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ネオアンチゲンT細胞受容体遺伝子治療 転移性膵がんでの有効性(解説:宮嶋哲氏)

 免疫治療など、さまざまな薬物療法が進歩を続ける一方で、膵がんはいまだに悪性腫瘍の中で最も致死率の高いがん種である。わが国においてもがん遺伝子パネル検査が日常診療にも導入され、ゲノム診療が本格化しつつある。膵がんでも遺伝子異常が数多く検出されているものの、BRCA遺伝子変異やマイクロサテライト不安定性の頻度は低く、治療薬に結び付く遺伝子異常はいまだに数少ないのが現状である。 膵がんの免疫治療に対する耐性機序の1つにネオアンチゲン反応性TILの不足が示唆されている。膵がんはKRASにホットスポット変異を含むことが多いため、変異KRASに対する同種異系T細胞受容体(TCR)遺伝子治療の有効性が期待される。本論文では、同種HLA-C*08:02制限KRAS G12Dに反応性を持つTCRを発現するよう設計された自己T細胞で治療施行した転移性膵がん症例について報告されている。 症例は71歳女性、術前補助療法としてFOLFIRINOX 4サイクル施行後、根治手術を施行。病期診断はIIB(ypT3N1M0R)であり、後療法としてFOLFIRINOXと化学放射線併用療法が施行されている。その後、肺右下葉への転移が出現し、同時に腫瘍のゲノム検査を行ったところ、ネオアンチゲンKRAS G12Dを標的としうることが判明した。そこで、FDAならびに当該施設の倫理審査承認後、変異型KRAS G12Dを標的とする同種異系HLA-C*08:02制限TCRを発現する自家末梢血T細胞による治療の導入に至っている。T細胞注入の1ヵ月後に患者の転移性肺病変の退縮が観察され、RECISTでPRと判定されている。T細胞移植6ヵ月後の最新のフォローアップが進行中でありPR率は72%であった。人工T細胞注入後6ヵ月経過後も人工T細胞は循環T細胞の約2.4%を占めており、末梢血での持続性も示されている。本報告は、ゲノム検査から判明したネオアンチゲンを標的とする、まさに個別化医療を難治性膵がんで実現した点が高く評価される。ただし、著者らも述べているように本法を用いた前向き臨床試験が必要と思われるとともに、こうした遺伝子工学技術の普及がわが国においても望まれる。

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日本人労働者の睡眠負債がプレゼンティズムや心理的苦痛に及ぼす影響

 健康上の問題を抱えながら仕事や業務に携わる状態を表すプレゼンティズム(presenteeism)は、生産性の低下やメンタルヘルスの問題による欠勤のリスク指標である。北海道医療大学の高野 裕太氏らは、睡眠負債、ソーシャル・ジェットラグ(社会的時差ぼけ)、不眠症状がプレゼンティズムや心理的苦痛に及ぼす影響を調査した。その結果、不眠症状は、睡眠負債や社会的時差ぼけよりも、プレゼンティズムや心理的苦痛に大きな影響を及ぼしていることが明らかとなった。プレゼンティズムや心理的苦痛に対し、睡眠負債もまた独立した影響を及ぼしているが、社会的時差ぼけの影響は認められなかった。BioPsychoSocial Medicine誌2022年6月3日号の報告。 研究参加者は、日本人労働者351人(男性:271人、女性:79人、その他:1人、平均年齢:49±9.49歳)。参加の適格基準は、フルタイム雇用、1日8時間・週5日勤務、夜勤なしとした。参加者は、睡眠負債、社会的時差ぼけ、不眠症状、プレゼンティズム、心理的苦痛を測定するための質問票に回答した。 主な結果は以下のとおり。・不眠症状は、睡眠負債や社会的時差ぼけと比較し、プレゼンティズム(調整オッズ比[aOR]:5.61、95%信頼区間[CI]:2.88~10.91)や心理的苦痛(aOR:7.29、95%CI:3.06~17.35)に対する影響が最も大きかった。・睡眠負債は、社会的時差ぼけと比較し、プレゼンティズム(aOR:1.61、95%CI:1.14~2.27)や心理的苦痛(aOR:1.68、95%CI:1.11~2.54)への影響が大きかった。・プレゼンティズム(aOR:1.04、95%CI:0.91~1.20)や心理的苦痛(aOR:0.96、95%CI:0.76~1.22)に対する社会的時差ぼけの影響は認められなかった。

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「S状結腸切除術」をいろんな画風で描いてみた【誰も教えてくれない手術記録 】第16回

第16回 「S状結腸切除術」をいろんな画風で描いてみたこんにちは! 手術を描く外科医おぺなかです。皆さんは普段、どんなスタイル(画風)でオペレコを描いていますか? 僕が本連載でお見せしているのはカラーのデジタルオペレコが中心ですが、世の中にはデジタルでも色を入れないモノクロ派や、紙とペンで手書きのアナログ派も大勢いることでしょう。デジタルの利点を幅広く活かして、かつ時短につながるオペレコ作成術をどんどん広めたいところですが、オペレコの描き方にはそれぞれ描き慣れたスタイルがあって当然です。オペレコの正しい描き方は決まっていませんし、オペレコとしての役割が十分に果たせていれば、どんなスタイルでも問題ないと思います。とはいえ、まだ自身のスタイルが定まっていない先生もいるかと思いますので、今回は、僕がさまざまなデジタルのスタイルで「S状結腸切除術」の一場面を描いてみました。それぞれのイラストを見比べて、好みのスタイルを見つけてくださいね。参考に、それぞれにかかった時間も付記しておきます。※今回紹介するイラストは、すべてペイントアプリProcreateを使用して描きました。(1)ラフ画(モノクロ)こちらは「鉛筆ツール」で描いたラフスケッチです。ササっと描けるので、腫瘍の位置や血管の走行、切離部など、最低限の情報は伝えられますが、あまり“映える”イラストではないですね。ちなみに、アナログでもデジタルでも使えるスタイルです。[所要時間:2分](2)鉛筆画(モノクロ)鉛筆ツールで影の濃淡を描き込んで描写しました。ペイントアプリには線をぼかす機能があるので、それで陰影をつけました。モノクロならではの画風で、臓器の質感が表現できているでしょうか? 見栄えは良いですが、少々時間がかかるのが難点です。[30分](3)太さが均一な線画(モノクロ)「モノライン」というペンを使用して描きました。均一な線が引けるので、柔らかいカーブの描写に優れています。細かな線や文字を描く場合は手ぶれ補正機能をオフにしたほうがよいです。[5分](4)筆圧が反映された線画(モノクロ)僕が最も頻用する「製図ペン」という種類を使用しています。筆圧や筆致が正確に反映されるので、細かな描写に優れています。[10分](5)円ブラシのみ(カラー)スタイルを大きく変えて、カラーの円ブラシで色を塗りながら描写し、線画なしで描いてみました。少し影をつけるだけでも立体的に見えるので、まるでCGのようで、まさしくデジタルイラストらしい印象です。[10分](6)線画+塗りつぶし(カラー)(3)の「モノライン」で書いた線画をベースに着色しました。ペイントアプリの「カラードロップ(塗りつぶし)機能」を用いています。簡便かつキレイに着色が可能で、均質で視認性に優れたイラストに仕上がります。ただし、塗りつぶしだけでは立体感や臓器の質感まで表現しきれません。[10分](7)線画+着色(カラー)(4)の「製図ペン」で描いた線画をベースに「ソフトエアーブラシ」を用いて着色しました。僕が一番愛用している方法で、この連載で紹介したイラストの大半はこの描き方をしています。少々慣れが必要ですが、簡単に立体感のあるイラストが描けますよ。[20分]まとめ今回、7パターンのスタイルをご紹介しましたが、気に入ったものはありましたか? 冒頭でお伝えしたように、手術イラストに正解はありません。手術イラストの目的、すなわち「手術を正確に記録でき、自身の振り返りにつながり、他者が見て伝わるイラスト」が果たせていれば、どんなスタイルでも問題ないと思います。自身の気に入ったスタイルを突き詰めて、早く正確にわかりやすいイラストが描けるようになると良いですね。一点注意しておきたいのは、手術イラスト作成はあくまで手術上達における1つの手段にすぎないという点です。手術イラストの作成にこだわるあまり、ほかのトレーニング(手術ビデオの振り返り/手術手技シミュレーションなど)をおろそかにしては、手術の上達は見込めないでしょう。何事もバランスが大切です。オペレコにおける手術イラストの意義、手術上達における立ち位置を十分に理解し、自身のスタイルを確立してくださいね!

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ガイドライン無料化を医師の3割が希望/1,000人アンケート

 診療の標準・均てん化とエビデンスに根ざした診療を普及させるために、さまざまな診療ガイドラインや診療の手引き、取り扱い規約などが作成され、日々の診療に活用されている。今春の学術集会でも新しいガイドラインの発表や改訂などが行なわれた。 実際、日常診療でガイドラインはどの程度活用され、医療者が望むガイドラインとはどのようなものなのか、今回医師会員1,000人にアンケートを行なった。 アンケートは、5月26日にCareNet.comはWEBアンケートで会員医師1,000人にその現況を調査。アンケートでは、0~19床と20床以上に分け、6つの質問に対して回答を募集した。【回答者内訳】・年代:20代(7%)、30代(17%)、40代(23%)、50代(26%)、60代(22%)、70代以上(5%)・病床数:0床(46%)、1~19床(4%)、20~99床(9%)、100~199床(3%)、200床以上(38%)・診療科[回答数の多い10診療科]:内科(247人)、外科・乳腺外科(76人)、研修医・その他(71人)、循環器内科・心臓血管外科(63人)、精神科(56人)、消化器内科(55人)、整形外科(40人)、皮膚科(39人)、小児科(37人)、糖尿病・代謝・内分泌科(32人)ガイドライン「無料化」「ダイジェスト版の作成」の声が多かった 質問1で「専門領域における日常診療でガイドラインなどを活用しているか」(単数回答)を尋ねたところ、回答者全体の集計では「部分的に活用」が51%、「大いに活用している」が40%、「あまり活用していない」が8%、「まったく活用していない」が1%の順だった。とくに19床未満と20床以上の比較では、20床以上所属の回答者の46%が「大いに活用している」に対し、19床未満では35%と医療機関の規模でガイドラインなどの活用の度合いが分かれた。 質問2で「ガイドラインなどの新規発行や改訂などの情報はどのように入手しているか」(複数回答)を尋ねたところ、全体で「所属学会の案内」が64%、「CareNet.comなどのWEB媒体」が52%、「学術集会の場」が18%の順だった。とくに規模別で「CareNet.comなどのWEB媒体」について、19床未満所属では59%であるのに対し、20床以上は45%といわゆるクリニックなどの医師会員ほどWEBなどをガイドラインの情報源にしていることがうかがわれた。 質問3で「ガイドラインなどはどの程度の領域を用意/集めているか」(単数回答)を尋ねたところ、回答者全体の集計では「自分の専門領域とその周辺領域すべて」が31%、「必要なときに入手」が27%、「自分の専門領域の一部」が20%の順だった。規模別に大きな違いはなかったが、診療で必要な都度にガイドラインを用意していることがうかがえた。 質問4で「ガイドラインなどで参考する項目について」(回答3つまで)を尋ねたところ、「治療(治療薬などの図表なども含む)」が75%、「診断(診断チャート含む)」が66%、「疾患概要(病態・疫学など)」が31%の順だった。とくに規模別でガイドラインの「クリニカルクエッション(CQ)」について全体では23%だったが、20床以上所属では27%であるのに対し、19床未満では19%と大きく差がひらいた。 質問5では「ガイドラインなどで今後改善すべきと思う点について」(複数回答)を尋ねたところ、「非学会員への配布無料化」が32%、「PDF・アプリなどへの電子化」が31%、「図表や臨床画像の多用」と「非専門医、一般向けのダイジェスト版の作成」がともに30%の順だった。とくに規模別では、「PDF・アプリなどへの電子化」について20床以上が36%と回答していたのに対し、19床未満は27%とガイドラインのデジタル化への要望につき差がでていた。 質問6では自由記載として「ガイドラインなどに関するエピソード」について尋ねたところ、ガイドラインの活用では、「診療で迷った際の指針」だけでなく、「患者への説明」や「後輩への指導の教材」などでの使用も多かった。また、ガイドラインなどの改善点として「無料化」「ダイジェスト版の作成」の声が多かった。参考診療ガイドラインを活用していますか?/会員医師1,000人アンケート

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最高の老後 「死ぬまで元気」を実現する5つのM

最高の老後 「死ぬまで元気」を実現する5つのM高齢者の2割には病気がないことを知っていますか?今から備えればまだ間に合うかもしれません。日本人の平均寿命は男性が約81歳、女性は約87歳。でも、元気に自立した生活を送ることができる期間である「健康寿命」は、男性なら約72歳、女性なら約75歳と報告されています。日本人は最後の約10年を、支援や介護を受けて生きているのです。これらの現実をどうしたら変えられるか、最後の10年を人の助けを借りず健康に暮らすためにはどうしたらよいのか、その答えとなるのが「5つのM」。カナダおよび米国老年医学会が提唱し、「老年医学」の世界最高峰の病院が、高齢者診療の絶対的指針としているものです。【5つのM】Mobility……からだMind……こころMulticomplexity……よぼうMedications……くすりMatters Most to Me……いきがいニューヨーク在住の専門医が、この「5つのM」を、質の高い科学的エビデンスにのみ基づいて徹底解説。病気がなく歩ける「最高の老後」を送るために、若いうちからできることすべてを考えていきます。著者の山田氏のメッセージ私はこれまで全米最大の老年医学科を持つマウントサイナイ医科大学で仕事をする機会を得て、老年医学に関するさまざまなことを学んできましたが、その学びは「目から鱗」の連続でした。中でも、本書で用いた「5つのM」の視点が、レジデントや医学生の教育に極めて有効であることを目の当たりにしてきました。本書でご紹介した「5つのM」は、老年医学の臨床現場では毎日のように口にされるフレームワークです。そんな中、これは医学生やレジデントの教育だけでなく、患者教育にも有効活用できると思ったのがきっかけで、それがこの書籍の発刊につながりました。本書では、この「5つのM」のフレームを用いて、老化の過程とその予防法についてまとめました。本書は一般書ではありますが、1年以上かけて255本以上の老年医学領域の学術論文をもとに執筆しており、医療者の方にも老年医学のエッセンスを学んでいただくのに十分ご満足いただける内容になっているのではないかと思います。また、高齢になりさまざまな病気を抱えながら後悔をされる患者さんの姿を何度も目にしてきた経験から、「後悔しないためにできること」をたくさん詰め込んでおり、患者さんの予防医療教育などにもご活用いただけるのではないかと思っています。高齢者の診療にあたる医療者の方、そうでなくとも老化や老化予防にご関心のある方に、ぜひ手にとっていただければと思っています。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    最高の老後 「死ぬまで元気」を実現する5つのM定価1,980円(税込)判型四六判頁数394頁発行2022年6月著者山田 悠史(マウントサイナイ医科大学 老年医学科フェロー)

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零売とは異なる「医療用一般用共用医薬品」を日薬が提言【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第91回

日本薬剤師会より2022年版の政策提言が出されました。昨年のものから項目や具体性が増し、久しぶりに本腰を入れた政策提言に見えます。今回の提言は以下の9項目です。1.地域医薬品提供計画の策定2.医薬品の研究開発・製造・流通・安全確保体制の整備への支援3.中間年薬価改定の本来の趣旨や目的に沿った見直し4.医療用一般用共用医薬品(仮称)類型の創設5.医薬品・医療機器イノベーションの薬局での活用6.医療デジタルを基盤とした薬局業務の高度化7.医療機関の「敷地内薬局」に対する適正措置8.調剤業務の委受託および処方箋40枚規制の見直しに関する規制改革提案への反対9.科学に基づいた薬剤師業務の推進まったく新たな項目もあれば、今まで抽象的だったものを具体的に提示した項目、反対の意思表示をさらに強めた項目もあります。反対を強調したものは、「7. 医療機関の「敷地内薬局」に対する適正措置」です。敷地内薬局に対して、「地域包括ケアシステムの推進の阻害となる」「保険指定の拒否など適正な措置を講じる」などとこれまでよりも強く反対しています。「8. 調剤業務の委受託および処方箋40枚規制の見直しに関する規制改革提案への反対」でも、「その行為の一部をほかの薬局などに委受託することは薬物治療全体の責任が果たせないので、絶対に認められない」と、最近よく耳にするようになった調剤の外部委託についてもきっぱりと反対の意思を表しています。処方箋40枚規制に関しても見直しは不要と反対していますが、ほかの項目では地域医療の推進やデジタルデバイスの活用、薬局業務の高度化など、世の中の技術の進歩に追いつけと言わんばかりの内容も記載されていて、それとこの「40枚規制の見直しは不要」という主張は矛盾してるんじゃ…とも思います。零売を規制するため? 新たなOTC医薬品の類型を提言新たに掲げられたもので私が驚いたものは、「4. 医療用一般用共用医薬品(仮称)類型の創設」です。医療用医薬品を処方箋なしで販売するという、いわゆる「零売」を規制するためと思われますが、医師と薬剤師の両者で患者対応を行うことができる一般用医薬品の新たな類型を創設するという提案です。最近、零売という言葉を目にすることが多くなってきたので何か動きがあるかなと思っていましたが、個人的には医療用医薬品という言葉が軽んじられるような気がして少しイヤな予感がします。具体的にどのような類型になるのか要チェックです。また、「9. 科学に基づいた薬剤師業務の推進」では、「薬学部・薬科大学入学定員総数の削減を行うべきである」と明言しています。これは何年も前から各所で検討されている事項で、それに職能団体として協力するという意思表示のように見えます。実現はいよいよ近いな、という緊張感を感じます。こういう政治的な提言は面倒くさいから読まない、という方も少なくないと思いますが、日本薬剤師会は薬局や薬剤師個人が会費を払って存在している職能団体です。どのような提言をするのか、それが適切なのか考えてみるというのは大切なことだと思います。ぜひ時間を作ってご一読ください。最後にちょっと余談ですが、この9項目のあとに参考資料というものがあり、かかりつけ薬局が評判だというアンケート結果や社会保障費の増大に関する資料が添付されています。その中に「薬局経営の実情」という資料があり、「約40%の保険薬局が赤字経営である」というかなりショッキングなデータがあります。この経営悪化はコロナ禍が原因なのか、それとも別の問題なのか。薬局の経営が今後どうなっていくのか少し心配です。

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リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その1【「実践的」臨床研究入門】第21回

これまで、関連研究レビューのための情報ソースとして、1次情報ではなく、まずは、2次情報(診療ガイドラインやUpToDate®、コクラン・ライブラリー、など)の活用をお勧めし(連載第3回参照)、それらの実践的な使用方法について解説してきました。今回からは、医学研究における1次情報の最も代表的な検索インターフェースである、PubMedの活用方法について解説します。PubMedは米国国立医学図書館(United States National Library of Medicine:NLM)が作成している、生物医学系論文の書誌情報と抄録の電子データベースであるMEDLINEの検索プラットフォームです。PubMedの運営もNLMが行っており、無料で提供されています。その他の検索プラットフォームとデータベースについても、連載第17回で解説しましたので、ご参照ください。ここでは、まず、PubMed検索の際に有用なツールであるMeSH(Medical Subject Headings)について紹介します。PubMedの統制語辞書MeSHはじめに、統制語について説明します。統制語とは、いろいろな類語で表現されるひとつの概念を表す、代表的な単語です。MeSHは、NLMが作成した、さまざまな医学用語を統一し、上位語・下位語や同義語・類義語を整理した統制語辞書です。PubMedではMeSHを利用することで、より網羅的な検索ができるようになります。それでは、実際にMeSHを使ってみましょう。下記は、これまでブラッシュアップしてきた、われわれのClinical Question (CQ)とResearch Question(RQ)、 PECOです(連載第14回参照)。CQ:食事療法を遵守すると非ネフローゼ症候群の慢性腎臓病患者の腎予後は改善するのだろうかP:非ネフローゼ症候群の慢性腎臓病(CKD)患者E:食事療法(低たんぱく食 0.5g/kg標準体重/日)の遵守C:食事療法(低たんぱく食 0.5g/kg標準体重/日)の非遵守O:1)末期腎不全(透析導入)、 2)eGFR低下速度の変化このCQのキーワードである、「低たんぱく食(low protein diet)」(連載第3回参照)で、MeSHを調べてみます。まず、PubMedのトップページを開きます。トップページの右下にMeSH Databaseというリンクがありますので、クリックします。MeSH Databaseの検索窓が出てきますので、"low protein diet"と入力してみましょう。すると、PubMedのリンクのように"Diet, Protein-restricted"が低たんぱく食のMeSH term(統制語)であることがわかります。下にスクロールしていくと、"Entry Terms"という小見出しの後に、下記のような類語が列記(一部略)されており、これらは上記のMeSH Term, "Diet, Protein-restricted"ひとつで統制されます。Low Protein DietProtein Restricted DietProtein-Restricted Diets…一方、個々の文献にはMeSH Termが10語程度付与されています。その論文のMajor TopicとなるMeSH Termにはアスタリスク(*)がついています。実際に、これまで何度か取り上げた、われわれのCQの「Key論文」1)で見てみましょう。この論文のPubMedのリンクを下にスクロールすると、"MeSH terms"の小見出しがあり、この論文に下記の通り(一部略)のMeSH Termが登録されていることがわかります。Diet, Protein-restricted*Disease Progression*Glomerular Filtration Rate…PubMedではMeSH Termを利用することで、より網羅的な検索ができるようになります。今回、お示ししたように、自身のRQの「Key論文」(連載第8回参照)で登録されているMeSH Termを「逆引き」してみるのも良いと思います。1)Hahn D, et al. Cochrane Database Syst Rev 2020:CD001892.doi:10.1002/14651858.CD001892.pub4.

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英語で「大きな病気をしたことはありますか」は?【1分★医療英語】第34回

第34回 英語で「大きな病気をしたことはありますか」は?Have you ever had any serious illnesses before?(これまでに何か大きな病気をしたことはありますか?)Yes, I had a heart surgery 10 years ago.(はい、10年前に心臓の手術をしました)《例文1》Have you had any major illnesses  in the past?(過去に大きな病気をしたことはありますか?)《例文2》Do you have any pre-existing conditions?(何か持病はありますか?)《解説》「病気」を表す単語には“illness”や“disease”がありますが、“disease”のほうが“illness”よりも「より深刻な病気」というニュアンスがあり、“disease”というと、「がん」や「臓器不全」などの重い病気を連想させます。日本語でいう「大きな病気」の意味合いに近い表現は、“serious illness”や“major illness”となります。また、“pre-existing condition”は、「今も患っている=持病」に相当する単語で、持病を聞きたいときには便利な表現です。とはいっても、患者さんが考える「大きな病気」や「持病」には個人差があり、聞きたい情報をうまく得られない場合もよくあります。そこで、詳しく問診するために、“Have you ever had any surgeries before?”(これまでに手術を受けたことはありますか)や“Have you ever been hospitalized before?”(これまでに入院したことはありますか)といった表現も、併せて覚えておくと便利です。講師紹介

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第114回 コロナ治療薬の「緊急承認」、日米における決定的な違いとは

ほっとしたと言うのが正直なところだ。厚生労働省の薬食審・医薬品第二部会は22日、塩野義製薬が製造販売を申請していた新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)治療薬候補で3CLプロテアーゼ阻害薬の「エンシトレルビル (商品名:ゾコーバ)」の緊急承認審議で当座の承認を見送ったというニュースについてである。従来の国内の新薬承認制度は、通常の承認に加え、条件付き早期承認制度、コロナ禍で何度も発動されてきた特例承認制度があったが、今年5月の医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)改正で緊急承認制度が新設された。今回のエンシトレルビルはこの緊急承認制度を初めて利用したものだった。当初は今年2月に条件付き早期承認制度を使って承認申請が行われたが、緊急承認制度の新設に伴いこちらの制度適応に切り替えられた。この1件は週刊誌の記者などから、「塩野義の件は特例承認で対応できないのですか?」と聞かれることが多い。しかし、読者の皆さんもご存じかと思うが、結論から言えば「イエスでもあり、ノーでもある」が正解である。特例承認は薬機法第14 条の3の第1項で定めた(1)疾病のまん延防止等のために緊急の使用が必要、(2)当該医薬品の使用以外に適切な方法がない、(3)海外で販売等が認められている、の3要件を満たすことが条件となる。ちなみに(3)については、正式な製造承認ではない米食品医薬品局(FDA)の緊急使用許可(EUA)なども該当する。内資系製薬企業の多くにとって、特例承認制度は決定的に「不利」な部分がある。具体的には(3)だ。もしエンシトレルビルが日本に先んじて海外で何らかの形で承認されていれば、制度活用は可能である。しかし、日本より先に海外で承認を取れるようなパワー、具体的には海外で大規模臨床試験を迅速に実施できる体制がある内資系製薬企業は、かなりひいき目に見てようやく武田薬品が該当するくらいである。つまり内資系製薬企業にとって特例承認制度は「絵に描いた餅」である。では当初、塩野義製薬が目指した条件付き早期承認制度はどうか? これは以下の4条件すべてを満たすことが求められる。致死的疾患、進行が不可逆的で日常生活に著しい影響を及ぼす疾患、その他も含め総合的に評価して適応疾患が重篤既存の治療法、予防法または診断法がない、あるいは有効性、安全性、肉体的・精神的な患者負担の観点から、既存の治療法、予防法または診断法よりも医療上の有用性が優れている検証的臨床試験(すなわち第III相試験)が実施困難、実施可能でも患者数が少ないことなどで実施に相当期間を要する検証的臨床試験以外の臨床試験などの成績により、一定の有効性、安全性が示されている4条件を注意深く見ればわかるが、塩野義製薬によるエンシトレルビルに関する条件付き早期承認制度を通じた申請は、そもそもがかなりの拡大解釈、言ってしまえば「無理筋」である。まずこの制度が想定している疾患は、パンデミックを引き起こす感染症のような緊急性のある疾患よりはむしろ希少疾患であり、新型コロナは限りなくシロ(該当しない)に近いグレーである。しかも、新型コロナの経口治療薬は塩野義製薬による申請時点で、モルヌピラビル(商品名:ラゲブリオ)、ニルマトレルビル/リトナビル(同:パキロビッド)が存在している。そして何よりも決定的なのは本連載第101回でも触れたように、第IIb相臨床試験で有意なウイルス量の減少は認められたものの、総合的な臨床症状改善(12症状スコア)では有意差は認められていない。後者については重症化しにくいオミクロン株感染者、かつ重症化リスクの有無は関係無しで行われた試験であるため、それでも同株に特徴的な呼吸器症状部分だけでは有意差があった点を考慮すべきとの意見もあるが、それはやや我田引水である。その意味では新設された緊急承認制度は、ほぼFDAのEUAのようなもので少なくとも申請条件だけでみれば現在のエンシトレルビルにとっては好都合だ。まず特例承認制度で必須の海外での承認は不要である。既存の治療法などの有無についても、ご丁寧にも「対象患者の重症度や投与方法等が同一であっても、作用機序が異なる場合には、既承認薬が効果不十分である患者に対する有効性が期待できる可能性があるため、臨床的に必要であると判断できる場合がある」と厚生労働省の通知に記載されている。また、条件付き早期承認では第III相以前の試験で「一定の有効性、安全性が示される」ことが必須だが、緊急承認制度は安全性については条件付き早期承認制度と同基準であるものの、有効性は既存のデータや医学的知見から、合理的に推定できれば良い。ウイルス量の減少は確認されながら、臨床症状改善では有意差が認められたとは言い難い、現状「いまいち感」のエンシトレルビルにとってはまさに救世主的な制度だ。踏み込んで言えば、エンシトレルビルのためのような制度と言っても良い。しかし、冒頭で触れたように22日の審議では承認は先送りとなった。審議会では「今は流行が落ち着いているが、今後第7波や新たな変異株が登場する懸念もあるなかで、治療の選択肢を持っておくことは重要」「ウイルス量が減少すれば、実効再生産数が小さくなることが期待できる」と前向きなコメントがあった一方、「ウイルス量を減せても、臨床症状の改善は示されていないような曖昧な状況でこの薬を使うのはどうなのか」「経口薬は3つ目、プロテアーゼ阻害薬としても2つ目で緊急承認制度の要件を満たしていると言えるのか」と消極的な意見もあり、結論を得るに至らなかったという。私自身は今回の緊急承認制度について、日本になかったFDAのEUAとほぼ同等の緊急時に即した制度ができたという点では喜ばしいとは考えている。もっとも緊急承認制度とEUAは同じ仮免許でも抱えている社会背景が違う点では悩ましいとも考えている。というのも緊急承認制度は薬機法第14条の2の2の第1項で「その適正な使用の確保のために必要な条件及び2年を超えない範囲内の期限を付して」承認を与えることができるとし、この期限について同条第3項で「1年を超えない範囲内において延長することができる」と定めている。単純に言えば、2年以内、遅くとも3年未満で第III相臨床試験の結果を提出せよということだ。一見それほど高くないハードルにも思えそうだが、そうとは言い切れない。ファイザーの新型コロナワクチン(同:コミナティ)はアメリカを中心とする地域で、わずか4ヵ月程度で4万人を超える第III相試験の被検者を集めることができた。また、新型コロナパンデミック当初の2020年3月、FDAは抗マラリア薬のクロロキン、ヒドロキシクロロキンに新型コロナ治療薬としてのEUAを与えながら、わずか3ヵ月弱でそれを取り消している。大規模臨床試験の結果が短期間で得られたからである。しかし、日本の臨床試験環境はアメリカとはまったく違う。日本の製薬企業のパワーと日本の臨床試験に対する国民意識を考えれば、疾患の種類にかかわらず2年で第III相試験の結果を得るのはなかなか厳しいのではないだろうか。つまり日本では、緊急承認された治療薬は最悪2年前後の期間を目一杯現場で使用したうえで、最終的に「有効性は認められませんでした」という結果もありうる。しかも、過去に使われた薬剤費はかなりの部分を公的に負担する。その意味で実は緊急承認制度とは謳っていてもかなり慎重な議論が必要だろう。こうした懸念を持っているからこそ、今回の審議の結果を一定の安堵感を持って受け止めている。むしろこの薬については現在進行中と言われる試験結果を待ち、それがボジティブだった時に満を持して登場して欲しいと切に願う。

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脳腫瘍診療ガイドライン 小児脳腫瘍編 2022年版

小児脳腫瘍編として代表的な6腫瘍型を収載!2019年版に収載されたSEGAを含め、代表的な6腫瘍型を収載した。小児がん領域では、脳腫瘍は白血病に次いで2番目に発症頻度が高く、最も予後不良である。また、腫瘍型によって生物学的悪性度や好発年齢・好発部位、治療反応性に大きく異なることから、小児脳腫瘍の適切な治療法に関する情報提供を目的として作成された。関連学会、患者団体にもご協力いただき、脳腫瘍診療に臨む医療者に役立つ内容となっている。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    脳腫瘍診療ガイドライン 小児脳腫瘍編 2022年版定価4,400円(税込)判型B5判頁数272頁・図数:10枚・カラー図数:1枚発行2022年5月編集日本脳腫瘍学会監修日本脳神経外科学会電子版でご購入の場合はこちら

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頭頸部癌診療ガイドライン 2022年版

治療法の変化や新知見に対応した改訂版。実臨床を強くサポート!頭頸部癌診療の指針となる診療ガイドラインの改訂第4版。化学放射線療法、センチネルリンパ節生検、術後の放射線治療に併用するシスプラチンの投与法、再発転移例へのfirst lineの薬物療法など、近年の重要な臨床試験結果や、遺伝子情報に基づく個別化治療の知見について対応している。新項目として治療各論に「嗅神経芽細胞腫」、CQに「緩和ケア」が追加された。解説項目、CQともにさらに充実した、実臨床を強くサポートする1冊。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    頭頸部癌診療ガイドライン 2022年版定価3,960円(税込)判型B5判頁数252頁・図数:11枚発行2022年5月編集日本頭頸部癌学会電子版でご購入の場合はこちら

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GIST診療ガイドライン 2022年4月改訂

8年ぶりの改訂! CQと連動したアルゴリズム等記載も充実GIST(消化管間質腫瘍)は、有効な分子標的薬開発を機に大きな転換点を迎えた。8年ぶりの改訂となる第4版では「画像診断」「病理診断」「外科治療」「内科治療」の各領域で、最新のエビデンスを取り入れ、専門家間のコンセンサスも加味した本邦の臨床現場に即した内容としている。関連するCQ と連動した8つの診断・治療アルゴリズム等記載も充実し、GIST診療に必携の一冊となっている。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    GIST診療ガイドライン 2022年4月改訂定価3,300円(税込)判型B5判頁数136頁・図数:1枚・カラー図数:14枚発行2022年5月編集日本癌治療学会

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第114回 コロナ新対策決定、協定結んだ医療機関は患者受け入れ義務化、罰則規定も

