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違法薬物使用への簡易介入は効果なし/JAMA

 プライマリ・ケアのスクリーニングで特定した不健全な薬物使用について、簡易介入(brief intervention)では効果がないことが明らかにされた。米国・ボストン大学公衆衛生大学院のRichard Saitz氏らが無作為化試験の結果、報告した。米国では、不健康なアルコール摂取への介入効果をエビデンスの1つとして、違法薬物使用および処方薬誤用についての大がかりなスクリーニングと簡易介入が行われているという。しかし有効性のエビデンスはなく、プライマリ・ケアでは一般的な予防サービスとしてそうした介入を推奨していなかった。JAMA誌2014年8月6日号掲載の報告。専門性に基づく簡易介入群vs. 簡易介入なし群で効果を比較 研究グループは、不健康な薬物使用(違法薬物使用または処方薬誤用)への効果的な介入とされる2つのカウンセリング方法、すなわち簡易ネゴシエート面接(brief negotiated interview:BNI)と動機付け面接(motivational interviewing:MOTIV)と、それら簡易介入を行わない対照群の3群を比較し、有効性について検討した。 試験は、ボストン都市部の病院をベースとしたプライマリ・ケアの内科で行われた。2009年6月~2012年1月にスクリーニングにより特定された(飲酒、喫煙、薬物関与のスクリーニング検査[ASSIST]で薬物特異的スコアが4以上)528例の薬物使用患者を対象とした。 BNI群では構造化面接法を用いた健康教育が10~15分行われ、MOTIV群では動機付け面接に基づく30~45分の介入と20~30分のブースター介入が、修士号取得者レベルのカウンセラーによって行われた。また試験参加者全員に、薬物依存症の治療および互助リソースが示されたリストが渡された。 主要アウトカムは、各被験者が特定した過去30日間に使用した主な薬物について、追跡6ヵ月時点で使用していた日数であった。副次アウトカムには、自己申告の使用薬物量、毛髪検査による薬物使用、ASSISTスコア(重症度)、薬物使用の影響、安全でない性交、互助ミーティングへの出席、ヘルスケアサービスの利用などを含んだ。介入3群間に有意差なし 試験開始時に、被験者が報告した主な使用薬物は、マリファナ63%、コカイン19%、オピオイド17%であった。 6ヵ月時点で98%が追跡調査を完了した。同時点での主な薬物使用の平均補正後日数は、簡易介入なし群で12日に対し、BNI介入群は11日(発生率比[IRR]:0.97、95%信頼区間[CI]:0.77~1.22)、MOTIV群は12日(同:1.05、0.84~1.32)であった(両比較群vs. 簡易介入群のp=0.81)。 また、その他アウトカムへの効果に関してもBNIまたはMOTIVの有意差はみられず、さらに薬物別や薬物使用重症度で分析した場合も有意な効果はみられなかった。 これらの結果を踏まえて著者は、「簡易介入は、スクリーニングで特定したプライマリ・ケア患者の、不健全な薬物使用を減らす効果はなかった。これらの結果は、違法薬物使用および処方薬誤用のスクリーニングと簡易介入の大がかりな実施を支持しないものであった」とまとめている。

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Vol. 2 No. 4 オメガ3系多価不飽和脂肪酸と心血管イベント 臨床的側面からその意義を考える

木島 康文 氏岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 循環器内科学はじめに動脈硬化プラークに蓄積しているのはコレステロールである。コレステロールの中でも特に低比重リポ蛋白コレステロール(low density lipoprotein cholesterol:LDL-C)と心血管疾患との関連性については広く認知されており、それに対して、スタチンの投与は、心血管イベントの1次予防、2次予防、ハイリスク群に対する投与のいずれにおいても20~30%の相対リスク減少をもたらす1)。では、これで十分かといえば、残りの70%を超える症例がスタチンを投与されているにもかかわらず、心血管イベントを起こしていることになる。すなわち、スタチン単独療法には限界があることを示しており、近年“残余リスク”として注目されている。『動脈硬化性疾患予防ガイドライン』では心血管リスク因子がない患者群に対して、リスクの高い患者群ではより低いLDL-Cの目標値が設定されている。これはLDL-Cの“質”がリスク因子の影響を受けることを意味している。つまり、これからは心血管リスク因子としての脂質においてはLDL-Cの量とともにリポ蛋白の“質”により注目すべきといえる。リポ蛋白の“質”に影響を及ぼす残余リスクに、多価不飽和脂肪酸(polyunsaturated fatty acid:PUFA)のバランス異常がある。具体的には、アラキドン酸(arachidonic acid:AA)に対するエイコサペンタエン酸(eicosapentaenoic acid:EPA)の相対的低下に代表される、オメガ6系PUFAとオメガ3系PUFAのバランス異常である。オメガ3系PUFAの代表的なものとして魚介由来のEPAやドコサヘキサエン酸(docosahexaenoic acid:DHA)と植物由来のα-リノレン酸(alpha-linolenic acid:ALA)がある。これらオメガ3系PUFAには中性脂肪低下作用だけでなく、血小板凝集抑制作用、抗炎症作用、プラーク安定化作用、抗不整脈作用、自律神経調節作用などの多面的効果を有し、これらの効果を介し心血管系に保護的に働くと考えられる。本稿ではオメガ3系PUFAと心血管イベントとの関係について臨床的側面を中心に述べる。オメガ3系PUFAと心血管イベントの関係:その根拠は?オメガ3系脂肪酸の最初のエビデンスは疫学調査によるものである。1970年代に、デンマーク領グリーンランドのイヌイットでは、デンマークの白人に比し、心筋梗塞・狭心症による死亡率が有意に低いことが報告された(白人34.7% vs. イヌイット5.3%)2)。食事内容を比較すると、総摂取エネルギーに対する脂肪の割合はいずれも約40%であったが、白人は主に牛や豚から、イヌイットは主に魚や(魚を大量に摂取する)アザラシから脂肪を摂取していた3)。また、血清コレステロールエステル中にイヌイットではEPAが15.4%存在し、AAが0%であったのに対し、白人ではそれぞれ0%、4.4%と著しい差を認めた。これにより、虚血性心疾患による死亡には脂肪の“質”が関与していることが示唆され、オメガ3系PUFAの心血管イベント抑制効果が注目されることとなった。1985年に、オランダの50~69歳男性852人を20年間追跡し、30g/日以上の魚介を食べる人はまったく食べない人と比べて虚血性心疾患による死亡が約半分であったことが報告された4)。その後、アメリカの40~55歳の健常男性を追跡調査した結果では、35g/日以上の魚介類摂取を行っている場合には心筋梗塞による死亡の相対危険率は0.56で、冠動脈疾患全体では0.62と、魚介類摂取による死亡抑制効果が認められた5)。また、アメリカのPhysicians' Health Studyにおいて、40~80歳までの医師20,551人を対象として最長17年間追跡調査した報告では、週1回以上の魚介類摂取習慣と心臓突然死との関連性が認められた。そして、実際の血清サンプル脂肪酸解析から突然死群のオメガ3系PUFAが対照群と比べて有意に低値であることも報告された6)。そのほかにも、イギリスにおける心筋梗塞後患者の追跡比較試験では、魚介類摂取指導がある群ではない群と比較して総死亡、虚血性心疾患死が有意に少なくなっていたことも報告されている7)。一方、日本人の冠動脈疾患の発症率は欧米に比し低いものの、近年その増加が指摘されている。国民1人当たりの魚介類消費量と男性における冠動脈疾患による死亡率を国別に比較すると、魚介類消費量と冠動脈疾患死の間には明らかな負の相関が認められる。欧米に比べて日本人の魚介類の摂取量は多く、冠動脈疾患の死亡率は低い。このことより、魚介類の摂取量が多いから日本人は冠動脈疾患が少ないものと考えられてきた。近年、日本人が摂取する脂肪の割合は増加しており、増加した脂肪の多くがオメガ6系PUFAに属する動物性油や植物性油である。それに対し、魚介由来のオメガ3系PUFAの摂取量は低下してきている。つまり、本邦における脂肪酸摂取の“質”は近年変わりつつあるといえる。本邦における総脂肪に対するEPAの推定比と脳梗塞あるいは虚血性心疾患による死亡率の経年的変化をみると、1950年代から総脂肪に対するEPAの推定比が低下するとともに、脳梗塞あるいは虚血性心疾患による死亡が増加している8)。これは、オメガ3系PUFAの摂取の減少が動脈硬化性疾患の増加に関与していることを示唆する所見と考えられる。実際に本邦のJapan Public Health Center-Based(JPHC)Study CohortⅠでは、40~59歳までの一般人41,578人を対象として約11年間の追跡調査を行っているが、魚介摂取量に準じて分割された5つの集団において、最も摂取量の多い群では最も少ない群に比べて冠動脈疾患のリスクが37%、心筋梗塞のリスクが56%低値であったと報告された(本誌p.10図を参照)9)。オメガ3系PUFAによる心血管イベントの抑制効果:その効果は?オメガ3系PUFAによる大規模な介入研究としては、これまで2つの報告がなされている。イタリアのGISSI-Prevenzione Trialでは、3か月以内に心筋梗塞に罹患した男性11,324人を対象とし、1g/日のオメガ3系PUFA(EPA+DHA)摂取群、ビタミンE摂取群、両者の摂取群、対照群の4群に分けて約3.5年間追跡調査したところ、オメガ3系PUFA摂取群では対照群に比べ、心血管死亡が30%、総死亡が20%の相対的低下を認め、併用群でも同様であったことが報告された10)。その後の再解析で、オメガ3系PUFAの総死亡や突然死、心血管死の抑制効果が比較的早期から認められる可能性が報告された(本誌p.11図aを参照)11)。一方本邦では、1996年から日本人の高脂血症患者における高純度EPA製剤による冠動脈イベントの発生抑制効果を検討するため、世界初の大規模無作為比較試験JELIS (Japan EPA Lipid Intervention Study)が実施された。JELISでは、高コレステロール患者18,654例(総コレステロール≧250mg/dL、男性:40~75歳、女性:閉経後~75歳)を対象に、スタチン単独投与群(対照群)とスタチンに高純度EPA製剤1.8g/日を追加投与した群(EPA群)で、約5年間、主要冠動脈イベントの発症を比較検討した。その結果、EPA群では対照群と比較して、主要冠動脈イベントが19%抑制され、特に2次予防における抑制効果が認められた(本誌p.11図bを参照)12)。次に、JELISの1次予防サブ解析の結果によると、中性脂肪(triglyceride:TG)≧150mg/dLかつ高比重リポ蛋白コレステロール(high density lipoprotein cholesterol:HDL-C)<40mg/dLの高リスク群では、正常群に比し主要冠動脈イベント発症は有意に高く、この患者群では、EPAの追加投与により主要冠動脈イベント発症が53%抑制された(本誌p.12図aを参照)13)。2次予防のサブ解析では、心筋梗塞の既往かつ冠動脈インターベンション施行例では、EPA群において主要冠動脈イベント発症が41%抑制されることが報告され14)、この患者群における高純度EPA製剤の積極的投与を支持する結果であった。ほかにも、サブ解析の結果、脳梗塞再発予防や末梢動脈疾患の冠動脈イベント予防に有効であることが示されている15, 16)。オメガ3系PUFAを臨床に生かす:その対象は?オメガ3系PUFAが心血管イベントに対する抑制効果を有することはわかってきたといえるが、それではどのような患者群で強い抑制効果が見込めるのだろうか?EPA/AA比を指標として、オメガ3系PUFAが不足している患者に投与しようと考えるのは妥当なことといえる。JELIS脂肪酸サブ解析で、EPA/AA比をもとに冠動脈イベント発生リスクを検討した結果では、EPA/AA比が0.5以上の高値群では低値群に比べて冠動脈イベントリスクに有意差を認めなかった。これに対して、0.75以上の高値群では低値群に比べ冠動脈イベントリスクに有意差が認められた17)。このことから、EPA/AA比0.75以上の維持が心血管イベント抑制につながる可能性が示唆されたといえる。また、JELISの1次予防サブ解析では、高TGおよび低HDL-C群でその他の群に比べイベント発生率が高いことが明らかとなった。そして、この群においてEPAの冠動脈イベントの抑制効果が強く現れていた(本誌p.12図aを参照)。また、このJELISの糖代謝異常に注目したサブ解析でも、糖代謝異常を有する患者群では血糖の正常患者群に比べて冠動脈イベント発生率が高かった。また、この糖代謝異常群においては、HbA1c値やLDL-C値によらず、EPA群のイベント発生リスクが対照群に比べて22%抑制されたことも報告された(本誌p.12図bを参照)18)。つまり、これらはdiabetic dyslipidemiaとも称されるインスリン抵抗性を基盤とした脂質異常をきたしている患者群が、EPA投与のよい適応となる可能性を示しているともいえる。オメガ3系PUFAは各ガイドラインに記載もあるが、高リスク症例の心血管イベントの抑制に有用であるとされている。つまりは、LDL-Cの量を十分に低下させてもイベントを抑制できないような残余リスクが問題となる高リスク症例に対して、リポ蛋白の“質”を改善することでイベント抑制効果がより顕著に発揮されるといえるのではないだろうか。おわりに魚介類摂取およびオメガ3系PUFAと心血管イベントとの関連性についてはほぼ確立されているものの、日本人が伝統的に欧米人と比べ魚介摂取量が多いことを考慮すると、欧米の研究結果をそのまま日本人にあてはめることには抵抗を感じる方も少なくないだろう。JELISは、欧米人よりも一般的にEPA/AA比が高い日本人においてもオメガ3系PUFAが心血管イベントをさらに抑制する可能性を示したといえる。メタボリックシンドロームの増加などが進む本邦において、diabetic dyslipidemiaの増加は今後も予想されている。若者の魚離れが重なることで、脂肪酸の“質”の根幹をなす魚介由来のオメガ3系PUFAの重要性は日本人においてもさらに増し、循環器領域の臨床に携わる医師にとってこの領域の知識は必須となるものと考えられる。不整脈や心不全などオメガ3系PUFAとの関連性が議論されている循環器領域も含めて、今後さらなるエビデンスの確立が期待される。文献1)Alagona P. Beyond LDL cholesterol: the role of elevated triglycerides and low HDL cholesterol in residual CVD risk remaining after statin therapy. Am J Manag Care 2009; 15: S65-73.2)Dyerberg J et al. A hypothesis on the development of acute myocardial infarction in Greenlanders. Scand J Clin Lab Invest Suppl 1982; 161: 7–13.3)Bang HO et al. The composition of the Eskimo food in north western Greenland. Am J Clin Nutr 1980; 33: 785-807.4)Kromhout D et al. The inverse relation between fish consumption and 20-year mortality from coronary heart disease. N Engl J Med 1985; 312:1205-1209.5)Daviglus ML et al. Fish consumption and the 30 year risk of fatal myocardial infarction. N Engl J Med 1997; 336: 1046-1053.6)Albert CM et al. Blood levels of long-chain n-3 fatty acids and the risk of sudden death. N Engl J Med 2002; 346: 1113-1118.7)Burr ML et al. Effects of changes in fat, fish, and fibre intakes on death and myocardial reinfarction: diet and reinfarction trial (DART). Lancet 1989; 2: 757-761.8)厚生統計協会: 国民衛生の動向, 厚生の指標. 1989; 36: 48.9)Iso H et al. Intake of fish and n3 fatty acids and risk of coronary heart disease among Japanese:the Japan Public Health Center-Based (JPHC)Study CohortⅠ. Circulation 2006; 113: 195-202.10)GISSI-Prevenzione Investigators. Dietary supplementation with n-3 polyunsaturated fatty acids and vitamin E after myocardial infarction:results of the GISSI-Prevenzione trial. Gruppo Italiano per lo Studio della Sopravvivenza nell’Infarto miocardico. Lancet 1999; 354: 447-455.11)Marchioli R et al. Early protection against sudden death by n-3 polyunsaturated fatty acids after myocardial infarction: time-course analysis of the results of the Gruppo Italiano per Io Studio della Sopravvivenza nell’Infarto Miocardico (GISSI) -Prevenzione. Circulation 2002; 105: 1897-1903.12)Yokoyama M et al. Effects of eicosapentaenoic acid on major coronary events in hypercholesterolaemic patients (JELIS): a randomized open-label, blinded endpoint analysis. Lancet 2007; 369: 1090-1098.13)Saito Y et al. Effects of EPA on coronary artery disease in hypercholesterolemic patients with multiple risk factors: sub-analysis of primary prevention cases from the Japan EPA Lipid Intervention Study (JELIS). Atherosclerosis 2008;200: 135-140.14)Matsuzaki M et al. Incremental effects of eicosapentaenoic acid on cardiovascular events in statin-treated patients with coronary artery disease. Circ J 2009; 73: 1283-1290.15)Tanaka K et al. Reduction in the recurrence of stroke by eicosapentaenoic acid for hypercholesterolemic patients: subanalysis of the JELIS trial. Stroke 2008; 39: 2052-2058.16)Ishikawa Y et al. Preventive ef fects of eicosapentaenoic acid on coronary artery disease in patients with peripheral artery disease. Circ J 2010; 74: 1451-1457.17)Itakura H et al. Relationships between plasma fatty acid composition and coronary artery disease. J Atheroscler Thromb 2011; 18: 99-107.18)Oikawa S et al. Suppressive effect of EPA on the incidence of coronary events in hypercholesterolemia with impaired glucose metabolism: Sub-analysis of the Japan EPA Lipid Intervention Study (JELIS). Atherosclerosis 2009; 206: 535-539.

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リーダーが病院を変える~変革者たちの軌跡と挑戦~ メディカルコーチング研究会・総会開催

7月19日、東京大学(東京都文京区)においてメディカルコーチング研究会・総会が開催され、全国から200人を超える医師、医療関係者が参集した。今回は「リーダーが病院を変える~変革者たちの軌跡と挑戦~」をテーマに、メディカルコーチングを導入している医療機関より5人の演者がコーチング導入とその効果を講演した。●開会挨拶はじめにメディカルコーチング研究会 世話人代表である安藤 潔氏(東海大学医学部 血液・腫瘍内科 教授)が登壇。メディカルコーチングが対患者、対部下のものから、医療機関全体に広がっている現状について触れ、「医療が高度化、複雑化する中で、医療機関やその組織風土の在り方が問われている。組織を変えるとき、つくるときに必要となるシステミック・コーチングについて今日は実際にコーチングを取り入れている3つの組織の具体的な事例を聞くことで役立ててもらいたい」と開会挨拶を行った。■事例-海老名総合病院 (神奈川県海老名市)講演1●「変える? いや、『変わる』でした」内山 喜一郎氏(JMA海老名総合病院 院長)恩田氏が、メディカルコーチングを受講したきっかけは、院長の内山氏にステークホルダー(リーダーからコーチングを受ける人)に指名されたこと。プロジェクト参加のうえでは「考えて行動する組織づくり」を目指したという恩田氏は、部下を信頼し仕事を任せ、新しい気付きを生む質問の投げかけを心がけるとともに、目標づくりをサポートし、達成できるように行動したことなどの実体験を語った。コーチングを行っていく工夫として、失敗したらその要因分析と次への方策をステークホルダーと対話すること、部下の失敗には信頼と忍耐で見守るスタンスを取り、相手の限界を引き上げるように接していくことがカギとコーチングのコツを伝えた。メディカルコーチングの受講を経て、コミュニケーションのやり方を変えただけでリーダーとして変容し、目標達成ができるようになったと語り、「一番自分が成長させてもらった体験だった」と感想を述べた。■事例-東北大学病院 (宮城県仙台市)講演3●「高度専門医療チーム活性化におけるコーチングの活用~東北大学病院での取組み~」出江 紳一氏(東北大学大学院 医工学研究科 リハビリテーション医工学分野 教授)演者による講演終了後、質疑応答となり活発な議論が行われた。最後に世話人代表の安藤氏が、「医療機関へのコーチングの導入とその実際について、今日は示唆に富んだお話を聞くことができた。とくにコーチング効果のエビデンスについては、今後も検証し、導入時に吟味できるようにする必要がある。今日の経験を持ち帰り、役立てていただきたい」と閉会の挨拶を述べた。インデックスページへ戻る

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模擬証人尋問でわかる医事裁判 被告人になり尋問されることは何?

医師資格を持つ3人の弁護士、大磯義一郎氏(浜松医科大学)、富永愛氏(富永愛法律事務所)および小島崇宏氏(大阪A&M法律事務所)が、「模擬証人尋問」を通じて実際の医事裁判の模様を伝える催しが、6月2日横浜市立大学附属病院にて開催された。この催しは、約3ヵ月に1回の割合で全国の大学医学部などで医師、医療従事者、医学生を対象に開催されているものであり、今回は同院の安全管理者会議の一環として開催された。ケアネットでは、同院医療安全管理室のご厚意により、当日の模様を収録。医師が医事裁判で被告の立場に置かれた場合、原告・被告双方からどのような尋問がなされるのか、なかなか垣間見ることのできない模擬尋問の内容を動画ダイジェストでお届けする。事例概要●患者概要患者42歳 男性職業自営業(製靴業)既往歴虫垂炎(18歳・手術)、胆石(36歳)、右肩関節痛(現在被告病院にて加療中)家族歴特記事項なし家族構成妻、子(14歳中学生)嗜好タバコ 15本/日(15歳から)飲酒 5合位/日現病歴右肩関節痛にて被告病院整形外科受診中の患者。整形外科にて肝機能障害指摘。飲酒量も多いことから精査・加療目的で紹介受診となる。●初診時現症(2010年5月21日)主訴肝機能障害指摘身体所見 体温36.6℃、血圧144/88、脈拍60/分、眼瞼結膜 貧血なし、眼球結膜 黄染なし、胸部聴診上異常なし、腹部平坦、軽度膨隆あり、圧痛なし、肝2横指触知、脾臓触知せず、下腿浮腫なし検査所見WBC 7800/μL、RBC 490/μL、Plt 15万/μL、AST 55IU/L、ALT 79IU/L、LDH 592IU/L、γ-GTP 432IU/L、T-Bil 1.6mg/dL、D-Bil 0.9mg/dL、TP 5.8g/dL、Alb 3.4g/dL、BUN 12mg/dL、Cre 0.68mg/dL、Na 139mEq/L、K 4.0mEq/L、Cl 102mEq/L、UA 8.3mg/dL、BS 132mg/dL●診療の時間経過●裁判の経過患者の死亡を受けて、患者家族が主治医の診断の見落としを疑い、弁護士へ相談。その後に裁判へと発展した。本コンテンツは、その裁判の流れの中での被告医師への尋問を模したものである。●参考資料 民事紛争の流れと医事裁判の流れ模擬証人尋問(ダイジェスト)(監修:大磯義一郎氏、富永愛氏、小島崇宏氏)●裁判用語ミニ解説宣誓証人は宣誓した上で証言を求められる。これは、宣誓という手続きの下で証言内容の真実性を担保するものであり、自分の記憶や意思と異なることを証言すると裁判で敗訴する可能性が高まるだけでなく、刑法169条[偽証罪]により処罰の対象となる。証拠裁判中で「甲1号証」という言葉がでてくる。これは原告(患者側)が提出する証拠が甲○号証、被告(病院側)が提出する証拠が乙○号証となる。丸には提出した順番に数字が入っていくもので、本件では、患者の診療録や肝癌診療ガイドラインなどが証拠として提出された。まとめ(クリックすると下へ開きます) ●証人尋問を終えて 参加者の判断参加者が裁判官の立場で双方の弁論を判断して投票した結果、原告勝訴(23票)、被告勝訴(32票)となり「原告の請求棄却(病院側勝訴)」という結果になった。また、日常診療の際に医療側が注意すべきポイントとして、なるべくカルテへの記載は、丁寧に行う。病状説明の内容、診療の見通しの説明などカルテに記載があれば、裁判になっても事実認定で争われても重要な証拠となる診療時間が限られる中で、パンフレットなどを準備し、渡している姿勢を示す、パンフレットに書き込みなどをして、説明しているという跡を残すなども重要患者に連絡がつかない場合、できる限りの連絡をした旨の内容を示せば訴訟になった場合に考慮されるなどの現場で役立つ内容がアドバイスされた。●実際の医事裁判から学べるコンテンツはこちら。MediLegalリスクマネジメント

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抗グルタミン酸受容体抗体が神経疾患に重大関与か

 グルタミン酸は中枢神経系(CNS)の主な興奮性神経伝達物質であり、多くの主要な神経機能に必要な物質である。しかし、過剰なグルタミン酸はグルタミン酸受容体活性化を介した有害な興奮毒性により、重度の神経細胞死と脳害を引き起こす。イスラエル・School of Behavioral Sciences, Academic College of Tel-Aviv-YafoのMia Levite氏は、抗グルタミン酸受容体抗体に関して、これまでに得られている知見をレビューした。抗AMPA-GluR3B抗体、抗NMDA-NR1 抗体、抗NMDA-NR2A/B抗体、抗mGluR1抗体、抗mGluR5抗体、以上5種類の抗グルタミン酸受容体抗体について言及し、いずれもさまざまな神経疾患に高頻度に認められ、神経系にきわめて有害な影響を及ぼしていることを示唆した。Journal of Neural Transmission誌オンライン版2014年8月号の掲載報告。 グルタミン酸による興奮毒性は、多くのタイプの急性および慢性CNS疾患および傷害に生じる主要な病理学的プロセスである。近年、過剰なグルタミン酸だけでなく、いくつかのタイプの抗グルタミン酸受容体抗体もまた、重度の脳傷害を引き起こしうることが明らかになってきた。抗グルタミン酸受容体抗体は神経疾患患者の血清および脳脊髄液(CSF)中に存在し、CNSにおいて何らかの強い病理学的影響を誘導することにより、脳に傷害を引き起こす。抗グルタミン酸受容体自己免疫抗体ファミリーは、これまでに開発されたなかで最も広範かつ強力、危険で興味深い抗脳自己免疫抗体だと思われる。ヒトの神経疾患および自己免疫疾患において種々のタイプの抗グルタミン酸受容体抗体が認められ、髄腔内産物に由来しCNS内に高濃度存在し、脳にさまざまな病理学的影響を及ぼし、またユニークかつ多様なメカニズムでグルタミン酸受容体とシグナル伝達に作用し、神経伝達を障害して脳に傷害を誘導する。2つの主な自己免疫抗グルタミン酸受容体抗体ファミリーが神経および/または自己免疫疾患患者においてすでに発見されており、抗AMPA-GluR3抗体、抗NMDA-NR1抗体、抗NMDA-NR2抗体などイオンチャンネル型のグルタミン酸受容体に直接作用する抗体、そして抗mGluR1抗体、抗mGluR5抗体など代謝型のグルタミン酸受容体に直接作用する抗体などがCNSに有害な影響を及ぼすことが示されている。 この包括的レビューでは、それぞれの抗グルタミン酸受容体抗体について、発現が認められたヒト疾患、神経系における発現と産物、さまざまな精神/行動/認知/運動障害との関連、特定の感染臓器との関連の可能性、マウス、ラット、ウサギなど動物モデルにおけるin vivoでの有害な作用そしてin vitroにおける有害な作用、多様でユニークなメカニズム、以上についてそれぞれの抗グルタミン酸受容体抗体別に言及する。また、これら抗グルタミン酸受容体抗体を有し、さまざまな神経疾患および神経系の問題を抱える患者における免疫療法に対する反応性についても言及する。5種類の抗グルタミン酸受容体抗体について、それぞれ項目を立て有用な図を用いて解説し、最後にすべての主要な知見をまとめ、診断、治療、ドラッグデザインおよび今後の検討に関する推奨ガイドラインを提示する。 ヒトを対象とした試験、in vitro試験、マウス、ラット、ウサギなど動物モデルを用いたin vivo試験から、5種類の抗グルタミン酸受容体抗体に関して得られた知見は以下のとおり。(1)抗AMPA-GluR3B抗体・さまざまなタイプのてんかん患者で~25~30%に認められる。・てんかん患者にこれら抗グルタミン酸受容体抗体(またはその他のタイプの自己免疫抗体)を認める場合、およびこれら自己免疫抗体がしばしば発作や認知/精神/行動障害を誘発または促進していると思われる場合、てんかんは“自己免疫性てんかん”と呼ばれる。・“自己免疫性てんかん”患者の中には、抗AMPA-GluR3B抗体が有意に精神/認知/行動異常に関連している者がいる。・in vitroおよび/または動物モデルにおいて、抗AMPA-GluR3B抗体自身が多くの病理学的影響を誘発する。すなわち、グルタミン酸/AMPA受容体の活性化、“興奮毒性”による神経細胞死、および/または補体調節タンパク質による補体活性化により脳への複数のダメージ、痙攣誘発化学物質による発作、行動/運動障害の誘発などである。・抗AMPA-GluR3B抗体を有する“自己免疫性てんかん”患者の中には、免疫療法に対する反応性が良好で(時々一過性ではあるが)、発作の軽減および神経機能全体の改善につながる者がいる。(2)抗NMDA-NR1 抗体・自己免疫性“抗NMDA受容体脳炎”に認められる。・ヒト、動物モデルおよびin vitroにおいて、抗NMDA-NR1抗体は海馬神経に発現している表面NMDA受容体を著しく減少させうること、そしてNMDA受容体のクラスター密度ならびにシナプス性局在もまた減少させることから重要な病因となりうる。・抗NMDA-NR1抗体は、NMDA受容体と架橋結合およびインターナリゼーションを介してこれらの作用を誘発する。・このような変化はNMDA受容体を介するグルタミン酸シグナル伝達を障害し、さまざまな神経/行動/認知/精神の異常を来す。・抗NMDA-NR1抗体は、その髄腔内産物により抗NMDA受容体脳炎患者のCSF中にしばしば高濃度に認められる。・抗NMDA受容体脳炎患者の多くは、いくつかの免疫療法に良好に反応する。(3)抗NMDA-NR2A/B抗体・神経精神的問題の有無にかかわらず、全身性エリテマトーデス(SLE)患者の多くに認められる。・抗NMDA-NR2A/B抗体を有するSLE患者の割合は報告により14~35%とさまざまである。・ある1件の試験では、びまん性神経精神的SLE患者の81%、焦点性“神経精神的SLE”患者の44%で抗NMDA-NR2A/B抗体が認められることが報告されている。・抗NMDA-NR2A/B抗体は、いくつかのタイプのてんかん、いくつかのタイプの脳炎 (慢性進行性辺縁系脳炎、傍腫瘍性脳炎または単純ヘルペス性脳炎など)、統合失調症、躁病、脳卒中またはシェーグレン症候群患者にも認められる。・患者の中には、抗NMDA-NR2A/B抗体が血清とCSFの両方に認められる者がいる。・dsDNAと交差反応する抗NMDA-NR2A/B抗体もある。・いくつかの抗NMDA-NR2A/B抗体は、SLE患者の神経精神/認知/行動/気分障害と関連している。・抗NMDA-NR2A/B抗体は、NMDA受容体の活性化により神経死をもたらすこと、“興奮毒性”を誘発して脳を傷害する、膜NMDA受容体発現の海馬神経における著明な減少、そして動物モデルにおいて認知行動障害を誘発することなどから、病因となりうることは明らかである。・しかし、抗NMDA-NR2A/B抗体の濃度は、グルタミン酸受容体に対するポジティブまたはネガティブな影響、神経の生存を決定付けていると思われる。・このため、低濃度において抗NMDA-NR2A/B抗体は受容体機能のポジティブモジュレーターであり、NMDA受容体を介した興奮性シナプス後電位を増加させる一方、高濃度ではミトコンドリア膜透過性遷移現象を介した“興奮毒性”を促進して病因となる。 (4)抗mGluR1抗体・これまでに、少数の傍腫瘍性小脳運動失調患者に認められており、これら患者では髄腔内で産生されるため血清中よりもCSF中濃度のほうが高い。・抗mGluR1抗体は、基本的な神経活性の減弱、プルキンエ細胞の長期抑圧の誘導阻害、プルキンエ細胞の急性および可塑反応の両方に対する速やかな作用による脳運動調節欠乏、慢性的な変性などにより脳疾患のきわめて大きな原因になりうる。・抗mGluR1抗体をマウス脳に注射後30分以内に、マウスは著しい運動失調に陥る。・運動失調患者に由来する抗mGluR1抗体は、動物モデルにおいて眼球運動もまた障害する。・抗mGluR1抗体を有する小脳性運動失調患者の中には、免疫療法が非常に効果的な者がいる。(5)抗mGluR5抗体・これまでに、ホジキンリンパ腫および辺縁系脳炎(オフェリア症候群)患者の血清およびCSF中にわずかに認められている。・抗GluR5抗体を含むこれら患者の血清は、海馬の神経線維網およびラット海馬ニューロン細胞表面と反応し、培養ニューロンを用いた免疫沈降法および質量分析法により抗原がmGluR5であることが示された。 以上のエビデンスから、著者は「抗グルタミン酸受容体抗体は、これまでに認識されていた以上にさまざまな神経疾患に高頻度に存在し、神経系に対してきわめて有害であることがわかった。したがって、診断、治療による抗グルタミン酸受容体抗体の除去あるいは鎮静化、および将来の研究が求められる。広範な抗グルタミン酸受容体抗体ファミリーに関しては、興味深く、新規でユニークかつ重要であり、将来に向けた努力はいずれも価値があり必須であることがわかった」とまとめている。関連医療ニュース 精神疾患におけるグルタミン酸受容体の役割が明らかに:理化学研究所 精神疾患のグルタミン酸仮説は支持されるか グルタミン酸作動薬は難治性の強迫性障害の切り札になるか

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パッチテスト反応の違い、アトピー vs 接触皮膚炎

 接触感作性のパターンについて、アトピー性皮膚炎を有する患者と有さない患者の違いをパッチテスト反応で検討した結果、陽性反応の頻度は同程度であることが明らかにされた。ただし、複数の陽性反応を示した割合は、重度のアトピー性皮膚炎患者が軽度/中等度の同患者と比べて有意に高かったという。デンマーク・コペンハーゲン大学のKim Katrine Bjerring Clemmensen氏らが記述研究を行い報告した。アトピー性皮膚炎と接触皮膚炎は病態が共通しているが、両者間の関連性の理解は明確になっていない。Contact Dermatitis誌2014年8月号(オンライン版2014年4月4日号)の掲載報告。 検討は2009年1月~2013年1月に、Bispebjerg and Roskilde病院でパッチテストを受けた全患者の臨床データベースを用いて行われた。その中から、パッチテストの結果、アトピー性皮膚炎の情報および人口統計学的データを入手し評価した。 重度のアトピー性皮膚炎の定義は、全身性の治療を受けている、または入院と定義した。その他のアトピー性皮膚炎を有する患者についても、軽度/中等度であるかの疾患定義を行った。 主な結果は以下のとおり。・検討には、2,221例の患者が組み込まれ。そのうちアトピー性皮膚炎患者は293例で、アトピー性皮膚炎を有さない患者は1,928例であった。・1つ以上のパッチテスト陽性反応を示したのは、アトピー性皮膚炎患者は41%、非アトピー性皮膚炎患者は46.2%であった(p=0.092)。・重度のアトピー性皮膚炎患者のほうが、それ以外のアトピー性皮膚炎患者と比べて、複数のパッチテスト陽性反応を示した(19.4%vs. 10.0%、p=0.046)。

4067.

軽度認知障害のPET検出、実用化への課題は

 アルツハイマー型認知症に起因するMCIの診断能は、アルツハイマー型認知症の診断基準として知られるNINCDS-ADRDA最新版に従い、画像バイオマーカーを使用することで上昇している。しかし、バイオマーカーの精度に関する系統的な評価は行われていなかった。中国医科大学のShuo Zhang氏らは、軽度認知障害(MCI)を検出する手段として11C-labelled Pittsburgh Compound-B(11C-PIB)リガンドを用いたPET検査の有用性をメタ解析により検討した。その結果、いくつかの試験で良好な感度が示されたが、方法やデータの解釈が標準化されていないことも明らかになった。解析結果を踏まえて著者は、「現段階では、実臨床において日常的に使用することは推奨できない」と述べ、「11C-PIB-PETバイオマーカーは高価な検査である。その普及に際しては精度ならびに11C-PIB診断方法のプロセスを明確かつ標準化することが重要である」とまとめている。Cochrane Database Systematic Reviewsオンライン版2014年7月23日号の掲載報告。 研究グループは、バイオマーカーの1つである11C-PIBリガンドを用いたPET検査の感度、特異度およびその他の特徴に関する系統的な評価を行い、一定期間中にアルツハイマー型認知症またはその他のタイプの認知症に移行すると思われるMCI患者を検出するうえでの、11C- PIB-PETスキャンの診断精度を明らかにした。 2013年1月12日時点でMedline、Embase、Biosis Previewsなどをソースとして論文を検索。言語や試験時期、方法論についても限定せず、ベースライン時の11C-PIB-PETスキャンでMCIとの診断を受けた患者が参加していた前向きコホート試験(NINCDS-ADRDAまたはDSM-IVなどの参照基準を用いていた試験のみ)を適格とした。データの抽出、評価は2名のレビュワーが独立して行った。 主な結果は以下のとおり。・MCIからアルツハイマー型認知症への移行を評価した試験は9件あったが、エビデンスの質は限定的であった。メタ解析には274例を組み込み、そのうちアルツハイマー型認知症を発症していたのは112例であった。・9件の試験から、アルツハイマー型認知症への移行率は中央値で34%であった。・PIBスキャンの方法および解釈については、試験間で著明な違いがみられた。・感度は83~100%、特異度は46%~88%であった。・11C-PIB によるアミロイド沈着の測定法や判定基準が試験間で異なっていたため、感度と特異度について一定の結果を導くことができなかった。・11C-PIB-PETスキャンの強弱を正確に描出できなかったが、ROC曲線に基づき感度96%(95%信頼区間[CI]:87~99)、特異度58%であると推測した。陽性尤度比2.3、陰性尤度比0.07に相当するものであった。・MCIからアルツハイマー型認知症への移行率が 34%と仮定した場合、PIBスキャン100件につき、陰性例1例がアルツハイマー型認知症に移行、陽性例28例が実際にはアルツハイマー型認知症に移行しないと推定された(試験の不均一性のためデータは限定的なものである)。・2件の感度解析を行い、参照基準の種類ならびに事前に規定された閾値による影響を評価したが、影響は認められなかった。関連医療ニュース たった2つの質問で認知症ルールアウトが可能 日本人若年性認知症で最も多い原因疾患は:筑波大学 軽度認知障害に有効な介入法はあるのか  担当者へのご意見箱はこちら

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分娩後の急性腎不全が増加した理由/BMJ

 カナダ・ブリティッシュコロンビア大学のAzar Mehrabadi氏らは、同国2003~2010年の分娩後急性腎不全について、発生率の動向や背景要因を調べた。その結果、同期間中に同国では発生率が61%増大しており、増大は高血圧症を有する妊産婦、とくに妊娠高血圧腎症を有する妊産婦に限定されたものであったことが判明したという。著者は、「なぜ妊娠高血圧症候群の妊産婦で増加したのか、原因を特定する研究が必要である」とまとめている。BMJ誌オンライン版2014年7月30日号掲載の報告より。2003~2010年のカナダ全分娩219万3,425件の記録を分析 分娩後急性腎不全は2000年代に入り、米国およびカナダで増加が報告されていたという。同時期には分娩時異常出血も増大しており、研究グループは、それが分娩後急性腎不全増加の要因となっているのか、または妊娠高血圧症候群やその他のリスク因子が要因なのかを、後ろ向きコホート研究にて調べた。 カナダ衛生情報局から、2003~2010年に記録されたカナダ(ケベック州を除く)全病院での分娩219万3,425件の記録を入手。分娩後急性腎不全をICD-10診断コードで特定し、その動向をロジスティック回帰分析法で評価した。妊娠高血圧腎症妊産婦では171%上昇、原因特定が求められる 結果、分娩後急性腎不全の発生率は、2003~2004年は1万分娩当たり1.66であったが、2009~2010年には同2.68へと上昇していた(増大率61%:95%信頼区間[CI]:24~110%)。 分娩時異常出血、高血圧症による障害、その他因子を補正しても時間的増大に影響はみられなかった。 分析により、急性腎不全の時間的増加は、分娩時に高血圧症による障害を有することに限定されたもので(補正後増大率:95%、95%CI:38~176%)、とくに妊娠高血圧腎症を有する妊産婦に限られると断定できた(同:171%、71~329%)。 一方で、高血圧症による障害のない妊産婦では、有意な増加はみられなかった(同:12%、-28~72%)。

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事例15 特定疾患療養管理料(佐薬に対する胃炎)の査定【斬らレセプト】

解説腰痛と慢性胃炎を主病とする患者に対してB000 特定疾患療養管理料を算定したところ、F100注5特定疾患処方管理加算と併せてC査定(医学的理由による不適当:社会保険)となった。慢性胃炎は、特定疾患療養管理料対象の「生活習慣病等の別に厚生労働大臣が定める疾患を主病」に該当している。では、なぜ査定されたのであろうか?事例をよく見ると、腰痛症に対して消炎鎮痛剤のロキソニン®が7日間処方されている。それと同一処方で慢性胃炎に対してセルベックス®が7日分処方されている。ロキソニン®服用に起因する副作用の胃炎に対する予防を目的に、消化性潰瘍用剤のセルベックス®が使用されていると考えられる。明らかに「主病である慢性胃炎」ではなく、佐薬として使用されたと認められるとして査定となったものである。「慢性胃炎」の病名があるからと言って、実質主病ではないと判断できる事例では、特定疾患療養管理料の対象とならない場合もあることに留意されたい。特定疾患処方管理加算も同様の理由で査定となっている。

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事例16 ガランタミン(商品名: レミニールOD錠)の査定【斬らレセプト】

解説アルツハイマーと診断した患者に、レミニール®OD錠を投与したところ、C査定(医学的理由による不適当:社会保険)となった。同薬剤の添付文書の用法用量には、「1日8mg(1回4mgを1日2回)から開始し、4週間後に1日16mg(1回8mgを1日2回)に増量し、経口投与する」とある。また、用法・用量に関連する使用上の注意には、「1日8mg投与は有効用量ではなく、消化器系副作用の発現を抑える目的なので、原則として4週間を超えて使用しないこと」も記載されている。一見これらからレセプト上では、問題ないように見える。しかし、診療開始日が6月13日であることからカルテを確認すると、診療開始日から投与があり、4週間以上が経過していたことが判明した。査定では、電子的縦覧点検により4週以上が認められなかったものと推測できる。医師は、診療録に消化管症状や精神症状を観察しながら、増量のタイミングを計っていたことを記載していた。レミニール®OD錠など、添付文書に使用方法が厳密に定められている薬剤に対して、使用方法から外れた投与を行なった場合には、あらかじめ医学的妥当性があったその理由をレセプトに記載して、判断を委ねることになる。

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境界性パーソナリティ障害でみられる幻覚の正体は

 境界性パーソナリティ障害(BPD)の約3分の1の患者で認められると報告されている幻覚症状について、フランス・リール第2大学のA. Gras氏らは、研究状況などをまとめるためレビューを行った。その結果、現状において同症状への理解は不十分であり、病態生理を明らかにする研究が必要であることを指摘した。Encephale誌オンライン版2014年7月22日号の掲載報告。境界性パーソナリティ障害の幻覚症状 本検討は、境界性パーソナリティ障害患者における幻覚症状への対処を模索することを目的に行われた。2013年3月時点でMedline、Scopus、Google Scholarデータベースを、「境界性パーソナリティ障害」「幻覚」「精神病症状」のキーワードを用いて論文を検索した。英語またはフランス語の査読を受けたジャーナルに発表されたレビュー論文で、DSM基準で診断されたBPD患者が試験登録されているものを適格とした。 境界性パーソナリティ障害の幻覚症状についての主な報告は以下のとおり。・1985~2012年に発表された15試験、被験者計635例のデータがレビューに組み込まれた。・BPDで観察された幻覚は現象学的経験で、統合失調症スペクトラムにおいて述べられる幻覚と同様に、鮮明で、持続的で、3次元的であり、悪意または万能性に関する信念が認められるものであった。その一方で、幻覚の内容はよりネガティブで苦痛に満ちたものであった。・こうした症状は長い間、「偽性幻覚(または幻覚様症状)」とみなされてきたことも本レビューによって判明した。・またそうした捉え方が、科学的な検証作業を阻害し、BPD患者に対して本当にそのような経験を有しているのかという疑問や、患者が感じている苦痛を認めないというスティグマを引き起こしていた。著者は「これらの状況が、BPDの幻覚症状の解明に焦点を当てた研究の必要性を指摘するものであった」としている。・一方で興味深いことに、最近の併存症研究において、40年来議論されてきたBPDと精神病との潜在的な関連性についての」議論が再燃していることが明らかになった。・当初、前精神病性障害とみなされたBPDは、Otto F. Kernberg氏により独立したカテゴリーに分類され、DSM-III定義に至り、精神病症状から除外された。・しかしながら、幻覚は、気分障害のみでなく薬物の過剰摂取によっても生じ、幻覚それ自体をもって統合失調症と診断するには依然として不十分であり、BPDにおけるすべての幻覚を説明することもできなかった。・著者らは、BPDの幻覚は視床下部-脳下垂体-副腎系およびストレス下のドパミンシステムの機能亢進に関わるとして、「ストレスに対する精神病性反応」とのフレームワークで理解することを試みた。そのようなモデルは、小児期の心的外傷では中心的な役割を有する可能性があった。・結果、小児期の心的外傷について、BPDにおける有病率が高いこと、また非臨床集団における幻覚の強い関連因子でもあることが示された。・BPDで起きている幻覚と、外傷後ストレス障害およびその他の頻度の高い併存障害で観察された幻覚との比較検討は、最後に行われていた。

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大人のアトピーにデュピルマブが有用

 中等症~重症の成人アトピー性皮膚炎(AD)に対する、新規開発中のデュピルマブ(dupilumab、国内未承認)の有効性と安全性が、米国・ロチェスター大学医療センターのLisa A. Beck氏らによる無作為化二重盲検プラセボ対照試験の結果、確認された。EASI(Eczema Area and Severity Index)スコアなどすべての疾患重症度の評価項目で速やかな改善が示され、用量を制限する副作用プロファイルは示されなかったという。デュピルマブは完全ヒトモノクローナル抗体で、IL-4、IL-13の阻害作用を有し、これまでに喘息や好酸球増加を伴う患者への有効性が示されていた。NEJM誌2014年7月10日号の掲載報告。 試験は、局所グルココルチコイド、カルシニューリン阻害薬による治療にもかかわらず、中等症~重症のADを有する成人患者を対象とした。 デュピルマブ投与の評価は、単独療法の評価を4週投与試験(2件)と12週投与試験(1件)で、その他局所グルココルチコイドとの併用療法の評価を4週投与試験で行った。 エンドポイントは、EASIスコア、研究者総合評価スコア、かゆみ、安全性評価、血中バイオマーカー値、疾患トランスクリプトムなどであった。 主な結果は以下のとおり。・4週の単独療法試験において、デュピルマブは、臨床評価指数、バイオマーカー値、トランスクリプトムの、速やかかつ用量依存的な改善を示した。・12週の単独療法試験の結果では、4週試験の所見が再現され、さらなる拡大もみられた。・12週の単独療法試験の結果で、EASIスコアの50%低下(EASI-50)がみられた被験者は、プラセボ群35%に対し、デュピルマブ群は85%であった(p<0.001)。・同じく、研究者総合評価スコア0~1(寛解または寛解に近い状態)となった被験者は、プラセボ群15.1%に対し、デュピルマブ群は55.7%であった(p<0.001)。・併用療法試験では、EASI-50を達成した被験者は、プラセボ注射+局所グルココルチコイド群50%に対し、デュピルマブ群は100%であった(p=0.002)。・一方で、デュピルマブ+局所グルココルチコイド群が用いた局所グルココルチコイドは、プラセボ+局所グルココルチコイド群よりも半量未満であった(p=0.16)。・皮膚感染症などの有害事象は、プラセボ群で頻度が高かった。デュピルマブ群で最も頻度が高かったのは、鼻咽頭炎、頭痛であった。

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Vol. 2 No. 3 慢性血栓塞栓性肺高血圧症に対するカテーテルインターベンションの現状と展望 バルーン肺動脈形成術は肺動脈血栓内膜摘除術の代替療法となりうるか?

川上 崇史 氏慶應義塾大学病院循環器内科はじめに慢性血栓塞栓性肺高血圧症(chronic thromboembolic pulmonary hypertension:CTEPH)とは、器質化血栓により広範囲の肺動脈が狭窄または閉塞した結果、肺高血圧症を合併した状態である。早期に適切な治療がなされない場合、予後不良であり、心不全から死に至るといわれている1)。当初Riedelらは、CTEPHの予後は、平均肺動脈圧が30mmHg、40mmHg、50mmHg以上と段階的に上昇するにつれて、5年生存率は50%、30%、10%へ低下すると報告した2)。現在、各種肺血管拡張剤が発達しており、上記より良好な成績であるとは思われるが、効果は限定的である。また、中枢型CTEPHに対しては、肺動脈血栓内膜摘除術(pulmonary endarterectomy:PEA)が根治術として確立されている3)。しかし、末梢型CTEPHに対する成績は中枢型CTEPHと比較して劣っており、末梢型のためにPEA適応外となる症例も少なからず存在する。2000年代半ばより、本邦において、薬物療法で十分な治療効果が得られず、PEA適応外である症例に対して、バルーン肺動脈形成術(balloon pulmonary angioplasty:BPA)が試みられ、有効性が報告された。以下、本邦から治療効果と安全性が確立したBPAについて概説する。BPAについて最初に複数例のCTEPHに対するBPAの有効性を報告したのは、2001年のFeinsteinらである4)。Feinsteinらは、末梢型や並存疾患によりPEA適応外である18例のCTEPHに対して、平均2.6セッションのBPAを施行し、平均36か月間、経過観察した。BPA後、平均肺動脈圧の有意な低下(43→33.7mmHg)とNYHA分類の改善(3.3→1.8)、6分間歩行距離の改善(191→454m)を認めたが、PEAと同様の合併症である再灌流性肺水腫が18例中11例(61.1%)に発症し、人工呼吸器管理が3例(16.6%)、BPA関連死が1例(5.6%)という成績であった。当時の旧式のバルーンカテーテルや0.035インチガイドワイヤーを用いて行われたBPAの初期報告は、上記のように有効性を認めたわけであるが、外科的根治術であるPEAの有効性には及ばなかった。当時、UCSDのJamiesonらのPEA周術期死亡率は4.4%であり、術後の平均肺動脈圧は、中枢型CTEPHで46から28mmHg、末梢型CTEPHで47から32mmHgまで改善することができた3)。このため、米国ではBPAはPEAに劣ると結論づけられた。当時、CTEPHの治療選択肢には、PEAと薬物療法があり、PEAの適応症例であれば、十分な改善を得ることができたが、PEA適応外の症例を薬物療法で治療してもあまり改善は得られなかった。結果として、年齢、並存疾患(全身麻酔ができない)、末梢型CTEPHなどでPEAが実施できない症例が割と多いこと、末梢病変の存在によりPEA後の残存肺高血圧症が10%程度あることが問題として残った。このような背景において、2000年代半ばより、本邦の施設でPEA適応外である重症CTEPHに対して、BPAが施行されるようになり、いくつかの報告がされた5-7)。なかでも、岡山医療センターのMizoguchi、Matsubaraらの報告は、68名のCTEPH患者に対して255セッションのBPAを施行し、最大7年間、経過観察している。結果、BPA後に平均肺動脈圧、肺血管抵抗の低下(各々45.4→24mmHg、942→327dyne sec/cm5)、心係数の増加(CI 2.2→3.2L/min/m2)、6分間歩行距離の延長(296→368m)、BNPの有意な改善(330→35pg/mL)を認めた。酸素投与量も減量(oxygen inhalation 3.0→1.3)することができ、68名中、26名の患者(38%)で在宅酸素療法を離脱することができた。また、96%の患者がWHO分類ⅠまたはⅡまで改善することができた。周術期死亡率は1.5%であり、再灌流性肺障害(再灌流性肺水腫と同義)を含めた呼吸器関連合併症を認めたが、症例経験の増加に伴い、合併症は有意に低下すると報告している。以上、2010年以降の本邦からの報告において、改良されたBPAは、Feinsteinらの初期のBPAと比べて、安全性・有効性ともに著しく改善したといえる。改善した理由としては、バルーンカテーテルの発達、0.014インチガイドワイヤーの使用、画像診断デバイス(IVUSなど)の積極的な使用などがあると思われる。手技の流れについては次項で述べる。BPAの実際術前、右心カテーテル検査・肺動脈造影を必ず行い、個々の患者における肺高血圧症の重症度と肺動脈病変の形態評価を行う。検査結果より、右房圧が高ければ、利尿剤を調節し、心拍出量が低値(CI 2.0L/min以下)であれば、術前からドブタミンの投与を行う。抗凝固療法については前日からワルファリンカリウムを中止している。重症例で軽度の肺出血が致死的となる可能性がある場合、コントロールしやすいヘパリンへ置換する方法もあると考える。ワルファリンは他剤との併用により容易に効果が増強するので、PT-INRの頻回の測定を要する。また、われわれはエポプロステノールを使用していない。理由はCTEPHにおいて肺動脈圧の低下作用が軽微であること、中心静脈カテーテル留置など手技が煩雑であること、抗凝集作用により出血を助長する可能性があると考えているからである。次に実際のBPA手技について述べる。手技は施設間でやや異なっていると思われる。しかし、0.014インチガイドワイヤーの使用、肺動脈主幹部へのロングシース挿入、積極的な画像診断デバイスの使用などは各施設である程度、共通していると思われる。以下、われわれの施設の手法を述べる。アプローチ部位の第1選択は、右内頸静脈である(図1)。理由はガイディングカテーテルのバックアップや操作性がよいことである。また、術後のスワンガンツカテーテル留置が迅速にできることも利点である。内頸静脈が使用できない場合は、大腿静脈アプローチを考慮する。まず、エコーガイド下に9Fr 8.5cmシース(スワンガンツカテーテル留置用シース)を右内頸静脈に挿入する。内頸静脈アプローチとはいえ、稀に気胸を合併することがある。気胸はBPA後の必要時にNPPVが使用できなくなるなど、術後管理を困難にするため、必ず避けねばならない。このため、われわれは100%、エコーガイド下穿刺を実践している。図1 右内頸静脈アプローチ画像を拡大する次に6Fr 55cmまたは70cmロングシースを9Frシース内へ挿入する。6Frロングシースの先端をJ型またはPigtail型にシェイピングし、0.035インチラジフォーカスガイドワイヤーに乗せて、治療対象となる左右肺動脈の近位部へ進める。その後、6Frロングシース内へ6Frガイディングカテーテルを入れ、治療標的となる肺動脈病変へエンゲージする。ガイディングカテーテルの選択には術者の好みもあると思うが、われわれは岡山医療センターと同様、柔らかい材質のMulti-purposeカテーテルを第1選択とすることが多い。その他、治療標的血管により、AL1カテーテルやJR4カテーテルを適宜、選択する。稀であるが、完全閉塞病変に対して、材質の固いガイディングカテーテルを使用することがある。ガイディングカテーテルのエンゲージ後、正面、左前斜位60度の2方向で選択造影を行い、0.014インチガイドワイヤーをバルーンかマイクロカテーテルサポート下に肺動脈病変を通過させる。肺動脈病変に対するワイヤリングは、PCIやEVTと違うと感じる術者が多い。これは、肺動脈の解剖が3次元的に多彩であること(細かい分岐が多い)、肺動脈は脆弱で破綻しやすいこと、肺動脈病変が他の動脈硬化病変と大きく異なること、呼吸変動の存在などに起因すると思われる。特にBPAにおいて、呼吸変動をコントロールすることはとても重要である。呼吸変動を上手に利用すれば、ガイドワイヤー通過の助けになるが、上手にコントロールできなければ、ガイドワイヤーによる肺血管障害(肺出血)が容易に起こると思われる。当院では、肺血管障害を最小限にするため、ガイドワイヤーの通過後、可能な限り、先端荷重の軽いコイルタイプのガイドワイヤーへ交換している。ガイドワイヤー通過後は、血管内超音波(IVUS)または光干渉断層法(OCT)で病変性状・範囲・血管径などを評価し、病変型に準じて、血管径の50~80%程度のサイズのバルーンカテーテルで拡張していく。なお、平均肺動脈圧40mmHg以上または心拍出量2.0L/min以下の症例の場合は、岡山医療センターの手法に倣って、上記より20%程度減じたバルーンサイズを選択している。なお、CTEPHの肺動脈病変は再狭窄することはほぼなく、バルーンサイズを減じても大きな問題になることはない。しかし、複数回治療後に平均肺動脈圧が低下した症例の場合は、適切なサイズのバルーンカテーテルで拡張することがさらなる改善のために必要である。次に術後管理について述べる。BPA後は原則として、スワンガンツカテーテルを留置し、集中治療室管理としている。また、術後、再灌流性肺障害の有無や程度を確認するために必ず胸部単純CTを施行する。これらは、術後の再灌流性肺障害の有無、重症度の評価をするために行っている。経過がよければ、翌日午前中に集中治療室から一般病室へ戻ることができ、午後には歩行可能となる。当院での104セッションのBPAにおいては、1セッションのみで3日間の集中治療室管理を要したが、残り103セッションの集中治療室の滞在期間は1日であった。なお、最近、NPPV装着は必須としていないが、常にスタンバイしておく必要がある。NPPV適応となるのは、コントロール困難な喀血・血痰、重度の酸素化不良例などである。以下に当院の症例を示す。症 例54歳、女性主 訴労作時呼吸困難既往歴特になし家族歴特になし現病歴2011年11月、労作時呼吸困難(WHO分類Ⅱ)を認めた。2012年1月、労作時呼吸困難が悪化したため(WHO分類Ⅲ)、近医を受診し、急性肺塞栓症の診断で緊急入院となった。抗凝固療法を行い、外来で経過観察していたが、2012年9月、労作時呼吸困難が再増悪したため(WHO分類Ⅲ)、同医を受診。心エコー図で肺高血圧症を指摘され、CTEPHと診断された。2012年11月、精査加療目的で当院を紹介受診した。右心カテーテル:右房圧9、肺動脈圧73/23/m41、心拍出量1.8、肺血管抵抗1156肺動脈造影:図2入院後経過タダラフィル20mg/日を内服開始したが、肺動脈圧66/24/m39、心拍出量1.8、肺血管抵抗967と有意な改善は認めなかった。本人・家族と相談し、BPAの方針となった。1回目BPA:左A9、A102回目BPA:右A6、A8、A103回目BPA:右A1、A2、A3、A4、A54回目BPA:左A1+2、A85回目BPA:左A4、A56回目BPA:右A1、A3、A6、A7、A8、A9治療後計6回のBPAで計20病変を治療後、症状は消失した(WHO分類Ⅰ)。また、右心カテーテルでは肺動脈圧34/11/m19、心拍出量3.1、肺血管抵抗316と著明な改善を認めた。図2 肺動脈造影画像を拡大するBPAの現状と今後の適応過去の報告において、FeinsteinらはBPA適応を末梢型CTEPHや併存疾患により全身麻酔が困難なPEA適応外のCTEPHとしてきた。これらは、本邦からの報告でも同様である。しかし、近年、BPAは有効性に加えて、安全性も大きく向上しており、当院では適応範囲を拡大して、以下をBPAの適応としている。中枢型CTEPH(原則としてinoperable)末梢型CTEPH高齢重篤な併存疾患を有するCTEPHPEA後の残存PH軽度から中等度のCTEPH上記の重篤な併存疾患とは、全身麻酔ができない症例のことであると考える。また、BPAの普及により、最も恩恵を受けたのは、PEA後の残存PHと軽度から中等度のCTEPH症例であろう。PEA後の残存PHに対して再度、PEAを行うのは実際、高リスクであり、BPAはよい選択肢である。また、軽度から中等度のCTEPHは、従来、薬物療法で経過観察されていた患者群であるが、これらの症例に対して、BPAを行うことによりさらにQOLが向上し、薬物療法の減量、在宅酸素療法の減量・中止が可能となることをしばしば経験する。以上より、カテーテル治療であるBPAは低侵襲であり、PEAより適応範囲が広いと思われる。しかし、BPAに適した症例、PEAに適した症例があり、個々の患者でよく検討することが重要である。CTEPHには、血管造影上、いくつかの特徴的な病変があることが報告されている8)。当院で治療した計476病変を検討した結果、病変により、BPAの手技成功率が異なることが確認された(図3)。当然であるが、カテーテル手術のため、閉塞病変の方が狭窄病変より治療が難しく、再灌流性肺障害を含めた合併症発生率も高率である。しかし、BPAで閉塞病変を開存させることにより、著しく血行動態や酸素化の改善を経験することが多々あり、個人的には、閉塞病変は可能な限り開存させるべきであると考える。図3 各種病変と手技成功率画像を拡大する一方、用手的に器質化血栓を摘除するPEAは、BPAと比べて、閉塞病変の治療が容易にできるかもしれない。また、器質化血栓が多量である場合、器質化血栓をバルーンで壁に圧着させるBPAより、完全に摘除するPEAの方が理にかなっているかもしれない。しかし、PEAでは到達が困難である肺動脈枝が存在することも事実である。いずれにしても、BPA、PEAの双方とも一長一短があり、適応決定に際しては、外科医・カテーテル治療医の両者で話し合うことが望ましいと考えられる。まとめ以上、近年、本邦で発展を遂げたインターベンションであるBPAについて概説した。従来、CTEPHに対する根治術はPEAだけであったため、BPAの発展は、CTEPH患者にとって大きな福音であると思われる。現在、経験のある施設で再灌流性肺障害を低減させる試みがなされ、合併症発症率は確実に減少している。しかし、安全性を重視するあまり、治療効果を減じるようでは、本末転倒といわざるをえない。低い合併症発生率と高い治療効果の双方を合わせもったBPAでなければならない。CTEPHの第一の治療ゴールは、平均肺動脈圧30mmHg以下を達成することである。これにより、CTEPH患者の予後を改善することができる。そして、第二の治療ゴールは、さらなる平均肺動脈圧の低下を目指して(20mmHg以下)、QOLの向上や酸素投与量の減量・中止、薬物療法の減量などを達成することである(図4)。われわれは可能な限り、平均肺動脈圧の低下を目指す「lower is better」を目標として、日々、CTEPHを治療している。また、BPAは本邦が世界をリードしている分野であり、今後、本邦から多くの知見が報告されなければならないと考える。図4 治療のゴール画像を拡大する最後にわれわれも発展途上であり、今後、多くの施設とBPAの発展について協力していければと思っている。文献1)Piazza G et al. Chronic thromboembolic pulmonary hypertension. New Engl J Med 2011;364: 351-360.2)Riedel M et al. Long term follow-up of patients with pulmonary thromboembolism: late prognosis and evolution of hemodynamic and respiratory data. Chest 1982; 81: 151-158.3)Thistlethwaite PA et al. Operative classification of thromboembolic disease determines outcome after pulmonary endarterectomy. J Thorac Cardiovasc Surg 2002; 124: 1203-1211.4)Feinstein JA et al. Balloon pulmonary angioplasty for treatment of chronic thromboembolic pulmonary hypertension. Circulation 2001; 103:10-13.5)Sugimura K et al. Percutaneous transluminal pulmonary angioplasty markedly improves pulmonary hemodynamics and long-term prognosis in patients with chronic thromboembolic pulmonary hypertension. Circ J 2012; 76: 485-488.6)Kataoka M et al. Percutaneous transluminal pulmonary angioplasty for the treatment of chronic thromboembolic pulmonary hypertension. Circ Cardiovasc Interv 2012; 5: 756-762.7)Mizoguchi H et al. Refined balloon pulmonary angioplasty for inoperable patients with chronic thromboembolic pulmonary hypertension. Circ Cardiovasc Interv 2012; 5: 748-755.8)Auger WR et al. Chronic major-vessel thromboembolic pulmonary artery obstruction:appearance at angiography. Radiology 1992;182: 393-398.

