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急速進行性糸球体腎炎〔RPGN:Rapidly progressive glomerulonephritis〕

1 疾患概要■ 定義急速進行性糸球体腎炎(Rapidly progressive glomerulonephritis:RPGN)は、数週~数ヵ月の経過で急性あるいは潜在性に発症し、血尿(多くは顕微鏡的血尿、まれに肉眼的血尿)、蛋白尿、貧血を伴い、急速に腎機能障害が進行する腎炎症候群である。病理学的には、多数の糸球体に細胞性から線維細胞性の半月体の形成を認める半月体形成性(管外増殖性)壊死性糸球体腎炎(crescentic[extracapillary]and necrotic glomerulonephritis)が典型像である。■ 疫学わが国のRPGN患者数の新規受療者は約2,700~2,900人と推計され1)、日本腎臓病総合レジストリー(J-RBR/J-KDR)の登録では、2007~2022年の腎生検登録症例のうちRPGNは年度毎にわずかな差があるものの5.4~9.6%(平均7.4%)で近年増加傾向にある2)。また、日本透析医学会が実施している慢性透析導入患者数の検討によると、わが国でRPGNを原疾患とする透析導入患者数は1994年の145人から2022年には604人に約5倍に増加しており、5番目に多い透析導入原疾患である3)。RPGNは、すべての年代で発症するが、近年増加が著しいのは、高齢者のMPO-ANCA陽性RPGN症例であり、最も症例数の多いANCA関連RPGNの治療開始時の平均年令は1990年代の60歳代、2000年代には65歳代となり、2010年以降70歳代まで上昇している6)。男女比では若干女性に多い。■ 病因本症は腎糸球体の基底膜やメサンギウム基質といった細胞外基質の壊死により始まり、糸球体係蹄壁すなわち、毛細血管壁の破綻により形成される半月体が主病変である。破綻した糸球体係締壁からボウマン腔内に析出したフィブリンは、さらなるマクロファージのボウマン腔内への浸潤とマクロファージの増殖を来す。この管外増殖性変化により半月体形成が生じる。細胞性半月体はボウマン腔に2層以上の細胞層が形成されるものと定義される。細胞性半月体は可逆的変化とされているが、適切な治療を行わないと、非可逆的な線維細胞性半月体から線維性半月体へと変貌を遂げる4)。このような糸球体係蹄壁上の炎症の原因には、糸球体係締壁を構成するIV型コラーゲンのα3鎖のNC1ドメインを標的とする自己抗体である抗糸球体基底膜(GBM)抗体によって発症する抗GBM抗体病、好中球の細胞質に対する自己抗体である抗好中球細胞質抗体(ANCA)が関与するもの、糸球体係蹄壁やメサンギウム領域に免疫グロブリンや免疫複合体の沈着により発症する免疫複合体型の3病型が知られている。■ 症状糸球体腎炎症候群の中でも最も強い炎症を伴う疾患で、全身性の炎症に伴う自覚症状が出現する。全身倦怠感(73.6%)、発熱(51.2%)、食思不振(60.2%)、上気道炎症状(33.5%)、関節痛(18.7%)、悪心(29.0%)、体重減少(33.5%)などの非特異的症状が大半であるが5)、潜伏性に発症し、自覚症状を完全に欠いて検尿異常、血清クレアチニン異常の精査で診断に至る例も少なくない。また、腎症候として多いものは浮腫(51.2%)、肉眼的血尿(14.1%)、乏尿(16.4%)、ネフローゼ症候群(17.8%)、急性腎炎症候群(18.5%)、尿毒症(15.8%)5)などである。肺病変、とくに間質性肺炎の合併(24.5%)がある場合、下肺野を中心に湿性ラ音を聴取する。■ 分類半月体形成を認める糸球体の蛍光抗体法所見から、(1)糸球体係蹄壁に免疫グロブリン(多くはIgG)の線状沈着を認める抗糸球体基底膜(glomerular basement membrane:GBM)抗体型、(2)糸球体に免疫グロブリンなどの沈着を認めないpauci-immune型、(3)糸球体係蹄壁やメサンギウム領域に免疫グロブリンや免疫複合体の顆粒状の沈着を認める免疫複合体型の3型に分類される。さらに、血清マーカー、症候や病因を加味しての病型分類が可能で、抗GBM抗体病は肺出血を合併する場合にはグッドパスチャー症候群、腎病変に限局する場合には抗GBM腎炎、pauici-immune型は全身の各諸臓器の炎症を併発する全身性血管炎に対し、腎臓のみに症候を持つ腎限局型血管炎(Renal limited vasculitis)とする分類もある。このpauci-immune型の大半は抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophi cytoplasmic antibody:ANCA)が陽性であり、近年ではこれらを総称してANCA関連血管炎(ANCA associated vasculitis:AAV)と呼ばれる。ANCAには、そのサブクラスにより核周囲型(peri-nuclear)(MPO)-ANCAと細胞質型(Cytoplasmic)(PR3)-ANCAに分類される。■ 予後RPGNは、糸球体腎炎症候群の中で腎予後、生命予後とも最も予後不良である。しかしながら、わが国のRPGNの予後は近年改善傾向にあり、治療開始からの6ヵ月間の生存率については1989~1998年で79.2%、1999~2001年で80.1%、2002~2008年で86.1%、2009~2011年で88.5%、2012~2015年で89.7%、2016~2019年で89.6%と患者の高齢化が進んだものの短期生命予後は改善している。6ヵ月時点での腎生存率は1989~1998年で73.3%、1999~2001年で81.3%、2002~2008年で81.8%、2009~2011年で78.7%、2012~2015年で80.4%、2016~2019年で81.4%であり、腎障害軽度で治療開始した患者の腎予後は改善したものの、治療開始時血清クレアチニン3mg/dL以上の高度腎障害となっていた患者の腎予後については、改善を認めていない6)。また、脳血管障害や間質性肺炎などの腎以外の血管炎症候の中では、肺合併症を伴う症例の生命予後が不良であることがわかっている。感染症による死亡例が多いため、免疫抑制薬などの治療を控えるなどされてきたが、腎予後改善のためにさらなる工夫が必要である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)RPGNは、早期発見による早期治療開始が予後を大きく左右する。したがって、RPGNを疑い、本症の確定診断、治療方針決定のための病型診断の3段階の診断を速やかに行う必要がある。■ 早期診断指針(1)血尿、蛋白尿、円柱尿などの腎炎性尿所見を認める、(2)GFRが60mL/分/1.73m2未満、(3)CRP高値や赤沈亢進を認める、の3つの検査所見を同時に認めた場合、RPGNを疑い、腎生検などの腎専門診療の可能な施設へ紹介する。なお、急性感染症の合併、慢性腎炎に伴う緩徐な腎機能障害が疑われる場合には、1~2週間以内に血清クレアチニン値を再検する。また、腎機能が正常範囲内であっても、腎炎性尿所見と同時に、3ヵ月以内に30%以上の腎機能の悪化がある場合にはRPGNを疑い、専門医への紹介を勧める。新たに出現した尿異常の場合、RPGNを念頭において、腎機能の変化が無いかを確認するべきである。■ 確定診断のための指針(1)病歴の聴取、過去の検診、その他の腎機能データを確認し、数週~数ヵ月の経過で急速に腎不全が進行していることの確認。(2)血尿(多くは顕微鏡的血尿、まれに肉眼的血尿)、蛋白尿、赤血球円柱、顆粒円柱などの腎炎性尿所見を認める。以上の2項目を同時に満たせば、RPGNと診断することができる。なお、過去の検査歴などがない場合や来院時無尿状態で尿所見が得られない場合は臨床症候や腎臓超音波検査、CT検査などにより、腎のサイズ、腎皮質の厚さ、皮髄境界、尿路閉塞などのチェックにより、慢性腎不全との鑑別を含めて、総合的に判断する。■ 病型診断可能な限り速やかに腎生検を行い、確定診断と同時に病型診断を行う。併せて血清マーカー検査や他臓器病変の評価により二次性を含めた病型の診断を行う。■ 鑑別診断鑑別を要する疾患としては、さまざまな急性腎障害を来す疾患が挙げられる。とくに高齢者では血尿を含めた無症候性血尿例に、脱水、薬剤性腎障害の併発がある場合などが該当する。また、急性間質性腎炎、悪性高血圧症、強皮症腎クリーゼ、コレステロール結晶塞栓症、溶血性尿毒症症候群などが類似の臨床経過をたどる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)入院安静を基本とする。本症の発症・進展に感染症の関与があること、日和見感染の多さなどから、環境にも十分配慮し、可能な限り感染症の合併を予防することが必要である。RPGNは、さまざまな原疾患から発症する症候群であり、その治療も原疾患により異なる。本稿では、ANCA陽性のpauci-immune型RPGNの治療法を中心に示す。治療の基本は、副腎皮質ステロイド薬と免疫抑制薬による免疫抑制療法である。初期治療は、副腎皮質ホルモン製剤で開始し、炎症の沈静化を図る。早期の副腎皮質ホルモン製剤の減量が必要な場合や糖尿病などの併発例で血糖管理困難例には、アバコパンの併用を行う。初期の炎症コントロールを確実にするためにシシクロホスファミド(経口あるいは静注)またはリツキシマブの併用を行う。また、高度腎機能障害を伴う場合には血漿交換療法を併用する。これらの治療で約6ヵ月間、再発、再燃なく加療後に、維持治療に入る。維持治療については経口の免疫抑制薬や6ヵ月毎のリツキシマブの投与を行う。また、日和見感染症は、呼吸不全により発症することが多い。免疫抑制療法中には、ST合剤(1~2g 48時間毎/保険適用外使用)の投与や、そのほかの感染症併発に細心の注意をはらう。4 今後の展望RPGNの生命予後は各病型とも早期発見、早期治療開始が進み格段の改善をみた。しかしながら、進行が急速で治療開始時の腎機能進行例の腎予後はいまだ不良であり、初期治療ならびにその後の維持治療に工夫を要する。新たな薬剤の治験が開始されており、早期発見体制の確立と共に、予後改善の実現が待たれる。抗GBM腎炎については、早期発見がいまだ不能で、過去30年間にわたり腎予後は不良のままで改善はみられていない。現在欧州を中心に抗GBM腎炎に対する新たな薬物治療の治験が進められている7)。5 主たる診療科腎臓内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本腎臓学会ホームページ(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)急速進行性腎炎症候群の診療指針 第2版(医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 急速進行性糸球体腎炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)旭 浩一ほか. 腎臓領域指定難病 2017年度新規受療患者数:全国アンケート調査. 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業(難治性疾患政策研究事業)難治性腎疾患に関する調査研究 平成30年度分担研究報告書.2019.2)杉山 斉ほか. 腎臓病総合レジストリー(J-RBR/J-KDR) 2022年次報告と経過報告.第66回日本腎臓学会学術総会3)日本透析医学会 編集. 我が国の慢性透析療法の現況(2022年12月31日現在)4)Atkins RC, et al. J Am Soc Nephrol. 1996;7:2271-2278.5)厚生労働省特定疾患進行性腎障害に関する調査研究班. 急速進行性腎炎症候群の診療指針 第2版. 日腎誌. 2011;53:509-555.6)Kaneko S, et al. Clin Exp Nephrol. 2022;26:234-246.7)Soveri I, et al. Kidney Int. 2019;96:1234-1238.公開履歴初回2024年11月7日

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第237回 「新たな地域医療構想」の議論本格化、どんどん増える“協議”する項目、元々機能していなかった地域医療構想調整会議のさらなる形骸化が心配

四病協が新たな地域医療構想における「医療機関機能」のイメージ案に再考求めるこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。野球シーズンも終わってしまいました。米国のMLBは、大谷 翔平選手が所属するロサンゼルス・ドジャースが4年ぶりのワールドシリーズ優勝を決めました。前の優勝は4年前、2020年です。このときはコロナ禍の真っ只中、レギュラーシーズンの試合数はわずか60試合で、ワールドシリーズも両チーム(相手はタンパベイ・レイズ)の本拠地でもないテキサス州のグローブライフ・フィールドで行われました。しかも、試合のとき以外は選手全員がホテルに缶詰めとなって全試合を戦うバブル方式(まとまった泡の中で開催する、という意味)でした。さらに、ジャスティン・ターナー選手が新型コロナウイルス陽性なのに出場して物議を醸すなど、優勝にちょっとしたケチも付きました。たった4年前ですが、コロナ禍というのはいろんなことが異常だったなと改めて思います。そのドジャース、今年は年間162試合をフルに戦い、ポストシーズンでさらに16試合、最後は宿敵ニューヨーク・ヤンキースを破っての優勝(しかもパレード付き)ということで、文句のつけようがない正真正銘の世界一です。選手にとってもファンにとっても喜びはひとしおでしょう。それにしても、ワールドシリーズ第5戦の5回表、ヤンキースのアーロン・ジャッジ選手、アンソニー・ボルピー選手、ゲリット・コール投手が連続して守備のミスを連発、5点差を逆転され自滅していったのには驚きました。それも高校生でもしないような単純ミスばかりです。王者ヤンキースの選手も普通の人間で、大舞台では緊張したり、うっかりしたりするということですね。いやはや、野球は面白いです。さて、今回は厚生労働省の「新たな地域医療構想等に関する検討会」で議論されている「医療機関機能」のイメージ案に対して、四病院団体協議会(日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会、日本精神科病院協会で構成)が再考を求めたことについて書いてみたいと思います。四病協はいったい何が不満だったのでしょうか。入院医療だけでなく、外来・在宅医療、介護との連携等を含む医療提供体制全体の課題解決を図る「新たな地域医療構想」厚生労働省の「新たな地域医療構想等に関する検討会」は、2025年を目標年とする現在の地域医療構想の「次」について検討を進める会です。2040年を目処に、それまでにどのような医療提供の姿を作っていくのかが、多面的に議論されています。2024年3月29日に第1回が開かれて以降、10月17日までに10回を数えました。8月26日に開かれた第7回では、厚労省が“中間取りまとめ”として「新たな地域医療構想を通じて目指すべき医療について」と題する資料を提示、次のような基本的な考え方が示され、委員の了承も得て本格的な議論に入りました。85歳以上の高齢者の増加や人口減少がさらに進む2040年以降においても、全ての地域・全ての世代の患者が、適切な医療・介護を受け、必要に応じて入院し、日常生活に戻ることができ、同時に、医療従事者も持続可能な働き方を確保できる医療提供体制を実現する必要がある。このため、入院医療だけでなく、外来医療・在宅医療、介護との連携等を含め、地域における長期的に共有すべき医療提供体制のあるべき姿・目標として、地域医療構想を位置づける。人口や医療需要の変化に柔軟に対応できるよう、二次医療圏を基本とする構想区域や調整会議のあり方等を見直した上で、医療・介護関係者、都道府県、市区町村等が連携し、限りある医療資源を最適化・効率化しながら、「治す医療」を担う医療機関と「治し、支える医療」を担う医療機関の役割分担を明確化し、「地域完結型」の医療・介護提供体制を構築する。端的に言えば、今の地域医療構想が、病床の機能分化・連携のみに重点を置いていたのに対し、次の地域医療構想は、入院医療だけでなく、外来・在宅医療、介護との連携等を含む、医療提供体制全体の課題解決を図るため大幅にバージョンアップを図る、ということです。四病協での指摘はちょっと神経質過ぎる気もさて、四病院団体協議会は、厚労省が示した構想区域で求められる「医療機関機能のイメージ案」が誤解を生みかねないなどとして、11月にも書き換えを求める意見を出す方針を決めました。これは、四病協が10月23日に開いた記者会見で、日本病院会の相澤 孝夫会長が明らかにしたものです。「医療機関機能のイメージ案」とは、9月30日と10月17日に開かれた「新たな地域医療構想等に関する検討会」で厚労省が示したものです。下図のように、医療機関に報告を求める機能の類型について、(1)高齢者救急の受け皿となり地域への復帰を目指す機能、(2)在宅医療を提供し、地域の生活を支える機能、(3)救急医療等の急性期の医療を広く提供する機能、の3項目と「その他地域を支える機能」を提示しています。新たな地域医療構想等に関する検討会(令和6年10月17日)提出資料より10月23日付のキャリアブレインマネジメントなどの報道によれば、四病協では、(1)の病院は高齢者の救急医療のみに対応すればよいのか、という指摘があったほか、(3)の病院は3次救急医療だけを提供すればよいのか、といった意見が出て、「誤解を生む」との声が上がったとのことです。相澤氏は記者会見で、「イメージ案を書き直してもらうようにしたらどうかということで、四病協としての意見をまとめて厚労省に提出していく」と述べたとのことです。確かに、この図をぼーっと眺めると、「高齢者救急の受け皿」と「救急医療等の急性期の医療」は別の医療機関が担うように見えるかもしれません。ただ、「医療機関」と書かれているのではなく「医療機関機能」と、「機能」という言葉が付いています。四病協の指摘はちょっと神経質過ぎる気もします。とは言え、適当に書かれたポンチ絵が一人歩きしてしまうこともよくあります。まだ何も決まっていないので、誤解を生まない表現に変えておくことは大切かもしれません。地域医療構想調整会議も見直さないと次の地域医療構想も“絵に描いた餅”で終わりかねない私自身がこの「新たな地域医療構想」で気になるのは、検討すべき(あるいは協議すべき)項目が多岐に渡り、多過ぎる点です。病床の機能分化・連携推進だけが目的だった今の地域医療構想ですら、地域医療構想調整会議(いわゆる協議の場)の多くはほとんど機能しなかったと言われています。結果、多くの構想区域で病床の機能分化は進まず、急性期病床は思うようには減らず、回復期病床が足りない状況を招いたわけです。地域医療構想調整会議という組織には、現状、大きな強制力はありません。ダラダラ協議をして、何も決めなくても罰則もありません。唯一、地域医療構想調整会議での協議が整わないときに、都道府県知事は公的医療機関には「不足する医療機能を提供することを指示」でき、民間医療機関には「不足する医療機能を提供することを要請」できるくらいです。都道府県知事の医療機関に対する「要請」はほとんど意味がなく、実質機能しないことはコロナ禍で実証済みです。「新たな地域医療構想」に向けて、地域医療構想調整会議の位置付けや強制力、権限、さらには都道府県知事の権限も見直さないと、「地域医療構想」はまた“絵に描いた餅”で終わりかねません。これからの「検討会」の議論の行方に注目したいと思います。

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血圧測定、腕の位置により過大評価も

 自宅で血圧を測定する際には、腕の位置に注意する必要があるようだ。米ジョンズ・ホプキンス大学医学部小児科臨床研究副委員長のTammy Brady氏らによる新たな研究で、血圧測定の際には、腕の位置によって測定値が過大評価され、高血圧の誤診につながる可能性のあることが明らかになった。この研究結果は、「JAMA Internal Medicine」に10月7日掲載された。 米国心臓協会(AHA)によると、米国では成人の半数近くが高血圧であるという。高血圧を治療せずに放置すると、脳卒中、心筋梗塞やその他の重篤な心疾患のリスクが高まる。AHAのガイドラインでは、血圧は、適切なサイズのカフを用いて、背もたれのある椅子などで背中を支え、足は組まずに床につけた状態で、適切な腕の位置で測定することを求めている。「適切な腕の位置」とは、血圧計のカフが心臓の高さになるようにして、腕はテーブルなどの上に置くことだと説明している。しかしBrady氏らは、診察の際に、患者が腕をほとんど支えられていない状態で血圧を測定されることが多いことを指摘する。 このことを踏まえてBrady氏らは今回の研究で、血圧測定中の腕の位置(机の上に乗せた状態、膝の上に置いた状態、脇にぶら下げた状態)が測定値に与える影響を調査した。対象者の18〜80歳の成人133人(平均年齢57歳、女性53%)は、測定時の腕の位置の順序が異なる6つの群にランダムに割り付けられた。まず、全員が膀胱を空にし、2分間の歩行を行い、5分間休憩した。その後、上述の3種類の腕の位置で、上腕に合ったサイズのカフを装着して、30秒間隔で3回の測定を1セットとする血圧測定を3セット受けた。セットとセットの間には2分間の歩行と5分間の休憩をはさんだ。また、腕を机に乗せた状態で4セット目の測定も受けた。 その結果、腕を膝の上に置いた状態で血圧を測定すると、机に乗せた状態での測定に比べて収縮期血圧の平均値が3.9mmHg、拡張期血圧の平均値が4.0mmHg高くなることが明らかになった。また、腕を支えずに脇にぶら下げた状態で測定した場合には、机に乗せた状態での測定に比べて収縮期血圧の平均値は6.5mmHg、拡張期血圧の平均値は4.4mmHg高くなっていた。 論文の筆頭著者であるジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生大学院のHairong Liu氏は、「常に腕を支えずに血圧を測っていると、収縮期血圧の値が実際よりも6.5mmHg高くなる可能性がある。これはつまり、123mmHgであるはずの収縮期血圧が130mmHgに、あるいは133mmHgが140mmHgになる可能性があるということだ。収縮期血圧140mmHgはステージ2の高血圧に分類される値だ」と話す。 ただし研究グループは、これらの結果は自動血圧計による測定に限定されるもので、他の機器による測定に当てはまらない可能性があるとしている。それでもBrady氏は、「この研究結果は、臨床医がベストプラクティス・ガイドラインにもっと注意を払う必要があることを示唆している」と、ジョンズ・ホプキンス大学のニュースリリースの中で述べている。

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ビタミンD値が低いとサルコペニアのリスクが高い可能性

 血清ビタミンD値が低い高齢者は骨格質量指数(SMI)が低くて握力が弱く、サルコペニアのリスクが高い可能性のあることが報告された。大阪大学大学院医学系研究科老年・総合内科学の赤坂憲氏らの研究結果であり、詳細は「Geriatrics & Gerontology International」に8月1日掲載された。 サルコペニアは筋肉の量や筋力が低下した状態であり、移動困難や転倒・骨折、さらに寝たきりなどのリスクが高くなる。また日本の高齢者対象研究から、サルコペニア該当者は死亡リスクが男性で2.0倍、女性で2.3倍高いことも報告されている。 サルコペニアの予防・改善方法として現状では、筋肉に適度な負荷のかかる運動、および、タンパク質を中心とする十分な栄養素摂取が推奨されており、治療薬はまだない。一方、骨粗鬆症治療薬として用いられているビタミンD(VD)に、サルコペニアに対する保護的作用もある可能性が近年報告されてきている。ただし、一般人口におけるVDレベルとサルコペニアリスクとの関連は不明点が少なくない。これを背景として赤坂氏らは、東京都と兵庫県の地域住民対象に行われている高齢者長期縦断研究(SONIC研究)のデータを用いて、年齢層別に横断的解析を行った。 SONIC研究参加者のうち、年齢層で分けた際のサンプル数が十分な70歳代(平均年齢75.9±0.9歳、男性54.2%)と、90歳代(92.5±1.6歳、男性37.5%)を解析対象とした。全員が自立して生活していた。 血清25(OH)D(以下、血清VDと省略)の平均は、70歳代では21.6±5.0ng/mLであり、35.8%が欠乏症(20ng/mL未満)だった。90歳代では平均23.4±9.1ng/mLであり、43.8%が欠乏症だった。なお、VDは日光曝露によって皮膚で生成されるため、日照時間の違いを考慮して季節性を検討したところ、70歳代の男性では、冬季測定群に比べて夏季測定群の方が有意に高値だった。 サルコペニアのリスク評価に用いられている、SMI、握力、歩行速度、および、BMIや血清アルブミン、血清クレアチニンと、血清VDとの関連を単回帰分析で検討すると、年齢層にかかわらず、SMIと握力が血清VDと有意に正相関し、その他の因子は関連が見られなかった。それぞれの相関係数(r)は、以下の通り。70歳代の血清VDとSMIは0.21、血清VDと握力は0.30(ともにP<0.0001)、90歳代の血清VDとSMIは0.29(P=0.049)、血清VDと握力は0.34(P=0.018)。 続いて、SMIおよび握力を従属変数、性別を含むその他の因子を独立変数とする重回帰分析を施行した。その結果、70歳代のSMIについては、血清VDが有意な正の関連因子として特定された(β=0.066、P=0.013)。一方、70歳代の握力に関しては、血清VDは独立した関連が示されなかった。また90歳代では、SMI、握力ともに血清VDは独立した関連因子でなかった。 著者らは本研究の限界点として、横断的解析であり因果関係は不明なこと、日光曝露時間や栄養素摂取量が測定されていないことなどを挙げた上で、「地域在住の自立した高齢者では、血清VDレベルはSMIや握力と関連しているが、歩行速度とは関連のないことが明らかになった。この結果は90歳代よりも70歳代で明確だった」と総括。また、「さらなる研究が必要だが、血清VDレベルを維持することが骨格筋量の維持に寄与する可能性があるのではないか」と付け加えている。

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成人ADHDに対するメチルフェニデート+SSRI併用療法

 うつ病は、成人の注意欠如多動症(ADHD)の一般的な併存疾患であるため、このような患者には、メチルフェニデート(MPH)と選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)の併用療法が行われる。しかし、成人ADHDにおけるMPHとSSRI併用療法の安全性に関する臨床的エビデンスは、限られている。韓国・亜洲大学のDong Yun Lee氏らは、うつ病を併発した成人ADHD患者に対するMPHとSSRI併用療法の安全性を評価した。JAMA Network Open誌2024年10月1日号の報告。 2016年1月〜2021年2月の韓国請求データベースよりデータを収集した。対象は、ADHDおよびうつ病と診断され、MPHを処方された18歳以上の成人患者。処方内容により4群に分類し、比較を行った。より好ましい治療オプションを検討するため、SSRI+MPH(SSRI群)、MPH単剤(MPH群)、MPH+fluoxetine(fluoxetine群)、MPH+エスシタロプラム(エスシタロプラム群)の比較を行った。データ分析は、2023年7〜12月に実施した。神経精神医学的およびその他のイベントを含む17の主要および副次的アウトカムを評価した。対照アウトカムとして、呼吸器感染症を用いた。交絡因子を調整するため傾向スコアを用い、各群1:1でマッチングした。ハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を算出するため、Cox比例ハザード回帰モデルを用いた。性別によるサブグループ解析およびさまざまな疫学的設定での感度分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・対象は、成人ADHD患者1万7,234例(研究参加時の平均年齢:29.4±10.8歳、女性:9,079例[52.7%])。・MPH群とSSRI群におけるアウトカムのリスクに差は認められなかったが、SSRI群では、頭痛リスクが低かった(HR:0.50、95%CI:0.24〜0.99)。・fluoxetine群とエスシタロプラム群における感度分析では、fluoxetine群はエスシタロプラム群よりも、高血圧(HR[1:nマッチング]:0.26、95%CI:0.08〜0.67)、脂質異常症(HR[1:nマッチング]:0.23、95%CI:0.04〜0.81)のリスクが低かった。 著者らは「うつ病を併発した成人ADHD患者に対するSSRI+MPH併用療法は、MPH単独と比較し、有害事象の有意な増加は確認されなかった。SSRI併用は、頭痛リスクの低下と関連している可能性が示唆された」と結論付けている。

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実臨床のスタチン、ロスバスタチンvs.アトルバスタチン

 ストロングスタチンに分類されるロスバスタチンとアトルバスタチンは、実臨床で広く用いられているが、実臨床におけるエビデンスは限られている。そこで、中国・南方医科大学のShiyu Zhou氏らの研究グループは、中国および英国のデータベースを用いて、両薬剤の有効性・安全性を比較した。その結果、ロスバスタチンはアトルバスタチンと比較して全死亡、主要心血管イベント(MACE)、肝重症有害事象(MALO)のリスクをわずかに低下させることが示唆された。本研究結果は、Annals of Internal Medicine誌オンライン版2024年10月29日号に掲載された。 本研究では、China Renal Data System(CRDS)およびUKバイオバンクのデータベースを用いて、心血管疾患予防を目的としてロスバスタチンまたはアトルバスタチンが処方された成人患者28万5,680例を抽出した。両薬剤の比較にはtarget trial emulationの手法を用い、1対1の割合で傾向スコアマッチングを行った。主要評価項目は全死亡とした。 主な結果は以下のとおり。・6年間の全死亡率(100人年当たり)は、ロスバスタチン群がアトルバスタチン群よりも低かった(CRDS:2.57 vs.2.83、UKバイオバンク:0.66 vs.0.90)。・累積全死亡率の群間差(ロスバスタチン群-アトルバスタチン群)はCRDSでは-1.03%(95%信頼区間[CI]:-1.44~0.46)、UKバイオバンクでは-1.38%(同:-2.50~-0.21)であり、ロスバスタチン群が低かった。・両データベースの対象患者において、ロスバスタチン群はアトルバスタチン群と比較して、MACEとMALOのリスクが低かった。・UKバイオバンクの対象患者において、ロスバスタチン群はアトルバスタチン群と比較して、2型糖尿病発症リスクが高かった。慢性腎臓病発症リスクや、その他のスタチンに関連する有害作用のリスクは同程度であった。 本研究結果について、著者らは「複数の評価項目において、ロスバスタチンとアトルバスタチンでリスクの差がみられたが、その差は比較的小さく、これらの知見を臨床現場で確信をもって活用するには、さらなる研究が必要である」とまとめた。

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レトロウイルス感染症-基礎研究・治療ストラテジーの最前線-/日本血液学会

 2024年10月11~13日に第86回日本血液学会学術集会が京都市で開催され、12日のPresidential Symposiumでは、Retrovirus infection and hematological diseasesに関し5つの講演が行われた。本プログラムでは、成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL)の発がんメカニズムや、ATLの大規模全ゲノム解析の結果など、ATLの新たな治療ストラテジーにつながる研究や、ATLの病態解明に関して世界に先行し治療開発にも大きく貢献してきた日本における、ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)関連疾患の撲滅といった今後の課題、AIDS関連リンパ腫に対する細胞治療や抗体療法の検討、HIVリザーバー細胞を標的としたHIV根治療法など、最新の話題が安永 純一朗氏(熊本大学大学院生命科学研究部 血液・膠原病・感染症内科学)、片岡 圭亮氏(慶應義塾大学医学部 血液内科)、石塚 賢治氏(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 人間環境学講座 血液・膠原病内科学分野)、岡田 誠治氏(熊本大学ヒトレトロウイルス学共同研究センター 造血・腫瘍制御学分野)、白川 康太郎氏(京都大学医学部附属病院 血液内科)より報告された。ATLの発がんメカニズムに関与するHTLV-1 bZIP factor(HBZ)およびTax HTLV-1はATLの原因レトロウイルスであり、細胞間感染で感染を起こす。主にCD4陽性Tリンパ球に感染し、感染細胞クローンを増殖させる。HTLV-1がコードするがん遺伝子にはTaxおよびHBZ遺伝子が含まれ、Taxはプラス鎖にコードされ一過性に発現する。一方、HBZはマイナス鎖にコードされ恒常的に発現する。これらの遺伝子の作用により、感染細胞ががん化すると考えられる。HBZはATL細胞を増殖させ、HBZトランスジェニックマウスではT細胞リンパ腫や炎症が惹起される。また、HBZタンパクをコードするだけでなく、RNAとしての機能など多彩な機能を有している。HBZトランスジェニックマウスではHBZが制御性Tリンパ球(Treg)に関連するFoxp3、CCR4、TIGITなどの分子の発現を誘導、TGF-β/Smad経路を活性化してFoxp3発現を誘導し、この経路の活性化を介し、HTLV-1感染細胞をTreg様に変換し、HTLV-1感染細胞、ATL細胞の免疫形質を決定していると考えられる。 ATL症例の検討では、TGF-β活性化により、HBZタンパク質は転写因子Smad3などを介しATL細胞核内に局在し、がん細胞の増殖が促進される。HBZ核内局在はATL発症において重要であり、TGF-β/Smad経路はATL治療ストラテジーの標的になりうると考えられる。Taxはウイルスの複製やさまざまな経路の活性化因子であり、宿主免疫の主な標的であり、ATL細胞ではほぼ検出されない。ATL細胞株のMT-1はHTLV-1抗原を発現するが、MT-1細胞ではTaxの発現は一過性である。また細胞発現解析では、Tax発現が抗アポトーシス遺伝子の発現増加と関連し、細胞増殖の維持に重要であることが示された。ATL症例では約半数にTaxの転写産物が検出され、Taxの発がんへの関与が考えられる。発がんメカニズムに関与するHBZおよびTax遺伝子の多彩な機能の解析がATLの治療ストラテジーの開発につながると考えられる。ATLの全ゲノム解析―遺伝子異常に基づく病態がより明らかに ATLは、HTLV-1感染症に関連する急速進行性末梢性T細胞リンパ腫(PTCL:peripheral T-cell lymphoma)であり、ATL発症時に重要な役割を果たす遺伝子異常について、全エクソン解析や低深度全ゲノム解析など網羅的解析が行われてきた。しかし、構造異常やタンパク非コード領域における異常など、ATLのゲノム全体における遺伝子異常の解明は十分ではなかった。 今回実施された、ATL150例を対象とした大規模全ゲノム解析は、腫瘍検体における異常の検出力がこれまでの解析より高い高深度全ゲノム解析(WGS)である。タンパクコード領域および非コード領域における変異、構造異常(SV)、コピー数異常(CNA)を解析した結果、56個のドライバー遺伝子が同定され、56個中CICなど11個の新規ドライバー遺伝子があり、このうちCIC遺伝子はATL患者の33%が機能喪失型の異常を認め、CIC遺伝子の長いアイソフォームに特異的な異常(CIC-L異常)であり、ATLにおいて腫瘍抑制遺伝子として機能していた。さらに、CIC遺伝子とATN1遺伝子異常の間には相互排他性が見られ、CIC-ATXN1複合体はATL発症に重要な役割を果たすと考えられた。また、CIC-LノックアウトマウスではFoxp3陽性T細胞数が増加しており、CIC-LがT細胞の分化・増殖を制御するうえで選択的に作用すると考えられた。 また、ATL新規ドライバー遺伝子RELは、遺伝子後半が欠損する異常をATL患者の13%に認め、遺伝子の構造異常はATL同様、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)でも高頻度に認められた。REL遺伝子の構造異常はREL発現上昇やNF-κB経路の活性化と関連し、腫瘍化を促進すると考えられた。 ATLにおけるタンパク非コード領域、とくにスプライス部位の変異の集積が免疫関連遺伝子を中心に繰り返し認められ、ATLのドライバーと考えられた。今回の解析で得られたドライバー遺伝子異常の情報をクラスタリングし、2つのグループに分子分類した結果、両群の臨床病型や予後が異なることが示された。全ゲノム解析研究はATLの新たな診断および治療薬の開発につながると考えられる。ATL治療の今後 ATLは、aggressive ATL(急性型、リンパ腫型、予後不良因子を有する慢性型)とindolent ATL(くすぶり型、予後不良因子を有さない慢性型)に分類され、それぞれ異なる治療戦略が取られる。aggressive ATLの標準治療(SOC)は多剤併用化学療法であり、VCAP-AMP-VECP(ビンクリスチン+シクロホスファミド+ドキソルビシン+プレドニゾロン―ドキソルビシン+ラニムスチン+プレドニゾロン―ビンデシン+エトポシド+カルボプラチン+プレドニゾロン)の導入により、最終的に生存期間中央値(MST)を1年以上に延長することが可能となった。同種造血幹細胞移植(allo-HSCT)はHTLV-1キャリアの高齢化に伴い、全身状態が良好な70歳未満の患者におけるSOCとして施行される。2012年以降、日本ではモガムリズマブ、レナリドミド、ブレンツキシマブ ベドチン、ツシジノスタット、バレメトスタットの5剤が新規導入され、初発例に対するモガムリズマブおよびブレンツキシマブ ベドチン+抗悪性腫瘍薬の併用や、再発・難治例に対する単剤療法として使用されている。indolent ATLに対しては日本では無治療経過観察であるが、海外では有症候の場合IFN-αとジドブジン(IFN/AZT)の併用が選択される。しかし、いずれもエビデンス不足であり、日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)は両群の治療効果を確認する第III相試験を進行中であり、結果は2026年に公表予定である。 日本の若年HTLV-1感染者は明らかに減少し、新規に診断されたATL患者は高齢化し、70歳以上と予測される。この動向は2011年から開始された母乳回避を推奨し、母子感染を抑止する全国的なプログラムによりさらに推進されると考えられる。今後は高齢ATL患者に対するより低毒性の治療法の確立と、全国プログラムの推進によるHTLV-1感染、およびATLなどHTLV-1関連疾患の撲滅が課題である。AIDS関連悪性リンパ腫の現状 リンパ腫はAIDSの初期症状であり、AIDS関連悪性リンパ腫はHIV感染により進展し、AIDS指標疾患として中枢神経系原発悪性リンパ腫(PCNSL)および非ホジキンリンパ腫が含まれる。悪性腫瘍は多剤併用療法(cART)導入後もHIV感染者の生命を脅かす合併症であり、リンパ腫はHIV感染者の死因の最たるものである。HIV自体には腫瘍形成性はなく、悪性腫瘍の多くは腫瘍ウイルスの共感染によるものである。 エプスタイン・バーウイルス(EBV)およびカポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(KSHV)はAIDS関連リンパ腫の最も重要なリスクファクターであり、HIV感染による免疫不全、慢性炎症、加速老化、遺伝的安定性はリンパ腫形成を亢進すると考えられている。AIDS関連リンパ腫ではEBV潜伏感染が一般的に見られ、EBV感染はDLBCL発症と深く関連するが、予後不良な形質芽球性リンパ腫(PBL)、原発性滲出性リンパ腫(PEL)との関連は不明である。バーキットリンパ腫(BL)、およびPBLは最近増加している。BLおよびホジキンリンパ腫(HD)の治療成績と予後はおおむね良好である。 AIDS関連悪性リンパ腫の治療はこれまで抗腫瘍薬と、プロテアーゼインヒビター(PI)のCYP3A4代謝活性阻害による薬物相互作用の問題があった。近年、インテグラーゼ阻害薬(INSTI)の導入によりCYP3A4阻害が抑えられ、AIDS関連悪性リンパ腫患者の予後は非AIDS患者と同等になっている。 高度免疫不全マウスにヒトPEL細胞を移植したPELマウスモデルでは、PELにアポトーシスが誘導された。AIDS関連リンパ腫に対する細胞療法や抗体療法の効果が期待される。リザーバー細胞を標的としたHIV根治療法 抗レトロウイルス療法(ART)により、HIVは検出不可能なレベルにまで減少できるが、ART中止数週間後に、HIVは潜伏感染細胞(リザーバー)から複製を開始する。HIV根治達成には、HIVリザーバーの体内からの排除が必要である。 HIV根治例は2009年以来、現在まで世界で7例のみである。全例が白血病など悪性腫瘍を発症し、同種造血幹細胞移植(SCT)を受け、数年はARTなしにウイルス血症のない状態を維持した。最初のHIV根治例はCCR5Δ32アレルに関してホモ接合型(homozygous)であるドナーからSCTを受けた症例であり、5例がこのSCTを受けた。 キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法はHIV感染症領域への応用が期待されている。そこで、アルパカを免疫して作製したVHH抗体をもとに、より高効率にHIVに対する中和活性を示す抗HIV-1 Env VHH抗体を開発した。新たなHIV感染症の治療として、CAR-T療法への応用などを試みている。 HIVリザーバー細胞を標的として排除するアプローチとして、latency reversal agents(LRA)によるshock and killが提唱され、HIV根治のためのLRA活性を有するさまざまな薬剤の研究、開発が進められている。HIV潜伏感染細胞モデル(JGL)を用いたCRISPRスクリーニングにより、4つの新規潜伏感染関連遺伝子、PHB2、HSPA9、PAICS、TIMM23が同定され、これら遺伝子のノックアウトによりHIV転写の活性化が誘導され、潜伏感染細胞中にウイルスタンパクの発現が認められた。また、PHB2、HSPA9、TIMM23のノックアウトにより、ミトコンドリアのオートファジー(マイトファジー)が誘導された。Mitophagy activatorのウロリチンA(UA)およびその他のマイトファジー関連化学物質は、潜伏細胞実験モデルにおいてHIV転写を再活性することが示され、in vivoにおけるHIV再活性化の誘導についての臨床試験が検討されている。 ウイルス酵素をターゲットとする最近のART療法ではHIV根治は望めず、ウイルス産生が可能なリザーバー細胞を標的としたHIV根治療法が求められている。 本プログラムでは、ATLやAIDS関連リンパ腫などの病態解明や治療法について最新の話題が報告され、今後の治療ストラテジーの開発につながることが期待される。

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大阪大学医学部 外科学講座消化器外科学【大学医局紹介~がん診療編】

土岐 祐一郎 氏(教授)江口 英利 氏(教授)富丸 慶人 氏(助教)三吉 範克 氏(助教)中本 蓮之助 氏(専攻医)古賀 千絢 氏(専攻医)講座の基本情報医局の特徴・基本理念大阪大学消化器外科講座は、2008年より主任教授2人で1つの教室を運営するという特殊な形態をとっています。その結果、全体で120人を超える大きな教室となりましたので、基本理念を作りみんなの心を1つにしています。ミッションは「病める人に寄り添い、託された命を守り切ることがメスを持つ我々の使命です」、そして行動指針が「技術と知識を磨き、現代医療の最後の砦になります」「新しい科学、新しい医療、新しい手術を創出します」「外科医の絆を大切にし、社会に貢献します」の3つです。この基本理念を忘れないように多様な人が集まる教室を目指してゆきます。学生と医局員の食事会を開催医局独自の取り組み・若手医師の育成方針消化器外科は、上部消化管、下部消化管、肝胆膵など広い領域の診療を担当する診療科で、これらの臓器はお互いに近接し連携して機能していますので、これらを総合的に理解し対応できることが求められます。大阪大学消化器外科講座では、多彩な消化器疾患の外科治療を総合的に理解できるよう、臓器の垣根なくカンファンレンスや合同手術を行う体制ができており、一方、日々進化する高度な専門的医療も実践できるよう、グループ編成を行って最先端医療を提供しています。がん診療では国指定の地域がん診療連携拠点病院として、また臓器移植では脳死肝移植、脳死膵移植の認定施設として本邦をリードしています。上述のような高度医療技術を身につけることも大切ですが、一方で外科基本手技とも言える虫垂炎や胆石症、ヘルニアや腸閉塞などに対する手術も消化器外科医師としてきわめて重要です。大阪大学消化器外科講座は、近畿圏の基幹病院(約50施設)との密な連携体制が誇りで、外科専門医の取得をめざす若手外科医の育成のための教育システムにとくに力を入れています。連携する病院の若手医師を対象としたハンズオンセミナーや症例検討会、手術手技のコンテストやビデオクリニックなどを頻繁に開催しています。そのような活動を通じて若手医師が集まってくれる医局となってきており、日本専門医機構の外科専攻医プログラムでは、7年連続で日本一の入局者数となっています。医局のレクリエーションとして行ったゴーカートレース医局の雰囲気・魅力大阪大学消化器外科講座は、あらゆる消化器外科疾患に対して専門性の高い医療を提供しておりますが、一方では皆でレクリエーション活動なども行い、和気あいあいとした雰囲気の教室です。医師間のコミュニケーションが活発で、知識や経験を共有し合える環境が整っている点も特徴です。また、それぞれの医師のライフ・ワーク・バランスも尊重し、医師の働き方改革への取り組みも積極的に行っています。医学生/初期研修医へのメッセージ多くの手術を含めた臨床のみならず、研究、留学などさまざまな経験ができますので、自分の可能性を確実に広げることができる医局です。どのようなキャリアプランであっても、一緒に考えてくれる先輩方や仲間がたくさんいます。皆さんと一緒に仕事ができることを楽しみにしていますので、ぜひ仲間に加わってください!医局説明会でのハンズオンの様子医局でのがん診療/研究のやりがい、魅力私たちは、消化器がんに対する腹腔鏡手術やロボット手術などの低侵襲手術から拡大手術にも力を入れ、患者さんに優しい治療を目指しています。また、新規がん診断や薬物治療に関する基礎研究、再生医療、そしてAIを用いた解析やプログラミングにも注力し、次世代の医療技術の発展に貢献したいと考えています。医学生/初期研修医へのメッセージ医療は今、テクノロジーの進化により驚くべき変革が起きています。AIやロボット技術を駆使し、より精密で効果的な治療が可能になる時代です。皆さんが挑戦する新しいアイデアや発見が、未来の医療を形作る重要な一歩となります。未知の分野に果敢に挑み、自分だけのキャリアを切り拓いてください。一緒に、新しい時代の医療を創造していきましょう。学生向けロボット手術の操作シミュレーション実習入局した理由近畿大学医学部を卒業後、市中病院で2年間の初期研修を行いました。学生実習や研修医としての外科ローテーションを通じて、多くの手術症例に携わる機会があり、手術への興味がいっそう深まりました。また、周術期管理や手術技術の向上を通じて、患者の全身状態の改善に寄与できることに大きなやりがいを感じ、消化器外科への入局を決意しました。その後、市中病院で2年3ヵ月の消化器外科後期研修を経て大阪大学病院に戻り、病棟業務と大学院生としての日々の活動に従事しています。現在学んでいること大学病院では、高度進行がんに対する術前化学療法や放射線療法を含む集学的治療、ロボット支援手術、さらには肝・膵移植など、大学病院ならではの多様な症例を経験することができました。経験豊富な指導医のもとで、多くの症例を通じ、周術期管理や手術技術、知識の習得に励んでいます。食事会の様子消化器外科を選択した理由医学科5年の研究室配属プログラムで、消化器外科教室で2ヵ月間勉強させていただきました。実臨床では手術をして周術期管理をする傍らで、さまざまな学術的観点からがんについて研究をされている先生方の姿を目の当たりにし、「がん」と真っ向から向き合う姿勢に感銘を受けました。がんを診療する外科、という観点から産婦人科や泌尿器科などほかの外科も検討しましたが、他臓器とも密接に関連する消化器疾患自体の病態生理に興味があったため、消化器外科を選択しました。現在学んでいること現在は阪大病院で専攻医として学んでおります。大学病院では最新技術の導入はもちろん、臨床研究や治験も豊富で、市中病院では経験できないような症例が多く、がん診療への理解が深まるのを実感しています。また大阪大学は学術面でのサポートも手厚いので、学会などへも積極的に参加しています。日々の臨床だけでは得ることができない着眼点を吸収する良い機会になっていると思います。専攻医を対象とした真皮縫合コンテスト大阪大学大学院医学系研究科 外科系臨床医学専攻外科学講座消化器外科学住所〒565-0871 大阪府吹田市山田丘2-2問い合わせ先ytomimaru@gesurg.med.osaka-u.ac.jptmakino@gesurg.med.osaka-u.ac.jp医局ホームページ大阪大学大学院医学系研究科 外科系臨床医学専攻外科学講座消化器外科学専門医取得実績のある学会日本外科学会日本消化器外科学会日本食道学会日本肝胆膵外科学会日本移植学会日本大腸肛門病学会日本消化器病学会日本内視鏡外科学会日本ロボット外科学会日本消化器内視鏡学会 など研修プログラムの特徴(1)高難度ながん手術をはじめ、臓器移植や再生医療などの最先端医療を実践でき、さらにはそれらの開発研究にも参加する機会があり、高度な医療技術や研究能力を得ることができます。(2)手術だけでなく内視鏡検査、化学療法など幅広い一般診療にも従事することができ、各種専門医の先生と一緒に高い技術と知識を習得できる実践的な研修を提供しています。(3)研修先や勤務先が大阪を中心とした関西エリアの主要な医療機関であり、通勤や生活面での負担が少ない環境で、充実した研修が受けられる点も大きな魅力です。

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2型DM男性へのメトホルミン、子の先天奇形と関連なし/BMJ

 父親の精子形成期におけるメトホルミンの使用は、子の臓器特異的奇形を含む先天奇形とは関連しないことが、ノルウェーおよび台湾の一般住民を対象とした全国規模のコホート研究において示された。国立台湾大学のLin-Chieh Meng氏らが報告した。先行研究では、父親のメトホルミン使用と子の先天奇形のリスクとの関連が示されていた。著者は、「今回の研究の結果、メトホルミンは子供をもうける予定のある2型糖尿病男性において、血糖管理のための最初の経口薬として適切であると考えられる」とまとめている。BMJ誌2024年10月16日号掲載の報告。ノルウェー62万例、台湾256万例の子供と父親のデータを解析 研究グループは、ノルウェーの出生登録、処方箋データベース、患者登録および医療費償還払いデータベース、ならびに台湾の出生証明書申請データベース、国民健康保険データベースおよび母子保健データベースを用いた。ノルウェーのコホートでは2010~21年まで、台湾のコホートでは2004~18年までに単胎妊娠で出生した子供のうち、精子形成期(妊娠の3ヵ月前)の父親のデータがある子供それぞれ61万9,389例および256万3,812例を特定した。 主要アウトカムは、先天奇形、副次アウトカムは臓器特異的奇形で、欧州先天奇形サーベイランス(EUROCAT)のガイドラインに従って分類し、父親のメトホルミン使用と子の先天奇形リスクとの関連について解析した。 相対リスクは、補正前解析、父親が2型糖尿病と診断されている集団に限定した解析、ならびに糖尿病の重症度やその他の交絡因子を補正するため父親が2型糖尿病の集団に限定し、傾向スコアオーバーラップ重み付け法を用いた解析により推定した。また、遺伝的因子とライフスタイル因子を考慮するために、兄弟姉妹のマッチング比較を行った。さらに、ノルウェーと台湾のデータの相対リスク推定値を、ランダム効果メタ解析を用いて統合した。父親が2型糖尿病の交絡因子補正後解析では、メトホルミン服用と先天奇形に関連なし ノルウェーのコホートでは、61万9,389例のうち2,075例(0.3%)、台湾のコホートでは256万3,812例のうち1万5,276例(0.6%)の子供の父親が、精子形成期にメトホルミンを使用していた。 先天奇形は、ノルウェーのコホートでは、父親が精子形成期にメトホルミンを使用していなかった子供で2万4,041例(3.9%)、使用していた子供で104例(5.0%)に認められ、台湾のコホートではそれぞれ7万9,278例(3.1%)および512例(3.4%)であった。 補正前解析では、父親のメトホルミン使用は先天奇形のリスク増加と関連していた(補正前相対リスクはノルウェーで1.29[95%信頼区間[CI]:1.07~1.55]、台湾で1.08[0.99~1.17])。 しかし、この関連は交絡因子の補正に従い減弱した。2型糖尿病の父親に限定した解析での相対リスクは、ノルウェーで1.20(95%CI:0.94~1.53)、台湾で0.93(0.80~1.07)、2型糖尿病の父親限定の傾向スコアオーバーラップ重み付け法による解析ではそれぞれ0.98(0.72~1.33)、0.87(0.74~1.02)で、プール推定値は0.89(0.77~1.03)であった。 臓器特異的奇形は、父親のメトホルミン使用と関連していなかった。これらの所見は、兄弟姉妹をマッチさせた比較や感度分析においても一貫していた。

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Jmedmook94 今日の診療に活かせる 喘息・COPDポイント解説

今日から目の前の患者さんに活かせる!プライマリ・ケア医やジェネラリストの先生方が“今日の診療”において一歩ステップアップすることを目的とした、キュート先生こと田中 希宇人先生の著書がついに完成!喘息、COPDそれぞれについては国内外のガイドラインや治療の手引きなど数々の指針がありますが、何を参考にすれば? という若い先生の声も聞かれます。本書は、「今日から目の前の患者さんに活かせる」というコンセプトのもと、喘息とCOPDのポイントを1冊にまとめました。病態から診察、治療についてのキュート先生のわかりやすい解説に加え、長尾 大志先生、倉原 優先生、中島 啓先生など日本を代表する呼吸器内科の専門家が実臨床でのコツを伝授。キュート先生の質問に各先生が答えるQ&Aも必読です。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大するJmedmook94 今日の診療に活かせる 喘息・COPDポイント解説定価4,180円(税込)判型B5判頁数176頁発行2024年10月編著田中希宇人(日本鋼管病院呼吸器内科診療部長)ご購入はこちらご購入はこちら電子版でご購入の場合はこちら電子版でご購入の場合はこちら

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第238回 妊娠はウイルス様配列を目覚めさせて胎児発育に必要な造血を促す

妊娠はウイルス様配列を目覚めさせて胎児発育に必要な造血を促す体内の赤ちゃんを育てるにはいつもに比べてかなり過分な血液が必要で、赤血球は妊娠9ヵ月の終わりまでにおよそ2割増しとなって胎児や胎児を養う胎盤の発達を支えます1)。その赤血球の増加にホルモンが寄与していますが、ヒトやその他の哺乳類が妊娠中に赤血球をどういう仕組みで増やすかはよくわかっていませんでした。先週24日にScienceに掲載された研究で、哺乳類ゲノムにいにしえより宿るウイルス様要素が妊娠で目覚め、免疫反応を誘発して血液生成を急増させるという思いがけない仕組みが判明しました2,3)。それらのウイルス様配列はトランスポゾンや動く遺伝子(jumping gene)としても知られます。トランスポゾンは自身をコピーしたり挿入したりしてゲノム内のあちこちに移入できる遺伝配列で、ヒトゲノムの実に半数近くを占めます。哺乳類の歴史のさまざまな時点でトランスポゾンのほとんどは不活性化しています。しかしいくつかは動き続けており、遺伝子に入り込んで形成される長い反復配列や変異はときに体を害します。トランスポゾンは悪さをするだけの存在ではなく、生理活性を担うことも示唆されています。たとえば、トランスポゾンの一種のレトロトランスポゾンは造血幹細胞(HSC)を助ける作用があるらしく、炎症反応を生み出すタンパク質MDA5の活性化を介して化学療法後のHSC再生を促す働きが先立つ研究で示唆されています4)。妊娠でのレトロトランスポゾンの働きを今回発見したチームははなからトランスポゾンにあたりをつけていたわけではありません1)。University of Texas Southwestern Medical Centerの幹細胞生物学者Sean Morrison氏とその研究チームは、妊娠中に増えるホルモン・エストロゲンが脾臓の幹細胞を増やして赤血球へと発達するのを促すことを示した先立つ取り組みをさらに突き詰めることで今回の発見を手にしました。研究チームはまず妊娠マウスとそうでないマウスの血液幹細胞の遺伝子発現を比較しました。その結果、幹細胞はレトロトランスポゾンの急増に応じて抗ウイルス免疫反応に携わるタンパク質を生み出すようになり、やがてそれら幹細胞は増え、一部は赤血球になりました。一方、主だった免疫遺伝子を欠くマウスは妊娠中の赤血球の大幅な増加を示しませんでした。また、レトロトランスポゾンが自身をコピーして挿入するのに使う酵素を阻止する逆転写酵素阻害薬を投与した場合でも妊娠中に赤血球は増えませんでした。研究はヒトに移り、妊婦11人の血液検体の幹細胞が解析されました。すると妊娠していない女性(3人)に比べてレトロトランスポゾン活性が高い傾向を示しました。HIV感染治療のために逆転写酵素阻害薬を使用している妊婦6人からの血液を調べたところヘモグロビン濃度が低下しており、全員が貧血になっていました。逆転写酵素阻害薬を使用しているHIV患者は妊娠中に貧血になりやすいことを示した先立つ試験報告5)と一致する結果であり、逆転写酵素阻害薬使用はレトロトランスポゾンがもたらす自然免疫経路の活性化を阻害することで妊婦の貧血を生じ易くするかもしれません。より多数の患者を募った試験で今後検討する必要があります。他の今後の課題として、妊娠がどういう仕組みでレトロトランスポゾンを目覚めさせるのかも調べる必要があります。レトロトランスポゾンを目覚めさせる妊娠以外の要因の研究も価値がありそうです。たとえば、細菌が皮膚細胞(ケラチノサイト)の内在性レトロウイルスを誘って創傷治癒を促す仕組みが示されており6)、組織損傷に伴って幹細胞のレトロトランスポゾンが活性化する仕組みがあるかもしれません。また、組織再生にレトロトランスポゾンが寄与している可能性もあるかもしれません。参考1)Pregnancy wakes up viruslike ‘jumping genes’ to help make extra blood / Science 2)Phan J, et al. Science. 2024 Oct 24. [Epub ahead of print]3)Children’s Research Institute at UT Southwestern scientists discover ancient viral DNA activates blood cell production during pregnancy, after bleeding / UT Southwestern 4)Clapes T, et al. Nat Cell Biol. 2021;23:704-717.5)Jacobson DL, et al. Am J Clin Nutr. 2021;113:1402-1410.6)Lima-Junior DS, et al. Cell. 2021;184:3794-3811.

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長いスクリーンタイムは子どものメンタルヘルス症状と関連

 9歳と10歳の子ども約1万人を2年間追跡した研究で、テレビやその他のスクリーンの視聴時間(以下、スクリーンタイム)の長さは抑うつなどのメンタルヘルス症状のリスク上昇と関連することが明らかにされた。米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)のJason Nagata氏らによるこの研究の詳細は、「BMC Public Health」に10月7日掲載された。Nagata氏は、「スクリーンタイムにより、身体活動、睡眠、対面での交流、抑うつや不安を軽減するその他の行動に費やされる時間が失われている可能性がある」と述べている。 Nagata氏らは、ティーンの間でメンタルヘルスに問題を抱える者が増えていると話す。同氏らによると、2000年代初期に比べると現代のティーンはうつ病になる可能性が50%高く、2000年から2018年にかけて自殺リスクは30%も上昇したという。一方、スクリーンタイムも増加傾向にあり、トゥイーン(8~12歳の子ども)の1日当たりのスクリーンタイムは平均5.5時間であるが、ティーンになるとそれが8.5時間に増えるという。 研究グループは、メンタルヘルスに問題を抱える若年者の増加とスクリーンタイムの増加が関係しているのではないかと考えた。それを調べるために、米国の大規模研究であるABCD(Adolescent Brain Cognitive Development)研究に2016年から2018年の間に参加した9歳と10歳の子ども9,538人(平均年齢9.9±0.6歳、男児51.2%、白人52.4%)の2年間のデータを用いて、ベースライン時のスクリーンタイムと、親が子どもの行動チェックリストを用いて評価した過去6カ月間のメンタルヘルス症状との関連を検討した。 その結果、長いスクリーンタイムはあらゆるメンタルヘルス症状と関連していることが明らかになった。特に関連が強かったのは抑うつで、そのほか、行動障害、身体的症状、注意欠如・多動症(ADHD)との関連も強かった。抑うつ症状とスクリーンタイムとの関連を、スクリーンタイムのタイプ別に検討すると、ビデオ通話、テキストメッセージのやりとり、YouTubeなどの動画視聴、ビデオゲームとの間に有意な関連が認められた。スクリーンタイムと抑うつ症状、ADHD、反抗挑発症(反抗挑戦性障害)の症状との関連は、黒人よりも白人において、また、スクリーンタイムと抑うつ症状との関連は、アジア系よりも白人において、より強かった。 Nagata氏は、「人種/民族的マイノリティに属する子どもにとって、スクリーンやソーシャルメディアは、同じような背景や経験を持つ仲間とつながるための重要なプラットフォームとして、白人の子どもとは異なる役割を果たしている可能性がある」と話す。そして、「テクノロジーは、対面での人間関係に取って代わるのではなく、子どもが身近な環境を超えてサポートネットワークを拡大するのに役立つかもしれない」との考えを示している。 一方でNagata氏は、「もちろん、親が子どもをスクリーンから遠ざけ、より健康的な活動に向かわせる方法もある」とし、「米国小児科学会(AAP)は、それぞれの子どものニーズを考慮した家族メディア利用計画を作成することを推奨している」と述べている。

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社員の生活習慣とメンタルヘルス関連の欠勤率や離職率に有意な関連

 運動習慣のある社員や良好な睡眠を取れている社員の割合が高い企業ほど、メンタルヘルス関連での欠勤者や離職者が少ないという有意な関連のあることが明らかになった。順天堂大学医学部総合診療科学講座の矢野裕一朗氏らの研究結果であり、詳細は「Epidemiology and Health」に8月2日掲載された。 メンタルヘルスは世界各国で主要な健康課題となっており、日本人のメンタルヘルス不調の生涯有病率は20%を超えるというデータも報告されている。メンタルヘルス不調者の増加はその治療のための医療費を増大させるだけでなく、欠勤やプレゼンティズム(無理して出勤するものの生産性が上がらない状態)を介して間接的な経済負担増大につながる。このような社会課題を背景に経済産業省では、企業の健康経営を推進するため、健康経営優良法人の認定や健康経営銘柄の選定などを行っており、それらの基礎資料とするため「健康経営度調査」を行っている。 健康経営度調査では、喫煙者率、習慣的飲酒者率のほかに、普通体重(BMI18.5~25)の社員や運動習慣(1回30分、週2回以上)のある社員の割合、よく眠れている社員の割合、および、メンタルヘルス関連の欠勤率や離職率などが調査されている。矢野氏らは、2020年度の同調査のデータを用いた横断的検討を行った。この年の回答者数は1,748社で、社員数は合計419万9,021人、女性が26.8%、勤続年数は平均14.4±4.6年であり、メンタルヘルス関連の欠勤率は1.1±1.0%、離職率は5.0±5.0%だった。 交絡因子未調整の粗モデルの解析では、メンタルヘルス関連の欠勤率に関しては普通体重者の割合を除いて、前記の因子の全てが有意に関連していた。交絡因子(業種、上場企業か否か、勤続年数、および全ての生活習慣関連指標)を調整すると、習慣的飲酒者率との関連は有意性が消失したが、その他の因子は以下のように引き続き有意だった。まず、運動習慣のある社員が1パーセントポイント(PP)多いと、メンタルヘルス関連の欠勤率が0.005%低く(P=0.021)、よく眠れている社員が1PP多いことも同様に欠勤率が0.005%低いという関連があった(P=0.016)。また、喫煙者率が1PP高いことも、メンタルヘルス関連の欠勤率が0.013%低いことと関連していた(P<0.001)。 次に、離職率について見ると、粗モデルでの段階で、普通体重者の割合と運動習慣のある社員の割合は関連が非有意だった。前記同様の交絡因子を調整後、喫煙者率と習慣的飲酒者率については有意性が消失し、よく眠れている社員の割合のみが有意な因子として残り、その割合が1PP多いと離職率が0.020%低かった(P=0.034)。 著者らは、本研究が横断研究であるため因果関係の解釈は制限されるとした上で、「運動の奨励や睡眠習慣の指導は、社員のメンタルヘルス関連の欠勤や離職を防ぐ介入として有用といえるのではないか」と述べている。なお、喫煙者率が高いほどメンタルヘルス関連の欠勤が少ないという結果について、「今回のような一時点での横断解析では、先行研究においても、喫煙がストレスを軽減するというデータがある。しかし、経時的に評価した縦断研究では喫煙がメンタルヘルスに悪影響を及ぼすことや、禁煙介入によりメンタルヘルスが改善されることがシステマティックレビューからも報告されている。本研究は観察的および横断的なデザインであり、因果関係を立証することはできず、この点は限界点として認識すべき」と考察を述べている。

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後発品ロードマップが改訂、新目標は?【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第140回

後発医薬品の使用促進が新たなフェーズに入ったようです。2013年に策定された「後発医薬品のさらなる使用促進のためのロードマップ」が改訂され、名称も「安定供給の確保を基本として、後発医薬品を適切に使用していくためのロードマップ」と変更されました。厚生労働省は9月30日、さらなる後発品使用促進に向けた「ロードマップ」改訂版を発表した。数値目標についてはこれまで示してきた内容を記載。29年度末までに全都道府県で数量シェア80%以上を確保し、23年時点で56.7%だった金額シェアは65%以上に引き上げる。バイオシミラー(BS)も数量80%を占める成分数を、全体の60%以上にする。(2024年10月1日付 RISFAX)先発医薬品から後発医薬品に替えて後発医薬品の数量を増やそう! という2005年ごろのイケイケドンドンの時期は過ぎ、昨今の後発医薬品の流通状況やそれに関連する医療機関の対応などを踏まえて、今回のロードマップの名称変更に至ったのだろうと推察します。現状で使用促進だけを推奨すると各所からクレームが出るであろうという配慮もあるかもしれません。大きな変更として、新たにバイオ後続品(バイオシミラー)の使用促進を目的とした数量目標が設定されたことが挙げられます。ここで少しだけ、ロードマップと後発医薬品の今までの歩みについて触れたいと思います。さかのぼること17年ほど前の2007年6月、政府は医療費削減を目的とし、後発医薬品の数量シェアを2012年度までに30%以上にするという目標を閣議決定しました。厚生労働省は、2007年10月に「後発医薬品の安心使用促進アクションプログラム」を策定し、患者さんや医療者が安心して後発医薬品を選択することができるよう取り組みましたが、その数値目標は未達成となりました。この状況を打破するべく、社会保障・税一体改革大綱(2012年2月17日閣議決定)で「後発医薬品のロードマップ」が策定され、診療報酬上の評価、患者さんへの情報提供、処方箋様式の変更、医療関係書の信頼性向上のための品質確保など、総合的な使用促進が図られました。その後もロードマップはそのときの状況に応じて細かな改訂を重ねてきています。バイオシミラーの数値が副次目標に今回の新目標では、がんなどの成長領域かつ高額な分野の医療費抑制で効果が高いと考えられる先行バイオ医薬品からバイオシミラーへの置き換えを促すために、バイオシミラーの数値目標も副次目標として設定されました。これを踏まえ、ロードマップの別添として、「バイオ後続品の使用促進のための取組方針」も策定されています。なお、数値目標は主目標として、医薬品の安定的な供給を基本としつつ、後発医薬品の数量シェアを2029年度末までにすべての都道府県で80%以上(旧ロードマップから継続)にするとあります。副次目標1は2029年度末までにバイオシミラーが80%以上を占める成分数を全体の60%以上にすると設定され、副次目標2は後発医薬品の金額シェアを2029年度末までに65%以上にすると設定されました。バイオシミラーに関しては、高額療養費制度の対象となることで患者さんが使用メリットを実感できないケースもあることなどから、今後の使用促進に向けて2024年10月スタートの長期収載品の選定療養を参考にしつつ「保険給付のあり方について検討を行う」方針であるとも付け加えられています。今回改訂されたロードマップには「2026年度末を目途に状況を点検し必要に応じ目標も在り方を検討」と記載があるので約2年の間にどの程度進んだのかを確認されるのでしょう。今年10月から長期収載品の選定療養が始まり、後発医薬品の使用はすでに増えているようですが、一方で安定供給への不安は払しょくされていません。今後、市場のニーズに応えられるだけの後発医薬品が供給されるのかという点が目標達成のポイントになると思われます。

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嚥下障害診療ガイドライン 2024年版[Web動画付] 第4版

6年ぶり大改訂で解説もCQも大幅アップデートの最新版登場!アルゴリズム、総論・CQなど、全編にわたって大改訂されました。総論には嚥下圧検査の解説が追加され、臨床実践のブラッシュアップが期待できます。CQは全13項目設定され、呼吸筋訓練、神経筋電気刺激療法、栄養管理などの近年の臨床課題にも対応しています。また、特設サイトで嚥下内視鏡検査・造影検査の動画を視聴でき、より実践に近い形で学ぶことができます。総合的かつ実践的なガイドラインとして進化し続けています。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する嚥下障害診療ガイドライン 2024年版[Web動画付] 第4版定価3,960円(税込)判型B5判頁数108頁発行2024年9月編集日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会ご購入はこちらご購入はこちら

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日本人の牛乳・乳製品の摂取と不眠症との関連

 労働安全衛生総合研究所の佐藤 ゆき氏らは、日本人における牛乳や乳製品の習慣的な摂取と不眠症との関連を調査した。Nutrition and Health誌オンライン版2024年9月25日号の報告。 東日本で20〜74歳の6万633人(男性:2万2,721人、女性:3万7,912人)を対象に、コホート研究データを用いた横断的研究を実施した。牛乳、乳製品の摂取、睡眠状況、その他の生活習慣に関するデータは、自己記入式質問票を用いて収集した。牛乳、乳製品に関する質問は、全乳、低脂肪牛乳、チーズ、ヨーグルト、乳酸菌飲料を含め、摂取頻度(週1回未満、週1〜2回、週3〜6回、1日1回以上)を評価した。睡眠状況の評価には、アテネ不眠症尺度を用いた。 主な結果は以下のとおり。・ロジスティック回帰分析では、不眠症の調整オッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)は、全乳摂取が1日1回以上の場合、週1回未満と比較し、統計学的に有意に低いことが示唆された(OR:0.91、95%CI:0.86〜0.96、p=0.001)。・女性では、同様の結果が認められたが(OR:0.90、95%CI:0.85〜0.97、p=0.002)、男性では認められなかった。・対照的に、乳酸菌飲料が週3〜6回の場合、週1回未満と比較し、不眠症のORが高かった。【全体】OR:1.20、95%CI:1.11〜1.29、p<0.001【男性】OR:1.36、95%CI:1.19〜1.55、p<0.001【女性】OR:1.13、95%CI:1.03〜1.24、p=0.009 著者らは「日本人を対象としたこの横断研究では、不眠症でない人ほど全乳を頻繁に摂取する傾向が見られた」と結論付けている。

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心血管疾患リスクの予測にはBMIよりも体丸み指数が有用

 過体重が人の心臓の健康に与える影響を予測する上では、「体丸み指数(body roundness index;BRI)」の方がBMIよりも優れた指標である可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。6年にわたって継続的にBRIが高かった人では低かった人に比べて、心血管疾患(CVD)リスクが163%高いことが示されたという。南京医科大学(中国)Wuxi Center for Disease Control and PreventionのYun Qian氏らによるこの研究結果は、「Journal of the American Heart Association」に9月25日掲載された。 2013年に提唱されたBRIは、ウエスト周囲径と身長を基に算出する腹部肥満の指標で、BMIやウエスト周囲径などよりも体脂肪や内臓脂肪の割合を正確に反映すると考えられている。一方、従来から使われているBMIは体重と身長のみから算出する。そのため、筋肉量が非常に多い人では値が高くなることもあり、肥満度の指標としては不正確だとして批判されることもある。 この研究では、CHARLS(中国の健康と退職に関する長期研究)の参加者9,935人を対象に、2011年から2016年の間のBRIの推移と2017年から2020年の間のCVD発症(脳卒中、心臓イベント)との関連を調査した。参加者の平均年齢は58.85±9.09歳で、男性5,263人、女性4,672人だった。2011年から2016年の間のBRIの推移に基づき、参加者を、低いBRIを維持していた群(低BRI群)、中程度の高さのBRIを維持していた群(中BRI群)、高いBRIを維持していた群(高BRI群)の3群に分類した。 その結果、低BRI群に比べて中BRI群と高BRI群ではCVDリスクがそれぞれ61%(ハザード比1.61、95%信頼区間1.47〜1.76)と163%(同2.63、2.25〜3.07)有意に上昇することが示された。このような有意なリスク上昇は、参加者の人口統計学的属性や病歴、血圧などの健康指標等を調整した後も認められた(ハザード比は同順で、1.22〔95%信頼区間1.09〜1.37〕、1.55〔同1.26〜1.90〕)。 こうした結果を受けてQian氏は、「われわれの研究により、BRIが6年間、中程度以上のレベルであった場合、CVDリスクが上昇する可能性のあることが示された。これは、BRIの値をCVD発症の予測因子として使用できる可能性があることを示唆している」と話す。同氏はさらに、「この結果は、肥満と高血圧、高コレステロール、2型糖尿病の相関関係によって説明できる。これらは全て、CVDのリスク因子だ。肥満は、心臓や心機能に影響を及ぼす可能性のある炎症やその他のメカニズムを引き起こすことも分かっている。本研究結果がCVDの予防にどのように応用できるかを確認し、完全に理解するには、さらなる研究が必要だ」と述べている。

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歯科患者の不安を客観的に評価できる質問票

 歯科治療を受ける患者の不安や恐怖の強さを、6種類の顔のイラストから選択してもらって客観的に評価する質問票が開発された。大阪歯科大学欠損歯列補綴咬合学講座の三野卓哉氏らによる研究によるもので、詳細は「The Journal of Advanced Prosthodontics」に8月20日掲載された。開発された質問票の信頼性や妥当性の検証結果も報告されている。 歯科治療に強い不安や恐れを抱く「歯科恐怖症」の有病率は、成人の5~22%と報告されている。歯科恐怖症では歯科受診の機会が少なくなり口腔疾患が進行してしまうというリスクばかりでなく、不安や恐怖のために痛みに対する感受性がより高くなったり、歯科医師の説明の理解がおろそかになったりすることも問題となる。また、医科においては、治療に伴う不安を評価するツール(例えば状態-特性不安尺度〔STAI〕)が確立され臨床に役立てられているが、歯科の日常診療で活用できる簡便な評価ツールは存在しない。 以上を背景として三野氏らは、歯科特異的な不安と恐怖を短時間で評価可能なツールの開発を試みた。他領域で使われている既存の4種類のツール(ビジュアルアナログスケールなど)を基に質問票の草稿を作成し、パイロット研究を実施。その結果、研究参加者の全てが「容易に回答できて感情を示しやすい」と評価した、「ウォン・ベイカー顔面疼痛評価尺度」というツールを利用することとした。この評価尺度は、不安や恐怖の強さを表した6種類の顔のイラストの中から、自分に最もマッチするものを選んでもらうというもの。質問項目により、歯科特性不安(不安を抱きやすい傾向)、歯科状態不安(一過性の不安)、歯科特性恐怖、歯科状態恐怖という4項目を評価可能な質問票とした。いずれもスコアが高いほど、不安または恐怖が強いと判定する。 この質問票の精度評価のため、岡山大学病院補綴歯科の外来でスケーリング(歯石除去)を受ける47人、およびインプラント治療を受ける25人を対象として実際に利用。医科の臨床で用いられている「状態-特性不安尺度(STAI)」の評価も同時に行い、両者の関連を検討した。またスケーリング群では、最初のスケーリングから2週間後に同様の手順で評価を行い、再現性を検討した。インプラント群では、手術前の説明日と手術当日、および抜糸日の計3時点で評価を行った。 結果について、まずスケーリング群での再現性に着目すると、加重カッパ係数が0.46~0.67の範囲であり、臨床的に十分と考えられた。STAIとの関連については、多くの指標では有意な正相関が確認された(歯科状態不安および歯科状態恐怖と特性不安の関連は有意水準未満)。 インプラント群においては、歯科特性不安を除く3指標は評価した3時点間で有意差が観察され、手術前の説明日や手術当日に比べて抜糸日にはスコアが低下していた。また、スケーリング群とインプラント群との比較では、全体的に後者のスコアの方が有意に高かった(歯科特性不安のみ有意差なし)。 これらの結果から、新たに開発された質問票は、歯科診療特異的な患者の不安や恐怖の強さを、患者自身の特性と歯科治療という状況とに分けて評価できると考えられた。著者らは、「この質問票は簡便に利用でき、臨床における許容範囲内の信頼性と妥当性を有している。歯科診療の個別化に役立ち、また歯科診療に伴う不安や恐怖に関する今後の研究に応用できるのではないか」と述べている。

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医師向けマーケティングサービス

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