岸田首相がコロナ新対策公表こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この連載を読んでくれている友人から、今度は「今年はコロナ関連の話題も少ないね」と言われました。確かに、少ない、というかほとんど書いていません。お正月の回で、独自の“楽観論”を書いたところ、不思議なことにコロナが収束に向かい始めたので、少々ウオッチを怠っていたのがその理由です。そんな“楽観論”から約半年、先週、岸田 文雄首相が、新型コロナをはじめとする感染症に対する新対策を公表しました。参議院選挙を睨んだパフォーマンスと見る向きもありますが、それなりにこれまでの反省点を踏まえた内容になっています。今回は新対策に盛り込まれた医療提供体制の改革案について書いてみたいと思います。一元的に感染症対策を行う内閣感染症危機管理庁を新設岸田首相は6月15日、通常国会の閉会を受けて首相官邸で記者会見を行い、新型コロナウイルスを含む今後の感染症に対応する「内閣感染症危機管理庁」を内閣官房に設置し、司令塔機能を強化することを表明しました。内閣感染症危機管理庁は、感染症の危機に備えて「首相のリーダーシップの下、一元的に感染症対策を行う」組織で、同庁の下で平時から感染症に備え、有事の際は物資調達などを担う関係省庁の職員を同庁の指揮下に置き、一元的な対策を行うとしています。またトップには「感染症危機管理監」(仮称)が置かれる予定です。新型コロナ対応は現在、内閣官房の「新型コロナウイルス感染症等感染症対策推進室」と、厚労省の「新型コロナ感染症対策推進本部」の2つの司令塔があり、その連携のまずさが度々問題視されてきました。たとえば「ワクチン・検査パッケージ」を陰性証明に使うかどうかや、ワクチンの3回目接種時期を巡っては、内閣官房と厚労省の考え方の違いが表面化し、政策決定にも支障が出ていました。両者を統括した形の内閣感染症危機管理庁の設置は、省庁をまたぐ縦割りの弊害を解消し、一体的に対応できる体制を構築するためのものだと言えます。感染研と国際医療研究センターを統合し「日本版CDC」にさらに、厚労省における平時からの感染症対応能力も強化されます。各局にまたがる感染症対応、危機管理の部署を統合して「感染症対策部」を新設するとしています。さらに「感染症に関する科学的知見の基盤・拠点となる新たな専門家組織」も一元化するため、研究機関である国立感染症研究所と、高度な治療・研究の拠点である国立国際医療研究センターを統合、米疾病対策センター(CDC)をモデルとした、いわゆる「日本版CDC」を厚労省の下に創設するとしています。危機管理組織や専門家組織の一元化は望ましいことです。ただ、気になる点もあります。一点目は、統合後の組織の位置づけです。米国では感染症研究や臨床試験の主な担い手は米国立衛生研究所(NIH)であり、疾病の情報掌握とそれらが発生した時の公衆衛生対策等が主な役割であるCDCではありません。国立国際医療研究センターの現在の機能はどちらかと言えばNIH的と考えられるので、「日本版CDC」というコンセプトでよいのかどうか疑問が残ります。もう一点は、東京大学医学部のジッツ色が濃い国立国際医療研究センターが、感染症研究の中心になることで、研究分野の主導権や研究費の獲得を巡って大学間で軋轢が生じたりしないかということです。そのあたり現場の調整は意外に大変そうです。「医療機関とあらかじめ協定を締結する仕組みに法的根拠を与える」重症患者受け入れから、市中での検査体制まで、コロナ禍で最もその脆弱性が浮き彫りになった医療提供体制についても、病床確保の面で踏み込んだ改革が行われます。岸田首相は会見で、「本日の有識者会議の報告を受け止め、昨年の総裁選で約束したとおり、国・地方が医療資源の確保等についてより強い権限を持てるよう法改正を行う。医療体制については、11月の『全体像(次の感染拡大に向けた安心確保のための取り組みの全体像)』で導入した医療機関とあらかじめ協定を締結する仕組みなどについて、法的根拠を与えることでさらに強化する。地域の拠点病院に協定締結義務を課すなど、平時から必要な医療提供体制を確保し、有事にこれが確実に回ることを担保する」と語りました。「かかりつけ医機能が発揮される制度整備が重要」と有識者会議政府の「新型コロナウイルス感染症対応に関する有識者会議」(座長:永井 良三・自治医科大学長)も同じ15日に報告書1)をまとめ、首相会見の直前に公表しており、その内容を踏まえて岸田首相は医療提供体制の改革案を述べたわけです。そもそも、有識者会議報告書があって、政府がそれを参考に政策立案、参院選前に公表という筋道が必要だったため、有識者会議の議論はかなり拙速気味に行われたようです(会議自体は5月から4回開催、5回目に報告書)。ただ、報告書自体は、以下のようにしごく真っ当な指摘をしています。「感染症危機時に実際に病床を確保するために必要な対応など実際の具体的な運用に関して、感染症法に基づく予防計画や医療法に基づく医療計画との連携ができていなかった」と法整備の不備を指摘、「各地域で個々の入院医療機関が果たすべき役割が明示されておらず、医療機関の協力を担保するための措置もなく、現場は要請に基づいて対応せざるを得なかった」として、現場でのさまざまなドタバタぶりを例示しています。その上で、病院については、「各地域で平時より、医療機能の分化、感染症危機時の役割分担の明確化を図るとともに、健康危機管理を担当する医師及び看護師を養成してネットワーク化」することを提案しました。さらに、かかりつけの医療機関(とくに外来、訪問診療等を行う医療機関)についても、「各地域で平時より、感染症危機時の役割分担を明確化し、それに沿って研修の実施やオンライン診療・服薬指導の普及に取り組むなど、役割・責任を果たすこととした上で、感染症危機時には、国民が必要とする場面で確実に外来医療や訪問診療等を受診できるよう、法的対応を含めた仕組みづくりが必要である。今後、さらに進んでかかりつけ医機能が発揮される制度整備を行うことが重要である」と提言しました。特定機能病院や公立・公的病院には協定締結の義務岸田首相の記者会見から2日後の6月17日、政府は新型コロナウイルス感染症対策本部において、内閣感染症危機管理庁などを新設することや、病床確保を確実にするため国・地方の権限を強化する方針を盛り込んだ「新型コロナウイルス感染症に関するこれまでの取組を踏まえた次の感染症危機に備えるための対応の方向性」2)を正式決定しました。感染症法の改正に向けて本格的な検討に入り、秋の臨時国会に法案提出する予定とのことです。明らかになった「方向性」でとくに注目されるのは、有事の病床確保のために協定の締結を求める点です。具体的には、都道府県が医療機関との間で協定を結び、病床や外来医療を感染者の急増時などに提供できるようにするとのことです。協定の仕組みは法律(感染症法)で定め、地域医療の拠点となる特定機能病院や公立・公的病院には協定締結の義務を課すとのことです。有事に医療機関が協定に従うようにするため、協定の履行状況を公表するほか、特定機能病院については承認の取り消しも視野に入れるとしています。また、自宅・宿泊療養者等への医療提供についても、医療機関との間で協定を締結するとしています。「協力を求め」て「勧告」するくらいでは病院は動かない新型コロナの感染が急増していた昨年、本連載でも国の病床確保策の不十分さについて度々書いてきました。2021年4月21日掲載回では、2021年2月に改正された感染症法(第16条の2)に基づき、奈良県が民間病院を含む県内全ての75病院に病床確保や患者の受け入れを要請したニュースを取り上げました。昨年の感染症法改正では、コロナ病床の確保を目的に、国や地方自治体の権限を強化しました。同法第16条の2は「厚生労働大臣又は都道府県知事等は、緊急の必要があると認めるときは、医療関係者・民間等の検査機関等に必要な協力を求め、その上で、当該協力の求めに正当な理由がなく応じなかったときは勧告することができる(正当な理由がなく勧告に従わない場合は公表することができる)こととすること」となっています。しかし、結局、この動きが全国に広いがることはありませんでした。「必要な協力を求め」て「勧告」するくらいでは病院は動かないことが証明されたのです。次に予定される感染症法等の改正は、明らかにこれに懲りての対応と考えられます。協定の締結を特定機能病院に義務付け、承認取り消しという罰則も想定されています。また、特定機能病院以外の医療機関との協定についても罰則の導入が検討される模様です。罰則導入は、「お願い」ベースでは思うように動かなかった日本の医療機関に対し、ちゃんと動いてもらうための最後手段と言えます。しかし、こうした政府の動きに対し、日本医師会の中川 俊男会長(既にレームダックですが)は6月15日の記者会見で「強制的に病床を確保せよという仕組みは、地域医療にとって決していいことではない」と語ったそうです。罰則規定には、今後新体制となる日本医師会含め、医療関係団体からの反対も予想されますが、昨年の感染症法改正が病床確保にまったく役にも立たなかったことを考えると、次こそ有事に実効性のある改正を期待したいものです。参考1)新型コロナウイルス感染症へのこれまでの取組を踏まえた次の感染症危機に向けた中長期的な課題について/新型コロナウイルス感染症対応に関する有識者会議2)新型コロナウイルス感染症に関するこれまでの取組を踏まえた次の感染症危機に備えるための対応の方向性/新型コロナウイルス感染症対策本部

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英語で「それは大変でしたね」は?【1分★医療英語】第33回

第33回 英語で「それは大変でしたね」は?I’ve been having knee pain in the last 2 months.(この2ヵ月間、ひざの痛みが続いています)It must’ve been difficult for you.(それは大変でしたね)《例文1》You must’ve been having a difficult time.(大変な思いをされているのでしょうね)《例文2》I understand that it is a very tough situation for you.(とてもつらい思いをされていることと思います)《解説》日常診療において、患者さんのつらさや悩みについて理解し、共感を示すことはとても大切です。日本語の「それは大変でしたね」「つらい思いをされたのですね」という表現には、例文で示した“It must’ve been difficult for you.”のほか、“having a difficult time/a tough time”というように、直訳では「大変な/つらい時間を過ごしている」という表現もよく使われます。そのほか、「経験する」という意味の“go through”を使って、“You have been going through a lot.”(いろいろ[大変]なことがあったのですね)という言い方もできます。また、“I can’t imagine how you feel.”という表現は、直訳では「どう感じられているのか想像もできません」ですが、伝えたい内容としては「想像以上に大変な思いをされていることと思います」となります。一方で、“I know how you feel.”(お気持ちはわかります)と言ってしまうと、「自分のつらい気持ちがわかるはずがない」という気持ちを抱かせる可能性があるので、とくに深刻な状況の場合には、注意して使う必要があります。そのほか、同情や労り、思いやりの気持ちを示すときには、“I’m sorry to hear that.”は、直訳では「それを聞いてとても残念です」ですが、状況によってさまざまな意味を持ち、「それは大変でしたね」という意味で用いることができます。最後に、患者さんの健康状態が改善したなど、ポジティブな報告を聞いたときには、“I’m glad to hear that!”(それは良かったですね!)といって喜びの気持ちを伝えることも大切です。講師紹介

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第105回 危機管理庁や日本版CDCを新設、感染症対策を強化/内閣府

<先週の動き>1.危機管理庁や日本版CDCを新設、感染症対策を強化/内閣府2.マイナンバー保険証、来年4月から原則義務化は困難/日医3.外来医療の提供体制でかかりつけ医機能の明確化を/厚労省4.大学病院が未払いの2億円を研修医・非常勤医に支給/北大病院5.「名ばかり病床」3割、急性期神話に囚われるべからず1.危機管理庁や日本版CDCを新設、感染症対策を強化/内閣府岸田内閣は17日に新型コロナウイルス感染症対策本部を開催し、内閣官房に「内閣感染症危機管理庁(仮称)」を置いて、感染症危機に対する企画立案・総合調整の機能を強化することを明らかにした。併せて医療、公衆衛生、危機対応、研究開発等の機能を一体的に運用するため、国立感染症研究所と国立研究開発法人国立国際医療研究センターを統合し、感染症に関する科学的知見の基盤・拠点となる新たな専門家組織として、いわゆる「日本版CDC」を創設する。また、都道府県と医療機関との間であらかじめ病床や外来医療の確保等の具体的な内容に関する協定を締結する仕組みも創設する。公立・公的医療機関、特定機能病院などに対し、その機能を踏まえた協定を締結する義務を課して、平時から必要な病床を確保できる体制を整備するなど具体的な対策を進める。(参考)政府、「日本版CDC」新設決定 感染症危機の司令塔機能を強化(毎日新聞)地域拠点病院、自治体と協定義務 感染症の病床確保(日経新聞)病床確保の協定締結義務化、公的公立・大学病院などに 違反なら承認取消も検討、政府コロナ対策本部決定(CBnews)新型コロナウイルス感染症対策本部(第93回)資料2.マイナンバー保険証、来年4月から原則義務化は困難/日医日本医師会長は15日の定例記者会見で、今月に閣議決定された「骨太の方針2022(経済財政運営と改革の基本方針)」に対する見解を示した。オンライン資格確認の原則義務化について、現場感覚としては2023年4月からの原則義務化は難しいとし、健康保険証の原則廃止はマイナンバーカードの取得率が必ずしも高くない現状(2022年6月1日時点で44.7%)を反映して、マイナンバー未取得の人への配慮を求めている。このほか、リフィル処方箋については活用が進んでいないことを問題視する声もあるが、医師の処方権に変わりないことや、「症状が安定している慢性疾患の患者であっても、定期的に診察を行い疾病管理の質を保つことが『安心・安全で質の高い医療』である」として、リフィル処方箋の利用を慎重に判断するように求めた。(参考)“マイナ保険証”来年度のシステム導入は困難 日本医師会会長(NHK)オンライン資格確認来年度義務化は困難、日医会長「物理的に間に合わない」(CB news)「経済財政運営と改革の基本方針 2022」等の閣議決定を受けて(日本医師会)マイナンバーカードの市区町村別交付枚数等について(令和4年6月1日現在)(総務省)3.外来医療の提供体制でかかりつけ医機能の明確化を/厚労省厚労省は、15日に第9回 第8次医療計画等に関する検討会を開催し、「かかりつけ医機能」を明確化するため、外来医療の提供体制について検討に入った。今年4月に施行された改正医療法に基づいて行われ、外来医療機能に関する情報を可視化し、二次医療圏ごとに協議の場の設置、医療機器の共同利用等を定めた「外来医療計画」の策定を行う。年内に取りまとめ、年明けに医療計画の指針作成を行い、2023年度の都道府県における医療計画の策定に盛り込まれる見込み。(参考)「かかりつけ医機能」第8次医療計画検討会で議論へ 外来の役割分担・連携推進で(CB news)高額医療機器の共同利用推進、「読影医・治療医配置なども勘案」した広範な議論求める声も-第8次医療計画検討会(Gem Med)資料 外来医療の提供体制について(厚労省)4.大学病院が未払いの2億円を研修医・非常勤医に支給/北大病院北海道大学病院が2021年度までの2年間、研修医や非常勤医師に対して約2億円の手当等を支払っていなかったことが新聞報道で明らかとなった。対象者の内訳は研修医が約190人、非常勤医師が約90人。期末手当・勤勉手当が約200人、住居手当が約280人であり、大学教職員組合の指摘により明らかとなった。大学側は「今後このようなことがないように気を付け、事務を執行したい」とコメントしている。(参考)北大病院が手当2億円未払い 非常勤医師ら280人分(産経新聞)北大病院、過去2年分の手当計2億円支給へ 非常勤医と研修医に(北海道新聞)5.「名ばかり病床」3割、急性期神話に囚われるべからず日本経済新聞と日本経済研究センターが共同で、厚労省の「病床機能報告(2019年)」のデータを用いて、病院側が急性期病床として報告した病棟において手術件数や救急入院、化学療法、ハイリスク分娩など緊急性が高い7項目の医療行為について解析した結果を報告した。その結果、急性期病床として報告された病床のうち35%が十分な診療実績を欠く「名ばかり病床」であるとされた。新型コロナ第6波ピークの今年2月中旬におけるコロナ患者受け入れ状況を見ると、急性期病床数に対するコロナ入院数は「名ばかり急性期」を持つ病院では2.9%で、それ以外の病院より1ポイント以上低かった。20日に医療改革提言の最終報告が公表され、国側に急性期病院の見直しを求める。(参考)急性期病床「名ばかり」3割、コロナ対応後手 日経分析(日経新聞)医療資源の浪費を招く「急性期神話」名ばかり病床は医療危機の一因に(日経JCER医療改革研究会)

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オリックスが株主優待廃止! 赤信号、皆で渡っても怖かった【医師のためのお金の話】第57回

株主優待銘柄として不動の人気を誇るオリックス。毎年株主に贈られる「ふるさと優待」と呼ばれるカタログギフトはあまりに有名です。そのオリックスが株主優待制度を2024年3月末で廃止すると発表し、全国の個人投資家に衝撃が走ったのは記憶に新しいですね。個人株主80万人に影響があるそうで、ネット上では株主優待目的でオリックス株を所有していた人たちの嘆きで溢れています。かく言う私も、オリックスの株主優待投資を考えていたクチ。破格の条件でとても魅力的ですから。3月初旬の株式市場の下落で損切りしましたが、株主優待をゲットするために現物つなぎ売りを検討したほどです。しかし、すんでのところでオリックスへの投資は自制しました。その理由は、あまりにも好条件の株主優待に一抹の不安を抱いたからです。株主優待制度の縮小は予想されていた2022年4月に、東証はプライム市場などの新しい区分を創設しました。東証の再編は、株主優待制度に大きな影響を及ぼします。なぜなら、多くの企業にとって「上場基準をクリアすること」が株主優待制度を維持する目的だったからです。今回の東証の再編では、従来よりも上場維持に必要な基準がかなり緩和されました。上場基準の1つに「株主数」があります。このため大規模な機関投資家だけではなく、たくさんの個人投資家も集める必要があります。そして、個人投資家の注意を引く“キラーアイテム”が株主優待制度だったのです。しかし、株主優待は日本独自の制度で、日本国内に在住する個人投資家にしか恩恵がありません。外国人の機関投資家から見れば株主優待制度は不平等極まりないものです。今回の東証再編では、上場企業が順守すべき原則を定めたコーポレートガバナンス・コードが重視されました。そこでは「株主平等の原則」が謳われています。国内の個人投資家、という一部の株主だけが優遇される株主優待制度にとっては逆風なのです。問題点は皆が株主優待制度に殺到したことここまで株主優待制度が置かれている状況を見てきました。オリックスが株主優待制度の廃止を決めたのは当然の成り行きだったようにも思えます。しかし、本当の問題はそこではありません。東証再編というのは、あくまでも株主優待制度の逆風の1つに過ぎないです。本当に注視するべき点は、「株主優待投資の過熱」にあります。私が株式投資を開始した2001年時点でも株主優待制度は存在しましたが、当時は株主優待に注意を払う人はあまりいません。あくまで株式投資の“オマケ”だったのです。そんな中、大の牛丼ファンの私は株主優待目的で吉野家HDに投資したワケですが、投資家界隈ではそうした投資は極めて少数派でした。しかし、今では株主優待投資は1つのジャンルを形成するほどに隆盛を極めています。この差は極めて大きいのです。株主優待制度に注目が集まったため、海外の機関投資家の目も厳しくなりました。逆に言えば、20年前のように株主優待投資がマイナーな存在であれば、今回のような事態は発生しなかった可能性があります。つまり、東証の再編は株主優待制度への逆風の1つの要素に過ぎないのです。猫も杓子も株主優待に殺到してしまったため、制度自体が崩壊の危機に瀕している、というのが真相ではないでしょうか。投資では周囲と同じ行動をしないのが得策前回の「実は損しているかも!? 株主優待は落とし穴がいっぱい」で、私は下記のような提案をしました。株主優待目的であれば比較的小さな会社の自社商品やサービスを株主優待にしている銘柄がよいかもしれません。しかし、この提案は本質的ではないかもしれません。なぜなら、あくまで株主優待投資を行う前提だからです。これでは現状を維持したまま、損失を最小限に抑える効用しかないとも言えます。本来なら、メジャーになり過ぎた株主優待投資からの脱出を考えるべきタイミングでしょう。皆が注目することに自分もコミットするのは望ましくありません。どうしても競争が激しくなってしまい、得るモノが少なくなりがちだからです。株式投資で結果を出すためには、恐怖や孤独感に苛まれながらリスクを取るしかありません。しかし、シンドイことはご勘弁という人は、周囲と同じ行動をしないだけでもリスクの大半を回避することができます。投資においては「多数派は負けやすい」ことを忘れないようにしましょう!

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悪性神経膠腫〔malignant glioma〕

1 疾患概要■ 定義脳には神経細胞と神経線維以外に、それらを支持する神経膠細胞があり、この神経膠細胞から発生する腫瘍を総称して「神経膠腫(グリオーマ:glioma)」という。細胞の種類により星細胞腫(アストロサイトーマ:astrocytoma)、乏突起膠腫(オリゴデンドログリオーマ:oligodendroglioma)、上衣腫(エペンディモーマ:ependymoma)などに分類される。さらに病理診断上は悪性度に応じてグレード(grade)が1~4までの4つに分かれており、成人の神経膠腫はほとんどがグレード2以上のものであり、びまん性神経膠腫と呼ばれる。グレード4の神経膠腫は膠芽腫(グリオブラストーマ:glioblastoma)と呼ばれ最も予後不良である。グレード2とグレード3の神経膠腫をまとめて低悪性度神経膠腫(lower grade glioma)と呼ぶが、必ずしも悪性度が低いわけではない。■ 疫学「脳腫瘍全国集計調査報告(2005~2008)」では、原発性脳腫瘍のうち神経膠腫全体の頻度は26.9%であった1)。神経膠腫のなかでは、グレード4の膠芽腫が約半数を占め、グレード2、3のlower grade gliomaが約40%の頻度である。Lower grade gliomaのうち、星細胞腫系と乏突起膠腫系がおよそ2:1となっており、以前の統計に比べて乏突起膠腫の頻度が増加している。グレードが上がるにつれて発症年齢も上がっていき、年齢中央値はグレード2のびまん性星細胞腫で38歳、乏突起膠腫で42歳、グレード3の退形成性星細胞腫で49歳、退形成性乏突起膠腫で54歳、グレード4の膠芽腫で63歳となっている。男女比は、膠芽腫で1.39:1、lower grade gliomaで1.34:1と男性にやや多い。■ 病因1)遺伝的素因神経膠腫のほとんどは孤発性に発生し、遺伝的な素因により発症する遺伝性腫瘍はまれである。神経膠腫を生じうる遺伝性腫瘍として、以下のような疾患がある。リ・フラウメニ症候群:生殖細胞系列にTP53遺伝子の異常を有し、家族性にがんを多発する。リンチ症候群:生殖細胞系列にミスマッチ修復遺伝子の異常を有しており、神経膠腫のみならず大腸がん、子宮体がん、卵巣がん、胃がんなどのリスクを有する。ターコット症候群のtype1はリンチ症候群の亜型で、神経膠腫と大腸がんを合併する。2)遺伝子異常腫瘍細胞は、前駆細胞に遺伝子異常が生じ、その結果生物学的な性格の変化を来して発生すると考えられている。神経膠腫においては、腫瘍の組織型別および悪性度別に生じている遺伝子異常に共通性と相違が認められており、その種類や生じる時期により、異なるタイプと悪性度の神経膠腫が発生するのではないかとの仮説が提唱されている。主な神経膠腫の遺伝子異常を図1に示す。図1 神経膠腫の遺伝子異常画像を拡大するびまん性神経膠腫の発生初期に起こる遺伝子異常の代表的なものとして、イソクエン酸脱水素酵素(IDH)遺伝子変異があげられる。網羅的な遺伝子解析の結果、lower grade gliomaおよびグレード2、3の星細胞腫から悪性転化した二次性膠芽腫に非常に高頻度にみられることが明らかになった。このIDH遺伝子変異を持つ細胞にTP53遺伝子変異やATRX遺伝子変異が加わると星細胞腫へ、第1番染色体短腕(1p)および第19番染色体長腕(19q)の全体が共に欠失する(1p/19q共欠失)変異が加わると乏突起膠腫に進展していくという仮説が広く受け入れられている。IDH変異のない膠芽腫では、EGFR遺伝子の増幅、第10番染色体の欠失、TERT遺伝子プロモーター領域の変異などが腫瘍形成に関与していると考えられている。小児悪性神経膠腫において、ヒストンテールをコードする遺伝子変異(H3F3A K27M/G34Rなど)が高頻度に認められることが判明し、この変異がエピゲノム制御を介して腫瘍化に関わっていることが示唆される。毛様細胞性星細胞腫(pilocytic astrocytoma)や類上皮膠芽腫(epithelioid glioblastoma)に高率に認められるBRAF遺伝子変異(BRAF V600E)なども重要な遺伝子異常で、この遺伝子を標的とした分子標的薬による治療が開発されている。3)外的因子放射線照射は脳腫瘍の発生と関連性が深いと考えられており、照射後数年~数十年後に神経膠腫が発生する事例の報告がある。■ 症状神経膠腫の症状としては、(1)腫瘍による脳の圧迫や脳浮腫に由来する頭蓋内圧亢進症状、(2)発生部位の脳機能障害による局所症状、(3)腫瘍に起因する痙攣発作がある。(1)頭蓋内圧亢進症状:頭痛や嘔気・嘔吐の症状が出現し、進行すると意識障害を来す。(2)局所症状:腫瘍の部位により麻痺、感覚障害、失語症、視野障害、認知機能低下などのさまざまな高次脳機能障害が起こりうる。進行の早い膠芽腫では局所症状が起こりやすく、脳腫瘍全国集計調査報告では膠芽腫の初発症状のうち57%が局所症状である1)。(3)痙攣発作:腫瘍が発生源となる部分発作から、二次性全般化を来して全身の強直間代性発作を起こすこともある。特にlower grade gliomaで痙攣発作の頻度が高く、lower grade gliomaの初発症状のおよそ半数が痙攣発作である1)。■ 分類神経膠腫はグリア細胞起源であり、その分化組織型により星細胞腫系、乏突起膠腫系に分かれる。また、疾患予後を表す指標である組織学的悪性度は世界保健機関(WHO)のグレード分類で予後が良い方から悪い方へグレードIからIVに分類される。WHO脳腫瘍分類第4版(2007年改訂)では病理組織所見に基づいて分類され、星細胞腫系、乏突起膠腫系およびそれらの混合腫瘍に分類された(表1)。表1 成人神経膠腫の分類(WHO2007)画像を拡大する2016年にWHO脳腫瘍分類の改訂が行われ、腫瘍組織の遺伝子検査を加味した分類がされるようになった。神経膠腫においては、lower grade gliomaの70~100%の頻度でみられるIDH変異、乏突起膠腫系腫瘍の特徴である1p/19q共欠失を付記し、形態学的診断、悪性度、分子情報を統合したintegrated diagnosis(統合診断)が取り入れられた(表2)。表2 成人神経膠腫の分類(WHO2016)画像を拡大するまた、小児脳幹部に好発する神経膠腫ではヒストンの遺伝子変異などの異常が明らかにされて、びまん性正中神経膠腫(diffuse midline glioma、H3K27M-mutant)という分類が新設された。さらに、2021年にWHO分類の改定が行われ、成人びまん性神経膠腫は以下の3種類に統合された(表3)。グレードの記載はローマ数字からアラビア数字に変更された。表3 成人神経膠腫の分類(WHO2021)画像を拡大する(1)星細胞腫IDH変異型(グレード2、3、4)グレードは病理組織学的に決定されるが、遺伝子解析の結果CDKN2A/B遺伝子のホモ接合型欠失があればグレード4に分類される。(2)乏突起膠腫IDH変異型, 1p19q共欠失(グレード2、3)乏突起膠腫の診断にはこの遺伝子型が必須となり、グレードは病理組織学的に決定される。(3)膠芽腫IDH野生型(グレード4)IDH野生型で、[1]病理での微小血管増殖または壊死、[2]TERT遺伝子プロモーター領域の変異、[3]EGFR遺伝子増幅、[4]7番染色体増加かつ10番染色体の全欠失のいずれかを伴えば膠芽腫と診断される。IDH野生型のグリオーマでこれらの所見を伴わない場合には、小児型のびまん性神経膠腫を考慮することになるが、この分類では診断困難な腫瘍群が出てくることが課題である。■ 予後神経膠腫の予後はグレード、組織型により異なり、最も予後の悪い膠芽腫では標準治療 である放射線治療およびテモゾロミド化学療法の併用療法を行っても生存期間中央値は15~20.3ヵ月と予後不良である1、2)。脳腫瘍全国集計調査報告(2005~2008年)によると、神経膠腫の5年生存率は、グレード4の膠芽腫で16%、グレード3の退形成性星細胞腫で43%、退形成性乏突起膠腫で63%、グレード2のびまん性星細胞腫で77%、乏突起膠腫で92%である(表4)1)。表4 組織型・グレード別予後画像を拡大する2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 血液検査神経膠腫の有用な腫瘍マーカーは今のところない。悪性リンパ腫に対する腫瘍マーカーとして可溶性IL-2レセプターがあり、その他各種がんの腫瘍マーカーは転移性脳腫瘍の鑑別診断の補助となる。■ 髄液検査髄腔内播種がある場合、髄液細胞診で異型細胞が検出されることがある。■ 画像検査診断のためにはCT、MRIなどの画像検査が欠かせない。1)CT腫瘍の局在に加えて、腫瘍内の出血や石灰化の有無を確認する。神経膠腫で腫瘍内の石灰化があれば、乏突起膠腫を強く疑う。2)MRI腫瘍の詳細な解剖学的位置情報のみならず、多種類の撮像方法により、病巣の質的・生物学的情報も得ることができる。T2強調画像・FLAIR画像では、病巣の広がりと脳浮腫の領域を、T1強調画像ではガドリニウムによる造影検査を行うことで、血液脳関門の破綻のある腫瘍本体の局在情報が得られる。造影される神経膠腫は、膠芽腫をはじめとした高悪性度(high grade)の腫瘍を疑う。拡散強調画像では、腫瘍細胞密度の推定や急性期脳梗塞との鑑別を行う。拡散テンソル画像(diffusion tensor imaging)を用いて、錐体路、視放線、言語関連線維(弓状束や上縦束など)などの白質線維の描出が可能である。灌流画像により腫瘍の血流・血液量の評価が可能で、腫瘍の悪性度の推定や膠芽腫と悪性リンパ腫の鑑別に有用である。さらに、MR spectroscopy (MRS)では、病巣に含有される分子の成分解析を行い、腫瘍性成分の多寡、嫌気性代謝の有無などの情報が得られ、疾患の鑑別の一助となる。3)PET病巣の代謝活性を直接評価するためにPET検査が有用である。脳はブドウ糖代謝が高度であることから、一般に用いられるブドウ糖をトレーサーとするFDG-PET検査での検出力は低く、アミノ酸代謝を反映するメチオニンPETがより検出力に優れているが、現在まだ保険適用となっていないため自費での検査となる。アミノ酸をトレーサーとするフルシクロビン(18F)PETは2021年に初発悪性神経膠腫に対して薬事承認されたが、いまだ保険収載されておらず、使用できる段階にはない。■ 病理診断診断確定のためには、手術摘出検体(生検含む)を用いた病理組織診断が必要である。■ 遺伝子解析2016年のWHO脳腫瘍分類改訂第4版以降は、IDH変異や1p/19q共欠失などの遺伝子解析が診断確定に必須となる。IDH変異のうち、IDH1遺伝子のR132H変異は免疫染色で高精度に検出できるが、他のIDH変異はサンガーシークエンスやパイロシークエンスなどの解析が必要である。1p/19q共欠失は、FISH法、マイクロサテライト法、MLPA法などで解析を行うのが一般的である。現在、保険収載を目指した1p/19qのFISHプローブの開発が進められている。IDH変異、1p/19q共欠失含め神経膠腫の遺伝子解析は保険適用となっておらず、現在は主要施設において研究の一環として実施されているのが実情であり、今後の課題である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)悪性神経膠腫に対する治療の柱は手術、放射線治療、化学療法であるが、腫瘍の組織型、グレードによりその選択は異なる。また、腫瘍治療電場療法(商品名:オプチューン)やウイルス療法(同:デリタクト)などの新規治療法が近年保険収載され、保険診療下に使用可能となった。初発膠芽腫の標準治療例について、図2に示す。図2 初発膠芽腫標準治療画像を拡大する■ 手術神経膠腫が疑われたら、原則としてまず手術による腫瘍摘出が行われる。摘出標本による病理学的確定診断が極めて重要であり、その結果により術後の補助療法の内容や適否が決定される。神経膠腫の手術は、膠芽腫においてもlower grade gliomaにおいても摘出率を上げることにより予後改善が見込めるという報告が多く、最大限の摘出が望ましい3、4)。ただし、手術合併症により症状を悪化させてしまうと患者QOLを大きく損なうばかりか、生命予後をかえって悪化させてしまうため、症状を悪化させない範囲での最大限の摘出(maximal safe resection)を目指すべきである。手術支援技術が発展してきたため、術中ナビゲーション、電気生理モニタリング、覚醒下手術、術中蛍光診断(5-ALA)、術中MRIなどを駆使した精度の高い手術が可能となってきている。■ 放射線治療神経膠腫への放射線治療は、腫瘍細胞の浸潤性性格から浸潤領域を含む領域に照射することが必要であるため、正常神経細胞の機能障害を最小限とするべく、局所分割照射が行われる。グレード4の膠芽腫には、手術に引き続き後述のテモゾロミド併用放射線治療を60Gy/30回分割(1回線量2Gy)で施行する。照射範囲は腫瘍周囲のT2高信号域に若干のマージンを加えた範囲とすることが一般的である。高齢者の膠芽腫に対しては、40Gy/15回分割の放射線治療の非劣性が示され、寡分割照射が推奨される5)。また、高齢者や脆弱なフレイル患者に対して25Gy/5回分割照射の40Gy/15回分割照射に対する非劣性が示され、さらなる照射期間の短縮が治療選択肢となり得る6)。グレード3の退形成性神経膠腫には、総線量54~60Gyが照射される。摘出術後に引き続き照射を行うことが標準的であるが、予後良好な因子を持つ退形成性乏突起膠腫に対しては、照射を待機する試験的な治療も臨床試験では検討されている。グレード2の低悪性度神経膠腫の場合は、摘出度、年齢、腫瘍径、組織型などにより高リスク(high risk)例では放射線治療を行うことが推奨される。低リスク(low risk)例では術後早期の放射線治療は行わず、慎重に経過をみることが提案される。■ 化学療法わが国で神経膠腫に対して保険適用のある薬剤は、テモゾロミド(TMZ)、ニムスチン(ACNU、商品名:ニドラン)、ベバシズマブ(bevacizumab;BEV、同:アバスチン)、カルムスチン(BCNUウエハー、同:ギリアデル)、プロカルバジン(PCZ、同:プロカルバジン)、ビンクリスチン(VCR、同:オンコビン)などである。1)膠芽腫テモゾロミド(TMZ)18歳以上70歳以下の成人初発膠芽腫患者に対しては、手術後TMZを放射線治療期間中、ならびに放射線終了後投与するStuppレジメンが強く推奨される7)。TMZはリンパ球減少を生じやすく、その結果ニューモシスチス肺炎などの日和見感染のリスクが高まるため、ST合剤などの予防処置を行う。神経膠腫においては、O6-methylguanine-DNA methyltransferase (MGMT)遺伝子プロモーター領域のメチル化があるとTMZがより有効である8)。高齢者の膠芽腫において、短期照射の放射線治療にTMZの上乗せが有効かどうか検証した第III相臨床試験において、TMZ併用の有効性が示された9)。特にMGMTメチル化のある高齢者膠芽腫に対してはTMZ併用が勧められる。ベバシズマブ(BEV)血管新生の主因となる血管内皮増殖因子(VEGF)を阻害するヒト化モノクローナル抗体で、2013年6月に悪性神経膠腫に対して薬事承認された。初発膠芽腫に対して、AVAglioとRTOG0825の2つの第III相臨床試験が報告され、どちらも無増悪生存期間は延長するが、全生存期間は延長させないという結果であった10、11)。わが国では保険診療下で初発膠芽腫でのBEVの使用が可能であるが、全生存期間の延長が示されないことから必ずしも推奨されない。術後の残存腫瘍や浮腫によりperformance status(PS)を下げている患者には、浮腫軽減効果の強いBEV併用が期待できる可能性がある。一方、TMZ治療後の再発膠芽腫に対しては、国内外での臨床試験で高い奏効割合、無増悪生存期間と症状改善効果が示され、BEV単独療法は再発膠芽腫に対する有力な治療法と考えられる12、13)。これまでのところ、他剤との併用による効果増強は示されておらず、単独投与が基本である。BCNUウエハー手術時に摘出腔壁に留置してくるニトロソウレア系BCNUの徐放性ペレット剤(ギリアデル)が、2013年1月に承認された。初発および再発悪性神経膠腫に対する欧米での第III相臨床試験の結果は、BCNUウエハー留置による全生存期間が、初発時では悪性神経膠腫に対し、再発時にはサブ解析にて膠芽腫に対し、有意な延長が認められた。逆に、初発時の膠芽腫に、また再発時の悪性神経膠腫全症例には有意差はみられなかった。一方、BCNUウエハーの使用による有害事象としては、術後の脳浮腫が約25%で認められたほか、摘出腔内ガス発生、髄液漏、創感染、けいれん発作などが生じる可能性がある。現在、日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)において、90%以上の摘出が見込まれる初発膠芽腫に対して術中ランダム化してBCNUウエハー留置の有効性を検証する第III相試験が行われている(JCOG1703)。2)グレード3神経膠腫グレード3神経膠腫に対しては、術後薬物療法が推奨される。退形成性星細胞腫に対して放射線治療に同時併用(concurrent)と維持療法(adjuvant)のTMZを併用するかどうかを検証したCATNON試験では、concurrent TMZは放射線治療単独に比べて無増悪生存期間(PFS)・全生存期間(OS)ともに差を認めなかったが、adjuvant TMZはPFS・OSともに有意に延長するという結果であった14)。退形成性乏突起膠腫(1p/19q共欠失腫瘍)に対する放射線治療単独と放射線治療とPCV療法(PCZ+CCNU+VCR)の併用療法を比較した欧米の2つの第III相試験において、PCV療法の併用がOSを有意に延長することが示された15、16)。わが国ではCCNUが未承認であるため、ACNUを代替薬として用いるPAV療法が行われている。また、放射線治療+PCV療法と、放射線治療+TMZを比較するCODEL試験が現在行われている17)。3)グレード2神経膠腫High riskのグレード2神経膠腫に対しては、放射線治療+PCV療法の併用療法が放射線治療単独に比べてOSを延長することが示された18)。同じくhigh riskのグレード2神経膠腫に対するTMZ単独療法と放射線治療の第III相試験では、両群に差を認めなかった19)。■ 腫瘍治療電場療法(オプチューン)脳内に特殊な電場を発生させて腫瘍増殖を抑制する治療法で、交流電場腫瘍治療システム(オプチューン)を用いる。頭皮に電極パッド(transducer arrays)を貼り、中間周波の交流電場(Tumor Treating Fields)を持続的に発生させて腫瘍細胞の分裂を阻害する。初発テント上膠芽腫に対して、手術とTMZ併用放射線治療後、TMZ維持療法時にオプチューンを併用することで有意にPFS・OSが延長することが示され、2018年にわが国でも承認された20)。装着のために髪の毛を頻繁に剃り、約1.2kgの装置を常時持ち運びする必要が生じるため日常生活が制限される可能性がある。装着時間が長いほど治療効果が高まるが、接触性皮膚炎などの皮膚トラブルに注意が必要である。4 今後の展望■ ウイルス療法腫瘍溶解ウイルス療法(oncolytic virus therapy)とは、腫瘍細胞だけで増えるように改変したウイルスを腫瘍細胞に感染させ、ウイルスそのものが腫瘍細胞を殺しながら腫瘍内で増幅していくという新しい治療法である。ウイルスが直接腫瘍細胞を殺すことに加え、腫瘍細胞に対するワクチン効果も誘発する。2021年6月、世界初の脳腫瘍に対するウイルス療法として、テセルパツレブ(デリタクト)が承認されたが、薬剤の供給が間に合わずまだ普及はしていない。■ がん遺伝子パネル、がんゲノム医療2019年6月にがん遺伝子パネル検査としてOncoGuide NCCオンコパネル(シスメックス社)とFoundationOne CDxがんゲノムプロファイル(中外製薬)が保険収載され、それぞれ114遺伝子、324遺伝子の遺伝子変異などを解析することが可能となった。神経膠腫においてもがん遺伝子パネル検査を行い、遺伝子異常に応じた分子標的薬治療につなげるがんゲノム医療が進んでいくことが期待される。5 主たる診療科脳神経外科、脳脊髄腫瘍科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本脳腫瘍学会オフィシャルホームページ(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)がん情報サイト「オンコロ」(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報脳腫瘍ネットワーク(Japan Brain Tumor Alliance:JBTA)(患者とその家族および支援者の会)がんの子どもを守る会(患者とその家族および支援者の会)1)Brain Tumor Registry of Japan(2005-2008). Neurol Med Chir(Tokyo).2017;57:9-102.2)Wakabayashi T, et al. J Neurooncol. 2018;138:627-636.3)Sanai N, et al. J Neurosurg. 2011;115:3-8.4)Smith J.S, et al. J Clin Oncol. 2008;26:1338-1345.5)Roa W, et al. J Clin Oncol. 2004;22:1583-1588.6)Roa W, et al. J Clin Oncol. 2015;33:4145-4150.7)Stupp R, et al. N Engl J Med. 2005;352:987-996.8)Hegi M.E, et al. N Engl J Med. 2005;352:997-1003.9)Perry J.R, et al. N Engl J Med. 2017;376:1027-1037.10)Chinot O.L, et al. N Engl J Med. 2014;370:709-722.11)Gilbert M.R, et al. N Engl J Med. 2014;370:699-708.12)Friedman H.S, et al. J Clin Oncol. 2009;27:4733-4740.13)Nagane M, et al. Jpn J Clin Oncol. 2012;42:887-895.14)van den Bent M.J, et al. Lancet Oncol. 2021;22:813-823.15)Cairncross J.G, et al. J Clin Oncol. 2014;32:783-790.16)van den Bent M.J, et al. J Clin Oncol. 2013;31:344-350.17)Jaeckle K.A, et al. Neuro Oncol. 2021;23:457-467.18)Buckner J.C, et al. N Engl J Med. 2016;374:1344-1355.19)Baumert B.G, et al. Lancet Oncol. 2016;17:1521-1532.20)Stupp R, et al. JAMA. 2015;314:2535-2543.公開履歴初回2022年6月16日

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第113回 規制改革推進会議答申で気になったこと(後編)PPIもやっとスイッチOTC化?処方薬の市販化促進に向け厚労省に調査指示

処方薬の市販化促進を進めるため厚労省に調査を指示こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この連載を読んでくれている友人から、「今年はMLBの話題が少ないね」と言われてしまいました。確かに少ないです。理由の一つはご存じのようにロサンゼルス・エンジェルスの絶不調です。約1ヵ月前は今年こそポストシーズンに行けるかもと思い、秋の“米国取材”の準備を始めていました。しかし5月後半から負けが続き、ジョー・マドン監督解任、14連敗とバッド・ニュースが続きました。6月9日(現地時間)は大谷 翔平選手の久しぶり“2刀流”の活躍で、なんとか連敗は止まったものの、その後も勝ったり負けたりとチームの調子は今ひとつです。観戦していると、野手陣の守備や走塁が日本の高校野球以下の時があって気になります(特にジョー・アデル外野手!)。この守りでは、甲子園でも1回戦止まりでしょう・・・。救いは、まだ残り100試合近くあることです。ポストシーズン進出を願って、エンジェルスとダルビッシュ有投手のいるサンディエゴ・パドレスの応援を続けたいと思います。さて、今回も前回に引き続き、規制改革推進会議答申で気になったことについて書いてみたいと思います。今回は、薬関連(処方薬の市販化、SaMD)についてです。欧米と比べ、まったく進んでいない医療用医薬品のOTC化規制改革推進会議は今年の答申、「規制改革推進 に関する答申~コロナ後に向けた成長の「起動」~」1)において、「患者のための医薬品アクセスの円滑化」の項目で、処方薬の市販化促進を進めるため、厚生労働省に次のように調査を指示しました。「厚生労働省は、医療用医薬品から一般用医薬品への転用に関する申請品目(要指導[一般用]新有効成分含有医薬品)について、申請を受理したもののいまだ「医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議」で検討されていないものの有無を確認するとともに、令和2年度以前の申請に対していまだ結論が出されていないものについて、(ア)その件数、(イ)申請ごとに、その理由、(ウ)(イ)のうち厚生労働省及びPMDAの事業者に対する指摘に対して事業者によって適切な対応が行われていないために審査が進まないとするものについては当該指摘の内容、(エ)申請ごとに、当該申請品目の成分に関して、海外主要国における一般用医薬品としての販売・承認状況及び承認年度を調査する。」国はかねてからセルフメディケーションを推進すると言っているのに、緊急避妊薬や抗潰瘍薬など、欧米と比べ医療用医薬品のOTC化がまったく進んでいないことに業を煮やした上での対応と言えます。実際、米国などに旅行に行くと、日本では市販されていない医薬品がOTCとして普通に売られていることに驚くことがあります。だからといって大きな薬害が起こった、という報道は聞いたことがありません。日本の医療用から要指導・一般用への転用が、他国と比べて慎重過ぎて大きく遅れているのは確かなようです。日本OTC医薬品協会が“塩漬け品目”を調査実は、同様の指示は昨年の答申の中の「重点的に取り組んだ事項」で、「一般用医薬品(スイッチOTC)選択肢の拡大」として掲げられていましたが、検討はその後も進んでいませんでした。今回の規制改革推進会議の議論の過程では、2022年4月27日に開かれた「医療・介護・感染症対策ワーキング・グループ」で スイッチOTCの選択肢拡大について議論されています。この場では、日本OTC医薬品協会が、新規性を有する品目における審査状況の調査結果(いわゆる“塩漬け品目”の実態)を報告。それを受け、厚労省による実態調査の早急な実施を22年度の答申に盛り込むことが提案され、今回の答申に至ったのです。同調査は、「スイッチOTC等新規性を有する品目について承認申請を行ったものの審査が開始されていないまたは審査中のまま停止している品目(塩漬け品目)」の実態を明らかにする目的で、同協会加盟者に実施されました。回答した16社から得られた結果によると、スイッチOTC(これまでにない医療用成分を配合する医薬品で厚労省の「医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議の審議対象)では10~15年経過が1品目、5~10年経過が4品目、5年以内が1品目あったとのことです。さらに報告では、これまでに評価検討会議でスイッチOTC化を拒否された項目と論点が示され、「いわゆる『塩漬け品目』では、これまでに拒否された理由と共通するような照会事項が多いと推測される」と、通り一遍の否決理由を批判しました2)。4年前にはプロトンポンプ阻害薬を巡り学会と内科医会で意見分かれる塩漬け品目の存在は、厚労省の「意図的な無為」によって生じていると考えられます。理由の一つとして言われるのは、スイッチOTCが増えることで医療機関の患者数が減ることを嫌う、日本医師会や診療所開業医からの反対です。かつてこんなことがありました。2018年3月に開かれた厚労省の「医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議」において、スイッチOTCの候補として要望があった成分のうち、オメプラゾール、ランソプラゾール、ラベプラゾールなどプロトンポンプ阻害薬(PPI)3成分について、日本消化器病学会と日本臨床内科医会で意見が大きく分かれたのです。日本消化器病学会は3成分のOTC化を「可」とし、「14日以内の短期使用であれば特段注意すべき点はなく、OTCとすることに問題はない」としました。一方、日本臨床内科医会は「不可」とし、理由としてPPIの有害事象や重大疾患のマスク作用、薬物相互作用の懸念などを挙げ、「これらの問題点を薬剤師がきちんと理解し販売できるか、購入数の制限がきちんと担保されるか、という第1類医薬品の販売体制も問題」と反対しました。ちなみにこの時、日本医師会常任理事の鈴木 邦彦氏(当時)も、「PPIはあまりに強力な薬。安易にOTC化するべきでない」と強く反対しています。結局、PPIはその後もOTC化されず、先述の日本OTC医薬品協会の塩漬け品目に掲載されるに至ったわけです。開業医や日本医師会の反対は「リフィル処方」に似た構造専門学会等がOKを出しているのに、開業医や日本医師会が「危ない。薬剤師に任せられない」と反論する状況、似たような話を最近どこかで聞きませんでしたか? そうです、2022年診療報酬改定で導入されたリフィル処方を巡る動きです。リフィル処方については、「第105回 進まないリフィル処方に首相も『使用促進』を明言、日医や現場の“抵抗”の行方は?」でも書いたように、現場の開業医たちの反対がことのほか強いようです。そこから透けて見えるのは、患者の再診回数減少に対する危機感です。スイッチOTCはリフィル処方よりも深刻かもしれません。再診どころか初診すら減る可能性があるからです。仮にPPIがスイッチOTC化されれば、消化性潰瘍や逆流性食道炎の初診患者が激減するでしょう。ただ、患者にとっては薬局で薬を買うだけで治るならば、そうしたいのが山々でしょう。国にとってもセルフメディケーションで十分対応できる病気ならば、保険診療の頻度を減らし、医療費を抑えたいというのが本音でしょう。今回の規制改革推進会議の調査指示をきっかけに、厚労省の日本医師会などに対する“忖度”が解消され、医療用医薬品から一般用医薬品への転用が加速するかもしれません。厚労省の調査結果を待ちたいと思います。SaMDは緩く迅速に承認しようという流れ規制改革推進会議の答申で気になった薬関連のもう一つは、SaMD(Software as a Medical Device:プログラム医療機器)についてです。答申では「質の高い医療を支える先端的な医薬品・医療機器の開発の促進」の項で、SaMDの承認審査制度の見直しや、審査手続きの簡素化、SaMDに関する医療機器製造業規制などの見直しを求めています。例えば、機械学習を用いるものは、SaMDアップデート時の審査を省略または簡略できるよう提言、2022年度中の結論を求めています。全体として、「緩く迅速に承認しよう」という方針に見えます。しかし、本連載の「高血圧治療用アプリの薬事承認取得で考えた、『デジタル薬』が効く人・効かない人の微妙な線引き」でも書いたように、こと「治療用」のSaMDについては、拙速で承認を急ぐよりもその効果や有用性の検証をもっと厳密に行い、効く人と効かない人の線引きをきちんとすることのほうが重要ではないでしょうか。ところで、治療用のSaMDは、処方しても通常の薬剤と異なり、薬剤師や薬局の介入は基本的にはありません。患者がアプリをスマートフォンなどにインストールして、プログラムをスタートさせるだけです。ゆえに、リフィル処方やスイッチOTCのような「診察回数が減る」「薬剤師に任せられない」といった問題は起こらないでしょう。その意味では、開業医や日本医師会にとってSaMDはそれほどやっかいな存在ではないはずです。しかし、よくよく考えると、SaMDがどんどん進化していけば「医師もいらない」ということになりかねません。もし、国がそんな未来までを見据えてSaMDに前のめりになっているとしたら、それはそれで恐ろしいことです。参考1)規制改革推進に関する答申 ~コロナ後に向けた成長の「起動」~/規制改革推進会議2)医療用医薬品から要指導・一般用医薬品への転用(スイッチOTC化)の促進/日本OTC医薬品協会

