尿酸値の低さが腎機能の急速な低下リスクと関連――日本人の健診データの解析

提供元:HealthDay News

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公開日:2023/05/05

 

 尿酸値が基準範囲内であっても低値の場合は、腎機能が急速に低下するリスクが高いという関連を示すデータが報告された。ただし、高齢者ではこの関連が見られないという。帝京大学ちば総合医療センター腎臓内科の寺脇博之氏らの研究によるもので、詳細は「Clinical and Experimental Nephrology」に2月11日掲載された。

 尿酸値が高すぎる状態「高尿酸血症」は、痛風だけでなく腎機能低下のリスクとなる。しかし、それとは反対に尿酸値が低いことの腎機能への影響はよく分かっていない。尿酸には強力な抗酸化作用があるため、理論的には、尿酸値が低いことも腎機能低下リスクとなる可能性も考えられるが、そのような視点での研究報告は少ない。そこで寺脇氏らは、健診受診者のビッグデータを用いてこの点に関する検討を行った。

 都内の健診センターの1998~2001年度の4年間の受診者のうち、2002~2005年度にも受診していて4年以上の追跡が可能だった1万1,129人から、低尿酸血症(2.0mg/dL未満)、積極的な治療が必要とされる高尿酸血症(8.0mg/dL以上)、および糖尿病の治療を受けている患者を除外した1万547人を解析対象とした。対象者の主な特徴は、平均年齢53.3±11.6歳、男性50.4%で、BMIは22.9±2.99、尿酸値5.22±1.23mg/dL、eGFR83.1±10.1mL/分/1.73m2。なお、治療中の糖尿病患者を除外したにもかかわらず、501人(4.8%)は糖尿病ないし糖尿病疑いと判定された。

 eGFRが1年間に3mL/分/1.73m2以上の速度で低下していた場合を「急速な腎機能低下」と定義すると、5.4±1.6年の追跡で333人(3.2%)がこれに該当した。急速な腎機能低下群と対照群のベースラインデータを比較すると、年齢や性別(男性の割合)、BMI、尿酸値には有意差がなく、血圧やeGFRは前者が高値、アルブミンは後者が高値という有意差が見られた。

 ベースラインの尿酸値を基に全体を6群に分けると、急速な腎機能低下の発生率は以下のように、4.0~4.9mg/dLの群が最も低かった。2.0~2.9mg/dLでは4.5%、3.0~3.9mg/dLは4.0%、4.0~4.9mg/dLは2.4%、5.0~5.9mg/dLは3.3%、6.0~6.9mg/dLは3.1%、7.0~7.9mg/dLは3.4%。

 尿酸値4.0~4.9mg/dLの群を基準として、他群での急速な腎機能低下の発生リスクを検討。その結果、交絡因子未調整では、2.0~2.9mg/dLの群〔オッズ比(OR)1.93(95%信頼区間1.01~3.70)〕と、3.0~3.9mg/dLの群〔OR1.72(同1.20~2.45)〕、および5.0~5.9mg/dLの群〔OR1.43(同1.05~1.96)〕で有意なオッズ比の上昇が認められた。

 腎機能の低下速度に影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、BMI、収縮期血圧、ヘモグロビン、ALT、血清アルブミン、eGFR、HDL-C、TG、CRP、糖尿病・高血圧・脂質異常症・脳卒中・虚血性心疾患の既往)を調整後も、3.0~3.9mg/dLの群では有意性が保たれていた〔OR1.73(同1.20~2.50)〕。ベースライン登録後に判明した糖尿病(ないし疑い)患者を除外した解析の結果も同様だった。

 性別のサブグループ解析からは、男性、女性ともに全体解析と同様の結果が示された。一方、年齢で層別化したサブグループ解析からは、65歳以上の高齢者では、尿酸値が低いことと急速な腎機能低下のリスクとの関連が非有意となることが分かった。

 著者らは本研究の特徴の一つとして、尿酸値や腎機能に関連のある、血清アルブミンを含む多くの交絡因子を調整していることを挙げている。なお、血清アルブミンについては、著者らの研究グループが、基準範囲内でも低値の場合、急速な腎機能低下が発生しやすい可能性を既に報告している。一方、研究の限界点としては、腎機能低下との関連のある尿アルブミンや処方薬の情報が把握されていないこと、対象が健診受診者であるため健康リテラシーの高い集団と考えられることなどが挙げられるという。

 論文の結論は、「われわれの研究により、特に若年から中年の成人において、基準範囲内で低レベルの尿酸値が腎機能の急速な低下のリスクと独立して関連していることが示された」とまとめられている。なお、その機序については文献的考察から、「尿酸はビタミンCを上回る抗酸化作用を有しており、そのレベルが低いことで、血管内皮細胞での酸化ストレスの亢進、アポトーシスの誘導、接着分子の発現などが生じることの影響が考えられる」と述べられている。また、高齢者では尿酸値低値の影響が非有意であることについては、「活動性が高い若年~中年期には酸化ストレス抑制のため尿酸の需要が高いのに対して、高齢期にはその需要が減るためではないか」と推察している。

[2023年4月17日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら