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Vol. 2 No. 2 transcatheter aortic valve implantation(TAVI)現状と将来への展望

林田 健太郎 氏慶應義塾大学医学部循環器内科はじめに経カテーテル的大動脈弁留置術 (transcatheter aortic valve implantation:TAVI)は、周術期リスクが高く外科的大動脈弁置換術(surgical aortic valve replacement:SAVR)の適応とならない患者群、もしくは高リスクな患者群に対して、より低侵襲な治療として開発されてきた。2002年にフランスのRouen大学循環器内科のCribier教授によって第1例が施行されて以後1)、2007年にヨーロッパでCEマーク取得、2011年にはEdwards社のSapien valveがアメリカでFDA認可を受けている。現在までにヨーロッパ、アメリカを中心に世界中で7万例以上が治療されており、世界的に急速に進歩、普及しつつある治療法である。現在ヨーロッパでは2種類のTAVIデバイスが商業的に使用可能である(本誌p.16図を参照)。フランスでは2010年にすでにTAVIの保険償還がされており、現在では33施設がTAVI施行施設として認可を受けている。またTAVI症例はnational registryに全例登録が義務づけられている2)。TAVIにおける周術期死亡率の低下TAVIの歴史は合併症の歴史であるといっても過言ではない。2006、2007年のTAVIプログラム開始当初は多くの重篤な合併症を認め、低侵襲な経大腿動脈TAV(I TF -TAVI)においても20%を超える30日死亡率を認めていた。しかし、年月とともに術者・施設としての経験の増加、知見の蓄積、さらにデバイスの改良により徐々に合併症発生率は低下し、それに伴って死亡率は低下していった(図1)。特に最近では、transfemoral approachにおいては30日死亡率が5%以下まで低下しており、この数字が今後日本におけるTAVI導入においてわれわれが目指していく基準になっていくであろう。それではどのように合併症を減らしていくのか?図1 30日死亡率の推移(Institut Cardiovasculaire Paris Sudにおけるデータ)画像を拡大する2006年のTAVI開始当初は非常に高い周術期死亡率であったが、その後経験の蓄積やデバイスの改良により、現在では5%程度まで低下している。欧米のデータをいかに日本の患者さんに応用するか?私がヨーロッパにいる間は、日本の患者さんに対していかに安全にTAVIを導入するかということを常に考えて研究を行っていた。フランスにいながらにして体の小さな日本人におけるTAV Iの結果をいかにsimulateするかというのが課題であったが、われわれは体表面積(BSA)をフランスにおけるTAVIコホートの中央値である1.75をcutpointとし、small body size群とlarge body size群に分けて比較を行った(表1)。するとsmall body size群では有意に大動脈弁輪径が小さく(21.3±1.58 vs. 22.8±1.86mm, p< 0.01)、大腿動脈径も小さかった(7.59±1.06 vs. 8.29±1.34mm, p<0.01)。それに伴って弁輪破裂も増加する傾向があり(2.3 vs. 0.5%, p=0.11)、重大な血管合併症(major vascular complication)も増加した(13.0% vs. 4.3%, p<0.01)3)。われわれはsmall body size群で十分日本人のデータを代表できるのではと考えていたが、2012年の日本循環器学会で発表された日本人初のEdwards Sapien XTを用いたTAVIのtrialであるPREVAIL Japanのデータを見ると、われわれの想像をはるかに超え、日本人の平均BSAは1.4±0.14m2であり、われわれのコホートにおけるsmall body size群(1.59±0.11m2)よりさらに小さく、それに伴って大動脈弁輪径も小さかった(表1)。幸いPREVAIL Japanでは弁輪破裂は1例のみに認められ、また重大な血管合併症は6.3%であった。今後日本においてTAVIが普及していく過程において、体格の小さい日本人特有の合併症を予防することがたいへん重要であると考えられる。ではどのようにこのような合併症を低減していくことができるのか?表1 small body size群とlarge body size群の比較画像を拡大する大動脈弁輪径の計測の重要性まず弁輪破裂(もしくはdevice landing zone rupture)は心タンポナーデにより瞬時に血行動態の破綻をきたすため、致死率の高いたいへん重篤な合併症である(図2)4, 5)。Sapien valveでより頻度が高いが、CoreValveでも理論上は前拡張や後拡張時に起きうるため注意が必要である。TAVIにおいては外科手術と異なり直接sizerをあてて計測することができないため、事前に画像診断による詳細な弁輪径やバルサルバ洞径の計測、石灰化の評価とそれに最適なデバイス選択が必要である。この合併症を恐れるがあまり小さめのサイズの弁を選択すると、逆にparavalvular leakが生じやすくなり、30日死亡率6)、1年死亡率7)を増加させることが報告されている。さらには近年、中等度のみならず軽度(mild)のparavalvular leakも予後を悪化させる可能性が示唆されており8)、われわれも同様の結果を得ている(本誌p.19図を参照)9)。弁輪の正確な計測には、その構造の理解が重要である。弁輪ははっきりとした構造物ではなく、3枚の弁尖の最下部からなる平面における“virtual ring”で構成される部分であり(本誌p.19図を参照)、正円ではなく楕円であることが知られている(図3左)。この3次元構造の把握には2Dエコーに比べCTが適しているという報告があり10-12)、エコーに比べTAVIにおける後拡張の頻度を低下させたり13)、弁周囲逆流を減少させたりする14, 15)ことが報告されている。われわれもCT画像における弁輪面積より算出される幾何平均を平均弁輪径として使用し(図3右)、弁逆流量の低下を達成している16)。3Dエコーは3次元構造の把握には優れているものの、低い解像度、石灰化などによるアーティファクトの影響が除外しきれないため、現在のところ弁輪計測のモダリティとしてはガイドライン上勧められていないが17)、造影剤を必要としないなどのメリットもあり、今後の発展が期待される。図2 Sapien XT valve 留置後弁輪破裂を認めた1例画像を拡大する急速に進行する心タンポナーデに対し心嚢穿刺を行い、救命しえた1例。大動脈造影上左冠動脈主幹部の直下にcontrast protrusionを認め、弁輪破裂と考えられた。図3 CTにおける弁輪径の計測画像を拡大する大動脈弁輪は、ほとんどの症例において正円ではなく楕円である。この症例の場合、短径24.2mm、長径31.7mm、長径弁輪面積より幾何平均(geometric mean)は26.7mmと算出される。血管アクセスの評価TAVIにおいてmajor vascular complicationは周術期死亡リスクを増加させることが示唆されており18, 19)、特に骨動脈破裂は急速に出血性ショックをきたし致命的であるため、血管アクセスの評価もたいへん重要である。ほとんどの施設ではより低侵襲な大腿動脈アプローチ(transfemoral approach)が第一選択とされるが、腸骨大腿動脈アクセスの血管径や性状が適さない、もしくは大動脈にmobile plaqueが認められるなどの要因があると、その他のalternative approach、例えば心尖部アプローチ(transapical approach)、鎖骨下アプローチ(transsubclavian approach)などが適応となる。われわれはmajor vascular complicationの予測因子として、経験、大腿動脈の石灰化とともにシース外径と大腿動脈内径の比(sheath to femoral artery ratio:SFAR)を同定しており(本誌p.20表を参照)19)、そのSFARのcut pointは1.05であった(本誌p.20図を参照)。大腿動脈が石灰化していない場合は1.1であり、石灰化があると1.0まで低下していた。つまり、大腿動脈の石灰化がなければシース外径は大腿動脈内径より少し大きくなっても問題ないが、石灰化がある場合は、シース外径は大腿動脈内径を超えないほうがよいと考えられる。後にバンクーバーからも同様の報告がされており、われわれの知見を裏づけている20)。heart team approachの重要性以上、弁輪径の評価と血管アクセスなどの患者スクリーニングについて述べてきたが、いずれも画像診断が主であり、imaging specialistと働くことはたいへん重要である。またTAVIにおいては、デバイス自体がいまだ発展途上でサイズも大きく(18Frほど)、また治療対象となる患者群が非常に高齢・高リスクであることから、一度合併症が生じるとたいへん重篤になりやすく致命的であるため、PCI以上に外科医のバックアップが重要かつ必須である。特にearly experienceでは重篤な合併症が起きやすいため、経験の豊富な術者の指導のもと、チームとしての経験を重ねていくべきである。またエコー、CTなどイメージング専門医、外科医、麻酔科医との緊密な連携に基づいた集学的な“heart team approach”がたいへん重要である。TAVIのSAVR件数に与える影響2004年から2012年までの、MassyにおけるSAVRとTAVI件数の推移を図4に示す。TAVI導入以前は年間SAVRが180例ほどであったが、2006年に導入後急速に増加し、2011年には350例以上と倍増している。このように、TAVIは従来の外科によるSAVRを脅かすものではなく、今まで治療できなかった患者群が治療対象となる、まさに内科・外科両者にとって“win-win”の手技である。またSAVRに対するTAVI件数の割合も増加しており、2011年にはSAVRの半分ほどに達している。現時点では弁の耐用年数などまだ明らかになっていない点があるものの、TAVIの重要性は急激に増加している。TAVIは内科・外科が“heart team”として共同してあたる手技であり、冠動脈疾患の歴史を繰り返すことなく、われわれの手で両者にとっての共存の場にしていくことが重要であろう。図4 Institut Cardiovasculaire Paris SudにおけるTAVI導入後の外科的大動脈弁置換術とTAVI症例数の推移画像を拡大するTAVI導入後、外科的大動脈弁置換術の症例数は倍増している。将来への展望筆者が2009年から3年間留学していたフランスのMassyという町にあるInstitut Cardiovasculaire Paris Sud(ICPS)という心臓血管センターでは2006年よりTAVIを開始している。当初は22-24Frの大口径シースを用いた大腿動脈アクセスに対し外科的なcutdownを用いていたが、2008年からは穿刺と止血デバイス(Prostar XL)を用いた“true percutaneous approach”に完全移行している(図5)。 また2009年からは挿管せず全例局所麻酔と軽いセデーションのみでTF -TAVIを行っており、現在は“true percutaneous approach”と局所麻酔の両方を併せた“Minimally invasive TF -TAVI”として、良好な成績を収めている21)。このように局所麻酔とセデーションを用い、穿刺と止血デバイスを用いた“true percutaneous approach”は、経験を積めば安全で、高齢でリスクの高い大動脈弁狭窄症患者に対し、非常に低侵襲に大動脈弁を留置することができるたいへん有用な方法である。離床も早く、合併症がない場合の平均入院期間は1週間以下であるため、従来のSAVRに比べ大幅に入院期間を短縮でき、ADLを損なう可能性も低い。手技自体も、穿刺、止血デバイスを用いることから合併症がなければ1時間以内で終了し、通常の冠動脈インターベンション(PCI)のイメージと近くなっている。しかし、経験の初期は全TAVIチームメンバーのlearning curveを早く上げることが先決であり、無理をして最初から導入する必要はないが、次世代TAVIデバイスであるEdwards Sapien 3は14Frシースであるため、この方法が将来主流となってくる可能性が高い。筆者が2010年に参加したスイスで行われているCoreValveのtraining courseでは止血デバイスの使用法が講習に含まれており、特に超高齢者におけるメリットは大きく、今後日本でもわれわれが目指していくべき方向である。今年2013年でfirst in man1)からいまだ11年というたいへん新しい手技であり、弁の耐久性など長期成績が未確定であるものの、今後急速に普及しうる手技である。日本においてはEdwards Lifesciences社のSapien XTを用いたPREVAIL Japan trialが終了し、早ければ2013年度中にも同社のTAVIデバイスの保険償還が見込まれている。また現在、Medtronic社のCoreValveも治験が終了しようとしており、高リスクな高齢者に対するより低侵襲な大動脈弁治療のために、早期に使用可能となることが望まれる。現在ヨーロッパを中心とした海外では、Sapien、CoreValveなどの第1世代デバイスの弱点を改良した、もしくはまったく新しいコンセプトの第2世代デバイスが続々と誕生し、使用されつつある。いくつかのデバイスはすでにCEマークを取得しているか、もしくはCEマーク取得のためのトライアル中であり、今後急速に発展しうるたいへん楽しみな分野である。図5 18Fr大口径シースに対する止血デバイス(Prostar XL)を用いたtrue percutaneous approach画像を拡大するA:造影ガイド下に総大腿動脈を穿刺する。B:シース挿入前に止血デバイス(Prostar XL)を用い、糸をかける(preclosure technique)。C:弁留置後シース抜去と同時にknotを締めていく。D:非常に小さな傷しか残らず終了。おわりに本稿ではTAVIの現状と将来への展望について概説した。TAVI適応となるような高リスクの患者群ではminor mistakeがmajor problemとなりうるため、綿密なスクリーニングと経験のあるインターベンション専門医による丁寧な手技による合併症の予防がたいへん重要である。また、ヨーロッパではすでに2007年にCEマークが取得され、多くの症例が治療されているが、いまだこの分野の知識の発展は激しく日進月歩であり、解明すべき点が多く残っている。日本におけるTAVI導入はデバイスラグの問題もあり遅れているが、すでに世界で得られている知見を生かし、また日本人特有の繊細なスクリーニング、手技により必ず世界に誇る成績を発信し、リードすることができると確信している。そのためには“Team Japan”として一丸となってデータを発信していくための準備が必要であろう。文献1)Cribier A et al. Percutaneous transcatheter implantation of an aortic valve prosthesis for calcific aortic stenosis: first human case description. Circulation 2002; 106: 3006-3008. 2)Gilard M et al. Registry of transcatheter aorticvalve implantation in high-risk patients. N Engl J Med 2012; 366: 1705-1715. 3)Watanabe Y et al. Transcatheter aortic valve implantation in patients with small body size. Cathether Cardiovasc Interv (in press). 4)Pasic M et al. Rupture of the device landing zone during transcatheter aortic valve implantation: a life-threatening but treatable complication. Circ Cardiovasc Interv 2012; 5: 424-432. 5)Hayashida K et al. Successful management of annulus rupture in transcatheter aortic valve implantation. JACC Cardiovasc Interv 2013; 6: 90-91. 6)Abdel-Wahab M et al. Aortic regurgitation after transcatheter aortic valve implantation: incidence and early outcome. Results from the German transcatheter aortic valve interventions registry. Heart 2011; 97: 899-906. 7)Tamburino C et al. Incidence and predictors of early and late mortality after transcatheter aortic valve implantation in 663 patients with severe aortic stenosis. Circulation 2011; 123: 299-308. 8)Kodali SK et al. Two-year outcomes after transcatheter or surgical aortic-valve replacement. N En gl J Me d 2 012; 36 6: 1686-1695. 9)Hayashida K et al. Impact of post-procedural aortic regurgitation on mortality after transcatheter aortic valve implantation. JACC Cardiovasc Interv 2012 (in press). 10)Schultz CJ et al. Cardiac CT: necessary for precise sizing for transcatheter aortic implantation. EuroIntervention 2010; 6 Suppl G: G6-G13. 11)Messika-Zeitoun D et al. Multimodal assessment of the aortic annulus diameter: implications for transcatheter aortic valve implantation. J Am Coll Cardiol 2010; 55: 186-194. 12)Piazza N et al. Anatomy of the aortic valvar complex and its implications for transcatheter implantation of the aortic valve. Circ Cardiovasc Interv 2008; 1: 74-81. 13)Schultz C et al. Aortic annulus dimensions and leaflet calcification from contrast MSCT predict the need for balloon post-dilatation after TAVI with the Medtronic CoreValve prosthesis. EuroIntervention 2011; 7: 564-572. 14)Willson AB et al. 3-Dimensional aortic annular assessment by multidetector computed tomography predicts moderate or severe paravalvular regurgitation after transcatheter aortic valve replacement a multicenter retrospective analysis. J Am Coll Cardiol 2012; 59: 1287-1294. 15)Jilaihawi H et al. Cross-sectional computed tomographic assessment improves accuracy of aortic annular sizing for transcatheter aortic valve replacement and reduces the incidence of paravalvular aortic regurgitation. J Am Coll Cardiol 2012; 59: 1275-1286. 16)Hayashida K et al. Impact of CT-guided valve sizing on post-procedural aortic regurgitation in transcatheter aortic valve implantation. EuroIntervention 2012; 8: 546-555. 17)Zamorano JL et al. EAE/ASE recommendations for the use of echocardiography in new transcatheter interventions for valvular heart disease. Eur Heart J 2011; 32: 2189-2214. 18)Genereux P et al. Vascular complications after transcatheter aortic valve replacement: insights from the PARTNER (Placement of AoRTic TraNscathetER Valve) trial. J Am Coll Cardiol 2012; 60: 1043-1052. 19)Hayashida K et al. Transfemoral aortic valve implantation: new criteria to predict vascular complications. J Am Coll Cardiol Intv 2011; 4: 851-858. 20)Toggweiler S et al. Percutaneous aortic valve replacement: vascular outcomes with a fully percutaneous procedure. J Am Coll Cardiol 2012; 59: 113-118. 21)Hayashida K et al. True percutaneous approach for transfemoral aortic valve implantation using the Prostar XL device: impact of learning curve on vascular complications. JACC Cardiovasc Interv 2012; 5: 207-214.

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アジア発、ロタウイルスワクチン定期接種化へのエビデンス

 台湾・国家衛生研究院のWan-Chi Chang氏らは、新生児への2種のロタウイルスワクチン(ロタリックス、ロタテック)接種の有効性について、定期接種導入検討のための情報提供を目的とした症例対照研究を行った。その結果、両ワクチンとも重症急性ロタウイルス胃腸炎に対してすぐれた予防効果を示し、3歳未満時の急性胃腸炎による入院コストを大幅に減らす可能性があることなどを報告した。著者は、「今回の報告は、台湾およびその他アジア諸国の政策立案者に知らせるべきものであり、ロタウイルスワクチン定期接種化に向けた意思決定に役立つものである」とまとめている。Pediatric Infectious Disease Journal誌2014年3月号の掲載報告。 台湾では現在、ロタウイルスワクチンは、ロタリックスとロタテックの2種類が上市されているが定期接種の推奨はされていない。研究グループは、定期接種導入の有益性について政策立案者に情報提供をすることを目的に、台湾新生児における同ワクチンの重症急性ロタウイルス胃腸炎に対する有効性を調べた。 2009年5月~2011年4月に、台湾国内3地点(北・中・南部)の病院サーベイランスに基づく症例対照研究を行った。ロタウイルス胃腸炎であることが検査確認された生後8~35ヵ月齢の入院患児を症例とし、年齢を一致させた対照と、ワクチン接種歴について予防接種カードまたは入院記録により確認し、ワクチンの有効性を算出((1-ワクチン接種オッズ比)×100%)した。 おもな結果は以下のとおり。・2年の間に急性胃腸炎で入院した8~35ヵ月齢児は1,280例であった。そのうち、ロタウイルス陽性であった児(症例群)は184例(14%)であった。残る1,096例のロタウイル陰性児群と、さらに1,183例の非急性胃腸炎患児群から、症例群と年齢を一致させた対照群(904例、909例)を特定し評価を行った。・ロタウイルス陽性群184例のうち、ロタウイルスワクチン接種児は3例(1.6%)で、いずれもロタリックス2回接種例であった。・また、ロタリックス2回接種例は、ロタウイルス陰性児群では14.9%、非急性胃腸炎患児群では18.9%であった。ロタウイルス胃腸炎による入院に対する両群におけるロタリックス2回接種の推定有効率は90.4%(95%CI:70.3~98.1%)、92.5%(同:77.1~98.5%)であった。・ロタテック3回接種例は、ロタウイルス陰性児群では10.6%、非急性胃腸炎患児群では12.0%であった。ロタウイルス胃腸炎による入院に対する両群におけるロタテック3回接種の推定有効率は96.8%(同:82.3~100.0%)、97.1%(同:84.0~100.0%)であった。

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薬剤の副作用で死亡し、説明不足を問われたケース

癌・腫瘍最終判決判例時報 1591号44-54頁概要脳腫瘍の周術期に抗けいれん薬の投与を受けた女性。退院後しばらくしてから全身に掻痒感を伴う皮疹が出現し、次第に悪化、手術から34日後に薬剤アレルギー、肝機能障害と診断され、抗けいれん薬をはじめとする薬剤が中止された。ところがやがて高熱を発するようになり、中毒疹が出現、中毒性表皮融解壊死症(TEN)と診断されて、手術から46日後に死亡した。裁判では、退院時の「何かあればいらっしゃい」という担当医師の説明が不十分とされ、情報提供義務違反と判断された。詳細な経過経過1988年10月18日右前頭部の髄膜腫手術目的でA大学病院脳神経外科に入院。約20年前の手術時に、薬剤によると思われる皮疹の既往症について申告していた。10月22日抗けいれん薬としてバルプロ酸ナトリウム(商品名:デパケン)開始。10月27日腫瘍摘出手術。10月28日抗けいれん薬をフェニトイン(同:アレビアチン)、フェノバルビタール(同:フェノバール)に変更。11月15日便秘に対しフェノバリン(同:ラキサトール)処方。11月16日術後経過は良好で退院。その後は近医B病院の通院を希望したため、「変わったことがあれば、紹介先のB病院で、すぐみてもらってください」と指示。11月20日頃全身に掻痒感を伴う発疹が出現。11月30日B病院で薬剤アレルギー、肝機能障害の診断を受け、フェニトイン、フェノバルビタール、フェノバリンは中止し、バルプロ酸ナトリウムに変更された。12月2日A大学病院に全身掻痒感を伴う発疹を主訴に外来受診、担当医はフェニトインによる薬剤性湿疹と判断。12月3日高熱を発し、緊急入院。この時点で抗けいれん薬(バルプロ酸ナトリウム)は中止。12月5日次第に症状は悪化し、中毒疹が出現。12月8日中毒性表皮融解壊死症(TEN)と診断され、パルス療法などが行われたが、12月12日全身状態が悪化して心不全により死亡した。当事者の主張患者側(原告)の主張薬剤アレルギー体質であった患者には、より副作用の弱いバルプロ酸ナトリウムを投与するべきであったのに、劇薬・要指示薬であり副作用発生の可能性の強いフェノバルビタール、フェニトインを投与したのは注意義務違反である。1.担当医師は薬剤の副作用に関する説明をまったくしなかったのは説明義務違反である2.退院に際し、「何かあればいらっしゃい」では不適切で、「皮疹がでた場合には連絡するように」あるいは「薬には効果がある反面、副作用というものがあるからたとえば皮膚に斑点がでてきたとか、かゆみとか何か変わったことが起きたら医師に知らせなさい」と説明するべきであり、情報提供義務違反があった病院側(被告)の主張けいれん発作を起こしやすい髄膜腫の術後には、抗けいれん薬の投与は不可欠であり、フェノバルビタールとフェニトインの併用は現在もっとも用いられる投与方法であり適正なものであった。1.担当医師は発症する確率のきわめて低い副作用のことまで説明する義務はない2.患者に不安を与えないように、しかもすべての副作用を漏らさず説明することは困難きわまりないことである。とくに副作用を重視しての説明は、かえって治療効果上好ましくない結果を招来することがあるので、情報提供義務違反とはいえない裁判所の判断1.フェニトイン、フェノバルビタールを投与したことおよびその量、両剤の併用について注意義務違反を認めることは困難である2.フェニトインなどの投与の際に副作用についての説明をしていたからといって、ほかの抗けいれん薬を選択してTENの発症を防ぐことができたということはできないので、説明義務違反とはいえない3.退院に際しては、単に「何かあったらいらっしゃい」という一般的な注意だけでなく、「けいれん発作を抑える薬を出しているが、ごくまれには副作用による皮膚の病気が起こることもあるので、かゆみや発疹があった時にはすぐに連絡するように」という程度の具体的な注意を与えて、早期に異常を発見し、投薬を中止することができるよう指導する情報提供義務があったのに、これを怠った過失がある原告側合計2,200万円の請求に対し、330万円の判決考察このケースは第1審で原告敗訴、すなわち病院側には過失なしと判定されましたが、第2審では「薬剤の副作用に関する説明不足は過失である」と厳しく判断されました。そして、薬剤の効能書に「TEN」発症についての情報が記載されている限り、「医師に対し一般的に知らされている事実」と認定され、たとえ発症の可能性はきわめてまれであっても、十分に予見可能な副作用と判断されることになります。ちなみに病院側は、「一般的に薬剤を投与した場合の薬疹発症率は約1.1%、薬疹を発症した患者のうちTENを発症するのは約0.2%のため、薬剤を投与してTENを発症する確率はわずか0.0022%にすぎない」ため、「そのようなまれな副作用まで説明する義務はない」と主張しましたが、裁判官には受け入れられませんでした。実際の臨床では、このようなごくまれな副作用まできちんと説明する時間的余裕はほとんどないと思います。そして、そのような細かな危険にまでいちいち言及すると、「そんなに怖いことが起きるのなら、この薬は飲みたくありません」という患者さんも少なくないのではないかと思います。この点は病院側の「通常薬剤を投与して発症しうる副作用は多岐にわたっているため、患者に不安を与えないようにしかもすべての副作用を漏らさず説明することは困難極まりない。とくに副作用を重視すると、患者にとって不可欠な治療効果を持った薬剤でさえ、患者の服薬拒否を引き起こす可能性がある」というコメントは理にかなっており、多くの先生方が賛同するのではないかと思います。しかし今回の判決により、「薬を投与後に何かあればいらっしゃい」という説明では不十分であることが示されました。とすれば、今後のわれわれの診療では、「あなたには○○○の効果を持つ薬を出しているが、ごくまれには副作用による皮膚の病気が起こることもあるので、かゆみや発疹があった時にはすぐに連絡するように」と説明し、かつそのことをカルテに記載しなければ、厳密には医療過誤から身を守れないことになります。とはいうものの、日頃われわれが使用する薬剤は何百とあるわけではなく、整理すれば数十種類に落ち着くと思います。そこで頻繁に使用する薬剤については一度効能書を見直し、自分なりの防御策をご検討されてはいかがでしょうか。そして、最近では薬剤師の方から情報提供することによって、若干ながらの保険点数も認められるようになりましたので、身近なスタッフをできる限り動員し、患者さんへの情報提供を進めていくのが得策ではないかと思います。癌・腫瘍

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認知症患者の調子のよい日/ 悪い日、決め手となるのは

 認知症は患者の実体験に影響を及ぼす重大な疾患にもかかわらず、症状変動に関する研究報告はレビー小体型認知症を除けば少ない。カナダ・ダルハウジー大学のKenneth Rockwood氏らは、アルツハイマー病(AD)および混合型認知症患者における症状変動の特徴を明らかにするため質的検討を行った。International psychogeriatrics誌オンライン版2014年2月24日号の報告。 対象は地域住民患者52例(女性:30例、年齢:39~91歳、軽度認知症:26例、ADが主体の認知症患者:36例)。対象患者の調子のよい日、悪い日(good days/ bad days)を記載した情報を含む健康記録の定性分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・調子のよい日/ 悪い日は、ほとんどの場合、主な症状の変化(たとえば反復言語の少/多)と同様に観察された。・その他のケースでは、調子のよい日のみ、または悪い日のみで観察された。たとえば、ユーモアセンスは調子の悪い日はないが、良い日はユーモアセンスが良い。・概して、調子のよい日は、全体的な認知、機能、興味、イニシエーションの改善と関連していた。・調子の悪い日は、頻繁な反復言語、物忘れ、興奮症状や他の破壊的行動の増加と関連していた。 著者らは、「ADおよび混合型認知症患者では、臨床的に重要な症状変動が一般的に起こる。調子のよい日を増やすことは、悪い日の増減ほど簡単ではないが、よい日を促進・喚起し悪い日を減らす要因について、より詳細な調査することが、認知症患者や介護者のQOL改善に重要である」とまとめている。関連医療ニュース 日本人若年性認知症で最も多い原因疾患は:筑波大学 認知症のBPSDに対する抗精神病薬のメリット、デメリット たった2つの質問で認知症ルールアウトが可能

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ACTH非依存性クッシング症候群の病因解明に大きく前進(コメンテーター:成瀬 光栄 氏)-CLEAR! ジャーナル四天王(188)より-

ACTH非依存性クッシング症候群は、副腎からのコルチゾールの自律性分泌により高血圧や糖尿病などをきたす疾患で、副腎腺腫と両側が結節性過形成になるACTH非依存性大結節性副腎過形成(AIMAH)が主な病型である。 通常、前者では腺腫側の副腎摘出で治癒するのに対して、後者では両側副腎摘出が必要なことが多く、副腎不全による永続的なホルモン補充が必要となる。いずれも成因は不明であったが、本論文により、顕性クッシング症候群の約1/3の例で、プロテインキナーゼA(PKA)の触媒サブユニットをコードするPRKACAのsomatic mutationを認めることが明らかにされた。この変異は、サブクリニカルクッシング症候群やその他の副腎腫瘍では見られず、顕性クッシング症候群に特異的であると考えられる。 さらに、AIMAHでは1/7例でPRKACAのある第19染色体のgermline duplicationを認めた。PRKACAの変異はPKA活性を増加することも示されたことから、PKAの触媒サブユニットの遺伝子変異が、ACTH非依存性クッシング症候群の成因と密接に関連することが示唆される。 これらの結果は、本病態の新たな分子標的薬の開発や、AIMAHの早期診断、および高血圧や糖尿病発症前の予防的治療に繋がることが期待され、大変興味深い。 一方、腺腫例の約2/3、AIMAHの6/7ではこれらの異常を認めず、昨年11月に発表された、16染色体にあるARMC5の変異(Assié G, et al. N Engl J Med. 2013; 369: 2105-2114.)など、その他の異常の関与が示唆される。 また、サブクリニカルクッシング症候群は顕性クッシング症候群の軽症例と考えられてきたが、今回の結果から成因が全く異なる可能性もあり、今後のさらなる研究が期待される。

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統合失調症治療、家族への介入に効果はあるか

 支援的でポジティブな家族がいることは、統合失調症患者のアウトカムを改善する。一方で、家族が批判的で敵対的あるいは関与が過剰な場合は、アウトカムが不良で再発頻度が高いことが示唆されている。そこで現在、ポジティブ環境を広め、家族間の感情レベルを低減するようデザインされた心理社会的介入が、広く導入されるようになっている。英国・ノッティンガム大学のUzuazomaro Okpokoro氏らは、統合失調症もしくは統合失調症様障害患者の短期的家族介入の効果を評価することを目的にレビューを行った。Cochrane Database Systematic Reviews誌オンライン版2014年3月5日号の掲載報告。 CINAHL、EMBASE、MEDLINE、PsycINFOをベースとするCochrane Schizophrenia Group Trials Registerを2012年7月時点で検索し、さらに選出した試験の参考文献も調べて試験を検索し、著者と連絡して追加情報も得た。適格とした試験は、統合失調症もしくは統合失調症様障害患者の家族に焦点が当てられ、短期的心理社会的介入と標準ケアとの比較に関連していたすべての無作為化試験であった。試験の選択、質的評価およびデータ抽出は厳格に行われた。バイナリアウトカムについて、標準推定リスク比(RR)とその95%信頼区間(CI)を算出。また連続アウトカムについて、グループ間の平均差(MD)とその95%CIを算出し、主要アウトカムやサマリーに記された所見のエビデンスの質をGRADEにて評価した。なお、包含試験のバイアスリスクについても評価した。 主な結果は以下のとおり。・レビューに組み込むことができたのは、4本の無作為化試験、被験者計163例のデータであった。・結果、短期的家族介入が、患者の医療サービスの利用を抑制するかどうかは不明であった。・結果の大半は長期的で不確かなものであり、主要アウトカムとして入院に関するデータを報告していたのは、1試験(30例)のみであった(RR:0.50、95%CI:0.22~1.11、質的エビデンス:非常に低い)。・また再発に関するデータも、中期的で不確かなものであった(1試験・40例、RR:0.50、95%CI:0.10~2.43、質的エビデンス:低い)。・一方で、家族アウトカムに関するデータのうち、家族メンバーの理解が短期的家族介入を有意に支持することを示した(1試験・70例、MD:14.90、95%CI:7.20~22.60、質的エビデンス:非常に低い)。・入院日数、有害事象、服薬コンプライアンス、QOLまたはケアへの満足感、あらゆる経済的アウトカムなどに関するその他のアウトカムデータを報告した試験はみられなかった。・著者は、「今回、データを抽出した試験の規模および質により、顕著なレビュー結果は得られなかった。分析したアウトカムも極小でメタ解析はできなかった。また、サマリー所見におけるすべてのアウトカムの質的エビデンスは、低い(もしくは非常に低い)ものであった」とした。そのうえで、「しかしながら、需要があり、役立つリソースであるとの現状から、短期的家族介入の重要性は完全に退けられるべきではない」と述べ、「短期介入のデザインは大規模試験でより効果的となるよう修正することが可能であり、同時に臨床現場に十分な影響力をもたらす可能性があるだろう」とまとめている。関連医療ニュース この25年間で統合失調症患者の治療や生活環境はどう変わったのか? 複雑な薬物療法レジメン、認知症介護者の負担増加 抑うつ症状改善に“手紙による介入”は効果的か?:京都大学で試験開始

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認知症のBPSDに対する抗精神病薬のメリット、デメリット

 多くの認知症患者において精神症状や抑うつを含むBPSDがみられる。抗精神病薬が適応外使用でしばしば処方されているが、それらは著明な副作用を発現しうる。さらに、抗精神病薬の薬効を比較した前臨床試験はきわめて少なく、新規薬物療法の開発は遅れていた。ポーランド・Adamed社のMarcin Kolaczkowski氏らは、認知症患者にみられるBPSDに対して処方される抗精神病薬の有用性を検討するため、ラットを用いて抗精神病薬8剤の抗うつ活性および認知障害を検討した。Naunyn-Schmiedeberg's Archives of Pharmacology誌オンライン版2014年3月6日号の掲載報告。 研究グループは、新規薬剤の前臨床評価の基礎として、抗精神病薬8剤(クロルプロマジン、ハロペリドール、クロザピン、オランザピン、リスペリドン、アリピプラゾール、ルラシドン、アセナピン)の抗うつ活性、認知障害をラット行動試験により比較検討。MK-801誘発活動亢進の抑制、強制水泳試験(FST)、受動回避(PA)、自発運動、カタレプシーなどを調べた。 主な結果は以下のとおり。・8剤ともMK-801試験において抗精神病様活性を示したが、その他の試験モデルでは薬剤の種類により多様なプロファイルを示した。・リスペリドンは、MK-801試験で活性を示した用量のうち、いくつかの用量でPA行動を抑制した。これに対し、クロザピン、オランザピン、ルラシドン(国内未承認)、アセナピン(国内未承認)は、用量による作用の違いはほとんど(またはまったく)みられなかった。また、アリピプラゾールは、PA行動を抑制しなかった。・FSTにおいても、以下のような多様な作用が認められた。クロルプロマジンは活性を示さず、その他の薬剤の大半は狭い用量範囲で不動性を軽減した。クロザピンは抗精神病活性と重複する広い用量範囲で不動性を軽減した。・第2世代抗精神病薬によるカタレプシーの発現傾向は小さかったが、いずれも著明な鎮静を惹起した。・以上のように、現在処方可能な第2世代抗精神病薬の大半は、治療用量とほとんど変わらない用量で認知および運動の副作用を引き起こすことが示された。それらは、臨床データと矛盾しない結果であった。・本研究は、BPSDに対する有望な薬剤の開発にあたり、in vivoにおける比較研究の基礎的知見を提供するものである。関連医療ニュース 認知症患者の興奮症状に対し、抗精神病薬をどう使う? 認知症高齢者5人に1人が抗コリン薬を使用 認知症に対する非定型抗精神病薬処方、そのリスクは?

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急性喉頭蓋炎を風邪と診断して死亡に至ったケース(1)

救急医療最終判決判例時報 1224号96-104頁概要数日前から風邪気味であった35歳男性が、深夜咽頭の痛みが激しくなり、呼吸のたびにヒューヒューという異常音を発し呼吸困難が出現したため、救急外来を受診。解熱鎮痛薬、抗菌薬、総合感冒剤などを処方されていったん帰宅するが、病状がますます悪化したため当日午前中の一般外来を受診。担当した内科医師は、胸部X線写真には異常はないため感冒による咽頭炎と診断し、入院は不要と考えたが、患者らの強い希望により入院となった。ところが、入院病棟に移動した1時間後に突然呼吸停止となり、気管内挿管が困難なため緊急気管切開を行ったが、植物状態となって死亡した。解剖の結果、急性化膿性喉頭蓋炎による窒息死と判断された。詳細な経過患者情報35歳男性経過1980年7月下旬この頃から風邪気味であり、体調不十分であったが、かなり無理をして行動していた。8月4日02:00頃咽頭の痛みが激しくなり、呼吸が苦しく、呼吸のたびにヒューヒューという異常音を発するようになった。04:40A病院の救急外来を受診。当直の外科医が診察し、本人は会話困難な状態であったので、付添人が頭痛、咽頭痛、咳、高熱、悪寒戦慄、嚥下困難の症状を説明した。体温39℃、扁桃腫脹、咽頭発赤、心音正常などの所見から、スルピリン(商品名:メチロン)筋注、リンコマイシン(同:リンコシン)筋注、内服としてメフェナム酸(同:ポンタール)、非ピリン系解熱薬(同:PL顆粒)、ポビドンヨード(同:イソジンガーグル)を処方し、改善が得られなければ当日定刻から始まる一般外来を受診するように説明した。10:00順番を待って一般外来患者として内科医の診察を受ける。声が出ないため、筆談で「息が苦しいから何とかしてください。ぜひとも入院させてください」と担当医に手渡した。喉の痛みをみるため、舌圧子で診察しようとしたが、口腔奥が非常に腫脹していて口があけにくく、かつ咳き込むためそれ以上の診察をしなかった。高熱がみられたので胸部X線写真を指示、車椅子にてX線室に向かったが、その途中で突然呼吸停止状態に陥り、異様に身体をばたつかせて苦しがった。家族が背中を数回強くたたき続けていたところ、しばらくしてやっと息が通じるようになったが、担当医師は痰が喉にひっかかって生じたものと軽く考えて特別指示を与えなかった。聴診上軽度の湿性ラ音を聴取したが、胸部X線には異常はないので、「感冒による咽頭炎」と診断し、入院を必要とするほどでもないと考えたが、患者側が強く希望したため入院とした。10:30外来から病棟へ移動。11:00担当医師の指示にて、乳酸リンゲル液(同:ポタコールR)、キサンチン誘導体アミノフィリン(同:ネオフィリン)、β刺激薬(アロテック®;販売中止)、去痰薬ブロムヘキシン(同:ビソルボン)などの点滴投与を開始。11:30突然呼吸停止。医師らが駆けつけ気管内挿管を試みるが、顎関節が硬直状態にあって挿管不能。そのため経皮的にメジカット3本を気管に穿刺、急いで中央材料室から気管切開セットを取り寄せ、緊急気管切開を施行した。11:50頃人工呼吸器に接続。この時は心停止に近い状態のため、心マッサージを施行。12:30ようやく洞調律の状態となったが、いわゆる植物状態となった。8月11日20:53死亡確認。当事者の主張患者側(原告)の主張1.不完全な診察当直医師は呼吸困難・発熱で受診した患者の咽頭部も診察しないうえに、「水も飲めない患者に錠剤を与えても飲めません」という訴えを無視して薬を処方した。そのあとの内科医師も、異常な呼吸音のする呼吸困難の患者に対し、単に口を開かせて舌圧子をあてようとしたが咳き込んだので中止し、喉頭や気管の狭窄を疑わず、さらにX線室前で窒息状態になったのにさしたる注意を払わなかった2.診断に関する過誤患者の徴候、症状を十分観察することなく風邪による扁桃腺炎または咽頭炎と軽率な診断を下し、「息が苦しいので何とかしてください」という患者の必死の訴えを放置して窒息させてしまった。少なくとも万一の窒息に備えて気管切開の準備をなすべきであった。たまたま常勤の耳鼻科医師が退職して不在であり、外部から耳鼻科医師が週何回か来診する状態であったとしても、耳鼻科専門医の不在が免責理由にはならない3.気道確保の時機を逸した呼吸停止から5~6分以内に呼吸が再開されなければ植物状態や脳死状態になる恐れがあるのに、はじめから確実な気道確保の方法である気管切開を行うべきであったのに、気管内挿管を試みたのち、慌てて気管切開のセットを取りにいったが、準備の不手際もあって気道を確保するまでに長時間を要し植物状態となった病院側(被告)の主張1.適切な入院措置外来での診察は、とりあえずの診断、とりあえずの加療を行うものであり、患者のすべてを把握することは不可能である。本件の外来診察時には努力呼吸やチアノーゼを伴う呼吸困難はみられなかったので、突然急激な窒息状態に至るという劇的な転帰は到底予見できないものであり、しかもきわめて希有な病変であったため、入院時に投与された気管支拡張薬や去痰薬などの薬効があらわれる前に、そして、入院の目的や長所が十分機能する前に窒息から脳死に至った2.予見不可能な急激な窒息死成書においても、成人における急性化膿性喉頭蓋炎の発症および発症による急激な窒息の予見は一般的ではなく、最近ようやく医学界で一般的な検討がなされ始めたという段階である。したがって、本件死亡当時の臨床医学の実践における医療水準に照らすと、急性化膿性喉頭蓋炎による急激な窒息死の予見義務はない。喉頭鏡は耳鼻科医師によらざるを得ず、内科医師にこれを求めることはできない3.窒息後の救急措置窒息が生じてからの措置は、これ以上の措置は不可能であるといえるほどの最善の措置が尽くされており、非難されるべき点はない裁判所の判断1.喉頭部はまったく診察せず、咽頭部もほとんど診察しなかった基本的過失により、急性化膿性喉頭蓋炎による膿瘍が喉頭蓋基部から広範囲に生じそれが呼吸困難の原因になっている事実を見落とし、感冒による単純な咽頭炎ないし扁桃腺炎と誤診し、その結果気道確保に関する配慮をまったくしなかった2.異常な呼吸音、ほとんど声もでず、歩行困難、咽頭胃痛、嚥下困難、高熱悪寒の症状があり、一見して重篤であるとわかるばかりか、X線撮影に赴く途中に突然の呼吸停止を来した事実の緊急報告を受けたのであるから、急性化膿性喉頭蓋炎の存在を診察すべき注意義務、仮にその正確な診断までは確定し得ないまでも、喉頭部に著しい狭窄が生じている事実を診察すべき注意義務、そして、当然予想される呼吸停止、窒息に備えていつでも気道確保の手段をとり得るよう予め準備し、注意深く症状の観察を継続するべき注意義務があった3.急性化膿性喉頭蓋炎による成人の急激な窒息は当時の一般的な知見ではなく、予測できなかったとA病院は主張するが、当然診察すべき咽喉頭部の診察を尽くしていれば、病名を正確に判断できなくても、喉頭部の広範囲な膿瘍が呼吸困難の原因であり、これが増悪した場合気道閉塞を起こす可能性があることを容易に予測できたと考えられる4.当時耳鼻科常勤医の退職直後で専門医が不在であったことを主張するが、総合病院と称するA病院においては、内科とともに耳鼻咽喉科を設置しなければならず、各科に少なくとも3人の医師を設置しなければならないため、耳鼻科常勤医不在をもって責任を否定することはできない5.しかし、急性化膿性喉頭蓋炎によって急激な窒息死に至る事例はまれであること、体調不十分な状態で無理をしたことおよび体質的素因が窒息死に寄与していることなどを考慮すると、窒息死に対する患者側の素因は40%程度である原告側合計7,126万円の請求に対し、3,027万円の判決考察普段、われわれが日常的に診察している大勢の「風邪」患者の中にも、気道閉塞から窒息死に至るきわめて危険なケースが混じっているということは、絶対に忘れてはならない重要なことだと思います。「なんだ、風邪か」などと高をくくらずに、風邪の背後に潜んでいる重大な疾病を見落とすことがないよう、常に医師の側も慎重にならなくてはいけないと痛感しました。もし、私がこのケースの担当医だったとしても、最悪の結果を回避することはできなかったと思います。実際に、窒息後の処置は迅速であり、まず気管内挿管を試み、それが難しいと知るやただちに気管にメジカット3本を刺入し、大急ぎで気管切開セットを取り寄せて緊急気管切開を行いました。この間約20分弱ですので、後方視的にみればかなり努力されたあとがにじみ出ていると思います。ではこの患者さんを救命する方法はなかったのでしょうか。やはりキイポイントは病棟に上がる前に外来のX線室で呼吸停止を起こしたという事実だと思います。この時の判断は、「一時的に痰でもつまったのであろう」ということでしたが、呼吸器疾患をもつ高齢者ならまだしも、本件は既往症をとくにもたない35歳の若年者でしたので、いくら風邪でも痰を喉に詰まらせて呼吸停止になるというのはきわめて危険なサインであったと思います。ここで、「ちょっとおかしいぞ」と認識し、病棟へは「緊急で気道確保となるかも知れない」と連絡をしておけば、何とか事前に準備ができたかも知れません。しかし、これはあくまでも後方視的にみた第三者の意見であり、当時の状況(恐らく外来は患者であふれていて、診察におわれていたと思われます)からはなかなか導き出せない、とても難しい判断であったと思います。救急医療

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注射治療で二重顎を解消、いよいよ現実味

 ドイツ・シャリテ大学病院のB. Rzany氏らは、363例を対象とした第III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験の結果、新たに開発したATX-101の注入治療が、顎の下の不要な脂肪(SMF)解消に有効であり忍容性も良好であったことを報告した。ATX-101は、デオキシコール酸を含み、脂肪細胞を溶解する注射剤である。これまで二重顎の解消には、侵襲的であるかエビデンスの不足した解消法しか存在しておらず、新たな治療アプローチとしてATX-101の注入治療の検討が進められていた。British Journal of Dermatology誌2014年2月号の掲載報告。 ATX-101の二重顎解消の有効性および安全性を評価した試験は、SMFが中等度/重度であった363例を対象に行われた。被験者を無作為に、ATX-101(1あるいは2mg cm-2)またはプラセボ注射群に割り付けて、28日間隔で最大4回の治療を行い、12週間フォローアップした。 主要有効性エンドポイントは、治療反応者の割合(5点評価のClinician-Reported Submental Fat Rating Scale[CR-SMFRS]でSMFが1点以上改善した患者)と、Subject Self-Rating Scale(SSRS)で評価した顔と顎の外見に対し満足している患者の割合の2つであった。副次エンドポイントには、皮膚のたるみ、キャリパー測定値、患者報告のアウトカムなどが含まれた。 主な開発に関する報告は以下のとおり。・ATX-101群のほうがプラセボ群と比べて、より多くの患者が主要エンドポイントを達成した。・治療者評価スケールのCR-SMFRSに関する達成者は、ATX-101の1 mg cm-2治療群59.2%、同2mg cm-2治療群65.3%に対し、プラセボ群は23.0%であった(p<0.001)。・患者評価スケールのSSRS(顔/顎の外見に満足)についても、それぞれ53.3%、66.1%、28.7%であった(p<0.001)。・その他、ATX-101群はプラセボ群と比較して、SMFのキャリパー測定値が有意に減少し(p<0.001)、皮膚のたるみの悪化もみられなかった。また、ATX-101群の患者は、SMFの重症度および心理的影響についての改善を報告した。・有害イベントは治療部位と関係していたが、大半が一過性のものであった。

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どのCKDステージにおいてもワルファリンは有用/JAMA

 慢性腎臓病(CKD)で急性心筋梗塞後に心房細動を呈した患者へのワルファリン治療は、CKDの重症度にかかわらず、出血リスクを高めることなく転帰を改善することが、スウェーデン・カロリンスカ研究所のJuan Jesus Carrero氏らによる2万4,317例を対象とした多施設共同前向き観察試験の結果、示された。ワルファリン非使用群と比べた1年時点の複合アウトカム(死亡・心筋梗塞・虚血性脳卒中)ハザード比(HR)は0.57~0.87であり、出血リスクのHRは0.52~1.10だった。これまで、CKDが進行した心房細動患者に対する、ワルファリン治療と死亡・虚血性脳卒中発生との関連については、相反するエビデンスが報告されていた。JAMA誌2014年3月5日号掲載の報告より。2万4,317例について前向き観察研究 研究グループは、スウェーデン国内の全病院から急性期心疾患の治療データが提供・登録されている「SWEDEHEART」レジストリデータを用いて、心血管疾患および心房細動患者におけるワルファリン治療とアウトカムとの関連を腎機能で層別化して調べた。 分析には、2003~2010年に登録された、急性心筋梗塞後に心房細動を呈し、血清クレアチニン値が明らかであった2万4,317例が含まれた。eGFR値でCKDステージ別に分類し、次の3点を主要評価項目として検討した。すなわち、(1)死亡・心筋梗塞再入院・虚血性脳卒中の複合エンドポイント、(2)出血(出血性脳卒中、消化管出血、貧血、その他による再入院の複合)、(3)退院後1年間の(1)(2)の総計であった。死亡・心筋梗塞・虚血性脳卒中の発生ハザード比0.57~0.87 2万4,317例のうち、退院時にワルファリン治療を受けていたのは5,292例(21.8%)であった。また、51.7%がeGFR値60mL/分/1.73m2未満(eGFR<60)のCKDステージ3以上の患者であった(ステージ3:41.7%、4:8.1%、5:2.0%)。 分析の結果、ワルファリン非使用と比べてワルファリン治療は、いずれのCKD層別化群においても、初発複合アウトカムのイベント発生を抑制した。各層別化群のイベント発生率は、eGFR>60群では、100人年当たりワルファリン群28.0件 vs. 非使用群36.1件(補正後HR:0.73)、以下同じくeGFR>30~60群は48.5 vs. 63.8(0.73)、eGFR>15~30群は84.3 vs. 110.1(0.84)、eGFR≦15群は83.2 vs. 128.3(0.57)だった。 一方で、ワルファリン治療による出血リスクの増大は、いずれのCKD層別化群においても有意ではなかった。eGFR>60群では、100人年当たり5.0件vs. 4.8件(補正後HR:1.10)、以下同じくeGFR>30~60群は6.8 vs. 6.3(1.04)、eGFR>15~30群は9.3 vs. 10.4(0.82)、eGFR≦15群は9.1 vs. 13.5(0.52)だった。 イベント総計でみた比較でも、各CKD層別化群ともワルファリン治療群のほうが、イベントは抑制されたことが認められた。eGFR>60群では、100人年当たり32.1件vs. 40.0件(補正後HR:0.76)、以下同じくeGFR>30~60群は53.6 vs. 69.0(0.75)、eGFR>15~30群は90.2 vs. 117.7(0.82)、eGFR≦15群は86.2 vs. 138.2(0.55)だった。

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糖尿病による脳卒中リスクに男女差はあるか?/Lancet

 脳卒中のリスク因子としての糖尿病について、性差による違いがあるかどうかを調べた結果、男性よりも女性のほうが受ける影響が強いことが明らかになった。オランダ・ユトレヒト大学のSanne A E Peters氏らがシステマティックレビューとメタ解析にて、被験者77万5,385例、うち脳卒中1万2,539例を含む64コホートを分析し報告した。糖尿病は脳卒中の強力なリスク因子であるが、これまで性差により違いがあるのかについては検討されていなかった。Lancet誌オンライン版2014年3月7日号掲載の報告より。脳卒中と糖尿病の性差による関連を分析 研究グループはPubMedにて、1966年1月1日~2013年12月16日の間に発表された前向き住民ベースのコホート研究を検索し、脳卒中と糖尿病の関連について性特異的相対リスク(RR)およびその変動性を報告していた研究を特定し分析した。 性特異的RRをプールし、女性と男性の比率をランダムエフェクトメタ解析の逆分散重みづけ法を用いて比較した。女性糖尿病患者の脳卒中リスク、男性糖尿病患者の1.27倍 結果、脳卒中と糖尿病のプール最大補正後RRは、女性が2.28(95%信頼区間[CI]:1.93~2.69)、男性は1.83(同:1.60~2.08)だった。すなわち男性糖尿病患者と比較して女性糖尿病患者のほうが脳卒中リスクは高く、プールRR比は1.27(1.10~1.46、I2=0%)だった。出版バイアスのエビデンスはなかった(p=0.65)。 これらの性差は事前規定の主要脳卒中、参加者、試験サブタイプを問わず一貫していた。 結果を踏まえて著者は、「脳卒中の糖尿病による過剰リスクは、男性よりも女性で有意に高く、性差は、その他の主要心血管リスク因子とは独立していることが示された」とまとめている。そのうえで、「今回得られたデータは、男性と女性では糖尿病関連の疾患発生が異なるという既存のエビデンスレベルを上げるとともに、さらなる検討により、生物学的、行動学的または社会構造的関連を明らかにする必要があることを示唆するものである」と結んでいる。

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川崎病、インフリキシマブ併用も治療抵抗性は減少せず/Lancet

 急性川崎病の一次治療においてインフリキシマブ(商品名:レミケード)を併用しても、治療抵抗性は減少しなかったことが、米国・カリフォルニア大学サンディエゴ校のAdriana H Tremoulet氏らによる第III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験の結果、示された。ただしインフリキシマブ投与の安全性および忍容性は高く、また発熱期間、C反応蛋白などいくつかの炎症マーカー、左冠動脈前下行枝(LAD)Zスコア、静脈免疫グロブリン反応速度については有意な減少がみられた。Lancet誌オンライン版2014年2月24日号掲載の報告より。米国小児病院2施設で、治療抵抗性への抑制効果をプラセボ対照無作為化試験 急性川崎病の標準治療(免疫グロブリン静注とアスピリン)へのインフリキシマブ追加投与(1mg/mL静注時に5mg/kg)による、治療抵抗性の抑制効果に関する検討は、米国の小児病院2施設で行われた。生後4週~17歳、発熱(38.0℃)期間3~10日、川崎病の米国心臓協会(AHA)基準を満たした患児を適格とし、無作為に2つの治療群に割り付けた。無作為化がブロックデザインに基づき行われ、年齢、性別、施設で層別化した。患者、治療担当医とスタッフ、試験チームメンバーと心エコー撮影者はすべての治療割付についてマスキングをされた。 主要アウトカムは、治療群間の治療抵抗性についての差で、治療後36時間~7日の38℃以上の発熱で評価した。治療抵抗性の発生、治療群間の有意差みられず 試験には196例の患児が登録され、無作為化された(インフリキシマブ群98例、プラセボ群98例)。このうちプラセボ群の1例が、試験薬投与の前に低血圧症により試験から除外された。 結果、治療抵抗性の発生率は、治療群間で有意差はみられなかった(インフリキシマブ群11例[11.2%]vs. プラセボ群11例[11.3%]、p=0.81)。 一方でプラセボ群と比べて、インフリキシマブ群は発熱期間が短かった(中央値1日vs. 2日、p<0.0001)。 また2週時点では、インフリキシマブ治療群がプラセボ治療群よりも、血沈(ESR)の有意な低下と(p=0.009)、LADのZスコアの有意な半数超の減少がみられたが(p=0.045)、5週時点では群間差は有意ではなくなっていた。 そのほか、インフリキシマブ群は、治療後24時間時点のC反応蛋白値の減少(p=0.0003)、好中球数の減少(p=0.024)が有意に大きかった。しかしこれらの有意差も2週時点では有意ではなくなっていた。 さらに5週時点では、ベースライン時と比較して有意差がみられた検査値は1つもなかった。なお、いずれの評価時点においても、右冠動脈近位部のZスコア、年齢補正後ヘモグロビン値、入院期間、その他あらゆる炎症マーカー値について、治療群間の有意差はみられなかった。 免疫グロブリン静注に対する反応は、プラセボ群では13例(13.4%)発生したが、インフリキシマブ群ではみられなかった(p<0.0001)。インフリキシマブ投与に関連した重大有害イベントもみられなかった。

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ACTH非依存性クッシング症候群に関与する遺伝子変異が判明/NEJM

 プロテインキナーゼA(PKA)の触媒サブユニットの遺伝子変異が、両側性副腎過形成や片側性コルチゾール分泌副腎皮質腺腫に関与していることが、ドイツ・ヴュルツブルク大学のFelix Beuschlein氏らが行った検討により判明した。副腎皮質の腫瘍や過形成は、コルチコトロピン非依存性のクッシング症候群を引き起こす。しかし、その分子学的発生機序は解明されていなかった。NEJM誌オンライン版2014年2月26日号掲載の報告より。エクソーム配列解析で変異を特定 研究グループは、コルチゾール産生副腎腺腫10例の主要組織標本について、エクソーム配列解析を行い変異を特定し、副腎腫瘍171例の遺伝子について同変異の有無を分析した。また、コルチゾール分泌両側性副腎過形成の患者35人については、全ゲノムコピー数解析を行った。 そのうえで、遺伝子異常が、臨床的、または生体外で及ぼす影響について分析した。PRKACA体細胞変異は片側性コルチゾール分泌副腎皮質腺腫の原因に エクソーム配列解析の結果、PKAの触媒サブユニットをコードしているPRKACAの体細胞突然変異が、10例中8例に検出された。 顕性クッシング症候群の患者59例中22例(37%)で、片側性腺腫にPRKACA体細胞突然変異が見つかった。一方、同変異は潜在性副腎皮質ホルモン過剰症の40例や、その他の副腎腫瘍の認められる82例については、検出されなかった。 コルチゾール分泌副腎過形成の患者35例では、PRKACAを含む第19染色体のゲノム領域の生殖細胞系の重複が認められた。 これらの所見を踏まえて研究グループは、PKAの触媒サブユニットの遺伝子変異は、ヒトの疾患に関連しており、生殖細胞系の重複は両側性副腎過形成の、PRKACAの体細胞変異は片側性コルチゾール分泌副腎皮質腺腫に関連していると結論づけた。

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統合失調症と双極性障害の違い、脳内の炎症/ストレスに派生

 統合失調症と双極性障害は、発症の前兆や生物学的側面にいくつかの共通した特徴を有している。また先行研究において、両疾患を有する患者の脳において、神経免疫とストレスのシグナル経路に異常が認められることが確認されている。しかし、これまで両者の関連性については明らかにされていなかった。オーストラリア・ニューサウスウェールズ大学のS G Fillman氏らは、脳内のストレス反応により生じた変質と神経免疫/炎症状態が疾患を特徴づけていると仮定し検証を行った。Translational Psychiatry誌2014年2月25日号の掲載報告。 本検討では、次の3点を評価することが目的であった。(1)ストレスと炎症性システム応答の鍵となるメディエーターの変化の発生が、統合失調症と双極性障害患者のサブセットでどの程度共通しているかを調べること、(2)統合失調症と双極性障害の診断患者別に、前頭皮質における炎症およびストレスシグナルシステムについて分子病理学的に共有していた割合を調べること、(3)同様のサブセットにおけるその他の分子的変化の特徴を調べること。これらについてStanley Array Cohortを対象に、遺伝子発現を調べ評価した。 主な結果は以下のとおり。・統合失調症患者35例、双極性障害患者34例、対照被験者35例について評価した。・8つの炎症に関連する転写遺伝子を用いて調べた結果、統合失調症患者において、そのうちの1つであるSERPINA3発現の有意な増大がみられた(F(2,88)=4.137、p<0.05)。・また、以前に調査したことのある12の糖質コルチコイドレセプター(ストレス)シグナル経路転写遺伝子を用いて、被験者を2つの炎症/ストレス集団(高値群と低値群)に分類した。・その結果、高炎症/ストレス群(32例)は統合失調症患者が有意に多く(15例)、双極性障害患者が多い(11例)傾向が、対照群(6例)と比べて認められた。・また、同サブグループ患者において、ingenuity解析法により、マイクロアレイ評価による転写変化が高炎症/ストレス群と関連している可能性を調べた。その結果、免疫系、成長因子、シグナル抑制を含む遺伝子発現変化のネットワーク拡大、および細胞死がこれらのグループを特徴づけることが明らかになった。・以上を踏まえて著者は、「統合失調症と双極性障害におけるいくつかの異なる点は、一部の炎症性/ストレスの相互作用によるものであると説明できること、この生物学的サブタイプは、診断カテゴリーのDSM全体にわたっていることが、今回の検討によって示唆された」とまとめている。関連医療ニュース 統合失調症と双極性障害、脳の違いはどこか 統合失調症の認知機能改善に、神経ステロイド追加 双極性障害の診断、DSM-IV-TRでは不十分

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米国で試行のメディカルホーム、その効果は?/JAMA

 米国では、チーム医療でより質の高いプライマリ・ケアを、効果的に実施することを目的とした「メディカルホーム」が試験的に行われている。米国・RAND CorporationのMark W. Friedberg氏らによる検討の結果、従来型のプライマリ・ケアに比べ、その効果は限定的であることが報告された。結果を踏まえて著者は、「メディカルホームの仕組みについて、改善する必要があるようだ」と述べている。JAMA誌2014年2月26日号で発表した。メディカルホームと従来型プライマリ・ケアの患者、それぞれ約6万人を比較 Friedberg氏らは、2008年6月~2011年5月にかけて、メディカルホームのパイロット試験「Southeastern Pennsylvania Chronic Care Initiative」に初期から参加する、32のプライマリ・ケア診療所の患者6万4,243人について検討を行った。保険請求データを基に、医療の質、医療サービスの利用率、医療費などを求め、対照群としてパイロット試験に非参加の29ヵ所のプライマリ・ケア診療所の患者5万5,959人と比較し、差分の差(difference-in-differences;DID)分析を行った。 パイロット試験に参加する診療所は、疾病登録と技術的協力を受け、全米品質保証委員会(NCQA)により患者中心のメディカルホームを達成したことに対するボーナスを得ることが可能であった。 主要アウトカムは、糖尿病、喘息、予防医療、入院率、救急室や外来の利用率、医療ケアの標準化コストに関する11項目の質評価に関する指標だった。メディカルホームで改善は11項目中1つのみ その結果、11項目のうち改善が認められたのは、糖尿病患者に対する腎障害スクリーニングの1項目についてのみであった。対照群では3年補正後実施率が71.7%だったのに対し、メディカルホーム群では82.7%と有意に改善した(p<0.001)。 その他の医療サービスの利用率やコストについて、メディカルホーム群は対照群に比べ、有意な改善が認められなかった。 なお3年間の試験期間中に、メディカルホームに参加した診療所は、プライマリ・ケア医1人当たり平均9万2,000ドルのボーナスを得た。 これらの結果を踏まえて著者は、「3年間についてみたメディカルホームは、入院、救急室、外来サービスの利用や総コストの低減に関連していなかった。メディカルホームの仕組みについて、さらなる改善の必要があるようだ」とまとめている。

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第23回 非専門医に求められる医療水準の範囲

■今回のテーマのポイント1.神経疾患で一番訴訟が多い疾患は脳梗塞であり、争点としては、治療の遅れおよび診断の遅れが多い2.非専門科に求められる医療水準は、専門科において求められる水準よりも低い3.ただ、非専門科においても一般医学書程度の知識は要求される事件の概要X(71歳、女性)は、高血圧症などにてY病院循環器科外来(A医師)を受診していました。また、平成20年11月に追突事故に遭い、同事故の影響で左手指にしびれがでたこと、そのためリハビリ中であることをA医師に伝えていました。平成21年3月3日午後9時頃、持ち帰り用の食品を受け取るため、自宅付近の居酒屋を訪れ、代金を支払おうと財布から硬貨を取り出そうとしたところ、左手から硬貨を落とし、それを拾おうとしてはまた落としてしまいました。居酒屋の経営者夫妻は、Xのその様子および、Xの顔面の片側が垂れ下がっていたのをみて、同店で以前、脳梗塞を発症した客の様子と似ていたことから、救急車を要請しました。居酒屋に到着した救急隊員は、Xの状況について、椅子に座っており、意識清明、顔色正常、呼吸正常であること、歩行不能であったが、他自覚症状もなく、四肢のしびれや麻痺もなく、頭痛、嘔気、めまいもないことから、TIA(一過性脳虚血発作)疑いとしてかかりつけのY病院に受け入れ依頼をしました。Y病院受診時のXは、意識清明で、血圧166/110、歩行障害はなく、腱反射、瞳孔反射ともに正常でした。当直のB医師(消化器外科医)は、当時、TIAには意識障害があると思っていたため、XはTIAではないと判断し、ちょうど翌日、A医師の外来受診予定であったことから、夜間で十分な検査ができないので、翌日検査を受けるように伝え、異常時は再診するように伝えた上、Xを帰宅させました。翌4日、A医師が診察したところ、バレー徴候もなく、フィンガー・トゥ・ノーズテストも異常所見はなく、また、心音、呼吸音に問題はなく、末梢浮腫も認めませんでした。脳梗塞の診断のため、頭部MRI、MRAおよびDWI(拡散強調画像)を施行しましたが、陳旧性脳梗塞を認めるものの、新鮮な脳血管障害は認められませんでした。A医師が現症状を尋ねたところ、Xは「どうもありません。」と答えたことから、前日に原告が小銭を取りこぼしたのは、平成20年11月の追突事故による左手指のしびれのためと考え、従前の処方のみで経過観察としました。ところが、Xは、3月18日早朝、自宅で倒れているところを家族に発見され、Z病院に救急搬送されたところ、脳梗塞と診断されました。Z病院にて治療およびリハビリテーションを行ったものの、Xには、中等度の感覚性失語、右片麻痺により、要介護3級の状態となりました。そこで、Xは、Y病院に対し、遅くとも3月4日の段階でTIAと診断し、抗凝固療法などを行うべきであったとして、約8,050万円の支払いを求める訴訟を提起しました。事件の判決■原告一部勝訴(440万円)被告は、当時の医療水準では、非専門医療機関、非専門医に対しては、適切な問診を行い、TIA又はその疑いがあることを診断する義務があるというレベルまでは要求できないと主張し、P医師(被告側鑑定医)は、おおむね以下の内容の意見を述べている。各ガイドラインは、専門医及び一般内科医用とされているが、まず専門医の脳卒中治療を標準化し、それから一般内科医へ広がっていくように期待されているものであり、非専門医は通常見ないものであり、本件当時は、上記ガイドライン2009は出ておらず、もし出ていたとしても、非専門医がこれを知らなくても全くおかしなことではない。平成23年3月に一般内科医を対象としたアンケートでも、上記ガイドラインを読んだのは4分の1以下というのが実情である。TIAは、非専門医に正確に理解されておらず、非専門医の「TIA疑い」と診断した患者の多くはTIAではなく、実際にTIAであったケースは1割以下である。今日においても、非専門医が、単なる失神をTIAだと誤解している例がある。TIAの定義や診断については、専門医の間でもコンセンサスは得られていない。TIAにおける脳梗塞発症リスクの指標にABCD2スコアがあるが、今日においても非専門医には浸透していない。そのため、本件当時、非専門医がこれを知らなくても全く不思議なことではなく、不勉強だということでもない。しかしながら、P医師の上記意見は、次のとおり、いずれも採用できない。前記認定の一般的知見は、ガイドライン2009を待つまでもなく、今日の診断指針、メルクマニュアル等の極めて一般的な文献に基づいて認定し得るものであって、ガイドラインに関するP医師の意見はその前提を欠くものである。また、医療水準は医師の注意義務の基準となるものであって、平均的医師が現に行っている医療慣行とは必ずしも一致するものではない(最高裁判所平成8年1月23日第三小法廷判決・民集50巻1号1頁参照)。一般的な医学書にはTIAに関する記載がある以上、その記載程度の知識は非専門医でも得ておくべきであるから、そのような知識の獲得を怠り、TIAに関する間違った認識の下に行った診療行為は、他にも、TIAである旨の誤診が多く見られたり、単なる失神をTIAだと誤解した例があったからといって正当化されるものではない。さらに、被告は、TIAの定義や診断については専門医の間でもコンセンサスが得られておらず、また、ABCD2スコアは非専門医には浸透していないともいうが、定義について、専門家の間に、異論があるとしても、前記認定の一般的知見に基づく定義等は、平成2年以来、一般的に承認されているものであり、前記認定を妨げるものではない。また、ABCD2スコアは、TIAから脳梗塞発症のリスクを予測するための指標であり、TIA又はその疑いがあるか否かの診断に影響するものではない。以上によれば、P医師の上記意見によっても、医療水準についての前記判断は左右されないというべきであり、このような見解に沿った被告の前記主張は採用できない。(*判決文中、下線は筆者による加筆)(福岡地判平成24年3月27日判時2157号68頁)ポイント解説■神経疾患の訴訟の現状今回は、神経疾患です。神経疾患で最も訴訟となっているのは脳梗塞です(表1)。脳梗塞に対し、近年、抗凝固療法(血栓溶解療法)が行われるようになったことから、診断・治療の遅れによって予後に大きな変化が生じうるようになりました。その結果、表2をみていただければわかるように、昨今、訴訟となる事例が増加しており、争点も診断の遅れ、治療の遅れが中心となっています。ただ、訴訟となり始めたのが最近であることからか、原告勝訴率は低く、今回紹介した事例においても、原告勝訴はしていますが、認容額は請求額の5.5%ほどであり、実質的には原告敗訴ともいえる内容となっています。医療の進歩により、訴訟が増加することは皮肉ではありますが、その一方で現在の裁判所は慎重な判断をしているといえそうです。■非専門科に求められる医療水準今回の事例で問題となったのは、非専門科の医師にどこまでの医療水準が求められるかという点です。夜間、患者を診察したのが消化器外科医(B医師)で、翌朝外来にて診察したのが循環器内科医(A医師)であり、両者とも神経内科を専門としていません。そして、ともにTIAに関する認識が乏しかったため、抗凝固療法を行わず、かといって神経内科を受診させることもしませんでした。民事医療訴訟における過失とは、第1回で解説したように、「人の生命及び健康を管理すべき業務(医業)に従事する者は、その業務の性質に照らし、危険防止のために実験上必要とされる最善の注意義務を要求されるのであるが(最判昭和36年2月16日民集15巻2号244頁)、具体的な個々の案件において、債務不履行又は不法行為をもって問われる医師の注意義務の基準となるべきものは、一般的には診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準である(最判昭和57年3月30日民集135号563頁)。そして、この臨床医学の実践における医療水準は、全国一律に絶対的な基準として考えるべきものではなく、診療に当たった当該医師の専門分野、所属する診療機関の性格、その所在する地域の医療環境の特性等の諸般の事情を考慮して決せられるべきものであるが(最判平成7年6月9日民集49巻6号1499頁)、医療水準は、医師の注意義務の基準(規範)となるものであるから、平均的医師が現に行っている医療慣行とは必ずしも一致するものではなく、医師が医療慣行に従った医療行為を行ったからといって、医療水準に従った注意義務を尽くしたと直ちにいうことはできない」(最判平成8年1月23日民集50巻1号1頁)を指します。したがって、非専門科に求められる医療水準は、「専門科に求められる医療水準よりは低いのですが、かといって平均的医師が行っている医療慣行と常に一致するわけではなく、より高い水準が求められることもある」ということになります。本件訴訟において、被告側は非専門科におけるTIAの認識、診断の難しさを主張しましたが、判決では、一般医学書に記載されている程度の疾患概念の理解については、非専門科にも求められるとしました。本判決およびその他の判例からみた非専門科に求められる具体的な医療水準としては、「最新のガイドラインの内容を熟知することまでは必要ないが、一般的な医学書程度の知識は非専門科でも得ておくべきである」とする傾向があります(図)。非専門科においてまで高度な医療水準が求められるとなると、救急医療の崩壊を導くことは、2000年代の苦い経験です。ただ、その一方で、非専門科とはいえ、プロフェッションである医師に対し、一定程度の水準は求められるのは当然といえます。常に刷新し続ける医療において、この微妙なさじ加減につき、個別具体的な事例を通じて司法と医療の相互理解を継続していくことが、何より肝要と思われます。裁判例のリンク次のサイトでさらに詳しい裁判の内容がご覧いただけます。(出現順)最高裁判所平成8年1月23日第三小法廷判決・民集50巻1号1頁福岡地判平成24年3月27日判時2157号68頁本事件の判決については、最高裁のサイトでまだ公開されておりません。最判昭和36年2月16日民集15巻2号244頁最判昭和57年3月30日民集135号563頁最判平成7年6月9日民集49巻6号1499頁

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学士号取得看護師60%で看護体制6対1なら院内死亡約30%減/Lancet

 コストカット目的での看護スタッフ減員は、患者アウトカムに悪影響をもたらす一方で、学士号取得の看護師配置を手厚くすると院内死亡は減少するという研究報告が発表された。米国・ペンシルベニア大学看護学部のLinda H Aiken氏らが、ヨーロッパ9ヵ国で行った後ろ向き観察研究の結果、明らかにした。病院の支出リスクを最小とするための厳格な尺度とヘルスケアシステムの再構築は、患者アウトカムに悪影響を与えることが示唆されている。Aiken氏らは、患者対看護職員比率(看護体制)、および看護師の教育レベルを調べ、院内死亡率との関連について調べた。Lancet誌オンライン版2014年2月26日号掲載の報告より。ヨーロッパ9ヵ国300病院のデータをもとに看護師配置と看護体制について分析 本検討は、病院運営上の最も大きなコスト要素の1つである看護師に関する、意思決定のための情報提供を目的としたRN4CAST研究の一貫として行われた。RN4CASTには12ヵ国が資金提供・参加するが、今回の検討では、同様の患者退院データを有する9ヵ国(ベルギー、英国、フィンランド、アイルランド、オランダ、ノルウェー、スペイン、スウェーデン、スイス)300病院における、2009~2010年のデータを入手して検討が行われた。 検討では、同一手術を受けた50歳以上の患者42万2,730例の退院データを入手し、診療データを標準プロトコル(ICD-9または10に準拠)でコード化し、年齢、性別、入院タイプ、43のダミー変数で分類した手術タイプ、17のダミー変数で分類した入院時の併存疾患などのリスク調整尺度を用いて、30日院内死亡率を評価した。 一方、2万6,516例の看護師にサーベイを行い、看護職員配置と教育レベルを調べた。 一般化推定方程式を用いて、入院30日間の術後患者の死亡に影響を与えた看護職員要因について、その他の病院特性および患者特性での補正前および補正後の評価を行った。担当患者が1人減れば、または学士号取得看護師が10%増えるごとに院内死亡率は7%低下 結果、看護職員の作業負荷が患者1人分増大するにつき、入院患者の30日院内死亡率は7%上昇することが示された(オッズ比:1.068、95%信頼区間[CI]:1.031~1.106)。 一方で、学士号取得看護師が10%増えると院内死亡率は7%低下することが示された(同:0.929、0.886~0.973)。 これらの関連は、看護職員の60%が学士号取得者で看護体制6対1の病院は、同看護職員が30%で看護体制8対1の病院と比べて、院内死亡が約30%低いことを意味するものであった。

