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口腔の傷(歯牙や舌、頬粘膜損傷)に対する縫合処置【漫画でわかる創傷治療のコツ】第10回

第10回 口腔の傷(歯牙や舌、頬粘膜損傷)に対する縫合処置《解説》今回は幸いキズモンスターの発生前に正しい処置をすることができました。詳細は後述しますが、歯牙損傷がある場合は先に歯科受診を勧めることもあります。口腔内の傷について、食物が残留しやすい場所であることを考えると、目安として2cm以上の創は縫合を検討しましょう。2cm以下の場合、止血が得られていれば自然治癒が期待できます。それでは、部位による処置について簡単に解説していきます。(1)舌損傷浅い創でも出血が持続することがあります。粘膜と筋層を大きめに4−0、5−0の吸収糸で緩めに縫合しましょう。縫合糸を締め込むと舌浮腫になり、断裂や壊死の原因となります。(2)頬粘膜損傷必ず耳下腺管、顔面神経損傷の有無と、異物の有無を確認しましょう。耳下腺管の損傷を疑う所見自覚症状に乏しいとしても、創部からの唾液とおぼしき滲出液を持続的に見て、滲出液のアミラーゼ値を調べて高値であるかどうかを確認します。顔面神経の損傷を疑う所見顔面神経頬枝は耳下腺管とほぼ平行に走行しています。口角や上口唇を引き上げる動作を担っており、損傷している場合は口唇が下垂して鼻唇溝が消失したり、口笛を吹くように口をすぼめたときに左右差があったりするので、確認しましょう。上記を疑う場合は可及的速やかに形成外科へ紹介すべきです。粘膜のみの損傷であれば4−0、5−0の撚り糸の吸収糸を大きめにかけて最小限の縫合を行います。貫通創の場合は、筋層を含む皮下組織と表皮を縫合し、口腔内はまばらに縫合しましょう。縫合時に耳下腺の開口部(乳頭部)を損傷しないように注意しましょう(下図参照)。硬口蓋、軟口蓋損傷は上皮化良好な場合が多いです。口蓋刺創の場合、外見上の傷はわずかでも頭蓋内などに達している可能性を常に念頭に置く必要があります。図:耳下腺周囲の解剖図(3)歯牙損傷欠けたり抜けたりした歯がある場合は、捨てずに元の場所に整復した後、隣接歯牙とワイヤーなどで応急的な固定処置を行っておき、歯科処置を依頼しましょう。受診相談時に歯牙損傷を疑う場合は、その時点で歯科のある病院を勧めるのが良いでしょう。永久歯が完全脱臼した場合、予後は歯槽骨外に置かれていた条件と時間に直接相関します。乳歯が脱落した場合、発育中の後継永久歯が損傷される危険性があれば再植はしないのですが、判断は歯科口腔外科でしてもらいましょう。脱落歯は保存溶液に入れて、できるだけ早く歯科口腔外科を受診してもらいましょう!保存溶液は、望ましい順に、1.移植臓器輸送用溶液2.細胞培養用培地3.冷たいミルク(ロングライフミルクや低脂肪乳を除く)4.生理食塩水となっています1)。参考1)日本外傷歯学会. 歯の外傷治療ガイドライン 改訂版. 2012.波利井 清紀ほか監修. 形成外科治療手技全書III 創傷外科. 克誠堂出版;2015.安瀬 正紀監修, 菅又 章編. 外傷形成外科―そのときあなたは対応できるか. 克誠堂出版;2007.Frank H. Netter著, 相磯 貞和訳. ネッター解剖学アトラス 原著第4版. 南江堂;2007.

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抗原検査、感度のピークはいつ?再検査のタイミングは?

 抗原検査の感度は発症4日後にピークを迎え、陰性の場合は1~2日後の再検査で感度が向上することが、米国疾病予防管理センター(CDC)のVictoria T. Chu氏らによる前向きコホート研究で示唆された。新型コロナウイルス感染症の感染経過における家庭での抗原検査とRT-PCRおよびウイルス培養の比較検討結果が、JAMA Internal Medicine誌オンライン版2022年4月29日号に報告された。抗原検査の頻度とタイミング、発症後3日間は2日間隔で2回が感度に影響 本研究は、2021年1~5月にカリフォルニア州とコロラド州で実施された。RT-PCRで感染が確認された成人と小児のうち、自己採取の家庭用抗原検査および、RT-PCR、ウイルス培養検査のための鼻咽頭スワブを少なくとも1回提供した人が対象。家庭用抗原検査は2021年3月31日に米国食品医薬品局から緊急使用許可を取得したラテラルフロー検査キット(QuickVue At-Home OTC COVID-19 Test)を使用した。 主要アウトカムは、RT-PCR により確定診断された症例を検出するための抗原検査の1日当たりの感度。副次アウトカムは、抗原検査、RT-PCR、およびウイルス培養の日ごとの陽性率、RT-PCR およびウイルス培養に対する抗原検査の感度とされた。その他、連続抗原検査が感度向上につながるかどうかを判断するため、3つの抗原検査プロトコルの感度を比較した:1回の検査(プロトコル1)、連続した日に2回の検査(プロトコル2)、2日間隔で2回の検査(プロトコル3)。 抗原検査とRT-PCRおよびウイルス培養を比較検討した主な結果は以下の通り。・RT-PCRにより感染が確認された225人(年齢中央値[範囲]:29[1~83]歳、女性:52%、有症状:91%)を登録し、3,044件の抗原検査テストが実施され、642件の鼻咽頭スワブが採取された。対象者は中央値で15回(四分位範囲:14~15回、範囲:1~17回)の家庭用抗原検査を実施した。・主要アウトカムであるRT-PCR陽性例に対する抗原検査の全体的な感度は50%(95%信頼区間[CI]:45~55%)であり、特異度は97%(95%CI:95~98%)だった。・同日採取検体のRT-PCRに対する抗原検査の感度は64%(95%CI:56~70%)、ウイルス培養に対しては84%(95%CI:75~90%)だった。・各検査の感度のピークは、RT-PCRで95%(発症3日後)、抗原検査で77%(発症4日後)、ウイルス培養で64%(発症2日後)だった。・発症から6日後の抗原検査の感度は61%だった。・自宅での抗原検査の頻度とタイミングは、症例検出の感度に影響を与えた。発症後3日間は、2日間隔で2回の抗原検査を実施する(プロトコル3)ほうが、連日2回の検査(プロトコル2)や1回の検査(プロトコル1)よりも感度が高かった。連続検査プロトコル(プロトコル2および3)は、発症後14日間を通して1回の検査(プロトコル1)よりも感度が高く、発症後3日間でその差が最も大きくなった。ピーク時の感度は、プロトコル2(81%)、プロトコル1(77%)と比較して、プロトコル3が最も高かった(85%)。 著者らは、家庭用抗原検査の感度はRT-PCRと比較して中程度、ウイルス培養と比較して高いことが示唆されたとし、結果が初回陰性の有症者は、感度が発症数日後にピークに達し、検査の繰り返しにより改善することから、1~2日後に再度検査することが望ましいとしている。

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五月病の原因は人間関係がトップ/アイスタット

 学校や会社が始まり、緊張した4月が過ぎ、大型連休が終わったころに出現するのがいわゆる「五月病」*である。*五月病:医学的な病名ではなく、「5月の連休後に憂鬱になる」「なんとなく体調が悪い」「会社に行きたくない」などの軽いうつ的な気分に見舞われる症状のこと 新入生や新社会人に多いとされるこの五月病について、どの程度経験があり、原因は何か、メンタルとの関係はあるのかなどについて、株式会社アイスタットは、5月11日にアンケートを実施した。 アンケートは、セルフ型アンケートツール“Freeasy”を運営するアイブリッジ株式会社の全国の会員20~59歳の有職者300人が対象。■調査概要形式:WEBアンケート方式期日:2022年5月11日対象:セルフ型アンケートツール“Freeasy”の登録者300人(20~59歳/全国の有職者)■アンケートの概要・五月病の「経験あり」は53%、「経験なし」は47%。毎年、感じている人は10.7%と約1割だった・五月病の原因は、第1位「人間関係」が37.1%、第2位「GW」が28.9%・五月病の症状は、第1位「気分が落ち込む、元気がなくなる」が53.5%・メンタルが「強い」「普通」と回答した人は、「五月病の経験なし」の割合が多かった・五月病の経験が「ある人」と「ない人」の性格の主な違いは、「一人で抱え込む」・仕事の取り組み方が「意欲的である」と回答した人は、「五月病の経験あり」が多かった・5月以外の月でも五月病のような症状が起きている人は、「五月病の経験あり」も多かった・血液型「A型」「B型」は「五月病の経験なし」が、「O型」「AB型」は「五月病の経験あり」が多かった「一人で抱え込む」と五月病になる恐れ 質問1で「今までに『五月病かも』と感じたことはあるか」(単一回答)を聞いたところ、「今までに感じたことは一度もない」が47.0%で1番多く、「今までに感じたことは数回」が22.7%、「毎年ではないが、感じることは多い」が19.7%と続いた。また、「毎年、感じている」との回答も10.7%あり、全体で「経験あり」が53%、「経験なし」が47%とわずかに「経験あり」が上回った。なお、「経験あり」を回答した人の属性では、「20・30代」「男性」「未婚」で多かった。 質問2では、質問1で「経験あり」と回答した159人に「原因に心あたりがあるか」(複数回答)を聞いたところ、「人間関係」が37.1%で1番多く、「GW(長期休暇)」が28.9%、「気候・気温・湿度」が27.7%の順で多かった。多くは自分の周りの環境変化に関係する内容だったが、「コロナ禍」という回答も9.4%あった。 質問3では、同様に質問1で「経験あり」と回答した159人に「どのような症状があったか」(複数回答)を聞いたところ、「気分が落ち込む、元気がなくなる」が53.5%で1番多く、「無力感、倦怠感、気だるさ、やる気が出ない」が49.7%、「疲れやすい」が35.2%の順で多かった。また、「頭痛、腰痛、首痛、肩こり」が21.4%、「動悸、めまい、発汗、窒息感、吐き気、手足の震え」が12.6%、「胃痛・腹痛」が10.1%と器質的な症状を呈する回答者も見受けられた。 質問4で「メンタル(ハート)レベルについて、あてはまるもの」(単一回答)を聞いたところ、「普通」が39.3%で1番多く、「やや弱い」が23.0%、「非常に弱い」が18.0%、「やや強い」が16.0%、「非常に強い」が3.7%という順だった。「五月病」の経験の有無別にみると、メンタルが「強い」「普通」と回答した人は「五月病の経験なし」の割合が多く、「弱い」と回答した人は「五月病の経験あり」の割合が多く、一般的な予想の範囲だった。 質問5で「あなたの性格について」(複数回答)を聞いたところ、「まじめ」が38.0%、「一人で抱え込む」が30.7%、「几帳面」が30.3%の順で多かった。また、五月病の経験が「ある人」と「ない人」の性格の違いは何かを調べたところ、両方の差分より、第1位は「一人で抱え込む」の19.1ポイント、第2位は「ストレス発散が上手でない」の16.1ポイント、第3位は「几帳面」の11.7ポイントの順番だった。 質問6で「日頃の仕事への取り組み方」(単一回答)を聞いたところ、「まあまあ意欲をもって取り組もうとしている」が46.0%で1番多く、「あまり意欲をもって取り組もうとはしていない」が28.3%、「まったく意欲をもって取り組もうとはしていない」が15.0%、「とても意欲をもって取り組もうとしている」が10.7%だった。全体でみると「意欲的である」は56.7%、「意欲的でない」は43.3%で、「意欲的である」の回答がやや上回った。このうち「五月病」の経験の有無別にみると、仕事の取り組み方が「意欲的である」と回答した人は「五月病の経験あり」の割合が多く、「意欲的でない」と回答した人は「五月病の経験なし」の割合が多い結果だった。 質問7で「5月以外の月に五月病のような症状が起きるか」(単一回答)を聞いたところ、「どちらかといえばある」が33.0%で1番多く、「どちらかといえばない」が30.7%、「まったくない」が26.7%、「常にある」が9.7%だった。全体でみると、「ない」が57.3%、「ある」が42.7%で、「ない」との回答が約6割だった。また、「五月病」の経験有の31.4%が5月のみの心身の不調を回答していたことから、いわゆる「五月病」の人は全体の約3割程度と予想された。 質問8で「五月病」との関連を探るために「血液型」(単一回答)を聞いたところ、「A型」(34.3%)、「O型」(26.7%)、「B型」(22.3%)、「AB型」(11.7%)、「わからない」(5.0%)の分布であり、五月病の経験の有無別に解析した。その結果、血液型が「A型」「B型」と回答した人ほど「五月病の経験なし」の割合が多く、「O型」「AB型」と回答した人ほど「五月病の経験あり」の割合が多い結果だった。 なお、これらのアンケートの解析では、統計のさまざまな手法が使用され、そのノウハウも本事例を使い調査票に記載されている。今月のレベルアップとして「目的変数に対する影響度を調べる」と題し、「クラメール連関係数」について解説しているので、ご一読いただきたい。

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第110回 高血圧治療用アプリの薬事承認取得で考えた、「デジタル薬」が効く人効かない人の微妙な線引き(後編)

日医・中川会長不出馬、政権と日医との対立構造も変化かこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。先週末、大きなニュースが飛び込んで来ました。日本医師会の中川 俊男会長が6月に予定される会長選に立候補しない意向を周囲に伝えたことがわかったのです。中川会長と日医については、本連載で幾度も取り上げて来ました。今年に入ってからも、「第107回 会長選前に日医で内紛勃発、リフィル処方箋導入で松原副会長が中川会長を批判」「第108回 『かかりつけ医』の制度化めぐり、日本医師会と財務省の攻防本格化」などで、2022年診療報酬改定を機に勃発した日医執行部内部での内紛や、財務省の力が増す中での日医の立ち位置の難しさなどについて書きました。中川会長は、中央社会保険医療協議会委員の頃から強面で、政策通を自認していました。もっとも医師の利益だけを重視する発言は昔から有名で、そのスタンスはコロナ禍となっても変わりませんでした。しかし、「第92回 改定率で面目保つも『リフィル処方』導入で財務省に“負け”た日医・中川会長」でも書いたように、リフィル処方を執行部の了解も得ずに飲んでしまったことが致命傷となりました。医師の利益よりも、権力にしがみつきたいという私欲が、日医執行部の面々をも呆れさせたのかもしれません。いったん飲んでしまってから、リフィル処方に反対する姿勢を見せてはいましたが、悪あがきのようにも映りました。結局、国民と政権からそっぽを向かれ、日医内部からもそっぽを向かれた格好です。“お山の大将”のまま日医会長になったものの、その“大将”ぶりを変えずリーダーシップを取り続けた結果、失脚してしまったというわけです。5月23日に開いた記者会見で不出馬を正式表明した中川会長は、「出馬しないことで日本医師会の分断を回避し、一致団結して夏の参院選に向かうことができるのであれば本望」と語ったとのことです。また、「強権的だったとの一部批判があった。反省している」とも述べたそうです。5月25日時点で会長選に出馬を表明しているのは日本医師会副会長の松原 謙二氏と日本医師会常任理事の松本 吉郎氏です。このうち優勢と言われる松本氏は前回会長選で敗れた横倉 義武氏(前日本医師会会長)の陣営の一員でした。仮に松本氏が新会長となり、政界ともパイプが太かった横倉氏の“路線”、“政策”を引き継ぐとしたら、政権と日医との対立構造にも少しは変化が出てくるかもしれません。DTxに対する素朴な疑問をさらに深掘りさて、先週の続きです。前回は、高血圧治療用の「CureApp HT 高血圧症治療補助アプリ」の製造販売承認(薬事承認)取得を機に盛り上がりを見せる「デジタル薬=DTx(Digital Therapeutics)」に対する素朴な疑問について書きました。今週はその疑問をもう少し深掘りしてみます。前回詳しく書いたように、「CureApp HT 高血圧症治療補助アプリ」の臨床試験では、主要評価項目であるABPM (24時間自由行動下血圧測定)による24時間のSBP(収縮期血圧)が、高血圧治療ガイドラインに準拠した生活習慣の修正に同アプリを併用した「介入群」と、同ガイドラインに準拠した生活習慣の修正を指導するのみの「対照群」を比較評価した結果、「介入群」の方が有意な改善を示した、とのことでした。もっとも、「有意な改善」とは言うものの、血圧の変化量の群間差は-2.4[-4.5〜-0.3]で、素人目には劇的というほどではありませんでした。「スマホアプリにうまく順応して素直に行動を変えられる人ならいいが、頑固でアプリのアドバイスにもなかなか従わない人に果たして効果があるのだろうか」という私の素朴な疑問に対し、DTxの開発に詳しい知人の記者は「行動変容を促すDTxは、アプリを使用するだけでなく、アプリの提案を基に患者自身が行動を起こす必要がある。通常の薬剤の“服用”よりもアドヒアランスのハードルがとても高く、臨床試験で目に見える効果を出すのが難しいと言われている」と教えてくれました。「なるほど」と思い、少し調べてみたのですが、DTxの臨床試験は、国内外でなかなか難しい状況にあることがわかってきました。大日本住友製薬は2型糖尿病管理指導用のアプリの開発を中止DTxの開発は国内外で活発化しています。対象となっている疾患領域も糖尿病、うつ病、不眠症、アルコール依存症とさまざまです。そんな中、開発に頓挫したケースもみられます。たとえば、大日本住友製薬は、日本で2型糖尿病患者を対象に第III相臨床試験を実施していたDTxの開発を2022年1月に中止しています。同DTxは、スタートアップのSave Medicalと共同開発していた2型糖尿病管理指導用のアプリです。食事や運動、体重といった生活習慣や服薬や血圧、血糖値の指標などをアプリで管理することで、患者の行動変容を促し、2型糖尿病患者の臨床的指標を改善することを目指していました。しかし、第III相臨床試験の結果、主要評価項目であるHbA1cのベースラインからの変化量が未達となり、開発は中止されました。デジタル流行りの昨今、デジタル治療の現状については、一般メディアも専門メディアも甘口の記事が多いですが、日経バイオテクは今年3月22日付の「あの『BlueStar』に学ぶ、デジタル治療の臨床開発の難しさ」というタイトルで、辛口の分析記事を掲載しています。その記事は大日本住友製薬のDTx開発断念について、「第3相のデータの詳細は明らかではないが、大日本住友製薬の幹部は、『被験者の組み入れ基準などが厳密にコントロールされていなかったことなどが課題かもしれない』と明かしており、被験者によって効果が認められた患者とそうでない患者がいた可能性がありそうだ」と書いています。臨床試験とは、良いデータを出すことが目的ではなく、その“薬”が効くかどうかを証明することが目的のはずです。しかし、ともすれば開発者は、良いデータを出すために恣意的に臨床試験をデザインすることがあります。DTxの場合であれば、対照群も含めて「アプリ治療に反応しやすい人」だけを選んでおけば、良好な結果を出しやすくなるはずです。ただ、そうした臨床試験の結果をもって「効く」と言ってしまっていいのか、難しい問題です。治験の被検者を厳格に選んでいたBlueStar先程の日経バイオテクの記事は、DTxの成功例として知られる米Welldoc社の糖尿病治療用アプリ「BlueStar」にも切り込んでいます。BlueStarとは、DTxの成功例として知られるWelldoc社の糖尿病治療用アプリのことです。米食品医薬品局(FDA)の認可を2010年8月に受けており、同社と提携したアステラス製薬が日本と一部アジア地域での共同開発と製品化を進めています。同記事によれば、2008年から行われたBlueStarの2型糖尿病患者に対する臨床試験では、標準治療群と、標準治療にアプリを上乗せした群で有意差が出た(HbA1c値は対照群では0.7%の低下に留まったが、標準治療にアプリと医師による意思決定支援を上乗せした群では1.9%低下)ものの、被検者登録の段階で2度にわたって患者の同意を取るよう医師に求めるという、極めて厳格なセレクションが行われていたとのことです。最初2,602例をスクリーニングの対象としたものの、最終的に2度の同意手続きに反応のあった163例が被験者として登録されたとのことです。同記事は「被験者登録の過程で、結果的にアプリの効果が得られやすい患者が登録されていた、という可能性も否定できない」と書いています。また、同記事は、カナダにおける多施設でのランダム化対照試験では有意差が示されなかった、とも書いています。なお、アステラス製薬はBlueStarの臨床試験を日本でまだ開始していません。CureAppは「降圧効果を十分に期待できると判断された患者を対象」にDTxのパイオニアであるBlueStarですら、相当厳格な対象患者絞り込みによって、有意差のある結果を出していたらしいという事実は、万人に効くようなDTxの開発は相当困難であることを示唆しています。逆に言えば、「こういう性格や行動パターンの人には効く」という明確な線引きが行われて、臨床試験にもそれが反映されていれば、「効能又は効果」にその旨が記載されることで、本当に効く人だけに処方されることになります。私の素朴な疑問もこれで解消です。ただ、現状、DTxの臨床試験の対象患者選びはある意味、ブラックボックス化しているようです。たとえば、PMDAが先日公開した「CureApp HT 高血圧症治療補助アプリ」の審議結果報告書1)によれば、このアプリの臨床試験の対象患者は「20歳以上65歳未満の降圧薬による内服治療を受けていないI度又はII度の本態性高血圧患者のうち、 食事・運動療法等の生活習慣の修正を行うことで降圧効果を十分に期待できると判断された患者を対象」と書かれていますが、「降圧効果を十分に期待できる」をどう判断したかについては書かれていません。なお、臨床試験の同意取得症例は946例で、うち登録例399例(治験治療実施例390例)、未登録例547例となっています。市場に出る前に効く人と効かない人の線引きを国はDTxをはじめとするプログラム医療機器(SaMD)の普及・定着に相当前のめりになっている印象です。2022年度診療報酬改定では、プログラム医療機器を使用した医学管理を行った場合に算定する「プログラム医療機器等医学管理加算」の項目が新設されました。また、3月30日のデジタル臨時行政調査会で、岸田 文雄総理大臣は医療や介護のデジタル化の推進策を取りまとめるよう規制改革推進会議に指示、同会議ではプログラム医療機器の承認審査の在り方も検討される予定です。先週、5月18日には、自民党の「医療・ヘルスケア産業の新時代を創る議員の会」(ヘルステック推進議員連盟、 田村憲久会長)がデジタルヘルス推進に向けた提言を取りまとめており、この中でもプログラム医療機器の重要性が強調され、 利活用に向けた環境整備を求めています。しかし、デジタルは万能ではありません。効果が微妙なDTxがどんどん市場に出ていっても、迷惑を被るのは患者です。「市販後調査できちんと評価」という声もあるようですが、むしろ市場に出る前に効く人と効かない人の線引きをきちんとすることの方が重要ではないでしょうか。鳴り物入りのDTxですが、医療費の無駄遣いにならないことを願うばかりです。参考1)CureApp HT 高血圧治療補助アプリ 審議結果報告書/PMDA

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コロナ禍でOTC薬の過量服薬による搬送が倍増【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第89回

新型コロナウイルス感染症が思いのほか長く続いており、患者さんの行動や考え方に大きく影響を及ぼしているということを実感している方は多いと思います。今回、コロナ禍で広がるOTC医薬品の過量服薬に関する問題が報告されました。集計の対象となったのは、埼玉医科大学病院臨床中毒センターに加え、国立病院機構災害医療センター救命救急センター、聖路加国際病院(東京都中央区)救命救急センターの3施設。2018年と2020年の救急搬送事例を比較したところ、2018年の過量服薬による救急搬送事例は239人(うちOTC薬の過量服薬32人、13.4%)だったものが、2020年は302人(うちOTC薬75人、24.8%)となっていた。過量服薬そのものは1.3倍の増加で、OTC薬に限定すると、2.3倍増だった。(2022年5月16日付 日経メディカル 一部改変)コロナ禍における薬物依存症の増加を危惧する声はこれまでもあり、とくにOTC医薬品はドラッグストアやインターネットで簡単に購入できることから問題視されていました。この記事の調査では、コロナ前の2018年と流行が本格的になった2020年との比較で2.3倍に増えていますが、もしかしたら2021年や2022年はもっと多いのかも…と想像してしまいます。コロナ前であってもOTC医薬品の乱用は問題となっていましたが、その際の症例には、若年男性・精神科的な問題を有する・薬物依存が重症・違法薬物の使用歴がある、などの特徴がありました。コロナ禍における過量服薬では、不安やストレスの増大による頭痛などの症状発現、受診控えによる自己判断が影響しているように思います。OTC医薬品の過量服薬に対して、薬局・薬剤師としてどうすればいいのでしょうか。今回の調査を行った埼玉医科大学臨床中毒学教授の上條吉人氏は、「過量服薬の危険性のあるOTC薬の販売に何らかの規制を設けるべき」と主張しています。おそらく行政が何らかの対応をするのではないかと思いますが、私たちが今すぐできることは、乱用の恐れのある医薬品を販売する際は、氏名・年齢・他薬局などからの入手状況・購入理由などを聴取する販売ルールを徹底し、不適切と判断した場合は販売せずに受診を勧めることです。声掛けや陳列などの工夫も考えられるでしょう。業界団体や職能団体が声を上げる必要もあるかもしれません。国を挙げてセルフメディケーションやOTC医薬品の活用を推進しているなか、薬剤師がこれらの問題をスルーするということはあってはなりません。過量服薬やそれによる救急搬送がなくなるように、OTC医薬品を販売する際の対応を再確認してみてはいかがでしょうか。

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第113回 小児肝炎はCOVID-19絡みの肝臓損傷の氷山の一角かもしれない

小児の原因不明の肝炎は日本で24例に増え1)、米国では先週18日までに180人が調べられています2)。米国が調査を進めるそれら180例のおよそ9%は肝臓移植が必要となりましたが、死亡したという報告は幸いありません。英国で先週月曜日16日までに確認されている急な肝炎小児197人にも幸いにして死亡例はありません3)。英国ではそれら197人のうち11人(約6%)が肝臓移植を受けています。たいていは対症療法でなんとかなりますが、手遅れにならないように親は子供の皮膚が黄色くなったり目が白っぽくなったらすぐに医者に連れていく必要があります。健康な小児が黄疸を突然呈して急な肝炎を伴う重病に陥る原因はいまだ不明ですが、米国も英国もアデノウイルスを原因とする見方を強めています4)。米国疾病管理センター(CDC)は同国での180例の半数近くに認められているアデノウイルスが引き続きとくに目立つ(strong lead)と言っています。英国でのアデノウイルス検出率はさらに高く、検査した170例中116人(68%)から検出されており、英国保健安全保障庁(UKHSA)もCDCと同様にアデノウイルス感染との関連が引き続き示唆されていると言っています。しかし、アデノウイルスは免疫抑制小児に肝炎を引き起こしうるものの健康な小児をそうすることはこれまで知られておらず、アデノウイルスは主役ではないかもしれないと考える研究者もいます。アデノウイルス原因説を疑う向きによるとアデノウイルス肝炎の典型的な特徴であるアデノウイルス感染細胞が肝炎小児の肝生検で見つかっておらず、もっと目を向けるべき原因候補・新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が見過ごされがちです。SARS-CoV-2感染の数週間後に複数の臓器が傷んで小児多臓器炎症症候群(MIS-C)が生じうることが知られるように、SARS-CoV-2感染からしばらくして肝臓への免疫絡みの攻撃が生じてもおかしくありません4)。SARS-CoV-2が検出された英国の肝炎小児の割合はアデノウイルス検出率よりずっと低い15%です。しかしCDCの最近の報告によると米国の12歳未満の小児の75%がSARS-CoV-2感染を経ていると推定されています5)。また、欧州疾病予防管理センター(European Centre for Disease Prevention and Control)と世界保健機関(WHO)が20日に報告した原因不明肝炎小児の疫学データによると26人の血清検査で大半の19人(73%)がSARS-CoV-2感染歴を裏付ける陽性でした6)。原因を見極めることは患者の治療手段に直結します。もしアデノウイルスが肝臓を害しているなら強力な抗ウイルス薬cidofovir(シドホビル)の出番です4)。しかし免疫反応の持続で肝臓が傷んでいるなら免疫抑制剤が命を救う治療になりえます。仮にSARS-CoV-2が誘発する過度の免疫が肝炎に寄与しているとするならアデノウイルス感染が共謀してその引き金の役割を果たすのかもしれません。小児から検出されているアデノウイルス41F型は胃腸に感染し、SARS-CoV-2は感染後に胃腸に長居しうることが知られており、それらが相まって肝炎を招きうるとの仮説がLancet姉妹誌に最近掲載されました7)。T細胞の見境ない活性化を誘発しうることが知られるSARS-CoV-2スパイクタンパク質がSARS-CoV-2感染小児のMIS-Cで認められる深刻な炎症にどうやら寄与する8)のと同様にスパイクタンパク質の一部がアデノウイルスへの免疫反応を過剰にしてその無法な免疫反応が肝臓を傷めるのかもしれないと著者は示唆しています。仮説の検証のために原因不明肝炎の小児の便を回収して腸に潜むSARS-CoV-2の検出を試みたり免疫系の過剰な活性化の検査が必要です。免疫の過剰が原因と今後の研究で判明したならば免疫抑制が適切な治療となるはずです。原因が判明して治療の方針が定まることは表沙汰となった肝炎の背後で知らずに肝臓を傷めているかもしれない多くの小児の助けにもなる可能性があります。米国のSARS-CoV-2感染小児とSARS-CoV-2以外の呼吸器感染小児(対照群)それぞれ約25万人を比較した最近の試験結果9)によるとSARS-CoV-2はアデノウイルスとの関連はどうあれ小児の肝臓を悪くすると傷めることがあるようです。試験の結果、SARS-CoV-2感染小児の6ヵ月間の肝酵素・ASTやALTの上昇(それぞれ110U/L以上と100U/L以上)は対照群より2.5倍多く認められました。黄疸を引き起こしうる赤血球分解産産物ビリルビンの血清濃度上昇(2mg/dL以上)もSARS-CoV-2小児に3.3倍多く認められました。小児に発生している原因不明の肝炎はSARS-CoV-2感染に伴う数多の肝臓損傷の氷山の一角なのかもしれず4)、そうであるなら肝炎の原因解明はその他多数の肝臓損傷の手当てを見出すことにも役立つでしょう。参考1)小児の原因不明の急性肝炎について / 厚生労働省2)Update on Children with Acute Hepatitis of Unknown Cause / CDC3)Increase in hepatitis (liver inflammation) cases in children under investigation / UK Health Security Agency4)What’s sending kids to hospitals with hepatitis-coronavirus, adenovirus, or both? / Science5)Clarke KEN,et al. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2022 Apr 29;71:606-608. [Epub ahead of print]6)European Centre for Disease Prevention and Control/WHO Regional Office for Europe. Hepatitis of Unknown Aetiology in Children. Joint Epidemiological overview, 20 May, 2022.7)Brodin P, et al. Lancet Gastroenterol Hepatol. 2022 May 13:S2468-1253.00166-2. [Epub ahead of print] 8)Porritt RA, et al. J Clin Invest. 2021 May 17;131:e146614. [Epub ahead of print]9)Elevated liver enzymes and bilirubin following SARS-CoV-2 infection in children under 10. medRxiv. May 14, 2022.

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知っておきたい爪の知識と病気ーーすべての疑問を解決します!

爪の病気の知識について簡単に手に取って読める実用的な内容!ベストセラー『爪―基礎から臨床まで』の著者、東先生の簡単に手に取って読めるわかりやすい新作。日常生活においては爪そのものに原因のある病気がたくさんある。そのような爪の病気を治したり、予防するためには爪そのものについての知識をもつことが大切。身近な爪の役割や爪の切り方から爪の様々な病気まで、イラストや写真を使って原因や治療法をわかりやすく解説。爪の変化にいち早く気づき必要な対応がわかる頼れる1冊!画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    知っておきたい爪の知識と病気ーーすべての疑問を解決します!定価3,080円(税込)判型A5判頁数A5判・152頁・カラー図数:100枚発行2022年5月著者東 禹彦

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中学生以下はクラスで、高校生は部活感染が多い/厚労省アドバイザリーボード

 本格的な学校生活が始まり、児童生徒などへの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大が懸念されている。 厚生労働省の新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードは、5月11日に第83回の会議を開催し、その中で文部科学省から「学校における新型コロナウイルス感染症対策について」が示された。 感染状況では、幼稚園、小学校、中学校、特別支援学校いずれも同一クラス内での感染が1番多く、高等学校では同一部活内での感染が1番多いことなどが報告された。また、学校での感染対策として、臨時休業の考え方を示すとともに、オミクロン株への対応として休業期間の短縮や授業、部活動でのリスクの高い行動の抑制のほか、児童生徒などへのワクチン接種の考え方が示された。本年1月と2月で一気に児童生徒の感染が拡大 資料によると2020(令和2)年6月からの集計で2021(令和3)年12月まで5万人を超えることがなかった児童生徒のCOVID-19感染者数が、2022(令和4)年1月には13万3,026人、2月に24万2,547人、3月に13万7,158人と急増したことが報告された。いずれもオミクロン株の急速な拡大が原因と考えられているが、従来株と比べ、幼稚園児や小学生で占める割合が高いことが指摘された。 学校別の感染経路について、幼稚園の園児では家庭内感染が当初より半数を超えていたが本年に入り経路不明が48%となった。小学校の児童では、当初より家庭内感染が約60~80%だったものが本年に入り経路不明の65%に変わり、中学生もほぼ同様の結果だった。高校生では、家庭内感染、学校感染、経路不明がほぼ等分で報告されていたが本年に入り、経路不明が56%と増加した。 学校内の感染について、幼稚園、小学校、中学校、特別支援学校では同一クラス内での感染が1番多く、高等学校では同一部活動での感染が1番多かった。 教職員の学校内感染では、同一クラス(38%)での感染が1番多く、その他(26%)、職員室(17%)と続いた。オミクロン株対応に学校も変化 学校におけるCOVID-19対策として、「子供たちの健やかな学びの継続を最優先に、地域一斉の臨時休業については慎重な検討を求めるとともに、オミクロン株の特性等を踏まえ、臨時休業等に関する対応方針を見直す」、「教育活動の継続のため、基本的な感染対策の徹底に加え、感染拡大局面において対策を強化・徹底する」の2つの考え方を示し、対応を記している。 具体的には、臨時休業について「地域一斉の臨時休業」は慎重に検討することとしている。オミクロン株への対応については、臨時休業期間が7日間から5日間に短縮されるとともに、濃厚接触者の特定などに伴う臨時休業や出席停止は実施しないことになった。 また、感染リスクの高い教育活動について、音楽では室内近距離での合唱、家庭科では近距離の調理実習、部活動では密集する活動や大声、激しい呼気を伴う活動などは控えるように記している。 最後にコロナワクチンの接種については、「学校等集団接種」は保護者への説明機会の欠乏、同調圧力などを理由に「推奨しない」とし、「子供への指導など」では児童・生徒などや周囲に接種を強制しないこと、身体的理由で接種できない人もいるため、その判断を尊重することを指導するとともに、保護者にも理解を求めるとしている。その一方で教職員に対しては積極的な追加ワクチン接種(3回目)の促進を依頼している。

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医師免許を存分に活かして!安全地帯から起業というゲームに参加する【医師のためのお金の話】第56回

「起業」って何だかカッコいい響きですよね! アップルのスティーブ・ジョブズ氏やテスラのイーロン・マスク氏、日本ではサイバーエージェントの藤田 晋氏などなど。皆さんキラキラしています。医者がそんな大起業家になるのはムリでしょ、と思ってしまいますが、われらが医療業界でもスタートアップは目白押し。メドレーやメドピアのように、現役の臨床医が立ち上げた会社が株式上場した例もいくつかあります。さすがに上場のハードルは高いかもしれません。しかし、医師を続けながら立ち上げた企業がいい感じになっている例は、あなたの身近にもあるのではないでしょうか。やり方次第では、起業家の一員になれるかも!?医師にお勧めの起業パターン医師の起業には、どのようなパターンがあるのでしょうか。起業というからには、すべてを投げ打って事業を立ち上げるパターンを思い浮かべる人が多いでしょう。もちろん上場を目指すスタートアップでは、このようなパターンが多いのは事実です。国内スタートアップの代表例として、AI事業のプリファード・ネットワークスやクラウド会計ソフトウエアのfreeeが挙げられます。こうしたスタートアップは、ベンチャーキャピタル(VC)から出資してもらい、事業を拡大していきます。VCが出資する条件として、「経営者が専業である」はいうまでもないことです。このため、上場を目指すスタートアップを起業するのであれば、医師を辞めて事業に取り組む必要があります。でもこれって、かなりハードルが高いですよね。医師の最大の強みは、「個人で稼ぐ力」です。常勤ではなくアルバイト医師であっても、食うに困る状況にはなりません。極論すると「片手間」で医師を続けても、十分に生活していけます。一般の会社員では望むべくもない、破格の好条件といえるでしょう。医師ならこれを利用しない手はありません。つまり臨床を続けながら、面白そうな領域で起業してみるのです。起業するために医師を辞めるなんて、そんなもったいないことしてはいけません。生活基盤はきっちり確保しましょう。私の起業体験起業は背水の陣で臨まないと成功しないのではないか、と思う人がいるかもしれません。確かにそれも一理ありそうです。しかし、私自身の経験からは、実際に起業してみると、生活基盤の安定性が経営者マインドに与える好影響の大きさを実感しています。私はこれまで10近い事業を立ち上げてきました。そのほとんどは廃業してしまいましたが、これだけの数をチャレンジできたのは医師としての安定収入があったからです。事業継続が困難になっても、さほど追い詰められることなく冷静に対処できます。また、廃業するにも資金が必要であり、精神的な負荷のかかり方はハンパないものがあります。ありがちなのは、廃業する決断ができずにズルズルと引っ張ってしまい、さらに傷口を拡大させてしまうパターン…。事業以外に何も収入がなければ苦しい立場に追い込まれますが、医師を続けていれば「ちょっとやらかした」程度に過ぎません。これって天と地ほどの差がありますよね。医師を続けてさえいれば、安全地帯から起業というゲームに参加できるのです。気軽に起業してみよう!起業といっても、多額の借り入れをして最初から大風呂敷を広げる必要はありません。むしろ少額かつ自己資金だけで事業を立ち上げる方法を考えてみましょう。自己資金だけでは大したことはできなさそう…と思いますが、実際には全然そんなことはありません。デジタル化の進展で、事業で必須のツールを無料もしくは極めて安価に使えるようになりました。たとえば、SlackやChatworkなどのビジネスチャットツールの登場でリモートワークが広がり、オフィスの必要性は低下しました。またfreeeなどのクラウド会計ソフトによって、会計業務を劇的に軽減することができます。ウェブ広告の活用で、営業部隊の必要性も低下しました。モノやヒトの固定費が低下したおかげで、昔と比べて起業は容易になったのです。しかし、たった1つだけ残る高いハードル…。それが、あなたの心の中に潜む「起業は怖い」という気持ちです。起業に対する恐怖心を打ち砕く決定打はありません。解決策は「とにかくやってみる」、だけです。どんな小さな事業でもいいので、一度でも立ち上げてみると起業に対する恐怖心は氷解します。幸いにも医療業界は参入障壁が高く、起業ネタがゴロゴロ転がっています。もちろん医療とまったく異なる分野での起業でも問題ありません。しかし、せっかく医師になったのですから「おいしい」業界で起業しない手はないでしょう。日常臨床のちょっとした気付きが起業のネタかもしれません。起業も念頭に置いて、臨床に取り組もうではありませんか。

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061)便利さの裏返し? 外来ナースの憂鬱【Dr.デルぽんの診察室観察日記】

第61回 便利さの裏返し? 外来ナースの憂鬱ゆるい皮膚科勤務医デルぽんです☆私の勤めるクリニックは訪問診療も行っており、在宅や施設の患者さんの皮疹について訪問診療担当の看護師さんから相談を受けることがあります。(以前、漫画でも取り上げましたね!)同じクリニックで働く者同士だからでしょうか、カルテに記載するほどでもないくらいの小さな相談を受けることもたびたびあります。話を聞くと、どうやら「地域とクリニックをつなぐ連携ツール」が存在するらしく、専用アプリを使用して地域スタッフとのやりとりを行っている様子。訪問看護や施設のスタッフからしてみれば、「受診せずにオンラインでクリニックと連絡が取れる便利なツール」ということになります。深く考えず「便利ですね!」とコメントしたところ、担当の外来看護師さんから、意外な本音がポロリ。「相談件数が増えて、毎回の対応が大変なんです~!」とのこと。なるほど、対応するスタッフからしてみれば、逆に仕事が増えてしまうというわけです。「まあ、いいんですけどね~」と笑っていましたが、思わず「お疲れさまです…」と手を合わせてしまうのでした。オンラインツールは便利だけれど、どこまで対応すべきかは迷う部分もあるようです。それでは、また~!

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クッシング症候群の高コルチゾール血症を改善する「イスツリサ錠1mg/5mg」【下平博士のDIノート】第98回

クッシング症候群の高コルチゾール血症を改善する「イスツリサ錠1mg/5mg」今回は、副腎皮質ホルモン合成阻害剤「オシロドロスタットリン酸塩(商品名:イスツリサ錠1mg/5mg、製造販売元:レコルダティ・レア・ディジーズ・ジャパン)」を紹介します。本剤は、副腎でのコルチゾール生合成を抑制し、高コルチゾール血症を是正することでクッシング症候群の症状を改善します。<効能・効果>本剤は、クッシング症候群(外科的処置で効果が不十分または施行が困難な場合)の適応で、2021年3月23日に承認され、同年6月30日に発売されました。<用法・用量>通常、成人にはオシロドロスタットとして1回1mgを1日2回経口投与から開始し、その後は患者の状態に応じて最高用量1回30mg(1日2回)を超えない範囲で適宜調節します。なお、用量を漸増する場合は1~2週間に1回、増量幅は1回1~2mgを目安とします。中等度の肝機能障害患者(Child-Pugh分類クラスB)では1回1mgを1日1回、重度(Child-Pugh分類クラスC)では1回1mgを2日に1回を目安に投与を開始し、服用タイミングは夕方とすることが望ましいとされます。<安全性>国内外の臨床試験では、主な副作用として疲労(30%以上)、低カリウム血症、食欲減退、浮動性めまい、頭痛、低血圧、悪心、嘔吐、下痢、男性型多毛症、ざ瘡、血中コルチコトロピン増加、血中テストステロン増加、浮腫、倦怠感(5~30%未満)が報告されています。なお、重大な副作用として低コルチゾール血症(53.9%)、QT延長(3.6%)が現れる可能性があります。<患者さんへの指導例>1.体内で過剰に分泌されている副腎からのコルチゾール合成を抑えて、高コルチゾール血症を改善する薬です。2.悪心、嘔吐、疲労、腹痛、食欲不振、めまいなどが認められた場合には、体内のコルチゾール濃度が低下し過ぎている恐れがあるので、すぐに主治医に連絡してください。3.この薬の服用により低カリウム血症になる可能性があります。体の力が抜ける感じ、手足のだるさ、こわばり、筋肉痛、呼吸困難、むくみ、高血圧などが現れた場合には医師に連絡してください。4.(妊娠する可能性がある人の場合)この薬の使用期間中および使用中止後1週間は適切な避妊をしてください。妊婦または妊娠している可能性のある方は服用できません。5.(授乳中の方に対して)薬剤が乳汁中へ移行する可能性があるため、本剤を服用中は授乳しないでください。<Shimo's eyes>クッシング症候群は、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)による刺激または副腎皮質の機能亢進により、副腎皮質からコルチゾールが過剰分泌されることで、慢性的に高コルチゾール血症を呈する疾患です。治療しない場合、高血圧、糖尿病、骨粗鬆症などの合併症や、免疫力の低下により易感染状態をまねきます。治療の第一選択は、国内外ともに原因となる病変の外科的切除であり、手術できない場合や切除後に寛解に至らなかった場合には、薬物療法および放射線療法が選択されます。また、速やかな高コルチゾール血症の是正が必要な場合にも薬物療法が適応となります1)。本剤は、クッシング症候群の原因となるコルチゾールの生合成の最終段階である11-デオキシコルチゾールからコルチゾールへの変換を担う11β-水酸化酵素の阻害剤です。この機序により原疾患によらず、すべての内因性クッシング症候群患者において本剤の有効性が期待されます。血中濃度を安定させるため、本剤を1日2回で服用する場合は12時間間隔で、なるべく毎日同じ時間帯に服用する必要があります。服用し忘れた場合は、1回飛ばして次の回から服用を再開するように伝えましょう。重大な副作用として低コルチゾール血症が現れることがあり、副腎皮質機能不全に至る恐れがあります。そのため、定期的に血中・尿中コルチゾール値の測定が求められています。また、QT延長が現れることがあるので、投与開始前および投与開始後1週間以内、または増量時など、必要に応じた心電図検査が行われます。とくに高ストレス状態ではコルチゾール需要が増加するため、副腎不全症候群を発症する可能性があります。服薬フォローの際には、全身倦怠感、食欲不振、脱力などの症状が現れていないか聞き取ることが大切です。1)クッシング症候群診療マニュアル 改訂第2版. 診断と治療社;2015.(J Clin Endocrinol Metab. 2015;100:2807-2831.)参考1)PMDA 添付文書 イスツリサ錠1mg/イスツリサ錠5mg

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英語で「波がある痛み」は?【1分★医療英語】第28回

第28回 英語で「波がある痛み」は?Is the pain constant?(持続する痛みですか?)No, it comes and goes.(いいえ、痛みには波があります)《例文1》Does the pain come and go?(痛みには波がありますか?)《例文2》Hives can come and go.(蕁麻疹は、出たり消えたりします)《解説》“come and go”は文字通り、「行ったり来たりする」を意味し、症状に波があることを指します。医学用語では、持続痛は“constant pain”、間欠痛は“intermittent pain”と言いますが、患者さんに“intermittent”という単語は伝わりにくいため、どちらの痛みなのか確認したいときには、“Does it come and go?”と聞くとよいでしょう。その他の「痛みには波がある」という言い方として、“The pain gets better and worse.”や“The pain waxes and wanes.”などがあり、併せて覚えておくと役立ちます。“wax and wane”は、もともとは「月の満ち欠け」という意味で、“wax”が「満ちる」、“wane”が「欠ける」を意味します。“wax and wane”は月の満ち欠け以外にも、症状が良くなったり悪くなったりすることを表すことができ、医療者同士の会話では“His mental status waxed and waned, so we couldn’t extubate him.”(彼の意識レベルは波があり、抜管できませんでした)といった表現が頻繁に登場します。講師紹介

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第100回 手術動画を無断で提供、改正個人情報保護法に基づき調査

<先週の動き>1.手術動画を無断で提供、改正個人情報保護法に基づき調査2.4回目コロナワクチン、今月末からの開始に向けて/厚労省3.3回目用に確保したコロナワクチン、期限切れで廃棄相次ぐ4.医師偏在解消に向け「医師確保計画ガイドライン」改正/厚労省5.ヤングケアラー支援のための手引きを作成/厚労省6.有事の医薬品開発を見据えた緊急承認制度が新設1.手術動画を無断で提供、改正個人情報保護法に基づき調査全国の総合病院などに勤務する眼科医5人が、病院や患者に無断で白内障の手術動画を医療機器メーカーに提供し、去年までの3年間に現金40~105万円を受け取っていたことが明らかとなりました。画像の提供を受けていたのは白内障治療用眼内レンズを販売するスター・ジャパン社。同社が白内障手術の動画を作成するために提供を受けたとされているが、販売促進の目的の可能性があるため、業界団体がメーカーの調査に着手した。今回の動画は手術動画であり、厳密には個人情報に含まれない可能性があるが、各医療機関側は患者の同意なく外部に提供したことを把握できておらず、再発防止のためには職員に対して個人情報保護法の教育が必要となる。個人情報保護法は今年4月から改正法が施行されており、個人データの授受については研究目的であっても第三者提供記録が本人による開示請求の対象となるなど規制が強化されている。医療機関側は情報漏洩時の報告義務を負っており、医師個人も個人情報保護法のルール順守が必須となる。(参考)“手術動画”無断で外部提供か 病院側「再発防止に努めたい」(NHK)“手術動画”で医師に現金提供 業界団体がメーカーを調査(同)医療・ 介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス(個人情報保護委員会)【2022年4月施行】個人情報保護法改正とは?改正点を解説!(契約Watch)2.4回目コロナワクチン、今月末からの開始に向けて/厚労省今月末に開始見込みの新型コロナウイルスワクチン4回目接種の準備に向け、厚生労働省は全国の自治体に対して10日に通知を発出した。接種の対象者は、3回目の接種完了から5ヵ月以上が経過した60歳以上の者および18歳以上60歳未満の者のうち基礎疾患を有する者やその他新型コロナウイルス感染症にかかった場合の重症化リスクが高いと医師が認める者で、自治体に対してファイザー製および武田/モデルナ製ワクチンを配布する。基礎疾患のある人については、自己申告した者のほか、申告がない一部の人にも接種券を配布できるとし、自治体側の煩雑な事務作業を減らすために、18歳以上の対象者以外への一律送付も可能となっている。(参考)4回目コロナ接種券、対象以外も 厚労省が自治体に通知(産経新聞)4回目接種券、18歳以上一律も可能に…煩雑作業避けたい自治体の要望受け厚労省容認(読売新聞)新型コロナウイルスワクチンの追加接種(4回目接種)体制整備に係る医療用物資の配布について(厚労省)新型コロナワクチン追加接種(4回目接種)の体制確保について(その2)(同)3.3回目用に確保したコロナワクチン、期限切れで廃棄相次ぐ新型コロナウイルスワクチン3回目接種のために配布されたモデルナ製ワクチンが使用されないまま有効期限を迎え、これまでに10万本以上が破棄されていることが報道された。感染状況を踏まえた複合的な理由により、配送されたワクチン数が希望者を上回っていると考えられる。一方、ファイザー製ワクチンは4月に有効期限が9ヵ月から1年に延長されて破棄を免れたが、今後進められる4回目接種は対象者が制限されるため、引き続き期限切れを迎えるワクチンの増加は避けられないだろう。確保したワクチンの有効活用のために、国民に対してワクチン接種の働きかけを強化するなど、自治体で期限切れにならないような工夫を凝らす必要がある。(参考)なぜ?新型コロナワクチン 期限切れ廃棄 次々と明らかに(NHK)余るモデルナ、止まらぬ廃棄 融通できず悩む自治体(産経新聞)京都市、モデルナワクチン期限切れで廃棄へ 8万回分(日経新聞)4.医師偏在解消に向け「医師確保計画ガイドライン」改正/厚労省厚労省は、第8次医療計画等に関する検討会の下部組織「地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループ」を11日に開催した。2018年の医療法改正により、医療資源の地域的偏在の是正のため「医師確保計画」を策定することとなっており、各都道府県は2次医療圏ごとに医師確保計画を通じた医師偏在対策を進めている。今後、医師の働き方改革や地域医療構想の実現も視野に入れつつ、キャリア形成プログラムなどを含めた検討を進め、2022年中に報告書をまとめ、年度内に「医師確保計画策定ガイドライン」の改定を行う。2024年から始まる第8次医療計画の開始とともに医師確保計画の策定を開始する予定。(参考)2024年度から「医師確保計画」も新ステージに、医師偏在解消に向け2022年内に見直し案まとめ―地域医療構想・医師確保計画WG(Gem Med)地域枠医師などサポートするキャリア形成プログラム、現場ニーズを意識した作成・運用進む―地域医療構想・医師確保計画WG(2)(同)医師確保計画を通じた医師偏在対策について(厚労省)5.ヤングケアラー支援のための手引きを作成/厚労省全国の自治体に向け、大人に代わって日常的に家事や家族の世話をするヤングケアラーについて、早期の発見や支援を行う体制などの事例をマニュアルにまとめ、ヤングケアラー支援の体制作りを働きかける通知が発出された。厚労省が2021年度に子供・子育て支援推進調査研究事業で行った全国の中高校生を対象とした調査によると、世話をしている家族が「いる」と回答したのは、中学2年生で5.7%、全日制高校2年生は4.1%だった。そのうち、世話の頻度を「ほぼ毎日」と回答した者が3~6割程度、平日1日当たりで世話に費やす時間は「3時間未満」が多いものの、「7時間以上」と回答した者も約10%程度いることから、誰にも相談できずに1人で抱え込んでいるのかもしれない。今度、ヤングケアラーをいかに社会で支えるかが大きな課題となっている。(参考)ヤングケアラー支援で手引 学校や自治体連携、厚労省(日経新聞)厚労省、ヤングケアラー支援マニュアルを通知 「福祉、介護、教育など多分野の連携が重要」(JOINT)「多機関・多職種連携によるヤングケアラー支援マニュアル」(厚労省)6.有事の医薬品開発を見据えた緊急承認制度が新設感染症流行時などの有事にワクチンや治療薬を緊急承認する制度の創設を盛り込んだ医薬品医療機器法の改正案が、13日の参議院にて全会一致で可決され、成立した。現行制度では、海外承認された医薬品を早期承認する特例承認制度があるが、日本人への有効性が確認できる臨床データが十分集まっていない場合は国内で追加治験を行わなければならず、承認が遅れてしまう問題があった。今回新設された緊急承認制度は、国民の生命や健康に重大な影響を与える恐れがある病気の蔓延を防ぐために必要な医薬品や医療機器が対象で、ほかに代替手段がないことが条件となる。緊急時として原発事故やテロなども想定しているが、2年以内に有効性を確認できなければ承認を取り消す。(参考)薬の緊急承認制度創設へ 改正薬機法が成立 遅れたワクチン開発、反省踏まえ(産経新聞)「緊急承認制度」新設、早いワクチン実用化の実現は 改正薬機法成立(朝日新聞)改正医薬品医療機器法が成立 薬の緊急承認、新設 コロナ対応反省/信頼性課題(毎日新聞)

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妊娠中の新型コロナウイルス感染症へのワクチン接種は出産時合併症リスクに影響せず(解説:前田裕斗氏)

 新型コロナウイルス感染症は妊婦で重症化しやすいことが知られており、罹患によって母体死亡や帝王切開となるリスクが上昇することがすでに報告されている。一方、新型コロナウイルスに対するワクチン接種が母体・胎児・出産にもたらす影響については大規模な研究報告がこれまでなかった。本研究はカナダ・オンタリオ州で行われた9万7,590人を対象とし、妊娠中にワクチン接種を行った群、産後にワクチン接種を行った群、ワクチン接種を行った記録のない群で出産時合併症の有無を比較した報告である。 結果として、産後大出血、絨毛膜羊膜炎(子宮内感染と考えてよい)、帝王切開、緊急帝王切開、NICU入院、新生児仮死いずれもワクチン接種群とその他の群の間で差は認められなかった。また、ワクチンを受けた回数、1回目に受けたワクチンの種類、ワクチン接種を受けた時期で層別化したいずれの解析でもやはり各群で合併症に差は認められなかった。 妊娠・出産合併症は頻度が低いことからワクチンの影響を見るためには大規模集団を対象とした研究が必要であり、本研究の結果は妊娠中のワクチン接種の安全性を示唆するものとして十分なものといえるだろう。もちろん、妊娠初期に接種した群が少ない、出産時合併症の診断は臨床的に行われ、しばしば過小評価されることがある点、未測定の交絡要因など研究としての限界はあるが、各種感度分析が行われており研究手法としても信頼のおけるものである。同時期に発表された北欧からの研究と併せ、妊娠中の新型コロナウイルス感染症に対するワクチン接種についての安全性が強く支持されたといえるだろう。

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コロナ入院患者にレムデシビルは有益か:WHO最終報告/Lancet

 レムデシビルは、人工換気へと症状が進んだ新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者に対して有意な効果をもたらさないことが、またその他の入院患者について、死亡または人工換気(あるいはその両方)への進行に対する効果はわずかであることを、世界保健機関(WHO)の連帯試験コンソーシアム(Solidarity Trial Consortium)が最終結果として報告した。COVID-19患者を対象としたSolidarity試験では、これまでに4つの既存薬に関する中間解析結果が報告されている。このうちロピナビル、ヒドロキシクロロキン、インターフェロン(IFN)-β1aは無益として試験が中止となったが、レムデシビルの無作為化試験は継続されていた。本稿で同コンソーシアムは、これまでに行われたすべての関連試験の死亡率およびメタ解析の最終結果を報告している。Lancet誌オンライン版2022年5月2日号の報告。35ヵ国454病院でCOVID-19入院患者1万4,221例を対象に無作為化試験 Solidarity試験には、医師の見立てで明らかなCOVID-19で最近入院し、いずれの試験薬にも禁忌がなく、その他の患者の特性は問わず同意が得られた成人(18歳以上)患者が登録された。 被験者は、試験地で入手可能であった試験薬に等分になるよう無作為に割り付けられ、その時点で入手可能であった4つの試験薬(ロピナビル、ヒドロキシクロロキン、IFN-β1a、レムデシビル)のいずれかまたは非試験薬(対照)の投与を受けた。また、すべての患者は、試験地の標準治療も受けた。プラセボの投与は行われなかった。 プロトコールで指定されていた主要エンドポイントは、疾患重症度で分類した院内死亡であった。副次エンドポイントは、人工換気への進行(同未実施の場合の)、入院から退院までの期間などであった。 最終的なlog-rank検定およびKaplan-Meier解析はレムデシビルについて行われ、すべての4つの試験薬について追加された。メタ解析は、今回の試験およびその他3つの試験薬の無作為化試験で報告された入院患者における死亡率の加重平均値を評価した。 2020年3月22日~2021年1月29日の間に、WHOに加盟する世界6地域にある35ヵ国454病院から1万4,303例の適格条件を有すると思われる患者が登録された。COVID-19診断が反証されたり、暗号化された同意がデータベースに入力されなかったりした83例(0.6%)を除外後、Solidarity試験には1万4,221例が登録され、うち8,275例がレムデシビル(早期退院とならない限り10日間連日静注投与、4,146例)またはその対照(レムデシビルを入手可能な地域であったが、試験薬に割り当てられなかった、4,129例)を受けるよう無作為に割り付けられた。すでに人工換気を受けていた患者の死亡、レムデシビル群42.1%、対照群38.6% レムデシビル群、対照群ともにコンプライアンス率は高かった。 死亡は、レムデシビル群は4,146例中602例(14.5%)、対照群は4,129例中643例(15.6%)であった(死亡率比[RR]:0.91[95%信頼区間[CI]:0.82~1.02]、p=0.12)。すでに人工換気を受けていた患者の死亡は、レムデシビル群359例中151例(42.1%)、対照群347例中134例(38.6%)であった(RR:1.13[0.89~1.42]、p=0.32)。人工換気は受けていなかったが酸素投与を受けていた患者の死亡は、レムデシビル群14.6%、対照群16.3%であった(RR:0.87[0.76~0.99]、p=0.03)。 当初は酸素投与を受けていなかった患者1,730例の死亡は、レムデシビル群2.9%、対照群3.8%であった(RR:0.76[95%CI:0.46~1.28]、p=0.30)。また、人工換気を受けていなかった全患者の死亡は、レムデシビル群11.9%、対照群13.5%であり(RR:0.86[0.76~0.98]、p=0.02)、人工換気への進行はレムデシビル群14.1%、対照群15.7%であった(RR:0.88[0.77~1.00]、p=0.04)。 死亡/人工換気への進行の複合アウトカムの発生率(事前に規定されていなかった)は、レムデシビル群19.6%、対照群22.5%であった(RR:0.84[95%CI:0.75~0.93]、p=0.001)。 レムデシビルの連日静注投与への割り付け(非盲検対照との比較で)は、10日間の治療期間中の退院を約1日遅らせた。 なお、レムデシビル非使用と比較したレムデシビルのすべての無作為化試験における死亡率のメタ解析では、類似した所見が得られたという。

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第108回 医療施設はウクライナ軍の逃げ場!?だからロシアは狙うのか

現在、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の1日の新規陽性報告数は、ゴールデン・ウイークで人同士の接触が増えたことから、一時的に増加傾向にあるようだ。しかし、今年に入って始まった第6波のピーク時から考えれば、全体としてはすでに減少傾向にある。そして2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻により、一般向けニュースの様相は変わってきた。実際、私が記事を提供するインターネットの情報サイトの編集者からは「もうコロナは読まれなくなってきているので、書くなら短めで。それより、ぜひウクライナのほうで何かあれば」とまで言われるようになっている。とくに自分の場合は医療と国際紛争をメインテーマにしているというやや特殊な立ち位置だけに、そうした依頼が来る。そんなこんなことも踏まえ、今回は世界保健機関(WHO)のレポートを中核に据えて、現在のウクライナの医療事情を個人的な経験や感想も交えながら簡単にご紹介しようと思う。世界保健機関(WHO)の報告によると、開戦から5月4日までの時点で医療施設や医療関連の輸送、医療従事者や患者、医療関連物資の倉庫などに対して確認された攻撃が186件。これにより発生した死者は73人、負傷者は52人となっている。日本国内でもこうした事例はたびたび報道されており、「なぜ医療機関が攻撃対象に?」と思う人も少なくないだろう。これは誤爆など意図しない攻撃と意図した攻撃の2つが考えられる。現代では軍事作戦と無関係の施設や人間を攻撃することは、戦時国際法では違法行為とされる。こうした違法行為を防ぐために発展してきたのが戦闘機による空爆や地上からのミサイル攻撃などで使われる精密誘導弾である。これらは主にレーザーなどで目標位置を確認しながら軌道修正を行って着弾する。その命中精度だが、攻撃目標に対して半数以上が命中する半数必中界(CEP:Circular Error Probability)は20~30m程度である。逆に言えば医療機関から20~30m以内に軍事施設などがあれば、結果として誤爆は起こりえるということだ。これが非精密誘導兵器ならば、CEPはおおむね0が1個多くなる。ロシアの場合、精密誘導兵器の保有割合が先進国などと比べて低いと言われているため、必然的に誤爆の確率は高くなる。そして先進国による経済制裁により、現在、ロシアではこうした精密誘導兵器に使う電子部品などが枯渇しつつあると報じられている。やや嫌な見通しになるが、今後はさらにこうした誤爆による医療機関も含む民間施設への攻撃は増加してくると考えられる。一方、意図した攻撃とは、敢えて民間施設を狙うことで一般人の厭戦(えんせん)気分を煽り、「反撃能力を低下させる」あるいは究極のケースでは「その結果、戦争を主導する首脳部を下から突き上げ崩壊させる」ことを意図したものだ。今回のロシアの攻撃についてはむしろこの可能性が強く疑われている。というのもロシアに関しては、近年明らかに“そうしたい”としか感じられない攻撃を中東のシリアで何度も行っているからである。シリアは現在、バッシャール・アル・アサド大統領による独裁政権に抵抗する反政府勢力との間で内戦状態となっているが、ロシアはアサド大統領側に肩入れして軍事介入を行っている。ここでは何度も医療機関を含む民間施設への執拗な空爆をロシア軍が行っている。また、現在ウクライナ入りして取材している私の友人によると、先日までロシアが支配下に置いていた首都キーウ(キエフ)北方のボロディアンカの市街地は見事なまでに一般市民の高層アパートのみが攻撃を受けているという。実はこの2つ以外に医療機関が攻撃を受けるグレーな状況というものが存在する。先日、日本記者クラブで、フランスに本部を置く国際協力組織(NGO)の「国境なき医師団」のメンバーとして3月下旬から4月上旬まで現地に派遣されていた医師の門馬 秀介氏が記者会見したが、会見の中で門馬氏は次のように語った。「これは聞いた話でしかないんですけれど、マリウポリから避難してきたウクライナ人に話を聞くと、医療機関に逃げてくる兵士もいるので、 そこを狙って攻撃をしていると言っている方もいらっしゃいました」 これは「やっぱり」と思った。私もイラクで経験があるのだが、医療機関の周辺で戦闘が起こると、付近の住民はもちろんのこと一部の戦闘員が武装したまま逃げ込んでくることがあるのだ。少なくともそこを拠点に攻撃を開始でもしなければ、医療機関側も避難者として兵士を受け入れるしかない。自分もこの経験をした時は「勘弁してほしい」と内心では思っていたものの、兵士に面と向かってそうは言えなかった。ちなみに自分以外にもこうした経験を持つ取材者はいて、皆で意見が共通しているのが、逃げ込んでくるのは、多くは若年の徴集兵だということ。まあ経験値も少ない彼らは恐れが先に立つので、ある意味やむを得ないとも思う。もっともこうした事実があったとしても、医療機関への攻撃が正当化されるものではない。さて、WHOのレポートでは、ウクライナに展開しているWHOの救急医療チームが3月12日~4月30日までに提供したケア件数は3,472件で、その内訳は感染症が17%、外傷が12%、その他が62%。意外に外傷は少ないと思われるかもしれないが、あくまでWHOが把握している範囲である。そもそもWHOが活動する地域は最前線からある程度後方になることを考えれば、そこまでアクセスできないケースや前線近傍で対応しているケースも考えられるため、そもそもが過少報告になっている可能性が高いと言える。もっとも感染症の蔓延についてはWHOもかなり懸念しているようだ。日本国内でも多くの人が報道で目にしているように、一般市民の中には地下の避難所などで長らく避難生活を強いられている人も少なくない。そしてこれもまた報道で目にしているようにその環境はお世辞にも衛生的とは言えない。実際、WHOもレポートで「コレラ、はしか、ジフテリア、新型コロナなどのような病気の発生リスクは、水、下水設備、衛生状態へのアクセスの欠如、空爆シェルターと集合避難センターの混雑状態、通常および小児期の免疫獲得が最適ではないなどの事情から悪化している」と指摘している。WHOによると、4月28日~5月4日までの間に報告されたウクライナでの新型コロナ新規陽性者は2,886人、死亡者は52人。この前の1週間と比べ、それぞれ37%と29%減少しているが、 WHOは「新型コロナの症例と死亡は過少報告されているため、これらの数値は慎重に解釈する必要がある」と指摘している。むろんこの状況でウクライナ全土での公的サーベイランスが平時同様に機能している可能性は極めて低いため当然の指摘だろう。一方、WHOレポート内ではメンタルサポートへのアクセスが制限されている結果として、虐待や自傷行為も含むメンタル問題が増加することへの懸念も簡潔ながら言及されている。前述の門馬氏も移動診療所での診療経験からこの点の重要性を指摘していた。門馬氏の通訳を担当した現地の英語教師が、問診の通訳最中、患者が避難に至る訴えなどを聞いているうちにショックを受けて泣き出してしまうのだという。門馬氏は「(ウクライナの人たちは)戦争が扉1 枚隔ててすぐ横にある状態で心理状況が不安定。そのギリギリの中でやっているので、何か1つのことで急に泣き出してしまうことを実感した」と語っている。そして私個人の経験では、紛争地でのメンタルの問題は戦闘状態が長期化するほど複合的にさまざまな問題をもたらすと感じている。おおむね戦闘が長期化している地域では、メンタル面でどん底に落ち込んでしまう人とその状態に慣れてしまう人がいる。どん底に落ちた人の一部は薬物中毒などに走る。実際、私が過去に取材した紛争地では違法薬物が半ば堂々と売買されているシーンを目にすることは稀ではなかった。しかも医療アクセスが限定的となっているため、こうした人たちが医療的ケアにアクセスできる機会は限られているため、どんどん泥沼に落ち込んでしまう。一方で、打ち続く戦闘状態の中で半ば正常性バイアスらしきものが働き、その状態にメンタル的に慣れてしまう人もある種の問題を引き起こす。どういうことかというと、慣れっこゆえの不注意さで戦闘に巻き込まれて負傷したり、命を落としたりということが少なくないのだ。自分が以前、内戦中の旧ユーゴのボスニア・ヘルツェゴビナを取材した時のことだ。私の通訳をしてくれたのはサラエボ在住の男子大学生。その彼が市街地のある場所を通り過ぎる時、いつもなぜか寡黙になった。彼と仕事をするようになって3回目の時、私は彼に思い切ってそのことを尋ねてみた。すると彼はため息と苦笑い交じりで次のように話してくれた。「ここさ、高校時代の同級生が撃たれて死んだところなんだ。敵側のスナイパーの射程に直接入るところでね。うちらは毎日ここを走り抜けて高校に行っていたんだけど、ある時、自分と友人も含め5人で集まって『いつもよりやや遅めの走りで肝試ししよう』となってね。自分は4人目で何ともなかったんだけど、5人目の彼がやられてしまった。今考えると何でそんな遊びしちゃったんだろうって」戦闘に慣れるということはそういう負の側面もあるのかと何とも言えない気持ちになったことを今でもはっきり覚えている。ロシアによるウクライナ侵攻はまだ当面終わりそうにない。この状態が長く続くほど、私もまたこのエピソードを何度も思い返すことになるだろう。何とも気が重くて仕方がない。

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第108回 日本ではいつまで続く?各国のマスク着用解除、メリット・デメリットを検証

