CLEAR!ジャーナル四天王|page:55

軽症脳梗塞急性期の治療効果はtPAとアスピリンで差がなかった(解説:内山真一郎氏)-897

脳梗塞急性期患者の半数以上は軽症であるが、これまでに行われた血栓溶解療法の臨床試験には介助を要さない軽症例も含まれていた。PRISMS試験は、米国国立衛生研究所脳卒中尺度(NIHSS)が5点までの軽症例において、アルテプラーゼの有効性と安全性を評価する目的で行われた。PRISMSは米国の多施設共同、第III相無作為化二重盲検比較試験であり、NIHSSが0~5点で介助を要さず、発症後3時間以内の治療を開始された症例が対象となった。

高齢心房細動症例で心臓外科手術が行われる場合、外科的左心耳閉鎖術は有効か否か?(解説:今井靖氏)-896

心房細動患者において血栓塞栓症の発症リスクは約5倍と見積もられており、その塞栓症予防としてワルファリンが唯一の治療選択であったところに経口直接抗凝固薬(DOAC)が加わった。しかしながら抗凝固薬投与は出血傾向を生じるという負の側面があり、その点において主な塞栓源となる左心耳を閉塞することで抗凝固薬に並ぶ、あるいは抗凝固療法との併用効果について期待されるところである。

卵円孔開存患者では周術期の脳梗塞が多かった(解説:佐田政隆氏)-895

卵円孔は、胎児期に右心房から左心房に血液が直接流れ込むための正常な構造であり、出産後肺循環が始まると閉鎖される。この閉鎖が不全である状態が卵円孔開存である。バブルテストや経食道心エコーなどの診断技術の向上によって、診断される頻度が増えており、成人で25%にPFOが認められるという報告もある。心房中隔欠損症などと異なり、PFOは血行動態に悪影響はなく、従来は放置して良いとされてきた。しかし、下肢などに血栓が生じると、PFOを通って右房から左房へ血栓が流れていって、奇異性脳塞栓症を生じさせることがまれに起こることが知られている。脳梗塞の既往がない周術期患者でPFOが本当に脳梗塞のリスクになるのかどうかは不明であった。

腹部大動脈瘤スクリーニングは無益、では健診が有効な疾患は何か?(解説:中澤達氏)-894

スウェーデン人を対象としたレジストベースのコホート研究で、腹部大動脈瘤(AAA)スクリーニングは、AAA死亡の減少に寄与していないことが明らかにされた。スウェーデン人男性のAAA死亡率(65~74歳男性10万人当たり)は、2000年初期は36例であったが、2015年には10例に減少していた。死亡率の減少は全国的にみられ、AAAスクリーニング実施の有無に関係していなかった。今回の検討で、減少した要因の大半は他の因子によるもので、おそらくは喫煙の減少によることが示唆された。

外来血圧から覚醒時自由行動下血圧を予測することは可能か?―真の血圧の探求(解説:石川讓治氏)-892

ロシアの外科医コロトコフによって、1905年に水銀血圧計が作成されてから100年以上の年月が過ぎた現在でも、“真の血圧値”を知ることは難しい。忙しい外来診療における外来血圧測定の不正確性のために、カフ・オシロメトリック法を用いた自動血圧計が使用されるようになり、白衣効果(医師の前でのストレスによる血圧上昇)の影響を減らすため、診察室外での血圧(Out-of-Office Blood Pressure)の測定がなされてきた。自由行動下血圧モニタリングは、患者の日常生活の中での血圧が測定可能であり、現在のところ最も“真の血圧値”に近いと考えられている。しかし、自由行動下血圧計は高価であり、繰り返す血圧測定が患者に不快感を与える場合があるため、家庭血圧計が診察室外の血圧として代用され、臨床応用されている。

糖尿病入院患者の血糖コントロールは人工膵臓で自動化されるか?(解説:住谷哲氏)-893

糖尿病患者数の増加に伴って糖尿病を合併した入院患者の割合も増えている。その結果、筆者も含めて多くの先生方は、血糖コントロール目的以外で他科に入院している患者の血糖コントロールを依頼されることになる(大阪では共観といいます)。ほとんどの患者は感染症、心不全などの治療や手術目的の入院であり、その血糖コントロール目標も<180mg/dLとほぼ確立している。また治療法も基本は持効型インスリンと超速効型インスリンによるBasal-bolus therapyになる。食事をしている患者であれば毎食前および就眠前の4回の自己血糖測定を実施してインスリン量を調節する。これが研修医にとっての大切なトレーニングになっているのであるが、将来このトレーニングも不要になるかもしれないような報告である。

そもそも術前リスク評価をどう考えるべきか(解説:野間重孝 氏)-891

循環器内科はさまざまな院内サービスを行っているが、その中でも最も重要なものの1つが、心疾患を持つ(もしくは持つと疑われる)患者が心臓外のmajor surgeryを受ける場合のリスク評価に対するコンサルトに答えることではないかと思う。この場合、大体の医師が心疾患による追加的なリスクをまったく考える必要のない群を最軽症とし、これは絶対に手術は無理というものを最重症として5段階評価を考え、それなりの文章を考えて回答している、というあたりが実情なのではないかと思う。

オキシントモジュリン作動薬の臨床応用(解説:吉岡成人氏)-890

インクレチン作動薬として2005年に米国で承認・発売されたGLP-1受容体作動薬であるエキセナチドは、糖尿病の治療に大きな変革をもたらした。エキセナチドが登場し、わずか数年の期間で多くのGLP-1受容体作動薬やDPP-4阻害薬が発売され、毎日の臨床の現場で使用されている。そのような中で、インクレチンの1つであるオキシントモジュリンの臨床応用についての論文がLancet誌に掲載された。

エキストラヴァージンオリーブオイルまたはナッツ強化地中海食の順守は心血管病ハイリスクを有するも未発症のコホートにおけるイベント抑制に有用!(解説:島田俊夫氏)-889

地中海食はこれまで広く心血管病リスクを抑制する食事として受け止められてきた。本論文はスペイン国内多施設による心血管病ハイリスクで心血管病未発症、年齢55〜80歳、7,447名(女性57%)のコホートを対象にカロリー制限のない(1)エキストラヴァージンオリーブオイル強化地中海食群、(2)ミックスナッツ強化地中海食群、(3)低脂肪コントロール食群の3群にランダムに割り付け、約5年間追跡した。ところが無作為割り付け後、一部の世帯で割り付け逸脱が発生した。この事実の判明以前に、採択・掲載済み論文2)は解析に不備があると判断し、疑いを含めた1,558名を除外して新たに行った解析結果は以前の結果と一致を認めたけれども、掲載済み論文は自主的に掲載を撤回した。

内科も外科も、今、左心耳がアツイ(解説:今中和人氏)-888

本論文は、開心術のついでに左心耳を閉鎖すれば、後日の心原性塞栓が予防できて予後が改善する、という仮説を検証している。2009年からの約8年間に、全米のprivateないしMedicare被保険者7万5,782人が冠動脈バイパスか弁膜症手術を受け、その際5.8%(4,374人)が左心耳閉鎖術(LAAO)も受けた。このうち4,295人と、LAAOしなかった同数の患者とをマッチさせて、平均フォロー2.1年で比較した。LAAO群の患者分布に合わせているため、両群とも3/4にAFの既往があり、年齢68歳、単独バイパスが1,200例(オフポンプ900例)、弁手術が2,300例、バイパス+弁手術が750例程度であった。

クロピドグレルとアスピリンの併用は脳梗塞再発予防効果があるが出血も増加する(解説:内山真一郎氏)-887

POINTは発症後12時間以内の軽症脳梗塞か高リスクの一過性脳虚血発作(TIA)において、クロピドグレル(初日600mg、2日目より75mg)とアスピリン(50~325mg)の併用療法とアスピリンの単独療法を比較する試験であった。結果は、併用群で単独群より虚血イベントが有意に少なく、出血イベントは有意に多かった。発症後24時間以内の軽症脳梗塞とTIAを対象に中国で行われたCHANCEでは、クロピドグレル+アスピリン併用療法でアスピリン単独療法より虚血イベントは有意に少なく、出血イベントは差がなかった。