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高齢者糖尿病患者の低血糖対策と治療/日本糖尿病学会

 5月12~14日に神戸市で「第65回 日本糖尿病学会年次学術集会」(会長:小川 渉氏/神戸大学大学院医学研究科 糖尿病・内分泌内科学 教授)が「知の輝きち技の高みへ」をテーマに開催された。 本稿では「シンポジウム 加齢を踏まえた糖尿病管理の最前線」より「高齢者糖尿病患者における低血糖の課題」(演者:松久 宗英氏/徳島大学先端酵素学研究所糖尿病臨床・研究開発センター 教授)の概要をお届けする。高齢者は低血糖になりやすい 超高齢化が進むわが国では、高齢の糖尿病患者は適切な自己管理行動をなかなかとることができず、糖尿病治療のハードルは高い。とくにわが国では世界的にみて糖尿病関連死亡について、重症低血糖の割合が高いことが指摘されている。 過去に日本糖尿病学会の糖尿病治療による重症低血糖調査委員会が行った調査(193施設、798症例)によれば、重症低血糖の発生率は年間2万件と推計され、低血糖による死亡や重篤な合併症(認知症など)が約5%に合併することが報告されている。とくに前駆症状が6割の患者に発生しているのに低血糖が発生していることが問題となっている。 また、2型糖尿病で重症低血糖を発症した患者の臨床的特徴では、70歳以上、HbA1c7.5%を下回ることが示唆され、約6割以上の患者にインスリンが、約3割の患者にSU薬の使用が報告されている1)。 実際、リアルワールドでは、80歳以上の患者に対し約2割の患者にSU薬が使用され、リスクの高い治療がされているという報告がある。 低血糖状態になるとインスリン分泌が抑制され、アドレナリン/ノルアドレナリン分泌が亢進し、グルカゴン分泌も亢進され、高齢者では一気に自律神経症状(心悸亢進、発汗、蒼白など)、中枢神経症状(頭痛、眠気、痙攣・昏睡など)へと進展する。また、高齢者にインスリンを投与すると、低血糖応答の閾値が低下していることにより、容易に意識障害になりやすく、SU薬の服用では夜間低血糖の発生へとこれに伴う心機能の悪化も懸念されている。低血糖がもたらす併存症を悪化させるスパイラル 次に高齢者に多い認知症や心不全など併存症との関係について、糖尿病があることで低血糖などが併存症に影響を及ぼし、負のスパイラルに陥りやすく、健康寿命への影響を与えることが知られている。 海外のARIC研究などでは、ADLの悪化が高まるほど、重症低血糖の頻度が高まることが報告され、重症低血糖を起こした患者では腎機能の低下や心機能の低下も多いことが報告されている。 認知機能との関係を研究したACCORD-MINDでは、認知機能検査で指標とされるdigit symbol substituion test(DSST)が低い人ほど、重症低血糖を起こしやすいことが示唆されている。その他、重症低血糖では大腿骨骨折が増加することを示す研究もあり、加齢によるリスクの拡大が健康寿命や生命予後の短縮となることが知られている2)。低血糖対策はCGMで行い、治療ではさらなる適正化を 高齢者の低血糖対策としては、日本糖尿病学会で示している「高齢者糖尿病の血糖コントロール値(HbA1c値)」をもとに目標数値を目指し治療を行い、リスクが高い患者には持続グルコースモニタリング(CGM)を活用して治療を行うことが期待される。 CGMを利用すればTime in range(TIR)で日内・夜間の血糖動態の把握に有用であり、血糖変動を可視化して理解することができる。とくにTime below range(TBR)を可視化することで、低血糖の値や頻度を示すことは患者さんにとって日常生活で有用な指標となる。一方で、CGMの使用がインスリンやSU薬の使用を減少させるかという課題では、まだ到達できていないのが現状であり、インスリンの使用量は減少しなかったとされている。また、CGMは2022年の診療報酬改定で使いやすくなったとはいえ、アラート機能ある機器の使用には保険適応上の制約があることもあり、今後の課題である。 高齢者における糖尿病治療では、低血糖のリスク軽減、高血糖の抑制、インスリン減量、シンプル化をすることが重要である。同時に血糖自己測定(SMBG)からCGMへの変更を行い、基礎インスリンと経口血糖薬(DPP-4阻害薬/SGLT2阻害薬)、頻回インスリン療法を実施することで、治療の適正化を行っていきたい。

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OTC販売機や処方薬のコンビニ受け取り 変わる医薬品販売【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第90回

2022年度の調剤報酬改定で調剤料がなくなり、薬学的知見が必要ない業務に関しては、薬剤師以外の従業員がより効率的に行うという流れに変わってきています。そのような中、対面販売が原則の医薬品の販売や受け渡しにも新しい風が吹いています。大正製薬は5月31日、OTC薬を販売機で販売する実証実験をJR新宿駅で開始した。改札内のドラッグストア近くにOTC販売機を設置し、同社の第2類・第3類医薬品、医薬部外品の計約30品目を取り扱っている。期間は8月31日まで。同社は実証実験を通し、課題を検討した上で、将来は駅以外の場所にもOTC販売機を設置していきたい考えだ。(2022年6月1日付 日刊薬業)本コラム第67回でも紹介したOTC医薬品を自動販売機風の機械で販売するという実証実験がとうとう開始されました。このOTC販売機は目と鼻の先にあるドラッグストアが運営していて、そこには薬剤師や登録販売者がいるため薬機法には抵触しません。販売機のタッチパネルを操作して商品を選択すると、店舗の資格者がタブレット端末で確認し、販売を許可するという流れです。資格者からは購入者の顔を見ることができ、特定成分を含むOTC医薬品を販売する際の乱用防止対策も講じています。実証実験は3ヵ月間、10:00~18:00の運用ですが、将来的には深夜や空港・高速道路のサービスエリアなどでの活用も目指すとしています。画像を拡大するこのサービスの利用率や将来的な波及効果にも興味はありますが、私が一番驚いているのは、この実証実験の認定を取得したのが製薬会社であることです。製薬会社が医薬品を直接販売するというのは、この業界においてはとても珍しいことです。今後、直売のOTC販売機が増えていけば、この業界の流通構造にも影響が出てくるのではないかと思います。処方薬がコンビニで無料・24時間受け取り可能にそして、もう1つの新しい風は、処方された医薬品をコンビニで受け取れるというサービスです。ファミリーマートは5月25日、東京都内の店舗で処方薬を受け取れるサービスを5月26日に始めると発表した。凸版印刷グループのおかぴファーマシーシステムが運営する「とどくすり薬局」や提携する薬局でオンライン服薬指導を受けた場合、患者が指定した店舗に最短翌日に届ける。都内のほぼすべての2,400店舗で24時間利用できる。患者はおかぴのホームページで受取店舗を指定する。メールで届く認証バーコードを店頭で提示すると、ファミマの店員が直接手渡す。通常の宅配物と同様の梱包のため、店員からは中身がわからないようになっている。配送はヤマト運輸が担う。送料と手数料は無料。(2022年5月25日付 日本経済新聞)これまでもごく少数のコンビニ店舗での受け取りに関する実証実験は行われていましたが、東京都内のほぼすべてのファミリーマートで受け取ることができるようになります。流れは、受診した医療機関で「とどくすり」利用の希望を伝えて処方箋をFAX(または郵送)してもらい、オンライン服薬指導を受けて、指定したコンビニ店舗のレジで認証用バーコードを提示して受け取るというシンプルなものです。プライバシーは確保されつつも、バーコードによる確実な受け取り確認が可能です。まだ東京都内のみですが、いずれ同様のサービスが全国展開されそうな気がします。このサービスは、いわゆる0410通知(新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いについて)と、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則の一部を改正する省令(令和4年3月31日施行)に基づいて提供されています。「医薬品の販売は薬局で」というこれまでの常識は確実に変わりつつあり、患者さんのニーズや自分の業務を見つめ直すきっかけになりそうです。

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