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原因不明の小児急性肝炎、英国44例の臨床像/NEJM

 2022年1月~3月に、英国・スコットランドの中部地域で小児の原因不明の急性肝炎が10例報告され、世界保健機関(WHO)は4月15日、Disease Outbreak Newsでこれに言及した。WHOはさらに、4月5日~5月26日までに33ヵ国で診断された同疾患の可能性例が少なくとも650例存在するとし、このうち222例(34.2%)は英国の症例であった。同国・Birmingham Women’s and Children’s NHS Foundation TrustのChayarani Kelgeri氏らは、今回、同施設に紹介された原因不明の急性肝炎44例の臨床像、疾患の経過、初期のアウトカムについて報告した。研究の詳細は、NEJM誌オンライン版2022年7月13日号に掲載された。3つのカテゴリーの臨床アウトカムを評価 研究グループは、2022年1月1日~4月11日の期間に、同施設に紹介された原因不明の急性肝炎の小児について後ろ向きに検討を行った。 対象は、年齢10歳以下で、英国健康安全保障庁(UKHSA)による確定例の定義(2022年1月1日以降に10歳以下の小児で発症し、A~E型肝炎ウイルスや代謝性・遺伝性・先天性・機械的な原因に起因しない肝炎で、血清アミノトランスフェラーゼ値>500 IU/L)を満たした急性肝炎の患児であった。 これらの患児の医療記録が精査され、人口統計学的特性や臨床的特徴のほか、肝生化学検査、血清検査、肝臓指向性およびその他のウイルスの分子検査の結果と共に、画像上のアウトカムと臨床アウトカムが記録された。 治療は、同施設の急性肝不全プロトコールに準拠して実施され、広域スペクトル抗菌薬、抗真菌薬、プロトンポンプ阻害薬、ビタミンKの投与などが行われた。 臨床アウトカムは、(1)病態の改善(ビリルビン値およびアミノトランスフェラーゼ値の持続的な低下と、血液凝固能の正常化)、(2)肝移植、(3)死亡の3つのカテゴリーについて評価が行われた。90%でヒトアデノウイルスを検出、14%で肝移植、死亡例はない 急性肝炎で紹介された50例のうち、44例(年齢中央値4歳[範囲:1~7]、女児24例[55%])が確定例の定義を満たす肝炎を有していた。このうち13例が同施設に転院し、残りの患児は地元の施設で治療を受けた。2022年1月~4月の同施設への原因不明の急性肝炎による入院数および原因不明の急性肝不全による肝移植数は、いずれも2012~21年における年間症例数よりも多かった。 医療記録が入手できた患児(80%)は全例が白人であった。受診の主な理由は黄疸(93%[41/44例])が最も多く、次いで嘔吐(54%[24例])、下痢(32%[14例])、白色便(30%[13例])、腹痛(27%[12例])、嗜眠(23%[10例])の順だった。 ヒトアデノウイルスの分子検査を受けた30例では、27例(90%)が陽性であった。サイトメガロウイルス(CMV)は全例が陰性で、エプスタイン-バーウイルス(EBV)のカプシド抗原は2例が陽性で、核抗原は1例が陽性だった。 腹部超音波検査では、胆嚢壁肥厚が45%(20例)、軽度肝腫大が27%(12例)、軽度脾腫が18%(8例)で認められた。 38例(86%)は自然回復した。残りの6例(14%)は肝機能が持続的に悪化して急性肝不全に進展し、全例が肝移植を受けた。この6例中5例は急速に進行性の脳症を来し、黄疸発生から脳症発現までの間隔は6~7日だった。死亡例はなかった。肝移植を受けた6例を含む全例が自宅退院した。 UKHSAは、血液と肝組織のメタゲノム解析を行い、アデノ随伴ウイルス2やヘルペスウイルスを検出した。これらの所見の重要性については、現在、さらなる評価が進められている。 著者は、「多くの患児でヒトアデノウイルスが分離されたが、この疾患の病因におけるその役割は確立されていない」としている。

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薬剤師の名札「姓のみ」「本名以外」の記載も可能に【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第93回

薬局ではフルネームの名札をつけて業務を行っていると思いますが、名札の記載ルールが緩和され、「姓のみ」「本名以外」などの記載も可能になったことをご存じでしょうか。これまで名札がフルネーム表記だったのは、2009年の厚生労働省医薬食品局長通知で以下のように「資格+氏名」を記載した名札を付けることが求められていたためです。「薬剤師又は登録販売者には、氏名に加えて「薬剤師」又は「登録販売者」と記載した名札を付けさせるか、氏名を記載した名札に加えて薬剤師又は登録販売者の別を記載したバッジ等を付けさせることとし、一般従事者には、氏名のみを記載した名札又は氏名に加えて「一般従事者」と記載した名札を付けさせること。」6月27日の事務連絡により、上記に続いて以下の文言が追加されました。「なお、ストーカー被害やカスタマーハラスメントの防止等の観点から、薬局開設者が適切に判断し、薬剤師、登録販売者又は一般従事者が氏名に代わって、姓のみ又は氏名以外の呼称を記載した名札を付けることを認めても差し支えないこと。姓のみ又は氏名以外の呼称を記載することとする場合は、薬局開設者は、薬局の営業時間中に従事する薬剤師、登録販売者又は一般従事者の特定のため、名札への記載名について実名と照合できるよう把握及び管理すること。」昨今、ストーカー被害やカスタマーハラスメントが社会問題となっている中、薬局開設者の判断により、名札の氏名記載はフルネームでなくてもよいとされました。同日に公表されたQ&Aでは、「姓のみ」「氏名以外の呼称」を記載した名札を付けることを認め、氏名以外の呼称の例として「旧姓」「ビジネスネーム」など、社会通念上不適当でない呼称を用いることが可能と説明しています。なお、薬局開設者は、名札の記載名と実名を照合できるようにする必要があります。おそらく、資格+姓のみを記載する薬局が増えるのではないかと思いますが、薬局や薬剤師の業務の信頼性を担保するにはそれで十分なのではないでしょうか。フルネームではさらなる個人情報やプライベートな情報に到達される可能性もあります。私も危険を感じる場面に遭遇したことがありますし、親身に服薬指導していた患者さんが好意と勘違いしてストーカー化し、異動せざるを得なくなったという薬剤師の話も聞きます。そのような状況に陥ること自体も恐怖ですし、異動先でスタッフや患者さんと一から関係を構築しなければならないため、負担はかなり大きいものになります。ルールの緩和で薬剤師がより安全に働くことができるようになればいいなと思います。フルネームがわからないと資格確認検索システムで調べられない一方、名札にフルネームを記載しないことのデメリットとして、本当に薬剤師資格を有しているかどうかを患者さんが調べにくくなるという問題があります。厚生労働省が作成している薬剤師資格確認検索システムでは、フルネームを入力することで、厚生労働省に登録している薬剤師かどうかを調べることができます。登録年や行政処分に関する情報も調べることができるため、かかりつけ薬剤師を選ぶ際の参考になるかもしれません。この検索システムが存在する理由は、「薬剤師の情報を開示することで国民が享受できる利益」と「不開示とすることで保護される利益」を比較した場合、薬剤師でない者からの調剤を避けて国民の生命・健康の保護に寄与することができるという前者の利益のほうが上回るためです。医師や多くの国家資格でも同様に開示されています。「自称薬剤師」から調剤を受けたり薬を勧められたりすることなどあってはならないので、資格者かどうか確認するための方法は必要だと思います。しかし、登録年からおおまかな年齢を推測することができるため、個人情報により到達されやすくなりますし、検索結果に表示される性別を知られたくない薬剤師もいるかもしれません。この数年で状況は大きく変化していますので、薬剤師の個人情報を保護するために、表示項目や確認方法などの議論が必要な時代になってきているのかもしれません。

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第122回 コロナは細胞間“トンネル”を伝って脳で広まるのかもしれない

すでによく知られている通り新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染は脳のもやもや(brain fog)や混乱などの種々の神経症状と関連し、どうやら脳に直接影響するらしく、感染者の死後脳からウイルスが検出されています。SARS-CoV-2は感染の取っ掛かりでACE2受容体に結合することが知られますが、ACE2受容体がおよそ非常に乏しい脳でSARS-CoV-2がどうやって広まるのかはよく分かっていません。フランスの研究者による新たな実験の結果、SARS-CoV-2は感染細胞から伸ばした細い管を伝ってACE2受容体なしでも別の細胞に乗り移りうることが示されました1)。いわばトンネルのようなその仕組みのおかげでSARS-CoV-2は脳内で広まるのかもしれません。同国のパスツール研究所のチームはACE2を発現する上皮細胞(Vero E6細胞)とACE2を欠く神経細胞(SH-SY5Y細胞)それぞれとSARS-CoV-2をまずは一緒にしてみました。すると予想通りSARS-CoV-2は上皮細胞には感染し、神経細胞には感染できませんでした。しかしSARS-CoV-2感染上皮細胞と神経細胞を一緒にしたところ神経細胞へのSARS-CoV-2の感染が認められました。とりわけ高性能の顕微鏡で観察したところ細胞間を繋ぐ細い管が見て取れ、細胞膜ナノチューブ(tunneling nanotube;TNT)と呼ばれるその管の中にSARS-CoV-2のタンパク質やRNAがありました。また、ウイルスRNAを量産する二重膜小胞も認められました。すなわちSARS-CoV-2は感染細胞にTNTを作らせ、TNTと連結したよその非感染細胞にTNTを伝ってまんまと侵入しうることが裏付けられました。TNTがウイルスの通り道になることを示したのは今回が初めてではありません。酸素不足や感染などで負荷がかかった細胞が伸ばしたTNTが別の細胞と繋がり、ウイルス粒子がその通路を介して細胞間を行き来しうることがこれまでの研究で示されています。たとえばインフルエンザウイルス、HIV、ヘルペスウイルスはTNTを使って己のゲノムを非感染細胞へ輸送可能であり、その経路であれば免疫や抗ウイルス薬は手出しできそうにありません。今回の研究でTNTはSARS-CoV-2結合の足場がない細胞への侵入ルートになりうることが示されましたが、足場がある細胞間のSARS-CoV-2伝播さえも促しているかもしれません。TNTを構成するアクチンの重合や脱重合は素早く、ウイルスは他の経路よりTNTを介した方がより早く広まれる可能性があるからです。今後の課題として動物やヒトの脳内でTNTを介したSARS-CoV-2細胞感染が存在するかどうかを検討する必要があります2,3)。もしヒトの脳内やその他の体内でTNTを介したSARS-CoV-2感染があるならウイルスの広まりを早くに封じて感染の重症化を防ぐのにTNT形成阻止薬が役立つかもしれません。今のところTNTに限って阻害する化合物は存在しませんがパスツール研究所のチームはその同定を目指して化合物の選別に取り組んでいます3)。参考1)Pepe A, et al. Sci Adv. 2022 Jul 22;8:eabo0171. 2)SARS-CoV-2 Could Use Nanotubes to Infect the Brain / TheScientist3)Coronavirus may enter the brain by building tiny tunnels from the nose / NewScientist

