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日本人統合失調症患者に対する個別作業療法の多施設ランダム化比較試験

 個別作業療法(IOT:individualized occupational therapy)プログラムは、急性期統合失調症入院患者の積極的な治療参加を促進し、認知機能やその他のアウトカムを改善するために開発された心理社会的プログラムである。このプログラムは、動機付け面接、自己モニタリング、個別訪問、手工芸活動、個別心理教育、退院計画で構成されている。信州大学のTakeshi Shimada氏らは、日本の精神科病院に最近入院した統合失調症患者のアウトカムに対する、集団作業療法(GOT:group occupational therapy)プログラムにIOTを追加した際の効果について、多施設オープンラベル盲検エンドポイントランダム化比較試験を実施し、検討を行った。PLOS ONE誌2018年4月5日号の報告。 統合失調症患者は、GOT+IOT群またはGOT単独群にランダムに割り付けられた。ランダム化された136例中129例がintent-to-treat(ITT)集団に含まれた。その内訳は、GOT+IOT群66例、GOT単独群63例であった。アウトカムは、ベースライン時および退院時または入院3ヵ月後に評価した。評価項目は、統合失調症認知機能簡易評価尺度日本語版(BACS-J)、統合失調症認知評価尺度日本語版(SCoRS-J)、社会的機能尺度日本語版、機能の全体的評定尺度(GAF)、内発的動機付け尺度日本語版(IMI-J)、服薬アドヒアランス尺度(MMAS-8)、陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)、患者満足度アンケート-8日本語版(CSQ-8J)とした。 主な結果は以下のとおり。・線形混合効果モデルによると、GOT単独群と比較し、GOT+IOT群で有意な効果が認められた項目は、以下であった。 ●言語記憶(BACS-J)p<0.01 ●作業記憶(BACS-J)p=0.02 ●言語流暢性(BACS-J)p<0.01 ●注意(BACS-J)p<0.01 ●複合スコア(BACS-J)p<0.01 ●興味/楽しみ(IMI-J)p<0.01 ●価値/有用性(IMI-J)p<0.01 ●知覚選択(IMI-J)p<0.01 ●IMI-J総スコア p<0.01 ●MMAS-8スコア p<0.01・GOT+IOT群は、GOT単独群と比較し、CSQ-8Jの有意な改善が認められた(p<0.01)。 著者らは「今回の結果より、IOTプログラムは、統合失調症患者の認知機能およびその他のアウトカムを改善するために有用であり、実施可能である」としている。■関連記事統合失調症への集団精神療法、効果はどの程度か統合失調症への支持療法と標準的ケア、その差は統合失調症患者のワーキングメモリ改善のために

