0~36.4℃」が56.7%と最も多く、「35.5~35.9℃」が19.7%、「36.5~36.9℃」が14.7%と続いた。夏バテ経験の有無でみると、平熱が「36.4℃以下」の人は「夏バテ経験あり」が多く、「36.5℃以上」の人は「夏バテ知らず」が多かったが、解析から普段の平熱と「夏バテ」の関連性はとくに見いだせなかった。 最後に「体型について」(単一回答)聞いたところ、「普通体型」が47.0%と最も多く、「ぽっちゃり型」が23.0%、「やせ型」が18.3%と続いた。夏バテ経験の有無でみると、体型が「やせ型」「ぽっちゃり型」「肥満型」の人ほど「夏バテ経験あり」が多く、「普通体型」の人ほど「夏バテ知らず」が多かったが、体温と同様に「夏バテ」との関連性はとくに見いだせなかった。

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「うちの診療所引き継ぐ人いない?」、うっかり漏らして大惨事!【ひつじ・ヤギ先生と学ぶ 医業承継キソの基礎 】第20回

第20回 「うちの診療所引き継ぐ人いない?」、うっかり漏らして大惨事!漫画・イラスト:かたぎりもとこ医業承継において、「案件成立まで情報を漏らさない」ということは非常に重要です。一般企業においても買収や事業譲渡の情報はトップレベルの機密情報ですが、医師の方は仲間内の集まりなどで、こうした情報をふと漏らしてしまうケースがあります「診療所を譲渡する」という情報が広がると、さまざまなリスクが生じます。スタッフが不安に思い離職する患者が不安に思い離反するその他の想定外の事態を引き起こす私たちが実際に経験したケースでも、こんなことがありました。売り手の方が、秘密保持契約を締結することなく、知人や医局の仲間に「うちの診療所の後継になってくれる人はいないか」と相談していたところ、それを聞きつけた医療法人の理事長が「あそこの診療所が閉院するならチャンス!」と、承継ではなく、診療所の隣の空きテナントに新規で同科目の診療所を開いてしまったのです。目前にライバルが現れた売り手の方の診療所の承継は難易度が急に上がり、結局医業承継に失敗して閉院となってしまいました…。医師の世界は狭いので、仲間内だけと思っていても、思わぬところから話が回ってしまいます。このようなケースを防ぐためにも、承継案件は自分で進めようとせず、プロに相談し、秘密保持契約を締結したうえで、慎重に進める必要があるのです。

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エビデンスに基づく皮膚科新薬の治療指針

すぐに臨床に役立ち、新薬の動向と今後の展望も得られる皮膚科領域でこの数年間に上市された新薬あるいは今後上市が確実な新薬などの上手な使い方、情報を伝授。疾患別に「どんな薬か」「どこが新しいのか」「対象はどんな患者さんか」をはっきり示し、薬の臨床データのエビデンスや問題点もきっちり記載している。 臨床に役立つのはもちろん、皮膚科疾患における新薬の動向と今後の展望も情報として得られる。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    エビデンスに基づく皮膚科新薬の治療指針定価9,680円(税込)判型B5判頁数352頁発行2021年6月編集宮地 良樹(岡社会健康医学大学院大学学長/京都大学名誉教授)椛島 健治(京都大学皮膚科教授)電子版でご購入の場合はこちら

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医療・健康管理の無料アプリ、個人情報保護に問題か/BMJ

 オーストラリア・マッコーリー大学のGioacchino Tangari氏らは、オーストラリアのGoogle Playストアで入手可能な、Android用の無料の健康関連モバイルアプリケーション(mHealthアプリ)1万5,838種について分析し、これらにはプライバシーに関する重大な問題と一貫性のないプライバシー行為が認められたことを明らかにした。「臨床医は、mHealthアプリのメリットとリスクを判断する際にこれらのことを認識し、患者に明確に説明する必要がある」と著者は強調している。BMJ誌2021年6月16日号掲載の報告。無料のAndroid用mHealthアプリ、約2万種類について分析 研究グループは、mHealthアプリによるユーザーデータの収集を調査し、Google Playで入手可能なすべてのmHealthアプリのプライバシー管理の特徴およびプライバシーに関連するリスクを評価する目的で、横断研究を行った。オーストラリアのGoogle Playストアで入手可能な医療および健康&フィットネスのカテゴリーに属するAndroid用のmHealthアプリを対象とした。 該当アプリは合計2万991種で、医療系アプリが8,074種、健康&フィットネス系アプリが1万2,917種であった。これらのうち無料のアプリ1万5,838種について、非mHealthアプリ8,468種と比較した。 主要評価項目は、アプリのコードにおけるデータ収集操作およびトラフィックにおけるデータ通信の特徴、ユーザーデータの種類ごとの1次情報受領者の分析、アプリのトラフィックにおける広告およびトラッカーの存在、プライバシーポリシーの監査とプライバシーに関する行為のコンプライアンス、および否定的なアプリのレビューにおける苦情の分析などである。約8割がユーザーデータを収集、約3割はプライバシーポリシーなし 2万991種のmHealthアプリのうち、88.0%(1万8,472種)がユーザーデータ(連絡先情報、位置情報など)を収集する可能性のあるコードを含んでおり、3.9%(616種)は実際にユーザー情報を送信していることが確認された。 アプリのデータ収集操作とユーザーデータ送信のほとんどは、外部のサービスプロバイダー(サードパーティ)が関与していた。上位50社のサードパーティが、データ収集操作やデータ送信のほとんど(68%)を担当していた。 ユーザーデータ送信の23.0%(724種)は、安全ではない通信プロトコルで行われていた。28.1%(5,903種)のアプリはプライバシーポリシーを提供しておらず、47.0%(1,479種)のアプリのユーザーデータ送信はプライバシーポリシーに準拠していた。 ユーザーレビューでプライバシーに関する懸念が示されたのは、1.3%(3,609種)であった。

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統合失調症外来患者におけるLAI治療中止の予測因子

 重度の精神疾患のマネジメントにおいて、患者の主観的な経験や態度は、重要であると考えられる。イタリア・フィレンツェ大学のLorenzo Tatini氏らは、臨床的に安定した統合失調症外来患者を対象に、経口抗精神病薬から長時間作用型抗精神病薬の維持療法(LAI-AMT)へ切り替え後の治療継続に影響を及ぼす予測因子の潜在的な役割について評価を行った。International Clinical Psychopharmacology誌2021年7月1日号の報告。 6ヵ月以上のLAI-AMTを受けた統合失調症患者59例のデータをレトロスペクティブに収集した。LAI治療を継続した患者と中止した患者を比較するため、ベースライン時の社会人口統計学的および臨床的特徴、精神病理学的特徴(PANSS、MADRS、YMRS)、薬に対する構えの調査(DAI-10)および抗精神病薬治療下主観的ウェルビーイング評価尺度短縮版(SWNS)で収集した治療経験を評価した。LAI治療中止の予測因子を特定するため、二値ロジスティック分析およびCox回帰分析を用いた。特性の異なるサブサンプルにおけるLAI治療継続と中止を比較するため、Kaplan-Meier推定量を用いた。 主な結果は以下のとおり。・LAI治療を継続した患者は32例、中止した患者は27例であった。・LAI-AMT中止の予測因子は、失業とベースライン時のDAI-10スコアの低さであった。・その他の人口統計学的、臨床的、精神病理学的特徴に、大きな差は認められなかった。 著者らは「経口抗精神病薬からLAI-AMTへ切り替えを行う場合、DAI-10の評価が臨床的に重要であり、治療中止リスクのある患者を特定することが可能である」としている。

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心停止後の昏睡患者の6ヵ月死亡率、低体温療法vs.常温療法/NEJM

 院外心停止後の昏睡状態の患者において、低体温療法は常温療法と比較して6ヵ月死亡率を低下しないことが示された。スウェーデン・ルンド大学のJosef Dankiewicz氏らが、非盲検(評価者盲検)無作為化試験「Targeted Hypothermia versus Targeted Normothermia after Out-of-Hospital Cardiac Arrest trial:TTM2試験」の結果を報告した。体温管理療法は心停止後の患者に推奨されているが、これを裏付けるエビデンスの確実性は低く、研究グループは大規模な無作為化試験で検証した。NEJM誌2021年6月17日号掲載の報告。心停止後の昏睡状態の患者1,900例で低体温療法と常温療法の6ヵ月死亡率を比較 研究グループは、心原性と推定されるかまたは原因不明の院外心停止後に昏睡状態の成人患者1,900例を、低体温療法群(無作為化後28時間まで目標体温33℃を維持、その後は1時間ごとに3分の1℃ずつ37℃まで復温)、または常温療法群(37.5℃以下を維持、≧37.8℃になった場合は37.5℃を目標に冷却)に無作為に割り付けた。介入期間終了後は、無作為化から72時間後まで正常体温(36.5~37.7℃)を維持した。 主要評価項目は6ヵ月時点の全死因死亡、副次評価項目は修正Rankinスケール(mRS)で評価した6ヵ月時点での機能的アウトカムなどである。また、事前規定のサブグループは性別、年齢、初期調律、自己心拍再開までの時間、入院時のショックの有無とし、事前規定の有害事象は肺炎、敗血症、出血、血行動態の悪化を来す不整脈、体温管理装置に関連する皮膚合併症とした。低体温療法 対 常温療法、死亡率に有意差なし 主要評価項目の解析対象は1,850例で、6ヵ月時点の死亡は低体温療法群が925例中465例(50%)、常温療法群が925例中446例(48%)であり、常温療法に対する低体温療法の死亡リスクは1.04(95%信頼区間[CI]:0.94~1.14、p=0.37)であった。 また、機能的アウトカムの評価を得た1,747例において、mRSスコア≧4の中等度以上の障害を有した患者は、低体温療法群が881例中488例(55%)、常温療法群が866例中479例(55%)であった(相対リスク:1.00、95%CI:0.92~1.09)。事前に規定したサブグループ解析においても、結果は一貫していた。 血行動態の悪化を来す不整脈の発現頻度は、低体温療法群24%、常温療法群17%で、低体温療法群が有意に高かった(p<0.001)。その他の有害事象の発現率は、両群で有意差は確認されなかった。

