SGLT2阻害薬で腎結石リスク低下の可能性

提供元:HealthDay News

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公開日:2023/03/01

 

 SGLT2阻害薬(SGLT2-i)が腎結石のリスクを抑制することを示唆するデータが報告された。患者データの解析や動物実験などによって明らかになったもので、東北医科薬科大学医学部腎臓内分泌内科の廣瀬卓男氏、同泌尿器科(現在は四谷メディカルキューブ泌尿器科)の阿南剛氏らによる論文が、「Pharmacological Research」12月発行号に掲載された。さらに同氏らは、経口血糖降下薬のタイプ別の解析を実施。唯一、SGLT2-iが処方されている患者のみ、尿路結石が有意に少ないという結果が、「Kidney International Reports」に2月2日、レターとして掲載された。

 腎結石は健診などで偶然見つかることもあるが、しばしば突然、背中や腹部などの激痛を引き起こす。腎結石の大半はシュウ酸カルシウムの結晶が固まったもので、糖尿病やメタボリックシンドロームでは尿のpHが低下しやすいことなどのために、この結石ができやすいことが知られている。また、シュウ酸カルシウム結石ができる過程には、腎臓の尿細管でも産生されているオステオポンチンという糖タンパク質が、炎症を引き起こすことも関与していると考えられている。

 一方、SGLT2-iは、尿中への糖排泄を促進して血糖値を下げる比較的新しい血糖降下薬である。血糖降下作用以外に、利尿作用や抗炎症作用をはじめとする多彩な作用を有しており、現在では慢性腎臓病や心不全の治療にも用いられている。さらにSGLT2-iが腎尿細管でのオステオポンチン産生を抑制することも報告されており、この作用は腎結石リスクの低下につながる可能性がある。ただし、実際にそのような効果があるかどうかを検討した研究結果は、これまで報告されていない。廣瀬氏らはこの点について、患者データの解析、動物実験、in vitro(試験管内)研究という3通りの研究手法で検討した。

 まず、患者データの解析では、全国の急性期病院(DPC対象病院)の2020年1年間の20歳以上の糖尿病患者、男性90万9,628人、女性62万8,570人を対象として、SGLT2-iが処方されている群とされていない群に二分した上で、腎結石の診断を受けた患者の割合を比較した。その結果、男性糖尿病患者で腎結石の診断を受けた割合は、SGLT2-iが処方されていた群は2.28%、処方されていない群は2.54%であり、前者のほうが有意に低かった〔オッズ比(OR)0.89(95%信頼区間0.86~0.94)〕。女性患者は同順に1.58%、1.66%であり、有意差はなかった〔OR0.95(同0.89~1.02)〕。女性の群間差が有意でない理由として、「腎結石の有病率自体が男性より低いためではないか」と著者らは考察している。

 次に、動物実験では、ラットに対してシュウ酸カルシウム結石の形成を促進する薬剤を14日間投与し、別の1群にはSGLT2-iも同時に投与した。腎結石の量をCT検査で比較したところ、SGLT2-iを同時投与されていたラットは、腎結石量が有意に少ないことが明らかになった(P<0.01)。加えて、SGLT2ノックアウトマウスに対してシュウ酸カルシウム結石の形成を促進しても、腎結石の形成が抑制されることが分かった。続いて行ったin vitro研究からは、SGLT2を阻害するとオステオポンチン遺伝子発現が抑制され、Kim1という腎障害のマーカーが低下することが明らかになった。

 このようにSGLT2-iに腎結石を抑制する作用が認められたことから、再び患者データを用いて、SGLT2-iが処方されている患者と他の血糖降下薬が処方されている患者とで、尿路結石(腎結石と尿管結石)の罹患状況に差があるかを検討した。

 まず、2021年の1年間の患者データを解析した結果、男性〔OR1.12(1.10~1.13)〕、女性〔OR1.70(1.67~1.73)〕ともに、糖尿病患者は糖尿病のない患者に比べて尿路結石のオッズ比が高いことが確認された。次に、糖尿病患者を対象として、SU薬、ビグアナイド薬、α-グルコシダーゼ阻害薬、チアゾリジン薬、グリニド薬、DPP-4阻害薬、およびSGLT2-iという経口血糖降下薬について、その薬が処方されているか否かで二分し比較した。すると、SGLT2-i以外の全ての血糖降下薬で、処方されている群の方が、尿路結石の診断を受けた患者の割合が有意に高かった。それに対してSGLT2-iのみが処方されている患者は処方されていない患者に比べて、男性〔OR0.95(0.91~0.98)〕だけでなく、女性〔OR0.91(0.86~0.97)〕も尿路結石の診断を受けた患者の割合が有意に低かった。

 また、糖尿病患者を除外し、慢性腎臓病や心不全の治療目的でSGLT2-iが処方されていた患者を対象とする検討からも、男性では同薬が処方されている群の方が、尿路結石が有意に少ないことも分かった〔OR0.42(0.35~0.51)〕。一方、女性では有意差がなかった〔OR0.90(0.68~1.19)〕。

 以上、一連の結果を基に著者らは、「SGLT2-iは腎結石の形成とそれに伴う腎障害を抑制する、有力な治療アプローチになるのではないか」と総括している。その作用機序としては、「オステオポンチン遺伝子発現の抑制や抗炎症作用などの関与が想定され、また近位尿細管での重炭酸イオンの再吸収を阻害することで尿pHが上昇し、尿路結石のリスクも抑制されると考えられる」と述べている。

[2023年2月27日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら