がん患者のうつ治療が十分でない可能性―企業健保データの解析結果

提供元:HealthDay News

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公開日:2020/12/28

 

 がん患者のうつ病が十分に治療されていない可能性を示唆する、国内研究の結果が報告された。名古屋市立大学大学院医学研究科精神・認知・行動医学分野の明智龍男氏らが、企業健保組合の保険請求データを解析した結果、明らかになった。研究の詳細は、「Clinical Drug Investigation」に10月18日掲載された。

 がん患者はうつ病を発症しやすいことが知られている。メタ解析の結果から、がん患者(緩和ケア受療者以外)の大うつ病有病率は14.9%であり、小うつ病は19.2%と報告されている。また、がん診断後1年以内の自殺リスクは一般人口の約24倍に上ることが、国内の研究で示されている。しかし、がん患者のうつ病に対し、どのような治療が行われているかは明らかになっていない。

 明智氏らは、企業健保組合の保険請求データを用いた研究により、がん診断後の患者の大うつ病性障害(MDD)のリスクが、がんではない人の約3倍であることを既に報告している。今回の研究では、同様の手法によって、がん診断後にMDDと診断された患者に対する薬物治療の実態を解析した。

 2012年1月~2017年9月に3万372人(18~74歳)が、新たにがんと診断され、そのうち1,199人が、がん診断の6カ月前から12カ月後の間にMDDと診断されていた。その平均年齢は50.5歳(91.2%が65歳未満)で、男性が44.7%だった。他方、同じ観察対象のがんと診断されていない人30万3,720人のうち、4,097人がMDDと診断されていた。その平均年齢は50.4歳(90.8%が65歳未満)で、男性が47.2%だった。

 性別や年齢、医療機関の病床規模で調整後、がんのない患者のMDDに対する抗うつ薬処方率が58.2%であるのに対し、がん患者のMDDに対する抗うつ薬処方率は51.9%であり、有意に低いことが明らかになった。特に、抗うつ薬のタイプ別に見た場合に、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)の処方率ががん患者で有意に低かった(27.4%対16.7%)。反対に、ノルアドレナリン作動性特異的セロトニン性抗うつ薬(NaSSA)は、がん患者への処方率が有意に高かった(5.8%対10.5%)。抗うつ薬以外では、ベンゾジアゼピン系睡眠薬(BZD)の処方率が、がん患者で有意に低いという差が存在した(47.1%対37.9%)。

 がん患者に対するSSRIの処方率が低いことに関して著者らは、がん化学療法による有害事象、特に吐き気と食欲の低下を同薬が助長する可能性を、臨床医が懸念しているのではないかと考察している。対照的に、がん患者に対するNaSSAの処方率が高いことは、悪心や睡眠の改善を期待している結果と考えられるという。

 本研究では、患者の性別、年齢層別、治療を受けている病院の病床規模別の検討も行っている。例えば、がん患者のMDDに対する抗うつ薬処方率を性別に比較すると、男性(50.2%)よりも女性(53.2%)の方が高い傾向があり、また年齢層別では若年層で処方率が高い傾向が見られた(40歳未満55.6%、40~64歳51.5%、65歳以上49.1%)。ただし、いずれも統計的には有意でなかった。

 一方、がん患者のMDDが、100床未満の病院で治療された場合、100床以上の病院での治療に比べて、抗うつ薬処方率が有意に高かった(84.0%対73.7%)。また、がんと診断された病院と同じ病院でMDDが治療される場合よりも、別の病院で治療された場合の方が、抗うつ薬処方率が有意に高かった(73.1%対82.7%)。

 これらの結果を著者らは、「日本人のがん患者のうつ病は治療が不十分である可能性があることを示唆している。軽度のうつ病に対する薬物治療の有効性に関するエビデンスも蓄積されてきたことから、がん患者のうつ病治療を個別化し進めていく必要がある」とまとめている。

 なお、数名の著者が製薬企業との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

[2020年11月30日/HealthDayNews]Copyright (c) 2020 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら