ゲームは子どもの認知機能に良い影響を与える可能性も

1日に何時間もゲーム機やパソコンなどの端末を使ったゲームで遊んでいる学齢期の子どもたちは、同世代の子どもたちと比べて、頭の回転を測定する特定の検査の成績が優れている可能性のあることが新たな研究で示唆された。ゲームを全くしない子どもと比べると、1日に3時間以上ゲームをしている子どもでは、短期記憶と衝動をコントロールする能力のそれぞれを測定する2種類の標準的な検査のスコアが優れていたという。米バーモント大学精神医学教授のBader Chaarani氏らによるこの研究結果は、「JAMA Network Open」に10月24日発表された。
ゲームが子どもたちに与える影響について検討した先行研究の多くは、攻撃性や暴力、抑うつなどのネガティブな影響に着目したものだった。一方、積極的に頭を使う必要があるゲームをすることに何らかのメリットがあるのか、また、少なくともテレビ視聴やSNSをスクロールし続けるなど、受動的に画面を見て楽しむよりは有益なのかを調べた研究は少なかった。
子どもにとってスクリーンの視聴時間が長過ぎるとはどのくらいのことなのか。また、その内容はどのようなものであるべきか。こうした問題については長年にわたって研究が行われ、議論されてきた。しかし、今や子どもたちは昔ながらのテレビだけでなく、自分専用のデバイスを持ち歩く時代だ。そのため、この問題への関心はますます高まりつつある。
現時点で米国小児科学会(AAP)は6歳未満の子どもに対して、スクリーンの視聴時間を厳格に制限することを推奨している。一方、それよりも年齢が高い子どものスクリーンの視聴時間に関しては、はっきりしていない。それは、さまざまな種類のスクリーンの視聴時間に関する研究において、有害性と有益性の双方が示されていて統一見解が得られていないからだ。ただ、AAPはスクリーンの視聴時間によって運動や睡眠がおろそかになるような状況は避けるべきだと強調。6歳以上の子どもやティーンエージャーは、毎日少なくとも1時間以上の運動を行い、適切な睡眠(年齢に応じて8~12時間の睡眠)をとるべきとしている。
米国立衛生研究所(NIH)は、スクリーンの視聴時間を含む各種の要因が小児の脳の発達に与える影響を明らかにするため、ABCDと呼ばれる研究を実施している。同研究では米国の約1万2,000人の子どもたちを9~10歳時から追跡調査しているが、その一環で、機能的MRIを用いてさまざまな課題に取り組んでいる間の子どもたちの脳活動の評価を行っている。
Chaarani氏らは今回、このABCD研究のデータを用いて、同研究の参加者のうちの2,217人(平均年齢9.91歳、女子63.1%)の中から抽出した、1日3時間以上ゲームをする群(679人)とゲームを全くしない群(1,128人)の2群を対象に、ゲームのプレイと認知機能との関連について分析した。その結果、衝動のコントロールや、情報を一時的に記憶する能力である作業記憶の課題の平均スコアは、前者の方が後者よりも高かった。一方で、ゲームに費やす時間が1日3時間以上の子どもたちにメンタルヘルスの悪化やルールを守れない、注意力がないといった問題があることを裏付けるエビデンスは示されなかった。
Chaarani氏は、「われわれの研究では、ゲームを楽しむことが、他の画面を備えた電子機器の使用と比べて悪いわけではないことが示された。むしろ、ゲームの方が有益である可能性すら考えられた」と説明する。ただし、同氏は、「この研究結果は、因果関係を示すものではない」と説明している。
この研究の付随論評を執筆した米メイヨークリニックのKirk Welker氏は、脳に何らかの特徴がある子どもはゲームに引きつけられやすい可能性を指摘。また、研究で実施された機能的MRIを用いた認知機能検査では、MRI装置に横たわり、ディスプレイ画面あるいはビデオゴーグルを見ながら手に握ったデバイスのボタンを押すことが求められるものであったため、「日常的にゲームをする子どもたちには良い成績を出しやすかったのではないか」との見方を示している。
Chaarani氏とWelker氏は、現時点ではこの研究結果から何らかの推奨を導き出すことはできないとしている。またWelker氏は、この研究でゲームに有害性が全くないことが証明されたわけではないことを強調している。
[2022年10月24日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら
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