電気自動車の高出力充電も心臓デバイスに影響なし

提供元:HealthDay News

印刷ボタン

公開日:2023/05/22

 

 近年、電気自動車が急速に普及し、その充電所要時間を短縮するために高出力充電器が普及してきているが、それらは心臓デバイスが埋め込まれている患者にとって、安全なのだろうか?
 この疑問に対する一つの答えが、欧州不整脈協会年次総会(EHRA2023、4月16~18日、スペイン・バルセロナ)で報告されるとともに、欧州心臓病学会(ESC)発行の「EP Europace」に論文が掲載された。ペースメーカーや除細動器を使用している人に対しても、高出力充電器の安全性は高いという。ただし、念のために、充電ケーブルを心臓デバイスの位置に密着させない方が良いとのことだ。

 論文の筆頭著者である、ドイツ心臓センターミュンヘン(ドイツ)のCarsten Lennerz氏は、「われわれは、電磁干渉のリスクを最大化して評価するため、最悪のシナリオを設定した。それにもかかわらず、高出力充電器の使用中に、臨床的な影響を生じ得る電磁干渉やデバイスの誤作動は見られなかった」と述べている。

 家庭用の電気は交流であり、電気自動車用の充電器も古いタイプは交流だが、新しいタイプは直流にすることで高出力の充電を可能にしている。充電時の電流が大きいほど磁場が強くなり、電磁干渉のリスクが高くなる可能性があるが、心臓デバイス使用中の患者が高出力充電器を使用することに関する公式の推奨事項は、これまでのところ示されていない。Lennerz氏は、「高出力充電器を用いた充電中に、ペースメーカーや除細動器に電磁干渉を引き起こして誤作動が生ずることが、可能性としては考えられる。われわれは以前の研究で、充電ケーブルに沿って最大の電磁場が発生することを見いだしている」と、今回の研究の背景を語っている。

 今回の研究の対象は、ペースメーカーまたは除細動器が埋め込まれている患者130人(平均年齢59歳で約21%が女性)。高出力充電が可能な4台の市販車のほかに、将来のさらなる高出力化を見込んで、350kWの最大充電が可能な開発中の車両も用いた。研究参加者には、電磁干渉が最も発生しやすいように、充電ケーブルを心臓デバイスのすぐ近くに寄せ付けて、充電作業をしてもらうなどのテストをした。この作業中、ペーシングの乱れや除細動器の誤作動が監視された。また、充電完了後には、デバイスのプログラミングが変わっていないかなどがチェックされた。

 計561回の充電が行われたが、電磁干渉によって引き起こされた有害事象は認められなかった。Lennerz氏は、ESC発のリリースの中で、「ペースメーカーや除細動器の誤作動のリスクは非常に低く、車内に座ったり、充電ケーブルや充電器の横に立ったりすることも安全である。ただし、充電ケーブルと心臓デバイスとの距離を保つために、デバイスが埋め込まれている位置にケーブルを直接隣接させないことを推奨する」と述べている。

 なお、2023年には世界で100万~140万件のペースメーカー植え込み術が行われ、それらの患者の平均余命は8.5年であることから、世界中で800万~1200万人がペースメーカーを使用していると推測されるという。また、これとは別に、毎年15万~20万人が、植込み型除細動器の手術を受けているという。

[2023年4月17日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら