単回の中強度運動は腎血流量や腎機能を低下させない

提供元:HealthDay News

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公開日:2022/10/06

 

 単回の中強度運動は腎血流量や腎機能に影響を及ぼさないことを示すデータが報告された。福岡大学スポーツ科学部の川上翔太郎氏らの研究によるもので、詳細は「Physiological Reports」に8月4日掲載された。

 運動による代謝性疾患や心血管疾患などに対する予防・治療上のメリットは、既に強固なエビデンスで裏付けられている。ただし、運動によって筋肉への血流が増えて腎血流量が低下したり、運動後に尿蛋白が陽性になったりすることから、腎臓病の治療において運動はあまり強く推奨されず、むしろ運動を控える指導が行われることがあった。一方で、近年の研究で運動は慢性腎臓病(CKD)患者の蛋白尿を悪化させない可能性が報告されており、運動がCKD患者に対する治療の選択肢となり得る。しかしながら、CKD患者にとって安全で効果的な運動条件は整備されておらず、運動療法の基準を確立する必要性が高まっている。

 他方、中強度の運動では腎機能への影響は少ない可能性を示す知見も徐々に蓄積されてきている。ただし、運動による腎臓への影響を、腎血流量と腎障害のバイオマーカーとにより総合的に検討した研究結果はこれまで報告されていない。川上氏らの研究はこのような背景の下で実施され、中強度運動の前から運動後の回復期間にかけて、超音波検査による腎血流量の変化を把握するとともに、クレアチニン、シスタチンC(腎機能マーカー)、アルブミン、KIM-1、L-FABP(腎障害マーカー)などの複数のバイオマーカーにより腎臓への負荷を検討した。

 研究参加者は、8人の健康な男性で、平均年齢38±8歳、BMI22.1±3.1kg/m2、eGFR79±6mL/分/1.73m2、VO2peak33.9±6.4mL/kg/分、乳酸閾値強度(血中の乳酸濃度が顕著に上昇し始める運動強度)60±18watts。自転車エルゴメーターによって乳酸閾値の強度で30分間の有酸素運動を実施した。運動前、運動直後、運動後30分、60分に採血・採尿と超音波検査を施行した(採尿は運動30分後を除く)。水分は自由に摂取可能とした。なお、サンプルサイズは既報研究に基づいて設定され、統計学的に適切と判断された。

 検討の結果、腎血流量については安静時が319±102mL/分、運動直後が308±79mL/分であり有意な変化がなく、回復期間も有意な変化を示さなかった(P=0.976)。また、アルブミンやクレアチニン、シスタチンC、KIM-1など、測定したバイオマーカーは全て、運動前から運動後60分までの回復期間にかけて、腎臓のダメージの発生を示唆する有意な変化を示さなかった。つまり、単回の中強度有酸素運動は腎血流量を変化させず、腎障害を起こさず、腎機能に影響を与えないと考えられた。

 一方、著者らは本研究には、研究対象が少数の腎機能正常者であること、環境温度が管理されている実験室内で水分摂取可という条件下での試験のため、発汗と脱水によって腎機能へ影響が生じる可能性を否定することはできないことなどの限界点があるとして、「異なる被検者や条件での追試が必要」と述べている。その上で、「中強度の運動は、腎血流量を低下させずに腎障害バイオマーカーの変化も生じさせないという新たな知見を得られた。この研究結果は、腎機能低下を防ぐための効果的な運動プログラムの確立に向けた、基礎データとなり得る」と結論付けている。

[2022年9月20日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら