成人ダウン症の認知症に、抗アルツハイマー病薬は有効か?

提供元:ケアネット

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公開日:2012/02/23

 

 成人ダウン症患者の認知機能障害や認知症に対し、アルツハイマー病治療薬のメマンチン(商品名:メマリー)は効果を示さないことが、英キングス・カレッジ・ロンドンのMarisa Hanney氏らが行ったMEADOWS試験で示された。ダウン症患者のアルツハイマー病発症率はきわめて高く、40歳以上になると多くにアルツハイマー病に特徴的な病理学的な変化がみられるという。N-メチル-D-アスパラギン酸型(NMDA)グルタミン酸受容体拮抗薬であるメマンチンは、ダウン症の遺伝子導入マウスモデルで有効性が示されているが、ダウン症患者に対するアルツハイマー病治療薬の投与を支持するエビデンスは十分ではない。Lancet誌2012年2月11日号(オンライン版2012年1月10日号)掲載の報告。

成人ダウン症に対するメマンチンの有用性を評価

 MEADOWS試験は、成人ダウン症患者の認知機能障害に対するメマンチンの有用性を評価するプロスペクティブな多施設共同二重盲検無作為化試験。

 対象は、英国とノルウェーの4つの学習障害センターから登録された40歳以上のダウン症または年齢を問わず認知症と診断されたダウン症の患者であった。これらの患者が、メマンチンあるいはプラセボを投与する群に無作為に割り付けられ、52週の治療が行われた。

 主要評価項目は、DAMESスコア(注意、記憶、実行機能からなるダウン症の認知機能評価尺度)および適応行動評価尺度I、II(ABS-I、-II)に基づく認知機能と適応行動機能の変化とし、ベースライン、12、26、52週に評価を行った。

両群とも認知機能、適応行動機能が低下、有意差はなし

 試験は2005年6月20日に開始され、2008年12月30日にフォローアップを終えた。173例が登録され、メマンチン群に88例(平均年齢51.7歳、男性57%、認知症35%)、プラセボ群には85例(同:51.0歳、56%、35%)が割り付けられた。メマンチン群のうちDAMESスコアは72例(82%)、ABSは75例(85%)で得られ、プラセボ群はそれぞれ74例(87%)、73例(86%)から得られた。

 52週の治療後、両群ともに認知機能、適応行動機能の低下が認められたが、群間に有意な差はなかった。ベースラインスコアで調整後も、両群間のDAMESスコアの差は-4.1(p=0.36)、ABS-Iの差は-8.5(p=0.15)、ABS-IIの差は2.0(p=0.67)と有意差は認めず、むしろプラセボ群で良好な傾向がみられた。

メマンチン群の10例(11%)、プラセボ群の6例(7%)で重篤な有害事象が認められた(p=0.33)。重篤な有害事象により、メマンチン群の5例、プラセボ群の4例が死亡した(p=0.77)。

 著者は、「40歳以上のダウン症患者では、メマンチンによる認知機能障害や認知症の改善効果を示すエビデンスは得られなかった」と結論し、「アルツハイマー病に有効な薬剤が、成人ダウン症の認知機能障害に効果を示すとは限らないことが示唆された」と指摘している。

(菅野守:医学ライター)