他人を思いやる行為は抑うつや不安の症状を軽くする?

提供元:HealthDay News

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公開日:2023/02/21

 

 抑うつや不安に苦しんでいる人は、たとえささやかであっても、他人を思いやる行為をすることで症状を軽減させることができる可能性が、新たな研究で示された。さらに、社会的つながりの感覚を高める上では、このような「小さな思いやり」の方が、抑うつや不安に対する標準的な治療法で使われる2種類の手法よりも有効だったという。米South Texas Veterans Health Care SystemのDavid Cregg氏と米オハイオ州立大学心理学部教授のJennifer Cheavens氏が実施したこの研究結果は、「The Journal of Positive Psychology」に12月12日掲載された。

 友人に励ましの言葉を書いて送ったり、誰かにコーヒーをおごったりなどの他人を思いやる行為は、相手だけでなく行為者当人のウェルビーイングを向上させることが、過去の研究で報告されている。しかし、Cregg氏によると、抑うつや不安の症状がある人でも同様の効果が得られるのかについては、これまでほとんど検討されていなかったという。

 そこでCregg氏らは、うつ病不安ストレス尺度-21(DASS-21)での評価から軽度の抑うつ、不安、およびストレスの症状を少なくとも一つ有することが確認された122人(平均年齢24.7歳、女性76%)を対象にランダム化比較試験を実施。他人を思いやる行為が社会的つながりやその他のウェルビーイングの指標に及ぼす影響を検討した。

 対象者は、1)週に2日、他人を思いやる行為を1日に3回行う群(40人)、2)週に2日、社会活動を計画して行う群(41人)、3)認知的再評価を行う群、のいずれかにランダムに割り付けられた。「他人を思いやる行為」とは、自分の時間やリソースを使って他人のベネフィットや幸福感のために何らかの行動を起こすこと、「社会活動」とは、娯楽のための活動を他人と一緒に計画して行うことと定義された。また、認知的再評価群では、自分のネガティブな思考パターンに気付いて別の考え方をすることを目標に、自分の考えを週に2日以上記録した。なお、社会活動の実践と認知的再評価はいずれも、抑うつと不安に対する標準的なトークセラピーの一種である認知行動療法で使われる手法である。介入は5週間実施され、介入終了時と終了から5週間後(追跡調査時)に効果に関する評価が行われた。

 その結果、他人を思いやる行為群では認知的再評価群に比べて、介入終了時と追跡調査時の両時点で抑うつと不安の症状が大幅に軽減し、人生に対する満足度が向上していた。また、他人を思いやる行為群では社会活動群に比べて、介入終了時と追跡調査時の両時点で、社会的つながりを測る尺度のスコアの改善の程度が大きかった。社会活動群と認知的再評価群では、抑うつと不安の症状、人生に対する満足度、社会的つながりが同程度に改善していた。

 さらに他人を思いやる行為群では、自己没入の程度を測る尺度に変化が認められた。研究グループは、この点が、他人を思いやる行為が他の介入法よりも対象者の症状軽減に有効に働いた理由を解明する手がかりになるのではないかと見ている。Cregg氏は、「抑うつや不安がある人は、症状がもたらす苦しみで頭がいっぱいになりがちだ。それゆえ、他人のウェルビーイングに意図的に注意を向け、その人を思いやる行動を取ることは、自分から別の対象へ意識を向けることにつながる」と説明する。

 米ジョージ・メイソン大学ウェルビーイング推進センターのJames Maddux氏は、「この研究結果は理にかなっている。他人を思いやる行為をした群では、他人と交流している間は、自分の苦しみを忘れることができたのだろう」と述べ、この介入法が抑うつや不安を有する人での反芻のサイクルを断ち切るのに役立つ可能性があるとの見方を示す。

 Maddux氏はさらに、「社会活動も他人との関わりを伴うが、それは主に楽しみのために行うものだ。これに対して、他人を思いやる行為は、自分以外の人の感情に焦点を当てるものであり、行為の意図が異なる」と説明。その上で同氏は、「本研究の要点は、人には親切にしなさいということだ。人を思いやることで自分の気分も良くなるのだから」と述べている。

[2023年1月16日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら