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口腔がんの非侵襲的な検査法の開発に成功

 口腔病変の検体を非侵襲的に採取し、そこに含まれる2種類のタンパク質の比率をもとにスコアを算出することで、口腔がんを迅速に診断できるようになる可能性のあることが、新たな研究で示唆された。米ケース・ウェスタン・リザーブ大学生物科学部門のAaron Weinberg氏らによるこの研究結果は、「Cell Reports Medicine」に3月4日掲載された。 現行の口腔がんの生検は、歯科医やその他の専門医が口の中の疑わしい病変部位の組織を採取し、それを研究所に送って検査してもらうのが通常のプロセスである。しかし、この方法は、侵襲的である上に費用もかかる。それに対し今回の研究では、綿棒で病変部位を軽くこすって検体を採取し、それを分析するだけで、従来の生検と同程度に機能することが示されたという。 その具体的な方法は、まず、綿棒で病変部位とその対側の正常部位の検体を採取し、ELISA法によりそれぞれの検体のヒトβディフェンシン(β-defensin;BD)-3(hBD-3)とhBD-2の比率を算出する。BDは、口腔や肺、腎臓などの粘膜上皮や皮膚に発現するペプチドで、細菌などの病原体に対する防御機能を持つことが知られている。早期口腔がんの場合、hBD-3の発現が急増するが、hBD-2は変化しないという。次いで、病変部位のhBD-3とhBD-2の比率を正常部位の同比率で割ることで、BD指数と呼ばれるスコアを算出する。このスコアが特定の閾値を超えた場合には、口腔がんの可能性が高いと判定される。BD指数に基づくこの方法の検査能を3つのコホートで検証したところ、全体の感度は98.2%、特異度は82.6%であることが示された。 Weinberg氏は、「われわれは当初、hBD-3は創傷治癒や微生物の死滅に関与する、良い影響をもたらすものだととらえていた。しかし、ある種の細胞が制御不能に増殖するのと同じように、hBD-3も制御不能に増殖し得ることが明らかになったことから、口腔がんに焦点を当ててhBD-3を調べることにした」と話す。 Weinberg氏は続けて、「ジキル博士だと思っていたhBD-3が、実はハイド氏だと判明したときのわれわれの驚きを想像してみてほしい。hBD-3は腫瘍の成長を促すだけでなく、がんの初期段階で過剰に発現するのに対し、hBD-2に変化は生じないことが判明したのだ。正常部位に比べて病変部位ではこれらのタンパク質の発現レベルに違いが認められたことが、BD指数によりがんと良性病変を区別できるかどうかを調べる今回の研究につながった」と説明している。 研究グループは、すでに特許を取得したこの新しい検査法を採用することで、検査室ベースの生検の必要性を95%減らすことができると推定している。また、研究論文の共著者である、ケース・ウェスタン・リザーブ大学工学部教授のUmut Gurkan氏は、この結果に刺激され、約30分以内に患者のBD指数を表示できるポイント・オブ・ケア装置(特許出願中)を開発したという。

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「社会とのつながり」が死亡や要介護のリスクに影響

 人と交流する機会など、社会とのつながりが減少し、社会的に虚弱な状態にあることを「社会的フレイル(social frailty)」という。新たな研究の結果、この社会的フレイルにより、死亡のリスクは1.96倍、要介護などの機能障害が発生するリスクは1.43倍に上昇することが明らかとなった。徳島大学大学院医歯薬学研究部の後藤崇晴氏らによる研究であり、「Scientific Reports」に2月10日掲載された。 社会的フレイルや社会的孤立は高齢期に引き起こされやすいが、一人暮らしや、経済的困窮などの社会的問題とも関係するとされる。また社会的フレイルは、うつ状態や認知機能の低下などの「精神・心理的フレイル」、運動能力や筋力などが衰える「身体的フレイル」にも影響を及ぼす。これまでにフレイルに関して多くの研究が報告されているものの、社会的フレイルと健康状態との関連について、体系的な分析は行われていなかった。 そこで著者らは、文献データベースを用いた検索およびハンドサーチにより、社会的フレイルと総死亡(全死因による死亡)または機能障害との関連が研究された英語の論文を収集した。機能障害に関しては、介護保険の利用開始や日常生活活動(ADL)の低下などにより機能障害の発生が評価された研究を対象とした。 その結果、社会的フレイルと総死亡に関する研究が6件(前向きコホート研究5件、後ろ向きコホート研究1件)抽出された。これらは2013年~2022年に発表され、3件が日本の研究だった。6件のうち4件は、社会的フレイルは総死亡と有意に関連すると報告していたが、2件では有意な関連は報告されなかった。その他に、総死亡に加えて機能障害についても評価した日本の前向きコホート研究(2018年)は、社会的フレイルが総死亡および機能障害の有意なリスク因子であることを示していた。 社会的フレイルと機能障害との関連については、2014年~2022年に発表された研究が8件(前向きコホート研究4件、横断研究4件)抽出され、そのうち3件が日本の研究だった。8件中1件は、社会的フレイルは手段的ADL(IADL)の障害に影響を与えないとしていた。残りの7件は、社会的フレイルがADLまたはIADLと有意に関連することを示していた。 次に、総死亡に関する研究6件のメタアナリシス(統合解析)を行った結果、社会的フレイルにより総死亡のリスクが1.96倍(ハザード比1.96、95%信頼区間1.20~3.19)有意に上昇することが明らかとなった。ただし、これらの研究間の異質性(ばらつき)は高かった。社会的フレイルと機能障害との関連については、2件のハザード比、3件のオッズ比を統合し、それぞれ1.43(95%信頼区間1.20~1.69)、2.06(同1.55~2.74)という結果が得られた。これらの研究間の異質性は低かった。 著者らは、以上のシステマティックレビューとメタアナリシスの結果から、「社会的フレイルは総死亡および機能障害のリスクと有意に関連する」と結論付けている。また、高齢者では社会的フレイルの頻度が8.4%~11.1%と報告されていることに言及し、「社会的フレイルに関する議論は極めて重要だ」と指摘している。

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経口と長時間作用型注射剤抗精神病薬の有用性~ネットワークメタ解析

 長時間作用型注射剤(LAI)抗精神病薬は、主に統合失調症の再発予防に期待して使用されるが、状況によっては急性期治療にも役立つ場合がある。ドイツ・ミュンヘン工科大学のDongfang Wang氏らは、急性期統合失調症成人患者に焦点を当て、ランダム化比較試験(RCT)のシステマティックレビューおよびネットワークメタ解析を実施した。European Neuropsychopharmacology誌2024年6月号の報告。 対象薬剤は、リスペリドン、パリペリドン、アリピプラゾール、オランザピンおよびプラセボであり、経口剤またはLAIとして用いられた。17のその他の有効性および忍容性アウトカムにより補完し、全体的な症状に関するデータを統合した。エビデンスの信頼性の評価には、Confidence-in-Network-Meta-Analysis-framework(CINeMA)を用いた。 主な結果は以下のとおり。・分析には、115件のRCTより2万5,550例を含めた。・すべての薬剤において、プラセボと比較し、標準化平均差(SMD)が有意に良好であった。【オランザピンLAI】SMD:-0.66、95%信頼区間(CI):-1.00~-0.33【リスペリドンLAI】SMD:-0.59、95%CI:-0.73~-0.46【オランザピン経口】SMD:-0.55、95%CI:-0.62~-0.48【アリピプラゾールLAI】SMD:-0.54、95%CI:-0.71~-0.37【リスペリドン経口】SMD:-0.48、95%CI:-0.55~-0.41【パリペリドン経口】SMD:-0.47、95%CI:-0.58~-0.37【パリペリドンLAI】SMD:-0.45、95%CI:-0.57~-0.33【アリピプラゾール経口】SMD:-0.40、95%CI:-0.50~-0.31・有効性は、LAI抗精神病薬と経口剤との間で有意な差は認められなかった。・主要アウトカムの症状全体の感度分析では、これらの所見がほぼ確認された。・エビデンスの信頼性は、ほとんどが中程度であった。・LAI抗精神病薬は、急性期統合失調症に対し有効であり、副作用の観点で経口剤と比較し、いくつかのベネフィットが期待できる可能性がある。 著者らは「臨床医が急性期統合失調症患者の治療を行う際、本結果は経口剤とLAI抗精神病薬のリスクとベネフィットを比較検討するうえで役立つであろう」としている。

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8人に1人の高齢者が手術後1カ月以内に再入院か

 全身麻酔を要する大手術を受けた高齢者のほぼ8人に1人(12%)が手術後30日以内に、また4分の1以上(28%)が半年以内に再入院していると推定されることが、新たな研究で明らかにされた。フレイル状態の人や認知症の人での再入院リスクはさらに高かったという。米イェール大学医学部外科分野准教授のRobert Becher氏らによるこの研究結果は、「JAMA Network Open」に2月28日掲載された。 この研究では、National Health and Aging Trends Study(NHATS)に参加した65歳以上のメディケア受給者のデータを用いて、大手術後30日以内と180日以内の再入院率が推定された。大手術は、全身麻酔を用いて手術室で行われる、非経皮的かつ非内視鏡的な侵襲的手術と定義し、手術部位により6つのカテゴリー〔筋骨格系、腹部(消化器も含む)、血管、脳神経、心胸部、その他〕に分類した。NHATS参加者のうち、1,477人(平均年齢79.5歳、女性56%)が2011年から2018年の間に総計1,780件(全国レベルでは955万6,171件)の大手術を受けていた。 解析の結果、大手術を受けた65歳以上の高齢患者では、11.6%が手術後30日以内に、27.6%が手術後180日以内に再入院していると推定された。大手術後180日以内の再入院率は、90歳以上の患者(36.8%)、血管に関わる大手術を受けた患者(45.8%)、フレイル状態の患者(36.9%)、ほぼ確実に(probable)認知症である患者(39.0%)で顕著に高かった。同リスクは、フレイル状態の患者でフレイル状態でない患者の2.29倍、ほぼ確実に認知症である患者で認知症ではない患者の1.58倍と推定された。 Becher氏は、「このような高い再入院率は、手術が高齢者の自立を失わせるリスクを高めることを示している」と指摘する。同氏は、米国の高齢者人口が増加するにつれて、大手術を受ける高齢者の数も増加するとの見通しを示す。そして、「複数の疾患を抱えている高齢患者にとって最も重要な転帰は自立と機能の維持だが、大手術後の再入院はそれらに悪影響を及ぼすことが分かっている」と述べている。 一方、論文の共著者であるイェール大学老年医学分野教授のThomas Gill氏は、「これらの結果は、大手術前に高齢患者のフレイルや認知症の有無を考慮する重要性を示すものだ」と話す。そして、フレイルや認知症の存在が、手術後の高齢者の回復に対する「患者や家族の期待や手術の意思決定に影響を与える可能性がある」との見方を示している。 研究グループはさらに、再入院が高齢者の自立を脅かすだけでなく、米国の医療制度に大きな負担をかけていることにも言及し、再入院費は2018年だけで総額500億ドル(1ドル148円換算で7兆4000万円)以上に上り、その一因は退院後30日以内に発生した約380万件の再入院であると説明している。 研究者らは今後、なぜ米国ではフレイル状態の高齢者の再入院率がこれほど高いのかを調査し、再入院リスクを低減させる方法を模索する予定だと述べている。

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腎臓学会が紅麹サプリ調査を実施、多い症状は?【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第129回

小林製薬の「紅麹」の成分を含む健康食品を摂取し、死亡を含む腎障害などの健康被害が生じたという報告が相次いでいます。厚生労働省は、4月1日の時点で166人が入院したことが小林製薬からの報告で明らかになったと発表しました。被疑成分として「プベルル酸」が挙げられていますが、まだはっきりとはしていません。紅麹原料はさまざまな食品に含まれていることもあり、被害はさらに広がる可能性があります。厚生労働省と消費者庁は紅麹を使用した製品に由来する健康被害について、国民や事業者からの問い合わせに応える電話相談窓口を合同で設置するとしています。これらの報道を受け、日本腎臓学会は3月29日に学会員を対象とした「紅麹コレステヘルプに関連した腎障害に関する調査研究」アンケートを実施し、3日ほどで47例の報告が集まったとして4月1日に中間報告を発表しました。ものすごい早さで情報が収集され、ものすごい早さで中間報告が出されたことに驚いています。その中から、特徴を抜粋してお伝えします。患者は30~70歳代まで認められるが、40~69歳が約9割を占める。やや女性に多い。服用開始は約4割の人が1年以上前(服用開始時期2023年3月以前)で、服用期間が短期間の人(開始時期2023年12月、2024年1月、2月)も発症している。受診日は2023年11月以降で、1月以降の受診が約8割を占める。初診時の主訴は、半数以上が倦怠感や食思不振、尿の異常、腎機能障害。腹部症状や体重減少を訴える人も少なからずいる。発熱や嘔吐、頻尿、浮腫や体重増加などは比較的少ない。また、「紅麹コレステヘルプに関連した健康被害として、この中間報告でお示しした以外の病態を否定するものではありませんが、被疑剤を服用された場合、被疑剤の服用を中止するとともに、腎機能検査や尿蛋白に加えて、尿糖や血清カリウム値、尿酸値、リン値、HCO3-値の測定は重要」とありますので、上記に当てはまる場合は受診を勧めるほうがよさそうです。皆さんの薬局でも健康食品に関する相談や不安の声が寄せられているかもしれません。この件にまったく関係のない健康食品を摂取している人が不安になったり、ひいては医薬品の服用を急にやめてしまったりするなどの影響も生じかねません。今回は日本腎臓学会によって異例の早さで情報収集および中間報告がされましたが、4月末まで回答を受け付けていて、また改めて発表されるようです。ぜひこれらの情報を活用して患者さんの安心につなげたいですね。

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第209回 コストコで肥満治療

日本で今や30店舗を超える大規模小売店のコストコが本拠地の米国で薬の処方を含むより安価な肥満治療の提供を開始しました1)。世界の女性の5人に1人ほど、男性は7人に1人ほどが肥満です。米国の肥満有病率はより顕著で、2021年の報告によると同国の成人のいまや半数近い42%、数にして1億800万人がBMI 30以上の肥満体です2)。やはりできれば痩せたいと思う人は多いらしく、体重を減らす処方薬(以下、「肥満薬」)が気になる人は増えているようです。昨夏2023年7月に実施された米国成人1,327人のアンケート調査によると半数近い45%が有効で安全な肥満薬の使用に少なくともいくらか関心があると回答しました3)。そのような関心の高まりを背景にしてコストコは肥満治療の提供を始めました。昨秋2023年9月にコストコは、医師と患者を直結させることで診察、検査、処方薬を半額に抑えることを目指す医療会社Sesameと提携し、会員が1回29ドルの遠隔診療を受けられるサービスをすでに始めています4)。加えて、標準的な臨床検査や遠隔での医師評価を含む健康診断を72ドル、メンタルヘルス治療を79ドルで受けられもします。また、対面診察などのSesameのその他の医療すべてがコストコ会員は10%引きとなります。その提携が拡大してコストコの会員はさらに肥満治療を受けることが可能となりました。加入費用(subscription)は3ヵ月あたり179ドル(1ヵ月ごとの場合は60ドル)で、食事指導や患者ごとに誂えられた治療計画が示されます。会員は自分に合った医師を選択でき、最初はビデオ面談での診察を受け、予定の診察以外にも医師に連絡できます。必要と診療で判断されたらオゼンピック、ウゴービ、マンジャロ、Zepbound、Saxendaなどの体重減少効果がある薬の処方を受けることができます。それらの薬の費用は加入費用とは別に支払う必要があります。どれだけ痩せることができるかは個人差がありますが、臨床試験での平均値に基づく体重減少の目安は3ヵ月で5%、6ヵ月で10%、1年で15%です5)。小売業の医療参入医療に参入する米国の小売業は増えており、たとえばウォルマートはプライマリケアの施設を各地に設置していますし6)、Amazonはプライマリケア会社One Medicalを買収してPrime会員への年中無休24時間営業の医療の提供を始めています7)。また、製薬会社が患者と医療を仲立ちする例もあり、この1月にLillyは患者に同社の薬剤を直接届けることを含む遠隔医療事業LillyDirectを始めました。先月3月にはそれら薬剤の配達をAmazonが担当するとの発表がありました8)。AmazonはLillyDirectを介しての肥満薬Zepboundやその他のLillyの薬のいくつかを24時間年中無休で米国の患者に配達します。参考1)Wholesale Weight Loss: Sesame Unveils Specialized Care for Weight Loss with Pricing Exclusively for Costco Members / GlobeNewswire2)CDC:National Health and Nutrition Examination Survey 2017–March 2020 Prepandemic Data Files Development of Files and Prevalence Estimates for Selected Health Outcomes3)Poll: Nearly Half of Adults Would Be Interested in Prescription Weight-Loss Drugs, But Enthusiasm Fades Based on Lack of Coverage and Risk of Regaining Weight / KFF4)Wholesale Health Care: Sesame Launches America’s Best Pricing on High Quality Doctor Visits Exclusively for Costco Members / GlobeNewswire5)Costco6)Costco teams up with Sesame to offer weight loss program to members, including GLP-1 drugs / FierceHealthcare7)Amazon Introduces Compelling New Health Care Benefit for Prime Members for Only $9 a Month (or $99 a Year) / BUSINESS WIRE8)Amazon Pharmacy now provides home delivery of select diabetes, obesity, and migraine medications to LillyDirect patients / Amazon

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初診で死亡を確認、死亡診断書を書くための条件を明記-厚労省「死亡診断書記入マニュアル」

 厚生労働省は、毎年策定している「死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル」の令和6年度版を公開した。主な改訂点として、生前に診療を担当していなかった医師が死亡診断書を記載する場合の条件が明記された。また、死亡診断書および死体検案書の取り扱いに関するQ&Aもホームページに公開されている。3条件を満たせば生前に診ていなくても死亡診断書を交付可能 今回の改訂により、「別にかかりつけ医がいる患者が心肺機能停止で病院に搬送され、初診で死亡を確認したとき」や「連携する別の医師が訪問診療を行っていた患者が死亡し、死後診察を行ったとき」など、患者の生前に診療を担当していなかった医師であっても、以下の3条件をすべて満たす場合には、死亡診断書を交付できることが新たに明記された。1)生前の心身の状況に関する情報を、正確に把握できていること○次のいずれかにより患者の情報を正確に把握する必要がある・同一医療機関内で情報を共有する・生前に診療が行われていた別の医療機関や患者の担当医師から、生前の診療情報の共有または提供を受ける2)患者の死亡後に死後診察を行うこと○生前に診察をしていない医師が死亡診断を行う場合、必ず死後診察を行う○死後診察を行わず死亡診断書/死体検案書を交付すると、無診察治療(=医師法・歯科医師法第20条違反)に該当する恐れがある3)生前に診療を受けていた傷病に関連して死亡した、と判断できること○死後診察の結果、生前に診療を受けていた傷病に関連した死亡であると認められない場合は、死体検案書を交付する必要があり、死亡診断書は交付できない○死体に異状が認められた場合は、交付する書類が死亡診断書であるか死体検案書であるかを問わず、所轄警察署に届け出る必要がある※異状が認められなければ、警察署への届出の必要はないその他の主な改訂点p.2:出生証明書と死産証書の代筆について追記(p.36にも同様の追記)、出生届のオンライン化に係る検討状況について追記p.4:「記入の注意」欄の「産後42日未満の死亡の場合は」を「産後1年未満の死亡の場合は」に変更p.5:(下から5行目)「自らの診療管理下にある患者が、…」の「自らの」を削除p.6:(1行目)死亡診断または死体検案に際して、死体に異状が認められない場合は、所轄警察署に届け出る必要がない旨を明記p.6~7:章名を「医師が患者の死亡に立ち会えなかった場合」から「医師が患者の死亡に立ち会えなかった場合に死亡診断書を交付するには」に修正し、生前に診察を担当していなかった医師が死亡診断書を交付する場合の要件等について記載p.8、p.20:死亡診断書または死体検案書の署名欄について、記名押印は原則不可である旨を明記p.9:(死亡したところの種別)欄中、「6 自宅」および「7 その他」について、追記

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医師数統計公表、増えた診療科・減った診療科-厚労省調査

 厚生労働省は「医師・歯科医師・薬剤師統計」の最新結果を取りまとめ、3月19日に公表した。それによると、全国の医師数は34万3,275人で、前回調査(2020年)に比べ1.1%増加。人口10万対医師数は274.7人で、前回に比べ5.5人増加している。医療施設(病院・診療所)に従事する医師のうち女性は7万7,380人となり、前回よりも4.8%増と大きく数字を伸ばした。年齢階級別にみるとすべての階級で男性が多くなっているが、年齢階級が低くなるほど女性の割合が増え、29歳以下では36.2%を占めている。 「医師・歯科医師・薬剤師統計」は、厚労省が2年おきに実施しており、今回は2022年12月31日時点の届け出を集計したもの。医師数を主に従事している施設の別にみると、医療施設の従事者は32万7,444人(総数の95.4%)で、前回に比べ3,744人(1.2%)増加。介護老人保健施設の従事者は3,298人(同1.0%)で前回に比べ107人(3.1%)減少している。対前回比で医師数が最も増えたのは美容外科、減ったのは気管食道外科 従事する主たる診療科別にみると、臨床研修医を除き、内科が6万1,149人(18.7%)と最も多く、次いで整形外科2万2,506人(6.9%)、小児科1万7,781人(5.4%)と続いた。診療科別の平均年齢をみると、肛門外科が60.5歳と最も高く、内科(59.1歳)、臨床検査科(58.7歳)と続いた。臨床研修医を除くと救急科が41.9歳と最も低く、美容外科(42歳)、集中治療科(42.8歳)と続いた。 前回調査時(2020年)と比較して医師数が増えた診療科は、美容外科(対前回比で132.4%)、アレルギー科(同110.7%)、産科(同108.3%)、形成外科(同106.8%)など。一方で医師数の減少が大きかったのは気管食道外科(同95.4%)、小児外科(同95.7%)、外科(同96.7%)、心療内科(同97.5%)、耳鼻咽喉科(同97.7%)などであった。なお、本稿で紹介した診療科別の統計結果については「臨床研修医」や「主たる診療科不詳」および「その他」の回答はいずれも除外している。人口10万対医師数が最も多いのは徳島県 医療施設に従事する人口10万対医師数は262.1人で、前回(256.6人)に比べ5.5人増加している。これを都道府県(従業地)別にみると、徳島県が335.7人と最も多く、次いで高知県335.2人、京都府334.3人。一方で埼玉県が180.2人と最も少なく、次いで、茨城県202.0 人、千葉県209.0人となっている。 主たる診療科が小児科の医師数(15歳未満人口10万対)を都道府県(従業地)別にみると、鳥取県が184.8人と最も多く、山口県が91.2人と最も少ない。小児科専門医は鳥取県が148.5人と最も多く、千葉県が66.1人と最も少なかった。 主たる診療科が産婦人科・産科の医師数(15~49歳女性人口10万対)を都道府県(従業地)別にみると、鳥取県が68.4人と最も多く、埼玉県が32.8人と最も少ない。産婦人科専門医は徳島県が66.7人と最も多く、埼玉県が32.4人と最も少なかった。 主たる診療科が外科(外科、呼吸器外科、心臓血管外科、乳腺外科、気管食道外科、消化器外科[胃腸外科]、肛門外科、小児外科)の医師数を都道府県(従業地)別にみると、岡山県が32.2人と最も多く、埼玉県が15.1人と最も少ない。外科の専門医(外科専門医、呼吸器外科専門医、心臓血管外科専門医、消化器外科専門医、小児外科専門医のうちいずれかを取得)は、岡山県が24.3人と最も多く、新潟県が12.6人と最も少なかった。

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低用量アスピリンは肝脂肪を減らすか?~MASLD対象RCT/JAMA

 脂肪性肝疾患の1つであるMASLD(metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease)は、進行すると肝硬変や肝細胞がん、その他の合併症のリスクが高まるとされている。しかし、本邦においてMASLDに対する治療薬として承認されている薬剤はなく、治療法の開発が望まれている。アスピリンは前臨床研究や観察研究において、MASLDから肝線維化や肝細胞がんへの進展を抑制する可能性が示されており、MASLDの治療薬候補の1つと考えられている。そこで、米国・マサチューセッツ総合病院のTracey G. Simon氏らの研究グループは、海外第II相プラセボ対照無作為化比較試験を実施し、肝硬変を伴わないMASLDに対する低用量アスピリンの治療効果を検討した。その結果、低用量アスピリンは肝脂肪量を減少させることが示された。本研究結果は、JAMA誌2024年3月19日号にPreliminary Communicationとして掲載された。 本研究は、肝硬変のないMASLD患者80例を対象とした。対象患者を低用量アスピリン群(1日1回81mg)とプラセボ群に無作為に1対1の割合で割り付け、6ヵ月投与した。主要評価項目は、投与6ヵ月時点におけるMagnetic Resonance Spectroscopy(MRS)に基づく肝脂肪量の変化であった。主要な副次評価項目は、投与6ヵ月時点におけるMRSに基づく肝脂肪率の変化、MRSに基づく肝脂肪量30%以上減少の達成率、Magnetic Resonance Imaging-Proton Density Fat Fraction(MRI-PDFF)に基づく肝脂肪量の変化および肝脂肪率の変化であった。 主な結果は以下のとおり。・主要評価項目の投与6ヵ月時点におけるMRSに基づく肝脂肪量の変化は、プラセボ群が3.6%であったのに対し、低用量アスピリン群は-6.6%であり、低用量アスピリン群が有意に減少した(群間差:-10.2%、95%信頼区間[CI]:-27.7~-2.6、p=0.009)。・投与6ヵ月時点における肝脂肪率の変化は、プラセボ群が30.0%ポイントであったのに対し、低用量アスピリン群は-8.8%ポイントであり、低用量アスピリン群が有意に減少した(群間差:-38.8%ポイント、95%CI:-66.7~-10.8、p=0.007)。・MRSに基づく肝脂肪量30%以上減少の達成率は、低用量アスピリン群がプラセボ群と比較して有意に高かった(42.5% vs.12.5%、p=0.006)。・MRI-PDFFに基づく肝脂肪量・肝脂肪率の変化も、低用量アスピリン群がプラセボ群と比較して有意に優れた(それぞれp=0.004、p=0.003)。

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コロナ後遺症は月経異常、QOLやメンタルヘルスに影響

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に感染した人のうち、約3人に1人が悩まされるといわれる「コロナ後遺症(Long COVID)」。新たに、コロナ後遺症のある18~50歳の女性を対象とする研究が行われた。その結果、約20%の女性がさまざまな月経異常を訴え、それに伴いQOLやメンタルヘルスが悪化していることが明らかとなった。岡山大学病院 総合内科・総合診療科の櫻田泰江氏、大塚文男氏らによる研究であり、詳細は「Journal of Psychosomatic Obstetrics and Gynecology」に1月25日掲載された。 コロナ後遺症の症状は多岐にわたり、オミクロン株の流行期には、倦怠感、頭痛、不眠が増加傾向であると報告されている。また、女性の健康に焦点を当てた最近の研究では、COVID-19の流行が女性の月経にさまざまな悪影響を及ぼしていることなども示されている。そこで著者らは、日本人の女性を対象として、コロナ後遺症としての月経異常の臨床的特徴を明らかにする研究を行った。 この研究は、岡山大学病院のコロナ・アフターケア外来を2021年2月15日~2023年3月31日に受診した、コロナ後遺症の女性患者(18~50歳)を対象に行われた。コロナ後遺症の定義は、感染から4週間以上にわたり何らかの症状が持続している状態とした。患者の診療記録より、月経情報、健康関連QOL、抑うつ症状、ホルモン検査などの臨床データが解析された。 研究対象の女性223人のうち、月経異常を訴える女性は44人(19.7%、年齢中央値42.5歳)で、月経異常のない女性(同38歳)よりも有意に年齢が高かった。44人中34人(77.3%)は、オミクロン株の流行期(2022年1月以降)に感染していた。月経異常の中で最も多い症状は月経周期の不順(63.6%)であり、次いで月経痛の悪化(25%)、過多月経(20.5%)、更年期症状(18.2%)、月経前症候群(15.9%)などの症状が見られた。 また、月経異常のある女性では月経異常のない女性に比べて、倦怠感(75対58.1%)や抑うつ気分(9.1対1.1%)を伴う人の割合が有意に高かった。さらに、健康関連QOLの評価指標(FASおよびEQ-5D-5L)による評価では、月経異常のある女性の方が、倦怠感やQOLが有意に悪化していた。 ホルモン検査では、月経異常のある女性の方が、血清コルチゾール値(中央値8.5対6.7μg/dL)が有意に高かった。その他の検査結果に有意差はなかったものの、月経異常のある女性の方が、血清卵胞刺激ホルモン(FSH)値(同28.7対8.3mIU/mL)は高く、血清エストラジオール(E2)値(同12対17.95pg/mL)は低い傾向が認められた。 研究結果について著者らは、「コロナ後遺症は日本人女性の月経にも影響を及ぼし、QOLとメンタルヘルスの悪化につながるというエビデンスを提供するものである」と結論付けている。コルチゾール値が高かったことに関しては、月経異常などによるストレス状態が存在し、視床下部-下垂体-性腺軸を介してE2の産生障害につながる可能性を指摘。月経状態は心身の状態に影響を及ぼし得ることから、「正常な月経状態を維持することは重要である」と総括している。

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初発統合失調症の脳ネットワークに対するアリピプラゾールの影響

 アリピプラゾールは、初発統合失調症患者のいくつかの脳内ネットワーク間の機能接続を調節し、臨床症状の改善に影響を及ぼす。しかし、統合失調症患者の広範な脳内ネットワーク間の異常接続に対するアリピプラゾールの作用は、依然として不明である。中国・首都医科大学のSitong Feng氏らは、大規模な脳内ネットワークの機能接続に対するアリピプラゾール12週間投与の影響を調査するため、縦断的研究を実施した。Journal of Psychiatric Research誌2024年3月号の報告。 対象は、初回エピソード時に薬物治療未実施の統合失調症患者45例および健康対照者45例。ベースライン時およびアリピプラゾール投与12週間後、安静時の磁気共鳴機能画像法(fMRI)データを収集した。統合失調症患者は、12週間治療後の臨床症状改善に応じて、治療反応群と非治療反応群に分類した。機能接続は、7つの大規模な脳内ネットワークに対し評価した。さらに、大規模な脳内ネットワークの機能接続変化と臨床症状との関連を調査するため、相関分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・ベースライン時、統合失調症患者は、健康対照者と比較し、広範な脳内ネットワークの機能接続の減少が認められた。・12週間のアリピプラゾール投与により、臨床症状の改善と関連し、治療反応群の皮質下ネットワーク、デフォルトモードネットワーク、その他の脳内ネットワークの持続的な機能接続の減少を抑制した。 著者らは「本発見は、統合失調症患者の大規模な脳内ネットワークにおける機能接続に対するアリピプラゾールの作用を明らかにしており、統合失調症における症状改善の理解に、新たな洞察を与える可能性がある」としている。

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出生率は世界的に低下、2100年までの予測/Lancet

