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ASCO2025 レポート 泌尿器科腫瘍

レポーター紹介米国臨床腫瘍学会(ASCO)の年1回の総会は、今年も米国イリノイ州のシカゴで行われ、2025年は5月30日から6月3日まで行われた。昨今の円安(5月30日時点で1ドル=143円台)および物価高は現地参加に対するモチベーションを半減させるほどの勢いであり、今年もOn-lineでの参加を選択した。泌尿器腫瘍の演題は、Oral abstract session 18(前立腺9、腎4、膀胱5)、Rapid oral abstract session18(前立腺8、腎4、膀胱5、陰茎1)、Poster session 221で構成されており、昨年と比べて多くポスターに選抜されていた。毎年の目玉であるPlenary sessionは、Practice changingな演題が5演題選出されるが、昨年に引き続き今年も泌尿器カテゴリーからは選出がなかった。Practice changingな演題ではなかったが、他領域に先駆けてエビデンスを創出した免疫チェックポイント阻害薬関連の研究の最終成績が公表されたり、新規治療の可能性を感じさせる報告が多数ありディスカッションは盛り上がっていた。今回はその中から4演題を取り上げ報告する。Oral abstract session 前立腺#LBA5006 相同組み換え修復遺伝子(HRR)変異を有する去勢感受性前立腺がんに対するニラパリブ+アビラテロン、rPFSを延長(AMPLITUDE試験)Phase 3 AMPLITUDE trial: Niraparib and abiraterone acetate plus prednisone for metastatic castration-sensitive prostate cancer patients with alterations in homologous recombination repair genes.Gerhardt Attard, Cancer Institute, University College London, London, United Kingdomニラパリブは、ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(PARP)-1/2の選択性が高く強力な阻害薬であり、日本では卵巣がんで使用されている。HRR遺伝子変異を有する転移性去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)ではMAGNITUDE試験で、ニラパリブ+アビラテロン+prednisone併用(Nira+AP)による画像上の無増悪生存期間(rPFS)の延長が示されている。ASCO2025において、HRR遺伝子変異を有する転移性去勢感受性前立腺がん(mHSPC)に対するNira+AP療法の有効性を検証したAMPLITUDE試験(NCT04497844)の結果が報告された。この試験のHRR遺伝子変異の定義は、BRCA1、BRCA2、BRIP1、CDK12、CHEK2、FANCA、PALB2、RAD51B、RAD54Lの生殖細胞系列または体細胞変異が含まれていた。患者はアビラテロン1,000mg+prednisone 5mgに加えて、ニラパリブ200mgあるいはプラセボを内服する2群にランダム化され、主要評価項目はrPFS、副次評価項目に症候性進行までの期間、全生存期間(OS)、安全性などが設定されていた。ランダム化された696例のうち、BRCA1/2変異は55.6%、High volume症例は78%であった。追跡期間中央値30.8ヵ月時点のrPFS中央値はNira+AP群で未到達、プラセボ+AP群で29.5ヵ月であり、ハザード比(HR)は0.63、95%信頼区間(CI):0.49~0.80、p=0.0001であった。BRCA1/2変異群でもHR=0.52(95%CI:0.37~0.72)、p<0.0001であった。OSは中間解析であるがHR=0.79(95%CI:0.59~1.04)、p=0.10と報告された。重篤な有害事象は、Nira+AP群で75.2%、プラセボ+AP群で58.9%であり、非血液毒性では貧血(29.1%vs.4.6%)、高血圧(26.5%vs.18.4%)が多く、治療中止割合はそれぞれ11.0%と6.9%であった。AMPLITUDE試験は、HRR遺伝子を有する症例に絞って実施した第III相ランダム化比較試験で、mHSPCにおいてもNira+AP併用療法はrPFSを有意に改善し、OSにおいても良好な傾向を示した。日本は本試験に参加しておらず、Nira+AP療法が保険適用を取得する可能性はないが、同じくmHSPCを対象に実施中のTALAPRO-3試験(タラゾパリブ+エンザルタミドvs.プラセボ+エンザルタミド)の結果に期待が広がる内容であった。#5003 転移性前立腺がんにおけるPTEN遺伝子不活化はADT+DTX治療の効果予測因子(STAMPEDE試験付随研究)Transcriptome classification of PTEN inactivation to predict survival benefit from docetaxel at start of androgen deprivation therapy (ADT) for metastatic prostate cancer: An ancillary study of the STAMPEDE trials.Emily Grist, University College London Cancer Institute, London, United Kingdomドセタキセル(DTX)は転移性の前立腺がんに対して有効な治療法であるが、その効果が得られる症例にはばらつきがある。STAMPEDE試験のプロトコルに参加し(2005年10月〜2014年1月)ADT単独vs.ADT+DTX±ゾレドロン酸またはADT単独vs.ADT+アビラテロン(Abi)に1:1でランダム化された転移性前立腺がん患者の腫瘍サンプルを用いて、全トランスクリプトームデータによりPTENの不活化が治療アウトカムに与える影響を検討した報告である。PTENの不活化は、既報のスコアリング手法(Liuら, JCI, 2021)に基づいて定義された(活性あり:スコア≦0.3、活性なし:スコア>0.3)。また、Decipherスコアは高リスク>0.8、低リスク≦0.8と定義した。Cox比例ハザードモデルを用い、治療割り付けとPTEN活性との交互作用を評価し、年齢、WHO PS、ADT前PSA、Gleasonスコア、Tステージ、Nステージ(N0/N1)、転移量(CHAARTED定義によるHigh volume/ Low volume)で調整した。主要評価項目はOSであり仮説の検定には部分尤度比検定を用いた。全トランスクリプトームプロファイルを832例の転移性前立腺がん患者から取得し、これは試験全体の転移性前立腺がんコホート(n=2,224)と代表性に差はなかった。PTEN不活性腫瘍は419例(50%)に認められ、PTEN mRNAスコアの分布はHigh volumeとLow volumeで差はなかった(p=0.310)。ADT+Abi群(n=182)では、PTEN不活性はOS短縮と有意に関連(HR=1.56、95%CI:1.06~2.31)し、ADT+DTX群(n=279)では、有意な差は認められなかった(HR=0.93、95%CI:0.70~1.24)。PTEN不活化とDTX感受性は有意な交互作用(p=0.002)があり、PTEN不活性腫瘍ではDTX追加により死亡リスクが43%低下(HR=0.57、95%CI:0.42~0.76)し、PTEN活性腫瘍では有意差なし(HR=1.05、95%CI:0.77~1.43)であった。この傾向は転移量にかかわらず一貫しており、Low volume患者(n=244)ではPTEN不活性:HR=0.53、PTEN活性:HR=0.82、High volume患者(n=295)ではPTEN不活性:HR=0.59、PTEN活性:HR=1.23であった。一方、アビラテロン群ではPTENの状態によらず治療効果は一定であり、PTEN不活性:HR=0.52、PTEN活性:HR=0.55(p=0.784)であった。また、PTEN不活性かつDecipher高リスク腫瘍にDTXを追加した場合、死亡リスクが45%低下(HR=0.55、99%CI:0.34~0.89)と推定された。このバイオマーカーの併用による層別化は、ADT+アビラテロン+ドセタキセルの3剤併用療法の適応を検討する際の指標として今後の臨床応用が期待されると演者は締めくくった。日本ではmHSPCへのupfront DTXはダロルタミドとの併用に限られるが、PTEN遺伝子に注目した戦略が重要と考えられ、ますます診断時からの遺伝子パネル検査の保険償還が待たれる状況となってきた。Oral abstract session 腎/膀胱#4507 VHL病関連悪性腫瘍におけるベルズチファンの長期効果 (LITESPARK-004試験)Hypoxia-inducible factor-2α(HIF-2α)inhibitor belzutifan in von Hippel-Lindau(VHL)disease-associated neoplasms: 5-year follow-up of the phase 2 LITESPARK-004 study.Vivek Narayan, Hospital of the University of Pennsylvania, Philadelphia, PAHIF-2α阻害薬のベルズチファンは、VHL病に関連する腎細胞がん(RCC)、中枢神経血管芽腫、膵神経内分泌腫瘍(pNET)を対象に、即時の手術が不要な症例に対して治療薬として日本でも2025年6月に承認された。これは、非盲検第II相試験のLITESPARK-004試験(NCT03401788)の結果に基づくものであるが、ASCO2025では5年以上の追跡期間を経た最新の結果が報告された。対象は以下を満たす症例であった:生殖細胞系列のVHL遺伝子異常を有する測定可能なRCCを1つ以上有する即時の手術が必要な3 cm超の腫瘍なし全身治療歴なし転移なしPS 0~1治療はベルズチファン120mgを1日1回経口投与で、病勢進行、不耐容、または患者自身の希望による中止まで継続された。主要評価項目は、VHL病関連RCCにおける奏効率(ORR)であった。追跡期間中央値は61.8ヵ月、ベルズチファンの投与を受けた61例中35例(57%)が治療継続中であった。ORRは、RCCで70%、中枢性神経血管芽腫で50%、pNETで90%、網膜血管芽腫(18眼/14例)では100%の眼において眼科的評価で改善を確認。奏効期間中央値は未到達(範囲:8.5~61.0ヵ月)であった。重篤な治療関連有害事象は11例(18%)に認められた。最も多かった貧血はAny gradeで93%、Grade 3以上で13%と報告された。そのマネジメントとしてエリスロポエチン製剤(ESA)のみを使用したのは11例(18%)、輸血のみは2例(3%)、ESAと輸血を用いたのは5例(8%)であり、その他の治療が39例(64%)で選択されていた。5年間の追跡後も、ベルズチファンは持続的な抗腫瘍効果と管理可能な安全性プロファイルが報告され、多数の患者が治療を継続していた。即時手術を要しないVHL病関連のRCC、中枢神経血管芽腫、pNET患者において有用な治療選択肢であり、今後われわれも使いこなさなければいけない薬剤である。Rapid Oral abstract session 腎/膀胱#4518 MIBCに対する術前サシツズマブ ゴビテカン+ペムブロリズマブ併用療法と効果に応じた膀胱温存療法(SURE-02試験)First results of SURE-02: A phase 2 study of neoadjuvant sacituzumab govitecan (SG) plus pembrolizumab (Pembro), followed by response-adapted bladder sparing and adjuvant pembro, in patients with muscle-invasive bladder cancer (MIBC).Andrea Necchi,Department of Medical Oncology, IRCCS San Raffaele Hospital,Vita-Salute San Raffaele University, Milan, Italy筋層浸潤性膀胱がん(MIBC)の標準治療は、術前化学療法を伴う膀胱全摘除術(RC)である。術前ペムブロリズマブ(Pem)やサシツズマブ ゴビテカン(SG)の単剤療法は、それぞれPURE-01試験およびSURE-01試験においてMIBCに対する有効性を示している。SURE-02試験(NCT05535218)は、術前SG+Pem併用療法および術後Pemを用いた第II相試験であり、臨床的奏効に応じた膀胱温存の可能性も含んでいる。ASCO2025ではその中間解析の結果が報告された。cT2~T4N0M0のMIBCと病理診断され、化学療法の適応がない、もしくは化学療法を拒否し、RC予定の患者を対象に、Pem 200mgをDay1に、SG 7.5mg/kgをDay1およびDay8に3週間間隔で4サイクル投与した。手術後はPemを3週間間隔で13サイクル投与した。臨床的完全奏効(cCR)を達成した患者(MRI陰性かつ再TUR-BTでviableな腫瘍が検出されない[ypT0]症例)については、RCの代わりに再TUR-BTが許容され、その後Pem 13サイクルを投与した。主要評価項目はcCR割合で、閾値30%、期待値45%としてα=0.10、β=0.20で検出するための症例数は48例と設定された。2段階デザインであり、1段階目を23例で評価し、cCR7例以上であれば2段階目に進む計画であった。ASCO2025では、SURE-02試験の中間報告がなされた。2023年10月~2025年1月までに40例が治療を受け、31例が有効性評価対象となった。cCR割合は12例(38.7%)、95%CI:21.8~57.8であり、全員が再TUR-BTを施行された。ypT≦1N0-x割合は16例(51.6%)であった。重篤な有害事象は4例(12.9%)で、SGの投与中止2例、1週間の投与延期1例があったが、SGの減量は不要であった。23例でトランスクリプトーム解析が行われ、病理学的完全奏効(ypT0)について、Luminal腫瘍では非Luminal腫瘍に比べてypT0率が高かった(73%vs.25%、p=0.04)。Lund分類においては、ゲノム不安定型では67%、尿路上皮型では57%、基底/扁平上皮型では20%、神経内分泌型では0%であった。間質シグネチャーが高い症例では非ypT0である割合が高く(p=0.004)、一方でTrop2(p=0.15)およびTOP1(p=0.79)の発現はypT0との関連を示さなかった。周術期におけるSG+Pembro療法は、良好なcCR率と許容可能な安全性プロファイルを示し、約40%の症例で膀胱温存が可能であった。本試験において、このまま主要評価項目を達成するかどうかは現時点で期待値以下であるため少し不安はあり、また得られる結果も決して確定的なものではない。しかしながら、中間報告の時点で膀胱温存の可能性を40%の症例で達成していることは非常に興味深い内容であった。今後、検証的な第III相試験においても膀胱温存が重要なアウトカムとして設定され、再発や死亡といった腫瘍学的に重要なアウトカムを損なわない結果が達成できる日が訪れることを期待したい。

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多職種連携在宅移行支援は費用対効果に優れる?【論文から学ぶ看護の新常識】第21回

多職種連携在宅移行支援は費用対効果に優れる?多職種が連携して行う在宅移行支援の費用対効果を検証した研究で、同支援は高い確率で費用対効果に優れることが示された。Romain Collet氏らの研究で、International Journal of Nursing Studies誌オンライン版2025年5月3日号に掲載された。多職種連携在宅移行支援の費用対効果:システマティックレビューとメタアナリシス研究チームは、多職種が連携して行う在宅移行支援の費用対効果に関するエビデンスを収集、評価、統合することを目的にシステマティックレビューとメタアナリシスを実施した。Medlineを含む4つのデータベースを、創設時から2024年7月まで検索した。研究対象は、病院に入院し自宅へ退院した成人患者を対象に、多職種による在宅移行支援の費用対効果を通常ケアと比較したランダム化比較試験であり、効果指標として、生活の質(QOL)または質調整生存年(QALY)を報告している研究を対象とした。結果は、経済的な視点と追跡期間によって層別化し、エビデンスの確実性はGRADEアプローチを用いて評価した。主要評価項目は、増分純貨幣便益(INMB)とした。主な結果は以下の通り。13件の試験、4,114例の患者が対象に含まれた。12ヵ月間の追跡評価(医療提供者の視点):多職種連携在宅移行支援は、通常ケアと比較して医療費を削減したものの、そのエビデンスの確実性は「低い」ものであった(平均差:−3,452ユーロ、95%信頼区間[CI]:−8,816~1,912)。QALYには両群に差は認められなかった(平均差:0.00、95%CI:−0.03~0.04)。費用対効果の確率は、支払意思額が0ユーロ/QALYの場合で90%であり、支払意思額が高くなっても84%とわずかに減少するのみであった(確実性は「中等度」)。6ヵ月間の追跡評価(医療提供者の視点):費用対効果の確率は、支払意思額0ユーロ/QALYの場合で43%、10万ユーロ/QALYで87%の範囲にあり、支払意思額が5万ユーロ/QALYで80%を超えた(確実性は「低い」~「中等度」)。社会的視点:社会的視点では、費用対効果の確率はより低くなった。これは主に、相反する結果を示した研究の数が限られていたためである。多職種連携在宅移行支援は、費用対効果が高い可能性が示された。高齢化が進み、複数の疾患を抱える患者さんが増える中で、病院から自宅へのスムーズな移行を支えるケアの重要性はますます高まっています。とくに退院直後は、患者さんの状態が不安定になりやすく、適切な支援がなければ再入院のリスクも高まります。本研究は、医師、看護師、リハビリ専門職、栄養士、ソーシャルワーカーといった多様な専門職が連携して行う在宅移行支援(多職種連携在宅移行支援)が、費用対効果の観点からみてどうなのかを、質の高い統計手法で包括的に評価したものです。結果の解釈には、質調整生存年(QALY)という指標が鍵になります。「完全に健康な状態で1年間過ごすこと」を「1QALY」として、医療によってどれだけの「健康な時間」が増えたかを測る世界共通の指標です。研究結果として、12ヵ月間の追跡で医療費を削減する可能性が示唆されました。さらに、支払意思額(WTP)が0ユーロ/QALY、つまりQALYの改善という価値をまったく考慮しなかったとしても、費用削減だけで元が取れる確率が90%というのは注目すべき点です。この結果は、質の高い在宅移行支援が、結果的に医療資源の効率的な利用につながる可能性を示しています。一方で、研究チームも指摘している通り、エビデンスの確実性にはまだ課題があり、とくに社会全体の視点からの評価は研究数が少なく、結論を出すには至っていません。また、介入内容の多様性や対象患者、医療システムの差による影響も大きく、どのような状況で、どのような介入が最も費用対効果が高いのかを明らかにするには、さらなる質の高い研究が求められます。しかしながら、この研究は、多職種連携による在宅移行支援の経済的な価値を明らかにする重要な一歩です。今後の政策決定や医療現場での実践において、費用対効果を考慮した質の高いケアモデルの構築を促進する上で、非常に参考になる研究と言えるでしょう。論文はこちらCollet R, et al. Int J Nurs Stud. 2025 May 3. [Epub ahead of print]

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わが国初の肥大型心筋症治療薬「カムザイオスカプセル1mg/2.5mg/5mg」【最新!DI情報】第42回

わが国初の肥大型心筋症治療薬「カムザイオスカプセル1mg/2.5mg/5mg」今回は、選択的心筋ミオシン阻害薬「マバカムテン(商品名:カムザイオスカプセル1mg/2.5mg/5mg、製造販売元:ブリストル・マイヤーズ スクイブ)」を紹介します。本剤は、肥大型心筋症における左室での心筋の過収縮を抑制し、閉塞性肥大型心筋症患者における拡張機能障害や左室流出路狭窄を改善することが期待されています。<効能・効果>閉塞性肥大型心筋症の適応で、2025年3月27日に製造販売承認を取得し、5月21日より発売されています。<用法・用量>通常、成人にはマバカムテンとして2.5mgを1日1回経口投与から開始し、患者の状態に応じて適宜増減します。ただし、最大投与量は1回15mgとします。<安全性>重大な副作用として、収縮機能障害により心不全を起こすことがあります(頻度不明)。ヒト脳性ナトリウム利尿ペプチド前駆体N端フラグメント(NT-proBNP)の上昇がみられた場合や、呼吸困難、胸痛、疲労、動悸、下肢浮腫などが発現または増悪した場合は、速やかに心機能の評価を行います。その他の副作用として、浮動性めまい、頭痛、疲労、末梢性浮腫、心房細動、動悸、労作性呼吸困難、呼吸困難、筋力低下、駆出率減少(いずれも1~3%未満)があります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、閉塞性肥大型心筋症の治療薬です。心臓の過剰な収縮を抑え、血液の送り出しにくさを緩和します。2.1日1回、水やぬるま湯で服用してください。3.この薬には併用してはいけない薬や併用を注意すべき薬や食品もありますので、他の薬を使用している場合や、新たに使用する場合は、必ず医師または薬剤師に相談してください。4.妊娠する可能性がある人は、この薬の投与中および最終投与後4ヵ月間は適切に避妊してください。<ここがポイント!>肥大型心筋症(HCM)は、高血圧や弁膜症などの基礎疾患がないにもかかわらず、心室の肥大を引き起こす原発性の心疾患です。HCMは、左室拡張機能が低下しており、閉塞性HCMでは左室流出路(LVOT)が閉塞しています。主な原因は、心筋収縮関連タンパクの遺伝子異常とされていますが、未解明の点も少なくありません。初期には無症状または軽微な症状を示すことが多いですが、不整脈に伴う動悸やめまい、運動時の呼吸困難などが現れることがあります。心筋の収縮は、ミオシンヘッドがアクチンと結合し、クロスブリッジ(架橋)を形成することで起こり、アデノシン三リン酸(ATP)を消費します。HCMは、過剰な数のミオシンがクロスブリッジを形成する(動員される)ことにより心筋の過収縮が生じると考えられています。本剤は、心筋ミオシンに対する選択的かつ可逆的なアロステリック阻害薬です。ミオシンとアクチンのクロスブリッジ形成を抑制することで、HCMにおける左室での心筋の過収縮を抑制し、閉塞性肥大型心筋症患者における拡張機能障害やLVOT狭窄を改善します。なお、本剤は2023年6月にHCMに対する希少疾病用医薬品に指定されています。閉塞性肥大型心筋症患者を対象とした海外第III相試験(MYK-461-005)において、投与30週後の臨床的奏効(「最高酸素摂取量[pVO2]の1.5mL/kg/min以上の増加、かつNYHA心機能分類のI度以上の改善」または「pVO2の3.0mL/kg/min以上の増加、かつNYHA心機能分類の悪化なし」のいずれかを満たす)割合は、マバカムテン群で36.6%、プラセボ群で17.2%でした。プラセボとの差は19.4%(95%信頼区間:8.67~30.13)であり、群間に有意な差が認められたことから、マバカムテン群のプラセボ群に対する優越性が検証されました。同じく閉塞性肥大型心筋症患者を対象とした国内第III相試験(CV027004)において、ベースラインから30週後までの運動負荷後LVOT圧較差の変化量の平均値は-60.7(平均差:31.56)mmHgであり、運動負荷後LVOT圧較差はベースラインに比べて改善しました。

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第273回 GLP-1薬に片頭痛予防効果があるかもしれない

GLP-1薬に片頭痛予防効果があるかもしれない肥満治療で売れているGLP-1受容体活作動薬(GLP-1薬)が治療しうる疾患一揃いは終わりがないかのように増え続けています1)。最近発表された小規模試験の結果によると、その果てしない用途候補の一覧に次に加わるのは片頭痛かもしれません。試験はイタリアのフェデリコ2世ナポリ大学(ナポリ大学)で実施され、GLP-1薬の1つであるリラグルチドが肥満患者の1ヵ月当たりの片頭痛の日数を半分近く減らしました。その結果は先月6月17日にまずHeadache誌オンラインに掲載され2)、その数日後の21日に欧州神経学会(EAN)年次総会でも発表されました。ノボ ノルディスク ファーマのリラグルチドは、2型糖尿病(T2D)や肥満治療(本邦では適応外)に使われます。同社は肥満治療としてはウゴービ、T2D治療としてはオゼンピックという商品名で売られている別のGLP-1薬セマグルチドも作っています。リラグルチドやセマグルチドは属する薬剤群の名が示すとおり、GLP-1というホルモンの働きを真似ます。GLP-1は血糖調節や食欲抑制に携わることがよく知られていますが、他にも種々の働きを担うようです。それらの多岐にわたる機能を反映してかGLP-1薬も多才で、目下の主な用途である体重管理やT2D治療に加えて、他のさまざまな病気や不調を治療しうることが示されるようになっています。たとえば今年1月にNature Medicine誌に掲載されたT2D患者200万例超の解析3)では、心不全、心停止、呼吸不全や肺炎、血栓塞栓症、アルツハイマー病やその他の認知症、アルコールや大麻などの物質乱用、統合失調症などの42種類もの不調が生じ難いこととGLP-1使用が関連しました4,5)。ナポリ大学の神経学者Simone Braca氏らがリラグルチドの片頭痛への効果を調べようと思い立ったのは、片頭痛の発生にどうやら頭蓋内圧上昇(ICP)が寄与し、ICPを下げうるGLP-1薬の作用がラットでの検討6)で示されたことなどを背景としています。その効果はヒトでもあるらしく、2023年に結果が報告されたプラセボ対照無作為化試験では、GLP-1薬の先駆けのエキセナチドが特発性頭蓋内圧亢進症(IIH)患者のICPを有意に下げ、頭痛を大幅に減らしています7)。ナポリ大学のBraca氏らの試験では片頭痛と肥満の併発患者が2024年1~7月に連続的に31例組み入れられ、リラグルチドが1日1回皮下注射されました。それら31例は片頭痛予防治療を先立って2回以上受けたものの効き目はなく、片頭痛の日数は1ヵ月当たり平均して約20日(19.8日)を数えていました。先立つ治療とは対照的に12週間のリラグルチド投与の効果は目覚ましく、1ヵ月当たりの片頭痛日数はもとに比べて半分ほどの約11日(10.7日)で済むようになりました。試験でのリラグルチドの用量(最初の一週間は0.6mg/日、その後は1.2mg/日)は欧州での肥満治療用途の維持用量(3.0mg/日)8)より少なく、体重の有意な変化は認められず、BMIが34.0から33.9へとわずかに減ったのみでした。回帰分析したところBMI変化と片頭痛頻度の変化は無関係でした。対照群がない試験ゆえ片頭痛頻度低下のどれほどがプラセボ効果に起因するのかが不明であり、無作為化試験での検証が必要です。頼もしいことに、頭蓋内圧の測定を含む二重盲検無作為化試験が早くも計画されています9)。リラグルチド以外のGLP-1薬に片頭痛予防効果があるかも検討したい、とBraca氏は言っています。 参考 1) Obesity drugs show promise for treating a new ailment: migraine / Nature 2) Braca S, et al. Headache. 2025 Jun 17. [Epub ahead of print] 3) Xie Y, et al. Nat Med. 2025;31:951-962. 4) Quantifying Benefits and Risks of GLP-1-Receptor Agonists for Patients with Diabetes / NEJM Journal Watch 5) GLP-1 Agents' Risks and Benefits Broader Than Previously Thought / MedPage Today 6) Botfield HF, et al. Sci Transl Med. 2017;9:eaan0972. 7) Mitchell JL, et al. Brain. 2023;146:1821-1830. 8) Saxenda : Product Information / EMA 9) From blood sugar to brain relief: GLP-1 therapy slashes migraine frequency / Eurekalert

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だ~まにゅ Dermatology Manual

必要なとこだけ、ムダなく最短で診療へ「皮膚科の臨床」67巻6号(2025年5月臨時増刊号)“迷わず使える”皮膚科マニュアル『だ~まにゅ Dermatology Manual』登場! 新薬・治療法の最新情報をキャッチアップできる「治療薬・治療法一覧」、エキスパートによる治療の実践法がわかる「治療実践マニュアル」など、皮膚科診療に必要なエッセンスを疾患ごとにぎゅっと凝縮。治療法に迷ったときや最新情報を確認したいとき、手軽に参照できる診療の即戦力!画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大するだ~まにゅ Dermatology Manual定価8,800円(税込)判型B5判頁数224頁発行2025年6月編集「皮膚科の臨床」編集委員会ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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自閉スペクトラム症に対する非定型抗精神病薬の有効性〜ネットワークメタ解析

 自閉スペクトラム症(ASD)患者は、社会的な交流や行動に関連する多様な症状を呈する。非定型抗精神病薬は、小児および成人ASD患者の易刺激性、攻撃性、強迫観念、反復行動などの苦痛を伴う症状の治療に広く用いられてきた。しかし、その効果と相対的な有効性は依然として明らかではなかった。チリ・Universidad de ValparaisoのNicolas Meza氏らは、ASDに対する非定型抗精神病薬の有効性を明らかにするため、ネットワークメタ解析を実施した。The Cochrane Database of Systematic Reviews誌2025年5月21日号の報告。 小児および成人ASD患者を対象とした短期フォローアップ調査において、易刺激性に対する非定型抗精神病薬の相対的ベネフィットを評価するため、ネットワークメタ解析を実施した。さらに、短期、中期、長期フォローアップにおける、小児および成人ASD患者のさまざまな症状(攻撃性、強迫行動、不適切な発言など)と副作用(錐体外路症状、体重増加、代謝性副作用など)に対する非定型抗精神病薬のベネフィット/リスクについて、プラセボ群または他の非定型精神病薬との比較を行い、評価した。CENTRAL、MEDLINEおよびその他10のデータベース、2つのトライアルレジストリーを検索し、リファレンスの確認、引用文献の検索、研究著者への連絡を行い、対象研究を選定した(最終検索:2024年1月3日)。ASDと診断された小児および成人を対象に、非定型抗精神病薬とプラセボまたは他の非定型抗精神病薬と比較したランダム化比較試験(RCT)を対象に含めた。重要なアウトカムは、易刺激性、攻撃性、体重増加、錐体外路症状、強迫行動、不適切な発言とした。バイアスリスクの評価には、Cochrane RoB 2ツールを用いた。易刺激性の複合推定値には頻度主義ネットワークメタ解析、その他のアウトカムにはランダム効果モデルを用いて、対比較統計解析を実施した。エビデンスの確実性の評価には、GRADEを用いた。 主な結果は以下のとおり。・17研究、1,027例をネットワークメタ解析に含めた。成人対象は1研究(31例)、残りの16研究(996例)は小児対象であった。非定型抗精神病薬には、リスペリドン、アリピプラゾール、ルラシドン、オランザピンが含まれた。・易刺激性についてのネットワークメタ解析では、小児ASDに対してリスペリドンとアリピプラゾールは、プラセボ群と比較し、短期的に易刺激性の症状軽減に有効である可能性が示唆された。ルラシドンはプラセボと比較し、短期的な易刺激性に対する効果に、ほとんどまたはまったく差はないと考えられる。【リスペリドン】平均差(MD):-7.89、95%信頼区間(CI):-9.37〜-6.42、13研究、906例、エビデンスの確実性:低【アリピプラゾール】MD:-6.26、95%CI:-7.62〜-4.91、13研究、906例、エビデンスの確実性:低【ルラシドン】MD:-1.30、95%CI:-5.46〜2.86、13研究、906例、エビデンスの確実性:中・その他のアウトカムについては、小児ASDにおける短期フォローアップ調査において、非定型抗精神病薬は、プラセボと比較し、攻撃性に及ぼす影響が、非常に不確実であることが示唆された(リスク比[RR]:1.06、95%CI:0.96〜1.17、1研究、66例、エビデンスの確実性:非常に低)。バイアスリスクと重大な不正確さの懸念から、エビデンスの確実性は非常に低いと考えられる。・小児ASDにおける短期フォローアップ調査において、非定型抗精神病薬は、プラセボと比較し、体重増加の発生に及ぼす影響が、非常に不確実であることが示唆された(RR:2.40、95%CI:1.25〜4.60、7研究、434例、エビデンスの確実性:非常に低)。短期的な体重増加についても、非常に不確実であった(MD:1.22kg、95%CI:0.55〜1.88、3研究、297例、エビデンスの確実性:非常に低)。いずれの研究においても、バイアスリスクと重大な不正確さの懸念から、エビデンスの確実性は非常に低いと考えられる。・小児ASDにおける短期的な錐体外路症状の発生に対する非定型抗精神病薬の及ぼす影響は、プラセボと比較し、非常に不確実であった(RR:2.36、95%CI:1.22〜4.59、6研究、511例、エビデンスの確実性:非常に低)。バイアスリスクと重大な不正確さの懸念から、エビデンスの確実性は非常に低いと考えられる。・小児ASDにおいて、非定型抗精神病薬は、プラセボと比較、短期的に強迫行動を改善する可能性が示唆された(MD:-1.36、95%CI:-2.45〜-0.27、5研究、467例、エビデンスの確実性:低)。バイアスリスクと異質性への懸念から、エビデンスの確実性は低い。・小児ASDにおいて、非定型抗精神病薬は、プラセボと比較、短期的に不適切な発言を減少させる可能性が示唆された(MD:-1.44、95%CI:-2.11〜-0.77、8研究、676例、エビデンスの確実性:低)。バイアスリスクと異質性への懸念から、エビデンスの確実性は低い。・他の非定型抗精神病薬の効果は評価不能であった。・利用可能な研究が不足していたため、成人ASDに関する知見は得られなかった。 著者らは「リスペリドンおよびアリピプラゾールは、プラセボと比較し、短期的に小児ASDの易刺激性の症状を改善する可能性が示唆されたが、ルラシドンは、ほとんどまたはまったくないと考えられる。その他の有効性および潜在的な安全性に関しては、中〜非常に低い確実性のエビデンスとなっていた。現在利用可能なデータでは、包括的なサブグループ解析を行うことはできなかった。非定型抗精神病薬による介入の有効性および安全性を十分な確実性をもってバランスを取るためには、より大規模なサンプルによる新たなRCTが必要である。とくに成人ASDを対象とした研究が求められる。また、研究著者は、対象集団と介入の特性を透明化し、可能な場合には患者別、個別のデータを提供する必要があり、さらにデータの統合プロセスにおける問題を回避するためにも、各アウトカムについての一貫した測定方法を確立する必要がある」と結論付けている。

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7月13日開催、講習会『イノベーション委員会プログラム』【ご案内】

 日本抗加齢医学会の新たな試みとなる講習会『イノベーション委員会プログラム』が、7月13日(日)に日本橋ライフサイエンスハブで開催される。「アンチエイジングからイノベーションを起こす」をテーマに、医療現場の第一線で活躍する医師・研究者でありながら、実際にビジネスを立ち上げた“起業家ドクター”が多数登壇する。彼らのリアルな体験と挑戦、そして事業化へのヒントが凝縮された、ここでしか聞けない貴重な講演が行われる。 終了後には、登壇講師や関係者と直接話せる懇親会を同会場にて開催。講師への相談や名刺交換など、貴重なネットワーキングの場として活用することができる。 主催の日本抗加齢医学会 イノベーション委員会は「日々の診療や研究から課題解決のアイデアを形にしたい方、起業や事業化に興味がある方、医療×経営・ビジネスに関心がある方、医師や起業家と直接交流し人脈を広げたい方は、ぜひ参加登録をお願いしたい」と呼び掛ける。 開催概要は以下のとおり。開催日時:7月13日(日)10:00~15:00 ※講習会終了後に懇親会を実施開催場所:日本橋ライフサイエンスハブ    〒103-0022 東京都中央区日本橋室町1-5-5 室町ちばぎん三井ビルディング8階開催形式:現地開催参加費 :3万3,000円(日本抗加齢医学会会員 2万2,000円)申込締切:7月4日(金)まで■参加登録はこちら【プログラム】オープニングリマークス:坪田 一男氏(イノベーション委員会)座長:新村 健氏 (イノベーション委員会) 10:00~10:50 「大学発スタートアップの意義と実例」 森下 竜一氏(大阪大学大学院医学系研究科 臨床遺伝子治療学 寄附講座)10:50~11:40 「未定」 坪田 一男氏(株式会社坪田ラボ)11:40~12:20 休憩 座長:坪田 一男氏(イノベーション委員会)12:20~13:10 「未定」 石見 陽(メドピア株式会社)座長:森下 竜一氏(イノベーション委員会)13:10~14:00 「究極のアンチエイジングとしての心筋再生医療は心不全治療に革命を起こせるか?」 福田 恵一氏(Heartseed株式会社)14:00~14:10 休憩14:10~15:00 「デジタル技術による持続可能な医療」 上野 太郎氏(サスメド株式会社)クロージングリマークス:森下 竜一(イノベーション委員会)15:00~ 懇親会(同会場内ホワイエにて)【主催】 日本抗加齢医学会 イノベーション委員会【お問い合わせ先】 日本抗加齢医学会事務局 TEL:03-5651-7500 E-mail:seminar@anti-aging.gr.jp 学会ホームページはこちら

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不眠症へのベンゾジアゼピン中止のための介入策の効果は?/BMJ

 ベンゾジアゼピン系および類似の催眠鎮静薬(BSH)を中止するための介入について、有効性に関するエビデンスの確実性は低く、患者教育、薬剤の見直し、薬剤師主導の教育的介入がBSHを中止する患者の割合を増加させる可能性はあるが、現状ではエビデンスの確実性が低いため、さらなる質の高い研究が求められるという。カナダ・McMaster UniversityのDena Zeraatkar氏らが、システマティックレビューとメタ解析の結果を報告した。多くの患者が、転倒、認知機能障害、依存などのリスクがあるにもかかわらず、不眠症の治療にBSHを使用している。しかし、BSHの代替療法に関する知識は限られており、その有害性が明確ではなく、中止を支援する最適な戦略に関するエビデンスは不十分であることが報告されていた。BMJ誌2025年6月17日号掲載の報告。無作為化比較試験49試験、計3万9,336例についてメタ解析 研究グループは、5つのデータベース(MEDLINE、Embase、CINAHL、PsycInfo、CENTRAL)を検索し、不眠症にBSHを使用している成人を対象に、BSHの減薬または中止を目的とした介入、医療機関でこれらの介入を実施するための戦略と、通常ケアあるいはプラセボを比較した無作為化試験について、2024年8月まで発表された論文(言語は問わず)を特定した。さらに、特定された研究論文と類似のシステマティックレビューの引用文献も調査した。 複数の評価者がそれぞれ独立して、検索結果の確認、データ抽出、バイアスリスク評価を行った。類似の介入をグループ化して、制限最尤法を用いた頻度論的ランダム効果メタ解析を実施し、GRADEアプローチを用いてエビデンスの確実性を評価した。 検索の結果、3万件以上が抽出され、このうち適格基準を満たした58報(49試験、計3万9,336例)が解析対象となった。患者教育、薬剤見直し、薬剤師主導の教育的介入はBSH中止を増加させる可能性があるもエビデンスの確実性は低い 介入は、「減量」「患者教育」「医師教育」「患者および医師教育の併用」「認知行動療法」「薬剤の見直し」「マインドフルネス」「動機づけ面接」「薬剤師主導の教育的介入」「薬剤を用いた減量および中止」のカテゴリーに分類された。 確実性「低」のエビデンスでは、通常ケアと比較しBSHを中止する患者の割合(1,000例当たり)が、「患者教育」で144例(95%信頼区間:61~246)、「薬剤の見直し」で104例(34~191)、「薬剤師主導の教育的介入」で491例(234~928)それぞれ増加する可能性が示唆された。 確実性「中」のエビデンスでは、「患者教育」は身体機能、精神的健康、不眠症の徴候や症状に対して、ほとんどまたはまったく影響を与えない可能性が高いことが示唆された。「薬剤の見直し」や「薬剤師主導の教育的介入」に関しては、これらの他のアウトカムに関するエビデンスは得られなかった。 その他の介入が患者のBSH中止に有効であるという説得力のあるエビデンスは確認されなかった。また、いずれかの介入が脱落の増加を引き起こしたという、確実性「高」または「中」のエビデンスはなかった。 さらに、確実性「低」のエビデンスとして、複数の要素を組み合わせた介入が、単一の要素による介入と比較してBSHの中止を促進する可能性があることが示唆された。

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後発薬の供給が需要に追いつくのはなんと2029年!?【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第154回

ここ数年の後発医薬品の不足問題は、薬局にとって大きな負担になっています。しかし、まだまだ後発医薬品の供給不足は続きそうです。後発薬(ジェネリック医薬品)メーカーの業界団体である日本ジェネリック製薬協会は18日、後発薬の安定供給に向けた業界の対応方針の中間報告書について報道向け説明会を開いた。川俣知己会長(日新製薬代表取締役社長)は、後発薬の供給が需要に追いつくのは2029年度になるとの予測を示した上で、「(予測より前の)27年度には供給不安の解消を目指す」と強調。加盟企業に設備投資の前倒しを要請するとした。(2025年6月18日付 日本経済新聞)後発医薬品は、医療費の増大を抑えるために2002年ごろから加算などで使用が後押しされ、市場が伸びてきました。ようやく患者さんが後発医薬品を使用することに対して抵抗がなくなってきた今、使いたいのに使えない…というなんとも皮肉な状況が続いています。「もうそろそろどうにかしてほしい」という医療者の叫びが飛び交う中、ようやく出てきた供給不足解消の予測はなんと「2029年」。まだまだこの状況は続くのだなと落胆の気持ちを隠せません。冒頭の記事でも、日本ジェネリック製薬協会(GE薬協)から会員会社に対し、2027年度を目標に事業計画を見直し、増産施設への投資を前倒しするよう要請すると報じられています。しかし、これは現状の使用量がすでに頭打ちとなっていることが前提となっており、今後さらにシェアが拡大すれば供給不足の解消が後ろ倒しになる可能性もあるとのことなので、予断は許されない状況です。ただ、製薬会社は民間の会社なんですよね。各社の事業計画の見直しに関しては、あくまでGE協会からの「お願い」であって、実施に踏み切るかは各社の判断によります。各社さまざまな事情があるでしょうし、新たな借入金が発生する場合もあるでしょう。現実的に前倒しになることは期待できないように思います。一方で、製造所を変更するための一変申請は、今まで申請から承認まで1年程度かかっていたものを、1.5ヵ月で承認することができるという「医療用医薬品の品目統合等に伴う製造方法等の変更手続に係る手続の迅速化について」という通知が今年の2月に発出されるなど、製薬企業が増産を検討したり、製薬企業同士が品目を集約したりしやすくするための措置が始まっています。薬局にとっては日々の業務に直結することですので1日も早い解消を強く望みますが、期待しすぎずに供給不安の解消を待ちたいと思います。

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CLLの1次治療、I-V併用vs.イブルチニブ単独vs.FCR/NEJM

 慢性リンパ性白血病(CLL)患者において、イブルチニブ+ベネトクラクス(I-V)併用療法はイブルチニブ単独またはフルダラビン+シクロホスファミド+リツキシマブ(FCR)療法と比較して、測定可能残存病変(MRD)陰性および無増悪生存期間(PFS)延長の達成割合が高かったことが示された。英国・Leeds Cancer CentreのTalha Munir氏らUK CLL Trials Groupが第III相の多施設共同非盲検無作為化試験「FLAIR試験」の結果を報告した。同試験のPFSの中間解析では、MRDに基づいて投与期間を最適化するI-V併用療法はFCR療法に対する優越性が示されていたが、イブルチニブ単独と比較した有効性は不明であった。NEJM誌オンライン版2025年6月15日号掲載の報告。2年以内の骨髄MRD陰性、PFSなどを評価 FLAIR試験は英国の99病院で行われ、18~75歳、未治療のCLLまたは小リンパ球性リンパ腫(SLL)で、治療担当医師によりFCR療法の適応と判定された患者を対象とした。 被験者は、I-V群、イブルチニブ単独群、FCR群に1対1対1の割合で無作為に割り付けられ、追跡評価を受けた。 主要評価項目は、イブルチニブ単独群と比較したI-V群の2年以内の骨髄MRD陰性、およびFCR群と比較したI-V群のPFSであった。 検出力のある副次評価項目は、イブルチニブ単独群と比較したI-V群のPFSとした。その他の副次評価項目は全生存期間などであった。I-V群の2年以内の骨髄MRD陰性率はイブルチニブ単独群と有意差 2017年7月20日~2021年3月24日に、786例が無作為化された(I-V群260例、イブルチニブ単独群263例、FCR群263例)。被験者の人口統計学的および臨床特性は3群間でバランスが取れていた。被験者の年齢中央値は62歳(四分位範囲:56~67)、65歳以上の割合が31.4%で、男性が71.1%であった。 2年以内の骨髄MRD陰性を達成した患者は、I-V群172/260例(66.2%)に対し、イブルチニブ単独群0/263例(p<0.001)、FCR群は127/263例(48.3%)であった。 追跡期間中央値62.2ヵ月で、病勢進行または死亡の報告は、I-V群18例(6.9%)であったのに対し、イブルチニブ単独群59例(22.4%)であり(ハザード比[HR]:0.29、95%信頼区間[CI]:0.17~0.49、p<0.001)、FCR群112例(42.6%)であった(0.13、0.08~0.21、p<0.001)。5年PFS率は、I-V群93.9%、イブルチニブ単独群79.0%、FCR群58.1%だった。 死亡は、I-V群11例(4.2%)であったのに対し、イブルチニブ単独群26例(9.9%)であり(HR:0.41、95%CI:0.20~0.83)、FCR群39例(14.8%)であった(0.26、0.13~0.50)。突然死は、I-V群3例、イブルチニブ単独群8例、FCR群4例で報告された。