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POEMS(クロウ-深瀬)症候群

1 疾患概要■ 概念・定義POEMS症候群の名称は、polyneuropathy、organomegaly、endocrinopathy、M-protein、skin changeの頭文字に由来する。「クロウ-深瀬症候群」、「高月病」とも呼ばれる。名称のとおり、多発ニューロパチーを中核症状とし、肝脾腫などの臓器腫大、内分泌異常、皮膚変化(色素沈着、剛毛、血管腫など)という多彩な症状を呈し、M蛋白を伴う全身性の疾患である。症状は多彩であるが、その病態基盤は形質細胞異常(plasma cell dyscrasia)とサイトカインである血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)の上昇であると考えられている。多発ニューロパチーが中核症状となることが多い一方で、plasma cell dyscrasia由来の疾患でもあり、神経内科または血液内科で診療することが多い。2015年1月に、新規に指定難病の1つとなった。■ 疫学わが国で行われた2003年の全国調査に基づく推定有病率は、10万人当たり0.3人であり、いわゆる希少疾病である。しかし、その多彩な症状ゆえに、診断が困難な例も少なくなく、実際の有病率はもう少し高い可能性がある。平均発症年齢は50代であるが、30代の発症もまれではない。男性に多い。■ 病因上述のごとく、POEMS症候群の病態の中心はplasma cell dyscrasiaとVEGFの上昇であると推定されている。VEGFは血管新生作用以外に強い血管透過性亢進作用を持ち、本症候群で特徴的に認められる浮腫、胸腹水などの所見とよく合致する。しかし、plasma cell dyscrasiaとVEGF上昇がどのように関連するかについては、現時点では不明である。また、多発ニューロパチー、内分泌異常、皮膚異常などの症状が生じるメカニズムについても明確になっていない。VEGF上昇とともに、TNFα、IL6、IL-12を含む複数の炎症性サイトカインの上昇も確認されており、複雑な病態に関与している可能性が高い。■ 症状POEMS症候群で認められる臨床症状として頻度が高いのは、多発ニューロパチー、浮腫、皮膚変化、リンパ節腫脹、女性化乳房である。典型的な多発ニューロパチーは、下肢優位の四肢遠位のしびれと筋力低下を呈する。重症度は症例により異なり、アキレス腱反射の低下のみの症例から重度の四肢麻痺の症例まで存在する。また、数ヵ月の経過で、歩行に介助が必要になるまで進行する例が多い。通常、浮腫は下腿以遠に目立つ。進行例では、明確な圧痕を残すほど顕著となり、腹部、上肢、顔面にも浮腫が出現する。皮膚変化は、色素沈着、剛毛の頻度が高い。色素沈着は独特のやや赤味を帯びた褐色を呈する(図)。剛毛は前腕や下腿に目立つ。画像を拡大する■ 予後POEMS症候群の機能・生命予後は、適切な治療が行われない場合、不良である。機能予後は、多発ニューロパチーの重症度に依存する。無治療では過半数の症例が、発症1年以内に杖歩行となる。また、1980年代は適切な治療が行われなかったため、平均生存期間は33ヵ月と報告されている。近年、疾患の認知度向上による診断技術の向上、ならびに骨髄腫治療の本症候群への応用による治療の進歩で、予後は大幅に改善しつつある。しかし、急速な悪化を認めうる疾患であり、また多臓器障害が生じることも少なくないので、治療方針検討や経過観察には、慎重を期す必要がある。低アルブミン血症、初回治療への反応性不良、高齢(50歳以上)、肺高血圧、胸水、腎機能障害などが、予後不良因子として挙げられている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)POEMS症候群の診断は診断基準に基づいて行われる。しかし、類似の診断基準が複数あり、いずれも感度・特異度について検討されていないのが、現在の問題点である。国際的に最も代表的な基準は、2012年のCochrane database systematic reviewで採用されているものである。しかし、わが国では、下表の診断基準が指定難病の認定に使用されている。本診断基準の特徴は、単クローン性形質細胞増殖が検出できない例であっても、積極的に診断できる点において優れている。そのため、日常診療で運用する上では、下表の診断基準を用いる方が、診断感度も高く、利便性にも優れる。表 POEMS症候群の診断基準●大基準多発ニューロパチー血清VEGF上昇(1,000 pg/mL以上)M蛋白(血清または尿中M蛋白陽性 [免疫固定法により確認] )●小基準骨硬化性病変、キャッスルマン病、臓器腫大、浮腫、胸水、腹水、心嚢水、内分泌異常*(副腎、甲状腺、下垂体、性腺、副甲状腺、膵臓機能)、皮膚異常(色素沈着、剛毛、血管腫、チアノーゼ、爪床蒼白)、乳頭浮腫、血小板増多(1)Definite:大基準3つ+小基準 少なくとも1つ(2)Probable:大基準2つ+小基準 少なくとも1つ*糖尿病と甲状腺機能異常は有病率が高いため、これのみでは本基準を満たさない。引用: Misawa S, et al. Clin Exp Neuroimmunol. 2013;4:318-325.以下に、検査、診断に際しての注意点を列記する。1)多発ニューロパチー明確な自覚症状を認めない場合もあり、神経伝導検査によるニューロパチーの有無の検索と性状の確認は必須である。原則は、本症候群のニューロパチーの性状は脱髄と二次的軸索変性である。非常に軽症例では、ごくわずかの異常しか認められない場合もある。2)単クローン性の形質細胞増殖血液・尿のM蛋白のスクリーニングにより、大部分の症例では検出可能である。しかし、POEMS症候群ではM蛋白の量は非常に微量のため、免疫固定法による確認が必須である。M蛋白のサブクラスの多くはIgGまたはIgAのλ型である。3)VEGF外注検査会社で測定可能である。VEGF値の測定は、診断確定、治療効果判定に非常に有用であるが、現時点では保険適用にないことが大きな問題点である。血清・血漿のいずれで測定すべきかの結論は出ていない。しかし、指定難病の認定は血清で行われている。外注検査会社に「血清で測定」の指示にて依頼する。4)骨病変硬化性変化が一般的である。しかし、溶骨性変化や混合性変化を認めることもある。胸腹水の検索目的で施行した胸腹骨盤部のCT検査の骨条件で胸骨、椎体、骨盤などの硬化性病変をスクリーニングすることが可能である。さらに精査を進める際には、PET検査が有用である。5)内分泌障害性腺機能異常、甲状腺機能異常、耐糖能異常、副腎機能異常などの頻度が高い。スクリーニング検査として、LH・FSH・E2(エストラジオール)・テストステロン・TSH・FT3・FT4・血糖・インスリン・ACTH・コルチゾールなどの検査を行う。鑑別診断として問題となりやすいのは、慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(chronic inflammatory demyelinating polyradiculoneuropathy:CIDP)、ALアミロイドーシスである。POEMS症候群の進行例では、浮腫・皮膚障害をはじめ、多彩な典型的症状を伴うため、鑑別が問題となることは少ない。しかし、発症初期で臨床症状や検査所見が揃わない場合には、ニューロパチーの臨床および神経伝導検査所見を詳細に比較することにより、鑑別が可能となる。CIDPの典型例の臨床症状は、左右対称性のしびれと近位筋を含む筋力低下であり、四肢遠位優位のしびれと筋力低下を呈するPOEMS症候群とは臨床症状が異なる。しかし、CIDP、POEMS症候群とも、神経伝導検査は脱髄所見を示すこと、CIDPのほうが有病率・認知度ともに高いことが影響し、POEMS症候群がCIDPと初期診断される確率は高い。典型的CIDPの多くの症例では、ステロイド、免疫グロブリン、血漿交換などの治療に反応する。したがって、治療抵抗例では診断の再考が必要な場合がある。ALアミロイドーシスは、POEMS症候群と同様、四肢遠位優位のしびれと筋力低下を呈する。しかし、神経伝導検査では軸索変性所見を呈するため、POEMS症候群とは異なる。その他、大量の胸水や腹水単独で発症する例もあり、原因が特定できない場合には、本症候群を鑑別疾患の1つとして挙げることも考慮する。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)POEMS症候群の症状は多彩であるが、治療のターゲットはplasma cell dyscrasiaである。そのため、近年は骨髄腫の治療法が本症候群に応用されている。治療方針の原則は、若年者では自家移植、高齢者では免疫調整薬が第1選択とされてきた。移植適応年齢の上限は、65歳から70歳へと、近年引き上げられつつある。自家移植に伴う関連死や再発のリスクが明確になりつつあることを考慮すると、若年軽症例、とくに30代の患者では、リスクとベネフィットおよび長期にわたる疾患コントロールの観点から、移植が第1選択とは必ずしもいい切れなくなってきている。そのような症例では、免疫調整薬が第1選択となる可能性がある。以下に、現在有効であると考えられている治療法について概説する。しかし、いずれも保険適用がないのが、問題点となっている。■ 自己末梢血幹細胞を伴う高用量化学療法通常、骨髄腫とほぼ同様の方法で行われている。自己末梢血幹細胞採取は、顆粒球コロニー刺激因子単独またはシクロホスファミド(商品名:エンドキサン)併用で行われる。続いて、高用量のメルファラン(同:アルケラン)による前処置後に幹細胞移植が行われる。最近では、移植前にサリドマイド(同:サレド)、レナリドミド(同:レブラミド)やボルテゾミブ(同:ベルケイド)などの前治療を行い、病勢をコントロールしてから、自家移植へ進むこともある。移植後、VEGF値は約1~3ヵ月で速やかに低下し、引き続き臨床症状全般の改善が生じる。移植後の再発に関する報告も増えつつあり、無増悪生存率は1年で98%、5年で75%とされる。再発後の治療の選択肢としては再移植、サリドマイドなどの免疫調整薬などが選択されることが多い。■ 免疫調整薬現時点における免疫調整薬の選択肢は、サリドマイド、レナリドミドである。サリドマイド、レナリドミドとも、やはり骨髄腫と同様の用法・用量で使用されており、デキサメタゾン(同:レナデックス、デカドロンなど)が通常併用される。ポマリドミド(同:ポマリスト)は、レナリドミドの次に開発された免疫調整薬であるが、本症候群への使用の報告はまだない。サリドマイドは、本症候群における有効性が、プラセボ対照二重盲検ランダム化群間比較試験で、唯一示されている薬剤である。前記試験は、わが国において医師主導治験として実施されており、適用取得に向けて準備中である。レナリドミドについても、単群オープン試験が報告されており、やはり有効性が示されている。副作用として、サリドマイドでは徐脈、末梢神経障害などに、レナリドミドでは骨髄抑制に、とくに注意が必要である。若年軽症例では、現時点では自家移植ではなく免疫調整薬を選択しても、将来的には自家移植の適応となる可能性がある。その際には、レナリドミドの長期使用により、幹細胞採取が困難となる可能性があるため、長期的な展望の下に、薬剤の選択と治療期間の検討を行う必要がある。■ プロテアソーム阻害薬骨髄腫治療薬として主要な位置付けとなっているプロテアソーム阻害薬も、POEMS症候群に有効な可能性がある。本症候群においては、ボルテゾミブの有効性についての症例報告が集積されつつある。臨床試験の報告はない。カルフィルゾミブ(同:カイプロリス)については、1例の報告のみで、神経症状の安定化が認められたとされる。イキサゾミブ(同:ニンラーロ)については、現在、米国で臨床試験が進行中である。用法・用量は、骨髄腫と同様に使用されることが多い。しかし、プロテアソーム阻害薬の注意すべき副作用として、末梢神経障害がある。そのため、投与中は末梢神経障害の発現に注意しつつ、投与間隔の延長や治療の中断を考慮する。ボルテゾミブに関しての報告が最も多く、効果の発現が免疫調整薬と比較し、速やかな可能性がある。亜急性進行を示す例において、選択肢の1つとなる可能性がある。4 今後の展望現在、骨髄腫治療薬は、早いスピードで開発が進んでいる。これまでの免疫調整薬・プロテアソーム阻害薬の本症候群における有効性を鑑みると、新規薬もおそらく有効である可能性が高い。そのため、本症候群に応用できる選択肢が、今後も引き続き増加することが予測される。現時点では、本症候群における新規治療の試みは、希少かつ重篤な疾患であるがゆえに、1~数例の報告が主体である。しかし、サリドマイドの本症候群への適応拡大のために行われたランダム化群間比較試験のように、今後は適切な臨床試験を可能な限り行い、エビデンスを積み重ね、治療戦略を構築する試みを継続すべきである。治療の進歩に伴い、本症候群の認知度は確実に向上しており、早期診断・治療の加速により、予後は明らかに改善しつつある。また、稀少疾病の新規治療開発を加速させる手段の1つとして、本症候群の症例登録システムも構築されている。全国に散在している症例の情報を集積し、新規治療の有効性や予後について明らかにすることが目的である。さらに、未来の新規治療薬の臨床試験においては、適応となりうる患者に迅速に情報を届けることも、もう1つの主要な目的である。一方で、診断・病勢のマーカーとなるVEGF測定や有効とされる新規治療が、いまだ1つも保険適用とされていないことが、すべての患者さんが、いずれの医療機関でも標準的な診療を受けることへの大きな障壁となっている。このような問題点に関しても、今後の解決が期待される。5 主たる診療科神経内科または血液内科 ※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター クロウ・深瀬症候群(一般利用者と医療者向けのまとまった情報)千葉大学大学院医学研究院 神経内科学 J-POST trial(医療者向けのまとまった情報)千葉大学大学院医学研究院 神経内科学 患者登録システム(一般利用者と医療者向けの症例登録の窓口)患者会情報POEMS症候群 サポートグループ(本症の患者および家族の会)1)Kuwabara S, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2012;6:CD006828.2)Misawa S, et al. Clin Exp Neuroimmunol. 2013;4:318-325.3)Dispenzieri A. Am J Hematol. 2014;89:214-223.4)Misawa S, et al. Lancet Neurol. 2016;15:1129-1137.5)Jaccard A. Hematol Oncol Clin North Am. 2018;32:141-151.6)Nozza A, et al. Br J Haematol. 2017;179:748-755.7)Mitsutake A, et al. J Stroke Cerebrovasc Dis. 2018.[Epub ahead of print]公開履歴初回2015年07月28日更新2018年04月24日

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【GET!ザ・トレンド】小さじ10分の1の血液で、アルツハイマー病前臨床段階でのアミロイドβを検出(1)

「物質をレーザー照射によりイオン化(電荷を付加)する」技術(MALDI)と「真空中での飛行時間が質量によって異なる性質を利用し、物質を特定する」技術(TOF)を組み合わせた「MALDI-TOF*」。この質量分析法が、0.5mLの血液を用いるだけで、アルツハイマー病の前臨床段階から、脳内に蓄積するアミロイドの状態を推定することを可能にした。研究はNature誌で2018年2月に発表され、大きな話題となった。質量分析の研究(ソフトレーザー脱離イオン化法)で、2002年のノーベル化学賞を受賞した、島津製作所シニアフェロー(田中耕一記念質量分析研究所 所長)田中 耕一氏に、この発表内容について聞いた。*MALDI-TOF:matrix-assisted laser desorption ionization time-of-flight今回確立したアミロイドβの検出方法の概要をご紹介ください。一言でいうと、質量分析という高感度な方法を用いて、微量の血液0.5mLで、アルツハイマー病の原因といわれているアミロイド関連ペプチドを検出する方法です。0.5mLというと、だいたい小さじ10分の1に当たります。画像を拡大する抗体ビーズ法でAβ関連ペプチドを取り出す脳内で作られたアミロイドβ(Aβ)関連ペプチドが、血液中に漏出していることは以前から報告されていました。しかし、血液中には非常に多種多量のタンパク質やペプチドがあり、その中から極めて微量しかないAβ関連ペプチドの検出は、かなり難しい。草原の中から珍しい種子を探すようなものです。Aβ関連ペプチドの検出には、従来抗体を用いた質量分析(免疫沈降質量分析:IP-MS)が使われていましたが、精度は不十分でした。そのような中、当研究室の金子 直樹(島津製作所 田中耕一記念質量分析研究所 アプリケーショングループ 主任)が、Aβ関連ペプチドと結合する抗体を数多く付けた酸化鉄のビーズを用いた前処理方法(抗体ビーズ法)を大幅に改良し、Aβ関連ペプチドのみを血液から取り出すことに成功しました。その抗体ビーズからAβ関連ペプチドを分離して、マトリックス(イオン化補助剤)を添加し、レーザー照射でイオン化して、真空中の飛行時間からペプチドの質量を測定するのです。その結果、従来は存在すらわかっていなかったものも含め、22種類のAβ関連ペプチドが検出されました。ビーズ抗体に付着したAβ関連ペプチドを引き寄せ、取り出す原理(解説:田中 耕一氏)そこで検出されたAβ関連ペプチドから新たなバイオマーカーが発見されたわけですね?Aβ関連ペプチドとして、すでにAβ1-40とAβ1-42が知られていました。当初はAβ1-42の絶対量がバイオマーカーとして有用だと思っていたのですが、それより良い結果を示すものがありそうだと、この研究で新たに発見されたAβ関連ペプチドAPP* 699-711に着目したのです。Aβ1-42はアミロイド生成の原料となるため、血液への漏出が減少します。一方、Aβ1-40、APP 699-711は、血液への漏出はほぼ一定の割合です。この性質を利用し、APP 699-711/Aβ1-42のペプチド比からアミロイド蓄積の有無を高い精度で判別することができました。研究成果は2014年に発表しています。画像を拡大するその後、予備研究を行い、APP 699-711/Aβ1-42にAβ1-40/Aβ1-42を組み合わせた2つのペプチド比による複合バイオマーカーで、さらなる精度を証明したのが今回の発表です。有用性は、日本とオーストラリアの計373例のサンプルにおけるAβ蓄積について、PET画像判定と血漿の質量分析の結果を、ブラインドで検証しました。PET画像による脳内Aβ蓄積陽性・陰性例に対するROC解析のAUCが0.967、PET画像との正診率が約9割という良好な結果を示しました。従来はPETや脳脊髄液検査という負担の大きい検査が必要でしたが、質量分析によって、0.5mLの血液を用い、脳内Aβの蓄積量を前臨床段階から推定できました。*APP(Amyloid Precursor Protein):アミロイド前駆タンパク質今回の検出方法の確立までに苦心されたことは?抗体ビーズ法でAβ関連ペプチドの取り出しに成功し、血液バイオマーカーの共同研究を行った金子 直樹氏まず1つは、今までお話しした、バイオマーカー候補の発見までです。次は、臨床情報が付帯している検体を持っている方と組むことでした。弊社の金子が前処理方法を開発し、道具はそろっていたものの、判定に使えるかどうかかわからないという状態でした。医学界とのコミュニケーションが十分ではなかったので、適切なパートナーを探せなかったのです。そんな時、国立長寿医療研究センターの柳澤 勝彦先生とお会いできました。柳澤先生とは進む方向が一緒だったので研究もうまくいき、2014年の発表につながったと思います。さらに、海外とも一緒に研究しようという話になり、Nature誌で発表した今回の研究に広がっていきました。本研究のアルツハイマー病治療への活用についてお聞かせください。画像を拡大する現時点ではあくまで可能性の段階ですが、応用としては、3つ考えられます。1つ目はアルツハイマー病の根本治療薬の開発です。現在、アルツハイマー病を前臨床期から見分けられるのはアミロイドPETあるいは脳脊髄液検査だけです。コストも高く受診者への侵襲度も高くなります。私達の方法であれば、低コストかつ低侵襲で超早期のアミロイド蓄積度合いが推定可能です。現在の治療は、認知障害や諸症状が現れてから介入される場合がほとんどであり、アミロイドが完全に蓄積する前の状態がわかれば、根本治療薬開発が容易になります。2つ目は認知症の鑑別への応用です。たとえば、脳内のアミロイド蓄積を血液で推定することで、アルツハイマー病とその他の認知症を見分けることが容易になると聞いています。3つ目は超早期診断への応用です。アミロイドがたくさん蓄積する前の状態が見つけられれば、将来、治療や予防法の開発が伴うことで、早期治療や発症予防に活用できると思います。今後、医療分野において挑戦したい研究、疾患領域は?質量分析は、特定かつ微量な物質だけの検出もできます。それは、様々な病気の早期の状態を見る準備ができた、ということです。フェニルケトン尿症を含む新生児マススクリーニング検査や、微生物の同定など、臨床現場でもすでに活用されています。解決すべき課題はいくつもありますが、今後は、心臓を含む内臓疾患や様々ながんなどについても、少量の血液で早期に診断できるようになるかもしれません。この研究成果をサービスとして提供する予定はありますか?治療方法が十分ない現段階で検査として用いると、アルツハイマー病の危険性だけを発症する約20年も先んじて示唆することになってしまいます。治療薬や予防的介入が確立するまでは、一般に幅広く行う検査としては用いないほうが良いと思います。研究成果は当面、大学や製薬会社などからの受託分析で、創薬やアルツハイマー病のメカニズムの解明などの基礎研究に提供することとしています。実際、日米欧の様々な公的機関や企業から問い合わせをいただいています。

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アテゾリズマブ併用療法、進行肺がん1次治療でPD-L1発現、遺伝子ステータスに関わらずPFSの改善示す(IMpower-150)/AACR2018

 米国がん研究会議年次集会(AACR2018)で、アテゾリズマブの第III相臨床試験IMpower-150の主要なサブグループの解析結果が発表され、非扁平上皮非小細胞肺がん(NCSLC)の1次治療において、アテゾリズマブの化学療法への追加によって、PD-L1発現、EGFR、ALKステータスに関わらないPFSの改善が示された。 IMpower-150試験はオープンラベル無作為化多施設共同試験・対象:転移を有する非扁平上皮NSCLC 1次治療患者(EGFR変異・ALK再構成陽性=EGFR+/ALK+含む)・試験群 A群:アテゾリズマブ+カルボプラチン+パクリタキセル(Atezo+CP)→アテゾリズマブ B群:アテゾリズマブ+カルボプラチン+パクリタキセル+ベバシズマブ(Atezo+CP+Bev)→アテゾリズマブ+ベバシズマブ・C群(コントロール):カルボプラチン+パクリタキセル+ベバシズマブ(CP+Bev)→ベバシズマブ・評価項目:複合主要評価項目は治験担当医によるPFSおよびOS(ともにEGFR/ALK野生型のITT解析対象患者)、副次評価項目は治験担当医評価によるPFS(全ITT解析対象患者)、独立評価機関(IRF)評価によるPFS、その他ORR、DOR、安全性であった。 ESMO Immuno Oncology 2017おいて、EGFR/ALK野生型のITT解析対象(692例)でのPFSデータが報告され、Atezo+CP+Bev群の8.3ヵ月に対しCP+Bev群6.8ヵ月(HR:0.62、p<0.0001)という結果であった。今回はAtezo+CP+Bev群対CP+Bev群における、PD-L1発現、エフェクターT細胞の関連遺伝子(Teff)発現、EGFR変異・ALK再構成、肝転移の有無といった主要なサブ解析の結果が発表された。 主な結果は以下のとおり。・PD-L1高発現患者(TC3またはIC3)のPFSは、Atezo+CP+Bev群12.6ヵ月、CP+Bev群6.8ヵ月(HR:0.39)、低発現患者(TC1/2またはIC1/2)のPFSは、それぞれ8.3ヵ月と6.6ヵ月(HR:0.56)、発現なしのPFSは、それぞれ7.1ヵ月と6.9ヵ月(HR:0.77)であった・Teff高発現患者のPFSは、Atezo+CP+Bev群11.3ヵ月、CP+Bev群6.8ヵ月(HR:0.51)、低発現患者のPFSは、それぞれ7.3ヵ月と7.0ヵ月(HR:0.76)であった・EGFR+/ALK+患者を含むITT解析対象全体(800例)のPFSは、Atezo+CP+Bev群8.3ヵ月、CP+Bev群6.8ヵ月(HR:0.61)であった・EGFR+/ALK+患者のみ(108例)のPFSは、Atezo+CP+Bev群9.7ヵ月、CP+Bev群6.1ヵ月(HR:0.59)であった・肝転移陽性(110例)のPFSは、Atezo+CP+Bev群8.2ヵ月、CP+Bev群5.4ヵ月(HR:0.40)であった。肝転移陰性(690例)のPFSは、それぞれ、8.3ヵ月と7.0ヵ月(HR:0.64)であった 一方、本年(2018年)3月にEGFR/ALK野生型におけるOSの改善が公表されたが、今回の会議では、具体的な数値は明らかにされなかった。■参考IMpower150試験(Clinical Trials.gov)■関連記事atezolizumab併用療法、進行肺がん1次治療の第III相試験でPFSに有意差(IMpower150)/ESMO Immuno Oncology 2017

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蜂蜜は小児の急性咳嗽に効くのか?

 小児の咳症状は、外来受診の理由となることが多い。蜂蜜は、小児の咳症状を和らげるために、家庭で一般的に用いられている。University of Calabar Teaching HospitalのOlabisi Oduwole氏らは、小児の急性咳嗽に対する蜂蜜の有効性を評価するためにシステマティックレビューを実施し、2018年4月10日、Cochrane Database of Systematic Reviewsに公開した。本レビューは、2010、2012、2014年に続く更新。本レビューの結果、蜂蜜は、無治療、ジフェンヒドラミン、プラセボと比較して、咳症状を多くの面で軽減するが、デキストロメトルファンとはほとんど差がない可能性が示唆された。また、咳の持続時間についてはサルブタモール、プラセボより短縮する可能性はあるが、蜂蜜使用の優劣を証明する強固なエビデンスは認められなかったと結論している。 著者らは、MEDLINE、Embase、CENTRAL(Cochrane Acute Respiratory Infections Group's Specialised Registerを含む)などをソースとして、2014~18年2月のデータを検索した。また、2018年2月にはClinicalTrials.govとWHOのInternational Clinical Trial Registry Platformも同様に検索した。対象とした試験は、急性の咳症状で外来受診した12ヵ月~18歳の小児に対する治療(蜂蜜単独、蜂蜜と抗菌薬の併用、無治療、プラセボ、蜂蜜ベースの咳止めシロップ、その他の咳止め薬)における無作為化比較試験で、899例の小児を含む6試験。今回の更新で、3試験331例の小児が追加された。これらの試験では、蜂蜜をデキストロメトルファン、ジフェンヒドラミン、サルブタモール、ブロメライン(パイナップル科の酵素)、無治療、プラセボと比較していた。 主な結果は以下のとおり。・蜂蜜は、無治療、プラセボより咳の頻度を減らす可能性がある。無治療との平均差(MD)は-1.05(95%CI:-1.48~-0.62、I2=0%、2試験・154例、エビデンスの確実性は中)、プラセボとのMDは-1.62(95%CI:-3.02~-0.22、I2=0%、2試験・402例、エビデンスの確実性は中)であった。・蜂蜜は、デキストロメトルファンと同じ程度、咳の頻度を減らす可能性がある(MD:-0.07、95%CI:-1.07~0.94、I2=87%、2試験・149例、エビデンスの確実性は低)。・蜂蜜は、ジフェンヒドラミンより咳の頻度を減らす可能性がある(MD:-0.57、95%CI:-0.90~-0.24、1試験・80例、エビデンスの確実性は低)。・咳症状の緩和を目的とした蜂蜜の投与は、3日以内は効果的である可能性があるが、3日を超える投与は、咳の重症度、わずらわしい咳、親子の睡眠への咳の影響を減少させることにおいて、プラセボやサルブタモールを上回る優位性がない(エビデンスの確実性は中)。・咳尺度を用いた5試験では、蜂蜜と、蜂蜜を混ぜたブロメラインを比較して、咳の頻度と重症度を下げる効果にほとんど差がなかった。・有害事象については、蜂蜜群と対照群に差はなかった。

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無敵の研修医ストレスマネジメント

デキる人ほど危ない!初期臨床研修医がうつを経験する割合は約30%。長時間労働、上司・患者・看護師との人間関係等々、研修医生活は想像以上に過酷です。 研修生活を実りあるものにするために、心身の負荷を冷静に把握し積極的に対処できる能力が欠かせません。 産業医・精神科医の鈴木瞬氏と、内科医師・経営コンサルタントの鈴木裕介氏が伝授するストレスマネジメント術の数々はこれからの医師人生を快適に過ごすための一生モノのスキルです。自分自身のために、そして家族や患者さんのために、このスキルを身に付けてください!第1回はデキる人ほどうつになりやすいカラクリとその対処方法を経営コンサルタント・内科医師の鈴木裕介氏がレクチャーします。(視聴時間 16:35)研修生活は仕事自体も人間関係も思うようにならないことの連続。今回はなぜ研修期間がつらく感じられるのかを3つの学術モデルを使って解剖します。理由がわかれば対処はシンプル。明日からできる簡単なストレス対処術を伝授します。 追いつめられる前に、ぜひ確認しておきましょう!(視聴時間 12:31)病棟看護師さんに苦手意識を持っていませんか?それなら今すぐに番組を見てください! 鈴木瞬先生が彼・彼女たちの価値観と行動原理を観察して発見した、看護師さんとの上手な付き合い方「TNM」を伝授します。 使い処がわかる講師自ら演じたスキットも必見です。(視聴時間 12:52)想像してください。オーベン、チューベンの逆鱗に触れずに指導してもらえたら…研修生活はかなり楽しくなりませんか?今回は忙しい上級医がキレるポイントを避け、穏やかなコミュニケーションをとるための関わり方を伝授します。(視聴時間 11:07)医療現場で怒りや悲しみといった陰性感情がわき起こるのは日常茶飯事。ですが感情に任せたコミュニケーションでは、人間関係を壊したり、信頼を失いかねません。 ネガティブな感情をどう捉え、対処していけばよいのか?3つの原則に基づいた具体的な対策を伝授します。(視聴時間 8:46)今回は効果的な休養を取るための4つのテクニックを紹介します。正しい休養作法を知っていれば、少ない休みでも心身の疲労を回復することは十分に可能です。 働き続けるための必須スキルをぜひマスターしてください!(視聴時間 13:20)「メンタル不調の同期研修医にどう接する?」「明らかに問題のある上級医にどう対応すればいい?」2つのテーマで裕介先生と瞬先生が実体験を交えて本音でトーク! 気楽に見られて、“研修医あるある”に対応するヒントが詰まった対談です。(視聴時間 29:59)

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第5回 人生を走り続けるために【ドクター クルマ専科】

原点僕が車好きになったのは、当時の男の子なら誰しも、おもちゃと言えばミニカーくらいで、今のような電子玩具がない幼少期に父親が与えてくれたコーギートーイというミニカーで、3歳上の兄とよく遊んだことが原点でしょうか。その頃、兄はアストンマーチンのDB5のミニカー、僕はポルシェの911のミニカーを持っていましたが、兄のアストンがうらやましくて仕方がなかったときに、父が911のことを、「これはとても良いクルマだよ。大人になれば、きっとこのクルマの良さがわかるよ」と言っていたのを思い出します。エンジニアであった祖父、決して貧しい家庭ではなかったとは思いますが、父には兄弟が多く、薬剤師となった長男が薬の開発で一山当てて、次男を医学部にやり、次男は医師として稼いだお金で三男を医学部に通わせるといった家庭環境ですから、父は若い頃から裕福な生活は送ってなかっただろうと思います。そんな父がインターンをしていた昭和30年頃、外車どころか、国産車でもぜいたく品だったのだと思いますが、その時代に、インターン先の病院でクライスラーなどに乗って来る先生方を見て、いつか自分も買えるようになってやると心に誓っていたそうです。母は開業医の一人娘でしたが、炭鉱主の娘だった祖母が車好きで、当時、プリンススカイライン、マツダコスモスポーツなどを乗り継いでいたようで、母もその影響で車好きになったようです。また大学時代は芦屋の祖母方の親戚の家にいたため、たくさんの外車を見て、うらやましいと思っていたそうです。そんな車好きな両親も、僕の車好きに影響を与えているのでしょう。僕が物心ついた頃には、父はTOYOTAの1600GTという、珍しい車に乗っていました。当時の2000GTの弟分として作られた車ですが、見た目は当時のコロナそっくりで、地味でした。しかし、この車を選んだ父は相当な車好きだったと思います。僕が小学生になる頃、スーパーカーブームが起きて、僕もその洗礼を受けました。むろん、九州では当時はスーパーカーなんて走っておらず、911を見かけることもまれな状況です。当時のお気に入りは、やはりカウンタックで、ポルシェの良さはわかりませんでした。兄は当時からポルシェがお気に入りで、いつの日か必ず手に入れるのだと言っていました。覚醒中学で寮生活となり、スーパーカーブームもずいぶん下火になった頃、夏休みの終わりに寮に車で送ってもらっていた時でした。当時のわが家の車、W123のメルセデスを黄色くて平べったい車があっという間もなく抜き去って行きました。フェラーリの365BBでした。その美しい姿が目に焼き付いて離れなくなった僕は、いつの日か、フェラーリを買うと心に誓いました。ページTOPへ若さゆえ画像を拡大する画像を拡大する三宮氏の現在の愛車医学部に入り、周りが当時の流行だったソアラなどに乗っていた頃、父は絶対に僕には車を買い与えませんでした。自分で稼いで買う物だというポリシーだったのです。兄には学校が雪国であることを理由にスバルの4WDセダンを買い与えてはいたのですが、僕は実家から数キロしか通学に要しなかったからです。最初の愛車は母と共用のシビックでした。今みたいなスポーティーなシビックではありません。でも、うれしくてその車で阿蘇や九州の海沿いを走り回りました。見かねた祖母が、僕のことを可愛そうと言って、当時人気だったプレリュードを買い与えてくれました。この車は軽くて、スポーティーで女の子受けが良くて、僕は有頂天になりました。でも、僕はバイト代をつぎ込み、この車にターボをつけてしまいます。メーカー表示の160PSが実馬力で270PSとなり、僕はこの車で毎晩のように峠に出かけて行くようになりました。無謀な速さはそれなりの代償を伴いました。みるみるやれていくボディ、夏場の渋滞では暖房を入れてオーバーヒートを回避、女子受けどころか、車も僕もそんな華やかな大学生活からどんどん離れていってしまいました。大学5年生に進級し、当時の臨床実習に入る頃、思いがけないことに、祖母が今度は、当時の最先端だったフェアレディのZ32のツインターボを買い与えてくれました。4年生時の席次がかなり良く、母が祖母に頼んでくれたようでした。父は念願のメルセデスのSLとポルシェの928を購入しており、息子に車を買おうなどという気はまったくなかったようです。僕はこのZもいじり倒してタービンブローさせてしまいます。ページTOPへ別れと新たな目覚め画像を拡大する三宮氏思い出のポルシェ911 Carrera3.2無事、国家試験もパスし、医師になった頃、ついに兄が夢を叶えます。中古ですが911 Carrera3.2を購入したのです。この車で兄とサーキットに出かけ、素晴らしいエンジンの吹け上がりや車の軽さに感動し、車はパワーだけではないことに気づきました。しかし、兄は夢を叶えて、わずか半年後に29歳の若さで突然死してしまいます。兄の死は僕に深厚なダメージを与えました。3ヵ月の間、家に閉じこもりとなり、うつ状態のようになりました。少しずつ仕事に復帰できた僕は、形見となった911に乗ることにして、残っていたローンも払うことにしました。それから、29歳の時に転機が訪れました。地元の中古車店にテーマ8.32というフェラーリのエンジンを積んだセダンが売りに出されていることを知ったのです。当時はバブル後時代でしたから、特殊な車は値下がりしていましたが、自分がフェラーリを買うなんてことは思いもしませんでした。しかし、現在、フェラーリの正規ディーラーにまで会社を成長させた社長は、当時僕に「こんな車を買ってはダメだよ、本当にフェラーリが欲しいなら買えるよ」と言いました。画像を拡大する最初のフェラーリ348目が覚めました。実はもうフェラーリ買えるじゃないか? って。当時僕は、ある山奥の総合病院でバイトをしていたのですが、前任者の時の一日外来数が10名以下だったのを200名以上に増やしたことを理由に、理事長より、バイト代を前任者の数倍にあげていただいたばかりだったのです。即決でした。僕の最初のフェラーリ348(中古)を買った瞬間でした。ページTOPへ走り続けるために72歳で父はATLの呼吸器障害でこの世を去りました。晩年、働けなくなった父の病院の借金は膨らみ、僕は大学病院を辞して、実家の病院に戻りました。当時乗っていた、フェラーリ355も売りました。病院は老朽化しており、建て替えの必要に迫られていました。銀行の融資は10ヵ月もおりませんでした。今は、頑張ってきたことや、周りの先輩方、スタッフのおかげで、病院は軌道に乗っています。フェラーリも兄の夢だったポルシェも買うことができました。夜9~10時に外来が終わり、最後の患者さんが帰る頃、父の最期の言葉「おまえが息子で良かった。人生は短い、そんなに頑張らなくていい、好きなこともしろ」…いつもその言葉を思い出します。画像を拡大するトライアスロンも楽しむ三宮氏ああ、親父、兄貴、好きなこともやっているから心配ないよ。車も買ったし、マラソンやトライアスロンも楽しんでいるから。仕事はキツイ、でも、車に乗るとすべてを忘れさせてくれる。トライアスロンのつらさも同様で、その後には爽快感、達成感も味わうことができる。たとえ、車が買えないようになっても、きっと僕の人生にはずっと、車輪の乗り物がそばにいるだろうな、そして、未来に向かって走って行くだろうと思います。

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第1回 医師たちの転職事情【宮本研のメディア×ドクターの視座】

第1回 医師たちの転職事情「転職エージェントって、どんな感じ?」私自身も利用してみて、初めてその実態を知りました。あくまでも過去の経験談ですが、普段の診療では出会う機会もなかったですし、エージェントたちの詳しい素性は今でもよく分からないままです。「そんな赤の他人に、貴重な医師人生を預けて大丈夫なの?」というのが、一般的な感覚ではないでしょうか。これまで、私は10社前後の医師転職エージェントと面会しました。実際の転職に至ったのは、1社のみです。そして転職後に、もっと実態を知っておくべきであった・・・、という少しの後悔も抱きました。Aという医療機関からBという医療機関へ転職する際、転職者の希望とBの雇用条件を調整するのが、エージェントの仕事。入職後までのフォローを含めて、年収の一定割合を紹介料として受け取るのが普通です。高年収の医師を成約させれば、結構な金額の紹介料になると言われています。エージェントはあくまでも、次のBという医療機関への道案内役です。勤務中の医療機関Aとの退職交渉は、転職者自身が行う必要があります。 被雇用者なのですから当然とも言えますが、医師の場合は気軽に「辞めます」と決断できない事情が多いものです。「専門医が院内に自分しかいない」「辞めた後の交代医が見つからないかも」「患者さんやスタッフには何と説明しよう」等々…。考え出したら、それこそキリがありません。つまり、転職というのは勤務医にとって、(1)現勤務先Aとの退職交渉(2)医局派遣の場合は、医局との交渉(退局を含む)(3)初めて出会う、転職エージェントとの事前相談(4)複数依頼の場合は、エージェントたちの能力や条件の見極め(5)転職先候補B〜B’との、エージェントを介した事前交渉(6)家族を含むプライベート要因の整理、合意形成(7)転職先Bとの面談交渉(8)エージェントを介した、最終的なB雇用条件の合意(9)現勤務先Aへの退職届(10)転職先Bへの入職関係書類の提出と、ざっくり言っても、これくらいの手間がかかります。場合によっては、現勤務先Aと決裂して「もう辞める!」となってから、転職活動を開始することもあるでしょう。幸い、医師求人は常勤だけで1万人以上あると言われますから、選り好みしなければ、どこかには転職可能です。では、このような転職活動は、医師に幸せをもたらすのでしょうか? AからBに移籍したら、目指した通りの年収や待遇を得て、充実した医師キャリアを送れるのでしょうか?大学関連以外に、民間医療機関を3ヵ所経験してみて、「転職が最終ゴールではない」というのが私なりの結論です。そもそも、入職前に転職先Bが提示してきた雇用条件こそ、当該年において転職先Bの経営上で有利な内容だと、ほとんどの医師は知りません。もっと簡単に言えば、転職先は経営上に損が出ないような条件を、転職希望の医師に提示します。私も想像しきれていなかったのですが、「人買い」に近い発想が、医師転職の世界にはまだまだ存在します。年収条件に幅がある場合、「先生の専門性や能力によって高い年収を提示できます」という釈明をしていますが、この幅は何か? これは、転職先の医療機関側が譲歩する余地というよりも、「どれだけもっと安く、ちゃんと働く医師を採用できるか」という意味です。経営上の都合ですから、翌年以降の年俸交渉で急に態度が厳しくなることも十分にありえます。エージェントも初対面、転職先Bに行っても初対面の経営者たち。転職前に社交辞令が織り交ぜられるのは当然であって、いろいろな事実を新しい勤務先Bの中で、後から知ることになります。何かが一方的に悪いとか、騙されたとかいう訳ではなく、転職市場にはメリットもデメリットも混在しているということです。しかし医療現場で忙しいと、こうした実際の転職事情を学ぶチャンスがなく、先輩や後輩の成功談を耳にして、「上手くいくはずバイアス」がかかっていたりします。 最終責任は転職を決意した自分自身にあるのですが、意外とこの単純な事実関係を、認識できていない場合も多いのではないでしょうか。当連載では、臨床とビジネスの世界を並走しているチーフ・メディカル・オフィサーの視点から、色々なお話をしていきます。医師であれば、こっそり知っておいても損はないと思います。

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不動産投資を成功へ導く6ステップ【医師のためのお金の話】第7回

不動産投資を成功へ導く6ステップこんにちは、自由気ままな整形外科医です。前回は、不動産は資産の王様であり、経済的に自由な状況へ到達するためには避けて通れないことをお話ししました。しかし、不動産は高額であるため、事前に不動産投資手法をしっかり勉強する必要があることを忘れてはいけません。不動産投資でOJTは禁忌!医療という職業柄、医師は業務を通して行う「教育訓練(On-The-Job Training:OJT)」を好む傾向にあります。ご存知のように、医療には理論と実際の臨床との間に、少なからず乖離があります。そのため、教科書だけ勉強しても、実際の臨床現場で使える知識を習得できるとは限りません。この点に関しては不動産投資も医療と同様で、書籍だけでは得ることのできない知識があります。医療においては、業務を通して行う教育訓練(OJT)が一般的ですが、これをそのまま不動産に当てはめると大変なことになります。何といっても不動産は高額であるため、最初の方向性を間違えると取り返しのつかないことになるからです。では、どうすればスムーズに不動産投資を開始できるのでしょうか?不動産のおススメ勉強法私が不動産投資を開始したのは2004年です。当時はまだ不動産投資が一般的ではなく、今のように手軽に学べる不動産投資の書籍や不動産コミュニティーは存在しませんでした。このため、失敗を積み重ねながら、独学で不動産投資手法を習得せざるを得ませんでした。このような経験を踏まえたうえで、私が今から初心者の立場に立ったとして、不動産投資の勉強を開始するのであれば、どのように勉強するのが良いでしょうか?最も効率が良いと私が思う勉強方法は次の6ステップです。1)『不動産投資の正体』(猪俣 淳/著. 住宅新報社. 2014)を一読する2)不動産投資の書籍を50冊ほど購入3)これらの書籍を1ヵ月以内に完全読破4)何度も『不動産投資の正体』を熟読5)地元の不動産大家の会に参加6)物件情報収集と物件調査を繰り返す『不動産投資の正体』は、不動産投資コンサルタント兼実践投資家である猪俣 淳氏による渾身の力作です。ページ数はさほど多くないものの、理路整然としていながら非常に難解です。この書籍では、不動産投資の基本を学ぶことができます。『不動産投資の正体』を一読した後は、いろいろな考え方に触れるために、ジャンルを問わずに不動産投資本を50冊ほど読みます。さまざまな書籍を読破することで、不動産投資に対するイメージが頭の中でぼんやりと形作られていきます。その後『不動産投資の正体』を何度も熟読して、不動産投資の考え方を確実に理解しましょう。このようにして不動産投資の基本を押さえた後に、評判の良い地元の不動産大家の会に入会します。大家の会では、たくさんの先輩投資家やメンターを見つけることができます。そして、不動産投資の理論と実際の乖離を埋めるために、いよいよ物件情報収集と物件調査を何度も繰り返します。まずは100件の物件調査を目標にしましょう。不動産投資をなめてはいけませんこれくらいの下準備をして、ようやく不動産投資のスタートラインに立つことができます。何でもそうですが、おいしい話が向こうから勝手にやってくることはありません。不動産業者さんからもらった「30年間借上げなので安心!」とうたっている物件資料だけで購入を決めてしまうなどあり得ません。しかし、実際にはこのような物件をつかんでしまう人が後を絶ちません。くれぐれもご注意を!

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突然やってくる!? 外国人患者さん対応エピソード集 番外編

番外編 全国初、県医師会主導で電話通訳事業を進めるねらいとは最終回となる今回は、番外編として、医師会主導では全国初の取り組みとなる「外国人向け電話医療通訳を活用した実証事業」を開始した石川県医師会の近藤会長に、地域レベルで本事業を開始した背景と、今後の展望についてお話を伺いました。本事業はJIGH運営の遠隔医療通訳サービス「メディフォン」が提供する計12言語の電話通訳サービスを参加医療機関が1年間利用できるもので、2017年10月から県内の37医療機関において開始されています。対談相手石川県医師会会長 近藤 邦夫 氏澤田:まず、石川県医師会として、本事業の実施を決めた背景について、教えていただけますか。近藤:北陸新幹線の開通で訪日外国人旅行者が増加していることから、医療現場において言葉が通じず、困ることが増えたという声が上がるようになりました。また、事務の方でも医療費請求にあたっての説明が不十分なことによる医療費未払いが発生するようになり、しっかりと医療を提供するためのツールとして、電話医療通訳の提供を開始することにしました。どういった手法を用いるかについては、継続性があるか、使い勝手は良いか、コスト面で効率的か、などさまざまな視点で検討する必要があります。まず日本医師会の代議委員会で代表質問をし、各地域ではどのように対応しているか、現状について情報を収集しました。大病院については国として体制整備を補助していく方向性であることを厚生労働省から聞いたものの、県内の病院で国からの補助を受けて体制整備している病院は多くないようでした。一方で、愛知県のように独自の体制を構築している地域があることを知り、石川県でも県独自の取り組みとして電話による医療通訳実証事業を始めてみることにしたのです。澤田:全国初の取り組みとして、ほかの地域からも注目を集めているのではないでしょうか。近藤:先ほど言及した愛知県のように、大都市圏では進んでいるところもあるものの、北陸地区では体制整備をしている地域はないようでしたので、石川で良いモデルを作ることができれば、より広域で同様の取り組みも出てくると思います。そのためには、実績データをしっかり発信していく必要があると思っています。また、使い勝手が良いかどうかも大事です。成功事例を見せていく必要があります。澤田:実証事業前後での参画機関の反応はいかがですか。近藤:ありがたいという声が届いています。ただ、言葉だけでは十分でなく、体制をしっかり整備していく必要があるとは思っています。医療者側は応召義務があるのでどのような状況でも医療を届けるわけですが、受け入れ体制を整備しておかないと、医療安全に関わるトラブルを生む可能性もありますので。澤田:医療者と患者さんの双方の安全のためにも体制整備は重要だと思います。それでは最後に、どのように医療機関が変わっていくと外国人患者さんの受け入れ体制が整ったといえるようになりますか。近藤会長のお考えを伺うことができればと思います。近藤:本事業はスタートしたところです。まずは電話医療通訳というツールがある、ということを医療側に知っていただく、利用していただくことが重要です。まだまだ広報が足りていないと思います。今後訪日外国人数がもっと増えるのであれば、地域の中で対応するという自覚を持つことが求められるでしょう。また、訪日外国人数の増加は、我が国の政策そのものであり、訪日外国人の医療対応も、国として取り組むべきと考えます。国として財源を確保し、公的な施設を作るなり民間に任せるなり、必要性を考え、判断する必要があると思います。その判断のためにはデータが必要となるので、石川県としてはそれを提供できればと思っています。今後ICT化がよりいっそう進めば、アプリや画像での対応などさまざまな他の選択肢が出てくるでしょう。今は過渡期です。石川県としてベストかどうかはわからないがベターであると判断し、電話医療通訳をツールとして選定し、その有用性などについて検証しているところです。澤田:石川モデルが全国に広がることを願っています。本日はお忙しい中、本当にありがとうございました。<本事例からの学び>現状の選択肢の中から最適なモデル構築を! 収集したデータを検証し、成功事例として発信

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全身性エリテマトーデス〔SLE:Systemic Lupus Erythematosus〕

1 疾患概要■ 概念・定義全身性エリテマトーデス(Systemic Lupus Erythematosus:SLE)は、自己免疫異常を基盤として発症し、多彩な自己抗体の産生により多臓器に障害を来す全身性炎症性疾患で、再燃と寛解を繰り返しながら病像が完成される。全身に多彩な病変を呈しうるが、個々人によって障害臓器やその程度が異なるため、それぞれに応じた管理と治療が必要となる。■ 疫学本疾患は指定難病に指定されており、令和元年(2019年)度末の特定医療費(指定難病)受給者証所持者数は6万1,835件であり、計算上の有病率は10万人中50人である。男女比は1対9で女性に多く、発症年齢は10~30代で大半を占める。■ 病因発症要因として、遺伝的背景要因に加えて、感染症や紫外線などの環境要因が引き金となり、発症することが考えられているが、不明点が多い。その病態は、抗dsDNA抗体を主体とする多彩な自己抗体の出現に加え、多岐にわたる免疫異常によって形成される。自然免疫と獲得免疫それぞれの段階で異常が指摘されており、樹状細胞・マクロファージを含めた貪食能を持つ抗原提示細胞、各種T細胞、B細胞、サイトカインなどの異常が病態に関与している。体内の細胞は常に破壊と産生を繰り返しているが、前述の引き金などを契機に体内の核酸物質が蓄積することで、異常な免疫反応が惹起され、自己抗体が産生され免疫複合体が形成される。そして、それらが各臓器に蓄積し、さらなる炎症・自己免疫を引き起こし、病態が形成されていく。■ 症状障害臓器に応じた症状が、同時もしくは経過中に異なる時期に出現しうる。初発症状として最も頻度が高いものは、発熱、関節症状、皮膚粘膜症状である。全身倦怠感やリンパ節腫脹を伴う。関節痛(関節炎)は通常骨破壊を伴わない。皮膚粘膜症状として、日光過敏症や露光部に一致した頬部紅斑のほかに、手指や四肢体幹部に多彩な皮疹を呈し、脱毛、口腔内潰瘍などを呈する。その他、レイノー現象、腎炎に関連した浮腫、肺病変や血管病変と関連した労作時呼吸困難、肺胞出血に伴う血痰、漿膜炎と関連した胸痛・腹痛、神経精神症状など、さまざまな症状を呈しうる。■ 分類SLEは障害臓器と重症度により治療内容が異なる。とくに重要臓器として、腎臓、中枢神経、肺を侵すものが挙げられ、生命および機能予後が著しく障害される可能性が高い障害である。ループス腎炎は組織学的に分類されており、International Society of Nephrology/Renal Pathology Society(ISN/RPS)分類が用いられている。神経精神ループス(Neuropsychiatric SLE:NPSLE)では大きく中枢神経病変と末梢神経病変に分類され、それぞれの中でさらに詳細な臨床分類がなされる。■ 予後生命予後は、1950年代は5年生存率がおよそ50%であったが、2007年のわが国の報告では10年生存率がおよそ90%、20年生存率はおよそ75%である1)。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)検査所見として、抗核抗体、抗(ds)DNA抗体、抗Sm抗体、抗リン脂質抗体(ループスアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体、β2GPⅠ依存性抗カルジオリピン抗体など)が陽性となる。また、血清補体低値、免疫複合体高値、白血球減少(リンパ球減少)、血小板減少、溶血性貧血、直接クームス陽性を呈する。ループス腎炎合併の場合はeGFR低下、蛋白尿、赤血球尿、白血球尿、細胞性円柱が出現しうる。SLEの診断では1997年の米国リウマチ学会分類基準2)および2012年のSystemic Lupus International Collaborating Clinics(SLICC)分類基準3)を参考に、他疾患との鑑別を行い、総合的に判断する(表1、2)。2019年に欧州リウマチ学会と米国リウマチ学会が合同で作成した新しい分類基準4)が提唱された。今後はわが国においても本基準の検証を元に診療に用いられることが考えられる。画像を拡大する表2 Systemic Lupus International Collaborating Clinics 2012分類基準画像を拡大するループス腎炎が疑われる場合は、積極的に腎生検を行い、ISN/RPS分類による病型分類を行う。50~60%のNPSLEはSLE診断時か1年以内に発症する。感染症、代謝性疾患、薬剤性を除外する必要がある。髄液細胞数、蛋白の増加、糖の低下、髄液IL-6濃度高値であることがある。MRI、脳血流シンチ、脳波で鑑別を進める。貧血の進行を伴う呼吸困難、両側肺びまん性浸潤影あるいは斑状陰影を認めた場合は肺胞出血を考慮する。全身症状、リンパ節腫脹、関節炎を呈する鑑別疾患は、パルボウイルス、EBV、HIVを含むウイルス感染症、結核、悪性リンパ腫、血管炎症候群、他の膠原病および類縁疾患が挙がるが、感染症を契機に発症や再燃をすることや、他の膠原病を合併することもしばしばある。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)SLEの基本的な治療薬はステロイド、免疫抑制薬、抗マラリア薬であるが、近年は生物学的製剤が承認され、複数の分子標的治療が世界的に試みられている。ステロイドおよび免疫抑制薬の選択と使用量については、障害臓器の種類と重症度(疾患活動性)、病型分類、合併症の有無によって異なる。治療の際には、(1)SLEのどの障害臓器を標的として治療をするのか、(2)何を治療指標として経過をみるのか、(3)出現しうる合併症は何かを明確にしながら進めていくことが重要である。SLEの治療選択については、『全身性エリテマトーデス診療ガイドライン2019』の記載にある通り、重要臓器障害があり、生命や機能的予後を脅かす場合は、ステロイド大量投与に加えて免疫抑制薬の併用が基本となる5)(図)。ステロイドは強力かつ有効な免疫抑制薬でありSLE治療の中心となっているが、免疫抑制薬と併用することで予後が改善される。ステロイドの使用量は治療標的臓器と重症度による。ステロイドパルス療法とは、メチルプレドニゾロン(商品名:ソル・メドロール)250~1,000mg/日を3日間点滴投与、大量ステロイドとはプレドニゾロン換算で30~100mg/日を点滴もしくは経口投与、中等量とは同じく7.5~30mg/日、少量とは7.5mg/日以下が目安となるが、体重により異なる6)(表3)。ステロイドの副作用はさまざまなものがあり、投与量と投与期間に依存して必発である。したがって、副作用予防と管理を適切に行う必要がある。また、大量のステロイドを長期に投与することは副作用の観点から行わず、再燃に注意しながら漸減する必要がある。画像を拡大する画像を拡大する寛解導入療法として用いられる免疫抑制薬は、シクロホスファミド(同:エンドキサン)とミコフェノール酸モフェチル(同:セルセプト)が主体となる(ループス腎炎の治療については別項参照)。治療抵抗性の場合、免疫抑制薬を変更するなど治療標的を変更しながら進めていく。病態や障害臓器の程度により、カルシニューリン阻害薬のシクロスポリン(同:サンディミュン、ネオーラル)、タクロリムス(同:プログラフ)やアザチオプリン(同:イムラン、アザニン)も用いられる。症例に応じてそれぞれの有効性と副作用の特徴を考慮しながら選択する(表4)。画像を拡大するリツキシマブは、米国リウマチ学会(American College of Rheumatology:ACR)および欧州リウマチ学会(European League Against Rheumatism:EULAR)/欧州腎臓学会-欧州透析移植学会(European Renal Association – European Dialysis and Transplant Association:ERA-EDTA)の推奨7,8)においては、既存の治療に抵抗性の場合に選択肢となりうるが、重症感染症や進行性多巣性白質脳症の注意は必要と考えられる。わが国ではネフローゼ症候群に対しては保険承認されているが、SLEそのものに対する保険適用はない。可溶型Bリンパ球刺激因子(B Lymphocyte Stimulator:BLyS)を中和する完全ヒト型モノクローナル抗体であるベリムマブ(同:ベンリスタ)は、既存治療で効果不十分のSLEに対する治療薬として、2017年にわが国で保険承認され、治療選択肢の1つとなっている9)。本稿執筆時点では、筋骨格系や皮膚病変にとくに有効であり、ステロイド減量効果、再燃抑制、障害蓄積の抑制に有効と考えられている。ループス腎炎に対しては一定の有効性を示す報告10)が出てきており、適切な症例選択が望まれる。NPSLEでの有効性はわかっていない。ヒドロキシクロロキン(同:プラケニル)は海外では古くから使用されていたが、わが国では2015年7月に適用承認された。全身症状、皮疹、関節炎などにとくに有効であり、SLEの予後改善、腎炎の再燃予防を示唆する報告がある。短期的には薬疹、長期的には網膜症などの副作用に注意を要し、治療開始前と開始後の定期的な眼科受診が必要である。アニフロルマブ(同:サフネロー)はSLE病態に関与しているI型インターフェロンα受容体のサブユニット1に対する抗体製剤であり、2021年9月にわが国でSLEの適応が承認された。臨床症状の改善、ステロイド減量効果が示された。一方で、アニフロルマブはウイルス感染制御に関与するインターフェロンシグナル伝達を阻害するため、感染症の発現リスクが増加する可能性が考えられている。執筆時点では全例市販後調査が行われており、日本リウマチ学会より適正使用の手引きが公開されている。実臨床での有効性と安全性が今後検証される。SLEの病態は複雑であり、臨床所見も多岐にわたるため、複数の診療科との連携を図りながら各々の臓器障害に対する治療および合併症に対して、妊娠や出産、授乳に対する配慮を含めて、個々に応じた管理が必要である。4 今後の展望本稿執筆時点では、世界でおよそ30種類もの新規治療薬の第II/III相臨床試験が進行中である。とくにB細胞、T細胞、共刺激経路、サイトカイン、細胞内シグナル伝達経路を標的とした分子標的治療薬が評価中である。また、異なる作用機序の薬剤を組み合わせる試みもなされている。SLEは集団としてヘテロであることから、適切な評価のためのアウトカムの設定方法や薬剤ごとのバイオマーカーの探索が同時に行われている。5 主たる診療科リウマチ・膠原病内科、皮膚科、腎臓内科、その他、障害臓器や治療合併症に応じて多くの診療科との連携が必要となる。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 全身性エリテマトーデス(公費対象)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報全国膠原病友の会(膠原病患者とその家族の会)1)Funauchi M, et al. Rheumatol Int. 2007;27:243-249.2)Hochberg MC, et al. Arthritis Rheum. 1997;40:1725.3)Petri M, et al. Arthritis Rheum. 2012;64:2677-2686.4)Aringer M, et al. Ann Rheum Dis. 2019;78:1151-1159.5)厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業 自己免疫疾患に関する調査研究(自己免疫班),日本リウマチ学会(編):全身性エリテマトーデス診療ガイドライン2019.南山堂,2019.6)Buttgereit F, et al. Ann Rheum Dis. 2002;61:718-722.7)Hahn BH, et al. Arthritis Care Res (Hoboken). 2012;64:797-808.8)Bertsias GK, et al. Ann Rheum Dis. 2012;71:1771-1782.9)Furie R, et al. Arthritis Rheum. 2011;63:3918-3930.10)Furie R, et al. N Engl J Med. 2020;383:1117-1128.公開履歴初回2018年04月10日更新2022年02月25日

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抗菌薬が効かなくなる -AMR(薬剤耐性)との闘いに人類は勝てるのか?

感染症のエキスパートとAMR対策行政官が、その「危機」を伝えますフレミングが「ペニシリン」を発見して90年。人類は感染症を克服するかにみえましたが、すぐさま病原菌は抗菌薬に対し耐性を獲得、再び人類を脅かす存在となりました。薬剤耐性(AMR)の問題です。2050年には耐性菌による死者は1,000万人と推定され、2015年世界保健機関(WHO)は「薬剤耐性に関する国際行動計画」を採択し、厚生労働省もただちに動きだしました。この運動のきっかけとなったのが本書("The Drugs Don’t Work")です。原著者のサリー・デービスは英国保健省のトップであり、監訳に感染症専門医の忽那賢志医師を迎え、井上肇WHO事務局長補、長谷川学内閣官房国際感染症対策調整室企画官が編集を務め、ここに「感染症エキスパート」と「AMR対策行政官」がタッグを組んだ書籍が出来上がりました。日本語版には,オリジナルコンテンツ(わが国の薬剤耐性菌対策)も加わり、まさに感染症に関わる臨床医、専門家、行政官が訴える危機と対策が各視点で述べられています。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。    抗菌薬が効かなくなる-AMR(薬剤耐性)との闘いに人類は勝てるのか?定価1,900円 + 税判型A5判 ソフトカバー頁数124頁発行2018年4月原著者Sally C. Davies監訳忽那 賢志編集井上 肇・長谷川 学訳・著者高山 義浩Amazonでご購入の場合はこちら

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高齢者の身体機能、社会経済学的地位により年単位の差/BMJ

 高齢者において、社会経済的地位と身体機能には独立した関連性が認められ、その強さおよび整合性は、非感染性疾患(糖尿病、アルコール多飲、高血圧、肥満、身体不活動、喫煙)のリスク因子と類似していることが明らかにされた。スイス・ローザンヌ大学病院のSilvia Stringhini氏らが、24ヵ国で行われたコホート試験を解析し明らかにした。これまでに、社会経済的地位が不良なことや非感染性疾患のリスク因子による、損失生存年数(years of life lost:YLL)については明らかにされているが、身体機能へどれほど影響するかについては明らかにされていなかった。BMJ誌2018年3月23日号掲載の報告。結果を踏まえて著者は、「これらすべてのリスク因子に取り組むことが、身体機能良好で余生を過ごせる時間を大幅に増やすことにつながることが示唆された」と述べている。身体機能について歩行速度の指標を用いて評価 研究グループは、ヨーロッパ、米国、ラテンアメリカ、アフリカ、アジアの世界保健機関(WHO)加盟国のうち24ヵ国で、1990~2017年に行われた37件のコホート試験について解析を行った。被験者は45~90歳の男女計10万9,107例だった。 身体機能の評価には、歩行速度検査の運動耐容能の指標(index of overall functional capacity)を用いた。社会経済的地位や非感染性疾患リスク因子に曝露された被験者と非曝露の被験者の、歩行速度の差を定量化し、損失身体機能年数を求めて評価した。社会経済的地位が低い60歳男性の身体機能、6.6年後退 混合モデルによる解析の結果、社会経済的地位が低い60歳男性の歩行速度は、社会経済的地位が高い66.6歳男性の歩行速度と同じだった(損失身体機能年数:6.6年、95%信頼区間[CI]:5.0~9.4)。同様に女性についてみると、社会経済的地位が低いことによる損失身体機能年数は4.6年(3.6~6.2)だった。 社会経済的地位が低いことによる損失身体機能年数差は、高所得国で低中所得国より大きく、高所得国では男性が8.0(5.7~13.1)年、女性が5.4(4.0~8.0)年に対し、低中所得国ではそれぞれ2.6(0.2~6.8)年、2.7(1.0~5.5)年だった。高所得国の中でも、米国はヨーロッパ諸国に比べて格差が大きかった。 その他のリスク因子についてみると、身体活動が不十分な人の60歳までの損失身体機能年数は、男性が5.7(4.4~8.1)年、女性が5.4(4.3~7.3)年。肥満による損失身体機能年数は、それぞれ5.1(3.9~7.0)年と7.5(6.1~9.5)年、高血圧症は2.3(1.6~3.4)年と3.0(2.3~4.0)年、糖尿病は5.6(4.2~8.0)年と6.3(4.9~8.4)年、喫煙は3.0(2.2~4.3)年と0.7(0.1~1.5)年だった。

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