 世界的に出生率が低下しており、2021年は、半数以上の国・地域で人口置換水準値を下回っていたこと、2000年以降の傾向として出生率の下がり方には大きな不均一性がみられ、最低出生率が観察された後にわずかでも回復した国はごく少数であり、人口置換水準値へと回復した国はなかったことが示された。さらには、世界中の出生数の分布が変化しており、とりわけ低所得国が占める割合が増加していたという。米国・ワシントン大学のSimon I. Hay氏らGBD 2021 Fertility and Forecasting Collaboratorsが解析結果を報告した。今回の結果を踏まえて著者らは、「出生率は、将来的に世界中で低下し続け、出生促進政策の実施が成功したとしても低いままとなるだろう。これらの変化は、高所得国における高齢化の進展と労働力の減少に加え、すでに最貧地域で出生率が増加していることで、広範囲にわたる経済的および社会的な影響をもたらすだろう」とまとめている。Lancet誌オンライン版2024年3月20日号掲載の報告。GBD 2021のデータを用いて解析 研究グループは、8,709国年の人口動態登録と標本登録、1,455件の調査と国勢調査、および150のその他の情報源から得られたデータを統合し、混合効果回帰モデルおよび時空間ガウス過程回帰モデルを用いて、10歳から54歳までの5歳ごとの年齢別出生率(ASFR)を算出し、ASFRより合計特殊出生率(TFR)を推計するとともに、ASFRと年齢別の女性人口を掛けて出生数を算出した。 保健指標評価研究所(IHME)の予測モデルを用いて2100年までの将来の出生率を予測するとともに、参照シナリオと政策に依存する重要な代替シナリオに基づいて、2100年までの出生率指標を予測した。出生率は1950年以降、すべての国・地域で低下 1950~2021年に、世界のTFRは4.84(95%不確定区間[UI]:4.63~5.06)から2.23(2.09~2.38)へ減少した。世界の年間出生数は、2016年に1億4,200万人(95%UI:137~147)とピークに達した後、2021年には1億2,900万人(121~138)まで減少した。 出生率は1950年以降すべての国・地域で低下し、2021年にTFRが2.1(人口置換水準出生率)を上回ったのは94の国・地域(46.1%)であった。この94の中には、サハラ以南のアフリカ46ヵ国中44ヵ国が含まれ、2021年の出生数の割合が最も多いsuper-region(29.2%、95%UI:28.7~29.6)であった。 1950~2021年に、推定出生率の最低値が人口置換水準を下回った47の国・地域では、その後1年以上出生率が上昇したが、人口置換水準以上に回復したのは3つの国・地域のみであった。TFR予想、2050年に1.83、2100年に1.59 将来にわたって出生率は世界的に低下を続け、参照シナリオでは世界全体のTFRは2050年に1.83(95%UI:1.59~2.08)、2100年に1.59(95%UI:1.25~1.96)と予測された。出生率が人口置換水準を上回る国・地域は、2050年には49(24.0%)、2100年にはわずか6(2.9%)と予測され、この6ヵ国・地域のうち3ヵ国・地域は2021年の世界銀行の定義する低所得グループに含まれ、すべてがサハラ以南のアフリカのGBD super-regionに位置していた。 出生数の割合は、サハラ以南のアフリカで2050年には41.3%(95%UI:39.6~43.1)、2100年には54.3%(47.1~59.5)と、世界の半数以上を占めると予測された。出生数の割合は、他の6つのsuper-regionのほとんどは2021年から2100年の間に減少すると予測され、たとえば、南アジアでは2021年24.8%(95%UI:23.7~25.8)から2050年16.7%(14.3~19.1)、2100年7.1%(4.4~10.1)に減少するが、北アフリカ、中東、および高所得のsuper-regionでは緩やかに増加すると予測された。 代替複合シナリオの予測では、教育と避妊に関するSDGs目標の達成と出生促進政策の実施により、世界のTFRが2050年には1.65(95%UI:1.40~1.92)、2100年には1.62(1.35~1.95)になることが示唆された。

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第90回 小林製薬の「紅麹」製品自主回収、シトリニンが原因?

ベニコウジカビ(Wikipediaより)2024年3月22日、小林製薬は「紅麹原料(自社製造)の成分分析を行った結果、一部の紅麹原料に当社の意図しない成分が含まれている可能性が判明した」と発表しました1)。2024年3月27日時点の報道によると、小林製薬の紅麹製品を摂取し、腎疾患等を発症した患者の死亡が2件、入院症例は106件となっています。紅麹は、マイコトキシンの1種であるシトリニンによる健康障害が知られており、10年前にはすでにヨーロッパで規制されています2~4)。スイスでは2014年に、紅麹を成分に含む食品の売買は違法であると注意喚起されています。紅麹は現在も着色料や発酵食品などに使用されており、血清コレステロール値や血圧を下げる機能が知られています。しかし、紅麹が発酵した場合、マイコトキシンであるシトリニンが生成され、加熱しても腎障害につながる毒性が消えないため、これをいかに制御するかが課題でした。小林製薬も過去ヨーロッパで取り沙汰された紅麹の腎障害については、当然認識していました。次世代シークエンサーを使って紅麹菌3種類の全ゲノム解析を行った結果、日本で主に使われているMonascus pilosusにシトリニンが生成できないという論文が公開され5)、今回自主回収に踏み切った製品にも当然シトリニン非産生株が用いられています。――とはいえ、紅麹が腎疾患を起こしているという疑いが出て自主回収に踏み切っているわけですから、これらの製品がシトリニンを産生しているかどうか、その他健康被害を起こす物質が検出されるかどうかが注目されています。小林製薬は、過去1年間に製造した紅麹原料合計18.5トンのうち、すでに16.1トンは子会社から取引先へ販売済みであるとしています。小林製薬は、すべての紅麹原料を使用した製品の販売を停止するよう求め、回収措置を進めています。3月25日、小林製薬の株価は値幅いっぱいまで急落しました。海外で以前に問題となった紅麹関連の腎障害がここに再び現れた場合、消費者およびステークホルダーへの詳細な説明が不可欠となるでしょう。参考文献・参考サイト1)小林製薬:紅麹関連製品の使用中止のお願いと自主回収のお知らせ2)内閣府食品安全委員会:スイス連邦食品安全獣医局(BLV)、紅麹を成分に含む食品の売買は違法と注意喚起3)内閣府食品安全委員会:フランス食品環境労働衛生安全庁(ANSES)、紅麹を有効成分とするサプリメントを服用する前に必ず医師に相談するよう注意喚起4)内閣府食品安全委員会:欧州連合(EU)、紅麹由来のサプリメント中のかび毒シトリニンの基準値を設定5)Higa Y, et al. BMC Genomics. 2020 Oct 1;21(1):679.

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妊娠後期の抗てんかん薬、薬剤ごとの児への影響は?/NEJM

 出生前に抗てんかん薬に曝露された児は、曝露されていない児より自閉症スペクトラム障害の発生率が高いことが示された。ただし、適応症やその他の交絡因子で調整すると、トピラマートとラモトリギンへの曝露児では実質上その関連がみられなくなったのに対し、バルプロ酸への曝露児ではリスクが高いままであった。米国・ハーバード大学T.H. Chan公衆衛生大学院のSonia Hernandez-Diaz氏らが、米国の2つの医療利用データベースを用いた解析結果を報告した。母親の妊娠中のバルプロ酸使用は、児の神経発達障害のリスク上昇との関連が示されている。一方で母親のトピラマート使用に関連した児の自閉症スペクトラム障害のリスクに関しては、限定的だが相反するデータが示されていた。NEJM誌2024年3月21・28日号掲載の報告。曝露群vs.非曝露群で、自閉症スペクトラム障害のリスクを比較 研究グループは、米国のメディケイド受給者の医療利用に関するデータを含むMedicaid Analytic eXtract-Transformed Medicaid Statistical Information System Analytic Files(MAX-TAF)の2000~18年のデータ、および民間医療保険に関するデータを含むMerative MarketScan Commercial Claims and Encounters Database(MarketScan)の2003~20年のデータを用い、妊婦とその児を同定した。 解析対象は、推定最終月経日の3ヵ月以上前から出産1ヵ月後まで保険に加入していた12~55歳の女性(とその児)を全体集団とし、てんかんと診断されている女性に限定した集団についても解析を行った。 妊娠19週目から出産まで(妊娠後期)にトピラマートの投薬を1回以上受けた妊婦とその児を曝露群(トピラマート群)、最終月経の90日前から出産まで抗てんかん薬の投薬を受けていない妊婦とその児を非曝露群とした。また、トピラマート群の陽性対照としてバルプロ酸、陰性対照としてラモトリギンの投薬を1回以上受けた妊婦とその児を設定した。 主要アウトカムは、児の自閉症スペクトラム障害の臨床診断(自閉症スペクトラム障害のコードが2回以上の受診で記載されていること)で、曝露群の児と非曝露群の児について自閉症スペクトラム障害のリスクを比較した。トピラマート群6.2%、バルプロ酸群10.5%、ラモトリギン群4.1%、非曝露群4.2% 解析対象の全体集団は429万2,539例で、このうち2,469例がトピラマート群、1,392例がバルプロ酸群、8,464例がラモトリギン群、非曝露群が419万9,796例であった。また、てんかんの診断を有する女性の限定集団は2万8,952例で、トピラマート群1,030例、バルプロ酸群800例、ラモトリギン群4,205例、非曝露群8,815例であった。 全体集団において、非曝露群の児(419万9,796例)における8歳時の自閉症スペクトラム障害の推定累積発症率は1.9%(95%信頼区間[CI]:1.87~1.92)であった。 てんかんと診断されている母親の限定集団では、8歳時の自閉症スペクトラム障害の推定累積発症率は、非曝露群4.2%に対して、トピラマート群6.2%、バルプロ酸群10.5%、ラモトリギン群4.1%であった。ベースラインの交絡因子を補正した傾向スコア加重ハザード比は、トピラマート群0.96(95%CI:0.56~1.65)、バルプロ酸群2.67(1.69~4.20)、ラモトリギン群1.00(0.69~1.46)であった。

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名目上のp値とは?「ネコは心筋梗塞の発症を抑制する」は真実か【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第70回

経済用語における「名目」本原稿を執筆している3月13日は春闘の集中回答日でした。これは、自動車や電気機器、鉄鋼などの製造業大手の経営側が、賃上げなど労働組合の春闘要求に対する回答をいっせいに伝える日です。報道によれば、大手企業では満額を含む高い水準の回答が相次いだそうです。30年近く給与が上昇しなかった日本では画期的なニュースです。労働組合活動に疎い医師の立場からすると、縁遠い感じもしますが、医師も連携して力を合わせて、要求すべきことを訴えていかねばならないとも感じます。満額回答が続出した背景には、歴史的な物価高があります。賃金が上昇しても、物価の上昇分に追い付いていなければ、実質的には目減りしていることになります。これを説明するための用語が「名目賃金」と「実質賃金」です。名目賃金は、貨幣で受け取った賃金そのものを指します。給与明細に記載された給与額です。実質賃金は、労働者が実際に受け取った給与である名目賃金から、消費者物価指数に基づく物価変動の影響を差し引いて計算したものです。たとえば、名目賃金が10%上がると同時に、物価も10%上がった場合には、実質賃金は変化なく同じです。物価上昇分を超える名目賃金の上昇がなければ、「給料が上がり景気が良くなった。さあ金を使おう」とはなりません。海外に比して日本の物価が相対的に安いことは実感されますので、一定の物価上昇が続いてもいいのでしょう。それ以上の賃金上昇が続く「物価と賃金の好循環」が期待されます。日本経済がデフレ基調から脱却し、成長軌道に復することを願うばかりです。名目賃金・実質賃金だけでなく、国内総生産(GDP)でも「名目GDP」「実質GDP」というように、対義語の関係にある「名目」と「実質」は経済指標でしばしば使用されます。医学領域では、「名目」という用語はあまり使われないかもしれません。しかし、読者の皆さまが「名目」という言葉を目にしないと感じるのであれば、注意力が不足しています。医療関係者は、製薬企業から薬剤についての宣伝の資料を受け取ると思います。最近ならばインターネット上で宣伝資材に触れる機会も多いと思います。そのパンフレットやチラシの資料には「名目上のp値」という言葉が多く記載されています。たいてい小さな文字で書かれていることが多いので気付かないかもしれませんが、あらゆる図表に「名目上のp値」と記載されています。名目上のp値とは?まずp値について復習しましょう。研究の世界では統計的な有意性が求められます。有意性の判定基準として通常は「p値」が使われ、一般的には0.05(=20分の1)を有意水準として、p値が0.05未満の時に有意であるとされます。新薬Aの有効性を検討するために、プラセボと比較するランダマイズ試験を実施するとします。新薬Aは有効性がない薬剤であるとの仮説を立てます。これを帰無仮説といいます。この有効性がないと仮定した場合に、今回のランダマイズ試験の結果が偶然に発生する確率であるp値を計算します。このp値が0.05未満であった場合に、「5%未満の確率で起こる事象は、20回に1回以下しか起こらないまれな事象だ。したがってこのようなまれな事象が今回の研究で偶然に起こったとは考えないことにしよう。そうだ、前提である新薬Aは有効性がないという帰無仮説が間違っていたのだ。新薬Aが有効と考えても良いかもしれない」という解釈となります。ある仮の臨床研究を考えてみます。心筋梗塞の既往のある100人と、既往のない100人への調査研究です。好きな動物は何ですかという調査です。イヌ・ネコ・ウマ・クマ・パンダ・ライオン・トラ……動物園のごとく動物名が続きます。心筋梗塞の既往の有無にかかわらず、パンダ好きの方がいるはずです。パンダ好きであることと心筋梗塞発症には何の関係もなくとも、両群でピッタリ同じ人数とは限りません。心筋梗塞の既往のある群とない群の各100人の中でパンダ好きと返答する人は、同数ではなく多少の差異、つまりバラツキがあるほうが多いはずです。このバラツキが生じる確率であるp値を計算します。これがp=0.4ならば、「パンダ好きの人に心筋梗塞の既往のない人が多いが、10回に4回ほども発生する珍しくない出来事だな、まあパンダには心筋梗塞予防効果があるとはいえないなぁ」となります。イヌのp値は0.42、タヌキのp値は0.8、ゾウのp値は0.31、クマのp値は0.64と続きます。そしてネコで計算してみると、なんとp=0.04でした。これは大発見です。何しろp値が0.05未満の非常に珍しい事象が観察されたのです。さっそく論文化します。「ネコ好きには、有意に心筋梗塞の既往のある者が少ない、つまりネコをかわいがると心筋梗塞になりにくい。そうだ皆がネコを飼うのだ、ネコさま万歳!」という趣旨の大論文です。これは正しいでしょうか。有意かどうかを判断する有意水準が0.05(=20分の1)であれば、20以上の動物名を羅列すれば、1つくらいはp値が0.05を下回る項目があるほうが普通です。「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」式に山ほどの動物名で調査しながら、その他の動物名で調査したことを伏して、ネコの部分だけで調査したかのように公表するのは間違っています。主要評価項目の結果のみ「p値」を記載できる正しい流れは以下であるべきです。ネコを愛することには心筋梗塞の予防効果があることを示唆する基礎研究データが背景にあり、その次に、「ネコ好きには心筋梗塞発症予防効果がある」という臨床上の仮説を立てて、研究計画を練るというステップです。多くの項目で検定すれば、どれか1つは有意となる可能性は高まります。それを最初からピンポイントで狙っていたかのように発表することには大きな問題があります。これが研究において何を一番評価するのかを、事前に主要評価項目(プライマリ・エンドポイント)として1つ定めておく理由です。他の副次的評価項目(セカンダリ・エンドポイント)と明確に区別しておくことが必要です。数多くの項目を網羅的に検定することの問題は、多重性検定への対応として、統計学に1つのジャンルを成すほど重要なテーマとなっています。一方で、多くを検定することイコール「悪」ではなく、探索的に種々の検定を行う中に、真の大発見の種がある可能性もあることに留意ください。製薬企業の資料作成要領では、その薬剤の承認にかかる研究の主要評価項目に関する検証的な解析結果の表記においてのみ、堂々と「p値」を名乗ることが可能です。それ以外の解析結果を宣伝資材に記載する場合には、「名目上のp値」と記載し、多重性検定への対応にも触れることが必要とされています1)。参考1)日本製薬工業協会「医療用医薬品製品情報概要等に関する作成要領」

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パーキンソン病のオフ症状のため認知症薬の減量を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第59回

 今回は、第42回で紹介したパーキンソン病患者のその後の治療についてです。認知症症状とパーキンソン症状のバランスを考慮して、優先順位をつけて減量提案しました。パーキンソン病と認知症は、病態メカニズム上、どちらかの治療を優先するとどちらかの症状を悪化させかねない難しさがあります。患者さんが最も困っている症状が何であるかを丁寧に聴取して医師に話をしてみましょう。患者情報75歳、男性(施設在宅)基礎疾患パーキンソン病、レビー小体型認知症、脊柱管狭窄症、高血圧症介護度要介護2服薬管理施設管理処方内容(下記内服薬を一包化指示)1.アムロジピンOD錠5mg 1錠 分1 朝食後2.オルメサルタンOD錠20mg 1錠 分1 朝食後3.レボドパ・カルビドパ水和物錠 4.5錠 分3 朝昼夕食後4.ゾニサミドOD錠25mg 1錠 分1 朝食後5.リバスチグミン貼付薬18mg 1枚 朝貼付6.リマプロストアルファデクス錠5μg 6錠 分3 朝昼夕食後7.デュロキセチンカプセル20mg 1カプセル 分1 朝食後本症例のポイントこの患者さんは施設で生活しながら、隣町の専門医のいる総合病院に2ヵ月に1回、家族の送迎で通院しています。認知症が進行して空間認知機能の低下と複視から生活負担が増加し、前回の診察でリバスチグミン貼付薬が13.5mgから18mgに増量となりました。しかし、日中のオフタイムの頻度と強度が増加し、食事や入浴の介助途中でオフ症状が出て動けなくなることで介護負担が増加しました。また、施設では意識障害かどうかの判断がつかず、ご家族を臨時受診のために呼び出しても、施設に到着したときにはすでに症状が改善していることも多く、ご家族の負担も増加していました。考えられることは、リバスチグミン貼付薬の持続的なコリン作動(線条体のコリン系神経の亢進)により、ドパミンの作用がブロックされた影響です。そこで、まず施設スタッフに、オフ症状が出たときの動画を撮影してもらうよう協力依頼しました。また本人との面談で、認知機能低下に伴う症状(複視、空間認識低下)とパーキンソン症状(オフタイムによる運動症状)のどちらが心身の負担と感じているかを聴き取りました。本人としては、動けない時間があることで迷惑をかける頻度が高く、家族の負担になってしまう懸念から、運動症状をどうにかしたいという希望を聴き取りました。そこで医師にリバスチグミンの減量を提案することにしました。処方提案と経過診察に同行し、医師に施設スタッフから提供されたオフ症状時の動画を確認してもらうとともに、運動症状の頻度や強度が増強されていて、本人にも施設スタッフにも負担があることを報告しました。また、パーキンソン病治療と認知症治療の強度バランスから、リバスチグミンを減量することで現症状を緩和できないか提案しました。医師から患者に対し、リバスチグミンを減量することで空間認知や認知機能低下が進行する可能性はあるものの、今のオフ症状の負担を減らすことを優先する治療方針でよいか説明がありました。本人もそれでよいと了承を得たので、運動症状改善を優先にリバスチグミンを漸減中止する対応となりました。リバスチグミンを減量して1週間経過すると、施設からのオフ症状の報告がなくなりました。また、食事やベッド上の生活において空間認知の悪化はなく経過しています。今後もパーキンソン病と認知症の症状経過をみながら、負担を最小限に生活を維持できることを目標にフォローアップします。

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患者向け広告が解禁される「治療用アプリ」って何?【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第128回

医師が“処方”する「治療用アプリ」の一般消費者向けの広告が解禁されます。治療用アプリは、正しくは「プログラム医療機器」という分野になり、国が推進に向けた施策を進めたり、開発を後押ししたりしていました。現時点で保険適用されている治療用アプリは、禁煙治療補助システムおよび高血圧症治療補助プログラムで、他の生活習慣病や疼痛治療などでも続々と開発が進められています。しかし、医師の処方に基づき患者さんが使用する医薬品および医療機器の一般消費者向け広告は禁止されていますので、治療用アプリもこれらと同じく一般消費者向けの広告はできませんでした。今回、「令和4年度及び令和5年度規制改革実施計画」において、これらの治療用アプリは一般消費者向け広告の解禁対象になりました。これらの適正な販売プロモーションの促進、また安全な使用のための理解促進を目的として、「禁煙治療補助システムの適正広告ガイドライン」および「高血圧症治療補助プログラムの適正広告ガイドライン」が作成されています。「健康に関するアプリって、すでにCMで流れてるでしょ?」と思う人もいるかもしれませんが、あれは健康を補助するアプリ(非医療機器のヘルスケアアプリ)で、予防などを目的としているものです。医療機器の治療用アプリは治験を実施して承認を得ていて、治療を目的として医師が処方するものです。承認を得ていないヘルスケアアプリは初めから広告の規制対象とならず、承認を得た治療用アプリが規制を受けるという逆転現象が発生していることも問題になっていました。広告が解禁されると、一般の方の目にとまり使ってみたいという声が増えたり、市場が拡大したりすることが予想されます。実際にどのようなものかというと、日本で初めて承認された禁煙治療補助システムの治療用アプリは、「患者用アプリ」「患者の呼気中CO(一酸化炭素)濃度を測定するCOチェッカー」「医師用アプリ」から構成されていて、患者用アプリでは行動療法などの心理療法でニコチン依存症を治療します。システムを利用した禁煙治療を実施する場合、医療機関は初回の診察での処方時に一括で2,540点(2万5,400円)を算定し、患者さんはそれに診療費用や治療薬の処方箋料などを加えた総額の3割を負担することになります。治療用アプリは海外で先行して開発・使用されていて、日本ではいわゆるベンチャー企業が開発を手掛けていました。最近では大手製薬企業も開発に着手するなど、市場の拡大が予想されます。薬局や薬剤師が治療用アプリをどう理解して活用していくのか、患者さんの治療をサポートしていくのかというのが新しい課題になりそうです。

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第207回 コーヒーの成分トリゴネリンが老化に伴う筋肉消耗を防ぐ

コーヒーに豊富な成分トリゴネリンが老化に伴う筋肉の減少や筋力の低下(サルコペニア)の治療効果を担いうることが示されました1-3)。サルコペニアは筋肉、筋力、歩く速度の病的な減少/低下を特徴とし、分子や細胞の老化病変の組み合わせと筋線維消耗が筋収縮を障害することで生じます。それら数ある病変の中でもミトコンドリア機能不全は顕著であり、ミトコンドリアの新生が減ることやミトコンドリア内での呼吸反応やATP生成が減ることなどが筋肉老化の特徴に寄与することが明らかになっています。サルコペニア患者の筋肉はそのようなミトコンドリア機能不全に加えて、補酵素の1つニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)の減少を示すことがシンガポール、英国、ジャマイカの高齢者119人を調べた先立つ試験で示されています4)。NAD+は代謝に不可欠で、ビタミンB3の類いから作られます。新たな研究では筋肉のミトコンドリア機能不全やNAD+代謝異常と全身の変化の関連を目指してサルコペニア患者と健康な人の血清代謝物が比較されました。その結果、コーヒーなどの植物に存在し、ヒトの体内でもNAD+と同様にビタミンB3からいくらか作られるアルカロイドであるトリゴネリンがサルコペニア高齢者の血中には少ないことが判明しました。また、トリゴネリンの血清濃度がより高い人ほど筋肉がより多く、握力がより強く、より早く歩けました。サルコペニア患者とそうでない健康な人から採取した筋肉組織(筋管)にトリゴネリンを加えたところ、サルコペニアかどうかを問わずNAD+が増加しました。続いて個体レベルでの効果が検討され、線虫やマウスにトリゴネリンが与えられました。するとミトコンドリア活性が向上し、筋力が維持され、老化に伴う筋肉消耗を防ぐことができました。また、トリゴネリンで線虫はより長生きになり、老化マウスの筋肉は強度の収縮時の疲労が少なくて済むようになりました。今回の研究によるとトリゴネリンはサルコペニアやその他の老化病態に有効かもしれず、サルコペニアの予防や治療の効果を臨床試験で検討する価値があるようです3)。コーヒーでトリゴネリンは増やせる?コーヒーを飲んでトリゴネリンが増えるならコーヒー好きには朗報ですが、話はそう簡単ではないようです。今回の試験の一環で調べられた高齢者186人の血清トリゴネリン濃度はカフェインやビタミンB3摂取レベルと無関係でした。また、トリゴネリン血清濃度と握力の関連はカフェインやビタミンB3摂取の補正の影響を受けませんでした。試験の被験者がコーヒーをあまり飲まない中東地域(イラン)であったことがトリゴネリン血清濃度とカフェイン摂取の関連が認められなかったことの原因かもしれないと著者は言っています。トリゴネリンとコーヒーの関連はまだ検討の余地があるようですが、お隣の韓国での試験でコーヒーをよく飲む人にサルコペニアが少ないことが示されています5)。トリゴネリンの寄与のほどは定かではありませんが、コーヒーを1日3杯以上飲む人は1日1杯未満の人に比べてサルコペニアの有病率が60%ほど低いという結果が得られています。参考1)Membrez M, et al. Nat Metab. 2024 Mar 19. [Epub ahead of print] 2)Natural molecule found in coffee and human body increases NAD+ levels, improves muscle function during ageing / Eurekalert3)Substance in coffee may improve muscle health in older age / Universities of Southampton4)Migliavacca E, et al. Nat Metab. 2019;10:5808.5)Chung H, et al. Korean J Fam Med. 2017;38:141-147.

