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WCLC(World Conference on Lung Cancer)2019 レポート

レポーター紹介世界肺がん学会WCLC(World Conference on Lung Cancer)2019はスペインのバルセロナで、2019年9月7~10日の期間に行われた。今年は9月末に欧州臨床腫瘍学会が同じスペインのバルセロナで行われることもあり、例年のWCLCと比べるとトピックスが少ない印象ではあったが、公式発表では100ヵ国以上から7,000例以上がWCLCに参加し、多くの演題(2,853演題)が報告された。学会初日の印象では参加人数が例年よりも少なそうで寂しい印象を受けたが、Presidential Symposiumの発表時には、会場はほぼ満席であり活気に満ちたものであった。このレポートでは、私的に選んだ今学会でのトピックスをいくつか紹介する。外科手術のトピックVIOLET試験の効果と安全性に関する探索的検討clinical stage cT1~3、N0~1、M0の肺がん、もしくは肺がんが強く疑われる患者を対象に、開胸手術とVATSを比較する第III相試験における早期の効果と安全性の結果が報告された。入院中の死亡率は、VATS群で1.4%(VATS治療から開胸手術の移行率5.7%)であった。また、完全切除率については、VATS群で98.8%、開胸切除で97.4%であり、有意差を認めなかった(p=0.839)。術後の疼痛についてmedian(visual analogue)pain scoreで評価が行われており、術後1日では術後疼痛についてmedian scoreに差を認めなかったが、術後2日では術後疼痛の強さがVATS群で有意に改善され、入院期間についてもVATS群が4日、開胸手術群が5日と有意に短くなる(p=0.008)ことが報告された。また、入院中の術後合併症がVATS群で32.8%、開胸手術群で44.3%と有意に低下する(p=0.008)という結果であった。今回の報告では、VATSと開胸手術において、侵襲の少ないVATSが開胸手術と比較しても根治率が変わらないことが報告され、合併症や入院期間、術後疼痛が良好であることが報告され、日常臨床で広く浸透しているVATSが短期的な指標では有用であることが検証された試験である。今後の長期予後データなどの報告が待たれる。(Lim E, et al. PL 02-06)分子標的療法におけるトピックスLIBRETTO-001 study進行非小細胞肺がんのRET-fusion遺伝子変異に対する分子標的療法で、保険償還承認が得られた治療はまだ存在しない。LIBRETTO-001試験で使用されたLOXO-292はRETを選択的に強く阻害する分子標的薬であり、脳への移行性も高く、RET-fusion遺伝子変異に対する治療薬として期待されている。今学会ではLIBRETTO-001試験における、LOXO-292療法の効果と安全性についての第I/II相試験の結果が報告された。253例のRET-fusion陽性の非小細胞肺がんの患者が参加し、うちprimary analysis set (PAS) に139例が登録された。105例が初回にプラチナ製剤併用化学療法を受け、58例がPD-1/PD-L1阻害薬療法を受けていた。奏効率(ORR)は68%(95%CI:58~76%、n=71/105)であり、RET fusionのパートナーにかかわらず治療効果を認めた。また治療奏効期間は20.3ヵ月(95%CI:13.8~24.0ヵ月)であり、脳転移のある患者における脳転移のORRは91%(n=10/11:2 confirmed CRs、8 confirmed PRs)であった。さらに未治療のRET-fusion陽性の患者ではORR85%(95%CI:69~95%、n=29/34)であった。毒性(AEs)は、ほとんどがGrade1/2と軽微であり、頻度では口腔内乾燥、下痢、高血圧、AST/ALTの上昇が多かった。今回のLOXO-292のデータは非常に良好であり、RET-fusion陽性肺がんの標準療法になりうると考えられ早期での臨床導入が期待される。(Drilon A, et al. PL 02-08)免疫チェックポイント阻害薬のトピックスCASPIAN study進展型小細胞肺がんに対し、初回治療でのプラチナ(シスプラチンもしくはカルボプラチン)+エトポシド(EP)療法の標準療法と、デュルバルマブもしくはデュルバルマブ+tremelimumabの上乗せ治療を比較するオープンラベル下での第III相試験である。この試験はプレスリリースにおいて、デュルバルマブ上乗せ群が標準療法群に対してOSを有意に改善したと発表しており、今学会の最注目演題であった。今学会ではCASPIAN試験における、標準療法群とデュルバルマブ併用療法群の結果が報告された。PS 0~1の未治療進展型小細胞肺がんの患者を対象に、デュルバルマブ1,500mg+EP療法を3週ごと、デュルバルマブ1,500mg+tremelimumab 75mg+EP療法を3週ごと、もしくはEP療法を3週ごと4コースの治療を行った。免疫療法群では、4コース終了後のデュルバルマブ維持療法が認められており、EP療法では6コースまで投与をすることが認められていた。また、主治医判断での予防的全能照射(prophylactic cranial irradiation [PCI])も認められていた。EP+デュルバルマブ療法群に268例、EP療法群に269例が割り付けられ、56.8%の患者が6コースのEP療法を受けていた。全生存期間においてEP+デュルバルマブ群がEP療法群と比較して、HR0.73、95%CIは0.591~0.909、p=0.0047と生存期間を有意に延長し、生存期間中央値(mOS)はEP+デュルバルマブ療法群で13ヵ月、EP療法群で10.3ヵ月であった。また18ヵ月の時点で、EP+デュルバルマブ療法群では33.9%の患者が生存しており、EP療法群では24.7%の患者が生存していた。無増悪生存期間(PFS)や奏効率(ORR)においてもEP+デュルバルマブ療法群がEP療法群よりも優れた結果であった。EP+デュルバルマブ療法群とEP療法群でそれぞれ、mPFSが5.1ヵ月と5.4ヵ月、PFSはHR0.78、95%CIは0.645~0.936、12ヵ月PFS rateが17.5%と4.7%、ORR(RECIST v1.1:unconfirmed)が79.5%と70.3%(odds ratio:1.64、95%CI:1.106~2.443)であった。毒性(AEs)ではEP+デュルバルマブ療法群とEP療法群でGrade3/4 AEsが61.5%と62.4%、AEsによる治療中断率は各9.4%と差を認めなかった。この試験では、先行するIMpower133試験(カルボプラチン+エトポシド療法にアテゾリズマブの上乗せの有効性が証明された)と同様にPD-L1阻害薬の標準療法への上乗せが証明された。この試験では、EP+デュルバルマブ+tremelimumab療法群の結果、すなわちPD-L1阻害薬+CTLA-4阻害薬の標準療法への上乗せ効果は公表されておらず、いまだ不明のままである。(Luis Paz-Ares, et al. PL 02-11)CheckMate 817試験(Cohort A1)PS 2や肝障害やHIV感染症を持つPS 0~1(all other special population:AOSP)のIV期非小細胞肺がんの初回治療として、ニボルマブ(PD-1阻害薬)+イピリムマブ(CTLA-4阻害薬)併用療法の効果と安全性を確認する第IIIb/IV相試験の結果が報告された。この試験での治療方法はニボルマブ240mg(2週ごと)、イピリムマブ1mg/kg(6週ごと)の固定容量での治療である。この試験ではPS 2の患者139例とAOSPの患者59例が試験に登録された。安全性についてはPS 2の患者でも、AOSPの患者でも、通常のPS 0~1の患者と比較して、治療関連有害事象や治療関連有害事象による治療中断、治療関連死に差がないことが示された。奏効率は、PS 2で20%、AOSPで37%であり、PS 0~1で35%であったが、PFSはPS 2やAOSPの患者で、PS 0~1の患者より有意に短かった。免疫チェックポイント阻害薬の併用において、PS不良の患者でも安全性はPS良好な患者と同様であり、初回治療の選択肢となりうることが示されたと考えてよいだろう。(Valette CA, et al. OA 04-02)その他の免疫チェックポイント阻害薬のトピック今回の学会では、以前に発表された第III相試験の長期予後データについていくつかの報告があった。PD-L1 50%陽性、EGFRやALK変異陰性の患者で行われた第III相試験であるKEYNOTE-024試験の3年目解析データが報告された。生存期間中央値(mOS)はペムブロリズマブ群26.3ヵ月(18.3~40.4)、殺細胞性抗がん剤治療群14.2ヵ月(9.8~18.3)で、OSはHR0.65、95%CIは0.50~0.86、p=0.001であり、長期間の観察期間でも有意にOSを延長していることが報告された。また、この発表では抗がん剤治療群からのペムブロリズマブのクロスオーバーしたペムブロリズマブの治療成績が報告されており、奏効率(ORR)は20.7%であり、治療奏効期間の中央値は20.9ヵ月と報告された。(Reck M, et al. OA 14-01)また、扁平上皮がんに対するプラチナ+タキサン療法へのアテゾリズマブの上乗せを検討しているIMpower131試験の最終解析結果も報告された。この試験は、ASCO2018においてOSの有意な延長が示されておらず、PD-L1 1~49%群でのOSがプラチナ製剤併用療法群と比較してクロスすることが報告されていた。今回の最終解析において、カルボプラチン+nabパクリタキセル+アテゾリズマブ群とカルボプラチン+nabパクリタキセル群の生存期間中央値(mOS)は14.2ヵ月vs.13.5ヵ月で、OSはHR0.88、95%CIは0.73~1.05、p=0.158で、OSの延長効果は示されなかった。ただし、PD-L1TPS 50%以上の高発現群においては、mOSは23.4ヵ月vs.10.2ヵ月、OSはHR0.48、95%CIが0.29~0.81とサブグループ解析ではあるが有意に延長していることが報告された。同じ扁平上皮がんを対象としたプラチナ+タキサン療法へのペムブロリズマブの上乗せを検討したKEYNOTE-407試験では、ペムブロリズマブの上乗せの生存延長効果が示されているだけに、PD-1阻害薬とPD-L1阻害薬で扁平上皮がんに効果に違いが出るのか興味深いところではある。(Cappuzzo F, et al. OA 14-02)小細胞肺がんのトピックスSensitive Relapse小細胞肺がんを対象にカルボプラチン+エトポシドとトポテカンを比較した第III相試験トポテカンはヨーロッパでは小細胞肺がんの2次療法で承認されている数少ない抗がん剤であり、ヨーロッパだけでなく本邦含めグローバルで標準療法として広く用いられている。この試験では、初回治療から90日以上たってから再燃してきた小細胞肺がんをsensitive relapse小細胞肺がんとして定義しており、この対象を満たし初回治療でプラチナ+エトポシド療法が施行されている患者に対して、カルボプラチン+エトポシドとトポテカンの比較試験が行われた。この試験での意義は初回治療のre-challengeと標準療法であるトポテカンのどちらが良いかを比較している点で、今までのクリニカル・クエスチョンを確認する試験である。主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)については、中央値がre-challenge群で4.7ヵ月(95%CI:3.9~5.5)、トポテカン群で2.7ヵ月(95%CI:2.3~3.2)、PFSがHR0.6、95%CIは0.4~0.8、p<0.002であり、re-challenge群が有意にPFSを延長していた。またre-challenge群とトポテカン群の比較において、他の主な評価項目では、奏効率が49% vs.25%(p<0.002)とre-challenge群で有意に奏効率が高かったが、全生存期間ではmOSが7.5ヵ月(95%CI:5.4~8.7)vs.7.4ヵ月(95%CI:6.0~9.3)であり、両群で有意な差を認めなかった。毒性では、トポテカン群はGrade3/4の好中球減少が35.8% vs.19.7%(p<0.001)と有意に高かったが、発熱性好中球減少症が13.6% vs.6.2% (p=0.19)で両群に有意な差を認めず、その他の毒性も両群で差を認めなかった。この試験の結果からは、日常臨床で行われることが多いsensitive relapse小細胞肺がんにおけるre-challenge療法を、標準療法の一つとして考えてもよいのかもしれない。(Monnet I, et al. OA 15-02)

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急性咽頭炎に対するアモキシシリンへの変更提案の論拠【うまくいく!処方提案プラクティス】第7回

 今回は、抗菌薬の処方提案について紹介します。抗菌薬の処方提案においては、(1)感染臓器、(2)想定される起炎菌(ターゲット)、(3)感受性良好な抗菌薬の理解が必要不可欠です。また、医師に提案する際は、上記の擦り合わせや治療方針の確認を心掛けましょう。患者情報40歳、男性(会社員)現 病 歴 :高血圧血圧推移:130/70台既 往 歴 :15歳時に虫垂炎にて手術主  訴:咽頭痛、発熱、頸部リンパ節の腫脹処方内容1.アムロジピン錠2.5mg 1錠 分1 朝食後2.レボフロキサシン錠500mg 1錠 分1 朝食後3.トラネキサム酸錠500mg 3錠 分3 毎食後4.ポビドンヨード含嗽剤7% 30mL 1日数回含嗽症例のポイントこの患者さんは、2日前より咽頭痛と発熱が生じたため、かかりつけの診療所を受診しました。来院時の発熱は38℃後半で、圧痛を伴う頸部リンパ節の腫脹から急性咽頭炎と診断され、上記の薬剤が処方されました。薬局でのインタビューでは、とくに咽頭の症状が強く、唾をのみ込むときに口の中や咽頭に強い痛みを感じていましたが、鼻汁や咳嗽はないということを聞き取りました。まず気になったのは、急性咽頭炎に対してレボフロキサシンが処方されていたことです。急性咽頭炎の大多数はウイルス性であり、細菌性の割合は10%程度と低めですので、抗菌薬が必要ないことも多くあります。この患者さんは下表のように細菌性も十分疑われますが、細菌性の場合に主にターゲットとなりうる起炎菌はA群β溶血性連鎖球菌(group A β-hemolytic streptococcus:GAS)です。レボフロキサシンは広域スペクトラムかつ肺結核をマスクするリスクなどもありますので、本症例においては特別な理由がなければ第1選択には挙がらない抗菌薬ではないかと考えました。咽頭感染かつGASがターゲットであればペニシリン系抗菌薬のアモキシシリンが第1選択薬となります。そこで、患者さんにペニシリンやほかのβラクタム系抗菌薬によるアレルギーがないことを確認したうえで、医師に疑義照会することにしました。<細菌性咽頭炎を疑うためのツール>(文献2より改変)処方提案と経過電話にて、本症例における処方医の考えるターゲットと治療方針を確認したところ、GAS迅速抗原検査は陽性であり、細菌性咽頭炎の診断はついているということがわかりました。そして、「GAS陽性=レボフロキサシン」という認識で薬剤選択をしたと回答がありました。確かにレボフロキサシンも感受性はありますが、今回の症例のように症状が咽頭に限局しているGASをターゲットとして治療する場合、アモキシシリンのほうがより狭域で感受性が高いことを提案しました。医師は、アモキシシリンはあまり使ったことがないからそれでよいのか判断に迷われていましたが、処方提案の承認を得ることができました。薬剤変更の結果、アモキシシリン錠250mg 4錠 分2 朝夕食後で10日間投与することとなりました。その後、患者さんは10日間のアモキシシリンの治療を終了し、咽頭炎は軽快しました。1)厚生労働省健康局結核感染症課 編. 抗微生物薬適正使用の手引き 第一版. 厚生労働省健康局結核感染症課;2017.2)岸田直樹. 総合診療医が教える よくある気になるその症状 レッドフラッグサインを見逃すな!. じほう;2015.3)Gilbert DNほか編. 菊池賢ほか日本語版監修. <日本語版>サンフォード 感染症治療ガイド2019. 第49版. ライフサイエンス出版;2019.

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新規ADC薬・sacituzumab-govitecan、尿路上皮がんに有望(TROPHY-U-01)/ESMO2019

 転移を有する尿路上皮がん(mUC)に対する、抗体薬物複合体(ADC)である新規薬剤sacituzumab-govitecan(SG)の試験結果が、欧州臨床腫瘍学会(ESMO2019)で、米国・Weill Cornell MedicineのScott T. Tagawa氏より発表された。 本試験(TROPHY-U-01)は、オープンラベル・シングルアームの国際共同第II相試験である。本試験薬(SG)は、尿路上皮がんやトリプルネガティブ乳がんなどの腫瘍細胞表面に高発現しているTrop-2タンパクを標的としたヒト化抗体(hRS7)に、トポイソメラーゼ阻害薬であるSN-38を分子レベルで結合させた新規のADCである。 対象はプラチナ系薬剤と免疫チェックポイント阻害薬(CPI)の前治療歴のあるmUC患者(コホート1)100例、およびプラチナ系薬剤不適応でCPI治療後の病勢進行患者40例(コホート2)。試験群にはSG10mg/kgをday1、8に投与3週間ごと。主要評価項目は奏効率(ORR)、副次評価項目は安全性、奏効期間、無増悪生存期間、全生存期間であった。今回は、コホート1の35例による中間解析結果の報告である。 主な結果は以下のとおり。・前治療のライン数の中央値は3(2~6)で、63%の症例に内臓転移があった(肺転移40%、肝転移23%、その他11%)。・追跡期間中央値4.1ヵ月時点での全体のORRは29%(CR:6%、PR:23%)で、前治療が2ラインのサブグループでは18%。3ライン以上のサブグループでは33%であった。・内臓転移を有する症例群でも23%のORRが得られ、全症例の74%で何らかの腫瘍縮小効果が得られた。・安全性は、Grade3/4の好中球減少が55%、白血球減少が29%、発熱性好中球減少が12%、尿路感染が11%、下痢が9%、全身倦怠感6%などであり、3例が治療関連有害事象により投薬中止となっている。また、間質性肺炎や治療関連死はなかった。

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「病院のお金」を学ぶ本【Dr.倉原の“俺の本棚”】第23回

【第23回】「病院のお金」を学ぶ本皆さん、考えてみたことはありませんか? なぜガッポリ儲かっている病院と、赤字で経営破綻する病院があるのか?私は、この本のタイトルにあるように、まぎれもなく“中堅どころ”の医師なのですが、この質問に答えられる自信がありません。病院経営について詳しくないからです。毎日の外来・入院業務に追われ、病床稼働率がどーのこーのなんて、ぶっちゃけ馬耳東風。しかし、将来みなさんが経営に携わる立場になるかどうかはともかく、中堅医師にとって避けて通れないのが、病院のお金の流れを勉強すること。筆者らは、総合病院における医療経営の入門本がないことを懸念して、この本を出版しました。実際、ちまたにあふれる病院経営本なんて、「開業医のための節税うんたら」みたいな本が多いです。ほとんど詐欺みたいな本もあります。おっと、口が滑った。『“中堅どころ”が知っておきたい 医療現場のお金の話』中西 康裕、今村 知明/著. メディカ出版. 2019さて、みなさんは「在院日数を短縮してください!」と言われたことはないですか? 中堅どころの勤務医ならば、看護師長に何度もこの話をされてきたのではないでしょうか。しかし、なぜ在院日数を短縮すれば経営に有利になるのか、わかっている人は多くないはずです。在院日数を短縮させることによって、病床回転率が上がります。入院初期の診療報酬が高い時点で、たくさん治療を適用して、ある程度落ち着けばすぐに退院させるという戦略です。これを繰り返せば、1ベッドあたりの診療報酬が高い状態が維持できるので、病院の経営が良くなるというロジックです。しかしこの本によれば、その考え方は半分誤りとのこと。診療報酬で得られる収益だけでなく、支出(材料費)も入院初期がもっとも高くなり、収益からコストを差し引いた利益額がさほど変わらないためです。国が推進する在院日数短縮を信じてきたがゆえに、赤字に転落している病院も多くあります。退院を促進し過ぎて、本末転倒なことに空床が出てしまっているからです(病床利用率の低下)。このほか、診療報酬、急性期一般入院料の話や、消費増税によって被る病院の打撃など、お金に関するテーマがたくさんあります。消費増税って、患者さんが支払う額が増えるんでしょ? と誤解している人も多いですが、消費増税でダメージをくらうのは、実は病院です。しかも、手術件数が多い大病院ほど増税による影響が大きいとのこと。なぜそういう仕組みになってるのか、図入りで詳しく解説されていますので、確認してみてください。この本の良いところは、図表がめちゃくちゃ見やすく、お金や経営の初心者でもわかりやすく読めるようになっていることです。上述したように、開業医の経営本とはまったく違って、あくまで総合病院の経営の舵取りがどのように行われてるかを、病院職員として知ってもらいたいという筆者の意図が、よく伝わります。ただただ、良本。『“中堅どころ”が知っておきたい 医療現場のお金の話』中西 康裕、今村 知明/著出版社名メディカ出版定価本体2,800円+税サイズB5判刊行年2019年

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自然呼吸で吸入可能な1回完結型インフル治療薬「イナビル吸入懸濁用160mgセット」【下平博士のDIノート】第35回

自然呼吸で吸入可能な1回完結型インフル治療薬「イナビル吸入懸濁用160mgセット」今回は、長時間作用型ノイラミニダーゼ阻害薬「ラニナミビル(商品名:イナビル吸入懸濁用160mgセット)」を紹介します。本剤は、吸入力が弱く、既存の吸入粉末薬の使用が困難だった小児や高齢者などにも使える1回完結型のインフルエンザ治療薬として期待されています。<効能・効果>本剤は、A型またはB型インフルエンザウイルス感染症の適応で、2019年6月18日に承認され、2019年10月25日より発売される予定です。なお、既存の吸入粉末薬とは異なり、予防投与としては使用できません。<用法・用量>成人および小児には、ラニナミビルオクタン酸エステルとして160mgを日本薬局方生理食塩液2mLで懸濁し、ネブライザを用いて単回吸入投与します。<副作用>国内で実施された第III相試験において、安全性評価対象症例441例中9例(2.0%)に副作用が認められました。主な副作用は、下痢・嘔吐が各2例(0.5%)、便秘・悪心・虚血性大腸炎が各1例(0.2%)でした。インフルエンザ異常行動・言動に該当する有害事象は1例(気分変化)に認められましたが、本剤との因果関係は「関連なし」と判定されています。なお、重大な副作用として、ショック、アナフィラキシー、気管支攣縮、呼吸困難、異常行動、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)、中毒性表皮壊死融解症(TEN)、多形紅斑(いずれも頻度不明)が吸入粉末薬で認められている重大な副作用として注意喚起されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、インフルエンザウイルスの増殖を抑えることで、インフルエンザの症状を緩和します。2.吸入時は、吸入マスクを口元にあててリラックスしながら、深く口で呼吸してください。3.小児が泣いたり暴れたりして吸入の継続が困難になった場合、いったん機械を止めて、落ち着いてから吸入を再開してください。霧が出なくなったら終了です。4.インフルエンザにかかった時は、薬の有無や種類を問わず飛び降りなどの異常行動を起こす恐れがあります。発熱から少なくとも2日間は、窓の鍵を確実にかけるなど、転落などの事故に対する防止対策を徹底してください。<Shimo's eyes>同成分の既存の剤形として吸入粉末薬がありますが、今回ネブライザで吸入するタイプの製剤が発売されます。本剤は、吸入力が弱い小児や高齢者でも十分量の吸入が期待できます。ジェット式ネブライザを使用して吸入するため、通常は吸入用機器(コンプレッサー)を設置している病院で使用されることが想定されます。凍結乾燥製剤の溶解に用いる生理食塩水、シリンジ、注射針などは、医療施設で用意する必要があります。吸入粉末薬と異なる点として、添加剤に乳糖が含まれないので、乳糖不耐症や乳製品アレルギーなどの患者に対しても使用できます。また、年齢に応じた用量の設定はありません。本剤は、従来の吸入容器による吸入手技を必要としないため、医療機関の感染予防対策にも有効と考えられます。

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21遺伝子再発スコアが高いHR+早期乳がんでの術後化学療法の併用効果(TAILORx 2次解析)/ESMO2019

 リンパ節転移のないホルモン感受性(HR)陽性HER2陰性の早期乳がん患者で、21遺伝子アッセイによる再発スコアが高い(26〜100)場合、術後にタキサンとアントラサイクリン両方もしくはどちらかを含む化学療法と内分泌療法を併用したほうが、内分泌療法単独よりもアウトカムが良好であることが、TAILORx試験の2次解析で示唆された。スペインで開催された欧州臨床腫瘍学会(ESMO2019)で、米国・Albert Einstein College of MedicineのJoseph A. Sparano氏が発表した。この結果はJAMA Oncology誌オンライン版2019年9月30日号に同時掲載された。 乳がん組織の21遺伝子アッセイによる再発スコアが高い場合、化学療法によるベネフィットが得られることが予測され、低い場合は内分泌療法のみでも再発リスクが低いことが予測されている。しかし、再発スコアの高い患者にタキサンやアントラサイクリンを含むレジメンで治療した場合のアウトカムについて、前向き試験でのデータはほとんどない。今回、多施設無作為化試験であるTAILORx試験より、腋窩リンパ節転移のないHR陽性HER2陰性の早期乳がんのうち、再発スコアが26~100の患者を対象に、術後補助療法として内分泌療法と化学療法(レジメンは主治医選択)を実施した患者の無遠隔再発生存率(DRFI)と無浸潤疾患生存率(IDFS)が検討された。 主な結果は以下のとおり。・適格患者9,719例のうち再発スコア26~100の患者は1,389例(14%)で、年齢中央値は56歳(範囲:23~74歳)であった。・主な化学療法レジメンは、ドセタキセル+シクロホスファミド(TC)42%、アントラサイクリンのみ(A without T)24%、アントラサイクリン+タキサン(A and T)18%、シクロホスファミド/メトトレキサート/5-FU(CMF)4%で、その他 6%、化学療法なし 6%であった。・化学療法と内分泌療法で治療された患者のDRFIは、5年で93.0%(標準誤差[SE]:0.8%)、9年で86.8%(SE:1.7%)であったのに対し、内分泌療法単独では、B20試験における化学療法の治療効果に基づいて予測されたDRFIは5年で78.8%(SE:14.0%)、9年で65.4%(SE:10.4%)であった。・同様に、化学療法と内分泌療法で治療された患者のIDFSは、5年で88.1%(SE:0.8%)、9年76.28%(SE:1.7%)で、内分泌療法単独では、予測されたIDFSは5年で74.7%(SE:14.6%)、9年で55.3%(SE:8.9%)であった。・レジメン別にみると、5年DRFIは、TC 92.7%、A without T 92.3%、A and T 95.1%、CMF 88.5%、その他 95.5%、また、5年IDFSは、TC 88.1%、A without T 87.4%、A and T 88.6%、CMF 84.0%、その他 91.3%であった。 これらの結果から、Sparano氏は「術後化学療法の投与指針として21遺伝子アッセイの使用を支持するエビデンスが追加された」と述べた。

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「薬剤師以外の者」への研修とはどんな内容?【赤羽根弁護士の「薬剤師的に気になった法律問題」】第15回

厚生労働省から「調剤業務のあり方について」(薬生総発0402第1号 平成31年4月2日 厚生労働省医薬・生活衛生局総務課長)が示されてから約6ヵ月が経過しました。この通知を前提にした運用の実施または検討をしている薬局も増えてきたのではないでしょうか。法的な観点から実施が求められる研修この通知に基づく運用についてはさまざまな議論があり、各薬局で検討を要する部分も多いかと思います。その中でも、以下の部分はよく議論になります。5 薬局開設者は、薬局において、上記の考え方を踏まえ薬剤師以外の者に業務を実施させる場合にあっては、保健衛生上支障を生ずるおそれのないよう、組織内統制を確保し法令遵守体制を整備する観点から、当該業務の実施に係る手順書の整備、当該業務を実施する薬剤師以外の者に対する薬事衛生上必要な研修の実施その他の必要な措置を講じること。このうち「法令遵守体制の整備」、「手順書の整備」が重要なのは言うまでもありませんが、「薬剤師以外の者に対する薬事衛生上必要な研修の実施」をどうするのかという議論も多いようです。調剤に関わる業務を行う以上、医療安全に関する研修等は必須でしょうし、そのほかにも検討を要するでしょう。法的な観点から見ても、薬剤師以外の者の医薬品、調剤に関わる法令への理解、薬局や薬剤師の責任、個人情報の取り扱い等に関する知識は法令遵守のために必要と考えます。「薬剤師以外の者」より先に、薬剤師自身の理解が必要「薬剤師以外の者に対する研修」については、この通知に明記されているものの、薬剤師が調剤に最終的な責任を有することを前提として、薬剤師の指示に基づき行うことと示されています。つまり、大前提として、調剤の責任を負い指示を行う薬剤師が、通知に従った運用の注意点についての理解をしておく必要があるでしょう。この通知には、薬剤師への研修の内容についての言及はありませんが、「薬局並びに店舗販売業及び配置販売業の業務を行う体制を定める省令」には、「調剤の業務に係る医療の安全を確保するため、指針の策定、従事者に対する研修の実施その他必要な措置が講じられていること」(同省令第1条第1項第15号)が体制の基準として定められています。仮にこの通知に従って、薬剤師以外の者を業務において活用するのであれば、薬剤師に対しても運用に関する研修等の措置を行い、理解をしてもらう必要があると考えられます。薬局での新たな取り組みとして、薬剤師以外の者への研修が注目されていますが、医療安全の観点からは、薬剤師がこの通知に従いどのように運用していくのかをまず理解しておかなければなりません。参考資料1)厚生労働省 調剤業務のあり方について(薬生総発0402第1号 平成31年4月2日 厚生労働省医薬・生活衛生局総務課長)2)薬局並びに店舗販売業及び配置販売業の業務を行う体制を定める省令

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【荻野☓池野対談】第2回 米国にあって日本にないもの

日本の医学部を卒業した医師であり今は米国を拠点に活躍する、ハーバード大学の医学大学院および公衆衛生学大学院教授の荻野 周史氏とスタンフォード大学主任研究員の池野 文昭氏。ともに日米の大学・起業現場を熟知する教育者・研究者である2人の対談。第2回は、2人が留学時代と米国での仕事探しの苦労から考えた、今の日本と日本人に必要なマインドについて語ります。第1回はこちら早くからの「ゼロイチ経験」を荻野私のラボでは、10年以上、日本人のポスドクを受け入れています。例外はいるものの、彼らは総じて優秀で、指示したことはしっかりやってくれますが、創意工夫や新たなアイデアを生み出すことに弱い傾向があります。でも、それは仕方ないことですよね。小学校から10年以上、「指示されたことをやれ。みんなと同じでいろ」という教育を受けてきたのですから…。池野私も学生時代に悔しい思いをしました。研修先のワシントン大学で1ヵ月ほど教授のかばん持ちをしていたのですが、ある時、教授に呼び出されたのです。「君は何をしに米国に来たんだ? 僻地医療に問題意識があるなら、自分でリーダーシップをとって日米の家庭医学についてディスカッションでもすればいい。何をしにわざわざ来たんだか、さっぱりわからない!」。当時の私は「試験の成績がよければ問題なし」と考える甘ちゃん学生でしたので、それを聞いてびっくりしました。「そうか、学生でもそこまでやらないといけないんだ」と思ったものの、当時の私の語学力と人脈では行動に移せるはずもなく、むなしい気持ちのまま帰国しました。この時の悔しさは、今でもよく覚えています。荻野ゼロから1を生み出すことは、いきなりはできませんからね。先日、池野先生がいらっしゃるスタンフォード大学の学生グループから依頼され、講演をする機会がありました。各地から教授を招いて定期的に勉強会を開催しているのです。といっても手弁当の小規模な会ではなく、大学が後援する公式の講演会です。さすがトップ大学、学生の経験に対してしっかり投資をしているな、と感じました。小さなことからトライして、失敗しながら学んでいくプロセスを学生生活の中に組み入れる必要がありますね。池野日本企業と接していると変化も感じます。彼らは、従来の価値観のままでは優秀な人を採用できず、世界で戦えないことを体感していますから。採用基準を変えたり、若手をリーダーに据えたり、企業内ベンチャーをつくったり、いろいろな挑戦をしています。ビジネスは「負けたら退場」というシンプルな世界ですが、アカデミズムの世界は長く日本国内で完結していたため、研究成果や自大学の世界ランキングよりも、いかに上手な「作文」を書いて文部科学省から予算をもらうか、という点を重視してきた感が否めません。自分の「ユニークネス」を磨け荻野ここ数年、米国ではアカデミアのポジションを巡る競争が苛烈さを増しています。1つのポジションに数百の応募が来ることも当たり前。日本人は概して優秀ですが、語学力とコミュニケーション力の不足、そして何より「その人が持つオリジナリティ」の部分が足りず選考に残れないことが多い。「教授に言われたことをそのままやった」研究では、オリジナリティの出しようがないですよね。米国でも大半の人が平凡なのは同じですが、一握りの目をむくほどユニークな人がきちんと登用され、新たな価値を生み出してリーダーになるために、組織の活力が保たれています。研究者としての才能がいまひとつでもチームマネジメント力が突出していたり、政治力が抜群で外部から予算を取ってきたりなど、トップになる人には何らかの突出した能力があります。池野自分の「ユニークネス」を磨くには、「やりたいこと」よりも「今いる場所と周囲のニーズ」を起点に考えるとよいと思います。私の場合、「いる場所」は世界で最も優秀な人が集まるスタンフォードです。語学にハンディのある私がまともに戦っても勝ち目はない。ここで自分の居場所をつくるには「日本人」という彼らにない点を活かすしかない、と考えました。だから、日本に進出する米国ベンチャーの支援をしたり、米国の起業家育成プログラムを日本に持ち込んだりなど、両国をつなぐ役割を果たしてきたのです。私のキャリア選択には「日本をよくしたい」という思いとともに、「自分が米国で生き残るため」という側面も多分にありました。以前、ベンチャー支援の専門知識を蓄えるため、米国の大学院に通って監督省庁に当たるFDA(米国食品医薬品局)について学ぼうと考えました。その時、同僚から言われたのです。「お前よりもFDAに詳しいやつは、スタンフォードだけで100人はいるぞ。ここでのお前のユニークネスは『日本人』だろう? それならば、FDAよりもPMDA(医薬品医療機器総合機構)に詳しくなれ」と。確かにそのとおりだと納得し、方針を転換して毎週末、飛行機に乗って日本の社会人大学院に通い、医療行政を学びました。「今いる場所で役立つ、自分だけの付加価値は何か」、それを徹底的に考え抜いてきたのです。女性と若者への「フェアネス」荻野日本の停滞の要因には、「女性がフェアに扱われていない」ことも大きく影響していると思います。日本では人材プールが半分になっているわけです。米国に男女格差がない、とは言いませんが、それを是正するためのさまざまなアクションがあります。研究の世界でも、育児中の研究者のキャリアを職場がサポートする仕組みがあり、女性研究者を対象とした学会賞や補助金があり、組織のトップに女性が積極的に登用されています。一方、日本の学会に出向くと中心メンバーや重要な講演の発表者は年長の男性ばかり。女性や若手がなかなか増えていないのが気になります。池野米国では、そもそも採用時に年齢・性別を聞くことは法律で禁止されていますからね。もちろん写真や名前で判別はつくのですが、それでも「聞いたらアウト。そこで選別したら訴えられる」と強く意識します。ただ、日本でも女性の要職を増やそうという機運はあって、社外取締役に女性を登用する企業が急速に増えています。ある女性の友人は、「定年後に社外取締役を何社も掛け持ちして、以前よりも給与が増えた」と言っていました。荻野それはいい傾向ですね。でも、そこに至るまでの女性が少ないことの裏返しでもありますね。女性差別は少子化問題とも深く結び付いているでしょう。育児をしている人には重要なポジションを与えない、面白いプロジェクトに入れないというのでは、優秀な人は結婚しない、結婚しても子供を生まない、という選択をする。子供を持つ・持たないは個人の選択ですが、少子化が問題だというならば、子供を持つ人が被る不利益をわかりやすい形でなくさなければならないと思います。(第3回に続く)

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第29回 PPIの胃酸分泌抑制作用はどのくらい差があるのか【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 H2ブロッカーやプロトンポンプ阻害薬(PPI)などの胃酸分泌抑制薬にはさまざまな製品がありますが、なかでもPPIのボノプラザンはとりわけ強力な胃酸分泌抑制作用を有していることで知られています。インタビューフォームには、既存のPPIよりも塩基性が高く胃壁細胞に高濃度に長時間残存して酵素活性を阻害すること、作用発現が早いこと、代謝酵素の遺伝子多型に影響されないことなどの特徴が記載されています1)。ピロリ菌の除菌率の高さからも処方頻度が増えていますので、今回はそのボノプラザンの効果の程度と注意点について紹介します。効果については、エソメプラゾール、ラベプラゾールと胃酸分泌抑制作用を比較した研究があります2)。CYP2C19に遺伝子変異のない成人男性ボランティア20名における胃酸分泌抑制作用を評価したオープンラベルのクロスオーバーランダム化比較試験で、比較1としてボノプラザン20mgとエソメプラゾール20mg、比較2としてボノプラザン20mgとラベプラゾール10mgをそれぞれ1日1回7日間服用してpH holding time ratio(pH HTR:酸分泌抑制作用の指標となる胃内pHを一定以上に保つ時間の割合)や胃内平均pHの上昇を検討しています。胃酸分泌抑制作用は1日目と7日目の両時点ともにボノプラザンが有意に優れており、とくに7日目のpH4 HTRは比較1ではボノプラザン群85.8%に対してエソメプラゾール群61.2%と24.6%の差で、比較2ではボノプラザン群93.8%に対してラベプラゾール群65.1%と28.8%の差がありました。1~7日目の24時間pH4 HTRは、ボノプラザン群>0.8、ラベプラゾール群0.393、エソメプラゾール群0.370で、大ざっぱに捉えると胃酸分泌抑制作用はボノプラザン>ラベプラゾール≒エソメプラゾールなのかなという印象です。論文には胃内pHの変動グラフが掲載されていますが、ボノプラザンでは胃内pHが塩基性領域に入っている時間帯すらあり、胃酸分泌抑制作用の強さには目を見張ります。忍容性はいずれの薬剤も良好で、ボノプラザン群では発疹による中止が1例ありましたが中止後に回復しています。ただし、潰瘍や出血の予防といった臨床的なエンドポイントを設定した研究ではないことは念のため付言しておきます。pH上昇により併用薬の吸収や溶解性が低下する場合も注意点としては、ボノプラザンに限った話ではありませんが、胃内pHを変動させる薬剤はしばしば添付文書にはない間接的な相互作用を招く恐れがあること。薬剤師として留意しておきたい点です。まして、pHの変動幅が大きい薬剤であればなおさらです。胃内pH上昇によって、分子型・イオン型の比率の変化や薬の溶解性・胃内容排出速度の変化が生じることがあります。前者の例としては、胃内pHが上昇することでイオン型が多くなる弱酸性薬剤の溶解性が低下し、消化管吸収が落ちるとする報告があります3)。具体的には、バルビツール酸類、フェニトイン、プロプラノロール、プロベネシド、ワルファリン、レボドパ、カルビドパなどが該当します。ちなみに、パーキンソン病患者にレボドパを投与する際にレモン汁によって酸を補充して胃内pHを低下させることで、血中レボドパ濃度の改善が認められたという報告もあります4)。後者の例としては、胃内pH上昇により溶解性が低下するイトラコナゾール5)、チロシンキナーゼ阻害薬(ゲフィチニブ、エルロチニブなど)が該当します6)。ボノプラザンなどの作用時間の長いPPIは、日内で服用タイミングをずらしても相互作用を回避できるものではありません。抗がん剤使用時は胃酸分泌抑制薬が必須となるケースもあるため、相互作用を許容して併用するケースもありますが、こうした可能性を踏まえて効果の程度を類推できるとよいと思います。服用タイミングをずらした場合の影響などは患者さんからの頻出質問だと思いますので、メカニズムを理解して説明できるようにしておきたいものです。1)ボノプラザンフマル酸塩錠インタビューフォーム2)Sakurai Y, et al. Aliment Pharmacol Ther. 2015;42:719-730.3)Mitra A, et al. Mol Pharm. 2013;10:3970-3979.4)Yazawa I, et al. Rinsho Shinkeigaku. 1994;34:264-266.5)Jaruratanasirikul S, et al. Eur J Clin Pharmacol. 1998;54:159-161.6)Zenke Y, et al. Clin Lung Cancer. 2016;17:412-418.

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統合失調症患者に対する長時間作用型抗精神病薬治療と機能的および臨床的寛解との関連

 機能的寛解は、統合失調症の主要な治療目標となってきたが、良好なアウトカムの割合は、15~51%の範囲で大きなばらつきがある。また、臨床的寛解が機能的寛解の前提条件であるかについてもよくわかっていない。フランス・パリ大学のPhilip Gorwood氏らは、急性期エピソード後に長時間作用型持効性注射剤(LAI)による治療を開始した統合失調症患者の機能的および臨床的寛解との関連性を評価するため、プロスペクティブ観察研究を実施した。Psychiatry Research誌オンライン版2019年9月7日号の報告。 対象は、急性期エピソード後にLAI抗精神病薬による治療を開始したフランスの統合失調症患者。機能的および臨床的寛解を、FROGSおよびAndreasen基準を用いて評価し、臨床的寛解の役割および機能的寛解の予測因子について評価を行った。 主な結果は以下のとおり。・統合失調症患者(DSM-IV診断基準)303例を対象に、12ヵ月間フォローアップを行った。・12ヵ月間で、機能的寛解が認められた患者は45.1%、臨床的寛解が認められた患者は55.1%であった。・臨床的寛解により、機能的寛解の促進が認められた(OR:14.74)。とくに、5年未満の統合失調症患者では顕著であった(OR:23.73)。・その他の予測因子として、家族環境、教育レベル、雇用状況、ベースライン時の機能レベルおよび病識と関連が認められた。 著者らは「LAI治療を行った統合失調症患者の約半数において、1年間のフォローアップ後に機能的寛解が認められた。臨床症状の軽減および臨床的寛解の達成は、主に機能的寛解と関連が認められた。これらの結果から、機能的寛解を達成し、リカバリーの機会を最大化するためには、継続的かつ適切な対症療法が重要であると考えられる」としている。

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ドセタキセル+ADTがmHSPCのOSを延長(STAMPEDE試験)/ESMO2019