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HIV感染者の肝・心血管疾患死が減少/Lancet

 最近10年ほどの間に、HIV感染患者のAIDS関連疾患死、肝疾患死、心血管疾患死が実質的に減少したが、AIDS非関連腫瘍による死亡が増えていることが、イギリス・ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンのColette J Smith氏らが行ったD:A:D試験で示された。有効性の高い抗レトロウイルス療法(ART)の出現に伴い、HIV感染患者の余命は一般人口に近づきつつある。その結果として、AIDSに関連のない従来の合併症の重要性が相対的に増大しているという。Lancet誌2014年7月19日号掲載の報告。全死因・死因別死亡の動向を経時的に検討 D:A:D試験の研究グループは、1999~2011年におけるHIV感染患者の全死因死亡および死因別死亡の動向を経時的に検討した。解析には、Data collection on Adverse events of anti-HIV Drugs(D:A:D)に登録された個々の患者の1999年3月から死亡、追跡不能または2011年2月1日までのデータを用いた。 D:A:D試験は11のコホート試験の共同解析であり、欧州、アメリカ、オーストラリアの212施設で治療を受けるHIV-1陽性患者が対象となった。すべての致命的事象は、HIV死因分類(coding causes of death in HIV:CoDe)の方法を用いて、D:A:D調整センターの中央判定による検証が行われた。 フォローアップ期間30万8,719人年の間に、試験参加者4万9,731例(ベースラインの平均年齢38歳、男性74%)のうち3,909例(8%)が死亡した(粗死亡率:12.7人/1,000人年)。非特異的予防介入の改善で肝・心血管疾患死が減少か 主な死因は、AIDS関連疾患が1,123例(29%)、AIDS非関連腫瘍が590例(15%)、肝疾患が515例(13%)、心血管疾患が436例(11%)であり、その他(侵襲性細菌感染症、自殺、薬物過剰摂取など)と不明が1,245例(32%)であった。 1,000人年当たりの全死因死亡率は、1999~2000年の17.5人から2009~2011年には9.1人に低下した。同期間の死因別死亡のうち、AIDS関連疾患死(1,000人年当たり5.9人から2.0人へ)、肝疾患死(2.7人から0.9人へ)、心血管疾患死(1.8人から0.9人へ)が全死因死亡と同様に低下を示したが、AIDS非関連腫瘍死は1999~2000年の1.6人から2009~2011年には2.1人とわずかに増加した(p=0.58)。 AIDS関連疾患死の1999~2000年から2009~2011年の間の低下には、経時的に変化するCD4陽性細胞数などの因子で補正すると、有意な差を認めなかった(率比:0.92、95%信頼区間[CI]:0.70~1.22)。一方、この間の全死因死亡(同:0.72、0.61~0.83)、肝疾患死(同:0.48、0.32~0.74)、心血管疾患死(同:0.33、0.20~0.53)の低下には有意差が認められた。 1999~2000年の全死亡に占めるAIDS関連疾患死の割合は34%(87/256例)であったが、2009~2011年には22%(141/627例)まで低下した。肝疾患死も16%(40/256例)から10%(64/627例)へと低下した。これに対し、AIDS非関連腫瘍死は9%(24/256例)から23%(142/627例)へと増加していた。 著者は、「最近のAIDS関連死の減少は、持続的なCD4陽性細胞数の減少と関連するが、肝疾患死や心血管疾患死の減少はこれでは説明できない。われわれは、肝疾患死や心血管疾患死の経時的な実質的減少は、HIV非特異的な予防介入(禁煙、食事療法による減量、運動、脂質改善薬など)の改善で説明できると考えている。AIDS非関連腫瘍は現在、AIDS非関連死の主要原因であるが、その理由は明らかではなく、今後の検討を要する。治療の長期化によるARTの毒性の蓄積や、ARTが臨床症状の発現を遅延させていることも考えられるため、注意深い監視の継続が重要である」と考察を加えている。

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糖尿病予防には歩くよりヨガ

ヨガは2型糖尿病の効果的な予防戦略となるかもしれない。糖尿病高リスク者に対するウォーキングとヨガの効果を比較したところ、ヨガ群で体重、腹囲の有意な低下がみられた。一方で、食後・空腹時血糖値などのリスク指標への影響に有意差は認められなかった。糖尿病リスク者のウエスト引き締め に「ヨガ」はウォーキングよりも有効 な可能性がある。方法:糖尿病高リスク者が対象● 被験者:インド在住、空腹時血糖高値(初診FBG≧5.6mmol/L)、41例● 期間:8週間● 試験:乱数を利用した無作為化試験 ・ヨガ群(21例):ヨガクラス(マインドレクチャー含め1クラス75分)週に3~6日 ・ウォーキング群(20例):ウォーキング(30分、休憩を含め1回75分)週に3~6日● 評価:intention-to-treat分析に基づいて評価。▼主要アウトカム▼BMI変化、腹囲、空腹時血糖値、食後血糖値、血清インスリン値、インスリン抵抗性、血圧、コレステロール値※その他、抑うつ、不安、自覚ストレスなどを含む心理的well-being尺度の変化結果:ヨガで腹囲が減少▼ヨガ群 vs. ウォーキング群▼● BMI: -0.2±0.8 vs. 0.6±1.6、p=0.05● 腹囲: -4.2±4.8 cm vs. 0.7±4.2 cm、p<0.01● 体重: -0.8±2.1 kg vs. 1.4±3.6 kg、p=0.02 2群間において、食後・空腹時血糖値、インスリン抵抗性などの糖尿病リスクに関する指標、および心理的well-beingの変化では有意な差は認められなかった。両群ともに、収縮期・拡張期血圧、総コレステロール値、不安や抑うつ、ネガティブな感情および自覚ストレスについて、有意な減少が認められた。考察:ヨガは有効な糖尿病の予防戦略となるかもしれない今回、空腹時血糖高値のインド人における8週間にわたる検討から、ヨガの介入が、体重や腹囲の減少をもたらすことが明らかになった。著者は今後、より長期かつサンプルサイズの大きい研究での検討の必要性を示している。未確定な部分は多いものの、ヨガは体重関連のリスク因子を減らし、心理的にも幸福感を高める、有効な糖尿病の予防戦略となるかもしれない。

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内視鏡的大腸ポリープ切除術でS状結腸穿孔を来したケース

消化器最終判決判例時報 1656号117-129頁概要56歳男性、腹痛の精査目的で施行された注腸検査で、S状結腸に直径2cm大のポリープが発見された。患者の同意を得たうえで大腸内視鏡検査を施行し、問題のポリープを4回に分けてピースミールに切除した(病理結果はグループIII)。同日鎮痛薬と止血剤を処方されて帰宅したが、翌日になって腹痛、悪寒、吐き気、腹満感が出現し救急車で来院。腹部は板状硬であり、グリセリン浣腸を行ったが反応便はなく、腹部X線写真では大量の腹腔内遊離ガスが確認された。緊急開腹手術ではポリープ切除部位にピンホール大の穿孔がみつかった。詳細な経過患者情報既往症として2回にわたる膿胸手術歴のある56歳男性。時々腹痛があり、薬局で購入した漢方胃腸薬を服用していた経過1990年11月1日未明から継続していた腹痛を主訴として受診。急性胃腸炎もしくは便秘による腹痛と診断したが、がんの可能性を考慮して注腸検査を予定した。11月7日注腸検査でS状結腸に直径2cmの粗大結節状ポリープがみつかり、がん化している疑いもあるため、大腸内視鏡によりポリープを切除することを説明し、承諾を得た。11月9日13:15大腸内視鏡検査を施行し、S状結腸のポリープを4回に分けてピースミールに切除(病理結果はグループIII)。担当医師はジクロフェナクナトリウム(商品名:ボルタレン)坐薬と止血剤を処方し、「大量の出血や坐薬を使っても軽減しない痛みがある時には来院するように」という説明とともに帰宅を指示した。検査後目の前がくらくらするためしばらく病院内で休息をとったのち、自転車を押して約50分後に帰宅した。11月10日通常通りの仕事に就く。15:00腹痛が出現し、吐き気、悪寒、腹満感も加わった。17:32救急車で来院。腹部は板状硬、グリセリン浣腸を行ったが反応便なし。さらに腹部X線写真を撮影したところ、腹部全体に及ぶほど大量の遊離腹腔ガスが確認され、ポリペクトミーをした部位の穿孔が強く疑われた。21:09緊急開腹手術開始。腹腔をあける際に電気メスの火花による小爆発あり。開腹すると腹膜翻転部より約15cmのS状結腸にピンホール大の穿孔があり、その周辺部は浮腫と電気焼灼による色調の変化がみられた。S状結腸の部分的切除と腹腔内洗浄を行い、ペンローズドレーンを2本留置して手術を終了した(結果的にがんはなし)。当事者の主張患者側(原告)の主張1.穿孔の原因担当医師の経験、技術が未熟なため腸管壁を深く傷つけ、手術のときかその翌日の浣腸時にS状結腸が穿孔した2.説明義務違反ポリープ切除術に際し、大腸内視鏡による検査の説明を受けただけで、ポリープ摘出術の説明までは受けておらず同意もしていない病院側(被告)の主張1.穿孔の原因ポリープ摘出術はスネアーに通電してポリープを焼灼するもので、局所の組織が比較的弱くなることは避けられず、腸内ガスの滞留しやすい患者の場合には実施個所に穿孔が生じることがあり得る。本件では開腹手術の際に電気メスの花火でガスの小爆発が生じたように慢性の便秘症であり、穿孔の原因は患者の素因によるものである2.説明義務違反大腸内視鏡検査でみつかったポリープはすべて摘出することが原則であり、検査実施前にもそのような説明は行った。大腸内視鏡の実施に同意していることはポリープ摘出手術にも同意していることを意味する裁判所の判断1. 穿孔の原因ポリープ摘出術の際の穿孔は、スネアーが深くかかりすぎて正常粘膜を巻き込んだ場合や、スネアーをかける位置が腸壁粘膜に近すぎる場合のように、術者の手技に密接に関連している。そして、手術後24時間以内に手術部位に穿孔が生じ腹膜炎を発症しているのであるから、穿孔はポリープ摘出手術に起因することは明らかである。2. 説明義務違反ポリペクトミーにあたっては、術中のみならず術後も穿孔の起こる危険性を十分認識し、当日患者を帰宅させる場合には、手術の内容、食事内容、生活上の注意をして万全の注意を払うべきである。にもかかわらず担当医師は出血や軽減しない痛みがある時には来院するように指示しただけであったため、患者は術後の患者としては危険な生活を送って穿孔を招来したものであるから、説明義務違反がある。原告側合計2,243万円の請求に対し、177万円の判決考察大腸内視鏡検査で発生する腸管穿孔は、はたしてやむを得ない不可抗力(=誰が担当しても不可避的に発生するもの)なのでしょうか、それとも術者の技術に大きく依存する人為的なものなのでしょうか。もちろん、ケースバイケースでその発生原因は異なるでしょうけれども、多くの場合は術者の技量に密接に関連したものであると思われるし、事実裁判例はもちろんのこと、訴訟にまでは発展せずに示談解決した場合でも医師が謝罪しているケースが圧倒的に多いため、もはや不可抗力という考え方には馴染まなくなってきていると思います。1. 大腸内視鏡挿入時に穿孔を来す場合近年はスコープの性能向上や術者の技量向上、そして、検査数の増加に伴って、多くのケースでは数分で盲腸まで挿入できるようになったと思います。ただし、頑固な便秘のケースや開腹手術の既往があるケースなどでは挿入に難渋することがあり、検査が長時間に及ぶと術者の集中力もとぎれがちで、患者さんの苦痛も増大してきます。このような状況になっても意地になって検査を続行すると、腸管に無理な力が加わって不幸にして穿孔に至るケースがあるように思います。とくに腸管の屈曲部で視野が十分に確保されず、ブラインドでスコープを進めざるを得ない場合などには穿孔の危険性が増大すると思います。このような時、途中で検査を中止するのは担当医にとってどちらかというと屈辱的なことにもなりうるし、もし挿入できなかった部位にがんがあったりすると検査することの意義が失われてしまうので、なんとか目的を達成しようとむきになる気持ちも十分に理解できます。しかし、ひとたび穿孔に至ると、その後の多くの時間を事後処理に当てなければならないのは明白ですので、挿入困難なケースではほかの医師に交代するか、もしくは途中で引き上げる勇気を持つのが大切ではないかと思います。2. ポリープ切除に伴う穿孔大腸の壁は意外に薄く、ちょっとしたことでも穿孔に至る可能性を秘めているのは周知のことだと思います。ポリープ切除時に穿孔に至る原因として、スネアーを深くかけすぎて筋層まで巻き込んだり、通電時間を長くし過ぎたり、視野が十分確保できない状況でポリープ切除を強行したりなど、術者が注意を払うことによって避けられる要素もかなりあると思います。このうちスネアーを筋層まで巻き込んだ場合には、まるで硬いゴムをカットするような感触になることがありますので、「おかしいな」と思ったら途中で通電を中止し、もう一度スネアーの位置が適切かどうか確認する必要があると思います。また裁判外のケースをみていると、意外に多いのがホットバイオプシーに伴う穿孔です。そのなかでもポリープ切除部位とは離れた部分の穿孔、つまり鉗子の位置をよく確認しないまま通電することによって、予期せぬところが過剰に通電され穿孔に至ることがありますので、やはり基本的な手技は忠実に守らなければなりません。このように、大腸内視鏡検査においてはなるべく穿孔を回避するよう慎重な態度で臨む必要があります。それでも不幸にして穿孔に至った場合には、きちんとその経過や理由を患者さんに説明したうえで謝意をあらわすべきではないでしょうか。一部の施設では、穿孔を経験した若い先生に対し先輩の医師から、「このようなことはよくあるよ、これで君もようやく一人前だな」とおそらく励ます意味の言葉をかけることがあるやに聞きます。しかし、患者側の立場では到底許容されない考え方だと思いますし、最近では「不可抗力」という判断が首肯されにくいのは前述したとおりです。日本消化器内視鏡学会偶発症委員会が発表した統計(日本消化器内視鏡学会雑誌 Vol.42:308-313, 2000)大・小腸スコープ総検査数258万7,689件のうち、偶発症数1,047件、頻度にして0.04%その中で大腸スコープによる偶発症は935件■内訳穿孔568件(60.7%)出血192件(20.5%)死亡21件(頻度0.00081%:上部消化管スコープの2倍、側視型十二指腸スコープの1/10)このように大腸内視鏡に伴う偶発症は発生頻度からみればごくわずかではありますが、ひとたび遭遇するととても厄介な問題に発展する可能性がありますので、検査に際しては細心の注意が必要だと思います。消化器

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アトピー患児の睡眠障害をSCORADで予測

 アトピー性皮膚炎(AD)を有する子供の睡眠障害について、睡眠効率の低下がみられる頻度が高いことや、SCORAD(Scoring Atopic Dermatitis)指数で予測可能であること、メラトニンおよびIgEの関与の可能性などが、台湾・台北市立聯合医院のYung-Sen Chang氏らによる検討の結果、報告された。著者は、「さらなる検討を行い、メカニズムや臨床的意義について探求することが必要である」と述べている。また、「睡眠障害の評価ツールとしてアクトグラフィ(actigraphy)は有用と思われた」と報告している。Pediatrics誌オンライン版2014年7月14日号の掲載報告。 AD患児において睡眠障害は一般的だが、著者は「これまでは主に質問票ベースの研究が多く、病態生理は不明なままであった」と指摘。本検討において、客観的特徴、寄与因子および臨床的予測因子を明らかにすることを目的とした。 1~18歳時のAD患児72例と、対照32例について、アクトグラフィとポリソムノグラフィを用いて睡眠パラメーターを測定し、また、尿中6スルファトキシメラトニン値、血中サイトカイン、総合およびアレルゲン特異的IgE値も測定した。 主な結果は以下のとおり。・AD患児では、睡眠効率の低下、睡眠導入時間の延長、睡眠の断片化、非レム睡眠の減少が有意であった。・アクトグラフィの結果とポリソムノグラフィの結果の相関性は良好であった。・ADの重症度と睡眠障害の関連性が認められた(r=0.55~0.7)。・睡眠効率の低下は、SCORADスコアが48.7以上で有意に予測された。感度は83.3%、特異度は75%であった(AUC=0.81、p=0.001)。・夜間メラトニン分泌の低下と、AD患児の睡眠障害の有意な関連が認められた。・その他睡眠障害に関連する因子として、かゆみ、ひっかき行動、総IgE値の上昇、家ダニ感作やブドウ球菌腸毒素などがあった。

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吐下血の出血量を過小評価したため死亡に至ったケース

消化器最終判決判例時報 1446号135-141頁概要慢性肝炎のため通院治療を受けていた43歳男性。1988年5月11日夕刻、黒褐色の嘔吐をしたとして来院して診察を受けた。担当医師は上部消化管からの出血であると診断したが、その夜は対症療法にとどめて、翌日検査・診察をしようと考えて帰宅させた。ところが翌朝吐血したため、ただちに入院して治療を受けたが、上部消化管からの大量出血によりショック状態に陥り、約17時間後に死亡した。詳細な経過患者情報43歳男性経過昭和61年5月20日初診。高血圧症、高脂血症、糖尿病、慢性肝炎と診断され、それ以来昭和63年5月7日までの間に月に7~8回の割合で通院していた。血液検査結果では、中性脂肪461、LAP 216、γ-GTP 160で、そのほかの検査値は正常であったことから、慢性アルコール性肝炎と診断していた。昭和63年5月11日19:40頃夕刻に2回吐血したため受診。この際の問診で、「先程、黒褐色の嘔吐をした。今朝午前3:00頃にも嘔吐したが、その時には血が混じっていなかった」と述べた。担当医師は上部消化管からの出血であると認識し、胃潰瘍あるいは胃がんの疑いがあると考えた(腹部の触診では圧痛なし)。そのため、出血の原因となる疾患について、その可能性が高いと判断した出血性胃炎と診療録に記載し、当夜はとりあえず対症療法にとどめて、明日詳細な検査、診察をしようと考え、強力ケベラG®、グルタチオン200mg(商品名:アトモラン)、肝臓抽出製剤(同:アデラビン9号)、幼牛血液抽出物(同:ソルコセリル)、ファモチジン(同:ガスター)、メトクロプラミド(同:プリンペラン)、ドンペリドン(同:ナウゼリン)、臭化ブトロピウム(同:コリオパン)を投与したうえ、「胃潰瘍の疑いがあり、明日検査するから来院するように」と指示して帰宅させた。5月12日07:00頃3度吐血。08:30頃タクシーで受診し、「昨夜から今朝にかけて、合計4回の吐血と下血があった」と申告。担当医師は吐き気止めであるリンゴ酸チエチルぺラジン(同:トレステン)を筋肉注射し、顔面蒼白の状態で入院した。09:45血圧120/42mmHg、脈拍数114、呼吸数24、尿糖+/-、尿蛋白-、尿潜血-、白血球数16,500、血色素量10g/dL。ただちに血管を確保し、5%キシリトール500mLにビタノイリン®、CVM、ワカデニン®、アデビラン9号®、タジン®、トラネキサム酸(同:トランサミン)を加えた1本目の点滴を開始するとともに、側管で20%キシリトール20mL、ソルコセリル®、ブスコパン®、プリンペラン®、フェジン®を投与し、筋肉注射で硫酸ネチルマイシン(同:ベクタシン)、ロメダ®を投与した。引き続いて、2本目:乳酸リンゲル500mL、3本目:5%キシリトール500mLにケベラG®を2アンプル、アトモラン®200mgを加えたもの、4本目:フィジオゾール500mL、5本目:乳酸リンゲルにタジン®、トランサミン®を加えたもの、の点滴が順次施行された。11:20頃しきりに喉の渇きを訴えるので、看護師の許しを得て、清涼飲料水2缶を飲ませた。11:30頃2回目の回診。14:00頃3回目の回診。血圧90/68mmHg。14:20頃いまだ施行中であった5本目の点滴に、セジラニドを追加した。14:30頃酸素吸入を開始(1.5L/min)。15:00頃顔面が一層蒼白になり、呼吸は粗く、胸元に玉のような汗をかいているのに手足は白く冷たくなっていた。血圧108/38mmHg。16:00頃血圧低下のため5本目の点滴に塩酸エチレフリン(同:エホチール)を追加した。17:00頃一層大量の汗をかき拭いても拭いても追いつかない程で、喉の渇きを訴え、身の置き所がないような様子であった。血圧80/--mmHg18:00頃4回目の回診をして、デキストラン500mLにセジラニド、エホチール®を加えた6本目の点滴を実施し、その後、クロルプロマジン塩酸塩(同:コントミン)、塩酸プロメタジン(同:ヒベルナ)、塩酸ぺチジン(同:オピスタン)を筋肉注射により投与し、さらにデキストランL 500mLの7本目の点滴を施行した。5月13日00:00頃看護師から容態について報告を受けたが診察なし。血圧84/32mmHg01:30頃これまで身体を動かしていたのが静かになったので、家族は容態が落ち着いたものと思った。02:00頃異常に大きな鼾をかいた後、鼻と口から出血した。看護師から容態急変の報告を受けた担当医師は人工呼吸を開始し、ジモルホラミン(同:テラプチク)、ビタカンファー®、セジラニドを筋肉注射により投与したが効果なし。02:45死亡確認(入院から17時間25分後)。当事者の主張患者側(原告)の主張吐血が上部消化管出血であると認識し得たのであるから、すみやかに内視鏡などにより出血源を検索し、止血のための治療を施すべきであり、また、出血性ショックへと移行させないために問診を尽くし、バイタルサインをチェックし、理学的所見などをも考慮して出血量を推定し、輸血の必要量を指示できるようにしておくべきであった。担当医師はこれまでに上部消化管出血患者の治療に当たった経験がなく、また、それに適切に対応する知識、技術に欠けていることを自覚していたはずであるから、このような場合、ほかの高次医療機関に転院させる義務があった。病院側(被告)の主張5月11日の訴えは、大量の出血を窺わせるものではなく、翌日の来院時の訴えも格別大量の出血を想起させるものではなかった。大量の出血は結果として判明したことであって、治療の過程でこれを発見できなかったとしてもこれを発見すべき手がかりがなかったのであるから、やむを得ない。裁判所の判断上部消化管出血は早期の的確な診断と緊急治療を要するいわゆる救急疾患の一つであるから、このような患者の治療に当たる医師には、急激に重篤化していくこともある可能性を念頭において、ただちに出血量に関して十分に注意を払ったうえで問診を行い、出血量の判定の資料を提供すべき血液検査などをする注意義務がある。上部消化管出血の患者を診察する医師には、当該患者の循環動態が安定している場合、速やかに内視鏡検査を行い、出血部位および病変の早期診断、ならびに治療方法の選択などするべき注意義務がある。上部消化管出血が疑われる患者の治療に当たる医師が内視鏡検査の技術を習得していない場合には、診察後ただちに検査および治療が可能な高次の医療機関へ移送すべき注意義務がある。本件では容態が急激に重篤化していく可能性についての認識を欠き、上記の注意義務のいずれをも怠った過失がある。約6,678万円の請求に対し、請求通りの支払い命令考察吐血の患者が来院した場合には、緊急性を要することが多いので、適切な診察、検査、診断、治療が必要なことは基本中の基本です。吐血の原因としては、胃潰瘍や十二指腸潰瘍などの消化性潰瘍、急性胃粘膜病変、食道および胃静脈瘤破裂、ならびにMallory-Weiss症候群などが挙げられ、出血源が明らかになったもののうち、これらが90~95%を占めています。そして、意外にも肝硬変患者の出血原因としては静脈瘤59%、胃炎8.2%、胃潰瘍5.4%、十二指腸潰瘍6.8%、その他10.2%と、必ずしも静脈瘤破裂ばかりが出血源ではないことには注意が必要です。本件の場合、担当医師が当初より上部消化管からの出血であることを認識していながら、それが急激に重篤化していく可能性のある緊急疾患であるという認識を欠いており、そのため適切な措置を講ずることができなかった点が重大な問題と判断されました。さらに後方視的ではありますが、当時の症状、バイタルサインや血液検査などの情報から、推定出血量を1,000~1,600mLと細かく推定し、輸血や緊急内視鏡を施行しなかった点を強調しています。そのため判決では、原告の要求がそのまま採用され、抗弁の余地がないミスであると判断されました。たとえ診察時に止血しており、全身状態が比較的落ち着いているようにみえても、出血量(血液検査)や、バイタルサインのチェックは最低限必要です。さらに、最近では胃内視鏡検査も外来で比較的容易にできるため、今後も裁判では消化管出血の診断および治療として「必須の検査」とみなされる可能性があります。そのため、もし緊急で内視鏡検査ができないとしたら、その対応ができる病院へ転送しなければならず、それを怠ると本件のように注意義務違反を問われる可能性があるので、注意が必要です。消化器

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第27回 出生前診断の伝達ミスの悲劇 その時メディアは!?

■今回のテーマのポイント1.児の死亡慰謝料を請求するために「遺伝子異常であることを理由として人工妊娠中絶を選択する権利」が争われることとなった2.本判決は、羊水検査結果の誤報告により先天性異常を有する子どもの出生に対し、心の準備やその養育環境の準備をする機会を奪われたことに問題があったとしている3.メディアと医療、司法との相互理解も重要である■事件のサマリ原告子どもの母親X1および父親X2被告A病院争点説明義務違反結果原告勝訴、それぞれに500万円ずつ(合計1,000万円)の損害賠償事件の概要41歳女性(X1)。平成23年2月、X1は妊娠したことからA診療所を受診しました。同年3月15日、超音波検査を行ったところ、NT (nuchal translucency: 胎児の首の後ろの皮下の黒く抜けて見える部分)の肥厚が認められたことから、児の先天異常を疑い、主治医Aより羊水検査の説明がなされました。X1は自身が高齢であることも考慮して、4月14日(妊娠17週)、羊水検査を受けることにしました。X1の検査結果報告書には、分析所見として「染色体異常が認められました。また、9番染色体に逆位を検出しました。これは表現型とは無関係な正常変異と考えます」と記載され、その後ろに21番染色体が3本存在し、胎児がダウン症児であることを示す分析図が添付されていました。しかし、A医師は、上記報告書を通読しなかったため、X1に対し、「羊水検査の結果はダウン症に関して陰性である。また、9番染色体は逆位を検出したがこれは正常変異といって丸顔、角顔といった個人差の特徴の範囲であるから何も心配はいらない」と伝えました。なお、その時点でX1は妊娠20週でした。X1は、その後の検診では、A医師より胎児が小さめではあるが正常範囲であり、とくに問題はないと伝えられていました。ところが、9月1日の検診の際、A医師より羊水過少があり、胎児が弱っていることから他院に転院し、出産するよう勧められました。X1は、同日B病院に救急搬送され、同病院にて緊急帝王切開術が行われました。出生した児の呼吸機能は十分ではなく、自力排便もできない状態であったため、B病院の医師が、A診療所のカルテを確認したところ、児がダウン症であることを示す羊水検査結果が見つかったことから、同医師よりX1および夫であるX2に対し、その旨が伝えられました。児は、ダウン症児の約10%で見られる一過性骨髄異常増殖症(TAM)を合併し、その後、TAMに伴う播種性血管内凝固症候群を併発し、最終的には肝不全により、同年12月16日に死亡しました。これに対し、X1およびX2は、A医師が、検査結果報告を誤って伝えたために原告X1は中絶の機会を奪われてダウン症児を出産し、同児は出生後短期間のうちにダウン症に伴うさまざまな疾患を原因として死亡するに至ったと主張して、被告Aらに対し、不法行為ないし診療契約の債務不履行に基づき、約3,500万円の損害が発生したとして、支払いを求める訴訟を提起しました。事件の判決●争点1(被告らの注意義務違反行為と児に関する損害との間の相当因果関係の有無)について羊水検査は、胎児の染色体異常の有無等を確定的に判断することを目的として行われるものであり、その検査結果が判明する時点で人工妊娠中絶が可能となる時期に実施され、また、羊水検査の結果、胎児に染色体異常があると判断された場合には、母体保護法所定の人工妊娠中絶許容要件を弾力的に解釈することなどにより、少なからず人工妊娠中絶が行われている社会的な実態があることが認められる。しかし、羊水検査の結果から胎児がダウン症である可能性が高いことが判明した場合に人工妊娠中絶を行うか、あるいは人工妊娠中絶をせずに同児を出産するかの判断が、親となるべき者の社会的・経済的環境、家族の状況、家族計画等の諸般の事情を前提としつつも、倫理的道徳的煩悶を伴う極めて困難な決断であることは、事柄の性質上明らかというべきである。すなわち、この問題は、極めて高度に個人的な事情や価値観を踏まえた決断に関わるものであって、傾向等による検討にはなじまないといえる。そうすると、少なからず人工妊娠中絶が行われている社会的な実態があるとしても、このことから当然に、羊水検査結果の誤報告と児の出生との間の相当因果関係の存在を肯定することはできない。原告らは、本人尋問時には、それぞれ羊水検査の結果に異常があった場合には妊娠継続をあきらめようと考えていた旨供述している。しかし、他方で、証拠によれば、原告らは、羊水検査は人工妊娠中絶のためだけに行われるものではなく、両親がその結果を知った上で最も良いと思われる選択をするための検査であると捉えていること、そして、原告らは、羊水検査を受ける前、胎児に染色体異常があった場合を想定し、育てていけるのかどうかについて経済面を含めた家庭事情を考慮して話し合ったが、簡単に結論には至らなかったことが認められ、原告らにおいても羊水検査の結果に異常があった場合に直ちに人工妊娠中絶を選択するとまでは考えていなかったと理解される。羊水検査により胎児がダウン症である可能性が高いことが判明した場合において人工妊娠中絶を行うか出産するかの判断は 極めて高度に個人的な事情や価値観を踏まえた決断に関わるものであること、原告らにとってもその決断は容易なものではなかったと理解されることを踏まえると、法的判断としては、被告らの注意義務違反行為がなければ原告らが人工妊娠中絶を選択し児が出生しなかったと評価することはできないというほかない。結局、被告らの注意義務違反行為と児の出生との間に、相当因果関係があるということはできない。●争点2(原告らの損害額)について原告らの選択や準備の機会を奪われたことなどによる慰謝料 それぞれ500万円原告らは、生まれてくる子どもに先天性異常があるかどうかを調べることを主目的として羊水検査を受けたのであり、子どもの両親である原告らにとって、生まれてくる子どもが健常児であるかどうかは、今後の家族設計をする上で最大の関心事である。また、被告らが、羊水検査の結果を正確に告知していれば、原告らは、中絶を選択するか、又は中絶しないことを選択した場合には、先天性異常を有する子どもの出生に対する心の準備やその養育環境の準備などもできたはずである。原告らは、被告Aの羊水検査結果の誤報告により、このような機会を奪われたといえる。そして、前提事実に加え、証拠によれば、原告らは、児が出生した当初、児の状態が被告の検査結果と大きく異なるものであったため、現状を受入れることができず、児の養育についても考えることができない状態であったこと、このような状態にあったにもかかわらず、我が子として生を受けた児が重篤な症状に苦しみ、遂には死亡するという事実経過に向き合うことを余儀なくされたことが認められる。原告らは、被告の診断により一度は胎児に先天性異常がないものと信じていたところ、児の出生直後に初めて児がダウン症児であることを知ったばかりか、重篤な症状に苦しみ短期間のうちに死亡する姿を目の当たりにしたのであり、原告らが受けた精神的衝撃は非常に大きなものであったと考えられる。(*判決文中、下線は筆者による加筆)(函館地判平成26年6月5日)ポイント解説●なぜ「遺伝子異常であることを理由として人工妊娠中絶を選択する権利」が争われたのか今回は、最近世間を騒がせた羊水検査の事案を紹介します。筆者もマスコミ報道で本事件を知りました(表1)。■表1 医院側は争う姿勢 出生前診断説明ミス訴訟(共同通信社 13/07/05)北海道函館市の産婦人科医院で2011年、出生前診断の結果を誤って説明され、出産するか人工妊娠中絶をするかの選択権を奪われたなどとして、赤ちゃんの両親が医院を経営する医療法人と院長に1千万円の損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が4日、函館地裁であり、医院側は争う姿勢を示した。医院は「Aクリニック」で、訴状によると、胎児の染色体異常を調べる羊水検査でダウン症の陽性反応が出ていたが、院長が母親に「陰性だった」と伝えた。生まれた赤ちゃんはダウン症と診断され、生後3カ月半で死亡した。医院側は説明ミスを認める一方、両親側が侵害されたと主張する「出産するか人工妊娠中絶をするかの選択権」については「権利の存在を認めるべきかどうかが、まず大問題。存在を認める前提での議論には到底同意できない」などと訴えた。報道で目を引いたのは、「遺伝子異常であることを理由として人工妊娠中絶を選択する権利」が法律上保護されるかを争っているとした点です。わが国の法律上、(業務上堕胎及び同致死傷)「刑法第214条 医師、助産師、薬剤師又は医薬品販売業者が女子の嘱託を受け、又はその承諾を得て堕胎させたときは、三月以上五年以下の懲役に処する。よって女子を死傷させたときは、六月以上七年以下の懲役に処する」とあるように、人工妊娠中絶は、たとえ医師が行ったとしても、原則として違法とされています。例外的に人工妊娠中絶が許容されるのは、母体保護法に定められた要件を満たした場合のみであり、その要件に遺伝子異常であることは記されていません。 (医師の認定による人工妊娠中絶)「母体保護法第14条 都道府県の区域を単位として設立された公益社団法人たる医師会の指定する医師(以下「指定医師」という。)は、次の各号の一に該当する者に対して、本人及び配偶者の同意を得て、人工妊娠中絶を行うことができる。一 妊娠の継続又は分娩が身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのあるもの二 暴行若しくは脅迫によつて又は抵抗若しくは拒絶することができない間に姦淫されて妊娠したもの」したがって、遺伝子異常であることを理由として人工妊娠中絶をすることは法律上認められていませんので、「遺伝子異常であることを理由として人工妊娠中絶を選択する権利」も当然に認められないと考えられます。ではなぜ、このような訴訟が起きたのでしょうか。そもそも本事案は、医療機関側のミスが明白であり、通常、示談で終了する事案です。実際、本事案においてY診療所は、ミスを認めて児のB病院での入院費用を支払っており、それに加え見舞金として50万円、香典として10万円を支払っています。本事案において両者に争いが生まれたのは、損害との間の因果関係です。すなわち、医師が誤って報告した結果、どのような損害が発生したか(表2)ということが争われたのです。■表2 原告らが主張する損害およびその価額ア X1の入通院慰謝料 31万1,800円イ 原告らの中絶の機会を奪われたことなどによる慰謝料それぞれ500万円ウ 原告らが相続した児の傷害慰謝料 165万4,500円エ 原告らが相続した児の死亡慰謝料 2,000万円オ 弁護士費用 316万1,630円カ 損害合計額(上記アからオまでの合計額から、被告らの債務不履行ないし不法行為がなければ実施していたはずの人工妊娠中絶費用である35万円を控除したもの)3,477万7,930円児は、ダウン症の合併症により死亡したのであり、医師の誤報告によって死亡したわけではありません。したがって、普通に考えると医師の誤報告と児の死亡との間に因果関係はないということになります。そこで原告は、「遺伝子異常であることを理由として人工妊娠中絶を選択する権利」を間に挟むことで、「誤報告により人工妊娠中絶ができなくなり、その結果、児が出生し、合併症により死亡した」としたのです。●裁判所の判断と判決文の記載の難しさ本判決を受けての報道記事は下記のような記載でした(表3)。一読すると、裁判所は「遺伝子異常であることを理由として人工妊娠中絶を選択する権利」を認めたかのように読めます。■表3 出生前診断誤って告知、賠償命令 医院側に1千万円 函館地裁(2014/06/05 共同通信)北海道函館市の産婦人科医院「Aクリニック」で2011年、院長が胎児の出生前診断結果を誤って説明し、両親が人工中絶の選択権を奪われたなどとして、医院を経営する医療法人と院長に計3千477万円の損害賠償を求めた訴訟で、函館地裁(鈴木尚久裁判長)は5日、医院側に計1千万円の賠償を命じた。判決理由で鈴木裁判長は「正確に結果を告知していれば中絶を選択するか、中絶を選択しない場合、心の準備や養育環境の準備ができた。誤った告知で両親はこうした機会を奪われた」と指摘した。しかし、本判決を読めばわかるとおり、積極的に「遺伝子異常であることを理由として人工妊娠中絶を選択する権利」を認めたわけではなく、現在のわが国の母体保護法の運用として、「経済的理由」を弾力的に解釈しているという現実を尊重し、正面から「遺伝子異常であることを理由として人工妊娠中絶を選択する権利」を否定することをしなかっただけなのです。2000年代前半に生じた司法の厳格な判断により、萎縮医療が生じたことは記憶に新しいところです。本事案においても、裁判所は、判決において「遺伝子異常であることを理由として人工妊娠中絶を選択する権利」を否定してしまうことの影響を考慮し、このような判決文になったものと考えられます。本判決は、このような配慮のもと書かれたものと考えられますが、残念ながら報道では誤解を生じかねないような切り取られ方になってしまいました。医療と司法の相互理解も重要ですが、それに加え、メディアと医療、司法との相互理解も重要であるといえます。裁判例のリンク次のサイトでさらに詳しい裁判の内容がご覧いただけます。(出現順)函館地判平成26年6月5日

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いぼの治療にMMRワクチンが有効

 疣贅(ゆうぜい=いぼ)へのMMRワクチンを用いた病巣内免疫療法は、忍容性があり効果的であることが、韓国・朝鮮大学校医学部のC. H. Na氏らによる検討の結果、示された。現状で有用な疣贅治療は、冷凍療法、レーザー治療、電気外科治療、角質溶解薬の局所塗布などがあるが、痛みを伴うことが多く治療部位が瘢痕となる可能性がある。一方で近年、皮膚反応検査の抗原やワクチンを用いた病巣内免疫療法が疣贅治療に有効であることが示されていた。Clinical and Experimental Dermatology誌2014年7月号の掲載報告。 研究グループは、疣贅の新たな病巣内免疫療法として、MMRワクチンを用いた治療法の有効性を評価する後ろ向き検討を行った。 さまざまなタイプの疣贅を有する136例を登録し、2年間にわたって評価。患者は、2週間に1回、計6回にわたって治療を受けた。 治療反応は、疣贅の大きさ、数の減少を3段階で分類し評価した。また、完全奏効(CR)を再発で確認。写真とカルテで臨床評価を行った。 主な結果は以下のとおり。・被験者136例の半数(51.5%)が、疣贅の大きさ・数について50%超の減少を認めた。・被験者の46.7%が異なる部位に疣贅が拡散していたが、良好な治療反応を示した。・一般的な疣贅は、その他のタイプの疣贅と比べて治療反応が有意に高率であった(p<0.05)。しかし、有効であることを示すその他の臨床変数は認められなかった。・ほとんどすべての患者は接種時に軽度の痛みを報告したが、その他の副作用はほとんど観察されなかった。・CRが確認された患者のうち、6ヵ月後に疣贅再発を呈したのはわずかに5.6%であった。・著者は、「痛みに敏感で副作用を心配する一般的な疣贅患者には、MMRワクチンを用いた病巣内免疫療法が、忍容性があり有効であることを提案する」とまとめている。・「治療反応は、接種回数を増やすことで改善する」としている。

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