【次世代の創薬モダリティ「siRNA」】第1回:核酸医薬とは?

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公開日:2020/02/03

小比賀 聡 ( おびか さとし ) 氏大阪大学大学院 薬学研究科 生物有機化学分野 教授

1940年代、遺伝情報の本体は「核酸」であることが証明されました。その「核酸」が今、「医薬品」となっています。核酸医薬は、従来の医薬品では有効な治療法がなかった疾患の患者さんに対してさえも、新たな希望の灯となる可能性を秘めています。

今回は、核酸医薬って一体何?という先生方に向けて、はじめの一歩となる知識を易しく解説します。

核酸医薬とは

核酸医薬とは、十数個~数十個の核酸から成る化合物で、「核酸そのもの」が機能を持つ医薬品の総称です。同じく核酸から構成される遺伝子治療薬と混同されがちですが、遺伝子治療薬は体内でタンパク質に変換されてから機能するので、まったく性質が異なります。

核酸医薬の特徴は、低分子医薬品のように化学合成が可能で、抗体医薬品のように特異性が高いことが挙げられます。そして、核酸医薬はタンパク質のみならず、従来の医薬品がターゲットにできなかった「RNA」を狙うことができる、これが非常に重要です。そのため、これまで有効な治療法がなかった疾患に応用できる可能性があり、大きな注目を集めているのです。

核酸医薬の種類と作用点

核酸医薬には、構造やターゲット、メカニズムの違いによってさまざまな種類があります(図1、2)。代表的なのは、RNAをターゲットとするアンチセンス医薬品とsiRNA医薬品です。

図1.核酸医薬の種類

図1.核酸医薬の種類

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図2.核酸医薬の作用機序

図2.核酸医薬の作用機序

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アンチセンス医薬品の有効成分は一本鎖の核酸で、mRNA、pre-mRNA、miRNAなどあらゆるRNAに結合しやすい性質を持ちます。そのため、RNA分解、スプライシング制御、miRNA阻害と多様な機能を持ち、疾患への応用の幅が広いことが魅力です。

siRNA医薬品の場合は二本鎖RNAが有効成分で、主にmRNAを分解して遺伝子発現を抑制します。重要なのはmRNA分解に「RNA干渉」というメカニズムを利用する点で、これによって強力かつ持続的に効果を示すことが魅力です。

ほかに、タンパク質をターゲットにする核酸医薬もあります。タンパク質の構造を認識して結合し、機能を阻害する「アプタマー」や、TLR9タンパク質を介して自然免疫系を活性化する「CpG核酸」などです。

核酸医薬開発の歴史

図3.これまでに日米欧で
承認された核酸医薬

図3.これまでに日米欧で承認された核酸医薬

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今注目を集めている核酸医薬ですが、その歴史は意外と古く、1970年代から脈々と研究が進んでいました。第1号が承認されたのはおよそ20年後の1998年で、「Vitravene」というアンチセンス医薬品でした。しかしここから第4号の「Exondys51」までは試行錯誤段階という印象で、臨床で広く使用されるには至りませんでした。

しかし、第5号である脊髄性筋萎縮症の治療薬「ヌシネルセンナトリウム(アイオニス社:後にバイオジェン社と提携)」の登場をきっかけとして、核酸医薬が臨床の先生方から一気に注目されるようになりました。通常2歳くらいまでしか生きられないような赤ちゃんが、「ヌシネルセンナトリウム」の投与により症状が大きく改善したため、かなりのインパクトがあったようです。

近年は核酸医薬の創薬技術が成熟しており、2016年以降は毎年複数の薬剤が承認されています。2019年には、初のsiRNA医薬品「パチシランナトリウム(アルナイラム社)」も登場しました(図3)。

核酸医薬の開発動向

図4.核酸医薬の種類別
-疾患別臨床開発状況

図4.核酸医薬の種類別-疾患別臨床開発状況

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現在、非常に多くの臨床開発が進められています(平成27年度時点で約140品目)。領域としては、がん、神経・筋、内分泌・代謝が多いという状況です(図4)。核酸医薬の種類は、アンチセンス医薬品とsiRNA医薬品が中心です。アンチセンス医薬品とsiRNA医薬品は、それぞれアイオニス社とアルナイラム社が長年研究を積み重ねてきたので、その結果が今、現れはじめているのだと思います。

このように、核酸医薬が臨床に登場しはじめ、注目を集めています。ここまで至るには、製薬メーカーだけではなく、化学、合成、分析、またわれわれのようなアカデミアなど、さまざまな業界の、さまざまな技術の進歩がありました。

次回は、その技術発展の軌跡、そして私が考える核酸医薬開発の目指すべき道について、語ります。

講師紹介

小比賀 聡 ( おびか さとし ) 氏大阪大学大学院 薬学研究科 生物有機化学分野 教授

略歴

1992年3月

大阪大学大学院薬学研究科薬品化学専攻 博士前期課程修了

1992年4月

大阪大学薬学部 助手

2002年5月

カリフォルニア大学サンタバーバラ校化学科 博士研究員

2006年4月

大阪大学大学院薬学研究科 助教授

2008年8月~

大阪大学大学院薬学研究科 教授

2009年8月~

大阪大学臨床医工学融合研究教育センター 教授(兼任)

2014年4月~

医薬基盤研究所創薬支援スクリーニングセンター 招聘プロジェクトリーダー(兼任)