ビタミンK不足で認知機能が低下?

ビタミンKの摂取不足が認知機能の低下と関連していることを示唆するデータが報告された。東京都健康長寿医療センター研究所の井上聡氏、東浩太郎氏らの研究によるもので、詳細は「Frontiers in Nutrition」に1月31日掲載された。
ビタミンKは、血液凝固の必須因子としての役割が最初に見いだされていた脂溶性ビタミンで、その後、骨代謝にも関与することが明らかになり、それらの作用を用いた疾患治療薬が臨床応用されている。さらに近年、ビタミンKレベルが認知機能に関連している可能性が報告され始めている。ただしそれらの研究では、ビタミンKレベルを専門的な検査で測定していたり、食事調査からビタミンK摂取量を推測するという手法を用いており、汎用性や精度の問題があった。
これに対して井上氏らは、既に国内で骨代謝関連検査として保険適用されている「低カルボキシル化オステオカルシン(ucOC)」という指標を用いて、その値と認知機能との関連を検討した。ucOCはビタミンKレベルのバイオマーカーであり、ucOC高値はビタミンK不足を意味する。
研究対象は東京都板橋区在住の高齢者から無作為に抽出され、研究参加に同意した800人(平均年齢75.9±4.9歳、女性88.8%)。認知機能はミニメンタルステート検査(MMSE)で評価した。MMSEは30点満点で、スコアが低いほど認知機能が低下していることを意味する。本研究の参加者の平均は28.2±2.2であり、25.5%が28点未満、16.1%が27点未満だった。
ucOCの三分位で3群に分け、認知機能に影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、喫煙習慣、BMI、教育歴、高血圧・脳卒中・心臓病・糖尿病・脂質異常症・骨粗鬆症の既往)を共変量とするロジスティック回帰分析を施行。その結果、ucOCの第3三分位群は第1三分位群よりも、MMSE27未満で定義した「軽度認知障害(MCI)」の該当者が1.65倍、有意に多いことが分かった〔オッズ比(OR)1.65(95%信頼区間1.06~2.59)〕。なお、第2三分位群のMCIのオッズ比は、第1三分位群と有意差がなかった。
ucOCのほかには、年齢がMCIのオッズ比上昇と有意に関連し〔1歳ごとにOR1.17(同1.12~1.22)〕、教育歴が長いことはオッズ比の低下と有意に関連していた〔10年以上は9年以下に対してOR0.37(同0.23~0.59)〕。その他、性別や喫煙習慣、BMI、高血圧・脳卒中・糖尿病などの既往は非有意だった。
なお、MMSEの下位尺度別に検討すると、ucOCの第3三分位群は第1三分位群に比べて、見当識〔9点未満のOR7.46(同2.05~27.19)〕、計算〔5点未満のOR1.52(同1.04~2.24)〕、および言語〔8点未満のOR2.44(同1.00~5.94)〕という3指標が、低値に該当するオッズ比が有意に高かった。
著者らは、「本研究はucOC値と認知機能との関連を調べた初の報告であり、ビタミンKが認知機能に重要な働きを担っている可能性を示している。ucOCというビタミンKレベル評価の簡便な検査が、認知機能に影響を及ぼす神経変性疾患のバイオマーカーとなり得るのではないか」と結論付けている。
また、ビタミンKと認知機能との関連の機序については、「ビタミンKは多くの作用を持つことが明らかになっており、例えば核内受容体SXR(steroid and xenobiotic receptor)を介して抗炎症作用を発揮することからも、認知機能に対して保護的に働く可能性がある」と考察。ただし、ucOC高値は単にビタミンK摂取量が少ないことを表しているだけであり、残余交絡の存在も否定できないとして、「基礎研究や介入研究などによる検証が求められる」と述べている。
[2022年5月2日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら
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