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急性肝性ポルフィリン症治療薬ギボシランが承認/Alnylam Japan

 Alnylam Japanは、6月23日に急性肝性ポルフィリン症(AHP)の治療薬としてギボシラン(商品名:ギブラーリ皮下注189mg)が厚生労働省から製造販売承認を取得したと発表した。ギボシランは、国内における2成分目のRNA干渉(RNAi)治療薬であり、同社が国内で上市・販売する2番目の製品となる。なお、米国、EU、ブラジル、カナダ、スイスではすでに承認されている。発売日、薬価は未定。確定診断まで時間を要するAHP AHPは、遺伝性の超希少疾患群であり、消耗性で生命を脅かしうる急性発作や患者さんによっては日常生活の機能(ADL)や生活の質(QOL)に悪影響を及ぼす持続症状を特徴とする。本症は、急性間欠性ポルフィリン症(AIP)、遺伝性コプロポルフィリン症(HCP)、異型ポルフィリン症(VP)、およびALA脱水酵素欠損性ポルフィリン症(ADP)の4つの病型があり、いずれの病型も遺伝子変異により肝臓内のヘム産生に必要な特定の酵素が欠如することで生じ、これにより体内のポルフィリンが毒性量まで蓄積する。AHPは労働年齢や出産年齢の女性に偏って発生し、症状はさまざまとなる。最もよくみられる症状は、重症かつ原因不明の腹痛であり、随伴症状として、四肢痛、背部痛、胸痛、悪心、嘔吐、錯乱、不安、痙攣、四肢脱力、便秘、下痢、暗色尿または赤色尿もみられる。また、AHPはその徴候および症状が非特異的であるため、婦人科疾患、ウイルス性胃腸炎、過敏性腸症候群(IBS)、虫垂炎などのより一般的な他の疾患と診断され、AHPと正確に診断されない原因となり、その結果、確定診断までの期間が15年に及ぶこともある。その他、本症では発作中に麻痺や呼吸停止を引き起こす可能性や長期罹患に伴う肝細胞がんなどのリスクもあることから、生命を脅かす危険もある疾患である。ギボシランの特徴 ギボシランは、AHPを治療するためのアミノレブリン酸合成酵素1(ALAS1)を標的とするRNAi治療薬。本治療薬は、アミノレブリン酸合成酵素1(ALAS1)メッセンジャーRNA(mRNA)を特異的に低下させることで、AHPの急性発作やその他の症状の発現に関連する神経毒性を減少させる。ENVISION(第III相)試験において、ギボシランはプラセボと比較し、入院、緊急訪問診療、自宅における静脈内ヘミン投与を要するポルフィリン症の発作率を有意に低下させることが示された。 用法・用量は、通常、12歳以上の患者には1ヵ月に1回ギボシランとして2.5mg/kgを皮下投与する。ポルフィリン症発作の年間複合発生率を74%低下 ENVISION試験は、日本を含む世界18ヵ国36施設から94例のAHP患者さんが登録された本症では過去最大の介入試験。登録された94例の患者さんのうち、3例は日本人。患者さんはギボシラン群またはプラセボ群に1:1で無作為割付けされた後、ギボシラン群には毎月ギボシラン2.5mg/kgが皮下投与され、二重盲検期間の投与完了後、適格例(99%)の患者さんはすべてENVISION試験のオープンラベル延長試験に組み入れられ、ギボシランの投与が継続された。 そして、試験結果は次の通りとなった。・プラセボ群と比較し、AIP患者さんにおけるポルフィリン症発作の年間複合発生率を74%低下・6ヵ月の治療期間中に発作のなかった患者さんの割合は、プラセボ群では16.3%だったの対し、ギボシランを投与した患者さんでは50%・AIP患者さんの報告に基づく1日当たりの最大の痛みは、プラセボ群と比べてギボシラン群で有意に改善した(p

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