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カテコラミン誘発多形性心室頻拍〔CPVT:Catecholaminergic Polymorphic Ventricular Tachycardia〕

1 疾患概要カテコラミン誘発多形性心室頻拍(Catecholaminergic Polymorphic Ventricular Tachycardia:CPVT)は比較的まれな疾患で、その頻度は10,000人に1人程度と言われているが正確な数は不明である1-3)。通常10歳前後で運動や興奮時、カテコラミン投与などにより心室頻拍(VT)や心室細動(VF)を発症し、若年者の失神発作や突然死の原因として重要である4)。無治療では10年生存率が60%程度と推定され2)、きわめて予後不良な疾患である。CPVT患者の安静時心電図は明らかな異常所見はなく、心臓超音波検査、CT、MRIなども正常であり、無症状のCPVT患者を通常の臨床検査から診断することは非常に難しい。一方、器質的心疾患を認めず安静時心電図では異常所見のない40歳未満で、運動もしくはカテコラミン投与により他に原因が考えられない2方向性VT(図1)、多形性VT・期外収縮(PVC)が誘発される場合には、CPVTと比較的容易に診断可能である。また、CPVT患者の60~70%に遺伝子異常がみつかり、CPVTは遺伝学的検査によっても診断可能である。図1 CPVTに特徴的な2方向性心室頻拍(矢印)と心室細動の発生2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 臨床診断CPVT患者の初発症状は失神発作であり、運動あるいは感情ストレスが誘因となる1、2)。学童期の運動やストレス時の意識消失発作の場合、CPVTを疑う必要がある。最初の失神は主に7~12歳ごろで少なくとも20歳までに発生することが多い5)。初発が心停止の場合もあり、乳幼児突然死症候群や特発性心室細動の原因がCPVTであることもある。トレッドミルなどの運動負荷心電図は、CPVTを診断するうえで最も有力な検査法である(図2)3)。運動により多形性VT、2方向性VT(1拍ごとにQRSの極性が180度変わり、VT波形間の連結期がほぼ一定の頻拍)が出現し、きわめて速いVT/VFが誘発されると失神や突然死を惹起する2)。図2 CPVT1患者のトレッドミル運動負荷検査画像を拡大するA:治療前、B:β遮断薬とフレカイニド治療後、C:検査中の心拍数の変化、D:検査中のPVC数の変化。CPVTの特徴として運動負荷のピーク(心拍数>120bpm)で多形性PVCや二方向性PVC(VT)が出現する。VPB: ventricular premature beat.(島本恵子ほか. 循環器病研究の進歩. 2022;Vol.XLIII No.1:67-75.)一方、未発症(無症状)CPVTに対する臨床診断は容易ではない。2方向性VTはCPVTに特徴的で特異度は高いが、その出現率は必ずしも高くなく感度は50%程度とも言われる。さらに軽症例ではPVCの単発あるいは2段脈しか認められないことがある3)。アドレナリン(エピネフリン)負荷試験は、運動負荷試験を実施できない症例の診断のために有用と考えられるが、やはり特徴的な2方向性PVCやVTが誘発されれば診断的な特異度は高いものの、感度(誘発率)は運動負荷よりさらに低い(28%)。ホルター心電図も日常生活や学校生活上での不整脈検出に有用であるが、実際の不整脈検出率は運動負荷検査よりも低い。なお、心臓電気生理学的検査(EPS)は、CPVTの診断的価値は低く、心臓突然死のリスク評価としてEPSによるVT/VF誘発は禁忌である。鑑別診断としては、失神発作の原因である「てんかん」、パニック発作なども臨床的に鑑別が必要である。とくに「てんかん」と診断されていたが、実際には失神の原因はCPVTによる不整脈が原因であった例は多い。また、同じ遺伝性不整脈の中で先天性QT延長症候群(とくにLQT1型)、Andersen-Tawil症候群(ATS)などは、運動中の失神発作や多形性PVC、2方向性VT/PVCなどCPVTと共通点が多く遺伝子検査による鑑別が重要である。■ 遺伝学的検査CPVTの60~70%に原因遺伝子が同定され、そのほとんどが心筋リアノジン受容体(RyR)の遺伝子RYR2であり常染色体顕性遺伝形式である(表)6)。患者の病歴、家族歴、心電図所見などから臨床的にCPVTと診断あるいは疑われた患者に対して、診断確定のため遺伝学的検査が推奨(クラスI)される(ただし保険適用外)。また、家族に対しては、当該患者(発端者)においてみつかった遺伝子異常の有無を検査することが推奨される。しかし、RYR2遺伝子はエクソンが105個の巨大な遺伝子であり、健常者にも多くのバリアントが報告されている。そのほとんどはCPVTとは無関係または関係性が不明なVUS(Variant of unknown significance)である。したがってRYR2にVUSのバリアントがみつかった場合、表現型あるいは家族整合性が不明瞭な場合には安易にCPVTと診断すべきではない。RYR2の他にはCASQ2を始めCALM1、TECRL、TRDNなど複数の遺伝子が報告されているが、いずれもきわめてまれで、通常CPVTの遺伝子検査としてはRYR2(CPVT1)とCASQ2(CPVT2)が推奨される。なお、若年者の運動・ストレス時の失神発作の場合、LQT1やATSとの鑑別も重要である。臨床的にLQTSと診断または疑われたが遺伝子検査ではLQT関連遺伝子には疾患原因遺伝子を同定できない場合は、RYR2遺伝子も検査を考慮する。以上からCPVTは運動誘発性の失神発作や2方向性VTなど典型的な臨床像を呈する場合は比較的容易に診断可能であるが、逆にそうでない患者・家族などの場合には積極的に疑って負荷心電図検査などを行わないと診断は容易とは言えない。さらに遺伝学的検査も診断確定や鑑別診断に非常に有用である。表 CPVTとその類縁疾患の遺伝子画像を拡大する(日本循環器学会・日本不整脈心電学会合同ガイドライン. 2022年改訂版不整脈の診断とリスク評価に関するガイドライン. 2022;62.)3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 生活指導CPVTと診断された場合、原則として運動(とくに競技スポーツ)は禁止すべきである。また、日常生活でも、可能な範囲で精神的・肉体的ストレスは避けることが望ましい。ただし、CPVTは運動のピーク時(心拍数≧110bpm)で心室不整脈が出現する場合が多く(図2)、逆に言えば薬物治療により心拍数が110~120まで増加しない程度にコントロールされていれば、通常の日常生活程度で不整脈による失神発作や突然死を来す可能性は低い。■ 薬物治療CPVTと診断された場合、薬物治療としてはβ遮断薬(クラスI適応)、フレカイニド(クラスIIa)の2つが有用である。一般的にはβ遮断薬が第1選択とされ、β遮断薬の中でもナドロール(商品名:ナディック)が推奨される。β遮断薬内服下でも不整脈抑制の効果不十分な場合にフレカイニド(同:タンボコール)を追加投与する。しかし、実際には多くの患者で両方の薬が必要となり、また、β遮断薬は徐脈や血圧低下、倦怠感など副作用のため十分な量を内服できない例も多く、フレカイニドの役割が重要となっている。■ 植込み型除細動器(ICD)ICDは不整脈疾患における心臓突然死を予防するもっとも優れた機器であるが、ICDによる電気的除細動によって交感神経がさらに緊張状態となり、CPVTを惹起しVFストーム化が懸念され、CPVT患者におけるICDの予後改善の効果は疑問視されている。では、薬物治療のみで絶対に安全か? との不安も完全には解消されない。現実的にはVF蘇生後患者では突然死の2次予防目的としてICD植込みが絶対適応(クラスI)とされる。問題は薬物治療下で失神発作を繰り返す場合であるが、最近発表された国際研究の結果からも、薬剤抵抗性のCPVTに対するICD植込みに肯定的な結果7)と否定的な結果8)が報告され結論は出ていない。若年者の場合、突然死予防効果とICD長期留置が及ぼすさまざまなデメリット(感染、リード断線、静脈閉塞、精神的問題など)を検討し、総合的に判断すべきと考える。4 今後の展望CPVTの家系内でRYR2遺伝子変異をもつ同胞(兄弟姉妹)の心イベント発生率は高く、両親、同胞への遺伝学的検査は患者本人のみならず、家族の心臓突然死を防ぐ早期診断、予防的治療介入に非常に有用である。遺伝学的検査の保険診療化が期待される。薬物治療として近年フレカイニドの有効性が報告されたが、β遮断薬とどちらを第1選択とすべきかについては結論が出ていない。また、今後はCPVTに対する新たな薬剤の開発が期待されている。非薬物治療としては、わが国ではあまり実施されていないが、星状神経節ブロックも有効である。今後は薬剤抵抗性患者でICD作動を回避したい患者への効果が期待される。5 主たる診療科循環器内科(できれば遺伝性不整脈専門外来)小児循環器科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報小児慢性特定疾病情報センター カテコラミン誘発多形性心室頻拍(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)国立循環器病研究センター カテコラミン誘発多形性心室頻拍(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Leenhardt A, et al. Circulation. 1995;91:1512-1519.2)Sumitomo N, et al. Heart. 2003;89:66-70.3)Lieve KV, et al. Circ J. 2016;80:1285-1291.4)Roston TM, et al. Circ Arrhythm Electrophysiol. 2015;8:633-6425)Shimamoto K, et al. Heart. 2022;108:840-847.6)Priori SG, et al. Circulation. 2001;103:196-200.7)Mazzanti A, et al. JAMA Cardiol. 2022;7:504-512.8)van der Werf C, et al. Eur Heart J. 2019;40:2953-2961.公開履歴初回2023年9月12日

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高血圧への第1選択としての利尿薬vs.他の降圧薬~コクランレビュー

 高血圧患者における死亡率、心血管イベントの発生率、有害事象による中止率などについて、第1選択薬としてのサイアザイド系利尿薬と他のクラスの降圧薬を比較したシステマティックレビューの結果を、カナダ・ブリティッシュコロンビア大学のMarcia Reinhart氏らがThe Cochrane Database of Systematic Reviews誌2023年7月13日号に報告した。 2021年3月までのCochrane Hypertension Specialized Register、CENTRAL、MEDLINE、Embase、および臨床試験登録が検索された。対象は1年以上の無作為化比較試験で、第1選択薬としての利尿薬と他の降圧薬の比較、および死亡率とその他のアウトカム(重篤な有害事象、総心血管系イベント、脳卒中、冠動脈性心疾患[CHD]、うっ血性心不全、有害作用による中止)が明確に定義されているものとした。 主な結果は以下のとおり。・9万例超が対象の、26の比較群を含む20件の無作為化試験が解析された。・今回の結果は、2型糖尿病を含む複数の合併症を有する50〜75歳の男女高血圧患者における第1選択薬に関するものである。・第1選択薬としてのサイアザイド系およびサイアザイド系類似利尿薬が、β遮断薬(6試験)、Ca拮抗薬(8試験)、ACE阻害薬(5試験)、およびα遮断薬(3試験)と比較された。・他の比較対照には、アンジオテンシンII受容体遮断薬(ARB)、アリスキレン(直接的レニン阻害薬)、およびクロニジン(中枢作用薬)が含まれていたが、データが不十分だった。・重篤な有害事象の総数に関するデータを報告した研究は3件のみで、利尿薬とCa拮抗薬を比較した研究が2件、直接的レニン阻害薬と比較した研究が1件だった。β遮断薬と比較したサイアザイド系利尿薬:・全死亡率(リスク比[RR]:0.96[95%信頼区間:0.84~1.10]、5試験/1万8,241例/確実性:中程度)。・総心血管イベント(5.4% vs.4.8%、RR:0.88[0.78~1.00]、絶対リスク減少[ARR]:0.6%、4試験/1万8,135例/確実性:中程度)。・脳卒中(RR:0.85[0.66~1.09]、4試験/1万8,135例/確実性:低)、CHD(RR:0.91[0.78~1.07]、4試験/1万8,135例/確実性:低)、心不全(RR:0.69[0.40~1.19]、1試験/6,569 例/確実性:低)。・有害作用による中止(10.1% vs.7.9%、RR:0.78[0.71~0.85]、ARR:2.2%、5試験/1万8,501例/確実性:中程度)。Ca拮抗薬と比較したサイアザイド系利尿薬:・全死亡率(RR:1.02[0.96~1.08]、7試験/3万5,417例/確実性:中程度)。・重篤な有害事象(RR:1.09[0.97~1.24]、2試験/7,204例/確実性:低)。・総心血管イベント(14.3% vs.13.3%、RR:0.93[0.89~0.98]、ARR:1.0%、6試験/3万5,217例/確実性:中程度)。・脳卒中(RR:1.06[0.95~1.18]、6試験/3万5,217例/確実性:中程度)、CHD(RR:1.00[0.93~1.08]、6試験/3万5,217例/確実性:中程度)、心不全(4.4% vs.3.2%、RR:0.74[0.66~0.82]、ARR:1.2%、6試験/3万5,217例/確実性:中程度)。・有害作用による中止(7.6% vs.6.2%、RR:0.81[0.75~0.88]、ARR:1.4%、7試験/3万3,908例/確実性:低)。ACE阻害薬と比較したサイアザイド系利尿薬:・全死亡率(RR:1.00[0.95~1.07]、3試験/3万961例/確実性:中程度)。・総心血管イベント(RR:0.97[0.92~1.02]、3試験/3万900例/確実性:低)。・脳卒中(4.7% vs.4.1%、RR:0.89[0.80~0.99]、ARR:0.6%、3試験/3万900例/確実性:中程度)、CHD(RR:1.03[0.96~1.12]、3試験/3万900例/確実性:中程度)、心不全(RR:0.94[0.84~1.04]、2試験/3万392例/確実性:中程度)。・有害作用による中止(3.9% vs.2.9%、RR:0.73[0.64~0.84]、ARR:1.0%、3試験/2万5,254例/確実性:中程度)。α遮断薬と比較したサイアザイド系利尿薬:・全死亡率(RR:0.98[0.88~1.09]、1試験/2万4,316例/確実性:中程度)。・総心血管イベント(12.1% vs.9.0%、RR:0.74[0.69~0.80]、ARR:3.1%、2試験/2万4,396例/確実性:中程度)。・脳卒中(2.7% vs.2.3%、RR:0.86[0.73~1.01]、ARR:0.4%、2試験/2万4,396例/確実性:中程度)、CHD(RR:0.98[0.86~1.11]、2試験/2万4,396例/確実性:低)、心不全(5.4% vs.2.8%、RR:0.51[0.45~0.58]、ARR:2.6%、1試験/2万4,316例/確実性:中程度)。・有害作用による中止(1.3% vs.0.9%、RR:0.70[0.54~0.89]、ARR:0.4%、3試験/2万4,772例/確実性:低)。 著者らは、本結果を以下のようにまとめている。・利尿薬と他のクラスの降圧薬の間で、おそらく死亡率に差はない。・利尿薬はβ遮断薬と比較して、心血管イベントをおそらく減少させる。・利尿薬はCa拮抗薬と比較して、心血管イベントと心不全をおそらく減少させる。・利尿薬はACE阻害薬と比較して、脳卒中をおそらくわずかに減少させる。・利尿薬はα遮断薬と比較して、心血管イベント、脳卒中、心不全をおそらく減少させる。・利尿薬はβ遮断薬、Ca拮抗薬、ACE阻害薬、α遮断薬と比較して、有害作用による中止がおそらく少ない。

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考えがまとまらない【Dr. 中島の 新・徒然草】(488)

四百八十八の段 考えがまとまらない暑いですね。外に出る気がしません。毎日いるのは家か車か病院のどれか。ひたすらクーラーの効いたところで過ごしています。ただ、ベランダに干した洗濯物がよく乾くのだけは助かりますね。さて、先日来院した患者さんは30代の男性。主訴は頭痛、動悸、息切れ、微熱でした。これらの症状がひどいので会社を休んでいます。で、不明熱として当院の総合診療科に紹介されてきました。すでに前医で、レントゲンや心電図に加えて、膠原病スクリーニングや腫瘍マーカーを含む採血などがやり尽くされています。診断を付けるために私ができることなんか何も残っていません。なので、改めて病歴を確認しました。1ヵ月前に39度台の発熱が2~3日続いたそうです。それでコロナの検査をしたが、陰性でした。その後、熱は下がったのですが本調子になれません。仕事は現場の監督ですが、時には深夜近くに及びます。体がついていかないので、定時上がりの内勤に変えてもらいました。それでも倦怠感が続き、ついに休むに至ったとのこと。一番つらい症状は、体を動かした時の息切れと動悸。30代なのに走ったり階段を上ったりする気にはならないそうです。いくつかの医療機関を受診し、頻脈に対してβ遮断薬を処方されました。が、薬を飲んでも一向に良くなった気がしません。いろいろな医療機関を受診した後に、当院の総合診療科にたどり着きました。患者「仕事に戻りたいという気はあるんですけど、考えがまとまらなくて」中島「内勤の仕事に慣れていないのでしょうか?」患者「いや、前にも経験があるんで、そんなに難しい仕事ではないですね」中島「なるほど」患者「家でも物を考えるのが面倒になってしまって何もできないんですよ」息切れと動悸だけなら心臓や肺の疾患、もしくは貧血なども考えられます。でも考えがまとまらないという脳の症状もあるということは……ひょっとしてコロナ後遺症かも?確かにコロナ検査は陰性でした。しかし、検査の感度は70%しかありません。つまり、およそ3分の1のコロナは検査で見逃されるわけです。だから偽陰性だったのかも。そう考えると話の辻褄が合います。中島「もしかするとコロナ後遺症かもしれませんね。少し体調が良くなったとしても、あまり無理しないほうがいいですね」患者「会社のほうも休みにくくなってきたんで、そろそろ出勤したいんですよ」中島「内勤だったら何とかなりそうですか」患者「ええ」ということで「COVID-19後遺症:今後3ヵ月間の時間外勤務・出張を控えること」という診断書を作成しました。会社のほうはいいとして、もう1つの懸念が残っています。中島「家でゴロゴロすることを奥さんが許してくれるでしょうか」そう尋ねてみました。患者「理解してくれる……はずですけど」患者さんは目に見えて動揺しています。中島「お子さんは何歳でしたか?」患者「5歳と2歳です」中島「『育児で大変なのに、旦那は何もしてくれない』と奥さんに思われたりしませんかね」いくらご主人が会社で一生懸命働いているといっても、人というのは自分の目に入った情報だけで判断しがちです。患者「先生にそう言われると、だんだん心配になってきました」中島「まあ、そこはよく話し合って頑張ってください」第9波になってコロナ症例は増え続けています。その一方で、コロナ後遺症もよく目にするようになりました。若者にも軽症者にも起こるから厄介です。コロナをただの風邪と呼べるのは、もう少し先になりそうですね。最後に1句猛暑でも 頭の中は まだコロナ

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『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023』改訂のポイント/日本腎臓学会

 6月9日~11日に開催された第66回日本腎臓学会学術総会で、『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023』が発表された。ガイドラインの改訂に伴い、「ここが変わった!CKD診療ガイドライン2023」と題して6名の演者より各章の改訂ポイントが語られた。「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023」第1~3章の改訂ポイント第1章 CKD診断とその臨床的意義/小杉 智規氏(名古屋大学大学院医学系研究科 腎臓内科学)・実臨床ではeGFR 5mL/分/1.73m2程度で透析が導入されていることから、CKD(慢性腎臓病)ステージG5※の定義が「末期腎不全(ESKD)」から「高度低下~末期腎不全」へ変更された。・国際的に用いられているeGFRの推算式(MDRD式、CKD-EPI式)と区別するため、日本人におけるeGFRの推算式は「JSN eGFR」と表記する。・一定の腎機能低下(1~3年間で血清Cr値の倍化、eGFR 40%もしくは30%の低下)や、5.0mL/分/1.73m2/年を超えるeGFRの低下はCKDの進行、予後予測因子となる。※GFR<15mL/分/1.73m2第2章 高血圧・CVD(心不全)/中川 直樹氏(旭川医科大学 内科学講座 循環・呼吸・神経病態内科学分野)・蛋白尿のある糖尿病合併CKD患者においては、ACE阻害薬/ARBの腎保護に関するエビデンスが存在するが、蛋白尿のないCKD患者においては、糖尿病合併の有無にかかわらず、ACE阻害薬/ARBの優位性を示す十分なエビデンスがない。したがって、ACE阻害薬/ARBの投与は糖尿病合併の有無ではなく、蛋白尿の有無を参考に検討する。・CKDステージG4※、G5における心不全治療薬の推奨クラスおよびエビデンスレベルが『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023』では次のとおり明記された。ACE阻害薬/ARB:2C、β遮断薬:2B、MRA:なしC、SGLT2阻害薬:2C、ARNI:2C、イバブラジン:なしD。※eGFR 15~29mL/分/1.73m2第3章 高血圧性腎硬化症・腎動脈狭窄症/大島 恵氏(金沢大学大学院 腎臓内科学)・2018年版では「腎硬化症・腎動脈狭窄症」としていたが、『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023』では「高血圧性腎硬化症・腎動脈狭窄症」としている。高血圧性腎硬化症とは、持続した高血圧により生じた腎臓の病変である。・片側性腎動脈狭窄を伴うCKDに対する降圧薬として、RA系阻害薬はそのほかの降圧薬に比べて末期腎不全への進展、死亡リスクを抑制する可能性がある。ただし、急性腎障害発症のリスクがあるため注意が必要である。・動脈硬化性腎動脈狭窄症を伴うCKDに対しては、合併症のリスクを考慮し、血行再建術は一般的には行わない。ただし、治療抵抗性高血圧などを伴う場合には考慮してもよい。「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023」で腎性貧血を伴う患者のHb目標値が改定第4章 糖尿病性腎臓病/和田 淳氏(岡山大学 腎・免疫・内分泌代謝内科学)・尿アルブミンが増加すると末期腎不全・透析導入のリスクが有意に増加することから、糖尿病性腎臓病(DKD)患者では定期的な尿アルブミン測定が強く推奨される。・DKDの進展予防という観点では、ループ利尿薬、サイアザイド系利尿薬の使用について十分なエビデンスはない。体液過剰が示唆されるDKD患者ではループ利尿薬、尿アルブミンの改善が必要なDKD患者ではミネラルコルチコイド受容体拮抗薬が推奨される。・糖尿病患者においては、DKDの発症、アルブミン尿の進行抑制が期待されるため集約的治療が推奨される。・DKD患者に対しては、腎予後の改善と心血管疾患発症抑制が期待されるため、SGLT2阻害薬の投与が推奨される。第9章 腎性貧血/田中 哲洋氏(東北大学大学院医学系研究科 腎・膠原病・内分泌内科学分野)・PREDICT試験、RADIANCE-CKD Studyの結果を踏まえて、腎性貧血を伴うCKD患者での赤血球造血刺激因子製剤(ESA)治療における適切なHb目標値が改定された。『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023』では、Hb13g/dL以上を目指さないこと、目標Hbの下限値は10g/dLを目安とし、個々の症例のQOLや背景因子、病態に応じて判断することが提案されている。・「HIF-PH阻害薬適正使用に関するrecommendation(2020年9月29日版)」に関する記載が追記された。2022年11月、ロキサデュスタットの添付文書が改訂され、重要な基本的注意および重大な副作用として中枢性甲状腺機能低下症が追加されたことから、本剤投与中は定期的に甲状腺機能検査を行うなどの注意が必要である。第11章 薬物治療/深水 圭氏(久留米大学医学部 内科学講座腎臓内科部門)・球形吸着炭は末期腎不全への進展、死亡の抑制効果について明確ではないが、とくにCKDステージが進行する前の症例では、腎機能低下速度を遅延させる可能性がある。・代謝性アシドーシスを伴うCKDステージG3※~G5の患者では、炭酸水素ナトリウム投与により腎機能低下を抑制できる可能性があるが、浮腫悪化には注意が必要である。・糖尿病非合併のCKD患者において、蛋白尿を有する場合、腎機能低下の進展抑制、心血管疾患イベントおよび死亡の発生抑制が期待できるため、SGLT2阻害薬の投与が推奨される。・CKDステージG4、G5の患者では、RA系阻害薬の中止により生命予後を悪化させる可能性があることから、使用中のRA系阻害薬を一律には中止しないことが提案されている。※eGFR 30~59mL/分/1.73m2 なお、同学会から、より実臨床に即したガイドラインとして、「CKD診療ガイド2024」が発刊される予定である。

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早期発見、早期治療!心アミロイドーシス治療の今とこれから【心不全診療Up to Date】第10回

第10回 早期発見、早期治療!心アミロイドーシス治療の今とこれからKey Points早期発見がなぜ重要か?心アミロイドーシスに対して今できる治療は?心アミロイドーシス治療のこれから早期発見がなぜ重要か?〜心アミロイドーシス治療の今とこれから〜前回は心アミロイドーシスの種類や特徴、有病率などに触れた。今回は早期発見の意義について触れていこう。早速だが、心アミロイドーシスの早期発見がなぜ必要なのだろうか。その理由はただ一つ、早期に治療を開始すればするほど、治療のメリットが大きいからである。ではなぜ早期治療のメリットが大きいかというと、アミロイドが沈着する過程を治療するには、『アミロイド前駆蛋白の産生やアミロイド線維の集積を阻害するか』『臓器に一旦沈着したアミロイドの除去を促すか』が標的となるが、現在われわれができる治療は前者のみで、後者は最近ようやく第I相試験の結果が出たところで1)、まだ日常診療には使用できない。つまり、今できる治療は今以上にアミロイドを沈着させないようにするしかないため、まだ臓器へのアミロイド沈着が少ない早期から治療を開始したほうが、予後改善効果が高いというわけである。それでは、具体的な治療法をみていこう。心アミロイドーシスの治療は、(1)合併症の治療と予防、(2)特異的な治療によるアミロイド沈着の停止または遅延、の2つに大きく分けられる。心アミロイドーシスの合併症への対策は、心不全以外にも、不整脈、伝導障害、血栓塞栓症、重度大動脈狭窄症に対する治療など、注意すべきものがさまざまあり、詳細は図5をご覧いただきたい。(図5)心アミロイドーシスの心臓合併症と併存疾患の治療画像を拡大するとくに、心不全を伴う場合、『心不全予後改善薬の投与をどうするか』はとても重要なポイントである。実臨床において、どの薬剤がどのように使用され、予後との関連はどうであるか、という点について、最近イギリスから興味深い報告があった2)。この研究は、2000~22年にNational Amyloidosis CentreでATTR心アミロイドーシスと診断された2,371例(平均年齢:78歳、男性:90%、ATTRwt:78%、平均LVEF:48%)を対象に、心不全予後改善薬(β遮断薬、RAS阻害薬[ACEi/ARB]、MR拮抗薬)の処方パターン、用量、中断率と予後との関連を調べたものである。その結果は図6の通りであるが、とくに予後との関連が興味深い。それぞれの処方率は、β遮断薬が55%、RAS阻害薬が57%、MR拮抗薬が39%で、β遮断薬とRAS阻害薬はしばしば中断されていたが、低用量のβ遮断薬は、HFrEF(EF≦40%)患者の死亡リスク軽減と関連していた。一方、MR拮抗薬はほとんどの症例で継続されており、すべての心不全症例(とくにEF>40%)に対して死亡リスク軽減と関連していた。もちろん、前向きRCTで確認する必要があるが、とても重要な報告であると考える。(図6)ATTR心アミロイドーシスに対する心不全従来治療と予後の関連画像を拡大するそして、近年の医学の進歩により、心アミロイドーシスに対する特異的な治療も出てきている。その治療法は心アミロイドーシスの病型により異なるため、病型ごとに説明していく。ALアミロイドーシスまず、ALアミロイドーシスに対する特異的な治療の基本は、アミロイド前駆蛋白であるFLC(free light chain)の産生を抑制することであり、基礎となる血液疾患に対する治療法に大きく依存している3,4)。具体的には、骨髄でモノクローナルに増殖しているCD38陽性形質細胞を選択的に攻撃する抗体薬であるダラツムマブ、プロテアソームを阻害する分子標的薬であるボルテゾミブ、シクロホスファミド、デキサメタゾン、メルファランなどの薬剤や自己末梢血幹細胞移植も治療の選択肢になるが、さらなる詳細は成書に譲ることとする。ATTRアミロイドーシス次に、ATTRアミロイドーシスに対する治療について、TTRの歴史とTTRアミロイド線維生成経路を見ながら考えていこう(図7)。(図7)ATTR心アミロイドーシス治療の今とこれから画像を拡大するTTRは127アミノ酸残基からなる血漿タンパク質で、ホモ四量体として肝臓で産生され、血液中においても四量体として存在する。1940年代後半から1950年代前半にかけて発見されたTTRは、栄養状態の指標として用いられていたことから、以前はプレアルブミンと呼ばれていた。この名前は、ゲル電気泳動でアルブミンよりも先に移動することに由来する。プレアルブミンはサイロキシンとレチノール結合タンパク質の輸送を行うことがその後にわかり、1980年にTTRという名称が正式に採用された5)。TTRがアミロイドを形成するには、自然構造である四量体から単量体への解離と単量体の変性が必要であることから、ATTRアミロイドーシスに対する特異的な治療としては、変異型および野生型TTRの産生を特異的に抑制する薬剤(TTR silencers)と、TTRの四量体を安定化し、単量体への解離を抑制する薬剤(TTR stabilizers)がある。なお、アミロイド線維を除去し、組織浸潤を回復させる薬剤(抗TTR抗体製剤)は現在第I相試験が終了1)したところで、まだ実用化には至っていないが、画期的な薬剤であり、今後の展開が大変期待されている(図7)。ちなみに、従来のTTR(プレアルブミン)測定法は、四量体のみを測定するものであるため、ATTRアミロイドーシス症例では血中TTR濃度は低下し、後で述べるTTR安定化薬投与後は上昇することになり、早期診断や予後予測に有用となる可能性があるという報告もある6,7)。これらの薬剤のなかで、RCTで効果が検証された最初の薬剤がタファミジスであり、現在本邦でも生存期間が十分に見込まれるATTR心アミロイドーシス患者に対して2019年3月から保険適用されている。タファミジスは、TTR四量体の2つのサイロキシン結合部位に結合し、その四量体構造を安定化させ、アミロイド形成を抑制するTTR安定化薬(TTR stabilizers)である。第III相ATTR-ACT試験(年齢中央値:75歳、男性:90%)では、ATTRvまたはATTRwt心筋症患者(ATTRwt:76%)において、プラセボと比較して、治療30ヵ月後に全死亡および心血管関連入院が30%減少し、QOL低下が緩やかになることが示された9)。つまり、ATTR-ACT試験は、(1)HFpEFにおける死亡率および心不全入院の減少が初めて示された薬物療法(2)ATTRアミロイドーシスにおける死亡率と病的状態の減少が初めて示された薬物療法(3)末梢性や神経ホルモン調節ではなく心筋に対して中心的に作用してハードエンドポイントへの効果を実証した初めての心不全治療薬これら“3つの初めて”を成し遂げた試験と言える8)。ただし、タファミジスはかなり高額な薬剤(2020年当時、1カプセル43,672.8円、年間の薬剤費は1人あたり6,376万円)であり、米国からも費用対効果に関する論文が発表9)され、費用対効果を高めるためには、92.6%(ビックリ!)の薬価引き下げが必要との報告もあるくらいであり、費用対効果もしっかり考えて処方すべき薬剤であろう。なお、同じTTR安定化薬であるAG10についても、症候性ATTR心筋症患者を対象に、第III相試験(ATTRibute-CM)が現在進行中である。また、TTR silencersとしては、TTR mRNAを選択的に分解して、遺伝子レベルでTTRの産生を特異的に抑制するsiRNA製剤(核酸医薬)であるパチシランが、ATTRvアミロイドーシスの治療薬として本邦でも2019年6月から保険適用されている。そして、現在ATTRwtも含めたATTR心筋症患者に対するパチシランの有効性を検証する第III相試験(APOLLO-B)が進行中である。そして、冒頭でも少し述べた通り、最も切望されている図7の(3)に相当する治療、つまり、抗体を介したATTR線維の貪食と組織からのATTR沈着物の除去を誘導することにより、ATTRを消失させる画期的な治療薬(遺伝子組換えヒト抗ATTRモノクローナルIgG1抗体)の研究も進みつつあり、今年5月に第I相試験(first-in-human)の結果がなんとNEJM誌に掲載され、安全性が確認された1)。その論文には実際に薬剤を使用した患者の画像所見が掲載されているが、沈着したアミロイドが除去されていることを示唆する所見が認められており、今後の第II相、第III相試験の結果が期待される。以上、今回は、早期診断、早期治療がきわめて重要な心アミロイドーシスを取り上げてみた。ぜひ明日からの診療に活かしていただければ幸いである。1)Garcia-Pavia P, et al. N Engl J Med. 2023 May 20.[Epub ahead of print]2)Ioannou A, et al. Eur Heart J. 2023 May 22. [Epub ahead of print]3)Palladini G, et al. Blood. 2016;128:159-168.4)Garcia-Pavia P, et al. Eur Heart J. 2021;42:1554-1568.5)Robbins J, et al.Clin Chem Lab Med. 2002;40:1183-1190.6)Hanson JLS, et al. Circ Heart Fail. 2018;11:e004000.7)Greve AM, et al. JAMA Cardiol. 2021;6:258-266.8)Maurer MS, et al. N Engl J Med. 2018;379:1007-1016.9)Kazi DS, et al. Circulation. 2020;141:1214-1224.

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心アミロイドーシス、本当に除外できていますか?【心不全診療Up to Date】第9回

第9回 心アミロイドーシス、本当に除外できていますか?Key Points心臓に影響を及ぼすアミロイドーシスには、どんな種類がある?最近話題のATTRアミロイドーシスって、なに?まずは疑い、早期発見!~心アミロイドーシス診断の今とこれから~はじめに心アミロイドーシスとは、心臓の間質にアミロイドと呼ばれる不溶性の異常な線維が沈着して機能障害を引き起こす、重篤で進行性の浸潤性疾患である。そのアミロイドが形成されるために必要なアミロイド前駆蛋白は、現在30種類以上同定されているが、心アミロイドーシスを来す病型は、異常形質細胞により産生されたモノクローナルな免疫グロブリン軽鎖由来のアミロイドが全身諸臓器に沈着する免疫グロブリン性(AL, amyloid light chain)アミロイドーシス、トランスサイレチン(TTR, transthyretin) を前駆蛋白とするアミロイドが全身諸臓器に沈着するATTRアミロイドーシスのどちらかで98%以上を占める1)(図1、表1)。(図1)心臓に影響を及ぼすアミロイドーシスは、主にこの2種類画像を拡大するそしてATTRアミロイドーシスの中に、TTR遺伝子に変異のある遺伝性トランスサイレチン(ATTRv, hereditary transthyretin)アミロイドーシス(常染色体優性の遺伝性疾患)と、変異のない野生型トランスサイレチン(ATTRwt, wild-type transthyretin)アミロイドーシス(旧病名:老人性全身性アミロイドーシス)が存在する(表1)。(表1)心アミロイドーシスの主な種類とその特徴画像を拡大する画像診断技術や非侵襲的な診断方法の進歩のおかげで、そのほかの疾患で偶然診断されることも少なくなく(図2)、心アミロイドーシスは従来考えられていたよりも頻度の高い疾患であることがわかってきている。とくに近年症例数が増加している病型は、高齢者に多いATTRwtアミロイドーシスである2,3)(後述の表3で説明)。(図2)さまざまな場面における心アミロイドーシスの有病率画像を拡大するそして、心アミロイドーシスといえば、早期発見、早期治療がきわめて重要な疾患であるが、それはなぜか。その理由を含め、心アミロイドーシスの今とこれからについて皆さまと共有したい。まずは疑い、早期発見!~心アミロイドーシス診断の今とこれから~心アミロイドーシスを見逃さず早期発見するための症状やポイントを表2、図3にまとめた。(表2)心アミロイドーシスをいつ疑うか画像を拡大する臨床症状は多様であるが、まずは心アミロイドーシスのRed Flagsをしっかり把握しておくことが重要である。左室壁肥厚があるにもかかわらず心電図上は低電位を呈する、ACE阻害薬やβ遮断薬などの心不全治療薬に抵抗性であるなど、表2に詳細を記載したので、ぜひご確認いただきたい。それ以外にも、ATTRアミロイドーシスやALアミロイドーシスを疑う所見も表2、図3に記載した。このように、病歴、血液検査、心電図、心エコー図検査などを参考にしながら、「まずは疑う」という姿勢こそが見逃さないためにきわめて重要である(表3)。(表3)トランスサイレチン型心アミロイドーシス(ATTR-CM)は稀ではない!画像を拡大するそして、臨床的に心アミロイドーシスを疑われた場合(表2、図3)、本当に心アミロイドーシスか、アミロイドーシスであれば、どの病型かを診断していくこととなる。その診断アルゴリズムを最新の文献を参考に図4にまとめたので、これを基に診断方法を解説していく。なお、本邦の「2020年版 心アミロイドーシス診療ガイドライン」にも大変わかりやすい診断アルゴリズムが掲載されており、ぜひこちらも一読いただきたい。(図3)心アミロイドーシスの症状画像を拡大する(図4)心アミロイドーシスの診断アルゴリズム4,5)画像を拡大する心アミロイドーシスを疑った場合、まず行うべきことは、治療可能なALアミロイドーシス(未治療の場合、急速に進行する致命的な疾患!)の除外である。ALアミロイドーシスは、骨髄中のクローナルな(腫瘍化した)形質細胞の過剰増殖によるもので、通常、血清または尿中にモノクローナル蛋白(M蛋白)が検出される。この疾患は、意義不明の単クローン性免疫グロブリン血症(MGUS, monoclonal gammopathy of undetermined significance)、くすぶり型骨髄腫(SMM, smoldering multiple myeloma)、多発性骨髄腫(MM, multiple myeloma)にまたがる疾患群の一部である。MGUSは、クローナルな形質細胞のわずかな過剰増殖(骨髄中のクローナルな形質細胞比率<10%)によるものであり、血清M蛋白が3g/dL未満で、クローンに関連する臓器障害(CRAB [高Ca血症:calcium、腎不全:renal、貧血:anemia、溶骨性骨病変:bone]など)がないと定義される。SMMは、骨髄形質細胞または血清M蛋白のいずれか(または両方)が基準値を超えているが、臓器障害がない患者を指す。そして、最終的には臓器障害(CRAB)を合併し、MMとなる。定義上、ALアミロイドーシスは、MGUSとSMMのいずれにも該当しないが、AL患者の骨髄やM蛋白はそれらの定義に合致している。重要な点は、AL患者は、心筋障害、腎障害、神経障害、肝障害などの臓器障害を有し、化学療法を必要とするということである。治療の詳細は後編で述べる。現在、ALアミロイドーシスを除外するための最も効率的で効果的な方法は、血清および尿蛋白免疫固定電気泳動法(IFE, immunofixation electrophoresis)、血清遊離軽鎖(sFLC, serum free light chain)アッセイ、この3つの簡易検査を行うことである。血清および尿のIFEでM蛋白が検出されず、sFLCアッセイが正常(κ/λ比:0.26~1.65)であれば、ALアミロイドーシスを除外するための陰性的中率は約99%となる(なお、sFLCの正常値は、使用するアッセイによって異なる)6,7)。なお、これらの検査が陽性であれば、生検が必要であり、今後の早期治療も踏まえて早急に血液内科へコンサルトする。一方、これらの検査が陰性であれば、次に行うべき検査は、ピロリン酸シンチグラフィ(99mTc-PYP)である。その結果、視覚的評価法のGrade2(肋骨と同等の心臓への中等度集積)もしくはGrade3(肋骨よりも強い心臓への高度集積)、心/対側肺野比(H/CL比)≧1.5(1時間後撮影)もしくは1.3(3時間後撮影)であれば、ATTRアミロイドーシスと診断される8)。ただし、Grade2の症例では、ALや血液プールへの生理的集積を鑑別する必要があるため、プラナー撮影にSPECT撮影をできる限り追加し、心筋や血液プールへの集積をより正確に評価することが推奨されている8,9)。そして最後にTTR遺伝子解析を行い、ATTRvかATTRwtかを診断する。以上、診断アルゴリズムについて詳しく説明してきたが、最後に少し心アミロイドーシス診断のこれからについて、述べてみたい。近年、人工知能・深層学習モデルを用いて心電図や心エコー図検査から心アミロイドーシスを自動検出する技術の進歩が凄まじく、かなりの精度で完全自動診断できるという報告10)や、機械学習モデルを用いて電子カルテ情報からATTRwtアミロイド心筋症のリスク評価を自動で行い、早期診断に繋げるという報告がある11)。このように、心アミロイドーシスが早期に自動診断される時代はすぐそこに来ており、わが国においても、いち早くこのようなシステムが導入されることが望まれる。以上、今回は心アミロイドーシスとはどういったもので、診断をどうすべきかについて述べてきた。次回は、心アミロイドーシスの最新治療を含めた治療の今とこれからについて詳しくまとめていきたいので、乞うご期待。第10回につづく。1)Benson MD, et al. Amyloid. 2018;25:215-219.2)Ruberg FL, et al. J Am Coll Cardiol. 2019;73:2872-2891.3)Aimo A, et al. Eur J Heart Fail. 2022;24:2342-2351.4)Hanna M, J Am Coli Cardiol. 2020;75:2851-2862.5)Kittleson MM, et al. J Am Coll Cardiol. 2023;81:1076-1126.6)Katzmann JA, et al. Clin Biochem Rev. 2009;30:105-111.7)Katzmann JA, et al. Clin Chem. 2002;48:1437-1444.8)Dorbala S, et al. J Nucl Cardiol. 2019;26:2065-2123.9)Singh V, et al. J nucl Cardiol. 2019;26:158-173.10)Goto S, et al. Nat Commun. 2021;12:2726.11)Huda A, et al. Nat Commun. 2021;12:2725.

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心不全の入院後30日死亡率、国の経済レベルで3~5倍/JAMA

 世界40ヵ国の心不全(HF)患者2万3,341例を登録したG-CHFレジストリ研究の結果、HFの病因、治療、転帰には国の経済レベルによって差があることを、カナダ・マックマスター大学のPhilip Joseph氏らG-CHF Investigatorsが報告した。HFに関する疫学研究の多くは高所得国で実施されており、中・低所得国での比較可能なデータは限られていた。著者は、「今回のデータは、世界的にHFの予防と治療の改善に取り組むうえで有用と考えられる」とまとめている。JAMA誌2023年5月16日号掲載の報告。高・高中・低中・低所得国の、HFの原因、治療、入院、死亡を比較 研究グループは、経済発展のレベルが異なる国々の間で、HFの病因、治療、転帰にどのような違いがあるかを検討する目的で、2016~20年に5大陸40ヵ国の257施設からHF患者2万3,341例を登録し、前向きに追跡調査を行った。今回の解析では、2022年8月10日以前に記録された追跡調査期間中央値2.0年間のイベントに関する評価を行った。 40ヵ国の内訳は、研究開始時の世界銀行分類に基づき、高所得国17ヵ国8,691例(カナダ、米国、チリ、アイスランド、スウェーデン、アイルランド、英国、デンマーク、ドイツ、ポーランド、フランス、スイス、イタリア、ポルトガル、スペイン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦)、高中所得国10ヵ国5,793例(メキシコ、コロンビア、エクアドル、ブラジル、アルゼンチン、ロシア、トルコ、中国、ボツワナ、南アフリカ共和国)、低中所得国9ヵ国6,947例(ウクライナ、エジプト、スーダン、ナイジェリア、カメルーン、ケニア、パキスタン、インド、フィリピン)、低所得国4ヵ国1,910例(ウガンダ、タンザニア、モザンビーク、ネパール)である。 主要評価項目は、HFの原因、HF治療薬の使用、入院、死亡とした。低所得国で、標準的HF治療の割合が低く、死亡率が高い 登録患者の平均(±SD)年齢は63.1±14.9歳、9,119例(39.1%)は女性であった。 HFの原因として最も多かったのは虚血性心疾患(38.1%)、次いで高血圧(20.2%)、特発性拡張型心筋症(15.4%)であった。高所得国、高中所得国、低中所得国では虚血性心疾患が最も多い原因であり、低所得国では高血圧が最も多い原因であった。 駆出率が低下したHF患者(左室駆出率が40%以下)の治療では、β遮断薬、レニン・アンジオテンシン系阻害薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬を併用している患者の割合は、高所得国(51.1%)と高中所得国(61.9%)で高く、低中所得国(39.5%)と低所得国(45.7%)で低かった(p<0.001)。 100人年当たりの年齢・性別標準化死亡率は、高所得国が7.8(95%信頼区間[CI]:7.5~8.2)で最も低く、高中所得国9.3(8.8~9.9)、低中所得国15.7(15.0~16.4)、低所得国が19.1(17.6~20.7)で最も高かった。ベースラインの患者特性および慢性HF治療薬の使用に関して補正後も、死亡リスクは高所得国と比較し、低中所得国(ハザード比[HR]:1.48、95%CI:1.37~1.60)および低所得国(2.10、1.90~2.33)で有意に高いままであった。 高所得国および高中所得国では初回入院率が死亡率より高く(死亡に対する入院の比率:それぞれ3.8、2.4)、低中所得国では同程度(同1.1)、低所得国では初回入院率より死亡率が高かった(同0.6)。 初回入院後30日死亡率は、高所得国が6.7%と最も低く、次いで高中所得国9.7%、低中所得国21.1%で、低所得国が31.6%と最も高かった。ベースラインの患者特性および慢性HF治療薬の使用に関して補正後も、初回入院後30日死亡のリスクは高所得国に比べて低中所得国および低所得国で3~5倍高かった。

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心不全患者とポリファーマシーの本質を考える【心不全診療Up to Date】第8回

第8回 心不全患者とポリファーマシーの本質を考えるKey Pointsポリファーマシーの「質」と「量」を考えるポリファーマシーへの対策潜在的不適切処方、有害事象を起こす可能性のある薬剤はないか?本気の多職種連携で各施設・地域に合った効率良い対策を考えるはじめにこれまで、心不全患者において、診療ガイドラインに準じた標準的心不全治療(guideline-directed medical therapy:GDMT)を行うことの重要性を詳しく説明してきた。ただ、その際、常に議論となるのが、ポリファーマシー(多剤併用)問題である。この問題の本質は何か、そしてその対策としてすぐにできることは何か、本稿ではこのポリファーマシーを取り上げてみたい。 ポリファーマシーの「質」と「量」を考えるポリファーマシーを考える上で大切になってくるのが、「質」と「量」という視点である。「質」的なポリファーマシーとは、臨床的に必要とされる以上に多くの薬剤を処方されている状態であり、「量」的なポリファーマシーとは、5種類以上の薬剤内服と定義される。「量」的なポリファーマシーの中でも、10種類以上を内服している場合を“ハイパーポリファーマシー”と呼ぶが、TOPCAT試験(EF≥45%、平均69歳)のサブ解析1)にて、このような症例では入院のリスクが1.2倍であったという報告もあり(図1)、数が多いということも予後に大きく関連することがわかっている。つまり、「質」と「量」の両面から、このポリファーマシーというものをしっかり考えることが、薬剤数を適切に減らすうえで、極めて重要となる。(図1)心不全患者のポリファーマシー画像を拡大するでは、「質」的なポリファーマシーを考えるうえで何が一番重要となるか。それは、患者の生命予後やQOLに最も影響を及ぼす疾患・病態をしっかり把握し、薬剤の中でもできる限りの優先順位をつけておくことであろう。この連載のテーマは、心不全診療であるので、今回は、患者の生命予後やQOLに最も影響を及ぼすものが心不全である場合を考えていきたい。たとえば、駆出率の低下した心不全(HFrEF)患者においては、第1回で説明した通り、生命予後・QOL改善のために、原則4剤(RAS阻害薬/ARNi、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬)の投与が推奨されており、どれだけ薬剤数が多くて何かを減らしたいとしても、この4剤は原則最後まで残しておくべきである。もちろん、食事摂取状況やADLなどの患者背景、腎機能などの検査所見などから、この4剤のうちどれかを中止せざるを得ない場面に遭遇することもあるが、安易な中断はかえって予後を悪化させるリスクもあり、注意が必要である。さらに例えて言うと、高カリウム血症よりも心不全予後改善薬を中止するほうが、長期的には予後やQOLを悪化させる可能性もあり2)、一旦中止してもその後に再開できないかを常に検討することが重要と考えられる。そして、もしその4剤の中のどれか1つでも投与開始や再開を見送る場合は、その薬剤を『投与しないリスク』についても患者側としっかり共有しておくことも忘れてはならない。そして、ポリファーマシーを考える上で、もう一つのキーとなる言葉が、『服薬アドヒアランス』である。この大きな原因は、患者自身がなぜその薬剤を飲んでいるか理解していないことが挙げられる。ある研究では、心不全患者の41%において、服薬アドヒアランスの低下を認め、この群では、アドヒアランス良好な群と比較して、心不全入院または死亡のリスクが2.2倍に上昇していたと報告されている3) 。つまり、ポリファーマシー対策を考える上で、患者といかに共同意思決定(Shared Decision Making)を行うか、など服薬アドヒアランス向上のための戦略もセットで、それぞれの施設や地域に適した形で考えることも大変意義のあることである。では少し具体的な対策について考えてみたい。ポリファーマシーへの対策1. 潜在的不適切処方(Potentially inappropriate medications:PIMs)、有害事象を起こす可能性がある薬剤(Potentially harmful drug:PHD)はないか?ポリファーマシー改善の第一歩は、PIMsがないか、適宜、処方されているすべての薬剤の見直しを行うことである。とくに、外来主治医が一人ではない場合、システム上それが漏れてしまうことが多く、年に1回でもよいので、総点検を実施することが大切である(できれば病院のシステムとして)。その際に参考となるプロトコル、アルゴリズムを表と図2に示す。(表)処方中止プロトコル画像を拡大する(図2)処方薬の中止/継続を判断するためのアルゴリズム画像を拡大するこのようなものをベースに、それぞれの施設に合った形で実施していただければ、大変効果的であると考える。そして、もう一つ重要なのが、心不全患者で注意すべき有害事象を起こす可能性がある薬剤(PHD)を服用していないか、ということにも注意を払うことである。その薬剤については、米国のガイドラインに明記されており、(1)抗不整脈薬、(2)Ca拮抗薬(アムロジピン以外)、(3)NSAIDs、(4)チアゾリジン薬(商品名:アクトスほか)である10)。とくに、抗不整脈薬は、加齢に伴い生理・代謝機能が低下することで、体内の薬物動態が変化し、本来の目的ではない催不整脈作用や併用薬の相互作用が顕在化するリスクがあるので、きわめて注意が必要である。また、NSAIDsは、腎臓の血管拡張を抑制(低下)させる腎プロスタグランジンの合成を阻害し、太いヘンレ係蹄上行脚や集合管でのナトリウム再吸収を直接阻害することで、ナトリウムと水分の貯留を引き起こし、利尿薬の効果を鈍らせる可能性がある4-9)。いくつかのコホート研究にて、心不全患者がNSAIDsを使用することで罹患率、死亡率が増加すること、また2型糖尿病患者のデータで、1ヵ月以内の短期のNSAIDsの使用であっても、その後の心不全新規発症率上昇と有意に関連していたという報告も最近されており、たとえ短期の使用であっても定期内服はかなり注意が必要と言える11)。 なお、心不全入院からの退院後90日以内に処方された潜在的有害薬物と再入院・死亡との関連をみた観察研究によると、潜在的有害薬物が実際に処方されていた割合は約12%で、最も頻繁に処方されていた薬剤はNSAIDs(6.7%)であった。次に多かったのが、非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬(4.7%)で、Ca拮抗薬はその後の再入院とも有意に関連していた12)。これらのことから、とくに高齢心不全患者では、上記4種の薬剤のなかでも、抗不整脈薬、NSAIDsの定期投与は、必要最小限に留め、処方する場合も常に中止を検討することが望ましいと考える。2. 本気の多職種連携で、それぞれの施設、地域に合った効率良い対策を考えるこれまで述べてきたポリファーマシー対策を効率よく実施し、それを長続きさせるには、医師だけでできることは時間的にも大変限られており、薬剤師、看護師、心不全療養指導士の皆さまにも積極的に介入してもらえるようなシステム作りが重要と考える。薬剤師による介入は、高齢者における薬剤有害事象のリスクを軽減することに有用であるという報告もあるし13)、これらのスタッフ全員がうまく役割分担をして、尊重し合い、サポートし合いながら、ポリファーマシー対策を実施することが、高齢心不全患者が増加しているわが国ではとくに必要であり、今後その重要性はますます増してくるであろう。このような多職種が介入する心不全の疾病管理プログラムの重要性は本邦の心不全診療ガイドラインでも明記されており14)、ぜひ、年に1回は、『処方薬、総点検週間』を設けるなど、積極的なポリファーマシーへの介入を実施していただければ幸いである。1)Minamisawa M, et al. Circ Heart Fail. 2021;14:e008293.2)Rossignol P, et al. Eur Heart Fail. 2020;22:1378-1389.3)Wu JR, et al. J Cardiovasc Nurs. 2018;33:40-46.4)Gislason GH, et al. Arch Intern Med. 2009;169:141-149.5)Heerdink ER, et al. Arch Intern Med. 1998;158:1108-1112.6)Hudson M, et al. BMJ. 2005;330:1370.7)Page J, et al. Arch Intern Med. 2000;160:777-784.8)Feenstra J, et al. Arch Intern Med. 2002;162:265-270.9)Mamdani M, et al. Lancet. 2004;363:1751-1756.10)Yancy CW, et al. J Am Coll Cardiol. 2013;62:e147-239.11)Holt A, et al. J Am Coll Cardiol. 2023;81:1459–1470.12)Alvarez PA, et al. ESC Heart Fail. 2020;7:1862-1871.13)Vinks THAM, et al. Drugs Aging. 2009;26:123-133.14)日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン:急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)

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HFpEF診療はどうすれば…?(後編)【心不全診療Up to Date】第7回

第7回 HFpEF診療はどうすれば…?(後編)Key Points簡便なHFpEF診断スコアで、まずはHFpEFの可能性を評価しよう!HFpEF治療、今できることを整理整頓、明日から実践!HFpEF治療の未来は、明るい?はじめに近年、HFpEF(heart failure with preserved ejection fraction)は病態生理の理解、診断アプローチ、効果的な新しい治療法の進歩があるにもかかわらず、日常診療においてまだ十分に認識されていない。そのような現状であることから、前回はまず最新の定義、病態生理についてレビューした。そして、今回は、その後編として、HFpEFの診断、そして治療に関して、最新情報を含めながら皆さまと共有したい。 HFpEFの診断スコアってご存じですか?呼吸苦や倦怠感などの心不全徴候を認め、EF≥50%でうっ血を示唆する客観的証拠を認めた場合、HFpEFと診断される1)。そのため、エコーでの拡張障害の評価はHFpEFを診断する上では必要がなく、またNa利尿ペプチド(NP)値が正常であっても、HFpEFを除外することはできないと前回説明した。では、具体的にどのようにして診断を進めていくとよいか、図1を基に考えていこう。(図1)HFpEFが疑われる患者を評価するためのアプローチ方法画像を拡大するまず、原因不明の労作時息切れを主訴に来院された患者に対して、病歴、身体所見、心エコー検査、臨床検査などからHFpEFである可能性を検討するわけであるが、その際に大変参考になるのが、診断のためのスコアリングシステムである。たとえば、米国で開発されたH2FPEFスコアでは、スコア5点以上であれば、HFpEFが強く疑われ(>80% probability)、1点以下であれば、ほぼ除外できる2)。ただし、NP値上昇や心不全徴候を認めるにも関わらず、H2FPEFスコアが低い場合は、アミロイドーシスやサルコイドーシスのような浸潤性心筋症など非典型的なHFpEFの原因疾患を疑う姿勢が重要である点も強調しておきたい(図2)。(図2)HFpEFを発症し得る治療可能な疾患画像を拡大するこれらのスコア算出の結果、HFpEFの可能性が中程度の患者に対しては、運動負荷検査が推奨される。運動負荷検査には、心エコー検査と右心カテーテル検査があるが、診断のゴールドスタンダードは、右心カテーテル検査による安静時および運動時の血行動態評価であり、安静時PAWP≥15mmHgもしくは労作時PAWP≥25mmHg(spine)、もしくは労作時PAWP/心拍出量slope>2mmHg/L/min(upright)を満たせば、HFpEFと診断できる3)。ただ、侵襲的な運動負荷検査は、どの施設でも気軽にできるものではなく、受動的下肢挙上や容量負荷といった代替的な検査法の有用性に関する報告もある4-6)。とくに心エコー検査にて下肢挙上後の左房リザーバーストレインの低下は、運動耐容能の低下とも関連していたという報告もあり、非侵襲的であることから一度は施行すべき検査手法と考えられる7)。なお、脈拍応答不全の診断については、Heart rate reserve([最大心拍数-安静時心拍数]/[220-年齢-安静時心拍数])を算出し、0.8未満(β遮断薬内服時は0.62未満)であれば、脈拍応答不全あり、と一般的に定義される8)。なお、私自身も現在、HFpEF早期診断のためのウェアラブルデバイス開発に取り組んでいるが、今後はより非侵襲的に診断できるようになることが切望される。そして、HFpEFであると診断した後、まず考えるべきことは『原因は何だろうか?』ということである。なぜなら、その鑑別疾患の中には治療法が存在するものもあるからである(図2)。アミロイドーシスを疑うような手根管症候群や脊柱管狭窄症を示唆する身体所見はないか、頚静脈もしっかり観察してKussmaul徴候はないか、心エコーにて中隔変動(septal bounce)や肝静脈血流速度の呼気時の拡張期逆流波はないか、スペックルトラッキングエコーによる左室長軸方向ストレイン(GLS, global longitudinal strain)のbullseye mapに特徴的なパターンがないか…など、ぜひご確認いただきたい9)。HFpEF治療の今、そして今後は?かかりつけ医の先生方にもご承知いただきたいHFpEF治療の流れを図でまとめたので、これを基にHFpEF治療の今を説明する(図3)。(図3)HFpEF治療 2023画像を拡大するHFpEFの診断が確定し、図2に記載してあるような疾患を除外した上で、まず考慮すべき処方は、SGLT2阻害薬である。なぜなら、EMPEROR-Preserved試験およびDELIVER試験において、SGLT2阻害薬であるエンパグリフロジンおよびダパグリフロジンが、EF>40%の心不全患者において、主要エンドポイントである心不全入院または心血管死が20%減少することが示されたからである(ただし、eGFR<20mL/min/1.73m2、1型糖尿病、糖尿病性ケトアシドーシスの既往がある場合は避ける。そのほかSGLT2阻害薬使用時の注意事項は、「第3回 SGLT2阻害薬」を参照)10, 11)。そして、それと同時に身体所見、臨床検査、画像検査などマルチモダリティを活用して体液貯留の有無を評価し、体液貯留があれば、ループ利尿薬や利水剤(五苓散、牛車腎気丸、木防已湯など)を使用し12)、TOPCAT試験の結果から心不全入院抑制効果が期待され、薬価が安いMR拮抗薬の投与をできれば考慮いただきたい13)。とくにカリウム製剤が投与されている患者では、それをMR拮抗薬へ変更すべきであろう。そして、忘れてはならないのが、併存疾患に対するマネージメントである。高血圧があれば、130/80mmHg未満を達成するように降圧薬(ARB、ARNiなど)を投与し、鉄欠乏性貧血(transferrin saturation<20%など)があれば、骨格筋など末梢の機能障害へのメリットを期待して鉄剤(カルボキシマルトース第二鉄[商品名:フェインジェクト])の静注投与を検討する。そのほか、肥満、心房細動、糖尿病、冠動脈疾患、慢性腎臓病、COPD、睡眠時無呼吸症候群などに対してもガイドライン推奨の治療をしっかり行うことが重要である。(表1)画像を拡大するそれでも心不全症状が残存し、EFが55~60%未満とやや低下しており、収縮期血圧が110~120mmHg以上ある患者に対しては、ARNiの追加投与を検討する(詳細は第4回 「ARNi」を参照)。なお、HFrEFにおいて必要不可欠なβ遮断薬については、虚血性心疾患や心房細動がなければ、HFpEFに対しては原則投与しないほうが良い。なぜなら、HFpEFでは運動時に脈拍を早くできない脈拍応答不全の合併が多く、投与されていたβ遮断薬を中止することで、peak VO2が短期で大幅に改善したという報告もあるからである14)。なお、脈拍応答不全に対して右房ペーシングにより運動時の心拍数を上げることで運動耐容能が改善するかを検証した試験の結果が最近公表されたが、結果はネガティブで、現時点では脈拍応答不全に対して、心拍数を落とす薬剤を中止する以外に明らかな治療法はなく、今後さらに議論されるべき課題である15)。これらの治療以外にも、mRNA医薬、炎症をターゲットとした薬剤、代謝調整薬(ATP産生調整など)といった、さまざまなHFpEF治療薬の開発が現在進められている16)。また、近年HFpEFは、肥満や座りがちな生活と密接に結びついた運動不耐性の原因としても着目されており、心不全患者教育、心臓リハビリテーションもエビデンスのあるきわめて重要な治療介入であることも忘れてはならない17, 18)。最近は大変ありがたいことに心不全手帳(第3版)が心不全学会サイトでも公開されており、ぜひ活用いただきたい(http://www.asas.or.jp/jhfs/topics/shinhuzentecho.html)。非薬物治療に関しても、今まで欧米を中心に多くの研究が実施されてきた。例えば、症候性心不全患者に対する肺動脈圧モニタリングデバイスガイド下の治療効果を検証したCHAMPION試験のサブ解析において、肺動脈モニタリングデバイス(商品名:CardioMEMS HF System)を使用することで、HFpEF患者において標準治療よりも心不全入院が50%減少し、心不全管理における有用性が報告されている(本邦では未承認)19)。また、HFpEF(EF≥40%)に対する心房シャントデバイス(商品名:Corvia)治療の効果を検証したREDUCE LAP-HF II試験の結果もすでに公表されている20)。心血管死、脳卒中、心不全イベント、QOLを含めた主要評価項目において、心房シャントデバイスの有効性を示すことができなかったが、本試験では全患者に対して運動負荷右心カテーテル検査を実施しており、ポストホック解析において、運動時肺血管抵抗(PVR, pulmonary vascular resistance)が上昇しなかった群(PVR≤1.74 Wood units)では臨床的便益が得られる可能性が見いだされ21)、この群にターゲットを絞ったレスポンダー試験が現在進行中である。また、血液分布異常を改善させるための右大内臓神経アブレーション(GSN ablation)の有効性を検証するREBALANCE-HF試験も現在進行中であるが、非盲検ロールイン段階における予備的解析では、運動時の左室充満圧とQOL改善効果が認められたことが報告されており22)、今後本解析(sham-controlled, blinded trial)の結果が期待される。そのほかにも多くのHFpEF患者を対象とした臨床試験、橋渡し研究が進行中であり(表2)、これらの結果も大変期待される。(表2)HFpEFについて進行中の臨床試験 画像を拡大する以上HFpEF治療についてまとめてきたが、現時点ではHFpEFの予後を改善する治療法はまだ確立しておらず、さらに一歩進んだ治療法の確立が喫緊の課題である。つまり、HFpEFのさらなる病態生理の解明、非侵襲的に診断するための技術開発、個別化治療に結びつくフェノタイピング戦略を活用した新たな次世代の革新的研究が必要であり、その実現に向けて、前回紹介した米国HeartShare研究など、現在世界各国の研究者が本気で取り組んでいるところである。ただ、それまでにわれわれにできることも、図3の通り、しっかりある。ぜひ、目の前の患者さんに今できることを実践していただき、またかかりつけ医の先生方からも循環器専門施設の先生方へフィードバックいただきながら、医療従事者皆が一眼となってより良いHFpEF治療をわが国でも更新し続けていければと強く思う。1)Borlaug BA, et al. Nat Rev Cardiol 2020;17:559-573.2)Reddy YNV, et al. Circulation. 2018;138:861-870.3)Eisman AS, et al. Circ Heart Fail. 2018;11:e004750.4)D'Alto M, et al. Chest. 2021;159:791-797.5)Obokata M, et al. JACC Cardiovasc Imaging. 2013;6:749-758.6)van de Bovenkamp AA, et al. Circ Heart Fail. 2022;15:e008935.7)Patel RB, et al. J Am Coll Cardiol. 2021;78:245-257.8)Azarbal B, et al. J Am Coll Cardiol 2004;44:423-430.9)Marwick TH, et al. JAMA Cardiol. 2019;4:287-294.10)Anker SD, et al. N Engl J Med. 2021;385:1451-1461.11)Solomon SD, et al. N Engl J Med. 2022;387:1089-1098.12)Yaku H, et al. J Cardiol. 2022;80:306-312.13)Pitt B, et al. N Engl J Med. 2014;370:1383-1392.14)Palau P, et al. J Am Coll Cardiol. 2021;78:2042-2056. 15)Reddy YNV, et al. JAMA;2023:329:801-809.16)Pugliese NR, et al. Cardiovasc Res. 2022;118:3536-3555.17)Kamiya K, et al. Circ Heart Fail. 2020;13:e006798.18)Bozkurt B, et al. J Am Coll Cardiol. 2021;77:1454-1469.19)Adamson PB, et al. Circ Heart Fail. 2014;7:935-944.20)Shah SJ, et al. Lancet. 2022;399:1130-1140. 21)Borlaug BA, et al. Circulation. 2022;145:1592-1604.22)Fudim M, et al. Eur J Heart Fail. 2022;24:1410-1414.

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Rhoキナーゼ阻害薬+α2作動薬で眼圧を低下させる世界初の点眼薬「グラアルファ配合点眼液」【下平博士のDIノート】第114回

Rhoキナーゼ阻害薬+α2作動薬で眼圧を低下させる世界初の点眼薬「グラアルファ配合点眼液」今回は、緑内障・高眼圧症治療薬「リパスジル塩酸塩水和物・ブリモニジン酒石酸塩(商品名:グラアルファ配合点眼液、製造販売元:興和)」を紹介します。本剤は、Rhoキナーゼ阻害薬とα2作動薬を含有する世界初の組み合わせの点眼薬です。1剤で3種の眼圧下降機序を有し、多剤併用を必要とする患者さんのアドヒアランスとQOLの向上が期待されています。<効能・効果>本剤は、緑内障、高眼圧症(他の緑内障治療薬が効果不十分な場合)の適応で、2022年9月26日に製造販売承認を取得し、同年12月6日より発売されています。<用法・用量>通常、1回1滴、1日2回点眼します。<安全性>国内第III相長期投与試験(K-232-03)において、副作用は76.0%(136/179例)に認められました。主な副作用は、結膜充血58.1%(104例)、アレルギー性結膜炎18.4%(33例)、眼瞼炎17.3%(31例)、点状角膜炎7.8%(14例)、眼刺激7.3%(13例)、結膜炎6.1%(11例)、眼そう痒症3.9%(7例)、霧視2.2%(4例)などでした。なお、本剤は全身的に吸収されるため、α2作動薬の全身投与時と同様の副作用(眠気、めまい、徐脈、低血圧など)が現れることがあります。<患者さんへの指導例>1.この点眼薬には2種類の有効成分が配合されており、眼圧を調整する房水の産生を抑制するとともに、主流出路および副流出路からの房水の排出を促進することで眼圧を下げます。2.点眼後は、1~5分間目を閉じて、目頭のあたりを指で軽く押さえてください。3.他の点眼薬を併用する場合は、少なくとも5分以上間隔を空けてから点眼してください。4.コンタクトレンズを装用している場合は、点眼前にレンズを外し、点眼後5分以上経ってから再装用してください。5.本剤を使うことで、眠気、めまい、眼のかすみなどを起こす恐れがあるので、自動車の運転など危険を伴う機械の操作に従事する場合は注意してください。<Shimo's eyes>緑内障は、視野狭窄から失明に至る可能性があり、適切な治療が必要な疾患です。緑内障・高眼圧症に対するエビデンスに基づいた治療は眼圧を下げることであり、原則として単剤から治療を開始して、効果が不十分な場合に多剤併用療法が実施されます。しかし、多剤併用の場合は、5~10分以上の間隔を空けてから点眼する必要があるため、さし忘れによるアドヒアランスの低下や治療負担感の増大が課題となっています。このような背景から配合点眼薬が頻用されており、わが国ではグラアルファ配合点眼液を加えて9製品が発売されています。しかし、これらのうち7製品はチモロールなどのβ遮断薬が配合されているため、コントロールが不十分な心不全や気管支喘息などの患者には禁忌となっています。本剤は、Rhoキナーゼ阻害薬であるリパスジル塩酸塩水和物と、α2作動薬であるブリモニジンを組み合わせた世界初の配合点眼薬です。1剤で、(1)主流出路からの房水流出促進、(2)副流出路からの房水流出促進、(3)房水産生抑制の3種の眼圧下降機序を有するため、緑内障点眼薬を併用する患者さんのアドヒアランスとQOLの向上が期待されています。プロスタグランジン関連薬とβ遮断薬が配合された点眼薬と本剤を併用することで、2剤で4種類の機序の異なる有効成分を点眼することが可能となります。なお、本剤の名称の由来は、リパスジル塩酸塩水和物点眼液(商品名:グラナテック点眼液0.4%)の「グラ」と、α2作動薬の「アルファ」を組み合わせたものとなっています。副作用としては、本剤は局所のみならず全身的に吸収されるため、ブリモニジンによる血圧低下、傾眠、回転性めまい、浮動性めまいに注意する必要があります。またブリモニジンによる霧視が発現する場合があるので、そのような症状が現れた場合は、回復するまで機械類の操作や自動車などの運転を行わないように伝えましょう。リパスジルはアレルギー性結膜炎、眼瞼炎などに注意が必要で、本剤のRMPで重要な特定されたリスクにもアレルギー・炎症関連眼障害が記載されています。また、リパスジルにより結膜充血が起こりやすいですが、これは点眼後約90分程度で解消されるので患者さんには前もって伝えておきましょう。

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イバブラジン・ベルイシグアト【心不全診療Up to Date】第5回

第5回 イバブラジン・ベルイシグアトKey Points4人の戦士“Fantastic Four”を投入したその後の戦略はいかに?過去の臨床試験を紐解き、イバブラジン・ベルイシグアトが必要な患者群をしっかり理解しよう!はじめに第4回までで、左室駆出率の低下した心不全(HFrEF:Heart Failure with reduced Ejection Fraction)に対する“Fantastic Four”(RAS阻害薬/ARNi、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬)の役割をまとめてきた。そして今回は、「その4剤併用療法(First-Line Quadruple Therapy)を開始、用量最適化後の次のステップ(Add-on Therapies)は?」という観点から、かかりつけの先生方の日常診療に役立つ内容を最新のエビデンスも添えてまとめていきたい。4人の戦士“Fantastic Four”を投入したその後の戦略はいかに?まず、第4回までで説明してきたとおり、大原則として、医療従事者(ハートチーム)が、目の前のHFrEF患者に対して、相加的な予後改善効果が証明されているガイドラインClass 1推奨薬4剤“Fantastic Four”をできる限り速やかにすべて投与する最大限の努力をし、最大許容用量まで漸増することが極めて重要である。なお、もしその中のどれか1つでも追加投与を見送る場合は、その薬剤を『試さないリスク』についても患者側としっかり共有しておくことも忘れてはならない。では、それらをしっかり行ったとして、次のステップ(追加治療)はどのような治療がガイドライン上推奨されているか。その答えは、米国心不全ガイドラインがわかりやすく、図1をご覧いただきたい1)。まず、β遮断薬投与にもかかわらず、心拍数≧70拍/分の洞調律HFrEF患者には、イバブラジンの追加投与がClass 2aで推奨されている。また、最近心不全増悪を認めた高リスクHFrEF患者では、ベルイシグアトの追加投与がClass 2bで推奨されている。その他RAAS阻害薬投与中の高カリウム血症に対するカリウム吸着薬(sodium zirconium cyclosilicate[商品名:ロケルマ]など)がClass 2bで推奨されているなどあるが、今回はイバブラジン(商品名:コララン)、ベルイシグアト(商品名:ベリキューボ)2つの薬剤について少しDeep-diveしていこう。画像を拡大する1.イバブラジン(ivabradine)イバブラジンとは、洞結節にある過分極活性化環状ヌクレオチド依存性(HCN)チャネルを阻害する、新たな慢性心不全治療薬である。と言われても何のことかわかりにくいが、この薬剤の特徴を一言でいうと、「陰性変力作用なく心拍数だけを減らす」というものであり、適応を一言で言うと、「心拍数の速い洞調律のHFrEF患者」である。では、このHCNチャネルとは何者か。HCNチャネルは主に洞結節に存在する6回膜貫通型膜タンパク質であり、正電荷アミノ酸(アルギニンやリジン)が多く配置されている第4膜貫通ドメイン(HCN4)が電位センサーの中心となっている。洞結節において電気刺激が自発的に発生する自発興奮機能(自動能)形成に寄与する電流は、”funny” current(If)と呼ばれ、HCNチャネル(主にHCN4)を介して生成される2,3)。イバブラジンは、このHCN4チャネルを高い選択性をもって阻害することで、Ifを抑制し、拡張期脱分極相におけるペースメーカー活動電位の立ち上がり時間を遅延させ、心拍数を減少させる。イバブラジンは用量依存的に心拍数を低下させるが、この特異的な作用機序の結果として、心臓の変力作用や全身血管抵抗に影響を与えずに心拍数だけを低下させることができる4,5)。そして、心拍数を減らすことによって、心筋酸素消費量を抑え、左室充満と冠動脈灌流を改善させ、その結果左室のリバースリモデリングを促し、心不全イベントを抑制するというわけである6)。本剤は、2005年欧州においてまず安定狭心症の適応で承認され、その後慢性心不全の適応で2012年に欧州、2015年に米国で承認された(図2)7)。その流れを簡単に説明すると、冠動脈疾患を有する左室収縮機能障害患者へのイバブラジンの心予後改善効果を検証したBEAUTIFUL試験の結果は中立的なものであったが、心拍数≧70拍/分の患者におけるイバブラジンの潜在的な有用性(冠動脈疾患発生抑制効果)について重要な洞察をもたらした8)。この結果は、次に紹介するSHIFT試験の基礎となった。画像を拡大するSHIFT試験は、NYHA II-IV、LVEF≦35%、洞調律かつ70拍/分以上の心不全患者6,505例(日本人含まず)を対象に、イバブラジンの効果を検証した第III相試験である(図2)9)。この試験の結果、主要評価項目である心血管死または心不全入院は、イバブラジン群で18%減少していた(HR:0.82、95%信頼区間[CI]:0.75~0.90、p<0.001)。ただ、これは主に心不全入院の26%減少によってもたらされたものであった。また、サブグループ解析の結果、ベースラインの安静時心拍数が中央値77拍/分より高いサブグループにおいてのみ、イバブラジンによる有意な治療効果が認められ(交互作用に対するp値=0.029)、その後の事後解析において、安静時心拍数≧75拍/分の部分集団では心不全入院だけではなく、心血管死も有意に抑制していた(HR:0.83、95%CI:0.71~0.97、p=0.017)10)。ただし、これらの知見を解釈する際には、SHIFT試験に参加した患者の大多数(約70%)が虚血性心不全をベースに持ち、植込み型除細動器の使用が少なく(不整脈イベント抑制効果は期待できない可能性あり)、β遮断薬ガイドライン推奨用量の50%以上を投与するという要件を満たした症例は56%に過ぎなかったことを念頭に置くことが重要である。以上のような経緯から、その後日本人慢性HFrEF患者を対象に実施されたJ-SHIFT試験においては、「安静時心拍数が75拍/分以上」というのが組み入れ基準の1つとして採用された11) 。その結果、SHIFT試験との結果の類似性が確認されたため、添付文書上、心拍数≧75拍/分の患者が適応となっている。なお、イバブラジンはCYP3A4による広範な肝初回代謝を受け、詳細は省くが、この点がいくつかの薬剤(ベラパミル、ジルチアゼム、その他のCYP3A4阻害薬)において薬物相互作用と関連すること、また光視症(視細胞のHCN1チャネルを阻害するためであり、可逆的)には注意が必要である。個人的には、β遮断薬の増量や導入が困難なHFrEF患者には早期からイバブラジンを投与することで、リバースリモデリングが得られ、その結果β遮断薬のさらなる増量や導入が可能となることをよく経験するため、ぜひβ遮断薬の用量をより最適化する橋渡し的な道具としても実臨床で活用いただきたい。2.ベルイシグアト(vericiguat)ベルイシグアトは、心不全を引き起こす原因の1つである内皮機能障害を調節する新しい心不全治療薬である。血管内皮は通常、一酸化窒素(NO)を生成し、可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)を介した環状グアノシン一リン酸(cGMP)産生を促進する。同様に、心内膜内皮もNOに感受性があり、細胞内のcGMPを上昇させることにより収縮性や拡張能を調節している。心不全ではこの過程がうまく制御できず、NO-sGC-cGMPの不足を招き、拡張期弛緩障害と微小血管機能障害を引き起こすとされている。ベルイシグアトは、メルク社とバイエル社が共同開発したsGC刺激薬で、sGCをNO非依存的に直接刺激するとともに、内因性NOに対する感受性を増強させ、NOの効果を増強してcGMP活性を増加させるというわけである(図3)12,13)。画像を拡大するこのようなコンセプトのもと、臨床的に安定した慢性心不全患者に対するベルイシグアトの有効性を検証すべく、第II相SOCRATES-REDUCED試験が実施された(表1)14)。本試験の主要評価項目であるNT-proBNP値のベースラインから12週までの変化において、ベルイシグアトの有意な効果は認められなかったが、探索的二次解析により、高用量のベルイシグアトがNT-proBNP値のより大きな低下と関連するという用量反応関係が示唆された。画像を拡大するこのデータをもとに、その後第III相VICTORIA試験が最近入院または利尿薬静脈内投与を受けたナトリウム利尿ペプチド上昇を認める慢性心不全(EF<45%)患者5,050例を対象に実施された(無作為化30日以内のBNP≧300pg/mLもしくはNT-proBNP≧1,000pg/mL[心房細動の場合BNP≧500pg/mLもしくはNT-proBNP≧1,600pg/mL])(表1)15)。本試験のデザイン上の重要なポイントは、これまでの心不全臨床試験よりもNT-proBNP値が高く(中央値2,816pg/mL)、より重症の心不全患者を組み入れたことであり、これにより高いイベント発生率がもたらされた。また、患者はこれまでの大規模な心不全臨床試験よりも高齢であることも特徴的であった。なお、目標用量については、上記で述べたSOCRATES-REDUCED試験で得られた知見に基づき、1日1回10mgで設定された。結果については、主要評価項目である心血管死または心不全による初回入院の複合エンドポイント発生率が、プラセボ投与群と比較してベルイシグアト投与群の方が有意に低かった(ハザード比:0.90、95%CI:0.82~0.98、p=0.02)。ただし、この結果はベルイシグアト投与群の心不全入院率の低さに起因しており、全死亡には群間差は認められなかった。なお、ベルイシグアトによる副作用については両群間で有意差を認めるものはなかったが(重篤な有害事象:ベルイシグアト群32.8% vs.プラセボ群34.8%)、プラセボ投与群と比較してベルイシグアト投与群において症候性低血圧や失神がより多い傾向を認めた(表1)。以上より、ベルイシグアトは、最新の米国心不全ガイドラインにて最近心不全増悪を認めた高リスクHFrEF患者においてClass 2bで推奨されており1)、わが国のガイドラインにおいても今後期待される治療として紹介されている16)。今回は、“Fantastic Four”の次の手について説明した。繰り返しとなるが、まずは“Fantastic Four”を可能な限りしっかり投与いただき、そのうえで上記で述べた条件を満たす患者に対しては、イバブラジン、ベルイシグアトの追加投与を積極的にご検討いただければ幸いである。1)Heidenreich PA, et al. Circulation. 2022;145:e895-e1032.2)DiFrancesco D. Circ Res. 2010;106:434-446.3)Postea O, et al. Nat Rev Drug Discov. 2011;10:903-914.4)Simon L, et al. J Pharmacol Exp Ther. 1995;275:659-666.5)Vilaine JP, et al. J Cardiovasc Pharmacol. 2003;42:688-696.6)Seo Y, et al. Circ J. 2019;83:1991-1993.7)Koruth JS, et al. J Am Coll Cardiol. 2017;70:1777-1784.8)Fox K, et al. Lancet. 2008;372:807-816.9)Swedberg K, et al. Lancet. 2010;376:875-885.10)Böhm M, et al. Clin Res Cardiol. 2013;102:11-22.11)Tsutsui H, et al. Circ J. 2019;83:2049-2060.12)Evgenov OV, et al. Nat Rev Drug Discov. 2006;5:755-768.13)Armstrong PW, et al. JACC: Heart Failure. 2018;6:96-104.14)Gheorghiade M, et al. JAMA. 2015;314:2251-2262.15)Armstrong PW, et al. N Engl J Med. 2020;382:1883-1893.16)Tsutsui H, et al. Circ J. 2021;85:2252-2291.

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褐色細胞腫・パラガングリオーマ〔PPGL:pheochro mocytoma/paraganglioma〕

1 疾患概要褐色細胞腫・パラガングリオーマ(PPGL)は副腎髄質または傍神経節のクロム親和性細胞から発生するカテコールアミン産生腫瘍で、前者を褐色細胞腫、後者をパラガングリオーマ、総称して「褐色細胞腫・パラガングリオーマ」と呼ぶ。カテコールアミン過剰分泌による症状と腫瘍性病変による症状がある。カテコラミン過剰により、動悸、頭痛などの症状、高血圧、糖代謝異常などの種々の代謝異常、心血管系合併症、さらには各種の緊急症(高血圧クリーゼ、たこつぼ型心筋症による心不全、腫瘍破裂によるショックなど)を呈することがある。すべてのPPGLは潜在的に悪性腫瘍の性格を有し、実際、約10〜15%は悪性・転移性を示す。それ故、早期の適切な診断と治療が極めて重要である。原則として日本内分泌学会「褐色細胞腫・パラガングリオーマ診療ガイドライン2018」1)(図)に基づき、診断と治療を行う。図 褐色細胞腫・パラガングリオーマの診療アルゴリズム画像を拡大する2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ PPGLを疑う所見カテコラミン過剰による頭痛、動悸、発汗、顔面蒼白、体重減少、悪心・嘔吐、心筋梗塞類似の胸痛、不整脈などの多彩な症状を示す。肥満はまれである。高血圧を約85%に認め、持続型、発作型、混合型があるが、特に発作性高血圧が特徴的である。持続型では治療抵抗性高血圧の原因となる。発作型では各種刺激(運動、ストレス、過食、排便、飲酒、腹部触診、メトクロプラミド[商品名:プリンペラン]静注など)で高血圧発作が誘発される(高血圧クリーゼ)。さらに、急性心不全、肺水腫、ショックなどを合併することもある。発作型の非発作時には、まったくの「無症候性」であることも少なくない。また、高血圧をまったく呈さない無症候性や、逆に起立性低血圧を示すこともある。副腎や後腹膜の偶発腫瘍として発見される例も多い。■ スクリーニングの対象PPGLは二次性高血圧の中でも頻度が少なく、希少疾患に位置付けられるため、全高血圧でのスクリーニングは、費用対効果の観点から現実的ではない。PPGLガイドラインでは、特に疑いの強いPPGL高リスク群(表)での積極的なスクリーニングを推奨している。表 PPGL高リスク群1)PPGLの家族歴ないし既往歴(MEN、Von Hippel-Lindau病など)のある例2)特定の条件下の高血圧(発作性、治療抵抗性、糖尿病合併、高血圧クリーゼなど)3)多彩な臨床症状(動悸、発汗、頭痛、胸痛など)4)副腎偶発腫特に近年、副腎偶発腫瘍、無症候例の頻度が増加しているため、慎重な鑑別診断が必須である。スクリーニング方法カテコールアミン過剰の評価に際しては、運動、ストレス、体位、食品、薬剤などの測定値に影響する要因を考慮する必要がある。まず、外来でも実施可能な血中カテコールアミン(CA)分画(正常上限の3倍以上)、随時尿中メタネフリン分画(メタネフリン、ノルメタネフリン)(正常上限の3倍以上または500ng/mg・Cr以上)の増加を確認する。メタネフリン、ノルメタネフリンはカテコールアミンの代謝産物であり、随時尿でも安定であるため、スクリーニングや発作型の診断に有用である。近年、海外で第1選択である血中遊離メタネフリン分画も実施可能となったが、海外とは測定法が異なるため注意を要する。機能診断法上記のスクリーニングが陽性の場合、24時間尿中カテコールアミン分画(≧正常上限の2倍以上)、24時間尿中総メタネフリン分画(正常上限の3倍以上)の増加を確認する。従来実施された誘発試験は著明な高血圧を来すため推奨されない。アドレナリン優位の腫瘍は褐色細胞腫、ノルアドレナリン優位の腫瘍はパラガングリオーマが多い。画像診断臨床的にPPGLが疑われる場合は腫瘍の局在、広がり、転移の有無に関する画像診断(CT、MRI)を行う。約90%は副腎原発で局在診断が容易であり、副腎偶発腫瘍としての発見も多い。約10%はPGLで時に局在診断が困難なため、CT、 MRI、123I-MIBGシンチグラフィなどの複数のモダリティーを組み合わせる。(1)CT副腎腫瘍確認の第1選択。造影剤使用はクリーゼ誘発の可能性があるため、わが国では原則禁忌であり、実施時には患者への説明・同意とフェントラミンの準備が必須となる。(2)MRI副腎皮質腫瘍との鑑別診断、頭頸部病変、転移性病変の診断に有用である。(3)123I-MIBGシンチグラフィ疾患特異性が高いが偽陰性、偽陽性がある。PGLや転移巣の診断にも有用である。ヨウ化カリウムによる甲状腺ブロックを行う。(4)18F-FDG PET多発性病変や転移巣検索に有用である。病理学的診断(1)良・悪性を鑑別する病理組織マーカーは未確立である。組織所見とカテコールアミン分泌パターンを組み合わせたスコアリング(GAPP)が悪性度と予後判定に有用とされる。(2)コハク酸脱水素酵素サブユニットB(SDHB)の免疫染色の欠如はSDHx遺伝子変異の存在を示唆する。遺伝子解析(1)PPGLの30~40%が遺伝性で、19種類の原因遺伝子が報告されている2)。(2)若年発症(35歳未満)、PGL、多発性、両側性、悪性では生殖細胞系列の遺伝子変異が示唆される2)。(3)SDHB遺伝子変異は遠隔転移が多いため悪性度評価の指標となる。(4)全患者において遺伝子変異の頻度と臨床的意義、遺伝子解析の利益と不利益の説明を行うことが推奨されるが、必須ではなく、[1]遺伝カウンセリング、[2]患者の自由意思による判断、[3]質の担保された解析施設での実施が重要である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)過剰カテコールアミンを阻害する薬物治療と手術による腫瘍摘除が治療原則である。1)薬物治療α1遮断薬が第1選択で、効果不十分な場合、Ca拮抗薬を併用する。頻脈・頻脈性不整脈ではβ遮断薬を併用するが、α1遮断薬に先行しての単独投与は禁忌である。循環血漿量減少に対して、術前に高食塩食あるいは生理食塩水点滴を行う。α1遮断薬でのコントロール不十分な場合はカテコールアミン合成阻害薬メチロシン(商品名:デムサー)を使用する。2)外科的治療小さな褐色細胞腫では腹腔鏡下副腎摘除術、悪性度が高い例では開腹手術を施行する。潜在的に悪性であることを考慮して、腫瘍被膜の損傷に注意が必要である。家族性PPGLや対側副腎摘除後の症例では副腎部分切除術を検討する。悪性の可能性があるため、全例で少なくとも術後10年間、悪性度が高いと判断される高リスク群では生涯にわたる経過観察が推奨される。3)悪性PPGL131I-MIBG内照射、CVD化学療法、骨転移に対する外照射などの集学的治療を行う。治癒切除が困難でも、原発巣切除術による予後改善が期待される。■ 診断と治療のアルゴリズム上述の日本内分泌学会診療ガイドラインの診療アルゴリズム(図)を参照されたい。PPGL高リスク群で積極的にスクリーニングを行う。外来にて血中カテコラミン、随時尿中メタネフリン分画などを測定、疑いが強ければ、蓄尿でのCA分画と画像診断を行う。内分泌異常と画像所見が合理的に一致していれば、典型例での診断は容易である。無症候性、カテコールアミン産生能が低い例、腫瘍の局在を確認できない場合の診断は困難で、内分泌検査の反復、異なるモダリティーの画像診断の組み合わせが必要である。単発性病変であれば、α1ブロッカーによる適切な事前治療後、腫瘍摘出術を行う。術後、長期にわたり定期的に経過観察を要する。悪性・転移性の場合は、ガイドラインに準拠して集学的な治療を行う。診断と治療は専門医療施設での実施が推奨される。4 今後の展望今後解決すべき課題は以下の通りである。PPGL疾患概念の変遷:分類、神経内分泌腫瘍との関連診療アルゴリズムの改変診断基準の精緻化機能検査:遊離メタネフリン分画の位置付け画像検査:オクトレオチドスキャンの位置付け、68Ga-DOTATEシンチの応用遺伝子検査の臨床的適応頸部パラガングリオーマの診断と治療内科的治療:デムサの適応と治療効果核医学治療:123I-MIBG、ルテチウムオキソドトレオチド(商品名:ルタテラ)の適応と実態5 主たる診療科初回受診診療科は一般的に代謝・内分泌科、循環器内科、泌尿器科、腎臓内科など多岐にわたるが、以下の場合には専門医療施設への紹介が望ましい。(1)PPGLの家族歴・既往歴のある患者(2)高血圧クリーゼ、治療抵抗性高血圧、発作性高血圧などの患者(3)副腎偶発腫瘍で基礎疾患が不明な場合(4)PPGLの局所再発や遠隔転移のある悪性PPGL(5)遺伝子解析の実施を考慮する場合6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難治性副腎疾患プロジェクト(医療従事者向けのまとまった情報)1)成瀬光栄、他. 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業「褐色細胞腫の実態調査と診療指針の作成」研究班 平成22年度報告書.2010.2)Lenders JW、 et al. J Clin Endocrinol Metab. 2014;99:1915-1942.3)日本内分泌学会「悪性褐色細胞腫の実態調査と診療指針の作成」委員会(編).褐色細胞腫・パラガングリオーマ診療ガイドライン2018.診断と治療社;2018.公開履歴初回2023年1月5日

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ARNi【心不全診療Up to Date】第4回

第4回 ARNiKey PointsARNi誕生までの長い歴史をプレイバック!ARNiの心不全患者に対するエビデンス総まとめ!ARNiの認知機能への影響は?はじめに第4回となる今回は、第1回で説明した“Fantastic Four”の1人に当たる、ARNiを取り上げる。第3回でSGLT2阻害薬の歴史を振り返ったが、実はこのARNiも彗星のごとく現れたのではなく、レニンの発見(1898年)から110年以上にわたる輝かしい一連の研究があってこその興味深い歴史がある。その歴史を簡単に振り返りつつ、この薬剤の作用機序、エビデンス、使用上の懸念点をまとめていきたい。ARNi開発の歴史:なぜ2つの薬剤の複合体である必要があるのか?ARNiとは、Angiotensin Receptor-Neprilysin inhibitorの略であり、アンジオテンシンII受容体とネプリライシンを阻害する新しいクラスの薬剤である。この薬剤を理解するには、心不全の病態において重要なシステムであるレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)とナトリウム利尿ペプチド系(NPS)を理解することが重要である(図1)。アンジオテンシンII受容体は説明するまでもないと思われるが、ネプリライシン(NEP)はあまり馴染みのない先生もおられるのではないだろうか。画像を拡大するネプリライシンとは、さまざまな心保護作用のあるナトリウム利尿ペプチド(ANP、BNP、 CNP)をはじめ、ブラジキニン、アドレノメデュリン、サブスタンスP、アンジオテンシンIおよびII、エンドセリンなどのさまざまな血管作動性ペプチドを分解するエンドペプチダーゼ(酵素)のことである。その血管作動性ペプチドにはそれぞれに多様な作用があり、ネプリライシンを阻害することによるリスクとベネフィットがある(図2)。つまり、このNEP阻害によるリスクの部分(アンジオテンシンIIの上昇など)を補うために、アンジオテンシン受容体も合わせて阻害する必要があるというわけである。画像を拡大するそこでまずはACEとNEPの両方を阻害する薬剤が開発され1)、このクラスの薬剤の中で最も大規模な臨床試験が行われた薬剤がomapatrilatである。この薬剤の心不全への効果を比較検証した第III相試験OVERTURE(Omapatrilat Versus Enalapril Randomized Trial of Utility in Reducing Events)、高血圧への効果を比較検証したOCTAVE(Omapatrilat Cardiovascular Treatment Versus Enalapril)にて、それぞれ心血管死または入院(副次評価項目)、血圧をエナラプリルと比較して有意に減少させたが、血管性浮腫の発生率が有意に多いことが報告され、市場に出回ることはなかった。これはomapatrilatが複数のブラジキニンの分解に関与する酵素(ACE、アミノペプチダーゼP、NEP)を同時に阻害し、ブラジキニン濃度が上昇することが原因と考えられた。このような背景を受けて誕生したのが、血管性浮腫のリスクが低いARB(バルサルタン)とNEP阻害薬(サクビトリル)との複合体であるARNi(サクビトリルバルサルタン)である。この薬剤の慢性心不全(HFrEF)への効果をエナラプリル(慢性心不全治療薬のGold Standard)と比較検証した第III相試験がPARADIGM-HF (Prospective Comparison of ARNi With ACE Inhibitors to Determine Impact on Global Mortality and Morbidity in HF)2)である(図3、表1)。この試験は、明確な有効性と主要評価項目が達成されたことに基づき、早期終了となった。つまり、ARNiは、長らく新薬の登場がなかったHFrEF治療に大きな”PARADIGM SHIFT”を起こすきっかけとなった薬剤なのである。画像を拡大する画像を拡大するARNiの心不全患者に対するエビデンス総まとめARNiの心不全患者を対象とした主な臨床試験は表1のとおりで、実に多くの無作為化比較試験(RCT)が実施されてきた。2010年、まずARNiの心血管系疾患に対する有効性と安全性を検証する試験(proof-of-concept trial)が1,328例の高血圧患者を対象に行われた3)。その結果、バルサルタンと比較してARNiが有意に血圧を低下させ、咳や血管浮腫増加もなく、ARNiは安全かつ良好な忍容性を示した。その後301人のHFpEF患者を対象にARNiとバルサルタンを比較するRCTであるPARAMOUNT試験が実施された(表1)4)。主要評価項目である投与開始12週後のNT-proBNP低下量は、ARNi群で有意に大きかった。36週後の左室充満圧を反映する左房容積もARNiでより低下し、NYHA機能分類もARNiでより改善された。そして満を持してHFrEF患者を対象に実施された大規模RCTが、上記で述べたPARADIGM-HF試験である2)。この試験は、8,442例の症候性HFrEF患者が参加し、エナラプリルと比較して利尿薬やβ遮断薬、MR拮抗薬などの従来治療に追加したARNi群で主要評価項目である心血管死または心不全による入院だけでなく、全死亡、突然死(とくに非虚血性心筋症)も有意に減少させた(ハザード比:主要評価項目 0.80、全死亡 0.84、突然死 0.80)。本試験の結果を受け、2015年にARNiは米国および欧州で慢性心不全患者の死亡と入院リスクを低下させる薬剤として承認された。このPARADIGM-HF試験のサブ解析は50本以上論文化されており、ARNiのHFrEFへの有効性がさまざまな角度から証明されているが、1つ注意すべき点がある。それは、サブグループ解析にてNYHA機能分類 III~IV症状の患者で主要評価項目に対する有効性が認められなかった点である(交互作用に対するp値=0.03)。その後、NYHA機能分類IVの症状を有する進行性HFrEF患者を対象としたLIFE(LCZ696 in Advanced Heart Failure)試験において、統計的有意性は認められなかったものの、ARNi群では心不全イベント率が数値的に高く、進行性HF患者ではARNiが有効でない可能性をさらに高めることになった5)。この結果を受けて、米国心不全診療ガイドラインではARNiの使用がNYHA機能分類II~IIIの心不全患者にのみClass Iで推奨されている(文献6の [7.3.1. Renin-Angiotensin System Inhibition With ACEi or ARB or ARNi])。つまり、早期診断、早期治療がきわめて重要であり、too lateとなる前にARNiを心不全患者へ投与すべきということを示唆しているように思う。ではHFpEFに対するARNiの予後改善効果はどうか。そのことを検証した第III相試験が、PARAGON-HF(Prospective Comparison of ARNi With ARB Global Outcomes in HF With Preserved Ejection Fraction)である7)。本試験では、日本人を含む4,822例の症候性HFpEF患者を対象に、ARNiとバルサルタンとのHFpEFに対する有効性が比較検討された。その結果、ARNiはバルサルタンと比較して主要評価項目(心血管死または心不全による入院)を有意に減少させなかった(ハザード比:0.87、p値=0.06)。ただ、サブグループ解析において、女性とEF57%(中央値)以下の患者群については、ARNiの有効性が期待できる結果(交互作用に有意差あり)が報告され、大変話題となった。性差については、循環器領域でも大変重要なテーマとして現在もさまざまな研究が進行中である8,9)。EFについては、その後PARADIGM-HF試験と統合したプール解析によりさらに検証され、LVEFが正常値(約55%)以下の心不全症例でARNiが有用であることが報告された10)。これらの知見に基づき、FDA(米国食品医薬品局)は、ARNiのHFpEF(とくにEFが正常値以下の症例)を含めた慢性心不全患者への適応拡大を承認した(わが国でも承認済)。このPARAGON-HF試験のサブ解析も多数論文化されており、それらから自分自身の診療での経験も交えてHFpEFにおけるARNiの”Sweet Spot”をまとめてみた(図4)。とくに自分自身がHFpEF患者にARNiを処方していて一番喜ばれることの1つが息切れ改善効果である11)。最近労作時息切れの原因として、HFpEFを鑑別疾患にあげる重要性が叫ばれているが、BNP(NT-proBNP)がまだ上昇していない段階であっても、労作時には左室充満圧が上がり、息切れを発症することもあり、運動負荷検査をしないと診断が難しい症例も多く経験する。そのような症例は、だいたい高血圧を合併しており、もちろんすぐに運動負荷検査が施行できる施設が近くにある環境であればよいが、そうでなければ、ARNiは高血圧症にも使用できることもあり、今まで使用している降圧薬をARNiに変更もしくは追加するという選択肢もぜひご活用いただきたい。なお、ACE阻害薬から変更する場合は、上記で述べた血管浮腫のリスクがあることから、36時間以上間隔を空けるということには注意が必要である。それ以外にも興味深いRCTは多数あり、表1を参照されたい。画像を拡大するARNi使用上の懸念点ARNiは血管拡張作用が強く、それが心保護作用をもたらす理由の1つであるわけだが、その分血圧が下がりすぎることがあり、その点には注意が必要である。実際、PARADIGM-HF試験でも、スクリーニング時点で収縮期血圧が100未満の症例は除外されており、なおかつ試験開始後も血圧低下でARNiの減量が必要と判断された患者の割合が22%であったと報告されている12)。ただ、そのうち、36%は再度増量に成功したとのことであった。実臨床でも、少量(ARNi 50mg 2錠分2)から投与を開始し、その結果リバースリモデリングが得られ、心拍出量が増加し、血圧が上昇、そのおかげでさらにARNiが増量でき、さらにリバースリモデリングを得ることができたということも経験されるので、いったん減量しても、さらに増量できるタイミングを常に探るという姿勢はきわめて重要である。その他、腎機能障害、高カリウム血症もACE阻害薬より起こりにくいとはいえ13,14)、注意は必要であり、リスクのある症例では初回投与開始2~3週間後には腎機能や電解質、血圧等を確認した方が安全と考える。最後に、時々話題にあがるARNiの認知機能への懸念に関する最新の話題を提供して終わりたい。改めて図2を見ていただくと、アミロイドβの記載があるが、NEPは、アルツハイマー病の初期病因因子であるアミロイドβペプチド(Aβ)の責任分解酵素でもある。そのため、NEPを持続的に阻害する間にそれらが脳に蓄積し、認知障害を引き起こす、あるいは悪化させることが懸念されていた。その懸念を詳細に検証したPERSPECTIVE試験15)の初期結果が、昨年のヨーロッパ心臓病学会(ESC2022)にて発表された16)。本試験は、592例のEF40%以上の心不全患者を対象に、バルサルタン単独投与と比較してARNi長期投与の認知機能への影響を検証した最初のRCTである(平均年齢72歳)。主要評価項目であるベースラインから36ヵ月後までの認知機能(global cognitive composite score)の変化は両群間に差はなく(Diff. -0.0180、95%信頼区間[CI]:-0.1230~0.0870、p=0.74)、3年間のフォローアップ期間中、各時点で両群は互いに類似していた。主要な副次評価項目は、PETおよびMRIを用いて測定した脳内アミロイドβの沈着量の18ヵ月時および36ヵ月時のベースラインからの変化で、有意差はないものの、ARNi群の方がアミロイドβの沈着が少ない傾向があった(Diff. -0.0292、95%CI:0.0593~0.0010、p=0.058)。これは単なる偶然の産物かもしれない。ただ、全体としてNEP阻害がHFpEF患者の脳内のβアミロイド蓄積による認知障害リスクを高めるという証拠はなかったというのは間違いない。よって、認知機能障害を理由に心不全患者へのARNi投与を躊躇する必要はないと言えるであろう。1)Fournie-Zaluski MC, et.al. J Med Chem. 1994;37:1070-83.2)McMurray JJ, et.al. N Engl J Med. 2014;371:993-1004.3)Ruilope LM, et.al. Lancet. 2010;375:1255-66.4)Solomon SD, et.al. Lancet. 2012;380:1387-95.5)Mann DL, et.al. JAMA Cardiol. 2022;7:17-25.6)Heidenreich PA, et.al. Circulation. 2022;145:e895-e1032.7)Solomon SD, et.al. N Engl J Med. 2019;381:1609-1620.8)McMurray JJ, et.al. Circulation. 2020;141:338-351.9)Beale AL, et.al. Circulation. 2018;138:198-205.10)Solomon SD, et.al. Circulation. 2020;141:352-361.11)Jering K, et.al. JACC Heart Fail. 2021;9:386-397.12)Vardeny O, et.al. Eur J Heart Fail. 2016;18:1228-1234.13)Damman K, et.al. JACC Heart Fail. 2018;6:489-498.14)Desai AS, et.al. JAMA Cardiol. 2017 Jan 1;2:79-85.15)PERSPECTIVE試験(ClinicalTrials.gov)16)McMurray JJV, et al. PERSPECTIVE - Sacubitril/valsartan and cognitive function in HFmrEF and HFpEF. Hot Line Session 1, ESC Congress 2022, Barcelona, Spain, 26–29 August.

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急性心不全へのGDMTの早期増量と頻回なフォローアップで再入院リスクは減少する?(解説:原田和昌氏)

 診療ガイドライン推奨の心不全治療(guideline-directed medical therapy:GDMT)は、通常慢性期に推奨用量を目標に漸増するものであり、急性心不全による入院後に、いつごろからどのくらいの時間で、どの用量まで増量するかのエビデンスはほとんどない。心不全入院後の頻回なフォローアップだけでは、これまで有効性は示されなかった。急性心不全(HFrEFが68%、HFpEFが15%)による入院後に、GDMTの早期漸増に加えて頻回なフォローアップ(90日で5回)を行うという強化治療戦略は、通常治療と比較して症状軽減、QOL改善、180日以内の全死因死亡+心不全再入院リスクの減少をもたらすことが、Mebazaa氏らの多施設共同無作為化非盲検並行群間試験であるSTRONG-HF試験により示された。 14ヵ国の87病院において、急性心不全で入院し退院予定日前2日以内に経口心不全治療薬の最大用量を投与されていない18~85歳の患者を対象に、2週間でGDMTを目標用量まで漸増する強化治療と通常治療とを比較した。左室駆出率(≦40% vs.>40%)で層別化して、通常治療群または高強度治療群(β遮断薬、RAS阻害薬またはARNI、MR拮抗薬)に1対1の割合で無作為に割り付けた。高強度治療群では無作為化後2週間以内に推奨用量の100%まで治療薬を漸増し、無作為化後1・2・3・6週時に臨床状態、臨床検査値、NT-proBNP値を評価した。主要評価項目は、180日以内の心不全による再入院または全死亡で、ITT集団を対象に有効性と安全性を評価した。なお、主要評価項目の群間差が予測より大きかったため、本試験は2022年9月23日に早期中止となった。 1,078例が高強度治療群(542例)または通常治療群(536例)に無作為化された。平均(±SD)年齢63.0±13.6歳、男性61%であった。180日以内の心不全による再入院または全死亡は、高強度治療群で506例中74例、通常治療群で502例中109例発生した(補正後リスク差:8.1%[95%信頼区間[CI]:2.9~13.2]、p=0.0021、リスク比:0.66[95%CI:0.50~0.86])。高強度治療群は通常治療群と比較して、90日目までに経口心不全治療薬を最大用量まで漸増された患者の割合が高かった(RAS阻害薬:55% vs.2%、β遮断薬:49% vs.4%、MR拮抗薬:84% vs.46%)。また、高強度治療群は通常治療群より、90日目までに血圧、心拍数、NYHA分類、体重およびNT-proBNP値が改善した。90日以内の有害事象は、高強度治療群(223/542例、41%)が通常治療群(158/536例、29%)より多く認められたが、重篤な有害事象の発現率、致死的有害事象の発現率は同等であった。 GDMTの優位性を示すことは診療ガイドラインの有効性を検証することであり、論文になりやすい。しかし、二重盲検化されたRCTのエンドポイントは全死亡+心不全入院でよいが、本試験は非盲検試験であるため、QOLの改善にはバイアスが入りやすいこと、また、エンドポイントとしては問題がある180日の全死亡+心不全再入院で有意差がついているが、全死亡や心血管死のハードエンドポイントで差がつかなかったことは、統計的パワー不足と言い訳しているのが、気に掛かるところである。また、HFpEFが15%含まれているのは実臨床に即しているというが、LVEFによって各GDMT薬の有効性も異なる可能性があるため、年齢やHFpEFの割合が違う別の集団で同じ結果が出るかは疑問である。また、通常治療群においてGDMT(β遮断薬、RAS阻害薬またはARNI)の推奨量に達した、または推奨量の半分以上の患者の割合が、180日たってもほとんど増加していないのは、本試験での通常治療とは何なのか意味不明である。

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SGLT2阻害薬は非糖尿病CKDにおいてもなぜ腎イベントを軽減するか?(解説:栗山哲氏)

本論文は何が新しいか SGLT2阻害薬に関するこれまでのシステマティックレビューやメタ解析は、2型糖尿病(diabetes mellitus:DM)患者を中心に検討されてきた。本論文では、非DM患者の登録割合が多い最近の大規模研究EMPA-KIDNEY、DELIVER、DAPA-CKD加えて、2022年9月の時点における13の大規模研究、総計9万409例(DM 7万4,804例[82.7%]、非DM 1万5,605例[17.3%]、平均eGFR:37~85mL/min/1.73m2)を解析した。本研究は、DMの有無によりSGLT2阻害薬の心・腎保護作用に差異があるか否かを膨大な症例数で解析した点が新しい。本論文の主要結果 腎アウトカムは、CKD進展(eGFR 50%以上の持続的低下、持続的なeGFR低値、末期腎不全)、急性腎障害(acute kidney injury:AKI)で評価、心血管リスクは心血管死または心不全による入院の複合項目で評価した。 結果は、SGLT2阻害薬は、CKD進展リスクを37%低下(相対リスク[RR]:0.63、95%信頼区間[CI]:0.58~0.69)。その低下の程度は、DM患者(RR:0.62)と非DM患者(RR:0.69)で同等。腎疾患別では、糖尿病性腎臓病(diabetic kidney disease:DKD)(RR:0.60、95%CI:0.53~0.69)と慢性腎炎(chronic glomerulonephritis:CGN)(RR:0.60、95%CI:0.46~0.78)でのリスク低下は40%だが、腎硬化症(nephrosclerosis:NS)のリスク低下は30%であった(RR:0.70、95%CI:0.50~1.00、群間のheterogeneity p=0.67)。また、AKIのリスクは23%低下(RR:0.77、95%CI:0.70~0.84)、心血管死または心不全による入院のリスクは23%低下(RR:0.77、95%CI:0.74~0.81)で、これらもDMの有無にかかわらず同等であった。さらに、SGLT2阻害薬は心血管死リスクも低下させたが(RR:0.86、95%CI:0.81~0.92)、非心血管死リスクは低下させなかった(RR:0.94、95%CI:0.88~1.02)。上記のリスク軽減にベースラインのeGFRは関連していなかった。糖尿病治療薬・SGLT2阻害薬はなぜ非DMでも効くのか? DAPA-CKDやEMPA-KIDNEYにおいてCKD患者では、2型DMの有無を問わず心・腎イベントを減少させることが示唆されていた。本研究ではSGLT2阻害薬の関連する13研究の多数の症例についてメタ解析を実施し、腎アウトカムはDMの有無にかかわらず同等であることを確認した。作用機序の面から考えると、SGLT2阻害薬はDM治療薬であることから、非DM性CGNでのリスク低下は糖代謝改善では説明がつかない。では、糖代謝とは独立したいかなる機序が想定されるのであろうか。 2型DMでは、近位尿細管のSGLT2発現が増加している。そのため、輸入細動脈が拡張し糸球体過剰ろ過がみられる。CGNやNSにおいても腎機能が中等度低下すると、輸出細動脈の収縮により過剰ろ過がみられる(注:NSは病態初期は糸球体虚血があり内圧は通常上昇していない)。SGLT2阻害薬は、近位尿細管でNa再吸収を抑制して遠位尿細管のmacula densa(MD:緻密斑)に流入するNaを増大させ、尿細管-緻密斑フィードバック(tubuloglomerular feedback:TGF-MD)を適正化し、糸球体内圧を低下させる。この糸球体内圧低下は、eGFRのinitial dip(初期に起こる10~20%の一過性の低下)として観察される。Initial dipはDM、非DMにかかわらず観察されることから、非DM性CKD患者においても腎保護作用の主要機序はTGF-MD機能改善による糸球体血行動態改善が考えられる(Kraus BJ, et al. Kidney Int. 2021;99:750-762.)。 一方、CKDの病態進展には、尿細管間質病変も重要である。この点、SGLT2阻害薬には、尿細管間質の線維化抑制や抗炎症効果が示唆されている(Nespoux J, et al. Curr Opin Nephrol Hypertens. 2020;29:190-198.)。臨床的にはエンパグリフロジンの尿中L-FABP(尿細管間質障害のマーカー)低下作用やエリスロポエチン増加に伴うHb値増加などを示唆する成績もある。SGLT2阻害薬には、上記以外にも、降圧効果、食塩感受性改善、インスリン感受性改善、尿酸値低下、交感神経機能改善、などあり、これらも重要な心・腎保護機序と考えられる。また、同剤は、近位尿細管に作用するユニークな利尿薬との仮説もある。SGLT2阻害による浸透圧利尿(グルコース尿・Na尿)は、利尿作用による水・Na負荷軽減のみならず腎うっ血を改善することで尿細管間質障害を改善させていると考えられる(Kuriyama S. Kidney Blood Press Res. 2019;44:449-456.)。本論文から何を学び、どう実地診療に生かす? SGLT2阻害薬は、単にDMのみならず動脈硬化性心血管病、心不全、CKDやDKD、NAFLDなどへ適応症が拡大していく可能性がある。最近、心不全治療ではファンタスティックフォー(fantastic four:ARNI、SGLT2阻害薬、β遮断薬、MRB)なる4剤の組み合わせがトレンドで脚光を浴びている。DKD治療においてもKDIGO 2022では4種類の腎保護薬(RAS阻害薬、SGLT2阻害薬、非ステロイド骨格MRB[フィネレノン]、GLP-1アナログ)が推奨されており(Kidney Disease: Improving Global Outcomes (KDIGO) Diabetes Work Group. Kidney Int. 2022;102:S1-S127.)、これに呼応し新たに腎臓病ファンタスティックフォー(the DKD fantastic four)なる治療戦略が提唱されつつある(Mima A. Adv Ther. 2022;39:3488-3500.)。また、本論文が掲載されたLancet誌上には、SGLT2阻害薬がCKD治療の早期からの「foundational drug:基礎薬」になり得るのではとのコメントもある(Mark PB, et al. Lancet. 2022;400:1745-1747.)。今後、DKDあるいは非DM性CKDに対しては、従来からのRAS抑制薬にSGLT2阻害薬の併用、さらに治療抵抗例にはMRBやGLP-1アナログを追加・併用する治療法が普及する可能性がある。 さて、本題の「SGLT2阻害薬は非糖尿病CKDにおいてもなぜ腎イベントを軽減するか?」の答えは、多因子にわたる複合的効果となろう。現在、本邦ではダパグリフロジンがCKDに適応症が取れている。腎臓病診療の現場では、ダパグリフロジンをDKD治療目的だけではなく、非DM性CGNの腎保護目的に対しても使われはじめている。例えばIgA腎炎に対する扁摘パルス療法は一定の寛解率は期待されるが、必ずしも腎予後が改善しない例もある。これらの患者のunmet needsに対してSGLT2阻害薬を含め腎臓病ファンタスティックフォーによる治療介入(とくに早期からが良い?)が新たな腎保護戦略として注目されている。

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急性心不全、強化治療戦略で死亡・再入院リスク減/Lancet

 急性心不全で入退院後、診療ガイドラインに準じた標準的心不全治療(guideline-directed medical therapy:GDMT)の早期漸増と頻回なフォローアップによる強化治療戦略は、通常治療と比較して症状軽減、QOL改善、および180日以内の全死因死亡+心不全再入院リスクの減少をもたらすことが、フランスのパリ・シテ大学のAlexandre Mebazaa氏らが実施した多施設共同無作為化非盲検並行群間試験「STRONG-HF試験」の結果、示された。急性心不全で入退院後にGDMTを行う際の用量や漸増速度に関するエビデンスは不足していた。Lancet誌オンライン版2022年11月7日号掲載の報告。2週間で目標用量まで漸増するGDMTと通常治療を比較 研究グループは、14ヵ国(アルゼンチン、オーストリア、ブルガリア、コロンビア、フランス、ハンガリー、イスラエル、モザンビーク、ナイジェリア、ロシア、セルビア、スロバキア、南アフリカ、チュニジア)の87病院において、急性心不全で入院し退院予定日前2日以内に経口心不全治療薬の最大用量を投与されていない18~85歳の患者を対象に試験を行った。 退院前に左室駆出率(≦40% vs.>40%)および国で層別化して、通常治療群または高強度(high-intensity)治療群(β遮断薬、RAS阻害薬[ACE阻害薬、ACE阻害薬に不耐用の場合はARB]、ARNI、MR拮抗薬による)に1対1の割合で無作為に割り付けた。通常治療群では各地域の診療に従った治療を行い、高強度治療群では無作為化後2週間以内に推奨用量の100%まで治療薬を漸増するとともに、無作為化後1・2・3・6週時に臨床状態、臨床検査値、NT-proBNP値を評価した。 主要評価項目は、180日以内の心不全による再入院または全死亡で、intention-to-treat(ITT)集団を対象に有効性と安全性を評価した。主要評価項目については、倫理委員会がプロトコルの修正を承認し180日目まで患者の追跡調査を可とした病院に登録された患者のみを解析対象集団とした。 なお、本試験は、計1,069例が無作為化された時点の解析で主要評価項目の群間差が予測より大きかったため、データ安全性モニタリング委員会の勧告により2022年9月23日に早期中止となった。早期漸増で180日以内の全死因死亡+心不全再入院リスクが有意に減少 2018年5月10日~2022年9月23日の期間に、計1,641例がスクリーニングを受け、1,078例が高強度治療群(542例)または通常治療群(536例)に無作為化された(ITT集団)。患者背景は、平均(±SD)年齢63.0±13.6歳、男性61%で、白人またはコーカサスが77%/黒人21%/アメリカ先住民<1%/太平洋諸島系<1%/その他1%であった。 データカットオフ時点(2022年10月13日)において、高強度治療群は通常治療群と比較して、90日目までに経口心不全治療薬を最大用量まで漸増された患者の割合が高かった(RAS阻害薬:55% vs.2%、β遮断薬:49% vs.4%、MR拮抗薬:84% vs.46%)。また、高強度治療群は通常治療群より、90日目までに血圧、心拍数、NYHA分類、体重およびNT-proBNP値が改善した。 180日以内の心不全による再入院または全死亡は、高強度治療群で506例中74例、通常治療群で502例中109例発生した(補正後リスク差:8.1%[95%信頼区間[CI]:2.9~13.2]、p=0.0021、リスク比:0.66[95%CI:0.50~0.86])。 90日以内の有害事象は、高強度治療群(223/542例、41%)が通常治療群(158/536例、29%)より多く認められたが、重篤な有害事象の発現率(88例[16%]vs.92例[17%])、致死的有害事象の発現率(25例[5%]vs.32例[6%])は同等であった。

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従来の薬剤治療up dateと新規治療薬の位置付け【心不全診療Up to Date】第2回

第2回 従来の薬剤治療up dateと新規治療薬の位置付けKey Pointsエビデンスが確立している心不全薬物治療をしっかり理解しよう!1)生命予後改善薬を導入、増量する努力が十分にされているか?2)うっ血が十分に解除されているか?3)服薬アドヒアランスの良好な維持のための努力が十分にされているか?はじめに心不全はあらゆる疾患の中で最も再入院率が高く1)、入院回数が多いほど予後不良といわれている2)。また5年生存率はがんと同等との報告もあり3)、それらをできる限り抑制するためには、診療ガイドラインに準じた標準的心不全治療(guideline-directed medical therapy:GDMT)の実施が極めて重要となる4)。なぜこれから紹介する薬剤がGDMTの一員になることができたのか、その根拠までさかのぼり、現時点での慢性心不全の至適薬物療法についてまとめていきたい。なお、現在あるGDMTに対するエビデンスはすべて収縮能が低下した心不全Heart Failure with reduced Ejection Fraction(HFrEF:LVEF<40%)に対するものであり、本稿では基本的にはHFrEFについてのエビデンスをまとめる。 従来の薬剤治療のエビデンスを整理!第1回で記載したとおり、慢性心不全に対する投薬は大きく2つに分類される。1)生命予後改善のための治療レニン–アンジオテンシン–アルドステロン系(RAAS)阻害薬(ACE阻害薬/ARB、MR拮抗薬)、β遮断薬、アンジオテンシン受容体-ネプリライシン阻害薬(ARNI)、SGLT2阻害薬、ベルイシグアト、イバブラジン2)症状改善のための治療利尿薬、利水剤(五苓散、木防已湯、牛車腎気丸など)その他、併存疾患(高血圧、冠動脈疾患、心房細動など)に対する治療やリスクファクター管理なども重要であるが、今回は上記の2つについて詳しく解説していく。1. RAAS阻害薬(ACE阻害薬/ARB、MR拮抗薬)1)ACE阻害薬、ARB(ACE阻害薬≧ARB)【適応】ACE阻害薬のHFrEF患者に対する生命予後および心血管イベント改善効果は、1980年代後半に報告されたCONSENSUSをはじめ、SOLVDなどの大規模臨床試験の結果により、証明されている5,6)。無症候性のHFrEF患者に対しても心不全入院を抑制し、生命予後改善効果があることが証明されており7)、症状の有無に関わらず、すべてのHFrEF患者に投与されるべき薬剤である。ARBについては、ACE阻害薬に対する優位性はない8–11)。ブラジキニンを増加させないため、空咳がなく、ACE阻害薬に忍容性のない症例では、プラセボに対して予後改善効果があることが報告されており12)、そのような症例には適応となる。【目標用量】ATLAS試験で高用量のACE阻害薬の方が低用量より心不全再入院を有意に減らすということが報告され(死亡率は改善しない)13)、ARBについても、HEAAL試験で同様のことが示された14)。では、腎機能障害などの副作用で最大用量にしたくてもできない症例の予後は、最大用量にできた群と比較してどうなのか。高齢化が進み続けている実臨床ではそのような状況に遭遇することが多い。ACE阻害薬についてはそれに対する答えを示した論文があり、その2群間において、死亡率に有意差は認めず、心不全再入院等も有意差を認めなかった15)。つまり、最大”許容”用量を投与すれば、その用量に関係なく心血管イベントに差はないということである。【注意点】ACE阻害薬には腎排泄性のものが多く、慢性腎臓病患者では注意が必要である。ACE阻害薬/ARB投与開始後のクレアチニン値の上昇率が大きければ大きいほど、段階的に末期腎不全・心筋梗塞・心不全といった心腎イベントや死亡のリスクが増加する傾向が認められるという報告もあり、腎機能を意識してフォローすることが重要である16)。なお、ACE阻害薬とARBの併用については、心不全入院抑制効果を報告した研究もあるが9,17)、生存率を改善することなく、腎機能障害などを増加させることが報告されており11,18)、お勧めしない。2)MR拮抗薬(スピロノラクトン、エプレレノン)【適応】スピロノラクトンは、RALES試験にて重症心不全に対する予後改善効果(死亡・心不全入院減少)が示された19)。エプレレノンは、心筋梗塞後の重症心不全に対する予後改善効果が示され20)、またACE阻害薬/ARBとβ遮断薬が85%以上に投与されている比較的軽症の慢性心不全に対しても予後改善効果が認められた21)。以上より、ACE阻害薬/ARBとβ遮断薬を最大許容用量投与するも心不全症状が残るすべてのHFrEF患者に対して投与が推奨されている。【目標用量】上記の結果より、スピロノラクトンは50mg、エプレレノンも50mgが目標用量とされているが、用量依存的な効果があるかについては証明されていない。なお、EMPHASIS-HF試験のプロトコールに、具体的なエプレレノンの投与方法が記載されているので、参照されたい21)。【注意点】高カリウム血症には最大限の注意が必要であり、RALES試験の結果発表後、スピロノラクトンの処方率が急激に増加し、高カリウム血症による合併症および死亡も増加したという報告もあるくらいである22)。血清K値と腎機能は定期的に確認すべきである。ただ近年新たな高カリウム血症改善薬(ジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム水和物)が発売されたこともあり、過度に高カリウム血症を恐れる必要はなく、できる限り予後改善薬を継続する姿勢が重要と考えられる。またRALES試験でスピロノラクトンは女性化乳房あるいは乳房痛が10%の男性に認められ19)、実臨床でも経験されている先生は多いかと思う。その場合は、エプレレノンへ変更するとよい(鉱質コルチコイド受容体に選択性が高いのでそのような副作用はない)。2. β遮断薬(カルベジロール、ビソプロロール)【適応】β遮断薬はWaagsteinらが1975年に著効例7例を報告して以来(その時は誰も信用しなかった)、20年の時を経て、U.S. Carvedilol、MERIT−HF、CIBIS II、COPERNICUSなどの大規模臨床試験の結果が次々と報告され、30~40%の死亡リスク減少率を示し、重症度や症状の有無によらずすべての慢性心不全での有効性が確立された薬剤である23–26)。日本で処方できるエビデンスのある薬剤は、カルベジロールとビソプロロールだけである。カルベジロールとビソプロロールを比較した研究もあるが、死亡率に有意差は認めなかった27)。なお、慢性心不全治療時のACE阻害薬とβ遮断薬どちらの先行投与でも差はないとされている28)。【目標用量】用量依存的に予後改善効果があると考えられており、日本人ではカルベジロールであれば20mg29)、ビソプロロールであれば5mgが目標用量とされているが、海外ではカルベジロールであれば、1mg/kgまで増量することが推奨されている。【注意点】うっ血が十分に解除されていない状況で通常量を投与すると心不全の状態がかえって悪化することがあるため、少量から開始すべきである。そして、心不全の増悪や徐脈の出現等に注意しつつ、1~2週間ごとに漸増していく。心不全が悪化すれば、まずは利尿薬で対応する。反応乏しければβ遮断薬を減量し、状態を立て直す。また徐脈などの副作用を認めても、中止するのではなく、少量でも可能な限り投与を継続することが重要である。3. 利尿薬(ループ利尿薬、サイアザイド系利尿薬、トルバプタン)、利水剤(五苓散など)【適応】心不全で最も多い症状は臓器うっ血によるものであり、浮腫・呼吸困難などのうっ血症状がある患者が利尿薬投与の適応である。ただ、ループ利尿薬は交感神経やRAS系の活性化を起こすことが分かっており、できる限りループ利尿薬を減らした状態でいかにうっ血コントロールをできるかが重要である。そのような状況で、新たなうっ血改善薬として開発されたのがトルバプタンであり、また近年利水剤と呼ばれる漢方薬(五苓散、木防已湯、牛車腎気丸など)もループ利尿薬を減らすための選択肢の1つとして着目されており、心不全への五苓散のうっ血管理に対する有効性を検証する大規模RCTであるGOREISAN-HF試験も現在進行中である。この利水剤については、また別の回で詳しく説明する。【注意点】あくまで予後改善薬を投与した上で使用することが原則。低カリウム血症、低マグネシウム血症、腎機能増悪、脱水には注意が必要である。新規治療薬の位置付け上記の従来治療薬に加えて、近年新たに保険適応となったHFrEF治療薬として、アンジオテンシン受容体-ネプリライシン阻害薬(Angiotensin receptor-neprilysin inhibitor:ARNI)、SGLT2阻害薬(ダバグリフロジン、エンパグリフロジン)、ベルイシグアト、イバブラジンがある。上記で示した薬物療法をHFrEF基本治療薬とするが、効果が不十分な場合にはACE阻害薬/ARBをARNIへ切り替える。さらに、心不全悪化および心血管死のリスク軽減を考慮してSGLT2阻害薬を投与する。第1回でも記載した通り、これら4剤を診断後できるだけ早期から忍容性が得られる範囲でしっかり投与する重要性が叫ばれている。服薬アドヒアランスへの介入は極めて重要!最後に、施設全体のガイドライン遵守率を改めて意識する重要性を強調しておきたい。実際、ガイドライン遵守率が患者の予後と関連していることが指摘されている28)。そして何より、処方しても患者がしっかり内服できていないと意味がない。つまり、内服アドヒアランスが良好に維持されるよう、医療従事者がしっかり説明し(この薬がなぜ必要かなど)、サポートをすることが極めて重要である。このような多職種が介入する心不全の疾病管理プログラムは欧米のガイドラインでもクラスIに位置づけられており、ぜひ皆様には、このGDMTに関する知識をまわりの看護師などに還元し、チーム医療という形でそれが患者へしっかりフィードバックされることを切に願う。1)Jencks SF, et al. N Engl J Med.2009;360:1418-1428.2)Setoguchi S, et al. Am Heart J.2007;154:260-266. 3)Stewart S, et al. Circ Cardiovasc Qual Outcomes.2010;3:573-580.4)McDonagh TA, et al.Eur Heart J. 2022;24:4-131.5)CONSENSUS Trial Study Group. N Engl J Med. 1987;316:1429-1435.6)SOLVD Investigators. N Engl J Med. 1991;325:293-302.7)SOLVD Investigators. N Engl J Med. 1992;327:685-691.8)Pitt B, et al.Lancet.2000;355:1582-1587.9)Cohn JN, et al.N Engl J Med.2001;345:1667-1675.10)Dickstein K, et al. Lancet.2002;360:752-760.11)Pfeffer MA, et al.N Engl J Med. 2003;349:1893-1906.12)Granger CB, et al. Lancet.2003;362:772-776.13)Packer M, et al.Circulation.1999;100:2312-2318.14)Konstam MA, et al. Lancet.2009;374:1840-1848.15)Lam PH, et al.Eur J Heart Fail.. 2018;20:359-369.16)Schmidt M, et al. BMJ.2017;356:j791.17)McMurray JJ, et al.Lancet.2003;362:767-771.18)ONTARGET Investigators. N Engl J Med.2008;358:1547-1559.19)Pitt B, et al. N Engl J Med.1999;341:709-717.20)Pitt B, et al. N Engl J Med.2003;348:1309-1321.21)Zannad F, et al. N Engl J Med.2011;364:11-21.22)Juurlink DN, et al. N Engl J Med.2004;351:543-551.23)Packer M, et al.N Engl J Med.1996;334:1349-1355.24)MERIT-HF Study Group. Lancet. 1999;353:2001-2007.25)Dargie HJ, et al. Lancet.1999;353:9-13.26)Packer M, et al.N Engl J Med.2001;344:1651-1658.27)Düngen HD, et al.Eur J Heart Fail.2011;13:670-680.28)Fonarow GC, et al.Circulation.2011;123:1601-10.29)日本循環器学会 / 日本心不全学会合同ガイドライン「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)」

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化学療法中に心室期外収縮頻発!対応は?【見落とさない!がんの心毒性】第15回

※本症例は、患者さんのプライバシーに配慮し一部改変を加えております。あくまで臨床医学教育の普及を目的とした情報提供であり、すべての症例が類似の症状経過を示すわけではありません。《今回の症例》年齢・性別50代・女性主訴動悸、労作時息切れ現病歴約10年前に健診で不整脈を指摘されていた。2ヵ月前に労作時息切れが出現し、慢性心不全と診断された。カルベジロールを開始すると心不全症状の改善を認めた。1ヵ月前に汎血球減少が出現し精査が行われ、急性前骨髄性白血病(APL)と診断された。化学療法前の心エコーでは左室拡張末期径64mm、左室駆出率53%、軽度僧帽弁閉鎖不全症を認めた。イダルビシン(48mg/m2)、オールトランス型レチノイン酸(ATRA)投与による寛解導入療法が施行され、治療開始後6週目に寛解となった。続いて、ダウノルビシン(100mg/m2)、ATRA投与による地固め療法が1コース施行された後、動悸、労作時息切れが出現し、心電図で心室期外収縮(PVC:premature ventricular contraction)頻発、心エコーで左室収縮能低下を認め、精査加療のため入院となった。現症血圧 90/52mmHg、脈拍数 70bpm 不整、SpO2 98%(酸素投与なし)、結膜貧血なし、頚静脈怒張なし、心音I音減弱、III音あり、心雑音なし、呼吸音清、下腿浮腫なし採血BNP 570.7pg/mL胸部X線CTR 57%、肺うっ血なし、胸水なし心電図洞調律、II・III・aVF・V4-6誘導でST低下・平坦〜陰性T波、PVC頻発(左脚ブロック型・正常軸、右脚ブロック型・右軸偏位の2種類)(図1上)心エコーびまん性左室壁運動低下 (左室拡張末期径/収縮末期径 66/56 mm、左室駆出率 28%)、中等度僧帽弁閉鎖不全症、肺高血圧症疑い (三尖弁圧較差 39 mmHg、下大静脈径 13 mm、呼吸性変動良好)ホルター心電図総心拍数12万6,988拍/日、心室期外収縮(PVC)4万8,780拍/日 (総心拍数の38%、うち最多波形20%、2番目に多い波形18%、最長12連発)、上室期外収縮22拍/日 (総心拍数の0.1%未満)(図1下)(図1)画像を拡大する画像を拡大する上)12誘導心電図における2種類のPVC。赤枠:左脚ブロック型・正常軸、青枠:右脚ブロック型・右軸偏位下)ホルター心電図におけるPVCのパターン。赤枠と青枠はそれぞれ12誘導心電図におけるPVCに一致する。【問題】今後の治療に関する下記の選択肢について、正しいものはどれか?a. β遮断薬を減量する。b. ATRAを中止する。c. アントラサイクリンを減量し継続する。d. 血清K+4.0mEq/L以下を目標に調整する。e. PVCに対しカテーテルアブレーションを施行する。1)Lyon AR, et al. Eur Heart J. 2022 Aug 26.[Epub ahead of print]2)日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同ガイドライン:2020年改訂版 不整脈薬物治療ガイドライン3)Fonarow GC, et al. J Am Coll Cardiol. 2008;52:190-199.4)Buza V, et al. Circ Arrhythm Electrophysiol. 2017;10:e005443.5)Montesinos P, et al. Blood. 2009;113:775-783.6)Dubois C, et al. Blood. 1994;83:3264-3270.7)Lacasse Y, et al. Can J Cardiol. 1992;8:53-56.8)Kishi S, et al. Int J Hematol. 2000;71:172-179.9)日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同ガイドライン:2018年改訂版 不整脈非薬物治療ガイドライン講師紹介

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心不全の分類とそれぞれの治療法Update【心不全診療Up to Date】第1回

第1回 心不全の分類とそれぞれの治療法UpdateKey Points心不全の分類として、まずはStage分類とLVEFによる分類を理解しよう心不全発症予防(Stage Aからの早期介入)の重要性を理解しようRAS阻害薬/ARNI、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬の偉大さを理解しようはじめに心不全の国際定義(universal definition)が日米欧の3つの心不全学会から昨年合同で提唱され、「器質的または機能的な心臓の異常を原因とする症候を呈し、Na利尿ペプチド上昇または肺・体うっ血の客観的エビデンスが認められる臨床症候群」とされた1)(図1)。また心不全のStage分類もそれぞれAt-risk for HF(Stage A)、Pre-HF(Stage B)、HF(Stage C)、Advanced HF(Stage D)と分かりやすく表現された(図1)。この心不全の予防、治療を理解する上で役立つ心不全の分類について、本稿では考えてみたい。画像を拡大する予防と治療を意識した心不全の分類まず覚えておくべき分類が、上記で記載した心不全Stage分類である(図1)。この分類は適切な治療介入を早期から行うことを目的にされており、とくにStage Aの段階からさらなるStage進展予防(心不全発症予防)を意識して、高血圧などのリスク因子に対する積極的な介入を行うことが極めて重要となる2)。次に、一番シンプルで有名な治療に関わる分類が、検査施行時の左室駆出率(left ventricular ejection fraction:LVEF)による分類で、HFrEF(LVEF<40%、HF with reduced EF)、HFmrEF(LVEF 40~49%、HF with mildly reduced EF)、HFpEF(LVEF≧50%、HF with preserved EF)に分類される(図1)。またLVEFは経時的に変化し得るということも忘れてはならない。とくにLVEFが40%未満であった患者が治療経過で40%以上に改善した患者群は予後が良く、これをHFimpEF (HF with improved EF)と呼ぶ3)。つまり、同じLVEF40%台でも、HFimpHFは、LVEFの改善がないHFmrEFとは生物学的にも臨床的にも同義ではないのである4)。そもそもLVEFとは…と語りたいところではあるが、字数が足りずまたの機会とする。慢性心不全治療のエッセンス慢性心不全治療は大きく2つに分類される。1つはうっ血治療、もう1つは予後改善のための治療である。まず、うっ血に対しては利尿薬が必要不可欠であるが、ループ利尿薬は慢性心不全患者において神経体液性因子を活性化させる5)など予後不良因子の1つでもあり、うっ血の程度をマルチモダリティで適正に評価し、利尿薬はできる限り減らす努力が重要である6)。次に予後改善のための治療について考えていく。1. HFrEFに対する治療生命予後改善効果が示されている治療法の多くは、HFrEFに対するものであり、それには深い歴史がある。1984年に発表された慢性心不全に対するエナラプリルの有効性を検証した無作為化比較試験(RCT)を皮切りに、その後30年以上をかけて数多くのRCTが行われ(図2)、現在のエビデンスが構築された(図3)7-9)。偉大な先人達へ心からの敬意を表しつつ、詳細を説明していく。画像を拡大する画像を拡大するまず、すべてのHFrEF患者に対して生命予後改善効果が証明されている薬剤は、ACE阻害薬/ARNI、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)、SGLT2阻害薬である(図3)。とくにARNI、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬は、米国の映画に擬えて“the Fantastic Four”と呼ばれるようになって久しい10)。この4剤はすべて投与後早期から心不全入院抑制効果があるため、診断後早期に開始すべき薬剤である。また、一見安定しているように見える慢性心不全患者でも突然死が少なくないことをご存知だろうか11,12)。この“Fantastic Four”すべてに突然死予防効果もあり、症状がごく軽度(NYHA IIs)であってもぜひ積極的に投与を検討いただきたい13)。そして、この4剤を基本に、うっ血、心房細動、鉄欠乏、虚血、弁膜症の有無、QRS幅、心拍数に合わせて、さらなる治療を検討していくこととなる(図3)。2. HFmrEFに対する治療HFmrEFの発症機序や治療法に関する知識は、まだ完全に解明されているとはいえないが、現時点では、HFrEFにおいて予後改善効果のある4剤がHFmrEFにもある程度の効果を示すことから、この4剤を投与するという姿勢で良いと考えられる14-19)。では、LVEFがどれくらいまでこの4剤の効果が期待されるのか。HFmrEF/HFpEFを含めた慢性心不全に対するARB/ARNI、β遮断薬、MRAの有効性を検証したRCTの結果からは、LVEFが55%くらいまでは予後改善効果が期待される20)(図4)。つまり、左室収縮障害が少しでも伴えば、神経体液性因子が心不全の病態形成に重要な役割を果たしているものと考えられ、これらの薬剤が有用なのであろう。なお、SGLT2阻害薬においては、最近発表されたEmpagliflozinのLVEF>40%の慢性心不全に対する有効性を検証したEMPEROR-Preserved試験の結果、心血管死または心不全入院の複合リスク(主に心不全による入院リスク)を有意に低下させることが報告された。ただし、LVEFが65%を超えるとその効果は認めなかった19)(図4)。画像を拡大する3. HFpEFに対する治療HFpEFは、2000年代前半までは「拡張期心不全」と呼ばれ、小さな左心室に著しい左心室肥大があり、拡張機能不全が主要な病態生理学的異常であると考えられていた。しかし、2000年代初頭からHFpEFはより複雑で複数の病態生理を持ち、多臓器の機能障害があることが明らかになってきた。現在HFpEFは、高血圧性リモデリング、心室・血管の硬化、肥満、代謝ストレス、加齢、座りがちな生活習慣などが関与する多面的な多臓器疾患であり、その結果として心臓、血管、および骨格筋の予備能低下につながると考えられている21)。このことからHFpEFの治療法が一筋縄では行かないことは容易に想像できるであろう。実際、本邦の心不全ガイドラインにおいても、うっ血に対する利尿薬と併存症に対する治療しか明記されていない3)。ただ最新のACC/AHAガイドラインでは、上記EMPEROR-Preserved試験の結果も含めSGLT2阻害薬が推奨クラスIIa、ARNI、MRA、ARBが推奨クラスIIbとなっている2)。ARNI、MRA、ARBについては「LVEFが50%に近い患者でより大きな効果が期待できる」との文言付であり、その背景は上記で説明した通りである20)。よって、今後はこの潜在性左室収縮障害をいかに早期にわれわれが認識できるかが鍵となるであろう。以上の通り、HFpEFに対してはまだ確立した治療法がなく、この複雑な症候群であるHFpEFを比較的均一なサブグループに分類するPhenotypingが今後のHFpEF治療の鍵であり、これについては今後さらに深堀していく予定である。1)Bozkurt B,et al. J Card Fail. 2021 Mar 1:S1071-9164. 00050-6.2)Heidenreich PA, et al. Circulation. 2022 May 3;145:e895-e1032.3)Tsutsui H, et al. Circ J. 2019 Sep 25;83:2084-2184.4)Wilcox JE, et al. J Am Coll Cardiol. 2020 Aug 11;76:719-734.5)Bayliss J, et al. Br Heart J. 1987 Jan;57:17-22.6)Mullens W,et al. Eur J Heart Fail. 2019 Feb;21:137-155.7)Sharpe DN, et al. Circulation. 1984 Aug;70:271-8.8)Sharma A,et al. JACC Basic Transl Sci. 2022 Mar 2;7:504-517.9)McDonagh TA, et al. Eur Heart J. 2021 Sep 21;42:3599-3726.10)Bauersachs J. et al. Eur Heart J. 2021 Feb 11;42:681-683.11)Lancet.1999 Jun 12;353:2001-7.12)Kitai T, et al. JAMA Netw Open. 2020 May 1;3:e204296.13)Varshney AS, et al. Eur J Heart Fail. 2022 Mar;24:562-564.14)Vaduganathan M, et al. Eur Heart J. 2020 Jul 1;41:2356-2362.15)Solomon SD, et al. Circulation. 2020 Feb 4;141:352-361.16)Solomon SD, et al. Eur Heart J. 2016 Feb 1;37:455-62.17)Cleland JGF, et al. Eur Heart J. 2018 Jan 1;39:26-35.18)Lund LH, et al. Eur J Heart Fail. 2018 Aug;20:1230-1239.19)Butler J, et al. Eur Heart J. 2022 Feb 3;43:416-426.20)Böhm M, et al. Eur Heart J. 2020 Jul 1;41:2363-2365.21)Shah SJ. J Cardiovasc Transl Res. 2017 Jun;10:233-244.

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血圧コントロールのため慢性心不全治療の見直しを提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第47回

 今回は、心不全患者の降圧薬の処方提案について紹介します。高血圧が理由でデイサービスの利用に影響が生じた場合は降圧だけに着目しがちですが、慢性心不全の標準治療薬を見直して心不全そのものをコントロールすることで、血圧やうっ血などの改善も兼ねられます。患者情報70歳、女性(グループホーム入居)基礎疾患慢性心不全(HFrEF)、心房細動、狭心症、高血圧服薬管理施設管理処方内容1.クロピドグレル錠75mg 1錠 朝食後2.ジゴキシン錠0.125mg 1錠 朝食後3.ランソプラゾール口腔内崩壊錠15mg 1錠 朝食後4.カンデサルタン錠4mg 1錠 朝食後5.フロセミド錠20mg 1錠 朝食後6.アトルバスタチン錠5mg 1錠 朝食後7.カルベジロール錠2.5mg 1錠 朝食後8.スピロノラクトン錠25mg 1錠 朝食後本症例のポイントこの患者さんは、最近は収縮期血圧が170~180台と高値が持続するようになり、下腿浮腫も増強したことからフロセミド錠20mgが開始となりました。下腿浮腫は軽減しましたが、血圧は高値で横ばいの状態が続き、デイサービスの利用や入浴の制限などがかかったことから、施設スタッフより医師に降圧薬追加の依頼がありました。そこで、医師よりCa拮抗薬を追加しようと思っているがどの薬がいいか、と相談がありました。確かに血圧だけを下げるのであればCa拮抗薬が妥当ですが、現在の患者さんの状態や治療薬などから、ほかの薬剤でうまくコントロールできないか検討することにしました。まず、基礎疾患とその治療をみると、HFrEFの治療として標準治療薬であるARBのカンデサルタン、β遮断薬のカルベジロール、MR拮抗薬のスピロノラクトンを服用しています。また、下腿のうっ血治療として直近でフロセミド錠が追加されています。現行の薬剤の増量やCa拮抗薬の追加によって降圧を図るという方法もありますが、うっ血症状が最近現れるようになったことから心不全治療薬の再考も選択肢となります。「2021年 JCS/JHFS ガイドライン フォーカスアップデート版 急性・慢性心不全診療」の治療アルゴリズムのとおり、ARBからARNIへ基本薬の変更を行うことは、血圧のコントロールに加え、心不全の管理としても有効ではないかと考えました。処方提案と経過医師に、「Ca拮抗薬の追加も選択肢の1つですが、降圧とともにうっ血症状の管理が必要なため、心不全管理の観点からカンデサルタンをARNIのサクビトリルバルサルタンに変更してみるのはどうですか」と提案しました。心不全診療ガイドラインの改訂についてはPDFファイルでその場で医師と共有してARNIの位置づけを再確認し、提案内容で2週間様子をみようと承諾を得ることができました。翌日の朝よりカンデサルタンからサクビトリルバルサルタン100mg 朝食後に切り替えとなり、開始4日目から血圧は130/80台で安定するようになりました。その後も過度に血圧が下がることはなく、下腿浮腫の増悪や体重増加もなく経過は安定しています。日本循環器学会 / 日本心不全学会.2021年 JCS/JHFS ガイドライン フォーカスアップデート版

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