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男女間で異なる不安症状と食物依存症との関連

 不安は、さまざまなケースでみられる症状であり、摂食障害や肥満とも関連しているといわれている。ドイツ・ライプチヒ大学のFelix S. Hussenoeder氏らは、不安症状と食物依存症との関係を分析し、これらの関連性の評価および性差について検討を行った。その結果、食物依存症には、性別やその他の社会人口統計学的因子と関係なく、不安症状に対する長期的な影響が確認された。また、女性における不安症状は、その後の食物依存症に影響を及ぼす可能性が示唆された。このことから著者らは、食物依存症に対する介入は、男女ともに不安症状の軽減につながる可能性があるものの、不安症状に対する介入は、女性の場合のみで、食物依存症の軽減につながることを報告した。Frontiers in Psychiatry誌2022年6月14日号の報告。 人口ベースのLIFE-Adult-Study(1,474例)のデータを用いて、ベースライン時および初回フォローアップ時における不安症状と食物依存症との関連を分析した。不安症状の評価には一般化不安障害質問票(GAD-7)、食物依存症の評価にはYale食物依存症尺度(YFAS)を用いた。不安症状と食物依存症との関連を評価するため、男女の参加者を含む複数グループにおける潜在交差遅延パネルモデルを用いた。年齢、婚姻状況、社会経済的地位、ソーシャルサポートを調整した。 主な結果は以下のとおり。・不安症状および食物依存症は、男女ともに経時的な安定が認められた。 【不安症状】女性:β=0.50、p≦0.001、男性:β=0.59、p≦0.001 【食物依存症】女性:β=0.37、p≦0.001、男性:β=0.58、p≦0.001・女性において、ベースライン時の不安症状と初回フォローアップ時の食物依存症との有意な関連が認められたが(β=0.25、p≦0.001)、男性では認められなかった(β=0.04、p=0.10)。・ベースライン時の食物依存症と初回フォローアップ時の不安症状については、女性(β=0.23、p≦0.001)および男性(β=0.21、p≦0.001)において有意な関連が確認された。

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医師の働き方改革、武器の「アンケート」はこう使え!【今日から始める「医師の働き方改革」】第12回

第12回 医師の働き方改革、武器の「アンケート」はこう使え!「働き方改革で、何がどう変わるんですか?」。私たち働き方改革コンサルタントはそんな質問をよく受けます。最も一般的な回答は「超過勤務が減ります」ですが、実はそれだけではなく、さまざまな効果が表れます。ですが、施設ごとに抱えている課題はさまざまで、「どこから手を付けてよいのやら」と悩む担当者の方が多くいます。ここで私たちがお勧めしているのが「現状を定量化」することです。そして、そのための有効な手法の一つが「アンケート」です。私たちがご一緒している長崎大学病院の働き方改革でも小児科でアンケートを行い、現状を定量化する試みを行いました。担当された佐々木 理代氏にその狙いなどを振り返っていただきます。長崎大学医学部小児科学教室・佐々木 理代氏(写真右)―長崎大学病院の働き方改革「ワークスタイル・イノベーション」の担当となられて、まず何を考えましたか?初めはどのようなプロジェクトなのかも想像がつかず、手探りの状態でした。「残業しない」ことについては、これまでは個人的に頑張ってきたのですが、今回は組織全体の仕組みや状況へのアプローチが含まれており、長期的に見て大きな価値があると感じました。一方で、すでに超多忙な小児科チームに対し、働き方改革プロジェクトのために多くの時間を割いてもらうのは現実的ではありませんでした。今あるリソースでできることから始めようと、アンケートを行うことにしました。小児科の中でもとくに忙しいNICUに着目し、「NICUの働き方の現状を可視化する」ことを目標としました。長崎大学病院におけるNICUの人数や勤務状況はもちろんわかっていますが、それが私たちに特有のものなのか、他施設と比べてどうなのかがわからなかったため、全国の国立大学系のNICUにアンケート回答を依頼しました。アンケートの設問は「スタッフ数、病床数、当直回数や当直明けの勤務、待遇面」です。その結果、全国の22施設からの回答があり、当院の結果を加え23施設の現状を可視化できました。アンケートによって、当院は他施設と比較してNICUの勤務医数は比較的多いものの、当直数が非常に多く、時間外勤務も多いことが確認できました。定量的な把握ができたことで、人員補充や手当ての拡充について、院長に要望を出すことができました。単に「忙しい」、「人を補充してほしい」と言っても説得力に欠けるので、他施設と比較した数値を可視化できたことは大きかったと感じます。人員増強にすぐにつながることは難しいかもしれませんが、今後も客観的な数値に基づいた、意味ある働き方改革の提案をしていきたいと思います。〈解説〉「忙しいから人が欲しい」というのはどこの職場でも聞く要望ですが、どの程度人員が不足しているのかがわからなければ、実際に配置ができません。長崎大学病院小児科では「忙しさ」を定量化するために、自部門だけでなく全国のネットワークを活用したアンケートを採りました。その結果として自分たちの「忙しさ」を客観視し、他施設と比較した適切な人員数を把握して院長にも要望を出すことができました。このあたりは同種の業務を行う施設が多数存在し、ネットワークもある医療機関の強みでしょう。定量化の最も手軽な方法の1つがアンケートです。今回の小児科の取り組みでは、Googleフォームでアンケートを作成し、メーリングリストで全国の国立大学系病院に回答を依頼しました。このように、デジタルツールの進化によってアンケートは手軽に配布・回答・集計ができるようになっています。【設問をどう作成するか】アンケートの設問は、検証したい内容に基づいて作成します。今回の場合、「長崎大学病院のNICUの医師はどのような状況に置かれているのか、全国平均と比べてどの程度忙しいのか?」というのが検証したい内容でした。アンケート作成に当たっては、「忙しい」という主観的な表現を「病床数と勤務医数の対比」や「当直数」という数値に落とし込みました。こうした指標は1つではなく、複数持っておくことが望ましいでしょう。検証したいことがぼんやりしていると設問設計のハードルが上がり、集計しても導きたいメッセージが見えてきません。目的をしっかり考えたうえで設問に入りましょう。【記名式か無記名式か】アンケートを記名式にするか無記名式にするかも大きな問題です。無記名式のメリットは、直接話しにくい話題でも書きやすく、率直な意見が集まりやすいことです。表に出にくい本音を聞き出したいとき、多くの回答を集めたいときは、無記名式が適しています。記名式のメリットは回答の信ぴょう性の高さです。一方で、記名式はきれいごとばかりで本当に聞きたいことが聞けないことも多い、というデメリットがあります。メリット・デメリットは裏表の関係なので、アンケートの目的をよく考えて設定しましょう。【設問数はどうするか】設問数は、多い方がテーマを多面的に捉えることができる一方で、回答者の負荷が高まります。選択式の設問を多くすることで負荷を軽減しつつ集計もしやすくなるので、自由記述と選択式のバランスをとって設定します。【結果はどうするか】集計結果は可能な限りオープンにしましょう。回答者からすれば「結果がどうだったのか」は気になるものです。全体の結果についてのサマリーを回答のお礼と共に回答者に共有することで、その後の取り組みにも関心が高まります。アンケートは働き方改革の調査における強力な武器です。ぜひ効果的な活用方法を考えてみてください。

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第118回 記者も唖然…塩野義コロナ薬の承認審議で識者が発したガチ発言

2時間にわたる王者対挑戦者のボクシング・タイトルマッチ。1ラウンド目に挑戦者は王者の軽いジャブの後、アッパーカットをくらいおもむろにダウン。2~4ラウンドは挑戦者のストレートパンチが王者の顔面を捉え、一旦持ち直したかに見えたが、5ラウンド目は王者のジャブが軽く決まりよろける。その後はほぼ王者の一方的な連打がさく裂し、最終12ラウンドまで持ちこたえたものの、3人のジャッジの判定は大差で王者に-。ボクシングにたとえるとそんなところだろうか?何かというと、7月20日に開催された厚生労働省薬事・食品衛生審議会薬事分科会・医薬品第二部会合同会議で行われた塩野義製薬の新型コロナ治療薬候補の3CLプロテアーゼ阻害薬エンシトレルビル(商品名:ゾコーバ)の緊急承認審議だ。結論から言うと第III相試験を待って議論すべきということで、委員ほぼ全員が一致して継続審議を決定した。過去の連載記事から繰り返しになって恐縮だが、エンシトレルビルに関しては今年5月の薬機法改正で新設された緊急承認制度を使った承認申請が行われている。塩野義製薬が申請に当たって提出したデータは第II/III相試験のうち、軽症/中等症患者を対象とした第IIb相パートの結果。主要評価項目は鼻咽頭ぬぐい検体を用いて採取したウイルス力価のベースラインからの変化量と12症状合計スコア(治験薬投与開始から120時間までの単位時間当たり)の変化量の2つ。前者については低用量(125mg)群、高用量(250mg)群、ともにプラセボ群と比べて有意な減少を示したものの、後者は有意差が認められなかった。ちなみに塩野義製薬側は、後者については現在主流のオミクロン株に特徴的な4症状に限定して解析すると有意差が認められたことを強調している。すでに6月に行われた医薬品第二部会では、緊急承認に否定的な意見が多かったものの、緊急承認制度では薬事分科会の審議も必要になるため、この日に持ち越した。そして今回の審議はやや異例だった。というのも1つの薬を巡る審議がYoutube Liveを通じて全国にリアルタイムで公開されたからである。新薬の承認審議がここまでガラス張りにされたのは初と言って良い。ちなみに私は報道公開枠で会議場にいた。事務方からの一通りの説明とそれを受け、審議の方向性について医薬品第二部会長の清田 浩氏(井口腎泌尿器科・内科新小岩副院長、元東京慈恵会医科大学教授)に意見が求められた。「まず付け加えたいのは、医薬品第二部会の臨時部会が開かれたのは6月22日。ちょうどコロナの患者数が下げ止まっていた時期です。現在の第7波が来ることもある程度予感していたかもしれませんが、現実にこうなるとは予想し得なかった時期なので、多少議論に危機感が欠けていた印象を持っております。その後、追加の有効性として、Long COVIDの率が減る、ウイルスの再拡散を抑えるというデータがあり、そういったポジティブなデータをどう解釈するかも議論の材料としていただければと思います」これに対して医薬品第二部会委員で山梨大学学長の島田 眞路氏から横やりが入った。「6月22日は確かに感染状況はひどくはなかったですが、諸外国でも出てましたし、日本でも来るんじゃないかという危機感を持って私達は審議したと思っております。清田部会長がどう考えたか知りませんが、危機感がなかったとおっしゃっているのにはびっくりしました。先ほどのいくつかの実験データが追加されたとのことですが、これはすでに塩野義さんは提出されてましたよ。(症状の)期間が短くなるんじゃないかとか。Long COVIDだけは出してなかったかもしれませんけど、あとのデータはだいたい示されていました。しかも、これはエンドポイントが修正されたりしたようなものです。たとえば12症状(合計スコア)ではまったく効果が認められなかったわけなので、われわれとしては効果は認められないと判断したのであって、それが呼吸器症状だけ後からピックアップして有意差が少しあったという。要するにエンドポイントを後からいじるのはご法度ですよ。はっきり言って。それをわざわざされて、有効性があるというところをピックアップしてやるのは、臨床試験としてはやっちゃいけないことだと思いますけどね」司会が引き取り、委員ではない独立行政法人・医薬品医療機器総合機構(PMDA)理事長の藤原 康弘氏が補足的な意見を求められた。この状況を収めようとしたのだろう。藤原氏は、公開された審査報告書内の第IIb相試験でのエンシトレルビル125mg、250mg、プラセボ投与後120時間までの12症状スコアのグラフを参照するように呼び掛けて次のように語った。「この推移を見ていただいたらわかりますが、私も元々呼吸器専門医なので普通にパッと見ると、これ差がないんじゃない? と見えます。PMDAとしても普通の感覚で見たのでしょう。先ほど説明がありましたように確かにRNA量は有意差をもって下がっているものの、臨床効果はこのぐらいかなというのが正直な判断であったと私は類推いたします。また、話題に上がった後付け解析ですが、途中の(事務局の)説明で多重性というお話がありました。今回、塩野義さんが何度も何度も事後解析をしていますが、そうするとby chanceで有意になることはよくあります。p値(統計学的有意差)が0.05ならば、20回に1回は間違った結果になるのは自明の理なので、繰り返し統計解析する時はp値はすごく小さくするとか、事務局が説明した多重性の調整をきちんとやらなければいけないのですが、それをやらずに何度も何度も解析してどこかで有意差が出たから良いんじゃないのと言ってるのが塩野義さんかな、と私は理解しております」さすがにこの発言には驚き、メモを取っていた手を止め、リモート参加していた藤原氏の様子が映し出されたディスプレイを凝視してしまった。周囲を見回すと、数人がやはり目を見開いてディスプレイを見ている。藤原氏は臨床医でありながら、過去には臨床薬理学分野の研究経験もあり、PMDAの前身である国立医薬品食品衛生研究所医薬品医療機器審査センターで新薬の承認審査を担当していたこともある。しかし、そのキャリアはほぼ一貫して国立の研究機関・医療機関に身を置いてきた公務員だ。その意味ではある種退屈な「お役所言葉」を駆使してきた立場であるはずの藤原氏が衆人環視の中でここまで製薬企業をディスる(若者言葉で失礼)とは思いもしなかった。このあとエンシトレルビルの治験調整医師であった日本感染症学会理事長の四柳 宏氏(東京大学医科学研究所附属病院長・先端医療研究センター感染症分野教授)、岩田 敏氏(国立がん研究センター中央病院感染症部長)、大石 和徳氏(富山県衛生研究所長)の3人が参考人として意見陳述。いずれも主要評価項目ではない症状消失までの期間が3日間短縮できたデータなどを援用し、現時点で有効性の推定は可能という立場を取った。しかし、この後、前述の島田氏が再び異議を唱えた。参考人3人のうち2人が塩野義製薬との利益相反があり、なおかつ全員がPMDAの審査に対する塩野義製薬の反論に即した主張をしていると批判し、利益相反なしと申告していた大石氏にも利益相反がないかの確認を求めたのだ。大石氏が「利益相反がない」と伝えると、島田氏は「PMDAが審査した結果に対して、3人が3人、塩野義製薬の意見に同調する方を選ぶのはフェアなやり方ではない」と事務方に要請した。事務方からは「感染症の専門家からのご意見としてこちらからお呼び…」と発言しかけるも、島田氏が遮り、「感染症の専門家なんてごまんといるわけです。にもかかわらず3人中2人が塩野義製薬との利益相反がある方を呼ぶのは。もうちょっとフェアな方を呼んでいただかないと議論がかみ合わない」と苦言を呈した。その後は全体の空気がネガティブになり始める。この空気が完全にネガティブに転換したのは、それまで日本医師会常任理事として薬事分科会委員を務めていた松本 吉郎氏が日本医師会の新会長に就任したことに伴う交代で、今回から薬事分科会委員として出席した日本医師会常任理事の神村 裕子氏の発言だった。過去の本連載でも触れたように、エンシトレルビルには催奇形性があることがすでに報じられており、今回の審議で示された審査報告書にはその詳細が記述されている。それによると、ラットでの胎児の骨格変異、ウサギでの胚・胎児死亡、胎児の軸骨格の奇形・変異、外表に奇形所見で短尾と二分脊椎が認められたという。PMDA側の見解では潜在的な催奇形性リスクがあり、ラットとウサギの無毒性量は、ヒトでの血漿中曝露量基準でそれぞれ約3.8倍と約2.4倍で十分な安全域を有しておらず、承認時には、妊婦または妊娠している可能性のある女性は禁忌とすることが適切というものだった。この点を踏まえて神村氏が次のように述べた。「私は女性の医師ですので、女性の患者さんがたくさんいます。この中でたとえば妊娠の可能性のある患者さんに禁忌という場合、妊娠しているかどうかわからないとなると、とても怖くて使えない。また、錠剤が大きくて飲み難いことはありますが、既に同じような作用機序のニルマトレルビル/リトナビル(同:パキロビッド)があるなかで、なぜそちらではダメなのかと考えている。当然ながら私が臨床の外来で、この程度の呼吸器症状の有効性の差が出たと言われても、『とても使いたくはないな』と、申し訳ないですけれども率直にそう感じました。またCYP3A阻害作用が強いということを考えれば、やはり慢性疾患にかかっていらっしゃる高齢の患者さんたちにも使えない。となると、非常に使える幅が狭くなる。第III相試験ではっきりした結果が出るまで、手を出せないと思っています」この率直な意見は新任委員ならではとも言えるのかもしれない。それ以上に実臨床に携わる医師の意見は非常に臨場感のあるものだった。審議の雰囲気はここで一気に最終結論の方向に傾いたように感じた。神村氏が触れたCYP3A阻害作用については、すでにPMDAから冒頭にニルマトレルビル/リトナビル同様に併用禁忌が多くなる見込みと説明された。かつ、PMDAの審査報告書では、仮に緊急承認するとしても「有効性が示されていない状況で、本剤が承認される場合には、SARS-CoV-2による感染症の重症化リスク因子を有する等、治療薬の投与が必要と考えられる患者を対象とし、禁忌等に該当する場合や供給量の関係で入手できない場合等で他の治療薬が使用できない場合に限り本剤を使用することが妥当である」との医薬品第二部会委員の意見が付記されていた。平たく言えば、重症化リスク因子を有し、既存の治療薬が使えない場合のみをエンシトレルビルの適応とすべしというものである。ちなみに今回提出された資料の中で私個人が目を引いたのは、厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部が提出した資料の中にあった7月19日現在までに使われた新型コロナ治療薬別の患者数である。それによると、モルヌピラビル(同:ラゲブリオ)が23万5,900例、ソトロビマブ(同:ゼビュディ)が15万例、ニルマトレルビル/リトナビル(同:パキロビッド)が1万4,100例という数字である。治療必要数の比較で最も抗ウイルス効果が高いと言われているニルマトレルビル/リトナビルはもともとの供給量が少ないと言われているものの、2月の承認から5ヵ月間でこの程度しか使われていないのである。この背景には当然併用禁忌の多さもあるだろう。となると同じように併用禁忌が多くなる見込みで、既存薬が使えない場合のみにエンシトレルビルを使うならば、必要となる患者は極めて少数ではないだろうか? しかも、この日、すでにエンシトレルビルの第III相パート結果は11月中に明らかになるという見通しも示された。この点にも委員の質問が相次いだ。最終的に審議時間終了の午後8時直前、ちょっとした動きがあった。厚労省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課長の吉田 易範氏が、医薬品第二部会委員で神村氏と同じ日本医師会常任理事である宮川 政昭氏に近づき耳打ちした。その直後、薬事分科会長である和歌山県立医科大学薬学部教授の太田 茂氏が「ほかの委員からどなたかご発言がありますでしょうか? よろしいようでしたら、本日の議論を取りまとめたいと思いますので、少しお時間をいただければ」と言いかけた瞬間、宮川氏が口を開いた。「今までの議論をお聞きして、先ほどPMDAの方からありましたように第III相試験の組み入れが全部終わったということですから、たぶん第III相試験は、大体時期的に言えば11月初旬(ここで事務方から『11月に総括報告書が提出されるということで聞いております』との声)…。はい。ですからそういうところをしっかりと見定めるということ、つまり緊急承認の枠組みというものが、ここである程度否定されたというわけではないものの、そういうものではないということであれば、第III相試験を待ってしっかりとした薬事としての承認体制を組んでいくというようなことも重要と思いますので、そういうことも含め、お考えいただければと思います」ここで件の島田氏が「宮川先生の意見に賛成です」と発言。これを受けて太田氏が委員に継続審議を打診。オンライン参加の委員も含め次から次に「異議なし」「賛成します」「賛成です」という声が相次ぎ、2時間強の長いようで短い議論は終結した。しかし、あの塩野義製薬を思いっきりディスった藤原氏は、今回の審議公開に同意した塩野義製薬に感謝の意を表していたが、これは私も同感である。ここまで透明性が確保できるならば、医薬品に対する一般人の信頼を勝ち取る一助になるのではないかと改めて感じている。参考薬事分科会・医薬品第二部会 合同会議 資料

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異種ワクチンでのブースター接種、安全性は?/BMJ

 新型コロナウイルス(COVID-19)ワクチン接種について、「ChAdOx1-S」(アストラゼネカ製)によるプライマリ接種とmRNAワクチン(「BNT162b2」[ファイザー製]または「mRNA-1273」[モデルナ製])によるブースター接種(異種ワクチン接種)は、プライマリ+ブースターをすべてmRNAワクチンで接種した場合(mRNA同種ワクチン3回接種)と比べて、重篤な有害イベントリスクの増大は認められなかったことを、デンマーク・Statens Serum InstitutのNiklas Worm Andersson氏らが報告した。同国内でワクチン接種をした成人を対象に行ったコホート試験の結果で、これまで異種ワクチンの安全性に関する情報は不十分だった。BMJ誌2022年7月13日号掲載の報告。ワクチン2/3回接種後28日の重篤な心血管・出血/血栓性有害イベントを比較 研究グループは、2021年1月1日~2022年3月26日にかけて、デンマーク国内を対象にコホート試験を行った。COVID-19ワクチンの初回接種に、「ChAdOx1-S」を接種し、その後ブースター接種としてmRNAワクチン(「BNT162b2」または「mRNA-1273」)を1~2回接種した成人(18~65歳)と、「BNT162b2」または「mRNA-1273」のみを2~3回接種した成人について比較検討した。 主要アウトカムは、ワクチン2回または3回接種後28日以内の、広範にわたる心血管・出血/血栓性有害イベント(虚血心イベント、脳血管イベント[梗塞または頭蓋内出血]、動脈血栓塞栓症、静脈血栓塞栓症[脳静脈血栓塞栓症または肺塞栓]、心筋炎/心膜炎など)による病院受診の発生だった。ポアソン回帰法で、特定の交絡因子を補正し発生率比を推算し評価した。24時間以上入院を要する重篤な有害イベント、両群で同等 計2回接種の異種ワクチン(ChAdOx1-S、mRNA)接種者は13万7,495人、同種ワクチン(mRNA、mRNA)接種者は268万8,142人だった。また、計3回接種の異種ワクチン(ChAdOx1-S、mRNA、mRNA)接種者は12万9,770人、同種ワクチン接種者(mRNA、mRNA、mRNA)は219万7,213人だった。 異種ワクチン群の同種ワクチン群に対する、ワクチン2/3回接種後28日の、心血管・出血/血栓性有害イベントの補正後発生率比は、虚血心イベントは2回接種群で1.22(95%信頼区間[CI]:0.79~1.91)、3回接種群で1.00(0.58~1.72)であった。また、脳血管イベントはそれぞれ0.74(0.40~1.34)と0.72(0.37~1.42)、動脈血栓塞栓症は1.12(0.13~9.58)と4.74(0.94~24.01)、静脈血栓塞栓症が0.79(0.45~1.38)と1.09(0.60~1.98)、心筋炎/心膜炎が0.84(0.18~3.96)と1.04(0.60~4.55)、血小板減少症と血液凝固障害が0.97(0.45~2.10)と0.89(0.21~3.77)、その他出血イベントが1.39(1.01~1.91)と1.02(0.70~1.47)だった。 24時間超の入院を要する重篤な有害イベントに限定した場合も、あらゆるアウトカムとの関連について有意差はなかった。 結果を踏まえて著者は、今回の試験結果は安心を与えるものだとしながらも、稀な有害事象もあるため、関連性を排除するものではないとしている。

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第118回 ランサムウェア被害の徳島・半田病院報告書に見る、病院のセキュリティ対策のずさんさ

オールスターゲーム後に気がかりなことこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。新型コロナウイルス感染症の第7波が到来、各地で感染者が急増しています。政府は現時点ではまん延防止措置等重点措置のような行動制限は必要ないとの方針ですが、このまま学校が夏休みに入り、帰省や観光等で人々の動きが活発になると、さらなる患者数の増加が予想されます。実際、街に出てみると、コロナ禍以前のような賑わいで、人々は普通に飲んで騒いでいます。昨年夏のように、医療提供体制が逼迫する恐れも出てきました。米国では、MLBでポストシーズンへの進出が絶望的となったロサンゼルス・エンジェルスの大谷翔平選手のトレード交渉が、今週開かれるオールスターゲーム後に本格化するのではと、マスコミが騒いでいます(8月2日の米東部時間午後6時、日本時間3日午前7時が今季のトレード期限)。仮にエンジェルスから放出されるとしたら、大谷選手はどのチームに行くのか。ワールドシリーズ進出を狙う強豪チームに行くのか…。その行き先がとても気がかりです。一方、日本においては、プロ野球のオールスターゲームが終わる7月末頃には、コロナ患者激増でまん延防止措置等重点措置が再び出されるのではないか、あるいは感染症法上の扱いを「2類相当」から「5類」に引き下げる議論が本格化するのではないか……。こちらもとても気がかりです。さて今回は、新型コロナウイルス“ではない”ウイルス、相変わらず各地の病院で被害が頻発している、コンピュータウイルスについて書いてみたいと思います。増える病院のサイバー攻撃報道6月20日、徳島県鳴門市の医療法人久仁会・鳴門山上病院にサイバー攻撃があり、 電子カルテや院内のLANシステムが使えなくなったことが判明し、各紙が報じました。各紙の報道によれば、感染したのは身代金要求型ウイルス「ランサムウェア」で、 19日午後にパソコンが勝手に再起動し、 プリンターから紙が大量に印刷されたのに職員が気付き、 被害が判明したとのことです。なお、同病院は患者のデータをバックアップしており、22日から通常診療を再開しています。また、7月4日には岐阜市の医療法人幸紀会・安江病院が外部から不正アクセスを受け、病院のコンピュータシステムに保管していた患者や職員、計約11万人分の個人情報が流出した可能性がある、と発表しました。各紙報道によると、流出した可能性があるのは、患者や新型コロナウイルスのワクチン接種者延べ11万1,991人と、職員715人分の名前や住所、電話番号や病歴などで、職員が5月27日朝、電子カルテのシステムが使えないことに気付き、不正アクセスが判明したそうです。翌28日には復旧したものの、29日まで救急患者の受け入れを停止しました。同病院は岐阜県警や厚生労働省に報告し、専門機関に調査を依頼したとのことです。全面復旧まで2カ月かかった徳島県つるぎ町の町立半田病院コンピュータウイルスによる病院の被害については、本連載でも「第86回 世界で猛威を振るうランサムウェア、徳島の町立病院を襲う」、「第91回 年末年始急展開の3事件、『アデュカヌマブ』『三重大汚職』『町立半田病院サイバー攻撃』のその後を読み解く」でも取り上げ、ランサムウェアが病院経営に与えるダメージについて書きました。第86回で詳しく書いた、徳島県つるぎ町の町立半田病院の被害はとくに深刻でした。2021年10月31日、病院システムのメインサーバーとバックアップサーバーが、「LockBit2.0」と名乗る国際的なハッカー集団が仕掛けるランサムウェアに感染。同病院ではこの攻撃で患者約8万5,000人分の電子カルテが閲覧不能となり、急患や新患の受け付けがができなくなるなど、大きな被害が出ました。最終的にサーバーが復旧し、通常診療に戻ったのはなんと2ヵ月後の2022年1月でした。セキュリティ対策ソフトをわざと稼働させずつるぎ町と同病院は、今年6月7日に「コンピュータウイルス感染事案有識者会議調査報告書」を公表しています。調査報告書によれば、電子カルテシステムにアクセスするパソコンの端末が古く、新しいセキュリティ対策ソフトを入れると、システムの動作が遅くなる恐れがあったため、電子カルテの販売事業者の指示で、このソフトの稼働が止められていたとのことです。具体的には、院内にあるパソコン(約200台)のうち、電子カルテシステムに接続する端末について、ウイルス対策ソフト(トレンドマイクロ社のウイルスバスター、マイクロソフト社のウィンドウズ・ディフェンダー)の動作のほか、ウィンドウズの定期更新、電子カルテシステムの動作に必要なマイクロソフト製プログラム(シルバーライト)の最新版への更新などが意図的に無効化されていました。報告書は「電子カルテの動作を優先しセキュリティ対策をないがしろにした」と厳しく指摘しています。さらに、電子カルテのメンテナンス目的で販売業者側が設置したVPN(仮想プラベートネットワーク)装置についても、2019年の設置後、修正プログラムが一度も適用されていませんでした。VPNの提供元であるフォーティネット社は2019年に脆弱性について注意喚起していますが、販売事業者はこれについても病院に説明していませんでした。「VPN装置の脆弱性を狙われ閉域網が破られた」調査報告書は、同病院にランサムウェアを仕掛けたサイバー犯罪集団により、「VPN装置の脆弱性を狙われ閉域網が破られた事案と判断するのが適当」と結論付けています。閉域網とは、外部のインターネットと完全に切り離された閉じられたネットワークのことです。かつては医療機関のネットワークはインターネットと切り離された閉域網を前提として構築されていました。しかし近年は、医療機関同士が患者情報をネットで共有したり、今回のケースのようにVPN装置を用いて、外部から操作したりと、閉域網ではなくなっているのが実情です。閉域網でないとしたら、それ相応の厳重なセキュリティ対策が必要になるわけですが、そこまでの対応をしている医療機関はまだ多くはありません。なお、事故発生当時は、同病院にはシステム担当者が1人しかおらず、セキュリティ対策に取り掛かる状況ではなかったとのことです。調査報告書は「起きるべくして起きてしまったインシデント」と総括、販売事業者側に対してもセキュリティソフトの停止を伝えず、VPNの修正ソフトも適用しないなど「事業者として責任を果たしていない」と、その問題点を強く非難しています。半田病院の「コンピュータウイルス感染事案有識者会議調査報告書」は、同病院のホームページにアップされており、誰でも閲覧し、ダウンロードすることができます1)。調査報告書の本編に加え、「調査報告書-技術編-」と「情報システムにおけるセキュリティ・コントロール・ガイドライン」も掲載されており、ホームページには、病院事業管理者である須藤 泰史氏の次のような言葉もあります。「この報告書には、我々の対応不足な点もたくさん指摘されていますが、広く日本の電子カルテシステムにおける問題も提起されています。本来なら、今後当院が電子カルテシステムをどのようにするのかの具体的な対策も提示して、皆様にご報告するべきだったと思いますが、まずはこれらを世に出して、全国の病院や事業所のセキュリティ強化に貢献できればと考え公開するものです」。同病院の事案で得られた教訓やノウハウを、全国の医療機関でも参考にしてほしいという強い気持ちが伝わってきます。全国の病院や診療所の院長は、この調査報告書の本編だけでも目を通されることをお勧めします。「一部の医療機関や警察、教育機関などを攻撃する」と「LockBit3.0」ところで、半田病院を襲ったランサムウェア「LockBit2.0」ですが、7月8日付の読売新聞の報道によれば「LockBit」は6月下旬、ダークウェブと呼ばれる闇サイトに開設しているホームページを一新。グループ名を「LockBit2.0」から「LockBit3.0」と改めたとのことです。このホームページでは一部の医療機関や警察、教育機関などを攻撃すると宣言。医療機関については、「死者が出る可能性がある」ところは避け、それ以外は、民間で収益を上げていれば攻撃対象にすると明記されているとのことです。ランサムウェアの被害多発を背景に、厚生労働省は今年3月に改定したばかりの「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第5.2版」を今年度内に再改定する予定です。また、厚生労働省の協力の下、日本医師会など医療・製薬分野の関係団体が、サイバー情報を平時から独自に収集・分析する新組織を年内にも発足させる方向で作業が進んでいるとのことです。リアルの世界だけではなく、サイバー空間においても、“ウイルス”は収まるどころかその威力をさらに増しているようです。参考1)徳島県つるぎ町立半田病院 コンピュータウイルス感染事案有識者会議調査報告書について

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コロナPCR検査等の誤判定、日本での要因は?

 新型コロナウイルス感染症の診断において、PCRをはじめとする核酸検査には高い信頼性が求められており、厚生労働省では、その測定性能や施設の能力の違いの実態把握と改善を目的として、2年にわたり「新型コロナウイルス感染症のPCR検査等にかかる精度管理調査業務」委託事業を行っている。今回、令和3年度調査結果について報告書がまとめられ、日本臨床検査薬協会(臨薬協)と日本分析機器工業会(分析工)がメディア勉強会を開催。同調査を実施、報告をとりまとめた宮地 勇人氏(新渡戸文化短期大学 副学長)が講演した。<外部精度管理調査の概要>実施期間:2021年11月7~25日参加施設(1,191施設):病院74.1%、衛生検査所14.7%、診療所3.8%、保健所3.1%、地方衛生研究所2.0%、検疫所1.6%など(自費検査の実施は、診療所 [93.3%]および臨時衛生検査所[80%]で多く、陰性証明書の発行を行っている施設は診療所[88.9%]で多い傾向がみられた。測定原理はリアルタイム PCR 法 が73.9%と最も多く、その他LAMP法、SmartAmp法などさまざまな等温核酸増幅法が用いられていた。プール法の実施施設は6.4%だった)。評価方法:陰性を含む濃度の異なる6試料について正答率を評価し、施設カテゴリーや測定法(機器・試薬およびその組み合わせで10施設以上で実施されていた21パターン)ごとに解析、誤判定要因の特定を行った。PCR等の偽陰性は医療機関で多い傾向、要因として挙がったのは 全体として、試料別にみた正答率は93.0~99.4%と総じて良好だったが、98施設(延べ139検体)で誤判定(偽陽性・偽陰性)があり、主に医療機関(病院・診療所)であった。試料別正答率を施設カテゴリー別にみると、地方衛生研究所や検疫所(100%)、保健所(96.7~100%)で高かったのに対し、病院(91.9~99.7%)や診療所(83.3~100%)で低かった。とくに診療所では、PCR検査等の偽陰性結果が比較的多くみられた。 偽陰性結果について詳細をみると、測定機器に依存する傾向がみられ、SmartGene(19施設)、TRCReady(26施設)、ミュータスワコーg1(19施設)使用施設に多く認められた(計64施設)。その他の要因を検討するため、上記測定機器を使用していた64施設を除く34施設で特性をみると、測定者に臨床検査技師や認定微生物検査技師等の認定資格なしの施設の割合が高く、導入時の性能評価未実施の施設の割合が高かった。 さらに34施設に対して誤判定要因についてヒアリング調査を行ったところ、「検出限界の未確認・再現性不良の可能性」といった試薬・機器に依存するものが22施設と最も多かった一方、測定前後の作業手順等に関わる下記5点も要因となっていることが明らかになった。・試料の取り違い(5施設15件)・陽性/陰性の判定指標の不適切さの可能性(3施設4件)・キャリーオーバー汚染(2施設2件)・測定試薬の管理の不適切さの可能性(1施設2件)・判定結果の転記ミスの可能性(1施設1件) 上記のうちとくに試料の取り違いについて、宮地氏は「1つの取り違いで必ず複数の誤判定が生じてしまう。今回の調査のように、事前に準備をしている状況でも起きているということは、大量検体が舞い込むような状況下ではさらに誤判定リスクが増していると懸念される」と指摘した。 そのほか今回の調査では、輸送培地に含まれる塩酸グアニジンが偽陰性リスクにつながりうることが示された。検査の拡大により、輸送培地として塩酸グアニジン溶液を含有して感染リスクを最小化した製品(SARS-CoV-2不活化試薬、PCRメディアSG、輸送用スワブキットなど)が使用されるようになっており、塩酸グアニジンが残存しているとPCR反応阻害による偽陰性リスクがあるため、使用している核酸抽出法がその影響を除外することを確認する必要がある。コロナ誤判定にスワブの種類は日本では影響なし スワブの素材により、ウイルス回収量が異なるということが世界的に指摘されている。今回の調査では、ウイルス回収量が最も高く臨床的感度が高いと報告されているナイロン製をはじめ、ポリアミド製、ポリウレタン製、ポリエステル製などの多様な素材の綿球が使用されていたが、明らかな差は認められなかった。宮地氏はこの結果から、「日本で一般的に使われているものは広く支障なく使えることが明らかになった。サプライ停滞時には、代替製品を使うことが可能」とした。 プール法の精度については、54施設を対象に3試料(5プール)の外部精度管理調査が実施された。正答率は94.4~100%と総じて良好で、誤判定があった施設は3施設であった。プールの個別試料の正答率は96.1~100%と総じて良好で、誤判定があった施設は3施設であった。計6施設で誤判定があり、その施設カテゴリーとしては病院等が多く、要因としては、・測定性能の確保(検出限界、再現性)・作業手順(検体の取り違い)・測定システム(ダイレクトPCRの使用)のほか、上述の6試料についての外部精度管理調査での誤判定ありの施設と、プール法での誤判定ありの施設に重複がみられた。 厚労省では、令和2年度調査の結果を踏まえて「新型コロナウイルス感染症のPCR検査等における精度管理マニュアル」を公開しているが、今回の調査で同マニュアルを利用していると答えた施設は39.2%と低く、とくに病院(32.6%)、診療所(28.9%)で低かった。マニュアルは今回の調査結果も反映して改訂されており、誤判定要因とその対策についてもまとめられている。

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1回の接種で効果が期待できる新型コロナワクチン「ジェコビデン筋注」【下平博士のDIノート】第102回

1回の接種で効果が期待できる新型コロナワクチン「ジェコビデン筋注」今回は、「新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチン(遺伝子組換えアデノウイルスベクター)(商品名:ジェコビデン筋注、製造販売元:ヤンセンファーマ)」を紹介します。本剤は、わが国で2剤目として承認されたウイルスベクターワクチンであり、1回の接種で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を予防することが期待されています。<効能・効果>本剤は、SARS-CoV-2による感染症の予防の適応で、2022年5月30日に承認されました。なお、現時点では本剤の予防効果の持続期間は確立していません。本剤の接種は18歳以上が対象です。<用法・用量>通常、1回0.5mLを筋肉内に接種します。追加免疫については、本剤の初回接種から少なくとも2ヵ月経過した後に2回目の接種を行うことができます。<安全性>主な副反応として、注射部位疼痛(57.9%)、疲労(46.1%)、頭痛(44.7%)、筋肉痛(40.4%)などが報告されています。また、重大な副反応として、ショック、アナフィラキシー、血栓症・血栓塞栓症(脳静脈血栓症・脳静脈洞血栓症、内臓静脈血栓症等)、ギラン・バレー症候群(いずれも頻度不明)が設定されています。<患者さんへの指導例>1.このワクチンを接種することで新型コロナウイルスに対する免疫ができ、新型コロナウイルス感染症の発症を予防します。2.医師による問診や検温、診察の結果から接種できるかどうかが判断されます。発熱している人などは本剤の接種を受けることができません。3.本剤の接種当日は激しい運動を避け、接種部位を清潔に保ってください。接種後は健康状態に留意し、接種部位の異常や体調の変化、高熱、痙攣など普段と違う症状がある場合には、速やかに医師の診察を受けてください。4.1回の接種で予防できるワクチンです。初回接種から2ヵ月以上経過した後に2回目の接種(追加免疫)を受けることができます。追加免疫の要否は医師により判断されます。5.本剤の接種直後または接種後に、心因性反応を含む血管迷走神経反射として失神が現れることがあります。接種後一定時間は接種施設で待機し、帰宅後もすぐに医師と連絡を取れるようにしておいてください。6.ワクチン接種後に、鼻血、青あざができる、出血が止まりにくい、ふくらはぎの痛み・腫れ、手足のしびれ、鋭い胸の痛みなどが起こった場合には、血栓症の恐れがありますので、すぐに受診してください。<Shimo's eyes>本剤は、わが国で5番目の新型コロナウイルスワクチンとして承認された1回接種で予防効果が期待できるワクチンです。これまで承認されているワクチンは、mRNAワクチンであるコミナティ筋注/同5~11歳用、スパイクバックス筋注と、アデノウイルスベクターワクチンであるバキスゼブリア筋注、および組み換えスパイクタンパクを抗原としたヌバキソビッド筋注がありました。本剤はバキスゼブリア筋注に続く2剤目のウイルスベクターワクチンです。本剤は新型コロナウイルスワクチンとして初めての1回接種型です。ワクチンを1回接種した場合、中等症や重症になるリスクを、未接種群と比較して約66%低減させたと報告されています。なお、予防効果を高めるために、2ヵ月以上経過してからの追加免疫が認められています。ただし、ほかのワクチンとの交互接種についての有効性および安全性は評価されていません。1回接種は0.5mLで、本剤1バイアルには5回接種分が含まれています。特徴としては、発熱の副反応の頻度が少ないことが挙げられます。一方、「重要な基本的注意」に血小板減少を伴う血栓症(TTS)について注意喚起されています。本症の多くは接種後3週間以内に発現し、致死的転帰の症例も報告されているため、血栓塞栓症もしくは血小板減少症のリスク因子を有する者への接種には注意が必要です。なお、本剤について現時点では公費負担での接種とはならないため、接種希望者は自費での接種が想定されています。参考1)PMDA 添付文書 ジェコビデン筋注

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米国、人種-民族間の健康格差、地域ごとに違いはあるか/Lancet

 米国の2000~19年の健康格差を体系的に分析したところ、5つの人種-民族別にみた平均余命の格差は広範かつ永続的に存在していたことを、米国・ワシントン大学のLaura Dwyer-Lindgren氏らGBD US Health Disparities Collaboratorsが報告した。米国の人種-民族間の平均余命には大きく永続的な格差が存在するとされていたが、これまでそのパターンが地域規模でどの程度異なるかは明らかになっていなかったという。今回、研究グループは、米国3,110郡について20年間にわたり、5つの人種-民族の平均余命を推定し、平均余命の時空間でみた変動および人種-民族間の格差を明らかにする解析を行った。Lancet誌2022年7月2日号掲載の報告。5つの人種-民族別に2000~19年の平均余命の変化を推定し評価 研究グループは、US National Vital Statistics Systemからの死亡登録データとUS National Center for Health Statisticsからの人口統計データを、新規の小規模エリア推定モデルに適用し、2000~19年の郡および5つの人種-民族(非ラテン・非ヒスパニック系白人[白人グループ]、非ラテン・非ヒスパニック系黒人[黒人グループ]、非ラテン・非ヒスパニック系アメリカ先住民/アラスカ先住民[AIANグループ]、非ラテン・非ヒスパニック系アジア・太平洋諸島系アメリカ人[APIグループ]、ラテン・ヒスパニック系アメリカ人[ラテン系グループ])で層別化した、年間性別死亡率と年間年齢別死亡率を推定した。 これらの死亡率について、死亡診断書で人種および民族の誤りを修正し、その後に簡易生命表を作成して出生時の平均余命を推定した。健康格差をなくし寿命を延伸するには、地域がカギ 2000~19年の平均余命の変動傾向は、人種-民族グループおよび郡で異なっていた。米国全体で平均余命の伸長が認められたのは、黒人グループ(変化:3.9歳[95%不確定区間[UI]:3.8~4.0]、2019年の平均余命:75.3歳[75.2~75.4])、APIグループ(2.9歳[2.7~3.0]、85.7歳[85.3~86.0])、ラテン系グループ(2.7歳[2.6~2.8]、82.2歳[82.0~82.5])、そして白人グループ(1.7歳[1.6~1.7]、78.9歳[78.9~79.0])だった。一方、AIANグループは変化が認められなかった(0.0歳[-0.3~0.4]、73.1歳[71.5~74.8])。 全米レベルでは、黒人グループと白人グループの平均余命の格差は対象期間中に縮小していた。しかしAIANグループと白人グループの同差は拡大していた。これらのパターンは、郡レベルにおいても広く認められた。 APIおよびラテン系グループと白人グループの平均余命の格差(白人グループのほうが平均余命は下回る)は、全米レベルでは2000~19年に拡大していた。しかし、郡レベルでみると、ラテン系グループは少数とはいえかなりの数(615/1,465郡[42.0%])でその差が縮小しており、APIグループは多数(401/666郡[60.2%])でその差が縮小していた。 すべての人種-民族グループで、平均余命の改善は対象期間の後期10年(2010~19年)よりも前期10年(2000~10年)のほうが郡全体にわたっており、大きかった。 結果を踏まえて著者は、「米国における社会的弱者の健康状態悪化と早期死亡の根本的原因に対処し、健康格差をなくして、すべての人の寿命を延伸するには、地域レベルのデータが不可欠である」と述べている。

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医師の生活を破壊するインフレ!「あの方法」で乗り越えよう【医師のためのお金の話】第58回

ついにインフレが到来しました。バブル崩壊後30年もの長きにわたって続いたデフレがいよいよ終わろうとしています。持続的に物価が上昇するインフレの世界では、「これまでの常識」がまったく通用しません。数年単位の欧米への留学経験のある医師以外は、リアルなインフレ経験のある人はほとんどいないのではないでしょうか。私も含めて、ほとんどの日本人はデフレの世界が永遠に続くと思っていたはずです…。インフレになっても収入が増えれば問題ありません。ところが医師の収入は医療財政で規定されています。つまりインフレに連動して収入が増えるわけではないのです。収入が増えないのに支出が増える…。このピンチを乗り切るための対策を考えてみましょう。インフレの持つすべてを轢き潰す破壊力インフレの世界では、あらゆるモノが値上がりしていきます。しかも今年だけ2%上昇して終わりというわけではありません。来年も2%、再来年も2%というように物価が持続的に上昇します。投資の世界では「複利」が重要視されています。毎年の利子が少しずつ増加して雪だるま式に資産が増えていく複利効果は、長期投資が推奨される理由の1つです。物理学者のアインシュタインが「複利は人類最大の発明」と呼んだことでも有名ですね。毎年2%の利子が続くと雪だるま式に資産が増えていきますが、インフレではこれと逆の状況が発生します。つまり、年率2%のインフレが持続すると「雪だるま式に」物価が上昇していくのです。米国の物価は、私たち日本人の感覚からすると驚くほど高いです。2022年度版のビックマック指数(ビッグマック1個の価格を比較して各国の経済力を測るための指数)は、米国5.81ドルに対して、日本3.38ドルでした。3月以降の急激な円安進行のために、足元では差はさらに開いています。おおむね2倍程度と思ってよいでしょう。1990年のバブル経済絶頂期では日本の物価の方が高かったのです。その後30年の間、米国では毎年2~3%のインフレが続きました。一方、日本はデフレ経済が続いていたため、平均すると物価上昇率は0%台でした。わずかなインフレ率の差で、30年後の物価は2倍近くも開きました。2~3%のインフレでさえ、これほどの影響力があります。現在欧米で進行中の10%近いインフレが、いかに深刻な問題かがわかりますね。医師がインフレに弱い理由医師の収入は医療財政から捻出されています。しかし周知のように日本の財政は火の車。インフレに連動して診療報酬がアップするとは考え難いですね。つまり、医師の収入は増えないのにモノの価格だけ上昇する、という悪夢のような状況が現実化するのです。医師はバブル経済崩壊後で唯一の勝ち組でした。なぜ医師は勝ち組になれたのでしょうか。その理由は医師の収入が“減少しなかった”からです。決して収入が大幅に増加したからではないのがポイントです。大して収入が増加したわけではないのに医師が勝ち組と目されるのは、その他の職種の収入が減少したからです。さらにデフレが続いたために、医師の実質的購買力は増加しました。まさに医師にとってはわが世の春だったのです。ところが、デフレからインフレに転換するとすべてが逆回転し始めます。収入は増加しないのに物価は上昇する。しかも他の職種の場合、収入は上昇する余地があります。彼らの多くは国家財政に収入が規定されているわけではないからです。マーケットの海賊、インフレに打ち克つ方法インフレは投資の世界にも大きな影響を及ぼします。比較的インフレに強いと思われている投資の世界でさえ、インフレによって手痛いダメージを受けてしまいます。インフレは“マーケットの海賊”といわれるほどです。米国の研究では、株式投資の収益率は10%、債券投資の収益率は5%程度といわれています。ところがインフレが年率3%の場合、株式投資の収益率は7%、債券投資にいたっては2%にまで低下してしまいます。収入が減って購買力が低下した分を投資で補おうとしても意味がないのでしょうか? 私はそうではないと思います。確かにインフレは投資成果にも悪影響を及ぼしますが、それでもプラスを維持していることに注目すべきです。インフレ率が2%の状況では、何も対策を打たなければマイナス2%です。一方、米国のケースでは株式投資なら7%、債券投資でも2%と、立派にインフレに対抗できています。もちろん、日本株や日本国債ではもう少し収益率は低い可能性が高くはなります。とくに債券投資はマイナス圏に沈んでいる可能性も否定できません。しかし、株式投資であれば、インフレに対抗できる可能性が高いでしょう。そして、株式投資が一般的になっているのは喜ばしいことです。私たちの生活を破壊するインフレに対抗するには、何らかのアクションを起こさなければいけません。株式投資はその候補の筆頭といえるでしょう。今からでも遅くありません。しっかり勉強してインフレの世界に備えましょう。

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認知症有病率の日本のコミュニティにおける20年間の推移

 認知症患者数は世界的に増加しており、とくに世界で最も高齢化が進む日本において、その傾向は顕著である。認知症高齢者の増加は、予防が必要な医学的および社会経済的な問題であるが、実情について十分に把握できているとはいえない。愛媛県・平成病院の清水 秀明氏らは、1997~2016年に4回実施した愛媛県中山町における認知症サブタイプ横断研究の結果を解析し、認知症有病率の経年的傾向について報告した。その結果、認知症の有病率は、人口の高齢化以上に増加しており、高齢化だけでない因子が関与している可能性が示唆された。著者らは、認知症高齢者の増加を食い止めるためには、認知症発症率、死亡率、予後の経年的傾向や認知症の増進・予防に関連する因子の解明および予防戦略の策定が必要であるとしている。Psychogeriatrics誌オンライン版2022年6月26日号の報告。認知症有病率は年齢標準化すると有意に増加 愛媛県中山町に在住する65歳以上のすべての住民を対象とし、1997年、2004年、2012年、2016年の4回にわたり、認知症に関する横断的研究を実施した。すべての原因による認知症、アルツハイマー病、血管性認知症、その他/分類不能の認知症の有病率について、経年的傾向を調査した。 アルツハイマー病など認知症の有病率について経年的傾向を調査した主な結果は以下のとおり。・すべての原因による認知症の年齢標準化有病率は、有意に増加していた。・アルツハイマー病、その他/分類不能の認知症においても同様の傾向が認められたが、血管性認知症では有意な変化が認められなかった。【すべての原因による認知症の有病率】1997年:4.5%、2004年:5.7%、2012年:5.3%、2016年:9.5%(P for trend<0.05)【アルツハイマー病の有病率】1997年:1.7%、2004年:3.0%、2012年:2.5%、2016年:4.9%(P for trend<0.05)【血管性認知症の有病率】1997年:2.1%、2004年:1.8%、2012年:1.8%、2016年:2.4%(P for trend=0.77)【その他/分類不能の認知症の有病率】1997年:0.8%、2004年:1.0%、2012年:1.0%、2016年:2.2%(P for trend<0.05)・すべての原因による認知症とアルツハイマー病の粗有病率は、75~79歳および85歳以上の高齢者において、1997年から2016年に増加が認められた(すべてのP for trend<0.05)。・同様の傾向は、80歳以上の高齢者において、その他/分類不能の認知症で認められたが(すべてのP for trend<0.05)、血管性認知症では認められなかった。

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同時懸濁による配合変化が生じたため最適処方を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第48回

 今回は、経管投与のトラブルを解決した処方提案を紹介します。薬剤を経管投薬する際は簡易懸濁法がとても便利ですが、崩壊・懸濁の可否に加えて、同時懸濁による配合変化も事前に確認しましょう。患者情報80歳、男性(施設入居)基礎疾患アテローム血栓性脳梗塞、右内頚動脈狭窄症、認知症、膀胱がん術後服薬管理施設職員処方内容1.クロピドグレル錠75mg 1錠 朝食後2.アスピリン腸溶錠100mg 1錠 朝食後3.イルソグラジン口腔内崩壊錠4mg 1錠 朝食後4.ロスバスタチン口腔内崩壊錠2.5mg 1錠 朝食後5.酸化マグネシウム錠330mg 4錠 朝夕食後6.センナ・センナ実顆粒 1g 朝夕食後本症例のポイントこの患者さんは、直近で脳梗塞を急性発症して入院し、内服調整ののち退院しました。退院処方では抗血小板薬が2剤追加されていました。大脳が広範囲にわたって梗塞していたことから意識障害があり、むせこみも強いことから、経鼻胃管を挿入して経管投薬を継続する指示となっていました。退院してまもなく、施設看護師より経鼻チューブが詰まりやすいのでどうにかならないかという相談がありました。施設を訪問し、退院処方の内容を確認していると、簡易懸濁法による薬剤投与にいくつか問題があることに気付きました。<簡易懸濁法での薬剤投与の問題1)>(1)簡易懸濁法に適していない薬剤があるセンナ・センナ実顆粒(商品名:アローゼン顆粒)は簡易懸濁法で崩壊・懸濁しづらく、通過困難から経鼻チューブを詰まらせていた可能性がある。(2)複数薬の同時懸濁で配合変化の問題がある酸化マグネシウムは崩壊・懸濁後の液性が強アルカリ(pHが約10)となり、配合変化において問題となる薬剤の代表格である。本事例においては、クロピドグレルが酸化マグネシウムとの同時懸濁によりクロピドグレル(イオン形)から水に難溶性で粘性のあるクロピドグレル(分子形)に変化したことで、チューブを閉塞させた可能性がある。また、経管投与量自体が減少している可能性もある。2)そこで、簡易懸濁法による投与を最適化するための提案をトレーシングレポートと電話で実施することにしました。処方提案と経過医師に、上記の問題(1)(2)より、現行の処方薬では簡易懸濁法による投与が困難であること説明しました。改善策として、(1)簡易懸濁が困難なセンナ・センナ実顆粒を、簡易懸濁可能なピコスルファートナトリウム錠2.5mgに変更することを提案しました。また、(2)クロピドグレル錠と酸化マグネシウム錠に関しては、同時懸濁による配合変化を避けるため、酸化マグネシウム錠の処方コメントとして、別包にして同時に懸濁しない旨を処方箋に追記するよう依頼しました。医師より、その場で承認が得られたため、当日中に変更内容を反映した対応を開始しました。その後は、経鼻チューブの閉塞もなく、排便コントロールも安定していることを確認し、現在もモニタリングしています。1)藤島一郎監修, 倉田なおみ編集. 内服薬 経管投与ハンドブック 〜簡易懸濁法可能医薬品一覧〜 第3版. じほう;2015.2)Aoki M, et al. J Pharm Health Care Sci. 7;18: 2021.

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063)「あと5分」の駆け込み受診あるある【Dr.デルぽんの診察室観察日記】

第63回 「あと5分」の駆け込み受診あるあるゆるい皮膚科勤務医デルぽんです☆連日暑い日が続きますが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。梅雨も明け、皮膚科の繁忙期(夏)がいよいよ本番といった今日この頃ですが、これを書いているいま現在は、暑過ぎるせいか意外と外来の患者数は控えめな印象です。家から出られないほどの暑さ…!? 熱中症、要注意ですね。それはさておき、先日の外来のお話。スタッフと「ここのところ外来が落ちついていますねー」などと言いながら、半ば休憩の支度をしつつ受付終了時間を待っていた時のこと。もうあと数分、「午前診はこれでおしまい!」と確信したその瞬間、まさかの飛び込み受診が入り、しかも顔面挫創。聞くと、先行する友達の自転車とぶつかり、転倒してしまったのだとか。未来ある若者の顔面、傷を残すわけにいきません。結局そのまま処置に入り、30分ほど超過して午前の外来を終えました。受付終了間際の飛び込み処置、外来あるあるですね。お久しぶりな患者さんの重症例や、重めの新患も飛び込みで来がち~~!(時間外で来ることもある…)「最後の最後まで気が抜けないな!」と、あらためて思ったのでした。それでは、また〜!

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英語で「1日の排尿回数」は?【1分★医療英語】第36回

第36回 英語で「1日の排尿回数」は?I think my child does not have an appetite recently.(最近、うちの子の食欲があまりないような気がします) I see. Do you remember how many times a day he/she had a wet diaper yesterday?(なるほど、昨日は1日に何回くらいおしっこをしたか覚えていますか?)《例文》患者She had only four wet diapers today. Is it normal?(私の娘は今日4回しかおしっこをしていません。これって普通ですか?)医師Yes, it is totally normal for her age!(娘さんの年齢でしたら、まったく問題ないですよ!)《解説》今回は小児特有の英語表現をお伝えします。日本語に直訳しづらいのですが、“a wet diaper”で「オムツをしているお子さんのおしっこ」を示します。“two wet diapers”は「2回おしっこをした」(直訳では「オムツが2回濡れた」)というように、排尿回数を表すことができます。生後から3歳前後まではオムツをしている子が多いかと思いますが、赤ちゃんや幼児が陥りやすい脱水症状の指標として“wet diaper”の回数を聞くことは医療者にとって必須です。上記の表現のように“How many times a day does your baby have a wet diaper?”と聞く以外にも、“How many wet diapers does your baby have every day?”という表現も使われ、同様の意味となります。いずれも聞きたいのは「オムツをしている赤ちゃんの排尿回数」です。オムツを卒業した子どもの場合は、“pee”を用いて“How many times did you pee yesterday?”(昨日何回おしっこをしましたか?)と聞きます。さらに大きくなった青少年期や大人に対してはいろいろな表現がありますが、“go to the bathroom”を用いて、“How many times a day do you go to the bathroom?” で「1日に何回排尿しますか?」と聞くことが多い印象です。「排尿する」には“urinate”という単語がありますが、子どもの患者さんや家族に対して使うとかなり仰々しい印象になるので、医療者同士の会話以外ではあまり使われません。小児領域では医療者同士の会話でも“wet diaper”や“pee”を使う人が多いです。上記の表現をマスターし、子どもの患者さんが来た際にはぜひ使ってみてください。講師紹介

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第108回 大規模通信障害を受け、医療機関に代替手段確保を呼び掛け/厚労省

<先週の動き>1.大規模通信障害を受け、医療機関に代替手段確保を呼び掛け/厚労省2.コロナワクチン支援事業、期限を9月まで延長/厚労省3.テクノロジーの活用で、介護の生産性の向上あるか検証へ/厚労省4.診療報酬改定に加え、インフレが病院経営に直撃か/福祉医療機構5.電子処方箋発行にHPKIカードが必須、医薬関係者は早期取得を/厚労省1.大規模通信障害を受け、医療機関に代替手段確保を呼び掛け/厚労省2日に発生したKDDIの大規模な通信障害が長期化し、復旧まで3日ほどかかったことから、厚生労働省医政局は4日、全国の自治体ならびに医療機関に向けて、通信障害が発生した場合でも、診療などに影響が生じることがないよう平時から体制を整備していく必要性を呼び掛けた。医療施設における休日夜間の診療体制を維持するため、職員との連絡手段を確保すること患者からの電話を受信できるよう複数の通信手段を確保し、受信可能な電話番号をホームページに掲載するなどの体制を整備すること在宅医療や訪問看護などを実施している医療施設等において、当該医療施設等が利用している連絡手段が使用できない場合は、固定電話等の代替的な連絡先を患者等に伝えること特にリスクの高い在宅患者等について、患者等との連絡がとれない場合には、別の連絡手段を確保することや、頻回な訪問等による安否確認を行うこと以上を参考に、通信障害が発生した場合であっても診療を継続できるよう周知を求めている。(参考)通信障害時にも診療継続が可能となるよう、在宅患者への「代替的な連絡先」提示などの体制を確保せよ―厚労省(Gem Med)通信障害発生時における通信手段の確保について(厚労省)2.コロナワクチン支援事業、期限を9月まで延長/厚労省厚労省は6日、新型コロナウイルス感染症緊急包括支援事業の期限を7月末までから9月末まで延長することを各都道府県に通知した。延長されたのは、「時間外・休日のワクチン接種会場への医療従事者派遣事業」「新型コロナウイルスワクチン接種体制支援事業」。病院への支援として、1日50回以上ワクチン接種を行った場合、1日当たり10万円が交付される。また、1日50回以上の接種を週1日以上達成する週が4週間以上ある場合、追加で医師1人1時間当たり7,550円などが交付される(集団接種会場への医療従事者派遣と同額)。診療所への支援としては、期間中に週100回以上の接種を4週間以上行った場合、達成した週における接種1回当たり2,000円を、同様に150回以上を4週間以上行った場合は1回当たり3,000円を交付する。この要件を満たさずとも、1日50回以上の接種を行った場合には、1日当たり定額で10万円が交付される。(参考)コロナワクチン接種推進に向けた補助(緊急包括支援事業)、期限を「9月」まで延長—厚労省(Gem Med)医療機関のワクチン接種、財政支援の期間延長 9月末まで、10月以降は今後判断(CB news)令和4年度新型コロナウイルス感染症緊急包括支援事業(医療分)の実施に当たっての取扱いについて(厚労省)3.テクノロジーの活用で、介護の生産性の向上あるか検証へ/厚労省厚労省は、持ち回り開催の社会保障審議会介護給付費分科会において、テクノロジーの活用により介護サービスの質の向上および業務効率化を推進していく観点から、実証研究の結果なども踏まえ、見直しを行うことを明らかにした。具体的には、見守り機器等を活用した夜間見守り、介護ロボットの活用などを実際に実証事業から得られたデータの分析を行い、次期介護報酬改定の検討に向けた、エビデンスの収集を行う。これらのテクノロジーの導入によって、ケアの質が適切に確保されているかどうか、介護職員の働き方や職場環境がどう改善したかなどについて10月以降に事後検討を行う。(参考)テクノロジー活用等による生産性向上の取組に係る効果検証について(厚労省)見守り機器活用など4つのテーマで効果実証へ 次期介護報酬改定の検討材料に、厚労省(CB news)4.診療報酬改定に加え、インフレが病院経営に直撃か/福祉医療機構福祉医療機構が2022年6月に行った病院経営動向調査の結果によると、一般病院における医業収益のDI(増加病院と減少病院の割合の差:%ポイント)は、前回調査から15%ポイント低下した。一方、医業費用のDIは前回調査から15%ポイント上昇、人件費増減のDIは前回調査から10%ポイント上昇しているなど、医療機関が診療報酬改定の影響だけでなく、物価高の影響を受けていることが明らかとなった。医療機関にとっては、電気代、水道代に加え、病院食の材料費の値上げが続いており、経営に対する影響が強まっていると考えられる。(参考)病院経営動向調査の概要(福祉医療機構)一般病院の医業収益、診療報酬改定で減収病院が多数に 福祉医療機構調査、改定直前の見込み下回るも費用増(CB news)コスト圧縮限界、病院給食明らかに赤字 物価高騰が委託先も直撃(同)5.電子処方箋発行にHPKIカードが必須、医薬関係者は早期取得を/厚労省厚労省は、ホームページに電子処方箋の概要案内を掲載した。電子処方箋の導入は2023年1月からで、複数の医療機関や薬局で直近に処方・調剤された情報の参照、それらを活用した重複投薬チェックなどができるようになる。患者はマイナンバーカードがなくとも、従来の健康保険証を利用して電子処方箋の発行を受けられるが、医療機関が発行するためには、医療機関において顔認証付きカードリーダーの準備が必要(オンライン資格確認の仕組みを活用するため)であり、日本医師会 電子認証センターでHPKIカードの発行手続きが必要となる。このため厚労省は、HPKIカードの早期取得を医師や薬剤師に働きかけると共に、医療機関側にオンライン資格確認のために顔認証付きカードリーダーの補助金を活用して整備を求めていく。なお、HPKIカードの申請には、申請書と住民票、身分証のコピー(運転免許証、マイナンバーカード)、医師・薬剤師免許のコピー、顔写真が必要だ。(参考)電子処方箋 概要案内【病院・診療所】(厚労省)オンライン資格確認導入に向けた準備作業の手引き(同)医師資格証(HPKIカード)新規お申込み(日本医師会 電子認証センター)電子処方箋導入補助金、1施設当たり7.7万-162.2万円 厚労省、HPKIの早期取得・オンライン資格確認導入促す(CB news)

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第51回 期待度数がわかれば簡単! クラメール連関係数の計算法【統計のそこが知りたい!】

第51回 期待度数がわかれば簡単! クラメール連関係数の計算法今回は、前回第50回で学んだ、クロス集計表の表側・表頭の2項目の関連性の強さを表す指標であるクラメール連関係数(Cramer's coefficient of association)の計算方法について解析します。■期待度数医師の所属する施設形態とある循環器疾患治療薬の処方の集計表(表1)において回答人数の横計と縦計を掛け、全回答人数で割った値を「期待度数」と言います。表1 事例の集計表■クラメール連関係数まず、表2のように期待度数の横%を算出します。表2 期待度数の横%期待度数の横%表はどの医師の所属施設の経営形態も全体と一致します。このような集計結果が得られた場合、医師の所属施設の経営形態と処方薬剤は「関連性がまったくない」と言え、クラメール連関係数は0となります。調査より得られたクロス集計表の回答人数を「実測度数」と言います。実測度数と期待度数の値を比べ、値が一致すればクラメール連関係数は0、値の差が大きくなるほどクラメール連関係数は大きくなると考えます。この考えに基づき、表3に示す式で各セルの値を計算します。表3 係数計算の一覧表 セルの値を合計して得られた値をカイ二乗値といいます。クラメール連関係数は“r”は、カイ二乗値を用いた次の計算式で求められます。※kはクロス集計表2項目のカテゴリー数で小さいほうの値(この事例の場合はどちらもカテゴリー数は3つなので3となります)上記の計算式に数値を代入することで、この場合のクラメール連関係数は、下記の通り求めることができます。クラメール連関係数はいくつ以上あれば関連性があるという統計学的基準はありません。クロス集計表を見る限り関連性があるように思えても、クラメール連関係数の値は大きな値を示さないことを考慮して、一般的には、“0.1”を境目にして「“0.1以上”であれば関連がある」と解釈します。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ「わかる統計教室」第4回 ギモンを解決! 一問一答質問10 2項目間の関連性を把握する際の統計学的手法の使い分けは?(その1)質問10 2項目間の関連性を把握する際の統計学的手法の使い分けは?(その2)質問10 2項目間の関連性を把握する際の統計学的手法の使い分けは?(その3)

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「乳癌診療ガイドライン」4年ぶり全面改訂、ポイントは?/日本乳癌学会

 4年ぶりに乳癌診療ガイドラインが全面改訂され、第30回日本乳癌学会学術総会で「乳癌診療ガイドライン2022年版 改定のポイント」と題したプログラムが開催された。本稿では、乳癌診療ガイドライン2022年版の治療編(薬物療法、外科療法、放射線療法)の主な改訂点について紹介する。治療編全体における改訂点として、乳癌診療ガイドライン2022年版では冒頭に「総説」を追加。病気/サブタイプ別の治療方針のシェーマや各CQ/BQ/FRQの治療における位置付けを解説し、治療全体の流れを理解できる構成となっている。乳癌診療ガイドライン2022「薬物療法」の変更点 乳癌診療ガイドライン2022年版の「薬物療法」については遠山 竜也氏(名古屋市立大学)が登壇し、6つの新設CQを中心に解説。まず、早期乳がんに対するエスカレーション治療として、術後のアベマシクリブとS-1について、乳癌診療ガイドライン2022年版には2つのCQが新設された。アベマシクリブはmonarchE試験の結果から、ホルモン受容体陽性/HER2陰性で再発高リスクの患者に対する術後療法として「内分泌療法にアベマシクリブを2年間併用することを強く推奨」(CQ6)。S-1は現在承認申請中であるものの、POTENT試験の結果に基づき「内分泌療法にS-1を1年間併用することを強く推奨」した(CQ5)。両療法における“再発高リスク”の考え方についてはそれぞれ適格基準の表を乳癌診療ガイドライン2022年版では挿入したほか、総説でその位置づけを解説。遠山氏は「POTENT試験のほうが対象が広いので、そちらにしか該当しない症例にはS-1を、両基準に合致する症例は副作用のプロファイルや投与期間を考慮して使っていくことになるのではないか」と述べた。 周術期の免疫療法として、現在承認申請中ではあるが、トリプルネガティブ乳がん(TNBC)に対するペムブロリズマブについても乳癌診療ガイドライン2022年版ではCQが新設された。KEYNOTE-522試験の結果に基づき、周術期TNBCに対して「ペムブロリズマブの投与を弱く推奨」している(CQ16)。“弱く”という表現になった理由について同氏は、有害事象があること、どのような患者に対して投与すべきかに充分なコンセンサスがないことを指摘。「今回は先取りして取り上げ、このような表現となっているが、承認されたときには改めてディスカッションが必要」とした。 閉経前のホルモン受容体陽性/HER2陰性転移・再発乳がんに対する1次治療としてのCDK4/6阻害薬について、今回の乳癌診療ガイドライン2022年版で初めてCQが設けられた。日本で承認済のパルボシクリブ・アベマシクリブについては閉経後患者対象の試験でPFS改善が報告されているが、リボシクリブについてのMONALEESA-7試験では閉経前の患者でPFSおよびOSが改善している。併用薬については、タモキシフェンとの併用群でQT延長がみられたことでFDA承認が見送られていることから、乳癌診療ガイドライン2022年版においても非ステロイド性アロマターゼ阻害薬との併用が推奨された(CQ18)。 その他、「残存病変に基づく治療選択」として、術後のカペシタビン(HER2陰性)とT-DM1(HER2陽性)について乳癌診療ガイドライン2022年版には2つのCQが新設されている(CQ10、CQ13)。乳癌診療ガイドライン2022年版「外科療法」の変更点 九冨 五郎氏(札幌医科大学)は外科療法における今回の乳癌診療ガイドライン2022年版改訂の目玉としてCQ2を挙げた。まずCQ2aでは、術前化学療法(NAC)前後の臨床的リンパ節転移陰性(cN0)乳がんに対する腋窩リンパ節郭清省略を目的としたセンチネルリンパ節生検について、2018年版では“弱く”推奨していたものを、乳癌診療ガイドライン2022年版では“強く”推奨に変更している。理由について同氏は、「新しい強力なデータが出たわけではないが、日常診療で9割近い先生が実施しているのなら、それはもう“強い”推奨ではないか、というボードでの議論を経て、変更している」と解説した。 臨床的リンパ節転移陽性(cN+)でNAC 後cN0の症例に対しては、今回の乳癌診療ガイドライン2022年版では新たにtailored axillary surgery (TAS)を行う場合について推奨を追加。「TASによる腋窩リンパ節郭清省略を行うことを弱く推奨」とされた(CQ2b)。九冨氏は、現在targeted axillary dissection (TAD)の妥当性を検討する前向き試験が国内で進行中であることに触れ、「こういったデータが出てくれば、またガイドラインの記述も変わってくる可能性がある」とした。 Stage IV乳がんに対する原発巣切除については、乳癌診療ガイドライン2022年版ではメタ解析の結果を考慮して「予後の改善を目的とした原発巣切除は行わないことを強く推奨(CQ4a)」としたほか、「局所制御を目的とした原発巣切除は行うことを弱く推奨(CQ4b)」とされた。 また、今後保険収載される可能性を考慮し、乳房再建法としての脂肪注入について乳癌診療ガイドライン2022年版では新規のFRQが追加された。「細心の注意のもとに行ってもよい」という記述となっている(FRQ6)。 2018年版で8つあったCQは乳癌診療ガイドライン2022年版では4つとなり、それぞれFRQやBQに変更して取り上げられている。例えば低リスクDCISに対する非切除の意義については、日本も含め現在複数の無作為化試験や観察研究が進行中であることから、乳癌診療ガイドライン2022年版ではFRQとして記述された(FRQ1)。九冨氏は外科領域では大規模な無作為化試験が組みづらくエビデンスレベルが低いのが現状としたうえで、日本での試験もいくつか進行中で、日本からの発信が増えていくことに期待したいと締めくくった。乳癌診療ガイドライン2022年版「放射線療法」の変更点 放射線療法における乳癌診療ガイドライン2022年版での改訂・新設事項は以下の通り。吉村 通央氏(京都大学)がそれぞれの根拠となったデータとともに解説した。改訂:CQ1 寡分割全乳房照射/CQ3 APBI/ CQ5 腋窩LN転移1~3個のPMRT新設:BQ7 腫瘍径大および断端陽性のPMRT/FRQ2 RNI or PMRTの寡分割照射/ FRQ6オリゴ転移に対するSBRT 寡分割全乳房照射については、メタアナリシスの結果、局所再発率や全生存率、整容性に有意差はなく、急性皮膚障害についてはむしろ寡分割で低下しており、乳癌診療ガイドライン2022年版では「50歳以上、T1-2、化学療法を行っていない」という3条件以外の患者、これまで記載のなかったDCIS症例に対しても、寡分割照射を強く推奨している(CQ1)。 APBIの治療成績については4年間で長期の報告が複数出ており、それらのメタアナリシス結果から、乳癌診療ガイドライン2022年版では若年ではない低リスク症例に十分な精度管理のもとで行うなどの条件付きで、非推奨から弱い推奨へ変更された(CQ3)。なお術中照射については、「全乳房照射より局所再発率が高いが全生存率には差がないことを説明した上で希望する患者に行うこと」とされた。 腋窩LN転移1~3個の患者に対するPMRTについては、EBCTCGや観察研究のメタアナリシスが行われている。それらを基に、ASCO/ASTRO/SSO PMRTガイドライン2016では、局所・領域再発率や乳がん死亡率を低下させるが、再発リスクの低い患者では害が益を上回る症例もあり、患者ごとに適応を決めるべきとされている。2018年版では、推奨の強さが合意に至らなかったが、乳癌診療ガイドライン2022年版では合意率は71%ではあったが「弱い推奨」に変更された。 リンパ節転移陰性で腫瘍径が大きい場合もしくは術後断端陽性の場合について、2018年版までは明記がなかったが、乳癌診療ガイドライン2022年版で初めて明記され、「PMRTを行うことが望ましい」とされた(BQ7)。 その他、2つのFRQが新設されている。1つ目は領域リンパ節照射あるいはPMRTにおける寡分割照射についてで、無作為化試験では治療効果・有害事象に有意差はなく、急性期皮膚炎は軽いことが報告されており、「エビデンスは十分ではないが総合的に検討して、行うことを考慮してもよい」とされた(FRQ2)。吉村氏は、新型コロナ流行の影響で、実際多くの施設でこの2年間は16回照射としていた状況があるとし、とくに有害事象は報告されていないと話した。 もう1つはオリゴ転移に対するSBRTについてで、無作為化第II相試験(SABR-COMET)の結果SBRTの追加で治療成績が良好との報告がある。同試験における乳がん症例は18%であることに注意が必要ではあるが、St Gallen2021でも80%以上のパネル医師がT2N1M1で根治を目指して局所治療を加えると回答している。そこで乳癌診療ガイドライン2022年版では、「症例を選択した上で考慮してもよい」とされている。ただし、今年のASCOで発表されたBR002試験の結果がネガティブだったことから、吉村氏は「今後の方向性に注意が必要」と指摘した。■関連記事POTENT試験の探索的解析結果、monarchEの適格基準でも検討

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