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非典型溶血性尿毒症症候群〔aHUS :atypical hemolytic uremic syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義非典型尿毒症症候群(atypical hemolytic uremic syndrome:aHUS)は、補体制御異常に伴い血栓性微小血管症(thrombotic microangiopathy:TMA)を呈する疾患である。TMAは、1)微小血管症性溶血性貧血、2)消費性血小板減少、3)微小血管内血小板血栓による臓器機能障害、を特徴とする病態である。■ 疫学欧州の疫学データでは、成人における発症頻度は毎年100万人に2~3人、小児では100万人に7人程度とされる。わが国での新規発症は年間100~200例程度と考えられている。わが国の遺伝子解析結果では、C3変異例の割合が高く(約30%)、欧米で多いとされるCFH遺伝子変異の割合は低い(約10%)。■ 病因病因は大きく、先天性、後天性、その他に分かれる。1)先天性aHUS遺伝子変異による補体制御因子の機能喪失あるいは補体活性化因子の機能獲得により補体第2経路が過剰に活性化されることで血管内皮細胞や血小板表面の活性化をもたらし微小血栓が産生されaHUSが発症する(表1)。機能喪失の例として、H因子(CFH)、I因子(CFI)、CD46(membrane cofactor protein:MCP)、トロンボモジュリン(THBD)の変異、機能獲得の例として補体C3、B因子(CFB)の変異が挙げられる。補体制御系ではないが、diacylglycerol kinase ε(DGKE)やプラスミノーゲン(PLG)遺伝子の変異も先天性のaHUSに含めることが多い。表1 aHUSの原因別の治療反応性と予後画像を拡大する2)後天性aHUS抗H因子抗体の出現が挙げられる。CFHの機能障害により補体第2経路が過剰に活性化する。抗H因子抗体陽性者の多くにCFHおよびCFH関連蛋白質(CFHR)1~5の遺伝子欠損が関与するとされている。3)その他現時点では原因が特定できないaHUSが40%程度存在する。■ 症状溶血性貧血、血小板減少、急性腎障害による症状を認める。具体的には血小板減少による出血斑(紫斑)などの出血症状や溶血性貧血による全身倦怠感、息切れ、高度の腎不全による浮腫、乏尿などである。発熱、精神神経症状、高血圧、心不全、消化器症状などを認めることもある。下痢があってもaHUSが否定されるわけではないことに注意を要する。aHUSの発症には多くの場合、感染症、妊娠、がん、加齢など補体の活性化につながるイベントが観察される。わが国の疫学調査でも、75%の症例で感染症を始めとする何らかの契機が確認されている。■ 予後一般に、MCP変異例は軽症で予後良好、CFHの変異例は重症で予後不良、C3変異例はその中間程度と言われている(表1)。海外データではaHUS全体における慢性腎不全に至る確率、つまり腎死亡率は約50%と報告されている。わが国の疫学データではaHUSの総死亡率は5.4%、腎死亡率は15%と比較的良好であった。特に、わが国に多いC3 p.I1157T変異例および抗CFH抗体陽性例の予後は良いとされている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ TMA分類の概念TMAの3徴候を認める患者のうち、STEC-HUS、TTP、二次性TMA(代謝異常症、感染症、薬剤性、自己免疫性疾患、悪性腫瘍、HELLP症候群、移植後などによるTMA)を除いたものを臨床的aHUSと診断する(図1)。図1 aHUS定義の概念図画像を拡大する■ 診断手順と鑑別診断フローチャート(図2)に従い鑑別診断を進めていく。図2 TMA鑑別と治療のフローチャート画像を拡大する1)TMAの診断aHUS診断におけるTMAの3徴候は、下記のとおり。(1)微小血管症性溶血性貧血:ヘモグロビン(Hb) 10g/dL未満血中 Hb値のみで判断するのではなく、血清LDHの上昇、血清ハプトグロビンの著減(多くは検出感度以下)、末梢血塗沫標本での破砕赤血球の存在をもとに微小血管症性溶血の有無を確認する。なお、破砕赤血球を検出しない場合もある。(2)血小板減少:血小板(platelets:PLT)15万/μL未満(3)急性腎障害(acute kidney injury:AKI):小児例では年齢・性別による血清クレアチニン基準値の1.5倍以上(血清クレアチニンは、日本小児腎臓病学会の基準値を用いる)。成人例では、sCrの基礎値から1.5 倍以上の上昇または尿量0.5mL/kg/時以下が6時間以上持続のいずれかを満たすものをAKIと診断する。2)TMA類似疾患との鑑別溶血性貧血を来す疾患として自己免疫性溶血性貧血(AIHA)が鑑別に挙がる。AIHAでは直接クームス試験が陽性となる。消費性血小板減少を来す疾患としては、播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation:DIC)を鑑別する。PT、APTT、FDP、Dダイマー、フィブリノーゲンなどを測定する。TMAでは原則として凝固異常はみられないが、DICでは著明な凝固系異常を呈する。また、DICは通常感染症やがんなどの基礎疾患に伴い発症する。3)STEC-HUSとの鑑別食事歴と下痢・血便の有無を問診する。STEC-HUSは、通常血液成分が多い重度の血便を伴う。超音波検査では結腸壁の著明な肥厚とエコー輝度の上昇が特徴的である。便培養検査、便中の志賀毒素直接検出検査、血清の大腸菌O157LPS抗体検査が有用である。小児では、STEC-HUSがTMA全体の約90%を占めることから、生後6ヵ月以降で、重度の血便を主体とした典型的な消化器症状を伴う症例では、最初に考える。逆に生後6ヵ月までの乳児にTMAをみた場合はaHUSを強く疑う。小児のSTEC-HUSの1%に補体関連遺伝子変異が認められると報告されている点に注意が必要である。詳細は、HUSガイドラインを参照。4)TTPとの鑑別血漿を採取し、ADAMTS13活性を測定する。10%未満であればTTPと診断できる。aHUS、STEC-HUS、二次性TMAなどでもADAMTS13活性の軽度低下を認めることがあるが、一般に20%以下にはならない。aHUSにおける臓器障害は急性腎障害(AKI)が最も多いのに対して、TTPでは精神神経症状を認めることが多い。TTPでも血尿、蛋白尿を認めることがあるが、腎不全に至る例はまれである。5)二次性TMAとの鑑別TMAを来す基礎疾患を有する二次性TMAの除外を行った患者が、臨床的にaHUSと診断される。aHUS確定診断のための遺伝子診断は時間を要するため、多くの症例で急性期には臨床的に判断する。表2に示す二次性TMAの主たる原因を記す。可能であれば、原因除去あるいは原疾患の治療を優先する。コバラミン代謝異常症は特に生後6ヵ月未満で考慮すべき病態である。生後1年以内に、哺乳不良、嘔吐、成長発育不良、活気低下、筋緊張低下、痙攣などを契機に発見される例が多いが、成人例もある。ビタミンB12、血漿ホモシスチン、血漿メチルマロン酸、尿中メチルマロン酸などを測定する。乳幼児の侵襲性肺炎球菌感染症がTMAを呈することがある。直接Coombs試験が約90%の症例で陽性を示す。肺炎球菌が産生するニューラミニダーゼによって露出するThomsen-Friedenreich (T)抗原に対する抗T-IgM抗体が血漿中に存在するため、血漿投与により病状が悪化する危険性がある。新鮮凍結血漿を用いた血漿交換療法や血漿輸注などの血漿治療は行わない。妊娠関連のTMAのうち、HELLP症候群(妊娠高血圧症に合併する溶血性貧血、肝障害、血小板減少)や子癇(妊娠中の高血圧症と痙攣)は分娩により速やかに軽快する。妊娠関連TMAは常位胎盤早期剥離に伴うDICとの鑑別も重要である。TTPは妊娠中の発症が多く,aHUSは分娩後の発症が多い。腎移植後に発症するTMAは、原疾患がaHUSで腎不全に陥った症例におけるaHUSの再発、腎移植後に新規で発症したaHUS、臓器移植に伴う急性抗体関連型拒絶反応が疑われる。aHUSが疑われる腎不全患者に腎移植を検討する場合は、あらかじめ遺伝子検査を行っておく。表2 二次性TMAの主たる原因a)妊娠関連TMAHELLP症候群子癪先天性または後天性TTPb)薬剤関連TMA抗血小板剤(チクロビジン、クロピドグレルなど)カルシニューリンインヒビターmTOR阻害剤抗悪性腫瘍剤(マイトマイシン、ゲムシタビンなど)経口避妊薬キニンc)移植後TMA固形臓器移植同種骨髄幹細胞移植d)その他コパラミン代謝異常症手術・外傷感染症(肺炎球菌、百日咳、インフルエンザ、HIV、水痘など)肺高血圧症悪性高血圧進行がん播種性血管内凝固症候群自己免疫疾患(SLE、抗リン脂質抗体症候群、強皮症、血管炎など)(芦田明ほか.日本アフェレシス学会雑誌.2015;34:40-47.より引用・改変)6)家族歴の聴取家族にTMA(aHUSやTTP)と診断された者や原因不明の腎不全を呈した者がいる場合、aHUSを疑う。ただし、aHUS原因遺伝子変異があっても発症するのは全体で50%程度とされている。よって家族性に遺伝子変異があっても家族歴がはっきりしない例も多い。さらに孤発例も存在する。7)治療反応性による診断の再検討aHUSは 75%の症例で感染症など何らかの疾患を契機に発症する。二次性TMAの原因となる疾患がaHUSを惹起することもある。実臨床においては二次性TMAとaHUSの鑑別はしばしば困難である。2次性TMAと考えられていた症例の中で、遺伝子検査によりaHUSと診断が変更されることは少なくない。いったんaHUSあるいは二次性TMAと診断しても、治療反応性や臨床経過により診断を再検討することが肝要である(図2)。■ 検査1)一般検査血算、破砕赤血球の有無、LDH、ハプログロビン、血清クレアチニン、各種凝固系検査でTMAを診断する。ADAMTS13-活性検査は保険適用となっている。STEC-HUSの鑑別を要する場合は便培養、便中志賀毒素検査、血清大腸菌O157LPS抗体検査を行う。一般の補体検査としてC3、C4を測定する。C3低値、C4正常は補体第2経路の活性化を示唆するが、aHUS全体の50%程度でしか認められない。2)補体関連特殊検査現在、全国aHUSレジストリー研究において、次に記す検査を実施している。ヒツジ赤血球を用いた溶血試験CFH遺伝子異常、抗CFH抗体陽性例において高頻度に陽性となる。比較的短期間で結果が得られる。診断のフローとしては、臨床的にaHUSが疑ったら溶血試験を実施する(図2)。抗CFH抗体検査:ELISA法にてCFH抗体を測定する。抗CFH抗体出現には、CFHおよびCFH関連蛋白質(CFHR)1~5の遺伝子欠損が関与するとされているため、遺伝子検査も並行して実施する。CFHR 領域は、多彩な遺伝子異常が報告されているが、相同性が高いことから遺伝子検査が困難な領域である。その他aHUSレジストリー研究では、血中のB因子活性化産物、可溶性C5b-9をはじめとする補体関連分子を測定しているが、その診断的意義は現時点で明確ではない。*問い合わせ先を下に記す。aHUSレジストリー事務局(名古屋大学 腎臓内科:ahus-office@med.nagoya-u.ac.jp)まで■ 遺伝子診断2020年4月からaHUSの診断のための補体関連因子の遺伝子検査が保険適用となった。既知の遺伝子として知られているC3、CFB、CFH、CFI、MCP(CD46)、THBD、diacylglycerol kinase ε(DGKE)を検査する。臨床的にaHUSと診断された患者の約60%にこれらの遺伝子変異を認める。さらに詳細な遺伝子解析についての相談は、上記のaHUSレジストリー事務局で受け付けている。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)aHUSが疑われる患者は、血漿交換治療や血液透析が可能な専門施設に転送して治療を行う。TMA を呈し、STEC-HUS や血漿治療を行わない侵襲性肺炎球菌感染症などが否定的である場合には、速やかに血漿交換治療を開始する。輸液療法・輸血・血圧管理・急性腎障害に対する支持療法や血液透析など総合的な全身管理も重要である。1)血漿交換・血漿輸注血漿療法は1970年代後半から導入され、aHUS患者の死亡率は50%から25%にまで低下した。血漿交換を行う場合は3日間連日で施行し、その後は反応を見ながら徐々に間隔を開けていく。血漿交換を行うことが難しい身体の小さい患児では血漿輸注が施行されることもある。血漿輸注や血漿交換により、aHUS の約70%が血液学的寛解に至る。しかし、長期的には TMA の再発、腎不全の進行、死亡のリスクは依然として高い。血漿交換が無効である場合には、aHUSではなく二次性TMAの可能性も考える。2)エクリズマブ(抗補体C5ヒト化モノクローナル抗体、商品名:ソリリス)成人では、STEC-HUS、TTP、二次性 TMA 鑑別の検査を行いつつ、わが国では同時に溶血試験を行う。溶血試験陽性あるいは臨床的にaHUSと診断されたら、エクリズマブの投与を検討する。小児においては、成人と比較して二次性 TMA の割合が低く、血漿交換や血漿輸注のためのカテーテル挿入による合併症が多いことなどから、臨床的にaHUS と診断された時点で早期にエクリズマブ投与の開始を検討する。aHUSであれば1週間以内、遅くとも4週間までには治療効果が見られることが多い。効果がみられない場合は、二次性TMAである可能性を考え、診断を再検討する(図2)。遺伝子検査の結果、比較的軽症とされるMCP変異あるいはC3 p.I1157T変異では、エクリズマブの中止が検討される。予後不良とされるCFH変異では、エクリズマブは継続投与される。※エクリズマブ使用時の注意エクリズマブ使用時には髄膜炎菌感染症対策が必須である。莢膜多糖体を形成する細菌の殺菌には補体活性化が重要であり、エクリズマブ使用下での髄膜炎菌感染症による死亡例も報告されている。そのため、緊急投与時を除きエクリズマブ投与開始2週間前までに髄膜炎菌ワクチンの接種が推奨される。髄膜炎菌ワクチン接種、抗菌薬予防投与ともに髄膜炎菌感染症の全症例を予防することはできないことに留意すべきである。具体的なワクチン接種や抗菌薬による予防および治療法については、日本腎臓学会の「ソリリス使用時の注意・対応事項」を参照されたい。3)免疫抑制治療抗CFH抗体陽性例に対しては、血漿治療と免疫抑制薬・ステロイドを併用する。臓器障害を伴ったaHUSの場合にはエクリズマブの使用も考慮される。抗CFH抗体価が低下したら、エクリズマブの中止を検討する。4 今後の展望■ aHUSの診断2020年4月からaHUSの遺伝子解析が保険収載された。aHUSの診断にとっては大きな進展である。しかし、aHUSの診断・治療・臨床経過には依然不明な点が多い。aHUSレジストリー研究の成果がaHUS診療の向上につながることが期待される。■ 新規治療薬アレクシオンファーマ合同会社は、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH) の治療薬として、長時間作用型抗補体(C5)モノクローナル抗体製剤ラブリズマブ(商品名:ユルトミリス)を上市した。エクリズマブは2週間間隔の投与が必要であるが、ラブリズマブは8週間隔投与で維持可能である。今後、aHUSへも適応が広がる見込みである。中外製薬株式会社は抗C5リサイクリング抗体SKY59の開発を進めている。現在のところ対象疾患はPNHとなっている。5 主たる診療科腎臓内科、小児科、血液内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)診療ガイド 2015(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 非典型溶血性尿毒症症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)aHUSレジストリー事務局ホームページ(名古屋大学腎臓内科ホームページ)(医療従事者向けのまとまった情報)1)Fujisawa M, et al. Clin and Experimental Nephrology. 2018;22:1088–1099.2)Goodship TH, et al. Kidney Int. 2017;91:539.3)Aigner C, et al. Clin Kidney J. 2019;12:333.4)Lee H,et al. Korean J Intern Med. 2020;35:25-40.5)Kato H, et al. Clin Exp Nephrol. 2016;20:536-543.公開履歴初回2020年04月14日

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「多職種と連携する会議」とは?調剤報酬改定の疑義解釈が発出【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第45回

4月1日から施行された2020年度診療報酬改定の疑義解釈についての事務連絡が、前日の3月31日に厚生労働省より発出されました。医科、歯科なども含めて全88ページと膨大な量ですが、その中で調剤報酬に関わる内容は81ページ目からの4ページ分です。その中で、いくつか気になったものがあるのでピックアップしてご紹介します。まずは、地域支援体制加算についてです。問 地域支援体制加算の施設基準における「地域の多職種と連携する会議」とは、どのような会議が該当するのか。答 次のような会議が該当する。ア.市町村又は地域包括支援センターが主催する地域ケア会議イ.介護支援専門員が主催するサービス担当者会議ウ.地域の多職種が参加する退院時カンファレンス地域支援体制加算は2018年度の改定で新設され、2020年度改定で35点から38点に引き上げられました。5つある要件のうち4つを満たす必要がありますが、その1つとして「薬剤師研修認定制度などの研修を修了した薬剤師が地域の多職種と連携する会議に1回以上出席」という要件が追加されました。この「地域の多職種と連携する会議」とはなんぞや?ということなのですが、この疑義解釈によると、(ア)市町村または地域包括支援センターが主催する地域ケア会議、(イ)介護支援専門員が主催するサービス担当者会議、(ウ)地域の多職種が参加する退院時カンファレンスの3つが該当すると挙げられました。退院時カンファレンスに薬局が加わることを求められているのは、その地域における患者さんの受け皿としての機能を発揮することが期待されているからです。これから入院する患者さんがいる場合には、ぜひ退院時のカンファレンスへ参加できるように病院などに働きかけ、退院後のフォローにつなげてほしいと思います。また、別の項目で、「薬剤師研修認定制度などの研修を修了した薬剤師」の定義についても問われていますが、常勤薬剤師ではなく非常勤薬剤師の参加でも算定可能とされています。ただし、いくつかの薬局でアルバイトしているような非常勤薬剤師の場合は、実績として認められるのはそのうちの1つの薬局でのみということに注意が必要です。また、薬剤服用歴管理指導料のおくすり手帳の扱いについて、以下の2つの疑義解釈が出されています。問 患者が日常的に利用する保険薬局の名称等の手帳への記載について、患者又はその家族等が記載する必要があるか。答 原則として、患者本人又はその家族等が記載すること。問 手帳における患者が日常的に利用する保険薬局の名称等を記載する欄について、当該記載欄をシールの貼付により取り繕うことは認められるか。答 認められる。「薬局の名称の記載? なんのことだっけ?」と思った方もいらっしゃるかもしれません。調剤報酬上では手帳について以下のように定義されています。「手帳」とは、経時的に薬剤の記録が記入でき、かつ次のアからウまでに掲げる事項を記録する欄がある薬剤の記録用の手帳をいう。ア.患者の氏名、生年月日、連絡先等患者に関する記録イ.患者のアレルギー歴、副作用歴等薬物療法の基礎となる記録ウ.患者の主な既往歴等疾患に関する記録手帳の当該欄については、保険薬局において適切に記載されていることを確認するとともに、記載されていない場合には、患者に聴取の上記入するか、患者本人による記入を指導するなどして、手帳が有効に活用されるよう努める。なお、手帳に初めて記載する保険薬局の場合には、保険薬局の名称、保険薬局又は保険薬剤師の連絡先等を記載すること。おくすり手帳には、上記のア~ウおよび保険薬局の名称や連絡先が記載されるべきですが、今回の疑義解釈によって、薬局情報についても原則として患者さん本人またはご家族などが記載することとされました。とはいえ、薬局の名称や連絡先を患者さんが手書きで記載することはなかなか現実的には難しいと思います。そこで、薬局情報が記載されたシールを薬局が提供してもよいとされました。個人的には、「シールの貼付により取り繕う」という表現がツボだったのですが、あくまでも原則は患者さんの手書きであってシールは代替手段なんだぞ、というメッセージがにじみ出ているように思います。4月から新卒の薬剤師さんが入社した薬局も多いと思います。報酬改定や薬機法改正など変化が大きい年ですので、新人さんから聞かれたときにビシッと答えられるように参考にしていただければ幸いです。

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閣議決定を機に見直されたCOVID-19対策の特例【赤羽根弁護士の「薬剤師的に気になった法律問題」】第18回

新型コロナウイルスの感染が世界的に拡大しており、皆さんにもいろいろな影響が出ていると思われます。そのような中、新型コロナウイルスの感染拡大を防止する観点から、オンラインなどによる診療、服薬指導などに関する通知が発出され、それに基づく運用がされてきました。・参考:厚生労働省医政局医事課 厚生労働省医薬・生活衛生局総務課 事務連絡「新型コロナウイルス感染症患者の増加に際しての電話や情報通信機器を用いた診療や処方箋の取扱いについて」令和2年2月28日「新型コロナウイルスの感染拡大防止策としての電話や情報通信機器を用いた診療等の臨時的・特例的な取扱いについて」令和2年3月19日しかし、「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」(令和2年4月7日閣議決定)において、非常時の対応として、オンライン・電話による診療、服薬指導が活用されるよう制度を見直し、できる限り早期に実施することとされ、令和2年4月10日に新たな通知が発出されました。本通知の発出に伴い、これまで出されていた前記の通知は廃止となっていますので、今後は本通知に従う必要があります。・厚生労働省医政局医事課 厚生労働省医薬・生活衛生局総務課 事務連絡「新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いについて」令和2年4月10日処方箋の備考欄に「0410対応」と記載本通知では、初診の場合もオンラインなどでの診療が可能とされており、これまで以上にオンラインなどでの診療が利用される可能性があります。薬剤については、医療機関を受診した患者が電話やオンラインでの服薬指導を希望する場合には、医療機関から患者が希望する薬局に処方箋情報をファクシミリなどで送付します。この際、医療機関においては送付先の薬局をカルテに記録し、処方箋の備考欄に「0410対応」と記載した上で処方箋原本を薬局に送付することとなります。薬局においては、先の通知と同様に、処方箋の原本ではなく、ファクシミリなどによる処方箋情報に基づいての調剤が例外的に可能となり、可能な時期に医療機関から処方箋原本を入手し、このファクシミリなどによる処方箋情報とともに保管することとされています。また、「薬剤師が、患者、服薬状況等に関する情報を得た上で、電話や情報通信機器を用いて服薬指導等を適切に行うことが可能と判断した場合には、当該電話や情報通信機器を用いた服薬指導等を行って差し支えないこととする」(本通知5ページ)とされており、この情報の例として以下が挙げられています。(1)患者のかかりつけ薬剤師・薬局として有している情報(2)当該薬局で過去に服薬指導等を行った際の情報(3)患者が保有するお薬手帳に基づく情報(4)患者の同意の下で、患者が利用した他の薬局から情報提供を受けて得られる情報(5)処方箋を発行した医師の診療情報(6)患者から電話等を通じて聴取した情報注射薬や吸入薬など、手技が必要な薬剤については、患者の理解に応じてオンラインなどでの服薬指導が可能か判断することとされ、オンラインなどでの服薬指導が困難と判断して対面での指導を促すことは、応需義務(薬剤師法21条)には反しないとされています。その他、実施の際の留意点として、オンラインなどでの服薬指導について十分に説明し記録することや、事前に薬剤情報提供文書などをファクシミリなどにより送付してから服薬指導を行うこと、薬剤の到着時に再度服薬指導をすることなどを、必要に応じて行うこととされています。なりすまし防止対策や、薬剤の配送、服薬指導などで使用する機器・薬剤の配送方法などを周知するなどの留意点にも言及されていますので、本通知に目を通し、内容に沿った運用をすることが求められます。なお、オンライン服薬指導などを行う場合であっても、対面での服薬指導が必要になる場合があることなどから、本通知に基づく取り扱いは、かかりつけ薬剤師・薬局や、当該患者の居住地域内にある薬局により行われることが望ましいとされています。また、今回の特例における調剤報酬については、通常の場合と同様に算定可能とされており、本通知においても同様となるようです。・参考:厚生労働省保険局医療課 事務連絡「新型コロナウイルス感染症に係る診療報酬上の臨時的な取扱いについて(その2)」令和2年2月28日「新型コロナウイルス感染症に係る診療報酬上の臨時的な取扱いについて(その10)」令和2年4月10日改正薬機法と特例措置本年9月1日には、一部オンライン服薬指導を認める改正薬機法が施行されますが、それを待たずに、現況を鑑み上記のような対応が認められています。また、本通知では、初めて調剤した薬剤でない場合であっても、必要に応じて「ウ 薬剤交付後の服用期間中に、電話等を用いて服薬状況の把握や副作用の確認などを実施する」、「エ 上記で得られた患者の服薬状況等の必要な情報を処方した医師にフィードバックする」とされており、改正薬機法によって義務付けられる服用期間中のフォローや努力義務となる医師などへの情報提供のような内容が要求されています。今回は特例として、このような措置が認められていますが、改正薬機法の施行を意識して運用を検討することも引き続き考えるべきでしょう。オンライン服薬指導に関する薬機法施行規則の改正についても先日公布されていますので、目を通しておきましょう。・参考:厚生労働省令第五十二号 令和2年3月27日「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則等の一部を改正する省令」

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第35回 CKDは水分摂取量を増やすほど腎機能低下が抑制されるわけではない【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 水分管理は、慢性腎臓病(CKD)患者の重要な治療の1つです。腎臓が血中の老廃物をろ過し、尿として排泄するためには水分が必要ですので、水分をしっかり摂取するように、と説明する機会は多いと思います。脱水は腎障害の原因となるため避けなければなりませんが、それ以上の水分摂取はCKD患者の腎機能維持にどの程度寄与しているのでしょうか。まず、CKD患者の飲水励行が腎機能に与える影響については、米国国立健康統計センターのNHANESデータの分析調査があります1)。NHANESは、National Health and Nutrition Examination Survey(米国国民健康栄養調査)の略で、米国疾病予防管理センター(CDC)下の国立健康統計センターにより継続的に実施されていて、その知見はCDCのホームページに掲載されています2)。今回紹介するのは、2005~06年のデータでの横断分析で、利尿薬を服用していないeGFR≧30mL/min/1.73m2の成人を対象として、食品および飲料からの総水分摂取量を、少量(<2.0L/日)、中量(2.0~4.3L/日)、多量(>4.3L/日)に分類し、総水分摂取量とCKD(eGFR 30~60mL/min/1.73m2)、自己申告による心血管疾患(CVD)の関連を調べたものです。その結果、3,427例(平均年齢46歳、平均eGFR 95mL/min/1.73m2)のうち、13%がCKDで、18%がCVDでした。CKDの割合は総水分摂取量が少ない群では、多い群よりも高く(調整オッズ比:2.52、95%信頼区間[CI]:0.91~6.96)、通常の飲料水とその他の飲料の摂取量で層別化すると、CKDは水道水やミネラルウォーターなどの飲料水の少量摂取と相関していました(調整オッズ比:2.36、95%CI:1.10~5.06)。一方で、ほかの飲料では調整済みオッズ比0.87(95%CI:0.30~2.50)と相関なしです。また、水分の少量摂取とCVDについても、調整オッズ比0.76(95%CI:0.37~1.59)と相関なしです。論文中の表からは、CKDの有病率は水分摂取量が少ない群で最も高く、摂取量の増加に伴って減少する傾向が読み取れます。まとめると、利尿薬を服用していないeGFR≧30mL/min/1.73m2のCKD患者では、水道水やミネラルウォーターなどの飲水量が多いほど腎保護効果がありそうですが、CVDでは関係が見いだされないという結果でした。横断調査のため、因果関係を判断しづらい面もありますが、日常的な疑問に対して重要な示唆が得られる内容です。通常より水分摂取を増やしても1年後の腎機能低下に寄与なしランダム化比較試験ではどうかというと、CKD患者により多くの水を飲むように勧めることにより、腎機能の低下を1年間にわたって抑制できるか検証した研究があります3)。対象はカナダのオンタリオ州の9施設で、2013年4月~2017年5月25日の間にフォローされたCKDステージ3かつ尿量が3L/日未満の患者631例という大規模な研究です。患者の平均年齢は65歳、平均eGFRは43mL/min/1.73m2、平均尿中アルブミンは123mg/日でした。イメージとしては、おおむね正常な腎臓の1/3~2/3程度の機能で、むくみや尿量変化、疲れやすさなど症状が軽度であっても存在し、カリウム制限も始めているくらいだと思います。介入群316例には通常の飲水量に加え、性別や体重に応じて1~1.5L/日以上の増量を勧め、対照群315例には通常の飲水量を維持するように説明がなされました。両群の患者像のベースラインは似通っており、おおむね平等な比較だと思います。主要評価項目は12ヵ月後までのeGFRの変化で、二次評価項目として12ヵ月後の血清コペプチン濃度の変化などがみられています。その結果、24時間尿量は、介入群で0.6L(95%CI:0.5~0.7)有意に増え、eGFRの変化は介入群-2.2mL/min/1.73m2、対照群-1.9mL/min/1.73m2で、CKDステージ3の患者が水分摂取量を増やしても1年後の腎機能低下の度合いを遅らせることはできないという結果でした。血清コペプチンが有意に減っているため、抗利尿ホルモンの放出は有意に抑制されたとみることができます。CKDステージ3クラスなら、おおむね1~1.5L/日の水分摂取ができていれば、それ以上の水分摂取増量を勧めるよりも、ほかのオプションを患者さんと相談できるとよいのかなと思います。1)Sontrop JM, et al. Am J Nephrol. 2013;37:434-442. 2)CDC National Health and Nutrition Examination Survey 3)Clark WF, et al. JAMA. 2018;319:1870-1879.

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新型コロナショックで株暴落!投資家はどう立ち向かうべき?【医師のためのお金の話】第31回

こんにちは。自由気ままな整形外科医です。新型コロナウイルス感染症に端を発した2020年2月24日の株価下落はその後も続き、歴史的な暴落となりました。百年に一度といわれた2008年のリーマンショックを上回るペースで株価下落が進行したため、肝を冷やした方も多かったのではないでしょうか?今回の暴落に際して、嵐が過ぎ去るまで静観する人、恐怖に駆られて所有株式を売却した人、絶好の買い場と判断して暴落に買い向かった人など、いろいろな投資判断がありました。私は自他共に認める「超長期逆張り投資家」なので、今回の暴落に対して買い向かっていきました。2008年のリーマンショック以来の本格的な投資だったので、まさに12年ぶりの大勝負です。短期的に順張り戦略で利益を出すのは易しいが…株式投資で利益を得るためには投資戦略が重要です。一般的に人気なのは、上昇相場に乗って投資する順張り戦略でしょう。順張り投資は精神的な負担が少なく、利益も簡単に出せる場合が多いので、多くの人が選ぶ戦略です。順張り投資は、相場が上り調子だと面白いように利益を得られます。あまりに勝ち過ぎて「自分は投資の天才なのではないか?」と勘違いしてしまうこともしばしばです(笑)。しかし、順張り投資の最大の問題点は、いつ相場から降りるかが難しい点です。相場が永遠に上昇し続けることはありません。必ず、どこかの時点で上昇から下落に転じるポイントがあります。後から見れば相場の転換点を見つけることは簡単ですが、市場にどっぷりつかっている時にはそれを知ることはきわめて難しいのです。ちょっと下落しても「再び上がるのでは?」と思ってずるずると損失を出し続け、やがて身動きが取れなくなってしまうのです。上昇相場で積み上げた利益をすべて吐き出し、失意のうちに株式市場から退出する人の何と多いことでしょう。個人投資家のほとんどはこのパターンを経験しているのではないでしょうか。暴落に買い向かうことは並大抵のことではない!一方で、逆張り戦略はどうでしょうか。実際に暴落の中に身を投じてみると、簡単に実践できることではないことを、身をもって経験します。下落が数日であれば、精神的にも投資資金的にも余裕があるため、買い向かうことは比較的簡単です。しかし、下落が数週間から数ヵ月続くと、精神的に追い詰められます。同時に投資資金も枯渇するため、非常に厳しい状況に追い込まれます。数ある投資戦略の中でも、暴落に買い向かっていく逆張り戦略は、精神的に最も負担のかかるものといえます。しかも、逆張り戦略の場合は市場が反転しない限り、利益を得ることができません。このため、投資してから利益を得るまでの期間が長くなる傾向があります。それでは、なぜ私が精神的な負担があり、投資成果を得るまで時間のかかる逆張り戦略を選ぶのでしょうか? それは、計画的に買い向かった場合に、利益を得ることができる確率が高いからです。その理由はとても単純で、暴落して二束三文で投げ売りされている株式を購入しているから、です。暴落局面で買い向かっていると安価な株式を大量に購入することになるため、一旦相場が上昇しはじめれば、利益は雪だるま式に増えていきます。この相場が反転して利益が増えはじめる時の感覚を一度経験すると、すっかり病みつきになって逆張り戦略のファンになってしまいます。逆張り投資を成功に導く2つのポイントこう説明すると、逆張り投資は素晴らしいので自分もやってみよう、と思う方がいるでしょう。しかし、そうは問屋が卸しません(笑)。繰り返しになりますが、暴落に買い向かっていく精神的負担が並大抵ではないことと、資金管理が難しいため途中で挫折してしまうことが多いからです。暴落の途中で挫折して損切りしてしまっては戦略が台無しで、目も当てられません。途中の挫折を完全に回避することは難しいでしょうが、ここでは2つのポイントを伝授します。1つ目は、買い向かう投資対象を、倒産可能性がきわめて低い銘柄にすることです。私はJ-REITや電力株を好んでいますが、TOPIXや日経225の指数ETFでも問題ないでしょう。絶対に破綻しないと信じることができれば、暴落に買い向かう際の大きな力になります。2つ目は、ユニット数(株数)を増やすことに注力することです。買い向かっていると含み損がどんどん大きくなるため鬱になります。しかし、投資の目的は「価値のある株式」をたくさん所有することです。暴落しているからといって、いきなり株式の本質的価値が下がるわけではありません。あくまでも表面上の価格が下がっているだけなので、安く仕入れる絶好の機会だ、と心の底から思えればしめたものです。とはいえ、私も完全にその境地に達しているわけではありません。このギャップを埋めるための追加ポイントとして、J-REITや電力株などの高配当株を選択しています。つまり、「自分は配当を得る権利をたくさん買っているんだ」と思うことで、心が折れそうになったときでも頑張って買い向かうための原動力にするのです。

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第18回 非薬剤師は調剤室に入っていい?だめ?【噂の狭研ラヂオ】

動画解説非薬剤師は調剤室に入っていいのかという議論があります。しかし実際にはそれは些末な問題であり、自分の仕事を渡したくないという不安が起因しているのかもしれません。弁護士 赤羽根秀宜先生の「法律には趣旨がある」という言葉の通り、薬剤師法の本質を考えれば、薬剤師のやるべきこと、非薬剤師にやってもらうことが、自ずと見えてくるはずです。

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COVID-19重症患者に対する人工呼吸管理に関する注意点/日本集中治療医学会

 4月6日、日本集中治療医学会が『COVID-19重症患者に対する人工呼吸管理に関する注意点』を発出。集中治療医学会ならびに日本呼吸療法医学会では、COVID-19重症患者に対する人工呼吸管理が増加している現状を踏まえ、日常的に重症呼吸不全の呼吸管理を行っていない施設やグラフィクモニターが搭載されない人工呼吸器を使用せざるを得ない場合に呼吸管理が行われる場合を想定し、海外の情報と本邦における経験に基づき、COVID-19患者の特徴に合わせた人工呼吸療法の対策を総括した。 ※ガイドラインなどのようにエビデンスレベルを検討して作成したものではない。 概要は以下のとおり。1. COVID重症患者の特徴 a)呼吸困難感出現から数時間で重症化する場合がある b)放射線画像と肺酸素化能はしばしば乖離する c)病態として中等度から重度のARDSを呈する d)死腔換気の増加により分時換気量が大きい(10~14L/分) e)呼気が延長しCO2排出に難渋する症例がある f)吸気努力が亢進している(とくに人工呼吸開始早期) g)鎮静薬に対し抵抗性を示す症例がある h)経過中喀痰分泌物が増加し気道閉塞をきたす症例がある2. 上記特徴を踏まえた対策 a)~h)の8項目3. 2.のc)~f)の対策で換気が維持できない場合 c)~f)の4項目 人工呼吸療法に行き詰まったときやECMOを考慮する場合は「日本COVID-19対策ECMO-net」のコールセンターが利用できる。(参考)ECMO相談窓口の開設について4.その他の留意点 一般に人工呼吸管理ではガス交換を維持することだけでなく、人工呼吸に関連する合併症を防止することが重要である。症例によっては、ガス交換がある程度改善すれば合併症回避を優先することも必要となる。重症患者の人工呼吸に慣れないスタッフが接触を減らすためにいたずらに深鎮静による無動化を継続すると、人工呼吸器関連合併症を起こし生命予後を悪化させる。また、積極的な早期経腸栄養開始や、カテーテル関連血流感染防止などにも留意する。肺以外の臓器障害がある場合は、治療方針につき専門医に相談することを推奨する。

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自然なインスリン分泌に近い超速効型インスリン「フィアスプ注フレックスタッチ/ペンフィル/100単位/mL」【下平博士のDIノート】第46回

自然なインスリン分泌に近い超速効型インスリン「フィアスプ注フレックスタッチ/ペンフィル/100単位/mL」今回は、超速効型インスリンアナログ製剤「インスリン アスパルト(商品名:フィアスプ注、製造販売元:ノボ ノルディスク ファーマ)」を紹介します。本剤は、投与後初期のインスリン吸収を早めて自然な食事時のインスリン分泌パターンに近付けることで、良好な血糖コントロールを得られることが期待されています。<効能・効果>本剤はインスリン療法が適応となる糖尿病の適応で、2019年9月20日に承認され、2020年2月7日より販売されています。<用法・用量>通常、成人では、初期は1回2~20単位を毎食事開始時(食事開始前2分以内)に皮下投与します。必要な場合は食事開始後20分以内の投与とすることもできます。投与量は、患者の症状および検査所見に応じて適宜増減しますが、持続型インスリン製剤の投与量を含めた維持量は通常1日4~100単位です。小児も同様の方法で投与し、投与量は患者の状態により個別に決定しますが、持続型インスリン製剤の投与量を含めた維持量は通常1日0.5~1.5単位/kgです。<安全性>成人および小児1型糖尿病患者を対象とした第III相試験(4131試験、4101試験、3854試験)において、安全性評価対象症例1,438例中177例(12.3%)に239件の臨床検査値異常を含む副作用が認められました。主な副作用は、低血糖24例(1.7%)、注入部位反応9例(0.6%)、注射部位反応4例(0.3%)、糖尿病網膜症7例(0.5%)、脂肪肥大症7例(0.5%)でした。<患者さんへの指導例>1.本剤は、食後の自然なインスリン分泌パターンに近付ける作用により、食後血糖値の上昇を抑えて血糖コントロールを改善します。2.通常は、食事開始前2分以内に注射してください。食事開始時に注射できなかった場合、あるいは食事前に食べる量がわからなかった場合は、食事開始から20分以内に注射してください。3.血糖降下作用の発現が速いため、ほかの超速効型インスリンに比べて低血糖になりやすい可能性があります。冷や汗が出る、血の気が引く、手足の震えなど、低血糖が考えられる症状が発現した場合は、速やかに砂糖かブドウ糖が含まれる飲食物を摂取してください。<Shimo's eyes>基礎・追加インスリン療法(Basal-Bolus療法)とは、1日1~2回の持効型の基礎インスリンと、1日3回食事前に速効型または超速効型の追加インスリンを皮下投与する方法です。健康な人に近いインスリン分泌パターンを再現するため、厳格な血糖コントロールを行うことができると考えられています。既存の超速効型製剤には、本剤と同成分であるインスリン アスパルト(商品名:ノボラピッド)のほか、インスリン リスプロ(同:ヒューマログ)、インスリン グルリジン(同:アピドラ)があります。本剤は、生理的な食事時のインスリン分泌パターンにより近付けるために、ニコチン酸アミドを添加剤として配合し、投与後初期の吸収がより速くなるよう設計されました。血糖降下作用がこれまでの薬剤よりも速やかに発現するため、適切でないタイミングで注射すると低血糖を生じる可能性があります。低血糖を回避するため、薬剤師は今まで以上に患者さんの投与状況について確認・把握することが求められます。参考1)PMDA フィアスプ注フレックスタッチ/フィアスプ注ペンフィル2)PMDA フィアスプ注100単位/mL

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組織でCOVID-19危機に対応するドイツ【空手家心臓外科医、ドイツ武者修行の旅】第7回

かかりつけ医が主役のドイツの体制ドイツでコロナ騒ぎが収まる気配がありません。3月27日現在、ドイツの患者数はうなぎ登りですが、それでも致死率は0.5%前後で食い止められています(図)。イタリア・スペインなどの近隣国と比較し、なぜドイツの医療はうまくいっているのか?最近は日本の知人から聞かれることがしばしばあります。「ドイツは検査をたくさんやっているらしいけど、それがうまくいっているの?」が最も聞かれる質問なのですが…。確かにドイツではひたすらPCR検査を行なっています。早期に感染者を特定していることが功を奏している、と言うのが政府の見解です。ただ、以前このコーナーで書かせてもらったことがあるのですが、ドイツはかかりつけ医制度が確立されています。患者は診察をかかりつけ医の下で受診して、検査のためだけに病院へ行くわけです(数週間前から近所の大学病院ではドライブスルー検査をやっています)。その後、検査結果と全身状態を踏まえた上でかかりつけ医が治療方針を決定します。必要な場合の入院指示も、かかりつけ医が行います。初診を診ることがないために病院に負担がかかりにくいシステムになっています。これはドイツの医療システムに合わせてやっていることなので、一言で「これが正解」と言えるわけではないと思いますが…。図 ドイツでの感染状況私が住む地域はドイツの北東部になり、色は薄目です。ドイツは西部と南部に感染者が多く、現地の友人の話を聞くと、病院はかなり大変な状況です。先頭に立つロベルト・コッホ研究所そもそもドイツも先行きはまだまだわからないし、これから急激に致死率が悪化する可能性も十分にあると思っています。患者数の増加が予想以上に速いので、「イタリアの二の舞になる」と危惧する専門家も多いです。良し悪しは別として、この緊急事態におけるドイツの対応について自分が感じたことを書いてみます。ドイツには、世界に誇るロベルト・コッホ研究所(RKI)と言う感染症研究機関があります。RKIがドイツ国内の各病院で使用すべき感染症対策マニュアルなどを作成し、RKIの決定にしたがって政治家が感染対策の方針を決めるようになっています。私が住んでいるのはドイツの最も田舎の地域で、感染者数はまだかなり少ない状態です。そんな田舎でも、徐々に緊張感が高まってきていることを感じます。3月22日にはドイツ全土で接触制限措置がとられ、レストランも閉鎖されました。パーティなど開けば、警察に取り締まられて罰則が科せられます。ただ家族での散歩は「必要なこと」と認定されていますので、公園周辺では変わらず散歩やランニングする人の姿が見られます。もちろん暗黙の了解で、すれ違うときはお互いにかなりの距離をとるようになっています。地域が1つの医療機関に私の所属する病院は循環器と糖尿病の専門病院なのですが、行政からの指示の下に手術を制限して、1つの病棟を丸々空けることになりました。当院はグライフスヴァルト大学を中心とした医療圏にあって、グライフスヴァルト大学の後方支援の形式で病棟を空けて待っている状態です。その他の近隣の施設の情報も飛び交っています。「〇〇病院は週明けにイタリアからの重症患者を引き受けるらしくて、ICUの空きがほとんどないみたい」とか、「大学病院で手術が回せないから、呼吸器外科の先生がウチで手術することになった。今から肺がんの患者来るから、入院枠取っておいてね」とか。地域の病院全体が1つの施設のように機能しています。病棟を空ける、そのために手術件数を減らす、と言う話をする際に、部長は「行政からの指示で」と言っていました。これも以前書かせてもらったのですが、ドイツでは診療所の数も行政によって定められていて、原則的に新しく開業することはできません。診療科としての心臓外科の数も、日本が600以上あるのに対し、ドイツではわずかに82、それも人口の分布に応じてうまく分散されています。もちろん新しい心臓外科を新設することもできません。つまりドイツの医療は、行政の強いコントロール下にあると言えます(一方で、行政が医師を抑圧しすぎないために医師会や医師の労働組合を通じて、医師は行政と闘うことができるわけなのですが…)。今回も行政がそれぞれの病院に役割を分担させることで、地域の医療資源が最大限に生かせるように工夫していることが感じられます。個人頼りになるのではなく、システムで闘おうとするのは、いかにもドイツらしいな、と感じます。3月18日に、メルケル首相がドイツ国民に対して理解と協力を求める演説を行いました。ゆっくりと、丁寧で、はっきりしたドイツ語で。それは、不安を煽るわけでもなく、ただ今すべきことを伝える内容でした。なぜそうしなければならないのか、メッセージはとてもシンプルで力強いものでした。この演説を聞いて、不安が和らいだ人は大勢いると思います。政治家ってすごいなーと感じました。強いリーダーの下、ドイツも何とか現状を乗り切ろうと頑張っています。日本も大変な状況だと思いますが、お互い頑張っていきましょう!

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第2回 COVID-19流行で初診患者のオンライン診療が一時的に解禁へ

<先週の動き>1.新型コロナ関連肺炎の流行で、初診患者のオンライン診療が一時的に解禁へ2.診療報酬改定の疑義解釈(その1)が発表3.看護師の離職率は10.7%と横ばい、中途採用者の離職率は高止まり4.70歳就業法の成立は、雇用の機会を増やすか?5.介護分野における文書の負担軽減策がいよいよ本格的に始まる1.新型コロナ関連肺炎の流行で、初診患者のオンライン診療が一時的に解禁へ新型コロナウイルス感染症が拡大している現状を受けて、無症状に近い感染者が病院を受診し、ほかの通院・入院患者に感染させることがないよう、感染防御目的にて、受診歴がない初診患者についても、インターネットを利用したオンライン診療を認める方針を固めた。オンライン診療の活用については、3月31日に開かれた政府の経済財政諮問会議で、安倍 晋三首相からの指示でもあり、医師・看護師などの医療従事者を感染リスクから守るためにも、これに従ったものと考えられる。4月2日に開かれた政府の規制改革推進会議では、新型コロナウイルス感染拡大が続く中での緊急措置として、初診対面原則の見直しを求めたのに対し、厚生労働省や医師会などが難色を示していたが、新型コロナウイルス感染症対策に関する特命タスクフォースの設置を通して、最終的には4月7日に閣議決定される緊急経済対策に、オンライン診療について盛り込まれる見込み。詳細については厚労省から詳細が発表され、4月内にも解禁されるが、今回の規制緩和は新型コロナウイルスの感染が収束するまでの特例的な措置となる可能性が高い。(参考)第9回オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会(厚労省)第1回 新型コロナウイルス感染症対策に関する特命タスクフォース 議事次第(内閣府)第2回 新型コロナウイルス感染症対策に関する特命タスクフォース 議事次第(同)2.診療報酬改定の疑義解釈(その1)が発表3月31日に、2020年度の診療報酬改定の疑義解釈(その1)が厚労省から発表された。2020年度の診療報酬改定では、急性期病院にとって入院料を大きく左右する看護必要度の変更が今回も含まれており、さらに地域包括ケア病棟を持つ急性期病院では、入院期間IIIになる前に自院内の地域包括ケア病棟へ移ると日当点が上がる点が改善され収益性が下がるほか、回復期リハビリ病棟でも、FIMの利得実績指数の引き上げや入棟の期限の発症後2ヵ月以内の制限規定を廃止など細かい変更がある。対象となる病棟がある病院は、算定基準を含め、転院・転棟基準の見直しが必要となる。さらに、救急搬送を年間2,000件以上受けている病院が、労務管理の徹底などの要件を満たせば、地域医療体制確保加算(入院初日に限り520点)の算定が可能になる。また、救急搬送1,000件以上の病院を評価する救急搬送看護体制1でも、従来に比して実績を元に評価する方向性が打ち出されており、救急医療や手術に力を入れている病院を支援する改定となっている。激変を避けるための経過措置期間も設けられているが、その期限も9月30日までなので、現場の担当者は必ず目を通すべきだろう。(参考)2020年度診療報酬改定の疑義解釈(その1)(厚労省)3.看護師の離職率は10.7%と横ばい、中途採用者の離職率は高止まり3月30日に日本看護協会が発表した2019年病院看護実態調査によると、正規雇用の看護職員の離職率は10.7%とここ数年の11%前後のまま横ばいであるが、既卒採用者(新卒ではない看護職経験者)は17.7%と相変わらず高いままである。設置主体別で正規雇用看護職員の離職率が相対的に高い病院は、「その他公的医療機関」17.0%、「個人」14.1%、「医療法人」13.2%である。都道府県別では、東京が一番高く14.5%、次が神奈川(13.1%)、千葉(12.8%)など、首都圏では高い傾向が続いている。給与・夜勤手当は若干の増加はあるものの、おおむね横ばいである。今後、少子化の影響もあり、現場での看護師の不足は続くため、いわゆる雇用環境を大幅に改善するには離職防止のプログラムが必要と考えられる。(参考)「2019年病院看護実態調査」結果(公益社団法人 日本看護協会)4.70歳就業法の成立は、雇用の機会を増やすか?70歳までの就業機会の確保を企業の努力義務とする高年齢者雇用安定法などの改正案が、3月31日の参院本会議で賛成多数で可決・成立した。少子高齢化が進み、働き手が不足する2040年問題(現役1.5人が高齢者1人を支える時代)を念頭に、企業側に定年の廃止や延長、雇用継続のほか、退職者の起業支援や社会貢献活動の支援を求めている。医療機関や介護施設も、今後も増え続ける需要に対して、医師のみならず看護・介護職員の定年延長なども検討が必要となると考えられる。すでに産業別就業者数において医療・福祉部門での就業者の割合は12.5%の831万人となっており、卸売業・小売業16.1%、製造業15.9%と続く。今後、若年者の人口は急減する(2020年の新成人は122万人・前年比で3万人減であり、2019年の出生数は86万人と減少している)見込みであり、2040年の就業者は現在の6,664万人から最大で1,285万人減少されるのが予想されている。急増する医療・介護ニーズに対応するための人手不足対策には、退職者の活躍が必然だろう。(参考)雇用保険法、高年齢者雇用安定法、労災保険法などの改正を束ねた改正法案の要綱を提示 「70歳までの就業機会の確保」も盛り込む(PSRnetwork)医療・介護の生産性、主要先進国で最低水準 厚労省研究会(介護のニュースサイト Joint)産業別就業者数(平成30年)(なるほど統計学園)5.介護分野における文書の負担軽減策がいよいよ本格的に始まる3月30日に、厚生労働省は社会保障審議会介護保険部会の介護分野の文書に係る負担軽減に関する専門委員会を開催した。社会保障審議会介護保険部会・介護分野の文書に係る負担軽減に関する専門委員会が昨年12月4日に出した中間取りまとめにおいて、今後、高齢者の増加に伴い、現場の介護の担い手が不足するのに合わせて、介護分野の文書に係る負担軽減の実現に向け、国、指定権者・保険者及び介護サービス事業者が協働して、必要な検討を行う目的でこれまで議論を進めてきた。この取りまとめを元に、実際にアクションを行っていくことが確認された形だ。負担軽減策は3つの視点から行うこととなっている。1)様式・添付書類や手続きの見直し簡素化2)自治体ごとのローカルルールの解消による標準化3)ICTなどの活用厚労省は、3月6日に老健局より各市町村長に対して「社会保障審議分野会介護保険部会『介護の文書に係る負担軽減に関する専門委員会』中間取りまとめを踏まえた対応について」(令和2年3月6日付第8号老健局長通知)と言う形で局長通知を出しており、各自治体において取りうる対応を求めている。今後、1年以内に行うアクションは、手続き時の文書の簡素化・統一化が中心であるが、さらに「1〜2年以内の取り組み」には変更・更新時の負担軽減、「3年以内の取組」については既存システムの活用、行政手続のオンライン化を踏まえ、ICT化が図られ、医療機関側との連携がさらに進む見込みである。今後の方向性は、医療・介護連携にも影響をもたらす可能性が高い。(参考)第6回社会保障審議会介護保険部会介護分野の文書に係る負担軽減に関する専門委員会(厚労省)「社会保障審議分野会介護保険部会『介護の文書に係る負担軽減に関する専門委員会』中間取りまとめを踏まえた対応について」(同)社会保障審議会介護保険部会介護分野の文書に係る負担軽減に関する専門委員会中間取りまとめ(同)

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COVID-19、厚労省による遺体の取り扱い・埋火葬に関するガイドライン

 COVID-19の感染急拡大を受け、厚労省による感染者の遺体取り扱いと埋火葬に関するガイドラインをまとめた。【従事者側の注意点】・医療機関等は、遺体が新型コロナウイルス感染症の病原体に汚染され又は汚染された疑いのある場合、感染拡大防止の観点から、遺体の搬送作業及び火葬作業に従事する者にその旨の伝達を徹底する。なお、その際は、伝える相手を必要最低限とするなどプライバシー保護にも十分配慮する。・遺体の処置にあたる従事者は、ゴーグル(またはフェイスシールド)、サージカルマスク、手袋、長袖ガウン、帽子の着用などの個人防護具を着用し、作業後は確実に手指衛生を行う。・遺体の体液等で汚染された場合は、0.05~0.5%(500~5,000ppm)次亜塩素酸ナトリウムで清拭*、または30分間浸漬、アルコール(消毒用エタノール,70v/v%イソプロパノール)で清拭、または30分間浸漬する。消毒剤の噴霧は不完全な消毒やウイルスの舞い上がりを招く可能性があるため推奨しない。可燃性のある消毒薬を使用する場合については火気のある場所で行わない。*血液などの汚染に対しては0.5%(5,000ppm)、また明らかな血液汚染がない場合には0.05%(500ppm)を用いる。なお、血液などの汚染に対しては、ジクロルイソシアヌール酸ナトリウム顆粒も有効。【遺体の扱いに関する注意点】・遺体全体を覆う非透過性納体袋に収容・密封することが望ましい。収容・密封後に、納体袋の表面を消毒する。遺族等の意向にも配意しつつ、極力そのままの状態で火葬するよう努める。・非透過性納体袋に収容、密封されている限りは特別の感染防止策は不要。遺体の搬送を遺族等が行うことも差し支えない。・火葬に先立ち、遺族等が遺体に直接触れることを希望する場合には、遺族等に手袋等の着用をお願いする。【その他】・新型コロナウイルス感染者の遺体は、24時間以内に火葬できるが、これは必須ではない。感染拡大防止対策上の支障等がない場合には、できる限り遺族の意向等を尊重する。・感染者の遺体は、原則として火葬する(感染症法第30条第2項)。

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SGLT2阻害薬の手術前の休薬は3~4日、FDAが承認

 2020年3月17日、米国食品医薬品局(FDA)は、2型糖尿病治療として使用されるすべてのSGLT2阻害薬において、術前休薬に関する添付文書の変更を承認した。手術前のSGLT2阻害薬休薬後は血糖値を注意深く監視 当局は、「カナグリフロジン(商品名:カナグル)、ダパグリフロジン(同:フォシーガ)、エンパグリフロジン(同:ジャディアンス)は少なくとも予定手術の3日前、エルツグリフロジン(国内未承認)は少なくとも4日前に休薬する必要がある」とプレスリリースを配信した。また、手術前のSGLT2阻害薬休薬後は血糖値を注意深く監視し、適切に管理すべき、と記している。 「患者の経口摂取が通常に戻り、糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)・その他の危険因子が解決したら、SGLT2阻害薬を再開できるだろう」と当局は付け加えている。 今回の変更の承認理由は、手術により患者がDKAを発症するリスクが高まるためである。DKAの症状は、吐き気、嘔吐、腹痛、疲労感、呼吸困難など。 このほか、SGLT2阻害薬の副作用は各薬剤によって異なるが、尿路・性器感染症、低血糖、急性腎障害、会陰の壊死性筋膜炎、下肢切断リスクの上昇などが報告されている。当局は、重度の腎機能障害もしくは末期腎不全の患者、透析治療中の患者、薬物過敏症患者には、SGLT2阻害薬を使用しないよう求めた。

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第19回 侮ってはいけない尿路結石【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)鑑別すべき疾患を知ろう!2)まず、エコーをしよう!3)感染症の合併には要注意!【症例】28歳女性。来院当日の昼食時に左下腹部痛を自覚した。生理痛に対して使用していた市販の非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を内服し様子をみていたが、症状が改善しないため救急外来を受診した。特記既往はなく、定期的な内服薬はない。●搬送時のバイタルサイン意識清明血圧128/75mmHg脈拍100回/分(整)呼吸20回/分 SpO299%(RA)体温36.3℃瞳孔2.5/2.5mm +/+既往歴、内服薬:定期内服薬なし尿路結石の診断尿路結石は頻度が高く、誰もが診たことがあるでしょう。自身で罹ったことがある人もいるかもしれません。痛みが強く救急外来を受診するケースも多く、楽な姿勢がないのでのたうち回っているのが典型的です。指圧が有効なこともあり、痛い部分をぐっと親指で圧迫していることもよくありますね。尿路結石の診断は、CTで検査すればつきますが、疑い症例全例に検査するのはお勧めできません。被曝の影響は常に考えておく必要があり、また、鑑別疾患が想起されていなければ、単純もしくは造影CTを検査するべきかは判断できません。CTを検査しないと診断できないのでは、クリニックなどそもそも検査ができない場所では診断ができなくなってしまいます。STONE score(表)表 STONE score -目の前の患者は尿路結石か-画像を拡大する尿路結石症例は複数回経験すれば、“らしさ”を見積もることができるようになるでしょう。実際に診たことがない、または経験が少ない場合には“STONE score”は頭に入れておきましょう(表)。絶対的なものではありませんが、急性発症の痛みを訴える男性が嘔気・嘔吐や血尿を伴う場合にはらしいことがわかります。腹痛に加えて嘔気・嘔吐を認めると、どうしても消化器疾患を考えがちですが、尿路結石も評価することを忘れないようにしましょう。尿路結石の鑑別疾患は?尿路結石の鑑別疾患は多岐に渡りますが、50歳以上では腹部大動脈瘤切迫破裂を、女性では卵巣茎捻転、異所性妊娠を、右側の痛みであれば虫垂炎や胆石、胆管・胆嚢炎は、必ず意識するようにしましょう。腎梗塞など他の疾患も鑑別に挙がりますが、重症度や緊急度の問題から、前述したものを考え初療にあたることをお勧めします。必要な検査は?:尿検査も大切だが、エコーは超大事尿潜血陽性は、尿路結石を確定させるものではありません。切迫破裂や虫垂炎でも陽性になることはあります。STONE scoreにも含まれており、“らしさ”を見積もる根拠とはなりますが、いかなる検査も検査前確率が重要であって、検査の陽性・陰性のみを理由に疾患を確定・除外できるものではありません。尿路結石らしさを裏付ける検査と共に、鑑別すべき疾患を除外することが必要です。腹部大動脈瘤は破裂してしまうと判断は難しいですが、大動脈瘤を検出するにはエコーが有用です。また、手術が必要な異所性妊娠や卵巣茎捻転ではモリソン窩の液体貯留などをFAST※を施行し確認することが大切です。エコーは非侵襲的かつ迅速に施行可能な検査であり、腹痛患者では必須の検査といえるでしょう。尿路結石の場合には、石自体をエコーで確認することは難しいですが、水腎症を認めることは少なくありません。疼痛部位に一致した側の水腎症を認める場合には、尿路結石らしさが非常に増します。尿路結石? と思ったら鑑別疾患を意識してエコーをあてましょう。※FAST:focused assessment with sonography for trauma尿検査でわかることも多い尿検査は潜血の有無だけでなく、確認すべきことがあります。鑑別疾患を意識すればわかると思いますが、女性では妊娠の可能性を考えておく必要があります。妊娠反応が陽性か否かで、鑑別疾患は異なり、対応も変わるため常に意識しておきましょう。全例に妊娠反応を検査する必要はありませんが、否定できない場合には行うべきでしょう。もう1点、意識しておくべきこととして、感染の関与があげられます。腎盂腎炎は抗菌薬のみで治療可能なことが多いですが、尿路結石など閉塞機転が存在する場合には、いくら広域な抗菌薬を選択しても状態は悪化します。感染の関与を示唆する発熱や呼吸数の増加、悪寒戦慄などを伴う場合には泌尿器科医などと連携し、外科的介入も考慮することを忘れないようにしましょう。CTは尿路結石の既往がある非高齢者では、上記のような合併症がなければ撮影する必要はありません。しかし、エコーでその他の疾患が疑わしく、エコーで確定できない場合には撮影します。また、初発で結石の位置や大きさの把握が必要な場合には撮影も考慮します。常に検査をオーダーするときには、なんのために施行するのかを意識することが重要です。さいごに尿路結石は救急外来など外来診療において非常に頻度の高い疾患です。多くはNSAIDsで症状は改善し、事なきを得ることが多いですが、尿路結石のようでそうではない重篤な疾患であることや、敗血症を伴うことも少なくありません。根拠をもって対応できるように今一度整理しておきましょう。尿路結石の既往がある非高齢者では、発熱などの合併症がなければCTは検査するべきではありません。1)Moore CL, et al. BMJ.2014;348:g2191.

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“肛門疾患”丸わかり-内科医にも役立つガイドライン発刊

 肛門疾患と聞くと、多くの方はまず“痔”を想像されるのではないだろうか。医師に相談しにくい病気の1つだが、非専門医の方々は相談を受けたことがあるだろうか? 2020年1月、日本大腸肛門病学会は『肛門疾患(痔核・痔瘻・裂肛)・直腸脱診療ガイドライン2020年版』を発刊。これは2014年に策定された診療ガイドラインの改訂版で、既存の肛門部の三大疾患(痔核・痔瘻・裂肛)とは別に直腸脱の項が追加された。今回、本ガイドラインの作成委員長を務めた山名 哲郎氏(JCHO 東京山手メディカルセンター副院長)から活用ポイントについて聞いた。非専門医でも使いやすい1冊、専門医には直腸脱診療の理解を 現在、肛門疾患治療は保存治療適応例や高齢化に伴う肛門疾患の増加に伴い、プライマリケア医の協力が必要不可欠である。しかし、日本大腸肛門病学会会員の診療科内訳を見ると、大腸外科70%、肛門科15%、消化器内科15%、その他(病理科、放射線科など)少数と、内科診療を担う医師会員が非常に少ない。 このような現状を踏まえ、ガイドラインを作成するにあたり、山名氏は「CQ(Clinical Question)は専門医向けに設定、総論はプライマリケア医による診断や保存的治療の推進を念頭に置いた」という。スコープ作成は『Minds診療ガイドライン作成マニュアル2017』などを参考に進められ、重要臨床課題をもとに痔核、痔瘻、裂肛、直腸脱においてCQ3~5項目を決定、などを配慮した。また、総論には現時点でガイドライン作成委員会が提唱するフローチャートが図式化されており、どのタイミングでどのCQを確認するべきかがひと目でわかる仕組みになっている。 プライマリケア医、専門医それぞれに注目してもらいたい項目は以下のように分類されている。<プライマリケア医向け>・総論:疫学、病因、臨床所見、診断、治療などがコンパクトにまとめられている。・症例写真:各CQページ掲載。これにより鑑別診断が容易となる。<専門医向け>・CQ:専門医向けの診断アルゴリズムや新たな術式、乳児痔瘻やクローン病の痔瘻への対応方法について記載・直腸脱の項:日本の場合、高齢者の手術リスクを不安視し、経腹手術を避ける傾向がある。しかし、患者側の因子と直腸脱の病態による因子を考慮して術式を決定することが望ましいことから、術式決定のフローチャートの活用を求める。保存治療、まずは2~4週間を目処に 肛門疾患治療において、専門医への紹介や治療変更のタイミングに関する診療アルゴリズムは存在しない。だが、プライマリケア医でも本ガイドラインを活用することで患者の初期診療は可能であり、同氏は「たとえば、痔核や直腸脱の鑑別自体は難しくない。症例写真や臨床所見の項を活用することで診断は可能」とコメントした。保存治療の際の処方薬剤には、内服薬(鎮痛薬、痔核治療剤)や外用薬(坐薬、軟膏など)がある。専門医への紹介のタイミングについてはガイドラインに明記されていないが、「まずは2~4週間継続し、それでも症状が改善しなければ専門医への紹介が望ましい」と述べ、漫然と同じ治療を継続しないよう求めた。 このほか、専門医や専門病院への紹介パターンについて、同氏は患者紹介事例として3つを例示。同氏は独自の見解であると断りながら、1)プライマリケア医からの保存治療無効例の紹介、2)手術を実施しない施設の専門医からの紹介、3)手術実施施設からのハイリスク症例の紹介を挙げた。「とくに3つ目の場合、循環器疾患を併存している患者などでは抗凝固薬の服用が術前の服薬中止や術後出血のリスクとなるため、全身管理が可能な病院での手術が必要」と話した。高齢者にも手術を否定しない 専門医向けに追加された直腸脱については、「高齢者では手術リスクを考慮した結果、手術を推奨しない方針を選んでしまう医師がいる。しかしそれでは患者さんのQOLは改善されないため手術は必要である」と話した。高齢者にも適した術式を選択すれば、リスクを回避できることから、「とくに高齢者の治療を選択する際には、本ガイドラインのフローチャートを参照し、侵襲の少ない腹腔鏡下手術を視野に入れて治療方針を決めて欲しい」と述べた。 最後に同氏は「肛門疾患は、羞恥心ゆえにガイドライン作成に患者さんを取り込むのが難しい。本ガイドラインでは患者さんの声としてはパブリックコメントをもらう形式に留まったが、次の改訂版ではガイドライン作成委員のメンバーとして介入してもらいたい」と、次回改訂時への思いを語った。 なお、日本大腸肛門学会が作成するもう1つのガイドライン、「便失禁診療ガイドライン2017年版」の改訂版は2022年に発刊予定である。

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第34回 ワルファリン服用時PT-INR2.0~3.0の根拠を説明できますか?【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 ワルファリンはあまりにも有名な抗凝固薬であり、直接経口抗凝固薬(DOAC)もワルファリンとの非劣性試験を行っており、血栓塞栓症の予防薬としてのベンチマークとなっています。多くの薬剤師がその説明に慣れているのではないかと思いますが、スタンダードとされるその効果はどの程度で、なぜPT-INRを2.0~3.0くらいで管理する必要があるのか根拠を示しながら服薬指導できているでしょうか。今回は、意外に正確に即答するのが難しいワルファリンに関するエビデンスを紹介します。ワルファリンは脳卒中リスクを対照群に比べて60%、抗血小板薬に比べて40%低下ワルファリンの血栓塞栓症予防効果は、数多くの試験で示唆されています。非弁膜症性心房細動患者の脳卒中予防効果についてまとめたメタ解析がありますので、押さえておくとよいでしょう1)。この解析には29試験、合計2万8,044例の被験者が含まれており、その平均年齢は71歳で、平均フォローアップ期間は1.5年です。6試験、2,900例の解析によるワルファリン服用群の脳卒中の相対リスクは、抗血栓薬を服用していない対照群と比べて64%低下(95%信頼区間[CI]:49%~74%)、死亡率は26%低下しています。一方、8試験、4,876例の解析による抗血小板薬服用群の脳卒中の相対リスクは、対照群と比べて22%低下(95%CI:6%~35%)しています。また、12試験、1万2,963例の解析によるワルファリン群の脳卒中の相対リスクは、抗血小板薬群と比べて39%低下(95%CI:22%~52%)しています。対照群と比べて約60%、抗血小板薬群と比べて約40%の脳卒中リスク低減というのはとても大きな効果で、DOACが出るまでスタンダードとされていた理由もうなずけます。ただし、試験の前提としてワルファリンの用量が調整されていたことは留意しておくべきで、現実においても当然同様に必要です。上記解析では、抗血小板薬はワルファリンより小さいとはいえ、一定の脳卒中予防効果を示しています。しかし、日本人の非弁膜症性心房細動患者において、アスピリン150~200mg/日投与群と抗血小板薬や抗凝固薬を服用しないプラセボ群を比較した試験(JAST)では、アスピリンは脳卒中予防に対して有効でなかったうえに、中間解析で重篤な出血が増加して試験中止になっているため、推奨されているわけではありません2)。不整脈により生じる脳卒中予防でワルファリンがよく用いられるのにそういった背景があることを知っていると、説明で役に立つかもしれません。PT-INR 2.0~3.0管理群は1.5~1.9管理群よりも有意に深部静脈血栓塞栓症再発が少ないワルファリンの薬効評価では、血液の凝固速度を表すPT-INRの数値をみます。日本血栓止血学会によれば、ワルファリンによる一般的な抗凝固療法では2.0~3.0に管理するとあります。通常の標準値は1.0前後で、それより数値が大きいほど血が止まりにくくなるため、内出血や鼻血、歯茎からの出血などが生じやすくなります。なぜ2.0~3.0がよいのかについては、静脈血栓塞栓症予防におけるINRコントロールの最適値を検討した研究があります3)。ワルファリン治療を3ヵ月以上行っている静脈血栓塞栓症患者738例を、INR 1.5~1.9の低強度管理群とINR 2.0~3.0の通常強度管理群に1:1に割り付け、有効性と安全性を比較しています。主要アウトカムは静脈血栓塞栓症再発および出血です。その結果、深部静脈血栓塞栓症の再発は、INR 1.5~1.9管理群では16回(1.9/100人・年)、INR 2.0~3.0管理群では6回(0.7/100人・年)と有意差があり、ハザード比は2.8(95%CI:1.1~7.0)でした。一方で、重大な出血、全出血発生頻度はともに両群間に有意差はありませんでした。管理が不十分だと塞栓症リスクが3倍近く上昇することは知っておくとよいでしょう。さらに、PT-INRの目標値1.5~2.0と2.0~3.0で比較した別の研究においても、一貫性のある結果が得られており、目標値の妥当性がよくわかります。逆に3.0を超えても予防効果が用量依存的に上がるわけではなく、出血性リスクが高くなるのであくまでも基準値を目指すのがよいということになります4)。抗凝固療法などの予防薬は患者さん自身に治療効果が見えづらくてアドヒアランスが低下しがちです。どの程度の出血傾向があれば注意すべきなのかという目安を伝えることはもちろん重要ですが、治療しない場合と比べてどの程度の効果が期待できて、どのくらいの目標値で管理するとそれがリスクを避けながら最大化されるのかをしっかりと説明できるとよいと思います。そのようなときに、これらの知見をお役立ていただければ幸いです。1)Hart RG, et al. Ann Intern Med. 2007;146:857-867. 2)Sato H, et al. Stroke. 2006;37:447-451. 3)Kearon C, et al. N Engl J Med. 2003;349:631-639. 4)Crowther MA, et al. N Engl J Med. 2003;349:1133-1138.

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第17回 2020改定で決定的に分かれる薬局格差【噂の狭研ラヂオ】

動画解説2020改定はいまだ調剤するまでの対物業務に重きを置いている薬局にとってはかなりしんどい内容となっています。今回は狭間先生が経営者の目線で改定の3つの基本的な考え方を解説。薬剤師が対人業務へうまくシフトできるか、非薬剤師に何を託せるか、今こそ薬局格差を決定づけるターニングポイントです!

