多発性硬化症のnatalizumab療法後に発症した進行性多巣性白質脳症

提供元:ケアネット

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公開日:2009/09/30

 



本報告は、多発性硬化症でnatalizumab療法を受けていた患者が発症した、進行性多巣性白質脳症についての短信。natalizumabの排出を促すため血漿交換療法を行った3週間後、免疫再構築症候群が発現し、神経症状が悪化したが、ステロイドパルス療法により数週間後に改善した。報告は、ドイツ・ルール大学のWerner Wenning氏らの研究グループによる。NEJM誌2009年9月10日号より。

重篤な免疫再構築症候群はステロイドパルス療法で改善




研究グループは、natalizumab療法施行後12ヵ月時点で、進行性多巣性白質脳症(Progressive Multifocal Leukoencephalopathy:PML)を発病した52歳多発性硬化症患者の臨床知見、および治療の流れについて解説している。

患者は、神経・精神医学的な症状が出現した2ヵ月後に入院、血漿交換と免疫吸着によってnatalizumabを除去する治療を受けた。短期改善の後、患者は明らかな免疫再構築症候群を発症し非常に重篤となった。ステロイド大量静注パルス療法によって、患者の状況は臨床的に有意に回復し安定した。
 この症例により、迅速な診断と治療が、natalizumab療法を受け重度PMLを発症した患者の、転帰改善の可能性があることを示したと述べている。

natalizumabが脳の免疫監視機構に影響か




natalizumabは、VLA-4のα4鎖に対するモノクローナル抗体で、高度に活動的な再発性多発性硬化症の単独治療薬として、アメリカ食品医薬品局と欧州医薬品庁に承認された。2008年6月現在、40,000人以上の患者が臨床試験に参加した。そのうち、約14,000例は12ヵ月間服用し、少なくとも6,600例が18ヵ月間服用していた。本剤の認可直後、natalizumab療法に起因するPML患者が3例報告された。そのうち2例がインターフェロンβ-1aとの併用投与、1例は事前免疫抑制療法を受けたクローン病患者だった。第III相試験中に2例の患者が死亡、1例には持続性の重度神経障害が残ったことが報告されている。

PMLは、JCウイルス(一般に高度な易感染患者に起こるポリオーマウイルス)によって引き起こされる中枢神経系のまれな脱髄疾患であり、しばしば致死的転帰を伴う。natalizumab療法と関連したPMLの素因的メカニズムは依然として不明だが、現在の仮説では、脳の免疫監視機構の易感染化、またはJCウイルスを運ぶ骨髄細胞のnatalizumabによる流動化が含まれると説明している。

(医療ライター:朝田哲明)