ボストン大が危険性の高い新型コロナの実験を実施か

提供元:HealthDay News

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公開日:2022/11/11

 

 米ボストン大学で実施された新型コロナウイルスの実験について米国立衛生研究所(NIH)が現在調査中であることについて、メディアの報道が過熱している。一部の報道機関は、研究者らが研究の過程で致死率の高い新型コロナウイルスを作り出したと主張。それに対しボストン大学は、「確証に欠ける誤った研究解釈に基づいた報道内容だ」と反論している。ボストン大学国立新興感染症研究所(NEIDL)所長のRonald Corley氏は同大学が発表した声明文で、「彼らはメッセージをセンセーショナルに表現し、研究の結果や全体的な目的をねじ曲げて報道した」と指摘している。

 しかし、そのニュース報道は米司法省の注意を引くところとなった。米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)微生物・感染症部門長のEmily Erbelding氏がSTAT Newsに語ったところによると、ボストン大学の研究グループは、NIHに研究資金を申請する際、研究の方向性を明示しなかった上に、新型コロナウイルスの強化につながる可能性がある実験であることも明らかにしていなかったという。同氏は、「われわれは今後数日間、話し合いの機会を持つことになると思う」とSTAT Newsに話した。

 ボストン大学のグループは、新型コロナウイルスの従来株と、その後に流行したオミクロン株のスパイクタンパク質に着目した。オミクロン株は従来株よりも感染力は強いが、全般的に重症化リスクは低いことが明らかになっている。同大学のCorley氏によると、この研究は、ウイルスが細胞に感染する際に用いるスパイクタンパク質が、感染者の重症化の程度に関与しているのかどうかを明らかにすることを重視したものであった。その研究の一部として、研究グループは、オミクロン株のスパイクタンパク質をコードする遺伝子を従来株に組み込んだ、キメラOmi-Sウイルスを作成した。

 研究に関する査読前の論文では、「K18-hACE2マウスにおいて、オミクロン株は軽度の非致死的な感染を引き起こしたが、オミクロン株のスパイクタンパク質を組み合わせたOmi-Sウイルスは重症化をもたらし、死亡率は80%であった」と報告されている。Daily Mail紙は、論文要旨のこの記載に飛びつき、ボストン大学の研究グループが「殺傷率80%という致死率の高い新たな新型コロナウイルスを作り出した」と報じた。他の報道機関もこの話題を取り上げ、同様に報じた。

 しかしCorley氏は、「これはセンセーショナリズムのために文脈を無視した記述だ。研究結果のみならず、研究目的についても完全に事実をねじ曲げて伝えている」と指摘。また、「研究に用いたK18-hACE2マウスは新型コロナウイルスに関する実験のために繁殖させたマウスであり、コロナウイルスへの感受性が高い特別な種類のマウスであるため、その死亡率は人間に対するOmi-Sウイルスのリスクとしてそのまま反映されるわけではない」と説明した。実際、新型コロナウイルスの従来株はこの種のマウスの80~100%を殺傷する一方で、オミクロン株によってこれらのマウスに引き起こされる症状は「極めて軽症であった」という。

 なお、この研究では、Omi-Sウイルスによって実験室のマウスの80%が死亡した。このことから研究グループは、「ワクチンによって得られた免疫をウイルスがすり抜けられるようにするスパイクタンパク質の変異は重症化の要因ではない」と結論付けている。

 また同大学は、研究がバイオセーフティーレベル3の施設で実施されたことも付け加えているほか、CBS Newsに対して今回の研究が同大学の施設バイオセーフティー委員会とボストン公衆衛生委員会のレビューを受け、承認されていることも説明している。

 それでもErbelding氏は、「研究グループが具体的な研究目的を報告していれば、増強された病原体のパンデミックにつながり得る実験を行う場合に必要なレベルのレビューをNIHが行えたはずだ」と話している。

[2022年10月19日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら