世界初となる子宮内の胎児の脳外科手術に成功

提供元:HealthDay News

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公開日:2023/05/31

 

 世界で初めて、胎児の脳の血管奇形であるガレン静脈奇形(vein of Galen malformation;VOGM)に対する手術が子宮内で行われ、成功したことが明らかになった。VOGMを持って生まれた新生児は、死に至る危険性もある。専門家らは、今回の手術成功を賞賛するも、まだ成功例は一例のみであり、胎児の脳外科手術が良い治療戦略なのかどうかについては、さらなる研究が必要としている。米ボストン小児病院脳血管外科インターベンションセンターのDarren Orbach氏らによるこの研究の詳細は、「Stroke」に5月4日掲載された。

 VOGMは、脳内の血管奇形により血管のつながり方に異常が生じる疾患で、推定発生率は出生児6万人当たり1人と極めてまれだ。その多くは妊娠後期の超音波検査による定期健診で見つかる。脳の動脈は、通常は、毛細血管となって血流が穏やかになり、脳の隅々まで血液を行きわたらせた後に再び集まって静脈となる。これに対してVOGMでは、脳の動脈が毛細血管を介さず静脈とつながった状態になるため、圧が高く血流も速い動脈血がそのまま静脈に流れ込み、静脈に大きな負荷をかける。

 最も重度のVOGMの新生児は、生後2~3日以内に心不全を発症するか、脳浮腫や肺高血圧などの危険な合併症を抱えることになる。Orbach氏は、「VOGMの新生児の約50~60%は出生直後に困難な状況に陥る」と言う。この時点で標準治療となるのは、塞栓術と呼ばれる治療法だ。塞栓術は通常、細くて柔軟性のあるチューブ(カテーテル)を鼠径部から挿入し、脳まで進めた上で接着剤のような物質やコイルなどを使って問題となっている動脈と静脈の結合部分を遮断し、血流を緩やかにする。

 しかし、このような塞栓術を行っても約40%の新生児は死に至り、その他の新生児にも脳の損傷に起因する重度の障害が残ることが多い。それでも、かつてはVOGM重症例のほぼ全例が死亡していたことに鑑みると、状況は改善しているとOrbach氏は言う。こうした中、ボストン小児病院と米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院のグループは、胎児の段階で塞栓術を行うことで、重度の合併症を回避できるのではないかと考えた。

 そこでOrbach氏らは、針を使って胎児の心臓外科手術を行っていた同僚医師らの手法を応用し、標準的な塞栓術を胎児に行う計画を立てた。その計画とは、母親の子宮壁から通した針を胎児の頭蓋骨に刺し、超音波画像のガイド下で針を通じてマイクロカテーテルと呼ばれる細いカテーテルを患部まで進め、塞栓術を行うというものだった。

 Orbach氏らは先行研究で、妊娠中の母親に対するMRI検査によって、観察可能な胎児の特定の脳構造の幅が一定の閾値を超えると、ほぼ確実に新生児に重度の問題が急速に生じることを突き止めていた。この結果を基に、99%の確率で出生後に重度の問題を抱えると予測されていたVOGMの胎児に、母親が妊娠34週と2日目の時点で子宮内手術を行った。

 手術そのものはスムーズに進んだ。手術を担当した医師らは、手術中に画像で脳からの過剰な血流がすぐに低下し、心臓への負荷が軽減したことを確認した。その一方で、手術により破水が生じたため、母親はその2日後に分娩誘発により出産した。

 生まれた新生児に心臓の問題はなく、生後6週目の現在も健康状態は良好だとOrbach氏は報告している。栄養摂取状況は正常で、体重も増え、薬剤の投与も不要で、脳の障害も認められないという。

 今回の報告には関与していない米UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)マテル小児病院の小児循環器専門医のGary Satou氏は、「有望で素晴らしい結果だ」と称賛している。ただ、心臓の問題に関しては解決されつつあるが、脳に関しては正常な発達過程をたどるのかどうかなど、より長期的な課題があることを指摘。「より多くの症例のデータが得られない限り、結論を導き出すことはできない」と述べている。

[2023年5月5日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら