【次世代の創薬モダリティ「siRNA」】第4回:siRNA医薬品の未来

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公開日:2020/02/25

程 久美子 ( てい くみこ ) 氏東京大学・大学院理学系研究科・生物科学専攻・准教授

siRNA医薬品は、従来の医薬品にはない特徴を持つ次世代の医薬品です。前回は、そんなsiRNA医薬品の誕生までの道のりをご紹介しました。今回は、siRNA医薬品が創り出す未来の医療について、私の考えをお話ししたいと思います。

siRNAの魅力

siRNA医薬品の大きなメリットは、抗体などと異なり化学合成により製造できること、またターゲットであるRNAは構造が単純なので、どんな遺伝子、つまりどんな疾患に対しても設計がしやすいことです。そのため、一度技術が確立されてしまえば、新しいものがどんどん出てくるでしょう。それだけでなく、私は「特異性の高さ」もsiRNAの魅力だと思っています。siRNAは、配列設計のアルゴリズムがある程度確立されているため、特異性の高いsiRNAを事前に予測することが可能です。siRNAを使えば、私は将来的に遺伝性疾患であれば、原理的にはどんな病気でも治せる可能性があるのではないかと期待しています。

今後siRNA医薬品の応用が期待できる疾患

図4.siRNA医薬品の2つのアプローチ

図4.siRNA医薬品の2つのアプローチ

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siRNA医薬品の疾患に対するアプローチは2つあります。1つは、遺伝子の変異の有無にかかわらず、発現を正常以下に抑制するというものです。先日発売された初めてのsiRNA医薬品(パチシランナトリウム、アルナイラム社)はこの手法を用いており、ATTR-FAP(トランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー)は変異型TTR及び野生型TTRがアミロイド線維化し、アミロイドが組織に沈着する事で引き起こされる疾患ですが、その疾患の原因遺伝子を抑制し、野生型および変異型TTRタンパク質の産生を抑制する事でアミロイドの組織沈着を抑制します。もう1つは、変異がある遺伝子だけを狙って抑制する、というものです。

私は今、この2つ目の手法の確立を目指して、JST(国立研究開発法人科学技術振興機構)の「大学発新産業創出プログラム」による支援を受けながら研究を進めています。実は、がんの原因遺伝子として重要なものに対して、変異型だけをうまく見分けるsiRNAが作れるようになってきました。そう遠くない未来に、実用化できるかもしれません。従来の抗体医薬品や低分子医薬品では、変異型だけをうまく見分ける薬剤を計画的に開発することは困難です。塩基配列を対象としたsiRNA医薬品だからこそ可能な、独自の手法だと思います。この手法が開発できれば、がんだけでなく各種遺伝性疾患にも応用できます。

siRNA医薬品がもたらす新しい医療

近年、個人のゲノムを検査して、遺伝子の変異から病気を予測することができるようになりました。このゲノム診断は2019年6月から一部で保険も使えるようになり、より私たちの身近なものになっています。しかし、現状ゲノム検査をして異常が見つかったとしても、治療法がある疾患はわずかです。現状の医薬品がゲノム診断の時代に追い付いていない、そんな状況だと思います。

この点、siRNA医薬品は理論的にはどんな遺伝子も対象にできるので、一人ひとりのゲノム情報がそのまま治療に活かせる可能性を秘めています。今はまだドラッグデリバリー技術などに課題は残りますが、このペースで開発が進めば、パーソナルゲノム情報を活用して一人ひとりに合わせたsiRNA医薬品を提供できる時代も来るのではないかと考えています。たとえばRNA合成機を薬局に置いておいて、「その場でオーダーメイド」という時代が来るかもしれません。

siRNA医薬品の発展のために

私は、siRNA医薬品の開発を促進させるためにも、もっと基礎研究と臨床のコラボレーションを進めたいと考えています。基礎研究に従事している私は、病気の情報や臨床で困っていることなどがよくわかっていません。臨床の課題などがわかれば、それに即した開発目標を立て、研究を行うことができます。

そのため、臨床の先生方にも、今まで以上に基礎研究に興味を持っていただいて、お互いに情報を交換し合いながら、siRNA医薬品を発展させていければと思っています。

講師紹介

程 久美子 ( てい くみこ ) 氏東京大学・大学院理学系研究科・生物科学専攻・准教授

略歴

1987年3月

早稲田大学・理工学研究科・物理学及応用物理学専攻
博士後期課程修了(理学博士)

1987年4月〜1989年1月

三菱化成生命科学研究所・特別研究員

1989年2月〜2002年2月

日本医科大学・医学部・薬理学教室・助手/講師/助教授

2002年3月〜2006年3月

東京大学・大学院理学系研究科・生物化学専攻・
生物情報科学学部教育特別プログラム・特任助教授

2006年4月〜2014年3月

東京大学・大学院理学系研究科・生物化学専攻・助教授
東京大学・大学院新領域創成科学研究科・
情報生命科学専攻・助教授 兼担

2014年4月〜現在

東京大学・大学院理学系研究科・生物科学専攻・准教授

東京大学・大学院新領域創成科学研究科・
メディカル情報生命専攻・准教授 兼担