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抗体検査【今、知っておきたいワクチンの話】総論 第4回

はじめに2019年4月から、風疹対策として、特定年齢の男性を対象とした抗体検査とワクチンの提供サービスが始まった。しかし、実際にワクチン接種の効果を判定するために測定された抗体価の解釈は難しい。ここでは抗体価検査全般とその解釈について述べる。抗体検査について理解を深める前に以下の3点に注意しておきたい。(1)現在入手可能なワクチンは、抗体を産生することで疾患を予防するという機序が主ではあるが、実際に病原体に曝露した際には細胞性免疫をはじめとした他のさまざまな免疫学的機序も同時に作用することがわかっている。したがって、抗体価と発症/感染予防には必ずしも相関性がないことがある。(2)免疫の有無は、年齢、性別、主要組織適合抗原(major histocompatibility complex::MHC)などによっても左右される。(3)“免疫能”の定義をどこにおくか(侵襲性感染症/粘膜面における感染の予防、感染/発症の予防)によっても判定基準が変わってくる。以上を踏まえた上で読み進めていただきたい。抗体検査法一般的に用いられる方法としては次の5つがある。EIA法(Enzyme-Immuno-Assay:酵素免疫法)/ ELISA法(Enzyme-Linked Immuno Sorbent  Assay:酵素免疫定量法)HI法(Hemagglutination Inhibition test:血球凝集抑制反応)NT法(Neutralization Test:中和反応)CF法(Complement Fixation test:補体結合反応)PA法(Particle Agglutination test:ゼラチン粒子凝集法)このうちCF法は感度が低いため、疾患に対する免疫の有無を判断する検査法としては適さない。ワクチンの効果判定や病原体に対する防御能の測定にあたって最も有効とされているのはPRN法(plaque reduction neutralization)による中和抗体の測定である。しかし、中和抗体の測定は手技が煩雑で判定にも時間がかかるため、実際には様々な抗体の中から発症予防との相関があるとされるもので、検査室での測定に適したものが使用されることが多い。各疾患のカットオフ値について麻疹および風疹については、発症予防および感染予防に必要とされる抗体価が検査別にある程度示されている(表1)1)が、ムンプス、水痘については未確定である。表1 麻疹・風疹における抗体価基準1)画像を拡大する1)麻疹(Measles)麻疹に対する免疫の有無を判断するうえで最も信頼性が高い検査法はPRN法による中和抗体の測定であるが、前述のように多数の検体のスクリーニングには向いていない。WHOは中和抗体(PRN法)で120mIU/mL以上をカットオフとしている2)。これは中和抗体(PRN法)≧120mIU/mLであればアウトブレイク時にも発症例が見られなかったことによる。一方、わが国で用いられている環境感染学会の医療従事者に対するワクチンガイドライン3)ではIgG抗体(EIA法)で16以上を陽性基準としており、国際単位へ変換すると720mIU/mL(EIA価×45=国際単位(mIU/mL))となる。麻疹抗体120mIU/mLは発症予防レベルであるが、報告によっては120~500mIU/mLでも発症がみられたとするものもある4)。したがって曝露の機会やウイルス量が多い危険性のある医療従事者ではより高い抗体価を求めるものとなっている。2)風疹(Rubella)古くから用いられているのはHI法であり、8倍以上が陽性基準とされている。HI法と他の検査を用いた場合の読み替えに関しては、国立感染症研究所の公開している情報が有用である5)。1985年にNCCLS(National Committee on Clinical Laboratory Standards)は風疹IgG抗体>15IU/mLを、発症予防レベルに相当する値として免疫を有している指標とした。1992年に数値は10IU/mLに引き下げられたが、それ以降のカットオフの変更はなされていない。その後の疫学データなどから独自にカットオフを引き下げて対応している国もある6)。環境感染学会のガイドラインではIgG(EIA法:デンカ生研)≧8.0を十分な抗体価としているが、国際単位へ変換すると18.4IU/mL(EIA価×2.3=国際単位(IU/mL))となり、高めの設定となっていることがわかる。これは麻疹と同様に曝露の機会や多量のウイルス曝露が起こる危険性があるためである。ただし、HI法で8倍以上、EIA法で15IU/mL以上の抗体価を有している場合でも風疹に罹患したり、先天性風疹症候群を発症したりといった報告もある7)。風疹における感染予防に必要な抗体価として、国際的なコンセンサスを得た値は示されていない。3)ムンプス(Mumps)ムンプスに対する免疫の有無を正確に測定する方法は、現在のところはっきりとはわかっていない8)。中和法で2倍もしくは4倍の抗体価が発症予防に有効であったとする報告がみられる一方、2006年に米国の大学で起こったアウトブレイクの際にワクチン株および流行株に対する中和抗体(PRN法)、およびIgG抗体(EIA法)を測定したところ、発症者は非発症者に比べて抗体価が低い傾向にはあったが、その値はオーバーラップしており、明確なカットオフを見出すことはできなかった9)。環境感染学会ではEIA価で4.0以上を陽性としているが3)、その臨床的な意義は不明である。4)水痘(Varicella)WHOが規定する発症予防に十分な抗体価はFAMA(fluorescent antibody to membrane antigen)法で4倍以上もしくはgrycoprotein(gp)ELISA法で5U/mL以上である10)。FAMA法で4倍以上の抗体価を保有していた者のうち家庭内曝露で水痘を発症したのは 3%以下であった。gp ELISA法は一般的な検査方法ではなく、偽陽性が多いのが欠点である。わが国において両検査は一般的ではなく、代替案として、中和法で4倍以上を発症予防レベルと設定し、IAHA(immune adherence hemagglutination:免疫付着赤血球凝集)法で4倍以上、EIA法で4.0以上をそれぞれ十分な抗体価としているが3)、その臨床的な意義は不明である。その他の代表的なワクチン予防可能疾患を含めた発症予防レベルの抗体価示す(表2)11,12)。一般的に抗体価測定が可能な疾患としてA型肝炎、B型肝炎について述べる。表2 代表的なワクチン予防可能疾患の発症予防レベル抗体価11,12)画像を拡大するND:未確定* :侵襲性肺炎球菌感染症の発症予防5)A型肝炎(Hepatitis A)13,14)A型肝炎ウイルスに対して、有効な免疫力を有するとされる抗体価の基準値は明確には示されていない。測定法にもよるが、有効な抗体価は10~33mIU/mLとされており、VAQTA(商標名)やHAVARIX(商標名)といったワクチンの臨床試験における効果判定は抗体価10mIU/mL以上を陽性としている。実臨床の場ではワクチン接種前に要否を確認するための測定は行うが、ワクチン接種後の効果判定として通常は測定しない。6)B型肝炎(Hepatitis B)3回のワクチン接種完了後1~3ヵ月の時点でHBs抗体価測定を行う。HBs抗体≧10mIU/mLが1回でも確認できれば、その後抗体価が低下しても曝露時に十分な免疫応答が期待できることから、WHOは免疫正常者に対してワクチンの追加接種は不要としている15)。おわりにここまで述べてきたように、各ウイルスに対する抗体価の基準についてはわかっていないことが多い。これは感染防御に働くのが単一の機構のみではないことに起因する。国際基準とわが国の基準の違いも前述の通りである。麻疹、風疹、ムンプス、水痘に関しても、代替案としての抗体検査が独り歩きしてしまっているが、個人の感染防御という点において重要なのは、抗体価ではなく1歳以上における2回のワクチン接種歴である。接種記録がなければ抗体陽性であってもワクチン接種を検討するべきである。まれな事象として2回の接種歴があっても各疾患が発症したとする報告はあるが、追加のワクチン接種で抗体価を上昇させることで、そのような事象を減らすことができるかは現時点では明確な答えは出ていない。現在、環境感染学会ではガイドラインの改訂がすすめられており、2020年1月まで第3版のパブリックコメントが募集された。近日中に改訂版が公表される予定であり、基本的には1歳以上で2回の確実な接種歴を重視した形になると考えられる16)。抗体価の測定に頼るのではなく、小児期から確実に2回の接種率を上昇させることでコミュニティーからウイルスを根絶すること、そして個人および医療機関でその記録の保管を徹底することの方が重要である。1)庵原 俊. 小児感染免疫. 2011;24:89-95.2)The immunological basis for immunization series. Module 7: Measles Update 2009. World Health Organization, 2009. (Accessed 03/25, 2019)3)日本環境感染症学会ワクチンに関するガイドライン改訂委員会. 医療関係者のためのワクチンガイドライン 第2版. 日本環境感染学会誌. 2014;29:S1-S14.4)Lee MS, et al. J Med Virol. 2000;62:511-517.5)風疹抗体価の換算(読み替え)に関する検討. 改訂版(2019年2月改定). (Accessed 03/20, 2019)6)Charlton CL, et al. Hum Vaccin Immunother. 2016;12:903-906.7)The immunological basis for immunization series. Module 11: Rubella. World Health Organization, 2008.(Accessed 03/25, 2019)8)The immunological basis for immunization series. Module 16: Mumps. World Health Organization, 2010.(Accessed 03/25, 2019)9)Barskey AE, et al. J Infect Dis. 2011;204:1413-1422.10)The immunological basis for immunization series. Module 10: Varicella-zoster virus. World Health Organization, 2008.(Accessed 03/25, 2019)11)Plotkin SA,et al(eds). Plotkin's Vaccines(7th Edition). Elsevier. 2018:35-40.e4.12)Plotkin SA. Clin Vaccine Immunol. 2010;17:1055-1065.13)The immunological basis for immunization series. Module 18: Hepatitis A. World Health Organization, 2011. (Accessed 03/25, 2019)14)Plotkin SA, et al(eds). Plotkin's Vaccines (Seventh Edition).Elsevier.2018:319-341.e15.15)The immunological basis for immunization series. Module 22: Hepatitis B. World Health Organization, 2012.(Accessed 03/25,2019)16)医療関係者のためのワクチンガイドライン 第3版. 2020.講師紹介

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施設看護師から腎機能を聴取し抗菌薬の適正用量を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第17回

 今回は、患者さんの腎機能を考慮した処方提案についてです。腎排泄型の薬剤の投与量を提案するためには腎機能を評価する必要があります。しかし、その腎機能を評価するための検査値や体重、処方薬の追加の理由は処方箋からのみでは把握できません。今回は処方提案に至るまでの情報収集や連携方法について紹介します。患者情報80歳、女性(施設入居)基礎疾患:高血圧症、便秘症既 往 歴:とくになし処方内容<往診医からの処方>1.アムロジピン錠2.5mg 1錠 分1 朝食後2.酸化マグネシウム錠500mg 1錠 分1 朝食後3.酪酸菌配合錠 4錠 分2 朝夕食後<初めて受診した病院からの新規処方>1.レボフロキサシン錠500mg 1錠 分1 朝食後※病院からの処方箋には、検査値や体重・身長などの情報はなし。本症例のポイントある日の午前、施設スタッフより抗菌薬を本日中に配薬してほしいと電話連絡があり、レボフロキサシン錠500mg 1錠 分1 7日分の処方箋FAXが届いていました。第一印象として、高齢者に対する処方としてはレボフロキサシンの用量が多く、そもそもどこの感染なのかなども含めて情報が不足しているため注意が必要と感じました。そこで、この施設では日中は看護師が常勤していて、病院受診の際は看護師が同行していることを知っていたため、担当看護師に状況を確認することにしました。看護師に確認したのは、採血結果の腎機能に関わる項目(血清クレアチニン、BUN)と直近の身体測定の結果、今回の受診契機と診察時の状況です。その結果、昨夜から発熱、頻尿、倦怠感が強く生じて継続したため、本人および家族から病院受診の希望があり受診したとのことでした。複雑性膀胱炎が疑われ、本来であれば入院加療が必要な状態でしたが、本人と家族は施設に戻って治療することを希望したため、今回の処方薬になったそうです。また、受診時の採血と直近の身体測定の結果は、血清クレアチニン:0.8mg/dL、BUN:13.6mg/dL、身長:148cm、体重:45kgであったという情報も得ることができました。以前紹介した推算CCrの計算方法で腎機能を評価したところ、推算CCr:39.84mL/minと年齢相応に腎機能が低下していました。レボフロキサシンの腎機能に合わせた推奨用量処方提案と経過今回の処方用量では過剰投与になり、中毒症状であるめまいや痙攣などの神経症状、アキレス腱炎、低血糖などが懸念されることから減量が望ましいと判断し、医師に相談することにしました。また、この患者さんは便秘症にて酸化マグネシウムを朝食後に服用していたことから、効果減弱の相互作用を考慮して服用時点を昼食後で調整してよいかどうかも併せて確認することにしました。電話で、「患者さんのレボフロキサシンの用量について確認があります。維持用量を250mgに減量してはいかがでしょうか。80歳と高齢で、本日の採血結果を基に腎機能を評価したところ、推算CCrは50mL/min未満と年齢相応の低下がありました。現在の500mgを維持用量として継続した場合、中毒症状が出現する恐れもあるので減量が望ましいと考えます。初回負荷投与量500mg、維持用量250mgでいかがでしょうか。また、朝食後に施設の往診医から処方されている酸化マグネシウムを服用しているので、レボフロキサシンの効果減弱を避けるため、レボフロキサシンの服用時点を昼食後に変更してもよろしいでしょうか」と相談しました。医師からは、「症状がやや重めなのでFull Doseがいいかと思いましたが、腎機能をそこまで調べていませんでした。初回500mg、以降250mgに調整しましょう。用法は昼食後でよいです。初診なので酸化マグネシウムを服用していたことを把握できていませんでした。情報提供ありがとうございます」というお返事をいただきました。そこで、施設看護師にレボフロキサシンを減量かつ昼食後服用へ変更することをフィードバックし、同日中に配薬しました。患者さんにもその旨を説明し、レボフロキサシンを開始したところ、翌日には解熱して倦怠感や頻尿も改善していきました。また、レボフロキサシン服用期間中および終了後も下痢などの消化器症状、めまいなどの神経症状もなく経過しました。1)「透析患者に対する投薬ガイドライン」,白鷺病院.2)クラビット錠添付文書

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