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臨床区域麻酔科学書

区域麻酔の幅広い内容を取り上げ、日常臨床をサポート!超音波ガイド下区域麻酔を行うにあたり、各区域麻酔がどのような外科手術に適応となるのか、穿刺手技はどうしたら良いかなど、必要な解剖、適応、穿刺法、起こりうる合併症とその対策について解説。また神経生理や薬理、必要機器の基本的知識、抗凝固療法、および区域麻酔の応用として小児区域麻酔、無痛分娩、Awake craniotomy、心臓血管麻酔についても取り上げた。安全な区域麻酔の実臨床に必須の1冊。【特長】1)区域麻酔の幅広い内容を取り上げ、日常臨床をサポートする。2)手技の理解や実践に役立つアドバイス、注釈、コラムなどの補足情報が充実。3)最新のエビデンス、最近の傾向や注意点を的確にフォロー。4)紙面の二次元コードから端末機器で穿刺動画等を見ながら手技の実際を学べる。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する臨床区域麻酔科学書定価14,300円(税込)判型B5判(並製)頁数368頁発行2025年6月編集日本麻酔科医会連合出版部編集主幹廣田 和美(日本麻酔科医会連合理事/青森県立中央病院 院長)ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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第269回 「骨太の方針2025」の注目ポイント(前編) 社会保障関係費は「高齢化の伸びの範囲内に抑制する」という“目安”対応が見直され、「経済・物価動向等を踏まえた対応に相当する増加分も加算」と明記

今年の骨太のキャッチコピーは「『今日より明日はよくなる』と実感できる社会へ」こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は話題の映画、『国宝』(監督:李 相日)を観てきました。都内の映画館、土曜・日曜のお昼の回はどこもほぼ満席で、中央中段の席が空いていた日本橋の映画館までわざわざ足を運びました。1年半稽古をしたという吉沢 亮、横浜 流星の歌舞伎の演技もさることながら、吉田 修一の長編小説をうまく刈り込んで、3時間の映画にまとめあげた李監督の力量に感服しました。おそらく今年度の映画賞(ひょっとしたら海外も)を総なめにすることでしょう。映画のジャンルとしては昔からある「芸道もの」で、古くは溝口 健二監督の『残菊物語』、成瀬 巳喜男監督の『芝居道』などが有名です。李監督もそうした「芸道もの」の定石に法って、女性を踏み台(あるいは犠牲)に、芸の道を極めようとする主人公を描いています。今なら批判が出てもおかしくないようなシチュエーションや描写に対して今のところ大きな批判が出ていないのは、美男2人の迫真の演技ゆえかもしれません。DVD発売や配信を待つのではなく、できるだけ大きなスクリーンの映画館での鑑賞をお薦めします。さて、今回は、6月13日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2025~『今日より明日はよくなる』と実感できる社会へ~」(骨太の方針2025)について書いてみたいと思います。『今日より明日はよくなる』とは、どこかで聴いた歌謡曲の歌詞のようなベタなコピーですが、それぐらい国民の経済状況が“悪い”と政府が実感している証とも言えます。医療・介護など社会保障関連の予算については、従来の「高齢化による増加分に相当する伸び」に加えて、「経済・物価動向等」を踏まえた増額を行う方針が明示され、日本医師会はじめ医療関係団体もいつになく「骨太の方針」に対し「評価」のコメントを出しています。「経済・物価動向等を踏まえた対応」という文言が原案の脚注から本文に格上げ「骨太の方針2025」において医療や社会保障関連の内容は、主に「第3章 中長期的に持続可能な経済社会の実現」の「2.主要分野ごとの重要課題と取組方針」の中の「(1)全世代型社会保障の構築」に書かれています。全体の章立ては基本、「骨太の方針2024」と同じで、「重要課題」の筆頭が「全世代型社会保障の構築」になっている点も変わっていません。昨年の「骨太の方針2024」では、かかりつけ医機能が発揮される制度整備、新たな地域医療構想、医師の偏在解消に向けた総合的な対策のパッケージなどが明記され、それぞれ制度の創設等が2024年度内に決定したことを考えると、「骨太の方針」に何がどのように記述されるかは依然、重要な意味を持っています(「第218回 2040年に向けさまざまな改革が本格始動、「骨太の方針2024」から見えてくる医療提供体制の近未来像」参照)。まず、最重要と考えられる2027年度の予算編成に向けての方針ですが、社会保障関係費については「医療・介護等の現場の厳しい現状や税収等を含めた財政の状況を踏まえ、これまでの改革を通じた保険料負担の抑制努力も継続しつつ、2025年春季労使交渉における力強い賃上げの実現や昨今の物価上昇による影響等について、経営の安定や現場で働く幅広い職種の方々の賃上げに確実につながるよう、的確な対応を行う」とされ、続いて「具体的には、高齢化による増加分に相当する伸びにこうした経済・物価動向等を踏まえた対応に相当する増加分を加算する」と記されました。この「具体的に…」以降の一文の内容は、6月6日に公表された「骨太の方針2025(原案)」では脚注に記されていたものです(文言は一部変更)。日本医師会をはじめとする医療関係団体は、かねてから「高齢化の伸びの範囲内に抑制する」という従来からあった社会保障予算の“目安”対応の見直しを求めていましたが、今回、原案に「経済・物価動向等を踏まえた対応」という文言が脚注として入り、さらにその内容が正式な「骨太の方針2025」の本文に格上げされたわけで、来年度の診療報酬改定率などの方向性を考えると、その意味はとても大きいと言えるでしょう。「社会保障費の増加は高齢化による伸びだけに抑える」というこれまでの“目安”の対応を見直し社会保障予算の“目安”対応とは、「骨太の方針2021」に記述された「社会保障関係費については、基盤強化期間においてその実質的な増加を高齢化による増加分に相当する伸びにおさめることを目指す方針とされていること、経済・物価動向等を踏まえ、その方針を継続する」という文言に基づいて政府が継続してきた対応のことで、「社会保障費の増加は高齢化による増加分に相当する伸びだけに抑える」という方針を指します。2021年段階では物価高がここまで進むとは政府も考えていなかったのでしょう。現実と乖離し、医療機関経営にも大きな影響を与えてきたと考えられる“目安”対応に医療関係団体は大きな不満を抱いてきたわけです。2021年度以降続いたこの方針は、「骨太の方針2024」では全体の予算編成に関して、「歳出改革努力を継続しつつ、経済・物価動向等を踏まえ、各年度の予算編成において適切に反映する」と記述され、「経済・物価動向」という文言が入りました。しかし、具体的な社会保障関係費についての記述にこの文言はなく、“目安”対応の方針は継続中であると捉えられていました。今回、社会保障関係費について、「高齢化による増加分に相当する伸びにこうした経済・物価動向等を踏まえた対応に相当する増加分を加算する」と明記され、“目安”対応が正式に見直されることになったことで、2026年度診療報酬改定からは高齢化による伸びに加え、経済・物価対応による増加分も考慮されることが期待されます。「年末の予算編成における診療報酬改定に期待できる書きぶりとなった」と日医会長なお、以上の“目安”対応の方針変更を踏まえ、「(1)全世代型社会保障の構築」の項では、「医療・介護・障害福祉等の公定価格の分野の賃上げ、経営の安定、離職防止、人材確保がしっかり図られるよう、コストカット型からの転換を明確に図る必要がある。このため、これまでの歳出改革を通じた保険料負担の抑制努力も継続しつつ、次期報酬改定を始めとした必要な対応策において、2025年春季労使交渉における力強い賃上げの実現や昨今の物価上昇による影響等について、経営の安定や現場で働く幅広い職種の方々の賃上げに確実につながるよう、的確な対応を行う」と記述されています。日本医師会の松本 吉郎会長は6月18日の定例記者会見で「骨太の方針2025」について「歳出改革の中での引き算ではなく、物価・賃金対応分を加算するという足し算の論理となり、年末の予算編成における診療報酬改定に期待できる書きぶりとなった」と評価するコメントを出しています。「骨太の方針2025」のその他の注目点は、「骨太の方針2025」(原案)の段階では言及がなかった、自民党・公明党・日本維新の会の「3党合意」の内容がどの程度反映されるかでした。個人的には、「OTC類似薬の保険給付の在り方の見直し」、「新たな地域医療構想に向けた病床削減」がどの程度詳細に記述されるかが気になっていました。では、どんな形で盛り込まれたのでしょうか。(この項続く)

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術後の吐き気、AI解析による最大のリスク因子は「総出血量」【論文から学ぶ看護の新常識】第20回

術後の吐き気、AI解析による最大のリスク因子は「総出血量」人工知能(AI)を用いて術後悪心・嘔吐(Postoperative nausea and vomiting:PONV)のリスク因子を解析した研究で、最大のリスク因子は「総出血量」である可能性が示されました。星島 宏氏らの研究で、PLOS One誌2024年8月号に掲載された。人工知能を用いた成人の術後悪心・嘔吐のリスク因子の特定研究チームは、人工知能(AI)を用いて術後悪心・嘔吐(PONV)のリスク因子を特定することを目的に、2010年1月1日から2019年12月31日までに東北大学病院で全身麻酔下手術を受けた成人患者37,548例のデータを分析した。PONVの評価は術後24時間以内に悪心・嘔吐を経験、または制吐薬を使用した患者とし、術後の診療録および看護記録から抽出した。機械学習アルゴリズムの1つである勾配ブースティングツリーモデルを用いて、PONVの発生確率を予測するモデルを構築した。モデルの実装にはLightGBMフレームワークを使用した。主な結果は以下の通り。最終的に、データが利用可能であったのは33,676例であった。総出血量がPONVへの最も強力な寄与因子として特定され、次いで性別、総輸液量、患者の年齢が続いた。その他に特定されたリスク因子は、手術時間(60~400分)、輸血なし、デスフルランの使用、腹腔鏡手術、術中の側臥位、プロポフォールの不使用、腰椎レベルの硬膜外麻酔であった。麻酔時間、およびセボフルランまたはフェンタニルの使用は、PONVのリスク因子として特定されなかった。術中総出血量は、手術時間や循環血液量不足と相関する可能性はあるものの、PONVと最も強く関連する潜在的なリスク因子として特定された。今回ご紹介する研究は、AIを使ってPONVのリスク因子を分析し、予測モデルを構築した興味深い論文です。研究では、LightGBMという機械学習モデルを使用し、各因子が予測にどれだけ「貢献」したかを評価するためにSHAP値(SHapley Additive exPlanations)を用いています。SHAP値が0より大きい場合、その因子はPONVのリスクを高める方向に影響した、つまりリスク因子として働いたと解釈されます。PONVのような多様な要因が複雑に絡みあう事象では、このような機械学習での評価が、従来の統計的手法よりも各因子の影響を適切に示せる可能性があります。このSHAP値を用いた分析から、従来のリスク因子として報告されている「女性」、「若年(20~50歳)」、「デスフルランの使用」、「プロポフォールの不使用」なども本研究でリスク因子として確認されました。そして、今回の解析でPONVの予測に最も強く貢献した因子は「術中の総出血量」であることが特定されました。研究では、とくに総出血量が1~2,500mlの範囲でPONVのリスクが高まる関連が示されています。これは、出血による循環血液量不足や術中低血圧がPONVに関与している可能性を示唆しています。また、従来リスク因子とされている「麻酔時間」、「セボフルランの使用」や「フェンタニルの使用」は、今回のAI分析ではリスク因子として特定されませんでした。その一方で、「手術時間(60~400分)」はリスク因子であることが示されています。この結果は、麻酔そのものの時間よりも、手術侵襲などといった手術自体の身体的負担がPONVに関与している可能性を示唆しています。これらの知見を踏まえて、侵襲が多い手術では全身管理がもっとも大事ですが、同時にPONVの発生にも一層の注意が必要です。頭部付近への防水シーツの設置、ガーグルベースンなどの嘔吐物を受ける容器の準備、いつでも制吐剤が投与できるような事前準備をしておきましょう。最後に、本研究は単施設の研究であるため、一般化できるかは今後さらなる検証が必要です。しかし、今回のPONVのように、今後AI解析によって既存の報告以外のリスク因子が報告される可能性があります。常に最新の知識をアップデートしていきましょう!論文はこちらHoshijima H, et al. PLoS One. 2024;19(8):e0308755.

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弘前大学医学部 腫瘍内科学講座【大学医局紹介~がん診療編】

佐藤 温 氏(教授)斎藤 絢介 氏(助教)陳 豫 氏(助手)講座の基本情報医局独自の取り組み・特徴がんを抱える患者という「ひと」に目を向けた診療を行うことを大切にしています。医学知識の習得と、研究開発といった科学力はもちろん、患者の社会背景から生じる課題への対応力、そしてケアのための対話力といったさまざまな視点からの医療を統合して提供することを大切にしています。先進的医療の実践と同時に、がんを抱える患者の人生に深く関わり、さらには、小中高等学校におけるがん教育など、社会活動にも積極的に取り組んでいます。臨床開発から本質的医療の実践までの広範な領域を、こんな小さな医局がこの広大な地域で展開している、そんな一生懸命な姿勢が特徴です。地域のがん診療における医局の役割全診療科と連携して、全領域のがん症例に対する治療方針の検討のため、週2回のキャンサーボードを開催しています。また、がんゲノム医療拠点病院としての指定を受け、がんゲノム外来を通して全圏内からゲノムパネル検査を受け、毎週エキスパートパネルを開催しています。幅広い領域の医療者が集う多職種カンファレンスも定期開催しています。また、地域の病院に赴き、治療困難症例や希少がん症例などの相談を含めた診療を積極的に行っています。地域全体において腫瘍内科医がかなり不足する中、院内の横断的連携から、圏内医療施設でのがん医療連携までの幅広い領域で中心的役割を担っています。今後医局をどのように発展させていきたいか家族みたいな医局です。仕事は楽しく、患者を含めたひとには謙虚に、そして学問には貪欲に、をモットーにして、わたしも含めた教室員全員の総力で日々の診療・教育・研究に向き合っています。正直なところ、仲間を増やすことが最重要課題です。各診療科からも切望されている需要過多の医局です。活躍の場は、医療現場に留まらず一般社会にも広げていきたいと思います。生命が満ち溢れるこの地だからこそ、医療の本質を見極めることができ、それを臨床で展開することができる医局です。医師の育成方針地域全体での医師不足の状況の中、専門性を備えた専門医師不足はかなり切実な問題です。専門性を高めるのみでは地域医療貢献にはまったく不十分です。予防医療からゲノム医療そして終末期医療までの幅広い臨床過程を患者/家族の視点からコーディネートして、がん医療のリーダーとして活躍できる、次世代の医療人材を育成します。研修はOn-the-Job Trainingが中心となりますが、がん医療におけるprofessional playerとしてだけではなく、total coordinatorとしての両能力を遺憾なく発揮できるよう個別に丁寧な指導をします。医局でのがん診療のやりがいと魅力弘前市は青森県第3の人口を有する地方都市であり、地理的には津軽平野の中央に位置します。春は桜、夏はねぷた祭り、秋はリンゴ、冬は雪まつりと四季折々を堪能できることが魅力です。青森県は農業、漁業といった第1次産業に従事される方々が多いのも特徴です。一方、少子高齢化、人口減少が最も進んでいる県の1つでもあり、紹介されるがん患者さんの多くが高齢者であることも事実です。交通手段は、鉄道網の整備が悪いため、自家用車移動が中心となる地方都市ならではの生活環境を有しています。さらに、自然環境の影響も大きく、冬期は雪のため交通手段が閉ざされてしまうことさえもあります。ただし、一見問題の多い地域としてだけに見られがちですが、この少子高齢化と人口減少は、日本全体の問題であり、単に青森県が先進県であるだけです。この地域での学びと経験は、今後の日本の高齢社会を考えるうえにおいて1つの強みになります。困難な問題ではありますが、最も重要な課題に立ち向かう魅力は大きいです。医学生/初期研修医へのメッセージ医師として最先端医療に関わり続けることはとても魅力的です。教室では、臨床試験に積極的に参加しています。でも、地方に根付いた医療を経験し、患者一人ひとりの生き方や生活環境に触れ、十分な会話を通して、その人らしいがん治療を行うことができることが当科の強みだと思います。一緒にがん医療をしましょう。同医局を選んだ理由出身は中国河南省です。腫瘍内科を志した動機は、抗がん剤治療を受けながらがんと戦った母親の苦しみを深く痛感し、そしてがんで家族を失うという辛い経験をしたことから萌え出ました。あの時から、がんで闘病している人の苦しみを和らげる医者になることを決断しました。弘前大学を卒業して、長男が生まれました。初期研修を終え、腫瘍内科に入局後長女が生まれ、子供は2人となりました。子育ても家事も苦労の連続でしたが、家族や両親のおかげもあって臨床一筋に取り組むことができ、無事がん薬物療法専門医を取得し、腫瘍内科医として充実した日々を送っています。現在学んでいること教室のスタッフ、病棟/外来の看護師、薬剤師、さらに心理士、栄養士、理学療法士等々たいへん多くのメディカルスタッフらと真摯にかつとても楽しく仕事に取り組んでいます。がん化学療法はもちろん緩和医療を含め、さまざまな有害事象から合併症まで、内科全般的な診療が行えることが日々勉強になっています。「答えは患者にある」の教えをもとに、初心を忘れず謙虚な姿勢で多くのことを学び、人の苦しみを和らげる医者になるため日々精進しています。弘前大学大学院医学研究科 腫瘍内科学講座住所〒036-8562 青森県弘前市在府町5問い合わせ先shuyo@hirosaki-u.ac.jp医局ホームページ弘前大学大学院医学研究科 腫瘍内科学講座専門医取得実績のある学会日本内科学会日本臨床腫瘍学会日本肉腫学会日本消化器病学会日本消化器内視鏡学会日本がん治療認定医機構研修プログラムの特徴(1)弘前大学医学部附属病院内科専門研修プログラム 腫瘍内科重点コース地域医療を含めた幅広い研修を通じて、標準的かつ全人的な内科領域全般にわたる医療の実践に必要な知識と技能とを修得する。詳細はこちら(トップページ/医科後期研修 専門研修)(2)東北広域次世代がんプロ養成プラン 地域がん医療 次世代リーダー育成コース地域がん医療のリーダーとなり、次世代の医療人の育成ができる人材を育成する。詳細はこちら(東北広域次世代がんプロ養成プラン・弘前大学)

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夏の追い込みに備えて下地を作れ【研修医ケンスケのM6カレンダー】第3回

夏の追い込みに備えて下地を作れさて、お待たせしました「研修医ケンスケのM6カレンダー」。この連載は、普段は初期臨床研修医として走り回っている私、杉田研介が月に1回配信しています。私が医学部6年生当時の1年間をどう過ごしていたのか、月ごとに振り返りながら、皆さんと医師国家試験までの1年をともに駆け抜ける、をテーマにお送りして参ります。この原稿を書いているただいまは2025年6月18日で、梅雨入りして雨が続くと思いきや、蒸し暑い日が続いています。熱中症の患者さんも全国的に増えてきたとか。みなさまいかがお過ごしでしょうか。6月にやるべきこと(ジメジメした暑い日はテラス席でシャンパン飲みながら過去問開いて、と…)先月は「急がば回れ」をテーマに実習を疎かにしないこと、マッチングの書類を準備し始めることの2つのメッセージをお伝えしました。3ヵ月目となる6月。今月も大きく次の2つのテーマを取り上げます。1.マッチングに必要な書類を仕上げて提出しよう2.夏に向け試験対策資料と情報を集めよう書類準備の天王山実習やマッチング準備に追われ、存分に卒試国試対策に時間を割くことができず、もどかしい思いをしている医学生さんが多いのではないでしょうか。ですが、慌てない慌てない。6月はマッチング応募がスタート。締め切りだって案外7月頭のところも。マッチングの面接は定番の質問もありますが、提出した履歴書、志望動機から尋ねられることがほとんどです。小論文がある場合も。そして多くの学生にとっては書き慣れない書類ばかり。なので先月号では早めに手をつけてね、とお伝えしたのです(まだ手をつけてなくても間に合うぞ!諦めない!)。すなわち、6月はマッチングにおける書類準備の天王山とも言える月なのです。すでに準備に取り掛かっている方が多いはずですが、書類準備で最後に時間をかけることができる機会になり得るのです。作成が終わっている方は必ず第三者に添削してもらいましょう。できれば先生や志望病院の先輩に見てもらうとなお良いです。また、志望する病院のホームページは必ずもう一度目を通して、提出する書類に共感した感想や意見、価値観を書き留める箇所がないかを探りましょう。7・8月の夏の追い込みに備えよ(ジェラートにかぶりつきたい!!)マッチングの観点から6月が書類準備のヤマであることはお伝えした通りです。ここからは一転、視点を変えてみます。医師国家試験対策業界として、6月は最新版の試験対策資料が発行される月です。そして、卒業試験については問題作成の締め切りまたは編集時期でもあります。1つひとつ見ていきましょう。最新版の試験対策資料を入手せよ7・8月になると、マッチングも面接試験対策に落ち着き、実習も終了することで、比較的試験対策に時間をかける余裕が生まれる方が増えると思います。模擬試験が控える方もいれば、9月以降の卒業試験や模擬試験に向けてひたすら追い込むという方もいらっしゃることでしょう。6月は最新版の試験対策教材が出揃う時期でもあるため、早めに購入しておき夏に備えましょう。少し齧っておくのもよし、敢えて焦らして、手をつけるまでの準備目的で過去問演習をもう1回、なんてのも個人的にはありだと思います。それこそ、自分自身の進捗だけでなく、勉強会メンバーでまっさらな教材として同じペースで学習を深めるのも選択肢として大いに結構です。卒業試験のヤマを探れ(「教授〜今度の卒業試験の問題作成手伝いましょうか?」なんちゃって)近年、卒業試験形態を医師国家試験に類似させる大学が増えてきました。一部の大学では解答を公開するところも。(オフレコ:個人的には解答なんて頼らず調べて…と言う意見はもう古いと思います。解答がわからないことで、自分がどこを間違えたのかわからないまま、あやふやな情報が出回って正しくない医学知識が定着してしまうデメリットの方が大きいというのが1番の理由です。今はChat GPTに投げれば正解を簡単に教えてくれるかもしれませんが…)とはいえ、大学の卒業試験は大学の先生方が作成するオリジナルの試験です。「どこが出ますか?」なんてナンセンスな質問はしないことは大前提ですが、何故か毎年ヤマ情報が出回りますよね。邪道かもしれませんが、ヤマを探ることは重要なスキルだと思います。この時期によくあるシチュエーションとしては実習先で卒業試験作成情報を仕入れる、です。「〇〇先生が5年生へのミニ講義で言ってた!」とか「今年から実習中に話すようにしたらしい」が風物詩の1つですね。そこだけ勉強しても合格はできませんが、先生方も情報をアップデートして講義や問題作成をされています。実習で回ったときには耳にしなかった最新情報を仕入れる、という観点では良い学習になると思います。実際に数年前に卒業試験で問われたことが、去年の国試に出た、ということもあります。なので、情報を集める、敏感になることは決して損ではないです。問題作成の今だからこそ、先生方も何を出そうか、出したのか覚えていらっしゃるので、今月は狙い目です。今月のまとめいかがだったでしょうか。梅雨の季節は体調を崩す方が多いです。1年の半分を駆け抜けていますし、ジメジメと暑かったり、雨が降ったりで引きこもりがちになるのもあるのでしょう。息抜きの機会が少なくなるこの時期、私のオススメは映画館に行くことです。宣伝ではありませんが、最近見た「フロントライン」という医療映画は臨場感があって良かったです。予告ですが、次回7月号は今回触れなかったマッチング攻略についてまとめます!お楽しみに!

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男女の認知症発症リスクに対する性ホルモンの影響

 認知症は、世界的な公衆衛生上の大きな問題であり、そのリスクは性別により異なることが知られている。女性のアルツハイマー病およびその他の認知症発症率は、男性の約2倍であるといわれている。テストステロン値は、高齢者の認知機能に影響を及ぼすと考えられているが、これまでの研究では一貫性のない結果が報告されており、性ホルモンと認知症との関係は、依然として明らかになっていない。中国・山東大学のYanqing Zhao氏らは、大規模データベースを用いて、男女の認知症発症リスクに対する性ホルモンの影響を検討した。Clinical Endocrinology誌オンライン版2025年5月11日号の報告。 英国バイオバンクのデータを用いて、検討を行った。血清中の総テストステロン値および性ホルモン結合グロブリン(SHBG)値の測定には、免疫測定法を用いた。血清中の遊離テストステロン値の算出には、vermeulen法を用いた。認知症およびアルツハイマー病の発症は、入院患者のデータより抽出した。性ホルモンと認知症との関連性を評価するため、年齢およびその他の変数で調整したのち、Cox比例ハザード回帰分析を実施した。用量反応関係を定量化するため、制限付き3次スプラインモデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・対象は、男性18万6,296人(平均年齢:56.68±8.18歳)、閉経後女性12万6,109人(平均年齢:59.73±5.78歳)。・12.0年間(四分位範囲:11.0〜13.0)のフォローアップ調査後、認知症を発症した対象者は、男性で3,874例(2.08%)、女性で2,523例(2.00%)。・遊離テストステロン値の最高五分位の男性は、最低五分位と比較し、すべての原因による認知症(ハザード比[HR]:0.63、95%信頼区間[CI]:0.56〜0.71)およびアルツハイマー病(HR:0.49、95%CI:0.60〜0.72)リスクの低下が認められた。・一方、SHBG値の最高五分位の男性は、最低五分位と比較し、すべての原因による認知症(HR:1.47、95%CI:1.32〜1.64)およびアルツハイマー病(HR:1.32、95%CI:1.11〜1.58)リスクの上昇が認められた。・閉経後女性では、遊離テストステロン値が第4五分位の際、すべての原因による認知症(HR:0.84、95%CI:0.78〜0.95)およびアルツハイマー病(HR:0.76、95%CI:0.63〜0.91)リスクの低下が認められた。・更年期女性では、SHBG値の上昇は、すべての原因による認知症(HR:1.35、95%CI:1.28〜1.55)およびアルツハイマー病(HR:1.52、95%CI:1.25〜1.85)リスクの上昇との関連が認められた。 著者らは「SHBG値の上昇および遊離テストステロン値の低下は、すべての原因による認知症およびアルツハイマー病の発症率上昇と関連している可能性が示唆された。これらの因果関係を明らかにするためにも、さらなる研究が求められる」と結論付けている。

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男女の身長差、遺伝子で説明できる?

 男性は通常、女性よりも平均で13cmほど背が高いが、その理由についてはこれまで明らかにされていなかった。しかし新たな研究で、「SHOX(short stature homeobox)」と呼ばれる遺伝子により、この現象を部分的に説明できる可能性のあることが示された。米ガイジンガー医科健康科学大学の遺伝学研究者であるMatthew Oetjens氏らによるこの研究の詳細は、「Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS)」に5月19日掲載された。 男女の身長差を説明する仮説の一つは、身長に関わるSHOX遺伝子に関するものだ。SHOX遺伝子は、X染色体とY染色体の間で配列が相同な領域である偽常染色体領域1(PAR1)に位置する。これまで、哺乳類の雌の細胞では2本のX染色体のうちの1本が不活性化され(不活性化X〔Xi〕染色体)、多くの遺伝子の機能が損なわれるが、PAR1に位置する遺伝子はその影響を免れると考えられてきた。ところが近年の研究で、Xi染色体のPAR1に位置するSHOX遺伝子やその他の遺伝子は、実際には発現が抑制されていることが示された。一方、男性はX染色体とY染色体を1本ずつ持っており、双方の染色体のSHOX遺伝子が活性化されている。このため、男性の方がSHOX遺伝子の発現量が高く、これが身長の伸びを促進している可能性があると考えられる。 この仮説を検証するためにOetjens氏らは、米国と英国の3つの大規模バイオバンクから収集した92万8,605人のデータの解析を行った。研究グループが着目したのは、X染色体やY染色体が1本多い、あるいは1本少ない(例:45,X、47,XXY、47,XYY、47,XXX)まれな染色体構造を持つ小規模集団だった。これらの集団を対象に、SHOX遺伝子の発現量が身長にどのような影響を及ぼしているのか調べた。 その結果、Y染色体が1本増えると、Xi染色体が1本増える場合に比べて身長が平均3.1cm高くなることが明らかになった。また、このY染色体の遺伝子発現効果だけで、男女の平均身長差の22.6%を説明できることが示された。 なお、残りの身長差は他の遺伝子や男性ホルモンの影響によるものである可能性が高いとOetjens氏は付け加えている。 米マウント・サイナイ病院の遺伝学の専門家であるEric Schadt氏は、この研究結果について、「これは、まだ謎が多く残る問題を解明するためにバイオバンクを活用した素晴らしい例だ。たとえ影響がわずかであっても、身長差の約20%を説明していることは重要だ」と話している。

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世代を超えた自閉スペクトラム症と認知症との関係

 自閉スペクトラム症(ASD)患者は、認知機能低下や認知症のリスクが高いことを示唆するエビデンスが報告されている。この関連性が、ASDと認知症の家族的因子によるものかは不明である。スウェーデン・カロリンスカ研究所のZheng Chang氏らは、ASD患者の親族における認知症リスクを調査した。Molecular Psychiatry誌オンライン版2025年5月14日号の報告。 スウェーデンのレジスターにリンクさせた家族研究を実施した。1980〜2013年にスウェーデンで生まれた個人を特定し、2020年までフォローアップを行い、ASDの臨床診断を受けた人を特定した。このASD患者と両親、祖父母、叔父/叔母をリンクさせた。ASD患者の親族における認知症リスクの推定には、Cox比例ハザードモデルを用いた。認知症には、すべての原因による認知症、アルツハイマー病、その他の認知症を含めた。親族の性別およびASD患者の知的障害の有無で層別化し、解析を行った。 主な内容は以下のとおり。・ASD患者の親族は、認知症リスクが高かった。・認知症リスクは、両親で最も高く、祖父母、叔父/叔母では低かった。【両親】ハザード比(HR):1.36、95%信頼区間(CI):1.25〜1.49【祖父母】HR:1.08、95%CI:1.06〜1.10【叔父・叔母】HR:1.15、95%CI:0.96〜1.38・ASD患者と母親の認知症リスクには、父親よりも強い相関が示唆された。【母親】HR:1.51、95%CI:1.29〜1.77【父親】HR:1.30、95%CI:1.16〜1.45・ASD患者の親族において、知的障害の有無による差はわずかであった。 著者らは「ADSとさまざまな認知症は、家族内で共存しており、遺伝的関連の可能性を示唆する結果となった。今後の研究において、ASD患者の認知症リスクを明らかにすることが求められる」としている。

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第268回 NHKが医療問題を徹底特集、日本医師会色を廃した番組編成から見えてきたものは?(後編) 「ミスやトラブルを起こす一部の医師にも頼らざるを得ない」病院のドキュメンタリー番組、日本医師会が要請文書をNHKに送付

