医療の価値とは何か、本当の競争とは何かを考える3時間!

公開日:2013/01/30

11月10日(土)東京女子医科大学・河田町キャンパスにおいて山本雄士氏(株式会社ミナケア 代表取締役)主催による「山本雄士ゼミ」の第7回(後期第2回)が開催された。前半では、山本氏が邦訳を行った『医療戦略の本質』(日経BP社)を題材としてディスカッションを行い、後半ではケーススタディとして「西ドイツ頭痛センター」(『The West German Headache Center: Integrated Migraine Care』)のケースを題材にディスカッションを行った。

山本雄士ゼミは、ハーバード・ビジネススクールでMBA(経営学修士)を取得した山本氏をファシリテーターに迎え、ケーススタディを題材に医療の問題点や今後の取組みをディスカッションによって学んでいく毎月1回開催のゼミである。

医療の価値とは何か?

山本雄士氏

イントロダクションとして山本氏が、『医療の本質』の内容について概要を説明した。

「現在は医療サービスが分断され、医療提供者側の論理だけで行われている。競争といっても同じ設備や同じ考え方では、競争が起ることは難しい」と説明した後、再度医療保険の三面構造(患者・支払側・提供者の関係)を詳しく解説、日本の国民皆保険だけでなく、海外の医療保険制度もレクチャーした上で、次の問題提起を行った。

「あなたが、医療保険会社の社長だとして、収益を増やすために何をするか?」との山本氏からの問いかけに対し、ゼミ生からは次の様な回答が寄せられた。

・近い将来疾病リスクのある人の除外(保険に加入させない)

・支払いの項目の適正化(一定の上限や免責疾病事項を設ける)

・病院の機能分化促進(病院へのアクセスの見直し)

・医療サービスの単価の見直し(検査、手術の適正化)

・保険料を上げる

・加入者を増やす

これらの回答を踏まえた上で医療コストパフォーマンスの点に注目し、現在、医療経営や医療経済の世界に「HEOR(医療経済評価)」などの医療のアウトカムも含めた評価の実施しようという動きがある。

アメリカでいうと、「現在は患者側と支払側で医療コストの押し付け合いの状況が続いていて、本当の意味での医療の価値を向上させる競争が起っていない(経済的な競争のみ)。本当の医療の価値すなわち、『コストあたりの健康上の成果』をきちんと訴求していくことが大事と本書では述べている」と解説した。

「今後は、患者、提供側、支払い側の三者が意識変革をし、本当の意味での医療の価値での競争を考え、実行していくことが大切」と山本氏が述べ前半を終了した。

ドイツ型改革を学ぶ!

山本雄士氏

ケーススタディとして「西ドイツ頭痛センター」(『The West German Headache Center: Integrated Migraine Care』)を題材に、主に病院(提供者)と保険(支払い側)の関係について、ディスカッションを行った。

「西ドイツ頭痛センター」(以下「WGHC」と略す)は、ドイツの医療保険制度改革を受けて、慢性疾患管理サービスを目的に生まれた医療施設である。WGHCは、エッセン大学付属病院の敷地内にあり、頭痛患者が必要とするサービス全般を提供している。頭痛に関する教育、入院、診療、慢性期のフォローなどの一連の流れを医師、看護師、理学療法士が診療チームとして提供する仕組みがあり、診療を受けた患者の約9割が診療に満足を示し、診療面では成功をしている。医療経営的には、当初1社のみの健康保険会社の保険料で採算割れだったが、後に複数の健康保険会社と契約を結ぶようになり改善傾向にある。

はじめに山本氏より「WGHCの良い点・悪い点は何か?」という質問から始まり,現状を把握した上で,「頭痛診療は収益を生んでいるか?」と病院のシステムや収益に関しても,深く分析していった。

次にドイツの大胆な医療保険改革について、被保険者、保険者、提供者の三面構造で考察。山本氏より「なぜ保険者や提供者は、他と差別化しないと生き残れないのか?」という問題に対し、ゼミ生からは、「良い競争が生れるから」や「被保険者より低コストで、良質なケアの提供が求められるから」などの回答がなされた。

ここで山本氏のミニレクチャーとなり、「保険社間で競争が起これば(いい提供者を選ぶようになる)、被保険者は安くて良質なケアができる医療機関を選ぶようになり、医療の提供側も保険会社へのアピールのために、より質の高い医療を提供するようになる」という構造を押さえておく必要があると話した。

ドイツでは、被保険者が自由に保険会社を選択できるようになった。その結果、被保険者がコストの低い医療ばかりを求め、保険者が支払いに疲弊し、これが原因で医療の質が低下しないように最小限の規制として保険料率の均てん化や保険会社への徴収強化や利益の再配分などの安全装置の施策が行われていると説明した。

最後に、山本氏がまとめとして糖尿病患者を例にわが国の問題点を説明。日本の民間保険会社は、「病識のない患者予備軍」を将来の支払いコスト上昇を抑えるために、保険の加入には慎重な審査を課している。今後、「こうした患者群をどのように考え、公的私的保険を問わず加入させるのか、国民健康保険との開発も急がれる」と示唆を行い、ゼミを終えた。

山本雄士氏

★今後のスケジュールは次の通り(いずれも16:00~19:00の開催予定)。

開催日 概略
第10回 2月16日(土) セダケア(地域のヘルスケアシステムのケーススタディ)
ゼミ合宿 3月23日(土)、24日(日) アメリカの医療保険制度と,組織論やリーダーシップ論など

プロフィール

山本 雄士 ( やまもと ゆうじ ) 氏株式会社ミナケア 代表取締役慶應義塾大学医学部クリニカルリサーチセンター 客員准教授株式会社 ソニーコンピュータサイエンス研究所リサーチャー公益財団法人 日本医療機能評価機構 客員研究員

[略歴]

1993年 北海道立札幌南高校卒業

1999年 東京大学医学部医学科卒業 循環器内科臨床医として都立広尾病院、東京大学医学部付属病院等に勤務

2003年 東京大学医学系研究科入学

2005年 ハーバード大学ビジネススクール入学

現在、株式会社 ミナケア 代表取締役

株式会社 ソニーコンピュータサイエンス研究所リサーチャー

内閣官房医療イノベーション推進室企画調査官

慶應義塾大学医学部クリニカルリサーチセンター 客員准教授

公益財団法人 日本医療機能評価機構 客員研究員

訳書に『医療戦略の本質』(マイケル・E・ポーターら、日経BP社)、『奇跡は起こせる』(ジョン・クラウリー、宝島社)、共著書に『病院経営のしくみ』、『病院経営のしくみ2』(ともに日本医療企画)など。

[山本雄士氏著作]