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レポーター紹介はじめにESMO Congress2023が10月20日から24日の間、スペイン・マドリードで開催されました。155の国から3万3,000人以上の参加者があり、2,600演題を超える研究成果が発表されました。今年は、非常に重要なPhase3試験の結果が数多く報告され、今後の診療に影響を与える興味深い結果も多く報告されました。今回は乳がん領域で、非常に話題となったいくつかの演題をピックアップして今後の展望を考えてみたいと思います。周術期乳がん演題1)ホルモン受容体陽性(HR+)HER2陰性(HER2-)乳がん今年は、術前化学療法を行うようなHR+/HER2-乳がんに対して、周術期に免疫チェックポイント阻害薬を使用するランダム化比較第III相試験が2つ報告されました(CheckMate 7FL試験とKEYNOTE-756試験)。いずれも、主要評価項目である病理学的完全奏効割合(pCR[ypT0/is ypN0])については、免疫チェックポイント阻害薬併用によって向上することが示されました。CheckMate 7FL試験(NCT04109066、LBA20)本試験では、新規発症のER陽性(ER+)/HER2-乳がん(病期T1c~2、N1~2個またはT3~4、N0~2個、Grade2[かつER 1~10%]またはGrade3[かつER≧1%])と診断された早期乳がん患者521例が組み入れられました。患者は抗PD-1抗体のニボルマブ群またはプラセボ群に無作為に割り付けられました。術前化学療法相では、患者はニボルマブまたはプラセボとパクリタキセルの併用投与を受け、次いでニボルマブまたはプラセボとAC療法の併用投与を受けました。ニボルマブ360mgを3週ごとに、または240mgを2週ごとに投与されました。手術後、両群の患者は、治験責任医師が選択した内分泌療法を受けました。ニボルマブ投与群では、術後治療としてニボルマブ480mgを4週ごとに7サイクル投与されています。全体として、ニボルマブ群では89%、プラセボ群では91%の患者が手術を受けました。結果として、pCR率はニボルマブ群で24.5%、プラセボ群で13.8%(オッズ比[OR]:2.05、95%信頼区間[CI]:1.29~3.27、p=0.0021)であり、統計学的に有意な改善を示しました。とくに、SP142のPD-L1陽性(IC≧1)患者のpCR率はニボルマブ群で44.3%、プラセボ群で20.2%(OR:3.11、95%CI:1.58~6.11)であり、24.1%の差を認めました。KEYNOTE-756試験(NCT03725059、LBA21)本試験では、新規発症のER+/HER2-乳がん(病期T1c~2かつN1~2個、またはT3~4かつN0~2個、Grade3、中央判定)と診断された早期乳がん患者1,278例が組み入れられ、抗PD-1抗体のペムブロリズマブ群またはプラセボ群に無作為に割り付けられました。術前化学療法相では、患者はペムブロリズマブまたはプラセボとパクリタキセルの併用投与を受け、次いでペムブロリズマブまたはプラセボとAC療法またはEC療法の併用投与を受けました。手術後、患者はペムブロリズマブ200mgまたはプラセボを3週間ごとに6ヵ月間投与され、内分泌療法を最長10年間受け、適応があれば放射線療法を受けました。本試験の2つの主要評価項目は、ITT集団における最終手術時pCR(ypT0/TisおよびypN0)割合、およびITT集団における治験責任医師評価による無イベント生存期間(EFS)でした。主要評価項目のpCR割合は、ペムブロリズマブ群24.3%、プラセボ群15.6%であり、統計学的に有意な改善を示しました(推定差:8.5%[95%CI:4.2~12.8]、p=0.00005)。とくに、75%程度を占める22C3のPD-L1陽性(CPS≧1)患者において、pCR割合の差は9.8%(95%CI:4.4~15.2)であり、PD-L1陰性(CPS2)トリプルネガティブ乳がん NeoTRIP試験(NCT002620280、LBA19)NeoTRIP試験は、TNBC患者を、nab-パクリタキセルとカルボプラチンを8サイクル投与する群(化学療法群)とnab-パクリタキセルとカルボプラチンにアテゾリズマブを追加投与する群(アテゾリズマブ群)に無作為に割り付けた試験です。主要評価項目はEFS、副次評価項目はpCR割合で、以前にpCR割合のみが報告されていました。ITT解析において、アテゾリズマブ投与後のpCR割合(48.6%)は、アテゾリズマブ非投与(44.4%;OR:1.18、95%CI:0.74~1.89、p=0.48)と比較して統計学的有意な改善を認めませんでした。多変量解析では、PD-L1発現の有無がpCR率に最も影響する因子でした(OR:2.08)4)。今回発表のあった、追跡期間中央値54ヵ月後のEFS率は、アテゾリズマブ非投与の化学療法単独群74.9%に対してアテゾリズマブ+化学療法群70.6%でした(HR: 1.076、95%CI:0.670~1.731)。このため、主要評価項目のEFSも統計学的有意差を示せなかったという結果でした。アテゾリズマブを使用した術前抗がん剤として、IMpassion 031試験はpCRの改善は認めましたが、DFSやOSは検討できない症例数で、ESMO BC2023における報告では、明らかな有意差を示していませんでした。一方で、KEYNOTE-522の結果は、前述の通りペムブロリズマブ追加でpCRも改善して、EFSも改善していましたので、真逆の結果でした。NeoTRIP試験のKEYNOTE-522試験と異なる点は、術後療法では免疫チェックポイント阻害薬を使用しないこと、術前抗がん剤治療として免疫チェックポイント阻害薬の併用ではアントラサイクリン系薬剤は使用しないこと、異なる免疫チェックポイント阻害薬を使用していることがありましたが、どのくらいこういった要素が影響するかは定かではありません。転移・再発乳がん演題1)HR+/HER2-乳がん TROPION-Breast01試験(NCT05104866、LBA11)本試験では、手術不能または転移を有するHR+/HER2-(IHC 0、IHC 1+またはIHC 2+、ISH陰性)乳がん患者732例が組み入れられました。ECOG PS 0~1、内分泌療法で進行を認め内分泌療法が適さない患者であり、全身化学療法を1~2ライン受けた患者が対象となっています。患者は、datopotamab deruxtecan(Dato-DXd)(6mg/kgを1日目に投与、3週おき)を投与する群、または医師が選択した化学療法(エリブリン、ビノレルビン、カペシタビン、ゲムシタビン)を投与する群に1:1で無作為に割り付けられました。主要評価項目は、RECISTv1.1に基づく盲検下独立中央判定(BICR)による無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)でした。本試験の結果、BICRによるPFS中央値はDato-DXd群6.9ヵ月、医師選択化学療法群4.9ヵ月、HR0.63(95% CI:0.52~0.76、p<0.0001)と、有意にDato-DXd群のPFSが良好でした。奏効割合はDato-DXd群36.4%、医師選択化学療法群22.9%でした。OSについては、イベントが不十分な状況でしたが、Dato-DXd群で良好な傾向が認められ、HR0.84(95% CI:0.62~1.14)でした。治療関連有害事象(TRAE)はDato-DXd群で94%、医師選択化学療法群で86%に発生したのですが、Grade 3以上のTRAE割合は、Dato-DXd群で21%対医師選択化学療法群で45%と、Dato-DXd群で低い頻度でした。また、薬剤関連の間質性肺疾患はDato-DXd群で3%、ただしほとんどがGrade 1か2でした。画像を拡大するこれまでにHR+/HER2-(低発現)乳がんに対するランダム化比較第III相試験で、有効性を検証した抗体薬物複合体(ADC:antibody drug conjugate)は3つ目ということになります。HER2低発現に対するT-DXdはすでに保険適用となっていますが、Destiny Breast 04試験の結果、2次治療以降の症例でPFS、OSが医師選択化学療法よりも良好であることが示されています。ESMOではOSのupdate結果が報告され、HR陽性群のT-DXd群の成績は、OS中央値が23.9ヵ月で、HR0.69(95%CI:0.55~0.87)と、これまでの報告の有効性が維持されていました。また、TROP2に対するADCとして、sacituzumab govitecan(SG)があり、こちらもTROPiCS-02試験の結果、PFS、OSが医師選択化学療法よりも良好であることが示されています。SGは2023年10月時点で、まだ日本では承認されていませんが、将来的に承認されることが期待されている薬剤です。実臨床ではまだDato-DXdは使用できませんが、仮にこれら3剤が使用可能な場合のHR陽性HER2陰性乳がんのADCシークエンスはどうなるでしょうか。いずれにせよ、臨床試験で組み入れられた症例はTROPION-Breast01とDestiny Breast04試験は1~2ラインの抗がん剤治療歴がある患者、TROPiCS-02試験は全身化学療法を2~4ライン受けた患者が対象でした。このため、2次治療以降のADCシークエンスが検討されます。HER2低発現であればOS改善効果が証明されている現状では、T-DXdが2次治療では優先されると思います。さらに、3次治療となればSGのほうはOS改善効果が証明されているので、同じTROP2のADCではSGの方が優先されると思います。一方で、HER2 0の症例では、現時点ではT-DXdは使用されませんので、2次治療での有効性はDato-DXdが優先され、3次治療でSGが検討されるのかと考えます。今後、現在進行中のDESTINY-Breast06試験の結果により、1次治療や、HER2 0の症例でのT-DXdの有効性が報告されることが期待されます。さらに、ADCのシークエンスが本当に臨床試験通り有効か? という点は非常に議論されているところですので、今後のリアルワールドデータや、臨床研究の結果が待たれます。2)トリプルネガティブ乳がん BEGONIA試験(NCT03742102、379MO)BEGONIA試験は、進行転移トリプルネガティブ乳がん患者として化学療法歴がない患者を対象とした、デュルバルマブとその他の薬剤との併用療法の有効性を複数のコホートで検討するPhaseIb/II試験です。いくつもの試験治療群がありますが、Dato-DXdと抗PD-L1療法であるデュルバルマブの併用療法を検討したアーム7の有効性と安全性については、昨年2022年のサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS)において、7.2ヵ月のフォローアップ中央値の結果として報告されていました。PD-L1発現が低い症例が53例(86.9%) (Tumor Area Positivity1)von Minckwitz G, et al. J Clin Oncol. 2012;30:1796-804.2)Masuda J, et al. J Immunother Cancer. 2023;11:e007126.3)Jerusalem G, et al. Breast. 2023;72:103580.4)Gianni L, et al. Ann Oncol. 2022;33:534-543.5)Modi S, et al. N Engl J Med. 2022;387:9-20.6)Rugo HS, et al. J Clin Oncol. 2022;40:3365-3376.7)Rugo HS, et al. Lancet. 2023;402:1423-1433.