【次世代の創薬モダリティ「siRNA」】第2回:核酸医薬の開発が目指す先

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公開日:2020/02/10

小比賀 聡 ( おびか さとし ) 氏大阪大学大学院 薬学研究科 生物有機化学分野 教授

「核酸を薬にするなんて、絶対にできっこない」

今や臨床でも大きな注目を集めている核酸医薬ですが、開発当初はそう言われていました。不可能を可能にするには、どのような技術の進歩があったのでしょうか。そして核酸医薬の開発は今後、どこへ向かうのでしょうか。

技術革新(1):化学修飾技術の進化

「核酸は壊れやすい」、これがまず核酸医薬の開発を難しくした要因です。

核酸医薬は、普通に投与すると核酸分解酵素によって直ちに切断されてしまいます。これを防ぐため、核酸医薬にはさまざまな化学修飾が施されています。化学修飾技術が進歩したことで、壊れやすい核酸を安定に保つことができ、医薬品として使用できるようになりました。

技術革新(2):ドラッグデリバリーシステムの進化

続いての課題は、「核酸をいかにしてターゲットまで届けるか」ということでした。核酸医薬が投与されてから薬効を発揮するまでには、長い道のりがあります。たとえば全身投与の場合、まず血中を漂い、そして標的組織に到達し、さらにその細胞内にうまく取り込まれなければなりません。

これを可能にしたのは、「リピッドナノパーティクル(LNP)」、「GalNAcコンジュゲート」という2つの技術です。LNPは、核酸を脂質ナノ粒子でくるみ、肝臓へ送達する技術です。先日発売されたパチシランナトリウム(アルナイラム社)にも用いられています。GalNAcコンジュゲートは、肝臓に発現するレセプターと結合する糖鎖で、核酸を肝臓に取り込まれやすくする技術です。

これらの技術のおかげで、核酸を肝臓の細胞まで届けることができるようになりました。本当に大きな進歩です。現在、肝臓以外の臓器へのデリバリー技術も開発されており、疾患の応用の幅がさらに広がると思います。

核酸医薬の今後の可能性

図1.従来の創薬と核酸医薬

図1.従来の創薬と核酸医薬

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不可能と言われていた核酸医薬の実用化が今、現実のものとなりました。ここからは、新しい核酸医薬が次々登場することが期待できます。

従来の医薬品は構造が複雑なタンパク質をターゲットにするので、新薬の開発には何万、何十万という分子をスクリーニングする必要がありました。一方、核酸医薬は主に構造が単純な核酸をターゲットにするので、対象疾患が変わっても迅速に開発を進めることができるのです(図1)。

「核酸をターゲットにする」、これにはもう1つ大きな意味があります。それは、従来の医薬品では治療できなかった希少疾患・難病をも治療できる可能性を秘めているということです。私はこの大きな可能性を核酸医薬の第一の使命と考え、今後も研究に取り組んでいきたいと思っています。

臨床の先生方へ

創薬技術の目覚ましい進歩により、核酸医薬が1つの医薬品として使えるようになってきています。

今後、この核酸医薬を最大限医療に役立てるためには、基礎と臨床の連携が不可欠です。臨床において、有効な治療法が求められている疾患がありましたら、ぜひわれわれのような基礎研究者にご相談ください。われわれはそのニーズに沿って、実用化を目指していきます。

今、治療法がなくて苦しんでいる患者さんを、核酸医薬で救える日が来ることを願っています。

講師紹介

小比賀 聡 ( おびか さとし ) 氏大阪大学大学院 薬学研究科 生物有機化学分野 教授

略歴

1992年3月

大阪大学大学院薬学研究科薬品化学専攻 博士前期課程修了

1992年4月

大阪大学薬学部 助手

2002年5月

カリフォルニア大学サンタバーバラ校化学科 博士研究員

2006年4月

大阪大学大学院薬学研究科 助教授

2008年8月~

大阪大学大学院薬学研究科 教授

2009年8月~

大阪大学臨床医工学融合研究教育センター 教授(兼任)

2014年4月~

医薬基盤研究所創薬支援スクリーニングセンター 招聘プロジェクトリーダー(兼任)