米国ではエピペンによる治療の活用が不十分

EpiPen(エピペン)などのアドレナリン自己注射薬は、食物アレルギーなどでアナフィラキシー反応が生じてから医師の診察を受けるまでの間に、一時的に症状を緩和するために使われる。しかし、深刻なアレルギー症状を起こした人にとっては命綱となるこの重要な治療法が、米国では十分に活用されていないことが新たな調査から明らかになった。米AllergyStrongでエグセクティブディレクターを務めるErin Malawer氏らが実施したこの調査の結果は、米国アレルギー・喘息・免疫学会年次学術集会(ACAAI 2022、11月10~14日、米ルイビル)で発表されるとともに、「Annals of Allergy, Asthma & Immunology」に11月号(増刊号)に掲載された。
アドレナリン(エピネフリン)を含むアドレナリン自己注射薬は、重度のアレルギー反応から発生する可能性のある、命を脅かすアナフィラキシーの症状を食い止めることができる唯一の薬である。今回の研究では、食物アレルギーを持つ患者1,006人のオンラインでの調査結果の分析が行われた。
アドレナリン自己注射薬を所有していない人が、所有していない理由として挙げたさまざまな理由の一つに、保険の問題があった。Malawer氏によると、健康保険の適応がなければ、アドレナリン自己注射薬は標準的なプロトコルである2本セットに数百ドルの費用がかかる。healthshare101.comによると、Mylan Pharmaceuticals社が販売するエピペン(商品名EpiPens)は約700ドル(1ドル140円換算で約9万8,000円)、ジェネリックバージョンのエピペンで約350ドル(同4万9,000円)であるという。その他の理由としては、医師や薬局へのアクセスの欠如、薬局での在庫切れ、針への恐怖などが理由として挙げられた。
Malawer氏は、「最大の驚きは、調査参加者の25.6%もが、アドレナリン自己注射薬を所有していない理由として、『医師が、自分にアドレナリン自己注射薬が必要だと言わなかったため』と答えたことだ」とし、「この状況を変える必要がある」と述べている。
調査回答者のうち、「アドレナリン自己注射薬を処方されたことがある」と回答したのはわずか52%であり、36%はアドレナリン自己注射薬が命に関わる有害反応を引き起こし得ると信じていた。研究論文の筆頭著者で米Food Allergy Research & EducationのJennaveve Yost氏は、「なぜこのような誤った考えを持つようになったのかは探究しなかった」と話す。ただし、その原因として同氏は2つの可能性を示唆する。一つ目は、反ワクチン派の人々の活動である。もう一つは、アレルギー反応に対する適切な第一選択薬は、第一世代の抗ヒスタミン薬ベナドリルであるという誤信である。そうした考えを持つ人にとっては、価格が手頃な上に、何十年も前から薬局などに常置されているベナドリルに比べると、アドレナリン自己注射薬は治療法としては極端に思われるのだろうと同氏は推測する。
Yost氏は、「アドレナリン自己注射薬の価格の高さと常に提携しなければならないという不便さを考えると、多くの人々がアドレナリン自己注射薬の必要性を疑問視しても仕方ないように思われる」と話す。
一方、Malawer氏は、「アドレナリン自己注射薬はもっと手頃な価格にするべきだ」と主張する。また、「アドレナリン自己注射薬をいつどのように使用するかを検討し、患者ごとのライフスタイルに最適な種類と商品ブランドについて話し合うための時間を作ることは、医師と看護師の義務だ」と主張している。
なお、学会発表された研究結果は、査読を経て医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものとみなされる。
[2022年11月14日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら
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