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ストレスや託児所不足を理由に多くの医師が離職

 長時間で変動も多い勤務時間に対応可能な託児所を見つけることの困難さや育児にかかる費用が、子どもを持つ医師の大きなストレスのもととなっていることが、英国で実施された新たな調査から明らかになった。フリーランスのヘルスケアジャーナリストであるErin Dean氏がまとめたこの調査結果は、「The BMJ」に2月14日掲載された。調査結果からは、すでに医師を辞めたか辞めることを考えている人、より柔軟な働き方ができるように専門分野を変えた人、子どもを持つ計画を変更した人のいることが浮き彫りになったという。 この調査結果は、bmj.com上で2023年11月16日から30日の間に実施されたThe BMJ Childcare Survey(BMJチャイルドケア調査)に参加した596人(女性548人;指導医204人、研修医/若手医師231人、一般医95人、医学部生3人、看護師14人、研究者10人、その他39人)の回答に基づいている。 回答を分析した結果、回答者の93%は、自分の仕事のスケジュールに適した託児所を見つけるのに大変な思いをしたと回答していた。91%の回答者が挙げた最も大きな問題は、始業から終業までの間、子どもを預かってくれる場所を見つけることであり、多くの回答者が、朝、遅刻せずに出勤することや仕事の後に子どもを迎えに行くことにストレスと罪悪感を感じていると訴えていた。2人の子どもを持つ回答者の1人は、「利用している学校のラップラウンドケア(授業以外の時間帯に提供される子どものためのサポートサービス)は朝の8時から夕方の6時までだけだ。私の住んでいる地域には他に選択肢がない。そのため、私は常に仕事に遅刻し、子どもを迎えに行くためにできる限り効率的に働いて仕事をこなすか、他の人を頼らなければならない。1日の中で最もストレスを感じるのは子どもを迎えにいくときだ。仕事を早めに切り上げなければならないことを後ろめたく思うし、いつも最後まで残っている子どもに対しても申し訳なく感じている」と話す。 次に多く挙げられた問題は費用に関する問題であり(75%の回答者)、不規則なスケジュール(65%の回答者)がそれに続いた。育児にかかる費用は住宅ローンよりも高く、しばしば自分が稼ぐ以上の額になることを報告する医師も少なくなかった。例えば、4人の子どもを持つ若手医師は、自身の収入より1,255ドル(1ドル150円換算で18万8,250円)高い、月額5,021ドル(75万3,150円)を託児所に支払っていることを報告した。また、育児費用のために医師を辞めることを考えている人や、専門を変えた人がいることも明らかになった。元外科医は、「博士号を取得したが、子どもが2人いるため夜間のオンコールに対応するためのトレーニングを受けることができず、医師を辞めた」と話したという。 研修医/若手医師では、71%がさまざまな専門分野を学ぶためのローテーション(一定期間、特定の診療所や病院に勤務すること)が、さらなる問題を引き起こしていると回答した。また、82%は不規則な勤務時間も障壁となっていることを挙げた。多くの回答者が、家族を増やしたいと考えているが、どうすれば託児所を見つけられるのか、それにかかる費用をどうやって捻出するかを想像することができないと答え、10人に7人近くが、育児に関する懸念が家族計画に影響を及ぼしていると答えた。 英国の労働者団体であるBMAのLatifa Patel氏は、「この数字にはがっかりした。育児に関する選択肢の少なさと驚くほど高額な費用が、医師とその家族に与えている深刻な影響を反映した数字だ」と述べている。 Patel氏は英国政府に対し、社会を支えているキーワーカーのための育児環境を早急に改善し、英国の国民保健サービス(NHS)の託児所を支援するよう求め、さらに、医師が働き続けられるよう財政的な支援も検討するべきだと主張している。同氏は、「社会から必要とされている医師が、育児の選択肢がないためにストレスに苦しみ、病気休暇を余儀なくされたり、完全に離職したりするのを政府が黙って見ているのは、経済的に見て全く理にかなっていない」と話している。

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短時間での投与が可能なHER2陽性乳がん・大腸がん治療薬「フェスゴ配合皮下注MA/同IN」【最新!DI情報】第11回

短時間での投与が可能なHER2陽性乳がん・大腸がん治療薬「フェスゴ配合皮下注MA/同IN」今回は、抗HER2ヒト化モノクローナル抗体・ヒアルロン酸分解酵素配合薬「ペルツズマブ(遺伝子組換え)・トラスツズマブ(遺伝子組換え)・ボルヒアルロニダーゼ アルファ(遺伝子組換え)(商品名:フェスゴ配合皮下注MA/同IN、製造販売元:中外製薬)」を紹介します。本剤は、HER2陽性の乳がんおよび大腸がんの配合皮下注射薬です。従来の静脈注射は60~150分かけて投与するのに対し、本剤では5~8分以上で投与可能であり、患者・医療施設双方の負担が軽減することが期待されています。<効能・効果>HER2陽性の乳がん、がん化学療法後に増悪したHER2陽性の治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸がんの適応で、2023年9月25日に製造販売承認を取得し、同年11月22日より販売されています。<用法・用量>通常、成人に対して1日1回、ペルツズマブ(遺伝子組換え)/トラスツズマブ(遺伝子組換え)/ボルヒアルロニダーゼ アルファ(遺伝子組換え)として初回投与時にはそれぞれ1,200mg/600mg/30,000Uを、2回目以降はそれぞれ600mg/600mg/20,000Uを、初回投与時には8分以上、2回目以降は5分以上かけて3週間間隔で皮下投与します。HER2陽性の乳がんに対しては他の抗悪性腫瘍剤との併用において投与し、術前・術後薬物療法の場合は投与期間は12ヵ月までとなります。<安全性>重大な副作用として、Infusion reaction(4.0%)、心機能障害(3.6%)、過敏症、間質性肺疾患(各0.8%)、肝障害、敗血症(各0.4%)などが報告されています。その他の主な副作用には、下痢(30.7%)、注射部位反応(14.1%)、発疹、疲労(各5%以上)があります。<患者さんへの指導例>1.この薬に含まれるペルツズマブおよびトラスツズマブは、HER2というタンパク質の動きを抑えることによりがん細胞の増殖を抑えます。2.この薬の投与により、心臓の機能が低下することが報告されていますので、定期的に心臓の検査を受けてください。3.妊婦または妊娠している可能性がある人はこの薬を使用することはできません。妊娠する可能性がある人は、この薬を使用している間および使用を中止・終了してから7ヵ月間は適切な方法で避妊してください。<ここがポイント!>本剤は、抗HER2ヒト化モノクローナル抗体であるペルツズマブおよびトラスツズマブとボルヒアルロニダーゼ アルファを配合した抗悪性腫瘍薬です。ペルツズマブはHER2細胞外領域のドメインIIに、トラスツズマブは細胞膜近接部位のドメインIVに結合し、異なる経路から包括的にHER2シグナルを遮断し、腫瘍細胞増殖の抑制やアポトーシスを誘導すると考えられています。一方、ボルヒアルロニダーゼ アルファは、結合組織におけるヒアルロン酸を加水分解することにより、薬剤注入時の抵抗を減少させて薬物の体内浸透や拡散を促進させる作用があります。これまで、ペルツズマブおよびトラスツズマブを点滴静注するには60~90分以上の投与時間が必要でしたが、本剤は初回が8分以上、2回目以降は5分以上と短時間での投与が可能となりました。なお、ボルヒアルロニダーゼ アルファが配合された医薬品には、多発性骨髄腫および全身性ALアミロイドーシスに適応を持つダラツムマブ(遺伝子組換え)・ボルヒアルロニダーゼ アルファ(遺伝子組換え)(商品名:ダラキューロ配合皮下注)が2021年5月から販売されています。HER2陽性の早期乳がん患者を対象とした国際共同第III相臨床試験(FeDeriCa試験)において、サイクル7(サイクル8投与前)でのペルツズマブ血清中トラフ濃度が主要評価項目として検討されました。ペルツズマブ+トラスツズマブ(IV)群に対する本剤群のペルツズマブ血清中トラフ濃度の幾何平均値の比(GMR)は1.22(90%信頼区間[CI]:1.14~1.31)であり、信頼区間の下限値が非劣性マージンの0.8を上回ったので、フェスゴ群の非劣性が検証されました。また、副次的評価項目である全病理的完全奏効率は、本剤群が59.7%(95%CI:53.3〜65.8)、ペルツズマブ+トラスツズマブ(IV)群が59.5%(95%CI:53.2〜65.6)であり、その差は0.2%(95%CI:-8.7〜9.0)で同等でした。

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