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事例12 皮膚科軟膏処置の査定【斬らレセプト】

解説内科診療所での事例である。湿疹に対して実施した軟膏塗布の範囲に応じた皮膚科軟膏処置2を算定したが、国保連合会よりD(告示・通知の算定要件に合致していないと認められるもの)を理由に査定となった。以前はレセプトの返戻がある都度に、部位を補記して再請求が行われていたという。今回は返戻とならずに査定となったために相談があった。レセプトの記載要領には、皮膚科軟膏処置に対する部位の記載要件はない。しかし、同処置の算定留意事項には、「包帯等で覆うべき軟膏処置を行なうべき広さによって定められた(点数)区分に照らして算定するもの」とある。この区分の選択が妥当であるかは、病名や補記などで示された部位の範囲を参考に審査される。事例のように範囲の記載が無ければレセプトを返戻して医療機関に問い合わせるしかない。何度も同じことを繰り返せば、査定となることもある。軟膏処置のみならず、範囲によって区分が定められた処置を実施した場合には、その区分の選択が妥当であることを示すため、あらかじめ診療録とレセプトに疾病とその部位や範囲の記載が必須となるのである。

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論文投稿のためのガイドラインを評価するエビデンスは不十分/BMJ

 ヘルス研究報告の改善のために開発された報告ガイドラインについて、カナダ・オタワ病院研究所のAdrienne Stevens氏らは、システマティックレビューによる評価を行った。報告ガイドラインのうち著名なCONSORT声明については、これまでにシステマティックレビューが行われている。その結果、一部のチェックリスト項目で報告を改善することが示されており、論文投稿時のガイドラインとしてCONSORTを推奨する学術誌で発表された研究報告は、完全性が高いとされている。しかし、その他の報告ガイドラインの包括的なシステマティックレビューは行われていなかった。BMJ誌オンライン版2014年6月25日号掲載の報告より。ヘルス研究報告と学術誌推奨の報告ガイドラインの関連をシステマティックレビューで評価 本検討では、ヘルス研究報告の完全性と学術誌が推奨する報告ガイドラインの関連をシステマティックレビューで評価した。検証対象の報告ガイドラインは、先行システマティックレビューとEQUATOR Network(2011年10月)から検索・特定し、それらの報告ガイドラインを組み込み研究報告の完全性を評価している試験を、Medline、Embaseなどから報告ガイドラインの呼称(CONSORT、PRISMA、STARDなど)で検索・特定した(1990~2011年10月、2012年1月に追加検索)。 検討では、すでに遵守の評価が行われていたCONSORT声明は除外。英語で記述され、明確な報告ガイドラインを提示し、ガイダンスの開発プロセスを記載しており、コンセンサス開発プロセスの活用法を示している報告ガイドラインを適格とした。 報告ガイドラインを組み込んだ評価試験は、英語または仏語で記述され、主要目的が研究報告の完全性の評価であったもの、または興味深い比較が可能な検討(学術誌推奨前vs. 推奨後、学術誌の推奨vs. 非推奨など)を含んだものを適格とした。 包含適格と思われる場合は、初めにタイトルとアブストラクトを、次に全文をスクリーニングする順番でデータの抽出を行った。適格性が不明な評価については著者に問い合わせ、また必要に応じて学術誌のウェブサイトで推奨について調べた。 主要アウトカムは報告の完全性で、報告ガイドラインのチェックリスト項目の全要素で特定した。その報告の完全性と学術誌の推奨との関連を、項目、著者の分析との整合性、平均総合点で分析した。学術誌の推奨ガイドラインと研究報告の完全性との関連が評価できたのは1割以下  検索により、CONSORT以外に101本の報告ガイドラインが特定された。 検索から、報告ガイドラインを組み込んだ評価試験の記録は1万5,249件が特定されたが、学術誌の推奨との関連について評価が可能であったのは、9本のガイドライン26件のみであった。 定量分析が可能であったのは、そのうち7本の報告ガイドライン(BMJ economic checklist、有害性に関するCONSORT、PRISMA、QUOROM、STARD、STRICTA、STROBE)で評価された13件で、エディターが推奨に関して役立つデータをほとんど入手できないことが判明した。 著者は、「報告ガイドラインの学術誌の推奨と刊行済みのヘルス研究報告の完全性の関連を確定するためのエビデンスは不十分なものしか存在しない」と述べ、「学術誌のエディターおよび研究者は、共同して前向きのデザインの対照試験を行い、より強いエビデンスの提供を考えるべきである」とまとめている。

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胸のしこりに対し触診や精密検査を行わず肝臓がんを見逃したケース

消化器最終判決判例時報 1610号101-105頁概要狭心症の診断で近医内科に約5年間通院していた74歳の女性。血液検査では大きな異常はみられなかったが、胸のしこりに気付き担当医師に相談したところ、劔状突起であると説明され腹部は触診されなかった。最終診察日に血液検査で肝臓疾患の疑いがもたれたが、その後別の病院を受診して多発性肝腫瘍と診断され、約4ヵ月後に肝腎症候群で死亡した。詳細な経過患者情報1981年4月20日~1994年3月14日まで、狭心症の診断で内科医院に月2回通院していた74歳女性。通院期間中の血液検査データは以下の通り(赤字が正常範囲外)■通院期間中の血液検査データ経過1994年2月24日担当医師に対し、胸にしこりがあることを訴えたが、劔状突起と説明され腹部の診察はなかった。3月10日市町村の補助による健康診断を実施。高血圧境界領域、高脂血症、肝疾患(疑いを含む)および貧血(疑いを含む)として、「要指導」と判断した。1994年3月14日健康診断の結果説明。この時腹部の診察なし(精密検査が必要であると説明したが、検査日は指定せず、それ以降の通院もなし)。3月22日別の病院で検査を受けた結果、肝機能異常および悪性腫瘍を示す数値が出た(詳細不明)。1994年4月1日さらに別医院で診察を受けた結果、触診によって肝臓が腫大していることや上腹部に腫瘤があることがわかり、肝腫瘍の疑いと診断され、総合病院を紹介された。4月4日A総合病院消化器内科で多発性肝腫瘍と診断された。4月7日A総合病院へ入院。高齢であることから積極的治療は不可能とされた。5月6日B病院で診察を受け、それ以後同病院に通院した。5月22日発熱、食欲低下のためB病院に入院した。次第に黄疸が増強し、心窩部痛などの苦痛除去を行ったものの状態が悪化した。7月27日肝内胆管がんを原因とする肝腎症候群で死亡した。当事者の主張患者側(原告)の主張診察の際に実施された血液検査において異常な結果が出たり、肝臓疾患ないしは、肝臓がんの症状の訴え(本件では胸のしこり)があったときには、それを疑い、腹部エコー検査や腫瘍マーカー(AFP検査)などの精密検査を実施すべき注意義務があり、また、エコー検査の設備がない場合には、同設備を有するほかの医療機関を紹介すべき義務がある。担当医師がこれらの義務を怠ったために死亡し、延命利益を侵害され、肝臓がんの適切な治療を受けて治癒する機会と可能性を失った。病院側(被告)の主張当時、肝臓疾患や肝臓がんを疑わせるような症状も主訴もなく、血液検査でも異常が認められなかったから、AFP検査をしたり、エコー検査の設備のあるほかの医療機関を紹介しなかった。患者が気にしていた胸のしこりは、劔状突起のことであった。また、最後の血液検査の結果に基づき、「要指導」と判断してAFP検査を含む精密検査を予定したが、患者が来院しなかった。仮に原告主張の各注意義務違反であったとしても、救命は不可能で、本件と同じ経過を辿ったはずであるから、注意義務違反と死亡という結果との間には因果関係はない。裁判所の判断通院開始から1994年3月10日までの間に、血液検査で一部基準値の範囲外のものもあるが、肝臓疾患ないし肝臓がんを疑わせるような兆候および訴えがあったとは認められない。しかし、1994年3月14日の時点では、肝臓疾患ないし肝臓がんを疑い、ただちに触診などを行い、精密検査を行うか転医させるなどの措置を採るべきであった。精密検査の約束をしたとのことだが、検査の日付を指定しなかったこと自体不自然であるし、次回検査をするといえば次の日に来院するはずであるのに、それ以降の受診はなかった。ただし、これらの措置を怠った注意義務違反はあるものの、死亡および延命利益の侵害との間には因果関係は認められない。患者は1981年以来5年間にわたって、担当医師を主治医として信頼し、通院を続けていたにもかかわらず、適時適切な診療を受ける機会を奪われたことによって精神的苦痛を受けた。1,500万円の請求に対し、150万円の支払命令考察外来診療において、長期通院加療を必要とする疾患は数多くあります。たとえば高血圧症の患者さんには、血圧測定、脈の性状のチェック、聴診などが行われ、その他、血液検査、胸部X線撮影、心電図、心エコーなどの検査を適宜施行し、その患者さんに適した内服薬が処方されることになります。しかし、患者さんの方から腹部症状の訴えがない限り、あえて定期的に腹部を触診したり、胃カメラなど消化器系の検査を実施したりすることはないように思います。本件では、狭心症にて外来通院中の患者さんが、血液検査において軽度の肝機能異常を呈した場合、どの時点で肝臓の精査を行うべきであったかという点が問題となりました。裁判所はこの点について、健康診断による「要指導」の際にはただちに精査を促す必要があったものの、検査を実施しなかったことに対しては死亡との因果関係はないと判断しました。多忙な外来診療では、とかく観察中の主な疾患にのみ意識が集中しがちであり、それ以外のことは患者任せであることが多いと思います。一方、患者の側は定期的な通院により、全身すべてを診察され、異常をチェックされているから心配ないという思いが常にあるのではないでしょうか。本件でも裁判所はこの点に着目し、長年通院していたにもかかわらず、命に関わる病気を適切に診断してもらえなかった精神的苦痛に対して、期待権侵害(慰藉料)を認めました。しかし実際のところ、外来通院の患者さんにそこまで要求されるとしたら、満足のいく外来診療をこなすことは相当難しくなるのではないでしょうか。本件以降の判例でも、同じく期待権侵害に対する慰藉料の支払いを命じた判決が散見されますが、一方で過失はあっても死亡との因果関係がない例において慰謝料を認めないという判決も出ており、司法の判断もケースバイケースといえます。別の見方をすると、本件では患者さんから「胸のしこり」という肝臓病を疑う申告があったにもかかわらず、内科診察の基本である「腹部の触診」を行わなかったことが問題視されたように思います。もしその時に丁寧に患者さんを診察し(おそらく腹部の腫瘤が確認されたはずです)、すぐさま検査を行って総合病院に紹介状を作成するところまでたどり着いていたのなら、「がんをみつけてくれた良い先生」となっていたかもしれません。今更ながら、患者さんの訴えに耳を傾けるという姿勢が、大切であることを実感しました。消化器

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炎症性腸疾患へのTNF-α阻害薬、がんリスクは増大せず/JAMA

 炎症性腸疾患(IBD)患者に対するTNF-α阻害薬投与は、がんリスク増大と関連していないことが、デンマーク・血清研究所(Statens Serum Institut)のNynne Nyboe Andersen氏らによる同国レジストリ患者対象コホート研究の結果、報告された。追跡期間中央値3.7年で、TNF-α阻害薬曝露群と非曝露群の補正後がん発症率比は1.07であったという。TNF-α阻害薬治療後のがんリスクを含む有害事象の検討については、コクランレビューとネットワークメタ解析の結果、全国レジストリの大規模データベースに基づく評価が適切であるとの結論が示されていた。JAMA誌2014年6月18日号掲載の報告より。デンマークIBD患者5万6,146例を対象にTNF-α阻害薬曝露群と非曝露群を比較 被験者は、1999~2012年のデンマーク全国レジストリで15歳以上のIBD患者であると特定された5万6,146例だった。TNF-α阻害薬曝露群は4,553例(8.1%)であった。同曝露群のIBDサブタイプはクローン病54%、潰瘍性大腸炎46%。診断時年齢は33.7歳だった。 がん症例については、デンマークがんレジストリで特定した。 主要評価項目は、TNF-α阻害薬曝露群と非曝露群を比較したがん発症率比(RR)で、ポアソン回帰分析を用いて、年齢、暦年、罹患期間、傾向スコア、その他のIBD薬使用について補正後に評価した。追跡期間中央値3.7年、曝露群の発症率比は1.07 総計48万9,433人年(追跡期間中央値9.3年、四分位範囲[IQR]:4.2~14.0年)において、がんを発症したのは、曝露群81/4,553例(1.8%)(追跡期間中央値3.7年、IQR:1.8~6.0年)、非曝露群3,465/5万1,593例(6.7%)で、補正後RRは1.07(95%信頼区間[CI]:0.85~1.36)だった。 がんリスクは、初回TNF-α阻害薬曝露以降の時間経過により分析した結果においても有意な増大は認められなかった。すなわち、1年未満1.10(95%CI:0.67~1.81、1~2年未満1.22(同:0.77~1.93)、2~5年未満0.82(同:0.54~1.24)、5年以上1.33(同:0.88~2.03)だった。 また、TNF-α阻害薬投与量別の解析でも有意なリスク増大はみられなかった。RRは1~3剤1.02(95%CI:0.71~1.47)、4~7剤0.89(同:0.55~1.42)、8剤以上1.29(同:0.90~1.85)だった。 完全補正後モデルの分析の結果、特定部位のがんが有意に多いということも認められなかった。 なお研究グループは、「今回の追跡期間中央値3.7年の検討においては、TNF-α阻害薬の使用とがんリスクの増大の関連はみられなかったが、より長期間の曝露とリスク増大との関連を除外することはできない」とまとめている。

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ホルモン療法未施行前立腺がん患者に対するエンザルタミドの効果

 エンザルタミドは、ドセタキセル投与後進行例の去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)に対して承認されている抗アンドロゲン受容体阻害剤である。この試験では、ホルモン療法未施行患者群に対する、エンザルタミド単独使用の効果と安全性の評価を目的としている。オープンラベル、シングルアームの第II相試験で、ヨーロッパの12施設で行われた。対象は、テストステロン未去勢レベル、PSA2ng/ml以上、PS=0のホルモン未治療の前立腺がん患者。これらの対象患者に、エンザルタミド160mg/日を連日投与し、25週におけるPSAが80%以上減少患者の割合をプライマリエンドポイントとしている。ベルギー ルーヴァン・カトリック大学Tombal氏らの研究。Lancet Oncology誌2014年5月号の報告。 主な結果は以下のとおり。・67例中62名92.5%(95%CI:86.2-98.8)で、25週における80%以上のPSA減少を認めた。・おもな有害事象として、女性化乳房24例、倦怠感23例、乳頭痛13例、ホットフラッシュ12例を認めた(いずれも軽度から中程度)。・Grade3以上の有害事象は、肺炎2例、高血圧4例(その他はいずれも1例)であった。 この試験の結果から、エンザルタミドはホルモン未治療の前立腺癌患者に対しても、一定程度の進行抑制と忍容性を有することが認められた。今後の非去勢前立腺癌に対する、さらなる研究が期待される。■「前立腺がんホルモン療法」関連記事ホルモン療法未治療の前立腺がん、ADTにアビラテロンの併用は?/NEJM

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豊富で質の高いコミュニケーションを交わす文化が医療の現場を変える

東北の医療の拠点、東北大学病院は約200年近い歴史を誇る。「患者さんに優しい医療と先進医療との調和を目指した病院」を理念に、今日も人口100万の仙台圏を中心に東北地方の命を守っている。同院でのコーチングの取り組みについて、齋木佳克氏(心臓血管外科 教授)ならびに岡本智子氏(診療技術部副部長・栄養管理室 室長)に話を聞いた。■コミュニケーションのハブ人材の育成が導入のきっかけ--メディカル・コーチング導入の経緯についてお聞かせください齋木氏当院は、高度先進医療を行う大学病院ということで、院内はかなり細分化、専門化しています。新しい治療法の導入や病院全体での取り組みを行う際、複数の部署と連携する必要があるのですが、部署間のコミュニケーションが不足している傾向があります。大学病院という、誰もが時間に追われている環境の中では、1つのことを決定するのに、さまざまな部門と調整をする必要があり、時間と労力を非常に要します。会議ひとつをとっても、いわゆる話し合いをする場ではなく、資料を見る場となってしまい、本質的な議論をすることができない場になってしまいがちです。日頃からのコミュニケーション不足が、そういったところに影響しているのかなと感じていました。岡本氏多職種で構成されるチーム医療が必要とされる医療の現場において、いろいろな職種が集まりさえすれば、チーム医療が実践できるのかといえば、そうではないのが現実です。チームがその役割を果たすためには、メンバーひとり一人のパフォーマンスを最大化できるリーダーの存在が必要で、このようなスキルを備える良い方法はないものかと模索していました。そんな時にコミュニケーションのハブとなる人材の育成を行うことを目的に、文部科学省大学教育改革支援事業の1つである2011年度「チーム医療促進のための大学病院職員の人材養成システムの確立」に申請し、選定されたのが、コーチング導入のきっかけとなりました。実は、これ以前に「医療安全」を目的にコーチングを部分的に院内に導入したことがあり、部署間のコミュニケーション改善にも効果があることが予想できていました。■コーチングは「院内のコミュニケーションを活性化させる」--導入準備やその時の苦労についてお聞かせください岡本氏院内でコーチング導入の提案・申請をした出江紳一氏(東北大学大学院医工学研究科教授)の研究室に、私が偶然所属していたので、コーチング・プロジェクトに参加する医療者向けに、導入の目的や内容を説明したり、ステークホルダー(コーチングを受ける人)を探したりということを率先して行いました。参加する医師については、出江先生が中心となり、「病院をより良い組織に変えたいと思っている人」「部下に主体的に仕事に取り組んで欲しいと思っている人」に声をかけてもらい、齋木先生はその1期生として参加されました。齋木氏正直、1期生に選ばれた時は、ちょっと困ったなと思いました。当時も自分の仕事の持ち時間を目いっぱい使って動いていたので、これ以上何かアクションが増えるのは厳しいなと。ただ興味もあり、今後チーム医療をさらに良くしたいという思いと自分もコーチングというコミュニケーション手法を身につけ、診療科にプラスになればいいと思い参加しました。コーチングの効果が最も具体的に表れたのは、手術の時です。当科は診療の内容上、臨時手術、緊急手術が多い。予定していなかった手術がいったん入ると、その瞬間から後の予定はすべてキャンセルになります。そういう時にコーチングで学んだこと、例えば岐路に立った時にどう考えればよいか、ポジティブになるような自問をどうすればできるかを自分が身につけ、その考え方を部下にも広げることで、いつでも気持ちの上で主体的に手術に入れるようになりました。岡本氏コーチングを学んでいくうちにわかったことは、学んだことを実践できるようになると、自分も周りも主体的に行動を起こすようになり、今までと同じ行動でも、考え方や気持ちのあり方が変わってくるということです。時間に追われるのではなく、自分たちの意志で時間を動かしていくんだという気持ちの切り替えができるようになり、業務効率の向上につながったのではないでしょうか。そういった点が、心臓血管外科ではうまく機能したのだと思います。--受講中の苦労、院内の動き、効果などをお聞かせください齋木氏コーチングのプロジェクトでは、5人のステークホルダーを選定し、それぞれの目標を明確にして面談し、その進捗状況や結果について自分につくプロのコーチと電話で相談します。当科では診療内容の性質上、1週間に2コマのトレーニング時間を確保するのが難しくて、なかなか進みませんでした。その都度電話でコーチに励まされて、積み重ねていったことが思い出されます。岡本氏当院独自の取組みとして、受講者がそれぞれ自分の活動について報告する1回30分の「グループコーチング」を実施しました。部署を率いるリーダーの立場の方々の苦労話や成功談を聞くことで横のつながりができ、日常の業務連携でも役立ったことを覚えています。よくコーチングを導入すると豊富で質の高いコミュニケーションを交わす文化が醸成するといわれますが、当院も日常会話の中でコーチング専門の用語が飛び交うようになるなど、院内でも確実にコーチングの認知度があがっていると感じます。こんなこともありました。ある部署の責任者が、私が参加しているある業務のワーキンググループが面白いと言ってきてくれたんです。理由を聞くと、「意見が出て、侃侃諤諤するけれども、最後にはきちんと決定がなされて、前進するから会議に出た充実感がある」と答えてくれました。コーチングを学んだことで、会議のマネジメントができるようになり、目標に向かって進むスピードが加速する。これは大きな成果だと思いました。■情報伝達がスピーディーに、震災時に真価を発揮--導入後どのような変化がありましたか。特に東日本大震災の時のエピソードなどお聞かせください岡本氏コーチングを導入して私が一番強く感じていることは、リーダーが部下の能力を最大限引き出すことができるようになったということです。また、リーダーは、リーダー同士の横のつながりを保ち、部下を成長させつつ、自分の力も見極めることができる。その結果、より良いチーム医療が行われつつあると実感しています。コーチングは、あらゆる場面で活用できると思いますが、各々のリーダーが所属する組織(部署)のゴールを目指す時に、特に有効かと思われます。医療機関であれば「より良い医療を患者さんに提供する」という大きなゴールを、スタッフは皆持っていると思います。各部署の小さなゴールを各リーダーが達成しつつ、大きなゴールにつなげていくことができれば、病院全体が1つのチームとしてすごい力を発揮できると考えています。例えば、東日本大震災の時は、すべきことがたくさんある中で、栄養管理室でさまざまな情報が下から上がってくるという仕組みができていたので、情報の収集とコミュニケーションでは本当に助かりました。私は、入ってくる情報を聞いて判断して、次の行動にすぐ移すことができました。部下に相談しても、きちんと次の動きを考えた意見や提案が上がってきたので、素早く判断することができました。おかげで震災の時、栄養管理室は、患者さんの食事を1食も欠かすことなく出すことができましたし、3,000人に上る職員への支援物資配分をスムーズに行うことができたのは、コミュニケーションをトレーニングしていたおかげだと思います。齋木氏トレーニングを進めていくにしたがって、360度フィードバックで自分の別の側面を見ることができたり、具体的な目標が対話を通じて明確に固まったりと、医局のマネジメントに非常に役に立ちました。今では当科の大学院生を育てる1つのコミュニケーション手法にもコーチングを活用しています。内勤や外勤先での診療や自分の研究で忙しい中、予定していた研究が何かの理由で中断された時でも、大学院生が主体的な気持ちで行動できるように、早朝に時間を見つけては1対1のコーチング面談を行っています。コーチング導入後は、大学院生の表情が変わっていくのが感じられました。今後は自分が学んだコーチングの簡易版を医局員にトレーニングすることで、主体的に動ける医局員を育てていきたいと思います。--今後コーチングを導入される医療機関へアドバイスなどお聞かせください岡本氏コーチングの手法を使ってマネジメントを展開させていく時は、お互いの成果を承認しあい、目標を皆で決めて、そこに向っていきます。その時、定期的な振り返りを行い、現状を把握した上で先々を予想し、戦略性を持って臨んでいくことが大事だと思います。小さな歯車がさまざまなところで回れば、大きな歯車も回っていくのだと実感しています。齋木氏コーチングを導入される場合、全体の核となる人を見つけることが大事だと思います。コーチングの魅力を感じたとしても、続けていくことは簡単なことではないので、全体を引っ張っていく、当院でいえば岡本さんのような人がいることが、成功のカギになると考えます。●病院概要名称東北大学病院病院長下瀬川徹診療科目57科病床数1,262床  看護基準 7対1職員数2,242名(常勤)その他特定機能病院、がん診療連携拠点病院、救急指定病院(救命救急センター設置)、臨床研究中核病院、臨床研修指定病院などインデックスページへ戻る

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酩酊患者の胸腔内出血を診断できずに死亡したケース

救急医療最終判決判例時報 1132号128-135頁概要酩酊状態でオートバイと衝突し、救急隊でA病院に搬送された。外観上左後頭部と右大腿外側の挫創を認め、経過観察のため入院とした。病室では大声で歌を歌ったり、点滴を自己抜去するなどの行動がみられたが、救急搬送から1時間後に容態が急変して下顎呼吸となり、救急蘇生が行われたものの死亡に至った。死体解剖は行われなかったが、視診上右第3-第6肋骨骨折、穿刺した髄液が少量の血性を帯びていたことなどから、「多発性肋骨骨折を伴う胸腔内出血による出血性ショック」と検案された。詳細な経過経過1979年12月16日16:15頃相当量の飲酒をして道路を横断中、走行してきたオートバイの右ハンドル部分が右脇腹付近に強く当たる形で衝突し、約5mはねとばされて路上に転倒した。16:20近くの救急病院であるA病院に救急車で搬送される。かなりの酩酊状態であり、痛いというのでその部位を質問しても答えられず、処置中制止しても体を動かしたりした。外観上は、左後頭部挫傷、右大腿外側挫傷、左上腕擦過傷、右外肘擦過傷を認めたが、胸部の視診による皮下出血、頻呼吸、異常呼吸、ならびに触診による明らかな肋骨骨折なし。血圧90/68、呼吸困難なし、腹部筋性防御反応なし、神経学的異常所見なしであった。各創部の縫合処置を行ったのち、血圧が低いことを考慮して血管確保(乳酸加リンゲル500mL)を行ったが、格別重症ではないと判断して各種X線、血液検査、尿検査、CT撮影などは実施しなかった。このとき、便失禁があり、胸腹部あたりにしきりに疼痛を訴えていたが、正確な部位が確認できなかったため経過観察とした。17:20病室に収容。寝返りをしたり、ベッド上に起き上がったりして体動が激しく、転落のおそれがあったので、窓際のベッドに移してベッド柵をした。患者は大声で歌うなどしており、体動が激しく点滴を自己抜去するほどであり、バイタルサインをとることができなかったが、喘鳴・呼吸困難はなかった。17:40容態が急変して体動が少なくなり、下顎呼吸が出現。当直医は応援医師の要請を行った。17:50救急蘇生を開始したが反応なし。18:35死亡確認となった。■死体検案本来は死体解剖をぜひともするべきケースであったが行われなかった。右頭頂部に挫創を伴う表皮剥脱1個あり髄液が少量の血性を帯びていた右第3-第6肋骨の外側で骨折を触知、胸腔穿刺にて相当量の出血あり肋骨骨折部位の皮膚表面には変色なし以上の所見から、監察医は「死因は多発肋骨骨折を伴う胸腔内出血による出血性ショック」と判断した。当事者の主張患者側(原告)の主張初診時からしきりに胸腹部の疼痛を訴え、かつ腹部が膨張して便失禁がみられたにもかかわらず、酩酊していたことを理由に患者の訴えを重要視しなかった受傷機転について詳細な調査を行わず、脈拍の検査ならびに肋骨部分の触診・聴診を十分に実施せず、初診時の血圧が低かったにもかかわらず再検をせず、X線撮影、血液検査、尿検査をまったく行わなかった初診時に特段の意識障害がなかったことから軽症と判断し、外見的に捉えられる創部の縫合処置を行っただけで、診療上なすべき処置を執らなかった結果、死亡に至らしめた病院側(被告)の主張胸腹部の疼痛の訴えはあったが、しきりに訴えたものではなく、疼痛の部位を尋ねても泥酔のために明確な指摘ができなかった初診時には泥酔をしていて、処置中も寝がえりをするなど体動が激しく、血圧測定、X線検査などができる状態ではなかった。肋骨骨折は、ショック状態にいたって蘇生術として施行した体外心マッサージによるものである初診時に触診・聴診・視診で異常がなく、喀血および呼吸困難がなく、大声で歌を歌っていたという経過からみて、肋骨骨折や重大な損傷があったとは認められない。死体検案で髄液が血性であったということから、頭蓋内損傷で救命することは不可能であった。仮に胸腔内出血であったとしても、ショックの進行があまりにも早かったので救命はできなかった裁判所の判断1.初診時血圧が90と低く、胸腹部のあたりをしきりに痛がってたこと、急変してショック状態となった際の諸症状、心肺蘇生施行中に胸部から腹部にかけて膨満してきた事実、死体検案で右第3-第6肋骨骨折がみられたことなどを総合すると、右胸腔内出血により出血性ショックに陥って死亡したものと認めるのが相当である2.容態急変前には呼吸困難などなく、激しい体動をなし、歌を歌っていたが、酩酊している場合には骨折によって生じる痛みがある程度抑制されるものである3.肋骨骨折部位の皮膚に変色などの異常を疑う所見がなかったのは、衝突の際にセーターやジャンパーを着用していたため皮下出血が生じなかった4.体外式心マッサージの際生じることのある肋骨骨折は左側であるのに対し、本件の肋骨骨折は右外側であるので、本件で問題となっている肋骨骨折は救急蘇生とは関係ない。一般に肋骨骨折は慎重な触診を行うことにより容易に触知できることが認められるから、診療上の過失があった5.胸腔内への相当量の出血を生じている患者に対して通常必要とされる初診時からの血圧、脈拍などにより循環状態を監視しつつ、必要量の乳酸加リンゲルなどの輸液および輸血を急速に実施し、さらに症状の改善がみられない場合には開胸止血手術を実施するなどの処置を行わなかった点は適切を欠いたものである。さらに自己抜去した点滴を放置しその後まもなく出血性ショックになったことを考えると、注射針脱落後の処置が相当であったとは到底認めることができない6.以上のような適切な処置を施した場合には、救命することが可能であった原告側合計6,172万円の請求に対し、5,172万円の判決考察ここまでの経過をご覧になって、あまりにも裁判所の判断が実際の臨床とかけ離れていて、唖然としてしまったのは私だけではないと思います。その理由を説明する前に、この事件が発生したのは日曜日の午後であり、当時A病院には当直医1名(卒後1年目の研修医)、看護師4名が勤務していて、X線技師、臨床検査技師は不在であり、X線撮影、血液検査はスタッフを呼び出して、行わなければならなかったことをお断りしておきます。まず、本件では救急車で来院してから1時間20分後に下顎呼吸となっています。そのような重症例では、来院時から意識障害がみられたり、身体のどこかに大きな損傷があるものですが、経過をみる限りそのようなことを疑う所見がほとんどありませんでした。唯一、血圧が90/68と低かった点が問題であったと思います。しかも、容態急変の20分前には(酩酊も関係していたと思われますが)大声で歌を歌っていたり、病室で点滴を自己抜去したということからみても、これほど早く下顎呼吸が出現することを予期するのは、きわめて困難であったと思われます。1. 死亡原因について本件では死体解剖が行われていないため、裁判所の判断した「胸腔内出血による失血死」というのが真実かどうかはわかりません。確かに、初診時の血圧が90/68と低かったので、ショック状態、あるいはプレショック状態であったことは事実です。そして、胸腹部を痛がったり、監察医が右第3-第6肋骨骨折があることを触診で確認していますので、胸腔内出血を疑うのももっともです。しかし、酩酊状態で直前まで大声で歌を歌っていたのに、急に下顎呼吸になるという病態としては、急性心筋梗塞による致死性不整脈であるとか、大動脈瘤破裂、もしくは肺梗塞なども十分に疑われると思います。そして、次に述べますが、肋骨骨折が心マッサージによるものでないと断言できるのでしょうか。どうも、本件で唯一その存在が確かな(と思われる)肋骨骨折が一人歩きしてしまって、それを軸としてすべてが片付けられているように思えます。2. 肋骨骨折についてまず、「一般に肋骨骨折は慎重な触診を行うことにより容易に触知できる」と断じています。この点は救急を経験したことのある先生方であればまったくの間違いであるとおわかり頂けると思います。外観上異常がなくても、X線写真を撮ってはじめてわかる肋骨骨折が多数あることは常識です。さらに、「肋骨骨折部位の皮膚に変色などの異常を疑う所見がなかったのは、衝突の際にセーターやジャンパーを着用していたため皮下出血が生じなかった」とまで述べているのも、こじつけのように思えて仕方がありません。交通外傷では、(たとえ厚い生地であっても)衣服の下に擦過傷、挫創があることはしばしば経験しますし、そもそも死亡に至るほどの胸腔内出血が発生したのならば、胸部の皮下出血くらいあるのが普通ではないでしょうか。そして、もっとも問題なのが、「体外式心マッサージの際生じることのある肋骨骨折は左側であるのに対し、本件の肋骨骨折は右外側であるので、本件で問題となっている肋骨骨折は救急蘇生とは関係ない」と、ある鑑定医の先生がおっしゃったことを、そのまま判決文に採用していることです。われわれ医師は、科学に基づいた教育を受け、それを実践しているわけですから、死体解剖もしていないケースにこのような憶測でものごとを述べるのはきわめて遺憾です。3. 点滴自己抜去について本件では初診時から血算、電解質などを調べておきたかったと思いますが、当時の状況では血液検査ができませんでしたので、酩酊状態で大声で歌を歌っていた患者に対しとりあえず輸液を行い、入院措置としたのは適切であったと思います。そして、病室へと看護師が案内したのが17:20、恐らくその直後に点滴を自己抜去したと思いますが、このとき寝返りをしたりベッド上に起き上がろうとして体動が激しいため、転落を心配して窓際のベッドに移動し、ベッドに柵をしたりしました。これだけでも10分程度は経過するでしょう。恐らく、落ち着いてから点滴を再挿入しようとしたのだと思いますが、病室に入ったわずか20分後の17:40に下顎呼吸となっていますので、別に点滴が抜けたのに漫然と放置したわけではないと思います。にもかかわらず、「さらに自己抜去した点滴を放置しその後まもなく出血性ショックになったことを考えると、注射針脱落後の処置が相当であったとは到底認めることができない」とまでいうのは、どうみても適切な判断とは思えません。4. 本件は救命できたか?裁判所(恐らく鑑定医の判断)は、「適切な処置(輸血、開胸止血)を施した場合には、救命することが可能であった」と断定しています。はたして本件は適切な治療を行えば本当に救命できたのでしょうか?もう一度時間経過を整理すると、16:15交通事故。16:20病院へ救急搬送、左後頭部、右大腿外側の縫合処置、便失禁の処置、点滴挿入。17:20病室へ。体動が激しく大声で歌を歌う。17:40下顎呼吸出現。18:35死亡確認。この患者さんを救命するとしたら、やはり下顎呼吸が出現する前に血液検査、輸血用のクロスマッチ、場合によっては手術室の手配を行わなければなりません。しかしA病院では日曜日の当直帯であったため、X線検査、血液検査はできず、裁判所のいうように適切に診断し治療を開始するとしたら、来院後すぐに3次救急病院へ転送するしか救命する方法はなかったと思います。A病院で外来にて診察を行っていたのは60分間であり、その時の処置(縫合、点滴など)をみる限り、手際が悪かったとはいえず(血圧が低かったのは気になりますが)、この時点ですぐに転送しなければならない切羽詰まった状況ではなかったと思います。となると、どのような処置をしたとしても救命は不可能であったといえるように思えます。では最初から救命救急センターに運ばれていたとしたら、どうだったでしょうか。初診時に意識障害がなかったということなので、簡単な問診の後、まずは骨折がないかどうかX線写真をとると思います。そして、胸腹部を痛がっていたのならば、腹部エコー、血液検査などを追加し、それらの結果がわかるまでに約1時間くらいは経ってしまうと思います。もし裁判所の判断通り胸腔内出血があったとしたら、さらに胸部CTも追加しますので、その時点で開胸止血が必要と判断したら、手術室の準備が必要となり、入室までさらに30分くらい経過してしまうと思います。となると、来院から手術室入室まで早くても90分くらいは要しますので、その時にはもう容態は急変(下顎呼吸は来院後80分)していることになります。このように、後から検証してみても救命はきわめて困難であり、「適切な処置(輸血、開胸止血)を施した場合には、救命することが可能であった」とは、到底いえないケースであったと思います。以上、本件の担当医には酷な結末であったと思いますが、ひとつだけ注意を喚起しておきたいのは、来院時の血圧が90/68であったのならば、ぜひともそのあと再検して欲しかった点です。もし再検で100以上あれば病院側に相当有利になっていたと思われるし、さらに低下していたらその時点で3次救急病院への転送を考えたかも知れません。救急医療

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高齢肺炎入院患者へのアジスロマイシン、心イベントへの影響は?/JAMA

 高齢の肺炎入院患者へのアジスロマイシン(商品名:ジスロマックほか)使用は他の抗菌薬使用と比較して、90日死亡を有意に低下することが明らかにされた。心筋梗塞リスクの増大はわずかであった。肺炎入院患者に対して診療ガイドラインでは、アジスロマイシンなどのマクロライド系との併用療法を第一選択療法として推奨している。しかし最近の研究において、アジスロマイシンが心血管イベントの増大と関連していることが示唆されていた。米国・VA North Texas Health Care SystemのEric M. Mortensen氏らによる後ろ向きコホート研究の結果で、JAMA誌2014年6月4日号掲載の報告より。65歳以上入院患者への使用vs. 非使用を後ろ向きに分析 研究グループは、肺炎入院患者におけるアジスロマイシン使用と、全死因死亡および心血管イベントの関連を明らかにするため、2002~2012年度にアジスロマイシンを処方されていた高齢肺炎入院患者と、その他のガイドラインに則した抗菌薬治療を受けていた患者とを比較した。 分析には、全米退役軍人(VA)省の全VA急性期治療病院に入院していた患者データが用いられた。65歳以上、肺炎で入院し、全米臨床診療ガイドラインに則した抗菌薬治療を受けていた患者を対象とした。 主要評価項目は、30日および90日時点の全死因死亡と、90日時点の不整脈、心不全、心筋梗塞、全心イベントの発生とした。傾向スコアマッチングを用い、条件付きロジスティック回帰分析で既知の交絡因子の影響を制御した。使用患者の90日死亡オッズ比は0.73 対象患者には118病院から7万3,690例が登録され、アジスロマイシン曝露患者3万1,863例と非曝露の適合患者3万1,863例が組み込まれた。適合群間の交絡因子について有意差はなかった。 分析の結果、90日死亡について、アジスロマイシン使用患者について有意な低下が認められた(曝露群17.4%vs. 非曝露群22.3%、オッズ比[OR]:0.73、95%信頼区間[CI]:0.70~0.76)。 一方で曝露群では、有意なオッズ比の増大が、心筋梗塞について認められた(5.1%vs. 4.4%、OR:1.17、95%CI:1.08~1.25)。しかし、全心イベント(43.0%vs. 42.7%、1.01、0.98~1.05)、不整脈(25.8%vs. 26.0%、0.99、0.95~1.02)、心不全(26.3%vs. 26.2%、1.01、0.97~1.04)についてはみられなかった。 結果について著者は、「肺炎入院患者に対するアジスロマイシン使用は、リスクよりも有益性が上回る」とまとめている。

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1分でわかる家庭医療のパール ~翻訳プロジェクトより 第9回

第9回:外来で出会う潜在性の消化管出血へのアプローチをどのように行うか? 外来診療の中で、採血を行った際に鉄欠乏性貧血を偶然発見する、大腸がんのスクリーニング検査で便潜血検査を行うと陽性であった、といったことはしばしば経験することだと思います。しかし、出血源を正しく評価するためにどのようにアプローチしていくかは、検査の侵襲性の問題もあり、頭を悩ませることも時にはあるかと思います。原因の検索のために確立された評価法を確認することで、このよくある問題に対する診療の一助となれば幸いです。 以下、 American Family Physician 2013年3月15日号1)より潜在性消化管出血1.概要潜在性消化管出血とは、明らかな出血は認められないが便潜血検査が陽性である消化管出血、または便潜血検査の結果に限らず鉄欠乏性貧血を認めている消化管出血と定義される。消化管出血の段階的な評価は確立されており、上下部内視鏡で消化管出血が診断つく人は48~71%に上る。繰り返し上下部の内視鏡で精査されて、見逃されていた病変が見つかる人は、出血が再発する患者の中で35%程度いる。もし上下部内視鏡で診断がつかない場合はカプセル内視鏡を行うことで、病変の診断率は61~74%に及ぶ。便潜血検査が陽性でも、詳細な評価を行わずして、低用量アスピリンや抗凝固薬が原因であるとしてはならない。2.病因上部消化管から小腸にかけての出血が鉄欠乏性貧血の原因となることが多い。 上部消化管(頻度:29~56%)食道炎、食道裂孔ヘルニア、胃十二指腸潰瘍、血管拡張、胃がん、胃前庭部毛細血管拡張症 大腸病変(頻度:20~30%)大腸ポリープ、大腸がん、血管拡張症、腸炎 上下部消化管の同時性の出血(1~17%) 出血源不明(29~52%)年齢での出血の原因としての頻度は、 40歳以下小腸腫瘤(最も原因として多い)、Celiac病、クローン病 40歳以上血管拡張、NSAIDsが最もcommon まれな原因感染(鈎虫)、長距離走(⇒内臓の血流が増加し、相対的に腸管の虚血が起こると考えられている)3.病歴と身体診察消化管出血、手術の既往または病因の聴取が重要な診断の手掛かりとなる。体重減少は、悪性腫瘍を示唆し、アスピリンや他のNSAIDs使用者の腹痛は、潰瘍性の粘膜障害を示唆する。抗凝固剤や、抗血小板剤は出血を引き起こす可能性がある。消化管出血の家族歴では遺伝性出血性血管拡張(唇、舌、手掌に血管拡張)、青色ゴム母斑症候群(Blue rubber bleb nevus syndrome:BRBNS 皮膚・腸管・軟部組織の静脈奇形)を示唆するかもしれない。胃のバイパス術は鉄吸収不良を引き起こす。肝疾患の既往や肝の出血斑は門脈圧亢進性胃症・腸症を示唆している。その他の有用な身体所見として、ヘルペス状皮膚炎(celiac病)、結節紅斑(クローン病)、委縮した舌とスプーン上の爪(Plummer-Vinson症候群)、過伸展した関節と眼球と歯の奇形(Ehlers-Danlos症候群)、口唇の斑点(Peutz-Jeghers症候群)などが挙げられる。4.診断的検査診断法の選択・流れは臨床的に疑う疾患の種類と随伴症状によって決められる。上部消化管出血(Vater乳頭近位部までの出血)は上部消化管内視鏡により診断が可能である。小腸近位部の出血はダブルバルーン内視鏡で診断が行える。小腸の中~遠位部の出血はカプセル内視鏡、バルーン内視鏡とCT検査で診断が可能である。下部消化管 (大腸出血)は下部消化管内視鏡で診断を行う。術中に行う内視鏡検査は前述した方法でもなお出血源が特定できず、出血が再発している患者に対しての選択肢として考えられる。5.評価方法・便潜血検査陽性で鉄欠乏性貧血を認めない場合アメリカ消化器病学会では段階的な評価を提唱している。 ・便潜血検査が陽性有無に限らず、鉄欠乏性貧血を認める場合男性と閉経後女性では消化管より出血していると想定できる。閉経前女性であれば月経による出血の可能性も考慮する。しかしながら、この集団においてはがんも含む大腸、上部消化管の病変の報告もある。 すべての患者において腸管外の出血(鼻出血、血尿、産科的出血)の評価は行わなければならない。※本内容は、プライマリ・ケアに関わる筆者の個人的な見解が含まれており、詳細に関しては原著を参照されることを推奨いたします。 1) Bull-Henry K, et al. Am Fam Physician. 2013; 87:430-436.

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治療抵抗性統合失調症に対する漢方薬「抑肝散」の有用性:島根大学

 統合失調症患者のうち抗精神病薬が無効の治療抵抗性患者は20~25%を占めると推定されている。漢方薬の抑肝散は、D2および5-HT1Aの部分的作用、5-HT2Aとグルタミン酸の拮抗作用を有しており、最近行われた試験において、認知症やその他の神経精神症状と関連した行動および精神症状の治療において、安全かつ有用であることが示されていた。今回、島根大学の宮岡 剛氏らによる多施設共同二重盲検プラセボ対照の無作為化試験の結果、治療抵抗性統合失調症に対する漢方薬「抑肝散」の有用性が実証された。結果を踏まえて著者は、「抑肝散は、治療抵抗性統合失調症の補助的治療戦略となりうることが示された。とくに、興奮や敵愾心の症状改善に有用と思われる」とまとめている。Psychopharmacology誌オンライン版2014年6月13日号の掲載報告。治療抵抗性統合失調症に漢方薬の抑肝散の有効性と安全性 研究グループは、漢方薬である抑肝散の治療抵抗性統合失調症患者に対する有効性と安全性を評価した。試験は2010年5月~2012年8月に行われ、日本国内34の精神科病院から抗精神病薬治療を受けている入院患者120例が試験に参加した。追跡期間は4週間で、精神病理について陽性・陰性症状尺度(PANSS)を用いて、5つの症状(興奮/敵愾心、抑うつ/不安、認知、陽性症状、陰性症状)について評価した。そのほか、Clinical Global Impression-Severity(CGI-S)、Global Assessment Functioning(GAF)、Drug-Induced Extrapyramidal Symptoms Scale(DIEPSS)を用いた評価も行った。主要有効性アウトカムは、PANSS評価の5つの症状スコアの変化で、副次アウトカムは、CGI-Sスコアの変化であった。 抑肝散の治療抵抗性統合失調症患者に対する有効性と安全性の主な結果は以下のとおり。・治療抵抗性統合失調症患者において、抑肝散は、PANSS評価の5つすべての症状スコアの低下においてプラセボに対する優越性を示した。・抑肝散群とプラセボ群の差は、総合スコア、抑うつ/不安、認知、陽性症状、陰性症状については、統計的に有意ではなかった。・しかし、興奮/敵愾心については、抑肝散群において有意な改善がみられた(p<0.05)。・抑肝散の副作用については、ほとんど認められなかった。関連医療ニュース 高齢の遅発統合失調症患者に対する漢方薬の効果は 治療抵抗性統合失調症女性、エストラジオールで症状改善 治療抵抗性統合失調症へのクロザピン投与「3つのポイント」

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事例09 リドカイン(商品名: キシロカインゼリー 2%)の査定【斬らレセプト】

解説神経因性膀胱に対して J066尿道拡張法が行われた事例である。その時に使用したキシロカイン®ゼリーがB事由(医学的に過剰・重複と認められるものをさす)にて査定となった。神経因性膀胱に伴う排尿困難に対しては、導尿が実施される。その際に患者の苦痛を和らげるためと尿道への挿入をスムーズに行うために、ゼリー状で滑り易さをもった麻酔薬のキシロカイン®ゼリーをカテーテルに塗布して使用される。保険請求の経験上、男性は尿道が長いために30mLが認められるが、女性は尿道が短いために15mLが限度とされている。事例では、尿道拡張法が算定されている。診療録を見てみると、小径のカテーテルから順次大径サイズのカテーテルを挿入して尿道を拡張する尿道拡張法の実施が記入されていた。その際にカテーテルに塗布したキシロカイン®ゼリーを導尿時の倍以上を使用していたために請求したものであった。この場合であっても、麻酔の効力持続時間から考えて、15mLあれば十分足りるものと査定されたと推測できる。医学的に必要があれば、あらかじめ症状詳記を記載すべきであろう。

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事例10 アシクロビル(商品名: ゾビラックス)の査定【斬らレセプト】

解説単純口唇ヘルペスに対して、ゾビラックス®錠200を1日5回、7日間にわたり服用するように処方を行ったところ、投与日数を5日限度としてB事由(医学的に過剰・重複と認められるものをさす)にて査定となった。ゾビラックス®錠200は、単純疱疹にも適用があり、事例への使用には問題は無い。しかし、添付文書を見直してみると、重要な基本的注意の2に、「単純疱疹の治療においては本剤を5日間使用し、改善の兆しが見られないか、あるいは悪化する場合には、他の治療に切り替えること」とある。また、同3には「帯状疱疹の治療においては本剤を7日間使用し(後略)」とある。事例では、初診時に一括して7日分を投与している。単純疱疹の一形態である単純口唇ヘルペスであれば1回の処方を5日限度として、その後の投与継続の判断が必要である。よって、単純疱疹への投与としては2日分が過剰であるとして、査定されたものと考えられる。事例のような処方をする場合であれば、1回目の処方で5日、2回目の処方で2日の投与であれば問題なく算定できる。帯状疱疹では7日間の投与が認められていることから誤解しやすい事例であるので、留意して算定をお願いしたい。

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サッカーW杯観戦で心イベントは増加するのか

 サッカー観戦が心イベントリスクを増加させるかどうかは、議論の余地が残されている。2006年にドイツでワールドカップが開催されたが、オーストリア・パラケルスス医科大学のDavid Niederseer氏らは、バイエルン地方のサッカーファンの大規模コホートにおいて、心イベントに対する情動ストレスの影響を評価した結果をInternational Journal of Cardiology誌2013年12月号に報告している。本調査では、自国のチームが試合しているかどうかにかかわらず、サッカー観戦は心イベント発生率の増加に関連しておらず、スポーツイベントの観戦で心イベントリスクは増加しないという仮説を支持する結果となっている。 著者らは、ワールドカップの期間(2006年6月9日~7月9日)と対照期間(2005年5月1日~7月31日、2006年5月1日~6月8日、2006年7月10日~31日)におけるバイエルンの統計・データ管理委員会による、以下の疾患における診断データを分析した。[心筋梗塞、心筋梗塞再梗塞、心停止、発作性頻拍、心房細動、心房粗動、その他すべての頻脈性不整脈] データは、ワールドカップ中ドイツチームの試合があった7日間、ドイツチームの試合がなかった24日間、対照期間(61日間)の3群で比較した。 主な結果は以下のとおり。・バイエルン地方の1日当たりの総心イベントにおいても、他の調査疾患においても、対照期間(176.2±51.8)に比べて、ドイツチームの試合があった7日間(161.1±46.7)、試合のなかった24日間(170.5±52.3)における有意なイベント増加はみられなかった(p>0.433)。・この結果は、年齢、性別、負け試合、外気温、二酸化窒素の大気汚染レベルを調整後も、本質的に変わらなかった。

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シメプレビルが慢性C型肝炎の治療期間短縮を達成/Lancet

 シメプレビル(1日1錠服用)とペグインターフェロンα(PEG-IFNα)-2a+リバビリン(RBV)の3剤併用療法は、未治療のC型肝炎ウイルス(HCV)遺伝子型1型感染患者の治療において、PEG-IFNα-2a+RBV関連の有害事象プロファイルを増悪させずに治療期間を短縮することが、米国・ワイルコーネル医科大学のIra M Jacobson氏らが行ったQUEST-1試験で示された。従来のHCV NS3/4Aプロテアーゼ阻害薬ボセプレビル(国内未承認)+テラプレビルとPEG-IFNα+RBVの併用療法は、未治療および既治療のHCV遺伝子型1型感染患者で良好な持続的ウイルス消失(SVR)を達成しているが、錠剤数が多いうえに1日3回の服用を要し、また重篤な貧血や皮膚障害などの頻度が高いという問題があった。Lancet誌オンライン版2014年6月4日号掲載の報告。3剤併用レジメンの有用性をプラセボ対照無作為化試験で評価 QUEST-1試験は、未治療のHCV遺伝子型1型感染患者に対する経口HCV NS3/4Aプロテアーゼ阻害薬シメプレビルとPEG-IFNα-2a+RBVの併用療法の有効性と安全性を検討する二重盲検プラセボ対照無作為化第III相試験。対象は、年齢18歳以上、ウイルス量がHCV RNA>10,000 IU/mLの未治療の患者であった。HCV遺伝子型1型のサブタイプ(1a、1b、その他)、IL28B遺伝子型(SNP rs12979860:CC、CT、TT)で層別化し、以下の2つの治療群に2対1の割合で無作為に割り付けた。 (1)シメプレビル群:シメプレビル(150mg、1日1錠、経口投与)+PEG-IFNα-2a+RBVを12週投与後にPEG-IFNα-2a+RBVを12週または36週投与。4週時にHCV RNA<25IU/mL(検出不能または検出可能)または12週時にHCV RNA<25IU/mL(検出不能)の場合は24週で治療を終了し、これを満たさない場合は48週まで治療を継続。(2)プラセボ群:プラセボ+PEG-IFNα-2a+RBVを12週投与後にPEG-IFNα-2a+RBVを36週投与(治療期間48週)。 主要評価項目は、SVR 12達成率(治療終了時のHCV RNA<25IU/mL[検出不能]または治療終了後12週時のHCV RNA<25IU/mL[検出可能または検出不能])とした。SVR12達成率:80%、RVR達成率:80%、24週で治療完了:85% 2011年1月18日~2013年1月29日までに、13ヵ国71施設から394例が登録され、シメプレビル群に264例(年齢中央値48歳、女性44%)、プラセボ群には130例(48歳、43%)が割り付けられた。 SVR 12達成率は、シメプレビル群が80%(210/264例)と、プラセボ群の50%(65/130例)に比べ有意に優れた(補正後群間差:29.3%、95%信頼区間[CI]:20.1~38.6%、p<0.0001)。シメプレビル群の有効性は、HCV遺伝子型1のサブタイプ、IL28B遺伝子型、METAVIRスコア(肝線維化)の違いにかかわらず認められた。また、SVR24(治療終了後24週のSVR)達成率もシメプレビル群が有意に良好だった(83%vs. 60%、p=0.0253)。 迅速ウイルス消失(RVR、4週以内のHCV RNA<25IU/mL[検出不能])の達成率は、シメプレビル群が80%(202/254例)であり、プラセボ群の12%(15/127例)よりも有意に優れた(補正後群間差:68.0%、95%CI:60.5~75.4%)。シメプレビル群のRVR達成202例のうち181例(90%)がSVR 12を達成した。 シメプレビル群の85%(224/264例)が24週で治療を完了し、このうち91%(203/224例)がSVR12を達成した。 治療12週時までの治療中止がシメプレビル群で2例、プラセボ群で1例みられた。最も頻度の高い有害事象は、疲労(40%、38%)および頭痛(31%、37%)であった。貧血(16%、11%)および皮疹(27%、25%)の頻度は両群で同等であった。シメプレビル群でGrade 3の貧血が2例、Grade 3の皮疹が2例にみられたが、Grade 4は認めなかった。 シメプレビルの追加によって患者の自己申告による疲労や生活機能制限は重症化せず、その発症期間が短縮した。 著者は、「シメプレビルは、HCV感染患者に対する3剤併用レジメンの有望な候補であることが示唆される。また、今回の結果により、インターフェロンを用いない直接作用型抗ウイルス薬レジメンにおけるシメプレビルの評価に向けた基盤が確立されたといえよう」と指摘している。

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喘息様気管支炎と診断した乳児が自宅で急死したケース

小児科最終判決判例タイムズ 844号224-232頁概要1歳1ヵ月の乳児。37.5℃の発熱と喘鳴を主訴に休日当番医を受診し、喘息性気管支炎と診断され注射と投薬を受けて帰宅した。ところが、まもなく顔面蒼白となり、救急車で再び同医を受診したが、すでに心肺停止、瞳孔散大の状態であったため、救命蘇生措置は行われず死亡確認となった。司法解剖では、肺水腫による肺機能障害から心不全を起こして死亡したものと推定された。詳細な経過経過1983年12月31日この頃から風邪気味であった。1984年1月1日37.2℃の発熱あり。1月2日午後37.5℃に上がり、声がしわがれてぜいぜいし、下痢をしたので、16:20頃A医院を受診。待合室で非常にぜいぜいと肩で息をするようになったため、17:20頃順番を繰り上げて診察を受ける。強い呼吸困難、喘鳴、声がれ、顔面蒼白、腹壁緊張減弱、皮膚光沢なし、胸部ラ音、下痢などの症状を認め、喘息性気管支炎と診断。担当医師は経過観察、ないしは入院の必要があると判断したが、地域の救急患者の転送受け入れをする輪番制の病院がないものと考え、転院の措置をとらなかった。呼吸困難改善のため、スメルモンコーワの注射(適応は急性気管支炎や感冒・上気道炎に伴う咳嗽)と、アセチルロイコマイシンシロップなどの投薬をし、隣室ベッドで待つように指示した。18:00若干呼吸困難が楽になったように感じたため、容態急変した場合には夜間診療所を受診するように指示されて帰宅した。18:20帰宅時、顔面が蒼白になり唇が青くなっていたため、救急車を要請。その直後急に立ち上がり、目を上に向け、唇をかみしめ、まったく動かなくなった。18:54救急車でA医院に到着したが、すでに心肺停止、瞳孔散大の状態であり、心肺蘇生術を施さずに死亡が確認された。司法解剖の結果、「結果的には肺水種による肺機能障害により死亡したものと推定」し、その肺水腫の原因として、(1)間質性肺炎(2)乳幼児急死症候群(SIDS)(3)感染によるエンドトキシンショック(4)薬物注射による不整脈(5)薬物ショックとそれに続く循環障害などが考えられるが、結論的には不詳とされた。当事者の主張患者側(原告)の主張1.医師の過失1回目の診察時にすでに呼吸不全に陥っているのを認めたのであるから、ただちに入院させて、X線写真、血液検査などの精査を行うとともに、気道確保、酸素吸入、人工換気などの呼吸管理、呼吸不全、心不全などの多臓器障害の防止措置などを行うべき義務があったのに、これらを怠った2.経過観察義務違反・転医措置義務違反呼吸不全を認めかつ入院の必要を認めたのであるから、少なくとも症状の進行、急変に備え逐一観察すべき義務があったのに怠った。さらに、転医を勧告するなど、緊急治療措置ないし検査を受けさせ、あるいは入院する機会を与えるべき義務があったのに、転医措置を一切講じなかった3.救命蘇生措置義務違反心肺停止で救急搬送されたのは、心臓停止後わずか10分程度しか経過していない時点であり救命措置をとるべき義務があったのに、これを怠った4.死因喘息性気管支炎から肺炎を引き起こして肺水腫となり、肺機能障害から心不全となって死亡した。病院側が主張する乳幼児突然死症候群(SIDS)ではない病院側(被告)の主張1.医師の過失死因が不明である以上、医師がどのような治療方法を講じたならば救命し得たかということも不明であり、不作為の過失があったとしても死亡との因果関係はない。しかも最初の診察を受けたのが17:20頃であり、死亡が18:10ないし18:25とすると、診療を開始してから死亡するまでわずか50~60分の時間的余裕しかなかったため、死亡の結果を回避することは不可能であった。また、当日は休日当番医で患者が多く(130名の患者で混みあっており、診察時も20~30名の患者が待っていた)、原告らの主張する治療措置を講ずべきであったというのは甚だ酷にすぎる2.経過観察義務違反・転医措置義務違反同様に、診療開始から50~60分の時間的余裕しかなかったのであれば、大規模医療施設に転送したからといって、死亡の結果を免れさせる決め手にはならなかった3.死因肺水腫による肺機能障害から心不全を起こして死亡したと推定されていて、肺水腫の原因として間質性肺炎、乳幼児突然死症候群などが挙げられているものの特定できず、結局死因は不明というほかない裁判所の判断1. 死因強い呼吸困難、喘鳴、顔面蒼白、腹壁緊張減弱、胸部ラ音、下痢などの臨床症状があったこと、肺浮腫、肺うっ血が、乳幼児突然死症候群に伴うような微小なものではなく、著しいあるいは著明なものであったことなどからすると、肺炎から肺水腫を引き起こして肺機能障害を来し、直接には心不全により死亡したものと考えられる(筆者注:司法解剖の所見で「死因は不詳」と判断されているにもかかわらず、裁判所が独自に死因を特定している)。2. 医師の過失原告の主張をそのまま採用。加えて、もし大規模病院へ転送するとしたら、酸素そのほかの救急措置が何らとられないまま搬送されるとも考えられないので、診察から死亡までの50~60分の間に適切な措置をとるのは困難であり死亡は免れなかったとする主張は是認できない。当時休日診療で多忙をきわめていたとしても、人命にかかわる業務に従事する医師としては、通常の開業医としての医療水準による適切な治療措置を施すべき義務を負うものであり、もし自らの能力を超えていて、自院での治療措置が不可能であると考えれば、ほかの病院に転送するべきであった。3. 経過観察義務違反・転医措置義務違反失原告の主張をそのまま採用。4. 救命蘇生措置義務違反救急車で来院した18:54頃には、呼吸停止、心停止、瞳孔の散大の死の3徴候を認めていたので、心肺蘇生術を実施しても救命の可能性があったかどうか疑問であり、その効果がないと判断して心肺蘇生術を実施しなかったのは不当ではない。原告側合計2,339万円の請求どおり、2,339万円の判決考察この事例は医師にとってかなり厳しい判決となっていますが、厳粛に受け止めなければならない重要な点が多々含まれていると思います。まず、本件は非常に急激な経過で死亡に至っていますので、はたしてどうすれば救命できたかという点について検討してみます。担当医師が主張しているとおり、最初の診察から死亡までわずか60分程度ですので、確かにすぐに大規模病院に転送しても、死亡を免れるのは至難の業であったと思います。裁判所は、「酸素などを投与していれば救命できたかも知れない」という理由で、医師の過失を問題視していますが、酸素投与くらいで救命できるような状況ではなかったと推定されます。おそらく、すぐに気管内挿管を施し、人工呼吸器管理としなければならないほど重症であり、担当医師が診察後すぐに救急車で総合病院に運んだとしても、同じ結果に終わったという可能性も考えられます。ここで問題なのは、当初から重症であると認識しておきながら、その次のアクションを起こさなかった点にあると思います。もし最初から、「これは重症だからすぐに総合病院へ行った方がよい」と一言家族に話していれば、たとえ死亡したとしても責任は及ばなかった可能性があります。次にこのようなケースでは、たとえ当時の状況が患者さんがあふれていて多忙をきわめていたとしても、まったく弁解にはならないという点です。とくに「人命にかかわる業務に従事する医師としては、病者を保護すべきものとして通常の開業医としての医療水準による適切な治療措置を施すべき義務がある」とまで指摘されると、抗弁の余地はまったくありません。当然といえば当然なのですが、手に負えそうにない患者さんとわかれば、早めに後方病院へ転送する手配をするのが肝心だと思います。最後に、ここまでは触れませんでしたが、本件では裁判官の心証を著しく悪くした要因として、「カルテの改竄」がありました。1回目の診察でスメルモンコーワの注射に際し(通常成人には1回0.5ないし1.0mL使用)、病院側は「0.3mL皮下注射した」と主張しています。ところがカルテには「スメルモン1.0」と記載し、保険請求上1アンプル使用したという旨であると説明され、さらに1行隔てた行外に「0.3」と記載されており、どうやら1歳1ヵ月の乳児にとっては過量を注射した疑いがもたれました。この点につき裁判所は、「0.3」の記載の位置と体裁は、不自然で後に書き加えられたものであることが窺われ、当時真実の使用量を正確に記載したものであるかどうかは疑わしいと判断し、さらに「診療録にはそのほかにも数カ所、後に削除加入されたとみられる記載がある」とあえて指摘しています。実際のカルテをみていないので真実はどうであったのかはわかりませんが、このような行為は厳に慎むべきであり、このためもあってか裁判では患者側の要求がすべて通りました。日常診療でこまめにカルテを書くことは大変重要ですが、後から削除・加筆するというのは絶対してはならないことであり、もし事情があって書き換える場合には、その理由をきちんと記載しておく必要があると思います。小児科

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第26回 前立腺がんの告知は、本人だけじゃダメなのか!?

■今回のテーマのポイント1.泌尿器科疾患で1番訴訟が多い疾患は腎不全であり、2番目に多い疾患は前立腺がんである2.患者本人に説明をした場合には、その上、家族に対してまで説明する法的義務はない3.しかし、紛争予防の観点から、可能な限り家族に対しても説明することが求められる■事件のサマリ原告患者Xの家族被告Y病院争点説明義務違反結果原告敗訴事件の概要76歳男性(X)。Xは、平成10年9月11日、頻尿や腰痛を訴え、Yクリニックを受診しました。直腸診の結果およびPSAが386.0ng/mLであったことから、Xは、前立腺がんと診断されました。Xは、前立腺がんが進行性のものであり、予後が良くないこと、生検などのさらなる検査および専門医による検査および治療を受けるべきであることなどの説明を受けたのをはじめ、治療方法として内分泌療法があること、その際に使用されるクロルマジノン(商品名: プロスタール)などの薬剤については勃起障害などの副作用が見られることについて説明されました。また、その後も複数回にわたり、適宜の時期に病状を説明され、検査および治療のために泌尿器科専門医のいる総合病院への転院を勧められました。ところがXは、勃起障害を避けたかったことなどから、前立腺がんに対するさらなる検査や転院、および治療を繰り返し拒否しました。その結果、対処的にタムスロミン(同: ハルナール)やプロスタール®Lを投与していましたが、徐々に増悪してきたため、同年12月16日からは、前記の処方に加え、リュープロレリン(同: リュープリン)の投与を開始しました。その後も、Xの病態は徐々に増悪し、平成13年6月19日には、Yクリニックに入院することとなりました。このころから、Xには不穏、認知症の症状が出現するようになりました。Xの病態が改善しないことから、7月6日、Z病院泌尿器科へ転院しました。転院時のXのPSA値は1,420 であり、Xが見当識障害のため自身が前立腺がんで治療中であることを伝えなかったことから、Z病院の医師は、Xの家族に対し「どうしてこんなになるまで放っておいたのか」と叱責しました。Z病院の医師は、Xを進行性の前立腺がんおよび骨転移と診断し、前立腺がんに対する手術適応はないと診断しました。Xは、同年8月18日に再びYクリニックに転院し、同クリニックにおいて入院治療を続けていましたが、同年9月19日に死亡しました。これに対し、Xの遺族は、X本人に対し病状の説明がなされていなかった、また、家族に対して説明がなされていなかったなどとして、Yクリニックに対し、990万円の損害賠償請求を行いました。事件の判決●近親者への告知義務について患者の疾患について、どのような治療を受けるかを決定するのは、患者本人である。医師が患者に対し治療法等の説明をしなければならないとされているのも、治療法の選択をする前提として患者が自己の病状等を理解する必要があるからである。そして、医師が患者本人に対する説明義務を果たし、その結果、患者が自己に対する治療法を選択したのであれば、医師はその選択を尊重すべきであり、かつそれに従って治療を行えば医師としての法的義務を果たしたといえる。このことは、仮にその治療法が疾患に対する最適な方法ではないとしても、変わりはないのである。そうだとすれば、医師は、患者本人に対し適切な説明をしたのであれば、更に近親者へ告知する必要はないと考えるのが相当である。そして、本件についてみれば、被告は、Xに対し前立腺癌であることを告知し治療法等を説明していたのであるから、更に原告らに対し、Xが癌であることを告知する法的義務はないと考える。この点原告らは、患者が治療を拒否しているような場合には、患者に対して癌を告知している場合でも、更に患者の家族への告知をすべきであると主張する。しかし、上記のとおり、疾患についての治療法等の選択は、最終的には患者自身の判断に委ねるべきであり、患者の家族に対して癌を告知したことにより、家族らが患者を説得した結果、患者の気持ちが変わることがないとはいえないとしても、そのことから直ちに家族に対して癌を告知すべき法的な義務が生じるとまではいえない。(*判決文中、下線は筆者による加筆)(名古屋地判平成19年6月14日判タ1266号271頁)ポイント解説●泌尿器科疾患の訴訟の現状今回は、泌尿器科疾患です。泌尿器科疾患で最も訴訟が多いのは腎不全で、2番目に多い疾患が前立腺がんとなっています(表1)。前立腺がん自体、進行が緩徐であること、治療方法が進歩したことなどから他のがんと比べ生命予後が良く、その結果、訴訟になり難いものと考えられます。腎不全については、第22回で解説させていただきましたので、今回は、前立腺がんをテーマとしたいと思います。数が少ないこともありますが、前立腺がんに関する訴訟において疾患に特徴的な争点というものは認められません(表2)。このような傾向の中で、今回紹介した事例には、長期間外来治療を継続した結果、最終的に認知症のためか見当識障害が生じたこと、高齢者においても勃起機能障害は治療を受けるか否かについて、心理的障害となるといった前立腺がんに特徴的ともいえる論点が見受けられました。高齢者に対し、長期間の治療を行っていると、認知症を含め見当識障害が出現することは生じ得ます。本件では、患者から伝えられなかったとはいえ、転院先のZ病院の医師が「どうしてこんなになるまで放っておいたのか」と家族を叱責したことが、紛争化を引き起こした原因の1つと思われます。前医がいないと誤認していた事例であり、Z病院の医師に悪気がないことは理解できるのですが、家族に対する発言には、やはり注意が必要といえます。また、残された遺族にとって、患者ががんであるにもかかわらず、勃起機能障害の副作用を恐れて治療を拒否していたという事実は受け入れがたいものです。本件においても、原告である遺族は訴えの中で、「平成10年12月16日以降のYクリニックの診療録には、Xが処方のみで帰宅したとか、転院を拒否したとか、不定期的な来院であったとか、勃起機能への執着があったなど、およそがんを告知された患者とは思えない行動が記されており、不自然な行動と評価せざるを得ない」とした上で、「Xに対し前立腺がんの告知及び治療法や転院等について説明を行っていなかった」と主張しています。後にも解説しますが、家族に対する説明は、可能な限り行うことが紛争化を防ぐために必要と考えられます。●説明義務の客体第9回において解説した通り、説明義務は、わが国の判例・通説によると、診療契約の付随的義務として認められるとされています。したがって、原則的には、契約の一方当事者である患者本人がその客体となり、家族は契約関係外の第三者ということになります。判例においても「緊急に治療する必要があり、患者本人の判断を求める時間的余裕がない場合や、患者本人に説明してその同意を求めることが相当でない場合など特段の事情が存する場合でない限り、医師が患者本人以外の者の代諾に基づいて治療を行うことは許されないというべきである」(東京地判平成13年3月21日判時1770号109頁)とし、家族に対し説明し、承諾を得たとしても、本人への説明、承諾がなければ違法であるとしています。その一方で、同回で紹介した事例のように、「医師は、診療契約上の義務として、患者に対し診断結果、治療方針等の説明義務を負担する。そして、患者が末期的疾患にり患し余命が限られている旨の診断をした医師が患者本人にはその旨を告知すべきではないと判断した場合には、患者本人やその家族にとってのその診断結果の重大性に照らすと、当該医師は、診療契約に付随する義務として、少なくとも、患者の家族等のうち連絡が容易な者に対しては接触し、同人又は同人を介して更に接触できた家族等に対する告知の適否を検討し、告知が適当であると判断できたときには、その診断結果等を説明すべき義務を負うものといわなければならない」(最判平成14年9月24日民集207号175頁)とする判例もあり、混迷を極めています。このような状況の中、本判決は出されており、かつ、説明義務の客体について、一定の方向を示すものとなっています。すなわち、「医師は、患者本人に対し適切な説明をしたのであれば、更に近親者へ告知する必要はないと考えるのが相当である」とした上で、末期がんなどにより余命が限られている場合であっても、「疾患についての治療法等の選択は、最終的には患者自身の判断に委ねるべきであり、患者の家族に対してがんを告知したことにより、家族らが患者を説得した結果、患者の気持ちが変わることがないとはいえないとしても、そのことから直ちに家族に対してがんを告知すべき法的な義務が生じるとまではいえない」としたことです。すなわち、本判決を踏まえ、前記判決を整理すると(図)のようになります。本判決により、説明義務の客体についてはある程度の整理が得られたものと思われます。ただし、本事例のように患者が死亡してしまったり、認知症などで意思疎通が困難となると、遺族は、診療中どのような説明がなされていたか知らない結果、無用な争いが生まれてしまう危険があります。したがって、法的義務としては、患者に説明すれば、家族に対し説明する必要はないのですが、紛争予防の観点からは、可能な限り家族に対しても説明することが望ましいということになります。裁判例のリンク次のサイトでさらに詳しい裁判の内容がご覧いただけます。(出現順)名古屋地判平成19年6月14日判タ1266号271頁東京地判平成13年3月21日判時1770号109頁本事件の判決については、最高裁のサイトでまだ公開されておりません。最判平成14年9月24日民集207号175頁

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他の精神科医は薬剤の選択基準をどこに置いているのか

 統合失調症患者に対する抗精神病薬治療のベネフィット・リスク評価にあたり、精神科医はどのように判断を定量化しているのだろうか。また、患者のアドヒアランスはこの判断にどのような影響を及ぼしているのか。米国のMichael A Markowitz氏らが、その答えを明らかにすべく検討を行った結果、精神科医は当然ながら治療法選択にあたって陽性症状の改善を最も重視しており、アドヒアランス低下時には剤形の選択がより重要となることが示された。Psychiatric services誌オンライン版2014年5月15日号の掲載報告。 精神科医にとっての統合失調症治療におけるリスクとベネフィット、代替薬処方に関する相対的重要性について、離散選択モデルを用いたWeb調査により評価した。米国と英国の精神科医は、剤形ごとにさまざまなレベルの改善(陽性症状、陰性症状、社会的機能、体重増加、錐体外路症状、高プロラクチン血症、高血糖)によって特徴づけられる選択肢より回答した。回答者の判断には、過去の患者アドヒアランスの影響を評価に含んだ。ランダムパラメータロジットおよび二変量プロビットモデルにより推定を行った。 主な結果は以下のとおり。・394名の精神科医から回答が集まった。・陽性症状が「改善なし」から「大いに改善」となるシナリオが最も好ましいという結果が得られ、相対的重要度スコアは10と割り当てられた。・その他、重要度の高い順に見ると、陰性症状[改善なし→大いに改善(相対的重要度5.2、95%CI:4.2~6.2)]、社会的機能["severe problems"→"mild problems"(4.6、CI:3.8~5.4)] 、高血糖なし(1.9、CI:1.5~2.4)、15%超の体重増加なし(1.5、CI:0.9~2.0)、高プロラクチン血症なし(1.3、CI:0.8~1.6)、錐体外路症状なし(1.1.CI:0.7~1.5)であった。・剤形については、若干の有効性の変化よりも、アドヒアランス低下例に重要であり、注射剤は毎日の経口剤より好まれた(p<0.05)。関連医療ニュース 抗精神病薬の用量決定時、精神科医が望むことは 抗精神病薬注射剤を患者は望んでいるのか どのタイミングで使用するのが効果的?統合失調症患者への持効性注射剤投与  担当者へのご意見箱はこちら

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血圧と12の心血管疾患の関連が明らかに~最新の研究より/Lancet

 30歳以上(最高95歳)の血圧値と12の心血管疾患との関連を分析した結果、どの年齢でも強い相関性が認められ、現状の高血圧治療戦略では生涯負荷が大きいことが明らかにされた。英国・Farr Institute of Health Informatics ResearchのEleni Rapsomaniki氏らが、同国プライマリ・ケア登録患者から抽出した125万例のデータを分析して報告した。著者は「今回の結果は、新たな降圧治療戦略の必要性を強調するものであり、その評価のための無作為化試験をデザインする際の有用な情報になると思われる」とまとめている。本報告は、血圧と心血管疾患との関連に関する最新の集団比較研究である。Lancet誌2014年5月31日号掲載の報告より。プライマリ・ケア登録125万例のデータを用いて分析 調査対象とした12の心血管疾患は、安定・不安定狭心症、心筋梗塞、予測していなかった冠動脈疾患死、心不全、心停止/突然死、一過性脳虚血発作、詳細不明の脳梗塞と脳卒中、くも膜下出血、脳内出血、末梢動脈疾患、腹部大動脈瘤)だった。 被験者データは、1997年1月~2010年3月にCALIBER(CArdiovascular research using LInked Bespoke studies and Electronic health Records)プログラムへと、225人のプライマリ・ケア医により登録された125万例分を用いた。被験者は30歳以上で、登録時は心血管疾患がなく、約5分の1(26万5,473例)が降圧治療を受けていた。 これらのデータについて、エンドポイントを12の心血管疾患の初発とし、臨床的に測定した血圧値と12の急性・慢性心血管疾患との関連を年齢特異的に比較検討した。また、生涯リスク(最高年齢95歳まで)と、その他リスク因子補正後の30歳、60歳、80歳時における心血管疾患発症の早まりを推算した。関連が低かったのは各年齢とも90~114/60~74mmHg、J曲線関連はみられず 追跡期間中央値5.2年の間に、8万3,098件の初発心血管疾患が記録されていた。 心血管疾患リスクが最も低かったのは、各年齢群とも、収縮期血圧値90~114mmHg、拡張期血圧60~74mmHgの人で、血圧低値群ではリスクが増大するというJ曲線関連のエビデンスはみられなかった。 また高血圧の影響は、心血管疾患エンドポイントでばらつきがあり、強く明白な影響が認められる一方で、まったく影響が認められない場合もあった。 収縮期血圧高値との関連が最も強かったのは、脳内出血(リスク比:1.44、95%信頼区間[CI]:1.32~1.58)、くも膜下出血(同:1.43、1.25~1.63)、安定狭心症(同:1.41、1.36~1.46)だった。逆に最も弱かったのは、腹部大動脈瘤(同:1.08、1.00~1.17)。 拡張期血圧と収縮期血圧の影響を比較した分析では、収縮期血圧上昇の影響が大きかったのは、安定狭心症、心筋梗塞、末梢動脈疾患だった。一方、拡張期血圧上昇の影響が大きかったのは腹部大動脈瘤であった。 脈圧の影響に関する分析では、腹部大動脈瘤だけが唯一、高値ほどアウトカムが良好となる逆相関がみられた(10mmHg上昇ごとのHR:0.91、95%CI:0.86~0.98)。なお脈圧の影響が最も強かったのは、末梢動脈疾患(HR:1.23、95%CI:1.20~1.27)だった。 高血圧症の人(血圧値140/90mmHg以上または降圧薬服用者)の30歳時における全心血管疾患発症の生涯リスクは63.3%(95%CI:62.9~63.8%)であるのに対して、正常血圧の人では46.1%(同:45.5~46.8%)だった。同年齢において高血圧は心血管疾患の発症を5.0年(95%CI:4.8~5.2年)早めることが示され、狭心症の発症が最も多かった(43%;安定狭心症22%、不安定狭心症21%)。 一方80歳時では、高血圧の影響による発症の早まりは1.6年(95%CI:1.5~1.7年)で、心不全、安定狭心症(それぞれ19%)が最も多かった。

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今こそメディカルコーチング -院内をワクワクに変える手法

ビジネス界では、組織開発の一手法として現在多用されているコーチング。人間の信頼関係をベースに対話を通して、相手の主体的な行動を引き出し、目標達成の支援を行うコミュニケーション手法である。このコーチングが、医療の世界にも浸透し、導入した医療機関では、効果もでてきている。本稿では、4回にわたり、院内をワクワクする場へと変えるメディカルコーチングの概要と導入医療機関の声、そして、メディカルコーチング研究会・総会の模様をお届けする。■コンテンツ一覧04.リーダーが病院を変える~変革者たちの軌跡と挑戦~ メディカルコーチング研究会・総会開催〔2014/8/18〕03.コーチングで多職種のチーム医療が高まった〔2014/7/10〕02.豊富で質の高いコミュニケーションを交わす文化が医療の現場を変える〔2014/7/2〕01.専門職が集う医療の世界にこそコーチングが有効〔2014/6/18〕

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専門職が集う医療の世界にこそコーチングが有効

目標達成に向け、自発的な行動を促すコミュニケーション手法「コーチング」。スポーツやビジネスの分野では、すでに広く活用され、さまざまな成果を上げている。最近では医療の分野でも取り入れられ、経営改善、スタッフの満足度向上、インシデント減少などの効果が注目され始めた。このメディカルコーチングとは、どのようなもので、なぜ医療機関を変える「力」を持つのか。株式会社コーチ・エィ 執行役員の日田 真澄氏に聞いた。■コーチングはなぜ医療に合うのか--コーチングの概要と目的について教えてくださいコーチングとは、一言で説明すると「人材開発の手法」で、「目標達成に向けたコミュニケーションの一手法」と言い表せます。たとえば、一般企業であれば、「経営を改善したい」というゴールに対して、目標達成のためにリーダーを筆頭に組織の意識変革を行い、企業全体が理想とする方向に向かっていく風土に変えていき、最終的にゴールに到達させる。そのための「対話」のプロセスが、コーチングだといえます。--なぜコーチングを医療の世界に導入しようと思われたのですか4年くらい前に、「医療事故がなぜ起きるのか」という文献で、医療事故の約70%が、医療現場のコミュニケーション不足やミスによるものだという結果を目にしました。さらに、そのコミュニケーション内容を分析した結果、医師を頂点とするヒエラルキーの中で各分野のスタッフが萎縮し、インシデントの報告が上がりにくいなど、職種間のコミュニケーションに問題があり、エラーが起きやすいのではないかという仮説に到りました。医療機関の方と話をしていて感じる民間企業との大きな違いは、人間の生命・身体を扱う重責があったり、職員が医師、看護師、薬剤師といったエキスパートであったりすることです。こうした多様な経歴を持ち、背景が異なる方々が、ひとつの環境で働く組織には、究極のダイバーシティー・マネジメント*が必要ではないかと私は思います。そのために有益なコミュニケーションがコーチングです。コーチングがうまく働けば、経歴や背景が違っていても、相互の理解を深め、人と人との関係性を強くしていき、最終的には組織のパフォーマンスを上げることができます。その結果がよりよい医療の実現につながることは言うまでもありません。*ダイバーシティ・マネジメント:人材の多様性(ダイバシティー)を生かすことができる組織の構築を目指すマネジメント手法■コーチングはどのように導入していくのか--コーチングの導入と流れについて教えてください簡単にメディカル・コーチ・トレーニング・プログラム(MCTP)の概要を説明します(図1)。図1を拡大するある病院の院長がコーチングで「この病院を永続的に成長させたい」と思ったら、院長がリーダーとなり、はじめに核となるキーパーソンを選びます。これはステークホルダー(リーダーからコーチングを受ける人)と呼ばれる方です。このときリーダーのゴールが明確になっていればいるほど、組織目標を達成するスピードは速くなります。リーダーは、ステークホルダーに、「コーチングによる院内プロジェクトがあって、自分は病院をこうしていきたい」、「このように考えていて、あなたにはこの点を期待している」ということを、かなり長い時間をかけて面談し、伝えます。コーチングプロジェクトの活用イメージまで共有できたところでスタートしますが、このとき組織全体に、その取り組みをアナウンスメントします。リーダーは、自分の言葉で全スタッフに周知し、全体のコミットメントをとり、期待を高めたうえでプロジェクトをスタートします。コーチングでは、目的意識と参加意識の両方が大切な要素となるので、プロジェクトをスムーズに進めるうえで、こうした事前準備が重要であることを理解しておいてください。また、コーチングを導入する際、生半可な気持ちではうまくいきません。組織のトップの方には、相応の時間とエネルギーをかける覚悟も必要です。--トレーニングの内容はどのようなものがありますか一例を挙げますと、リーダーやステークホルダーが自分の部下のコミュニケーションの特徴を観察し、「4つのタイプ分け」の考え方を参考にしながら実施する面談があります。これは、一人ひとりの価値観に合った対話を可能にします。個々人の価値観はすべて異なりますから、部下がどこに価値観を見出すタイプなのか、次の4つに分けて分析します。コントローラー:ゴールに向かって周りをコントロールしながら進むことに価値を見出す人アナライザー:正しく、正確に事実を伝えることに重きを置き、綿密に計画し、遂行することに価値を見出す人プロモーター:楽しいこと、新しいことが大好きで、創造的なことに価値を見出す人サポーター:周りの人が何を考えて、どうしたら居心地のいい場を作ることができるか関係性の調整に価値を見出す人これらに大きくタイプ分けした後で、部下の価値観やコミュニケーションの特徴に合わせた関わり方を実践し、その実践内容をリーダー、ステークホルダー間でディスカッションすることを4週間繰り返します。リーダー、ステークホルダーは、各々の部下の話を傾聴し、個別対応を実践し、信頼関係を構築する。そして、相手のゴールを引き出し、到達できるように対話を通して支援していきます。どのようなコミュニケーションによる支援が、相手をより上手くモチベートできるかのトレーニングも、当然プロジェクトに含まれています。こうした部下との面談は、1回、2回行えばよいというものではありません。10分でも15分でもよいので、定期的に面談をする文化を作ることが重要です。接触頻度は時間よりも、回数のほうが大事であり、かつ、面談時間の約80%は部下のほうが話すようにすると、面談の満足度が高いというデータがあります。医療機関は全部署が忙しく、こうした時間を作ることが難しいかもしれませんが、何とか時間を作り、コミュニケーションの量を担保する仕組み作りをすることが成功のカギとなります。--コーチングの成果測定はできるのでしょうかコーチ・エィには独自に開発したさまざまなアセスメントツールがあります。アセスメントもリーダー、ステークホルダーともに360度フィードバックの方式をとり、双方向で感想を伝達し合います(評価はしません)。成果測定について、コーチングが組織に与える影響を次の4段階で示しています(図2)。図2を拡大するレベル1では、プロジェクト参加者のコミュニケーション力が変化するレベル2では、意識が変化して個人が周囲に影響を与えるレベル3では、部署レベルで全体に影響を与えるレベル4では、ゴールへの到達指標が向上するという具合に指標を示していきます。先の例でいえば、最後のレベル4では「病院の永続的な成長」の目に見える指標として、経営の健全化やスタッフの離職率の減少などをともに見ていくことになります。■コーチングでどんな効果が期待できるのか--医療機関での活用例や具体的な成果について教えてください医療機関でのコーチング活用の一例として、名古屋第二赤十字病院が挙げられます。同院は、院長の石川 清氏のトップダウンでコーチングを導入し、「最高の病院」になることをゴールに日夜奮闘されています。まだ、道半ばですが、スタッフ同士の信頼関係が強化されたり、新しい診療センターの構想が具体化したり、上意下達の組織からスタッフが主体的に行動する現場へと変化してきているそうです。組織変革や教育効果を具体的な数字で挙げるのは難しいのですが、たとえば民間企業でのコーチングでは、導入したグループと導入していないグループでは、営業成績に有意差がありました。また、導入された企業のトップの方にお話を聞くと、明らかにスタッフの動きが変わるとよく言われます。具体的には、上層部に入ってくる情報量、「ほうれんそう」(報告・連絡・相談)が増え、よくないニュースも前もって入ってくるので、未然に次の手を打つことができるなど、組織の変化を肌感覚で感じられているようです。--今後の展望についてお聞かせください医療機関では、医療過誤防止やチーム医療向上のプロジェクトでコーチングを活用されるケースが多いです。自治体立病院では、経営の黒字化やスタッフのモチベーション維持に活用されている例もあります。医療の世界では、一人ひとりのスタッフがプロ意識を持ち、患者さんに最高の医療を提供するという仕事をされています。そして、この現場は、異なる背景をもったプロが、異なる言語でチームを作るという特殊な世界でもあります。こうした多様性のある世界では、ダイバーシティー・マネジメントが効果を発揮するのですが、そこにコーチングという一つの新たなアプローチ方法が入ることで、スタッフ間をつなぐ共通言語ができるようになります。そうすると、部署間でのコミュニケーションがよくなり、医療機関をより高度にマネジメントできることになります。このようなコーチングの内容とメリットを医療施設の経営者によく理解してもらい、より多くの医療の現場で活用してもらいたいですね。●株式会社コーチ・エィ 概要事業内容企業向けコーチング・プログラムの提供設立2001年10月代表取締役会長伊藤 守取締役社長鈴木 義幸 本社所在地〒102-0074 東京都千代田区九段南2-1-30 イタリア文化会館ビル 9階・10階TEL03-3237-8050(代表)ウェブサイトhttp://www.coacha.com/インデックスページへ戻る

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