好中球とリンパ球の比が男性のうつ症状と関連

一般的な健康診断の測定項目に含まれている白血球の分画である好中球とリンパ球の比(NLR)の値が、男性のうつ症状と独立して関連しているとする研究結果が報告された。弘前大学大学院医学研究科麻酔科学講座の木下裕貴氏らの研究によるもので、詳細は「Scientific Reports」に6月3日掲載された。同氏らは、NLRが男性のうつ状態の簡便なマーカーになり得るのではないかと述べている。
うつ病の原因については不明点が多く残されているが、神経の炎症が関与しているケースがあることが知られている。その傍証として、うつ病患者ではインターロイキン-6(IL-6)や腫瘍壊死因子-α(TNF-α)などの炎症性サイトカインが高値であるとする報告がある。ただし、IL-6やTNF-αの測定にはコストがかかり、多くの人を対象とするスクリーニング目的で行える検査ではない。
一方、一般的な健診の結果から簡単に計算可能なNLRや、血小板とリンパ球の比(PLR)が、IL-6やTNF-αと正相関することが知られており、NLRやPLRも神経炎症が関連する疾患のマーカーと成り得る可能性がある。実際、NLRやPLRと、統合失調症やてんかんなどとの間に有意な関連があることも報告されている。ただし、うつ病との関連はまだ十分検討されていない。木下氏らはこの点について、国内の地域住民を対象とする研究を行った。
研究には、弘前大学が中心となって行っている「岩木健康増進プロジェクト」のデータを用いた。同プロジェクトに登録された弘前市岩木地区住民1,073人のうち、うつ病と診断されている人および解析に必要なデータのない人を除外した1,051人(男性41%)を解析対象とした。
うつ状態の評価に用いられているCES-Dという指標で60点中16点以上の場合を「うつ症状あり」と定義すると、19.7%が該当した。性別の有病率は、男性19.1%、女性20.4%だった。
男性・女性ごとにうつ症状の有無で2群に分けて比較すると、男性の習慣的飲酒者がうつ症状のない群で有意に多く、また男性・女性ともにうつ症状のある群でCES-Dスコアが有意に高かった。しかし、年齢、BMI、現喫煙者の割合、高血圧・糖尿病・脂質異常症・冠動脈疾患・脳卒中の有病率、肝機能・腎機能・糖代謝指標などに有意差はなかった。
男性のNLRは、うつ症状のない群が中央値1.54、うつ症状のある群が同1.76であり、後者の方が有意に高かった(P=0.005)。またPLRも同順に123.7、136.8であり、後者の方が有意に高かった(P=0.047)。一方、女性のNLRやPLRは、うつ症状の有無で有意差がなかった。
次に、うつ症状ありを目的変数とし、うつ病との関連が報告されている、年齢、BMI、高血圧・糖尿病・脂質異常症・冠動脈疾患・脳卒中の既往、およびNLRとPLRなどを説明変数として、ロジスティック回帰分析を施行。その結果、男性のうつ症状ありに独立して関連する因子として、NLRが抽出された〔1増加するごとの調整オッズ比(aOR)1.570(95%信頼区間1.120~2.220)〕。NLR以外では、習慣的飲酒が負の関連因子〔aOR0.548(同0.322~0.930)〕として認められた以外、年齢やBMI、併存疾患、およびPLRは有意な関連が見られなかった。また、女性に関しては、NLRも含めて検討した項目の全てが非有意だった。
以上より著者らは、「男性ではNLRの高さがうつ症状に関連している可能性が示された」と結論付けた上で、「男性のうつ状態のスクリーニングにNLRを使用可能かの確認のため、大規模なコホート研究が求められる。また両者の因果関係の解明には、前向き縦断研究が必要」と述べている。なお、女性では結果が非有意だった点については、「NLRに影響を与えるエストロゲンのレベルが閉経前後で大きく変わるためではないか」との考察を加えている。実際に本研究でも、女性の年齢とNLRとの間に弱いながら有意な負の相関が認められたという。
[2022年9月12日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら
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