「どう守る 医療の未来」をテーマにさまざまな番組で医療問題を取り上げたNHKこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。やっとこさ1勝あげた後、右肩の痛みのためケガ人(IL)リスト入りしていたロサンゼルス・ドジャースの佐々木 朗希投手が、どうやら今シーズンの戦力の構想から外れたようです。6月16日付のNHKニュースなどの報道によれば、現地時間15日、デーブ・ロバーツ監督は報道陣に対して佐々木投手が現在ボールを投げずに調整していることを明かし、「今シーズンは彼なしで編成を考えることが妥当だ」と述べました。ドジャースは現在、佐々木投手のほかサイ・ヤング賞を2回受賞したブレイク・スネル投手や昨シーズン開幕投手のタイラー・グラスナウ投手など先発陣を中心にケガ人が相次いでいます。ドジャースの独走状態だったナショナル・リーグ西地区の順位も混戦気味で、ポストシーズン進出に黄信号が灯りはじめています(大谷 翔平選手の突然の登板の理由の1つとも考えられます)。ガラスの肩でファンをやきもきさせる佐々木投手に対して、毛の生えた心臓(?)でメジャー復帰をかけるのが、制球難から3Aでの調整が続いている藤浪 晋太郎投手です。藤浪投手はシアトル・マリナーズ傘下3Aタコマに所属しており、現在8試合連続無失点を記録、最速158キロも記録しています。近々、再びメジャーの舞台に戻って来るかもしれません。それにしても、佐々木投手の肩と藤浪投手の肩の違いは何なのでしょう。佐々木投手は夏の高校野球岩手県大会決勝で肩を温存して登板せず、一方の藤浪投手は甲子園で春夏連覇を達成しています。育てられ方やキャリアがまったく異なる2人の豪速球投手のこれからが気になります。さて、NHKが先月末から6月頭にかけて「どう守る 医療の未来」をテーマにさまざまな番組で医療問題を取り上げました。今回もその中の番組についての感想を書いてみたいと思います。6月1日にNHK総合で放送された『NHKスペシャル ドキュメント 医療限界社会 追いつめられた病院で』は、島根県江津市の済生会江津総合病院を舞台に、「ミスやトラブルを起こす一部の医師にも頼らざるを得ないほど現場は追い詰められている」実態を赤裸々に追ったドキュメンタリーです。なんと日本医師会はこの番組に対し「不適切と思われる部分があった」として、医療の正しい情報を報道するよう求める要請文書を送付したそうです。前回書いた『日曜討論』に日医の役員が出ていなかったのも気になりましたが、番組内容に対し「正しい情報を報道するよう求める」というのも穏やかではありません。一体何が日医の気に障ったのでしょうか?「心電図も読めない」「電気ショックを行っていいかわからない」「自分に誤って刺した注射針を患者に使い回す」「気管カニューレの装着で患者の喉を傷つけても報告しない」医師たち済生会江津総合病院は地域の中核病院で、19科240床の病院で2次救急を担ってきましたが、2004年に28人いた常勤医は2024年には12人まで減っていました。番組によれば、「ある病院からの切実な訴え」が(NHKに)届き、病院は「医療の質が維持できなくなっている実態を知って欲しい」とNHKの取材を受け入れたそうです。そうした経緯から、同病院の院長、医局長、看護師らから話を聞き、現場で起きた「あってはならない事態」をリポートしたのが同番組です。そこで語られたのは、「心電図も読めない」医師、「電気ショックを行っていいかわからないから指示を出せない」医師、「薬を違う患者に出してしまう」医師、「自分に誤って刺した注射針を患者に使い回す」医師、「希釈するべきアスパラギン酸カリウム注なのに希釈のオーダーを出さない」医師、「気管カニューレを無理やり引っこ抜き(あるいは挿入して)患者の喉を傷つけても報告しない」医師たちです。番組は「頭を悩ませているのは一部の医師が起こすトラブル」、「医師の高齢化が進行中で不注意によるミスも相次いでいる」と一部の高齢医師がトラブルやミスの元凶であることを暗に示唆しており、院長は「この人ダメだから(といって)外すことは難しい」と診療体制維持の難しさを吐露していました。医療機関で働く医師や看護師が、同じ病院で働く同僚医師を(報道などで)表立って非難することはなかなかないことです。そうした言葉をあえて現場から引き出して放送したこと自体、ある意味医療界のタブーを破ったと言えるでしょう。済生会本部がよく取材を了承したものです。番組は次いで、こうした高齢医師が最前線の救急の現場で働かざるを得ないのは常勤医師数減少が原因だとして、2004年に始まった新医師臨床研修制度の影響を挙げ、「昔はミスやトラブルが目立つ医師がいてもカバーする余力があったが、ここまで医師が減るとそれが難しくなる。医師確保は全部失敗。大学も医師がいないので派遣する余力がない」という院長の言葉を紹介しています。新医師臨床研修制度は一因だが、病院の機能分化やダウンサイジング、集約化の必要性に気付かなかった経営者自身にも少なからぬ責任新医師臨床研修制度が大学医局の医師派遣機能を削いだ、というのは一面の真理ではありますが、それが最大の原因だとは言い切れません。地域ではそれなりに医師を確保できている病院もあるからです。結果として、今盛んに言われるようになった病院の機能分化やダウンサイジング、集約化の必要性に気が付かなかった経営者自身にも少なからぬ責任があるでしょう。地域医療構想は10年も前にスタートしていますが、いわゆる「協議の場」で病院長がそれぞれの病院存続に向けて建設的な”協議”をしてこなかったことも、今の地域医療の崩壊につながっているからです。とは言え、この番組も後半で指摘していますが、医師不足に対し、医師の養成数増だけに注力し、医師の偏在対策(地域偏在、医療機関間偏在)にほとんど対応してこなかった国(厚生労働省)の責任も大きいと言えます。日医は診療看護師が医師の処置などに対する自身の見解を述べた場面に対して強い懸念さて、この番組に対し、日本医師会が不適切と思われる部分があったとして要請文書を送付したという報道がありました。6月5日付のメディファクスによれば、日医の広報担当の黒瀬 巌常任理事は同紙に対して、6月3日に黒瀬氏の名前で要請文書をNHKに送付したことを明らかにしました。同紙によれば「(日医は)医療の正しい情報と、さまざまな考え方に基づく選択肢を国民に提示することができる組織として、正しい医療の現状を発信するために協力したい」というのがその趣旨だそうです。なお、要請文書そのものの内容は明らかにされていません。また同紙によれば、黒瀬氏は番組が特定の病院への取材や視聴者などの声を基にした構成となっていたと指摘、「個別の事例により、国民に誤った印象を与えることがないよう注意すべき」とも語っています。中でも、診療看護師が医師の処置などに対する自身の見解を述べた場面について、「こうした場面を公共放送で紹介することにより、全国の医師に対する国民・患者の信用やチーム医療の推進が損なわれないか、強い懸念を感じざるを得ない」との認識を示したとのことです。また、番組が、「医師偏在」「医療機関経営」といった日本の医療にとって極めて大きなテーマを取り上げたにもかかわらず、日医の意見が聞かれなかったことについても遺憾の意を示したそうです。医師がトラブルやミスの元凶であり、それを看護師チームがフォローしているという構図が強過ぎる「特定の病院への取材や視聴者などの声を基にした構成」なのは、ドキュメンタリーなのだから仕方ありません。そこをとやかく言うのは明らかに筋違いでしょう。ただ、一方で「診療看護師が医師の処置などに対する自身の見解を述べた場面」への指摘の一部は理解できます。これは冒頭でも書いた「気管カニューレを無理やり引っこ抜き(あるいは挿入して)患者の喉を傷つけても報告しない」医師に関する場面への指摘と考えられます。「診療看護師」という肩書のテロップが出た男性看護師が登場し、意思疎通ができない神経難病の患者の喉に見つかった内出血について、「多分抵抗があるのを(気管カニューレを)無理やり抜いて、力でぎゅっと入れるから、毛細血管とか皮下の静脈を傷つけた恐れがある」と自身の見解(見立て)を述べています。こうしたある意味“越権行為”について、日医はおそらくカチンと来たのではないでしょうか。私自身も、番組全体として同病院では医師がトラブルやミスの元凶であり、それを看護師チームがフォローしているという構図(医師=悪、看護師=正義)が強過ぎる印象を受けました。トラブルやミスを起こすのは一部の高齢医師であるというナレーションはありますが、そうした医師が何人いるかについては示されません。もしそれが仮に1、2人の問題だとしたら、「医師不足」というよりも、「医師の質・能力」や「経営者(院長)の問題医師の取り扱い・処遇」の問題となってしまいます。問題医師が実際は何人いる(いた)のか、そこが明示されなかったのは、このドキュメンタリーの弱い部分でもあります。ただ、そこが明示され、問題が「医師の質・能力」となっても日医としてはやはりまずいことになります。“越権行為”についての指摘に留めたのも、そうした理由からかもしれません。『ETV特集 “断らない病院”のリアル』では3次救急の大病院の苦悩を伝える番組は後半で、同病院の「さらなる危機」として「年間4億7,000万円の赤字」経営によって非常勤医師の確保が困難になったことや、「看護師全体の1割15人の一斉退職」を描きます。そして、最終的に病床削減、診療科の削減といった撤退戦に舵を切り、医師については救急医療にも対応できる総合診療医の確保に向かう、というところで終わっています。200床規模の病院では現時点で生き残るにはその道しかないでしょう。今後、さらに人口減少が進めば、もっと徹底したリストラが必要になると思われます。NHKが「どう守る 医療の未来」をテーマにさまざまな番組で医療問題を取り上げた中、もう一つ興味深く見た番組は、5月31日夜に教育テレビで放送された『ETV特集 “断らない病院”のリアル』です。こちらの舞台は済生会江津総合病院とは対象的な大病院、3次救急として年間3万人の救急患者を受け入れる神戸市立医療センター中央市民病院でした。こちらはこちらで、「断らない救急」という理想と、働き方改革という現実のあいだで現場の医師は疲弊し、院長は経営難という宿題も抱え、ほぼお手上げの状態でした。最後に院長が、「従業員を守ること、患者の安全、病院の収支、この三つ巴の状態を良い方向に回せるか、私には自信がない」と語っていたのが印象的でした。今こそ診療所の診療報酬を抑え、病院の入院医療に回すことを真剣に検討すべきNHKが一連の番組で一番伝えたかったのは、規模にかかわらず病院全体が直面している苦境でしょう。前回、「第267回 NHKが医療問題を徹底特集、日本医師会色を廃した番組編成から見えてきたものは?(前編)元厚労官僚・中村 秀一氏の『入院医療と外来医療の配分を考えてもらう必要がある』発言の衝撃」で、中村氏の「医療界全体として自分たちも協力する部分は協力するということで、入院医療と外来医療の配分も考えてもらう必要がある」との発言を紹介しましたが、今こそ診療所の診療報酬を抑え、病院の入院医療に回すことを真剣に検討しないと、地域の医療は壊滅してしまうでしょう。日本医師会がそうした改革に本気でコミットしていくかが大きなポイントだと言えます。もはや、病院の診療看護師の言動に目くじらを立てている時代ではないのです。

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