腎交感神経除神経降圧療法と降圧薬(解説:冨山博史氏)-885

研究対象は、カルシウム拮抗薬、利尿薬、レニン・アンジオテンシン系阻害薬、ベータ遮断薬のいずれか、または複数の降圧薬の最大容量の50%以上の服用でも血圧コントロールが十分でない症例80例である。高周波カテーテルによる腎交感神経除神経(RND)実施群(38例)および対照群(42例)の治療後6ヵ月の血圧変化を24時間血圧測定にて評価した。RND群では、対照群に比べて24時間収縮期血圧が7.4mmHg有意に低下し、RNDの有意な降圧効果を示した。

素因遺伝子パネルと膵がんリスクの関連(解説:上村直実氏)-886

わが国の死因順位をみると悪性新生物による割合が増加し続けているが、最近、肝炎ウイルスやピロリ菌による感染を基盤に発症することが判明した肝臓がんや胃がんによる死亡者数が激減しており、さらに、増加し続けてきた肺がんと大腸がんによる死亡者数もついに低下してきた。このような状況の中、毎年のように死亡者数が増加しているのが膵がんである。

閉経前乳がん術後ホルモン療法は何を選択すべきか-SOFT+TEXT統合解析から(解説:矢形寛氏)-884

ホルモン受容体陽性乳がんにおいて、ホルモン治療は生存率向上に重要な役割を果たしている。しかし、閉経前ではその治療法にタモキシフェン単独、タモキシフェン+卵巣機能抑制、そしてアロマターゼ阻害剤+卵巣機能抑制の3通りがあり、どれを選択するかは悩ましい。なぜなら、後者になるにつれて治療効果も上がりそうであるが、一方で、短期的有害事象のみならず、長期的な身体への影響も大きくなりうるからである。したがって、治療効果が高いのでなければ、有害事象の少ない治療法を選択する方向で考えることになる。

経済レベルの異なる国々における脳卒中診療パターンと転帰(中川原譲二氏)-883

低・中所得国では脳卒中が人々にもたらす影響にはばらつきがある。高所得国では、脳卒中の診療と転帰における改善が報告されているが、低・中所得国での診療の状況と転帰についてはほとんど知られていない。著者ら(英国・グラスゴー大学のPeter Langhorne氏ら)は、経済レベルの異なる国々における実施可能な診療のパターンと患者転帰との関係を比較検討した。

不撓不屈の(?)橈骨動脈(解説:今中和人氏)-882

橈骨動脈のCABGでの使用は長らく廃れていたが、1990年代になってオーストラリアのBuxton先生らを中心にリバイバルが起きた。その後、多くの外科医が著した雨後のたけのこのような論文の結論はひどく食い違い、内胸動脈に匹敵すると高く評価する論文もあれば、静脈と同等以下とする論文もある。グラフト開存への影響が大きい、冠動脈の狭窄度や灌流域の広さなどに関するバイアスを感じる論文も少なくないが、唱道者のBuxton先生らがRAは静脈と同等と結論した後もRA擁護論は根強く、RAが優れているのか大して違わないのか判断しかねる状態が続く中で発表されたメタ解析である。

過去の“心房細動に対するリズムコントロールは予後を改善しない”という呪縛を解くことはできるのか?(解説:矢崎義直 氏)-880

心不全症例に心房細動の合併が多いことが知られているが、心不全の病態が心房細動を引き起こし、また心房細動自体が心不全の誘因となりうる。両者は密接に関係しており、心房細動のマネージメントは心不全治療のうえで重要となる。

気持ちはわかるがもったいない臨床試験!(解説:後藤信哉氏)-878

世の中の活動には、税金を使うpublic sectorと個人の投資によるprivate sectorがある。特許が切れていない新薬、医療デバイスなどを用いた試験は、試験の結果により大儲けするスポンサーがあるのでprivate sectorである(日本のAMEDにはpublicとprivateの混同があると筆者は思う)。スポンサーは投資であるから、儲けにつながる結果を得たい。その気持ちはすごくわかる。ランダム化比較試験による仮説検証は、巨大なビジネスであるとともに大切な臨床科学でもある。本試験の仮説は臨床的にきわめて重要である。スポンサーの気持ちもわかるし、試験のルールもわかるけれども、本研究は仮説が魅力的であるだけに最後まで施行してほしかった。