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第62回 ワクチンオタクがコロナの余剰ワクチン打ってきた!~接種に辿り着くまで~

新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の高齢者向け接種が始まって2ヵ月が経過した。接種業務については、周知のとおり各自治体にかなり裁量権があることや自治体ごとに人口構成や地理的条件も異なるため、ここに来てかなり自治体間の「格差」が生じている。以前の本連載の第52回でも触れたように、私は「ワクチンマニア」「ワクチンオタク」を自認している。当然ながら早く接種したくてうずうずしている。ちなみに私の居住地は東京都練馬区。いわゆる個別医療機関でのワクチンの小分け配送による接種体制を最初に確立した「練馬モデル」の地域である。練馬区では最近、2バイアル当たりの残り分で接種1回分を確保する運用の「リザーブワン」モデルも始めている。もっとも接種を受ける側からすると、現時点で区報に記載された個別接種医療機関のうち、かかりつけ患者以外に対応するのは少数であること、64歳以下の接種券配布はまだ行われていないこと、区が主導するキャンセル待ちシステムがないなど、もう少しウイングを広げて欲しいと考える点はある。さて、先ほど「早く接種したくてうずうずしている」と書いたが、より正確には「早く接種したくてうずうずしていた」が正しい。実はキャンセルにより発生した余剰ワクチンで1回目の接種を終えたからだ。これまた本連載の第59回で触れたように、河野大臣が記者会見で余剰ワクチンは接種券の有無や年齢、居住地に関係なく接種して良いと語り、そのことが通知となってからはひたすら余剰ワクチンのキャンセル待ちができる医療機関を探し始めた。最初に申し込みをしたのは、NHKでもキャンセル待ちシステムが紹介されたあるクリニックグループ、そして今月上旬に20年来の友人が無事接種にこぎつけた別のクリニックグループ、その他個別のクリニックなど、いずれもネットを通して申し込んだ。また、顔見知りの医師で、自院で接種を行っている人にも声をかけた。もっとも顔見知りの医師はほぼ一様に「いや、本当にキャンセルでの余剰ワクチンを接種したとしても、村上さんが相手だとコネだと批判されそうだなあ」との反応。まあ、この反応は予想の範疇だったので「どんなに代わりを探しても誰も見つからない場合に…」とだけ伝えておいた。そのうえで余剰ワクチン発生時にはいつでも接種できるよう、厚生労働省のホームページからダウンロードした予診票のうち事前に記入可能なところは記入し、過去のワクチン接種歴が記載されているイエローカード、お薬手帳とともにジャケットの内ポケットに入れて常に携帯していた。ちなみに記入済みのもう一枚の予診票とイエローカード、お薬手帳のコピーはいつも持ち歩くデイバッグの中に。これらすべてのスキャンデータをPDF化し、PCとスマホにも保管していた。一報があれば、これらを先にメールなどで送り、駆けつけることで対面時の問診を最小限するためだ。それからというものほぼ毎日のように「ワクチン and キャンセル待ち」でGoogle検索をかけていたが、ある時、自治体が公的にキャンセル待ちシステムを用意していなくても、個別接種医療機関のホームページでキャンセル待ちを募集しているケースがそこそこにあることに気づいた。そこで区内の個別接種医療機関のホームページ巡りをしたところ、あるクリニックの「ワクチン無駄ゼロバンク」なるキャンセル待ちシステムが目にとまった。LINE、電話、窓口を通じ、予め登録した人がキャンセル待ちをできるというもの。登録時は▽名前、年齢、性別▽そのクリニックの診察券番号(持っている人のみ)▽電話番号▽住所▽アレルギーの有無(ある場合は詳細)▽既往歴▽内服薬(薬剤名も詳細に)、の情報が必要になる。区内在住者ならば接種券がなくとも後日持参することで対応するという。早速、LINEを通じて申し込んだ。その際、わざわざ「お薬手帳、過去のワクチン接種歴がわかるイエローカード、当日の状況以外は記載済みの新型コロナワクチン予診票は常に携帯」とメッセージを送り、イエローカードの写真データも送付した。「やりすぎ」と言われるかもしれないが、こちらはいつでも応じる覚悟ありという姿勢を示しておきたかったのだ。その日のうちにクリニックからは登録完了の返信が来た。そして翌日、「週明けに接種枠を拡大することになったため、予約枠の空き状況によっては無駄ゼロバンクの登録者に接種の案内をするので、都合の悪い日時を教えて欲しい」とLINEメッセージが来た。これはよく聞いていたケースだ。行政などからの要望に応じて接種枠を増やした直後、大規模会場や職域での新たな接種などのスタートと重なり、個別接種医療機関の予約枠がガラガラになってしまい、ワクチンも余ってしまう問題だ。あとは完全に医療機関の裁量でも良いと思うのだが、自治体によってはその場合でも「接種券のある人のみ」や「自治体の住民のみ」との縛りを設けていることが多く、私自身一部の医師からの不満も耳にしていた。この辺は厚生労働省からの通知があったとしても、後々の現場の事務作業が煩雑になることを警戒した自治体の判断らしい。とりあえずNG日だけを伝えると、折り返しクリニックから6月26日に1回目、7月17日に2回目、いずれも午前10時という日程が提示されて了承した。それでもなお「その前に余剰が発生した際にはすぐにご連絡ください」と念を押した。日程確定の翌日、国立国際医療研究センター主催のオンラインプレスセミナーを視聴中、あと数分で終わりという段階で電話が鳴った。すでにこのクリニックの電話番号はスマートフォンの電話帳に登録済みだったので着信した瞬間に分かった。受けると同時にこちらから「村上です。ワクチンに余剰が出たんですね?」と尋ねた。クリニック側「その通りです。今から来れますか?」私     「はい、20分で」クリニック側「確か記入済みの予診票をお持ちでしたよね」私     「はい」クリニック側「助かります。ではお待ちしております」すぐさま事務所から飛び出してクリニックに向かって駆け出した。20分という時間予想はあくまで徒歩だったが、一刻も早く着きたかった。接種できるようになったから走って行ってくるとFacebookに投稿すると「ダッシュして息上がってゼハゼハ言って、体温も上がってサーモで引っかかるに10ルーブル」とコメントが入り、はっとして歩き始めた。クリニックに到着すると、すでに院内は高齢者で一杯。窓口でキャンセルワクチンの件で連絡が来た旨を伝え、予診票を示すと、すぐに体温計を渡された。36.3℃で問題なし。そしてカタカナで名前が書かれたシールを貼りつけたリストバンドを渡され、装着するよう指示された。体温計を戻して2分ほど待つと、診察室に案内された。中には医師と看護師の2人。挨拶をして念のために持ってきましたと、イエローカードとお薬手帳を見せると、看護師が「ああ、このグリーンカード(いえ、イエローカードです!)の人、みんなの中で話題になってたんですよ」と素っ頓狂な声をあげる。医師は「ほー」と言いながらイエローカードを手に取って眺めている。「海外にも行かれたりするんですか?」と聞かれたので、「ええ、まあ」と。そしてあっさり「じゃあ打ちますか?」となった。接種シーンを撮影しても良いか尋ねたところOK。ということで看護師さんにスマホを渡して接種シーンを撮影してもらった。「はい、終了です」と言われた時には「え、もう終わり?」という感じだった。一応、マニアとして10種類のワクチン筋注を経験しているが、その中で最も針刺し感がなかったからだ。一応、アトピー性皮膚炎持ちのアレルギー体質ということもあり、アナフィラキシー確認の待機時間は自ら30分を希望し、了承された。待合室に戻ると、リストバンドの名前シールがはがされ、受付にある大きな砂時計に貼り付けられる。15分計測の砂時計らしい。ほかの待機者分も含め複数の砂時計が置かれている。スマホで撮影してもらった写真を拡大し、間違いなく針が刺されていたことを確認。その後は持ってきた本を読みながら過ごし、15分後に看護師さんから「村上さんはもう1周ね」と声を掛けられ、再度砂時計がひっくり返された。最終的に何事もなく、そのまま帰宅の途に就いた。さて、それからちょうど丸2日になる。翌日は注射部位反応の軽い圧痛はあったが、倦怠感、発熱はなし。本日もやはり倦怠感、発熱はなし、昨日の圧痛すらなし。あっけなく1回目の接種が終了した。ちなみにこの2日間、キャンセル待ちを入れたほかの医療機関のキャンセル取り消しにてんやわんやとなった。

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「退職金引当金」でわかる、医療機関の経営状態ホントのところ【今さら聞けない!医療者のための決算書の読み方】最終回

<登場人物>病院で同期だったコンサルタントの田中に定期的に相談を始めた宮路は最近、実家の病院の経営会議に出るようになり、新たな疑問が出てきたようだ。宮路:減価償却の話、ありがとう! よく理解できた気がするよ。何かほかにも財務諸表を理解するうえで気を付けるべきポイントってあるかな?田中それはよかったよ。そうだね、宮路先生の実家の病院には、職員の退職金制度ってあるのかな?宮路はっきりとはわからないけれど…、聞いたことはあるな。田中そうか、それじゃあ退職金を例に「引当金」について見ていこう。宮路ひ、ひきあてきん…? 初めて聞くワードだ…。安田そうですね。普段あまり耳にすることがない用語ですね。でもこのポイントをマスターすれば、グッとレベルアップできますよ。では、「引当金」について説明しますね。公認会計士・安田の解説引当金は、会計の中でもとっつきにくいテーマの1つです。簡単に言えば「将来の支出に備えて、あらかじめ費用を計上して資金をためておく」という会計の技法です。引当金の中にもいくつかの種類があって、一番有名なのは「貸倒引当金」です。ほかにも返品調整引当金賞与引当金退職給付引当金特別修繕引当金製品保証等引当金などがあります。法人税法上では損金として計上することが認められない引当金でも、「財務会計上は期間損益計算を適正に行う」という財務会計の目的を満たすため、計上する必要があります。法人税法上損金になるかならないかに関係なく、引当金を計上しないと誤った経営判断をする恐れがあるためです。「財務会計上の費用として計上すること」と「法人税法上の損金(経費)として認められること」は、別問題なんです。負債である各種引当金を積み上げないと、財務諸表上の「見栄え」はよくなります。そういった「見栄え(だけ)がよい」財務諸表を基に医療機器を購入する、スタッフを雇うなどの投資の判断を行うことにはリスクが伴います。働く人の視点で考えると、自分の勤める病院、転職しようと思っている病院において退職給付引当金を計上されているかは「隠れ負債」の有無の判断の目安になりますし、退職給付引当金を計上しているほうが財務健全な経営をしていると言えます。シンプルに言えば、「自分が退職する際に退職金が支払われない」というリスクが少ない、とも言えますね。宮路なるほど、確かにそうですね…!安田だからといってやみくもに引当金を計上するのではなく、引当金を計上するには要件が必要なんです。その要件は次の4つです。1)将来の特定の費用または損失であること2)その費用または損失が当期以前の事象に起因して発生するものであること3)発生する可能性が高いこと4)金額を合理的に見積もれることこの4つすべて満たす必要があり、恣意的な計上はできないんです。田中:ではここから「退職給付引当金」が財務諸表にどういった影響を与えるかを見ていきましょう。コンサルタント・田中の解説画像を拡大する20年勤務したスタッフに、一括で2,000万円の退職金を支払うケースを例に考えてみましょう。まずはキャッシュフロー計算書を見てみます。キャッシュフロー計算書は実際の現金の流れを表しているので、退職金支払い時(勤続20年目)に退職金として2,000万円を計上する処理になりますね。次は損益計算書です。これは組織ごとの退職金のルールによりますが、人件費の項目として「退職引当金繰入額」が「1年当たりに積み上がる退職金の金額」として計上されます。ポイント制退職金(1年ごとに○ポイントが加算され、退職時にたまっているポイント×▲円の退職金が支給される方式)を例にとると、その1年間にたまるポイント、言い換えればその時点でスタッフがもらう権利のある金額が積み上がります。もちろん、これは実際に支払っているわけではありませんが、毎年相当額を計上するわけです。この例ではスタッフ1人分で見ているのでそこまで大きな額ではありませんが、病院全体で見れば退職金支給対象のスタッフ全員分が反映されるので、かなりの金額になるでしょう。最後に貸借対照表を見てみましょう。病院から見ると、退職給付引当金は将来的に支払わなければならない「負債」に当たるので、損益計算書に計上した額が毎年「固定負債」に積み上がり、退職金支払い時(勤続20年目)に退職金総額が負債からなくなります。田中:前回(第5回「『減価償却費』が、それぞれの財務諸表へ与える影響を知ろう」)で説明した減価償却とは逆のパターンだね。損益計算書上は毎年積み上がる退職金額が費用として発生しているけれどキャッシュは減らず、実際は退職年度に総額のキャッシュが減ることになるんだ。宮路:そうか、これも財務諸表上の表れ方がそれぞれ異なるんだね。田中:そう。減価償却でもそうだったけれど、損益計算書上と実際の現金の流れは異なるので、しっかりと把握して経営していかないとね。宮路:わかったよ。今までいろいろありがとう! 各財務諸表の性質と役割をしっかり理解して経営会議で意見するようにするよ!

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「リモート医事(iisy)」で医療事務作業を改善/ソラスト

 医療事務受託サービスを展開する株式会社ソラストは、医療従事者の業務負担の軽減や患者の待ち時間短縮など、これからの時代に即した医療DX(Digital Transformation)パッケージ「リモート医事(iisy)」に関するメディア発表会をオンラインで行った。 今回発表された「リモート医事」は、医療機関の医療事務作業を“リモートセンター”からリアルタイムにサポートするサービスであり、医療事務だけでなく、「診療サポート」「経営支援」「ITサポート」を包括的にDX化して支援する。iisyのリモート医事サービスで現場の負担を軽減する はじめに同社の代表取締役社長の藤河 芳一氏が、会社概要の説明とともに「リモート医事」について、これから日本が直面する労働人口減少社会でのDX化が医療機関の直面する課題であり、これらに対応するために開発を行ったと経緯を説明。「今回の製品“iisy”は最初のステップであり、将来的には『医療・介護のデータビジネス』へステップアップしていきたい」と今後の展望を述べた。 続いて、「リモート医事サービス」について大島 健太郎氏(同社スマートホスピタル開発部長)が概要を説明した。 医療事務の仕事は、受付からはじまり料金計算、会計、レセプト請求処理、カルテ管理など多岐にわたる。リモート医事サービスは、これらの業務をオンラインで集約化して、スタッフの生産性の向上をはかることができるという。 iisyのリモート医事サービスは主に診療所や中小病院を対象とし、リモート医事センターのスタッフがオンラインで「予約、問い合わせ対応、受付処理、料金計算、レセプト事務」を行うもので、患者あたりの従量制の料金が予定されている。また、セキュリティではISMS/ISO27001認証取得と関係する省庁の2つのガイドラインに準拠した環境でのサービスが提供される。 リモート医事のメリットとして、医療事務では「専門性の向上」「デジタルへの移行」、医師・看護師では「本来業務への集中」「労務管理の軽減」、患者では「接遇が厚くなる」「院内滞在時間の短縮」などがあげられる。サービスの提供開始は、本年6月から提供され、本格的な展開は10月を予定している。すでに実証試験を行ったクリニックでの結果は良好だったという。 大島氏は最後に「本年は100医療機関の導入を目指す」と抱負を語った。なお、iisyのリモート医事サービスの展開では、協働先としてソフトバンク、名古屋大学医学部附属病院、日本医師会なども名を連ねている。

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D-ダイマー高値COVID-19入院患者、治療的 vs.予防的抗凝固療法/Lancet

 D-ダイマー値上昇の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)入院患者に対し、リバーロキサバンやエノキサパリンなどによる治療的抗凝固療法は、予防的抗凝固療法に比べ臨床アウトカムを改善せず、一方で出血リスクを増大したことが示された。米国・デューク大学のRenato D. Lopes氏らが、600例超を対象に行った多施設共同非盲検(評価者盲検)無作為化比較試験「ACTION試験」の結果で、著者は「経口抗凝固療法適応のエビデンスがない場合は、リバーロキサバンおよびその他の直接経口抗凝固薬の治療的投与は避けなくてはならない」と警鐘を鳴らした。COVID-19は、有害転帰につながる血栓形成促進との関連が示されているが、これまで治療的抗凝固療法がCOVID-19入院患者の転帰を改善するかどうかは不明だった。Lancet誌2021年6月12日号掲載の報告。治療的抗凝固療法としてリバーロキサバンを30日間投与 研究グループはブラジル31ヵ所の医療機関で、COVID-19で入院した18歳以上の患者を対象に試験を行った。被験者はD-ダイマー値上昇が認められ、無作為化時点でCOVID-19の症状継続期間が最長で14日だった。 被験者を治療的抗凝固療法群と予防的抗凝固療法群に割り付け、治療群には、臨床的安定な患者に対してはリバーロキサバン(1日20mgまたは15mg)を投与し、臨床的不安定な患者にはエノキサパリン皮下投与(1mg/kgを1日2回)または未分画ヘパリン皮下投与(目標抗Xa濃度:0.3~0.7IU/mL)を行った後にリバーロキサバンを30日間投与した。 予防群に対しては、入院標準治療のエノキサパリンまたは未分画ヘパリンを投与した。 有効性の主要アウトカムは、死亡までの期間、入院期間または30日目までの酸素補充を要した期間の階層的解析結果で、勝利比メソッド(比率1超は治療的抗凝固療法のアウトカムがより良好)を用いてITT集団で評価した。 安全性の主要アウトカムは、30日間の大出血、または臨床的に関連する非大出血だった。治療的抗凝固療法で出血リスクは3.64倍に 2020年6月24日~2021年2月26日にかけて、3,331例をスクリーニングし、うち615例を無作為化した(治療的抗凝固療法群311例、予防的抗凝固療法群304例)。臨床的安定な患者は576例(94%)で、不安定な患者は39例(6%)だった。治療群の患者1例が同意の取り下げでフォローアップが完遂できず、主要解析に含まれなかった。 有効性の主要アウトカムは両群で差が認められなかった(勝利比:0.86、95%信頼区間[CI]:0.59~1.22、p=0.40)。この傾向は、臨床的安定な患者と不安定な患者それぞれで、一貫していた。 安全性の主要アウトカムについては、大出血または臨床的に関連する非大出血の発生率は、予防群2%(7例)に対し、治療群8%(26例)だった(相対リスク:3.64、95%CI:1.61~8.27、p=0.0010)。試験薬のアレルギー反応は、治療群2例(1%)、予防群3例(1%)で報告された。

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長期使用中の外用ステロイドの塗布部位を確認して中止提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第38回

 外用ステロイドは皮膚の炎症性病変において汎用性が高い薬ですが、その使いやすさゆえに治療期限なく使用されるケースも散見されます。今回は、使用意図が明確でないまま、漫然と介護士や看護師から処方依頼が続いていた症例を紹介します。患者情報80歳、女性(施設入居)基礎疾患混合型認知症介護度要介護4服薬管理施設職員が管理障害自立度C認知症自立度IIIa処方内容1.ドネペジル錠5mg 1錠 分1 朝食後2.フロセミド錠10mg 1錠 分1 朝食後3.酸化マグネシウム原末1g 分2 朝夕食後4.ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル軟膏 50g Rp5と混合 1日2回 体に塗布5.ヘパリン類似物質油性クリーム 50g Rp4と混合 1日2回 体に塗布本症例のポイントこの患者さんは、背部と腹部の皮膚炎のため、ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル軟膏とヘパリン類似物質油性クリームの混合軟膏を使用していました。訪問時に薬歴を確認したところ、処方が1年以上継続しており、ステロイドのランクダウンや塗布部位の変更もなく長期的に使用していることに疑問を持ちました。そこで患者さんの病状を確認すると、発赤や隆起した皮膚の様子もなく、治療内容と現状がマッチしていない印象を受けました。施設の介護スタッフに状況を確認すると、時折背中や腹部をかいている様子があるため、現行の軟膏の塗布を継続しているとのことでした。また、軟膏が少なくなったら医師の訪問診療前に連絡して処方を依頼しており、医師はその依頼どおりに処方していることも判明しました。処方提案と経過訪問診療に同行し、医師に患者さんの軟膏塗布部位を直接診察してもらうことにしました。その際に、長期的に外用ステロイドを使用しているものの皮膚の状態は安定しており、むしろ長期使用に伴う細菌・真菌感染の誘発やざ瘡・毛細血管の拡張、皮膚萎縮などの副作用の懸念があることを伝えました。また、病状が安定しているのであれば、ステロイドを中止あるいはランクダウンしてから中止し、皮膚の保湿のみでコントロールできないか相談しました。医師より、病状は安定しているため、もはやステロイド適応ではなく、皮膚乾燥部位の保湿剤の塗布と保湿ケアを介護士に指示すると回答を頂きました。外用ステロイドを中止して保湿剤のみのコントロールに変更しても皮膚炎の再燃はなく経過しています。薬物治療の効果や副作用判定をする際は施設の介護士や看護師から情報を収集することも重要ですが、実際に自分の目で患者さんの症状を確認したことで、医師への処方提案に深みが増した症例でした。

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1日1,600人にコロナワクチン接種、その秘訣とは?/高砂市医師会インタビュー

 全国的に集団接種が実施されているが、多くは被接種者が各ブースを周る形式である。だが、兵庫県高砂市では、接種~経過観察までの被接種者の移動をなくし、接種者が巡回する接種者移動型を採用した。なぜ、同市はこの『接種者移動型』システムを思いつき、ワクチンの供給開始(同市へのワクチン供給は4月中旬)とともに集団接種を始めることが出来たのかー。それには、早期より行政からの相談があり、同市医師会主導のもとでシステム構築したことに秘訣があったようだ。今回、医師会長の増田 章吾氏(増田内科医院)に実際の動線や関係者の内訳、そしてどのようにアイデアをまとめたのかインタビューした。日頃の行政との連携が実を結んだ 高砂市は兵庫県南部播磨平野の東部に位置し、東に加古川が流れ、南に瀬戸内播磨灘を臨む。総人口は8万9,452人。そのうち65歳以上が2万6,266人と人口の3割を高齢者が占める“超高齢社会”のため、優先被接種者が多い自治体である。 そこで、同医師会がワクチン接種の協議を始めたのは昨年末のこと。まずは医師会の理事会メンバー内で話し合い、年明けには医師会内でワクチン検討委員会を発足。内科、小児科などワクチン対応の知識に長けた医師らを軸に、集団接種会場の設営に向けた動きが始まった。増田氏は「医師会の会員数は現在114名。そのうち約95%の会員がこの集団接種に貢献してくれている」と説明。実際にこの接種会場では医師4~6名体制が敷かれており多くの医師会メンバーの協力が必要不可欠であったが、参加できない医師はなんらかの理由を抱えているため参加の強要はしていないという。この参加率について、「これはコロナ禍のワクチン接種を災害と同等に捉えるように周知した結果」だと話した。 兵庫県といえば26年前の阪神淡路大震災の被災地であり、日頃の災害に対する意識の高さが影響しているのかもしれない。今回の初動の早さについて同氏は「実は、災害対策については足踏み状態が続いている。しかし、今回の件は日頃からの行政との連携が取れていたからこそ。そして、理事会など小規模な会議を頻繁に開催していたこと、それぞれが意思を持って協力し合い物事を進めたことが今回の設営のスピードに大きく影響した」と強調した。集団接種で対応に慣れたら個別接種へ 接種会場では、監督責任のある医師、ミキシング・接種者の看護師、ミキシング・予診確認者の保健師、そしてミキシング・相談対応者の薬剤師らが各役割を担うが、多くの者は平日に通常業務を行っているため、現在も集団接種は土日のみ実施している。また、個別接種を先行せず集団接種を優先した理由として、「初めてのワクチンに医師1人で対応するのはリスクや負担が大き過ぎる。集団接種で経験を重ねれば個別接種でも対応がイメージできる」と説明した。さらに、「予約の混乱を避けるために年齢を区切って対応しており、現時点で80歳以上への1回目の接種を終了した。現在は75~79歳、65~74歳の接種を順次進めている」と話した。発案~準備期間はおよそ3ヵ月、各人が努力惜しまず 話し合いが進み、実際に準備に着手したのは2月頃。会場設営に関しては医師会では進めることができないため、「もちろん行政主導でお願いした。ただし、デモンストレーションを行った際には協力してくれた市民、市職員、医療者らもその場で問題点を数十項目ほど挙げるなど、改善するための意見は遠慮なく発言した。日頃から協力関係であったからこそ、準備でもお互いの主導権を尊重しながら進められた」と振り返った。 また、接種会場には医師だけではなく看護師や薬剤師の協力も欠かせない。一般的には医師会と行政がバラバラに依頼状を送ることも多いが、今回は連名で看護師や薬剤師会宛に協力依頼をかけたことで「必要な人員の確保も滞りなく済ませることができた」とも話した。<高砂市の設営状況・対応医療者数>◆実施方法:接種者移動型(接種~経過観察まで被接種者は着席し、接種者が移動する方式)◆1日あたりの接種人数:約800~1,600名・実施日:土日のみ(通常業務を行う医師が輪番制で行うため)・実施場所:総合体育館・最大収容人数:144名(72名×2エリア)・医師:4~6名・保健師:8名(6名:予診票確認・相談、2名:ミキシングなど) ・看護師:12名(6名:接種者[1群に各1名×6群]、4名:6群の見回り[2名×2エリア]、2名:ミキシングなど)・薬剤師:2名(ミキシング、相談)・事務職:12名(1群に各2名配備、接種看護師と共に2エリアを受け持つ)・救急救命士:3名(緊急配備)・救急車:1台(緊急配備、高砂市民病院へ搬送)◆その他、市民病院で1日あたりの接種人数:約600~1,200名 6月初めより各医療機関での個別接種も開始意外と重要、パーテーションは顔が見える高さに 接種時の工夫点については、「会場を設営した当初、個人保護などの観点でパーテーションは顔も隠れるほど高いものを使用していた。ところが、実際に使用してみると、被接種者の様子がまったくわからず、何かが起こっていても察知することが難しいことが判明した。そこで、行政を通じて業者に顔が見えるくらいの高さのパーテーションの準備をお願いし、現在はそれを使用している。われわれの設営会場では12人の被接種者を1群として、それを3~4名体制のもとで接種・見回りを行っているが、パーテーションの設えを変更したことで、被接種者の状態把握が容易になった」と語った。ワクチン接種で苦戦した点、実際の救急搬送例は意外にも… 80歳以上の高齢者の場合、約2割は会場で車椅子を利用したが、独歩可能な方が入り口や出口で転倒してしまった例があった。「アナフィラキシーなど万が一のために救急隊と救急車を常に配備しているが、それで出動した例は現時点ではない。しかし、転倒により頭部に擦り傷を負い、救急隊が対応を行った例が2件あった」と話した。 最後に、問題になっている余剰ワクチンについて伺うと、「ワクチンが廃棄されないようワクチン接種に協力いただいている保健師、看護師、薬剤師など、被接種者に接する機会の多い医療者を優先に対応を進めている」と語った。 今回の取材を通じて、医師会館と市の保健センターが隣接している土地柄、ワクチン接種での相談は直ぐに対応でき、行政と連携が図れるだけではなく、双方が協力関係を築く意識を持ち合わせている点が高砂市の強みであることもわかった。―――――――――――――――――――増田 章吾(ますた しょうご)氏兵庫県高砂市医師会会長・増田内科医院院長昭和58年神戸大学卒。同年神戸大学医学部附属病院第二内科入局し、兵庫県立成人病センター、加古川市民病院に勤務。平成8年に増田内科医院を開業。平成14年高砂市医師会理事、平成26年同市医師会副会長を経て平成28年より現職。―――――――――――――――――――

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早めに動かないと売れ残る!「ヤバい診療所」のパターン2つ【ひつじ・ヤギ先生と学ぶ 医業承継キソの基礎 】第19回

第19回 早めに動かないと売れ残る!「ヤバい診療所」のパターン2つ漫画・イラスト:かたぎりもとこ高齢の開業医にとって、医業承継はいわゆる「終活」を連想させる取り組みでもあり、なかなか前向きに取り組めない方も多いかもしれません。しかし、だからこそ、きちんと早期に準備をしたうえで、有利な条件で承継できるタイミングを選ぶことが重要なのです。とくに下記のようなケースは、患者数を維持できているフェーズでの承継が望ましいでしょう。(1)土地建物を自己所有、かつ土地が広く建物が大きい(2)少子高齢化・過疎化が全国平均よりも早く進むエリアに位置する(1)土地建物を自己所有、かつ土地が広く建物が大きい患者数が多く、売り上げが立つからこそ、広い診療所を維持・運営することが見合うわけです。しかし、承継案件でよくあるのが、以前は有床診療所だったのが、医師の高齢化と共に規模を縮小し、現在は無床(外来のみ)で、3階建ての建物のうち1階部分しか使っていない、といったケースです。買い手が建物全部を活用する開業プランを持っていればよいですが、最初からそうした大掛かりな開業プランを持つ方はまれです。無床診療所を開業しようと考える医師から見れば、活用できていないスペースが大きいほど余計な固定費がかかることになり、案件自体がマイナスイメージとなって承継が成立する確率が大きく下がってしまうのです。(2)少子高齢化・過疎化が全国平均よりも早く進むエリアに位置する将来的に患者数が増えることが見込めないエリアでは承継成立の確率が下がる、ということは理解しやすいでしょう。診療所経営における「集患対策」の手法は限られます。一般企業であれば広告を打つなどさまざまなマーケティング手法が使えますが、診療所経営では規制が多く、診療報酬制度のために価格競争にも限界があります。よって「どのエリアで開業するか」という点が最も重要になるのです。こうした前提に立つと、患者数が他エリアよりも早く減少する可能性があり、かつ、すでに患者が少ない診療所を承継するのは買い手にとって非合理な判断になるのです。上記のような不利な条件で開業されている方は、自分の体力・気力を見ながら承継を検討し始めるのではなく、早くから準備を進め、経営権を先に譲渡したうえで譲渡後も非常勤として勤務する、といった手段を取ることで、医業承継成立の確率を上げつつ、体力や希望に沿った働き方ができるでしょう。

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第38回 変動係数とは?【統計のそこが知りたい!】

第38回 変動係数とは?「変動係数」はバラツキを表す指標の1つです。通常、私たちが使うバラツキを表す指標は「標準偏差」「分散」がほとんどです。「データをみるうえで変動係数がないと困る」という場面が少ないからかもしれません。しかし、変動係数はとても便利な統計の道具の1つです。変動係数を知るといろいろなことがわかります。今回は、変動係数について解説します。■変動係数(Coefficient of variation)標準偏差を平均で割った値を「変動係数」といいます。変動係数は単位のない数値で、相対的なバラツキを表しています。男性と女性の身長などの平均値が異なる集団、身長(cm)と体重(kg)などのデータ単位の異なる集団のバラツキを比較する場合に用いられます。■変動係数の計算式ある健診センターで、デジタル身長体重計を新しく導入することにしました。実際に検診で使用する前に何人かの職員で身長と体重を測定してみたところ、下表のデータが得られました。身長と体重それぞれの変動係数を求めてみましょう。身長、体重をそれぞれ前述の計算式にあてはめて計算します。身長の変動係数:96÷160=0.6体重の変動係数:55÷50=1.1となります。標準偏差の値が大きいからバラツキも大きいと勘違いしないようにすることが大事です。身長(cm)と体重(kg)のように単位が異なる標準偏差を、そのまま数値の大小でバラツキの大きい小さいを判断することはできません。■変動係数に関する留意点上記の例でもわかるように「変動係数には単位がありません!」。これは重要な特徴です。単位が異なるデータはもちろんですが、単位が同じだとしても平均値が異なるデータの標準偏差では、比較すると意味がありません。そのようなときが変動係数の出番です。単位がなければ、どのようなスケール、どのような単位であっても比較可能になります。「変動係数がいくつ以上あればバラツキが大きい」という統計学的基準はありませんが、1以上は「大きい」、0.5以上1未満は「やや大きい」といえます。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ「わかる統計教室」第4回 ギモンを解決! 一問一答質問3 標準偏差と標準誤差の違いは何か?質問6 比較する群が3つ以上ある場合の母平均の差の検定方法は?(その1)質問6(続き) 比較する群が3つ以上ある場合の母平均の差の検定方法は?(その2)

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BRCA変異陽性HER2-早期乳がんへの術前talazoparib、単剤でpCR45.8%(NEOTALA)/ASCO2021

 生殖細胞系列のBRCA遺伝子(gBRCA)変異を有するHER2陰性早期乳がんに対する術前のtalazoparib単剤投与が、良好なpCR率を示した。米国臨床腫瘍学会年次総会(2021 ASCO Annual Meeting)で、米国・テキサス大学MDアンダーソンがんセンターのJennifer Keating Litton氏が、第II相NEOTALA試験の早期解析結果を発表した。 本試験は、非無作為化、単群の多施設共同非盲検試験。gBRCA変異を有するHER2陰性早期乳がんに対する術前補助療法としてのtalazoparibの有効性と安全性の評価を目的に実施された。・対象:gBRCA変異を有するHER2陰性早期進行乳がん患者 61例・試験群:talazoparib(1mg/日、中等度腎機能障害がある場合0.75mg/日)を24週経口投与・評価コホート:[評価対象集団]治療開始時に処方されたtalazoparibについて80%以上の投与を受け、乳房手術と病理学的完全奏効(pCR)評価を受けた患者およびpCR評価前に進行した患者[安全性およびITT解析集団]1回以上のtalazoparib投与を受けた全患者・評価項目:[主要評価項目]独立中央委員会(ICR)評価による評価対象集団におけるpCR。本試験における有効性は事後確率としてのpCR>45%とされた。[副次評価項目]ICR評価によるITT集団におけるpCR、両集団における残存腫瘍量(RCB)、治験担当医評価(INV)による両集団におけるpCR、無イベント生存期間(EFS)、全生存期間(OS)、安全性など※評価は術後に行われ、治験担当医選択による術後抗がん剤治療は可能とされた。 主な結果は以下のとおり。・talazoparibによる治療を受けた61例のうち、48例が評価対象集団の条件を満たした。・ITT集団のベースライン特性は、平均年齢44.6歳、閉経前/後が59.0%/41.0%、BRCA1/BRCA2変異陽性が78.7%/21.3%、TNBCが100%、StageI/II/IIIが32.8%/44.3%/22.9%。また、扁平上皮がん1例を除き、他はすべて腺がんであった。・ITT集団における平均治療期間は23.3週間で、90.2%の患者がtalazoparibによる治療を20週以上受けていた。平均相対的治療強度(RDI)は84.5%であった。・ICR評価によるpCRは、評価対象集団で45.8%/ITT集団で49.2%。・INV評価によるpCRは、評価対象集団で45.8%/ITT集団で47.5%。・ICR評価によるRCBは、0:評価対象集団45.8%/ITT集団49.2%、I:0%/1.6%、II:31.3%/27.9%、III:0%/0%、その他:22.9%/21.3%。・治療中に発生した有害事象は、患者の95.1%で報告された(Grade1:36.1%、Grade2:14.8%、Grade3:42.6%、Grade4:1.6%)。・多くみられたのは疲労(Grade1:55.7%、Grade2:19.7%、Grade3:1.6%)、吐き気(Grade1:50.8%、Grade2:11.5%、Grade3:1.6%)、脱毛症(Grade1:54.1%、Grade2:3.3%)、貧血(Grade1:6.6%、Grade2:1.6%、Grade3:39.3%)。死亡例は報告されていない。 Litton氏は、術前talazoparib単剤療法は有効であり、アントラサイクリン+タキサンベースの併用化学療法で観察された値に匹敵するpCR率を示し、一般的に忍容性は良好で、新たな安全性シグナルは確認されていないと結論づけている。

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アルツハイマー病に対する抗Aβ抗体の有効性と有害事象リスク~第III相RCTのメタ解析

 米国国立衛生研究所(NIH)のKonstantinos I. Avgerinos氏らは、アルツハイマー病におけるAβに対するモノクローナル抗体の認知、機能、アミロイドPET、その他のバイオマーカーへの影響およびアミロイド関連画像異常やその他の有害事象のリスクについて、調査を行った。Ageing Research Reviews誌オンライン版2021年4月5日号の報告。 PubMed、Web of Science、ClinicalTrials.govおよび灰色文献より第III相のRCTを検索し、ランダム効果メタ解析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・17件の研究(1万2,585例)をメタ解析に含めた。・抗体によるアルツハイマー病評価尺度の認知アウトカム(ADAS-Cog、SMD:-0.06、95%CI:-0.10~-0.02、I2=0%)およびミニメンタルステート検査(MMSE、SMD:0.05、95%CI:0.01~0.09、I2=0%)の統計学的に有意な改善が認められた(エフェクトサイズ:小)。一方、臨床的認知症重症度判定尺度の認知、機能測定では改善は認められなかった(CDR-SOB、SMD:-0.03、95%CI:-0.07~0.01、I2=18%)。・抗体によりアミロイドPET SUVR(SMD:-1.02、95%CI:-1.70~-0.34、I2=95%)およびCSF p181-tau(SMD:-0.87、95%CI:-1.32~-0.43、I2=89%)の減少が認められた(エフェクトサイズ:大)。・抗体によりアミロイド関連画像異常リスク(RR:4.30、95%CI:2.39~7.77、I2=86%)の増加が認められた(エフェクトサイズ:大)。・アミロイドPET SUVRの減少に対する抗体の影響は、ADAS-Cogの改善に対する抗体の影響と相関が認められた(r=+0.68、p=0.02)。・サブグループ解析による薬剤別の影響は、以下のとおりであった。 【aducanumab】 ●ADAS-Cog、CDR-SOB、ADCS-ADLの改善(エフェクトサイズ:小) ●アミロイドPET SUVR、CSF p181-tauの減少(エフェクトサイズ:大) 【solanezumab】 ●ADAS-Cog、MMSEの改善(エフェクトサイズ:小) ●CSF Aβ1-40レベルの増加(エフェクトサイズ:中) 【bapineuzumab】 ●臨床アウトカムの改善なし ●CSF p181-tauの減少(エフェクトサイズ:小) 【gantenerumab】 ●臨床アウトカムの改善なし ●CSF p181-tauの減少(エフェクトサイズ:大) 【crenezumab】 ●臨床アウトカムの改善なし・solanezumabを除くすべての薬剤において、アミロイド関連画像異常リスクの増加が認められた。 著者らは「全体として、抗Aβモノクローナル抗体には、臨床アウトカムの改善(エフェクトサイズ::小)、バイオマーカーの改善(エフェクトサイズ:大)、アミロイド関連画像異常リスクの増加(エフェクトサイズ:大)が認められた。薬剤別では、aducanumabが最も有望であり、次いでsolanezumabが挙げられる」とし、「本結果は、アルツハイマー病治療薬としての抗Aβモノクローナル抗体の継続的な開発を支持するものである」としている。

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HR-/HER2+乳がん術前治療、トラスツズマブ+ペルツズマブ±PTXの予後(ADAPT)/ASCO2021

 ホルモン受容体陰性HER2陽性(HR-/HER2+)の乳がん患者に対する、トラスツズマブ+ペルツズマブ±パクリタキセルによる術前療法の予後に関する有望な結果が、米国臨床腫瘍学会年次総会(2021 ASCO Annual Meeting)において、ドイツ・West German Study Group(WSG)のNadia Harbeck氏から報告された。 このADAPT試験はWSGにより実施されたオープンラベルの第II相無作為化比較試験である。この試験のpCR率の結果は2017年に公表されており、今回はその生存に関する報告である。また、本試験と同じデザインでのHR-/HER2+集団に対するpCR率の良好な結果は2020年のESMOで公表されている。・対象:遠隔転移のないHR-/HER2+乳がん134例(5:2の割合で2群に割り付け)・試験群A:トラスツズマブ(初回8mg/kg、その後3週ごとに6mg/kg)+ペルツズマブ(初回840mg、その後3週ごとに420mg)(TP群:92例)・試験群B:トラスツズマブ+ペルツズマブ+パクリタキセル(80mg/m2を1回/週)(TPPtx群:42例)・評価項目:[主要評価項目]pCR率(乳房内の浸潤がんとリンパ節転移がない例[ypT0/is ypN0]におけるpCR率と、非浸潤がんも含めて完全に残存腫瘍のない例[ypT0 ypN0]におけるpCR率)[副次評価項目]無浸潤疾患生存期間(iDFS)、遠隔無再発生存期間(DDFS)、全生存期間(OS)、安全性、バイオマーカー検索など 3週間目にKi67値がベースライン比30%以上低下、もしくは浸潤がん細胞数が500個以下への減少が認められた症例などを早期奏効例とした。 主な結果は以下のとおり。・患者背景は、50歳未満が33~41%(年齢中央値:52~54歳)、N0が54~62%、核異形度3が88.0%、HER2-IHC3+が86~91%、ベースラインのKi67値は50%であった。・既報のpCR率は、ypT0/is ypN0でTP群34.4%、TPPtx群90.5%であった。また、ypT0 ypN0ではTP群24.4%、TPPtx群78.6%であった。・iDFS率は、5年時点でTP群87%、TPPtx群98%、ハザード比[HR] 0.32(95%信頼区間[CI]:0.07~1.47)、p=0.144であった。・OS率は、5年時点でTP群94%、TPPtx群98%(死亡は1名のみ)、HR 0.41(95%CI:0.05~3.55)、p=0.422であった。・pCRが得られた症例(69例)と得られなかった症例(63例)でiDFSを比較した場合、pCR例は5年時iDFS率が98%、non-pCR例では82%、HRは0.14(95%CI:0.03~0.64)、p=0.011であった。・TP群において、pCRが得られなかったIHC1+/2+およびFISH陽性例や、Basalタイプ、または早期奏効を得られなかった症例を、non-sensitive症例(31例)として、その他の症例とiDFSを比較した場合、5年時のiDFS率はnon-sensitive79%、その他93%、HRは1.99、p=0.255であった。 演者のHarbeck氏は「化学療法の有無によらず、両群とも優れたpCR率と生存率を示した。また、抗体2剤のみによる術前治療は早期奏効が得られた場合に有望であり、今後はさらにIHC3+症例やBasalタイプ以外、RNAなどで選別した症例でも検討する必要がある」と述べた。

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050)新型コロナワクチン2回目接種後の3日間【Dr.デルぽんの診察室観察日記】

第50回 新型コロナワクチン2回目接種後の3日間ゆるい皮膚科勤務医デルぽんです☆先月の連載で1回目接種の様子を漫画にしましたが、今回は2回目のお話。皆さまの周囲でも、2回目接種を終えた方がどんどん増えているのではないかと思われます。私の周囲では2回目接種の後に発熱した人が多く、中には1週間くらい倦怠感が続いた、という人もいました。私の場合どうだったかというと、1回目よりも接種部位疼痛が強く出た以外は、とりわけ大きな症状もなく、発熱の心配は杞憂に終わりました(笑)。若い女性スタッフほど熱を出しているような印象で、翌日に熱が出て動けなくなった、という話も聞いていたので、いつ発熱してもいいよう枕元に解熱剤や水筒を用意していたのですが、微熱すら出ず。常時平熱のまま、接種後の3日間を乗り切りました。勤務先の医局は、高齢男性の医師がほとんどを占めるのですが、1回目接種の時は筋肉痛の話などで盛り上がっていた医局も、2回目接種ともなると副反応の話題は一切出ないほど。熱が出たり寝込んだりという話は耳にしませんでした。「やはり若い方に反応が出やすいという話は本当なのだな」と、ひとり納得したのでした(笑)。接種から2週間がたち、新型コロナへの抗体も獲得できているはず。早く一般の方々への接種が進むとよいなと願っています。それでは、また~!

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てんかん症候群(第6版)―乳幼児・小児・青年期のてんかん学

てんかん学の“ブルーガイド”が7年振りの改訂7年振りの改訂!てんかん学の“ブルーガイド”として世界的に普及している“Epileptic Syndromes in Infancy, Childhood and Adolescence”(6th edition)の日本語翻訳版。国際抗てんかん連盟(ILAE)の新しい分類図式(2017年)を取り入れ、症候群アプローチの最新情報を盛り込む。豊富な動画(109本)を日本語訳の解説と共に視聴できるVIDEO付録付き。今回も静岡てんかん・神経医療センターのスタッフが総力をあげて翻訳。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    てんかん症候群(第6版)―乳幼児・小児・青年期のてんかん学定価3万1,900円(税込)判型B5変型判頁数720頁発行2021年5月監訳井上有史(国立病院機構静岡てんかん・神経医療センター 名誉院長)

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総合内科専門医試験オールスターレクチャー 腎臓

第1回 急性腎障害(AKI)第2回 慢性腎臓病(CKD)第3回 腎代替療法第4回 腎炎・ネフローゼ症候群第5回 遺伝性腎疾患第6回 その他の頻出疾患 総合内科専門医試験対策レクチャーの決定版登場!総合内科専門医試験の受験者が一番苦労するのは、自分の専門外の最新トピックス。そこでこのシリーズでは、CareNeTV等で評価の高い内科各領域のトップクラスの専門医を招聘。各科専門医の視点で“出そうなトピック”を抽出し、1講義約20分で丁寧に解説します。キャッチアップが大変な近年のガイドラインの改訂や新規薬剤をしっかりカバー。Up to date問題対策も万全です。腎臓については、聖マリアンナ医科大学腎臓・高血圧内科の櫻田勉先生が全6回のレクチャーをします。近年、有用な診断指標の登場により、各疾患の再定義が盛んに行われている腎臓領域。多彩な腎疾患の診断の要となるのは病理所見、見るべきポイントを確認します。※「アップデート2022追加収録」はCareNeTVにてご視聴ください。第1回 急性腎障害(AKI)第1回は急性腎障害(AKI)を取り上げます。従来は、軽微な腎機能障害は「急性腎不全」と呼ばれ、一過性のものと見なされていましたが、2016年のガイドライン以降、概念が刷新され「急性腎障害」へと名称が変更。早期発見、早期治療が提唱されています。とくに心臓手術後など、ICUでの発症頻度が高いAKI。リスクファクターや診断プロセスを整理します。近年注目されている「尿中バイオマーカー」は早期診断に有用です。第2回 慢性腎臓病(CKD)第2回は慢性腎臓病(CKD)を解説。従来は「慢性腎不全」と呼ばれていましたが、心血管疾患の発症率や腎代替療法のリスクが高まることから、より早期に治療することが重視され、「慢性腎臓病」という概念が再定義されました。本邦では約1330万人、成人の8人に1人がCKD患者とされ、不規則な生活習慣によって全体の約60%の患者が透析となります。HIF-PH阻害薬は、腎性貧血の新たな治療薬として注目のトピックです。第3回 腎代替療法第3回は腎代替療法です。透析療法と腎移植に大別される腎代替療法。透析療法には、血液透析と腹膜透析に分けられ、透析患者の97%が血液透析を採用しています。それぞれの透析の原理と、血液透析に伴う不均衡症候群や透析アミロイドーシス、腹膜透析に伴う被嚢性腹膜硬化症といった合併症を確認します。腎移植は、適応基準、移植後の免疫抑制療法、拒絶反応とともに、試験で問われやすい統計データも押さえておきましょう。第4回 腎炎・ネフローゼ症候群第4回は腎炎・ネフローゼ症候群。難治性腎障害指定のIgA腎症、ネフローゼ症候群、急速進行性腎炎症候群を解説します。病理所見が診断の要。IgA腎症は慢性糸球体腎炎の一種で、糸球体のメサンギウム領域にIgAの沈着を認めます。ネフローゼ症候群は、大量の蛋白尿と低蛋白血症、浮腫といった症状が特徴的です。急速進行性腎炎症候群は、血尿、蛋白尿、貧血と急速に進行する腎不全を来します。第5回 遺伝性腎疾患第5回は遺伝性腎疾患について解説します。腎臓専門医以外にとってはなじみの薄い遺伝性腎疾患ですが、中でも多発性嚢胞腎は、試験での出題頻度が高い傾向の疾患です。家族歴とともに、CTやMRIの画像所見で診断します。ファブリー病は、2018年に承認された経口薬によるケミカルシャペロン療法に注目。遺伝性尿細管機能異常症のFanconi症候群、Bartter症候群、Gitelman症候群については、それぞれの発症年齢や鑑別点の違いを確認します。第6回 その他の頻出疾患最終回では、試験に頻出の糖尿病性腎臓病、ループス腎炎、多発性骨髄腫による腎障害、血栓性微小血管症、コレステロール塞栓症、IgG4関連疾患についてまとめて解説します。近年では、ネフローゼ症候群を呈する典型的な「糖尿病性腎症」が減少し、顕性アルブミン尿を伴わず、徐々に腎機能低下を示す「糖尿病性腎臓病」が増加しています。ループス腎炎は、全身性エリテマトーデスに伴う腎障害。治療の変更点がポイントです。

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みんなの脳神経内科

“最短距離”で書かれた、“みんなの”ための1冊脳梗塞、認知症、てんかん、パーキンソン病、しびれなど、プライマリケア領域や救急で遭遇する脳神経内科領域の主要疾患について、神経診察や画像診断のポイントなど、実際に現場で使える知識や診断テクニックを中心に、研修医や非専門医に向け著者の豊富な経験を基に平易な言葉でわかりやすく“最短距離”で書かれた、“みんなの”ための1冊。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    みんなの脳神経内科定価3,960円 + 税判型A5判頁数240頁 発行2021年5月著者山本 大介電子版でご購入の場合はこちら

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「ミオナール」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第55回

第55回 「ミオナール」の名称の由来は?販売名ミオナール®錠50mgミオナール®顆粒10%一般名(和名[命名法])エペリゾン塩酸塩(JAN)効能又は効果○下記疾患による筋緊張状態の改善頸肩腕症候群、肩関節周囲炎、腰痛症○下記疾患による痙性麻痺脳血管障害、痙性脊髄麻痺、頸部脊椎症、術後後遺症(脳・脊髄腫瘍を含む)、外傷後遺症(脊髄損傷、頭部外傷)、筋萎縮性側索硬化症、脳性小児麻痺、脊髄小脳変性症、脊髄血管障害、スモン(SMON)、その他の脳脊髄疾患用法及び用量錠50mg通常成人には1日量として3錠(エペリゾン塩酸塩として150mg)を3回に分けて食後に経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。顆粒10%通常成人には1日量として1.5g(エペリゾン塩酸塩として150mg)を3回に分けて食後に経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。警告内容とその理由該当しない禁忌内容とその理由本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者※本内容は2021年6月9日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2015年12月改訂(改定第8版)医薬品インタビューフォーム「ミオナール®錠50mg/ミオナール®顆粒10%」2)Medical.eisai.jp:製品情報

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アルツハイマー病治療薬aducanumab、FDAが迅速承認/バイオジェン・エーザイ

 国内で承認申請中(2020年12月申請)のaducanumabについて、脳内のアミロイドβプラークを減少させることによりアルツハイマー病(AD)の病理に作用する初めてかつ唯一のAD治療薬として、米国食品医薬品局(FDA)が迅速承認した。バイオジェンとエーザイが6月8日に発表した。この迅速承認は、臨床的有用性(臨床症状の悪化抑制)の予測可能性が高いバイオマーカーであるアミロイドβプラークの減少に対するaducanumabの効果を実証した臨床試験のデータに基づくもの。なお、今回の迅速承認の要件として、今後検証試験による臨床的有用性の確認が必要とされており、もし、臨床的有用性を確認できなかった場合、承認取り消しの手続きが行われる。 本剤の有効性については、アミロイドの蓄積が確認されたADの初期段階(軽度認知障害および軽度認知症)の患者を対象とした第III相試験であるEMERGE試験とENGAGE試験の2つの試験で評価された。また、本剤の効果は、プラセボ対照無作為化二重盲検用量設定第Ib相試験であるPRIME試験においても評価された。これらの試験において、一貫してアミロイドβプラークの減少に対する用量依存的かつ投与期間依存的な効果を示し、ENGAGE試験では59%の減少(p<0.0001)、EMERGE試験では71%の減少(p<0.0001)、PRIME試験では61%の減少(p<0.0001)を示したという。 安全性プロファイルについては、1回以上投与を受けた3,000例以上で確認された。最も多く報告された有害事象は、MRIで観察されるアミロイド関連画像異常(ARIA)だった。ARIA(ARIA-Eおよび/またはARIA-H)は、aducanumab 10mg/kg投与群の41%で、プラセボ群では10%で観察された。ARIAを生じた患者のうち、aducanumab 10mg/kg投与群では24%、プラセボ群では5%が症候性であり、最も多い症状は頭痛だった。ARIAに関連するその他の症状としては、錯乱、めまい、視覚障害、吐き気などであった。アデュカヌマブ治療を受けた患者の少なくとも2%で報告され、かつプラセボ投与群よりも2%以上高い頻度で報告された有害反応は、ARIA-E、頭痛、脳表ヘモジデリン沈着、ARIA-H関連表在性せん妄、転倒、下痢、錯乱/せん妄/精神状態の変化/見当識障害が報告されている。 バイオジェンとエーザイは全世界的にaducanumabの開発ならびに製品化を共同で実施している。

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勤務医と開業医の二択じゃない!お金と時間が手に入るキャリアパス【医師のためのお金の話】第45回

こんにちは。自由気ままな整形外科医です。最近、友人の医師がラーメン店を開業しました!ラーメン酔拳「代打は俺」しかも、普段は医師の友人自らが店頭に立ってラーメンを作る、というガチ開業です。私が医師になった平成ひとケタ年台には考えられないキャリアパスですね。彼は決して医療で「詰んでしまった」わけではありません。むしろ、ラーメン店を開業する直前まで、基幹病院に勤務する脊椎外科医として第一線で臨床に従事していました。また、基幹病院の前職は大学のスタッフで、後進指導とアカデミアを極めるべく多忙な日々を送っていました。医師からラーメン屋へ。ここまで極端な例はまだ多くないですが、皆さんも今後のキャリアパスを考えるうえで参考になるのではないでしょうか。自分の人生を生きるため、勤務医を卒業友人が勤務医を卒業したのは決して衝動的なものではなく、5年ほど前から少しずつ計画していたそうです。今から6年前の2015年、彼は日本整形外科学会のトラベリングフェローに選出され、アカデミアのど真ん中にいました。しかし、その実態は大学の業務で多忙を極めており、予定がすべて医局行事で埋め尽くされていたのです。自分のやりたいことができない不自由さと拘束感はハンパではなく、一度限りの自分の人生を生きている実感を持てなかったそうです。そして、多忙は一種の麻薬です。ブラック企業でもそうですが、過度の業務は感覚を麻痺させてしまいます。自分で能動的に考える習慣がなくなってしまい、他人から与えられた仕事やスケジュールをこなすことが自分の幸せであると思い込んでしまうのです。そのような状態が続くと、気付かないうちにダメージが蓄積します。彼はそのような状態に陥ってしまい、自分の人生を自らの意志で生きるため、勤務医を卒業することを決心しました。なぜラーメン店?「4つのクワドラント」のどこを目指すか イメージ『金持ち父さん 貧乏父さん』(筑摩書房)で有名なロバート・キヨサキは、就業者のカテゴリーとして以下の4つを提唱しています。1)従業員(=勤務医)2)自営業者(=開業医)3)ビジネスオーナー4)投資家医師の場合、勤務医は1)従業員に、開業医は2)自営業者に分類されますが、両者とも時間の融通をつけにくい働き方です。一方、3)ビジネスオーナーと4)投資家は、お金と時間の自由を手に入れやすい属性だといえます。医師がキャリアパスを考えるうえでは、勤務医と開業医の二択と思われがちです。しかし、自分の人生を能動的に生きるためには、お金と時間の自由が手に入りやすいキャリアパスを考える必要があります。友人はラーメン店を多店舗展開することに成功すれば、ビジネスオーナーへの道が開ける、と考えたのです。医師免許を生かした「バーベル戦略」もう1つ、参考になる考え方が、ナシーム・ニコラス・タレブが著書『反脆弱性―不確実な世界を生き延びる唯一の考え方』(ダイヤモンド社)の中で提唱した「バーベル戦略」です。医師の収入は安定していますが、青天井の報酬を受け取ることは難しいでしょう。一方で、医師の安定性を担保にして、ハイリスク・ハイリターンな人生を掛け合わせると、青天井の報酬にチャレンジできるというのがバーベル戦略の考え方です。要約すると、人は中庸なリスクを取りたがるが、「安全なものを多く」と「ハイリスク・ハイリターンのものを少し」を組み合わせることが最もリターンを得やすい、という理論です。友人はこのバーベル戦略を実践しており、ラーメン店を経営しながら医師としてのアルバイトを週1回続けています。この組み合わせによって、お店が赤字であっても家賃は医師のアルバイト代で賄える、という命綱を持った状況で開業しました。これは通常のラーメン店の店主とは決定的に異なる点です。勤務医を辞めても高額でアルバイトができる医師が起業するのは、通常よりもリスクが抑えられるのです。他者にチャンスを与え、自分も能動的に生きる友人は福岡県の糸島のラーメン店で自ら修業するなどして周到に開業準備をしただけあって、店は順調な滑り出しです。そんな友人が地味にうれしかったのは、店のアルバイトとして地元に雇用を生んだことだといいます。そして、「人生がなかなかうまくいかない」と悩む20代前半の彼らを見ていると、何か力になれないかと考えるそうです。「彼らが店長になって人生がうまくいくきっかけになれば大泣きしてしまうかもしれない」と言っているのを聞いて素直に感動しました。他人に人生のチャンスを提供して、自分の人生も能動的に生きることができる…。まさに彼の決断は、自分も含めて関わる人たちの人生に大きな影響を与えたことになります。キーワードは「自由な発想」医師免許という強力なツールがあれば、考え方を少し変えてみるだけで驚くほど大きな影響を、自分も含めた周囲に及ぼすことが可能です。日常の臨床に忙殺されて、その日を生きるのに精いっぱいの人も多いでしょう。しかし、人生は一度限りです。せっかく天から与えられた人生を能動的に生きるためにも、周囲にいる「少し変わった」人を観察して参考にするのもよいかもしれません。

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