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DPP-4iとBG薬で糖尿病性合併症発生率に差はない――4年間の後方視的解析

 血糖管理のための第一選択薬としてDPP-4阻害薬(DPP-4i)を処方した場合とビグアナイド(BG)薬を処方した場合とで、合併症発生率に差はないとする研究結果が報告された。静岡社会健康医学大学院大学(現在の所属は名古屋市立大学大学院医学研究科)の中谷英仁氏、アライドメディカル株式会社の大野浩充氏らが行った研究の結果であり、詳細は「PLOS ONE」に8月9日掲載された。 欧米では糖尿病の第一選択薬としてBG薬(メトホルミン)が広く使われているのに対して、国内ではまずDPP-4iが処方されることが多い。しかし、その両者で合併症の発生率に差があるかは明らかでなく、費用対効果の比較もほとんど行われていない。これを背景として中谷氏らは、静岡県の国民健康保険および後期高齢者医療制度のデータを用いた後方視的解析を行った。 2012年4月~2021年9月に2型糖尿病と診断され、BG薬またはDPP-4iによる治療が開始された患者を抽出した上で、心血管イベント・がん・透析の既往、糖尿病関連の入院歴、インスリン治療歴、遺伝性疾患などに該当する患者を除外。性別、年齢、BMI、HbA1c、併存疾患、腎機能、肝機能、降圧薬・脂質低下薬の処方、喫煙・飲酒・運動習慣など、多くの背景因子をマッチさせた1対5のデータセットを作成した。 主要評価項目は脳・心血管イベントと死亡で構成される複合エンドポイントとして、イベント発生まで追跡した。副次的に、糖尿病に特異的な合併症の発症、および1日当たりの糖尿病治療薬剤コストを比較した。追跡開始半年以内に評価対象イベントが発生した場合はイベントとして取り扱わなかった。 マッチング後のBG薬群(514人)とDPP-4i群(2,570人)の特徴を比較すると、平均年齢(68.39対68.67歳)、男性の割合(46.5対46.9%)、BMI(24.72対24.67)、HbA1c(7.24対7.22%)、収縮期血圧(133.01対133.68mmHg)、LDL-C(127.08対128.26mg/dL)、eGFR(72.40対72.32mL/分/1.73m2)などはよく一致しており、その他の臨床検査値や併存疾患有病率も有意差がなかった。また、BG薬、DPP-4i以外に追加された血糖降下薬の処方率、通院頻度も同等だった。 中央値4.0年、最大8.5年の追跡で、主要複合エンドポイントはBG薬群の9.5%、DPP-4i群の10.4%に発生し、発生率に有意差はなかった(ハザード比1.06〔95%信頼区間0.79~1.44〕、P=0.544)。また、心血管イベント、脳血管イベント、死亡の発生率を個別に比較しても、いずれも有意差はなかった。副次評価項目である糖尿病に特異的な合併症の発生率も有意差はなく(P=0.290)、糖尿病性の網膜症、腎症、神経障害を個別に比較しても、いずれも有意差はなかった。さらに、年齢、性別、BMI、HbA1c、高血圧・脂質異常症・肝疾患の有無で層別化した解析でも、イベント発生率が有意に異なるサブグループは特定されなかった。 1日当たり糖尿病治療薬剤コストに関しては、BG薬は60.5±70.9円、DPP-4iは123.6±64.3円であり、平均差63.1円(95%信頼区間56.9~69.3)で前者の方が安価だった(P<0.001)。 著者らは、本研究が静岡県内のデータを用いているために、地域特性の異なる他県に外挿できない可能性があることなどを限界点として挙げた上で、「2型糖尿病患者に対して新たに薬物療法を開始する場合、BG薬による脳・心血管イベントや死亡および糖尿病に特異的な合併症の長期的な抑制効果はDPP-4iと同程度であり、糖尿病治療薬剤コストは有意に低いと考えられる」と総括している。

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GNEミオパチー〔GNE myopathy〕

1 疾患概要■ 概念・定義GNEミオパチーは、常染色体潜性遺伝形式をとる進行性の筋疾患である。主に遠位筋から障害されるため、遠位型ミオパチーに分類される。筋病理所見では、縁取り空胞(図1)が特徴的に認められる。図1 GNEミオパチー患者でみられる縁取り空胞を伴う筋線維(mGT染色)画像を拡大する1981年にわが国で「縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチー(distal myopathy with rimmed vacuoles:DMRV)」として最初に報告された。同じ頃、欧米では「遺伝性封入体ミオパチー(hereditary inclusion body myopathy:hIBM)」として報告された。2001年にはGNE遺伝子の変異が原因であることを特定され、「GNEミオパチー」という名称に統一された。■ 疫学わが国には約400人の患者がいると推定されるまれな疾患である。本症は世界的にも珍しいが、日本人、中東のペルシャ系ユダヤ人、インド人、中国人、北アイルランド人、ブルガリアのロマ人など、特定の民族や地域で高頻度の遺伝子変異(創始者バリアント)がみつかっており、これらの集団で患者が多くみられる。■ 病因GNE遺伝子の変異(アロステリック部位以外)が原因であり、9割以上がミスセンス変異である。GNE遺伝子は、シアル酸生合成経路の律速酵素であるウリジン二リン酸-N-アセチルグルコサミン(UDP-GlcNAc)2-エピメラーゼ/N-アセチルマンノサミンキナーゼ(GNE/MNK)をコードしている。GNE遺伝子変異によりこれらの酵素活性が低下し、シアル酸の産生が減少する。これにより、組織中の糖タンパク質や糖脂質の低シアル化を引き起こされ、筋力が低下すると考えられる(図2)。図2 GNE遺伝子変異によるシアル酸生合成の低下画像を拡大する■ 症状平均発症年齢は28歳で、多くの患者は20~30歳代で発症する。ただし、一部若年発症例や高齢発症例も存在し、国内の患者登録データによれば、発症年齢は12~62歳にわたる。初期症状としては、歩き方の変化やつまずき易さ、スリッパが履けないなどの症状が多くみられる。中殿筋や内転筋の筋力低下による腰椎前彎や股関節外転、前脛骨筋の筋力低下による下垂足が特徴的な歩容として現れる。病気の進行に伴い、下腿全体、手指、頸部前屈の筋力が低下し、その後上肢全体や体幹の筋力も低下する。大腿四頭筋の筋力は長期間よく保たれ、歩行不能となってからも膝を伸なす力が保たれることが特徴的である。疾患の進行速度は患者によってさまざまであるが、全体としては、発症年齢が若いほど進行が速い傾向がある。たとえば、10歳代で発症した患者の歩行喪失までの平均期間は9年、20歳代では15年、30歳代では27年と報告されている。わが国の患者の9割は、p.D207Vとp.V603Lという2つの創始者変異のいずれかまたは両方を有している。p.D207V保有例は比較的軽症であり、p.V603L保有例はやや重症の臨床経過をたどる傾向がある。たとえば、p.V603Lのホモ接合体では平均10年で歩行能力を失うのに対し、p.D207V/p.V603L複合ヘテロ接合体では発症から20年経過しても90%以上が歩行可能であると推定されている。p.D207Vホモ接合例はこれまで数例しかみつかっておらず、大半が無症状のまま生涯を終えるのではないかと推定されている。また、歩行喪失してから呼吸機能が低下する例がみられるため、呼吸機能の定期的な評価が重要である。とくにp.V603Lホモ接合体の患者では呼吸機能障害のリスクが高く、一方でp.D207V/p.V603L複合ヘテロ接合体ではほとんどみられない。近年の研究では、GNEミオパチー患者において血小板減少症や睡眠時無呼吸症候群の合併が一般集団より高頻度で報告されている。血小板減少症の機序として、血小板膜はシアル酸に富んでいるが、患者の血小板は脱シアリル化した糖鎖を発現しており、肝臓で除去されるためと考えられている。睡眠時無呼吸症候群については、その病態メカニズムはまだ解明されていない。妊娠・出産に関しては、GNEミオパチー患者でもおおむね良好な経過をたどることが報告されている。しかし、切迫流産のリスクがやや高く、約2割の患者が出産後に筋力低下の進行を自覚している。また、出産後1年以内に発症した例も報告されており、出産が病気の進行に影響を与える可能性も示唆されている。ただし、育児による身体的負担の増加が症状の自覚を促した可能性もあり、さらなる研究が必要である。■ 予後呼吸機能障害も比較的軽症で、重症例でも夜間の非侵襲的人工呼吸のみで維持できる例がほとんどであり、その他、明らかな心機能障害や嚥下障害の合併はみられず、生命予後は良好と考えられる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)GNE遺伝子にホモ接合型または複合ヘテロ接合型変異があり、臨床的特徴が一致する場合、もしくは筋生検所見で縁取り空胞を伴う筋線維を認めた場合、診断が確定する。遺伝子診断がついていない例に関しては、通常の遺伝学的診断では検出できない変異を有する可能性があることから、臨床的特徴および筋生検所見の両方が本症と一致した場合はGNEミオパチー疑い例とする。■ 各種検査所見(1)血液検査クレアチンキナーゼ(CK)上昇が症状の自覚がない時点から観察され、2,500IU/L以下の軽度高値を示すことが多い。筋肉の萎縮に伴い低下し、歩行喪失後はむしろ低値となる。(2)針筋電図筋原性変化を示す。ただし、随意収縮では一見神経原性を思わせる高振幅の運動単位がみられることがある。(3)骨格筋画像中殿筋・大腿屈筋群の脂肪置換が著明な一方、大腿四頭筋が保たれる。体幹では肩甲下筋が早期から脂肪置換される。(4)筋生検縁取り空胞を伴う大小不同の萎縮筋線維が特徴的である(図1)。筋線維内のβアミロイド沈着、ユビキチン陽性封入体、p62陽性凝集体、リン酸化タウなどの所見も認めるが、通常強い炎症反応は伴わない。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ シアル酸補充療法(シアル酸徐放錠承認、ManNAc/シアリル乳糖海外治験実施中)モデルマウスへの実験で、シアル酸の経口投与が発症前から行われると発症が予防され、発症後からの投与でも筋症状が改善することが明らかになった。この結果を受け、シアル酸補充療法の臨床試験が各国で実施された。まず、シアル酸は速やかに尿中に排泄されるため、その効果を持続させるために徐放錠が開発された。シアル酸徐放錠の第III相国際共同治験では有意な差が得られず、海外では開発が中止されたが、同様の臨床試験デザインで実施された国内第II/III相試験では上肢筋力の維持が確認された。その結果、2024年3月、アセノイラミン酸(商品名:アセノベル徐放錠500mg)がわが国で承認され、GNEミオパチーに対する世界初の承認薬となった。また、海外ではシアル酸代謝産物のManNAcやシアリル乳糖の臨床試験が行われており、筋力低下や筋の脂肪置換に対する一定の効果が認められ、今後の臨床応用が期待されている。■ 抗酸化剤(モデルマウスで効果実証)モデルマウスへの実験で、低シアリル化により活性酸素種(Reactive Oxygen Species:ROS)の産生が増加すること、シアリル化が改善することでROSやプロテインS-ニトロシル化が減少すること、さらには抗酸化剤であるN-アセチルシステインをモデルマウスに経口投与することで筋萎縮が改善することが報告され、酸化ストレスの軽減が治療ターゲットとなりうることが明らかになった。■ 遺伝子治療(研究中)本症は、1種類の遺伝子の変異により発症する単一遺伝子疾患であり、遺伝子治療による治癒が期待されている。アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター8型を用いたモデルマウスへの治療では、シアル酸の増加が確認されており、その有効性が期待されている。しかし、本症の患者の約半数がAAV中和抗体を持っているとの報告があり、その場合、AAVベクターの治療効果が得られない可能性が懸念されている。さらに、本症の標的臓器が全身の骨格筋という広範囲にわたるため、遺伝子治療においては染色体への遺伝子挿入のリスクや増殖性ウイルスの出現の可能性を最大限に減らす工夫が必要である。このため、低用量で骨格筋特異的なベクターの開発が試みられている。4 今後の展望GNEミオパチーの治療において、重要な進展があった。先述のシアル酸徐放錠であるアセノイラミン酸が世界初の治療薬として承認され、これにより早期診断・治療介入の重要性が高まっている。しかし、この治療薬の効果は十分とは言えず、より効果的な治療法の開発が進められている。具体的には、より効果的なシアル酸補充療法の研究に加え、抗酸化薬や遺伝子治療などのシアル酸補充療法以外のアプローチも試みられている。これらの新しい治療法の開発により、GNEミオパチー患者のためのさらなる治療法選択肢が増えることが期待されている。また、GNEミオパチーの患者レポジトリを用いた実態調査研究により、本症の理解が深まってきた。今後は、長期的な経過の解明や合併症の病態メカニズムの解明が期待されている。5 主たる診療科脳神経内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 遠位型ミオパチー(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本神経学会 GNEミオパチー 診療の手引き(医療従事者向けのまとまった情報)国内レジストリ 神経筋疾患患者登録Remudy(GNEミオパチー)(医療従事者向けのまとまった情報。国内患者登録サイトおよび最新情報のニュースレター)患者会情報遠位型ミオパチー患者会(患者とその家族及び支援者の会)遠位型ミオパチーガイドブック(2018年8月刊行)(患者会が作成したガイドブック)1)難治性疾患等政策研究事業 希少難治性筋疾患に関する調査研究班編集. GNEミオパチー診療の手引き.2)Yoshioka W, et al. J Neurol. 2024;271:4453-4461.3)Yoshioka W, et al. Curr Opin Neurol. 2022;35:629-636.4)Suzuki N, et al. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2024:jnnp-2024-333853.5)Yoshioka W, et al. Sci Rep. 2022;12:21806.公開履歴初回2024年10月10日

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後発品使用(調剤)加算の特例措置、7回目の延長へ【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第139回

まだまだ後発医薬品の流通が適正化されません。2024年9月24日付事務連絡「後発医薬品の出荷停止等を踏まえた診療報酬上の臨時的な取扱いについて」が出され、いわゆる後発医薬品使用(調剤)体制加算などにおける臨時的な取り扱いが半年間延長されました。後発医薬品の出荷停止等を踏まえた診療報酬上の臨時的な取扱いについて(抜粋)一部の供給停止品目と同一成分・同一投与形態の医薬品について、後発医薬品の使用(調剤)割合を算出する際に除外しても差し支えないものとする。2025年3月31日を終期とする。除外対象となる医薬品は102成分825品目。この通知は半年ごとに出されており、もう7回目になります。もうそんなになるのか…と遠い目をしている人も少なくないでしょう。後発医薬品製造会社である小林化工(現在は業を廃止)のGMP違反が発覚したのが2020年末で、後発医薬品の欠品や出荷調整などの供給不安が薬局運営に影を落とし始めたのが2021年春ごろでした。そのような状況を受け、2021年9月21日に最初の通知が出され、一部の供給停止品目と同一成分・同一投与形態の医薬品は、後発医薬品の使用(調剤)割合を算出する際に除外してもよいとされました。新たな通知を出すことでこの臨時的な取り扱いを半年間延ばし続けています。もう3年以上もこの通知が出続けているということは、後発医薬品の在庫が足りず、薬局において在庫を確保する負担がゆうに3年以上かかり続けているということです。そろそろいい加減にしてくれよと言いたくなります。一番大変だったときと比べると少しは改善している気もしますが、来年の3月末までに解消している気はしないので、また半年延長になるんでしょ…という半ばあきらめの予測をせざるを得ません。一方で、10月から選定療養が始まりました。後発医薬品のある先発医薬品(いわゆる長期収載品)を希望した場合、その後発医薬品の差額の4分の1相当を患者さんが自己負担する仕組みです。長期収載品を希望する理由は人それぞれですが、患者さんの中には「なんとなく安全そうだから」というざっくりとしたイメージから希望している人も少なくなく、「では、差額を頂戴します」と言われると「じゃあ後発医薬品で」となることは安易に想像できます。結果として後発医薬品の使用割合がさらに上がり、後発医薬品の在庫調達問題はより厳しくなることは間違いないでしょう。また半年後にしれっと延長の通知が出るのか、何か根本的に改善されるような一手が打たれるのか。後者を期待しながら、日々の在庫調達に励むしかないのかな…と思うところです。

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肺がん診療のリアル

肺がん診療の現在(リアル)がわかる! 肺がん診療が面白くなる!!呼吸器専門医・がん治療認定医である経験豊富な著者が実際に肺がん患者さんに対して行っている診療を1冊の書籍にまとめました。本書は著者が発信している肺がん患者さん向けのYouTube『呼吸器ドクターNの肺がんチャンネル』とも連動しており、QRコードで関連動画に簡単にアクセスできます。本書とあわせて動画をご視聴いただくと、肺がん診療についてさらに理解を深めていただくことができるはずです。本書を通じて肺がん診療のリアルを感じてください。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する肺がん診療のリアル定価4,950円(税込)判型A5判頁数250頁発行2024年10月著者野口 哲男(市立長浜病院呼吸器内科/呼吸器ドクターN)ご購入はこちらご購入はこちら

