CLEAR!ジャーナル四天王|page:7

心房細動の脳梗塞後、抗凝固療法開始は早いほうがよい?(解説:後藤信哉氏)

心房細動症例の脳卒中リスクは洞調律例よりも高いとされる。しかし、脳梗塞急性期の抗凝固療法では梗塞巣からの出血が心配である。DOAC時代になって、ワルファリンの時代よりも抗凝固療法に対する心理的ハードルは低下した。心房細動があり、脳梗塞を経験した症例での早期(48時間以内)と晩期(6~7日後)のDOAC療法による30日以内の脳梗塞・全身性塞栓症・大出血・症候性頭蓋内出血の発現リスクをランダムに比較した。本研究は、実臨床を反映したシンプルな仮説検証試験である。実臨床の中で、シンプルな仮説検証を繰り返しながら医療の質をシステム的に改善するアプローチとして価値のある研究である。

急性心筋梗塞患者の予後は、所得に関連するのか? (解説:三浦伸一郎氏)

急性心筋梗塞(AMI)は、急性期の早期治療として冠動脈に対する血行再建術の有効性のエビデンスが確立し、わが国においても広く普及してきた。2020年のわが国における死因の第1位は悪性新生物、第2位が心疾患であり、その41%が心不全、33%が虚血性心疾患(その15%がAMI)となっている。AMIによる死亡率は年々低下してきているが、その後、心不全へ移行する患者もいるため、今なお、重要な心疾患である。最近、「脳卒中と循環器病克服第二次5ヵ年計画」が発表され、心血管疾患に対する多くの計画が進行中である。

DMR(変性性僧帽弁閉鎖不全症)に対するMitraClipのリアルワールドデータ(解説:上妻謙氏)

重症僧帽弁閉鎖不全症(MR)に対する経カテーテル僧帽弁クリップ術(MitraClip)は、低侵襲で僧帽弁の逆流を制御する心不全治療として定着してきた。本論文はSTS/ACC TVTレジストリーという世界を代表する米国の国家データベースの結果をまとめたリアルワールドデータである。MRは,弁尖または腱索、乳頭筋の器質的異常によって生じる1次性MR(器質性MR)と、左室や左房の拡大または機能不全に伴って生じる2次性MR(機能性MR)に大別される。1次性MRのうち弁尖や腱索、乳頭筋などの変性によるDegenerative MRの症例の成績をまとめている。2014年1月から2022年6月まで6万883例にMitraClip術が施行された。このうち1万9,088例が今回の解析対象となった。

加糖飲料の多飲は2型DM患者の死亡・心血管病リスクを増加させるとの警鐘に耳を傾けよう!―(解説:島田俊夫氏)

一般集団においての加糖飲料の過剰摂取が、がん、心血管病リスクおよび死亡を高めるとの報告も数多くみられる。米国・ハーバード大学公衆衛生大学院のLe Ma氏らが、2つの大規模前向きコホート試験、Nurses’ Health Study (女性看護師が対象:年齢30~55歳)とHealth Professionals Follow-up Study(男性医療従事者が対象:年齢40~75歳)の参加者中、ベースラインおよび追跡期間中に2型DMと診断された男女1万5,486例を対象に、飲料別摂取と死亡およびCVD(Coronary Vascular Disease:心血管病)アウトカムの関連を調査し、飲料摂取量については食品摂取頻度質問票を使って評価し、2~4年ごとに更新された情報を加味して解析を行った。

広範囲虚血患者に対する経皮的脳血栓回収術の有効性が示された(解説:高梨成彦氏)

本研究はこれまで治療適応外とされていた広範囲虚血患者でも、経皮的脳血栓回収術によって予後が改善することを示したものである。先のRESCUE-Japan LIMIT(Yoshimura S, et al. N Engl J Med. 2022;386:1303-1313.)の結果を補強するもので、同じくISC2023において中国から報告されたANGEL-ASPECTSでも同様の結果が示された。今後はASPECTSの低い=虚血コアの大きな患者に対しても血栓回収術の適応が拡大されることになるだろう。研究対象となっているのはCT検査においてASPECTS 5点以下、または潅流CTかMRI拡散強調画像をRAPIDで評価して虚血コアが50mL以上である症例である。90日後のmRSが0~2であった患者の割合は内科治療群が7.0%であったのに対して血管内治療群では20.0%にも達している。興味深いことに、さらに広範な虚血を来した患者についても解析が行われており、70mL、100mL、150mLでも血管内治療群で予後が良好であった。

週1回の基礎インスリンにより糖尿病治療は新時代へ(解説:小川大輔氏)

1型糖尿病のみならず、2型糖尿病でも経口血糖降下薬で血糖コントロール不良の場合はインスリン療法を行う必要がある。そして生理的なインスリン分泌を再現するために、基礎インスリンとして持効型インスリンを1日1回、追加インスリンとして超速効型インスリンを1日3回組み合わせる基礎・追加インスリン(Basal-Bolus)療法が用いられる。今回Basal-Bolus療法を行っている2型糖尿病患者を対象に、1日1回の持効型インスリンと週1回の持効型インスリンを比較したONWARDS 4試験の結果がLancet誌に発表された。

手術不能の胃がん・食道胃接合部がんに対する第1次選択療法の変革(解説:上村直実氏)

従来の標準化学療法+免疫チェックポイント阻害薬(PD-L1阻害薬)ニポルマブの併用療法がHER2陰性の進行胃がんと食道胃接合部がんに対する1次治療の有用性が2021年にLancet誌にて報告され、現在では保険収載されて医療現場で実際に使用されている。さらに、FOLFOX療法など従来の化学療法にPD-L1阻害薬のみでなく、さまざまな分子標的薬の上乗せ効果が注目されている。今回、HER2陰性かつタイトジャンクション分子の一部で胃粘膜上皮層のバリア機能や極性の調整に関与しているCLDN18.2陽性の切除不能な進行胃がんと食道胃接合部がんに対してCLDN18.2を標的としたモノクローナル抗体であるzolbetuximabをmFOLFOX6に追加した際の上乗せ効果を示した研究結果が2023年4月のLancet誌に報告された。この研究は日本を含む20ヵ国215施設が参画した国際共同RCTであり、論文の筆頭著者は日本の研究者である。

データベース解析はランダム化比較試験に取って代われないだろう(解説:折笠秀樹氏)

リアルワールドのデータベース解析が注目されています。保険レセプト等のデータを使って、治療法を比較する試みです。本研究では、薬剤に関する32件のランダム化比較試験(RCT)とレセプトデータベース解析を比較したところ、結果はほぼ一致していたのです(相関係数0.82)。データベース解析ではRCTのデザインを再現しましたが、懸念される点がたくさんあります。まず適格基準です。RCTでは適格基準が厳密なのはご承知のとおりです。そのため、単純に非リウマチ性心房細動といっても、適格条件を満たす患者さんが意外にいないことを経験されたと思います。病名は保険病名のため、診断基準を満たしていないケースも多々あります。エンドポイントはどうでしょうか。心房細動では臨床的に重要な出血事象をエンドポイントにすることが多いですが、RCTでは厳密な判定基準を設けています。保険レセプトデータでその確認はほぼ不可能でしょう。消化管出血ひとつとっても、内視鏡をしていれば消化管出血だとは単純に断定できません。重大な血圧低下にしても、血圧値がわからなければ判定不能でしょう。死亡にしても、医療行為の記録から確定することは並大抵ではないでしょう。

COVID-19の転帰に、レニン・アンジオテンシン系が重要な役割を果たしているのか?―(解説:石上友章氏)

コロナ禍は収束に向かいつつある。とはいえ、人類がCOVID-19を制圧したとは、とうてい言い難い。SARS-COVID19に意思があるわけではないが、無限に思える遺伝子変異の末に、人類との共存を選択したかに思えてしまう。しかし、いついかなる時に強い感染性のままに、より毒性の高い変異を獲得して、再び人類に闘いを挑むことがないとは言えない。つかの間の休息のような日々が、永遠に続くわけではない。SARS-COVID19は、細胞表面に存在するACE2とSpike Proteinが結合することによって、肺胞上皮細胞や心筋細胞に侵入し感染を成立させるとともに、ACE2の活性を阻害する。ACE2はAngiotensin IIをAngiotensin 1-7へ変換させる酵素であり、Angiotensin 1-7にはanti-Angiotensin II作用があるとされている。

24時間平均血圧および夜間血圧は、診察室血圧よりも優れた総死亡のリスクマーカー なぜ夜間血圧は予後予測能が高いのか? 治療の対象なのか?(解説:石川讓治氏)

24時間自由行動下モニタリングは、カフ・オシロメトリック法を用いて、上腕で20分間~30分間隔で血圧を自動測定する装置であり、昼間の自由行動下におけるストレス状態や夜間睡眠時の血圧などの、診察室血圧では評価できない時間帯の血圧の情報を得ることができる。地域一般住民および日常診療における多くの研究で、24時間平均血圧、とくに夜間血圧が診察室血圧よりも優れた総死亡や心血管死亡の予測因子であることが報告されてきた。Spanish Ambulatory Blood Pressure Registryは、スペインのプライマリケア医が高血圧の診断や治療のために24時間自由行動下血圧測定を行った患者のデータの登録研究であり、5万9,124例もの患者が平均9.7年間追跡された。このように非常に大きな症例数のデータベースにおいても以前と同様の知見が再確認されたが、追跡期間中に12.1%もの患者が死亡していた。

降圧薬による血圧低下度に薬剤差、個人差があるのか?(解説:石川讓治氏)

降圧薬の投与によって速やかに降圧目標に達することで、投与開始後早期の患者の心血管イベント抑制につながると考えられている。そのため、それぞれの患者に最も有効な降圧薬を選択していくことが重要である。本研究は、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(リシノプリル20mg)、アンジオテンシンII受容体阻害薬(カンデサルタン16mg)、サイアザイド利尿薬(ハイドロクロロサイアザイド25mg)、カルシウムチャンネル阻害薬(アムロジピン10mg)の4種類の降圧薬をクロスオーバーデザインで繰り返し投与し、降圧度の薬剤差、個人差を検討している。

Complex PCIにおけるイメージングガイドPCIの有用性(解説:上田恭敬氏)

韓国の20施設において、約2年間の心臓死・標的血管関連心筋梗塞・TVRの複合エンドポイントを用いて、イメージングガイドPCIとアンジオガイドPCIの成績を比較した無作為化比較試験の結果である。Complex PCIとして規定される登録対象病変は、1)側枝径2.5mm以上の分岐部病変、2)CTO病変、3)unprotected LM病変、4)必要ステント長38mm以上と予想される病変、5)2枝以上の主要冠動脈枝のPCIを同時に行うもの、6)3本以上のステント使用が必要な病変、7)ステント内再狭窄病変、8)高度石灰化病変、9)主要冠動脈枝の入口部病変である。

2型糖尿病の薬物療法で最適な追加オプションは?(解説:小川大輔氏)

GLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬の登場により、近年2型糖尿病の薬物療法が大きく変わった。既存の糖尿病治療薬では認められなかった、心血管イベントや腎不全を抑制する効果が数多く報告されたからだ。さまざまな糖尿病治療薬の中からどの薬剤を選択するか、その判断の一助になるネットワークメタ解析の論文がBMJ誌に発表された。この論文の背景として、2年前の2021年に同じBMJ誌に掲載された論文について少し触れたい。この当時すでにGLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬のエビデンスは集積しており、これら2製剤がこれまでの糖尿病治療薬と比較して全死亡、心血管死、非致死的心筋梗塞、腎不全、体重減少などのベネフィットがあることがネットワークメタ解析により明らかになった。

糖質過剰摂取は糖尿病患者のみならず万人にとって生活習慣病リスクを高める危険性がある?―(解説:島田俊夫氏)

私たちは生きるために食物を食べることでエネルギーを獲得している。その主要なエネルギー源は3大栄養素であり、その中でも代表的なエネルギー源が糖質である。糖質の摂り過ぎは糖尿病患者では禁忌だということは周知されている。しかし健康人においてさえ、糖の摂り過ぎには注意が必要だとの警鐘を告げる論文も散見され、その中には糖質過剰摂取が3大死因に密接に関連し、生活習慣病を引き起こす可能性について言及した論文も少なくない。

地域医療提供者による集中的な血圧介入は有用か?(解説:三浦伸一郎氏)

わが国の高血圧有病者は4,300万人であり、治療中・コントロール良好な患者はわずか27%である一方、未治療・認知なしが33%、未治療・認知ありは11%も存在し、いまだに十分な心血管疾患の発症抑制にはつながっていないのが現状である。わが国は世界的に見ても、国民皆保険制度が確立し医師数も比較的多いが、医療制度が未熟な国々は多く存在し医師数も不足している。そのような国々では、医師以外の地域医療提供者の存在が欠かせない。

過去のSARS-CoV-2感染に伴う再感染に対する防御効果:系統的レビューとメタアナリシス(解説:寺田教彦氏)

本研究は、2022年9月31日まで(原文ママ)に報告されたプレプリントを含む、後ろ向きコホート研究、前向きコホート研究および検査陰性症例対照研究の中で、SARS-CoV-2罹患歴の有無によるCOVID-19感染のリスクを比較した研究を特定し、システマティックレビューおよびメタ解析を行っている。結果の要約は、「コロナ感染による免疫、変異株ごとの効果は~メタ解析/Lancet」で紹介されているが、簡潔に研究結果をまとめると、「再感染や症候性再感染は、初期株、アルファ株、ベータ株、デルタ株に対しては高い予防効果を示したが、オミクロンBA.1株では再感染や症候性再感染の予防効果が低かった。ただし、重症化予防効果については、既感染1年後までアルファ株、ベータ株、デルタ株、オミクロンBA.1株のいずれも維持していた」と筆者は論じている。

患者集団を対象とした医療からの脱却法は?(解説:後藤信哉氏)

ランダム化比較試験は、患者集団の標準治療の確立に役立った。しかし、新型コロナウイルス感染症などの病名にて患者集団を規定しても、集団を構成している個別症例の病態、予後には不均一性がある。たとえば、新型コロナウイルス感染症の入院例においてヘパリン治療がECMOなどを避けるために有効であることはランダム化比較試験にて示されたが、標準治療が集団を構成する全例に対して有効・安全なわけではない。本研究はヘパリン治療の不均一性を検証するために3つの方法を利用した。(1)は通常のサブグループ解析である。新薬開発の臨床試験では事前に設定した年齢、性別、腎機能などにより分けたサブグループにて不均一性がないことを示している。本研究ではサブグループ解析にて結果の不均一性に注目した。(2)はrisk based model法である。集団からリスクに寄与する因子を抽出して、その因子により個別症例のリスクを事前に予測してグループ分けした。(3)はEffect-Based Approachである。いわゆるrandom forest plotにて効果を予測してグループ分けする方法である。

IgA腎症の病態に根差した治療(解説:浦信行氏)

CLEAR!ジャーナル四天王-1535「高リスクIgA腎症に対する経口ステロイドの効果と有害事象を勘案した治療法」の稿で低用量ステロイド群の優位性を解説したが、用量の多寡にかかわらず治療終了後の追跡期間で効果が減弱することが明らかであり、より一層病態に根差した治療法の開発の必要性を述べた。このたびLancet誌に掲載された新規の非免疫抑制性単分子エンドセリン受容体・アンジオテンシンII受容体デュアル拮抗薬のsparsentanのデータは、病態に根差した有用な治療法であることを期待させるものである。

大気汚染と認知症リスク (解説:岡村毅氏)

黄砂の飛来がニュースになっているが、タイムリーに大気汚染が認知症発症とも関連するかもしれないという報告だ。喫煙等と比べると認知症発症に与える影響は小さいが、何せ逃げることができないリスクなので、人々への影響は大きい。なお本論文では主にPM2.5を扱っているが、これは大気中に浮遊している直径2.5μm以下の小さな粒子を指し、化石燃料をはじめとする工業活動で排出されるものである。黄砂とは中国やモンゴルの乾燥域から偏西風に乗って飛んでくる砂塵であり、その大きさは4μm程度であるからほとんどがPM2.5ではない。

急性期広範囲脳梗塞に対する血管内治療の検証(解説:中川原譲二氏)

大きな梗塞を伴う急性期脳梗塞に対する血管内治療の役割は、さまざまな集団で広く研究されていない。そこで、中国人を対象としたANGEL-ASPECT試験によって、本血管内治療の有効性を検証した。前方循環の急性大血管閉塞症で、Alberta Stroke Program Early Computed Tomographic Score(ASPECTS)が3~5(範囲:0~10、値が低いほど梗塞が大きい)または梗塞コア体積が70~100mLの患者を対象に、中国で多施設、前向き、オープンラベル、無作為化試験を実施した。患者は、最後に元気であることが確認された時刻から24時間以内に、血管内治療群(血管内治療+内科的管理)と内科的管理単独群に1:1の割合でランダムに割り付けられた。主要評価項目は、90日後のmRSのスコア(スコアは0~6で、スコアが高いほど障害が大きい)で、90日後のmRSのスコアの分布に2群間で変化が生じたかどうかを調べた。副次評価項目は、mRSのスコアが0~2の割合、0~3の割合とした。安全性の主要評価項目は、無作為化後48時間以内の症候性頭蓋内出血とした。