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ICUでのMRSA感染症を防ぐために有効な方法とは?(コメンテーター:吉田 敦 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(117)より-

MRSAは、医療関連感染(Healthcare Associated Infections)の中で最も重要な微生物といっても過言ではなく、とくにICUでは問題になることが非常に多い。米国ではスクリーニングとして、ICU入室時に鼻腔のMRSAを調べ、接触感染予防策を徹底するよう義務づけている州がある。鼻腔にMRSAを保菌しているキャリアーからの伝播を防ぐ方法として、(1)抗菌薬であるムピロシンの鼻腔内塗布や、(2)消毒薬のクロルヘキシジンをしみ込ませた布での患者清拭を行って、除菌decolonizationできるかどうか検討され、それぞれ有効性が示されてきたが、誰にいつの時点で行えばよいかは不明であった。 そこで米国43病院、74箇所のICUを対象として、以下の3群に割りつけた。●グループ1:入室時に鼻腔のMRSAスクリーニングを行い、陽性者や過去にMRSA感染症の既往があった者は接触感染予防策を行う。●グループ2:グループ1と同様のスクリーニングを行うが、保菌・感染が判明した患者はムピロシンと2%クロルヘキシジンによる除菌と接触感染予防策を行う。●グループ3:スクリーニングは行わないで、入室者全例に除菌と接触感染予防策を行う。 この3群において、MRSA検出率と血流感染発生率を比較した。 全く対策を行わなかった時期と比べると、MRSA検出率はグループ1で8%、グループ2で25%、グループ3で36%減少し、血流感染率はグループ1で1%、グループ2で22%、グループ3で44%減少し、全例除菌の効果が最も著しかった。なお、血流感染では、MRSAによるものとその他の微生物によるものの両方が減少し、減少幅はグループ3で最も大きかった。 ムピロシンにより鼻腔の保菌が少なくなったこと、クロルヘキシジン清拭により皮膚の細菌数が少なくなったこと、さらに入室時から対策を開始できたことがグループ3での効果に結びついたと考えられる。対象を絞った対策よりも、ユニバーサルな除菌が効果的であったというのは、培養でとらえきれない(培養感度以下である)MRSAの存在や、多くの人が接し、患者・スタッフ間で伝播が生じやすいICUの環境を考えると理にかなっているといえよう。 日本ではかつてクロルヘキシジンによるアレルギー例が報告され、それ以来その使用に対して慎重であり、用いられている濃度も低い。今回の検討では、クロルヘキシジンの使用後に7例で局所の掻痒や発疹が出現したが、いずれも中止により改善したという。 本邦で通常行われている、対象を絞った方法では限りがあることも示されたわけであるが、今回の検討では、その後にMRSAの検出率が増加しなかったかも気になるところである。これまで、ユニバーサルなムピロシン使用は1年以内の短期的な抑制効果にとどまっていた例が報告されている。感染予防に対する職員個人の意識が持続できなければ、除菌を行っても早期に破綻してしまう。その意識をどのように維持させていくかが、最も重要かつ工夫しなければならない課題である。

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抑うつ症状改善に“手紙による介入”は効果的か?:京都大学で試験開始

 「高齢うつ病患者に対し手紙を出すという介入で、抑うつ状態を改善できるのか」というプラグマティックな無作為化試験が、京都大学東南アジア研究所フィールド医学の今井必生氏、同教授・松林公蔵氏らにより開始された。「手紙による介入」は1976年に米国で、大うつ病退院患者の自殺予防を目的に初めて行われたが、地域在住の抑うつ状態の高齢者への適用は本試験が初めてだという。Trials誌オンライン版2013年7月9日号で、その試験概要が報告された。 米国で行われた手紙による介入試験は、5年間で24通の手紙を出したというもので、介入後2年間の自殺率が有意に減少し、全体では13年間にわたり介入群の自殺率が低かったことが認められたという。同様の手法を用いた試験はその後、イスラエル、オーストラリアでも行われ(目的は過量服薬または自傷行為防止、計3試験)、介入群に有意な効果が認められたことが報告されていた。 今回、抑うつ状態の高齢者に同介入を試みることについて、研究グループは「高齢者における抑うつはQOLを低下させ、罹病率や死亡率、さらに医療費を増大している。この疾患負荷への対策は、医学的政策と社会的政策が相まったものでなければならないが、既存の研究のほとんどが長期にわたる精神療法をベースとしたもので、なおかつそれらは地域での応用には不適当なものである」ことが背景にあると述べている。手紙による介入に着目した理由としては、「人的および予算的コストがほとんどかからない」ことを挙げている。そして、「本研究で、手紙による介入が有効であることが実証されれば、地域での介入のマイルストーンになるだろう」としている。 本試験の主な概要は以下のとおり。・試験デザインは、プラグマティック非盲検並行群間比較無作為化試験である。・試験地は、高齢化が進んだ地方の町(四国の中央部、人口4,407人、65歳以上高齢者割合38.8%、農業と林業が主産業)とする。・被験者適格条件は、「地域在住の高齢者(65歳以上)」「社会的支援が限られている(食事を一人でとっている)」「うつ症状が認められる(GDS-15得点が4点以上)」とする。・介入の手紙の送付は、月1回、8ヵ月間行われた。送られる手紙は、手書きのメッセージ(被験者の返信があればそれに答えるなど、社会的関係性や自尊心を高める内容)と、時候だよりのプリント(京都からの季節の挨拶やイベントニュースなどを知らせる内容)から構成される。また、返信用封筒(利便性を考慮して宛名、切手貼付をしておくが、返信は任意)も同送する。・主要アウトカムは、GDSスコアの変化で、毎年1回実施される住民健診の際に測定する。・副次アウトカムは、視覚アナログスケールで測定したQOL、自己評価基本ADL、自己評価進行ADLとする。・その他、受容性の検証として被験者は介入を有効と感じたか、ならびに記憶している受け取った手紙の回数、返信した回数も調べる。・被験者数は、70%脱落を想定して180例登録を予定している。関連医療ニュース 抗うつ薬による治療は適切に行われているのか?:京都大学 うつ病治療に「チューインガム」が良い!? 抑うつ症状は、がん罹患有無に関係なく高齢者の死亡に関連

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第16回 診療ガイドライン その2: 「沿う」以上に重要な「適切なガイドライン」作り!!

■今回のテーマのポイント1.ガイドラインに沿った診療は紛争化リスクを低減する2.ガイドラインに沿った診療をしていれば、違法と判断される危険性は低い3.実医療現場に沿った適切なガイドラインの作成が課題である事件の概要患者X(54歳)は、4日前より持続する呼吸困難、動悸を認めたため、平成15年10月29日、Y病院を受診したところ、重症心不全および心房細動と診断され、加療のため同日入院となりました。主治医Aは、同日よりXに対し、心不全の治療として酸素投与と利尿薬、カテコラミンの投与を、心房細動に対しヘパリン、翌日よりワルファリンカリウム(商品名:ワーファリン)(2㎎/日)を開始しました。11月4日には、トイレへ歩行しても呼吸苦を認めなくなりました。11月7日、経食道心エコーを行ったところ、左房内に明らかな血栓を認めなかったものの、モヤモヤエコーが描出されました。明らかな血栓がなかったことから、A医師は、Xに対し、電気的除細動を行ったところ、1度は正常洞調律に戻りましたが、その後、心房性期外収縮が頻発するなど不整脈が出現していました。なお、11月6日のXのPT-INRは1.15でした。Xに対するワーファリン®の投与量は、11月4日より3㎎/日に、9日より4㎎/日と順次増量しましたが、10日退院時のPT-INRは1.2でした。A医師は、心不全および心房細胞が改善したこと、Xが退院を希望したことから、ワーファリン®を4.5㎎/日として、10日に退院としました。しかし、翌11日午後7時半頃、Xは、自宅にて右片麻痺が出現し、救急搬送されたものの、脳塞栓症にて右不全麻痺と失語症が残存することとなりました。これに対し、Xは、1)電気的除細動の適応がなかったこと、2)ワーファリン®による抗凝固療法が十分ではなかったにもかかわらず電気的除細動を行ったこと、3)電気的除細動後、抗凝固療法が不十分であったにもかかわらず退院させたことなどを争い、Y病院に対し、約1億5,200万円の損害賠償を請求しました。なぜそうなったのかは、事件の経過からご覧ください。事件の経過患者X(54歳)は、4日前より持続する呼吸困難、動悸を認めたため、平成15年10月29日、Y病院を受診したところ、重症心不全および心房細動と診断され、加療のため同日入院となりました。胸部単純X線上、著明な肺鬱血を認め、心エコー上、左室駆出率は24%、心嚢液貯留を認めました。主治医Aは、同日よりXに対し、心不全の治療として酸素投与と利尿薬、カテコラミンの投与を、心房細動に対しヘパリン、翌日よりワーファリン®(2㎎/日)を開始しました。11月4日には、トイレへ歩行しても呼吸苦を認めなくなったものの、5日に行われた心エコーでは、左室駆出率21%、左房径50㎜、左室拡張末期径64㎜であり、拡張型心筋症様でした。11月7日、経食道心エコーを行ったところ、左房内に明らかな血栓を認めなかったものの、モヤモヤエコーが描出されました。明らかな血栓がなかったことから、A医師は、Xに対し、電気的除細動を行ったところ、1度は正常洞調律に戻りましたが、その後、心房性期外収縮が頻発するなど不整脈が出現していました。なお、11月6日のXのPT-INRは1.15でした。Xに対するワーファリン®の投与量は、11月4日より3㎎/日に、9日より4㎎/日と順次増量しましたが、10日退院時のPT-INRは1.2でした。A医師は、心不全および心房細胞が改善したこと、Xが退院を希望したことから、ワーファリン®を4.5㎎/日として、10日に退院としました。しかし、翌11日午後7時半頃、Xは、自宅にて右片麻痺が出現し、救急搬送されたものの、脳塞栓症にて右不全麻痺と失語症が残存することとなりました。事件の判決1)電気的除細動の適応がなかったこと平成13年ガイドラインでは、除細動により自覚症状や血行動態の改善が期待される場合には、電気的除細動の適応があるとされていること、同ガイドラインでは、除細動しても再発率が高く、効果が期待できない例として、(1)心房細動の持続が1年以上の慢性心房細動、(2)左房径が5センチメートル以上、(3)過去に除細動歴が2回以上、(4)患者が希望しないという条件が1つでもある場合は、積極的な除細動を勧めていないところ、(1)については判断できないが、(2)については11月5日の左房径は5センチメートルとぎりぎりの基準であったこと、同ガイドラインでは、重症心不全では、心房細動が持続していれば電気的除細動を行うのが望ましいとされていることなどから、平成13年ガイドラインから逸脱していない。・・・・・・(中略)・・・・・・すなわち、前記医学的知見に示した、平成13年ガイドラインによれば、重症心不全の場合、心房細動が持続していれば電気的除細動を行うのが望ましいとされているところ、前記認定のとおり、本件除細動時、原告は重症心不全の状態にあったこと、前記前提事実によれば、原告は、本件入院時から本件除細動時の約10日間心房細動が持続していたこと等が認められることから、平成13年ガイドラインによって照合しても電気的除細動を行う適応があったといえる。2)ワーファリンによる抗凝固療法が十分ではなかったにもかかわらず電気的除細動を行ったこと前記前提となる医学的知見によれば、心房細動の持続が48時間以上となると左房内に血栓が形成されて塞栓症を起こす危険が高まること、心房細動では、除細動後、洞調律に戻った後に一過性の機械的機能不全が生じ、この時期に心房内に血栓が形成され、機械的興奮が回復してから血栓が剥がれて飛んで塞栓症の原因となると考えられていること、日本では、INR2程度を目標とすることとされていること、平成13年ガイドラインによれば、心拍数が毎分99以下の発作性心房細動の項で、心房細動の持続時間が48時間を超える場合には、経食道心エコーにて左房内血栓の有無を確認し、無ければヘパリン投与下で除細動を行うとされていることが認められる。そして、前記認定事実によれば、原告のINRは、10月29日に1.15、11月4日に1.14、6日に1.15だったこと、A医師は、本件除細動前に、原告に対して経食道心エコーを行い、左房・左心耳内に血栓がないことを確認したこと、本件除細動時、ヘパリンを投与していたこと等が認められる。以上を総合すると、D医師が電気的除細動の実施に際し、抗凝固の目標値であるINR2~3でワーファリン2をかなり下回るINR1.5程度で本件除細動を行ったことは塞栓症のリスク管理という点から疑問がないとは言えないが、A医師はガイドラインの指針に従って、経食道心エコーにより、左房・左心耳内に血栓がないことを確認し、ヘパリン投与下で本件除細動を行ったのであり、鑑定意見及び医学的知見に照らすと、INRが2程度になる様に抗凝固療法を行った上で除細動を行うべき注意義務があったとまではいえない。3)電気的除細動後、抗凝固療法が不十分であったにもかかわらず退院させたこと平成13年ガイドラインで、電気的除細動施行後はワーファリンによる抗凝固療法(INR2~3)を4週間継続することが推奨されていること、ヘパリンとワーファリンの併用方法としては、ワーファリンの抗凝固療法の効果が出るまでに約72時間ないし96時間を要するため、INRが治療域に入ってからヘパリンを中止することが勧められていることが認められる。前記前提事実及び前記認定事実によれば、A医師は、原告退院時、ワーファリンを従前の4錠(4ミリグラム)から4.5錠(4.5ミリグラム)に増量した上で退院させていることが認められる。しかし、前記前提事実及び前記認定事実によれば、原告の退院時のINRは1.20と、平成13年ガイドラインの推奨するINRの値及び重大な塞栓症が発症する可能性の高いINR1.6を相当下回っていたこと、鑑定書によれば、原告は心不全を合併していたことから特に、脳塞栓症の発生リスクが高まっていたことが認められる。そして、前記認定事実によれば、原告が本件脳梗塞を発症した後の11月13日のINRは1.21であることが認められ、脳梗塞発症時には抗凝固療法のレベルがINR1.2前後であったことが推認できる。・・・・・・(中略)・・・・・・以上の事実を総合すると、原告の退院時の抗凝固レベルは不十分かつ塞栓症発生の危険が高い状態であり、原告退院後、ワーファリン増量の効果が発現するのになお数日を要する状態であったのであるから、A医師には、入院を継続してヘパリンによる抗凝固療法を中止することなく併用しつつ、ワーファリンの投与量を調節して推奨抗凝固レベルを確保する入院を継続させて原告の抗凝固レベルが推奨レベルになるまでの間、特段の事情がない限り、入院を継続し、原告の状態を観察する注意義務があったといえる。・・・・・・(中略)・・・・・・よって、A医師は原告の抗凝固レベルが推奨レベルになるまでの間、入院を継続し、原告の状態を観察する注意義務を怠ったといえる。(岐阜地判平成21年6月18日)ポイント解説今回も、前回に引き続きガイドラインについて解説いたします。前回解説したように、ガイドラインは、裁判所が医療水準を判断する際の重要な資料であり、裁判所はおおむねガイドラインに沿った判断をしていることから、ガイドラインに反した診療をした場合には、「過失」と判断されやすいといえます。それでは、「ガイドラインに沿った診療をしていた場合には、裁判所はどのような判断をするのか?」が今回のテーマとなります。「事件の判決」で挙げている3つの争点について、裁判所は、いずれも日本循環器学会が作成したガイドラインを引用し、過失判断をしています。そして、1)においては、「平成13年ガイドラインによれば、重症心不全の場合、心房細動が持続していれば電気的除細動を行うのが望ましいとされているところ、前記認定のとおり、本件除細動時、原告は重症心不全の状態にあったこと、前記前提事実によれば、原告は、本件入院時から本件除細動時の約10日間心房細動が持続していたこと等が認められることから、平成13年ガイドラインによって照合しても電気的除細動を行う適応があったといえる」と判示し、過失がなかったとしています。第14回で解説したように、判決は法的三段論法(図1)で書かれているところ、1)における大前提(規範定立)は、「平成13年ガイドラインによれば、重症心不全の場合、心房細動が持続していれば電気的除細動を行うのが望ましいとされている」であり、ガイドライン=規範となっています。そして、ガイドライン=規範に本件事案は反していないこと(小前提)から過失はなかった(結論)としているのです。同様に、2)においても、ガイドラインを規範とした上で、「D医師が電気的除細動の実施に際し、抗凝固の目標値であるINR2~3でワーファリン2をかなり下回るINR1.5程度で本件除細動を行ったことは塞栓症のリスク管理という点から疑問がないとは言えないが、A医師はガイドラインの指針に従って、経食道心エコーにより、左房・左心耳内に血栓がないことを確認し、ヘパリン投与下で本件除細動を行ったのであり、鑑定意見及び医学的知見に照らすと、INRが2程度になる様に抗凝固療法を行った上で除細動を行うべき注意義務があったとまではいえない」と判示しており、ガイドラインに沿っていることを理由にPT-INRが低くともなお適法であるとしています。この判示は、より高い医療水準を設定することが可能な場合においても、ガイドラインにさえ沿っていれば、違法と判断しないとした点で重要であるといえます。2000年代前半において、現場の実情や医療を無視した救済判決が出されたことで、医療界が大きく混乱しました。萎縮医療が生じた原因は、医療に対する要望が急速に高まっていく中、年々、求められる医療水準が上昇していったことです(図2)。すなわち、診療当時に入手可能な判例に沿った診療(診療時のルールに基づく診療)を行ったとしても、それが裁判となり争われ、判決が出されるまでの間に、求められる医療水準が上昇(判決時=将来のルール)してしまい、結果、「違法」と判断されてしまったことから、実医療を行うにあたり自身の行為が適法か否かの判断ができなくなってしまったのです。自らの診療の適法性に対する予見可能性がなくなれば、実医療現場で診療する医療従事者にとっては、結果論で裁かれるのと同じことになりますので、その結果、危険を伴う診療には関与しないという萎縮医療が生じてしまいました。本判決のように、その当時のガイドラインに従っていれば、少なくとも違法とは判断されないということは、現場の医療従事者にとっては非常に重要な意味を持ちます。特にその内容が、裁判官ではなく、その領域の専門家である医師によって定められることは、適切な医療訴訟(敗訴しても医師が納得できる)を目指す上でも価値があるといえます。昨今の判決では、裁判所は、ガイドラインを尊重していること、前回解説したように、ガイドラインに準じた治療であった場合には、そもそも弁護士が事件を受任しないことから紛争化自体を防ぐことができるということで、ガイドラインの重要性は増しています。しかしながら、現在作成されているガイドラインの中には、適法性の基準としてみると疑問といえるものも散見されます。特に、複数の選択肢があり、現場の医師の裁量に任せるべきケースに対し、他の選択肢を否定するかのような表記がなされている場合は、しばしば紛争化の道をたどることとなるので注意が必要です。いずれにせよ、医療の正しさは専門家である医師が決定していくということは、重要なことであり、不幸な時期を経て、ようやく手にしたものです。医療界は、ガイドラインを適法性の判断基準にしないで欲しいという後ろ向きの議論をするのではなく、実医療現場で働く医師が困ることのない適切なガイドラインを作成するよう努力していかなければなりません。裁判例のリンク次のサイトでさらに詳しい裁判の内容がご覧いただけます。(出現順)岐阜地判平成21年6月18日

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募集した質問にエキスパートが答える!骨粗鬆症診療 Q&A (Part.2)

今回、骨粗鬆診療に関連する3つの質問に回答します。「骨折ハイリスク例の見分け方」「薬剤の併用療法」。日頃の悩みがこれで解決。骨折のハイリスク例の見分け方について教えてください。既存椎体骨折、大腿骨近位部骨折の既往は骨折ハイリスク例となります。今年、改訂された「原発性骨粗鬆症診断基準(2012年度改訂版)」と「骨粗鬆症の予防と治療のガイドライン(2011年版)」ではこれらの骨折既往がある場合には骨密度検査をせずに骨粗鬆症と診断し薬物治療を開始することが推奨されています(図)。その他のハイリスク例として、ステロイド性骨粗鬆症があげられます。プレドニン換算で5mg/日を3ヵ月以上投与する患者には、ステロイド開始と同時にビスホスホネート製剤などの薬物治療を開始することが推奨されています。図画像を拡大する併用療法について教えてください。現在の薬剤は単剤治療の効果のエビデンスに基づいているので、原則的には単剤治療を行うべきでしょう。併用にはいろいろなパターンがありますが、複数薬を併用する場合には互いに薬剤効果が相殺されないこと、有害事象がおきないこと、単剤使用の場合よりも明らかに相乗効果が認められることが条件になります。近年、活性型ビタミンD3はビスホスホネート製剤と併用すると、重症患者ではビスホスホネート製剤単独で使用するより骨折予防効果が高いことが報告されています(A-TOP研究)。

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デイサービス介護中に失踪した認知症老人が水死体で発見されたケース

精神最終判決平成13年9月25日 静岡地方裁判所 判決概要失語症をともなう重度の老人性認知症と診断されていた高齢男性。次第に家族の負担が重くなり、主治医から老人介護施設のデイサービス(通所介護)を勧められた。約3週間後、通算6回目となるデイサービスで、職員が目を離したわずか3分間程度の間に、高さ84㎝の窓をよじ登って施設外に脱出、そのまま行方不明となった。施設や家族は懸命な捜索を行ったが、約1ヵ月後、施設からは遠く離れた砂浜に水死体として打ち上げられた。詳細な経過患者情報平成7年(1995)11月27日 失語をともなう重度の老人性認知症と診断された高齢男性経過平成8(1996)年10月31日失語症により身体障害者4級の認定。認知症の程度:妻との意思疎通は可能で、普通の感情はあり、家庭内であれば衣服の着脱や排泄は自力ででき、歩行には問題なく徘徊もなかった。ただし、妻に精神的に依存しており、不在の時に捜して出歩くことがあった。次第に家族は介護の負担が大きく疲労も増してきたため、担当医師に勧められ、老人介護施設のデイサービス(通所介護)を利用することになる。4月30日体験入所。5月2日施設のバスを利用して、週2回のデイサービスを開始。デイサービス中の状況:職員と1対1で精神状態が安定するような状況であれば、職員とも簡単な会話はでき、衣服の着脱などもできたが、多人数でいる場合には緊張して冷や汗をかいたり、ほとんどしゃべれなくなったり、何もできなくなったりした。また、感情的に不安定になり、帰宅したがったり、廊下をうろうろすることがあり、職員もそのような状態を把握していた。5月21日通算6回目のデイサービス。当日の利用者は、男性4名、女性5名の合計9名であり、施設側は2名の職員が担当した。10:15入浴開始。入浴サービスを受けている時は落ち着いており、衣服の着脱や歩行には介助不要であった。10:50入浴を終えて遊戯室の席に戻る。やがてほかの利用者を意識してだんだん落着きがなくなり、席を離れて遊戯室を出て、ほかの男性の靴を持って遊戯室に入ってきたところ、その男性が自分の靴と気づいて注意したため、職員とともに靴を下駄箱に返しにいく。その後遊戯室に戻ったが、何度も玄関へいき、そのつど職員に誘導されて遊戯室に戻った。11:40職員がほかの利用者のトイレ誘導をする時、廊下にいるのをみつけ、遊戯室に戻るように促す。ところが、みかけてから1~2分程度で廊下に戻ったところ、本人の姿はなく、館内を探したが発見することができなかった。失踪時の状況:施設の北側玄関は暗証番号を押さなければ内側からは開かないようになっており、裏口は開けると大きなベルとブザーが鳴る仕組みになっていて、失踪当時、北側玄関および裏口は開いた形跡はなかった。そして、靴箱には本人の靴はなく、1階廊下の窓の網戸(当時窓ガラスは開けられ、サッシ網戸が閉められていた)のうちひとつが開かれたままの状態となっていた。そのため、靴箱から自己の靴を取ってきて、網戸の開いた窓(高さは84cm程度)によじ登り、そこから飛び降りたものと推測された。5月22日09:03翌日から家族は懸命な捜索活動を行う。親戚たちと協力して約150枚の立看板を作ったり、施設に捜索経過を聞きにいったりして必死に捜したが、消息はつかめなかった。6月21日約1ヵ月後、施設から遠く離れた砂浜に死体となって打ち上げられているのを発見された。当事者の主張患者側(原告)の主張もともと重度の老人性認知症により、どのような行動を起こすか予測できない状態であり、とくに失踪直前は不安定な状態であったから、施設側は窓を閉めて施錠し、あるいは行動を注視して、窓から脱出しないようにする義務があったのに怠り、結果的に死亡へとつながった。デイサービスを行う施設であれば、認知症患者などが建物などから外へ出て徘徊しないための防止装置を施すべきであるにもかかわらず、廊下北側の網戸付サッシ窓を廊下面より約84cmに設置し、この窓から外へ出るのを防止する配慮を怠っていたため、施設の建物および設備に瑕疵があったものといえる。病院側(被告)の主張失踪当時の状況は、本人を最後にみかけてから失踪に気づくまでわずか3分程度であった。その時の目撃者はいないが、施設の玄関は施錠されたままの状態で、靴箱に本人の靴はなく、1階廊下西側の窓の網戸(当時窓ガラスは開けられサッシ網戸が閉められていた)が開かれたままの状態となっていることが発見され、ほかの窓の網戸はすべて閉まっていたことから、1階廊下西側の窓から飛び降りた蓋然性が高い。当該施設は法令等に定められた限られた適正な人員の中でデイサービスを実施していたのだから、このような失踪経過に照らしても、施設から失踪したことは不可抗力であって過失ではない。裁判所の判断もともと失語を伴う重度の老人性認知症と診断されている高齢者が単独で施設外に出れば、自力で施設または自宅に戻ることは困難であり、また、人の助けを得ることも難しい。そして、失踪直前には、靴を取ってこようとしたり、廊下でうろうろしているところを施設の職員に目撃されており、職員は施設から出ていくことを予見可能であった。したがって、デイサービス中には行動を十分に注視して、施設から脱出しないようにする義務があった。しかし、デイサービスの担当職員は2名のみであり、1名は入浴介助、ほかの1名はトイレ介助を行っていて、当該患者を注視する者はいなかったため、網戸の開いた窓に登り、そこから飛び降り、そのまま行方不明となった。身体的には健康な認知症老人が、84cm程度の高さの施錠していない窓(84cm程度の高さの窓であればよじ登ることは可能であることは明白)から脱出することは予見可能であった。したがって、施設職員の過失により当該患者が行方不明となり、家族は多大な精神的苦痛を被ったといえる。施設側の主張するように、たしかに2人の職員で、男性4名、女性5名の合計9名の認知症老人を介助し、入浴介助、トイレ介助をするかたわら、当該患者の挙動も注視しなければならないのは過大な負担である。さらに施設側は、法令等に定められた限られた適正な人員の中でデイサービス事業を実施しているので過失はないと主張する。しかし、法令等に定められた人員で定められたサービスを提供するとサービスに従事している者にとっては、たとえ過大な負担となるような場合であっても、サービスに従事している者の注意義務が軽減されるものではない。そして、失踪後の行動については、具体的に示す証拠はなく、施設からはるか離れた砂浜に死体となって打ち上げられるにいたった経緯はまったく不明である。当時の状況は、老人性認知症があるといっても事理弁識能力を喪失していたわけではなく、知った道であれば自力で帰宅することができていたのであり、身体的には健康で問題がなかったのであるから、自らの生命身体に及ぶ危険から身を守る能力まで喪失していたとは認めがたい。おそらく施設から出た後に帰宅しようとしたが、道がわからず、他人とコミュニケーションができないため、家族と連絡がとれないまま放浪していたものと推認できる。そうすると失踪からただちに同人の死を予見できるとは認めがたく、職員の過失と死亡との間の相当因果関係はない。原告(患者)側4,664万円の請求に対し、285万円の判決考察デイサービスに来所していた認知症老人が、わずか3分程度職員が目を離した隙に、施設を抜け出して失踪してしまいました。当時、玄関や裏口から脱出するのは難しかったので、たまたま近くにあった窓をよじ登って外へ飛び降りたと推定されます。その当時、9名の通所者に対して2名の職員が対応しており、それぞれ入浴介助とトイレ誘導を行っていて、けっしていい加減な介護を提供していたわけではありません。したがってわれわれ医療従事者からみれば、まさに不可抗力ともいえる事件ではないかと思います。もし失踪後すみやかに発見されていれば、このような医事紛争へと発展することはないのですが、不幸なことに行方不明となった1ヵ月後、砂浜に水死体として打ち上げられました。これからますます高齢者が増えるにしたがって、同様の紛争事例も増加することが予測されます。これは病院、診療所、介護施設を問わず、高齢者の医療・福祉・保健を担当するものにとっては避けて通ることのできない事態といっても過言ではありません。なぜなら、裁判官が下す判断は、「安全配慮義務」にもとづいて、「予見義務」と「結果回避義務」という2つの基準から過失の有無を推定し、かつ、医療・福祉・保健の担当者に対しては非常にハイレベルの安全配慮を求める傾向があるからです。本件では、失踪直前にそわそわして遊戯室の席に座ろうとしなかったり、他人の靴を持ち出して玄関に行こうとしたところが目撃されていました。とすれば、徘徊して失踪するかもしれないという可能性を事前に察知可能、つまり「予見義務」が発生することになります。さらに、そのような徘徊、失踪の可能性があるのなら、「結果回避義務」をつくさねばならず、具体的には、すべての出入口、窓などを施錠する、あるいは、つきっきりで監視せよ、ということになります。われわれ医療従事者の立場からすると、玄関・裏口などの出入口にバリアを設けておけば十分ではないか、外の空気を入れるために窓も開けられないのか、と考えたくもなります。そして、施設側の主張どおり、厚生労働省が定めた施設基準をきちんとクリアしているのだから、それを上回るような、通所者全員の常時監視は職員への過大な負担となる、といった考え方も十分に首肯できる内容です。ところが裁判では、「法令等に定められた人員で定められたサービスを提供するとサービスに従事している者にとっては、たとえ過大な負担となるような場合であっても、サービスに従事している者の注意義務が軽減されるものではない」という杓子定規な理由で、施設側の事情はすべて却下されました。このような背景があると、高齢者を担当する病院、診療所、介護施設で発生する可能性のある次のような事故の責任は、われわれ医療従事者に求められる可能性がかなり高いということがいえます。徘徊、無断離院、無断離設による不幸な事態(転倒による骨折、交通事故など)暴力および破壊行為による不幸な事態(患者本人のみならず、他人への危害)嚥下障害に伴う誤嚥、窒息よくよく考えると、上記の病態は「疾病」に起因するものであり、けっして医療従事者や介護担当者の責任を追及すべきものではないように思います。つまり、悪いのは患者さんではなく、医療従事者でもなく、まさに「病気」といえるのではないでしょうか。ところが昨今の考え方では、そのような病気を認識したうえで患者さんを預かるのであれば、事故は十分に「予見可能」なので、「結果回避」をしなければけしからん、だから賠償せよ、という考え方となってしまいます。誤解を恐れずにいうと、長生きして大往生をとげるはずのおじいさん、おばあさんが、家で面倒をみるのが難しくなって病院や施設へ入所したのち、高齢者にとっては予測されるような事態が発生して残念な結果となった場合に、医療過誤や注意義務違反の名目で、大往生に加えて賠償金も受け取ることができる、となってしまいます。それに対する明確な解決策を呈示するのは非常に難しいのですが、やはり第一に考えられることは、紛争を水際で防止するために、患者およびその家族とのコミュニケーションを深めておくことがとても大事だと思います。高齢者にとって、歩行が不安定になったり、飲み込みが悪くなったり、認知が障害されるような症状は、なかなか避けて通ることはできません。したがって、事故が発生する前から高齢者特有の病態について家族へは十分に説明し、ご理解をいただいておくことが重要でしょう。まったく説明がない状況で事故が発生すると、家族の受け入れは相当難しいものになります。そして、一般的に家族の期待はわれわれの想像以上ともいえますので、本件のよう場合には不可抗力という言葉はなるべく使わずに、家族の心情を十分にくみ取った対応が望まれます。そして、同様の事例が発生しないように、認知症老人を扱うときには物理的なバリアをできるだけ活用し、入り口や窓はしっかり施錠する、徘徊センサーを利用するなどの対応策をマニュアル化しておくことが望まれます。精神

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統合失調症、双極性障害の家族特性を検証!

 米国・ロザリンドフランクリン医科学大学S. Kristian Hill氏らは、統合失調症と双極性障害の神経心理学的機能障害の特徴について調べた。その結果、両疾患ともに強い認知障害が認められ、それは家族性であること、一親等の認知機能障害は、統合失調症よりも双極性障害においてより緊密にパーソナリティ障害と関連していることなどを報告した。American Journal of Psychiatry誌オンライン版2013年6月17日号の掲載報告。 家族性の神経心理学的機能障害は統合失調症では立証されているが、その他の精神障害においては明らかにされていない。研究グループは、Bipolar and Schizophrenia Network on Intermediate Phenotypes(B-SNIP)の登録者データから、次の4つについて検討した。(1)統合失調症と双極性障害における認知障害の比較、(2)精神病性障害の認知機能障害連続モデルの検証、(3)精神病性障害における認知障害の家族性についての報告、(4)非精神病の家族(クラスターA人格特性を有する人と有さない人)における認知障害の評価であった。 分析の対象は、統合失調症(293例)、双極性障害(227例)、統合失調感情障害(躁型:110例、うつ型:55例)、それら患者の一親等家族(各316例、259例、133例、64例)、および健常対照被験者(295例)であった。全員が統合失調症認知評価尺度(BACS)による神経心理学的評価を受けた。主な結果は以下のとおり。・精神病の家系的発端者の認知障害は、健常対照と比較して、双極性障害(z=-0.77)、統合失調感情障害(躁型:z=-1.08、うつ型:z=-1.25)、統合失調症(z=-1.42)の順で強かった。・BACSサブテストのプロファイルは、疾患全体で同等性を示した。・障害の家族性は、統合失調症と双極性障害で有意であり、両疾患で匹敵していた。・とくに興味深かったのは、クラスターA人格特性を有する家系的発端者の親族では、発端者の疾患にかかわらず神経心理学的障害が同程度であることであった。・統合失調症かつクラスターA人格特性を有さない家系的発端者の非精神病家族において、有意な認知障害がみられた。一方、家系的発端者が双極性障害で、かつ人格特性を有さない場合、その家族で認知障害は示されなかった。関連医療ニュース 統合失調症では前頭葉の血流低下による認知障害が起きている:東京大学 ベンゾジアゼピン系薬物による認知障害、α1GABAA受容体活性が関与の可能性 治療抵抗性の双極性障害、認知機能への影響は?

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急性VTEへのアピキサバン投与、従来レジメンと非劣性で出血リスクは低下/NEJM

 急性静脈血栓塞栓症(VTE)へのアピキサバン(商品名:エリキュース)投与は、従来レジメンによる治療法と比べ、症候性VTE再発やVTE関連の死亡について非劣性が認められ、出血リスクも半減することが示された。イタリア・ペルージャ大学のGiancarlo Agnelli氏らによる、5,000例超を対象に行った無作為化二重盲検試験の結果で、NEJM誌オンライン版2013年7月1日号で発表した。アピキサバンとエノキサパリン+ワルファリンを比較 研究グループは、5,395例の急性静脈血栓塞栓症(VTE)の患者を無作為に2群に分け、一方にはアピキサバン(1日2回、10mgを7日、続いて5mgを6ヵ月)を、もう一方には従来レジメンであるエノキサパリン(商品名:クレキサン)12時間ごと、1mg/kgを5日以上とワルファリン6ヵ月の治療を行い、アピキサバンの非劣性を検証した。 主要評価項目は、症候性VTEの再発またはVTE関連の死亡とした。安全性に関する主要評価項目は、重大出血単独と、重大出血と臨床的に関連する非重大出血の統合イベントとした。重大出血・非重大出血の統合イベントリスク、アピキサバン群が0.44倍 その結果、主要評価項目の発生は、従来治療群は2,635例中71例(2.7%)だったのに対し、アピキサバン群は2,609例中59例(2.3%)だった。相対リスクは0.84(95%信頼区間[CI]:0.60~1.18)、リスク格差(アピキサバン群-従来治療群)は-0.4ポイント(同:-1.3~0.4)だった。事前に規定した95%CI上限値(相対リスク:<1.80、リスク格差<3.5ポイント)をいずれも下回っており、アピキサバン群の従来治療群に対する、症候性VTEの再発またはVTE関連の死亡に関する非劣性が示された。 さらに、安全性の評価について、重大出血と臨床的に関連する非重大出血の統合イベント発生率は、従来治療群の発生率が9.7%だったのに対し、アピキサバン群では4.3%だった(相対リスク:0.44、同:0.36~0.55、p<0.001)。その他の有害事象については両群で同程度だった。

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【ご案内】杉本真樹氏『医療者・研究者のための人を動かすプレゼンテーション』出版キックオフイベントのお知らせ

 最先端医療の研究開発を通じ、プレゼンテーションとコミュニケーションの新たなアプローチを提唱している神戸大学消化器内科の杉本真樹氏が、著書『医療者・研究者のための人を動かすプレゼンテーション』を出版するのを記念し、7月28日、東京都内にて出版キックオフイベント~プレゼンテーション思考でメディカルとメディアの交差点へ~が開催されます。 本イベントでは、元テレビ朝日アナウンサー 吉澤雅子氏による総合司会のもと、杉本氏によるプレゼンテーションに加え、多摩美術大学教授 佐藤達郎氏、エバーノートジャパン会長 外村 仁氏との対談、懇親会などが予定されています。 医療・IT・メディア・TEDなどにご興味のある方、ぜひご参加ください。▼詳細はこちらhttps://www.facebook.com/events/672270836120522/■日時:2013年7月28日(日)15:00~18:00■場所:ラ・フェンテ代官山スタジオ(第一スタジオ)http://www.l-ds.com■参加費:一般5,000円・学生3,000円     (1ドリンク+サプライズドリンク・軽食付き)■特典:サプライズプレゼント■参加方法:当日会場にてお申し込みください。      ※満席の場合は立ち見もご了承ください。■スケジュール: 15:00  開会(14:00 開場) 15:05  佐藤達郎氏プレゼンテーション      『プレゼンは誰でも上手くなれる!~NOをYESにする力~』 15:30  杉本真樹氏プレゼンテーション      『人を動かすプレゼンテーション』 15:55  クロストーク 1       佐藤達郎氏 × 杉本真樹氏 対談      『プレゼンテーション思考:メディカルとメディアの交差点へ』 16:25  クロストーク 2       外村 仁氏 × 杉本真樹氏 対談      『プレゼンテーション思考:メディカルとシリコンバレーの交差点へ』 16:55  祝辞(ガー・レイノルズ氏 ビデオレター) 17:00  懇親会(+サプライズ ? ) 18:00  終了予定■主催・運営:オルタナジャパン株式会社

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医療従事者の針刺し損傷年間5万件を防ぐ!

 7月16日(火)、大手町サンケイプラザにおいて「医療現場における血液・体液曝露の危機的現状と課題 -医療従事者や患者の感染予防に向けて-」と題して、職業感染制御研究会主催によるメディアセミナーが開催された。 セミナーでは、研究会より木村 哲氏 (東京医療保健大学 学長)と3名の演者が、わが国の医療現場における医療従事者の患者からの血液・体液曝露、ウイルス感染の現状について講演を行った。「針刺し予防の日(8月30日)」を制定 はじめに木村 哲氏が、同会の軌跡を説明し、「現在も医療従事者の血液・体液の曝露や針刺し損傷が年間5万件以上報告され、推計でも20万件近くあるとされる。最近では、在宅医療の普及で患者家族の損傷も報告されている。こうした状況の中で、今後も事故防止、感染リスクの低減に努めるべく、活動の一環として8月30日を『針刺し予防の日』に制定し、今後も事故予防の活動を広く推進していきたい」と今回のセミナーの意義を説明した。適切な器具、教育、システムで防ぐ事故と感染 吉川 徹氏(公益財団法人労働科学研究所 副所長)は、「針刺しによる医療従事者の職業感染と患者への院内感染防止の課題と対策」と題して、針刺し予防と対策の概要について講演を行った。 わが国では年間推計5万件以上の針刺し損傷が発生しており、血液媒介病原体への新規感染の約3分の1が医療関連感染であるという。事例として、ある医療機関の看護師が、採血時の針刺し損傷により患者血液からC型肝炎に感染した例が紹介され、「これは医療現場で生じる労働災害であり、医療機関の安全配慮義務も問題となる」と解説が行われた。 肝炎感染対策では、アメリカの取り組みを例に、予防として手袋・ゴーグル着用での曝露予防の徹底、機器使い捨てのシステム化、安全装置付きの機器の開発・使用、ワクチンの開発など数々の取り組みが行われた結果、医療従事者の感染率が低下したことが報告された。また、アメリカ、EUなどの先進国では、感染予防を法制化し、効果を上げていることが紹介された。 今後の課題としては、厚生労働省の院内感染防止の通達(リキャップ禁止、廃棄容器の適切配置、安全機材の活用)の実効性を上げるためにも、「臨床現場への安全機材の普及を推進し、機材の認知、導入、トレーニングを通じて、針刺し損傷やウイルス感染の撲滅を目指していきたい」と抱負を述べた。インスリン注射はリスクの高い処置 満田年宏氏(公立大学法人横浜市立大学附属病院 感染制御部 部長・准教授)は、「国内外の医療環境における針刺し切創の現状と課題」と題し、臨床現場での具体的な課題について講演を行った。 はじめにB/C型肝炎、HIVの患者動向と国内外での感染状況を説明、医療従事者から患者に感染させる場合もあり、医療従事者の接し方についても今後は配慮が必要と問題を提起した。 次に臨床現場では、安全機材の価格が高価なことや安全機材への認識不足などの理由により安全機能付きの鋭利機材(例.予防接種の針、通常の注射器と針、インスリン注入器の針)がまだ普及しない現状が説明された。また、糖尿病患者は、インスリンや透析など頻回に注射器にさらされることで、肝炎への感染リスクが高いことを指摘。これらを踏まえたうえで、全国集計のデータから看護師が患者にインスリン注射をした時の針刺し損傷報告が1年間に6,675件あったとレポートした。インスリンの注射処置は、リスクの高い処置であり、「医療従事者は、より高いレベルで安全配慮に気を配らなければ、肝炎などに感染するリスクが高くなる」と警鐘を鳴らした。(参考動画: 針刺し防止ビデオ) 最後に、わが国おいても早急にワン・アンド・オンリー(1本の針、注射器、1回の使用)の実現、安全機能付き機材使用時の保険点数化による普及促進を目指し、感染制御ができる体制になることを望みたい、と訴えた。入職(実習)前に接種しておきたいHBワクチン 李 宗子氏(神戸大学医学部附属病院 看護部・感染制御部 感染管理認定看護師)は、「針刺し防止のために求められるもの」と題し、医療現場での事故防止、感染防止の具体的な方策について説明した。 わが国の「エイズ拠点病院」の安全機材導入状況について説明し、安全意識が高いとされるこうした施設においても、安全機材の導入は100%ではなく、全国的にみればまだ安全機材への意識付け、導入が低いことを示唆した。 そして、独自の統計で2004年度と2010年度の100床あたりの針刺し損傷件数の平均値比較では、229件 → 69件と全体的に下がっており、医療機関での啓発活動などが功を奏していることが報告された。また、職種別針刺し発生頻度では(2010年度、n=62)、看護師が実数では一番多いものの職種の構成割合で分析した結果、研修医、医師、看護師、臨床検査技師の順で発生頻度が多いことが説明された。なかでも針刺しが多い原因機材は、使い捨て注射器(針)、縫合針、ペン型インスリン注射針などであることがレポートされた。 次に、針刺し損傷後に問題となる肝炎感染について、「入職時に肝炎ワクチンの接種を行うが、効果の発現までインターバルがあり、そのインターバルの間に不慣れゆえに事故が起こっていて、ワクチンの効果が期待できないでいる。入職前にワクチンを接種するなど、医療機関だけでなく社会全体の取り組みが必要」と問題を提起した。 最後に事故防止への取り組みとして、「入職(実習)前のワクチン接種と安全機材を含む医療機材の普及とトレーニングが必要であるが、実効性を持たせるためにも、1日も早く法令などで整備を行ってもらいたい」と述べ、講演を終えた。職業感染制御研究会について 1994 年に設立。医学・医療関係者の職業感染制御に関心を持つ個人と組織で構成され、針刺し損傷に代表される医療従事者の血液感染をより減少させることを目的に幅広く活動中。詳しくはこちら

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桑島巌 「おかしなことだらけの日本の臨床試験のあり方を問い直す」

.case dl dt{width: 8em; font-weight: bold;}.case dl dd{margin-left: 9em;}.case dl{width: auto;}■最新情報上記「CareNet Live 第4回」は2013年7月10日に放送された内容です。翌日11日に京都府立医科大学は「バルサルタン医師主導臨床研究に係る調査報告」を発表しており、放送後に本テーマを巡る状況が大きく変わっています。これを受けてゲストの桑島巌氏と、ノバルティス社それぞれの見解を掲載しておりますので、上記動画と併せて下記もお読みください。データ改ざんが明らかに―KYOTO HEART Study論文(桑島 巌氏 J-CLEAR理事長 東京都健康長寿医療センター顧問)京都府立医科大学によるバルサルタン医師主導臨床研究に係る調査報告発表に対するノバルティス ファーマの見解(ノバルティスファーマ株式会社のサイトへリンクします)

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データ改ざんが明らかに —KYOTO HEART Study論文

7月11日、京都府立医科大学は、KYOTO HEART Studyに関する調査結果を発表した。その結果、主要エンドポイントである心血管疾患系複合エンドポイントの発生数においてカルテ記載データと解析に用いられたものとの間に大きな隔たりがあることが確認された。その概要は以下のとおりである。カルテ閲覧が可能であった223例のうち、1)複合エンドポイント発生数は、解析用データでは48件(21.5%)あったのに対し、カルテ上確認できたのは34例(15.2%)であった。すなわち14件が水増しされていた。この14件は、エンドポイントとしてエンドポイント委員会に届けられていない可能性が高い。2)複合エンドポイント発生において、カルテと解析用データで一致しなかった症例は、223例中34例(15.2%)にみられた。そのうちカルテで「なし」となっていたのに、解析用データで「あり」となっていたのが、バルサルタン群4例、対照群(非ARB群)20例と対照群において大幅に水増しされていた。3)逆に、カルテでは「あり」となっていたのに、解析用データでは「なし」となっていたのは、バルサルタン群9例、対照群1例と、バルサルタン群で大幅に減少させていた。このようなバルサルタン群を大幅に有利とする生データと解析用データの操作、人為的な改ざんと断定せざるをえない。我々は、論文で記載されているバルサルタン群の45%という複合エンドポイント発生の抑制を、PROBE法という枠内での問題として論じてきたが、事実はデータの改ざんという、科学的論議とは次元を全く異にする、極めて悪質な行為によって生じた結果であったことに憤りを覚える。今回の問題に関するノバルティス社のコメントは、企業として極めて無責任な印象はぬぐえない。ノバルティス社は、元社員に対する調査委員会の事情聴取を受けさせ、事実関係を明らかにする社会的義務があることを認識すべきである。エンドポイント委員会委員長はエンドポイントの食い違いに関する説明が必要である。また今回の臨床試験成績を医師向け商用雑誌における広告座談会などで頻回に本試験の結果を宣伝してきた日本高血圧学会幹部およびガイドライン委員長は、今回の調査結果を受けて一般医師に対して説明責任がある。今回の事件は、医師、薬剤師のみならず国民を欺いた罪は大きい。またわが国から発信される臨床試験に対する信頼性を大きく失墜させ、日本の臨床論文が海外ジャーナルに採択されにくくなることが懸念される。信頼性回復のための方策を立てることは急務である。

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糖尿病ケトアシドーシスの輸液管理ミスで死亡したケース

糖尿病・代謝・内分泌最終判決平成15年4月11日 前橋地方裁判所 判決概要25歳、体重130kgの肥満男性。約2週間前から出現した体調不良で入院し、糖尿病ケトアシドーシス(初診時血糖値580mg/dL)と診断されてIVHによる輸液管理が始まった。ところが、IVH挿入から12時間後の深夜に不穏状態となってIVHを自己抜去。自宅で報告を受けた担当医師は「仕方ないでしょう」と看護師に話し、翌日午後に再度挿入を予定した。ところが、挿入直前に心肺停止状態となり、翌日他院へ転送されたが、3日後に多臓器不全で死亡した。詳細な経過患者情報昭和49年9月3日生まれの25歳、体重130kgの肥満男性経過平成12年3月16日胃部不快感と痛みが出現、その後徐々に固形物がのどを通らなくなる。3月28日動悸、呼吸困難、嘔気、嘔吐が出現。3月30日10:30被告病院受診。歩行困難のため車いす使用。ぐったりとして意識も明瞭でなく、顔面蒼白、ろれつが回らず、医師の診察に対してうまく言葉を発することができなかった。血糖値580mg/dL、「脱水、糖尿病ケトアシドーシス、消化管通過障害疑い」と診断、「持続点滴、インスリン投与」を行う必要があり、2週間程度の入院と説明。家族が看護師に対し付添いを申し入れたが、完全看護であるからその必要はないといわれた。11:15左鎖骨下静脈にIVHを挿入して輸液を開始。約12時間で2,000mLの輸液を行う方針で看護師に指示。18:00当直医への申し送りなく担当医師は帰宅。このとき患者には意識障害がみられ、看護師に対し「今日で入院して3日目になるんですけど、管は取ってもらえませんか」などと要領を得ない発言あり。20:30ひっきりなしに水を欲しがり、呼吸促迫が出現。ナースコール頻回。17:20水分摂取時に嘔吐あり。22:45膀胱カテーテル自己抜去。看護師の制止にもかかわらず、IVHも外しかけてベッドのわきに座っていた。22:55IVH自己抜去。不穏状態のため当直医はIVHを再挿入できず。看護師から電話報告を受けた担当医師は、「仕方ないでしょう」と回答。翌日3月31日14:00頃に出勤してからIVHの再挿入を予定し、輸液再開を指示しないまま鎮静目的でハロペリドール(商品名:セレネース)を筋注。3月31日03:00肩で大きく息をし、口を開けたまま舌が奥に入ってしまうような状態で、大きないびきをかいていた。11:00呼吸困難、のどの渇きを訴えたが、意識障害のため自力で水分摂取不能。家族の要望で看護師が末梢血管を確保し、点滴が再開された(約12時間輸液なし)。14:20担当医師が出勤。再びIVHを挿入しようとしたところで呼吸停止、心停止。ただちに気管内挿管して心肺蘇生を行ったところ、5分ほどで心拍は再開した。しかし糖尿病性昏睡による意識障害が持続。15:30膀胱カテーテル留置。17:20家族から無尿を指摘され、フロセミド(同:ラシックス)を投与。その後6時間で尿量は175cc。さらに明け方までの6時間で尿量はわずか20ccであった。4月1日10:25救急車で別の総合病院へ搬送。糖尿病ケトアシドーシスによる糖尿病性昏睡と診断され、急激なアシドーシスや脱水の進行により急性腎不全を発症していた。4月4日19:44多臓器不全により死亡。当事者の主張患者側(原告)の主張糖尿病ケトアシドーシスで脱水状態改善の生理食塩水投与は、14~20mL/kg/hr程度が妥当なので、130kgの体重では1,820~2,600mL/hrの点滴が必要だった。ところが、入院してから47時間の輸液量は、入院注射指示簿によれば合計わずか2,000mLで必要量を大幅に下回った。しかも途中でIVHを外してしまったので、輸液量はさらに少なかったことになる。IVHを自己抜去するような状況であったのに、輸液もせずセレネース®投与を指示した(セレネース®は昏睡状態の患者に禁忌)だけであった。また、家族から無尿を指摘されて利尿薬を用いたが、脱水症状が原因で尿が出なくなっているのに利尿薬を用いた。糖尿病を早期に発見して適切な治療を続ければ、糖尿病患者が健康で長生きできることは公知の事実である。被告病院が適切な治療を施していれば、死亡することはなかった。病院側(被告)の主張入院時の血液検査により糖尿病ケトアシドーシスと診断し、高血糖状態に対する処置としてインスリンを適宜投与した。ただし急激な血糖値の改善を行うと脳浮腫を起こす危険があるので、当面は血糖値300mg/dLを目標とし、消化管通過障害も考えて内視鏡の検査も視野に入れた慎重な診療を行っていた。原告らは脱水治療の初期段階で1,820~2,600mL/hrもの輸液をする必要があると主張するが、そのような大量輸液は不適切で、500~1,000mLを最初の1時間で、その後3~4時間は200~500mL/hrで輸液を行うのが通常である。患者の心機能を考慮すると、体重が平均人の2倍あるから2倍の速度で輸液を行うことができるというものではない。しかもIVHを患者が自己抜去したため適切な治療ができなくなり、当時は不穏状態でIVHの再挿入は不可能であった。このような状況下でIVH挿入をくり返せば、気胸などの合併症が生じる可能性がありかえって危険。セレネース®の筋注を指示したのは不穏状態の鎮静化を目的としたものであり適正である。そもそも入院時に、糖尿病の急性合併症である重度の糖尿病ケトアシドーシスによる昏睡状態であったから、短期の治療では改善できないほどの重篤、手遅れの状態であった。心停止の原因は、高度のアシドーシスに感染が加わり、敗血症性ショックないしエンドトキシンショック、さらには横紋筋融解症を来し、これにより多臓器不全を併発したためと推測される。裁判所の判断平成12年当時の医療水準として各種文献によれば、糖尿病ケトアシドーシスの患者に症状の大幅な改善が認められない限り、通常成人で1日当たり少なくとも5,000mL程度の輸液量が必要であった。ところが本件では、3月30日11:15のIVH挿入から転院した4月1日10:25までの47時間余りで、多くても総輸液量は4,420mLにすぎず、130kgもの肥満を呈していた患者にとって必要輸液量に満たなかった。したがって、輸液量が大幅に不足していたという点で担当医師の判断および処置に誤りがあった。被告らは治療当初に500~1,000mL/hrもの輸液を行うと急性心不全や肺水腫を起こす可能性もあり危険であると主張するが、その程度の輸液を行っても急性心不全や肺水腫を起こす可能性はほとんどないし、実際に治療初日の30日においても輸液を160mL/hr程度しか試みていないのであるから、急性心不全や肺水腫を起こす危険性を考慮に入れても、担当医師の試みた輸液量は明らかに少なかった。さらに看護師からIVHを自己抜去したという電話連絡を受けた時点で、意識障害がみられていて、その原因は糖尿病ケトアシドーシスによるものと判断していたにもかかわらず、「仕方ないでしょう」などといって当直医ないし看護師に対し輸液を再開するよう指示せず、そのまま放置したのは明らかな過失である。これに対し担当医師は、不穏状態の患者にIVH再挿入をくり返せば気胸が生じる可能性があり、かえって危険であったと主張するが、IVHの抜去後セレネース®によって鎮静されていることから、入眠しておとなしくなった時点でIVHを挿入することは可能であった。しかもそのまま放置すれば糖尿病性昏睡や急性腎不全、急性心不全により死亡する危険性があったことから、気胸が生じる可能性を考慮に入れても、IVHによる輸液再開を優先して行うべきであった。本件では入院時から腹痛、嘔気、嘔吐などがみられ、意識が明瞭でないなど、すでに糖尿病性昏睡への予兆が現れていた。一方で入院時の血液生化学検査は血糖値以外ほぼ正常であり、当初は腎機能にも問題はなく、いまだ糖尿病性昏睡の初期症状の段階にとどまっていた。ところが輸液が中断された後で意識レベルが悪化し、やがて呼吸停止、心停止状態となった。そして、転院時には、もはや糖尿病性昏睡の症状は治癒不可能な状態まで悪化し、死亡が避けられない状況にあった。担当医師の輸液に関する過失、とりわけIVHの抜去後看護師らに対しIVHの再挿入を指示せずに放置した過失と死亡との間には明らかな因果関係が認められる。原告側合計8,267万円の請求に対し、合計7,672万円の判決考察夜中に不穏状態となってIVHを自己抜去した患者に対し、どのような指示を出しますでしょうか。今回のケースでは、内科医にとってかなり厳しい判断が下されました。体重が130kgにも及ぶ超肥満男性が、糖尿病・脱水で入院してきて、苦労して鎖骨下静脈穿刺を行い、やっとの思いでIVHを挿入しました。とりあえず輸液の指示を出したところで、ひととおりの診断と治療方針決定は終了し、あとは治療への反応を期待してその日は帰宅しました。ところが当日深夜に看護師から電話があり、「本日入院の患者さんですが、IVHを自己抜去し、当直の先生にお願いしましたが、患者さんが暴れていて挿入できません。どうしましょうか」と連絡がありました。そのような時、深夜にもかかわらずすぐに病院に駆けつけ、鎮静薬を投与したうえで再度IVHを挿入するというような判断はできますでしょうか。このように自分から治療拒否するような患者を前にした場合、「仕方ないでしょう」と考える気持ちは十分に理解できます。こちらが誠意を尽くして血管確保を行い、そのままいけば無事回復するものが、「どうして命綱でもある大事なIVHを抜いてしまうのか!」と考えたくなるのも十分に理解できます。ところが本件では、糖尿病ケトアシドーシスの病態が担当医師の予想以上に悪化していて、結果的には不適切な治療となってしまいました。まず第一に、IVHを自己抜去したという異常行動自体が糖尿病性昏睡の始まりだったにもかかわらず、「せっかく入れたIVHなのに、本当にしょうがない患者だ」と考えて、輸液開始・IVH再挿入を翌日午後まで延期してしまったことが最大の問題点であったと思います。担当医師は翌日午前中にほかの用事があり、午後になるまで出勤できませんでした。そのような特別な事情があれば、とりあえずはIVHではなく末梢の血管を確保するよう当直スタッフに指示してIVH再挿入まで何とか輸液を維持するとか、場合によってはほかの医師に依頼して、早めにIVHを挿入しておくべきだったと考えられます。また、担当医師が不在時のバックアップ体制についても再考が必要でしょう。そして、第二に、そもそもの輸液オーダーが少なすぎ、糖尿病ケトアシドーシスの治療としては不十分であった点は、標準治療から外れているといわれても抗弁するのは難しくなります。「日本糖尿病学会編:糖尿病治療ガイド2000」によれば、糖尿病ケトアシドーシス(インスリン依存状態)の輸液として、「ただちに生理食塩水を1,000mL/hr(14~20mL/kg/hr)の速度で点滴静注を開始」と明記されているので、体重が130kgにも及ぶ肥満男性であった患者に対しては、1時間に500mLのボトルで少なくとも2本は投与すべきであったことになります。ところが本件では、当初の輸液オーダーが少なすぎ、3時間で500mLのボトル1本のペースでした。1時間に500mLの点滴を2本も投与するという輸液量は、かなりのハイペースとなりますので、一般的な感触では「ここまで多くしなくても良いのでは」という印象です。しかし、数々のエビデンスをもとに推奨されている治療ガイドラインで「ただちに生理食塩水を1,000mL/hr(14~20mL/kg/hr)の速度で点滴静注を開始」とされている以上、今回の少なすぎる輸液量では標準から大きく外れていることになります。本件では入院当初から糖尿病性ケトアシドーシス、脱水という診断がついていたのですから、「インスリンによる血糖値管理」と「多めの輸液」という治療方針を立てるのが医学的常識でしょう。しかし、経験的な感覚で治療を行っていると、今回の輸液のように、結果的には最近の知見から外れた治療となってしまう危険性が潜んでいるので注意が必要です。本件でも、ひととおりの処置が終了した後で、治療方針や点滴内容が正しかったのかどうか、成書を参照したり同僚に聞いてみるといった時間的余裕はあったと思われます。最近の傾向として、各種医療行為の結果が思わしくなく、患者本人または家族がその事実を受け入れられないと、ほとんどのケースで紛争へ発展するような印象があります。その場合には、医学書、論文、各種ガイドラインなどの記述をもとに、その時の医療行為が正しかったかどうか細かな検証が行われ、「医師の裁量範囲内」という考え方はなかなか採用されません。そのため、日頃から学会での話題や治療ガイドラインを確認して知識をアップデートしておくことが望まれます。糖尿病・代謝・内分泌

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高齢者の高額医療費、外来サービス充実による医療費削減には限界がある/JAMA

 米国・ハーバード公衆衛生大学院のKaren E. Joynt氏らが、米国高齢者向け公的医療保険メディケアの高額医療費受給者について、予防可能な急性期医療サービスにかかる費用の占める割合を調べたところ、病院救急部門医療費では約4割、入院医療費では約1割と推定された。そのため著者は「外来医療サービスを充実しても、高齢者の高額医療費を削減するには限界があるようだ」と述べている。JAMA誌2013年6月26日号掲載の報告より。メディケア高額受給者上位十分位群を特定し、予防可能な医療費の割合を算出 研究グループは、65歳以上でメディケア出来高払いプランの受給者111万4,469例の医療費について、未然に防ぐことができたと考えられる、病院の救急部門受診や急性期医療を受けるための入院分を調べた。 また、2009~2010年のメディケア支払いデータから、2010年のみ、または2009、2010年共に、高額受給者だった上位十分位群をそれぞれ特定。それら高額受給者について、予防可能な急性期医療サービスにかかるコストの割合を算出した。高額受給者による病院救急部門医療費の41%、入院費用の9.6%が予防可能な医療費 高額受給者上位十分位群は、その他の非高額受給者上位十分位群と比べると、高齢で、男性、黒人が多く、共存症を有する患者が多かった。 2010年の病院救急部門に支払われた総医療費のうち、32.9%が同年の高額受給者上位十分位群によるものだった。こうした高額受給者上位十分位群による病院救急部門医療費のうち、予防可能だったものの割合は41.0%だった。一方で、高額受給者上位十分位群以外の人の同医療費のうち、予防可能だったのは42.6%だった。 また、高額受給者上位十分位群の医療費の、入院医療費全体に占める割合は79.0%で、そのうち予防可能な医療費は9.6%だった。高額受給者上位十分位群以外の人の予防可能な入院医療費は16.8%と推定された。 2009年、2010年共に高額受給者上位十分位群だった人の、病院救急部門の医療費のうち43.3%が、また入院医療費のうち13.5%が、それぞれ予防可能な医療費だった。

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テレモニタリング+薬剤師による管理で血圧改善/JAMA

 患者の自宅からの家庭血圧テレモニタリングと薬剤師による血圧管理を組み合わせた降圧治療の有用性が、米国・HealthPartners Institute for Education and Research(ミネアポリス市)のKaren L Margolis氏らが行ったHyperLink試験で確認された。多くの有効な治療薬が開発されているにもかかわらず、米国では血圧が推奨値以下に管理されている成人高血圧患者は約半数にとどまる。最近の系統的レビューは、血圧の改善には診療体制を再編し、医師以外の医療従事者の主導で降圧治療の調整を行う必要があると結論づけており、遠隔治療と看護師、薬剤師主導のチーム医療を組み合わせた介入の有効性を示唆する研究結果もあるという。JAMA誌2013年7月3日号掲載の報告。多彩な患者に対する効果をクラスター無作為化試験で評価 HyperLink試験は、降圧治療における家庭血圧テレモニタリングと薬剤師による患者管理を組み合わせた介入の有用性を検証するクラスター無作為化試験。ミネアポリス市およびセントポール市の16のプライマリ・ケア施設が、介入を行う群(8施設)または通常治療を行う群(8施設)に無作為に割り付けられた。 患者選択基準は収縮期血圧(SBP)≧140mmHgもしくは拡張期血圧(DBP)≧90mmHgとし、糖尿病や慢性腎臓病を併発する患者(基準値:SBP≧130mmHgもしくはDBP≧80mmHg)も含めた。介入群の患者は自宅で測定した家庭血圧のデータを薬剤師に送信し、薬剤師はデータに基づいて降圧治療の調整を行った。治療期間は1年であった。 主要アウトカムは、治療開始から6ヵ月、12ヵ月時のSBP<140/DBP<90mmHg(糖尿病、慢性腎臓病を併発する場合はSBP<130/DBP<80mmHg)の達成とし、18ヵ月時(治療終了後6ヵ月)の血圧管理、患者満足度などの評価も行った。塩分摂取制限や患者満足度も良好 2009年3月~2011年4月までに介入群に228例、通常治療群には222例が登録された。全体の平均年齢は61.1歳、女性が44.7%、白人が81.8%で、平均SBPは147.9mmHg、平均DBPは84.7mmHgだった。また、このうち糖尿病が19.1%、慢性腎臓病は18.6%にみられた。 主要アウトカムの治療開始6ヵ月時の達成率は、介入群71.8%、通常治療群45.2%(p<0.001)、12ヵ月時はそれぞれ71.2%、52.8%(p=0.005)、18ヵ月時は71.8%、57.1%(p=0.003)であり、いずれも介入群で有意に良好であった。 6ヵ月と12ヵ月の両時点で主要アウトカムが達成された患者は介入群57.2%、通常治療群30.0%(p=0.001)、6ヵ月、12ヵ月、18ヵ月のすべてで達成された患者はそれぞれ50.9%、21.3%(p=0.002)であり、有意な差が認められた。 介入群のSBPは、ベースラインから治療開始6ヵ月時までに21.5mmHg低下し、12ヵ月時には22.5mmHg、18ヵ月時には21.3mmHg低下した。DBPの低下はそれぞれ9.4、9.3、9.3mmHgであった。通常治療群のSBPはそれぞれ10.8、12.9、14.7mmHg低下し、DBPは3.4、4.3、6.4mmHg低下した。 SBPの低下は、いずれの時点でも介入群が有意に良好で、両群間の降圧の差は6ヵ月時が10.7mmHg(p<0.001)、12ヵ月時が9.7mmHg(p<0.001)、18ヵ月時は6.6mmHg(p=0.004)であった。DBPの低下も介入群が良好で、それぞれ6.0(p<0.001)、5.1(p<0.001)、3.0mmHg(p=0.07)の差が認められた。 介入群では、降圧薬の種類の増加、服薬遵守、塩分摂取制限、患者満足度なども良好で、安全性も許容可能なものであった。 著者は、「家庭血圧テレモニタリングと薬剤師による血圧管理を組み合わせた降圧治療は、通常治療に比べ降圧達成率が良好であり、効果は治療終了6ヵ月後も持続していた」とまとめ、「今後、費用対効果や長期効果が確かめられれば、このモデルは高血圧や他の慢性疾患の管理法として普及すると考えられる」と指摘している。

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アルツハイマー病およびその他の認知症疾患が中国社会に及ぼす影響は甚大である(コメンテーター:粟田 主一 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(110)より-

厚生労働省より示される介護保険 要介護認定調査(認知症高齢者の日常生活自立度II以上)に基づく認知症高齢者数推計値は、2010年の段階では280万人(65歳以上の9.5%)であったが、このほど、厚生労働科学研究の調査結果に基づき、439万人(15%)に上方修正された。認知症疾患がわが国の社会に及ぼす影響は、従来の予想をはるかに上回るものである。 しかし、急速な経済発展、平均寿命の延伸、一人っ子政策などによって高齢化が急速に進む中国においては、認知症疾患が社会経済に及ぼす影響はさらに甚大である。このことはインド、ブラジル、南アフリカなどの低~中所得国においてもあてはまる。 本研究は、急速に高齢化が進む中国の今後の保健政策決定の基礎資料を得ることを目的に、1990年~2010年までの中国のアルツハイマー病および他の認知症疾患に関する疫学調査をレビューしたものである。採用基準に適合した89文献、対象者数34万247例(うちアルツハイマー病患者3,543例)のデータを系統的に分析した結果、中国における認知症患者数は 1990年で368万人、2000年で562万人、2010年で919万人、アルツハイマー病患者数は1990年で193万人、2000年で371万人、2010年で569万人、認知症発症率は1,000人・年当たり9.87、アルツハイマー病発症率は同6.25、血管性認知症発症率は同2.42であり、認知症患者の標準化死亡率の中央値は健常者の1.94倍であった。 本研究では、この数値が従来の国家予測をはるかに上回るものであり、政府の迅速かつ効果的な対応が必要であることを強調している。人口14億人、高齢化率9%の中国において、この数値は決して驚くべきものではない。しかし、中国の高齢化率は2050年には約30%に達する。21世紀の前半に、認知症は、確実に、国家を超えた保健医療福祉施策の最大の課題となる。

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赤肉や加工肉の摂取は大腸がん発症率だけではなく発症後の予後にも影響

 赤肉(red meat;牛、羊、豚などの成獣肉)や加工肉の摂取は、確実に大腸がん発症率に相関しているが、大腸がん診断後の予後への影響は不明である。米国がん協会のMarjorie L. McCullough氏らは、がん診断前および診断後の自己申告による赤肉・加工肉の消費量と、転移のない浸潤性大腸がんの男女における全死因死亡率と原因別死亡率との関連を検討した。その結果、転移のない大腸がん患者において、診断前の赤肉や加工肉の摂取量が多い場合、全死因による死亡リスクが高いことが示唆された。Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2013年7月1日号に掲載。 がん予防研究II栄養コホートにおいて、1992~1993年、1999年、2003年のベースライン時の食事とその他の因子について参加者が報告し、ベースライン時から2009年6月30日までに大腸がんと診断された参加者について2010年12月31日まで死亡率を調査した。 主な結果は以下のとおり。・大腸がんと診断された2,315例のうち、追跡期間中に966例が死亡した(うち、大腸がんによる死亡413例、心血管疾患による死亡176例)。・多変量補正Cox比例ハザード回帰モデルでは、大腸がん診断前の赤肉・加工肉の摂取量は、全死因による死亡リスク(最上位四分位vs最下位四分位、相対リスク[RR]:1.29、95%CI:1.05~1.59、傾向のp=0.03)と心血管疾患による死亡リスク(RR:1.63、95%CI: 1.00~2.67、傾向のp=0.08)に相関していたが、大腸がんによる死亡リスクには相関しなかった(RR:1.09、95%CI:0.79~1.51、傾向のp=0.54)。・大腸がん診断後の赤肉・加工肉消費量は死亡率に相関しなかったが、摂取量が診断前後ともに多かった(中央値以上)患者は、診断前後とも少なかった患者に比べて、大腸がんによる死亡リスクが高かった(RR:1.79、95%CI:1.11~2.89)。

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小児および思春期うつ病に対し三環系抗うつ薬の有用性は示されるか

 オーストラリア・トーマスウォーカー病院のPhilip Hazell氏らは、小児および思春期うつ病に対する三環系抗うつ薬の有効性を評価することを目的に、Cochrane reviewの最新版について報告を行った。その結果、小児うつ病の治療に三環系抗うつ薬は有用でなく、思春期患者に対してはその使用を支持するエビデンスはわずかであることを報告した。成人のうつ病に三環系抗うつ薬は有効であるが、小児および思春期患者を含む個別の研究においては疑問の余地が残されており、これら患者集団への処方は一般的ではない。研究グループは、小児および思春期のうつ病に対する三環系抗うつ薬の有効性を正確に評価することは、同世代のうつ病における他の薬剤治療の有効性と比較するうえでも有用であるとして本レビューを行った。Cochrane database of systematic reviewsオンライン版2013年6月18日の掲載報告。 小児および思春期うつ病に対する三環系抗うつ薬の効果をプラセボと比較検討するとともに、これら患者集団で三環系抗うつ薬に対する反応性に相違があるか否かを評価することを目的として、Cochrane reviewを行った。同様の検討は2000年に最初の報告がなされ、以降2002年、2006年、2010年と更新されており、本報告は最新版である。2013年4月12日までのCochrane Depression, Anxiety and Neurosis Review Group's Specialised Register(CCDANCTR)を基に検索を行った。CCDANCTRには、Cochrane Central Register of Controlled Trials(CENTRAL)(すべての年)、EMBASE(1974~)、MEDLINE(1950~)およびPsycINFO(1967~)などの文献データベース中の無作為化対照試験が含まれる。過去に発表されたレビュー文献および未発表の研究について言及している文献についてクロスチェックを行った。また、米国児童思春期精神医学学会(American Academy of Child and Adolescent Psychiatry)の学会誌において関連する抄録にもあたり、1978~1999年の同学会誌を手作業で検索した。そして、これらの中から6~18歳のうつ病患者を対象に、経口三環系抗うつ薬とプラセボを比較検討している無作為化対照試験を選択した。 主な結果は以下のとおり。・14試験の590例を解析対象とした。主要アウトカム(プラセボと比較した有効性)において全般的に相違はみられなかった(リスク比[RR]:1.07、95%信頼区間[CI]:0.91~1.26、9試験、454例)。・うつ症状のわずかな軽減が認められたが(標準平均差[SMD]:-0.32、95%CI:-0.59~-0.04、13試験、533例)、エビデンスの質は低かった。・サブグループ解析では、うつ症状の若干の軽減が思春期患者で認められ(SMD:-0.45、95%CI:-0.83~-0.007)、小児においてはごくわずかな変化にとどまった(SMD:0.15、95%CI:-0.34~0.64)。・三環系抗うつ薬群では、めまい(RR:2.76、95%CI:1.73~4.43、5試験、324例)、起立性低血圧(RR:4.86、95%CI:1.69~13.97、5試験、324例)、振戦(RR:5.43、95%CI:1.64~17.98、4試験、308例)、口渇(RR:3.35、95%CI:1.98~5.64、5試験、324例)がプラセボ群に比べ高頻度に認められたが、その他の有害事象の発現に差はみられなかった。・信頼区間の幅が広かったことから、有害事象に対するエビデンスの質は非常に低いと考えられた。・年齢、治療方法、三環系抗うつ薬の種類、アウトカム指標などに関して試験間で不均質性がみられた。・うつ症状の軽減に対し統計学的な不均質性が確認されたが、寛解または有効率については確認されなかった。・このように、統合データの解析結果については慎重に評価すべきである。・これら試験においては、バイアスのリスク、高い脱落率、評価手段、アウトカムの臨床的意義など、各試験で異なることの多いこれらについて情報が限られており、いずれの試験もバイアスのリスクが低いとは判断しなかった。・以上より、三環系抗うつ薬は小児うつ病の治療に有用ではなく、思春期患者に対してはその使用を支持するわずかなエビデンスがあると言える。関連医療ニュース 抗うつ薬による治療は適切に行われているのか?:京都大学 日本人のうつ病予防に期待?葉酸の摂取量を増やすべき SSRI+非定型抗精神病薬の併用、抗うつ作用増強の可能性が示唆