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ESMO2024レポート 消化器がん

レポーター紹介本年、スペインのバルセロナで欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2024)が、現地時間9月13~17日にハイブリッド開催で行われた。注目の演題が多数報告されていたが、今回は消化器がん(消化管がん)の注目演題について、実臨床に影響してきそうなものを含め、いくつか取り上げていきたい。胃がんと食道胃接合部がん、術前化学放射線療法は有用性を示せず(TOPGEAR試験)LBA58 - A randomized phase III trial of perioperative chemotherapy (periop CT) with or without preoperative chemoradiotherapy (preop CRT) for resectable gastric cancer (AGITG TOPGEAR): Final results from an intergroup trial of AGITG, TROG, EORTC and CCTG.TOPGEAR試験は、切除可能胃がんもしくは食道胃接合部がんに対して、周術期化学療法群(3サイクルのECF療法もしくは4サイクルのFLOT療法を術前・術後に行う)と術前化学療法群(2サイクルのECF療法もしくは3サイクルのFLOT療法を行った後、5-FU静注+45Gy/25照射の術前化学放射線療法を施行し、術後化学療法は術前と同じものを行う)を比較した第III相試験である。術前化学放射線療法の優越性を検証する試験であり、主要評価項目は全生存期間(OS)で、副次評価項目は無増悪生存期間(PFS)、病理学的完全奏効率(pCR rate)、毒性と手術合併症およびQOLであった。2009年9月~2021年5月に15ヵ国70施設から574例が登録され、周術期化学療法群に288例、術前化学放射線療法群に286例が登録された。患者背景はT3/4が88%、リンパ節転移ありもしくは不明が61~62%およびECF使用例が67%、FLOT使用例が33%であった。pCR率は16.8% vs.8.0%と術前化学放射線療法群で有意に高かったが(p<0.0001)、R0切除率は92.4% vs.87.7%で有意差を認めなかった(p=0.09)。術後化学療法を受けられた症例は全ランダム化群で比較すると、56% vs.66%と術前化学放射線療法群で有意に低かった(p=0.01)。術前化学放射線療法群と周術期化学療法群で比較すると、OSは46.4ヵ月vs.49.4ヵ月(ハザード比[HR]:1.05、p=0.70)で術前化学放射線療法の優越性は示せず、5年OS率も44.4% vs.45.7%であった。PFSも31.4ヵ月vs.31.8ヵ月(HR:0.98、p=0.86)で優越性は示せなかった。サブグループ解析においても、とくに術前化学放射線療法の有効なグループははっきりしなかった。以上の結果より、切除可能な胃がんもしくは食道胃接合部がんに対して術前化学放射線療法の有効性は証明できなかった。今後は、化学療法+免疫チェックポイント阻害薬の周術期試験の結果が待たれるところである。HER2陽性胃がんに対する化学療法+トラスツズマブ+ペムブロリズマブ、OSを延長(KEYNOTE-811試験)1400O - Final overall survival for the phase III, KEYNOTE-811 study of pembrolizumab plus trastuzumab and chemotherapy for HER2+ advanced, unresectable or metastatic G/GEJ adenocarcinoma.KEYNOTE-811試験はHER2陽性胃がんに対する1次治療として化学療法+トラスツズマブにペムブロリズマブの上乗せ効果を検証するプラセボ使用ランダム化第III相試験で、奏効率などのデータはすでに報告されていた。今回はOSの最終解析結果が報告された。698例がランダム化され、350例がペムブロリズマブ群に、348例がプラセボ群に登録された。OSはペムブロリズマブ群vs.プラセボ群で20.0ヵ月vs.16.8ヵ月と、有意に延長した(HR:0.80、p=0.0040)。PFSも10.0ヵ月vs.8.1ヵ月(HR:0.73)、奏効率も72.6% vs.60.1%と、ペムブロリズマブ群で良好であった。サブグループ解析では、PD-L1発現がCPS1以上の場合にはOSが20.1 vs.15.7ヵ月(HR:0.79)、PFSが10.9 vs.7.3ヵ月(HR:0.72)かつ奏効率が73.2% vs.58.4%とより良好な結果であったのに対し、CPS1未満ではOSが18.2ヵ月vs.20.4ヵ月(HR:1.10)かつPFSが9.5ヵ月vs.9.5ヵ月(HR:0.99)と、ペムブロリズマブの効果が弱まる傾向があった。CPS1未満は本試験では15%に認められており、現在欧米ではHER2陽性かつPD-L1がCPS1以上の症例に対してペムブロリズマブの使用が推奨されているが、本邦でどのような条件で保険承認されるのかが注目される。肛門管がんに新たな治療選択肢の可能性が現れる(POD1UM-303試験)LBA2 - POD1UM-303/InterAACT 2: Phase III study of retifanlimab with carboplatin-paclitaxel (c-p) in patients (Pts) with inoperable locally recurrent or metastatic squamous cell carcinoma of the anal canal (SCAC) not previously treated with systemic chemotherapy (Chemo).肛門管の扁平上皮がんに対しては、局所進行例でマイトマイシン+5-FU+放射線療法が行われることが多かったが、切除不能局所再発例や転移を有する症例に対する標準治療は長らく確立されていなかった。今回、カルボプラチン+パクリタキセルを標準治療とし、抗PD-1抗体薬であるretifanlimabの上乗せ効果を検証する二重盲検プラセボランダム化第III相試験が行われ、その結果が報告された。主要評価項目はPFS、副次評価項目がOSであった。2024年4月までに308例が登録され、retifanlimab群に154例とプラセボ群に154例が登録された。年齢中央値は62歳で女性が72%、HIV感染陽性が4%、36%が肝転移を有していた。主要評価項目であるPFSは9.30ヵ月vs.7.39ヵ月とretifanlimab群で有意に延長を認めた(HR:0.63、p=0.0006)。OSは29.2ヵ月vs.23.0ヵ月、奏効率は55.8% vs.44.2%であった。本試験はPFSの観察期間中央値が約7ヵ月かつOSの観察期間中央値が約14ヵ月程度とまだ短い試験であるが、希少がんである肛門管がんの全身化学療法の標準治療はエビデンスに乏しいのが現状であった。本試験のディスカッサントも触れていたが、カルボプラチン+パクリタキセル+プラセボ群の治療成績は、従来の5-FU+シスプラチンと比較して良好であった。患者や医療者にとって、カルボプラチン+パクリタキセルおよびカルボプラチン+パクリタキセル+retifanlimabは有望な治療になりうると考えられ、本邦でも使用可能になることが待たれる状況である。局所進行直腸がんに対する臓器温存治療の可能性(NO-CUT試験)509O - Total neoadjuvant treatment (TNT) with non-operative management (NOM) for proficient mismatch repair locally advanced rectal cancer (pMMR LARC): First results of NO-CUT trial.現在、局所進行直腸がんに対する化学療法と放射線療法を用いたTotal Neoadjuvant Therapy(TNT)は、非常に重要な戦略として世界中で研究が進んでいる。TNTを行った後に臨床的完全奏効(cCR)となった症例では、切除を避けて手術なしの経過観察であるNon Operative Monitoring(NOM)に持ち込める可能性も示唆されている。今回、pMMR局所進行直腸がんに対してTNTを行いcCRとなった症例に対して無遠隔再発生存期間(DRFS)を損なわないかを検証し、かつ腫瘍および血液のマルチオミクス解析を行う単群第II相試験であるNO-CUT試験の初回報告が行われた。4つのがんセンターからcT3-4N0/cTxN1-2の下部/中部pMMR局所進行直腸がん症例を対象に、4サイクルのCAPOX療法に続いて5週間にわたる化学放射線療法(カペシタビン+IMRT)を行うTNTが実施された。主要評価項目は30ヵ月の無遠隔再発生存率で、副次評価項目はpCR率、NOM群における臓器温存率であった。TNT終了後、cCRパラメータに基づくプロトコルアルゴリズム(Siena S, et al. ASCO 2023.)に従って、患者は手術群またはNOM群に割り付けられた。2018~24年に、180例がTNTを受け、164例(91%)がプロトコルどおりに治療を完了し、46例(25.5%)がpCRを達成し、NOMに割り当てられた。治療効果がincomplete response(IR)であった群(134例)では手術が行われた。30ヵ月無遠隔再発生存率はNOM群で96.9%と主要評価項目を達成した。IR群も含めた全体集団での30ヵ月無遠隔再発生存率は77%であった。NOM群の臓器温存率は85%で、局所再発は46例中7例発生し、全症例で救済手術が行われた。局所再発はすべて治療後4~18ヵ月で発生した。2024年4月1日時点で、12例の死亡(6.6%)が報告された(有害事象1例、腫瘍関連9例、その他2例)。マルチオミクス相関解析が進行中で、TNT後のctDNAはcCR例では8%で陽性であったがそれ以外では31%で陽性であり、陽性例では有意に遠隔転移再発が多く認められた。またTNTでpCRに至らなかった症例の手術後のctDNA陽性例で有意に遠隔転移再発が多いことも報告された。治療前の検体解析ではRNAシーケンスに基づく白血球スコアはcCRと関連し、Paneth細胞様表現型(CRIS-E)は遠隔転移再発と関連した。本結果より、TNTによるcCRを得られた症例では臓器温存の可能性が示唆された。本試験はまだ初回報告であること、本邦でも局所進行直腸がんに対する複数のTNTの試験が進行していることから、これらの結果が明らかになり、本邦で適切に患者に届けられる時代が来ることが待ち望まれる。MSI-H(dMMR)結腸がんの術前イピリムマブ+ニボルマブ(NICHE-2試験)LBA24 - Neoadjuvant immunotherapy in locally advanced MMR-deficient colon cancer: 3-year disease-free survival from NICHE-2.MSI-High(dMMR)の直腸がんについては、術前治療が非常に奏効することが複数報告されている。結腸がんについては転移のあるdMMR結腸がんにおいて免疫チェックポイント阻害薬の有用性が報告されており、本邦でも現在切除不能dMMR結腸がんの1次治療の標準治療はペムブロリズマブであり、今後イピリムマブ+ニボルマブの登場が待たれている状況である。NICHE-2試験は局所進行dMMR結腸がんに対する術前治療としてのイピリムマブ+ニボルマブ療法の有効性を探索する単群第II相試験であり、1コース目にイピリムマブ+ニボルマブを行い、2コース目にニボルマブ単剤療法を行った後、手術を行う試験デザインである。主要評価項目は安全性と3年無病生存(DFS)率、副次評価項目はpCR率、translational research・ctDNAの変動であった。すでに高い病理学的奏効率と安全性が報告されていたが、今回3年DFS率とctDNAのデータが報告された。115例が登録され、女性が58%、T4が65%でT4bが29%、リンパ節転移ありが67%かつ33%がLynch症候群といった対象であった。既報のとおりpCR率は68%であり、3年DFS率は100%であった。ctDNAは治療前の段階では92%で陽性であったが、1コース後に45%が陰性となり、2コース後には83%が陰性となった。術前の段階でctDNA陽性であった16例のうち、術後のリンパ節転移が陽性であったのは14例中8例であった。また、術後のctDNAを用いたminimal residual diseaseの探索では、全例がctDNA陰性であった。本試験より局所進行dMMR結腸がんにおいて、イピリムマブ+ニボルマブは非常に魅力的な結果であった。本試験は2コースで術前治療が終わり、手術まで6週と定義されており、短期間で有効性が示されていることも魅力である。ESMO2024では同様の局所進行dMMR結腸がんに対してペムブロリズマブの有効性を探索したIMHOTEP試験や、ニボルマブ+relatlimab(抗LAG-3抗体)の併用療法の有効性を探索したNICHE-3試験も報告があった。局所進行MSI-H結腸がんの術前治療としての免疫チェックポイント阻害薬の有効性はおそらく確実であるが、どの対象にどの薬剤をどの期間使用するのがよいのかは、今後の研究が待たれる状況である。

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北海道大学 血液内科学教室【大学医局紹介~がん診療編】

豊嶋 崇徳 氏(教授)白鳥 聡一 氏(助教)杉村 駿介 氏(後期研修医)講座の基本情報医局独自の取り組み、医師の育成方針私たちの使命は、1人ひとりの患者さんの診療を大切にし、地域の医療を守りながら、同時に世界的な医療の発展に貢献するような高いレベルの臨床研究、基礎研究を推進していくことです。そのために、患者さんの味方として、心・人生を支える確固たる姿勢を持ち、同時に疾患を科学的に徹底して分析する姿勢を持ち、尊敬され感動を与える医師を育てたいと考えています。臨床研究にあたっては、北大の40床では世界に太刀打ちできません。そこでスケールメリットを生み出すために北日本血液研究会を設立し、500床以上の大規模な臨床研究を実施し、世界に対しエビデンスを創出しています。血液疾患ではほかの多くの疾患と異なり、診断・治療の大部分が血液内科医1人の双肩にかかってきます。責任重大ですが、患者さんとの強い信頼感、連帯感が生まれ、医師としての達成感、生きがいを強く感じることができます。 さらに最も高いレベルでの全身管理、トータルケア能力が要求され、臓器別診療の垣根を越えた総合内科医としての実力も身に付きます。 また分子標的療法、移植療法など、基礎研究の成果の臨床応用を目の当たりできるのも血液内科ならではです。明るく、自由度が高く、外に開かれ、1人ひとりのスタッフの夢を実現できるような“新生”血液内科を目指しています。若き情熱にあふれた皆様の教室への参加を心よりお待ちしています。力を入れている治療/研究テーマ当科では、基礎、臨床共に精力的に研究を行っています。臨床研究の分野では、「同種造血幹細胞移植」を主なテーマとして取り組んでおり、代表的な研究として、移植後の重篤な合併症である「移植片対宿主病(GVHD)」の新たな予防法を開発してきました。「移植後シクロホスファミド法」は、GVHDのリスクが高いHLA半合致移植(親子間移植等)における有効性が、当科を中心とした全国試験で証明され、国内のガイドラインで推奨されるに至り、現在では保険診療下で使用可能となりました。また「低用量抗ヒト胸腺細胞グロブリン法」も、当科を中心とした全国試験で高いGVHD予防効果が証明され、こちらもガイドラインへの掲載に至りました。さらに、同じく重篤な移植後合併症である「肝類洞閉塞症候群」に対し、当院の超音波センターとの共同研究で、超音波検査を用いて早期に診断する「HokUS-10スコアリングシステム」を開発しました。こちらのシステムも、国内のガイドライン、さらには最新の国際診断基準に掲載される等、国内外から高い評価を得ています。医局の魅力、医学生/初期研修医へのメッセージ当科では、同種造血幹細胞移植やキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法や治験等、最先端の血液内科診療に触れる環境が整っており、研究への高いモチベーションにつながっています。当科はフロンティア精神に溢れた教室で、これからも活気ある教室を目指して臨床、教育、研究を精力的に進めていきますので、興味のある方はいつでもご連絡をお待ちしています。カンファレンス風景入局した理由私が北海道大学病院血液内科に入局した理由は、学生時代に受講した臨床講義で血液内科に強い興味を持ち、全身管理を必要とする内科的診療に魅力を感じたからです。さらに、道内各都市に関連施設があるため、地域との強いネットワークが構築されており、地域医療に貢献する意義を実感できることも大きな動機となりました。現在学んでいること大学病院における最先端の医療技術や、地域医療でのリアルワールドな診療を通じて、血液内科疾患について幅広く学んでいます。これらの経験は、理論と実践を結びつける貴重な機会となり、医療の多様な側面を理解する助けとなっています。また、上級医からの指導を受けることで、最新の治療法や研究動向について常に学び、日々成長を実感しています。今後のキャリアプラン来年度からは院生として研究活動にも取り組む予定です。臨床と研究の両面から血液内科を学ぶことで深みのある医師を目指しています。将来的には、専門医としての知識を深め、教育や地域医療への貢献も視野に入れたキャリアを築いていきたいと考えています。北海道大学大学院医学研究院 内科系部門内科学分野血液内科学教室住所〒060-8638 北海道札幌市北区北15条西7丁目問い合わせ先s.shiratori@med.hokudai.ac.jp医局ホームページ北海道大学大学院医学研究院 内科系部門内科学分野血液内科学教室専門医取得実績のある学会日本内科学会日本血液学会日本造血・免疫細胞療法学会日本輸血・細胞治療学会日本検査血液学会日本血栓止血学会日本臨床検査医学会日本エイズ学会研修プログラムの特徴(1)同種造血幹細胞移植、CAR-T療法等、最先端の血液内科医療に携わることができます。(2)チームによる診療体制を組んでおり、常に上級医からの指導・サポートを受けることができます。(3)北海道全域に関連病院を有しており、幅広い血液内科診療を経験できます。

