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咳のみかた、考えかた

普通の咳、厄介な咳について、360度から解説!院内でそれをきかない日はないといってよいほど、ごくありふれた臨床症状でありながら、患者さんのQOLに大きく影響し、さまざまな疾患の可能性を内包している厄介な「咳」の診療についてまとめた本です。咳を診療する前の鉄則、咳の診断ツール、各疾患の各論、鎮咳薬の使い方、実際の戦略の組み立て、著者が出会った珍しい咳嗽など、「咳」についてあらゆる角度から徹底的に解説を行いました。日常診療で役に立つ1冊です。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。    咳のみかた、考えかた定価4,400円 + 税判型A5判頁数250頁発行2017年4月著者倉原 優Amazonでご購入の場合はこちら

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コリンエステラーゼ阻害薬およびメマンチンと抗コリン薬の併用の現状

 抗認知症薬と抗コリン薬の併用は、頻繁に行われている。コリンエステラーゼ阻害薬と抗コリン薬の併用は、相互に作用を打ち消し、患者へのベネフィット低下、副作用の増加、ケアコストの増大につながる。米国・ハワイ大学のBrian R Schultz氏らは、アジア太平洋諸国の都市部の病院における、コリンエステラーゼ阻害薬およびメマンチンと抗コリン薬との併用処方の割合を確認した。Psychogeriatrics誌オンライン版2017年4月7日号の報告。コリンエステラーゼ阻害薬およびメマンチンと抗コリン薬の同時処方、減少傾向に 本研究は、2006年1月~2010年12月に、FDA承認の抗認知症薬(ガランタミン、リバスチグミン、ドネペジル、メマンチン)と抗コリン薬を同時に投与された、一般病院の入院患者対象のレトロスペクティブレビューとして行った。コリンエステラーゼ阻害薬およびメマンチンと抗コリン薬との併用処方の割合を確認した主な結果は以下のとおり。・コリンエステラーゼ阻害薬およびメマンチンと抗コリン薬を同時に投与されていた患者は、全体で304例であった。・高力価抗コリン薬は64.1%、中力価抗コリン薬は35.9%であった。・抗コリン薬の適応は、泌尿器系(17.8%)、胃腸を除く消化器系(32.6%)、悪心(10.2%)、精神科系(7.9%)、その他(31.6%)であった。・アジア人(8.4%)は、ハワイ先住民(12.2%)または白人(13.3%)よりもコリンエステラーゼ阻害薬およびメマンチンと抗コリン薬を併用する割合が少なかった(χ2=16.04、自由度=2、p<0.0003)。 著者らは「コリンエステラーゼ阻害薬およびメマンチンと抗コリン薬の同時処方は、民族間で違いはあるものの、以前の研究と比較し有意に少なかった。アジア人の同時処方の減少は、集団間の抗コリン薬に対する適応症の割合または忍容性の変化が原因であろう」としている。関連医療ニュース 米国の認知症有病率が低下、その要因は 白質の重症度で各抗認知症薬の効果に違い:岡山大 認知症高齢者5人に1人が抗コリン薬を使用

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急性咽頭痛、デキサメタゾンで有意に改善/JAMA

 急性咽頭痛で抗菌薬の即時投与を必要としない成人患者に対し、経口デキサメタゾンの単回投与が、48時間後の症状完全消失に効果があることがわかった。なお24時間後の症状完全消失については、有意な改善はみられなかったという。英国・Nuffield Department of Primary Care Health SciencesのGail Nicola Hayward氏らが、英国プライマリケアベースで565例を対象に行った、プラセボ対照無作為化二重盲検試験で明らかにしたもので、JAMA誌2017年4月18日号で発表した。急性咽頭痛はプライマリケアで最も多い症状の1つで、それに対する不適切な抗菌薬投与も少なくないのが現状だという。24時間、48時間後の症状完全消失の割合を比較 研究グループは、2013年4月~2015年4月にかけて、南・西イングランドのプライマリケア診療所42ヵ所で、急性咽頭痛の症状があり、抗菌薬の即時投与を必要としない成人患者565例を対象に試験を行った。被験者を2群に分け、一方には経口デキサメタゾン10mgを、もう一方にはプラセボをそれぞれ投与し、28日間追跡した。 主要評価項目は、24時間後に症状が完全消失した人の割合。副次評価項目は、48時間後に症状が完全消失した人の割合や、中等症・重症症状の持続期間などだった。抗菌薬の遅延処方有無にかかわらず、デキサメタゾンが2日後症状完全消失に効果 被験者の年齢中央値は34歳(範囲:26.0~45.5歳)、女性の割合は75.2%だった。 結果、24時間後に症状が完全消失した人の割合は、プラセボ群が17.7%(277例中49例)に対し、デキサメタゾン群は22.6%(288例中65例)と、両群で有意差はなかった(相対リスク[RR]:1.28、95%信頼区間[CI]:0.92~1.78、p=0.14)。 一方、48時間後の同割合は、プラセボ群が27.1%(277例中75例)に対し、デキサメタゾン群は35.4%(288例中102例)と有意に高率だった(RR:1.31、95%CI:1.02~1.68、p=0.03)。抗菌薬を遅延処方されなかった人についても、48時間後の同割合はそれぞれ27.2%、37.6%と、デキサメタゾン群で高率だった(RR:1.37、95%CI:1.01~1.87、p=0.046)。 その他の副次評価項目には、両群で有意差はなかった。■「デキサメタゾン」関連記事術前デキサメタゾン追加で術後24時間の嘔吐が低減/BMJ

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パプリカ【夢と精神症状の違いは?】

今回のキーワードせん妄レム睡眠行動障害ナルコレプシーデフォルトモードローカルスリープマインドフルネスEMDRオプトジェネティクスみなさんは昨夜どんな夢を見ましたか?怖い夢?追われる夢?それとも飛んでいる夢?展開が速くて突飛な夢?なんでそんな夢ばかりなのでしょうか?何か意味ありげではないでしょうか。それは予知夢?正夢?逆夢?そんなふうに考えて、現実の生活を見つめ直すこともあります。このように、夢は、とても不思議で、私たちを魅惑します。なぜ夢にはいろいろな特徴があるのでしょうか? そもそもなぜ私たちは夢を見るのでしょうか? なぜ眠るのでしょうか? 逆に起きているとはどういうことなのでしょうか? さらに、夢に似ているせん妄、解離性障害、統合失調症などの精神障害とはどんな関係や違いがあるのでしょうか? そして、夢をどう利用できるでしょうか?今回は、夢をテーマにしたSFファンタジーのアニメ映画「パプリカ」を取り上げ、これらの謎に進化医学的な視点で、みなさんといっしょに迫っていきたいと思います。主人公の敦子は、精神医学研究所の医師であり研究員。同僚の時田の発明した夢を共有する装置「DCミニ」を駆使するサイコセラピスト、またの名はパプリカです。ある日、そのDCミニが研究所から盗まれてしまいます。犯人はそれを悪用して他人の夢に勝手に入り込み、悪夢を見せて、意識を乗っ取り、支離滅裂にさせる事件が発生していきます。敦子たちは、夢の中でその犯人を見つけ出し、終わりのない悪夢から抜け出す方法を探っていきます。夢の特徴は?パプリカがクライエントの粉川警部の夢に入り込んでいる冒頭のシーン。粉川は、サーカスのショーの中で、「奴はこの中にいる」「やつは裏切り者だ」とパプリカに言い、捜査をしています。ところが、急に展開が変わり、逆に得体の知れない人たちに追いかけられます。さらに、また展開が変わって、今度は自分が追いかけようとします。しかし、そのうちに床が上下に大きくうねって、前に進みません。そして、最後には床が抜けて落ちていきます。そこで目が覚めて、パプリカに「ひどく怖かった」とつぶやきます。粉川警部の夢は、とても典型的です。その特徴は、まず、感情が強いことです。統計的には、特に「不安」「高揚感」「怒り」の3つで、70%を占めています。逆に、残念なことに楽しい夢や性的な夢は少ないです。また、体の動きが多いことです。特に、追われる夢が圧倒的に多く、その追ってくる相手は、見知らぬ人か動物がほとんどです。また、動いているのに進まない、浮遊感、そして落下も多いです。そして、何よりも、展開が突飛であることです。その他の夢の一般的な特徴としては、夢の中では夢だと気付かないことです。どんなにありえなくても当然だと思い必死になっています。また、夢の中では常にその瞬間の自分の視点だけです(現在一人称)。逆に、他人、過去、未来、仮定の視点はありません。そして、夢は見るだけがほとんどです(視覚優位)。聞こえたり、触れたり、嗅いだり、味わったりすることは稀です。粉川警部のように、同じような夢を繰り返し見ることもよくあります。その割に、夢はすぐに忘れやすいです。なぜ夢を見るの? ―レム睡眠の働きー図1パプリカは、粉川警部に「同じレム睡眠でも明け方の夢は長くて分析しやすいの。深夜の夢が芸術的な短編映画だとしたら、明け方は長編娯楽映画ってとこかな」と説明します。レム睡眠とは、睡眠中に急速眼球運動(REM)が出現している状態のことです。周期的に3、4回あり、この時に夢を見ていることが多いです。そもそもなぜ夢を見るのでしょうか? その答えを探るために、レム睡眠の主な3つの働きを整理してみましょう。1)記憶を送る1つ目は、その日の記憶を海馬から大脳皮質に送ることです。そうすることで、長期記憶として保存されていきます。この働きは、特に寝入った直後の初回のレム睡眠で高まります。その時に見える夢は、その日に見たままのものとその時の自分の体の動きです。また、寝入り端(ばな)には、夢に似たような鮮明な映像(入眠時幻覚)や幾何学模様(入眠時心象体験)が一時的に見えます。そのほとんどはその後の深い眠りで忘れてしまいます。断片的で短く、まさに「芸術的な短編映画」です。パソコンに例えると、その日に得たデータをデスクトップから、保存用の大容量のハードディスクに送っている状態です。それでは、夢に自分の体の動きが多いのはなぜでしょうか? その答えを進化医学的に考えることができます。太古の昔から、生存競争において、特に追ってくる動物から逃げ切るなど体をうまく動かすことは、最も必要な能力です。つまり、答えは、その運動の学習(手続き記憶)が次の日に生き延びるために役立つからです。そうする種がより生き残り、子孫を残したでしょう。その子孫が現在の私たちです。さらに、夢で飛ぶ、浮く、落ちることが多いのはなぜでしょうか? その答えは、レム睡眠中に体を動かす筋肉(骨格筋)が脱力しているからです(睡眠麻痺)。踏ん張れず、地に足が着いていない感覚になります。それでは、なぜ脱力しているのでしょうか? その答えも進化医学的に考えることができます。それは、逆に脱力していなければ、見ている夢と同じ動きをしてしまい、自然界では天敵に気付かれ、生き残れないからです。実際に、パーキンソン病や加齢などによって、この脱力モードが働きにくくなると、睡眠中に夢と同じ動きをしてしまい、ベッドパートナーを叩いたり蹴ったりしてしまいます(レム睡眠行動障害)。逆に、疲労などで、この脱力モードが目覚めても残っていると、体が動かないことを自覚できてしまい、いわゆる「金縛り」になります。2)記憶をつなげる2つ目は、海馬から新しく送られた記憶と大脳皮質にすでにある古い記憶をつなぎ合わせることです。そうすることで、記憶が関連付けられ、整理されていきます。この働きは、目覚める直前の最後のレム睡眠で高まります。その時に見える夢は、先ほどの粉川の夢のように、感情的で、ストーリーが次々と展開していきます。詳細な描写があり長く、まさに「長編娯楽映画」です。パソコンに例えると、デスクトップから送られてきたデータを、ハードディスクのそれぞれのフォルダに照合し、上書きをしている状態です。それでは、夢に感情が強いのはなぜでしょうか? その答えは、レム睡眠中に、海馬と隣り合わせの扁桃体(情動中枢)も同時に活性化しているからです。だからこそ、レム睡眠中の心拍、血圧、呼吸などの自律神経は不安定になります。では、なぜ扁桃体が活性化しているのでしょうか? その答えも進化医学的に考えることができます。それは、不安や怒りなどのネガティブで強い感情は、「逃げるか戦うか」を動機付ける心理として、生存するために、より必要だからです。扁桃体によって、より生存に有利な記憶の重み付けがなされて、優先してつなぎ合わされるからです。ちなみに、現代版の追われる恐怖は、試験勉強や仕事の締め切りなどの時間に追われることであると言えるでしょう。また、夢の展開が突飛なのはなぜでしょうか? これが最も夢らしい特徴です。その答えは、レム睡眠中はものごとを論理的に考えたり、同時並行で記憶(ワーキングメモリー)したりする前頭葉(特に背側前頭前野)の働きが弱まっているからです。では、なぜ前頭葉が働いていないのでしょうか? その答えも進化医学的に考えることができます。それは、前頭葉は起きている時の記憶の「司令塔」であり、記憶の保存や整理をする「労働」そのものには必要がないからです。また、夢を見るレム睡眠中に特に活性化する脳の部位は、主に脳幹や大脳辺縁系です。そして、胎児期や乳児期は、レム睡眠がほとんどを占めています。つまり、解剖学的にも発生学的にも、そもそもレム睡眠はとても原始的な脳活動であることが分かります。夢とは、レム睡眠中の記憶をつなぐ脳活動をたまたま垣間見ただけの主観的な体験のつぎはぎであり、客観的なストーリーになっている必要がないということです。ちなみに、先ほど紹介した「金縛り」は、前頭葉が抑制されて、扁桃体が活性化される状態でもあり、恐怖で冷静な判断ができなくなって、霊的な意味付けをしてしまいやすくなります。同じように、統合失調症でも、前頭葉の働きが弱まっていることが分かっており、論理の飛躍から、被害妄想などが出やすくなります。まさに目が覚めていながら、夢を見ているような状態です。夢は原始的であるからこそ、見るという視覚がほとんどだということが分かります。触覚、嗅覚、味覚も原始的ではありますが、生存競争にそれほど必要がないことから、夢に出てこないと理解できます。また、言葉を聞き取る聴覚は、より知的に高い精神活動であるため、出てきにくいと言えるでしょう。ちなみに、身体的な原因で意識レベルが低下している状態(せん妄)では、夢と似たような幻視や錯覚が多く、幻聴は少ないと言えます。逆に、統合失調症では、意識は保たれているので、幻聴が多く、幻視は少ないと言えます。また、レム睡眠中に前頭葉が働いていないからこそ、夢の中では常にその瞬間の自分の視点だけになってしまいます。そのわけは、前頭葉の重要な働きであるメタ認知は、自分から離れた他人の視点、現在から離れた過去や未来の時間軸の視点、そして現実から離れた仮定の視点も同時に持つ能力だからです。この働きが夢ではないのです。さらに、メタ認知ができないからこそ、夢の中では夢だと気付かないのです。よって、そもそもメタ認知ができない動物やメタ認知が未発達の4歳未満の人間の子どもは、夢を見ても現実との区別ができないと言えます。3)記憶を繰り返す3つ目は、つなぎ合わせのバリエーションを少しずつ変えながら記憶を繰り返すことです。そうすることで、記憶が強化され、記憶の引き出しから出てきやすくなります。それは、まるで反復練習によるリハーサルです。パソコンに例えると、出力をよりスムーズにするため、ハードディスクのプログラムを日々バージョンアップしている状態です。それでは、同じような夢を繰り返し見るのはなぜでしょうか? その答えは、自分にとって気になってしまったことだからです。粉川警部にとって、それはやり残したことでした。さらに進化医学的に考えれば、次に同じ状況になったらどうするかという学習を促し、より環境に適応して生き残るために必要だからです。夢を見るレム睡眠は、安全な状況で脅威をシミュレーションする手段として進化した精神活動であるとも言えます。この働きが過剰になってしまうと、例えば、生存が脅かされる体験(トラウマ)によるストレス障害(PTSD)のように、その時の体験を悪夢として繰り返し見て、うなされます(悪夢障害)。また、白昼夢に似たフラッシュバックも出てきます。まさに花粉症を初めとする自己免疫疾患のように、本来は防御のために備わった機能が過剰になったり、誤作動を起こして、逆に自分を苦しめるというわけです。夢が繰り返されると言っても、それはすぐではありません。その日の出来事の夢はその夜の最初のレム睡眠時に記憶の断片として出てきます。しかし、その後はしばらく出てこなくなり、1週間後以降に再び出てくるようになります。この理由は、海馬から大脳皮質への転送が完了されるまでにタイムラグがあるからです(夢のタイムラグ効果)。そして、より強いインパクトやストレスを伴う場合は、より時間がかかるということです。これは、PTSDはすぐには発症しないということを説明できます。最近の研究では、トラウマ体験直後の6時間以内にコンピューターゲームのテトリスをやり続けることで、PTSDの発症を有意に予防できる可能性が示唆されています。これは、レム睡眠中にゲームの体験の学習を多く占めることで、逆にトラウマ体験の学習をある程度阻害することができるからでしょう。ここから分かることは、つらいことがあったときは、そのことばかりに思い悩まずに、代わりに別のことをやるのが悪夢の予防になるということです。夢は繰り返されることがある一方で、忘れてしまいやすいのはなぜでしょうか? その答えも進化医学的に考えれば、生存にとって覚えている必要がないからです。言い換えれば、夢を覚えていてもいなくても、生存の確率は変わらないからです。逆に、全てをはっきり覚えていたら、動物や4歳未満の人間の子どもは、夢を現実と認識するので、毎朝起きて怯えてつらい思いをして、現実の生活に差し障りがあるでしょう。むしろ、覚えていない方が適応的です。実際に、小さい子どもほど、大人よりもレム睡眠が多いにもかかわらず、夢を覚えていないことが多く、思い出せても短かったり、単純です。ここまでで分かったことは、レム睡眠には大きな意味があることです。しかし、夢を覚えておく必要がない点では、進化医学的に夢を見ることには意味がないです。つまり、「なぜ夢を見るの?」というこの章の質問には、「見えたから」と答えるのが正解でしょう。「夢」のない話だと思われたかもしれません。しかし、果たしてそうでしょうか? そうとも限らない可能性を後半に考えてみましょう。なぜ眠るの? ―睡眠の進化―グラフ1これまで、夢をよく見るレム睡眠の働きについて整理してきました。レム睡眠と交互に出てくるノンレム睡眠、特に深睡眠も含めると、そもそもなぜ眠るのでしょうか? ここからは、その答えを探るために、生物の睡眠の進化の歴史を通して、睡眠の主な3つの働きを整理してみましょう。1)夜だから眠る―概日リズム1つ目の答えは、夜だから眠るということです。約10億年前に進化した原始的な菌類などの植物からは、日中に光合成をして、紫外線のない夜に細胞分裂をして、日中と夜の活動を分けるようになりました(概日リズム)。約5億年前に進化した最初の動物の魚類からは、暗くて捕食の行動が難しくなる夜はあまり動かないようになりました(行動睡眠)。約3億年前に進化した最初の陸生動物である両生類やその後の爬虫類は、まだ気温差によって体温が変わる変温動物であったため、冷え込む夜はエネルギーが足りないためずっと動かないようになりました。このように、日中に活動して、夜に活動しないという概日リズム(体内時計)が進化しました。この概日リズムを日中の光によって調節する代表的なホルモンがメラトニンです。例えば、夜勤や時差ぼけや夜更かしなどによって起きている時間が変わった場合、ひきこもりや視覚障害によって光を浴びるのが減っている場合、もともと遺伝的(時計遺伝子)に睡眠時間がずれやすい場合は、1日の決まった時間に眠れず起きにくくなくなります(概日リズム睡眠覚醒障害)。よって、多く光を浴びたり(高照度光療法)、メラトニン受容体作動薬(ラメルテオン)による薬物療法が有効です。2)疲れたから眠る―恒常性2つ目の答えは、疲れたから眠るということです。約2億年前に進化した最初の恒温動物である哺乳類やその後の鳥類は、夜に脱力して筋肉を弛緩させることで産熱を抑え、深部体温や代謝を下げてカロリー消費を抑えました。同時に栄養の消化吸収や筋肉の修復などをして、体調を回復させました。実際に、日中代謝量が多い動物ほど睡眠が多いです。また、そんな睡眠中であっても、外界の脅威に瞬時に反応できるように、脳の活動レベルは起きている時に近い状態を保っていました。これがレム睡眠の始まりです。このように、夜に成長ホルモンなどの様々なホルモンが働くことで、体温を含めた体調の恒常性を維持しました。例えば、休日に平日と違って何もせずに過ごした場合は、運動不足で疲れていないので、恒常性が維持されなくなり、眠りにくくなります。よって、あえて体を動かして疲れさせるという運動療法が有効です。逆に、翌日に試験やプレゼンが控えている場合も、過度の緊張で恒常性が維持されなくなり、眠りにくくなります。よって、適量の晩酌やベンゾジアゼピン系の睡眠薬・抗不安薬による薬物療法が有効です。3)覚えるために眠る―学習3つ目の答えは、覚えるために眠るということです。約1億年前に進化した最初の胎生出産の哺乳類は、卵生出産よりも未熟に生まれてくる分、出生後により多くの学習をして成長する必要がありました。この時から、その記憶の学習のために、レム睡眠が利用されていました。レム睡眠中は、脳から外界への出力(運動)だけでなく、外界から脳への入力(感覚)も遮断されており、記憶の学習のためだけに脳が使われているため、とてもはかどります。例えるなら、パソコンが、インターネットに接続されていない機内モード(オフラインモード)になっている状態です。約6500万年前に進化した最初の霊長類は、脳が高度に発達していった分、脳を休める必要がありました。それが、いわゆる熟睡です。これは、ノンレム睡眠中で徐波という脳波が多く出ている深睡眠(徐波睡眠)に当たります(睡眠段階3と4)。この時、大脳皮質では神経細胞が同期して発火することが分かっています(長期増強)。これは、脳内の神経細胞のつながり(シナプス)で、強いものをますます強め、弱いものをますます弱めているものと考えられています。こうして、過剰なエネルギー消費や細胞へのストレスを抑えて、脳の神経回路を元の強度に戻しています(シナプス恒常性仮説)。つまり、不要な記憶をなくして整理することで、必要な記憶を際立たせて残し、より脳から引き出しやすくしているということです。例えるなら、パソコンが、デスクトップで入力も出力もできないスリープモード中に、重複したデータや使わないデータを消去することで最適化をしている状態です。このように、レム睡眠で脳を活性化させ、深睡眠で脳を休めることを繰り返すことで、記憶の学習の効率を上げました。つまり、最適な学習には、ぐっすり寝ることが重要であるということです。逆に言えば、睡眠時間を削った学習や、徹夜でのプレゼンの準備は、逆効果であるということです。また、加齢によって、睡眠時間は減っていきますが、中でも特にレム睡眠と深睡眠が減っていき、浅睡眠(睡眠段階1と2)だけになっていきます。この場合、もともと加齢により海馬の神経が新しく生まれ変わること(神経新生)が少なくなることで溜まった不要な脳の老廃物(アミロイドβ)を取り除ききれなくなることと相まって、記憶の学習がますます困難になっていき、反復されていない際立ちの弱い直近の記憶から徐々に失われていきます(アルツハイマー型認知症)。よって、この場合は、より若い時の記憶しか残らなくなっていくので、進行すればするほど、年齢をより若く答えるようになります(若返り現象)。よって、認知リハとして最近に注目されているのは、体を動かすなどの運動をしながらおしゃべりをするなどの学習をすることです(デュアルタスク)。これは、運動により、その刺激で神経新生が高まると同時に、より良い睡眠が得られるからでしょう。さらに、最近の研究では、起きている時にストレスのかかった脳、つまりより学習が必要な脳の領域ほど深い睡眠になることが分かってきています。また、レム睡眠以外の睡眠(ノンレム睡眠)でも夢を見ていることが分かっています。つまり、睡眠は、脳全体で一様ではなく、局所で多様に行われているということです(ローカルスリープ)。その極端な例として、イルカや渡り鳥は大脳半球を交互に眠らせることで、泳いだり飛びながら睡眠をとることができます(半球睡眠)。このローカルスリープの考え方によっても、様々な精神障害を説明することができます。例えば、脳が未発達の子どもでは、深い睡眠中に、一部の脳機能が局所的に覚醒してしまう状況が考えられます。扁桃体(情動中枢)のみ覚醒すれば、泣いたり(いわゆる夜泣き)、叫んだりするでしょう(睡眠時驚愕症)。また、運動中枢のみで覚醒すれば、寝言、歯ぎしり、おねしょをしたり、極端な場合は動き回ります(睡眠時遊行症)。同じようなことは、身体的な原因や加齢などによっても起こります(夜間せん妄)。また、てんかん発作によって、脳の活動電位が局所的に活性化すると、意識を失っていながら、動き回ります(自動症)。起きているとは? ―グラフ2これまで、「なぜ眠るの?」という問いへの答えを通して、眠っている状態について解き明かしてきました。それでは、逆に、起きているとはどういう状態なのでしょうか? ここから、その答えを探るために、起きている状態を3つの要素に分けて、整理してみましょう。1)自分と周りが分かる―意識敦子は、夢の中で見た「妄想パレード」を現実の世界で見てしまい、それに圧倒されます。もはや夢と現実の境目がなくなっていました。敦子は起きているのか寝ているのか私たちも分からなくなりかけます。1つ目は、起きているとは自分と周りが分かることです。厳密に言えば、脳が脳自体の活動を認識することです(意識)。例えば、今がいつで、ここがどこで、自分が誰かと見当を付け(見当識)、周りは何かと注意を払うことです(注意力)。つまり、周りの世界と自分の関係を認識できることです。このためには、さきほどにも触れた前頭葉の働きであるメタ認知が必要です。メタ認知が進化したのは、300、400万年前の原始の時代と考えられます。当時、ヒトは森から草原に出て、天敵から身を守り、獲物を手に入れるために、血縁の集団になって協力していくようになりました。そのために、相手の気持ちや考えを推し量る、つまり相手の視点に立つというメタ認知が生まれました。やがて、この能力は、他人だけでなく、自分自身を振り返る視点としても、そして時間軸、空間軸、仮定軸の視点としても使われるようになっていきました。逆に言えば、300、400万年前より以前のヒト、ヒト以外の動物、そして脳が未発達な4歳未満の子どもは、メタ認知ができないので、今ここでというその瞬間を、まるで夢を見ているのと同じように、反射的に生きているだけであると言えます。睡眠生理学的に言えば、起きている状態(覚醒)では、脳内の「活動ホルモン」(ノルアドレナリン)と「気分安定ホルモン」(セロトニン)であるアミン系の神経伝達物質が活発に出て、交感神経を優位にしています。また、「リラックスホルモン」(アセチルコリン)であるコリン系の神経伝達物質も出ていて、副交感神経に作用して、交換神経との綱引きをしています。体を休めている夢見状態(レム睡眠)では、アミン系が出なくなる一方、コリン系が活発に出るようになり、副交感神経が優位になります。この時にセロトニンが出ていないので、不安や恐怖の夢が出やすいことが理解できます。頭(脳)を休めている熟睡の状態(深睡眠)では、アミン系とコリン系の両方が少くなって出ています。もう1つ脳内で重要な「快感ホルモン」(ドパミン)は、覚醒時にも、レム睡眠や深睡眠などの睡眠時にも変わらず出ており、睡眠や夢と直接関係がないことが分かります。ちなみに、アミン系が増えたままだと躁病になり、眠りたくなくなります。逆に、アミン系が減ったままだとうつ病になり、眠れなくなったり眠りすぎたりして睡眠が不安定になります。また、特にアミン系のセロトニンが減れば不安障害や強迫性障害になり、やはり睡眠は不安定になります。さらに最近の研究では、この覚醒を安定化させるためには、オレキシンというホルモンが大きくかかわっていることが分かっています。オレキシンは、もともと摂食中枢(視床下部)にあることから、満腹で眠くなり、空腹で眠れなくなったり目が冴えてしまうのも納得がいきます。まさに「ハングリー精神ホルモン」とも言えます。このオレキシンが体質的(遺伝的)に足りない場合、覚醒と睡眠の切り替えが不安定になります。よって、起きている時に、急に気絶するように眠ってしまい(睡眠発作)、日常生活に支障をきたします(ナルコレプシー)。特に笑ったり喜んだりして感情の高ぶり(緊張)の後に安堵(弛緩)が起きると、副交感神経が優位となり、アセチルコリンが誘発されて、脱力してしまいます(情動脱力発作)。また、脳の覚醒が残っていて夢見状態(レム睡眠)になると、先ほどにも紹介した白昼夢(入眠時幻覚)や金縛り(睡眠発作)が出てきます。治療薬としては、覚醒作用が強いドパミン作動薬(メチルフェニデート)が適応になっています。ただし、根本治療のためには、オレキシンの作用を高めるオレキシン作動薬の開発が今後に期待されます。逆に、このオレキシンの作用を低めるオレキシン受容体拮抗薬(スボレキサント)は、最新の不眠症の治療薬として、すでに販売されています。夜寝る前だけ、薬で「ナルコレプシー」になるわけです。より自然な睡眠作用があるので、先ほどに紹介した晩酌やベンゾジアゼピン系の睡眠薬・抗不安薬よりも副作用が少ないという利点があります。2)自分が自分であると分かる―自我意識現実の世界の敦子の目の前に、敦子が夢の中でなりきっていたパプリカが現れます。敦子は「時田くんを助けなきゃ」と言いますが、パプリカは「放っときなさい。あんな肥満の無責任」と挑発します。敦子が「パプリカは私の分身でしょ」と叱りつけると、パプリカは「敦子が私の分身だって発想はないわけ?」と言い返します。2つ目は、起きているとは自分が自分であると分かることです。厳密に言えば、知覚や思考などの意識が統合されていることです(自我意識)。例えば、自分は、いつでもどこでも変わらず自分であるということです。逆に、ストレスや恐怖で、起きていながらもぼんやりとしている半覚醒の状態になる場合、意識が統合されず分離している病的な状態になることがあります(解離性障害)。例えば、敦子が扮するパプリカのように、自分の心が、時間や場所によって入れ替わります(人格交代)。同時にもう1人の自分が出てきます(二重心)。敦子の上司の所長のように意識が乗っ取られた感覚になり、自分が意図せずに急に支離滅裂になります(トランス、憑依)。また、脳血管障害などの器質的な原因がある場合、例えば自分の意思とは別に手が勝手に動いてしまいます(エイリアンハンド、分離脳)。睡眠生理学的には、半覚醒の状態では脳内のアミン系が減りつつも出ていて、コリン系が活発化しています。夢見(レム睡眠)に近い状態です。アセチルコリンは、副交感神経に作用する「リラックスホルモン」であるだけでなく、脳内の視覚中枢、感情中枢、運動中枢を活性化する「夢見ホルモン」とも言えます。この時、レム睡眠に近い状態になるので、前頭葉の働きが弱まるにもかかわらず、記憶中枢(海馬)は活性化します。最近の研究では、この半覚醒の状態は、「デフォルトモード」と呼ばれます。この時に、記憶の整理や学習が進むので、もの分かりが良くなり、言われたことをすんなり受け止めやすくなります。これは、かつて「無意識」として、催眠療法や精神分析療法で「暗示」に利用されていました。3)自分の動き、感覚、想起が思いのままである―自律性3つ目は、自分の動き、感覚、想起が思いのままであることです。厳密に言えば、運動機能、感覚機能、記憶機能が全うされていることです(自律性)。逆に、ストレスや恐怖で、起きている時に、先ほど紹介したローカルスリープがある脳領域で過剰になる場合、その脳の機能が部分的に喪失している病的な状態になります(転換性障害)。例えば、立位・歩行機能の喪失なら、腰が抜けて立てなくなったり(失立)、膝が抜けて歩けなくなります(失歩)。発声機能の喪失なら、声が出なくなります(失声)。協調運動機能の喪失なら、手が震えたり(心因性振戦)、字が書けなくなったりします(書痙)。嚥下機能の喪失なら、喉の違和感が出てきます(ヒステリー球)。聴覚機能の喪失なら、突然に聞こえなくなります(突発性難聴)。視覚機能の喪失なら、突然に目が見えなくなります(心因性視力障害)。また、記憶機能の喪失なら、特定の記憶が思い出しにくかったり(抑圧)、思い出せなかったり(選択的健忘)、重度の場合は自分の生活史の全てを思い出せなかったりします(全般性健忘)。これらは、あくまで脳が局所的に「失神」をしているローカルスリープが原因であるため、現代の身体的な精密検査においては明らかな異常とならないのが特徴です。夢に何ができる?これまで、夢を見ている状態、眠っている状態、起きている状態の正体を解き明かしてきました。それでは、夢に何ができるでしょうか? ここから、夢の利用の可能性について、3つご紹介しましょう。1)夢から気付きを得る―ひらめき敦子がパプリカに「言うことを聞きなさい」と叱りつけると、「自分も他人もそうやって思い通りにできると思うなんて」と言い返されます。そこで敦子は我に返り、「時田くんを放っておけない。だって私・・・」と言い、どうしようもない時田を愛しているという自分の抑え込んでいた本当の気持ちに気付くのです。敦子が自分を抑えてクールで知性的な大人の女性であるのに対して、パプリカはまさにスパイスの利いた赤い野菜のように、無邪気で開放的な少女です。性格がとても対照的です。パプリカは、敦子が普段、意識せずに抑えていたもう1人の自分だったのです。1つ目は、夢から気付きを得ることです。それは、起きてる時には思いも付かなかった発想、生きるヒント、さらにはひらめきです。例えば、世紀の科学的な発見、商業的な発明、名曲や名画などは、夢に出てきたという逸話をよく聞きます。そのわけは、起きている時は緊張して堂々巡りの頭でっかちの脳が、前頭葉の働きが弱まることで、連想性や創造性が柔軟になり、情感、発想力、そして直感力が高まるからです。ただし、私たちが夢について話をする時に注意することは、夢はあくまでポジティブな気付きを得るきっかけとして利用するのみとすることです。かつての夢分析のように、不安などのネガティブな感情を煽ったり、性的な関心事に結び付けるなどの過剰な解釈をしないことです。なぜなら、先ほどにも説明したように、夢は突飛で、そもそも内容の解釈にエビデンスがないからです。2)夢をコントロールする―明晰夢粉川警部は、夢の中に登場するバーテンダーの質問によって、繰り返す不快な夢のわけが、過去にやり残したことであることに気付きます。そして、再び同じ夢を見た時、その夢の続きをハッピーエンドにして完成させるのです。また、敦子が犯人と直接対決をするラストシーン。敦子は、無意識の幼児の姿で立ち向かい、犯人の欲望のイメージを丸ごと飲み込み、清々しい爽やかな大人の姿へと成長します。これらは、夢の中ではネガティブな内容をポジティブな内容に変えられることを象徴的に描いています。2つ目は、夢をコントロールすることです。本来、夢を見ている時はその自覚がないので、コントロールすることはできません。そこで、自覚ができるように訓練するのです。いわゆる明晰夢です。そのために必要なのは、起きている時に夢についての意識を高めることです。例えば、夢の内容を細かく記録することです(夢日記)。そして、繰り返し見るネガティブな夢を、ポジティブな筋書きに書き変えて、起きている時に想像することです(イメージリハーサル)。これはちょうど認知行動療法で、ネガティブな思考パターンにポジティブな思考パターンを増やしてバランスを変えていくアプローチに似ています(認知再構築)。また眠る前に、「明晰夢を見る」と念じることです。これはちょうど翌朝に起きる時間を意識したら(注意睡眠)、その時間の少し前に自然に目が覚めることに通じています(自己覚醒)。また、起きている時に、普段よりも五感を研ぎ澄まして全身で世界を感じ取れるように注意力を高めることです(マインドフルネス)。これは、言うなれば「超覚醒」の状態です。そうすることで、もともと夢を見るレム睡眠時に抑制される機能である前頭葉のメタ認知が活性化される可能性があります。さらに、最近の研究では、夢を見ている時に、経頭蓋交流電気刺激(tACS)によって、前頭葉を直接刺激して、明晰夢にすることが可能になってきています。3)夢を変える―オプトジェネティックス冒頭のシーンで、パプリカは粉川警部に「DCミニ。これは夢の扉を開く科学の鍵なの」と説明します。粉川がさっきまで見ていた夢の内容は全てパソコンで映像化され、録画されています。まさにこの映画はSFファンタジーだと思いきや、近い将来にこの「DCミニ」が現実のものになる可能性があります。3つ目は、夢を変えることです。これに近い手法としては、かつて催眠療法で、クライエントに振り子を追わせてまどろみを引き起こし、半覚醒の状態で、セラピストがトラウマ体験の意味付けや解決のための指示をしていました。現在は、眼球運動脱感作再処理法(EMDR)として、クライエントに左右を往復するライトを追わせるなどして目を左右に動かさせながらトラウマ体験を語らせ、セラピストがそれに対してのポジティブな意味付けを促します。ちなみに、EMDRに、新しい技術である仮想現実(VR)を取り入れた手法も今後は可能になるでしょう。催眠療法もEMDRも、眼球運動により半覚醒の状態を引き起こします。これは、眼球運動とアセチルコリンの誘発は連動しているので、レム睡眠で急速眼球運動が出てきますが、逆に眼球運動をするとレム睡眠に近い状態になるということです。つまり、寝付きが良くない時に、眼球を動かすと眠気が来やすくなるということです。ちなみに、アセチルコリンを減らす抗コリン薬の副作用が、眼球上転という眼球が動かなくなる症状であるのも納得がいきます。催眠療法やEMDRが、セラピストのコントロールによって、覚醒状態から意識レベルを下げます。一方、先ほどの明晰夢は、自分のコントロールによって夢見状態から意識レベルを上げます。両者は、スタートは違いますが、トラウマ体験の記憶の上書きがしやすい状態になるという意味でゴールは同じです。そして、最近、人工知能による解析によって、どんな夢を見ているかまで分かるようになりました(夢の可視化)。さらに、最新の研究では、光ファイバーによる脳への刺激によって、別々の記憶をつなぎ合わせたり、引き離したりすることができる可能性が出てきました(オプトジェネティクス)。これは、夢を直接変えることに応用できそうです。例えば、トラウマ体験の夢を見ている時に、楽しい体験の記憶のパターンを刺激することで、トラウマ体験自体の辛さが緩和されるということです。さらに、近未来には、眠って夢を見ているときだけでなく、起きている時も、「DCミニ」のような装置によって、私たちの意識が仮想現実の空間で共有される日が来るかもしれません。夢には「夢」があり「夢中」になれる今回、進化医学的に夢を見ることに意味がないと説明しました。しかし、夢を利用することには限りない可能性が秘められていることが分かってきました。これこそまさに「夢」のある話です。そのことを知った今、私たちは夢についてもっと「夢中」になることができるのではないでしょうか?1)筒井康隆:パプリカ、中公文庫、19972)櫻井武:睡眠の科学、講談社、20103)三島和夫編:睡眠科学、科学同人、20164)アラン・ホブソン:ドリームドラッグストア 意識変容の脳科学、創造出版、20075)アンソニー・スティーブンズほか:進化精神医学、世論時報社、2011

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RA治療評価には「患者の主観」も重要

 2017年4月17日、東京において日本イーライリリー株式会社主催で「関節リウマチにおけるPROの重要性と患者さんの求めるQOL」と題したプレスセミナーが開催され、リウマチ医療における最新のPRO(患者報告アウトカム)1)研究に携わるオックスフォード大学のピーター・C・テイラー氏より、関節リウマチ(RA)治療においてPROが果たす役割や、PROを用いた患者とリウマチ医による疾患管理の重要性などが語られた。RA治療は「寛解」や「低疾患活動性」を目指せる時代に かつて、RAは、強い疼痛や変形が生じる「不治の病」として恐れられてきたが、近年、リウマチ治療は大きく進展し、新たな薬剤の登場によって「寛解」や「低疾患活動性」を目指せる時代となった。現在の治療は、目標達成に向けた治療「Treat to Target」の概念に基づき、関節破壊の進行を抑え、長期予後の改善、とくに身体機能障害の防止と生命予後を改善することが重要視されている。PROという評価基準 一方で、治療の進歩にかかわらず、残存する症状(倦怠感・関節に限らない痛み・朝のこわばり)やそれらの評価などを含むPROという評価基準への注目が高まりつつある。医師と患者では治療目標に乖離があり、RAの改善に対する評価が異なるためである。具体的にいえば、医師は「症状のコントロールと長期障害の予防」を目標に治療を行っているが、患者は「今日のこの痛みを何とかしたい」、「日常の活動ができるようになりたい」と考えている。患者にとって、腫脹や圧痛関節数が改善しただけではRAが改善したとはいえないのである。そのため、患者自身が語る症状や健康状態をもとに、疾患がもたらす負担や治療アウトカムを評価するPROの考え方は、RA患者のQOL向上・医療の質の向上に非常に有効であると考えられる。RAの評価に使用されるPROの種類 PROは、患者が待合室で規定の用紙に記入するか、電子フォームに入力する。記入には数分しかかからず、スコアの計算も簡単であるという。RAの評価に使用されるPROの種類としては、下記が挙げられる。 ・健康状態全般:SF-36、VAS、FACIT、MOS、Sleep ・健康効用値:EQ-5D、HUI ・疾患特異的項目:HAQ-DI ・疾患が患者へ及ぼす影響:RAID ・疾患活動性:RAPID、RADAI、PASS-II、Pt-DAS28、OMERACT Flare Q「患者はPROを通じて、自身の疾患管理に関与していることを実感でき、治療満足度が上がる」とテイラー氏は語る。PROの重要性に対する認識は高まりつつある RA治療においては、臨床徴候のみならず、疾患の影響全体を勘案することが重要である。また、多くの医療機関では、1人の医師が長期観察を実施するのは非現実的である。そして、リウマチ医の診察時に毎回関節数の評価を実施できない可能性もある。これらを鑑みると、PROの評価により別次元からの情報を得て、治療の意思決定を行うことは必要不可欠であると考えられる。第10回OMERACT2)会議では、PROにより患者主観をアウトカム評価に取り入れることの重要性が強調され、現在は臨床試験へのPROの適用を規制当局より求められることも増えているという。「患者の主観は重要であり、医師による評価指標より有益な場合もある」とテイラー氏は強調し、講演を締めくくった。RA患者の治療満足度向上のために、PROを役立ててみてはいかがだろうか。1)PRO(Patient-reported outcome)とは、“臨床医やその他の誰かによる解釈を介さない、患者から直接得られた患者の健康状態(症状や満足度)に関するあらゆる報告”を指す。FDA 2009指針を参照2)Outcome Measures in Rheumatology

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〔jmedmook45〕あなたも名医!成人吸入薬のすべて 世は吸入薬戦国時代!

吸入薬・デバイスを制するものは吸入アドヒアランスを制す!発売される数がどんどん増え、入れ替わりが激しい「吸入薬」はまるで戦国時代の武将たちの下克上のよう?!しかし、多くの日本のプライマリケア医に、その種類の多さから「吸入薬の使い方は難しい」と敬遠されています。そんな「吸入薬」の裏も表も知り尽くした「吸入薬のことが大好き」な著者が「どんな成人患者さんに、どんなデバイスを選ぶとよいのか」を懇切丁寧に解説!本書を読んで吸入薬のことを知り、デバイスの選び方を学べば、患者さんの吸入アドヒアランスが高まること間違いなし!患者さんのためにも是非、一読を!画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。    〔jmedmook45〕あなたも名医!成人吸入薬のすべて 世は吸入薬戦国時代!定価3,500円 + 税判型B5判頁数176頁 カラー発行2016年8月著者倉原 優(独立行政法人国立病院機構 近畿中央胸部疾患センター内科)Amazonでご購入の場合はこちら

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ポケット呼吸器診療2017

臨床で使える小さなマニュアル―これをポケットに入れておけば大丈夫!定番の『ポケット呼吸器診療』最新版の登場です。今回は、「2017年版になってどこが変わったの?」がわかります→改訂部分を色付け各種ガイドラインの改訂に対応など、最新情報にアップデート内容量もさらに充実。前年版の30%増! (150→200ページ)の3つを主に改訂しました。また、本書の特徴としては、臨床で使える小さなマニュアル(新書版)である呼吸器疾患の診療手順/処方例/診療指針・ガイドラインを掲載患者さんへの病状説明のポイント、よくある質問の解答例も掲載 の3点が挙げられます。小さいながらも、診療現場で役に立つ1冊です。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。    ポケット呼吸器診療2017定価1,800円 + 税判型17.2 × 10.5 × 0.9 cm頁数212頁発行2017年3月監修林 清二著者倉原 優Amazonでご購入の場合はこちら

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アジア人の加齢黄斑変性、視機能低下に民族性が関与

 加齢黄斑変性(AMD)と視機能(vision-specific functioning:VSF)に、民族性が関与していることが示唆された。シンガポール・国立眼科センターのEva K Fenwick氏らによる中国人、マレー人およびインド人を対象とした住民ベースの横断研究において、中国人ではAMDがVSFに負の影響を及ぼしたが、マレー人およびインド人では影響がみられなかったという。今回の結果は多民族的なアジア人において、民族性が疾患とVSFとの関連に影響する独立した因子であることを示唆するものであり、著者は、「AMDの発症や進行を遅らせるためには、民族性に基づいた戦略が必要である」とまとめている。JAMA Ophthalmology誌オンライン版2017年3月30日号掲載の報告。 本研究には、中国人、マレー人およびインド人の成人計1万33例が参加し、このうちグレード分類が可能な眼底像およびVisual Function Index(VF-11)のデータがあった9,962例(99.3%)が解析対象となった(平均[±SD]年齢:58.8±10.4歳、男性4,909例[49.3%])。 単眼の遠見視力はlogMAR視力表を用いて測定し、3つの民族群におけるAMDとVSFとの関連を、年齢、性別、良いほうの眼の視力、教育水準、収入、喫煙状況、高血圧、糖尿病、心血管疾患、総コレステロール値およびその他の眼の状態で調整した、重回帰モデルで分析した。 データは2004年1月20日~2011年12月19日に収集され、2015年11月12日~2016年12月28日に解析が行われた。 主な結果は以下のとおり。・解析対象9,962例中、初期AMDが590例(5.9%)(中国人241例、マレー人161例、インド人188例)、後期AMDが60例(0.6%)(それぞれ25例、21例、14例)であった。・調整モデルにおいて、中国人では非AMD例と比較し初期AMD例でVSFの低下が認められたが(2.9%、β=-0.12、95%CI:-0.23~-0.00、p=0.046)、マレー人とインド人では関連は認められなかった。・中国人において、後期AMD例は非AMD例と比較しVSFの低下が19.1%と臨床的に著しかった(β=-0.78、95%CI:-1.13~-0.43、p

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わかる統計教室 第4回 ギモンを解決!一問一答 質問9(その1)

インデックスページへ戻る第4回 ギモンを解決!一問一答質問9 多変量解析を学ぶ前に知っておくべき統計の基礎を教えてください(その1)医学統計では、重回帰分析やロジスティック回帰分析など多変量解析の手法を使うことも少なくありません。しかし、数多くある多変量解析手法のうち、どのようなデータやケースにどの手法を使って解析すればよいのか迷われる先生も多いと思います。また、先生方からのご質問にも「まず統計の基礎知識をきちんと身に付けたい」とのお声も多くありましたので、今回は、多変量解析を学ぶ前に今一度基礎統計をおさらいします。■統計学の役割先生方のいる臨床現場の周りには、さまざまな情報があふれています。好むと好まざるとにかかわらず、先生方は無意識のうちに情報を選別・選択し、それを基に物事を把握しながら日常臨床を行っていると思います。どんな些細な事柄であっても、情報なくして意思決定がなされるということは考えられません。このように、先生方は知らず知らずのうちに情報を収集し、それを活用することによって日常臨床を成り立たせているといえるでしょう。「情報なしでは生きていくのすら困難」といっても過言ではない現代では、逆に、情報を巧みに活用できる人にとっては面白く、刺激的な時代といえるかもしれません。とはいっても、形も種類もさまざまな情報をやみくもに集めただけでは、有効に活用することはできません。情報の活用にも一定のルール、つまり「情報の読み方・伝え方の決まり」があります。ルールを無視して情報を取り扱うことは何のメリットもないばかりか、事と次第によっては自分や他人に大変な危険を及ぼすかもしれません。■統計学の活用方法統計学は、この情報を「正確に読み、間違いなく伝え、有効に活用するための理論」であり、統計解析の手法はそのための手段といえます。ここで日常臨床や研究に統計学を使われている先生方のために、まず一般的な統計解析の活用手順を示しておきましょう。解決したいこと(目的)を明確にする調査、実験、インターネットなどでデータ(情報)を集める数多くある統計解析手法の中から、どれを適用するかを決めるExcelや統計解析ソフトウェアを用いて計算する出力された結果を解釈する■集団の特徴や傾向を調べる基本統計量ここにAさんという人がいます。Aさんについてさまざまなデータを収集した結果、身長が165㎝、体重は60kg、性別は男性、血液型はA型、収縮期血圧が120mmHg、拡張期血圧が80mmHgであるなど、その他いろいろなことがわかりました。Aさんのデータを統計的に処理できるでしょうか。統計学は、一定の条件に基づいて集められた「データのまとまり」を扱うものです。ですから、あらゆるデータを扱うことができるといっても、このような「特定の個人(1人だけ)のデータ」は、統計学の関知するところではありません。たとえば「A、 B、…」という100人の集団について、「身長」と「性別」のデータを得たとします。身長は背の高い人も低い人も、また、性別は男性も女性もいるでしょう。このような個々のデータの差異を「変動」といいます。データが変動しているがために、その集団は「背の高いほうなのか、低いほうなのか」あるいは「男性は多いか、少ないか」を把握する必要性が生じてくるのです。そこで、統計学を用い、身長の平均や性別における男性の割合(比率)などを求めることになります。もし、全員の身長が165㎝、全員が男性であったとします。これでは身長の平均や男性の割合を求めること自体意味がないことでしょう。今述べたように、集団に属するデータから平均値や割合を求め、集団の特徴や傾向を明らかにするための考え方(理論)が統計学です。統計学によって求められた値(平均値、割合)を「基本統計量(要約統計量)」といいます。なお、情報の主体である「A、 B、 …」といった複数の人(あるいは物)の集まりを「集団」といいます。また、集団を構成する個々の主体(人あるいは物)を「個体」といいます(表1)。表1 情報の主体■因果関係を調べる相関分析・多変量解析ある集団について、血圧や食生活の実態を調べたデータがあります。「塩分を多く摂取する人の血圧平均値や変動は?」、「塩分を多く摂る人々とそうでない人々で血圧の平均値に違いがあるか?」は、先に述べた基本統計量で把握できます。では、血圧が「高い」「低い」の変動は何によって生じるのでしょうか。少し考えただけでも、塩分摂取量、喫煙の有無、飲酒量、年齢、測定時の心理・健康状態など、さまざまな要因を挙げることができます。「血圧測定値の高低に影響を及ぼす要因は?」、「飲酒量と血圧測定値とは関係があるか?」などは、「相関分析」という解析手法で把握できます。血圧測定値は、いろいろな要因が絡み合って決まります。ある人が塩分摂取量、喫煙の有無、飲酒量、年齢などをパソコンに入力すると「近い将来、あなたの血圧値は150になるので注意せよ」といったことを予測してくれるアプリがあります。このアプリは、多数の要因を同時に処理する「多変量解析」という手法によって作られています。統計学では目的とする要因(この例では血圧)を「目的変数(結果変数)」といいます。原因となる要因(この例では塩分摂取量、喫煙の有無など)を「説明変数(原因変数)」といいます。相関分析、多変量解析は、目的変数と説明変数の関係、すなわち両者の因果関係を明らかにする解析方法です(表2)。表2 把握したい内容と解析手法の役割次回は、基本統計量についてご説明いたします。今回のポイント1)統計学は、情報を「正確に読み、間違いなく伝え、有効に活用するための理論」であり、統計解析の手法はそのための手段である!2)集団に属するデータから平均値や割合を求め、集団の特徴や傾向を明らかにするための考え方(理論)が統計学である!3)統計学によって求められた値(平均値、割合)を「基本統計量(要約統計量)」という!4)統計学では目的とする要因(この例では血圧)を目的変数(結果変数)といい、原因となる要因(この例では塩分摂取量、喫煙の有無など)を説明変数(原因変数)という!インデックスページへ戻る

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リラグルチドの糖尿病発症予防効果は160週にわたって持続する(解説:住谷 哲 氏)-660

 リラグルチドが、肥満合併前糖尿病患者の糖尿病への進展を56週にわたって抑制することはすでに報告されていた1)。本論文は、その試験の160週にわたる結果であり、56週でみられた糖尿病発症予防効果は、160週にわたって持続することが明らかとなった。肥満合併前糖尿病患者は年々増加しており、生活習慣への介入のみでは減量に難渋することが多い。わが国でもリラグルチドがこの目的で使用可能となれば朗報であろう。 リラグルチドがどのようなメカニズムで前糖尿病から糖尿病への進展を抑制したのかは本試験からは明らかではない。1つには体重減少による内臓脂肪量の減少がインスリン抵抗性を改善した可能性、もう1つはGLP-1受容体作動薬の主作用であるインスリン分泌能の改善による可能性が考えられる。しかし、現実的には両者が相互に作用した結果と考えるのが妥当だろう。 本試験でのリラグルチドの投与量は3.0mgであり、現在のわが国での投与上限の約3.3倍に相当する。当然のことながら種々の副作用が生じることが予想される。以前から指摘されている胆石を含む胆道疾患もリラグルチド群で増加していた。その他の注意すべき副作用としては、リラグルチド投与群で乳腺悪性腫瘍の発症が有意ではないが増加傾向にあった点であろう。 最後に医療費についても考慮する必要があるだろう。本試験でもリラグルチド投与を中止すると12週で体重が増加していた。つまり、糖尿病発症を予防するためにはリラグルチドを半永久的に投与しつづける必要があることになる。これは、cost-benefitを考えると非現実的といわざるを得ない。この点では、手術が成功すれば長期間にわたり糖尿病発症予防が期待できるbariatric surgeryに分があるように思われる。 肥満の治療は難しい。摂取カロリーを減らすか、消費カロリーを増やすかすれば肥満は解消できるという単純な物理法則が日常臨床で現実化しないのがもどかしい。ここに薬物療法やbariatric surgeryの介入する余地があることになる。しかし副作用もなく、費用もかからないのはやはり食事運動に注意して定期的に体重計(SCALE)に乗ることだろう。

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臓器移植後の皮膚疾患、人種間の違いは?

 米国では、白人レシピエントの皮膚がんリスクについて特徴づけがされているが、臓器移植待機リストの大半を占める非白人については、皮膚疾患および皮膚がんリスクについてほとんど検討されていなかった。米国・ドレクセル大学のChristina Lee Chung氏らは、レシピエント412例の医療記録をレビューし、白人では悪性疾患が最も多いが非白人では感染症や炎症性疾患が多いこと、日光に曝されている部位での病変が最も多いのは白人とアジア人であること、一方で黒人レシピエントの病変の3分の2は日光に曝されていない部位での発症であることなどを明らかにした。JAMA dermatology誌オンライン版2017年3月8日号掲載の報告。 検討は、2011年11月1日~2016年4月22日の、1大学で治療を受けた412例の臓器移植レシピエントの医療記録をレビューして行われた。 皮膚疾患の有病率および特徴を、白人154例と非白人(アジア人、ヒスパニック、黒人など)258例で比較した。人口統計学的特性、がんの頻度やタイプ、解剖学的な発症部位、経過時間、日光曝露、またリスクに対する認識や予防的行動などを包含し、皮膚疾患とその他診断の臨床的因子についてレシピエント間で評価した。 主要評価項目は、一次診断が、がんまたは前がん病変、感染症、炎症性疾患とした。 主な結果は以下のとおり。・412例は、男性264例(64.1%)、女性148例(35.9%)、平均年齢は60.1歳(範囲32.1~94.3歳)であった。・白人レシピエントについて、初回外来受診で頻度が高かったのは、悪性疾患の診断であった(82例[67.8%])。一方で、非白人は感染症(63例[37.5%])と炎症性疾患(82例[48.8%])が多かった。・皮膚がんの診断は、白人レシピエントでは64例(41.6%)、非白人レシピエントでは15例(5.8%)であった。・白人とアジア人のレシピエントの大半の病変部位が、日光曝露域であった(それぞれ79.5%[294/370例]、83.3%[5/6例])。・黒人レシピエントでは、日光非曝露域(とくに性器)の病変が多かった(66.7%[6/9例])。・非白人レシピエントは、白人レシピエントと比較して、定期的な皮膚科検査の受診(11.4%[5例] vs. 36.4% [8例])、皮膚がんの兆候への理解(25.0%[11例] vs. 45.4%[10 例])がともに低かった。 非白人レシピエントの早期治療では、炎症性および感染性の疾患にフォーカスをすること、白人・アジア人・ヒスパニックレシピエントに対しては日焼け予防を強調すること、黒人レシピエントには、ヒトパピローマウイルス感染のサインを見逃さないように助言することが必要であると思われた。 一方で、移植後の皮膚疾患は人種や民族性に依拠している可能性はあるが、ベースラインでは、すべての患者であらゆるスキン評価を行うべきであると著者は述べている。

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“モンスターペイシェント”の実態

 “モンスターペイシェント”が増加しているといわれる中、医療従事者や医療機関に対して自己中心的で理不尽な要求や暴言、暴力、クレームを経験したことはありませんか? ケアネットは3月、CareNet.comの医師会員を対象に上記についてアンケート調査を実施し、医師会員1,000人の回答を得た。同調査は2013年2月以来4年ぶりとなり、前回の調査結果との比較も行った。 今回の調査の詳細と、具体的なエピソードやコメントはCareNet.comに掲載中。 調査は、2017年3月16~17日、医師会員を対象にインターネット上で実施した。 このうち、患者・家族から暴言や暴力、その他“通常の域を超えている、診察に著しく影響を及ぼすレベル”の行動や要求、クレームを受けた経験について、「経験がある」と答えた人は55.1%で、4年前(67.1%)よりもやや減少した。ただし、経験者の6割近くが1年に1回以上のペースで遭遇しており、モンスターペイシェントが少なからず診療に支障を来している状況がうかがえる。 モンスターペイシェントの事例としては、「スタッフの対応が気に食わないなどのクレーム」が最も多く(47.2%)、「自分を優先した診察ほか、待ち時間に関する要求・暴言を吐く」(33.4%)、「治療法・薬剤を指定するなど、自分の見立てを強硬に主張」(30.3%)、「不要な投薬・過剰な投薬を要求」(18.3%)などが続いた。 また、勤務・経営する院内におけるモンスターペイシェント対応策として、「対応マニュアルやガイドラインがある」と答えた人は32.2%で、前回調査時より3.4ポイント増加しており、以下「対応担当者を決めている」(23.8%)、「院内で事例を共有している」(21.6%)、「対策システムがある」(18.6%)などが続いた。その一方で、「とくに対応策をとっていない」と答えた人が、選択肢の中で2番目に多い29.7%にのぼった。 この内訳を病床数でみると、200床以上では4割以上でモンスターペイシェントのマニュアルやガイドラインが整備されているが、小規模ほど対策が遅れている傾向にあるようだ。中には、「不当な目にあっても対応した医師が悪いという風潮が院内にあり、被害医師は孤立」「上司が守ってくれるかどうかが、その後のメンタルに大きく影響する」「守ってくれない職場は最低」(いずれも調査内の自由記述コメントから抜粋)など、対応以前に周囲が無理解であることをうかがわせるコメントもみられた。 患者およびその家族の“モンスター化”にとどまらず、事件となるケースも少なくない。近年では2013年に北海道三笠市の総合病院で、精神科医が外来患者に刺殺された事件や、14年に札幌市の病院で、消化器内科医が担当患者に切り付けられ重傷を負った事件、15年には岐阜市で歯科医院長が患者に刺殺された事件など、患者とのトラブルを発端とする凶悪事件は後を絶たない。 今回の調査で、暴力や身に迫る危険を経験した人は、回答全体に占める割合としては少なかったが、「看護師の首を跡が残るくらい絞めた」「病室で拳銃を発砲」などのモンスターペイシェントの事例が寄せられた。 このほか、「ネットで口コミに辛辣に書き込みされ困っている」「インターネットの掲示板で誹謗中傷された」「外来窓口で突然面識のない患者にホームページで見たことを理由に殴られた同業者がいたため、ホームページに顔写真を載せるのを止めた」といったエピソードは、2013年時の調査では見られなかった新たな傾向である。 今春、新たに入職したり、勤務先の医院を変えて心機一転、臨床に励みたいと考えたりする人も多いことだろう。そんな医療従事者の思いや希望を打ち砕くようなことがあってはならず、日々不安を抱えながら診療に当たるような不健全な状況は、一刻も早く改善されなければならない。今回の調査では「毅然と対応すべき」というコメントが多数寄せられた。しかし、個々人が「自分の身は自分で守る」以前に、理不尽な患者や家族を増長させないためのモンスター化の事前策を打つことはできないだろうか。 ケアネットではモンスターペイシェントの有効な対応策や解決事例などをさらに取材し、お伝えしていきたい。

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患者・家族とのトラブル、どう解決すべき!? 2017年“モンスターペイシェント”事情

“モンスターペイシェント”という言葉が使われるようになって久しいですが、診療で対応した患者やその家族とのトラブルや事件は後を絶ちません。「モンスター化させないことが大切」とは言うものの、実際皆さんどのように対応していますか? 医師1,000人から聞いたその実態と、対応策とは…。結果概要2人に1人以上が暴言や暴力、“通常の域を超え、診察に著しい影響を及ぼすレベル”の要求やクレーム経験あり全体では55.1%の医師が「経験がある」と回答した。2013年にケアネットが行った同調査では67.1%であったのと比較してやや減少したものの、依然として2人に1人以上が何らかの経験があることがわかった。経験の頻度は、1年に1度以下が最も多かったが、「月に1度」以上の人があわせて11.5%にのぼり、わずかではあるが「週に2~3度以上」(1.3%)と答えた人も。暴言、ネットへの誹謗中傷の書き込み、なかには立件レベルの事案も内容としては、「スタッフの対応が気に食わないなどのクレーム」が最も多く(47.2%)、「自分を優先した診療ほか、待ち時間に関する要求・暴言を吐く」(33.4%)、「治療法・薬剤を指定するなど、自分の見立てを強硬に主張」(30.3%)、「不要な投薬・過剰な投薬を要求」(23.6%)などが続いた。とくに悪質なケースとしては、「『訴える』『殺す』『暴力団関係者を連れてくる』『マスコミに流す』などと脅迫」(18.3%)や、「自身やスタッフに暴力を振るう」(15.1%)などがあり、「看護師の首を跡が残るくらい絞めた」「病室で拳銃を発砲」といったエピソードも寄せられた。3割超で対応マニュアル・ガイドライン整備。現場では警察OBが活躍、悪質なケースでは110番通報も患者やその家族とトラブルになった場合の最終的な対応として、およそ3人に1人が「以後の診察を拒否した」と回答。以下、「他の医師と担当を交代」(18.7%)「転院させた」(17.8%)などが続いた。一方、「とくに対応はしなかった」人は33.4%にのぼり、全選択肢の中で最も多い回答だった。「なるべく話を妨げずに聞き、嵐が去るのを待つ」など、ひたすら傾聴するというコメントも少なくなかったが、「カルテに詳細を記録する」「ICレコーダーは必須」などの証拠保全策、「すぐに対応部署に介入してもらう」「警察への通報を躊躇してはいけない」などの回避策も挙がった。また、「警察OBを雇用している」との回答は14.0%で、対応を一任できる安心感があるとのコメントが多かった。このほか、ネットの掲示板への誹謗中傷の書き込みや、患者のストーカー化など、精神的負担を強いられるエピソードも複数見られた。設問詳細診療で関わった患者・家族とのトラブルが発端となった事件が後を絶ちません。医療現場では今、何が起こっているのでしょうか。そこで、患者・家族からの暴言や暴力、通常の域を超えた要求やクレームにまつわる経験や対応について、皆さんが日常診療の中で遭遇した実例や対応策を、ぜひお聞かせください。Q1.患者・家族から暴言・暴力、その他“通常の域を超えている、診察に著しく影響を及ぼすレベル”の行動や要求、クレームを受けたことがありますかあるないQ2.(Q1で「ある」と回答した方のみ)その頻度について最も近いものをお答え下さい週に2~3度以上週に1度半月に1度月に1度2~3ヵ月に1度半年に1度1年に1度それ以下Q3.(Q1で「ある」と回答した方のみ)その内容について当てはまるものをすべてお答え下さい(複数回答可)自分を優先した診察ほか、待ち時間に関する要求・暴言を吐く「空いている」などの理由で、時間外・夜間診療を繰り返す診察を受けずに投薬のみ要求不要な投薬・過剰な投薬を要求治療法・薬剤を指定するなど、自分の見立てを強硬に主張検査・診察・食事・内服等を拒否入院を強要退院を拒否治療費・入院費を払わない「スタッフの対応が気に食わない」などのクレーム事実と異なることを吹聴(SNSへの書き込みなども含む)土下座など度を越した謝罪を要求「訴える」「殺す」「暴力団関係者を連れてくる」「マスコミに流す」などと脅迫自身やスタッフに暴力を振るうQ4.(Q1で「ある」と回答した方のみ)上記の患者・家族への対応で、ご経験があるものをお答え下さい(複数回答可)他の医師と担当を交代転院させた以後の診察を拒否弁護士・司法書士等に相談警察に相談警察に通報、出動を要請した患者の対応に参って体調を崩した退職したとくに対応はしなかったQ5.院内で設けられている対応策について当てはまるものをお答え下さい(複数回答可)対応マニュアルやガイドラインがある対策システムがある防犯・対策セミナーや訓練を実施している院内で事例を共有している対応担当者を決めている担当部署を設置している警察OBを雇用している弁護士・司法書士に相談する体制をとっている「警察官立寄所」のステッカー・看板等を掲示しているICレコーダー・カメラ等を設置しているとくに対応策をとっていないQ6.コメントをお願いします(具体的なエピソードや解決方法、対策ノウハウ、院内体制など何でも結構です)コメント抜粋(一部割愛、簡略化しておりますことをご了承下さい)エピソード夫が暴力団関係者であると脅され、患者に有利になるよう診断書を書くことを強要された(50代、整形外科)。ほか、診断書の内容についてのクレーム・過度の要求2件。入院中に無断外出しアルコールを飲んだうえ、暴言をはかれた。スタッフの協力によって解決したが、そのために使った時間と体力、精神力は大きなものだった(30代、神経内科)。ほか、無断外出によるトラブル2件。酔っ払い相手で困った経験がある。殴られ、刑事事件とした(40代、消化器内科)。ほか、直接暴力を受けたというコメント2件。救急外来での対応に不満を持ち、いったん帰宅して包丁を持って来院した患者がおり、以来救急外来に監視カメラが設置された(50代、麻酔科)。ほか、救急・夜間診療でのトラブル5件。ミュンヒハウゼン症候群の患者への対応に苦慮。精神神経科医や臨床心理士のサポートが不足している病院が少なくないように感じる(50代、内科)。ほか、精神疾患や認知症患者への対応についてのコメント7件。生活保護受給者が、売買目的で不必要な薬を大量に要求してくることが毎日のようにある(50代、泌尿器科)。ほか、生活保護受給者に関するトラブル4件。治療が家族の見立て通りに進まないことへの苦言から、威嚇行為に発展したことがある(30代、膠原病・リウマチ科)。ほか、家族への対応でのトラブル7件。患者にストーカー状態でつきまとわれ、病棟まで追いかけてこられた(30代、皮膚科)。ほか、ストーカーまがいのトラブル1件。ネット上の口コミで辛辣な書き込みをされて困っている(50代、内科)。ほか、ネット上での誹謗中傷1件。対策<複数での対応>問題がありそうな患者に対応するときは医師以外に看護師、事務スタッフを横に置き、必ずメモを取り、カルテにも記載する(60代、産婦人科)。基本的には別のスタッフが対応したり、複数で対応することで鎮静化することが多い(50代、循環器内科)。ほか、複数での対応が有効というコメント46件。<情報共有・専任部署の設置>上位の責任者を決めておくことは必須(50代、神経内科)。ほか、上司・院長などへの報告システムが重要とのコメント12件。日ごろから問題に発展しそうな事例についての情報共有と対策検討が不可欠(40代、精神科)。ほか、情報共有が重要というコメント34件。専任の医療安全部看護師が対応する(40代、内科)。ほか、クレーム対応部署等専任者・部署の設置39件。医療安全カンファレンスを定期的に開催している(20代、臨床研修医)。ほか、研修会等の開催5件。院内放送で、職員が集まるシステムになっている(50代、糖尿病・代謝・内分泌内科)、ほか、院内放送の活用5件。<接遇・態度>理不尽な要求は対応できないとはっきり伝え、以後は警察等を通すように言う(50代、内科)。ほか、毅然とした態度が重要というコメント23件。できるだけ入院や手術治療前に対応する(40代、消化器外科)。ほか、早め早めの対応が重要というコメント7件。患者が興奮している時は、なるべく刺激するようなことを言わない(60代、リハビリテーション科)、なるべく話しを妨げずに聞いて落ち着くのを待つ(50代、皮膚科)。ほか、まずは傾聴・丁寧な姿勢で臨むというコメント30件。<記録・録音>目の前でICレコーダーで記録を取っていることを見せている(40代、腎臓内科)。ほか、ICレコーダーが有効とのコメント3件。言葉を選んで話し、カルテに詳細に記録を残す。カルテ開示を念頭に置き、冷静に記載する(50代、皮膚科)。ほか、カルテへの詳細記録が有効とのコメント6件。<マニュアル・ガイドライン>マニュアルを各部署に配布し、理不尽な要求には応じないよう徹底している(50代、消化器内科)。ほか、マニュアルについてのコメント21件。<弁護士・警察・警備会社>トラブルが起こりそうな場合は、弁護士に連絡する体制をとっている(40代、消化器内科)。ほか、弁護士への相談体制が重要とのコメント5件。病院が警察OBと契約し、暴力事例への不安が軽減された(50代、循環器内科)。ほか、警察OBの雇用・常駐が有効とのコメント15件。違法な行為があればすぐに通報する(40代、小児科)。ほか、躊躇せず、すばやい通報が重要とのコメント6件。警備会社の自動通報システムが有効(60代、精神科)。ほか、民間警備会社の活用4件。

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わかる統計教室 第4回 ギモンを解決!一問一答 質問8(続き)

インデックスページへ戻る第4回 ギモンを解決!一問一答質問8(続き) Cox比例ハザードモデルとは?(その2)質問8(その1)日頃、文献や論文を読んでいると、よくこのような記載があると思います。「…Cox比例ハザードモデルを用いた解析の結果、プラセボに対する製品Aのハザード比は0.8(95%信頼区間:0.7~0.9、p<0.01)であった…」今回は、この「ハザード比の信頼区間」についてご説明いたします。■ハザード比の信頼区間信頼区間は“confidence interval”といい、頭文字をとって“CI”といいます。信頼度95%のハザード比の信頼区間を“95%CI”といいます。信頼区間は、とあるデータが何万人(母集団)もの人に当てはまるかどうかを分析するものです。100%に当てはまるのではなく、母集団の95%について当てはまるかどうかをみるものです。ハザード比が0.8で、95%CIが0.7~0.9という結果について解釈してみましょう。ハザード比の0.8ですが、別の患者さんを調べたら異なる値かもしれません。仮に別の患者さんを調べる臨床検査を100回とすれば、95回は0.7~0.9に収まり、5回は外れるということです。前回のその1でハザード比が「1」を下回れば、製品Aはプラセボに比べ死亡率を低下させる(延命効果がある)といえることを述べました。ハザード比の95%CIは、100回中95回とほとんどが1を下回っているので、製品Aは延命効果があったと判断します。ハザード比の95%CIが0.9~1.1と1を挟んでいたとします。別の患者を調べたら、ハザード比が1を下回ることもあれば上回ることもあるということです。1を下回れば効果あり、上回れば効果なしですので、延命効果があったかどうか、わからないということになります。前回の事例でもう一度みてみましょう。下図は事例としてカプランマイヤーの生存曲線の観察データを示しています。図 カプランマイヤーの生存曲線の観察データ表1 事例の基礎データ表2に、この事例におけるハザード比の95%CIを示します。表2 ハザード比と信頼区間処方薬剤の95%CIは0.071~2.116で1を挟むので、製品Aはプラセボに比べ延命効果があったといえません。喫煙の有無の95%CIは0.087~2.654で同じく1を挟んでいます。これにより、非喫煙は喫煙に比べ死亡率を低下させるとはいえません。どちらも、この例題では症例数が少なく、両群の有意差はわからなかったといったほうがよいでしょう。今回のポイント1)信頼区間とは100%に当てはまるのではなく、母集団の95%について当てはまるかどうかをみるもの!2)95%CIが「1」を挟むと、母集団において「差があった」とはいえない!3)95%CIが「1」を挟まなければ、母集団においても「差がある」といえる!インデックスページへ戻る

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RAS阻害薬によるクレアチニン値増加、30%未満でもリスク/BMJ

 RAS阻害薬(ACE阻害薬またはARB)服用開始後のクレアチニン値の上昇は、ガイドラインで閾値とされる増大幅が30%未満であっても、末期腎不全や心筋梗塞などの心・腎臓有害イベントや死亡リスクが漸増する関連があることが明らかにされた。クレアチニン値10%未満との比較で、10~19%の増加で死亡リスクは約1.2倍に、20~29%の増加で約1.4倍に増大することが示されたという。英国・ロンドン大学衛生熱帯医学校のMorten Schmidt氏らが、RAS阻害薬(ACE阻害薬・ARB)の服用を開始した12万例超について行ったコホート試験の結果、明らかにした。BMJ誌2017年3月9日号掲載の報告。RAS阻害薬と末期腎不全、心筋梗塞、心不全、死亡との関連を検証 研究グループは1997~2014年の、英国プライマリケア医の電子診療録を含むデータベース「Clinical Practice Research Datalink」(CPRD)と病院エピソード統計「Hospital Episode Statistics」(HES)を基に、RAS阻害薬(ACE阻害薬またはARB)の服用を開始した12万2,363例を対象に、ACE・ARB開始後のクレアチニン値上昇と、心・腎臓アウトカムとの関連を調べた。 ポアソン回帰分析法を用いて、クレアチニン値30%以上の増加や10%増加ごとと、末期腎不全、心筋梗塞、心不全、死亡との関連についてそれぞれ検証した。解析では、年齢、性別、歴期間、社会経済状況、生活習慣、CKD、糖尿病、心血管の併存疾患、その他の降圧薬、NSAIDsの使用で補正を行った。RAS阻害薬服用後のクレアチニン値増加に伴い心・腎イベントリスクも段階的に増加 RAS阻害薬服用後にクレアチニン値が30%以上増加したのは、被験者の1.7%にあたる2,078例だった。クレアチニン値の30%以上の増加は、評価項目としたすべての心・腎イベントの発症と関連が認められた。 クレアチニン値の増加30%未満での発生と比較した補正後罹患率比は、末期腎不全については3.43(95%信頼区間[CI]:2.40~4.91)、心筋梗塞は1.46(同:1.16~1.84)、心不全は1.37(1.14~1.65)、死亡は1.84(1.65~2.05)だった。 クレアチニン値の増加幅に応じた心・腎アウトカムについて調べたところ、10%未満、10~19%、20~29%、30~39%、40%以上と段階的にすべての評価アウトカムについてリスクが増加する傾向が認められた(いずれも傾向のp<0.001)。 死亡に関する補正後罹患率比は、クレアチニン値10%未満の増加との比較で、10~19%の増加で1.15(1.09~1.22)、20~29%の増加で1.35(1.23~1.49)だった。 これらの結果は、歴期間、サブグループ、服用継続の有無などで検討した場合も一貫して認められた。

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第3回 情報の共有に至るインフォームド・コンセントとは【患者コミュニケーション塾】

医師の説明不足を訴える患者が後を絶たない意外な理由インフォームド・コンセントが「説明と同意」と日本医師会生命倫理懇談会によって訳され、「これからの日本の医療現場に普及する必要がある」と記者発表されてから四半世紀が過ぎました。それにもかかわらず、電話相談に届く医師への苦情として「説明不足」を訴える相談者がいまだに後を絶たないということが、数年前から気になっています。しかも、非常に基本的な内容を「説明されていない」と訴える方が多いのです。私自身、患者・家族として医療を受ける機会もありますが、最近、説明してくれない医師に出会う機会はまずないと言っていいほど、詳しく丁寧に説明する医師が増えました。それだけに、多くの患者が説明不足を訴えることを不思議に思い、相談者には必ず「説明の時間を取ってもらえなかったのですか?」と確認するようにしています。すると、大きな決断を要するような疾患の場合は、ほとんどの方が「いえいえ、説明は1時間ほど受けました」とおっしゃるのです。“日本版インフォームド・コンセント”の定着が原因!?さらに深く相談者の話に耳を傾け、分析した結果、皮肉にも説明不足という訴えの原因の1つは、“インフォームド・コンセント”の定着だということがわかりました。インフォームド・コンセントは本来、患者の権利に関する概念ですが、日本に上陸して以来、「説明すること」と解釈されて広まりました。そのため、現在の日本の医療現場におけるインフォームド・コンセントの多くは、医師が必要だと思った情報の一方通行になってしまっているのです。しかも、長時間にわたり、専門的で詳細な内容を口頭で患者は聞きます。冷静に考えてみれば、医療についてまったくの素人がそれらの説明のすべてを理解し、記憶に留められるわけがありません。そのため、医師が説明し、患者も一度は耳を通過させた内容であっても、理解が足りず、結果的に「聞いていない」ことになってしまっているのです。患者の理解を確認するための方法とは?それでは、せっかく長い時間と多大なエネルギーをかけて説明した内容も生かされません。それだけに、十分な説明を患者が理解し、情報の共有に至るインフォームド・コンセントのあり方を考える必要があると思います。その具体的な方策として、医師が説明した後、研修医や看護師から「今日、先生から大切な説明があったと思いますが、どのような治療で、どれくらいの治療効果が期待できるとイメージされましたか?」などと患者に確認し、自ら言語化してもらうようにしてはどうでしょうか。そうすれば、もし患者が誤って思い込んでいる内容があれば浮き彫りになり、まだ足りない情報が何かが見えてきます。その後は、チーム医療で情報の補填をする。治療を始める前の、できるだけ早い時期に、このような情報の共有を図ることが大切だと考えています。

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膠芽腫〔GBM: glioblastoma multiforme〕

1 疾患概要 ■ 概念・定義 膠芽腫(glioblastoma multiforme: GBM)は、悪性脳腫瘍の中で最も頻度が高く、かつ生物学的にもっとも未分化な予後不良の悪性新生物(brain cancer)である。高齢者の大脳半球、ことに前頭葉と側頭葉に好発し、浸潤性増殖を特徴とする。 病理学的に腫瘍細胞は異型性が強く、未分化細胞、類円形細胞、紡錘形細胞、多角細胞および多核巨細胞より構成され、壊死を取り囲む偽柵状配列を特徴とする(pseudopalisading necrosis)。 WHO grade IVに分類され5年生存率は10%、平均余命は15ヵ月。分子生物学的特徴から2型に分類される。イソクエン酸脱水素酵素(IDH1: isocitrate dehydrogenase 1)遺伝子のコドン132のアルギニン(R)がヒスチジン(H)に点変異を有することにより、分化度の高いWHO grade II、IIIの星細胞腫から悪性転換(malignant transformation)した続発性膠芽腫(secondary GBM)とIDH1の変異を伴わない原発性膠芽腫(primary GBM)とに区別される。両者ともGBMとしての予後に差異はなく、半年から1年程度である(表)。 前者では、TP53 mutation(>65%)、ATRX mutation(>65%)に続いてLOH 19q(50%)、LOH 10q(>60%)、TERT mutation(30%)が引き起こされる。一方、後者の遺伝子異常とその頻度はTERT mutation(70%)、EGFR amplification(35%)、TP53 mutation(30%)、PTEN mutation(25%)、LOH 10p(50%)、LOH 10q(70%)である。 画像を拡大する Grade Iは、小児に多い分化型腫瘍で予後が良い(10年生存は80%以上)。 Grade II、IIIは、1年から数年でGrade IVに悪性転換する。これとは別に、初発から神経膠芽腫として発症するタイプがある。いずれの神経膠芽腫も予後はきわめて悪い(5年生存率10%)。 BRAF: B-Raf proto-oncogene、serine/threonine kinaseでRAS/RAF/MEK/MAPKシグナル伝達の主要な役割を担う。 TP53: p53をコードする遺伝子 G-CIMP: CpG island methylation phenotype DNA修復酵素MGMTのプロモーター領域のメチル化を示す表現型。この表現型ではMGMTの蛋白発現は抑制されるため、予後良好のマーカーとなる。GBM患者でCIMP+は若年者、腫瘍の遺伝子表現型がproneural typeに多く全生存期間の延長に寄与する。 ATRX: alpha-thalassemia/mental retardation syndrome x-linked geneで、この遺伝子の変異は、テロメアの機能異常からテロメアの伸長(alternative lengthening of telomeres: ATL)を来す。 なお、遺伝子表現型とグリオーマ予後との関連は、次の文献を参考にした。Siegal T. J Clin Neurosci. 2015;22:437-444. 欧州で施行された臨床試験においてテモゾロミド(TMZ[商品名:テモダール])併用群(2年生存率26.5%、平均全生存期間14.6ヵ月)が、放射線治療(RT)単独治療群(2年生存率10.4%、平均全生存期間12.1ヵ月)に比して、有意差をもって生存期間の延長が認められ、TMZ + RTがGBMの標準治療とされている。 GBMは、このように予後不良で“がんの中のがん”といい得るため、創薬の対象となり、さまざまな臨床試験や新規治療薬が開発されている。GBMの根本治療の創出が今後の大きな課題である。 ■ 疫学 国内における原発性脳腫瘍患者(年間2万人、人口10万人につき14人)のうち、GBMは2,220人で、悪性脳腫瘍の中で最も多く、11.1%を占める。 大脳半球白質に好発し(前頭葉35%、側頭葉25%、頭頂葉18%、後頭葉6%)、時に脳梁を介して対側半球へ浸潤する。平均発症年齢は60歳、45~75歳の中高年に多く、 原発性膠芽腫が9割を占め、その平均発症年齢は62歳、続発性膠芽腫は平均45歳と若い。男性が女性の1.4倍多く、小児ではまれであり、成人と異なり脳幹部、視床、基底核部に好発する。 ■ 病因 発生起源細胞の同定および腫瘍形成の分子機構は解明されていない。 BaileyとCushing(1926年)は、組織発生を念頭に起源細胞に基づいた組織分類を提唱し、脳腫瘍を16型に分類し、glioblastomaの起源細胞をbipolar spongioblast(双極性突起を持つ紡錘型細胞)とした。 WHO脳腫瘍分類に貢献した群馬大学の石田陽一は、膠芽腫を星細胞腫とともに星形グリアの腫瘍と定義した1)。石田の正常な星形グリアとグリオーマの電顕像での詳細な観察によると、 血管壁まで伸び足板を壁におく太い細胞突起には、8~9nmの中間径フィラメントと少量の20~25nmの微小管とグリコーゲン顆粒を有する星形グリアとしての形質が、分化型の星細胞種でよく保たれており、膠芽腫でも保持されていることから、グリオーマを腫瘍性グリアと考察した。さらに星芽細胞腫(astroblastoma)は、腫瘍細胞が血管を取り囲んで放射冠状に配列されていることから、血管足が強調された腫瘍型とした。このように多くの病理学者が、星細胞腫をアストロサイトの脱分化した腫瘍と定義している。 発生学的には、げっ歯類の観察から、成体脳においても脳室周囲の脳室下帯(SVZ)や海馬歯状回(DG)において、neural stem cell/glial progenitorの活発な嗅球や顆粒細胞層へのmigrationが確認されていた。James E Goldmanらは、グリオーマ細胞の特性である高い遊走能は、neural stem cell/glial progenitorの特性を反映していると推察している2)。Fred H Gageらは、ブロモデオキシウリジンをヒトに投与することで、高齢者においてもSVZとDGではDNA合成するNeuN陽性細胞を同定し、neural stem cell/neural progenitorの存在を確認したと報告した3)。Sanai Nらは、ヒトSVZ生検材料を用いた培養系の研究から、脳室壁ependyma直下のastrocyteが、neural progenitorであると判定した4)。状況証拠的には、 現時点で直接証明はなされていないがneural stem cell/glial progenitorが、グリオーマ細胞の起源細胞の有力な候補であると思われる。さらに原発性GBMと続発性GBMでは、前述したように遺伝子異常のパターンが異なるため、起源細胞が異なる可能性も示唆される5、6)。 以上のほか、歴史的にグリオーマの病因としては、グリア(アストロサイト)の脱分化とする考えと、前駆細胞のmaturation arrestとする説がある。 近年、携帯電話の普及に伴い、公衆衛生学的観点からは、ラジオ波電磁界の発がん性の懸念が提起されている。山口によると7)、携帯電話と神経膠腫に関する疫学調査では、デンマークの前向きコホート調査が実施されたが、10年以上の長期契約者でもリスクの上昇を認めなかった。スウェーデンにおける症例対照研究では、10年を超えて携帯電話端末を使用した群では、非使用群と比較して2.6倍のリスクが指摘された。日本も参加した国際共同研究「INTERPHONE研究」では、累積使用時間が1,640時間以上でオッズ比1.4倍と、有意な上昇を示した。 以上から、携帯電話は人にがんを生じさせる可能性があると判定されている。 ■ 症状 腫瘍塊周囲に脳浮腫を伴いながら急速に浸潤性に増殖するため、早ければ週単位で、少なくとも月単位で症状が進行する。初発症状としては頭痛(31%)が最も多く、次いで痙攣(18%)、性格変化(16%)や運動麻痺(13%)などの巣症状が多い。 症状は、腫瘍の発生した場所の脳機能の障害を反映するのが基本である。また、病変が進行し、広範に浸潤すると症状は顕著となる。たとえば両側前頭葉に浸潤する症例では、性格変化、意欲低下、尿失禁、下肢の麻痺が出現する。一側では、初期には徴候は目立たず、徐々に腫瘍塊を形成し、脳浮腫が顕著になると具現化する。側頭葉腫瘍では、優位半球の病変では失名詞などの失語症状や4分の1半盲などが出現しやすい。また、視野症状に、患者自身が気付いていないことが多い。 前述したように、腫瘍局在に応じた神経学的局在症状の出現が基本であるが、たとえば前頭葉に局在する腫瘍でも神経回路網(frontal-parietal networks)を介して、頭頂葉の症候が認められることがあるので注意しなければならない。 具体例として、右側前頭葉病変ではいつも通りに職場へ通勤できなくなるなどの空間認知能の低下や、左側前頭葉腫瘍では失書・失算や左右失認など優位半球頭頂葉症状としてのゲルストマン症状が認められるなどの例が挙げられる。このような症例では、画像検査で大脳白質を介する脳浮腫が顕著である場合が多い。 小児や若年者では、ひとたび頭痛や吐気などの頭蓋内圧亢進症状が出現すると、急速に脳ヘルニアへと進行し、致命的な事態になるので、時期を逸せず迅速に対応することが重要となる。時として脳腫瘍患者は、内科・小児科、精神科において感冒、インフルエンザ、下痢・嘔吐症、認知症、精神疾患として誤診されている場合もある。たまたま下痢・嘔吐症が、流行する時期に一致すると、症状のみの診断では見逃される可能性が高くなりやすい。 そのため、器質的疾患が強く疑わしい症例に限定して画像検査(MRI)を施行するのではなく、症状が軽快せず、進行・悪化している場合には、致命的な見逃しをなくすため、また、器質的な疾患をスクリーニングするためにも、脳画像検査を診療の早期に取り入れる視点が大切であろう。これによりカタストロフィックな見逃しは回避でき、患者の生命および機能予後の改善につなげることができるからである。強く疑わしい症例でなくとも、鑑別診断をするために、脳神経外科を紹介しておく心がけも重要である。 ■ 予後 標準治療、すなわち外科的な切除後にTMZを内服併用した放射線化学療法施行患者の全生存期間(OS)は、15ヵ月程度である。IDH1野生型で9.9ヵ月、IDH1変異型で24.0ヵ月である。ヒト化モノクロナール抗体のベバシズマブ(商品名: アバスチン)やインターフェロンの併用は、OSには寄与しない。組織学的にglioblastoma with oligodendroglioma component、giant cell GBM、 cystic GBMは悪性だが、古典的なGBMよりやや予後が良い傾向にある。分子基盤に基づいてMGMT非メチル化症例やIDH1野生型の予後不良例では、TMZに反応を示さない場合が多く、今後免疫療法や免疫チェックポイント阻害剤の応用が取り入れられるであろう。これらの治療には、腫瘍ペプチドワクチン療法WT1やさらに百日咳菌体をアジュバントしたWT1-W10、抗PD-1 (Programmed cell deah-1) 抗体療法などT細胞の免疫応答にかけられたブレーキを解除することでT細胞の活性化状態を維持し、がん細胞を細胞死に追いやる試みである。 同じくT細胞の表面に発現する抑制性因子CTLA (Cytotoxic T-lymphocyte-associated antigen 4 ) に対する抗体の併用も期待されている。 2 診断 (検査・鑑別診断も含む) ■ 検査 造影MRI、 脳血管撮影、 MRS、 PET(methionine、FDG)などの検査と合わせ、総合的に判断する。 ■ 鑑別診断 造影MRIや造影CTでは、不規則なリング状の造影効果を示す。GBM、転移性脳腫瘍、脳膿瘍との鑑別が必要である。GBMでは、造影部分は壊死を取り囲む血管新生を反映するので、より不規則なリング状になる。それに比べ脳膿瘍のリングは、円形でよりスムースである。転移性脳腫瘍は、GBMと脳膿瘍の中間を取るので目安になるが、さらに拡散強調MRIやMRスペクトルスコピーなど多種類の検査で、総合的に判断することが重要である。 術中迅速診断では、壊死を取り囲む偽柵状配列が明らかでないとHGG(high grade glioma)と診断されるので、確定診断は永久標本によることになる。摘出腔内にカルムスチン(脳内留置用徐放性製剤: BCNUウェハー[商品名: ギリアデル])の使用を予定するときは、時に悪性リンパ腫との鑑別が問題となる。 悪性リンパ腫では、血管中心性の腫瘍細胞の集簇に注目して診断するが、LCA、GFAP、MIB-1など免疫組織学的検査では、迅速標本の作成が必要となる症例もある。 転移性脳腫瘍との組織上の鑑別は容易であるが、きわめてまれにadenoid glioblastomaの症例で腺腔形成や扁平上皮性分化を示すので、注意が必要である。 3 治療 (治験中・研究中のものも含む) ■ 基本治療 腫瘍容量の減圧と確定診断を目的に、まず外科治療を行う。近年、ナビゲーションと術中MRIを用いた画像誘導による外科手術が、一般的となってきている。グリオーマの外科手術の目標は、機能を損なうことなく最大限の摘出をすることにある。 MRI Gd(Gadolinium)-DTPAにて造影された腫瘍塊が、全部摘出された症例の予後では期待でき、腫瘍摘出度が高いほど予後の改善に結び付くと、複数の報告がなされている。 次いで確定診断後には、TMZ併用の化学放射線療法が標準治療である。放射線療法は、拡大局所にtotal 60Gy(2Gy×30 fractions)を週5回、6週間かけて行うのが標準である。 最近は、周囲脳の保護を目的に強度変調放射線治療(Intensity Modulated Radiation Therapy: IMRT)を行うことが多い。 初期治療終了後には、TMZの内服を月5日間行う。再発時にはインターフェロンβの併用や、血管内皮増殖因子に対するベバシズマブの併用などが行われている。 ■ その他の治療 手術前日にタラポルフィンナトリウム(商品名: レザフィリン)を投与し、病巣部位に集積させ、手術により最大限の摘出後にレーザー光を照射する摘出断端の浸潤部位に対する光線力学的療法やカルムスチンの摘出腔留置などがある。 4 今後の展望 陽子線、炭素線やホウ素中性子補足療法などの、新しい線源を用いた悪性脳腫瘍への応用やウイルス療法、脳内標的部位への薬剤分布を高める技術として開発されたconvection-enhanced delivery(CED)、免疫療法などがある。 免疫療法には、がん免疫に抑制性に働くものに対する解除を目的とする、T細胞活性化抑制抗原に対する抗PD-1抗体による治療やがん遺伝子WT1(Wilms tumor 1)を抗原標的として、自己のTリンパ球にがん細胞を攻撃させるWT1ペプチドワクチン療法がある。後者は、脳腫瘍の最新治療法として安全性や有効性が確立されつつあり、ランダム化比較試験の結果が期待される。 5 主たる診療科 脳神経外科 ※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。 6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など) 診療、研究に関する情報 国立がん研究センター がん対策情報センター がん情報サービス (一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報) 一般社団法人 日本脳神経外科学会、日本脳神経外科コングレス 脳神経外科疾患情報ページ (一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報) 1)石田陽一. 北関東医. 1990;40:355-361.2)Cayre M, et al. Prog Neurobiol. 2009;88:41-63.3)Eriksson PS,et al. Nat Med. 1998;4:1313-1317.4)Sanai N, et al. Nature. 2004;427:740-744.5)Louis DN, et al. WHO Classification of Tumours of the Central Nervous System. Revised 4th Edition.Lyon;IARC Press:2016.pp52-56.6)Louis DN, et al. Acta Neuropathol. 2016;131:803-820.7)Yamaguchi N. Clin Neurosci. 2013;31:1145-1146.公開履歴初回2015年02月27日更新2017年03月21日

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突然やってくる!? 外国人患者さん対応エピソード集 第2回

第2回 外国人患者の本人確認は保険証では不十分?提出を拒まれたら?<Case2>ある日、肌の色や体形、服装などから、インド系の方と見受けられる患者さんが都内の医療機関へ来院。患者さんは流暢な日本語を話し、コミュニケーションに困ることはありませんでした。ところが、院内の外国人患者受付ルールに従い在留カード※の提示を求めたところ、「私は日本人です。在留カードは持っていません」の一点張りで、受付ができず…。※在留カード:適法な在留資格を有し、在留期間が3ヵ月を超える中長期滞在者に対して交付される証明書(入国管理局)対談相手NTT東日本関東病院 医療連携室 外国人向け医療コーディネーター 海老原 功氏澤田:今回は、院内で最初に患者さんの対応をする受付でのエピソードです。海老原さんの病院にも、さまざまな国籍の患者さんが来院されますよね? 受付での本人確認ルールは、どのように整備されていますか?海老原:当院では、受付における本人確認の方法を段階的に定めています。まず提示をお願いするのは、在留カード※です。外国人旅行者など、在留カードをお持ちでない場合は、写真付きの身分証明書であるパスポートの提示をお願いします。それ以外のケースとしては、外交・公用を目的とした在住と駐留米軍の在住がありますが、それぞれお持ちの公的な身分証明書(IDカード)がありますので、その提示をお願いしています。澤田:今回のケースでも、在留カードがないということで、写真付きの身分証明書の提示を何とかお願いしたそうです。その結果、最終的に患者さんのバッグから出てきたのは見慣れた赤いパスポート…なんと帰化された正真正銘の日本人の患者さんだった、ということです。見かけだけで判断せず、患者さんの話を丁寧に聞く必要もありますね。ところで、日本在住の外国人の方でしたら保険証を持っていることもありますよね。保険証を確認するだけでは、本人確認にはならないのでしょうか。海老原:はい。保険証のみでは本人確認には不十分と考えます。澤田:受付でそこまで厳密に本人確認をすることが重要である理由は何でしょうか。海老原:本人確認の一番の目的は医療事故を防ぐことです。とくに最近は、他人の保険証を利用する“なりすまし”のケースも出てきているため、万が一、当院に来院歴がある患者さんの保険証が使い回された場合、なりすまし患者と、病院に登録されている保険証の持ち主の血液型やアレルギーなどに関する情報に相違がありますので、それにより問題が発生するリスクがあります。また、患者さんの名前や住所が一致していないと、帰宅後に何か問題が発覚した際、迅速に対処することができません。澤田:なるほど。本人確認書類を提示してもらった後の流れは、どのようになりますか。海老原:患者さんから許可をいただいたうえでコピーを取り、在留カードの場合は入国管理局のシステムを利用して照会し、有効であるかを確認します。それにより、不法滞在であることが発覚する場合もありますね。澤田:不法滞在者の場合は、どのような対処をされているのでしょうか?海老原:患者さんの状態をみて、緊急性が高いと判断した場合は、医療優先で対応をします。緊急性がない場合には、有効な身分証明書がない限り当院では診察出来ないことを伝え、しかるべき手続きをしたうえで、再来院するようお願いしています。 澤田:本人確認の方法も、患者さんの状況や状態に合わせて行われるのですね。海老原:はい。患者さんが適切な医療を受けられるようにすることが目的ですので、患者さんに寄り添えるだけ寄り添うようにしています。しかし最終的には、医療機関として譲らないラインを設定しておくことが、患者さんの安全のために重要だと思います。澤田:患者さん自身には想定できないリスクも多いですので、おっしゃるとおりですね。ありがとうございました。<本事例からの学び>受付では本人確認ルールの徹底を! 患者さんの安全のためには譲らない姿勢で

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大腿骨頚部骨折の再手術率は固定法で異なるか? /Lancet

 大腿骨頚部骨折の手術後に再手術となることが多いが、これは骨折部の固定法に関連しているのか。カナダ・マックマスター大学のMohit Bhandari氏らFAITH研究チームが、国際多施設共同無作為化試験にて、再手術のリスクとしてsliding hip screw法 vs.cancellous screws法の比較検討と、その他キーとなるアウトカムについて調べた。その結果、固定法の違いに有意差はなかったが、喫煙・転位または基部骨折の患者群ではsliding hip screw法を用いるほうがよい可能性が示されたという。Lancet誌オンライン版2017年3月2日号掲載の報告。初回手術後24ヵ月以内の再手術を評価 試験は8ヵ国81の医療センターから、50歳以上の加齢性の大腿骨頚部骨折で骨折固定法の施術を必要とした患者を集めて行われた。 被験者は、コンピュータによる最小化無作為法にて、sliding hip screw法(サイドプレート付きの1本の長尺スクリューを用いて固定)を受ける群と、現行標準法とされるcancellous screws法(複数の短尺の海綿骨ねじを用いて固定)を受ける群に割り付けられた。手術担当医と患者は盲検化を受けなかったが、データ解析者は、治療割り付けを知らされなかった。 主要アウトカムは、初回手術後24ヵ月以内の再手術(骨折治癒促進のため)、疼痛減、感染症の治療、機能改善とし、intention-to-treat法にて解析した。主要解析では有意差なし 2008年3月3日~2014年3月31日の間に、1,108例が無作為化を受けた(sliding hip screw群557例、cancellous screws群551例)。被験者は70~80歳代の女性が多く、骨折は転倒によるもの、孤立性、非転位性の患者が大半を占めた。 24ヵ月以内の再手術は、主要解析においては両群に差は認められなかった。sliding hip screw群は107/542例(20%)、cancellous screws群は117/537例(22%)であった(ハザード比[HR]:0.83、95%CI:0.63~1.09、p=0.18)。 大腿骨頭壊死症(AVN)は、sliding hip screw群がcancellous screws群よりも発生頻度が高かった(50例[9%] vs.28例[5%]、HR:1.91、1.06~3.44、p=0.0319)。しかしながら、医学的な有害事象の発生件数は、両群で有意差はみられなかった(p=0.82)。たとえば、肺塞栓症(2例[<1%] vs.4例[1%]、p=0.41)、敗血症(7例[1%] vs.6例[1%]、p=0.79)などで有意差がなかったことが報告されている。 また、サブグループ解析で、現在喫煙者(HR:0.39、p=0.02)、転位骨折群(0.57、p=0.04)、基部骨折群(0.24、p=0.04)でsliding hip screw群の優位性が示された。

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日本人乳がん患者の特徴と予後 最新の知見を紹介!

 乳がんは日本人女性にとって最も典型的ながんの1つである。ほかの典型的ながんとは異なり、高齢より中年女性での発症頻度が高い点が特徴といえる。このように、乳がん患者の臨床的な特徴を知ることは、個別化医療を行っていくうえで重要である。そこで、The BioBank Japan(以下、BBJ)Projectと呼ばれる日本人乳がん患者を対象とした研究概要を紹介する。北海道大学大学院 中村 幸志氏らによる調査。Journal of Epidemiology誌3月号(オンライン版2017年2月20日号)掲載の報告。 BBJとは、がんや心臓病といった一般的な病気を個別化治療を行うために、大規模なバイオバンクに基づいて計画されたプロジェクトである。本調査は、20歳以上の乳がん患者で、BBJに2003年~08年に登録されたうち、診断から90日以内の2,034人を対象に行われた。主な調査項目は患者の臨床的な特徴などであった。さらに、この臨床的な特徴が死亡率に与える影響も検討された。この研究によって、いくつかの臨床的兆候と乳がんにおける死亡率の相関が明らかになった。 主な結果は以下のとおり。・対象患者において、ステージ分類の割合はそれぞれ以下のとおりであった。ステージ0または未分類、ステージI、ステージII、ステージIII、ステージIV:11.4%、47.9%、37.0%、2.9%、0.8%・組織型分類の割合はそれぞれ以下のとおりであった。非浸潤がん、浸潤がん、ページェット病タイプ、その他:12.9%、81.0%、0.2%、5.8%・エストロゲン受容体が陽性の患者は75.8%、プロゲステロン受容体が陽性の患者は62.1%であった。・1,860人(登録患者2,034人より脱落した174人を排除)のうち、218人はフォローアップ期間に亡くなった。

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