鎮痛薬のNSAIDで膝関節症が悪化?

変形性膝関節症に対し、一般用医薬品(OTC医薬品)としても販売されているアスピリンやナプロキセン、イブプロフェンといった鎮痛薬を使用しても、進行を遅らせる効果がないばかりか、むしろ悪化させる可能性もあることが、米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)のJohanna Luitjens氏らの研究で示された。この研究結果は、北米放射線学会年次学術集会(RSNA 2022、11月27~12月1日、米シカゴ)で発表された。
非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)には炎症を惹起する体内の化学物質の産生を抑制する作用がある。NSAIDの中で最も広く使用されているのが、アスピリンやイブプロフェン、ナプロキセンである。これらの薬剤は、薬局や食料品店でもOTC医薬品として購入できる。NSAIDは関節炎の痛みを短期的に緩和するために広く使用されているが、長期的な効果については明確にされていない。
今回の研究では、連邦政府の助成を受けて実施された変形性膝関節症の長期観察研究への参加者のうち、NSAIDが1年以上にわたって定期的に処方されていた277人と、NSAIDによる治療は受けていなかった793人のデータを集めて分析が行われた。参加者は全例が研究開始時と研究開始から4年後に膝MRI検査を受けていた。Luitjens氏らは、NSAIDが有益であったか、あるいは有害であったかを明らかにするため、これらのMRIデータを調べた。その際、NSAID使用群と非使用群をできるだけ条件をそろえて比較するため、関節炎の程度を点数化して結果を調整した。
その結果、研究開始時における関節の炎症と軟骨の質のいずれについても、NSAID非使用者と比べてNSAID使用者では状態の悪いことが明らかになった。また、4年後の追跡調査時もNSAID使用者では膝の状態の悪化が引き続き認められた。
Luitjens氏は、「変形性膝関節症の炎症を抑制する、あるいは進行を遅らせるという点でNSAIDに保護的なメカニズムはなかった」とし、「近年、炎症を抑えるためのNSAID使用が変形性膝関節症患者の間で広がっている。しかし、関節の炎症に対してNSAIDが有益であるというエビデンスを得るには至っていない。そのため、そのような目的でのNSAIDの使用については再検討すべきだ」と主張している。
Luitjens氏は、「ステロイド薬が軟骨を脆弱化させるように、NSAIDも軟骨に悪影響を与える可能性がある」との考えを示す。さらに、「NSAID使用者は概して非使用者よりも活動的であり、活動中の痛みをなくすためにNSAIDを使用している場合が多いことも考えられる」とし、そうした活動により膝を損傷し、膝関節の炎症が起こりやすい状況にある可能性を指摘する。その上で、「今回の研究の結果を確認するために、今後、ランダム化比較試験を実施する必要がある」としている。
一方、米国整形外科学会(AAOS)の専門家の1人で整形外科医のNicholas DiNubile氏は、「この研究結果に基づき、これまで行ってきた診療方針を変えるつもりはない」と話す。同氏は、「興味深い疑問を投げかけた研究ではあるが、それに対する解答は示されていないと思う」との考えを示す。また同氏は、この研究で検討されたNSAIDは、実際にはもうそれほど使われていないことを指摘。「現在は、医師が患者にNSAIDを使い続けさせるようなことはしない。NSAIDの使用には、潰瘍や出血、肝臓や腎臓、心臓への悪影響など、さまざまな問題を伴う可能性があるため、われわれは可能な限りNSAIDを使わないように努めている」としている。
DiNubile氏は、変形性膝関節症の患者や、変形性膝関節症にはなりたくないと考えている人たちに対しては、減量と運動が最善の方法だと助言する。「8~10ポンド(約3.6〜4.5kg)程度の減量でも、人工膝関節置換術のリスクを有意に低減できることが示されている」と話す。また、「運動も筋肉の強化につながり、膝関節への負担を軽減することができる」と付け加えている。
なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものとみなされる。
[2022年11月22日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら
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