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統合失調症の陰性症状軽減へ新たな選択肢となりうるか

 最近発症の統合失調症または統合失調感情障害で、とくに気分安定薬を併用していないい患者において、神経ステロイドのプレグネノロンを追加投与することで陰性症状の重症度が軽減することが、イスラエル・Sha'ar Menashe Mental Health CenterのMichael S. Ritsner氏らによる二重盲検無作為化プラセボ対照試験の結果、示された。最近発症の統合失調症または統合失調感情障害の治療は、抗精神病薬への反応が不十分なことが多いが、今回の結果について著者は、「さらなる検討の根拠となるものだ」と述べている。Psychiatry and Clinical Neurosciences誌オンライン版2014年2月18日号の掲載報告。 試験は、2008~2010年に2施設において行われた。DSM-IVの統合失調症または統合失調感情障害(SZ/SA)の診断基準を満たし、抗精神病薬に対する反応が低かった入院・外来患者60例を対象とし、無作為にプレグネノロン(50mg/日)またはプラセボの追加投与を受ける群に割り付けて8週間の治療を行い評価した。主要評価項目は、陽性・陰性症状尺度および陰性症状評価スコアであった。副次評価項目は、機能的評価や副作用などであった。線形混合モデルで分析した。 主な結果は以下のとおり。・参加は60例のうち52例(86.7%)が、試験を完了した。・プラセボ群と比較して、プレグネノロン追加群は、陽性・陰性症状尺度の陰性症状スコアが有意に低下した。エフェクトサイズは中程度であった(d=0.79)。・有意な改善は、気分安定薬の治療を受けなかった患者でプレグネノロン治療の6~8週においてみられた(arms×visit×気分安定薬、p=0.010)。・同様に陰性症状評価スコアも、とくに感情鈍麻、意欲消失、快感消失の領域スコアについて、プレグネノロン追加群はプラセボ群と比較して有意に低下した(d=0.57)。・その他の症状や、機能および副作用は、プレグネノロン追加投与による有意な影響はみられなかった。・抗精神病薬、ベンゾジアゼピン系および性別とプレグネノロン追加との関連はみられなかった。・プレグネノロンの忍容性は良好であった。関連医療ニュース 統合失調症の陰性症状に対し、抗うつ薬の有用性は示されるのか 統合失調症の陰性症状に、抗酸化物質N-アセチルシステインは有効か 統合失調症の認知機能改善に、神経ステロイド追加

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鼠径ヘルニアの手術中に心肺停止を来して死亡したケース

小児科最終判決判例時報 1656号117-129頁概要両側鼠径ヘルニアと診断された1歳11ヵ月の男児。きちんとした術前検査が行われないまま、GOF全身麻酔下の両側ヘルニア手術が行われた。ところが、手術開始から48分後に呼吸停止・心拍停止状態となり、ただちに手術を中止して救急蘇生が行われたが、結局心肺は再開せずに死亡確認となった。裁判では、術前検査を行わずに手術に踏み切った無謀さと、記録の改竄が争点となった。詳細な経過患者情報1歳11ヵ月の男児経過1985年7月15日両側鼠径部の硬結を主訴に外科開業医を受診し、鼠径ヘルニアと診断された1歳11ヵ月の男児。その後硬結の増大がみられたため、根治手術を勧められた。1986年4月12日09:20母親に付き添われて入院。術前検査(心電図、一般採血など)は患者が泣いて嫌がったため省略した。13:00前投薬として硫酸アトロピンを筋注。13:30マスクによるGOF麻酔(笑気、酸素、フローセン)開始。この時看護師はみぞおちあたりが呼吸するたびに陥没するような状態になるのを認めた。麻酔担当医は心電図モニターで脈拍数を確認し、左前胸部に絆創膏で固定した聴診器で心音を聞き、マスクを保持している手で頸動脈の脈拍をはかることにより麻酔管理を行った。14:00まず右側の鼠径ヘルニア手術を開始、この時の脈拍104。ヘルニア嚢の壁は肥厚が著しく、周囲と強固に癒着していた。メス操作と同時に患者の体動がみられたため、フローセン濃度を2%→2.5%に変更(その後血圧がやや低下気味となったため、フローセン濃度を2%に下げた)。14:14脈拍180まで上昇。14:20脈拍120まで低下。14:41脈拍80まで低下。14:0014:0214:0314:14脈拍10412516018014:2014:3014:4114:48脈拍1209680014:48右側の鼠径ヘルニア手術完了後、左側の手術を開始してまもなく、麻酔医は無呼吸・心停止が生じたことに気付き、手術が中止された。ただちに気管内挿管、酸素増量(4L)心臓マッサージ、アドレナリン(商品名:ボスミン)、炭酸水素ナトリウム(同:メイロン)、塩化カルシウム、ヒドロコルチゾン(同:ソル・コーテフ)などを投与したところ、一時的に心室細動がみられた(当時この病院には除細動器は配備されていなかった)が、結局蘇生することはできず、死亡確認となった。当事者の主張患者側(原告)の主張1.心停止の原因舌根沈下を原因とする気道狭窄による換気不全から酸欠状態が生じ、さらに麻酔薬の過剰投与が加わって呼吸抑制を助長させ、心筋機能の抑制が相まって心停止となった2.問診および術前検査義務全身麻酔を施行するに当たっては、患者の問診、バイタルサイン、心電図検査、電解質などの血液検査を行うべきであるのに、体温と体重を計ったのみで問診や術前検査を一切行わなかった3.救命措置心停止の危険がある麻酔手術を実施する医療施設でありながら除細動器を備えていないのは、明らかな過失である4.記録の改竄麻酔記録、看護記録、手術記録などは、手術の際に作成されたものではなく、それとはまったく別のものに書き換えられたものである病院側(被告)の主張1.心停止の原因何らかの心機能異常があった可能性はあるが、解剖していないため解明不可能である。担当医師は何度も解剖を勧めたが家族に拒否されたため、突発的変化の原因の解明ができなかった2.問診および術前検査義務外来で問診を含めた診察をして、理学的所見や全身状態から全身麻酔による手術について問題のないことを確認していた。念のため術前から心電図検査をしようとしたが、患者が泣いて興奮し協力が得られなかったため実施できなかった。電解質検査は当日では間に合わないので行わなかったが、それまでの診察の間に検査を実施しなければならないと思わせる所見や経過はなかった3.救命措置除細動器が配備されていなかったためにカウンターショックの蘇生術を行えなかったが、当院程度の診療所に除細動器の配備を求めるのは無理である4.記録の改竄麻酔記録、看護記録、手術記録などが改竄された事実はない。看護記録、麻酔記録とでは脈拍や血圧の数値に食い違いが多々あるが、そのような食い違いがそのままになっているということは記録に作為が加えられていないことを示すものであり、責任を逃れる目的で改竄が行われたというのであればそのような食い違いが一致するように改竄されるはずである裁判所の判断1. 心停止の原因心停止の原因は、麻酔薬の過剰投与による低酸素症、ないし換気不全による不整脈による可能性が高い。そして、術中の脈拍が80にまで低下した14:41頃までには、循環系の異常を疑いそのまま放置すれば心停止に至ることもあり得ることを予見するべきであった。2. 問診および術前検査義務本件のような幼児に、手術を行う際に通常行われるべき一般検査、心臓、肺そのほかの検査も行わないで手術を施すというのは、無謀な感を否めない。採血は泣いて嫌がる状態にあって危険だとするが、手術日前にこれらの諸検査を試みた形跡はない。3. 救命措置全身麻酔下の手術を行う診療所に除細動器を配備することのぜひについては、裁判所の判断を提示せず。4. 記録の改竄当時勤務していた元看護師の証言などから判断して、看護記録は担当医師の主導により手術の際に作成されていた看護記録とは別に作成されたものである。麻酔記録もまた、手術の際に作成されたものとは別に作成されたものと疑われる。原告側合計6,038万円の請求に対し、5,907万円の判決考察本件の最大の問題点は、鼠径ヘルニアというどちらかというと軽症の病気を治療する際に、採血やバイタルサイン測定といった基本的な術前診察を怠ったことと、事態の重大さに後から気付いて看護記録や麻酔記録を改竄したという、医療従事者としては恥ずべき行為をしたことにあると思います。経過をご覧になってほとんどの先生方がお気づきになったかと思いますが、いくら術前の診察で元気そうにみえた幼児であっても、全身麻酔下の手術を行う以上きちんとした診察をしなければならないのはいうまでもありません。担当医師は、患者が泣き騒いだため心電図検査を施行することができなかったとか、自院では血液検査ができず結果がすぐにわからないことを理由としてあえて術前の血液検査をしなかったと主張しましたが、そのような言い訳が通用しないのは明白であると思います。しかも、乳幼児のヘルニア手術でマスク麻酔とするのは、経験のある麻酔科医が担当し、かつ術者が一人前で手術が短時間で終了するケースが望ましいとされています。また、年齢が低い場合や両側手術の場合には気管内挿管の適応となります(小児外科.1999;31:13-16.)。したがって、両側のヘルニア手術でしかも麻酔科専門医が担当していない本件でマスク麻酔を用いたのは、杜撰な術前・術中管理といわれても抗弁の余地はないと思います。おそらく、「なあんだ、ヘルニアのケースか」という安易な気持ちで手術に臨んだのではないでしょうか。そのような認識の甘さがあったために「本件のような幼児に、手術を行う際に通常行われるべき一般検査、心臓、肺そのほかの検査も行わないで手術を施すというのは、無謀な感を否めない」とまで判決文に記載されました。しかも、医療過誤として問われることを危惧したためか、事後処理としてカルテを改竄したのは裁判官の心証を著しく悪くし、ほぼ患者側の要求通りの判決額へと至りました。裁判の中では、担当医師が改竄を指示した様子が次のように記載されています。「本件手術日の後日、担当医師らは手術時の経過、処置について確認、整理をする目的で婦長らを院長室に呼び、担当医師がすでに看護記録用紙に記載していた部分を除く空白部分の処置、経過について尋ね、空白部分を埋める形で看護記録のメモを作成した。そして、そのメモをもとに実際に手術時に作成されていた看護記録とは別の看護記録が作成された」という事実認定を行っています。そのなかでも、事件後当該病院を辞職した担当看護師が改竄目的の看護記録の空欄部分を埋めるように婦長から指示された時に、「偽証するんですね」と述べたことを裁判で証言したため、もはや記録の改竄は動かし難い事実として認定されました。同様にカルテの改竄が問題となったケースとして、「喘息様気管支炎と診断した乳児が自宅で急死したケース」がありますが、今回のように公的文書と同じ扱いを受けるカルテを改竄したりすると、それだけでも医療機関の信用を大きく失い、訴訟の場では著しく不利な立場に立たされることを肝に銘じておかなければなりません。なお本件では裁判所の判断の通り、おそらく麻酔中の管理が悪かったために低酸素状態となり、ついには心停止を来した可能性が高いと思われます。ただし、もし病理解剖が行われたとしたら病院側の主張のように先天性心疾患などの別の原因がみつかったかもしれません。病理解剖を行わなかった理由として、「何度も勧めたが家族が拒否した」としていますが、本件のように死因が不詳のケースで家族から解剖の同意が得られないような場合には、「異状死体」として警察官による行政検視、さらには行政解剖を行うという道もあります。われわれ医師の感覚として、警察署に届け出るという行為自体が医療過誤を認めることにつながるのではないかという懸念があるとは思いますが、数々の紛争事案をみる限り、担当医師の立場で医療過誤ではないことを証明するには病理解剖が最大の根拠となります。したがって、「自分の医療行為は間違っていないのに、その結果が悪かった」というケースでは、紛争に巻き込まれることも考えてぜひとも病理解剖をするべきであると思います。小児科

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