ゴールデンウィーク中は、マスクを外して散歩やジョギングなどをしている人が目に付いた。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のもとで、海外ではマスク着用義務が解除された国々が増え、日本でも屋外などでマスクを外せる条件や時期について議論が出始めた。一方で、マスクの着用により口呼吸が癖になった人がマスクを外しても口呼吸することで体に弊害を及ぼす可能性も指摘されている。また、各国で報告されている原因不明の子供の肝炎には、マスク着用が新型コロナ以外の感染症にかかりにくくし、免疫力が低下したことが背景にあるのではとの見方もあり、マスク着用の功罪についての議論や研究の必要性が指摘されている。外出時に着用必須の中国、身を守るために着ける韓国世界のマスク事情を見てみると、上海に続き北京もロックダウンになった中国は、ゼロコロナ政策により、マスク着用義務はないが、着用しないと外出できず、スーパーなどにも入れてくれないという。韓国は屋内も屋外もマスク着用義務があり、違反者には罰金が科せられていた。3月16日には1日の新規感染者数が62万人と過去最多になったが、その後、感染者数の減少に伴い規制緩和を進め、5月2日からは屋外のマスク着用義務が原則解除された。感染者の隔離義務もなくなるが、未感染者の中には「自分の身を守るため、マスクは着用する」という声が多いという。欧米に目を転じると、英国では1月27日、交通機関や屋内でのマスク着用義務が解除され、2月24日には新型コロナ対策の法的規制がすべて撤廃された。感染者の隔離義務もなくなった。そもそも屋外ではマスク着用は義務化されたことがないため、1月上旬、オミクロン株の感染拡大が一番ひどい時は、新規感染者数が1日当たり20万人超いたが、それでも屋外でマスクを着用している人の割合は2割ぐらいだった。コミュニケーション上、デメリット感じる米英現在、介護施設や病院の中では、マスクの着用を義務付けているところもある。ただ、英国ではマスクにデメリットを感じる人も多い。顔をマスクで隠しながらコミュニケーションをとることに抵抗を感じる人は少なくない。とくに子供たちの場合、対人関係を一番学ばなければならない時期にマスクをすることが、コミュニケーション能力の成長を妨げてしまうのではないかと考える教育関係者や親が多い。そのため、これまで学校では11歳未満の子供に対して、マスクを着用する義務はなかった。顔を隠すデメリット以外にも、マスクを着けていると息苦しいとか、コストがかかるとか、廃棄されるマスクの環境への負荷など、マスク着用のデメリットに関して議論がされてきた。それらを踏まえ、英国ではマスクをするしないを個々人で決めているという。米国では感染者数の減少に伴い規制緩和が進み、一部の地域を除いてほとんどの公共交通機関でマスク着用義務が解除された。全米ではマスクを着けている人はほとんどいないが、2年ほど前のコロナパンデミック下で1日800人ほどが死亡したニューヨークでは、1~2割の人がマスクを着用しているという。ただ、米国は移民の国なので、コミュニケーションは笑顔が基本。マスクを着けていると表情が見えないため、そもそもマスク着用は根付かない土壌がある。また、自由の国であるため、義務を押し付けられることを嫌う国民性がある。マスク着用義務は自由の尊重という米国建国の理念に反すると反発する国民も多い。予防策としてのメリットと口呼吸を癖にするデメリットマスクを着けるメリットを改めて考えると、新型コロナをうつさない、もらわないという感染対策が挙げられる。公共交通機関の中で感染しないためには、マスクを着けていたほうが安全だ。一方で、デメリットもある。マスクをすることで口呼吸する人が増えた。鼻呼吸のほうが、フィルター機能があったり温度を調整してくれたりするので、吸った空気が気管に与える影響は軽減される。口呼吸が癖になると、今後マスクを外した時に、口呼吸がもとで体調を崩す人が増える可能性が考えられる。原因不明の子供の肝炎はマスク着用が原因?原因不明の子供の肝炎が十数ヵ国で報告されているが、COVID-19患者の治療に当たっているクリニック院長は「今まではさまざまな感染症にかかることで免疫が保たれたりしていたが、マスクをすることで新型コロナ以外の感染症にかかりにくくなり、その分免疫力が低下して原因不明の疾病にかかりやすくなっている事態に陥っている可能性もある」と指摘する。マクロな視点でマスク着用のメリット・デメリットを考察する時期に来ているのではないだろうか。

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初執刀に向けた準備を完璧にするルーチン【誰も教えてくれない手術記録 】第14回

第14回 初執刀に向けた準備を完璧にするルーチンこんにちは! 手術を描く外科医おぺなかです。新年度になって1ヵ月ほどがたちました。人事異動や新人加入で落ち着かない日々が続いていたと思いますが、5月に入りようやく慣れてきたころでしょうか? 頑張り過ぎて体調を崩してしまうことのないように気を付けましょう。僕が思う外科医の魅力の1つに、「現役でいる間はいつまでも新しい術式を経験できること」があります。虫垂切除やヘルニア手術などから始まり、徐々に消化器がんを中心とした高難度手術へとステップアップしていくわけですが、そのたびにそれぞれの術式の“初執刀”を迎えます。外科医は、そのいくつもの初執刀を一つひとつ乗り越えて一人前になっていくのですよね。今回は、これから初執刀を経験するであろう先生方に向けて、僕がこれまで行ってきた「初執刀前」のルーチンを紹介します。初執刀は誰しも緊張するものなので、万全の準備をして、自信を持って手術に臨めるようにしましょう。おぺなか流・初執刀前のルーチン(1)術前サマリーの作成手術前に患者さんの情報をできるだけ集め、術前サマリーとしてまとめましょう。術前サマリーの作成とカンファレンスでの症例提示は、多くの施設で執刀医が担当していると思います。術前サマリーには、病歴や検査結果だけでなく、体型や血管走行異常なども記載し、術前の臨床所見に基づいた切除標本の予想展開図まで作成できるといいですね。(2)手術記録の下書き通常は手術後に書く手術記録ですが、僕は手術前に手術記録を下書きしています。あたかも手術を実際に行った後のように、患者背景(病状/解剖構造)に沿って手術内容を文章とイラストにまとめてみると、うまく描けないところは理解が不十分だと気付き、手術前に押さえるべきポイントが浮き彫りになります。ちなみに、術後に書く正式な手術記録は、この下書きを修正して作成すれば非常に時短になるのでおすすめです!(3)手術書・解剖学書の熟読僕は初執刀の術前に必ず手術書・解剖学書を一通り読むようにしています。ポイントとしては、ただ何となく読むだけでなく、読みながらコツやピットフォールをメモなどに書き出しておくと手術直前にも振り返りやすいです。また、複雑な解剖構造や手技などを自分なりにイラスト化してみるのも良いと思います。頭の中の情報が可視化され、手術記録を書く際にも応用できますよ!画像を拡大する参考:解剖学書をまとめた一例(4)手術ビデオ・セミナー動画の聴講初執刀前の準備では、本や資料だけでなく映像資料も必ず確認しましょう。自施設の過去の手術ビデオがあれば、絶対に見ておくべきです。また、医師会員向けサイトには各分野のエキスパート医師が執刀した手術ビデオや教育・啓発を目的としたセミナー動画が数多くあります。自施設の手術とエキスパートの手術を見比べて違いを確認しておくのも非常に勉強になります。(5)道具を使った手術シミュレーション余裕があれば、シミュレーターや腹腔鏡トレーニングボックスを用いて、実際に手を動かしてみると手術のイメージがより強固となります。下の写真は、僕が実際に行った膵頭十二指腸切除術の膵管空腸吻合に向けたシミュレーションです。100円均一などで材料をそろえて自作のシミュレーターを作成し、運針の手順や針のまとめ方などを術前に整理することができました。工夫すれば高価なものを使わなくても十分なシミュレーションが可能です。参考:手術シミュレーションの一例(6)上級医との術前打ち合わせ自分なりに準備ができたら、前立ちの上級医と術前に入念な打ち合わせをしておきましょう。自分の手術に対する理解度や意欲を事前に共有しておくと、実際の手術でスムーズにサポートしてもらえると思います。あなたの手術へのやる気や熱意を上級医に思いきりぶつけてください!これだけの準備を完遂するにはそれなりの労力と時間がかかりますが、しっかり準備をして臨んだ手術が成功するというのは、外科医として確かな成長を実感できる瞬間ではないでしょうか。また、患者さんは初執刀かどうかにかかわらず、私たち外科医の技術を信じて手術の成功を祈ることしかできません。その患者さんの覚悟に対する礼儀として、安全に確実に遂行するための努力を惜しまないようにしたいものですね。ぜひ、僕のルーチンを参考に、初執刀の準備に取り組んでみてください!

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早くも議論されるリフィル処方箋の次なる展開【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第88回

調剤報酬改定から1ヵ月が経ちました。大きな変更の1つとしてリフィル処方箋の導入がありましたが、皆さんの薬局ではもう受け取られましたか?日本チェーンドラッグストア協会は4月15日の定例会見で、(中略)池野会長は、4月からスタートしたリフィル処方についても言及。ウエルシアHDでは「思ったより多い」との印象を語った。同社では、開始2週間で約600枚あまりのリフィル処方箋を応需。全処方の0.08%程度を占めるまでに伸長していることを明らかにした。(2022年4月18日付 RISFAX)全処方箋の0.08%ということは、1,000枚に1枚弱の割合です。この記事の中で「思ったより多い」というコメントがありますが、私も医師会や一部の保険医協会の反対があるわりには「意外と多い」という印象を受けています。まだ様子見の医師も当然多く、リフィル処方箋を扱ったことがない薬局も少なくないかもしれませんが、早くも「次の展開」が検討されています。2022年4月13日に開催された財政制度等審議会財政制度分科会において、リフィル処方箋について以下のような資料が提示され、議論がなされています。日本は世界有数の受診回数の一方で長期にわたり処方内容に変更がない処方(長期Do処方)が多いその診療密度が薄く頻繁な外来受診が患者負担および利便性を損なわせている新型コロナ禍により、リフィル処方箋導入のニーズは高まってきた医療の質を担保しながら、国民負担の軽減ができるリフィル処方箋の導入により医師から薬剤師へのタスクシフトが行われ、処方の見直し、重複投与や残薬の解消にもつながる可能性がある今後、フォローアップをしながら、周知・広報を図り、積極的な取り組みを行う保険者を各種インセンティブ措置により評価していくべきである今後、どういった処方内容でリフィル処方箋が発行されているのかを明らかにするとともに、「リフィル可」欄に打ち消し線を入れるなどのリフィル処方に対応しない方針を打ち出している医療機関を精査してフォローアップする旨が書かれています。この積極的な感じだと、次の報酬改定でさらなるインセンティブが付く可能性がありそうです。リフィル処方箋はまだレアケースですが、これからどんどん増えていくのではないかと思います。リフィル処方箋をまだ受けていないという薬剤師は、初めての受付でバタバタしないように、また処方元の医師にスムーズにフィードバックできるようにルールを見直しておきましょう。そして、意外と盲点なのがリフィル処方箋の紛失。なくさないように患者さんに注意を促す必要があります。お薬手帳に挟んだり医療証と一緒にしておいたりするなど、具体的な提案をしてみてはいかがでしょうか。参考1)令和4年4月13日開催財政制度等審議会財政制度分科会資料

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