 転移を有するホルモン療法未治療の前立腺がん(mHSPC)患者に対する、ドセタキセル(DTX)とアンドロゲン除去療法(ADT)の併用療法の結果が、欧州臨床腫瘍学会(ESMO2019)で、英国・Queen Elizabeth Hospital のNick James氏より発表された。 本試験(STAMPEDE試験)は前立腺がんを対象に、10群(A~L群)のアームを持ち、1万人以上の症例が登録される国際共同臨床試験である。既にmHSPCの1次治療としてDTX+ADTのOS改善報告がある。今回は2005年10月~2013年3月に登録のあった、A群(ADT群)とC群(DTX群)との長期追跡の結果と、高腫瘍量/低腫瘍量ごとの解析である。・試験群:DTX+ADT(DTX群:362例)・対照群:ADT(ADT群:724例)・評価項目: [主要評価項目]全生存期間(OS) [副次的評価項目]治療成功期間(FFS)、無増悪生存期間(PFS)、前立腺がん特異的生存期間(PCSS)、転移無増悪生存期間(MPFS) 高腫瘍量/低腫瘍量の判定はCHAARTED試験のカテゴリー(高腫瘍量:内臓転移ありまたは骨転移4ヵ所以上でそのうち少なくとも1ヵ所以上は脊椎・骨盤以外の転移)を使用した。 主な結果は以下のとおり。・CHAARTED試験カテゴリーの低腫瘍量に該当する患者はADT群33%、DTX群34%、高腫瘍量に該当する患者はそれぞれ44%と41%だった。・追跡期間中央値6.5年における全症例を対象にしたDTX群対ADT群のOSハザード比(HR)は0.81(95%信頼区間[CI]:0.69~0.95)、p=0.009と有意にDTX群が良好であった。5年OS率はADT群37%、DTX群49%であった。・同様にDTX群対ADT群のFFSは、HR0.66(95%CI:0.57~0.76)、p<0.001と有意にDTX群が良好であった。また、5年FFS率はADT群13%、DTX群21%であった。・低腫瘍量の患者におけるOSのHRは0.76(95%CI:0.54~1.07)、p=0.107で、5年OS率はADT群57%、DTX群72%であった。また、高腫瘍量の患者におけるOSのHRは0.81(95%CI:0.64~1.02)、p=0.064で、5年OS率はADT群24%、DTX群34%であった。・全症例と低腫瘍量症例と高腫瘍量症例の間で、ドセタキセルのOSに対する効果に差異はみられなかった(p=0.827)。・その他、同様にFFS、PFS、PCSSについても、全症例と低腫瘍量症例と高腫瘍量症例の間でドセタキセルのOSに対する効果に差異はみられなかった。・薬剤投与1年未満に発現したGrade3の有害事象の発現は、ADT群21%、DTX群29%、Garde4は3%と13%、Grade5は両群ともに1%未満であった。さらに投与1年間以降に発現した有害事象は、Grade3がADT群24%、DTX群25%、Grade4は3%と2%、Grade5は1%未満と0%であった。

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資産づくりで結果を出す人だけが知る「3つの心掛け」【医師のためのお金の話】第25回

資産づくりで結果を出す人だけが知る「3つの心掛け」こんにちは。自由気ままな整形外科医です。医師として研鑽することと、資産づくりで結果を出すことの要諦は共通しています。それはすなわち「たくさん行動してたくさん経験を積む」です。ただでさえ忙しい医療の現場で、医師の本業であるはずの「研究して論文を書く」ことでさえ、ハードルが高いですよね。いわんや本業とは関係のない資産づくりで結果を出すとなると、何から手を付けてよいのかさえわからない、という方が多いのではないでしょうか?経済的自由に到達できるほど、資産づくりで結果を出すことは簡単ではありません。配偶者に丸投げし、資産づくりについて考えないようにしている、という方もいるでしょう。その気持ちもよくわかりますが、運を天に任せていても結果が出ないことは、自明の理です。そんな悩める先生方に、私が資産づくりで心掛けていることをお伝えします。心掛け(1) 寝る最初にお伝えするのは「寝る」ことです。はぁ? いきなり何を言っているんだコイツは! と怒った方もいるかもしれません。でも、私は大真面目に「寝る」ことが大事だと思っています。では、具体的に「寝る」とはどういうことでしょうか?医療の現場同様に、資産づくりにおいても「何をやってもうまくいかずにトラブルが連発する」ことがあります。トラブル→精神的に追い詰められる→判断が甘くなる→さらなるトラブルを引き起こす、という負のサイクルに陥るのです。医療は健康、資産づくりはお金という、人生でも上位にくる重要なものを扱うにあたって資産づくり、精神的に追い詰められ判断が甘くなることは致命的なダメージです。このような雲行きの怪しい状況になったら、まずは「寝る」。短時間でも寝ることで、頭の中のモヤモヤ感をリセットし、疲れた頭をリフレッシュさせるのです。そして、寝ることの利点はこれだけではありません。寝ることで、追い詰められた状況をいったん忘れることも重要な効用です。寝ただけでは状況を完全に忘れることはないでしょうが、精神的な圧迫感がなくなることはよくあります。「あれ、なぜあんなに悩んでいたのだろう?」という感覚になるのです。心掛け(2) とにかく最後までやってみる論文作成と同様に、資産づくりにおいても完了するまでに膨大な時間を費やしがちです。何らかの勉強や手続きが億劫になってしまい、いつまでたっても始められない経験をお持ちの方もいるのではないでしょうか? かくいう私もそのうちの一人で、本稿を書く時期をズルズルと先送りしてきました(笑)。しかし、それではいつまでたっても進歩がありません。内容が稚拙であったとしても、形だけでも最後まで仕上げてしまうことが肝要です。たとえば、株式投資を始める場合を考えてみましょう。通常は、関連書籍やインターネットで情報を収集して基礎知識を身に付けてから、証券会社に口座を開設するというステップを踏むでしょう。しかし、初めて投資に接する人にとっては、本もインターネットも知らない用語だらけなので情報収集が遅々として進みません。この段階で嫌になって挫折してしまう人が多いでしょう。ここで踏みとどまって、まずは証券会社に口座を開設して資金を振り込んでしまいましょう。あとは「習うよりも慣れよ」です。用語や仕組みの理解が多少あやふやでも、痛い目に遭いながら経験を積み重ねていくのです。このように、最初の段階は100点満点中10点でも、とにかく形だけ最後まで仕上げてしまえば合格です。とても人に見せられるシロモノではない論文でも、あやふやな投資の知識でも、とにかく一度最後までやり切ることで、全体を俯瞰する能力を獲得できます。この「全体を見渡せる状態に到達する」ことが重要であり、高いレベルの考察をする足掛かりとなります。最初は10点でも全体を俯瞰することで、どんどん知識がブラッシュアップされ、獲得できる点数が上がっていくのです。心掛け(3) 悩みを話す最後にお伝えしたい心掛けは、「問題が発生したときに一人で抱え込まない」ことです。臨床や研究同様に、資産づくりでも新しいことをするたびに壁にぶち当たります。専門性・個別性が高いので、「他人に話しても仕方がない」と考えがちです。もちろん、まったくの門外漢に話しても仕方がないのですが、臨床や研究であれば医師仲間、資産づくりに関することなら身近にいる投資家に悩みを打ち明けることが、問題解決の糸口になることが多いのです。この場合、「他人から正解を教えてもらう」というよりも、相談する過程で自分の考えがまとまり、思わぬ解決策を思いつく、ということが多いのです。悩みを打ち明けることで気持ちがラクになる副次的効果もあるので、他人に悩みを話すことはお勧めです。重要なのは「枝葉の知識」ではないここまで資産づくりで結果にコミットするための、3つの心掛けを紹介しました。抽象的ではありますが、実際の資産づくりにおいては知識よりも物事の取り組み方が重要だと感じます。その理由は、「トラブルなく結果を出すことは不可能」だからです。いかにして困難や問題点を乗り越えるか、それが、臨床同様に資産づくりにおいても重要です。2017年に著書を出版したとき、一部の書評で「具体的な内容が記載されていない」というご批判がありました。そのような情報を求めてご購入いただいた先生には申し訳なかったのですが、本当の意味で資産づくりを志すには、枝葉の知識ではなく根幹を成す投資戦略や考え方が重要だと信じています。今回の話を、投資戦略を実行に移す際のTIPSとして参考にしていただきたいと思います。

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第5回 不要な睡眠薬で高齢者を転倒させるな【噂の狭研ラヂオ】

動画解説転倒による大腿骨折は高齢者やその家族にとって大きな痛手です。それがもし必要のない睡眠薬のせいで起こったものだとしたら?薬剤師は薬剤性の症状を適正に見分けることで、患者さんにとって不要な鉄剤、抗うつ薬、睡眠薬の是非を問うことができます。医療界では今、その薬剤師の専門性が求められていると狭間先生が熱弁します!

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双極性障害患者の気分安定薬に対するアドヒアランス

 気分安定薬の服薬アドヒアランスは、双極性障害の治療経過において悪影響を及ぼす重要な問題である。服薬アドヒアランスは、患者個々における複雑な問題行動であり、その遵守率は、時間とともに変化する。ドイツ・ドレスデン工科大学のM. Bauer氏らは、気分安定薬の服薬アドヒアランスに明確な違いは存在するかどうか、存在した場合の患者特性との関連性について検討を行った。International Journal of Bipolar Disorders誌2019年9月4日号の報告。 双極性I型障害または双極性II型障害の患者273例を対象に、12週間毎日の自己報告データに基づき、ChronoRecordのコンピューターソフトウェアを用いて分析を行った。すべての対象患者が、1剤以上の気分安定薬を使用していた。患者ごとの12週間のアドヒアランスデータポイントに基づいたアドヒアランスの軌跡を検出するため、潜在クラス混合モデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・アドヒアランスは、良好群(210例、77%)および不良群(63例、23%)の2つの異なる軌跡が検出された。・アドヒアランス不良群と関連付けられた特性は、寛解期ではない時間がより長いこと(p<0.001)、女性(p=0.016)であった。・その他の人口統計学的特性との関連は認められなかった。 著者らは「毎日の自己報告アンケートを完了した双極性障害患者であっても、約4分の1はアドヒアランスが不良であった。こういった積極的にケアに参加している患者においてさえ、アドヒアランスが遵守されていない場合がある。個々のアドヒアランスを評価するうえで、人口統計学的特性は役立たない可能性がある。今後、双極性障害の縦断的なアドヒアランスのパターンに関する研究が望まれる」としている。

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10代の薬物依存患者の4割が市販薬を乱用【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第34回

市販薬の中でも、風邪薬はよく売れる商品カテゴリーの1つではないでしょうか。それらの市販薬に関して、憂慮すべき事態が起こっています。2018年に薬物依存などで全国の精神科で治療を受けた10代患者の4割以上が、せき止め薬や風邪薬などの市販薬を乱用していたことが厚生労働省研究班の実態調査で分かった。(中略)「消えたい」「死にたい」などと考え、生きづらさを抱えた若者が、一時的に意欲を高めるために市販薬を乱用するケースが多いという。せき止め薬は安価で簡単に入手できる上、中枢神経興奮薬と抑制薬の両方の成分が含まれている。(2019年9月16日付 日本経済新聞)この報道は、厚生労働省の研究事業の一環である「全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査」という、精神科医を中心として行われた研究結果を基にしています。本研究は、全国の入院設備のある精神科1,566施設を対象に、2018年9月~10月に薬物関連の治療を受けた患者のうち、同意が得られた2,609例を分析対象として実施されました。「10代の薬物依存患者の4割が市販薬を乱用」というかなりショッキングな内容のため、テレビや一般紙などでもこの結果が取り上げられました。情報番組『めざましテレビ』の取材では、実際に市販薬を風邪や咳止めなどの本来の目的以外で使用した経験がある10代の若者たちに直接その現状や理由を聞いており、以下のような回答が紹介されました(一部改変)。「学校の周りとかで結構います。1回でやめるつもりだったみたいだけど、どんどんハマっちゃって、どんどん飲んじゃうみたい」(友人が市販薬を過剰摂取していた10代)「追い詰められたときに薬に頼った。クラクラが気持ちいい。現実から逃げられる」(以前、市販薬を過剰摂取していた10代)このテレビ番組の街頭アンケートによると、街にいた10代~20代の107人のうち14%で本人あるいは身近な人物が市販薬を過剰摂取していたそうです。市販薬は身近な場所でいつでも購入できるというメリットがありますが、一方で購入のハードルが低く、乱用によって健康被害や依存が容易に生じうる危険もあると改めて感じます。乱用されている薬剤の第1位はブロン錠・液実際にどのような市販薬が乱用されているのでしょうか。これらも冒頭の研究結果で明らかになっています。第1位がブロン錠/ブロン液で158件と圧倒的な多さでした。第2位はパブロン/パブロンゴールド(34件)、第3位以下はウット(32件)、ナロン/ナロンエース(16件)、と続きます。これは2年前の調査から変わっていません。ブロン錠、パブロンゴールドA錠の成分を見てみると、以下のようになっています。ブロン錠:ジヒドロコデインリン酸塩、dl-メチルエフェドリン塩酸塩、クロルフェニラミンマレイン酸塩、無水カフェインパブロンゴールドA 錠:グアイフェネシン、ジヒドロコデインリン酸塩、dl-メチルエフェドリン塩酸塩、アセトアミノフェン、クロルフェニラミンマレイン酸塩、無水カフェイン、リボフラビン咳止めを目的として配合されている「ジヒドロコデインリン酸塩」は、医療用医薬品としても使用される中枢性麻薬性鎮咳薬で、モルヒネと同様の基本構造を有します。用法用量を守って服用してもせん妄や呼吸抑制などが起こることがあり、依存性があることでも知られています。なお、コデイン類含有製剤は呼吸抑制の恐れがあることから、2019年以降は12歳未満の小児への使用が禁忌となりました。販売に関しても、「原則1回1包装単位」と決められています。セルフメディケーションが推進されている中、どうやって市販薬の乱用を止められるのか、と考えましたが、現実的にはなかなか難しいと言わざるを得ません。購入時に薬剤師から質問などがあるとは思いますが、風邪のときに使用すると言って複数の薬局やドラッグストアを回れば、誰だって大量購入ができてしまいます。また、これらの医薬品はインターネット購入も可能な商品であり、薬剤師と顔を合わせることなく購入することもできます。個々の薬剤師にできることは多くはないかもしれませんが、このような市販薬の乱用が社会問題になっていることを肝に銘じて、販売品目や方法を考える必要がありそうです。

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不眠症患者に対するスボレキサントの安全性プロファイル~市販後調査サブグループ解析

 スボレキサントは、不眠症治療に用いられるデュアルオレキシン受容体拮抗薬である。MSD株式会社の佐野 秀樹氏らは、日常でみられるさまざまな初期治療下におけるスボレキサントによる不眠症治療の安全性プロファイルと臨床経過を明らかにするため、検討を行った。Expert Opinion on Drug Safety誌オンライン版2019年9月3日号の報告。 市販後調査(PMS;2015~17)より、スボレキサントによる初期治療時の患者の状態に基づき、睡眠薬未治療群(N群)、これまでの睡眠薬からの切り替え群(S群)、追加投与群(A群)、その他(O群)に分類し、サブグループ解析を行った。 主な結果は以下のとおり。・PMSより抽出された患者3,248例の内訳は、N群1,946例(59.9%)、S群703例(21.6%)、A群536例(16.5%)、O群63例(1.9%)であった。・不眠症関連薬剤性副作用の発現率は、S群では5.3%であり、N群(0.46%)およびA群(1.5%)よりも高い傾向が認められた。・6ヵ月時点における効果不十分による中止率は、S群では14.9%であり、N群(9.6%)およびA群(10.4%)よりも高い傾向が認められた。 著者らは「他の不眠症治療薬から切り替えてスボレキサントによる治療を開始する際には、不眠症関連薬剤性副作用を注意深くモニタリングする必要がある。このことは、切り替え前の不眠症治療薬を突然中断したことが原因である可能性が示唆された」としている。

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【荻野☓池野対談】第1回 世界から見た日本の“惨状”

日本の国際競争力が失われてきている――誰しも漠然とそう感じているのではないだろうか。とくにアカデミズムの分野では、その傾向が顕著だ。国別の論文発表数のランキングは年々下落し、国内大学の研究費も減少。それに伴い、若手研究者の待遇悪化や海外流出なども目立っている。こうした現状にあって、再び日本が技術開発力を持ち、イノベーションを生み出して国際社会で存在感を放つためには、どんな施策がありえるのか。日本の医学部を卒業した医師であり今は米国を拠点に活躍する、ハーバード大学の医学大学院および公衆衛生学大学院教授の荻野 周史氏とスタンフォード大学主任研究員の池野 文昭氏。ともに日米の大学・起業現場を熟知する教育者・研究者である2人が対談で語り合った。データでも肌感でも明らかに「凋落した国」池野私は日本で省庁の委員会委員や地方自治体のアドバイザリー業務をしており、月に3回程度は帰国しているので、日本の状況は空気感を含めて理解しているつもりです。データを見れば、名目GDPランキングではかろうじて世界3位(2018年)の座を保っていますが、中国との差は開くばかり。スイスのビジネススクールIMD(国際経営開発研究所)が発表する「世界競争力ランキング」では、昨年から5つ順位が下がって30位(2019年1))。1位はシンガポールで、その後に香港、米国と続き、中国は14位で韓国は28位。日本はマレーシアやタイよりも下なのです。とくに政治やビジネスの効率に対する評価がきわめて低い。「世界時価総額ランキング2)」(2019年9月)のトップ50を見ても、トヨタが38位に入っているだけで、そのほかは圧倒的に米国の会社、続いて中国系の会社が目立ちます。平成元年の時点3)では、トップ5をNTTと大手銀行といった日本企業が独占し、そのほかに27社もの日本企業が50位内にランクインしていました。当時のバブル経済の影響が大きかったとはいえるものの、この状況からはその後30年間、日本がまったく新たな産業を生み出せていないことがわかります。世界から見た日本は「急速に凋落した国」です。荻野帰国はたまに里帰りをする程度ですが、米国にいても日本の競争力が落ちていることを感じます。たとえば、ハーバードへの留学生やポスドク。日本からの応募は今でも一定数ありますが、かつてに比べ受からなくなっています。その代わり、中国人が大幅に増加しました。採用側としては、同等の学力ならコミュニケーション力が高く、国としての勢いもある中国人を採ろう、となるのです。また、日本国内における研究者や教育者のポストを見ると、待遇や裁量などの条件が米国と比べてあまりにも悪い。これでは世界で活躍している人をリクルートできません。日本から出るほうも日本に来るほうも人材が減り続け、日本がさらに世界から取り残されることを危惧しています。池野今、シリコンバレーに進出している日本の会社は約950社あるのですが、現地の人を雇おうとしても来てくれない、という話をよく聞きます。会社側は「米国企業のように簡単に首にはしない。福利厚生が手厚い」という点を売りにしているのですが、シリコンバレーで職を求める優秀な人のニーズとまったくマッチしない。GAFA(Google、Amazon.com、Facebook、Apple Inc.)に代表されるように、高い給与は当然として、新しい挑戦ができる、自分の夢をかなえられる、大きな裁量を持って働ける、といった環境を提供しないと優秀な人は雇えません。生き残ることの苦しさ・楽しさ荻野私は学生のころから病理学を研究したいと思っていました。当時、その希望をかなえるには大学院に行くというのが普通に考えて唯一の道でした。しかし、大学院に半年通って絶望しました。硬直した組織、旧態依然としたテーマ…。ここで長くはやっていられない、と危機感を持ち、考えたのが米国留学でした。渡米には研修資格取得や語学の準備などが必要で、最低1年ほどはかかる。そこで在沖縄米国海軍病院でインターンシップをしながら準備を進め、研修先の病院を見つけたのです。その後、苦労しながらもハーバードに職を得て、今に至ります。池野海外への興味は学生時代からありました。私は自治医科大学の出身で、当時の日本ではまだ僻地医療が確立していなかったので、卒業後の勤務に役立つと考え、2ヵ月間シアトルのワシントン大学で僻地医療を見学したのです。そこで、米国の自由と力強さに魅せられました。しかし、卒後は地域医療に従事する義務がありましたので米国への思いは封印し、出身地である静岡県の公務員として地域医療に従事しました。荻野それが、どうして渡米されることになったのですか?池野9年間の研修・勤務を終え、地域医療にやりがいも感じていたので、「このまま静岡の県立病院で定年まで働けばいいかな」と考えていました。それが、知り合いの医師から「米国の大学で動物実験を手掛ける医師を探している。学費も出すので行かないか」という誘いが来たのです。当時の私はスタンフォードについて詳しくは知らなかったのですが、学生の時の憧れを思い出し、何もわからないまま海を渡りました。来てみれば、周囲にノーベル賞受賞者などの有名研究者がぞろぞろいて、環境の違いに圧倒されました。「3年くらい米国を満喫したら帰ろう」と思っていたのですが、さまざまなご縁があり、米国に拠点を置いたまま今に至ります。荻野留学中は学費を払っているので、ある意味で「お客さん」ですが、仕事に就く時はご苦労があったのではないですか? 私は大変でした。6年間の研修期間中に3つの大学病院に勤務したのですが、終わり近くになると、優秀な同僚には研修先から就職のオファーが来るのです。私にも来るだろう、と待っていたのですが、まったく来ません(笑)。今から思えば実力不足だったので、当然のことなのですが、当時はショックでしたね。必死になって全米の大学に空ポジションを探したところ、私の専門に合うポジションは3つしかなくて。なんとかハーバードに職を得られたことは、本当にラッキーでした。池野私も職探しには苦労しました。渡米初年度に永住権の抽選に申し込んだら、偶然にも当たったのです。早くから就労できたのは非常に幸運だったのですが、それを知った周囲の同僚の視線がガラリと変わりました。「いつかは帰るお客さん」だったのが、職を争うライバルになったわけです。しかも、私は子供が4人おり、彼らを養いながら世界一生活費が高いといわれるシリコンバレーで生活するだけのサラリーを稼がねばならない。すべてが保障された公務員の身分を捨ててきた、という焦りもあり、そのプレッシャーはすさまじいものがありました。荻野本当にタフでないと生きていけない世界です。運よく仕事を得ても、成果を出さないと、あっという間にそこにいられなくなる。その半面、自分にしかできない成果を出していると、誰かが見て評価してくれる世界でもあります。その簡明さと働きやすさに惹かれ、今まで働き続けてきました。7人の主君を渡り歩いた藤堂 高虎4)のように、よりよい評価をしてくれるところで存分に仕事ができる点が大きいですね。こちらでは、学生時代から同じところに居続けることはマイナスになります。多くの日本人のように学生時代からずっと同じところにいると「変化を嫌い、現状維持を好む」と受け取られますし、実際にそのとおりだと思います。池野非常にドライで「アウトプットなき者は去れ」という文化ですよね。最初はそれがきつかったのですが、次第に慣れ、今ではこちらのほうが心地よくなりました。第2回に続く 参考1)https://www.imd.org/contentassets/6b85960f0d1b42a0a07ba59c49e828fb/one-year-change-vertical.pdf2)https://stocks.finance.yahoo.co.jp/us/ranking/?kd=43)https://diamond.jp/articles/-/177641?page=24)戦国・江戸時代の武将・大名。浅井 長政、豊臣 秀吉、徳川 家康をはじめ多くの主君に仕え、功を立てた

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免疫チェックポイント阻害薬の効果、抗菌薬投与で減弱?

 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の効果を左右する興味深い知見が発表された。広域抗菌薬(ATB)療法によって引き起こされるディスバイオシス(dysbiosis、腸内細菌叢の破綻)が、ICIの効果を減弱する可能性があるという。英国・インペリアル・カレッジ・ロンドン、ハマースミス病院のDavid J. Pinato氏らが、実臨床でICI治療を受ける患者を対象に前向き多施設コホート研究を行い、ICI投与前のATB投与により、全生存期間(OS)および奏効率が悪化したことを示した。著者は「ICI治療予後不良の決定要因として、ATBを介した腸内細菌叢の変化の解明が喫緊の課題である」とまとめている。JAMA Oncology誌オンライン版2019年9月12日号掲載の報告。 研究グループは、ICI治療と同時またはICI投与前のATB療法と、通常の臨床診療にてICI治療を受けたがん患者のOSおよび奏効との間に関連があるかどうかを評価する目的で、3次医療施設2施設にて前向き多施設コホート研究を実施した。 対象は、臨床試験ではなく通常診療でICI治療を受けるがん患者で、2015年1月1日~2018年4月1日に196例が登録された。 主要評価項目は、ICI治療開始からのOS、RECIST(ver. 1.1)に基づく奏効、ICI治療抵抗性(ICI初回投与後、pseudo-progressionを認めることなく6~8週で進行と定義)であった。 主な結果は以下のとおり。・196例の患者背景は、男性137例、女性59例、年齢中央値68歳(範囲:27~93歳)で、がん種別では非小細胞肺がん119例、悪性黒色腫38例、その他39例であった。・OSは、ATB事前投与例2ヵ月、同時投与例26ヵ月(ハザード比[HR]:7.4、95%CI:4.2~12.9)であった。・同時投与はOSと関連しなかったが(HR:0.9、95%CI:0.5~1.4、p=0.76)、ATB事前投与は事前投与なしと比較してOSの有意な悪化が認められた(HR:7.4、95%CI:4.3~12.8、p<0.001)。・ICI治療抵抗性は、事前投与例が21/26(81%)で、同時投与例の66/151(44%)と比較して有意に高率であった(p<0.001)。・事前投与ありは事前投与なしと比較して、がん種にかかわらず一貫してOSが不良であった(非小細胞肺がん:2.5 vs.26ヵ月[p<0.001]、悪性黒色腫:3.9 vs.14ヵ月[p<0.001]、その他の腫瘍:1.1 vs.11ヵ月[p<0.001])。・多変量解析の結果、ATB事前投与(HR:3.4、95%CI:1.9~6.1、p<0.001)およびICI治療奏効(HR:8.2、95%CI:4.0~16.9、p<0.001)は、腫瘍部位、腫瘍量およびPSとは独立してOSと関連していることが認められた。

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