抗ウイルス薬パクスロビドがCOVID-19の後遺症リスクを低減

抗ウイルス薬のパクスロビド(一般名ニルマトレルビル・リトナビル、日本での商品名パキロビッドパック)の使用により、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後の入院率と死亡率を低減できるだけでなく、COVID-19の後遺症(以下、後遺症)のリスクも低減できることが新たな研究で示された。米VAセントルイス・ヘルスケアシステムのZiyad Al-Aly氏らが実施したこの研究結果は、査読前の論文のオンラインアーカイブである「medRxiv」に11月5日発表された。Al-Aly氏は、「この薬剤が深刻な後遺症問題に対処する重要な手段となる可能性がある」と述べている。
パクスロビドは新しい抗ウイルス薬のニルマトレルビルと、既存の抗HIV薬であるリトナビルを組み合わせた合剤で、COVID-19感染急性期に重症化リスクを低減させることが示されている。今回の研究では、米国退役軍人省のヘルスケアデータを用いて、COVID-19感染急性期にパクスロビドを投与することで、診断から90日後の後遺症リスクが低減するのかどうかが検討された。
研究対象者は、2022年3月1日から6月30日までの間に新型コロナウイルス検査で陽性の判定を受け、判定を受けた日には入院に至らず、COVID-19重症化のリスク因子を1つ以上有し、診断から30日以上生存していた5万6,340人(平均年齢65.07歳、白人74.59%、男性87.64%)。これらの対象者は、陽性判定後5日以内にパクスロビドを投与された9,217人(パクスロビド投与群)と、感染後30日以内に抗ウイルス薬や抗体による治療を受けなかった4万7,123人(対照群)で構成されていた。また、対象者の中には、ワクチン未接種、接種済み、ブースター接種済みの患者が混在しており、新型コロナウイルスへの感染歴を1回以上持つ人もいた。検討する後遺症は、虚血性心疾患、不整脈、深部静脈血栓症、肺塞栓症、倦怠感、肝疾患、急性腎障害、筋肉痛、糖尿病、神経認知機能障害、息切れ、咳の12種類とした。
その結果、COVID-19の診断から90日後に、検討した12種類の後遺症の症状のうち1種類以上を有するリスクは、パクスロビド投与群で対照群に比べて低いことが明らかになった(ハザード比0.74、95%信頼区間0.69〜0.81)。診断後90日時点での後遺症の100人当たりの発症率は、パクスロビド投与群で7.11人、対照群で9.43人であった。これは、診断後90日時点で後遺症を1つ以上有する人が、パクスロビド群では対照群よりも100人当たり2.3人少ないことに相当する。
症状別に見ると、パクスロビド投与群では対照群に比べて、12種類のうちの10種類の後遺症の発症リスクが有意に低かったが、持続的な咳および新たに糖尿病と診断されるリスクの2種類については、両群間で有意差は認められなかった。パクスロビド投与群ではさらに、急性期後の死亡リスクおよび入院リスクの低減も認められた(ハザード比は死亡リスクで0.52、入院リスクで0.70)。
こうした結果を受けてAl-Aly氏らは、「全体的なエビデンスから、重症化予防だけでなく、急性期後の有害転帰のリスクを低減する目的でも、感染急性期のパクスロビドの利用率を向上させる必要があることが示唆される」と述べている。
ファイザー社が製造するパクスロビドは12歳から使用可能である。COVID-19の発症から5日以内に使用するのが最も効果的とされるが、用量や使用日数を増やすことで効果が変わるかどうかは明らかにされていないとCNNは報じている。米国立衛生研究所(NIH)は、すでに後遺症のある患者を対象にパクスロビドの効果を検討する研究を実施する予定だという。
[2022年11月7日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら
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