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炎症性腸疾患関連消化管腫瘍診療ガイドライン 2024年版

IBD関連消化管腫瘍のガイドラインが誕生!炎症性腸疾患(IBD)患者数は増加の一途をたどり、長期罹患患者では消化管癌が合併することが知られている。本ガイドラインではUC(潰瘍性大腸炎)関連消化管腫瘍とCD(クローン病)関連消化管腫瘍のそれぞれの解説に加え、計28のCQを最新のエビデンスに基づいて設定した。各施設からの貴重な切除標本や病理アトラスなどのカラー図も豊富に取り扱っており、まさに他の追随を許さないIBD関連消化管腫瘍診療に携わる医療者必携の1冊。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する炎症性腸疾患関連消化管腫瘍診療ガイドライン 2024年版定価3,850円(税込)判型B5判頁数152頁(図数:9枚・カラー図数:42枚)発行2024年7月編集大腸癌研究会ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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何はさておき記述統計 その8【「実践的」臨床研究入門】第47回

仮想データ・セットを用いて論文の表1を作成してみる前回は仮想データ・セットを用い、無料の統計解析ソフトであるEZR(Eazy R)の操作手順も交えて、変数の型とデータ・セット記述方法の使い分けについて解説しました(連載第46回参照)。今回は、前回同様に仮想データ・セットからEZRを操作して、表1(患者背景表)を実際に作成してみます。まず、下記の手順で仮想データ・セットをEZRに取り込みます。仮想データ・セットをダウンロードする※ダウンロードできない場合は、右クリックして「名前をつけてリンク先を保存」を選択してください。「ファイル」→「データのインポート」→「Excelのデータをインポート」次に、「グラフと表」→「サンプルの背景データのサマリー表の出力」を選択すると、下記のポップアップウィンドウが開きます。画像を拡大する上段の「群別する変数」とは、treatとしたカテゴリ変数(1;低たんぱく食厳格遵守群、0;低たんぱく食非厳格遵守群)でしたので、こちらを選択します(連載第46回参照)。中段の「カテゴリー変数」にはdm(糖尿病の有無)とsex(性別)を選択します(連載第46回参照)。前回、連続変数を記述する際にはまずヒストグラム(度数分布図)を描き、その分布がおおむね正規分布に近似しているかどうかを確認しましょう、と説明しました。UP(蛋白尿定量)は右に裾を引いたような非正規分布でしたので(連載第46回参照)、「連続変数(非正規分布)」として選択します。age(年齢)、albumin(血清アルブミン値)、eGFR、hemoglobin(ヘモグロビン値)、sbp(収縮期血圧)は「連続変数(正規分布)」とします。その他の設定はデフォルトのままでOKですが、下記の項目は以下のように変更してください。正規分布しない連続変数の範囲表示:四分位数範囲(Q1-Q3)※これは好みですので最小値と最大値のままでも可(連載第46回参照)。連続変数の表示の注釈を加える:Yes出力先:CSVファイル出力設定が完了したらOKをクリックしてみましょう。EZRの出力ウィンドウに下図の表が作成されたでしょうか。画像を拡大するtreat群別に下記のようにそれぞれの背景データのサマリーが表で示されています(連載第46回参照)。カテゴリ変数は群別に実数とその割合で連続変数(正規分布)は平均値(Mean)と標準偏差(SD)で連続変数(非正規分布)は中央値(Median)と四分位範囲(Inter-quartile range:IQR)でこの表はCSVファイルとしても出力されています。CSVファイルを英文論文の表1として使えるように成形したものを以下に示します。画像を拡大する可読性を高めるために、数値は四捨五入して有効数字3桁で丸めています。また、脚注(footnote)で略語をスペルアウトなどして、表だけで独立して理解できるように作成することが重要です。表1でp値を記載するかどうかですが、筆者はどちらかというと「記載しない派」です。なぜなら、表1の主な目的は、解析対象となった参加者の記述統計を示すことだからです。場合によっては、表1で異なる群間の比較を示すという意味合いもあることがあります。けれども、p値はあくまで統計的な有意性を示す指標であり、臨床的に意味のある差を示すものではないことに留意が必要です(連載第44回参照)。たとえば、今回作成した表1をみてみましょう。低たんぱく食厳格遵守群と低たんぱく食厳格非遵守群で、性別以外の患者背景にはいずれも統計学的有意差(p<0.05)がついています。両群間で年齢は4歳以上、糖尿病の有病割合は10%以上、収縮期血圧も5mmHg以上差があるので、これらの要因については臨床的にも意味がある差異なのかもしれません。しかし、血清アルブミン値やヘモグロビン値の1ポイントにも満たないわずかな差は臨床的に大きな意味を持つでしょうか。サンプルサイズがそこそこ大きい場合、臨床的にはごくわずかな差でも統計学的には有意差が出ることがあります。というわけで、筆者は投稿時点では表1にp値を示さないことが多いです。ただ、査読の段階でエディターやレビュワーからp値も記載するように指摘されることもあり、その際は素直に従います(笑)。

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アニメ「インサイド・ヘッド2」(その1)【なんで恥ずかしくなるの?なんで恥ずかしさは「ある」の?(社会的感情)】Part 3

社会的感情の起源とは?社会的感情の機能とは、自分(または相手と比べた相対的な自分)の愛情欲求と承認欲求が満たされるように行動を促す心理であることがわかりました。そして、このような行動を練習するのは、とくに大人(社会)の仲間入りをする直前の思春期であることもわかります。それでは、そもそもなぜこのような感情は「ある」のでしょうか?ここから、進化心理学の視点で、恥ずかしさを例に挙げて、社会的感情の起源を掘り下げてみましょう。約700万年前に、人類が誕生しました。そして、約300万年前には、人類はアフリカの森からサバンナに出ていきました。そして、猛獣から身を守り、限られた食料を分け合うために、血縁の家族同士が集まり部族をつくるようになりました。この時、思春期になると男子は狩りの集団に、女子は子育ての集団にそれぞれ入っていくわけですが、その集団でうまくやっていこうとする社会脳が進化しました。そして、集団に受け入れられないことへの不快感情が出てくるようにも進化しました。これが羞恥心の起源です。逆に、この心理がないと、集団で身勝手なことをしてしまい、仲間外れにされます。当時の仲間外れは死を意味します。つまり、羞恥心がない人(遺伝素因)は、現代に存在していないということです。ちなみに、「恥」という漢字は、恥ずかしくなると耳が赤くなることから、「耳に心がある」という語源から来ています。そして、この赤面のメカニズムも進化心理学的に説明できます。現代では、緊張して顔を赤らめるのは、恰好悪いと思われがちです。しかし、これは原始の時代には必要でした。なぜなら、人類が言葉を話すようになったのは、せいぜい約20万年前だからです。それまでの280万年の間、人類は、言葉なしで表情や身振り手振りでコミュニケーションをしていました。そんな中、新しく集団に入る時、現代のように「ちょっと緊張していますが、仲良くしてください。よろしくお願いします」という言葉の代わりに、顔を赤らめてもじもじすることは、まさにこの言葉を非言語的なメッセージとして送っていることになり、好感が待たれてとても適応的です。つまり、現代では言葉があるために不要な赤面反応は、原始の時代には必要であったというわけです。なお、人類の起源地であるアフリカにいる黒い肌の人種の赤面はわかりにくいです。だからこそ顔の中で肌が比較的に薄い(毛細血管が見えやすい)耳がとくに赤くなるように進化したのでしょう。もちろん、恥ずかしさによる顔の火照り感から、もじもじするという反応は確実に伝わります。また、ハズカシのように手が緊張で汗ばむのは、約数千年前に類人猿が誕生してから、森の中でより素早く枝から枝へと移動するためのすべり止めの役割がもともとありました。現代ではとても困る手汗反応は、原始の時代には新しい集団に入ってさっそく動き回って活躍するためにはやはり必要であったというわけです。恥ずかしさと同じように、その他の7つの社会的感情も、原始の時代の部族集団(社会)で助け合って生き残り子孫を残すため、つまり生存と生殖の適応度を上げるように約300万年間で進化した心理機能であることがわかります。そして、社会的感情における相互関係も、その助け合いにおける平等と公平のバランスを取るように促すため、つまり個人としてだけでなく集団としても適応度を上げるように進化した心理機能であることもわかります。ちなみに、ねたましさ(嫉妬)の心理の起源については、すでに関連記事5で詳しく解説していますので、ご覧ください。1)「進化と感情から解き明かす社会心理学」p.196:北村英哉・大坪康介、有斐閣アルマ、20122)「感情心理学・入門」p.145、p.175:大平英樹、有斐閣アルマ、2010<< 前のページへ■関連記事インサイド・ヘッド【なんで悲しみは「ある」の?どうすれば?(感情心理学)】Part 1インサイド・ヘッド(続編・その1)【やったのは脳のせいで自分のせいじゃない!?】Part 1カインとアベル(前編)【なんで嫉妬をするの?】苦情殺到!桃太郎(前編)【なんでバッシングするの?どうすれば?(正義中毒)】Part 1カインとアベル(後編)【なんで嫉妬は「ある」の?どうすれば?】Part 1

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再発難治MCLに対する新薬ピルトブルチニブが発売/日本新薬

 2024年8月、日本新薬と日本イーライリリーは、ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)阻害薬ピルトブルチニブ(商品名:ジャイパーカ)の発売を開始した。適応はほかのBTK阻害薬に抵抗性又は不耐容の再発又は難治性のマントル細胞リンパ腫(MCL)。発売に合わせ、9月5日に行われた日本新薬主催のプレスセミナーでは、がん研究会有明病院の丸山 大氏が「マントル細胞リンパ腫に対する既存のBTK阻害剤後のアンメットニーズ」と題した講演を行った。 悪性リンパ腫は全がん種のうち男女とも罹患数で10位以内に入る、比較的患者数の多いがんだ。一方で、MCLは悪性リンパ腫全体の2~3%(日本の場合)であり、希少疾患に数えられる。発症年齢中央値は60代半ば、男女比は2対1程度と「高齢の男性」に多いがんと言える。リンパ腫の中には治癒するものもあるが、MCLは治癒が難しいとされ、初回治療は大量化学療法もしくは自家造血幹細胞移植だが治療抵抗性となる率が高く、多くの患者が次治療に移行する。「造血器腫瘍診療ガイドライン 2023年版」では、再発難治MCLにする治療としてイブルチニブ、ベンダムスチン、ボルテゾミブ単剤もしくはリツキシマブとの併用、GDP療法など複数の多剤併用療法が推奨されており、とくにピルトブルチニブと同じBTK阻害薬であるイブルチニブが広く使われている。しかし、イブルチニブにも治療抵抗性となった場合の次治療のレジメンはさらに多岐にわたり、確立されたものはない状態だ。 イブルチニブをはじめとする従来型のBTK阻害薬は、BTKタンパク質のC481位のアミノ酸に共有結合することで作用する「共有結合型阻害薬」に分類される。一方、今回発売されたピルトブルチニブはC481位を介さない「非共有結合型阻害薬」となる。この違いによって、C481変異によって引き起こされる共有結合型阻害薬への耐性を回避するため、従来型BTK阻害薬に耐性となった患者に対しても有効性が期待される。また、ピルトブルチニブは従来型BTK阻害薬に比べBTKに対する選択性が高く、非標的分子への影響を抑えることができるため、副作用のリスクを軽減できる可能性もある。 今回のピルトブルチニブの承認は、国際共同第I/II相BRUIN-18001試験に基づくもの。有効性解析対象となった日本人8例を含む65例を対象にした本試験では、従来型BTK阻害薬の前治療歴がある参加者に対し、ピルトブルチニブは56.9%の奏効率(CR+PR)を示した。奏効が得られた例では、比較的長期間の奏効持続が得られる傾向があった。一方、安全性解析対象集団となったMCL患者164例では89.0%(146例)に有害事象が認められ、発現頻度の高いものとしては疲労29.9%(49例)、下痢21.3%(35例)、呼吸困難16.5%(27例)などがあった。その他の重大な有害事象として感染症、出血および骨髄抑制が報告されている。 丸山氏は「治癒が困難な再発難治MCLに対し、新たな治療選択肢ができたことは喜ばしい」とまとめた。

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第113回 経鼻インフルワクチン「フルミスト」を使いますか?

フルミスト登場私は子供の頃、注射されるのが恐怖だったのですが、「全然怖くないやい!」と言いつつ強がっていました。インフルエンザワクチンは例外なく腕に注射されるため、とくに小さな子供ではなかなか大変なことがあります。さて、鼻に噴霧するタイプのインフルエンザワクチン「フルミスト®」が今年から使用されます。2003年にアメリカで、2011年にヨーロッパで認可されたもので、世界から10年以上遅れて日本でようやく認可されました。めっちゃ遅いやんけ!と思いましたが、しばらくH1N1株に対する有効性が疑問視されてきて、中央で揉まれていた時期があるようです。保存状態も含めていろいろと改善点が判明し、その後国際的にも推奨されたことが、承認の後押しとなっています。このフルミスト、針を刺さないため、「痛くない」というメリットが期待されています。対象年齢は?フルミストの対象年齢は、2歳以上19歳未満です。2歳未満の子供に対しては喘鳴のリスクが増加したという報告があり、使用が認められていません。また、国際的には49歳まで使用可能ですが、日本の薬事承認は上限19歳未満で、これも注意が必要です。要は、子供のためのワクチンなのですよ、これは。フルミストは、不活化ワクチンではなく、弱毒化したウイルスを使った「生ワクチン」なので、妊婦や免疫不全状態にある方には使用できません。もちろん、注射で用いられてきた従来の不活化ワクチンは、2歳未満でも妊婦でも接種可能です。フルミストの効果は?鼻粘膜の表面に直接免疫を成立させることから、高い感染防御効果が期待できます。とくに小さな子供に対しては、従来の注射不活化ワクチンと効果は同等で、感染の成立を約7割減らすとされています。また、重症化リスクを軽減する効果が示されています。「接種しても感染した」とおっしゃる人が一定割合いますが、全員に効果があるわけではなく、コミュニティ全体でリスクを低減する効果を期待して接種することになります。フルミストの注意点は?これも上述したように、2歳未満、妊婦、免疫不全のある人には使えないことです。需要が一番高い層には不適なので、従来の注射不活化ワクチンを使用ください。注意点としては、生ワクチンなので、経鼻接種後に鼻水や咳などの風邪症状がみられる場合があることです。そのため、喘息や鼻詰まりが強い子供では、接種を避けたほうがよいでしょう。副反応で風邪症状が出現した場合、生ワクチンなので接種から2週間程度、インフルエンザ抗原検査が「陽性」になってしまう可能性があります。この解釈には注意が必要でしょう。その他、卵アレルギーやゼラチンアレルギーのある人も避けたほうがよいとされています。費用が確定すれば、すぐにでも接種が始まるでしょうね。

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季節性インフル曝露後予防投与、ノイラミニダーゼ阻害薬以外の効果は?/Lancet

 重症化リスクの高い季節性インフルエンザウイルス曝露者に対し、ザナミビル、オセルタミビル、ラニナミビル、バロキサビルによる曝露後予防投与は、症候性季節性インフルエンザのリスクを低下させる可能性が示された。また、これらの抗ウイルス薬は、ヒトへの感染で重症化を引き起こす新型インフルエンザAウイルス曝露者に対しても、予防投与により人獣共通インフルエンザの発症リスクを軽減する可能性が示されたという。中国・重慶医科大学附属第二医院のYunli Zhao氏らがシステマティックレビューおよびネットワークメタ解析の結果を報告した。抗ウイルス薬のノイラミニダーゼ阻害薬による曝露後予防投与は、インフルエンザの発症および症候性インフルエンザのリスクを低減することが可能だが、その他のクラスの抗ウイルス薬の有効性は不明のままであった。Lancet誌2024年8月24日号掲載の報告。6種の抗ウイルス薬についてシステマティックレビューとネットワークメタ解析 研究グループは、WHOインフルエンザガイドラインの更新サポートのために、システマティックレビューおよびネットワークメタ解析により、抗ウイルス薬のインフルエンザ曝露後予防について評価した。 MEDLINE、Embase、Cochrane Central Register of Controlled Trials、Cumulative Index to Nursing and Allied Health Literature、Global Health、Epistemonikos、ClinicalTrials.govを用いて、インフルエンザ予防における抗ウイルス薬の有効性と安全性を他の抗ウイルス薬、プラセボまたは標準治療と比較した、2023年9月20日までに公開された無作為化比較試験を系統的に検索。2人1組のレビュワーが独立して試験をレビューし、データを抽出、バイアスリスクを評価した。 ネットワークメタ解析は頻度論的(frequentist)ランダム効果モデルを用いて行い、GRADE(Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation)アプローチを用いてエビデンスの確実性を評価した。 重視したアウトカムは、症候性または無症候性の感染、入院、全死因死亡、抗ウイルス薬に関連した有害事象、重篤な有害事象であった。 検索により公表論文1万1,845本を特定し、6種の抗ウイルス薬(ザナミビル、オセルタミビル、ラニナミビル、バロキサビル、アマンタジン、リマンタジン)に関する33試験・被験者1万9,096例(平均年齢6.75~81.15歳)をシステマティックレビューおよびネットワークメタ解析に組み入れた。ほとんどの試験でバイアスリスクは低いと評価された。ザナミビル、オセルタミビル、ラニナミビル、バロキサビルは軽減効果がある可能性 ザナミビル、オセルタミビル、ラニナミビル、バロキサビルは、重症化リスクの高い被験者において、季節性インフルエンザ曝露後、速やかに投与することで(例:48時間以内)症候性インフルエンザの発症を大幅に軽減する可能性が示唆された(ザナミビル[リスク比:0.35、95%信頼区間[CI]:0.25~0.50]、オセルタミビル[0.40、0.26~0.62]、ラニナミビル[0.43、0.30~0.63]、バロキサビル[0.43、0.23~0.79]、確実性は中程度)。これらの抗ウイルス薬は、重症化リスクの低い人では、季節性インフルエンザに曝露後、速やかに投与しても症候性インフルエンザの発症を大幅に軽減しない可能性が示唆された(確実性は中程度)。 また、ザナミビル、オセルタミビル、ラニナミビル、バロキサビルは、感染したヒトの重症化と関連する新型インフルエンザAウイルス曝露後に、速やかに投与したときは、人獣共通インフルエンザの発症を大幅に軽減する可能性が示唆された(確実性は低度)。 オセルタミビル、ラニナミビル、バロキサビル、アマンタジンは、すべてのインフルエンザのリスクを低下させる可能性が示唆された(症候性および無症候性の感染:確実性は中程度)。 ザナミビル、オセルタミビル、ラニナミビル、バロキサビルは、無症候性インフルエンザウイルスの感染または全死因死亡の予防に、ほとんどまたはまったく効果がない可能性が示唆された(確実性は高度または中程度)。 オセルタミビルは、入院への効果は、ほとんどまたはまったくない可能性が示唆された(確実性は中程度)。 6種の抗ウイルス薬はすべて、エビデンスの確実性は異なるが、薬剤関連の有害事象または重篤な有害事象の発現頻度を有意に増加させないことが示唆された。

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医師はなぜ自ら死ぬのか(解説:岡村毅氏)

 医師の自殺率は高いとされてきた。本論文は1960年から2024年に出版されたすべての論文を対象にしたシステマティックレビューとメタ解析であり、現時点での包括的な情報と言っていいだろう。ちなみに英語とドイツ語以外は、翻訳ソフトであるDeepLを用いて評価しているのが現代的だ。男性医師では時代と共に自殺率は低下してきていることが示されたが、女性医師においてはむしろ増加している。 いくつかの視点で論じてみよう。 自殺の関連要因はさまざまであるが、この論文1)では以下のように分けている。第一に精神疾患(うつ病や統合失調症)、第二に身体疾患、第三に当たり前だが自殺関連行動(過去の自殺企図歴など)、第四に人口社会学的要因(借金、学歴、信仰、仕事のストレスなど)、そしてその他として犯罪歴、幼少期の逆境、火器が身近にあるなどを挙げている。医師といっても多様だとは思うが、身体疾患、貧困、借金、火器などが一般人口より多いとは思えないので、やはり仕事のストレスやうつ病が関与するのかもしれない。 自殺は、近年は「絶望死」の1つとして捉えられることもある。「絶望死」とは自殺、薬物の過剰摂取、そしてアルコール性肝疾患を指す。米国の労働者階級の白人においてこれらの絶望死が増えていることが指摘され2,3)、トランプ現象との関連も語られている。これを医師の自殺と結び付けるのは飛躍かもしれないが、激しい競争と格差が「絶望死」とつながっているとしたら、医師の世界の激しい競争が関係しているのかもしれない。 仕事のストレスといえば、患者や家族からの過大な要求などは増えているとされている(いわゆるモンスターペイシェント)。一方で、たとえば私が某下町の救命救急センターで研修を受けていた2000年代初頭は、日・当・日直で36時間稼働して12時間休むのを3回(つまり6日稼働し、その間に3晩休める)して、初めて休日になるというありさまだった。あらゆる仕事は尊く大変だが、医師は命が関わる局面が多く、休みたいなどと言うと人間性を疑われることが多いのはつらい。これを米国の友人に言うとドン引きされるので、日本が異常なのだろう。とはいえ、このような身体的なストレスは確かに減ってきた。 この論文の対象外であるが、新型コロナウイルスパンデミックのような社会現象も関連するだろう。新型コロナの患者に接している医療従事者の子供が保育園で差別されるといった事象や、国民の生命を守るためにマスコミに姿を曝した専門家に対する誹謗中傷4)などである。 ではなぜ女性で増えているのか。本論文ではまったく明らかになっていないが、これまでの研究を総合して、問題の在りかを明らかにし、これからの研究の道標にするというのがこの研究の意義である。

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漫然使用のツロブテロールテープの処方意図を探って中止を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第61回

 今回は、長期使用されていたLABA貼付薬について疑問を抱き、スタッフ間の情報共有および医療連携を通じて中止を提案した事例を紹介します。患者さんが使用している薬剤の服用理由や開始の経緯が不明瞭な場合、改めて確認することが重要です。そうすることで、思わぬ漫然使用が明らかになることがあります。患者情報80歳、男性(施設入居)基礎疾患アルツハイマー型認知症、高血圧、前立腺肥大症、糖尿病介護度要介護2服薬管理施設職員が管理処方内容1.アムロジピン錠2.5mg 1錠 分1 朝食後2.ジスチグミン錠0.5mg 1錠 分1 朝食後3.タムスロシン錠0.2mg 1錠 分1 朝食後4.ダパグリフロジン錠10mg 1錠 分1 朝食後5.テネリグリプチン錠20mg 1錠 分1 朝食後6.メマンチン錠20mg 1錠 分1 夕食後7.レンボレキサント錠5mg 1錠 分1 就寝前8.ツロブテロールテープ2mg 1枚 14時貼付本症例のポイントこの患者さんは、約3ヵ月前に施設に入居しました。薬剤の自己管理能力が乏しく、投薬や管理は施設職員が行っていました。嚥下機能に問題はなく、食事量もムラがなかったため、経口血糖降下薬のシックデイに関する懸念もない状況でした。2週間に1回の施設訪問の際に服用状況のモニタリングを実施したところ、ツロブテロールテープの使用に疑問を感じました。ツロブテロールテープは、気管支喘息や急性・慢性気管支炎、肺気腫を適応疾患1)としていますが、この患者さんにはこれらの既往がなく、夜間の咳や呼吸困難感などの症状も認められませんでした。そこで、初回介入した担当薬剤師の記録を確認したところ、施設入居前にCOVID-19関連肺炎で入院していたことが判明しました。COVID-19関連肺炎の急性期症状緩和のために処方されたツロブテロールテープが、退院後も漫然と継続されていた可能性があります。現状の呼吸機能や自覚症状から治療負担を検討し、テープの中止を提案することにしました。医師への相談と経過医師の訪問診療に同席し、ツロブテロールテープが3ヵ月間使用されていることを伝え、気管支疾患の既往や症状緩和の目的があるかどうかを確認しました。医師からも該当疾患がないことを聴取し、やはりCOVID-19関連肺炎の急性期治療の一環として使用されていたと推察されました。長期的なLABA貼付薬の使用は適切ではないという医師の判断により、当日の昼からテープが中止となりました。介護士には意図を説明するとともに、念のため昼夜の症状モニタリングを依頼しました。その後、夜間の呼吸困難感や咳症状は現れずに1週間が経過しました。長期的な観察でも気道症状の変化はなく、ツロブテロールテープの完全中止に成功しました。1)ホクナリンテープ添付文書

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長期収載品の選定療養が10月から開始、生活保護受給者も対象?【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第137回

2024年10月から「長期収載品の選定療養(以下、選定療養)」が始まります。これは、後発医薬品のある先発医薬品(いわゆる長期収載品)と後発医薬品の差額の4分の1相当を患者さんが自己負担する仕組みです。長期収載品を希望する患者さんが、「その薬剤ごとに差額が発生し、自己負担が増える」と聞くと、どういう仕組み? どのくらい負担が増えるの? など疑問に思うと考えられます。今一度確認しておきましょう。現在、後発医薬品の使用割合がかなり増えているので、現行で長期収載品を希望している患者さんはそれほど多くはないとは思いますが、今までどおり長期収載品を希望できるのか、どのような場合に負担が増えるのか、そしてどの薬剤でいくら負担が増えるのか、という点がポイントになりそうです。まず、2024年10月以降は処方箋様式が変更になります。現行の後発医薬品への変更不可欄が「変更不可(医療上必要)」「患者希望」の2つに分かれます。まず、「変更不可(医療上必要)」欄にチェックが付く場合ですが、医療上の必要性がある場合、というのは疑義解釈にて以下のように定義されています。(1)効能効果に差異がある場合(2)治療効果に差異があると医師が判断する場合(3)ガイドラインにおいて、後発医薬品へ切り替えないことが推奨されている場合(4)後発医薬品の剤形では飲みにくい、吸湿性により一包化ができないなど、剤形上の違いにより、長期収載品を処方する医療上の必要があると判断する場合疑義解釈では「使用感については医療上の必要性としては想定していない」とされているため、使用感を理由に長期収載品を希望する場合は選定療養の対象になり、患者負担が増えます。また、患者さんが長期収載品を希望する場合は、「患者希望」欄にチェックが付きます。こちらはもちろん選定療養の対象になるため患者負担が増えますが、今までどおり長期収載品を希望することはできます。また、8月21日に追加の疑義解釈が出され、以下のような追加の解釈が明らかになりました。10月1日より前に処方され、10月1日以降に薬局に持ち込まれた処方箋については制度施行前の扱いとなる生活保護受給者に対して長期収載品の処方を行うことに医療上必要があると認められる場合は、当該長期収載品は医療扶助の支給対象となる生活保護受給者が、医療上必要があると認められないにもかかわらず、その嗜好などから長期収載品を希望した場合は、当該長期収載品は医療扶助の支給対象とはならず、生活保護法(第34条第3項)に基づき、長期収載品を調剤せずに後発医薬品を調剤する(結果として、生活保護受給者からは長期収載品の選定療養による「特別の料金」を徴収することはない)今回の選定療養の対象になる薬剤は、後発医薬品が上市から5年以上経過したもの、または後発医薬品の置換率が50%以上となった薬剤で、1,095品目です。対象になる薬剤は2024年4月に事務連絡で発出されています。後発医薬品の発売後5年未満かつ置換率50%未満の先発医薬品は選定療養の対象外になるということになりますが、実際に調べてみると対象外の成分は全体の3%ほどですので、ほぼすべての長期収載品が対象となる(=その長期収載品を希望すると差額が増える)と考えてよさそうです。この選定療養の運用開始により、今まで長期収載品を希望していた患者さんが「負担が増えるくらいなら後発医薬品でもいいや」と、後発医薬品に変更するケースが増えそうです。総じて後発医薬品の使用割合がさらに上がることは間違いないでしょう。しかしながら、後発医薬品の安定供給の課題が残っていることは事実です。まずは安定供給が先なのでは…とこの順序に不安を感じずにはいられません。

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第231回 コウモリが減って乳児死亡が増加

コウモリが減って乳児死亡が増加米国のコウモリが謎多き真菌感染症でおよそ20年前に大量に死に始め、その数が大幅に減っています。Science誌に報告された新たな解析1)によると、コウモリの激減で人間も知らぬ間に思いもよらぬ影響を受けていたようです。その影響とは乳児の死亡率上昇です。農家にとってコウモリはただで害虫を駆除してくれる貴重な存在です。害虫を含む昆虫をコウモリが一晩で捕食する量は実に自分の体重の40%かそれ以上に達します。コウモリのその無償の奉仕は1年間当たり少なく見積もって37億ドル、多ければ530億ドルもの価値を生み出していると推定されています2)。米国でのコウモリの大量死は、欧州から紛れ込んだPseudogymnoascus destructansと呼ばれる真菌が広まって、同国の北東部で2006年に始まりました3)。冷温を好むP. destructansは冬眠中のコウモリの鼻のあたりで増えて鼻を白くします。それゆえコウモリのP. destructans感染症は白鼻症候群(White-nose syndrome:WNS)と呼ばれます。WNSの主な害は、餌の乏しい時期にコウモリを冬眠から早く目覚めさせてしまうことです。WNSで目覚めてしまったコウモリは寒さゆえカロリーを多く摂取する必要がありますが、いかんせん捕食がままならず、たいてい冬を生きて越すことができません。WNSの破壊力は凄まじく、わずか7年で500万匹を超える北米のコウモリがそのせいで死んでいます。その激減は“風が吹けば桶屋が儲かる”とは反対の悪い影響を巡り巡ってヒトの健康にもたらしたようです。新たな解析によると、捕食者であるコウモリがWNSで減ったことでまずは昆虫が増え、続いて農家は殺虫剤をおよそ31%多く使うようになりました。その殺虫剤使用の増加と並行し、コウモリが大量死した地域では環境毒素の指標としてよく使われる乳児死亡率が平均およそ8%上昇していました。殺虫剤やその他の農薬とヒトの健康への害の関連の裏付けがいくつか存在します。政府は及ぼしうる害を検討したうえでそれら農薬の使用を許可しています。それでも農業従事者や世間の人は農地からの浮遊や地下水に混入した農薬成分を被るかもしれません。殺虫剤はコウモリほど害虫予防に役に立たず、むしろ経済的損失をどうやら招いたことも新たな解析で示唆されています。農作物は質が低下したらしく、その販売収入は29%低下しました。その結果、コウモリが大量死した地域の農家は2006~17年に殺虫剤の費用と減収で合わせて269億ドル損したと推定されました。また、乳児の過剰な死亡は124億ドルの損失を招いたと推定され、コウモリ大量死地域は2006~17年に乳児の死亡と農家の損を合わせて394億ドル損したようです。コウモリが昆虫を抑え込めなくなることが強いる莫大な社会的負担に比べ、コウモリを保つための費用はそれほどかからないでしょう。自然の価値をもっと知ってその保護政策に活かしていく必要があると今回の解析の著者のEyal Frank氏は言っています4)。今回の解析をただ1人で行ったFrank氏によると、コウモリのいくらかの群れが回復し始めている兆しはあるものの、元どおりに増えるまでには数十年かかりそうです。Frank氏の所属団体はコウモリの冬眠場所に昆虫がより集まるように明かりをつけ、コウモリが十分食べられるようにする取り組みをしています5)。また、廃鉱の空調を調節してコウモリのねぐらとして好ましい温度になるようにする検討も他の自然保護団体が始めています。参考1)Frank EG. Science. 2024;385:eadg0344.2)Boyles JG, et al. Science. 2011;332:41-42.3)Loss of bats to lethal fungus linked to 1,300 child deaths in US, study says / Guardian 4)The collapse of bat populations led to more than a thousand infant deaths / Eurekalert 5)My jaw dropped’: Bat loss linked to death of human infants / Science

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第209回 医師の偏在是正、美容医療規制も含めて年末までに対策を策定へ/厚労省

<先週の動き>1.医師の偏在是正、美容医療規制も含めて年末までに対策を策定へ/厚労省2.認知症施策、希望を持って生きる社会を目指す基本計画を閣議決定へ/内閣府3.喫煙率14.8%、規制強化で最低水準に/厚労省4.マイナ保険証の利用率に基づく医療DX加算、翌月から適用可能/厚労省5.新たな地域医療構想、二次医療圏見直しと在宅医療強化へ/厚労省6.75歳以上の医療費抑制、3割負担の対象拡大を検討/内閣府1.医師の偏在是正、美容医療規制も含めて年末までに対策を策定へ/厚労省厚生労働省は2024年9月5日、医師の地域・診療科偏在を是正するために「医師偏在対策推進本部」を設置し、9月5日に初会合を開催した。武見 敬三厚労相は冒頭で、「医師偏在の解消なしには、国民皆保険制度の維持は困難だ」と述べ、医師偏在問題に対する強い危機感を示した。本部は年末までに、経済的インセンティブや規制的手法を含む総合的な対策パッケージを策定する予定。会合では、主に「医師確保計画の深化」「医師の育成と配置」「実効的な医師配置」の3つの柱に基づき議論が進められた。とくに、医師少数区域での医師確保を目指し、若手医師や医学生に対する地域医療への理解促進や研修制度の見直しなどが検討されている。また、外来医師が多い都市部での新規開業を制限するため、規制的手法も導入される可能性がある。さらに、美容医療への若手医師の流出を抑えるため、公的保険診療の経験をクリニック開業の条件とする案も議論された。とくに美容外科などの分野で若手医師が急増している現状を踏まえ、保険外診療のみに依存する医療機関の乱立を防ぐ狙いがある。対策推進本部では、地方の医療機関への財政支援や医師が少ない地域への医師派遣制度の強化なども進める予定。都道府県が策定する医師確保計画に基づき、地域ごとの医師の需給バランスを見極めながら対策を推進する。今後、さらに具体的な議論が進み、年末には法改正も視野に入れた包括的な対策が発表される見通し。参考1)医師偏在是正に向けた総合的な対策パッケージの骨子案について(厚労省)2)医師偏在是正に向けた総合的な対策パッケージの骨子案 主な論点(同)3)美容クリニック開業に規制案 公的医療の経験必要に(日経新聞)4)外来医師多数区域における新規開業への規制的手法などを議論 厚生労働省「医師偏在対策推進本部」が始動(日経メディカル)5)医師偏在「もはや待ったなし」 厚労省、是正に向け部局横断会議(毎日新聞)2.認知症施策、希望を持って生きる社会を目指す基本計画を閣議決定へ/内閣府2024年9月2日に政府は、認知症施策の基本計画案を発表した。計画の中心には「認知症になっても希望を持って自分らしく暮らし続けることができる」という新たな認知症観が据えられ、その浸透を進めることが重点目標とされた。これにより、認知症の人を「支える対象」とする従来の考え方から、共に支え合う社会を目指す方針へと転換する。また、この計画は、認知症基本法に基づく初めての施策であり、2029年度までを計画期間とし、5年ごとに見直しを行う予定。計画案では、認知症になった後も、できることややりたいことがあるという前提を掲げ、偏見の解消を目指す。「ピアサポート活動」を推進し、認知症当事者が支え合う仕組みや、学校現場での教育活動なども盛り込まれた。また、当事者の意思を尊重し、地域での生活を支えることが重要視されている。さらに、重点目標として「当事者の意思尊重」「地域での安心した生活」「新技術の活用」が挙げられ、認知症の人が他者と支え合いながら住み慣れた地域で暮らせる社会を目指す。具体的な施策として、若年性認知症の人の就労支援強化や地域のバリアフリー化推進、認知症サポーターの養成などが含まれている。計画は今月下旬にも閣議決定され、各自治体においても地域の実情に応じた計画の策定が進められる。これにより、認知症の人々が、社会の一員として共に生きるための施策が強化される見通し。参考1)認知症施策推進基本計画[案](内閣府)2)「認知症でも自分らしく」 政府重点目標、基本計画案(日経新聞)3)希望を持って生きる「新しい認知症観」 基本計画案を了承(毎日新聞)4)「新しい認知症観」で社会参画促す 認知症基本計画 閣議決定へ(朝日新聞)5)認知症施策推進基本計画案、当事者らの参画を強調 認知症カフェなどでの交流促す 政府(CB news)6)「新しい認知症観」を明示 国の基本計画固まる(福祉新聞)3.喫煙率14.8%、規制強化で最低水準に/厚労省厚生労働省は、2022年に実施した国民健康・栄養調査の結果を公表した。これによると、20歳以上の喫煙率は14.8%と過去最低を記録した。前回の2019年の調査結果の16.7%を下回り、2003年以降の最低値を更新したが、政府が「健康日本21(第2次)」で掲げた目標の12%には届いていない。男女別の喫煙率は、男性が24.8%、女性が6.2%で、いずれも過去最低だった。とくに男性では30代が35.8%、女性は40代が10.5%と高い傾向がみられた。喫煙者のうち、たばこを止めたいと考えている人は全体の25%で、男性では21.7%、女性では36.1%が禁煙を希望している。今後、厚労省は、喫煙を止めたい人への治療支援をさらに充実させる方針を示している。また、「受動喫煙の機会がある」と答えた人の割合も減少しており、とくに飲食店や遊技場では規制強化により半減し、それぞれ14.8%、8.3%となった。一方、路上や職場での受動喫煙は依然として高く、路上では23.6%、職場では18.7%と報告されている。この調査は2022年11~12月にかけて、全国約2,900世帯を対象に実施された。新型コロナウイルス感染症の影響で、2020年と2021年の調査は中止され、今回は3年ぶりの調査となった。厚労省は今後も、規制強化と禁煙支援の充実を進めることで、喫煙率のさらなる低下を目指す考えを強調している。参考1)令和4年「国民健康・栄養調査」の結果(厚労省)2)喫煙率14.8%、過去最低 国民健康・栄養調査(日経新聞)3)「喫煙率」14.8% 厚労省2022年の調査 2003年以降で最も低く(NHK)4.マイナ保険証の利用率に基づく医療DX加算、翌月から適用可能/厚労省9月3日に厚生労働省は「医療情報取得加算及び医療DX推進体制整備加算の取扱いに関する疑義解釈資料」を事務連絡で発出した。2024年10月から導入される「医療DX推進体制整備加算」では、マイナンバーカードによる保険証(マイナ保険証)の利用率に基づき、医療機関が算定する新たな評価制度がスタートする。資料によれば、この加算の算定基準となるマイナ保険証の利用率が、翌月に適用されることを明確にした。医療機関は、毎月中旬に社会保険診療報酬支払基金からメールで通知される利用率を基に、翌月1日から加算の算定が可能になる。この加算は、マイナ保険証利用率に応じて3区分に分類され、医療機関ごとの利用率が基準値を満たしている場合、施設基準の再届け出は不要とされる。ただし、利用率が基準に満たない場合は加算が算定できないことも示されている。さらに、利用率は2~5ヵ月前までの期間で「最も高い数値」を選択して算定できる柔軟な対応が可能となる。医療DX推進体制整備加算は、診療情報や処方箋情報の電子化、患者の医療情報の共有を促進する取り組みであり、医療の質と効率を高めることを目指す。2024年10月からの基準値は、最も高い加算(11点)を受けるためには15%以上の利用率を求め、来年1月以降は30%以上が必要となる。その他の区分も利用率に応じた基準が設けられている。さらに、今回の加算見直しでは、利用率の基準を確認できる仕組みが強化され、支払基金のポータルサイトを通じて、医療機関が確認できるようになっている。2025年4月以降の利用率基準も今後の状況を踏まえて再評価される予定であり、今後も医療機関の対応が重要視される。参考1)医療情報取得加算及び医療DX推進体制整備加算の取扱いに関する疑義解釈資料の送付について(その1)(厚労省)2)通知のマイナ利用率、翌月に適用 DX加算で医療課(MEDIFAX)3)医療DX推進体制整備加算、マイナ保険証利用率は「自院に最も有利な数値」を複数月から選択適用可能な点など再確認-厚労省(Gem Med)5.新たな地域医療構想、二次医療圏見直しと在宅医療強化へ/厚労省2025年に向けて地域の病床機能の再編や地域ごとの医療体制を整備するために取り組んできた地域医療構想を見直すために、厚生労働省は、新たに2040年に向けて立ち上げた「新たな地域医療構想に関する検討会」で、2040年に向けた新たな地域医療構想の方向性を示した。とくに85歳以上高齢者の救急医療や在宅医療の需要増加に対応するため、現行の二次医療圏よりも小規模な地域単位での医療提供体制を強化することが求められている。日本病院会も、二次医療圏の見直しを提言し、今後意見書を提出する予定。新たな地域医療構想の議論では、現行の考え方を継続する部分と新しい要素を組み込む部分を区別しながら進めるべきという意見が出されている。各都道府県が策定するガイドラインについて、国は細部を厳格に定めず、地域の実情に応じた柔軟な対応が求められている。9月5日に開かれた社会保障審議会医療部会では、市立病院の再編や経営支援、在宅医療や外来医療を含む包括的な地域医療体制の整備が提案された。また、現行の病床機能報告制度や病床数の不足が指摘されている回復期病床の見直しも求められている。精神科医療の組み込みやかかりつけ医機能報告制度に関する議論も進められ、これらを踏まえた新たな医療構想の実現が目指されている。2040年には後期高齢者の増加に伴い、介護・福祉との連携も重要視され、内科系の急性期医療や救急医療の需要が高まることが予想されている。とくに85歳以上の救急搬送件数は、2020年から2040年にかけて75%増加する見通しであり、ADL(活動能力)の低下を防ぐため、早期のリハビリ提供が重要になる。加えて、在宅医療の需要も同時期に62%増加すると予想され、24時間対応の体制構築やオンライン診療の活用が課題とされた。新たな地域医療構想では、入院医療だけでなく外来医療や在宅医療も対象とし、長期的に地域における医療提供体制を見直す方針が示された。また、医療圏を越えて一定の症例や医師の集約を進め、高度医療の提供体制を強化することも検討されている。過疎地域では医療機能の維持が重要視され、医師の派遣やICTの活用を通じて地域の医療提供力を高めることが求められている。今後、年末までに具体的な対策が取りまとめられ、2025年度からの実施を目指す。参考1)新たな地域医療構想の検討状況について(厚労省)2)2040年ごろを見据えた新しい地域医療構想の方針を提示 医療圏より小さい範囲で在宅医療の提供体制の検討を(日経メディカル)3)新たな地域医療構想、「2次医療圏」見直しを 日病(MEDIFAX)4)新たな地域医療構想論議、「現行の考え方を延長する部分」と「新たな考え方を組み込む部分」を区分けして進めよ-社保審・医療部会(Gem Med)6.75歳以上の医療費抑制、3割負担の対象拡大を検討/内閣府政府は、75歳以上の後期高齢者の医療費窓口負担について、3割負担の対象範囲を拡大する方針を検討している。これは、2024年に改定予定の「高齢社会対策大綱」に盛り込まれ、高齢化に伴う医療費の膨張に対応するための措置として進められる。現在、75歳以上の高齢者は原則1割自己負担だが、一定の所得がある場合は2割、さらに現役並みの所得がある場合には3割を負担している。今回の改定では、この3割負担の適用範囲が広がる可能性がある。政府は2023年12月に決定した社会保障改革の工程表で、この負担増を検討課題として挙げており、2028年度までに「現役並み所得」の判断基準を見直す計画を示している。医療費の膨張を抑制するため、負担を増やす一方で、負担増に対する国民の反発も懸念され、今後の議論は難航する可能性がある。さらに、内閣府は、高齢者の就労を促進するための「在職老齢年金制度」の見直しも提言。具体的には、働く高齢者が一定以上の所得を得た場合に年金受給額を減らす現行の制度を見直し、就労を支援する方向での改革を進めるとされている。また、個人型確定拠出年金(iDeCo)の加入可能年齢の引き上げなど、私的年金制度の拡充も検討中であり、これらも大綱に含まれる予定。この改定案は、2024年内に閣議決定される見通しで、今後のわが国の高齢社会に対応する医療制度の持続性を高めるための重要な議論となる。参考1)高齢社会対策大綱の策定のための検討会 報告書[案](内閣府)2)75歳以上医療費、3割負担の対象拡大検討 高齢社会大綱(日経新聞)3)政府が75歳以上の医療費3割負担の対象拡大検討 高齢社会大綱案に明記、制度持続狙い(産経新聞)

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第77回 ポアソン分布とは?【統計のそこが知りたい!】

第77回 ポアソン分布とは?ポアソン分布(Poisson distribution)は、まれな事象が起こる回数の確率分布を表す確率分布です。たとえば、1ヵ月間当たりの交通事故の発生件数や国道1km当たりのレストラン数などがポアソン分布に従うことがあります。では、身のまわりでよくある確率の問題で考えてみましょう。(1)ある交差点で1ヵ月間に起きる交通事故の死者数が平均1.2人であるとき、1ヵ月間の死者の数が0人である確率は?(2)国道200km当たりのレストラン数は10軒であるとき、国道1km当たりのレストラン数が1軒以上ある確率は?これらのテーマは、時間(たとえば1日当たり)、距離(たとえば1km当たり)などある一定区間の中で、偶然起こる事象の確率を考える問題です。ポアソン分布は、このように一定の長さの期間や距離において、ごくまれに起こる事象の数の分布です。前回第76回「二項分布とは?」で解説した二項分布と違って、nは必要ありません。たとえば交差点での交通事故の件数は極めてまれですが、その対象となる運転者や通行人のnはとても大きく、日々変化するなどで決められないのが通常です。このように、ポアソン分布は起こる確率の低い事象に対する分布であり、別名「少数の法則」とも呼ばれています。■ポアソン分布における確率分布と確率の求め方(1)の事例でポアソン分布を作成し、ポアソン分布を用いて確率分布を求めてみましょう。二項分布では、ある事象の起こる確率をP、この事象の試行回数をn回としてX回起こる確率を求めました。しかし、この(1)の事例ではPやnはわかりません。わかっているのは平均の1.2人のみです。この例では二項分布は適用できません。この問題を解決してくれるのがポアソン分布です。ある事象における平均値をmとします。この事象がX回起こる確率をP(X)で表すと、ポアソン分布におけるP(X)は次の公式によって求められます。ただ、この式の計算は煩雑なので、Excel関数によって計算してみましょう。算出された確率分布(表1)とそのグラフ(図1)を示します。表1 ポアソンの確率分布(左)図1 ポアソンの確率分布グラフ(右)画像を拡大するポアソン分布を用いて(1)の事例の確率を求めます。ある交差点で1ヵ月間に起きる交通事故の死者数が平均1.2人であるとき、1ヵ月間の死者の数が0人である確率は、上記の確率分布表より、0.3012(約30%)となります。それでは次にある交差点で1ヵ月間に起こる事故の件数が2、3、4、5件として、ポアソン分布のグラフを作成してみましょう(件数のことを“μ”と呼びます。この場合μ=2、3、4、5件となります)表2 ポアソンの確率分布の比較表(左)図2 ポアソンの確率分布の比較グラフ(右)画像を拡大する事故の件数(μ)が大きくなるほどグラフは右側へスライドし、右に裾を引いているグラフがだんだん左右対称に近付いていることがわかります。ポアソン分布はμが大きくなるにつれて、正規分布に近付いていきます。■二項分布とポアソン分布の比較前回第76回で適用したコイントスの事例をポアソン分布で計算してみましょう。「オモテの出る確率が0.5のコインを3回投げたとき、オモテが2回以上出る確率は?」でした。ポアソン分布は平均値を用いますので、この事例における平均値をまず算出します。平均値はn×Pで求められますので、平均値=n×P=3×0.5=1.5となります。Excel関数より下記のようになります。X=2の場合 =POISSON(X,m,0)→POISSON(2,1,5,0)→0.2510X=3の場合 =POISSON(X,m,0)→POISSON(3,1,5,0)→0.1255以上からオモテが2回以上の確率は、0.2510+0.1255=0.3765となり、二項分布における確率は0.5で、ポアソン分布の0.3765と異なる値となりました。ポアソン分布は別名「少数の法則」というように確率が低い事象についての確率分布ですので、50%の確率がある事象については、ポアソン分布を当てはめることに無理があったということになります。医療の領域でポアソン分布は、疫学調査における疾患発生率の推定にも用いられます。たとえば、ある地域におけるある疾患の発生数が、1年間平均で10例だった場合、その疾患の発生数はポアソン分布に従うことがあります。このとき、ポアソン分布の式を使って、ある年にその疾患にかかる人数が5例以下である確率を求めることができます。■二項分布とポアソン分布を使い分けるときの注意点二項分布とポアソン分布は、いずれも離散確率分布ですが、使い分けには以下のような注意点があります。まず、二項分布は、試行回数が固定された独立な試行で成功確率が一定の場合に適用されます。一方、ポアソン分布は、時間や面積などの連続的な空間において、単位時間当たりや単位面積当たりに発生する現象のような、成功回数がまれである(平均値が小さい)場合に適用されます。つまり、二項分布は、離散的な試行で確率を求める場合に適しており、ポアソン分布は、連続的な現象で発生回数がまれな場合に適しています。また、ポアソン分布は、平均値が大きくなると正規分布に近付くため、平均値が大きい場合には正規分布を用いることが一般的です。たとえば、ある病院において、手術中に合併症が生じる確率が0.1%(成功率が99.9%)であるとして、その手術を10回実施する場合、二項分布を用いて、2回以上合併症が生じる確率を求めることができます。一方、ある病院における1日当たりの入院患者数が、平均で5人である場合、ポアソン分布を用いて、ある日に入院患者が3人来る確率を求めることができます。以上のように、二項分布とポアソン分布は、適用する現象が異なるため、使い分けには注意が必要です。次回は「4種類あるエラーバー」について解説します。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ統計のそこが知りたい!第56回 正規分布とは?第57回 正規分布の面積(確率)の求め方は?第58回 標準正規分布とは?

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75歳以上=高齢者は正しい?高齢者総合機能評価に基づく診療・ケアガイドライン

 2017年より日本老年学会・日本老年医学会の合同ワーキンググループが再検討・提言していた「高齢者」の定義が7年の時を経て、現行の65歳以上から“75歳以上を高齢者”とする動きにシフトしていく1)。しかし、患者を一概に年齢だけで判断し、治療時の判断基準にしてはいけない。その理由はこれと同時に発刊された『高齢者総合機能評価(CGA)に基づく診療・ケアガイドライン2024』が明らかにしている。今回、ガイドライン(GL)作成代表者である秋下 雅弘氏(東京都健康長寿医療センター センター長)に本書の利用タイミングや活用方法について話を聞いた。いつ、どこで、誰がCGAする? 本GLの使い方(p.X)にも「明確な年齢上の区分は設けない。高齢者総合機能評価(CGA:comprehensive geriatric assessment)の最もよい対象は老年疾患や老年症候群を抱えて日常生活機能が低下した方であるが、必ずしも65歳以上とは限らない」と記載がある。同氏は「75歳以上が高齢者という定義を念頭に置きつつも、個々の生物学的年齢で判断することが重要。そのためにも機能低下がみられる成人の場合、75歳未満であっても本GLに掲載されている機能評価を使ってもらいたい」と個別化医療の観点から説明した。 CGAとは、疾患の評価に加えて日常生活活動度(ADL、基本的ADL・手段的ADL)、認知機能、気分・意欲・QOL、療養環境や社会的背景などを構成要素とし、評価/スクリーニングツールを使って系統的に評価する手法のことである。医療者であれば患者と接する際におのずと頭の中で意識していた内容が、構成要素として整理されたものだ。これを作成した目的について、同氏は「高齢者の状態に適した個別化医療やケアの提供のために利用するのはもちろん、高齢者の医療・ケアに関わる医師、医療者や介護福祉関係者が、多職種協働する際の共通言語となるように」と述べ、医療と介護福祉に携わる全職域が本GLの利用対象者であることを説明した。<CGAの構成要素とその主なツール>(1)スクリーニング(p.8~11)  CGA7、基本チェックリストなど(2)日常生活活動度(p.13~18)  ・基本的ADL:Barthel Index  ・手段的ADL:Lawton’s IADL、老研式活動能力指標(3)認知機能(p.19~26)  ・MMSE(Mini-Mental State Examination)、改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)、DASC-21、ABC認知症スケールなど(4)気分・意欲・QOL(p.27~35)  ・GDS(Geriatric Depression Scale)、意欲の指標(Vitality Index)  ・QOL:Short From(SF)-8など(5)社会的背景(p.36~47)  ・要介護認定、家族関係、自宅環境、財産、地域医療福祉資源など 患者へCGAの介入をするタイミングは、職種によって異なる。同氏は「医師であれば、初診時、入院時、退院前、病状の変化時など日常的に実施してほしい。看護師は入院、退院支援、訪問看護の導入、高齢者施設の入所・入居に際して、その他の専門職は療養環境の変化時に、薬剤師は処方見直しに際して実施してほしい」とし、「現場で利用する→多職種共通の言語になる→高齢者に最適な医療提供ができる→それぞれの診療科でも利用価値が高まるというように、臨床でのCGAのメリットを実感してもらいたい」と強調した。 その一方で、今回の改訂までに21年もの年月を要した経緯について、「実際のところ、高齢者一人ひとりを評価するには手間がかかり、マンパワーが必要なゆえ、現場に広がらなかった。CGAを行う場所も確保できなかった」と説明。現時点でも外来での診療報酬加算がなく、CGAを実践してもそれに対する評価がされないことから、CGA実践のハードルの高さは否めないという。疾患ごとの有用性 とはいえ、昨今ではさまざまなガイドラインがMinds診療ガイドライン作成マニュアルに則り作成されているが、それらを高齢者に対して有効活用するためには、目の前の患者の身体・精神機能が高齢者あるいは高齢者に準ずるのかどうかをCGAできちんと判断したうえで、治療にあたることが求められるようになるだろう。p.50 からは高齢者が罹患しやすい疾患や症候群の管理について、各論が記載されている(1.フレイル/低栄養 2.認知症 3.ポリファーマシー 4.Multimorbidity 5.糖尿病 6.高血圧、心疾患 7.[誤嚥性]肺炎 8.骨折 9.外科手術[周術期] 10.悪性腫瘍)が、たとえば糖尿病の場合、研究報告の結果のみならず、本邦の『高齢者糖尿病診療ガイドライン2023』との整合性も考慮し、高齢糖尿病患者の管理にCGAを用いることを提案する(エビデンスの強さ:D、推奨度:2)となっている。悪性腫瘍については、疾患管理において唯一、エビデンスの強さA、推奨度1で合意されている。この領域ではCGAをgeriatric assessment(GA)と称し、診断と並行して行うアセスメントツールとして用いているため、他の疾患領域と比較し、生存効果、有害事象、QOL、入院に関する結果が見いだされている。 方や、(誤嚥性)肺炎に至っては、“CGAの有用性はFRQ(future research question)とし今後の研究に期待する”と記されており、以前より老年疾患として注目のある領域でも有用性の違いが生じていた。 このような課題を残しての次回改訂について、同氏は「エビデンスがないRCTを中心にシステマティックレビューを行ったこともあるが、LIFE(介護保険データ)が集積されるとFRQという次のステップにいけるのではないか」とコメント。さらに、同氏の専門領域であるポリファーマシーについても、「薬剤師は当然ながら、ほとんどの医師にもポリファーマシーが認識されるようになった。しかし、患者さんにポリファーマシーの重要性が届いているかは疑問が残るため、医療費適正化も踏まえて医療従事者へのCGAの啓発を行っていきたい」と締めくくった。

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慢性的なカフェイン摂取で心血管疾患リスクが増加

 コーヒーや紅茶などのカフェイン入りの飲み物は、世界中で朝食の定番になっているが、飲み過ぎは良くないようだ。1日に400mg超のカフェイン摂取は健康な人の心血管疾患のリスクを高める可能性のあることが、新たな研究で示唆された。Zydus Medical College and Hospital(インド)のNency Kagathara氏らによるこの研究結果は、米国心臓病学会アジア学術集会(ACC Asia 2024、8月16〜18日、インド・デリー)で発表された。 この研究では、18〜45歳の正常血圧で健康な成人92人(男性62%、30歳超60%、都市居住者79.3%)を対象に、慢性的なカフェイン摂取が心臓にもたらす影響が検討された。慢性的なカフェイン摂取とは、週に5日以上、1年以上にわたってカフェイン含有飲料を摂取している場合と定義された。全ての対象者は、3分間の踏み台昇降運動を行い、運動終了の1分後と3分後に血圧と心拍数の測定を受けた。 対象者の19.6%が1日当たり400mg超のカフェインを摂取していた。このカフェイン摂取量は、1日当たり4杯のコーヒー、2本のエナジードリンク、または10缶の炭酸飲料の摂取に相当する。特に摂取量が多かったのは、女性、ビジネスや管理職に従事している人、都市居住者であった。 解析の結果、1日400mg超のカフェインの慢性的な摂取は自律神経系に影響し、経時的に心拍数と血圧を有意に上昇させることが示された。さらに、1日600mg超のカフェインを摂取している人では、3分間の踏み台昇降運動から5分後の血圧と心拍数の測定でも、値が有意に上昇したままであった。 Kagathara氏は、「カフェインは自律神経系に影響を及ぼすため、カフェインを習慣的に摂取すると、健康な人でも高血圧やその他の心血管系イベントのリスクにさらされる可能性がある。これらのリスクに対する認識を高めることは、全ての人の心臓の健康を改善する上で不可欠だ」と述べている。 高血圧は、冠動脈疾患、心不全、慢性腎臓病、認知症のリスク増加と関連していると研究グループは説明する。高血圧の発症には、カフェインの摂取以外にも、飲酒、喫煙、年齢、家族の病歴、塩分摂取などが寄与する可能性がある。身体活動量を増やし、栄養価の高い食事を摂取し、その他のライフスタイルを是正することは、血圧を下げ、心臓病のリスクを低下させるのに役立つ。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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クチコミの対応、あれこれ【Dr. 中島の 新・徒然草】(545)

五百四十五の段 クチコミの対応、あれこれ台風10号(サンサン)には振り回されてしまいましたね。2024年8月29日朝に鹿児島県の薩摩川内市に上陸し、九州、四国を通った後に、9月1日正午頃に東海沖で熱帯低気圧になったわけですが、その間の迷走で広範囲に冠水した町もあったようです。大阪での雨は大したことがなかったものの、万一に備えていろいろな予定や行事が中止になりました。何でも強行しがちだった昭和の頃に比べれば隔世の感があります。時代とともに人々の対応も進歩しているのでしょう。さて、今回はGoogleマップのクチコミの話です。実は知り合いの開業医の先生が、あのクチコミでの誹謗中傷は何とかならんものか、と愚痴をこぼしておられました。クチコミというのはGoogleで医療機関を検索すると、地図や写真と共に「3.1 ★★★☆☆ Google のクチコミ(156)」などと黄色い星で表示されるものです。この一連の表示の中で、「3.1」は5点満点の平均値で、大きい数字ほど高評価★★★☆☆というのは平均値を見やすくしたもの(156)というのは評価した人の数なのでしょう。さらにこの部分をクリックすると、文章での評価も出てきます。星を付けただけでなく、さらに言いたいことがある人用ですね。全体の3割程度の人が文章でも評価しているようです。何に対しても評価があるのか、大阪府庁とか大阪地方裁判所、大阪拘置所みたいな行政機関まで星を付けられています。Googleマップの評価自体がされていなかったのは、私が調べた範囲では大阪府警察本部と大阪刑務所くらいでした。「刑務所のメシがまずい」みたいな評価があっても良さそうな気もしますが。このGoogleマップのクチコミについては、メディアでも何かと話題になっています。2024年5月のニュースでは、兵庫県尼崎市の某眼科診療所がクチコミに悪質な書き込みをされた件を扱っています。クチコミには「レーシック手術を受けたが左目だけで、右目はレンズを入れられた」「何も症状もないのにまた勝手に一重まぶたにされた」「噂を信じず他の眼科へ行くことをお勧めします。気を付けて下さい」とあったとのこと。で、その眼科診療所は投稿者に削除要請をしたものの、回答がなかったので訴訟を起こしたそうです。結果として、被告に対して、投稿記事の削除と200万円の損害賠償の支払いを命じる判決が出たのですが、それまでに3年間の歳月を要したのだとか。幸い勝訴判決を得たものの、診療所にとっては大変な労力だったことでしょう。また、2024年4月のニュースには、Googleマップのクチコミに、不当な内容が投稿されても削除してもらえず利益が侵害されたとして、都内63ヵ所の医療機関や個人が、Googleに対して総額140万円余りの損害賠償を求めて集団訴訟を起こした、とあります。裁判自体は現在進行中とのこと。今まではまったく気にしていなかったGoogleマップのクチコミですが、あらためて私の勤務する大阪医療センターのものを読んでみると、いろいろな評価がされていました。星の数も最高の5個から最低の1個までいろいろ。星5個の評価では「ドクター、ナース、検査技師、事務の方、その他のスタッフさん、皆さん、本当に全員が優しくて感じよかったです」とありました。一方、最低の星1個のほうでは「以前かかっていた他県の市立病院と比べて、全体的に雰囲気がギスギスしていると感じた」「○○科に入院したのですが、医師の説明不足が不満でした。説明しても理解できないであろうという見下した態度に憤りを感じました」という記載があり、人により評価はいろいろのようです。中には名指しの評価もあり、「△△科の先生がとても親身になって、たくさんアドバイスしてくれました」から「▲▲科の××医師はいい加減に患者を扱っている」まで、読んでいて思わず身がすくみそうになりました。私自身は良くも悪くも名前すら挙がっておらず、ホッと一息。それにしても、名指しで非難されたら凹むだろうな、と容易に想像できるのですが、これらの先生たちはご自分の言われようを知っているのでしょうか。市内のクリニックの中には、「オーナーからの返信」という機能を利用して、1つ1つの投稿に返信しているところもありました。「××様 せっかくご来院いただいたのに不快な思いをさせてしまいました。スタッフ一同で今後の改善に努めて参ります。貴重なご意見をいただき、ありがとうございました」といった類の文言です。これ、よほどマメじゃないとできないでしょうね。ついいろいろ見てしまいましたが、クチコミの中には投稿者の一方的な思い込みや、文句を言う先が間違っているとしか思えないものも散見されました。訴訟沙汰になるのも無理はない気がします。無責任な書き込みをなくす方法と考えられるのは、こういったクチコミのシステム自体をやめるか、すべての投稿者の実名を出すかくらいでしょうか。Googleの対応も進化してくれることを祈りたいと思います。最後に1句台風が 去っても残る クチコミぞ

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高用量タンパク質投与、人工呼吸器装着患者には無益/Lancet

 人工呼吸器を要する重症患者への高用量タンパク質投与は標準量タンパク質投与と比較して、健康関連QOLを悪化させ、集中治療室(ICU)入室後180日間の機能的アウトカムを改善しなかった。オランダ・マーストリヒト大学のJulia L. M. Bels氏らPRECISe study teamが、同国とベルギーで実施した「PRECISe試験」の結果を報告した。先行研究で、重症患者へのタンパク質投与量の増加が、筋萎縮を緩和し長期的アウトカムを改善する可能性が示されていた。Lancet誌オンライン版2024年8月17日号掲載の報告。高用量(2.0g/kg/日)vs.標準量(同1.3g/kg/日)の無作為化試験 PRECISe試験は、オランダの5病院とベルギーの5病院で行われた研究者主導の多施設共同並行群間二重盲検無作為化比較試験である。機械的人工呼吸器を装着した重症患者への経腸栄養によるタンパク質投与について、高用量(すわなち1日当たり2.0g/kg)が標準量(同1.3g/kg)と比較して、健康関連QOLと機能的アウトカムを改善するかどうかを評価した。試験組み入れ基準は、ICU入室後24時間以内に侵襲的人工呼吸器による管理を開始し、同装着期間が3日以上と予想されることとした。除外基準は、経腸栄養禁忌、瀕死状態、BMI値18未満、透析不要コードの腎不全、または肝性脳症であった。 患者は双方向ウェブ応答システムを介して、2つの試験群に対応した4つの無作為化ラベルの1つ(すなわち各群2つの無作為化ラベルを有する標準または高タンパク質群)に、1対1対1対1の割合で無作為に割り付けられた。無作為化には置換ブロック法が用いられ、ブロックサイズは8および12で試験施設ごとに層別化した。参加者、ケア提供者、研究者、アウトカム評価者、データ分析者、独立データ安全性監視委員会はすべて割り付けについて盲検化された。 患者は、1.3kcal/mLおよび0.06g/mLのタンパク質(標準タンパク質)または1.3kcal/mLおよび0.10g/mLのタンパク質(高タンパク質)を含む経腸栄養剤を投与された。本試験の栄養介入は、患者のICU入室中で経腸栄養が必要とされた期間(最長90日)に限定された。 主要アウトカムは、無作為化後30日、90日、180日時点でのEuroQoL 5-Dimension 5-level(EQ-5D-5L)健康効用値(health utility score)で、ベースラインのEQ-5D-5L健康効用値で補正し評価した。180日間の試験期間中、高タンパク質でEQ-5D-5L健康効用値が低い 2020年11月19日~2023年4月14日に935例が無作為化された。うち335例(35.8%)が女性、600例(64.2%)が男性で、465例(49.7%)が標準タンパク質群に、470例(50.3%)が高タンパク質群に割り付けられた。 標準タンパク質群の430/465例(92.5%)と、高タンパク質群の419/470例(89.1%)が、主要アウトカムの評価を受けた。 主要アウトカムである無作為化後180日間のEQ-5D-5L健康効用値(30日、90日、180日時点で評価)は、高タンパク質群の患者が標準タンパク質群の患者より低く、平均群間差は-0.05(95%信頼区間[CI]:-0.10~-0.01、p=0.031)であった。 安全性アウトカムに関して、全フォローアップ期間中の死亡確率は標準タンパク質群0.38(SE 0.02)、高タンパク質群0.42(SE 0.02)であった(ハザード比:1.14、95%CI:0.92~1.40、p=0.22)。 高タンパク質群の患者では、消化管不耐性症状の発生頻度が高かった(オッズ比:1.76、95%CI:1.06~2.92、p=0.030)。その他の有害事象の発現頻度は群間で差がなかった。

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押さえておきたい「合理的配慮」のポイント【実践!産業医のしごと】

押さえておきたい「合理的配慮」のポイント2016(平成28)年4月より、改正障害者雇用促進法が施行され、雇用分野における「合理的配慮」の提供が義務とされました。合理的配慮とは、障害のある人が障害のない人と同じように保障されるとともに、教育や就業、その他社会生活において平等に参加できるように周囲が配慮することを指します。現在、すでに法の施行から8年が経過していますが、合理的配慮は職場において十分に浸透したとはいえない状況にあります。合理的配慮への対応が不十分な職場がある一方で、合理的配慮の求めにどこまでも対応しようとして苦慮する職場もあるようです。産業医は合理的配慮に直接関わる立場ではないものの、仕事と人を適合させることが役割です。働く人の専門家の立場として意見を述べ、必要に応じて主治医との連携、職場や人事等も含めた、関係者間の調整的なハブの立場として関わることが求められています。今回は、合理的配慮について解説していきます。職場における合理的配慮は、仕事に支障となる障壁を解消する措置である合理的配慮の概念は米国の発祥で、障害を理由とする差別を禁止した連邦法である「障害を持つアメリカ人法(Americans with Disabilities Act:ADA)」の制定を機に広まります。法学者の長谷川 珠子氏によると、ADAにおける合理的配慮は、「障害」を持ち、かつ当該職務に対して「適格性」を有する人を適用(保護)の対象としています1)。「適格性」とは、合理的配慮があれば(あるいはなくとも)「職務の本質的機能」の遂行ができる人を指し、合理的配慮があっても「当該職務の本質的機能」を遂行できない人は、障害者であっても保護の対象とはならない、とされています。ジョブ型の雇用である米国らしい法律ともいえますが、合理的配慮とは、仕事をするために障壁となっている事柄に関して必要かつ適切な調整を行うこと、と捉えるのが基本です。日本で厚生労働省が制定した「合理的配慮指針」2)では、合理的配慮の説明として「障害者である労働者の有する能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善するために事業主が講ずべき…(中略)…措置」と記載されています。基本的な考え方は米国と大きく変わらず、合理的配慮とは働くために必要な合理性がある配慮であり、障壁のために本来のパフォーマンスを発揮できない場合には調整を行う必要がある、という考え方です。実際にあった職場における合理的配慮の申し出合理的配慮の申し出があった場合に、企業はどのように合意を形成していくのが望ましいのでしょうか。下記は、私が担当する企業で、精神障害を持つ方から合理的配慮の申し出があったケースです。過集中の傾向があり、業務中に疲労がたまったときは、自由に休憩させてほしい。不安が高まるため、納期のない自分のペースでできる仕事を担当したい。過去のトラウマを思い出すため、仕事でミスをしても厳しく指導しないでほしい。合理的配慮を進める際に、カギとなるのは対話です。何が障壁となるかは、当事者である本人にしかわかりません。精神障害の場合、さらに個別性は高く、画一的な配慮はまったく意味をなさないこともあります。また、すべての要求に応じようとすると、職場に負担がかかり、公正性の観点からも問題が生じることがあります。結局のところ、必要なステップを踏みながら、関係者の間で建設的に対話をする以外の方法はありません。合意形成のステップ配慮する事柄を決めるための合意形成のステップを示します。以下の流れで進めていきます。1)当事者からの意思表明(申し出)2)希望や理由を聞き取りながら職場と本人で話し合いを行う3)過度な負担(設備、費用等)とならない範囲で対応を検討する4)職場で対応できる内容を本人に伝え、理由も説明する5)お互いに合意した配慮を実施する6)定期的にその内容や程度について見直し・改善をする対話を通じて、職場と当事者の理解を深め、双方に納得感がある合意が得られることが重要です。また配慮が困難な場合でも、対話を尽くし、代替案が取れないか等、互いに納得できるプロセスを経るように意識しましょう。先ほどの例で挙げたケースは対話の結果、以下の内容で合意を得ました。  合理的配慮の例画像を拡大する「合理的配慮」は記録に残して、定期的に見直す合理的配慮の内容に合意した際は、確認書として記録に残すことが重要です。その際に必要なのは以下の4点です。1)従業員側の希望する配慮とその理由2)企業側が実施できない配慮とその理由3)対話によって決定した合意的配慮の事柄4)本人および企業側の署名合理的配慮は、上司の異動や組織変更などがあっても継続するように留意します。また、環境や業務の変化によって必要とする配慮が変わることもあるため、定期的に見直すようにしましょう。合理的配慮が浸透している職場は、すべての人が働きやすい合理的配慮が浸透している職場は、障害の有無にかかわらず、すべての労働者にとって働きやすい職場であるはずです。働く人の障壁を排除することによって能力を発揮でき、仕事のパフォーマンスが向上します。合理的配慮とは個別性への対応であり、産業医はときに組織の潤滑油となり、労働者と企業側の間に立つ専門家としての機能が求められています。合理的配慮を理解し、安心して働ける職場を支援しましょう。参考文献・参考サイト1)アメリカにおける「合理的配慮」について/日本学術振興会 長谷川珠子 2)合理的配慮指針(平成27年厚生労働省告示第117号)/厚生労働省

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第228回 パワハラの訴えを撤回させようとまたパワハラ 札幌医大教授が今年2回目の懲戒処分で停職合計8ヵ月に

台風10号の大雨で北陸新幹線経由が注目こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。台風10号には皆さんほとほと参ったのではないでしょうか。大雨に見舞われた地域の方々だけではなく、出張や旅行などで“東海道”や“山陽道”を移動しようとする人も大変だったようです。飛行機や東海道新幹線が止まる中、関西方面から関東へは、まず福井の敦賀に出て、北陸新幹線経由で東京に向かう、というルートが注目されていました。JR西日本も北陸新幹線と特急列車サンダーバード(大阪から敦賀への特急列車)を増発するほどでした。これからも台風などによって似た気象状況は頻繁に起きそうです。皆さんもこの迂回ルート、頭の片隅に入れておくといいかもしれません。パワハラを断固として認めずあくまでも「必要な指導だった」と兵庫県知事断続的な雨が続いたこの週末、私はMLBのドジャース戦や、兵庫県の斎藤 元彦知事のパワハラの疑いなどを告発する文書をめぐって開かれた県議会調査特別委員会(百条委員会)のライブ中継を観るなどして時間を潰しました。証人尋問での斎藤知事の受け答えで感心したのは、「パワハラをしていた」を断固として認めないその意志の強さです。あくまでも「必要な指導だった」と無表情で言ってのける鉄面皮振りは、ホラー映画を観ているようでした。さらに、委員から「出張先で玄関の20メートルほど手前で公用車を降りて歩かされ、出迎えた職員らをどなり散らしたのは事実か」問われたのに対し、「歩かされたことを怒ったのではなく、円滑な車の進入経路を確保していなかったことを注意した」と説明していたのにも驚きました。それにしても、百条委員会の委員たち(各党の県議会議員)はちょっと追及が甘過ぎますね。誰も知事を追い詰め、しどろもどろにさせることができませんでした。各紙報道によれば、百条委員会終了後、報道陣から進退を問われた斎藤知事は「知事としての仕事を果たすのが私の責任」と続投の意思を改めて表明、「職員からの人望や信頼感が1ミリもないということはないと思っている。信頼関係を再構築する」と話したとのことです。信頼感が“ミリ単位”かつ、レームダック状態となりそうな斎藤知事で、今後の兵庫県政は大丈夫なのでしょうか。心配になります。札幌医科大パワハラ事件で2回目の懲戒処分ということで、今回は8月に各紙で報道された、札幌医科大学(札幌市)におけるパワハラ問題について書いてみたいと思います。札幌医科大は8月8日、今年5月に教員2人にパワハラなどをしたとして停職3ヵ月になった50代男性教授について、処分直前の4月、同教授が被害を訴えたと推測した相手に対して申し出を撤回するよう求めていたことがわかったとして、新たに停職5ヵ月の処分を行いました。停職期間は計8ヵ月となりました。さらに、この教授の処分軽減のために動いていた50歳代の准教授も停職 1ヵ月の処分を受けました。パワハラで就業環境を害したほか、アカハラも行い研究、教育環境を害したこの教授については、昨年に複数人からハラスメント被害の申し出があり、大学側は調査の結果その事実を認定し、今年5月29日に停職3ヵ月の処分を行ったばかりでした。このときの処分は、「所属する教員2名に対して、パワーハラスメントを行い、就業環境を害したほか、うち1名に対してはアカデミックハラスメントも行い、研究、教育環境を害した」(同大プレスリリースより)ことが理由でした。部下を呼び出し処分の撤回・軽減に向けた嘆願書作成に協力するよう強く要請今回のパワハラは、5月の処分が下る前、調査が進んでいる段階で起きていました。同大学が8月8日に出したプレスリリースの「職員の懲戒処分について」によれば、「4月、当該教授は、自らの懲戒処分を軽減するため、ハラスメントの申出人と類推した教室員に対し、ハラスメントの申出の有無を尋ねるなどの不利益な取扱いを行ったほか、ハラスメントの申出の撤回を求めるなどのパワー・ハラスメントを行った」とのことです。一方、准教授については、「現状の教室体制を維持するため、当該教室員に対し、ハラスメントに係る証言内容等を確認するなどの不利益な取扱いを行ったほか、当該教授の懲戒処分への反証の協力を求めるパワー・ハラスメントを行った」とのことです。端的に言えば、ハラスメントの申出人と思われる部下を呼び出し、申し出をしたかどうかを問い詰め、処分の撤回・軽減に向けた嘆願書の作成に協力するよう強く要請した、ということです。しかし、大学によれば、この「申し出人だと思われる部下」はハラスメントを訴え、認定された2人とは別の人物だったとのことです。教授と准教授は要請する相手を間違ってしまったようです。なお、8月9日付の東京読売新聞によれば、教授の代理人弁護士は同紙の取材に対し、「教授はパワハラをしておらず今回も事実誤認がある。処分内容も重すぎで、社会的相当性を逸脱した懲戒権の乱用だ」と話したとのことです。嘆願書作成への協力要請に応じず、一連のやり取りの証拠を大学に提出北海道の経済誌『財界さっぽろ』8月号(7月15日発行)は、「法廷闘争に発展も…札幌医科大学、名物教授パワハラ停職の波紋」と題する記事を掲載、事件の経緯をより詳細に報じています。同記事によれば、処分を受けた教授は「がん治療においては世界的エキスパート」で「全国ネットの人気テレビ番組でも取り上げられたこともある」X氏です。X氏のパワハラを大学に申し立てたのは同じ医局に所属する3人の医師で、計30件のパワハラの申し立てたとのことです。しかし、学内調査の結果、最終的にパワハラの被害者として認定されたのは2人、6ケースでした。「医者を辞めろ」と怒鳴りつけたり、新規患者の担当や手術を行わせないようにしたり、学位論文の作成を意図的に妨害したりしたことなどがパワハラと認定されました。今年5月の処分は、この2人に対するパワハラが認定された結果として下されたものでした。しかし、処分前、調査の過程では3人の申し立てが検討されていました。それを知ったX氏が准教授とともに、学内調査で最終的に認定されなかったもう1人の医師を呼び出し、処分の撤回や嘆願書作成に協力するよう求めたというのです。この医師はその要請に応じず、一連のやり取りの証拠を大学に提出、それが2回目の処分につながったというのが真相のようです。同記事によれば、「(5月の)処分発表後、X氏は弁護士を通じて、裁判所に停職撤回の仮処分命令を申し立てた。しかし、審査の結果この申し立ては却下された」とのことです。有名ドキュメンタリー番組に登場の医師X氏は、関西地方の私立医大を卒業後、国立大学医学部の医局に入局。複数病院の勤務などを経て、40代で札幌医大の教授に就任しました。手術支援ロボットを駆使した手術で脚光を浴び、NHKや民放の有名なドキュメンタリー番組などでロボット手術のエキスパートとして取り上げられたこともあります。つまり、X氏は札幌医大にとってはまさにスター医師だったわけです。ただ、『財界さっぽろ』の記事は、「目立つ教授だけに最新機材を自分の科にどんどん導入し、他科とのパワーバランスが崩れるようなもこともあったようです」、「外部の人間には人当たりが良いが、就任当初からハラスメント気質があったようです」といった関係者の言葉を紹介しています。何年にもわたるパワハラの積み重ねが、被害者たちの怒りに火を付けるこの連載でも、「第104回 パワハラ事件に大甘の医療界、旭川医大、大津市民の幕引きの背後に感じた“バーター”の存在」、「第154回 日本はパワハラ、セクハラ、性犯罪に鈍感、寛容すぎる?WHO葛西氏解任が日本に迫る意識改造とは?(前編)」、「第227回 東京女子医大第三者委員会報告書を読む(後編)『“マイクロマネジメント”』と評された岩本氏が招いた『どん底のどん底』より深い“底”」などで、医療界におけるパワハラについて書いてきました。共通するのは、パワハラを行う人間は、1回、2回のパワハラが問題になるのではなく、何年にもわたるパワハラの積み重ねが、被害者たちの怒りに火を付け、内部告発などにつながっているという点です。それはあたかも、コップにポツリ、ポツリと溜まった水がある時点で満杯となって溢れ出すかのようです。パワハラを行う人の多くは相手の気持ちを慮ることをしないので、限界を超えてしまったことに気付きません。結果、告発された時はすでに手遅れ、ということになります。「第154回」でも書きましたが、欧米先進国では、パワハラやセクハラについては表沙汰になった(訴えられた、告発された)段階でほぼアウト、というのが常識です。そもそも複数の人間から告発された段階で、仕事の能力以前にその人の人間性やリーダシップに疑問符が付けられてしまいます。そうした意味では、札幌医大の教授も、兵庫県知事も、人の上に立つ人間ということでは、法律以前の問題としてすでにアウトと言えるのかもしれません。

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高齢のCKD患者、タンパク質制限は本当に必要?

 軽度または中等度の慢性腎臓病(CKD)を有する高齢者におけるタンパク質摂取量と全死亡率を調査した結果、タンパク質摂取量が多いほど死亡リスクが低く、タンパク質摂取の利点が欠点を上回る可能性があることを、スウェーデン・カロリンスカ研究所のAdrian Carballo-Casla氏らが明らかにした。JAMA Network Open誌2024年8月1日号掲載の報告。 健康な高齢者では健康を維持するために一定のタンパク質を摂取することが推奨されているが、CKD患者ではCKDのステージ進行を抑制することを目的として、タンパク質摂取量を制限することが推奨されている。しかし、軽度または中等度のCKDを有する高齢者のタンパク質摂取を制限した場合の全般的な健康への影響については十分なエビデンスが得られていない。 そこで研究グループは、60歳以上の地域在住成人で構成されたスウェーデンおよびスペインの3つのコホート研究の縦断的データを統合し、国際腎臓病ガイドライン機構(KDIGO)の分類によるCKDステージ1~3の高齢者における総タンパク質、動物性タンパク質、植物性タンパク質の摂取量と10年全死亡率との関連性を推定し、その結果をCKDを有さない高齢者(対照群)の結果と比較した。参加者は2001年3月~2017年6月に募集され、最長で2024年1月まで追跡された。食事や死亡率に関する情報がない参加者、CKDステージが4または5の参加者、腎代替療法を受けている参加者、および腎移植を受けた参加者は除外された。 タンパク質摂取量は、食事歴および食物摂取頻度調査票により推定された。穀物、豆類、ナッツ類、その他の植物由来のタンパク質は植物性タンパク質とみなされ、乳製品、肉、卵、魚類、その他の動物由来のタンパク質は動物性タンパク質とみなされた。Cox比例ハザードモデルを用いて、タンパク質摂取量と死亡率の関連性についてハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を推定した。 主な結果は以下のとおり。●合計1万4,399例(CKD群:4,789例、対照群:9,610例)が解析に含まれた。CKD群は女性が2,726例(56.9%)、平均年齢が78.0(SD 7.2)歳であった。追跡期間中に、両群合わせて1,468例が死亡した。●CKD群では、総タンパク質摂取量が多いほど死亡リスクが低くなることが示された。 ・1.00g/kg/日vs.0.80g/kg/日のHR 0.88(95%CI:0.79~0.98) ・1.20g/kg/日vs.0.80g/kg/日のHR 0.79(95%CI:0.66~0.95) ・1.40g/kg/日vs.0.80g/kg/日のHR 0.73(95%CI:0.57~0.92) ・1.60g/kg/日vs.0.80g/kg/日のHR 0.67(95%CI:0.51~0.89)●CKD群の各タンパク質摂取量0.20g/kg/日増加当たりの死亡のHRは、総タンパク質、動物性タンパク質、植物性タンパク質で同等であった。 ・総タンパク質のHR 0.92(95%CI:0.86~0.98) ・動物性タンパク質のHR 0.88(95%CI:0.81~0.95) ・植物性タンパク質のHR 0.80(95%CI:0.65~0.98)●CKD群の総タンパク質摂取量0.20g/kg/日増加当たりの死亡のHRは、75歳未満でも75歳以上でも同等であった(相互作用のp=0.51)。 ・75歳未満のHR 0.94(95%CI:0.85~1.04) ・75歳以上のHR 0.91(95%CI:0.85~0.98)●総タンパク質摂取量と死亡率との逆相関は、対照群のほうがCKD群よりも大きかった(相互作用のp=0.02)。 ・CKD群のHR 0.92(95%CI:0.86~0.98) ・対照群のHR 0.85(95%CI:0.79~0.92) これらの結果より、研究グループは「高齢者を対象としたこのマルチコホート研究では、総タンパク質、動物性タンパク質、植物性タンパク質の摂取量が多いほど、CKD患者の死亡リスクが低いことが示された。CKDを有さない人では関連性がより強く、軽度または中等度のCKDを有する高齢者ではタンパク質摂取の利点が欠点を上回る可能性があることを示唆している」とまとめた。

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アトピー性皮膚炎へのデュピルマブ、5年有効性・安全性は?

 デュピルマブで治療を受けたアトピー性皮膚炎患者を最長5年追跡調査したコホート研究において、デュピルマブの臨床的有効性は維持された。一方で3分の2の患者は3週ごとまたは4週ごとの投与量に漸減し、23.8%の患者が治療を中止した。治療中止の主な理由は有害事象、無効であった。これまで日常診療でのアドピー性皮膚炎に対するデュピルマブの、長期の有効性と安全性に関するデータは限られていた。オランダ・ユトレヒト大学医療センターのCeleste M. Boesjes氏らが、JAMA Dermatology誌オンライン版2024年8月7日号で報告した。 研究グループは、日常診療で最長5年間治療を受けたアトピー性皮膚炎の小児、成人および高齢者における、デュピルマブ治療の臨床的有効性と治療中止の理由を評価する前向き多施設コホート研究を行った。 BioDayレジストリ(オランダの大学病院4施設とその他10施設で登録)を用いて、2017年10月~2022年12月にデュピルマブによる治療を受けたすべての年齢のアトピー性皮膚炎患者を特定し、研究対象とした。 臨床的有効性は、小児(18歳未満)、成人(18~64歳)、高齢者(65歳以上)で層別化を行い、Eczema Area and Severity Index(EASI)、Investigator Global Assessment(IGA)、そう痒Numeric Rating Scale(NRS)で評価した。さらに、TARC値、好酸球数などを評価。デュピルマブを中止した患者について、中止の理由を評価した。 主な結果は以下のとおり。・計1,286例のアトピー性皮膚炎患者(年齢中央値38歳[四分位範囲[IQR]:26~54]、男性726例[56.6%])がデュピルマブによる治療を受けた(小児130例、成人1,025例、高齢者131例)。・追跡期間中央値は87.5ヵ月(IQR:32.0~157.0)。・ほとんどの患者が最長5年の治療期間にわたりアトピー性皮膚炎のコントロールを維持しており、EASIが7以下の患者は78.6~92.3%、そう痒NRSが4以下の患者は72.2~88.2%であった。・全患者の最大70.5%の投与間隔が延長し、ほとんどが300mgの3週ごとまたは4週ごと投与となっていた。・治療開始5年後、EASIスコア平均値は2.7(95%信頼区間[CI]:1.2~4.2)、そう痒NRS平均値は3.5(2.7~4.3)であった。・EASI、IGAについて、観察期間を通じて年齢群間に統計学的有意差がみられたが、その差(52週時点でEASIは0.3~1.6、IGAは0.12~0.26)は非常に小さかった。そう痒NRSについては、統計学的有意差はみられなかった。・TARC中央値は、1,751pg/mL(95%CI:1,614~1,900)から治療開始6ヵ月で390pg/mL(368~413)へ大幅に低下し、低値を維持した。・好酸球数中央値は16週まで一時的に上昇したが、その後は経時的に統計学的有意な低下がみられた。・合計306例(23.8%)がデュピルマブを中止し、中止までの期間中央値は54.0週(IQR:29.0~110.0)であった。多く報告された中止の理由は、有害事象98例(7.6%)、無効85例(6.6%)であった。41例(3.2%)がデュピルマブ投与を再開し、これらの患者の大半で奏効が認められた。

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