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アスピリン喘息の患者に対し解熱消炎薬を投与し、アナフィラキシーショックで死亡したケース

自己免疫疾患最終判決判例タイムズ 750号221-232頁、786号221-225頁概要気管支喘息の検査などで大学病院呼吸器内科に入院していた42歳女性。入院中に耳鼻科で鼻茸の手術を受け、術後の鼻部疼痛に対し解熱消炎薬であるジクロフェナクナトリウム(商品名:ボルタレン)2錠が投与された。ところが服用後まもなくアナフィラキシーショックを起こし、呼吸困難から意識障害が進行、10日後に死亡した。詳細な経過患者情報42歳女性経過1979年(39歳)春痰を伴う咳が出現し、時に呼吸困難を伴うようになった。12月10日A病院に1ヵ月入院し、喘息と診断された。1981年夏安静時呼吸困難、および喘鳴が出現し、歩行も困難な状況になることがあった。8月11日再びA病院に入院し、いったんは軽快したがまもなく入院前と同じ症状が出現。1982年2月起坐呼吸が出現し、夜間良眠が得られず。体動による喘鳴も増強。6月近医の紹介により、某大学病院呼吸器内科を受診し、アミノフィリン(同:ネオフィリン)などの投与を受けたが軽快せず。9月7日A病院耳鼻科を受診し、アレルギー性鼻炎を基盤とした重症の慢性副鼻腔炎があり、鼻茸を併発していたため手術が予定された(患者の都合によりキャンセル)。9月27日咽頭炎で発熱したためA病院耳鼻科を受診し、解熱鎮痛薬であるボルタレン®、およびペニシリン系抗菌薬バカンピシリン(同:バカシル、製造中止)の処方を受けた。帰宅後に両薬剤を服用してまもなく、呼吸困難、喘鳴を伴う激しいアナフィラキシー様症状を起こし、救急車でA病院内科に搬送された。入院時にはチアノーゼ、喘鳴を伴っていて、薬剤によるショックであると診断され、ステロイドホルモンなどの投与で症状は軽快した。担当医師は薬物アナフィラキシーと診断し、カルテに「ピリン、ペニシリン禁」と記載した。この時の発作以前には薬物による喘息発作誘発の既往なし。1983年2月3日A病院耳鼻科を再度受診して鼻茸の手術を希望。この時には症状および所見の軽快がみられたので、しばらくアレルギー性鼻炎の治療が行われ、かなり症状は改善した。5月10日気管支喘息の原因検索、およびコントロール目的で、某大学病院呼吸器内科に1ヵ月の予定で入院となった。5月24日不眠の原因が鼻閉によるものではないかと思われたので同院耳鼻科を受診。両側の鼻茸が確認され、右側は完全閉塞、左側にも2~3の鼻茸があり、かなりの閉塞状態であった。そこで鼻閉、およびそれに伴う呼吸困難の改善を目的とした鼻茸切除手術が予定された。5月25日教授回診にて、薬剤の既往症をチェックし、アスピリン喘息の可能性を検討するように指示あり。6月2日15:12~15:24耳鼻科にて両側鼻茸の切除手術施行。15:50病室へ戻る。術後に鼻部の疼痛を訴えた。17:00担当医師が学会で不在であったため、待機していた別の当番医によりボルタレン®2錠が処方された。17:30呼吸困難が出現。喘鳴、および低調性ラ音が聴取されたため起坐位とし、血管確保、およびネオフィリン®の点滴が開始された。17:37喘鳴の増強がみられたため、コハク酸ヒドロコルチゾンナトリウム(同:サクシゾン)、ネオフィリン®の追加投与。17:40突然チアノーゼが出現し気道閉塞状態となる。ただちに気管内挿管を試みたが、筋緊張が強く挿管困難。17:43筋弛緩薬パンクロニウム(同:ミオブロック4mg)静注し再度気管内挿管を試みたが、十分な開口が得られず挿管中止。17:47別の医師に交代して気管内挿管完了。17:49心停止となっため心臓マッサージ開始。エピネフリン(同:ボスミン)心注施行。17:53再度心停止。再びボスミン®を心注したところ、洞調律が回復。血圧も維持されたが、意識は回復せず、まもなく脳死状態へ移行。6月12日07:03死亡確認となる。当事者の主張患者側(原告)の主張1.問診義務違反アスピリン喘息が疑わる状況であり、さらに約8ヵ月前にボルタレン®、バカシル®によるアナフィラキシーショックを起こした既往があったのに、担当医師は問診を改めてやっていないか、きわめて不十分な問い方しかしていない2.過失(履行不完全)問診により発作誘発歴が明らかにならなくても、鼻茸の手術前に解熱鎮痛薬を使用してよい患者かどうか確認するために、スルピリンやアスピリンの吸入誘発試験により確実にアスピリン喘息の診断をつけるべきであった。さらに、疼痛に対しいきなりボルタレン®2錠を使用したことは重大な過失である3.救命救急処置気管内挿管に2度失敗し、挿管完了までに11分もかかったのは重大な過失である病院側(被告)の主張1.問診義務違反アスピリン喘息を疑がって問診し、風邪薬などの解熱鎮痛薬の発作歴について尋ねたが、患者が明確に否定した。過去のアナフィラキシーショックについても、問題となった薬剤服用事実を失念しているか、告知すべき事実と観念していないか、それとも故意に不告知に及んだかのいずれかである2.過失(履行不完全)スルピリン吸入誘発試験によるアスピリン喘息確定診断の可能性、有意性はきわめて少ない。アナフィラキシーショックを予防する方法は、適切な問診による既往症の聴取につきるといって良いが、本件では問診により何ら薬物によるアナフィラキシー反応の回答が得られなかったので、アナフィラキシーショックの発生を予測予防することは不可能であった3.救命救急処置1回で気管内挿管ができなかったからといって、けっして救命救急処置が不適切であったことにはならない裁判所の判断第1審の判断問診義務違反患者が故意に薬剤服用による発作歴があることを秘匿するとは考えられないので、担当医師の質問の趣旨をよく理解できなかったか、あるいは以前の担当医師から受けた説明を思い出せなかったとしか考えられない。適切な質問をすれば、ボルタレン®およびバシカル®の服用によってショックを起こしたことを引き出せたはずであり、問診義務を尽くしたとは認めがたい。このような担当医師の問診義務違反により、アスピリン喘息の可能性を否定され、鼻茸の除去手術後にアスピリン喘息患者には禁忌とされるボルタレン®を処方され、死亡した。第2審の判断第1審の判断を翻し、入院時の問診で主治医が質問を工夫しても、鎮痛薬が禁忌であることを引き出すのは不可能であると判断。しかし、担当医師代行の当番医が、アスピリン喘息とは断定できないもののその疑いが残っていた患者に対してアスピリン喘息ではないと誤った判断を下し、いきなりボルタレン®2錠を投与したのは重大な過失である。両判決とも救命救急処置については判断せず。6,612万円の請求に対し、3,429万円の支払命令考察本件では第1審で、「ボルタレン®、バシカル®によるアナフィラキシーショックの既往歴を聞き出せなかったのは、問診の仕方が悪い」とされました。この患者さんは弁護士の奥さんであり、「患者は知的で聡明な女性であり、医師のいうことを正しく理解できたこと、担当医師との間には信頼関係が十分にあった」と判決文にまで書かれています。しかも、この事件が起きたのは大学病院であり、教授回診で「薬剤の既往症をチェックし、アスピリン喘息の可能性を検討するように」と具体的な指示までありましたので、おそらく担当医師はきちんと問診をしていたと思われます。にもかかわらず、過去にボルタレン®およびバシカル®でひどい目にあって入院までしたことを、なぜ患者が申告しなかったのか少々理解に苦しみますし、「既往歴を聞き出せなかったのは、問診の仕方が悪い」などという判決が下るのも、ひどく偏った判断ではないかと思います。もっとも、第2審ではきちんとその点を訂正し、「担当医師の問診に不適切な点があったとは認められない」とされました。当然といえば当然の結果なのですが、こうも司法の判断にぶれがあると、複雑な思いがします。結局、本件はアスピリン喘息が「心配される」患者に対し、安易にボルタレン®を使ったことが過失とされました。ボルタレン®やロキソプロフェンナトリウム(同:ロキソニン)といった非ステロイド抗炎症薬は、日常臨床で使用される頻度の高い薬剤だと思います。そして、今回のようなアナフィラキシーショックに遭遇することは滅多にないと思いますので、われわれ医師も感冒や頭痛の患者さんに対し気楽に処方してしまうのではないかと思います。過去に薬剤アレルギーがないことを確認し、そのことをカルテにきちんと記載しておけば問題にはなりにくいと思いますが、「喘息」の既往症がある患者さんの場合には要注意だと思います。アスピリン喘息の頻度は成人喘息の約10%といわれていますが、喘息患者の10人に1人は今回のような事態に発展する可能性があることを認識し、抗炎症薬はなるべく使用しないようにするか、処方するにしてもボルタレン®やロキソニン®のような酸性薬ではなく、塩基性非ステロイド抗炎症薬を検討しなければなりません。自己免疫疾患

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