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やりがい?ワークライフバランス?若手医師が専攻領域を選んだ理由・変更した理由

 医師の総数は増加をしている中、外科などの一部診療科の増加が乏しいことに対して、どのような対策が考えられるか。9月20日に開催された厚生労働省の「第6回医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会」では、これらの課題を考えるうえでの参考資料として、厚生労働科学特別研究「日本専門医機構における医師専門研修シーリングによる医師偏在対策の効果検証」から、「現在の基本領域を選択した理由」や「希望していた基本領域を選択しなかった理由」について聞いた専攻医へのアンケート結果が示された。本稿では、その内容の一部を紹介する。 同研究では、2020~23年度に19基本領域の専門研修プログラムに登録した専攻医3万6,427人を対象に、2024年2月27日~2024年3月22日にWEB形式によるアンケート調査を実施した。有効回答数は1万5,857件で、有効回答率は46.3%であった。基本領域を選んだ理由は“やりがい”が最も多いが、領域による違いも 現在の専門研修プログラムの基本領域を選択した理由としては、全体でみると「やりがいを感じるから」(62.6%)が最も多く、次いで「将来にわたって専門性を維持しやすいから」(36.6%)となったが、選択した基本領域によって、その選択理由は異なっていた。「やりがいを感じるから」が理由として最も多かった領域が多数を占めたが、小児科(86.0%)、産婦人科(81.5%)、外科(77.7%)、脳神経外科(75.8%)ではこの割合がとくに高かった。 皮膚科(52.7%)、放射線科(61.9%)、麻酔科(59.7%)、病理(53.4%)、臨床検査(51.0%)、リハビリテーション科(62.8%)では「ワークライフバランスの確保ができるから」が最も多く、総合診療科では「総合的な診療能力を獲得しやすいと思ったから」(63.9%)、耳鼻咽喉科は「手技が多いから」(53.5%)、眼科は「将来にわたって専門性を維持しやすいから」(52.8%)が最も多かった。希望していた基本領域を選択しなかった理由は 希望していた基本領域を選択しなかった理由としては、全体でみると「将来的に専門性を維持しづらいから」が17.2%で最も多く、次いで「仕事の内容が想像と違ったから」(14.9%)、「ワークライフバランスの確保が難しいから」(14.8%)であった(n=1,118)。各領域ごとの回答上位3つは以下の通り。内科:ワークライフバランスの確保が難しいから(27.0%)、仕事の内容が想像と違ったから(16.9%)、専門医が取得しづらいから(16.9%)小児科:ワークライフバランスの確保が難しいから(24.2%)、その他(22.6%)、医師が不足していて過酷なイメージがあるから(16.1%)皮膚科:定員が厳しいから/採用試験で受からなかったから(34.5%)、専門医が取得しづらいから(16.1%)、医師が過剰であり競争が激しいイメージがあるから(12.6%)精神科:定員が厳しいから/採用試験で受からなかったから(25.9%)、医師が過剰であり競争が激しいイメージがあるから(24.1%)、仕事の内容が想像と違ったから/その他(17.2%)外科:ワークライフバランスの確保が難しいから(33.9%)、将来的に専門性を維持しづらいから(24.8%)、医師が不足していて過酷なイメージがあるから(21.1%)整形外科:仕事の内容が想像と違ったから(28.2%)、適性・才能がないから/医師が過剰であり競争が激しいイメージがあるから(15.4%)産婦人科:訴訟リスクが大きいから/その他(22.0%)、医師が不足していて過酷なイメージがあるから(17.1%)眼科:定員が厳しいから/採用試験で受からなかったから(33.3%)、医師が過剰であり競争が激しいイメージがあるから(17.5%)、その他(12.7%)泌尿器科:その他(17.2%)、適性・才能がないから/継続したキャリアプランが見えづらいから(13.8%)脳神経外科:ワークライフバランスの確保が難しいから(41.4%)、将来的に専門性を維持しづらいから/医師が不足していて過酷なイメージがあるから(27.6%)放射線科:専門領域の将来性に不安を感じたから/その他(23.1%)、仕事の内容が想像と違ったから/開業しにくいから(15.4%)麻酔科:その他(18.3%)、将来的に専門性を維持しづらいから/開業しにくいから(15.0%)救急科:将来的に専門性を維持しづらいから(27.7%)、仕事の内容が想像と違ったから(22.9%)、継続したキャリアプランが見えづらいから(18.1%)形成外科:定員が厳しいから/採用試験で受からなかったから(25.3%)、その他(17.7%)、ワークライフバランスの確保が難しいから(12.7%)リハビリテーション科:将来的に専門性を維持しづらいから(30.0%)、やりがいを感じないから/継続したキャリアプランが見えづらいから(26.7%)総合診療:将来的に専門性を維持しづらいから(39.8%)、継続したキャリアプランが見えづらいから(20.5%)、仕事の内容が想像と違ったから(17.0%)※回答数が20人以下の耳鼻咽喉科、病理、臨床検査の結果は割愛

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症候性心房細動への肺静脈隔離術vs.シャム/JAMA

 症候性心房細動に対する肺静脈隔離術(PVI)はシャム(偽手技)との比較において、6ヵ月時の心房細動負荷が統計学的に有意に減少し、症状と生活の質は大幅に改善した。英国・Eastbourne District General HospitalのRajdip Dulai氏らが、無作為化二重盲検比較試験「SHAM-PVI試験」の結果を報告した。心房細動の治療において、PVIには大きなプラセボ効果があるかもしれないとの懸念があるが、これまで無作為化二重盲検比較試験は実施されていなかった。JAMA誌オンライン版2024年9月2日号掲載の報告。埋込み型ループレコーダーで心房細動負荷を評価 研究グループは、2020年1月~2024年3月に英国の3次医療機関2施設で、クラスIまたはIIIの抗不整脈薬(β遮断薬を含む)による治療にもかかわらず症候性の発作性または持続性心房細動を有し、カテーテルアブレーションのため紹介された患者を登録し、クライオバルーンカテーテルを用いたPVI群または横隔神経ペーシングのみのシャム群に無作為に割り付けた。 主な除外基準は、長期(1年以上)にわたる持続性心房細動、左心房アブレーションまたは外科的アブレーション既往の患者、アブレーションを必要とするその他の不整脈を有する患者、左房径5.5cm以上、駆出率35%未満の患者などであった。 登録時に未装着の患者全例に埋込み型ループレコーダーが装着され、主要手技の2週間以上前には装着が完了し、心房細動負荷(心房細動累積時間)が評価された。 主要エンドポイントは、最初の3ヵ月間(ブランキング期間)を除く6ヵ月時の心房細動負荷(3ヵ月時~6ヵ月時の心房細動累積時間)であった。副次エンドポイントには、心房細動の症状やQOL(Atrial Fibrillation Effect on Quality of Life[AFEQT]質問票、Mayo AF-Specific Symptom Inventory[MAFSI]、European Heart Rhythm Association[EHRA]スコア、SF-36)、イベント発生までの時間、安全性などが含まれた。心房細動負荷、プラセボと比較してPVIで有意に減少 2020年1月~2023年8月に(2020年3月~2021年7月はCOVID-19のため一時中断)、126例が無作為化され(平均年齢66.8歳、男性89例[70.63%]、発作性心房細動20.63%)、123例が主要評価の解析対象集団となった。 6ヵ月時の心房細動負荷はベースラインからの絶対平均変化量としてPVI群で60.31%、シャム群で35.0%低下した(幾何平均群間差:0.25、95%信頼区間[CI]:0.15~0.42、p<0.001)。 6ヵ月時のAFEQT要約スコア(範囲:0~100、高スコアほど心房細動関連障害が軽度)の推定群間差は、PVI群が18.39ポイント(95%CI:11.48~25.30)高かった。MAFSIの頻度スコアおよび重症度スコアについても、PVI群が良好であった。また、SF-36で評価した健康関連QOLはPVIによる改善が示され、6ヵ月時の推定群間差は9.27ポイント(95%CI:3.78~14.76)とPVI群が良好であった。 なお、著者は研究の限界として、試験期間が6ヵ月と短かったこと、PVIに限定されていたこと、2施設のみの実施であったことなどを挙げている。

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高齢者NSTEMI治療における標準的治療法確立の難しさを示した研究(解説:野間重孝氏)

 本研究は英国心臓財団の助成によって行われ、結果は本年9月にロンドンで行われた欧州心臓病学会で発表された。その内容はInterventional Cardiology誌9月号に速報のかたちで掲載された。NEJM誌に掲載の論文が同じ9月に掲載されていること、また本文中にSENIOR-RITAという名称が付いても「はじめに」の部分で簡単に触れられているのみで論文の題名からも外されていることから、戸惑われた方も多かったのではないかと推察する。通常、正式発表の論文は学会発表からいくらか遅れるかたちで出版されるのが普通なのであるが、このあたり、研究グループが本研究成果を大きく報じたいと考えた意図がうかがえる。 急性冠症候群はST上昇型心筋梗塞(STEMI)、非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)、不安定狭心症に大別される。STEMIの場合は、可能な限り早急なprimary PCIが施行される必要があり、これは超高齢者であっても、大きな禁忌事項がない限り同様の治療方針が取られる。これに対してNSTEMIの治療方針は、年齢に関係なく二通りが考えられ、場合により選択されてきた。早期に造影検査およびインターベンションを行う侵襲的治療戦略と、保存的な治療を優先し急性期の侵襲的治療を回避する初期保存的治療戦略(非侵襲的治療戦略)である。この場合、リスク評価をいかに適切に行うかが重要となるが、近年ではリスク評価うんぬんを論じる以前に、大きな禁忌事項がない限り早期に侵襲的治療を行うべきであるという考え方が一般的となっている。実際、これをお読みの皆さんの関係施設においても、早期の侵襲的対応が可能な施設においては、特別な問題がない限り侵襲的治療が選択されているのではないだろうか。そして、この「特別な問題」として最も頻繁に問題になるのが年齢、それも75歳を超える超高齢の問題なのである。 NSTEMIをどう治療することが適切かについては、多くの研究がなされてきた。しかし、そもそもそういったエビデンスを構築するための研究から高齢者は除外されるのが常だった。このため、高齢者のNSTEMIの治療戦略についてはエビデンスがなく、事実上現場の医師の判断に委ねられてきたのが実態であった。もちろんいくつかの臨床研究はなされたが、どれもサンプル数や患者選択の問題から広く受け入れられる結果を出すには到らなかった。 この問題について初めてまとまった結果を発表したのが、2020年に発表されたSENIOR-NSTEMI試験であった。この研究では超高齢者であったとしても、侵襲的治療戦略のほうが保存的治療戦略よりも優れていると結論された。この論文は2020年8月のLancet誌に掲載され、このジャーナル四天王でも取り上げられたので(「NSTEMI、80歳以上でも侵襲的治療が優位/Lancet」)、ご記憶の向きも多いと思う。ただ、この試験はランダマイズ研究ではなく、日常診療の登録データからプロペンシティ・スコアを用いて解析したものであった。このため、この分野に関心のある医師たちは大規模ランダマイズ研究がなされることを待ち望んでいた。そこに発表されたのが本研究(SENIOR-RITA試験)だったのである。 本研究では患者を完全にランダマイズするとともに、STEMI、不安定狭心症、心原性ショック、余命1年未満の患者、侵襲的冠動脈造影を受けることができないと考えられたもの以外はすべて対象とした。つまり、いわゆる虚弱(フレイル)や認知障害があっても侵襲的検査・治療を受けられないと判断されたもの以外は対象とされた。そして1次複合エンドポイントを心血管死と非致死性心筋梗塞に絞った。これにより、単にランダマイズを行った以上に高齢者NSTEMI治療成績を明確にしようとした。 本試験では1,518例の患者が、侵襲的戦略群753例、非侵襲的治療戦略群765例にランダマイズされたかたちで割り振られた。平均年齢は82歳で、男女比もほぼ等しかった。中央値4.1年の追跡の結果、両群間で1次エンドポイントには差がないことが示された。つまり、NSTEMIの治療は症例の選択を誤ることがなければ、侵襲的、非侵襲的治療戦略で治療成績に差がないことが示された。 本研究はきわめて周到に計画・実行された大規模ランダマイズ試験であり、長年の問題について1つの結論を出したと考えられなくもない。しかし、いくつかの問題点も指摘されなければならないと思う。 上記「症例の選択を誤ることがなければ」と書いたが、この部分が大変に重要で、実際本試験ではスクリーニング対象になった患者の5人に1人だけが登録された。研究の目的から考えてSTEMI、心原性ショックは除外されて当然であるが、この数字からはその他でも多くの患者が高齢者の抱えるさまざまな問題により試験登録が適当ではないと判断されたことが推察される。この中には、高齢による強度の虚弱や認知障害、加えて本人の意向、家族の反対などさまざまな原因が考えられる。実は高齢者のNSTEMI治療において、この患者選択の問題こそが本質的な問題であり、本研究がその点に言及していないのは残念であるとともに、本研究の1つの限界となっていると思う。 また、その後に冠動脈造影や血行再建術を受けた患者数は非侵襲的戦略群で有意に多かった。ただし、この問題は保存的治療を選択した場合、時期を見て侵襲的検査・治療を行うか至適内科治療で経過を見るかという問題で、別途論じられるべき問題だろう。 治療合併症が少なかったことは評価されるべきではあるものの、現在のprimary PCIの技術レベルを考えれば、症例の選択を誤らなければ大きな合併症は起こらないことは当然予想されたと考えるが、合併症の問題は研究の信頼性を高める要因としては評価されなければならないだろう。ただし、ここでも患者選択の問題があることには注意してほしいと思う。 評者の結論を述べるならば、結局今回の研究はNSTEMIをどのように治療すべきかという一般的な問題に、高齢者において個別化医療の重要性を強調したこと、また現在の治療技術レベルにおいては、症例のリスク評価が慎重かつ十分に行われれば、高齢であるというだけの理由で特別な治療方針を考える必要はないことを示したものと考える。一方で、高齢者医療においては極端な虚弱や認知症、合併症のリスク、患者・家族の意向などを十分に考慮する医学的、倫理的視点の重要性が再確認されたといえる。本論文の限界を述べたように思われるかもしれないが、そうではない。さまざまに議論されてきた高齢者NSTEMIの治療を考える場合、保存的治療戦略でも十分な結果が得られることを示したことは十分に価値があると同時に、これだけ周到な準備をしてもこの分野の研究に明解な結論を出すことが困難であることを示したことがむしろ大きな成果であったと思う。

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乳がん術前療法でのDato-DXdからの逐次治療、HR・免疫反応・DRD全陰性例で対照群より優れる(I-SPY2.2)/ESMO2024

 StageII/IIIの高リスクHER2-乳がんの術前療法において、datopotamab deruxtecan(Dato-DXd)単独治療で始める3ブロックの逐次治療戦略により、38.1%で病理学的完全奏効(pCR)を達成し、その約半数がDato-DXd単独治療後に達成したことが第II相I-SPY2.2試験で示された。また、ホルモン受容体(HR)・免疫反応・DNA修復欠損(DRD)がすべて陰性のサブタイプでpCR率が対照群を上回ったという。米国・University of Alabama at BirminghamのKatia Khoury氏が、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2024)で発表した。本結果はNature Medicine誌オンライン版2024年9月14日号に同時掲載された。 I-SPY2.2試験は、外科的切除時のpCR達成のために術前療法を個別化・最適化することを目的とし、反応予測サブタイプ(RPS)に基づいて治療ブロックを割り当て、ブロックAでは新規薬剤を投与、ブロックBとCでは従来の標準療法を行う連続多段階ランダム割り付け試験である。治療は標準療法とマッチングされ、RPSは免疫療法の有用性、DRD、HRの有無、HER2の有無により分類された。 本試験の適格患者は、70遺伝子シグネチャー(MammaPrint)で高リスクのStageII/IIIのHER2-乳がんである。Dato-DXdアームにおける治療は、ブロックAではDato-DXdを3週ごと4サイクル静注、ブロックBはタキサンを含む化学療法(±ペムブロリズマブ)、ブロックCはアントラサイクリンを含む化学療法(±ペンブロリズマブ)とした。ブロックAまたはBの終了時にpCRが予測された患者は手術に移行し、予測されない場合はブロックB±ブロックCに進む。予測残存腫瘍量の評価のために治療への反応を乳房MRIと生検で評価し、治療方針は担当医師が決定した。主要評価項目はpCRで、以前のI-SPYデータから得られた各サブタイプの対照群と比較した。 ASCO2024ではブロックAの結果が報告され、今回はDato-DXdアーム全体の結果が報告された。 主な結果は以下のとおり。・2022年6月~2023年9月に103例がDato-DXd群に無作為に割り付けられた。・年齢中央値は46歳、腫瘍サイズ5cm以上が29%、リンパ節転移ありが64%、トリプルネガティブが48.5%、免疫+が45%であった。・pCRを達成したのは全体で38.1%(37例)で、ブロックA後に達成したのは18例、ブロックB後は13例、ブロックC後は6例であり、48.7%がブロックAのみで達成した。・感度分析において、すべて陰性(HR-/免疫-/DRD-)のサブタイプでDato-DXd のpCR率が対照群を上回った。その他のサブタイプでは上回らなかったが、治療戦略に従った患者のpCR率は対照群と同様であった。・ブロックAで最も多かった有害事象は、悪心、疲労、発疹であった。口内炎と眼毒性はそれほど多くはなく、ほとんどが低Gradeだった。

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ALK陽性肺がん5年PFS中央値未達のロルラチニブ、アジア人に対する成績(CROWN)/ESMO2024

 ALK融合遺伝子陽性非小細胞肺がん(NSCLC)患者を対象とした第III相「CROWN試験」の5年フォローアップ1)におけるアジア人サブグループ解析の結果、全体集団と同じくロルラチニブが無増悪生存期間(PFS)を有意に改善し、頭蓋内病変の進行も抑えることが示された。中国・Guangdong Lung Cancer InstituteのYi-Long Wu氏が欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2024)で発表した。・試験デザイン:国際共同第III相非盲検無作為化比較試験・対象:未治療のStageIIIB/IVのALK融合遺伝子陽性NSCLC患者(無症状の中枢神経系[CNS]転移は許容)・試験群:ロルラチニブ(100mg/日)・対照群:クリゾチニブ(250mg×2/日)・評価項目:[主要評価項目]盲検下独立中央判定(BICR)によるPFS[副次評価項目]OS、治験担当医師評価によるPFS、奏効率(ORR)、頭蓋内奏効率(IC-ORR)、奏効期間(DOR)、頭蓋内奏効期間(IC-DOR)、頭蓋内病変進行までの期間(IC-TTP)、安全性など 主な結果は以下のとおり。・全体集団296例のうち、120例(日本48例、中国48例、韓国21例、その他3例)がアジア人サブグループとして解析された。試験群は59例(年齢中央値:61歳[範囲:49~70])、対照群は61例(55歳[47~66])であった。ベースライン時に脳転移を認めたのは、試験群で13例、対照群で16例であった。・データカットオフ時点(2023年10月31日)で、治験担当医師評価によるPFS中央値は試験群未到達、対照群9.2ヵ月であり(ハザード比[HR]:0.22、95%信頼区間[CI]:0.13~0.37)、5年PFS率は試験群63%、対照群7%であった。・試験群ではEML4-ALKのバリアントサブタイプ(バリアント1または3)やTP53変異の有無にかかわらず、PFS中央値は未到達であった。・ORRは試験群81.4%、対照群59.0%で、ベースライン時に脳転移を認めた集団のIC-ORRは試験群69.2%、対照群6.3%であった。・IC-TTP中央値は試験群未到達、対照群14.6ヵ月であった(HR:0.01、95%CI:<0.01~0.1)。・試験群におけるGrade3/4の有害事象(AE)は81.4%に発現し、その内訳は高トリグリセライド血症(33.9%)、高コレステロール血症(22.0%)、体重増加(22.0%)などであった。・試験群における中枢神経系・精神系のAEとして、認知障害(25.4%)、気分障害(11.9%)などが認められた。・AEにより投与中止に至った割合は試験群で5.1%、対照群で8.3%であった。 Wu氏は、今回の結果をCROWN試験の全体集団の結果と一致しているとしたうえで「ALK陽性NSCLCのアジア人患者に対し、1次治療としてロルラチニブを用いることを支持するデータである」とまとめた。

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末梢動脈疾患でがんリスク増、とくに注意すべき患者は?

 下肢末梢動脈疾患(PAD)に関連したがんリスクの増加が報告されているが、喫煙などの重要な交絡因子が考慮されておらず、追跡期間も10年未満と短い。今回、米国・ジョンズ・ホプキンス大学/久留米大学の野原 正一郎氏らは、ARIC(atherosclerosis risk in communities)研究の参加者を対象に、長期にわたってPADとがん発症の独立した関連を検討した。その結果、症候性PAD・無症候性PADとも交絡因子調整後もがんリスクと有意に関連し、とくに喫煙経験者ではがんリスクが1.4倍、肺がんリスクは2倍以上だった。International Journal of Cardiology誌オンライン版2024年9月19日号に掲載。 本試験では、ARIC研究の参加者のうち、ベースライン時にがんではなかった1万3,106例(平均年齢:54.0歳、男性:45.7%、黒人:26.1%)を、症候性PAD(臨床歴もしくは間欠性跛行)、無症候性PAD(足関節上腕血圧比[ABI]≦0.9)、ABIによる5つのカテゴリー(0.9~1.0、1.0~1.1、1.1~1.2、1.2~1.3、1.3<)に分類した。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中央値25.3年の間に4,143例でがんを発症した。・25年間の累積がん発症率は症候性PADで37.2%、無症候性PADで32.3%、その他のカテゴリーで28.0~31.0%であった。・症候性PAD(ハザード比[HR]:1.42、95%信頼区間[CI]:1.05~1.92)および無症候性PAD(HR:1.24、95%CI:1.05~1.46)は、喫煙や糖尿病などの潜在的交絡因子調整後も、がんリスクと有意に関連していた。・喫煙の有無別にみると、喫煙経験者ではPAD(症候性および無症候性)はPADなしに比べてがんリスクと強い関連(HR:1.42、95%CI:1.21~1.67)がみられた一方、喫煙未経験者ではみられなかった。この結果は肺がんにおいて最も顕著であった(HR:2.16、95%CI:1.65~2.83)。 著者らは「PAD患者はエビデンスに基づいたがん予防とスクリーニングを受けるべき」と述べている。

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日本人女性におけるチーズの摂取と認知機能との関連

 多くの研究で、認知機能低下と食習慣との関連が報告されているが、チーズの摂取との関連は、これまであまり注目されていなかった。国立長寿医療研究センターの鈴木 隆雄氏らは、65歳以上の地域在住の日本人女性1,035人を対象に、チーズの摂取量や種類と認知機能との関連を調査するため、疫学研究を実施した。Nutrients誌2024年8月22日号の報告。 身体測定、機能的能力、チーズを含む食品の摂取頻度を評価した。認知機能の評価には、ミニメンタルステート検査(MMSE)を用い、スコアが20〜26の場合、軽度認知機能低下と定義した。 主な結果は以下のとおり。・MMSEスコアの統計学的に有意な差は、チーズ摂取の有無およびカマンベールチーズ摂取の有無において、認められた。●チーズの摂取:28.4±1.9 vs.チーズ以外の摂取:27.6±2.4●カマンベールチーズの摂取:28.7±1.4 vs.その他:28.3±2.0・交絡因子で調整した後、多重ロジスティック回帰分析では、軽度認知機能低下と有意に関連する次の4つの独立変数が特定された。●カマンベールチーズの摂取(オッズ比:0.448、95%信頼区間:0.214〜0.936)●年齢●通常時の歩行速度●機能的嚥下障害スクリーニングテストスコア 著者らは「日本の地域在住の高齢女性の横断的なデータに基づくものではあるが、カマンベールチーズの摂取と軽度認知機能低下との間に有意な逆相関が認められることが明らかとなった」としている。

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わが国初の経鼻弱毒生インフルワクチン「フルミスト点鼻液」【最新!DI情報】第24回

わが国初の経鼻弱毒生インフルワクチン「フルミスト点鼻液」今回は、経鼻弱毒生インフルエンザワクチン(商品名:フルミスト点鼻液、製造販売元:第一三共)を紹介します。本剤は、国内初の経鼻インフルエンザワクチンであり、針穿刺の必要がなく注射部位反応もないことから、患者負担の軽減が期待されています。<効能・効果>本剤は、インフルエンザの予防の適応で、2023年3月27日に製造販売承認を取得し、2024年8月13日に製造販売承認事項一部変更承認を取得しました。<用法・用量>2歳以上19歳未満の人に、0.2mLを1回(各鼻腔内に0.1mLを1噴霧)、鼻腔内に噴霧すします。医師が必要と認めた場合には、他のワクチンと同時に接種することができます。<安全性>重大な副反応として、ショックおよびアナフィラキシー(いずれも頻度不明)があります。その他の副反応として、鼻閉・鼻漏(59.2%)、咳嗽、口腔、頭痛(いずれも10%以上)、鼻咽頭炎、食欲減退、下痢、腹痛、発熱、活動性低下・疲労・無力症、筋肉痛、インフルエンザ(いずれも1~10%未満)、発疹、鼻出血、胃腸炎、中耳炎(いずれも1%未満)などがあります。本剤は安定剤として精製ゼラチンを含有していますので、ゼラチンに対してショックやアナフィラキシー(蕁麻疹、呼吸困難、血管性浮腫ほか)などの過敏症の既往のある人には注意が必要です。また、製造工程由来不純物として、卵由来の尿膜腔液成分(卵白アルブミン、タンパク質および鶏由来DNA)が混入する可能性があるため、鶏卵、鶏肉、その他鶏由来のものに対してアレルギーを呈する恐れのある人に対しても注意が必要です。本剤は弱毒化したウイルスを使った「生ワクチン」なので、妊婦や免疫抑制状態の人には使用できません。<患者さんへの指導例>1.この薬は、鼻へ噴霧するタイプのインフルエンザワクチンです。鼻へ噴霧するため、針を刺す必要がありません。2.接種の対象は、2~18歳の人です。3.この薬は、噴霧後に積極的に吸入(鼻ですする)する必要はありません。4.まれにショック、アナフィラキシーが現れることがあるので、いつもと違う体調変化や異常を認めた場合は、速やかに医師に連絡してください。<ここがポイント!>インフルエンザは、インフルエンザウイルスを病原体とする急性呼吸器感染症であり、日本ではインフルエンザに関連した超過死亡数が年間1万例を超えると推定されています。インフルエンザワクチンの接種は、インフルエンザの発症予防やインフルエンザに関連した重度合併症を防ぐ主要な手段です。フルミスト点鼻液は、日本で初めて承認された経鼻投与型の3価の弱毒生インフルエンザワクチンであり、A型株(A/H1N1およびA/H3N2)とB型株(B/Victoria系統)のリアソータントウイルス株を含有しています。本剤の特徴は、「低温馴化」、「温度感受性」および「弱毒化」であり、噴霧された弱毒生ウイルスが鼻咽頭部で増殖し、自然感染(野生株の感染)後に誘導される免疫と類似した、局所および全身における液性免疫、細胞性の防御免疫を獲得できます。また、本剤は、針穿刺の必要がなく、注射部位反応もないことから、被接種者の心理的・身体的負担の軽減も期待されています。日本では、2024~25シーズンから使用が認められました。日本人健康小児(2歳以上19歳未満)を対象とした国内第III相試験(J301試験)において、抗原性を問わないすべての分離株によるインフルエンザ発症割合は、本剤群で25.5%(152/595例)、プラセボ群で35.9%(104/290例)であり、本剤群のプラセボ群に対する相対リスク減少率は28.8%(95%信頼区間:12.5~42.0)でした。95%信頼区間の下限は事前に設定した有効性基準(0%)を上回っており、プラセボに対する本剤の優越性が検証されました。日本小児科学会より「経鼻弱毒生インフルエンザワクチンの使用に関する考え方」が出され、使い分けが示されました。2〜19歳未満に対しては、不活化インフルエンザHAワクチンと経鼻弱毒生インフルエンザワクチンを同等に推奨していますが、喘息患者、授乳婦、周囲に免疫不全患者がいる場合は不活化インフルエンザHAワクチンを推奨しています。また、生後6ヵ月〜2歳未満、19歳以上、免疫不全患者、無脾症患者、妊婦、ミトコンドリア脳筋症患者、ゼラチンアレルギーを有する患者、中枢神経系の解剖学的バリアー破綻がある患者に対しては、不活化インフルエンザHAワクチンのみが推奨されています。参考日本小児科学会:経鼻弱毒生インフルエンザワクチンの使用に関する考え方

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ダプトマイシン、5つの重要事項【1分間で学べる感染症】第12回

画像を拡大するTake home messageダプトマイシンは肺炎と中枢神経感染症には使用しにくい。ダプトマイシンを使用する際にはミオパチー/横紋筋融解に注意しよう。今回は、抗MRSA薬の1つであるダプトマイシンについて学んでいきましょう。バンコマイシンに続き、多くの施設でダプトマイシンを使用する場面が増加しています。それでは、ダプトマイシンを使用する際にはどのようなことに注意すればよいのでしょうか。まずは、使用が推奨されないケースを覚えることが重要です。肺炎…ダプトマイシンが肺胞の2型サーファクタントにより不活化されるため、肺の炎症に対して効果を発揮しないことが知られています。中枢神経感染症…データは不十分ですが、脳脊髄液への通過性が不良とされています。次に、ダプトマイシンを使用する際に注意すべき副作用を知りましょう。ミオパチー/横紋筋融解…腎障害・スタチン併用・肥満などがリスクとされます。ダプトマイシンを使用する際にはスタチンを一旦中断し、CK(クレアチンキナーゼ)値を週に1回はチェックするようにしましょう。好酸球性肺炎…男性・高齢・腎障害などがリスクとされますが、ダプトマイシン使用中に咳嗽や呼吸困難を来した場合は本症を疑い、速やかに中止を検討します。胸部CTで両側のすりガラス影を来すことが特徴です。中等症から重症の場合にはステロイドによる治療も検討されます。末梢血の好酸球は増加しないこともあり、一般的には気管支肺胞洗浄液による精査が推奨されます。実施が難しい場合にはダプトマイシンの中止後に改善するかどうかをみて、臨床的に本症を疑うこともあります。最後に、ダプトマイシンはバイオフィルムへの透過性がよいとされます。したがって、中心静脈カテーテル感染症やその他の人工物関連感染などにも注意が必要です。ダプトマイシンを使用する際には、適応と主な副作用に関する上記のポイントを理解しておきましょう。1)Dare RK, et al. Clin Infect Dis. 2018;67:1356-1363.2)Haste NM, et al. Antimicrob Agents Chemother. 2011;55:3305-3312.3)Hirai J, et al. J Infect Chemother. 2017;23:245-249.4)Uppa P, et al. Antimicrob Resist Infect Control. 2016;5:55.5)Raad I, et al. Antimicrob Agents Chemother. 2007;51:1656-1660.

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敗血症生存者の再入院リスクは高い

 敗血症との闘いを幸運にも生き延びたとしても、安心はできないようだ。7,000人以上の敗血症患者を対象にした研究で、退院後30日以内の敗血症の再発やその他の原因による再入院率は驚くほど高いことが明らかになった。米オーガスタ大学看護学部のPriscilla Hartley氏らによるこの研究の詳細は、「American Journal of Critical Care」に9月1日掲載された。論文の筆頭著者であるHartley氏は、「再入院は、自宅退院または在宅医療に移行できるほど健康だと判断された患者の間でも頻発している」と指摘している。 米国立衛生研究所(NIH)によると、敗血症とは、肺炎などの命を脅かす感染症により臓器障害や組織障害が生じている状態を指す。敗血症は急速に進行することがあり、ショック状態に陥ったり臓器障害が重篤化したりすると致死的になる。実際に、敗血症患者の5人に1人は死亡するとされている。 この研究では、2008年から2019年の間に米ボストンのベス・イスラエル・ディーコネス医療センターで敗血症の診断を受けて入院した成人患者7,107人(平均年齢66.5歳、女性46.2%)のデータを用いて、敗血症の診断後30日以内の再入院率が調査された。患者の主な退院先は、高度看護施設(29.5%)や自宅(19.5%)、長期急性期ケア施設(13.4%)などで、在宅医療を受けている患者も多かった(24.4%)。 患者の23.6%(1,674人)が、診断後30日以内に再入院していた。これらの患者の平均再入院回数は1.6回だったが、30%近くの患者が1〜3回再入院しており、最も多いケースでは17回に上った。再入院の主な原因は感染症(敗血症の再発68.3%、嚥下性肺炎26.1%、尿路感染症14.9%、院内感染症9.4%)で、その他、急性腎不全(28.7%)、心不全(6.9%)などがあった。 再入院と関連する因子について検討したところ、退院後の環境と年齢との間に有意な関連が認められたが、性別、民族、加入保険のタイプとの間に関連は見られなかった。再入院率の高かった退院後の環境は、高度看護施設(29.6%)、在宅医療(26.9%)、自宅(15.0%)だった。 Hartley氏らは、多くの場合、患者は病院から「不適切な環境」に退院し、再感染のリスクが高まったとの見方を示している。またHartley氏は、「敗血症からの生存率を継続的に向上させたいのであれば、入院中と退院後の環境の間のギャップを埋める方法を見つけなければならない」と米国クリティカルケア看護師協会(AACN)のニュースリリースで述べている。 研究グループは、同ニュースリリースでさらに、「再入院リスクが最も高い患者を特定することで、適切な環境への退院が促される。それにより患者の回復が維持され、必要な介入や経過観察も行われるようになる」と述べている。

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コロナワクチン接種後心筋炎とコロナ感染後心筋炎の18ヵ月後予後〜関心はさらに長期的予後に(解説:甲斐久史氏)

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、COVID-19 mRNAワクチン接種と抗SARS-CoV-2ウイルス薬の普及、さらには急性期における重症化予防と重症例治療法の確立により、パンデミックの収束を迎え、いまやCOVID-19と共生する時代“Withコロナ時代”となった。今後は、感染者の10〜20%に長期間認められる罹患後症状(PCC:post-COVID-19 condition)をはじめ、未知の後遺症など長期的・超長期的影響が大きな課題となる。その1つが、COVID-19罹患後心筋炎やCOVID-19ワクチン接種後心筋炎である。 COVID-19罹患後心筋炎は、COVID-19感染者10万人当たり約150例(0.15%)に発症する。ワクチン接種後心筋炎は、mRNAワクチン接種(初回、2回目)10万回当たり1例(0.01%)に発症するが、10〜20代男性の2回目接種では発症率0.16%である。COVID-19罹患後心筋炎およびワクチン接種後心筋炎は、ほとんどが軽症であり、対症療法により軽快する。パンデミック初期には、通常の心筋炎と比較して劇症化率が高いものの、劇症化しても適切な治療により回復すると報告された。しかしながら、長期的な心筋炎再発・慢性化、心血管疾患発症や死亡のリスクについては検討が必要である。 Laura Semenzato氏らは、フランスのNational Health Dataシステムに登録された心筋炎4,635例を、ワクチン接種後心筋炎(ワクチン接種後7日以内発症)558例、COVID-19罹患後心筋炎(COVID-19発症30日以内発症)298例とその他の通常型心筋炎3,779例に分類し、退院後18ヵ月間の心筋心膜炎による再入院、その他の心血管イベント、総死亡およびそれらの複合アウトカムと医療管理状況を検討した。標準化複合アウトカム発生率は、通常型心筋炎の13.2%と比較して、ワクチン接種後心筋炎では5.3%と有意に低く、COVID-19罹患後心筋炎では12.1%と同等であった。総死亡は、ワクチン接種後心筋炎で0.3%とCOVID-19罹患後心筋炎の1.3%、通常型心筋炎の1.3%と比較して低値であったが、心筋心膜炎による再入院とその他の心血管イベントは3群間で差は無かった。また、心筋心膜炎以外による全入院は、ワクチン接種後心筋炎12.2%で、COVID-19罹患後心筋炎21.1%、通常型心筋炎19.6%より有意に低くかった。また、退院から18ヵ月後までの画像診断検査、トロポニン検査、負荷テストなどの検査や薬剤処方の頻度は、ワクチン接種後心筋炎およびCOVID-19罹患後心筋炎と通常型心筋炎で差はなかった。 本研究は、フランス全国に及ぶ大規模で悉皆性の高いデータベースに基づき、かつ18ヵ月というこれまでで最も長期間にわたる検討である。COVID-19罹患後心筋炎では、心臓MRIを用いた検討により、退院3ヵ月後の42%に心機能低下、26%に心筋炎症所見が認められたという報告や、急性期には入院を必要としない軽症例でも1年後になんらかの自覚症状が残存しているものでは、びまん性心筋浮腫所見が多くみられるという報告があり、慢性期における心不全など心血管イベント増加が危惧された。しかしながら、本研究により、少なくとも、発症18ヵ月の時点では、COVID-19罹患後心筋炎の心筋炎再発、心血管合併症発症と死亡のリスクは通常型心筋炎と同等であり、ワクチン接種後心筋炎ではさらにリスクが低いことが明らかとなった。医療処置や薬物処方については、心筋炎発症後18ヵ月間としては、わが国でも通常診療と思われる範囲内であり、各群ともに経時的に減少傾向である点に注目したい。 COVID-19パンデミックという特殊な状況下で、無症状やきわめて軽症なCOVID-19に対しても、心臓MRIや血中トロポニン検査を用いた高感度な心筋炎スクリーニングが行われた。その結果、感染急性期のみならず数ヵ月間にわたり潜在性心筋炎症、心機能障害が持続することが明らかとなっている。これらが今後、慢性心筋炎や心不全などの発症リスクとなるかについて、さらに数年、数十年といった時間軸での長期的・超長期的観察が必要となる。COVID-19罹患後心筋炎やワクチン接種後心筋炎で得られる知見の蓄積を通じて、今後、通常型心筋炎の慢性化やHFrEFや拡張型心筋症の概念、診断や治療にも大きな変化がもたらされるかもしれない。

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第211回 医師研修マッチング中間結果、都市部病院が上位独占/医師臨床研修マッチング協議会

<先週の動き>1.医師研修マッチング中間結果、都市部病院が上位独占/医師臨床研修マッチング協議会2.高齢社会対策大綱を改定、高齢者医療費の3割負担拡大を検討/政府3.臓器移植、509人が医療機関の態勢不足で手術を受けられず/厚労省4.特定機能病院の9割に改善指摘、安全管理体制強化を求める/厚労省5.病院経営の厳しさ浮き彫り、病院団体は特例的な財政支援を要請へ/四病協6.訪問看護の過剰請求にメス、厚労省が実態調査を開始/厚労省1.医師研修マッチング中間結果、都市部病院が上位独占/医師臨床研修マッチング協議会医師臨床研修マッチング協議会は、2024年度の医師臨床研修マッチングの中間結果を発表した。大学病院では、順天堂大学が最も多くの1位希望者(76人)を集め1位となり、続いて東京大学(60人)、東京医科歯科大学(56人)がそれぞれ2位、3位となった。順天堂大学は充足率も181.0%でトップ、帝京大学(117.9%)、東京慈恵会医科大学(103.1%)がこれに続き、いずれも定員を大幅に超える希望者を集めている。今年度、大学病院の1位希望者数は1,699人となり、昨年度の1,757人から58人減少し、減少傾向が続いている。大学病院の定員も減少しており、2021年度の3,715人から2024年度は3,467人となった。特筆すべきは、兵庫医科大学が32位から5位へと大きく順位を上げたことや、帝京大学が32位から10位へ急上昇したことだ。一方で、九州大学や浜松医科大学など、順位を大幅に下げた大学もみられた。市中病院では虎の門病院が1位希望者数で首位を獲得し、充足率は390.5%に達した。2位は川崎市立川崎病院、3位は市立豊中病院で、都市部に位置する病院が上位を占めた。とくに東京都立広尾病院は募集定員6人に対して45人が希望し、充足率750.0%で圧倒的な人気を誇った。この結果は、都市部の市中病院の人気が根強いことを示しており、医師志望者の関心がますます都市に集中していることがうかがえる。参考1)2024年度 医師臨床研修マッチング 中間公表(医師臨床研修マッチング協議会)2)【医師臨床研修マッチング2024】中間結果ランキング マッチング中間、大学病院は順天堂が1番人気に(日経メディカル)2.高齢社会対策大綱を改定、高齢者医療費の3割負担拡大を検討/政府政府は2024年9月13日、新たな「高齢社会対策大綱」を閣議決定し、75歳以上の高齢者の医療費負担拡大を検討する方針を示した。現行の制度では、75歳以上の高齢者の窓口負担は原則1割、一定の所得がある場合は2割、そして「現役並みの所得」がある場合は3割とされている。今回の大綱改定では、この「現役並み所得者」の3割負担対象を拡大し、社会保障制度の持続を図る狙いがある。高齢者の医療費は急増しており、政府はその抑制に向けて制度改革を進めている。すでに2023年末に決定された「社会保障改革工程表」にも、2028年度までにこの対象範囲の見直しを含めた議論を行う方針が明記されている。また、大綱では、年齢にかかわらず、能力に応じて社会を支える「全世代型社会保障」を目指す考えが示されている。高齢者が支えられるだけでなく、状況に応じて支える側にも回る社会を築くことを目指す。高齢者の就業促進も大綱に盛り込まれ、2029年までに65歳以上の就業率を大幅に引き上げる目標が掲げられている。現行の65~69歳の就業率は52%だが、2029年には57%まで高める方針。また、60~64歳の就業率も現在の74%から79%に引き上げることが目標とされている。これにより、少子化による労働力不足や経済規模の縮小への対応を図り、同時に高齢者の社会保障費負担を抑制しようとしている。一方で、認知症や孤立した高齢者に対する支援体制の強化も大綱では重視している。身寄りのない高齢者や単身世帯が増える中、身元保証制度や地域での見守り体制の充実が求められているため、民間事業者が提供する終身サポート事業の適正運営を促し、孤立を防ぐための取り組みが進められる見込み。医療費負担の拡大により、現役世代の負担軽減を図ることが期待される一方、高齢者にはさらなる負担が求められる。政府は、高齢者が安心して暮らせる社会の実現に向けて、医療や年金制度の見直しを進める方針を強調している。参考1)高齢社会対策大綱[令和6年9月13日閣議決定](内閣府)2)身寄りない人の支援 医療費3割負担の拡大検討も盛る 高齢大綱改定(朝日新聞)3)75歳医療費、負担増検討 高齢化対策指針に明記(東京新聞)4)医療費3割負担拡大「検討」 高齢社会大綱6年ぶり改定(日経新聞)3.臓器移植、509人が医療機関の態勢不足で手術を受けられず/厚労省2023年に行われた脳死者からの臓器移植で、509人の患者が医療機関の態勢が整わないことを理由に移植手術を受けられなかったことが、厚生労働省の初めての調査で明らかになった。移植を担当する医療機関の人員不足や集中治療室(ICU)の満床などが主な理由。この調査では、脳死者から提供された臓器のうち、複数の医療機関が移植を辞退したために成立しなかったケースが192件あり、心臓6件、肺25件、肝臓9件、膵臓45件、腎臓8件、小腸99件の移植ができなかった。辞退の理由として多かったのは「ドナーの医学的な理由」(2,195人)、「体格・年齢差」(573人)、院内態勢の不備(509人)が挙げられた。臓器移植を希望する患者が、医療機関を複数登録できるようにするなど、移植辞退を減らすための新たな仕組みも検討されている。移植希望者が手術を受けられなかった問題を受け、厚労省は今後、医療機関の受け入れ体制を強化する方針。日本臓器移植ネットワークによると、国内の移植待機期間は心臓で平均3年半、腎臓では14年9ヵ月と長期化している。臓器提供数を増やす取り組みが進められる一方で、医療機関の対応力不足が移植の実施を阻んでいる現状が浮き彫りとなった。参考1)臓器移植断念2023年に25施設、人員・病床不足が理由…厚労省が初の調査結果発表(読売新聞)2)臓器移植 去年509人が手術を希望するも不成立 医療機関の態勢整わず 厚労省が初調査(テレビ朝日)3)臓器移植、延べ3,706人の手術見送り 受け入れ態勢整わず 厚労省(毎日新聞)4)脳死からの提供臓器、2割が移植辞退 医学的理由や院内体制など理由(朝日新聞)4.特定機能病院の9割に改善指摘、安全管理体制強化を求める/厚労省厚生労働省は、2023年度に全88の特定機能病院に対して行った立入検査の結果、77病院に「医薬品や医療機器の安全管理体制」や「事故報告書の作成・提出」などに関して若干の改善が必要であることがわかった。9月20日に公表された報告によれば、指摘を受けた病院では、今後の改善状況については、次年度の立入検査で確認される予定。特定機能病院は国内最高水準の医療を提供する施設であるが、過去に発生した医療事故を受け、医療安全管理体制の強化が進められてきた。2023年度の立入検査では、88病院中77病院(87.5%)において改善指摘が行われ、とくに「医薬品、医療機器の安全管理体制の確保」に関する指摘が多くみられた。指摘は主に口頭で行われ、書面で「検討を要する事項」として通知された病院は6件に止まった。特定機能病院は重要な役割を担う施設であるため、多くの病院で医療安全管理の徹底や院内感染対策の強化が求められている。そのため医療法に基づく検査では、施設の安全基準や適切な人員配置が確認され、問題がある場合は翌年度の立入検査で改善状況がチェックされる仕組みとなっている。2023年度の検査では。新型コロナウイルス感染症の影響で一時的に縮小されていたが、24年度は通常通り全施設に対して実施された。今回の検査結果を受けて、医療機関はさらなる安全管理体制の強化に向けた取り組みが求められており、特定機能病院の質の向上が期待されている。参考1)特定機能病院に対する立入検査結果について(令和5年度)(厚労省)2)すべての特定機能病院で立入検査実施、「医薬品、医療機器の安全管理体制」や「事故等報告書の作成・提出」に若干の問題あり-厚労省(Gem Med)3)特定機能病院の9割弱に指摘事項、立ち入り検査で「不適切な事項」は該当なし 23年度(CB news)5.病院経営の厳しさ浮き彫り、病院団体は特例的な財政支援を要請へ/四病協四病院団体協議会は2024年9月25日に開催された総合部会で、深刻な経営不振に陥っている病院への特例的な財政支援を国に求める方針を発表した。日本病院会の相澤 孝夫会長は、病院経営定期調査の中間報告を基に、病院の収益減少とコスト増加による減収減益が顕著であり、とくに建築費の高騰により改修や設備投資が困難な状況にあることを指摘した。調査によれば、2024年6月時点で病院の医業収益は前年同月比で減少しており、医業費用は増加、結果として多くの病院が赤字となっている。経常赤字病院の割合は、2023年度の約22.7%から2024年度には51.0%と大幅に増加した。また、診療報酬改定やコロナ関連の補助金減少が収益減少に拍車をかけ、給与費や物価の上昇によりさらなるコスト増が経営を圧迫している。この状況を受け、記者会見で相澤会長は「このままでは来年にはさらに厳しい状況が予測され、地域医療が立ち行かなくなる恐れがある」として、2024年度中の診療報酬改定も含めた支援策を求めた。11月には調査結果の最終報告を国に提出し、財政支援の要望を行う方針。また、9月27日に総務省が発表した2023年度の地方公営企業等決算では、全国681の病院事業は2,055億円の赤字を計上し、4年ぶりに赤字に転落したことが明らかになっており、新型コロナウイルス感染症関連の補助金が減少し、人件費や薬剤費の高騰が大きな影響を与えていることがうかがえた。これにより累積欠損金が1兆6,974億円に達するなど、地域医療の維持のためには、政府に早急な対応が必要となってきている。参考1)四病協、中間年改定含む財政支援要請へ 日病相澤氏「病院は深刻な経営不振」(CB news)2)病院経営は減収・減益の危機的な状況、期中の診療報酬対応も含めた病院経営支援を国に強く要請へ-四病協(Gem Med)3)2024年度 病院経営定期調査-中間報告-(3病院団体)4)公立病院事業4年ぶり赤字 2023年度、コロナ補助金減少や人件費高騰影響(産経新聞)5)令和5年度地方公営企業等決算の概要(総務省)6.訪問看護の過剰請求にメス、厚労省が実態調査を開始/厚労省精神科訪問看護において一部の事業者が患者の状態に関係なく訪問回数を増やし、診療報酬を不適切に請求している問題を受け、厚生労働省は実態調査を行い、仕組みを見直す方針を固めた。訪問看護サービス最大手の「ファーストナース」などが不正な運用をしていると指摘されており、同社の訪問看護ステーションでは患者の必要度にかかわらず週3回の訪問を指示し、利益確保を優先していたことが明らかになった。厚労省は、2024年度に科学研究費を活用し、訪問看護の実態を把握する特別調査を実施する予定。訪問看護の役割や訪問回数の適正化、連携体制などを詳細に調査し、2026年度の診療報酬改定に反映させる考えだ。過剰な訪問を是正し、適切な支援を行うための新しい基準が検討される一方で、真面目に運営している事業者が評価される仕組みも求められている。ファーストナースの内部資料や元社員の証言によると、経営陣は売上増加を最優先とし、訪問回数や時間を操作して診療報酬を最大限に引き出すよう指示していた。また、社員には「ロレックスキャンペーン」など高額報酬を餌に、売上増を奨励していたという。今後、厚労省は、調査結果を基に訪問看護ステーションの基準を見直し、報酬体系の適正化を図る予定。過剰請求の是正と同時に、利用者の状態に応じた適切な支援が評価される仕組みが期待される。参考1)精神科の訪問看護、見直しへ 過剰請求受け、厚労省が実態調査(東京新聞)2)精神科訪問看護 見直し方針に期待と要望「良質な事業者評価を」(山陰中央新報)3)「ロレックスぐらいは買える!!」精神科の訪問看護最大手が社内LINEでハッパをかけた「売り上げ最大化」(共同通信)

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重症インフルエンザに対する抗ウイルス薬の有効性(解説:小金丸博氏)

 入院を要する重症インフルエンザに対する抗ウイルス薬の有効性を評価したシステマティックレビューとネットワークメタ解析の結果が、Lancet誌2024年8月24日号に報告された。評価対象としたアウトカムは、症状改善までの期間、入院期間、ICU入院、侵襲的機械換気への移行、機械換気の期間、死亡、退院先、抗ウイルス薬耐性の発現、有害事象、治療関連有害事象、重篤な有害事象に設定された。季節性インフルエンザによる入院期間は、オセルタミビル(平均群間差:-1.63日、95%信頼区間:-2.81~-0.45)およびペラミビル(-1.73日、-3.33~-0.13)投与において有意な短縮を認めたものの、エビデンスの確実性は「低(low)」であった。ランダム化比較試験のデータが乏しく、死亡率など重要な患者の転帰に及ぼす効果について確実性の高いエビデンスは得られなかった。 インフルエンザは入院を要するウイルス性呼吸器感染症の重要な原因である。季節性インフルエンザの入院患者は、重症肺炎、呼吸不全、多臓器不全、二次的な細菌感染症などの合併症を発症し、死亡につながる可能性がある。インフルエンザで入院した成人の致死率は4~8%程度であるが、新型インフルエンザによるパンデミックの際や免疫不全の患者では致死率が高くなる場合がある(10~15%以上)。したがって、重症インフルエンザに対する効果的な治療法を特定することは、公衆衛生上重要な課題である。 ノイラミニダーゼ阻害薬などの抗ウイルス薬は、重症インフルエンザ患者に対して投与することが推奨されている。過去に報告されたシステマティックレビューとメタ解析では、ノイラミニダーゼ阻害薬による早期治療は、治療が遅れたり治療しなかった場合と比較して、死亡率の低下や入院期間の短縮につながる可能性があることが示唆されていた。ただし、重症インフルエンザに対して利用可能なすべての抗ウイルス薬治療を評価したネットワークメタ解析はなく、最適な抗ウイルス薬は不明であった。 本研究では8件のランダム化比較試験がシステマティックレビューに含まれ、そのうち6件がネットワークメタ解析の対象となった。重症インフルエンザで入院した患者において、オセルタミビルとペラミビルは標準治療またはプラセボと比較して入院期間を短縮する可能性が示されたが、含まれているランダム化比較試験の数が少なくデータが不足していたため、証拠の確実性は低いものであった。同様の理由で、すべての抗ウイルス薬が死亡率やその他の重要な患者の転帰に及ぼす影響を正確に評価することは困難であった。そのため、重症インフルエンザ患者に対する抗ウイルス薬の有効性を精密に評価するためには、十分な検出力を持つ臨床試験を行う必要があると述べられている。 本研究のLimitationとして、二次性細菌感染症やインフルエンザのタイプ(A型、B型)が結果に与える影響を評価することができなかったことや、小児および高齢者に対する抗ウイルス薬の有効性を検討できなかったことが挙げられる。また、本研究では重症インフルエンザ患者を対象としており、われわれが日常で診療することが多い外来レベルのインフルエンザ患者に対する抗ウイルス薬の有効性については言及できない。

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日本人治療抵抗性うつ病に対するケタミン治療の有用性~二重盲検ランダム化比較試験

 治療抵抗性うつ病(TRD)に対しケタミンが抗うつ効果をもたらすことは、北米や欧州各国から頻繁に報告されているが、アジア人患者におけるエビデンスは、これまで十分ではなかった。慶應義塾大学の大谷 洋平氏らは、日本人TRD患者におけるケタミン静脈内投与の有効性および安全性を評価するため、二重盲検ランダム化プラセボ対照試験を実施した。Psychiatry and Clinical Neurosciences誌オンライン版2024年8月30日号の報告。 TRDの日本人患者34例を対象に、ケタミン群(0.5mg/kg)またはプラセボ群にランダムに割り付け、2週間にわたり週2回、40分間静脈内投与を行った。主要アウトカムは、ベースラインから治療終了までのMontgomery Asbergうつ病評価尺度(MADRS)合計スコアの変化とした。副次的アウトカムは、その他のうつ病症状スコア、寛解率、治療反応率、部分反応率などであった。また、ベースライン時の臨床人口統計学的特性とMADRS合計スコアの変化との関連も調査した。 主な結果は以下のとおり。・ITT解析では、両群間でMADRS合計スコアの減少に有意な差は認められなかったが(−8.1±10.0 vs.−2.5±5.2、t [32]=2.02、p=0.052)、per-protocol解析では、ケタミン群はプラセボ群よりも、MADRS合計スコアの有意な減少が認められた(−9.1±10.2 vs.−2.7±5.3、t [29]=2.22、p=0.034)。・その他のアウトカムは、両群間で差は認められなかった。・ケタミン群はプラセボ群よりも有害事象の発現が多かったが、重篤な有害事象は報告されなかった。・ベースライン時のMADRS合計スコアが高い、およびBMIが高い場合、MADRS合計スコアの減少は大きかった。 著者らは「日本人TRD患者において、ケタミン静脈内投与は、プラセボよりも優れており、多様な民族におけるTRD患者の抑うつ症状軽減に対するケタミンの有用性が示唆された」と結論付けている。

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